説明

車両の電動機冷却制御装置

【課題】電動機に熱影響を及ぼす発熱源での発熱を予測して電動機の冷却量を制御する。
【解決手段】左右輪にそれぞれ設けられたインホイールモータと、そのインホイールモータに熱影響を及ぼすエンジンとを備えた車両の電動機冷却制御装置において、そのエンジンの発熱量の増大を予測する昇温予測(ステップS1)手段と、その昇温予測手段(ステップS1)によってエンジンの発熱量の増大が予測された場合にインホイールモータの温度が上昇する前にインホイールモータに対する冷却量を増大させる冷却量増大手段(ステップS2,S3)とを備え、インホイールモータの温度が上昇する前に冷却性能を向上させ、インホイールモータの過度な温度上昇や温度による出力トルク制約を未然に防止もしくは抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行用の駆動力源として電動機を備えた車両に関し、特にその電動機の冷却を制御するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の燃費を向上させ、あるいは温室効果ガスの排出を抑制するために、車両の駆動力源として電動機が用いられるようになってきており、この種の車両として、ハイブリッド車や電気自動車あるいは車輪毎に電動機を設けたインホイールモータ車などが知られている。それらの電動機の温度が上昇すると出力抑制制御が作動し所望のトルクを出力できなくなるおそれがある。そのため、電動機の温度上昇を抑制する冷却装置や制御装置が開発されており、特許文献1に記載された装置は、トラクションモータの負荷が増大することにより生じる熱を除去してトラクションモータを冷却する装置が記載されている。この装置は、トラクションモータの潤滑油を用いて冷却するものであり、その潤滑油用ポンプの駆動モータを備えている。そして、特許文献1に記載された装置は、トラクションモータの負荷に応じて、潤滑油の駆動モータの回転数を変化させることにより、トラクションモータを冷却するように構成されている。
【0003】
また、モータに電気的に接続されたインバータのスイッチング素子やレギュレータの温度を検知し、それらのいずれかの温度が許容温度まで上昇した場合、モータへの通電を遮断し、それ以上の温度上昇を抑制する制御装置が特許文献2に記載されている。さらに、ナビゲーションシステムを搭載した車両において、現在地から目的地までの走行路を検知し、その走行路の勾配などの走行路状況から駆動用モータの上昇温度を予測する温度上昇予測装置が特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−179189号公報
【特許文献2】特開2002−191190号公報
【特許文献3】特開2007−183205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載された冷却装置は、モータの負荷に応じて潤滑油用ポンプの駆動モータの回転数を変化させてトラクションモータを冷却するものである。しかしながら、トラクションモータの温度上昇はトラクションモータ自体から生じる熱以外に、モータ外部から熱の影響を受けて上昇することがある。したがって、常時所期の性能で動作するようにモータを冷却してその温度を制御する点では、そのモータ以外の熱の影響を考慮して冷却を行うように改善する余地がある。
【0006】
また、特許文献2に記載の制御装置は、インバータのスイッチング素子やレギュレータなどのコントローラの温度が許容温度に達するとモータへの通電を遮断し、それ以上の温度上昇を防止する制御装置であり、さらに特許文献3に記載の装置は、目的地までの走行路からモータの温度上昇を予測する装置であるが、モータの冷却性能に関しては考慮しておらず、モータが正常に動作して所期の性能を常時出力できるように温度管理を行う点で未だ改善の余地がある。
【0007】
この発明は上記の事情を背景としてなされたものであり、電動機に熱影響を及ぼす発熱源での発熱を予測して電動機の冷却量を制御することにより電動機の温度上昇を未然に防止もしくは抑制することのできる車両の電動機冷却制御装置をを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、走行のための動力を出力する電動機と、その電動機に熱影響を及ぼす発熱源とを備えた車両の電動機冷却制御装置において、前記発熱源の発熱量の増大を予測する昇温予測手段と、その昇温予測手段によって前記発熱源の発熱量の増大が予測された場合に前記電動機の温度が上昇する前に前記電動機に対する冷却量を増大させる冷却量増大手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記電動機に対して冷却用潤滑油を供給するオイルポンプを更に備え、前記電動機は、前記車両の車輪毎に設けられかつ各車輪を個別に駆動するインホイールモータを含み、前記発熱源は、前記車両に搭載された内燃機関と前記インホイールモータを制御するインバータとの少なくともいずれかを含み、前記昇温予測手段は、前記車両に対する出力増大要求に基づいて前記発熱源の発熱量の増大を予測する手段を含み、前記冷却量増大手段は、前記オイルポンプによる前記インホイールモータに対する潤滑油の供給量を増大させる手段を含むことを特徴とする車両の電動機冷却制御装置である。
【0010】
さらに請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記車両の走行予定路の道路情報を取得する道路情報取得手段を更に備え、前記昇温予測手段は、前記道路情報取得手段によって得られた走行予定路の道路情報に基づいて前記車両に対する出力増大要求を予測するとともにその予測された出力増大要求に基づいて前記発熱源の発熱量の増大を予測する手段を含むことを特徴とする車両の電動機冷却制御装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、電動機に対して熱影響を及ぼす発熱源の発熱量の増大が予測された場合、電動機の温度がその熱影響によって上昇する前に、電動機の冷却量が増大させられる。そのため、発熱源からの熱が電動機に及ぶとしても、その熱の少なくとも幾分かは、冷却量の増大によって電動機から持ち去られ、その結果、電動機の温度が過度に上昇したり、電動機の出力トルクが制約されたりすることを未然に防止することができる。
【0012】
請求項2の発明によれば、内燃機関もしくはインバータの発熱量の増大が予測された場合にオイルポンプから吐出されて電動機の冷却の用に供される潤滑油の量を増大させることができるので、インホイールモータが内燃機関もしくはインバータの熱によって加熱されてその温度が高くなることを防止もしくは抑制することができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、車両の走行予定路における前方の道路情報に基づいて発熱源の発熱量の増大を予測するので、電動機もしくはインホイールモータの冷却量の増大を的確に行ってその温度上昇を未然に回避もしくは抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係る制御装置で実行される制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1に示す制御例で使用されるエンジン負荷とオイルポンプ回転数との関係を定めたマップを模式的に示す図である。
【図3】この発明に係る制御装置で実行される制御の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3の制御で使用される予想出力トルクとオイルポンプ回転数との関係を定めたマップを模式的に示す図である。
【図5】インバータ負荷に応じてオイルポンプ回転数を制御する制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5の制御で使用されるインバータ負荷とオイルポンプ回転数との関係を定めたマップを模式的に示す図である。
【図7】この発明に係る冷却制御装置で対象とする車両の一例を示す車両の概略図である。
【図8】この発明に係る冷却制御装置で対象とする車両の他の例を示す車両の概略図である。
【図9】この発明に係る冷却制御装置で対象とする車両の更に他の例を示す車両の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とすることのできる車両について説明すると、この発明は、走行用の電動機と、その電動機に対して熱影響を及ぼす発熱源とを備えた車両であり、その電動機は、いわゆる電気自動車もしくは燃料電池車のように、従来の車両に搭載されているエンジン(内燃機関)に替えて設けられた電動機であってもよく、あるいはいわゆるインホイールモータ車のように、ホイールごとに設けられたインホイールモータであってもよく、さらにはいわゆるハイブリッド車のように、エンジンと併用されるハイブリッド用の電動機であってもよい。一方、発熱源は、動作することにより熱を発生し、その熱が電動機に及ぶものであり、例えば電気自動車あるいは燃料電池車やインホイールモータ車では、インバータやバッテリーあるいは燃料電池スタックなどである。また、ハイブリッド車にあっては、エンジン(内燃機関)やその排気系統が、この発明における発熱源に相当する。
【0016】
この発明を図を参照しつつより具体的に説明する。図7は、この発明で対象とする車両の一例を概略的に示したものである。ここに示す車両は、左右の前輪FR,FLのそれぞれにモータMFR,MFLを内蔵してあり、そのモータMFR,MFLにより前輪FR,FLは駆動され、後輪RR,RLは内燃機関であるエンジン1で発生した動力により駆動させられるように構成された例である。このエンジン1は、この発明における発熱源に相当し、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンもしくはLPGエンジンなどである。また、前輪FR,FLは図示しない操舵装置によって転舵されるように構成され、それぞれに設けられている前記各モータMFR,MFLには、永久磁石式同期電動機などの発電機能を備えたモータが採用されている。各モータMFR,MFLはインバータINVなどのコントローラを介して、図示しない蓄電装置に電気的に接続されている。したがって、車両の走行時には、蓄電装置から電力が供給されてモータとして機能し、制動時では、モータが強制的に回転されることにより発電を行い、その電力を蓄電装置に充電するように構成されている。
【0017】
前記左右の前輪FR,FLに設けられているモータMFR,MFLはいわゆるインホイールモータであり、ステータとロータとにより構成されたトラクションモータやそのトラクションモータを冷却するための冷却機構2ならびに前記トラクションモータが出力したトルクを増大させる減速機構などを備えている。
【0018】
また、その冷却機構2は、冷却用潤滑油とその冷却用潤滑油を供給するオイルポンプと潤滑油を冷却するオイルクーラーなどを備えており、冷却用潤滑油をトラクションモータに供給してトラクションモータを冷却するものである。そのオイルポンプは、トラクションモータとは独立して駆動するようにオイルポンプ駆動用のモータを備えている。したがって、トラクションモータの回転とは関係なく冷却用潤滑油を供給することができるので、トラクションモータを冷却する必要が生じた際は、適宜、冷却用潤滑油の供給量を制御することができる。
【0019】
つぎに後輪の駆動系統について簡単に説明すると、エンジン1の出力軸はトランスミッション(T/M)3に連結され、そのトランスミッション3の出力は、プロペラシャフトなどの動力伝達装置や終減速機(デファレンシャルギア)を介して、左右の後輪軸に伝達されるようになっている。なお、トランスミッション3は、有段変速機や無段変速機あるいはモータを備えたハイブリッド式の変速機などである。
【0020】
そのエンジン1は、車両の加速時や登り勾配の走行時などの場合に、運転者のアクセル開度による出力要求に応じてエンジン負荷が増大して、エンジン温度が上昇する。そして、この発明の対象とする車両の一例では、エンジン1が車両の前方に搭載されていて、前輪FR,FLに設けられたモータMFR,MFLに接近しているので、そのモータMFR,MFLがエンジン1で生じた熱の影響を受けて、モータMFR,MFLの温度もしくは冷却性に影響が及ぶ。そのため、この発明に係る制御装置は、エンジン1などの発熱源からの熱影響でモータMFR,MFLの出力が制限されないようにするために、以下の制御を行うように構成されている。
【0021】
図1はその制御の流れを説明するためのものであり、この図1に示すルーチンは、車両のメインスイッチがオンになっているなど車両が動作状態にあるときに、所定の短時間毎に繰り返し実行される。先ず、エンジン1の負荷が測定(検出)される(ステップS1)。これは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンではスロットル開度やアクセル開度、あるいは吸入空気量などに基づいて検出することができる。エンジン負荷が大きければ、エンジン1が出力する動力が大きくなり、それに伴ってエンジン1での発熱量が多くなるから、ステップS1ではこの発明における発熱源に相当するエンジン1の発熱量の増大を予測していることになる。すなわち、ステップS1を実行する機能的手段がこの発明における昇温予測手段に相当する。
【0022】
ついで、測定もしくは検出されたエンジン負荷に基づいて、オイルポンプ指令回転数が求められる(ステップS2)。そのオイルポンプは、エンジン1から熱影響を受ける前記モータMFR,MFLを冷却するための潤滑油を供給するオイルポンプであり、その回転数がエンジン負荷に基づいて決定される。そのオイルポンプ指令回転数は、エンジン負荷の関数として定めておくことができ、さらにはエンジン負荷毎にオイルポンプ指令回転数を定めたマップから求めることができる。図2にはそのマップの一例を示してあり、エンジン負荷が大きいほど、オイルポンプ指令回転数が高回転数になるように構成されている。そして、このようにして決定されたオイルポンプ指令回転数となるようにオイルポンプが駆動される(ステップS3)。オイルポンプは回転数が増大するほど潤滑油の吐出量が多くなるから、その潤滑油が供給される前記モータMFR,MFLから奪われる熱の量すなわち冷却量が、エンジン負荷の増大に応じて増大させられる。したがって、これらステップS2およびステップS3の制御を実行する機能的手段がこの発明における冷却量増大手段に相当する。
【0023】
したがって、図1に示す制御を実行するように構成されているこの発明に係る制御装置によれば、モータMFR,MFLに接近して配置されているエンジン1の発熱量が増大することが予測されると、モータMFR,MFLの温度が特には上昇していなくても、モータMFR,MFLに対する潤滑油の供給量が先行して増大させられる。その結果、エンジン1の出力が増大してモータMFR,MFLがエンジン1からの熱影響を受け、あるいはモータMFR,MFLの周囲の温度が高くなって放熱量が抑制されたりした場合であっても、モータMFR,MFLの出力が制限されるほどにその温度が高くなることが防止もしくは抑制される。言い換えれば、車両の動力性能が低下することを防止もしくは抑制することができる。
【0024】
上記の図1に示す制御は、エンジン1の発熱量が増大する要因もしくは温度が上昇する要因が既に生じていることにより、エンジン1の発熱量の増大を予測するように構成した例であるが、この発明ではこれに限らず、上記のような発熱量の増大要因もしくは昇温要因が未だ生じていない状態で発熱量の増大や温度上昇を予測し、その予測の結果に基づいてモータMFR,MFLの冷却量を増大させるように構成することができる。その例を図3に示してあり、ここに示す例は、車両の走行予定路上での前方の勾配あるいはコーナーへの接近によって、エンジン1の発熱量や温度上昇を予測するよう構成した例である。
【0025】
具体的に説明すると、先ず、ナビゲーションシステムなどの情報取得システムによって自車両の周囲の地図情報を読み込み、また車速やアクセル開度などの車両の走行状態を示すデータが読み込まれる(ステップS11)。ナビゲーションシステムは、従来広く知られているものであって、地図情報や道路情報を備え、GPS(グローバルポジショニングシステム)を使用した電波航法や自車の動きを検出する推測航法などによって自車の地図上での位置を求め、さらにはその自車の位置および地図情報を利用して目的地に自車を誘導するように構成されている。そして、目的地を入力することにより走行予定路が求められ、併せてその走行予定路の道路情報すなわち一般路や高速道路などの道路の種別、登坂路や降坂路などの情報が検出されるように構成されている。したがって、ステップS11の制御を実行する機能的手段がこの発明における道路情報取得手段に相当する。
【0026】
したがって、ステップS11で読み込んだ情報を利用して、勾配(例えば登坂路)もしくはコーナーに接近したか否かが判断される(ステップS12)。勾配もしくはコーナーでは、アクセルペダルが踏み込まれるなど、出力要求が増大するので、ステップS12では、出力要求あるいはそれに伴うエンジン1の発熱量の増大が近々生じるか否かが判断されることになる。なお、その「接近」の判断は、時間あるいは距離に基づいて判断することになるので、その判断の閾値は、不必要にモータMFR,MFLの冷却量を増大させない範囲で、実験やシミュレーションなどに基づいて決めればよい。
【0027】
ステップS12で否定的に判断された場合にはリターンし、また反対に勾配もしくはコーナーに接近したことによりステップS12で肯定的に判断された場合には、トルクを増加する車輪が決定される(ステップS13)。これは、主としてコーナーを旋回する場合の制御であり、外輪側の車輪のトルクを増大させて旋回性を向上させるので、このような場合には外輪側の車輪がトルク増加輪となる。なお、アンダーステア傾向にする場合には、前輪がトルク増加輪となり、またオーバーステア傾向にする場合には、後輪がトルク増加輪となる。
【0028】
車輪で発生させるべき駆動トルクを増大させるには、エンジン1の出力を増大させることになるので、それに伴ってエンジン1の発熱量が増大し、またその温度が上昇する。したがって、つぎのステップS14では、オイルポンプ指令回転数が求められる。すなわち、ステップS11で読み込まれたアクセル開度に基づいて予想出力トルクが判るから、それに応じたオイルポンプ回転数が求められる。これは、前述したステップS2での制御と同様に、予め設定した関数により、もしくはマップにより求めることができ、そのマップの一例を図4に示してある。したがって、オイルポンプ回転数は予想出力トルクの増大に応じて増大する。そして、このようにして決定されたオイルポンプ指令回転数となるようにオイルポンプが駆動される(ステップS15)。オイルポンプは回転数が増大するほど潤滑油の吐出量が多くなるから、その潤滑油が供給される前記モータMFR,MFLから奪われる熱の量すなわち冷却量が、勾配もしくはコーナーに接近することにより、またその際の予想出力トルクに応じて増大させられる。したがって、これらステップS14およびステップS15の制御を実行する機能的手段がこの発明における冷却量増大手段に相当する。
【0029】
なお、図3に示す制御例では、車両に要求される出力トルクを予測することになるので、エンジン1だけでなく、モータMFR,MFLの出力トルクの増大をも予測していることになる。したがって、モータMFR,MFLの冷却量の増大は、モータMFR,MFL自体の出力の増大に基づく発熱に対処するための冷却量の増大が、一部、含まれていてもよい。
【0030】
したがって、図3および図4に示す制御を実行するように構成されたこの発明に係る制御装置によれば、駆動トルクの増大が予測された場合、未だ駆動トルクの増大のための操作や制御が実行されていない時点でモータMFR,MFLに対する潤滑油の供給量が先行して増大させられる。その結果、エンジン1の出力が増大してモータMFR,MFLがエンジン1からの熱影響を受けたり、あるいはモータMFR,MFLの周囲の温度が高くなって放熱量が抑制されたりした場合であっても、モータMFR,MFLの出力が制限されるほどにその温度が高くなることが防止もしくは抑制される。言い換えれば、車両の動力性能が低下することを防止もしくは抑制することができる。
【0031】
なお、モータMFR,MFLに対するオイルポンプから潤滑油供給量を増大させれば、モータMFR,MFLの冷却量が増大して、発熱があってもその温度上昇を抑制できるので、上述したエンジン1などの発熱源の発熱量の増大の予測と並行して、モータMFR,MFLの負荷や発熱量の増大を予測して、その冷却量を増大させるように構成してもよい。例えば図5に示すように、モータMFR,MFLの発熱量をインバータの負荷として測定(検出)する(ステップS21)。その測定の結果に基づいてオイルポンプ指令回転数を求め(ステップS22)、その求められた回転数となるようにオイルポンプを駆動する(ステップS23)。そのステップS22の制御で使用するとのできるマップの一例を図6に示してある。
【0032】
一方、この発明で対象とする車両は前述した図7に示す構成に限られないのであり、図8あるいは図9に示すように構成された車両であってもよい。すなわち、図8に示す車両は、左右の後輪RR,RLそれぞれにモータMRR,MRLを内蔵しており、それらのモータMRR,MRLにより後輪RR,RLが駆動されるように構成されている。このモータは前述した車両の例の前輪と同様にインホイールモータであり、そのインホイールモータの構成も前述のものと同様である。また、前輪FR,FLは、エンジン1で発生させられた動力により駆動させられる。なお、このエンジン1は前述した車両の例と同様にガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいはLPGエンジンなどである。そして、前輪FR,FLへの駆動力の伝達系統は、エンジン1の出力軸とトランスミッション3とが連結され、そのトランスミッション3の出力軸は終減速機(デファレンシャルギア)を介して、それぞれの前輪FR,FLの駆動軸に連結されている。さらに、エンジン1からの排気のための排気管4が設けられ、その排気管4は、車両前方に搭載されたエンジン1から車両後方へ延ばされ、車両後部では、排気管4は左右に分岐している。
【0033】
そして、エンジン1から排出される排気の熱の影響と排気の浄化用触媒の化学反応で発生する熱とにより排気管4の温度が高温となることがある。したがって、エンジン1の負荷が増大してエンジン温度が高くなると、そのエンジン1からの排気の温度も高くなるので、その影響を受けて排気管4の温度も上昇する。そのため、車両の後部で左右に分岐している排気管4の熱は、後輪RR,RLに搭載されたモータMRR,MRLに熱影響を与え、モータの温度もしくは冷却性能に影響を及ぼす可能性がある。
【0034】
つまり、後輪RR,RLに搭載されたモータMRR,MRLへの熱の影響は、エンジン1の負荷が増大することに従って増加すると考えられる。したがって、この発明の制御装置は、前述した車両の例と同様にエンジン負荷を測定し、予め定めたオイルポンプの駆動マップ(図2参照)からエンジン負荷に対応したオイルポンプの回転数を読み込み、その読み込まれたオイルポンプの回転数でオイルポンプを駆動させる。そのため、エンジン負荷が大きい場合、つまりエンジン1の発熱量が増大する場合は、より多くの冷却用潤滑油をモータに供給するように定めている。
【0035】
上述した二つの車両の例では、エンジン1が搭載され、そのエンジン1の負荷に応じて、車輪に搭載されたモータの冷却用潤滑油のオイルポンプの回転数を制御し、モータがエンジン1や排気管4からの熱の影響を受ける前に冷却量を制御するものであるが、図9に示す車両のように、エンジン1を搭載されていない車両においても、この発明を適用することが可能である。
【0036】
図9に示す車両は、電気自動車や燃料電池車両の概略図であり、前後左右それぞれの車輪FR,FL,RR,RLにモータMFR,MFL,MRR,MRLを備え、それらのモータMFR,MFL,MRR,MRLと電気的に接続されたインバータ5などのコントローラを介して、バッテリー6もしくは燃料電池(FCスタック)7が接続されている。それぞれの車輪FR,FL,RR,RLに設けられたモータMFR,MFL,MRR,MRLは、前述した車両のインホイールモータと同様の構成であり、ステータとロータとにより構成されたトラクションモータやそのトラクションモータを冷却する冷却用潤滑油あるいはその冷却用潤滑油を供給するためのオイルポンプなどで構成されている。
【0037】
また、これらのインバータ5やバッテリー6あるいは燃料電池7は、車両の加速時など運転者によるアクセルの踏み込み量に応じて、モータへ電気の供給を行い、その電気の供給量に基づいて熱を生じる。したがって、前述した車両のエンジン1や排気管4と同様に各部材で生じた熱はモータに影響を与える。そのため、この発明では、これらいずれかの部材の負荷状態を測定し、その負荷状態に応じてモータの冷却用潤滑油のオイルポンプの回転数を制御し、モータがそれらの部材から熱の影響を受ける前にモータの冷却量を制御するようになっている。
【0038】
この発明は、上述した車両や制御パラメータに限るものではなく、要するに走行負荷に伴い発熱量を増大させる部材が電動機に熱影響を与える場合では、その走行負荷を検知もしくは予測するものを制御パラメータとし、その走行負荷が予測されたら電動機の冷却用潤滑油の供給量を増加させ、電動機が加熱される前に冷却性能を向上させるものである。
【符号の説明】
【0039】
1…エンジン、 2…冷却機構、 3…トランスミッション(T/M)、 4…排気管、 5…インバータ、 6…バッテリー、 7…燃料電池(FCスタック)、 FR,FL,RR,RL…車輪、 MFR,MFL,MRR,MRL…インホイールモータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行のための動力を出力する電動機と、その電動機に熱影響を及ぼす発熱源とを備えた車両の電動機冷却制御装置において、
前記発熱源の発熱量の増大を予測する昇温予測手段と、
その昇温予測手段によって前記発熱源の発熱量の増大が予測された場合に前記電動機の温度が上昇する前に前記電動機に対する冷却量を増大させる冷却量増大手段と
を備えていることを特徴とする車両の電動機冷却制御装置。
【請求項2】
前記電動機に対して冷却用潤滑油を供給するオイルポンプを更に備え、
前記電動機は、前記車両の車輪毎に設けられかつ各車輪を個別に駆動するインホイールモータを含み、
前記発熱源は、前記車両に搭載された内燃機関と前記インホイールモータを制御するインバータとの少なくともいずれかを含み、
前記昇温予測手段は、前記車両に対する出力増大要求に基づいて前記発熱源の発熱量の増大を予測する手段を含み、
前記冷却量増大手段は、前記オイルポンプによる前記インホイールモータに対する潤滑油の供給量を増大させる手段を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の車両の電動機冷却制御装置。
【請求項3】
前記車両の走行予定路の道路情報を取得する道路情報取得手段を更に備え、
前記昇温予測手段は、前記道路情報取得手段によって得られて走行予定路の道路情報に基づいて前記車両に対する出力増大要求を予測するとともにその予測された出力増大要求に基づいて前記発熱源の発熱量の増大を予測する手段を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の電動機冷却制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−97706(P2011−97706A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248203(P2009−248203)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】