説明

車両の駆動力制御装置

【課題】前進多段の自動変速機において変速のビジー感を与えることのない車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】設定手段120により車両状態に基づいて目標エンジントルクTEおよび目標変速段GSが設定されると、その目標エンジントルクTEが得られるようにエンジン30の出力トルクが制御され、その目標変速段GSが得られるように自動変速機10の変速段GSが制御されるが、目標変速段GSへ変速される前の実際の変速段で目標駆動力FTを達成可能なときは、エンジントルク制御手段130によりその実際の変速段GSで目標駆動力FTが得られるようにエンジン30のトルクが制御されることから、自動変速機10を上記目標変速段GSへ変速させるための変速が当面不要となるので、車両の駆動力が低下させることがなく、変速のビジー感が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目標駆動力を達成するためにエンジンの出力トルクおよび自動変速機の変速比を制御する車両の駆動力制御装置に係り、特に、車両の駆動力を低下させることなく自動変速機の変速頻度を低下させてビジー感を改善する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速線図を構成する変速線に基づいて変速段が自動的に切り換えられる自動変速機を備え、予め記憶されたマップから実際の車速およびアクセル踏込量すなわちアクセル開度に基づいて目標駆動力を設定し、その目標駆動力が得られるようにエンジンの出力を制御する車両の駆動力制御装置が知られている。たとえば、特許文献1に記載の車両の駆動力制御装置がそれである。このような車両の駆動力制御装置によれば、変速段毎に用意されたマップから目標駆動力が算出されるので、変速時のヒステリシスの影響を受けることなく、各変速段における最適な目標駆動力が得られる。
【特許文献1】特開2002−161772号公報
【特許文献2】特開平5−133459号公報
【特許文献3】特開平7−239015号公報
【0003】
上記特許文献1に記載のような従来の車両の駆動力制御装置では、たとえば図8に示す予め記憶された変速線図から実際のアクセル踏込量APOおよび車速Vに基づいて変速段が設定され、自動変速機がその変速段へ切り換えられるようになっている。そして、上記変速線図ではアップシフトとダウンシフトとで変速点が異なるようにヒステリシスが設けられており、同一のアクセル踏込量APOではダウンシフトよりもアップシフトの方が変速点の車速が高くなるように設定されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、自動変速機では、多段となるほど1つの変速段が受け持つスロットル開度方向の範囲が狭くなる傾向となる結果、少しアクセルペダルを踏込み操作することによりダウンシフトが発生し、少し戻し操作するとアップシフトする設定となってしまう場合がある。このような場合では、多少のアクセル操作によって、自動変速機の変速制御が繰り返し行われてしまい、運転者に変速のビジー感を与える可能性があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、前進多段の自動変速機において車両の駆動力を低下させることがなく且つ変速のビジー感を与えることのない車両の駆動力制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明の要旨とするところは、(a)エンジンおよび自動変速機と、車両状態に基づく目標駆動力を得るための目標エンジントルクおよび目標変速段を設定する設定手段と、前記目標エンジントルクが得られるように前記エンジンの出力トルクを制御するエンジントルク制御手段と、前記目標変速段が得られるように前記自動変速機の変速段を制御する変速制御手段とを、備えた車両の駆動力制御装置であって、(b)前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成可能な場合は、その実際の変速段でその目標駆動力が得られるように制御することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記実際の変速段からその変速段よりも変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウン条件を満たす場合には、その実際の変速段で前記目標駆動力が得られるようにする前記制御を実行するものであることを特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または2に係る発明において、前記実際の変速段からその変速段よりも変速比の低い目標変速段への変速を行うシフトアップ条件を満たす場合には、その実際の変速段で前記目標駆動力が得られるようにする前記制御を禁止するものであることを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項1から3の何れかの発明において、前記実際の変速段からその変速段よりも変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウン条件に近づくほど前記目標駆動力に近い駆動力が得られるように制御するものであることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、請求項1から4の何れかの発明において、前記設定手段は、(a)予め記憶された関係から実際のアクセル開度および車速に基づいて目標駆動力を算出する目標駆動力算出手段と、(b)前記目標駆動力算出手段により算出された目標駆動力を得るための前記目標変速段を算出する目標変速段算出手段と、(c)その目標駆動力算出手段により算出された目標駆動力に基づいて前記目標エンジントルクを算出する目標エンジントルク算出手段とを、含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、請求項1から5の何れかの発明において、(a)前記目標変速段と前記自動変速機の実際の変速段とが相違するとき、その目標変速段への変速前の実際の変速段により前記目標駆動力を達成可能か否かを判定する判定手段を含み、(b)前記判定手段により前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成可能であると判定された場合は、前記変速制御手段はその判定手段により達成不能と判定されるまで実際の変速段を維持し、前記エンジントルク制御手段はその実際の変速段でその目標駆動力が得られるように前記エンジンのトルクを制御することを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に係る発明は、請求項6に係る発明において、前記判定手段は、前記実際の変速段に対応する予め記憶された関係から前記目標変速段への変速前の実際の変速段により得られる最大駆動力を算出し、その実際の変速段により得られる最大駆動力が前記目標駆動力を上回るときは、その目標変速段への変速前の実際の変速段によりその目標駆動力を達成可能と判定するものであることを特徴とする。
【0013】
また、請求項8に係る発明は、請求項6または7に係る発明において、(a)前記変速制御手段は、前記判定手段により前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成不能であると判定された場合は、その実際の変速段から前記目標変速段へダウン変速させるものであり、(b)前記エンジントルク制御手段は、その目標変速段で前記目標駆動力が得られるように前記エンジンのトルクを制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明の車両の駆動力制御装置によれば、設定手段により車両状態に基づく目標駆動力を得るための目標エンジントルクおよび目標変速段が設定されると、その目標エンジントルクが得られるように前記エンジンの出力トルクが制御され、その目標変速段が得られるように前記自動変速機の変速段が制御されるが、目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成可能なときは、その実際の変速段でその目標駆動力が得られるように制御されることから、自動変速機を上記目標変速段へ変速させるための変速が当面不要となるので、車両の駆動力を低下させることがなく、しかも変速のビジー感が抑制される。
【0015】
請求項2に係る発明によれば、前記実際の変速段からその変速段よりも変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウン条件を満たす場合には、その実際の変速段で前記目標駆動力が得られるようにする前記制御を実行するものであることから、特に実際の変速段から変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウンに際して、車両の駆動力を低下させることなく変速のビジー感を好適に抑制することができる。
【0016】
請求項3に係る発明によれば、前記実際の変速段からその変速段よりも変速比の低い目標変速段への変速を行うシフトアップ条件を満たす場合には、その実際の変速段で前記目標駆動力が得られるようにする前記制御を禁止するものであることから、実際の変速段から変速比の低い目標変速段への変速を行うシフトアップに際しては、目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を発生させる前記制御を非実行とすることで、アップシフト前後のトルク変動を抑制し、そのアップシフトに伴うオーバーランの発生を好適に防止することができる。
【0017】
請求項4に係る発明によれば、前記実際の変速段からその変速段よりも変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウン条件に近づくほど前記目標駆動力に近い駆動力が得られるように制御するものであることから、変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウンに際して、車両の駆動力を滑らかに変化させることができる。
【0018】
請求項5に係る発明の車両の駆動力制御装置によれば、前記設定手段は、(a)予め記憶された関係から実際のアクセル開度および車速に基づいて目標駆動力を算出する目標駆動力算出手段と、(b)前記目標駆動力算出手段により算出された目標駆動力を得るための前記目標変速段を算出する目標変速段算出手段と、(c)その目標駆動力算出手段により算出された目標駆動力に基づいて前記目標エンジントルクを算出する目標エンジントルク算出手段とを、含むことから、アクセル開度および車速に基づいて、目標駆動力と、その目標駆動力を得るための目標エンジントルクおよび目標変速段が算出される。
【0019】
請求項6に係る発明の車両の駆動力制御装置によれば、判定手段により、前記目標変速段と前記自動変速機の実際の変速段とが相違するとき、その目標変速段への変速前の実際の変速段により前記目標駆動力を達成可能か否かが判定され、その判定手段により前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成可能であると判定された場合は、前記変速制御手段はその判定手段により達成不能と判定されるまで実際の変速段が維持され、前記エンジントルク制御手段によりその実際の変速段で前記目標駆動力が得られるように前記エンジンのトルクが制御されるので、自動変速機を上記目標変速段へ変速させるための変速が当面不要となるので、車両の駆動力を低下させることがなく、しかも変速のビジー感が抑制される。
【0020】
請求項7に係る発明の車両の駆動力制御装置によれば、前記判定手段は、前記実際の変速段に対応する予め求められた上限判定値が前記目標駆動力を上回るときは、その目標変速段への変速前の実際の変速段によりその目標駆動力を達成可能と判定するものであるので、適切に、自動変速機を目標変速段へ変速させるための変速が実行されない。
【0021】
請求項8に係る発明の車両の駆動力制御装置によれば、前記変速制御手段は、前記判定手段により前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成不能であると判定された場合は、その実際の変速段から前記目標変速段へダウン変速させるものであり、前記エンジントルク制御手段は、その目標変速段で前記目標駆動力が得られるように前記エンジンのトルクを制御することから、変速のビジー感がなく、目標駆動力が継続的に得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1は、車両用自動変速機10の骨子図である。図2は複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。上記入力軸22は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン30によって回転駆動されるトルクコンバータ32のタービン軸である。また、上記出力回転部材24は自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図3に示す差動歯車装置34に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)36と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。上記エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機10、差動歯車装置34、および一対の車軸38を介して一対の駆動輪(前輪)40へ伝達されるようになっている。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。
【0024】
上記自動変速機10は、第1変速部14および第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段が成立させられるとともに、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図2に示すように、たとえば前進ギヤ段では、クラッチC1および一方向クラッチF1(エンジンブレーキ時にはそれに加えてブレーキB2の係合)により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1の係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3の係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2の係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3の係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1の係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3の係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
【0025】
図2の作動表は、上記各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、および第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。なお、図1の符号26はトランスミッションケースである。
【0026】
上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路98(図3参照)のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
【0027】
図4は、油圧制御回路98のうちリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する部分を示す回路図であり、クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLからそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5によって電子制御装置90からの指令信号に応じた係合圧に調圧された油圧がそれぞれ供給されるようになっている。上記ライン油圧PLは、図示しないリリーフ型調圧弁により、前記エンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプや電磁式オイルポンプからの出力圧から、アクセル開度或いはスロットル開度で表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
【0028】
上記リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、変速用ソレノイドバルブに相当するものであって、基本的には何れも同じ構成であり、本実施例ではノーマリクローズ型のものが用いられている。図5のソレノイドバルブは、その一例であり、励磁電流に応じて電磁力を発生するソレノイド100、スプール102、スプリング104、ライン油圧PLが供給される入力ポート106、調圧した油圧を出力する出力ポート108、ドレーンポート110、出力油圧が供給されるフィードバック油室112を備えている。そして、フィードバック油室112に供給される出力圧(フィードバック油圧)をPout、その受圧面積をAf、スプリング104の荷重をFls、ソレノイド100による電磁力(開弁方向の推力)をFが、次式(1)を満足するように、スプール102が移動させられる。すなわち、(1)式を変形した(2)式に示すように、出力圧(係合圧)は、ソレノイド100の電磁力Fに従って入力ポート106と出力ポート108またはドレーンポート110との間の連通状態が変化させられることにより出力圧(フィードバック油圧Pout)が調圧制御され、前記油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3に供給される。リニアソレノイドバルブSL1〜SL5の各ソレノイド100は、前記電子制御装置90により独立に励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されるようになっている。
F=Pout×Af+Fls ・・・(1)
Pout=(F−Fls)/Af ・・・(2)
【0029】
上記ソレノイドバルブSL1およびSL2の出力圧、すなわちクラッチC1およびクラッチC2の係合圧を検出するための油圧スイッチSC1および油圧スイッチSC2が、ソレノイドバルブSL1とクラッチC1の油圧アクチュエータAC1との間、およびソレノイドバルブSL2とクラッチC2の油圧アクチュエータAC2との間にそれぞれ接続されている。油圧スイッチSC1および油圧スイッチSC2は、クラッチC1およびクラッチC2の係合圧が係合完了を判定するために予め設定された所定値たとえばライン圧PLに近い値以上となった場合に出力信号を発生する。上記クラッチC1およびクラッチC2は、図2に示されるように、前進ギヤ段のいずれにおいてもそれらのうちの一方或いは他方が必ず係合させられる。すなわち、上記クラッチC1またはクラッチC2の係合が前進ギヤ段の達成要件とされており、したがって、本実施例においては、クラッチC1またはクラッチC2がフォワードクラッチに相当する。
【0030】
前記図3は、図1の自動変速機10などを制御するために車両に設けられた電気的な制御系統を説明するブロック線図であり、所謂アクセル開度APOとして知られるアクセルペダル50の操作量がアクセル操作量センサ52により検出されるとともに、そのアクセル開度APOを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。アクセルペダル50は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるものであり、アクセル操作部材に相当し、アクセル開度APOは出力要求量に対応する。また、エンジン30の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン30の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度Tを検出するための吸入空気温度センサ62、エンジン30のスロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ64、車速V(出力回転部材24の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ66、エンジン30の冷却水温Tを検出するための冷却水温センサ68、常用ブレーキであるフットブレーキペダル69の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー72のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ74、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路98内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ78などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度T、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温T、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOILなどを表す信号が電子制御装置90に供給されるようになっている。
【0031】
また、前記エンジン30に吸気を行うための吸気管には、前記スロットル弁56を駆動するスロットルアクチュエータ80が設けられている。また、燃料噴射弁82がエンジン30の気筒或いは上記吸気管に設けられている。上記スロットル弁56のスロットル開度θTHは、アクセル開度APOの増加とともに増加する予め設定され且つ記憶された一定の電子スロットル基本制御特性から実際のアクセル開度APOに基づいてスロットルアクチュエータ80により制御される。
【0032】
電子制御装置90は、車両の駆動力制御装置として機能するものであり、たとえばROM、RAM、CPU、入出力インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理して、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御し、電子スロットル制御、自動変速機10の自動変速制御、エンジン30の出力制御などを実行する。
【0033】
図6は、電子制御装置90の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、設定手段120は、車両状態検出手段122により検出されたアクセル開度APO(%)および車速V(km/h)、またはそれらの関連値等の車両状態に基づいて、目標エンジントルクTEおよび目標変速段GSを設定する。この設定手段120は、たとえば、予め記憶された関係(FT=f(APO,V))から実際のアクセル開度APOおよび車速Vに基づいて目標駆動力FTを算出する目標駆動力算出手段124と、その目標駆動力算出手段124により算出された目標駆動力FTを得るために燃費および運転性を考慮した最適な目標変速段GSを算出する目標変速段算出手段126と、予め記憶された関係[TE=FT/(t×γGS)]から、上記目標駆動力算出手段124により算出された目標駆動力FTおよび目標変速段GSに基づいて前記目標エンジントルクTEを算出する目標エンジントルク算出手段128とを備えている。
【0034】
上記目標駆動力算出手段124は、たとえば図7に示すような予め記憶された関係から、車速V(出力回転部材24の回転速度NOUT)および変速段GSの関数であるタービン回転速度NT(rpm)とアクセル開度APO(%)とに基づいて目標エンジントルクTEを算出するものであってもよい。また、目標変速段算出手段126は、たとえば図8に示すように目標駆動力FTを得るために燃費および運転性を考慮して予め記憶された関係から、実際のアクセル開度APO(%)および車速Vに基づいて目標変速段GSを算出するものであってもよい。また、上記目標駆動力FTは自動変速機10の出力回転部材24上の値であるが、たとえば駆動輪40の半径rを加味した駆動輪上の値であってもよく、目標駆動トルクと称されてもよい。また、tはトルクコンバータ32のトルク比であり、γGSは目標変速段GSが達成されたときの自動変速機10の変速比である。
【0035】
エンジントルク制御手段130は、前記設定手段120により設定された目標エンジントルクTEが得られるようにたとえば前記スロットル弁56のスロットル開度θTHを調節し、実際のエンジントルクTEを目標エンジントルクTEに一致或いは近似させるように前記エンジン30の出力トルク制御を行う。変速制御手段132は、前記設定手段120により設定された目標変速段GSが得られるように前記油圧制御回路98を介して前記クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の係合、解放を制御することにより前記自動変速機10の実際の変速段GSを目標変速段GSと一致させる変速制御を行う。
【0036】
判定手段134は、前記アクセルペダル50の踏み込み等により目標変速段GSが変化させられたときなどにおいて、前記目標変速段算出手段126により算出される目標変速段GSが変更(更新)されることにより、その目標変速段GSと自動変速機10の実際の変速段GSとが相違したときは、その目標変速段GSへ変速する前の実際の変速段GSにより目標駆動力FTを達成可能か否かを判定する。ところで、前記自動変速機10が第5速ギヤ段であるときの、スロットル開度θTHをパラメータとする車速Vと駆動力FTとの関係を、第6速ギヤ段においてWOT(スロットル開度θTHが100%)であるときに得られる最大駆動力FT6maxを示す破線と共に示す図9において、その破線よりも下側の領域は、第5速ギヤ段で得られる駆動力が第6速ギヤ段でも得られることを示している。したがって、上記判定手段134は、たとえば第6速ギヤ段で走行中に目標変速段GSが第5速ギヤ段を示すものとなったときは、変速段毎に予め求められた上限判定値FT1を読み出し、目標駆動力FTがその上限判定値FT1を下回るとき、すなわち図9において目標駆動力FTが破線よりも下側の領域であるときは、目標変速段GSへの変速前の実際の第6速変速段によりその目標駆動力FTを達成可能と判定する。この上限判定値FT1は、第6速ギヤ段でスロットル開度θTHが100%であるときに得られる最大駆動力FT6maxよりも所定の余裕値だけ低く設定されている。図10のA′点は、その6速走行中において用いられる上限判定値FT1を第6速特性線上で示している。
【0037】
前記変速制御手段132は、上記判定手段134によって目標変速段GSへ変速する前の実際の変速段GSにより目標駆動力FTを達成可能と判定されている場合は、目標変速段GSへの変速を禁止し、自動変速機10の実際の変速段GSのまま保持する。前記エンジントルク制御手段130は、上記判定手段134によって目標変速段GSへ変速する前の実際の変速段GSにより目標駆動力FTを達成可能と判定されている場合は、その実際の変速段GSで目標駆動力FTが得られるようにエンジン30の出力トルクを制御する。たとえば、スロットル開度θTHと目標駆動力FT或いは駆動力FTとの関係を各ギヤ段毎に示す図10に示すように、A点において目標変速段算出手段126により目標変速段GSが第6速から第5速へ変更されたとすると、判定手段134によって目標変速段GSへ変速する前の実際の変速段GSにより目標駆動力FTを達成可能と判定されるので、変速制御手段132により第6速から第5速へのダウンシフトが実行されず、エンジントルク制御手段130により、第6速ギヤ段のまま目標駆動力FTが得られるように、アクセル開度APOが変化しないにも拘わらずスロットルアクチュエータ80によってスロットル弁56のスロットル開度θTHが増加させられる。
【0038】
たとえば第6速ギヤ段での走行中にアクセルペダル50の踏み込み操作により目標駆動力FTが増加させられた場合、従来では、図10のA点からB点へ6→5ダウンシフトが実行され、次いでC点からD点へ5→4ダウンシフトが実行されていたが、上記の変速制御手段132によれば、A′点からB点へ6→5ダウンシフトが実行されるようになる。これにより、変速線図における6→5ダウン変速線は、たとえば図11に示すように、その6→5ダウン変速線の低車速側或いは低負荷側の一部が、実質的にアクセル開度APOが高い側へずらされた状態となる。
【0039】
なお、前記判定手段134により目標変速段GSへ変速される前の実際の変速段GSで目標駆動力FTを達成不能であると判定された場合は、前記変速制御手段132は、その実際の変速段GSから目標変速段GSへダウン変速させるとともに、前記エンジントルク制御手段130は、その目標変速段GSで目標駆動力FTが得られるようにエンジン10の出力トルクTEを制御する。
【0040】
図12は、前記電子制御装置90による、アクセルペダル50の加速操作時における変速制御作動の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
【0041】
まず、前記目標変速段算出手段126に対応するステップ(以下「ステップ」を省略する。)S1では、前記目標駆動力FTを得るために燃費および運転性を考慮した最適な目標変速段GSが算出される。次いで、前記目標駆動力算出手段124に対応するS2では、たとえば予め記憶された関係(FT=f(APO,V))から実際のアクセル開度APOおよび車速Vに基づいて目標駆動力FTが算出される。
【0042】
次いで、前記判定手段134に対応するS3では、前記アクセルペダル50の踏み込み等により目標変速段GSが変化させられたときなどにおいてその目標変速段GSと自動変速機10の実際の変速段GSとが相違したとき、その目標変速段GSへ変速する前の実際の変速段GSにより目標駆動力FTを達成可能か否かが判定される。たとえば第6速ギヤ段GSで走行中に目標変速段GSが第5速ギヤ段GSを示すようになったとき、スロットル弁開度θTHを増加させることが可能な範囲内でその第6速ギヤ段で目標駆動力FTを達成可能か否かが判定される。
【0043】
上記S3の判断が否定される場合は、S4において、たとえば図10のA点からB点への変速として示される6→5ダウンシフトが直ちに実行され、前記エンジントルク制御手段130に対応するS6において、前記スロットル弁56のスロットル開度θTHが制御されてエンジントルクが制御された後、本ルーチンが終了させられる。しかし、前記アクセルペダル50の踏み込み操作の当初は通常はS3の判断が肯定されるので、前記変速制御手段132に対応するS5において、たとえば図10のA点からA′点の間に示されるように、その6→5ダウンシフトが禁止されて現変速段である第6速ギヤ段がA′点まで保持されると同時に、前記エンジントルク制御手段130に対応するS6において、電子スロットル制御に用いられているアクセル開度APOとスロットル開度θTHとの間の基本制御特性から離れて、目標駆動力FTを達成するように、前記スロットルアクチュエータ80によってスロットル弁56のスロットル開度θTHが増加させられる。この制御が繰り返し実行されるうち、目標駆動力FTが図10の第6速の駆動力線上で予め設定されたA′点に対応する判定値FT1を上まわると、S3の判断が否定されるので、S4において、たとえば図10のA′点からB点への変速として示される6→5ダウンシフトが直ちに実行され、前記エンジントルク制御手段130に対応するS6において、前記スロットル弁56のスロットル開度θTHが制御されてエンジントルクが制御された後、本ルーチンが終了させられる。
【0044】
図13は、第6速走行時に上記S1乃至S6の加速操作時の駆動力制御が実行された場合の作動を説明するタイムチャートである。図13において、t1時点でアクセルペダル50が大きく踏込操作されると、当初はS3の判断が肯定されるので、第6速が維持されつつ、アクセル開度APOに基づいて電子スロットル基本制御特性から得られる値θTHから、目標エンジントルクTEが得られるように、スロットルアクチュエータ80によってスロットル弁56のスロットル開度加算値ΔθTHがさらに加えられる。このスロットル開度加算値ΔθTHは、目標エンジントルクTEが得られるように逐次変化させられている。このようにして、第6速ギヤ段で目標駆動力FTが達成されるうち、目標駆動力FTが上限判定値FT1を超えると、t2時点において第6速から第5速への変速指令が出力され、t3時点において6→5ダウンシフトのイナーシャ相が開始されると実質的に6→5ダウンシフトが実行されると同時に点火時期の遅角操作によりエンジン30の出力トルクが一時的に低下させられ、A′点からB点への矢印に示すように、第6速のタービン回転速度NTから第5速のタービン速度NTへ切り換えられる。そして、t4時点において6→5ダウンシフトの同期が完了すると、上記スロットル開度θTHの増量および点火時期の遅角が終了させられる。
【0045】
続いて、図6に示す電子制御装置90による前記エンジン30の出力トルク制御の他の態様について説明する。前記電子制御装置90は、好適には、前記実際の変速段GSからその変速段GSよりも変速比の高い目標変速段GSへの変速を行うシフトダウン条件を満たす場合、すなわち前記アクセルペダル50の踏み込み等により目標変速段GSが変化させられたときなどにおいてその目標変速段GSと自動変速機10の実際の変速段GSとが相違し且つその目標変速段GSの変速比がその時点における実際の変速段GSよりも高い場合には、前記エンジントルク制御手段130および変速制御手段132などにより前述したエンジントルク制御すなわちその実際の変速段GSで前記目標駆動力FTが得られるようにする前記制御を実行する。一方、好適には、前記実際の変速段GSからその変速段よりも変速比の低い目標変速段GSへの変速を行うシフトアップ条件を満たす場合、すなわち前記アクセルペダル50の踏み込み等により目標変速段GSが変化させられたときなどにおいてその目標変速段GSと自動変速機10の実際の変速段GSとが相違し且つその目標変速段GSの変速比がその時点における実際の変速段GSよりも低い場合には、前述したエンジントルク制御を禁止すなわち非実行とする。
【0046】
図14は、前記自動変速機10が第5速ギヤ段または6速ギヤ段であるときの、スロットル開度θTHをパラメータとするタービン回転速度(rpm)とタービントルク(Nm)との関係(駆動力特性)を、5→6アップシフトの変速線および6→5ダウンシフトの変速線と共に示す図である。本実施例の車両の駆動力制御装置において、好適には、変速段毎あるいは幾つかの変速段が含まれるグループ毎にこの図14に示すような目標駆動力特性が定められており、変速に際してその目標駆動力特性が切り替えられて用いられる。また、上述のように、図14に示す6→5シフトなどのダウンシフトに際しては、前記エンジントルク制御手段130および変速制御手段132などにより前述したエンジントルク制御を実行する一方、5→6シフトなどのアップシフトに際しては、前述したエンジントルク制御を禁止し、非実行とする。アップシフトに際して前述したエンジントルク制御を実行する場合を考えると、前記スロットル弁56のスロットル開度θTHを増加させながらアップ変速をすることになり、オーバーラン(運転者が予想する以上の駆動力が出力される現象)が発生する可能性がある。そこで、本実施例のように、5→6シフトなどのアップシフトに際しては、前述したエンジントルク制御を非実行とすることで、アップ変速前後のエンジントルク設定は同一(通常特性)となり、斯かるオーバーランを好適に防止することができる。
【0047】
また、本実施例の車両の駆動力制御装置は、好適には、図14の遷移領域すなわち6→5ダウンシフトの変速線と5→6アップシフトの変速線とに囲まれた領域において、斯かるダウンシフトの変速線すなわち前記実際の変速段GSからその変速段GSよりも変速比の高い目標変速段GSへの変速を行うシフトダウン条件に近づくほど前記目標駆動力FTに近い駆動力が得られるように前記エンジントルク制御手段130などによりエンジントルク制御を行う。換言すれば、前記実際の変速段GSからその変速段GSよりも変速比の高い目標変速段GSへの変速を行うシフトダウン条件に近づくに従い、実際の駆動力FTを前記目標駆動力FTに漸近させるように前記エンジントルク制御手段130などによりエンジントルク制御を行う。このようにすることで、ダウンシフト時における車両の駆動力の低下を好適に抑制することができると共に、たとえば5→6アップシフト後に加速方向に状態遷移した場合において、6→5ダウンシフト点まで加速要求に応じた出力特性を実現することができる。
【0048】
図15は、前記電子制御装置90による、アクセルペダル50の加速操作時における変速制御作動の他の一例の要部を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。なお、この制御に関して、前述した図12の制御と共通のステップについては同一の符号を付してその説明を省略する。この図15に示す制御では、前述したS2の処理に続いて、S7において、ダウンシフトすなわち実際の変速段GSからその変速段GSよりも変速比の高い目標変速段GSへの変速条件が成立したか否かが判断される。このS7の判断が肯定される場合には、前述したS3以下の処理が実行されるが、S7の判断が否定される場合には、S8において、アップシフトすなわち実際の変速段GSからその変速段GSよりも変速比の低い目標変速段GSへの変速条件が成立したか否かが判断される。このS8の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S8の判断が肯定される場合には、前記変速制御手段132に対応するS9において、目標変速段GSへのアップシフト変速が直ちに実行された後、S6以下の処理が実行される。
【0049】
以上のように、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、設定手段120により車両状態に基づいて目標エンジントルクTEおよび目標変速段GSが設定されると、その目標エンジントルクTEが得られるようにエンジン30の出力トルクが制御され、その目標変速段GSが得られるように自動変速機10の変速段GSが制御されるが、目標変速段GSへ変速される前の実際の変速段で目標駆動力FTを達成可能なときは、エンジントルク制御手段130によりその実際の変速段GSで目標駆動力FTが得られるようにエンジン30のトルクTEが制御されることから、自動変速機10を上記目標変速段GSへ変速させるための変速が当面不要となるので、車両の駆動力を低下させることがなく、変速のビジー感が抑制されるとともに、アクセル開度APOに対してダウンするまでなめらかな駆動力変化が得られ、ダウン線が深くなったことによるもたつき感が生じない。特に、自動変速機では、前進多段となるほど、クロスレシオ且つワイドレンジに設定されることにより変速前後のトルク段差が小さくされるので、加速性能が高められる反面、ダウンシフトではビジー感が生じる場合があったが、上記によりその変速のビジー感が抑制される。
【0050】
また、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、前記エンジントルク制御手段130は、前記実際の変速段GSからその変速段GSよりも変速比の高い目標変速段GSへの変速を行うシフトダウン条件を満たす場合には、その実際の変速段GSで前記目標駆動力FTが得られるようにする前記制御を実行するものであることから、特に実際の変速段から変速比の高い目標変速段GSへの変速を行うシフトダウンに際して、車両の駆動力を低下させることなく変速のビジー感を好適に抑制することができる。
【0051】
また、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、前記エンジントルク制御手段130は、前記実際の変速段GSからその変速段よりも変速比の低い目標変速段GSへの変速を行うシフトアップ条件を満たす場合には、その実際の変速段GSで前記目標駆動力FTが得られるようにする前記制御を禁止するものであることから、変速比の低い目標変速段GSへの変速を行うシフトアップに際しては、目標変速段GSへ変速される前の実際の変速段GSで前記目標駆動力FTを発生させる前記制御を非実行とすることで、アップシフト前後のトルク変動を抑制し、そのアップシフトに伴うオーバーランの発生を好適に防止することができる。
【0052】
また、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、前記エンジントルク制御手段130は、前記実際の変速段GSからその変速段GSよりも変速比の高い目標変速段GSへの変速を行うシフトダウン条件に近づくほど前記目標駆動力FTに近い駆動力が得られるように制御するものであることから、変速比の高い目標変速段GSへの変速を行うシフトダウンに際して、車両の駆動力を滑らかに変化させることができる。
【0053】
また、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、設定手段120は、(a)予め記憶された関係から実際のアクセル開度APOおよび車速Vに基づいて目標駆動力FTを算出する目標駆動力算出手段124と、(b)目標駆動力算出手段124により算出された目標駆動力FTに基づいて目標変速段GSを算出する目標変速段算出手段126と、(c)その目標駆動力算出手段124により算出された目標駆動力FTおよび上記目標変速段算出手段126により算出された目標変速段GSに基づいて目標エンジントルクTEを算出する目標エンジントルク算出手段128と、を、含むことから、アクセル開度APOおよび車速Vに基づいて、目標駆動力FTと、その目標駆動力FTを得るための目標エンジントルクTEおよび目標変速段GSが算出される。
【0054】
また、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、判定手段134により、目標変速段GSと自動変速機10の実際の変速段GSとが相違するとき、その目標変速段GSへの変速前の実際の変速段GSにより目標駆動力FTを達成可能か否かが判定され、その判定手段134により目標変速段GSへ変速される前の実際の変速段GSで目標駆動力FTを達成可能であると判定された場合は、変速制御手段132によりその判定手段134により達成不能と判定されるまではそのときの実際の変速段が維持され、エンジントルク制御手段130により、その実際の変速段GSで目標駆動力FTが得られるようにエンジン30のトルクが制御されるので、自動変速機10を上記目標変速段GSへ変速させるための変速動作が当面不要となるので、車両の駆動力を低下させることがなく、変速のビジー感が抑制される。
【0055】
また、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、判定手段134は、実際の変速段GSに対応して予め求められた上限判定値FT1を前記目標駆動力FTが下回るときは、目標変速段GSへの変速前の実際の変速段GSによりその目標駆動力FTを達成可能と判定するものであるので、自動変速機10を目標変速段GSへ変速させるための変速が実行されない。
【0056】
また、本実施例において、車両の駆動力制御装置として機能する電子制御装置90によれば、変速制御手段132は、判定手段134により目標変速段GSへ変速される前の実際の変速段GSで前記目標駆動力FTを達成不能であると判定された場合は、その実際の変速段GSから目標変速段GSへダウン変速させるものであり、前記エンジントルク制御手段130は、その目標変速段GSで目標駆動力FTが得られるようにエンジン30のトルクを制御することから、変速のビジー感がなく、目標駆動力FTが継続的に得られる。
【0057】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0058】
例えば、前述の実施例においては、判定手段134によって目標変速段GSへ変速される前の実際の変速段GSで前記目標駆動力FTを達成可能であると判定されたときは、第6速から第5速へのダウンシフトが禁止され、その第6速で目標駆動力FTが得られるようにスロットル弁開度θTHが制御される例が説明されていたが、第5速から第4速へのダウンシフト等の他のダウンシフトにおいても適用され得る。
【0059】
また、前述の実施例の自動変速機10は、前進6速のギヤ段を備えたものであったが、前進5速以下、或いは前進7速以上の前進多段の変速機であってもよい。
【0060】
また、前述の実施例では、目標駆動力FT或いは駆動力FTは駆動輪40上における値が用いられてもよい。また、それら目標駆動力FT或いは駆動力FTとして、変速機10の出力部材24のトルクが用いられてもよい。
【0061】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が加えられ得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明が適用された車両用動力伝達装置の構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の実施例の車両用自動変速機の係合要素の作動状態の組み合わせとそれに対応して得られる変速段とを説明する図である。
【図3】図1の車両用自動変速機を備える車両の制御系統の要部を説明するブロック線図である。
【図4】図3の油圧制御回路の要部を示す図である。
【図5】図4のリニアソレノイドバルブの一例を示す断面図である。
【図6】図3の電子制御装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図6の目標エンジントルク算出手段において目標エンジントルク算出に用いられる関係を例示する図である。
【図8】図6の目標変速段を決定するために用いられる関係を例示する図である。
【図9】図1の自動変速機において、第5速におけるスロットル弁開度をパラメータとする車速と駆動力との関係を、第6速における最大スロットル弁開度での駆動力を示す破線と共に示す図である。
【図10】図1の車両において、自動変速機の変速段毎のスロットル開度と駆動力との関係を示す図である。
【図11】図6の判定手段により目標駆動力を現第6速の変速段で発生可能と判定されることにより、変速制御手段により現変速段が保持され且つエンジントルク制御手段によりその目標駆動力が発生させられるときの、第6速の実質的な変速線を示す図である。
【図12】図3の電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【図13】図12の制御作動により得られる第6速から第5速へのダウンシフト作動を説明するタイムチャートである。
【図14】図1の自動変速機が第5速ギヤ段または6速ギヤ段であるときの、スロットル開度をパラメータとするタービン回転速度とタービントルクとの関係を、5→6アップシフトの変速線および6→5ダウンシフトの変速線と共に示す図である。
【図15】図3の電子制御装置の制御作動の他の一例の要部を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0063】
10:自動変速機
30:エンジン
90:電子制御装置(駆動力制御装置)
120:設定手段
124:目標駆動力算出手段
126:目標変速段算出手段
128:目標エンジントルク算出手段
130:エンジントルク制御手段
132:変速制御手段
134:判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンおよび自動変速機と、車両状態に基づく目標駆動力を得るための目標エンジントルクおよび目標変速段を設定する設定手段と、前記目標エンジントルクが得られるように前記エンジンの出力トルクを制御するエンジントルク制御手段と、前記目標変速段が得られるように前記自動変速機の変速段を制御する変速制御手段とを、備えた車両の駆動力制御装置であって、
前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成可能な場合は、該実際の変速段で該目標駆動力が得られるように制御することを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
前記実際の変速段から該変速段よりも変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウン条件を満たす場合には、該実際の変速段で前記目標駆動力が得られるようにする前記制御を実行するものである請求項1の車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記実際の変速段から該変速段よりも変速比の低い目標変速段への変速を行うシフトアップ条件を満たす場合には、該実際の変速段で前記目標駆動力が得られるようにする前記制御を禁止するものである請求項1または2の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記実際の変速段から該変速段よりも変速比の高い目標変速段への変速を行うシフトダウン条件に近づくほど前記目標駆動力に近い駆動力が得られるように制御するものである請求項1から3の何れかの車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記設定手段は、
予め記憶された関係から実際のアクセル開度および車速に基づいて目標駆動力を算出する目標駆動力算出手段と、
前記目標駆動力算出手段により算出された目標駆動力を得るための前記目標変速段を算出する目標変速段算出手段と、
該目標駆動力算出手段により算出された目標駆動力に基づいて前記目標エンジントルクを算出する目標エンジントルク算出手段とを、
含むことを特徴とする請求項1から4の何れかの車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記目標変速段と前記自動変速機の実際の変速段とが相違するとき、該目標変速段への変速前の実際の変速段により前記目標駆動力を達成可能か否かを判定する判定手段を含み、
前記判定手段により前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成可能であると判定された場合は、前記変速制御手段は該判定手段により達成不能と判定されるまで実際の変速段を維持し、前記エンジントルク制御手段は該実際の変速段で該目標駆動力が得られるように前記エンジンのトルクを制御することを特徴とする請求項1から5の何れかの車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記実際の変速段に対応する予め記憶された関係から前記目標変速段への変速前の実際の変速段により得られる最大駆動力を算出し、該実際の変速段により得られる最大駆動力が前記目標駆動力を上回るときは、該目標変速段への変速前の実際の変速段により該目標駆動力を達成可能と判定するものである請求項6の車両の駆動力制御装置。
【請求項8】
前記変速制御手段は、前記判定手段により前記目標変速段へ変速される前の実際の変速段で前記目標駆動力を達成不能であると判定された場合は、該実際の変速段から前記目標変速段へダウン変速させるものであり、
前記エンジントルク制御手段は、該目標変速段で前記目標駆動力が得られるように前記エンジンのトルクを制御することを特徴とする請求項6または7の車両の駆動力制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−164158(P2008−164158A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119493(P2007−119493)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】