説明

車両の駆動力制御装置

【課題】一時切換スイッチを操作して制御モードをパワーモードへ一時的に切換えた場合であっても、運転者に戻し忘れを生じさせることなく、元の制御モードへ復帰させることができるようにする。
【解決手段】エンジン制御モードMとしてノーマルモードM2とセーブモードM2とパワーモードM3とを有し、ノーマルモードM2或いはセーブモードM2で走行中に、一時切換スイッチ11を操作すると、エンジン制御モードがパワーモードに切換えられる(S71)。すると減算タイマのカウント値Tが初期設定時間Toでセットされ(S72)、その後経過時間の計時が開始される(S73)。そして経過時間に達すると(S75)、一時切換制御が終了し、エンジン制御モードMが一時切換制御前の制御モードM(n-1)に自動的に復帰される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる駆動力特性を有する複数の制御モードから1つの制御モードを選択し、選択した制御モードの駆動力特性に従って駆動力指示値を設定する車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スロットル弁をスロットルアクチュエータにより電子的に制御する、いわゆる電子制御スロットル方式のエンジンでは、アクセルペダルとスロットル弁とが機械的にリンクされていないため、アクセルペダルの踏込み量(アクセル開度)に対して、スロットル弁の開度(スロットル開度)を非線形特性で制御することができる。
【0003】
この場合、本出願人は、特許文献1(特許第3872507号公報)にて、1台の車両に駆動力特性の異なる3種類の制御モードを備え、運転者が各制御モードを任意に選択することで、1台の車両で全く異なる3種類のアクセルレスポンスを楽しむことができる技術を提案した。
【0004】
すなわち、駆動力特性として、アクセル開度に対して出力トルクがほぼリニアに変化するノーマルモードと、エンジントルクをセーブしてイージードライブ性と低燃費性との双方を両立させるセーブモードと、エンジンの低回転域から高回転域までレスポンスに優れる出力特性を実現したパワー重視のパワーモードとを備え、センターコンソールに設けられているシャトルスイッチを操作することで、運転者の好みに応じた制御モードを任意に選択する。
【0005】
又、特許文献1に開示されている駆動力制御装置には、制御モードを一時的に切換える一時切換機能が備えられている。すなわち、ステアリングホイール近傍に設けられている一時切換スイッチを操作すると、現在の制御モードとしてセーブモード或いはノーマルモードが選択されている場合であっても、制御モードをパワーモードに一時的に切換えることができる。そして、再度、一時切換スイッチを操作することで、制御モードを前回選択したモード(セーブモード或いはノーマルモード)に戻すことができる。
【0006】
この一時切換スイッチを操作することで、通常は制御モードとしてセーブモード或いはノーマルモードを選択して走行している場合であっても、上り坂や高速道路に進入する場合など、パワーを必要とする領域に差し掛かった際に、制御モードをパワーモードへ素早く切換えることができ、良好な車両挙動を得ることかできる。
【特許文献1】特許第3872507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した文献に開示されている一時切換機能は、運転者が一時切換スイッチを再度操作するまでは、基本的に一時切換制御が継続される。この一時切換制御を終了させたい場合は、運転者が一時切換スイッチを再度操作する必要がある。
【0008】
しかし、一時切換スイッチを再度操作して、制御モードを元のモード(セーブモード或いはノーマルモード)へ戻す操作は煩わしく、忘れやすい。制御モードを元のモードへ戻すのを忘れて走行しても、例えば一般道を一定速で巡航する場合にはアクセルペダルの踏込み量が少なく、エンジン回転数も比較的低いため、パワーモードで走行していても走行性能に大きな変化を体感することはない。
【0009】
ところが、パワーモードとセーブモード或いはノーマルモードとは、加速性能が相違するため、アクセルペダルを踏み込んだ際の体感が大きく相違する。従って、加速走行において、運転者が一時切換制御を終了させることを忘れて、アクセルペダルを踏み込んだ場合、運転者の意に反する走行となり、運転者に違和感を与えてしまう不都合がある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、一時切換手段を操作して制御モードをパワーモードへ一時的に切換えた場合であっても、運転者に戻し忘れを生じさせることなく、元の制御モードへ復帰させることができ、運転者の意に沿った車両挙動を得ることのできる車両の駆動力制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため本発明による第1の車両の駆動力制御装置は、制御モードとして複数の異なる駆動力特性を有し、該各制御モードから1つの制御モードを選択する選択手段と、前記選択手段で選択した制御モードとは異なる制御モードへ切換える一時切換手段と、前記選択手段で選択し或いは前記一時切換手段で切換えた前記制御モードに対応する前記駆動力特性から運転状態に基づいて駆動力指示値を設定する駆動力設定手段と、前記一時切換手段の残時間を計時する計時手段とを備え、前記制御モードは少なくとも経済的な運転に適したセーブモードと、パワーを重視したパワーモードとを有し、前記駆動力設定手段は、前記セーブモードが選択されている状態で前記一時切換手段の操作が検出された場合、前記計時手段による経過時間の計時を開始すると共に、前記制御モードを前記パワーモードに切換えて一時切換制御を実行し、その後前記計時手段が設定時間の経過を検知したとき前記一時切換制御の終了と判定し、前記制御モードを前記セーブモードに復帰させることを特徴とする。
【0012】
第2の車両の駆動力制御装置は、制御モードとして複数の異なる駆動力特性を有し、該各制御モードから1つの制御モードを選択する選択手段と、前記選択手段で選択した制御モードとは異なる制御モードへ切換える一時切換手段と、前記選択手段で選択し或いは前記一時切換手段で切換えた前記制御モードに対応する前記駆動力特性から運転状態に基づいて駆動力指示値を設定する駆動力設定手段と、前記一時切換手段の残時間を計時する計時手段とを備え、前記制御モードは少なくとも通常運転に適したノーマルモードと、パワーを重視したパワーモードとを有し、前記駆動力設定手段は、前記ノーマルモードが選択されている状態で前記一時切換手段の操作が検出された場合、前記計時手段による経過時間の計時を開始すると共に、前記制御モードを前記パワーモードに切換えて一時切換制御を実行し、その後前記計時手段が設定時間の経過を検知したとき前記一時切換制御の終了と判定し、前記制御モードを前記ノーマルモードに復帰させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一時切換制御が設定時間内に制限されており、設定時間の経過を検知した場合、制御モードを元の制御モードへ復帰させるようにしたので、運転者が一時切換手段を操作して制御モードをパワーモードへ切換えた場合であっても、戻し忘れを生じさせることがなく、運転者の意に沿った車両挙動を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図1にはインストルメントパネル及びセンタコンソールを運転席側から見た斜視図が示されている。
【0015】
同図の符号1は、車両の車室内前部に配設されているインストルメントパネル(以下「インパネ」と略称)であり、車幅方向左右に延出されている。このインパネ1の運転席2前方に位置する部位にコンビネーションメータ(以下「コンビメータ」と略称)3が配設されている。又、このインパネ1の車幅方向ほぼ中央に、周知のカーナビゲーションシステムを構成する表示手段としてのセンタディスプレイ4が配設されている。
【0016】
又、運転席2と助手席5との間に配設されて、インパネ1側から車体後方へ延出するセンタコンソール6に、自動変速機のレンジを選択するセレクトレバー7が配設され、その後方に、エンジン制御モードを選択する選択手段としてのモード選択スイッチ8(詳細な構成については後述する)が配設されている。更に、運転席2の前方にステアリングホイール9が配設されている。
【0017】
ステアリングホイール9は、エアバッグ等を収容するセンタパッド部9aを有し、このセンタパッド部9aと外周のグリップ部9bとの左右及び下部が、3本のスポーク9cを介して連設されている。このセンタパッド部9aの左下部に表示切換スイッチ10が配設され、又、右下部に、一時切換手段としての一時切換スイッチ11が配設されている。この一時切換スイッチ11はノンロックタイプであり、スイッチを押圧している間だけON信号が出力される。
【0018】
又、図2に示すように、コンビメータ3は、中央寄りの左右に、エンジン回転数を示すタコメータ3aと、車速を表示するスピードメータ3bとが各々配設されている。更に、タコメータ3aの左側に冷却水温を表示する水温計3cが配設され、スピードメータ3bの右側に燃料残量を表示する燃料計3dが配設されている。又、中央部に現在の変速段を表示する変速段表示部3eが配設されている。尚、符号3fはウォーニングランプ、3gはトリップメータをリセットするトリップリセットスイッチである。このトリップリセットスイッチ3gの押しボタンがコンビメータ3から運転席2側に突出されており、運転者等が押しボタンを介してトリップリセットスイッチ3gを設定時間以上ONし続けることで、トリップメータがリセットされる。
【0019】
更に、タコメータ3aの下部に、走行距離や、後述するパワーモードに一時切換えた後、一時切換え前のエンジン制御モードに自動的に復帰されるまでの残り時間等の情報を複数の表示画面を切換えて、表示させる表示手段としてのマルチインフォメーションディスプレイ(以下「MID」と略称)12が配設されている。又、スピードメータ3bの下部に、瞬間燃費とトリップ平均燃費との差に基づき経済的な走行を指標する燃費メータ13が配設されている。
【0020】
図3に示すように、モード選択スイッチ8は複合スイッチであり、本実施形態ではプッシュスイッチを併設する中点自動復帰式シャトルスイッチが採用されている。このモード選択スイッチ8は、リング状の操作つまみ8aを有し、外部操作者(一般的には運転者であるため、以下においては、「運転者」と称して説明する)が、この操作つまみ8aを操作することで、複数(本実施形態では3種類)の異なる駆動力特性(エンジン出力特性)を有するエンジン制御モード(ノーマルモードM1、セーブモードM2、パワーモードM3)から1つのエンジン制御モードを選択することができる。尚、この各エンジン制御モードの詳細については後述する。
【0021】
すなわち、本実施形態では、操作つまみ8aを、プッシュスイッチの押圧方向を軸として左右方向へ回転させることで左側スイッチと右側スイッチとが各々ON動作され、左側スイッチのON動作でノーマルモードM1が選択され、又、右側スイッチのON動作でパワーモードM3が選択される。更に、操作つまみ8aを下方向へプッシュしてプッシュスイッチをON動作させることでセーブモードM2が選択される。又、モード選択スイッチ8は、各エンジン制御モードに対応するスイッチを備えた複合スイッチであり、各スイッチが独立しているため同じスイッチを連続的にONさせて他のエンジン制御モードへ切換えられてしまうことがない。
【0022】
ここで、各モードM1〜M3のエンジン出力特性について簡単に説明する。ノーマルモードM1は、アクセルペダル14の踏込み量(アクセル開度)に対して出力トルクがほぼリニアに変化するように設定されている(図12(a)参照)、通常運転に適したモードである。
【0023】
又、セーブモードM2は、アクセルペダル14を全踏してもスロットル弁は全開とはならず、エンジントルクの上昇が抑制されており、十分な出力を確保しながらスムーズなエンジン出力特性が得られるようにし、アクセルペダルを思い切り踏み込むなどのアクセルワークを楽しむことができるモードに設定されている。更に、セーブモードM2は出力トルクを抑制しているのでイージードライブ性と低燃費性(経済性)との双方をバランス良く両立させることができる。
【0024】
又、パワーモードM3は、エンジンの低回転域から高回転域までレスポンスに優れるエンジン出力特性とし、更に、自動変速機搭載車の場合には、エンジントルクに同期させてシフトアップポイントを変更させる等してワインディング路などでのスポーティな走行状況にも積極的に対応可能として、きびきびとした運転ができるようなパワー重視のモードに設定されている。
【0025】
この各エンジン制御モード(ノーマルモードM1、セーブモードM2、パワーモードM3)の、駆動力指示値としての目標トルクは、後述するように、エンジン回転数とアクセル開度との2つのパラメータに基づいて設定する。
【0026】
表示切換スイッチ10は、MID12に表示される情報を切換える際に操作するもので、順送りスイッチ部10aと逆送りスイッチ部10bと初期画面復帰スイッチ部10cとが設けられている。図4にMID12に表示される画面毎の項目を例示する。MID12として、本実施形態では液晶表示装置を採用し、又、表示内容として、(a)〜(c)の3種類の画面が設定されている。この各画像(a)〜(c)は、順送りスイッチ部10aをONする都度に、(a)〜(c)へ順に切換えられ、(c)の画面が表示されているときに順送りスイッチ部10aを更にONすると、初期画面(a)が表示される。一方、逆送りスイッチ部10bをONすると、逆送りで画面が切換えられる。
【0027】
画面(a)は、イグニッションスイッチをONした際に表示される初期画面である。この画面には、下段にオドメータが表示され、上段にトリップメータが表示され、更に、左端に現在のモード(図においてはセーブモードM2を示す「2」)が表示される。
【0028】
画面(b)は、運転者が一時切換スイッチ11を押圧したときに出力されるON信号をトリガとして優先的に表示されるものであり、画面にパワーモードM3の残りの時間が表示される。運転者は、MID12に表示されている内容を視認することで、パワーモード残り時間を容易に把握することができる。
【0029】
図4(b)に表示されているパワーモード残り時間の表示態様は一例であるが、一時切換により設定されたパワーモードM3の継続時間が5秒の場合、5個の表示升目12a〜12eが横1列に一定間隔毎に表示される。そして、一時切換スイッチ11をONした直後は、全ての表示升目12a〜12eが表示され、次いで最初の1秒が経過するまで、残り5秒を表示する表示升目12eが点滅する。その後、残り4秒になると、表示升目12eが消灯すると共に、残り4秒を表示する表示升目12dが点滅する。そして、残りの表示升目12c〜12aも同様に残時間に応じて点滅と消灯とを実行し、残時間が0秒になると、全ての表示升目12a〜12eが一瞬点灯した後フェードアウトする。これらの表示制御は、後述するメータ_ECU21において行われる。これにより、運転者は一時切換の残時間、及び終了時期を感覚的に容易に把握することができる。
【0030】
尚、このパワーモードの継続時間は6秒以上に設定されていても良い。又、MID12として本実施形態では液晶表示装置を採用しているため、表示升目の数、すなわち残時間を運転者が任意に設定できるようにすることも可能である。
【0031】
画面(c)には、現在時刻が表示される。
【0032】
又、燃費メータ13は、中立位置がトリップ平均燃費[Km/L]を示し、このトリップ平均燃費[Km/L]よりも瞬間燃費[Km/L]が高い場合は、指針13aがその偏差に応じてプラス(+)方向へ振れ、一方、トリップ平均燃費[Km/L]よりも瞬間燃費[Km/L]が低い場合、指針13aはその偏差に応じてマイナス(−)方向へ振れる。
【0033】
ところで、図5に示すように、車両には、CAN(Controller Area Network)通信等の車内通信回線16を通じて、メータ制御装置(メータ_ECU)21、エンジン制御装置(E/G_ECU)22、変速機制御装置(T/M_ECU)23、ナビゲーション制御装置(ナビ_ECU)24等の、車両を制御する演算手段としての制御装置が相互通信可能に接続されている。
【0034】
各ECU21〜24は、マイクロコンピュータ等のコンピュータを主体に構成され、周知のCPU、ROM、RAM、及びEEPROM等の不揮発性記憶手段等を有している。尚、メータ_ECU21、及びE/G_ECU22が、本発明の駆動力設定手段に対応している。
【0035】
メータ_ECU21は、コンビメータ3の表示全体を制御するもので、入力側にモード選択スイッチ8、表示切換スイッチ10、一時切換スイッチ11、及びトリップリセットスイッチ3gが接続されている。又、出力側に、タコメータ3a、スピードメータ3b、水温計3c、燃料計3d等の計器類、及びウォーニングランプ3fや報知手段としてのブザー(図示せず)を駆動するコンビメータ駆動部26、MID駆動部27、燃費メータ駆動部28が接続されている。
【0036】
E/G_ECU22は、エンジンの運転状態を制御するもので、入力側に、クランク軸等の回転から、エンジン運転状態を示すパラメータの代表であるエンジン回転数を検出する運転状態検出手段としてのエンジン回転数センサ29、エアクリーナの直下流等に配設されて吸入空気量を検出する吸入空気量センサ30、アクセルペダル14の踏込み量からアクセル開度を検出するアクセル開度検出手段としてのアクセル開度センサ31、吸気通路に介装されてエンジンの各気筒に供給する吸入空気量を調整するスロットル弁(図示せず)の開度を検出するスロットル開度センサ32、エンジン温度を示す冷却水温を検出するエンジン温度検出手段としての水温センサ33等、車両及びエンジン運転状態を検出するセンサ類が接続されている。又、E/G_ECU22の出力側に、燃焼室に対して所定に計量された燃料を噴射するインジェクタ36、電子制御スロットル装置(図示せず)に設けられているスロットルアクチュエータ37等、エンジン駆動を制御するアクチュエータ類が接続されている。
【0037】
E/G_ECU22は、入力された各センサ類からの検出信号に基づき、インジェクタ36に対する燃料噴射タイミング、及び燃料噴射パルス幅(パルス時間)を設定する。更に、スロットル弁を駆動するスロットルアクチュエータ37に対してスロットル開度信号を出力してスロットル弁の開度を制御する。
【0038】
ところで、E/G_ECU22に設けられている不揮発性記憶手段には、異なる複数のエンジン出力特性がマップ形式で格納されている。各エンジン出力特性として、本実施形態では3種類のモードマップMp1,Mp2,Mp3を備えており、図12(a)〜(c)に示すように、各モードマップMp1,Mp2,Mp3は、エンジン出力特性を設定する際の運転状態を特定するパラメータの一例であるアクセル開度とエンジン回転数とを格子軸とし、各格子点に目標トルクを格納する3次元マップで構成されている。
【0039】
この各モードマップMp1,Mp2,Mp3は、基本的には、モード選択スイッチ8の操作により選択される。すなわち、モード選択スイッチ8にてノーマルモードM1を選択した場合はモードマップとしてノーマルモードマップMp1が選択され、セーブモードM2を選択した場合はセーブモードマップMp2が選択され、又、パワーモードM3を選択した場合はパワーモードマップMp3が選択される。
【0040】
以下、各モードマップMp1,Mp2,Mp3のエンジン出力特性について説明する。図12(a)に示すノーマルモードマップMp1は、アクセル開度が比較小さい領域で目標トルクがリニアに変化させる特性に設定されており、又、スロットル弁の開度が全開付近で最大目標トルクとなるように設定されている。
【0041】
又、図12(b)に示すセーブモードマップMp2は、上述したノーマルモードマップMp1に格納されている特性に比し、目標トルクの上昇が抑えられており、アクセルペダル14を全踏しても、スロットル弁は全開とはならず、出力トルクの上昇を抑制することで、アクセルペダル14を思い切り踏み込む等のアクセルワークを楽しむことができる。更に、目標トルクの上昇が抑えられているため、イージードライブ性と低燃費性との双方をバランス良く両立させることができる。
【0042】
又、図12(c)に示すパワーモードマップMp3は、ほぼ全運転領域でアクセル開度の変化に対する目標トルクの変化率が大きく設定されている。従って、例えば3リッタエンジンを搭載する車両であれば、3リッタエンジンの有するポテンシャルを最大限に発揮できるような目標トルクが設定される。尚、各モードマップMp1,Mp2,Mp3のアイドル回転数を含む極低回転領域は、ほぼ同じエンジン出力特性に設定されている。
【0043】
このように、本実施形態によれば、運転者がモード選択スイッチ8を操作して、モードM1,M2,M3の中から何れか1つを選択すると、対応するモードマップMp1,Mp2,或いはMp3が選択され、当該モードマップMp1,Mp2,或いはMp3に基づいて目標トルクが設定される。そのため、1つの車両で全く異なる3種類のアクセルレスポンスを楽しむことができる。尚、スロットル弁の開閉速度も、セーブモードマップMp2では緩やかに、モードマップMp3では素早く動作するように設定されている。
【0044】
又、T/M_ECU23は、自動変速機の変速制御を行うもので、入力側にトランスミッション出力軸の回転数等から車速を検出する車速センサ41、セレクトレバー7のセットされているレンジを検出するレンジ位置検出手段としてのインヒビタスイッチ42等が接続され、出力側に自動変速機の変速制御を行うコントロールバルブ43、及びロックアップクラッチをロックアップ動作させるロックアップアクチュエータ44が接続されている。このT/M_ECU23では、インヒビタスイッチ42からの信号に基づきセレクトレバー7のセットレンジを判定し、Dレンジにセットされているときは、所定の変速パターンに従い、その変速信号をコントロールバルブ43へ出力して変速制御を行う。尚、この変速パターンは、E/G_ECU22で設定されているモードM1,M2,M3に対応して可変設定される。
【0045】
又、ロックアップ条件が満足されたときはロックアップアクチュエータ44にスリップロックアップ信号或いはロックアップ信号を出力し、トルクコンバータの入出力要素間を、コンバータ状態からスリップロックアップ状態、或いはロックアップ状態に切換える。その際、E/G_ECU22は、目標トルクτeをスリップロックアップ状態、及びロックアップ状態に同期させて補正する。その結果、例えばエンジン制御モードMがセーブモードM2に設定されている場合は、目標トルクτeが、より経済的な走行ができる領域に補正される。
【0046】
ナビ_ECU24は、周知のカーナビゲーションシステムに設けられているもので、GPS衛星等から得られる位置データに基づいて車両の位置を検出すると共に、目的地までの誘導路を演算する。そして、自車の現在地及び誘導路がセンタディスプレイ4上の地図データに表示される。本実施形態では、このセンタディスプレイ4に、MID12に表示される各種情報を表示させることができるようにしている。
【0047】
次に、上述したE/G_ECU22で実行されるエンジンの運転状態を制御する手順について、図6〜図9のフローチャートに従って説明する。尚、図10、図11に示す一時切換制御は、メータ_ECU21で実行されるが、これについては後述する。
【0048】
イグニッションスイッチをONすると、先ず、図6に示す始動時制御ルーチンが1回のみ起動される。このルーチンでは、先ず、ステップS1で、前回のイグニッションスイッチOFF時に設定されていたエンジン制御モードM(M:ノーマルモードM1、セーブモードM2、パワーモードM3)を読込む。
【0049】
そして、ステップS2へ進み、エンジン制御モードMが、パワーモードM3か否かを調べる。そして、パワーモードM3に設定されているときは、エンジン制御モードMをノーマルモードM1に強制的に設定し直して(M←モード1)、ルーチンを終了する。
【0050】
又、エンジン制御モードMが、パワーモードM3以外の、ノーマルモードM1、或いはセーブモードM2に設定されているときはそのままルーチンを終了する。
【0051】
このように、前回のイグニッションスイッチをOFFしたときのエンジン制御モードMがパワーモードM3に設定されている場合、イグニッションスイッチをONしたときのエンジン制御モードMがノーマルモードM1へ強制的に切換えられるため(M←モード1)、アクセルペダル14をやや踏み込んでも車両が急発進してしまうことが無く、良好な発進性能を得ることができる。
【0052】
そして、この始動時制御ルーチンが終了すると、図7〜図9に示すルーチンが所定演算周期毎に実行される。先ず、図7に示すモードマップ選択ルーチンについて説明する。
【0053】
このルーチンは、先ず、ステップS11で現在設定されているエンジン制御モードMを読込み、ステップS12で、エンジン制御モードMの値を参照して、何れのモード(ノーマルモードM1、セーブモードM2、或いはパワーモードM3)が設定されているかを調べる。そして、ノーマルモードM1が設定されているときはステップS13へ進み、セーブモードM2に設定されているときはステップS14へ分岐し、又、パワーモードM3に設定されているときはステップS15へ分岐する。尚、イグニッションスイッチをONした後の、最初のルーチン実行時においては、エンジン制御モードMが、ノーマルモードM1かセーブモードM2の何れかであるため、ステップS15へ分岐することはない。但し、イグニッションスイッチをONした後、運転者がモード選択スイッチ8の操作つまみ8aを右回転させて、パワーモードを選択した場合、後述するステップS23でエンジン制御モードMがパワーモードM3に設定されるため、それ以降のルーチン実行時においては、ステップS12からステップS15へ分岐される。
【0054】
そして、ノーマルモードM1に設定されていると判定されて、ステップS13へ進むと、E/G_ECU22の不揮発性記憶手段に格納されているノーマルモードマップMp1を、今回のモードマップとして選択して、ステップS19へ進む。又、セーブモードM2に設定されていると判定されて、ステップS14へ分岐すると、セーブモードマップMp2を、今回のモードマップとして選択して、ステップS19へ進む。
【0055】
一方、パワーモードM3に設定されていると判定されて、ステップS15へ分岐すると、ステップS15,S16において、エンジン温度を冷却水温から検出する水温センサ33で検出した冷却水温Twと暖機判定温度TL、及び高温判定温度THとを比較する。そして、ステップS15において、冷却水温Twが暖機判定温度TL以上と判定され(Tw≧TL)、且つ、ステップS16で冷却水温Twが高温判定温度TH未満と判定されたときは(Tw<TH)、ステップS17へ進む。
【0056】
一方、ステップS15で冷却水温Twが暖機判定温度TL未満と判定され(Tw<TL)、或いはステップS16で冷却水温Twが高温判定温度TH以上と判定されたときは(Tw≧TH)、ステップS18へ分岐し、エンジン制御モードMをノーマルモードM1に設定して(M←モード1)、ステップS13へ戻る。
【0057】
このように、本実施形態では、イグニッションスイッチをONした後、運転者がモード選択スイッチ8を操作して、パワーモードM3を選択した場合であっても、冷却水温Twが暖機判定温度TL以下、或いは高温判定温度TH以上のときは、強制的にノーマルモードM1へ戻すようにして、暖機運転時における排気エミッションの低減を図るようにしている。
【0058】
次いで、ステップS13,S14,S17の何れかからステップS19へ進むと、モード選択スイッチ8がON操作されたか否かを調べ、操作されていないときは、そのままルーチンを抜ける。又、ON操作されたときは、ステップS20へ進み、運転者が何れのエンジン制御モードMを選択したか判別する。
【0059】
そして、運転者がノーマルモードを選択した(操作つまみ8aを左回転させた)と判断したとき、ステップS21へ進み、エンジン制御モードMをノーマルモードM1で設定して(M←モード1)、ルーチンを抜ける。又、運転者がセーブモードM2を選択した(操作つまみ8aをプッシュした)と判断したとき、ステップS22へ進み、エンジン制御モードMをセーブモードM2で設定して(M←モードM2)、ルーチンを抜ける。又、運転者がパワーモードM3を選択した(操作つまみ8aを右回転させた)と判断したとき、ステップS23へ進み、エンジン制御モードMをパワーモードM3で設定して(M←モーM3)、ルーチンを抜ける。
【0060】
ところで、本実施形態では、イグニッションスイッチをONした後、モード選択スイッチ8の操作つまみ8aを操作することで、エンジン制御モードMをパワーモードM3に設定することができるため、パワーモードM3で発進させることも可能である。しかし、この場合、運転者が意識してパワーモードを選択したものであるので、発進に際して大きな駆動力が発生したとしても運転者が慌てることはない。
【0061】
次に、図8、図9に示すエンジン制御ルーチンについて説明する。
【0062】
このルーチンでは、先ず、ステップS31で過渡切換フラグFmの値を参照する。この過渡切換フラグFmの初期値は0であり、後述するステップS47でクリアされ、又、後述するモード一時切換制御ルーチンにおいてセットされる。そして、Fm=0の通常制御モードの場合は、ステップS32へ進み、又、Fm=1の過渡切換えの場合は、ステップS38へジャンプする。
【0063】
先ず、通常制御モードについて説明する。通常制御モードと判定されてステップS32へ進むと、運転者が選択したエンジン制御モードMに対応するモードマップ(Mp1,Mp2、或いはMp3:図12参照)を読込み、続く、ステップS33でエンジン回転数センサ29で検出したエンジン回転数Neと、アクセル開度センサ31で検出したアクセル開度θaccとを読込む。
【0064】
その後、ステップS34へ進み、両パラメータNe,θaccに基づき、ステップS32で読込んだモードマップを補間計算付きで参照して目標トルクτeを決定する。次いで、ステップS35へ進み、目標トルクτeに対応する、最終的な目標スロットル開度θeを決定する。
【0065】
その後、ステップS36へ進み、スロットル開度センサ32で検出したスロットル開度θthを読込み、ステップS37で、スロットル開度θthが目標スロットル開度θeに収束するように、電子制御スロットル装置に設けられているスロットル弁を開閉動作させるスロットルアクチュエータ37をフィードバック制御して、ルーチンを抜ける。
【0066】
その結果、運転者がアクセルペダル14を操作すると、アクセル開度θaccとエンジン回転数Neとをパラメータとして、運転者が選択したエンジン制御モードM(M:ノーマルモードM1、セーブモードM2、パワーモードM3)に対応するモードマップMp1,Mp2,Mp3に従いスロットル弁が開閉動作し、エンジン制御モードMがノーマルモードM1に設定されている場合は、アクセルペダルの踏込み量(アクセル開度θacc)に対して出力トルクがほぼリニアに変化するため、通常の運転を行うことができる。
【0067】
又、セーブモードM2に設定されている場合は、目標トルクの上昇が抑えられているため、アクセルペダル14を思い切り踏み込む等のアクセルワークを楽しむことができるばかりでなく、イージードライブ性と低燃費性との双方をバランス良く両立させることができる。従って、例えば3リッタエンジンを搭載する車両であっても、2リッタエンジン相当の十分な出力を確保しながらスムーズな運転を行うことができ、街中などの実用領域に良好な運転性能を得ることができる。更に、パワーモードM3に設定されている場合は、高いレスポンスが得られるため、よりスポーティな走りを得ることができる。その結果、1台の車両で全く異なる3種類のアクセルレスポンスを楽しむことができる。
【0068】
一方、ステップS31でFm=1の過渡切換えと判定されてステップS38へ分岐すると、一時切換制御終了後の過渡切換制御が実行される。この過渡切換制御は、一時切換制御終了後に、一時切換制御前のエンジン制御モードへスムーズに移行させるために行う制御である。従って、ステップS38以降で行われる処理は、説明を容易にするため、図11に示すモード一時切換制御ルーチンを説明した後に説明する。
【0069】
本実施形態では、ステアリングホイール9に設けられている一時切換スイッチ11を操作し、或いはセレクトレバー7を後進レンジ(以下、「Rレンジ」と称する)にセットした際にも、エンジン制御モードMが一時的に切換えられる。
【0070】
この一時切換制御は、メータ_ECU21において、図10、図11に示す一時切換制御ルーチンに従って実行される。
【0071】
このルーチンでは、先ず、ステップS51で、セレクトレバー7がRレンジにセットされているか否かを、インヒビタスイッチ42からの信号に基づいて判定する。そして、セレクトレバー7がRレンジにセットされているときは、ステップS52へ進み、又、Rレンジ以外のレンジにセットされているときは、ステップS55へ進む。
【0072】
ステップS52へ進むと、現在のエンジン制御モードMを参照し、パワーモードM3以外のときは、そのままルーチンを抜ける。又、エンジン制御モードMとしてパワーモードM3が選択されているときは、ステップS53へ進み、リバースフラグFRをセットして(FR←1)、ステップS54で、エンジン制御モードMをノーマルモードM1に強制的に切換えて(M←モード1)、ルーチンを抜ける。
【0073】
このように、本実施形態では、エンジン制御モードMがパワーモードM3に設定されている状態で、セレクトレバー7をRレンジにセットしたときは、エンジン制御モードMがノーマルモードM1に強制的に切換えられるため、後進走行の際にアクセルペダル14をやや踏み込んでも車両が急に後進されてしまうことが無く、良好な後進走行性能を得ることができる。
【0074】
一方、ステップS51でセレクトレバー7がRレンジ以外のレンジにセットされていると判定されてステップS55へ進むと、リバースフラグFRの値を参照し、FR=1、すなわち、セレクトレバー7をRレンジから別のレンジへ切換えた後の最初のルーチンのときは、ステップS56へ進み、エンジン制御モードMをパワーモードM3に戻し(M←モーM3)、ステップS57でリバースフラグFRをクリアした後(FR←0)、ステップS58へ進む。その結果、セレクトレバー7をRレンジから、例えばDレンジに戻した場合、エンジン制御モードMが、元のパワーモードM3に自動的に戻されるため、運転者は違和感なく車両を発進させることができる。又、ステップS55でリバースフラグFRの値がFR=0と判定されたときは、ステップS58へジャンプする。
【0075】
その後、ステップS55、或いはステップS57からステップS58へ進むと、一時切換スイッチ11の操作によりON信号(トリガ信号)が受信されたか否かを調べる。そして、トリガ信号が受信されていないときは、そのままルーチンを抜ける。
【0076】
一方、一時切換スイッチ11からのトリガ信号の出力が検出された場合は、ステップS59へ進み、現在のエンジン制御モードMを読込み、ステップS60で、エンジン制御モードMがパワーモードM3か否かを調べる。
【0077】
そして、エンジン制御モードとしてパワーモードが選択されている場合は、そのままルーチンを抜ける。一方、エンジン制御モードMとして、パワーモードM3以外のモード(ノーマルモードM1又はセーブモードM2)が選択されているときは、ステップS61へ進み、前回のエンジン制御モードM(n-1)を今回のエンジン制御モードMでセットし(M(n-1)←M)、ステップS62へ進み、モード一時切換制御を実行する。
【0078】
ステップS62で処理される一時切換制御は、図11に示すモード一時切換制御サブルーチンに従って実行される。このルーチンでは、先ず、ステップS71で、エンジン制御モードMをパワーモードM3にセットする(M←M3)。すると、E/G_ECU22では、上述した図7に示すモードマップ選択ルーチンにおいて、パワーモードマップMp3が選択され、従って、図8に示すエンジン駆動制御ルーチンにおいて、パワーモードマップMp3に格納されている特性に基づいて目標トルクτeが設定される。
【0079】
次いで、ステップS72へ進み、経過時間を計時する計時手段としての減算タイマのカウント値Tを初期設定時間Toでセットする(T←To)。この初期設定時間Toは、運転者が任意に設定することも可能であるが、本実施形態では、5[sec]相当の固定値に設定されている。
【0080】
その後、ステップS73へ進み、減算タイマのカウント値Tをデクリメントし(T←T−1)、ステップS74で、MID12に残時間を表示させる。すなわち、減算タイマのカウント値Tに対応する残時間を算出し、この算出した残時間に応じて、図4(b)に示す表示升目12a〜12eを、上述したように所定に表示させる。
【0081】
次いで、ステップS75へ進み、減算タイマのカウント値Tが0に達したか否かを調べ、未だ残時間を有しているときは(T>0)、ステップS76へ進み、残時間が0のとき、すなわち、一時切換制御が終了した場合はステップS77へ進む。
【0082】
ステップS76へ進むと、一時切換スイッチ11からのON信号(トリガ信号)の出力が検出されたか否かを調べ、検出されていない場合はステップS78へ進み、ON信号が検出された場合はステップS79へ進む。
【0083】
ステップS78へ進むと、減算タイマのカウント値Tが設定値Te(例えば1〜2秒に相当する値)未満か否かを調べる。そして、T≧TeのときはステップS73へ戻る。又、T<Teのとき、すなわち残時間が少なくなってきたときは、ステップS80へ分岐し、コンビメータ駆動部26に対してブザーON信号を出力し、ブザーを吹鳴させて、運転者に、一時切換の終了が間近であることを報知し、ステップS73へ戻る。例えばインターチェンジやパーキングエリアから高速道路の進入路に進入する際、或いは高速道路の走行車線から追い越し車線へ車線変更する際に、一時切換スイッチ11をONさせて、エンジン制御モードMをセーブモードM2からパワーモードM3に切換えて、パワーモードM3で加速走行する場合、運転者は自車両前方の状況、及び後続車両を把握する必要があるため、MID12に表示されているパワーモードM3の残時間(図4(b)参照)を目視することが困難になる。本実施形態では、残時間が少なくなった場合、ブザー音により報知されるため、残時間を聴覚によって容易に把握することができる。尚、この場合、ブザー音を断続的に吹鳴させ、残時間が0に近づくに従って、ブザー音の断時間を次第に短くし、残時間が0付近で連続音とし、残時間が0になったときフェードアウトさせるようにして、一時切換の終了時期を感覚的に把握できるようにしても良い。
【0084】
一方、ステップS76からステップS79へ進むと、コンビメータ駆動部26に対してブザーOFF信号を出力し、ブザーが吹鳴している場合はそれを停止させて、ステップS81へ進む。ステップS81では、ステップS76で一時切換スイッチ11からのON信号を検出した後、設定時間(例えば、1秒)以内に再度、ON信号が検出されたか否かを調べる。そして、設定時間以内にON信号が検出されなかった場合は、一度押しと判定し、ステップS72へ戻る。従って、モード一時切換制御中に一時切換スイッチ11を、一度押すと、カウント値Tが初期設定され、モード切換え制御が初期設定時間To分だけ延長される。例えば、運転者が、一時切換スイッチ11をONして高速道路の進入路を加速走行しながら本線に進入しようとする際、或いは高速道路の走行車線から追い越し車線へ車線変更している際に、一時切換スイッチ11を更に一度押しすることで、一時切換制御を初期設定時間Toだけ簡単に延長させることができ、使い勝手が良い。
【0085】
一方、ステップS76で一時切換スイッチ11からON信号の出力を検出した後、設定時間(例えば、1秒)以内に再度ON信号が検出された場合、すなわち、二度押しの場合は、ステップS81からステップS82へ進み、MID12の画面(b)に表示されている残時間表示を0として、ルーチンを抜ける。その結果、一時切換制御中に一時切換スイッチ11を二度押しすると、一時切換制御が解除され、エンジン制御モードMはパワーモードM3に固定される。
【0086】
このように、一時切換スイッチ11を操作することで、エンジン制御モードMを常時パワーモードM3とすることができるため、例えば比較的長い登坂路を走行する場合に、一々モード選択スイッチ8を操作する必要が無くなり、操作性が良い。尚、ステップS81では、一時切換スイッチ11の押し時間で、一度押し、或いは二度押しに相当する判定を行うようにしても良い。すなわち、一時切換スイッチ11を設定時間(例えば1秒)以上の長押しの場合、ステップS82へ進み、又、設定時間(例えば1秒)以内の短押しの場合、ステップS73へ戻るようにする。
【0087】
一方、ステップS75で、T=0の一時切換の終了と判定されてステップS77へ進むと、コンビメータ駆動部26に対してブザーOFF信号を出力してブザーの吹鳴を停止せ、ステップS83へ進む。ステップS83では、前回のエンジン制御モードM(n-1)で、今回のエンジン制御モードMをセットし(M←M(n-1))、ステップS84へ進み、過渡切換フラグFmをセットし(Fm←1)、ルーチンを終了する。
【0088】
このステップS84でセットした過渡切換フラグFmの値は、上述した図8に示すエンジン駆動制御ルーチンのステップS31で読込まれる。以下、上述したエンジン駆動制御ルーチンにおいて説明を中断した、図8で実行されるルーチンについて説明する。
【0089】
ステップS31で過渡切換フラグFmがFm=1の一時切換制御終了と判定されて、図8のステップS38へ進むと、上述した一時切換制御ルーチンのステップS83でセットしたエンジン制御モードM(ノーマルモードM1、或いはセーブモードM2)に対応するモードマップを読込む。尚、以下においては、便宜的にエンジン制御モードMがセーブモードM2に設定されているものとして説明する。
【0090】
次いで、ステップS39で、直前に設定された目標トルクτeを読込む。この目標トルクτeは、一時切換制御中にパワーモードマップMp3を参照して設定されてたものである。
【0091】
その後、ステップS40へ進み、エンジン回転数センサ29で検出したエンジン回転数Neと、アクセル開度センサ31で検出したアクセル開度θaccとを読込む。又、ステップS41で、両パラメータNe,θaccに基づき、セーブモードマップMp2を補間計算付きで参照して、到達目標トルクτe1を決定する。次いで、ステップS42で、目標トルクτeから過渡補正値Δτeを減算して、新たな目標トルクτeを設定する。
【0092】
図14(a)に示すように、同一のエンジン回転数Neの領域において、同一のアクセル開度θaccであっても、エンジン制御モードMがパワーモードM3の場合と、セーブモードM2(或いはノーマルモードM1)の場合とでは、異なる目標スロットル開度θeが設定される。従って、一時切換制御が終了した際に、モードマップをパワーモードM3からセーブモードM2へそのまま切換えた場合、目標スロットル開度θeが急激に減少し、運転者に出力不足感、或いは出力低下による不快感を与えてしまう。
【0093】
本実施形態では、一時切換制御が終了して、エンジン制御モードMをパワーモードM3からセーブモードM2へ切換える過渡時においては、図13に示すように、一時切換制御中において最後に設定した目標トルクτeを、演算周期Δt毎に過渡補正値Δτeで減算するようにしたので、目標スロットル開度θeが急変することが無く、徐々に減少させることができる。その結果、運転者に急激な出力変動による出力不足感を与えることが無くなり、安定した走行性能を得ることができる。
【0094】
その後、ステップS43へ進み、目標トルクτeと到達目標トルクτe1とを比較する。そして、目標トルクτeが到達目標トルクτe1に達していないときは(τe≦τe1)、ステップS44へ分岐し、目標トルクτeに対応する、最終的な目標スロットル開度θeを決定する。次いで、ステップS45へ進み、スロットル開度センサ32で検出したスロットル開度θthを読込み、ステップS46で、スロットル開度θthが目標スロットル開度θeに収束するように、電子制御スロットル装置に設けられているスロットル弁を開閉動作させるスロットルアクチュエータ37をフィードバック制御し、ステップS40へ戻る。
【0095】
このステップS40〜S46を、目標トルクτeが到達目標トルクτe1に達するまで繰り返し実行する。そして、目標トルクτeが到達目標トルクτe1に達したとき、ステップS43からステップS47へ進み、過渡切換フラグFmをクリアして(Fm←0)、ルーチンを抜ける。
【0096】
そして、次の演算周期で、エンジン駆動制御ルーチンが起動されると、ステップS31で、過渡切換フラグFmがFm=0であるため、このステップS31からステップS32へ進み、前述した図11に示すモード一時切換制御ルーチンのステップS83で設定したエンジン制御モードM(ノーマルモードM1、或いはセーブモードM2)に対応するモードマップが読込まれ。このモードマップに格納されているエンジン特性に従って目標トルクτeが設定される。
【0097】
その結果、図13、及び図14(b)に示すように、目標トルクτeが演算周期(dt)毎に、過渡補正値Δτe分だけステップ的(本実施形態では、t1〜t5の5段階)に減少し、目標トルクτeが到達目標トルクτe1に達した場合、セーブモードマップMp2に従った目標トルクτeが設定される。その結果、エンジン制御モードMをパワーモードM3からセーブモードM2へ、運転者に急激な出力不足を感じさせることなくスムーズに移行させることができる。
【0098】
このように、本実施形態では、一時切換スイッチ11をONして、エンジン制御モードMを一時的にパワーモードM3に設定した場合であっても、設定時間(初期設定時間To)が経過したときに自動的に元のエンジン制御モードMへ復帰されるため、運転者の戻し忘れを防止することができる。
【0099】
又、一時切換制御が終了して、エンジン制御モードMをパワーモードM3からセーブモードM2或いはノーマルモードM1へ切換える過渡時においては、過渡補正値Δτeにより、演算周期毎に減算させるので、運転者に急激な出力不足を感じさせることなく、運転者の意に沿った車両挙動を得ることができる。
【0100】
又、一時切換制御中に一時切換スイッチ11を一度押しすることで、一時切換制御を延長させることができ、又、二度押しすることでエンジン制御モードMをパワーモードM3に固定させることができるため、例えば長い登坂路において、運転者はモード選択スイッチ8を操作することなく、ステアリングホイール9側でパワーモードM3を比較的簡単に選択することができ、使い勝手が良い。
【0101】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば一時切換制御の残時間を報知する手段は音声であっても良い。又、過渡補正値Δτeは、目標トルクτeと到達目標トルクτe1との差分に応じ、この差分が大きい場合その値を大きく設定する可変値であっても良い。更に、一時切換制御中の残時間はカーナビゲーションシステムに設けられているセンタディスプレイ4に表示させるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】インストルメントパネル及びセンタコンソールを運転席側から見た斜視図
【図2】コンビネーションメータの正面図
【図3】モード選択スイッチの斜視図
【図4】マルチインフォメーションディスプレイの表示例を示す説明図
【図5】エンジン制御系の構成図
【図6】始動時制御ルーチンを示すフローチャート
【図7】モードマップ選択ルーチンを示すフローチャート
【図8】エンジン制御ルーチンを示すフローチャート(その1)
【図9】エンジン制御ルーチンを示すフローチャート(その2)
【図10】一時切換制御ルーチンを示すフローチャート
【図11】モード一時切換制御サブルーチンを示すフローチャート
【図12】同、(a)はノーマルモードマップの概念図、(b)はセーブモードマップの概念図、(c)はパワーモードマップの概念図
【図13】一時切換制御終了後の過渡時に設定する目標トルクの説明図
【図14】(a)はアクセル開度と各エンジン制御モード別に設定される目標スロットル開度との関係を示す説明図、(b)は一時切換終了後にエンジン制御モードをパワーモードからセーブモードへ戻す際の過渡補正の説明図
【符号の説明】
【0103】
8…モード選択スイッチ、
11…一時切換スイッチ、
21…メータ制御装置、
22…エンジン制御装置、
Fm…過渡モードフラグ、
M…エンジン制御モード、
M1…ノーマルモード、
M2…セーブモード、
M3…パワーモード、
Mp1…ノーマルモードマップ、
Mp2…セーブモードマップ、
Mp3…パワーモードマップ、
T…減算タイマのカウント値、
To…初期設定時間、
τe…目標トルク、
Δτe…過渡補正値
Δt…演算周期

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御モードとして複数の異なる駆動力特性を有し、該各制御モードから1つの制御モードを選択する選択手段と、
前記選択手段で選択した制御モードとは異なる制御モードへ切換える一時切換手段と、
前記選択手段で選択し或いは前記一時切換手段で切換えた前記制御モードに対応する駆動力特性から運転状態に基づいて駆動力指示値を設定する駆動力設定手段と、
前記一時切換手段の残時間を計時する計時手段と
を備え、
前記制御モードは少なくとも経済的な運転に適したセーブモードと、パワーを重視したパワーモードとを有し、
前記駆動力設定手段は、前記セーブモードが選択されている状態で前記一時切換手段の操作が検出された場合、前記計時手段による経過時間の計時を開始すると共に、前記制御モードを前記パワーモードに切換えて一時切換制御を実行し、その後前記計時手段が設定時間の経過を検知したとき前記一時切換制御の終了と判定し、前記制御モードを前記セーブモードに復帰させる
ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
制御モードとして複数の異なる駆動力特性を有し、該各制御モードから1つの制御モードを選択する選択手段と、
前記選択手段で選択した制御モードとは異なる制御モードへ切換える一時切換手段と、
前記選択手段で選択し或いは前記一時切換手段で切換えた前記制御モードに対応する駆動力特性から運転状態に基づいて駆動力指示値を設定する駆動力設定手段と、
前記一時切換手段の残時間を計時する計時手段と
を備え、
前記制御モードは少なくとも通常運転に適したノーマルモードと、パワーを重視したパワーモードとを有し、
前記駆動力設定手段は、前記ノーマルモードが選択されている状態で前記一時切換手段の操作が検出された場合、前記計時手段による経過時間の計時を開始すると共に、前記制御モードを前記パワーモードに切換えて一時切換制御を実行し、その後前記計時手段が設定時間の経過を検知したとき前記一時切換制御の終了と判定し、前記制御モードを前記ノーマルモードに復帰させる
ことを特徴とする車両の駆動力制御装置。
【請求項3】
前記駆動力設定手段は、前記一時切換制御の終了後、前記制御モードを前記セーブモードへ復帰させるに際し、前記パワーモードに対応する駆動力特性に基づいて設定した前記駆動力指示値から、前記セーブモードに対応する駆動力特性に基づいて設定する前記駆動力指示値側へ段階的に過渡補正する
ことを特徴とする請求項1記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項4】
前記駆動力設定手段は、前記一時切換制御の終了後、前記制御モードを前記ノーマルモードへ復帰させるに際し、前記パワーモードに対応する駆動力特性に基づいて設定した前記駆動力指示値から、前記ノーマルモードに対応する駆動力特性に基づいて設定する前記駆動力指示値側へ段階的に過渡補正する
ことを特徴とする請求項2記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項5】
前記駆動力設定手段は前記計時手段での計時状況を、車両に備えられている表示手段に表示する
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項6】
前記駆動力設定手段は前記計時手段での計時状況を、車両に備えられている報知手段にて報知する
ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。
【請求項7】
前記駆動力設定手段は、前記一時切換制御中に前記一時切換手段が操作された場合、その操作回数、或いは操作時間に応じて前記一時切換制御を延長し、或いは前記制御モードを前記パワーモードに固定する
ことを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の車両の駆動力制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−127593(P2009−127593A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306339(P2007−306339)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】