説明

車両制御装置

【課題】電気ブレーキから空気ブレーキへの切替によってブレーキ力が急変するような場合であっても、空気ブレーキへの切替後にブレーキの効き具合を迅速に検知することができ、その結果として停止位置の精度を向上させることができる定位置停止制御装置1を提供する。
【解決手段】定位置停止制御装置1は、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域において、ブレーキ指令決定手段25によるブレーキ指令を保持する。これにより、定位置停止制御装置1は、空気ブレーキの立ち上がり完了時に、前記ブレーキ指令に対して整定状態となる制御するとともに、空気ブレーキの立ち上がり完了後に短時間で空気ブレーキの効き具合を検知できるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道等の車両を所定の目標位置に自動的に停止させるための定位置停止制御装置などの車両制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道などの車両制御においては、自動運転装置あるいは定位置停止制御装置の導入が増加している。自動運転装置あるいは定位置停止制御装置の導入により、運転士の技量によらず安定した均一な運転が可能となり、定時運行が容易となる。
鉄道車両の定位置停止制御では、ブレーキの効き具合のばらつきに対応して適切なブレーキ指令を決定することにより、所定の目標位置に精度良く車両を停止させる必要がある。これは、車両の駆動装置及び制動装置に同じブレーキ指令を与えた場合であっても、発生する実際のブレーキ力には、ばらつきがあり、その都度ブレーキ力が異なる場合があるためである。
従来、定位置停止制御装置としては、車両の減速度に基づいてブレーキの効き具合を検知し、ブレーキの効き具合に応じてブレーキ指令を決定し、車両を所定の目標位置に停止させるものが提案されている(たとえば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−74876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載されている定位置停止制御では、ブレーキの効き具合を検知し、ブレーキの効き具合に応じてブレーキ指令を決定する。このため、同じブレーキ指令に対して発生するブレーキ力がばらついた場合でも、定位置に停止させる制御が可能である。
しかしながら、定位置停止制御中に電気ブレーキから空気ブレーキへの切替が発生した場合、ブレーキの効き具合が大きく変化することがある。例えば、電気ブレーキに対して空気ブレーキのブレーキ力が強い場合、電気ブレーキが絞り込まれ、空気ブレーキが立ち上がるにつれてブレーキ力が短時間で強くなる。このような場合、それまで検知していたブレーキの効き具合に対して、実際のブレーキ力が急に強くなるが、強くなった後のブレーキの効き具合を検知するには時間がかかる。
【0004】
ブレーキの効き具合は、あるブレーキ指令に対して整定状態となっている時の減速度を用いて評価する必要がある。たとえば、強くなった後の空気ブレーキの効き具合を検知するためには、空気ブレーキが完全に立ち上がるとともに、ブレーキ指令変化に対しても減速度が整定状態になっている必要がある。また、空気ブレーキの立ち上がりが完了する直前でブレーキ指令が切り替った場合、空気ブレーキが立ち上がってから、さらにブレーキ指令切替時の応答時間以上の時間が経過しなければ、強くなった後の空気ブレーキの効き具合を評価できない。このような場合、弱いままのブレーキの効き具合の検知結果に基づいて車両に対する停止制御を継続してしまうため、減速しすぎて手前に停止してしまったり、長い時間の惰行が入って減速時間が延びたりする。
【0005】
本発明の一形態は、上記のような課題を解決するものであり、車両を所定の目標位置に精度良く停止させることのできる車両制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一形態としての車両制御装置は、電気ブレーキと空気ブレーキとを有する車両を目標位置に停止させるものにおいて、車両の速度と位置を検知する速度位置検知手段と、前記速度位置検知手段による検知結果に基づいて当該車両の減速度を検知する減速度検知手段と、前記減速度検知手段により検知される減速度に基づいて当該車両におけるブレーキの効き具合を検知するブレーキ検知手段と、当該車両がブレーキ指令に対して発生する減速度およびブレーキ指令切替時の応答時間を示すブレーキ特性モデルを記憶する記憶手段と、前記ブレーキ検知手段により検知されるブレーキの効き具合と前記ブレーキ特性モデルとに基づいて、当該車両を所望の目標位置に停止させるためのブレーキ指令を決定するブレーキ指令決定手段とを具備し、前記ブレーキ指令決定手段は、当該車両のブレーキが電気ブレーキから空気ブレーキに切り替る切替速度域においてはブレーキ指令を保持する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一形態によれば、車両を所定の目標位置に精度良く停止させることのできる車両制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
まず、第1の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る車両制御装置としての定位置停止制御装置1と定位置停止制御装置1が搭載される車両Tの構成例を示すブロック図である。
図1に示す構成例では、定位置停止制御装置1が搭載される車両Tには、駆動及び制動制御装置11、車上子13、速度発電機(TG)15などが設けられている。
【0009】
上記駆動及び制動制御装置は、当該車両Tを走行および停止させるための装置である。上記駆動及び制動制御装置は、ブレーキ装置として、たとえば、電気ブレーキ(回生ブレーキ)と空気ブレーキ(摩擦ブレーキ)とを有している。この場合、上記定位置停止制御装置1は、ブレーキ指令を適切に選択することにより当該車両Tを停止させる制御を行う。
【0010】
上記車上子13は、軌道上に設置された地上子(トランスポンダ)14からの信号を検出する。上記車上子13により検出される信号は、たとえば、当該車両Tの位置を補正するための情報である。この場合、当該車両Tの位置情報は、上記車上子13が地上子14から検出する信号により補正される。
上記速度発電機15は、車輪の回転軸に取り付けられたタコジェネレータ(TG)により構成されている。上記速度発電機15により検出される信号により、当該車両Tの速度が特定される。
【0011】
また、上記定位置停止制御装置1は、当該車両Tを目標位置に停止させるための制御を行うものである。上記定位置停止制御装置1は、図1に示すように、速度及び位置検知手段20、減速度検知手段21、ブレーキ特性モデル22、ブレーキの効き具合検知手段24、ブレーキ指令決定手段25などを有している。
上記速度及び位置検知手段20は、速度検出手段あるいは位置検出手段として機能する。たとえば、上記速度及び位置検知手段20は、上記速度発電機15からの速度パルスに基づいて速度を検出する。また、上記速度及び位置検知手段20は、軌道上に配置された地上子14からの信号を上記車上子13を介して入力し、その地上子14から入力した信号に基づいて現在位置を補正する。
【0012】
上記減速度検知手段21は、当該車両Tの減速度を算出するものである。上記減速度検知手段21は、上記速度及び位置検知手段20により演算した車両Tの速度に基づいて車両Tの減速度を演算する。
上記ブレーキ特性モデル22は、当該車両Tにおけるブレーキの特性を示す情報である。上記ブレーキ特性モデル22は、記憶手段としての記憶装置に記憶される。当該車両のブレーキ特性は、様々な条件によって変化する。このため、上記ブレーキ特性モデル22では、各ブレーキ指令に対する基準値を示すモデルとなっている。たとえば、上記ブレーキ特性モデル22では、各ブレーキ指令に対して発生する基準値としての減速度およびブレーキ指令切替時の応答時間を示している。
【0013】
上記ブレーキの効き具合検知手段24は、当該車両Tに対するブレーキの効き具合を検知する。上記ブレーキの効き具合検知手段24は、上記ブレーキ特性モデル22で示される基準値としての減速度およびブレーキ指令切替時の応答時間を参照しつつ、上記減速度検知手段21で演算した減速度に基づいて、ブレーキの効き具合を検知する。たとえば、上記ブレーキの効き具合検知手段24は、ブレーキの効き具合として上記ブレーキ特性モデル22で示される基準値に対してどの程度の増減があるかなどを判定する。
【0014】
上記ブレーキ指令決定手段25は、ブレーキ指令を決定する。すなわち、上記ブレーキ指令決定手段25は、種々の情報に基づいて車両Tを目標位置に停止させるためのブレーキ指令を決定する。たとえば、上記ブレーキ指令決定手段25は、車両の現在速度、車両の現在位置、および、現在のブレーキの効き具合に基づいてブレーキ指令を決定する。例えば、上記ブレーキの効き具合検知手段24により検知したブレーキの効き具合が基準値の10%増しであった場合を想定する。この場合、上記ブレーキ指令決定手段25は、各ブレーキ指令に対して発生する減速度がいずれも基準値の10%増しになると想定してブレーキ指令を選択する。すなわち、上記ブレーキ指令決定手段25は、現時点での車両速度と目標位置までの距離に基づいて、10%増しの減速度で減速した場合に目標位置に停止できるようなブレーキ指令を選択する。
【0015】
次に、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域における制御について説明する。
図2は、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替時における経時変化を示す図である。図2では、時間経過に対する車両の速度、減速度、ブレーキ指令(ノッチ)を示している。なお、ブレーキ指令は、複数段のブレーキレベルを指定する複数のノッチを指定するものとする。図2に示すように、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域において、上記ブレーキ指令決定手段25は、所定のブレーキ指令を保持する。すなわち、図2に示す例では、上記ブレーキ指令決定手段25は、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替の開始速度付近から所定のブレーキ指令(ノッチ)を保持し、空気ブレーキ指令の立ち上がりが完了し、ブレーキ指令切替の整定状態となるまで所定のブレーキ指令を保持する。
【0016】
上記のように、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域で所定のブレーキ指令を保持することにより、空気ブレーキへの切り替りの直後に、保持したブレーキ指令に対する整定状態が実現する。このため、定位置停止制御装置1としては、当該車両Tにおける空気ブレーキの効き具合を迅速に評価することができ、ブレーキの効き具合に応じた適切な停止制御が可能となる。この結果として、上記定位置停止制御装置1では、停止位置精度を確保することができる。
【0017】
なお、定位置停止制御装置1ではブレーキの効き具合を検知する際に車両の減速度を用いる。しかしながら、減速度は、過去の速度データに基づいて演算するために遅れが生じる。つまり、整定状態に達した瞬間の減速度は、減速度演算遅れ時間が経過してから得られることになる。従って、所定のブレーキ指令保持が終了し整定状態に達した後、すぐに通常制御に復帰すると、空気ブレーキの効き具合検知結果が出るのを待たずにブレーキ指令を選択することになる。このような状態でブレーキ指令が切り替ってしまうと、空気ブレーキの効き具合検知の制御への反映は、次のブレーキ指令の切替時になってしまう。定位置停止制御装置1では、図2に示すように、所定のブレーキ指令の保持を、空気ブレーキ指令の立ち上がりが完了し、かつ、ブレーキ指令切替の整定状態となった後、減速度の演算遅れ時間が経過まで延長することにより、上記のような制御の遅れを回避できるようになっている。
【0018】
上記のように、本第1の実施の形態としての定位置停止制御装置1は、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に合わせて所定のブレーキ指令を保持する。すなわち、定位置停止制御装置は、所定の切替速度域において所定のブレーキ指令を保持することにより、空気ブレーキの立ち上がり完了時に上記所定のブレーキ指令に対して整定状態となるように制御するとともに、空気ブレーキの立ち上がり完了後に短時間で空気ブレーキの効き具合を検知できるように制御する。
【0019】
これにより、第1の実施の形態としての定位置停止制御装置1によれば、車両を定位置に停止させる制御において、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替によってブレーキ力が急変するような場合であっても、空気ブレーキへの切替後にブレーキの効き具合を短時間で検知することができ、その結果として停止位置精度を向上させることができる。
【0020】
次に、第2の実施の形態について説明する。
図3は、本発明の第2の実施の形態に係る車両制御装置としての定位置停止制御装置1と定位置停止制御装置2が搭載される車両Tの構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、第2の実施の形態に係る定位置停止制御装置2は、上述した第1の実施の形態に係る図1に示すような構成の定位置停止制御装置1に、ブレーキ状態判定手段23を設けた構成となっている。なお、図3に示す定位置停止制御装置2における構成例のうち、図1に示す定位置停止制御装置1の構成例と同様な構成要素については、同一箇所に同一符号を付して詳細な説明を省略するものとする。
【0021】
上記ブレーキ状態判定手段23は、ブレーキ装置の状態を判定するものである。ここでは、当該車両Tは、上記駆動及び制動制御装置11におけるブレーキ装置として、電気ブレーキ(回生ブレーキ)と空気ブレーキ(摩擦ブレーキ)とを有しているものとする。この場合、上記ブレーキ状態判定手段23は、当該車両Tのブレーキ装置の状態が電気ブレーキから空気ブレーキに切り替っているか否かを判定する。すなわち、上記ブレーキ状態判定手段23は、車両Tのブレーキの状態が電気ブレーキの状態か空気ブレーキの状態かまたは両者の切替状態かを判定する。なお、上記ブレーキ状態判定手段23は、電気ブレーキが有効であるか否かを示す信号、あるいは、空気ブレーキのブレーキシリンダー圧力に基づいて、ブレーキ装置の状態を判定するようにしても良い。
【0022】
上記第1の実施の形態では、電気ブレーキから空気ブレーキへの所定の切替速度域において所定のブレーキ指令を保持するようにしている。これに対して、本第2の実施の形態では、当該車両Tのブレーキ装置の状態が電気ブレーキから空気ブレーキに切り替っていない場合に、電気ブレーキから空気ブレーキへの所定の切替速度域において、所定のブレーキ指令を保持し、電気ブレーキから空気ブレーキに切り替っている場合には所定の切替速度域であっても所定のブレーキ指令を保持しない。これは、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に達する前に空気ブレーキに切り替っている場合、所定の切替速度域であっても、所定のブレーキ指令を保持する必要はないためである。
【0023】
例えば、ある速度未満でブレーキオフの状態からブレーキをかけた場合には電気ブレーキが立ち上がらないブレーキ特性の車両が存在する。このような車両に搭載された定位置停止制御装置2では、電気ブレーキが立ち上がらない条件が成立した場合、ブレーキ状態を空気ブレーキと判定する。ブレーキ状態が空気ブレーキであると判定した場合、上記定位置停止制御装置2は、その後の定位置へ停止させる制御中に電気ブレーキから空気ブレーキへの所定の切替速度域に達しても所定のブレーキ指令を保持する制御は行わない。
【0024】
上記のように、第2の実施の形態に係る定位置停止制御装置2では、所定の切替速度域において電気ブレーキが立ち上がらない場合がある車両であっても、ブレーキ特性に応じた適切な制御が行えるようになっている。
【0025】
次に、第3の実施の形態について説明する。
第3の実施の形態に係る定位置停止制御装置3は、上述した第1の実施の形態に係る定位置停止制御装置1、あるいは、第2の実施の形態に係る定位置停止制御装置2の何れにも適用できるものである。すなわち、第3の実施の形態に係る定位置停止制御装置3の構成例は、図1に示すような定位置停止制御装置1あるいは図3に示すような定位置停止制御装置2と同様であるため詳細な説明を省略するものとする。
【0026】
第3の実施の形態に係る定位置停止制御装置3は、停止位置予測を加味してブレーキ指令を決定する。すなわち、上記定位置停止制御装置3は、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に合わせて所定のブレーキ指令の保持を開始するタイミングで、車両速度と車両位置に基づいて、種々のブレーキ指令(ノッチ)に対する停止位置予測を行う。上記定位置停止制御装置3は、停止位置予測の結果に基づいて目標位置に停止させるのに最適なブレーキ指令を決定する。
【0027】
例えば、停止位置予測が目標位置を超えないブレーキ指令(ノッチ)のうち、最小のブレーキ指令(ノッチ)を選択する。ここで、目標位置をオーバーするような弱いブレーキ指令(ノッチ)を選択し、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替時にブレーキ力が強くならなかった場合、通常制御への復帰後に強いブレーキ指令(ノッチ)を出さざるを得なくなり、停止間際の乗り心地が悪くなってしまう。
【0028】
すなわち、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に達する時点での車両の位置は、車両に対する制御の状況により異なる可能性が高い。このため、上記切替速度域で保持するブレーキ指令が固定の値(ノッチ)であれば、停止位置制御としては最適なものとは言えないと考えられる。つまり、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に達する時点での車両の位置が一定の位置にならない場合、所定の1つのブレーキ指令を保持するよりも、停止位置予測に応じた適切なブレーキ指令を選択し、その選択したブレーキ指令を保持するようにした方が最適な停止位置制御が行えるものと考えられる。
【0029】
上記のように、第3の実施の形態に係る定位置停止制御装置3は、車両Tの速度が電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に達する際、当該車両の現在速度と現在位置とに基づいて種々のブレーキ指令(ノッチ)に対する停止位置予測を行う。種々のブレーキ指令(ノッチ)に対する停止位置予測が得られると、上記定位置停止制御装置3は、所望の目標位置に停止させるのに最適なブレーキ指令を選択する。最適なブレーキ指令を選択すると、上記定位置停止制御装置3は、選択したブレーキ指令を上記切替速度域において保持する。
【0030】
これにより、本第3の実施の形態に係る定位置停止制御装置3では、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に達する時点での車両の位置が変動する場合であっても、上記切替速度域において最適なブレーキ指令を選択して保持することができる。従って、定位置停止制御装置3では、最適なブレーキ指令で空気ブレーキへの切替した後に迅速に空気ブレーキの効き具合の検知ができ、停止位置の精度を向上させることができる。
【0031】
次に、第4の実施の形態について説明する。
第4の実施の形態に係る定位置停止制御装置4は、上述した第1の実施の形態に係る定位置停止制御装置1、あるいは、第2の実施の形態に係る定位置停止制御装置2の何れにも適用できるものである。すなわち、第4の実施の形態に係る定位置停止制御装置4の構成例は、図1に示すような定位置停止制御装置1あるいは図3に示すような定位置停止制御装置2と同様であるため詳細な説明を省略するものとする。
【0032】
第4の実施の形態に係る定位置停止制御装置4は、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域にばらつきがある場合であっても、適切な定位置への停止制御を実現するものである。すなわち、車両T自体の特性あるいは車両Tが走行する条件によっては、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域に大きなばらつきが生じる場合がある。このような場合、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域の設定が曖昧であれば、上記第1あるいは第2の実施の形態で説明した定位置停止制御の精度が低下する可能性がある。
【0033】
たとえば、上記切替速度域としてのばらつきの範囲内において高い側の速度域に合せて所定のブレーキ指令を保持した場合、実際には低い速度域で電気ブレーキから空気ブレーキへの切替が発生する可能性がある。つまり、実際の切替速度域よりも高い速度域に合せてブレーキ指令の保持を行うと、空気ブレーキへの切替が完了しない状態でブレーキ指令の保持が終了して通常の制御に復帰することが考えられる。このような場合、実際の空気ブレーキの立ち上がりは、いつブレーキ指令が変化するかわからない状態で行われることとなる。このため、空気ブレーキの効き具合の検知が遅れる可能性がある。
【0034】
このため、本第4の実施の形態に係る定位置停止制御装置4では、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域としてのばらつきの範囲内において低い側の速度域に合せて所定のブレーキ指令を保持する。つまり、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域にばらつきがある場合であっても、ブレーキ指令の保持が終了した時点で、確実に空気ブレーキへの切替が完了した状態とするような制御を行う。これにより、定位置停止制御装置4では、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度域にばらつきがあっても、空気ブレーキへの切替後に空気ブレーキの効き具合の検知が遅れること無く、その結果として停止位置の精度を向上させることができる。
【0035】
次に、第5の実施の形態について説明する。
第5の実施の形態に係る定位置停止制御装置5は、上述した第1の実施の形態に係る定位置停止制御装置1、あるいは、第2の実施の形態に係る定位置停止制御装置2の何れにも適用できるものである。すなわち、第5の実施の形態に係る定位置停止制御装置5の構成例は、図1に示すような定位置停止制御装置1あるいは図3に示すような定位置停止制御装置2と同様であるため詳細な説明を省略するものとする。
【0036】
第5の実施の形態に係る定位置停止制御装置5は、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替時の応答時間よりもブレーキ指令切替の応答時間が長い場合でも、適切な定位置への停止制御を実現するものである。すなわち、車両T自体の特性によっては、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替時の応答時間よりもブレーキ指令切替の応答時間が長い場合がある。このような場合、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替が始まる速度からブレーキ指令を保持したとすると、空気ブレーキへの切替が完了した時点で、まだブレーキ指令切替時の応答時間が経過しておらず、整定状態となっていないことになる。従って、ブレーキの効き具合を検知するためには、空気ブレーキへの切替が完了した後、さらにブレーキ指令切替に対する整定状態に達するのを待つ必要があり、ブレーキの効き具合を制御に反映するタイミングが遅れることになる。
【0037】
このため、本第5の実施の形態に係る定位置停止制御装置5では、当該車両の電気ブレーキから空気ブレーキへの切替時の応答時間よりも、ブレーキ指令切替時の応答時間が長い場合、当該応答時間の差に応じて前記切替速度域よりも高い速度でブレーキ指令の保持を開始する。例えば、応答時間の差が0.5秒、すなわち、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替時の応答時間よりも、ブレーキ指令切替時の応答時間が0.5秒長い場合であって、切替速度域で発生し得る標準的な減速度が、1.5(km/h)/sである場合、電気ブレーキから空気ブレーキへの切替が始まる速度よりも0.75km/h高い速度でブレーキ指令の保持を開始する。これにより、ブレーキ指令保持から0.5秒経過した時点で、おおむね電気ブレーキから空気ブレーキへの切替速度に近くなって切替が開始され、空気ブレーキへの切替が完了した時点で、ブレーキ指令切替の整定状態も同時に達成され、空気ブレーキの効き具合の検知を迅速に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施の形態に係る定位置停止制御装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態に係る定位置停止制御装置による所定の速度域におけるブレーキ制御を説明するための図である。
【図3】第2の実施の形態に係る定位置停止制御装置の構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0039】
T…車両、1、2、3、4…定位置停止制御装置、11…駆動及び制動制御装置、13…車上子、14…地上子、15…速度発電機、20…速度及び位置検知手段、21…減速度検知手段、22…ブレーキ特性モデル、23…ブレーキ状態判定手段、24…ブレーキの効き具合検知手段、25…ブレーキ指令決定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気ブレーキと空気ブレーキとを有する車両を制御する車両制御装置において、
当該車両の速度と位置とを検知する速度位置検知手段と、
前記速度位置検知手段による検知結果に基づいて当該車両の減速度を検知する減速度検知手段と、
前記減速度検知手段により検知される減速度に基づいて当該車両におけるブレーキの効き具合を検知するブレーキ検知手段と、
当該車両がブレーキ指令に対して発生する減速度およびブレーキ指令に対する応答時間を示すブレーキ特性モデルを記憶する記憶手段と、
前記ブレーキ検知手段により検知されるブレーキの効き具合と前記ブレーキ特性モデルとに基づいて、当該車両を所望の目標位置に停止させるためのブレーキ指令を決定するブレーキ指令決定手段と、を具備し、
前記ブレーキ指令決定手段は、当該車両のブレーキが電気ブレーキから空気ブレーキへ切り替る切替速度域においてはブレーキ指令を保持する、
ことを特徴とする車両制御装置。
【請求項2】
さらに、当該車両のブレーキの状態が電気ブレーキか空気ブレーキかまたは両者の切替状態かを判定するブレーキ状態判定手段を有し、
前記ブレーキ指令決定手段は、前記ブレーキ状態判定手段により判定される当該車両のブレーキの状態が電気ブレーキまたは両者の切替状態である場合に、前記切替速度域においてブレーキ指令を保持する、
ことを特徴とする前記請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキ指令決定手段は、前記所定の速度域におけるブレーキ指令の保持を開始する際に、前記速度位置検知手段により検知される車両速度と車両位置に基づいて各種のブレーキ指令に対する停止位置予測を行い、前記停止位置予測の結果に基づいて前記切替速度域において保持するブレーキ指令を決定する、
ことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記ブレーキ指令決定手段は、当該車両が電気ブレーキから空気ブレーキに切り替る切替速度域にばらつきがある場合、前記切替速度域のばらつきの範囲内において低い側の速度域においてブレーキ指令を保持する、
ことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記ブレーキ指令決定手段は、当該車両の電気ブレーキから空気ブレーキへの切替時の応答時間よりも、ブレーキ指令切替時の応答時間が長い場合、当該応答時間の差に応じて前記切替速度域よりも高い速度でブレーキ指令の保持を開始する、
ことを特徴とする請求項1又は2の何れかに記載の車両制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−115014(P2010−115014A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285519(P2008−285519)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】