説明

車両用内装品の成形方法

【課題】 表皮と芯材とを強固に固着することができる車両用内装品の成形方法を提供する。
【解決手段】表皮2が装着された下型11の成形面11aと上型12の成形面12とにより、加熱軟化された薄板状の素材4をその厚さ方向に挟持し、それによって素材4を芯材として成形するとともに、素材4と上記表皮2とを固着する車両用内装品の成形方法において、素材4として、加熱されることによって軟化するとともに、厚さが増大するように膨張するものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ドアトリム等の車両用内装品の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図4に車両用内装品の一つであるドアトリム1を示す。このドアトリム1は、表皮2と芯材3とを備えている。表皮2は、ドアトリム1の表面を構成するものであり、柔軟性を有するシートによって形成されている。一方、芯材3は、内装品1全体を一定の形状に維持するためのものであり、表皮2の背面に固着されている。
【0003】
上記構成の内装品1は、一対の金型を用いて成形される。一対の金型のうちの一方の金型の成形面には、前もって成形された表皮2が予め装着される。また、一対の金型の間には、板状をなす素材が配置される。この素材を加熱軟化した後、一対の金型が型締めされる。これにより、素材から芯材3が成形されると同時に、芯材3が表皮2の背面に固着される。
【0004】
ところで、表皮の背面には、比較的大きな凹凸が存在することがある。例えば、表皮をスラッシュ成形法によって成形した場合、表皮の表面は、金型の成形面に対応した面として精度良く成形される。しかし、表皮の背面は、金型によって拘束されることがないので、大きな凹凸が形成される。表皮の背面に大きな凹凸が形成されていると、表皮と芯材との固着面間の各部に隙間が形成され、両者の固着強度が低下するおそれがある。
【0005】
上記の問題を解消するために、下記特許文献1には、次の二つの方法が開示されている。
一つの方法は、芯材を発泡成形するようにしたものであり、芯材用の発泡型のキャビティ内には予め成形された表皮がセットされている。その後、キャビティ内に液状をなす二液性の発泡樹脂、例えば互いに撹拌混合されたイソシアネートとポリオールとが型内に注入される。発泡樹脂がキャビティ内において発泡すると、芯材が成形される同時に、芯材が表皮に固着され。この方法によれば、表皮の背面の凹凸が芯材の発泡によって吸収されるので、表皮と芯材との固着面間に隙間が形成されることを防止することができる。
他の一つの方法は、表皮を表層部と発泡層とによって構成したものであり、表層部及び発泡層はいずれもスラッシュ成形法によって成形される。勿論、表層部の成形後、その背面に発泡層が成形される。その後、成形された芯材が発泡層に多孔質シートを介して固着される。この場合には、発泡層の背面には、凹凸が形成されているが、発泡層が柔軟性を有しているので、芯材と発泡層との固着に際しては、発泡層自体がその背面の凹凸を吸収する。したがって、発泡層と多孔質シートとの間に隙間が生じるのを防止することができる。
【0006】
【特許文献1】特開平5−237856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前者の方法においては、発泡型内に注入される樹脂が液状であるため、発泡型の型締め面間から液状の樹脂が漏れないよう、発泡型を高精度に製造する必要があり、そのため発泡型の製造費が嵩むという問題があった。また、液状の樹脂を金型のキャビティ内全体に一様に充填するには、キャビティの厚さを所定の大きさ以上にしなければならず、このため所定の厚さ以下の芯材を成形することが困難であるという問題があった。
一方、後者の方法においては、表皮を、単層の表皮であるならば当該表皮になるべき表層部と、発泡層とから構成し、さらに表皮と芯材との間に多孔質シートを介在させているため、芯材の厚さを一定にすると、内装品の厚さが厚くなってしまうという問題があった。逆に、内装品の厚さを一定にした場合には、芯材を薄くしなければならず、その分だけ内装品の強度が低下してしまう。また、表層部をスラッシュ成形した後、多孔質シートを介在させているので、その分だけ工程が増えるとともに、材料費がかかり、製造費が嵩むという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の問題を解決するために、互いに対向して配置された一対の金型のうちの、一方の金型の成形面に予め成形された表皮が装着され、加熱軟化された薄板状の素材を上記一方の金型の成形面と他方の金型の成形面とで上記表皮を介して挟持することにより、上記素材から芯材を成形すると同時に上記芯材と上記表皮とを固着する車両用内装品の成形方法において、上記素材として、加熱軟化に伴って厚さが増大するように膨張する素材が用いられ、膨張した素材が上記一対の金型の成形面により上記表皮を介して挟持されることを特徴としている。
この場合、上記表皮は、雌引き真空成形法、その他の成形法によって成形することも可能であるが、スラッシュ成形法によって成形されていることが望ましい。
上記素材が、加熱軟化する樹脂からなる母材と、この母材の内部に弾性的に変形された状態で埋設されたガラス繊維とを有し、上記ガラス繊維が上記母材の加熱軟化に伴って弾性的に復帰変形することによって上記素材が膨張するものであってもよく、加熱軟化する樹脂からなる母材と、この母材の内部に埋設された発泡剤とを有し、上記発泡剤が上記素材の加熱軟化に伴って発泡することによって上記素材が膨張するものであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
上記特徴構成を有するこの発明によれば、一対の金型を型締めすると、加熱軟化した薄板状の素材が表皮の背面に押し付けられる。このとき、素材がその厚さ方向に膨張して、同方向に柔軟性を有しているので、素材を表皮の背面に押しつけると、素材の各部が表皮の背面に形成された凹凸を吸収するように弾性変形する。この結果、成形された芯材の表面が表皮の背面にほとんど隙間なく密着する。したがって、芯材と表皮との固着強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、この発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、この発明に係る成形方法を実施するための成形装置10を示す。この成形装置10は、上記ドアトリム(車両用内装品)1を成形するためのものであり、上下に対向して配置された一対の金型11,12と、この一対の金型11,12間に配置された挟持部材13,13と、上下一対のヒータ14,14とを備えている。一対の金型11,12は、水平方向に対向させてもよい。勿論、その場合には、挟持部材13,13及びヒータ14,14も、一対の金型11,12に対応して配置替えされる。
【0011】
下側に配置された金型(以下、下型という。)11の上面には、成形面11a及び型締め面11bが形成されている。成形面11aは、この成形装置10が成形すべきドアトリム1の表皮2の表面に対応した形状を有しており、ドアトリム1の成形に際しては、スラッシュ成形法により前もって成形された表皮2が予め装着される。型締め面11bは、水平な平面として形成されており、成形面11aを囲むように環状に延びている。
【0012】
上側に配置された金型(以下、上型という。)12の下面には、成形面12a及び型締め面12bが形成されている。成形面12aは、芯材3の背面に対応した形状を有している。型締め面12bは、下型11の型締め面11bに対応して水平な平面として形成されており、成形面12aを囲むように環状に延びている。
【0013】
挟持部材13,13は、芯材3となるべき素材4の端部を上下に挟持する。この場合、挟持部材13,13は、素材4の前後又は左右の両端部だけを挟持してもよく、前後左右の全ての端部を挟持してもよい。
【0014】
ヒータ14,14は、挟持部材13,13に挟持された素材4をその上下方向から加熱するためのものであり、素材4の上下の各面とそれぞれ対向した図1に示す加熱位置と、上下の型11,12間から水平方向へ離間した待機位置との間を移動可能に配置されている。
【0015】
次に、上記構成の成形装置10を用いてドアトリム1を成形する場合について説明する。ドアトリム1の成形に際しては、前持って成形された表皮2を下型11の成形面11aに予め装着しておく。表皮2は、雌引き真空成形法等の真空成形法、その他の成形法によって成形可能であるが、成形コストが安価で、表面が綺麗であることから、スラッシュ成形法によって成形するのが望ましい。また、図1に示すように、挟持部材13,13によって素材4の端部を挟持させる。この場合、素材4は、その厚さ方向を上下方向に向けた状態、つまり水平になった状態で挟持される。
【0016】
素材4としては、所定の温度に加熱されると、軟化するのみならず、その厚さ方向に膨張するようなものが用いられる。そのような素材4としては、図5に示すものがある。この素材4は、樹脂からなる母材4aと、その内部に埋設された多数のガラス繊維4bとを有している。母材4aは、薄い(例えば2〜3mm程度の厚さ)板状をなしており、常温では固体として所定の強度を有し、所定の温度に加熱すると軟化する樹脂によって構成されている。この実施の形態では、母材4aを構成する樹脂として、ポリプロピレン又はポリエチレンが用いられている。一方、ガラス繊維4bは、素材4の強度を向上させるためのものであり、母材4a中に弾性的に折り曲げられた状態で埋設されている。この場合、ガラス繊維4bは、母材4aが所定の硬度を有している状態では、母材4aにより弾性変形した状態で拘束されている。しかし、母材4aが加熱軟化すると、図6に示すように、ガラス繊維4bは、それ自体の弾性によって復帰変形する。これに伴って、母材4aの各部が上下方向に移動させられ、素材4の厚さが厚く(例えば、3〜8倍程度に厚く)なるように素材4が上下方向(厚さ方向)に膨張する。勿論、素材4の内部には、膨張した分の容積と等しい容積の空間が発生し、素材4の内部は、あたかも発泡樹脂が発泡したときと同様の状況を呈する。ガラス繊維4bに代えて、炭素繊維やステンレスなどの金属繊維等が用いられることもある。
【0017】
上記素材4に代えて、母材の内部に発泡剤が埋設された素材を用いることも可能である。例えばポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等の樹脂を母材とし、二酸化炭素や窒素ガスで発泡する素材を用いることができる。そのような素材を用いる場合には、素材の加熱軟化に伴って発泡剤が発泡することにより、素材の厚さが増大するように素材が膨張することになる。
【0018】
次に、ヒータ14,14を待機位置から加熱位置まで移動させる。そして、ヒータ14,14により、素材4をその上下両面から加熱する。素材4を所定の温度まで加熱すると、素材4がその厚さ方向に膨張する。その後、図2に示すように、ヒータ14,14を待機位置まで移動させ、上下の型11,12間から離間させる。
【0019】
次に、上下の型11,12を接近移動させる。この場合、上下の型11,12は、少なくとも成形面11a,12aの上下方向の距離が膨張した素材4の厚さより小さくなるまで接近移動させる。この実施の形態では、加熱膨張した素材4が加熱前の厚さとほぼ等しい厚さになるまで上下の型11,12を接近移動させている。上下の型11,12をこのように移動させると、成形面11a,12aが素材4を表皮2を介して挟持する。この結果、素材4が成形面11aに表皮2を介して押し付けられるとともに、成形面12aに押し付けられる。これにより、素材4から芯材3が成形される。しかも、素材4は、表皮2に押し付けられることによって表皮2に固着される。この場合、素材4の母材4aが表皮2と同一の樹脂で構成されているときのように、素材4が表皮2に溶着ないしは融着可能である樹脂によって構成されているときには、素材4(芯材3)がその成形と同時に表皮2に溶着ないしは融着される。一方、素材4が表皮2に溶着不能な材質で構成されているときには、表皮2の背面に接着剤を予め塗布しておけばよい。その場合には、素材4がその成形と同時に表皮2に接着される。
【0020】
次に、上下の型11,12を上下方向へ離間させる。そして、互いに固着された表皮2及び素材4を成形面11a又は12aから取り外す。その後、素材4のうちの余分な部分を切除する。これによって、表皮2と芯材3とからなるドアトリム1が製造される。
【0021】
上記の成形方法によれば、素材4が表皮2に押し付けられるとき、素材4は厚さ方向に膨張しており、同方向に容易に、しかも大きく変形することが可能な状態になっている。したがって、表皮2に押し付けられた素材4は、表皮2の背面の凹凸に対応して変形して凹凸を吸収する。その結果、素材4と表皮2との固着面間に隙間が生じることがなく、両者は全体にわたって密着する。よって、表皮2と素材4(芯材3)との固着強度を向上させることができる。
【0022】
また、上記の成形方法では、固体の素材4が用いられているので、上下の型11,12間から液状の素材が漏れることがない。したがって、上下の型11,12については、成形面11a,12aを除き、高精度にする必要がしない。よって、上下の型11,12を安価に成形することができる。しかも、成形面11a,12a間に液状の素材を充填することがないので、芯材3の厚さが薄い場合であっても十分に成形することができる。
【0023】
さらに、表皮2と芯材3との間に多孔質シートを介在させたりする必要がないので、その分だけ内装品の成形費を低減することができるとともに、内装品が過度に厚くなったり、芯材が過度に薄くなるような事態を未然に防止することができる。
【0024】
なお、この発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記の実施の形態では、ドアトリム1を成形対象としているが、この発明の成形方法は、インストルメントパネル、ピラートリム等の他の車両用内装品を成形対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に係る成形方法を実施するための成形装置を示す断面図である。
【図2】同成形装置を、ヒータを除いた状態で示す断面図である。
【図3】同成形装置を、上下の型を型締めした状態で示す断面図である。
【図4】この発明に係る成形方法によって成形される車両用内装品の一例たるドアトリムを示す断面図である。
【図5】この発明に係る成形方法を実施する際に用いられる素材を膨張する前の状態で示す断面図である。
【図6】同素材を膨張した後の状態で示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ドアトリム(車両用内装品)
2 表皮
3 芯材
4 素材
4a 母材
4b ガラス繊維
10 車両用内装品の成形装置
11 下型(金型)
11a 成形面
12 上型(金型)
12a 成形面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して配置された一対の金型のうちの、一方の金型の成形面に予め成形された表皮が装着され、加熱軟化された薄板状の素材を上記一方の金型の成形面と他方の金型の成形面とで上記表皮を介して挟持することにより、上記素材から芯材を成形すると同時に上記芯材と上記表皮とを固着する車両用内装品の成形方法において、
上記素材として、加熱軟化に伴って厚さが増大するように膨張する素材が用いられ、膨張した素材が上記一対の金型の成形面により上記表皮を介して挟持されることを特徴とする車両用内装品の成形方法。
【請求項2】
上記表皮がスラッシュ成形法によって成形されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用内装品の成形方法。
【請求項3】
上記素材が、加熱軟化する樹脂からなる母材と、この母材の内部に弾性的に変形された状態で埋設されたガラス繊維とを有し、上記ガラス繊維が上記母材の加熱軟化に伴って弾性的に復帰変形することによって上記素材が膨張することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用内装品の成形方法。
【請求項4】
上記素材が、加熱軟化する樹脂からなる母材と、この母材の内部に埋設された発泡剤とを有し、上記発泡剤が上記素材の加熱軟化に伴って発泡することによって上記素材が膨張することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用内装品の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−90764(P2007−90764A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285326(P2005−285326)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000100366)しげる工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】