車両用駆動制御装置
【課題】動力源のトルクを検出するセンサを設けることなく、左右車輪を独立に駆動する動力源の特性差・劣化の検出を行う。
【解決手段】車両用駆動制御装置に、車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段(S102)と、該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、車両が直進走行状態にあると判定された場合で、車両が駆動状態にあると判定されたときの操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段(S105)と、車両が直進走行状態にあると判定された場合で、車両が非駆動状態にあると判定されたときの操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段(S109)と、駆動状態記憶手段と非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段(S106)と、を備える。
【解決手段】車両用駆動制御装置に、車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段(S102)と、該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、車両が直進走行状態にあると判定された場合で、車両が駆動状態にあると判定されたときの操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段(S105)と、車両が直進走行状態にあると判定された場合で、車両が非駆動状態にあると判定されたときの操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段(S109)と、駆動状態記憶手段と非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段(S106)と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の車輪をそれぞれ独立駆動する車両を制御するための車両用駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、左右の車輪をそれぞれ独立駆動する車両を制御するための車両用駆動制御装置に係り、左右の動力源の性能差をなくすように補正したり、或いは、動力源の性能低下を判定したりする機能が搭載された車両用駆動制御装置が知られている。
【0003】
前者のような車両用駆動制御装置としては、例えば、特許文献1(特開2005−160262号公報)に、車両を駆動する動力源に経時変化等に起因する駆動特性差が生じた場合にも左右の車輪に不必要な駆動力差が生じないよう各車輪の駆動力を制御する車両用駆動制御装置が開示されている。
【0004】
また、後者のような車両用駆動制御装置としては、特許文献2(特開2005−168184号公報)に、左右の車輪をそれぞれ駆動する車両用駆動制御装置で、片方の動力源の性能低下を、左右輪の回転差、操舵トルクなどから検出する車両用駆動制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開2005−160262号公報
【特許文献2】特開2005−168184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1記載の車両用駆動制御装置のように左右の車輪をそれぞれ駆動する車両で、経年変化などによる駆動力差を生じないように制御する場合、実際の出力トルクを計測する必要があり、トルクセンサなどで直接計測する場合、モーターの個数分センサが必要となり、コストアップの原因となる。直接各モーターの出力トルクを検出しないで済むように特許文献2記載の車両用駆動制御装置のように駆動時の左右の回転差、操舵トルクを単純に見た場合、事故などによりホイールアライメントがずれた状態と、動力源のトルク異常の区別ができず、ホイールアライメントずれをトルク差で補正してしまった場合、燃費の悪化やタイヤの偏磨耗などをおこしてしまう。
【0006】
上記のホイールアライメントずれのことを図11及び図12を参照しつつ説明する。図11及び図12は、前輪操舵・後輪独立駆動方式の電気自動車におけるトルク異常の補正方法を説明する図である。図11及び図12におけるそれぞれの図は電気自動車の車体と車輪との関係を上部から見たものであり、図11及び図12において、2は電気自動車の車体、3はステアリング、4flは左前輪、4frは右前輪、4rlは左後輪、4rrは右後輪をそれぞれ模式的に示すものである。この電気自動車は、左後輪4rl、右後輪4rrが駆動され、左前輪4fl、右前輪4frで操舵される。図11及び図12において、左後輪4rl、右後輪4rrに示された黒矢印は、それぞれの車輪のトルクの大小を模式的に示すものであり、また、車両の前方の白矢印は車両の移動方向を示すものである。それぞれの車輪のトルクは、各車輪毎に設けられる不図示のモーターによって発生する。
【0007】
図11(A)は、電気自動車のドライバーの操作に基づいて、左後輪4rl、右後輪4rrの双方に対して同じようにトルク指令がなされているにも関わらず、図示するように左後輪4rlのトルクTl と右後輪4rrのトルクTrとが異なっており、車体2が左方に移動しようとしている様子を示している。これは、左右それぞれにモーターを持つ電気自動車で同じ各モーターに同じトルク指令を発しても、経年変化などにより、左右出力に差異が出てしまうからである。これに対して、図11(B)に示すようにドライバーがトルク差を打ち消すようにステアリング操作を行っていることを示している。このようなステアリング操作に基づいて、左後輪4rlのトルクTlと右後輪4rrのトルクTrが、同じになるようにモーターのトルク補正を行う(図11(C)参照)。なお、このようなトルク補正は、直進走行時のステアリングトルクまたはステアリング操作角を検出し、トルク制御値を補正する技術がある。
【0008】
次に事故等が要因で電気自動車にホイールアライメントずれが発生している場合について説明する。図12(A)は、電気自動車の後輪がホイールアライメントずれを起こしている様子を示している。このような場合には、左後輪4rl、右後輪4rrの双方に対して同じようにトルク指令がなされ、かつ左右のモーターで性能差がなかったとしても、図示するようにホイールアライメントずれのために電気自走車はA方向に移動してしまう。これに対して、図12(B)に示すようにドライバーがステアリング操作をして軌道修正を行い、このステアリング操作情報に基づいて、上述のトルク補正を行うと、図12(C)に示すような状態となる。すなわち、従来のトルク補正技術では、事故等が要因のホイールアライメントずれと、左右のモーター性能差の区別ができずに、本来修理が必要なホイールアライメントずれを、モーター出力で補正してしまい、その結果、ドライバーが異常を検知できずに、電気車両のエネルギー効率の悪化、車輪の偏磨耗が起きてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、請求項1に係る発明は、左右の車輪を独立に駆動可能な車両を制御する車両用駆動制御装置において、該車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段と、該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が非駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段と、該駆動状態記憶手段と該非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であり、かつ該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が略中央であるという結果であるときに、左右の車輪のトルク差があると判定することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果と、該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が共に、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であるときに、ホイールアライメントずれがあると判定することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段により左右の車輪のトルク差が検出されたとき、トルク指令を修正するトルク指令修正手段を備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段によりホイールアライメントずれが検出されたとき、警告を発する警告発生手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の車両用駆動制御装置によれば、左右の車輪を独立に駆動可能な車両を制御する車両用駆動制御装置において、該車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段と、該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が非駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段と、該駆動状態記憶手段と該非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段と、を備えることにより、左右の車輪の動力源のトルク差、ホイールアライメントずれなどの異常を判定することができるという効果がある。
【0015】
請求項2に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1に記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であり、かつ該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が略中央であるという結果であるときに、左右の車輪のトルク差があると判定することにより、左右の車輪の動力源のトルク差を的確に判定できるという効果がある。
【0016】
請求項3に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果と、該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が共に、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であるときに、ホイールアライメントずれがあると判定することにより、ホイールアライメントずれを的確に判定できるという効果がある。
【0017】
請求項4に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段により左右の車輪のトルク差が検出されたとき、トルク指令を修正するトルク指令修正手段を備えることにより、車両を正常な状態に戻すことができるという効果がある。
【0018】
請求項5に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段によりホイールアライメントずれが検出されたとき、警告を発する警告発生手段を備えることにより、ドライバーに車両の異常を伝えることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の主要構成の概略を示す図であり、図2は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のシステム構成を示す図である。なお、図2のシステム構成については、本実施形態の車両用駆動制御装置を適用した電気自動車に関連する部分のみを抜き出して示すものである。また、図1は、電気自動車の車体と車輪との関係を上部から見たものである。
【0020】
図1及び図2において、1は電気自動車、2は電気自動車1の車両、3はステアリング、4flは左前輪、4frは右前輪、4rlは左後輪、4rrは右後輪、5flは左前輪用モーター、5frは右前輪用モーター、5rlは左後輪用モーター、5rrは右後輪用モーター、6flは左前輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6frは右前輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6rlは左後輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6rrは右後輪用トウ角・キャンバ角調整機構、10はCPUや演算装置からなるECU(電子制御ユニット)、11は不図示のアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ、12は不図示のブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ、13はステアリング3の操舵角センサ、14はジャイロなどからなるヨーレートセンサ、15は各車輪4fl、4fr、4rl、4rrに設けられ各々の車輪の車輪速センサ、16はステアリング3の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ、17は警告ブザー、18は警告表示をそれぞれ示している。
【0021】
以下、電気自動車1が、左後輪4rl、右後輪4rrが駆動され、左前輪4fl、右前輪4frで操舵される前提で説明するが、本発明の実施の形態はこれに限らず、本発明の趣旨を逸脱しない限り様々な態様が含まれるものである。
【0022】
また、また本実施形態においては、バッテリを充電するめのエンジン及び発電機を備えない、電気のみを動力エネルギー源とする電気自動車1を前提に説明するが、本発明の電気自動車1はエンジンにより駆動される電動機により発電された電力がバッテリに充電されるような車輌に適用されてもよい。
【0023】
ドライバーによるアクセルペダルの踏み込み量はアクセルペダルセンサ11で検出され、またドライバーによるブレーキペダルの踏み込み量はブレーキペダルセンサ12で検出される。これらの検出された情報は、ECU(電子制御ユニット)10に入力されて、電気自動車1に設定された走行モードに応じてECU(電子制御ユニット)10のプログラムに基づいて、モーターの制御信号が計算される。ECU(電子制御ユニット)10から御信号を各モーター5fl、5fr、5rl、5rrに対して出力される。なお、モーターの駆動は本実施形態では、左後輪用モーター5rl、右後輪用モーター5rrに限定される。各モーター5fl、5fr、5rl、5rrは、ホイールモーターを用いると好適であるが、本発明はこれに限定されるものではない。また、特開2004−330973号公報に記載のもののように通常のエンジンにより駆動される車両でもよい。
【0024】
ECU(電子制御ユニット)10には、本発明で説明する制御以外の他の制御を行うためのセンサ類、またそれらのセンサ類のセンシング結果によって車両搭載の各種機器を制御する制御装置類、大容量記憶装置、通信装置などが接続されるものである。また、ECU(電子制御ユニット)10には、不図示の不揮発性記憶手段や書き換え可能な記憶手段が接続されており、当該不揮発性記憶手段には、本実施形態に係る電気自走車を動作させるためのプログラム、及び前述したような他の制御のためのプログラムが記憶・格納されている。
【0025】
ドライバーのステアリング3の操作は、操舵角センサ13によって読み取られ、ECU(電子制御ユニット)10に入力されて、ECU(電子制御ユニット)10から出力される制御信号に基づいてそれぞれの車輪用トウ角・キャンバ角調整機構6fl、6fr、6rl、6rrが制御される。なお、トウ角・キャンバ角調整の調整は本実施形態では、左前輪用トウ角・キャンバ角調整機構6fl、右前輪用トウ角・キャンバ角調整機構6frに限定されている。
【0026】
なお、通常のリンク機構等を用いて機械的に操舵角を変更するものでも良い。
【0027】
ヨーレートセンサ14は、ジャイロなどからなり、車両2の角速度を検出する。ここで検出された情報は、ECU(電子制御ユニット)10に入力され、後述するような本実施形態における電気自動車1の制御に用いられる。また、車輪速センサ15は、各車輪4fl、4fr、4rl、4rrに設けられる。本実施形態においては、車輪速センサ15は、車両2が進行状態であるか、停止状態であるかを、ECU(電子制御ユニット)10が判定するために用いられる。また、操舵トルクセンサ16は、ステアリング3の操舵トルクを検出するセンサであり、本実施形態においては、主として操舵トルクセンサ16で検出された操舵トルクの分布に基づいてECU(電子制御ユニット)10が後述するような制御を行うものである。
【0028】
次に、本実施形態に係る電気自動車1の左右モーターのトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理について説明する。図3及び図4は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を模式的に示す図である。図3及び図4において、左後輪4rl、右後輪4rrに示された黒矢印は、それぞれの車輪のトルクの大小を模式的に示すものであり、また、車両の前方の白矢印は車両の移動方向を示すものである。それぞれの車輪のトルクは、図3及び図4には図示していない各車輪毎に設けられるモーターによって発生する。なお、本実施形態は車両2の直進走行状態を利用して左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれを検出する。
【0029】
図3は、モーター5rl、5rrのトルク差を検出するための原理を示している。図3(A)はドライバーによってアクセルペダルが踏み込まれているアクセルon時で車両が駆動されている状態を示し、図3(B)はドライバーによって、アクセルペダルが踏み込まれていないアクセルoff時で、慣性で車両2が進行している状態を示している。
【0030】
図4は、車輪4rl、4rrのホイールアライメントずれを検出するための原理を示している。図4(A)はドライバーによってアクセルペダルが踏み込まれているアクセルon時で車両が駆動されている状態を示し、図4(B)はドライバーによって、アクセルペダルが踏み込まれていないアクセルoff時で、慣性で車両2が進行している状態を示している。
【0031】
図3及び図4に示すように、アクセルon時の駆動走行においては、車輪4rl、4rrのそれぞれに図示するようなトルクが発生する。逆に、アクセルoff時の非駆動走行においては、車輪4rl、4rrにはトルクが発生しない。モーター5rl、5rrのトルク差が有る場合の図3(A)及び車輪4rl、4rrのホイールアライメントずれがある場合の図4(A)の場合には、直進走行とするために、ドライバーはステアリング3をそれぞれ図示するように操作しなくてはならない。これに対して、アクセルoff時の非駆動走行においては、図3(A)のトルク差が有る場合には、ドライバーはステアリング操作が不要となり、図4(A)のホイールアライメントずれが有る場合には、ドライバーはステアリング操作が必要となる。本実施形態においては、このようなアクセルon時及びアクセルoff時、すなわち駆動走行時及び非駆動走行時のドライバーによるステアリングの操作情報の違いから、左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれを検知する。
【0032】
次に、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車1の左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれの検出動作及び異常時処理について説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の制御用(検出動作用)のフローチャートを示す図である。図5の制御フローは、不図示の不揮発性記憶手段に記述された本実施形態の電気自動車1のプログラムに基づいて、図2におけるECU(電子制御ユニット)10、アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12、操舵角センサ13、ヨーレートセンサ14、各車輪速センサ15、操舵トルクセンサ16、モーター5fl、5fr、5rl、5rr、車輪用トウ角・キャンバ角調整機構6fl、6fr、6rl、6rr、警告ブザー17、警告表示18が協働することによって実現される。当該プログラムは、電気自動車1の全ての制御用プログラムの一つのルーチンである、というようにも考えることができる。なお、図5に示されたフローチャートによる制御はECU(電子制御ユニット)10が起動されることにより開始され、図には示されていないイグニッションスイッチがオフに切り換えられるまで所定の時間毎に繰返し実行される。以下、ヨーレートセンサ14で検出されるヨーレートをγ、操舵角センサ13で検出される操舵角をθ、操舵トルクセンサ16で検出されるステアリング3の操舵トルクをTS、アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12に基づいてECU(電子制御ユニット)10が左後輪モーター6rl、右後輪モーター6rrそれぞれに対して出力するトルク指令(制御信号)をTl、Tr、車輪速センサ15によって検出される車両2の車速をVとする。ただし、ここで、ステアリング3のニュートラル位置から、右の方向における操舵トルクTSの値を+の値と定義し、左の方向における操舵トルクTSの値を−の値と定義する。同様に、操舵角θについても、ステアリング3のニュートラル位置から、右の方向における操舵角θの値を+の値と定義し、左の方向における操舵角θの値を−の値と定義する。
【0033】
図5において、ステップS100で処理が開始されると、まずステップS101に進み、ECU(電子制御ユニット)10は各センサからの信号を読み込む。次に、ステップS102に進み、車両2が直進走行状態であるかどうかが判定される。すなわち、ヨーレートγがγo(ただし、γoは0に十分近い値)より小さいかどうかが判定される。ステップS102の判定結果が、Yesであれば、直進走行状態であることになるので、次にステップS103に進む。ステップS102の判定結果が、Noであれば本実施形態に関連するデータの取得を行うことはないので、ステップS106へと進む。
【0034】
次にステップS103においては、左後輪モーター6rlへのトルク指令Tl、右後輪モーター6rrへのトルク指令Trが等しいかどうかを判定する。すなわち、ステップS103においては、Tl=Trであるか否かが判定され、Yesである場合には、ステップS104へと進む。ステップS103における判定結果がNoである場合には、本実施形態に関連するデータの取得を行うことはないので、ステップS106へと進む。
【0035】
なお、本処理はECU(電子制御ユニット)10により左右異なる指令を行うことがなければ必ずしも必要ではない。
【0036】
ステップS104においては、左後輪モーター6rl、右後輪モーター6rrが駆動中か否かが判定される。ステップS104では、指令トルクTl(=Tr、ステップS103の判定結果のため)が、所定の指令トルク値T1より大きいかどうか判定される。ステップS104における判定Yesの場合には、S105へと進む。ステップS104での判定がNoである場合には、ステップS108に進む。
【0037】
ステップS105では、先ほどの本実施形態の検出原理の欄で説明した駆動走行時のデータを取得するための処理ルーチンが実行される。ステップS105からとぶ処理ルーチンでは、 不図示の書き換え可能な記憶手段である駆動時用RAMに、操舵トルクTSに係るデータを書き込む。これについては後述する。
【0038】
ステップS104にける判定がNoであった場合に進むステップS108では、左後輪モーター6rl、右後輪モーター6rrが非駆動中とみなせるか否かが判定される。このために、ステップS108おいては、|Tl|<To(或いは|Tr|<Toでもよい。ステップS103の判定結果のため)であるかどうかが判定される。ただし、所定の指令トルク値T1と所定のトルク値Toは、T1>>Toの関係を満たすものであり、Toは0に十分近い値とする。ステップS108の判定結果がYesである場合には、ステップS109へと進む。ステップS108の判定結果がNoである場合には、本実施形態に関連するデータの取得を行うことはないので、ステップS106へと進む。
【0039】
ステップS109では、先ほどの本実施形態の検出原理の欄で説明した非駆動走行時のデータを取得するための処理ルーチンが実行される。ステップS109からとぶ処理ルーチンでは、 不図示の書き換え可能な記憶手段である非駆動時用RAMに、操舵トルクTSに係るデータを書き込む。これについては後述する。
【0040】
ステップS106では、取得したデータに基づいて、電気自動車1のモーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常がないかを判定する処理ルーチンを実行する。この詳細については後述する。また、ステップS107では、ステップS106での判定結果を踏まえ、異常に対応するための処理ルーチンを実行する。この詳細についても後述する。最後にステップS110へと進み、左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれの検出動作及び異常時処理の制御フローがENDとなる。
【0041】
次に、ステップS105の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、駆動走行時のデータを取得するためのルーチンである。図6は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。この処理ルーチンでは、先ほど述べたように、駆動走行時の操舵トルクTSに係るデータ処理を行うためのルーチンである。
【0042】
なお、以下の説明において、Nは取得したデータの総数であり、Don(0)、Don(1)・・・・Don(M)はデータ用配列を示している。TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最大値、−TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最小値であるとする(ただし、TSmaxは正の値)ときに、Don(n)は操舵トルクTSが、−TSmax+2TSmax×{n/(M+1)}から−TSmax+2TSmax×{(n+1)/(M+1)}までにあてはまるもののデータ数と定義することができる。
【0043】
以下、駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートについて説明する。ステップS200で処理が開始されると、ステップS201に進み、取得データ数のカウントを行う。ここで、電気自動車1の不図示のイグニッションスイッチがオンとなりECU(電子制御ユニット)10のプログラムが起動される時に、N=0とされ初期化されている。そして、フローチャートのステップS201を通過するたびに、Nは1ずつインクリメントされ、取得データ数のカウントが行われる。
【0044】
次に、ステップS202へと進むと、取得総データ数であるNが所定の値Nmaxより大きいか小さいかが判定される。所定の値Nmaxは、取得データ数の上限値である。このように、取得データ数を制限するのは、不必要にデータ数を増やしてもあまり意義がないからである。そこで、ステップS200では、所定の値Nmaxと取得データ数Nとの大小比較を行う。ステップS202において、判定結果がNoであれば、ステップS205へと進み、取得データ数の調整が行われる。ステップS202の判定結果がYesであればステップS203へと進み、新たなデータの取得が行われる。
【0045】
ステップS205では、取得データ数が上限値Nmaxを超えてしまった場合であるので、取得データ数の調整が行われる。具体的には、Don(0)、Don(1)・・・・Don(M)それぞれを2で割った値を、Don(0)、Don(1)・・・・Don(M)それぞれに再設定する。ただし、このとき、小数点以下は切り捨てる。次に、ステップS206においては、Nの再計算がされる。すなわち、新たに設定し直されたDon(0)、Don(1)・・・・Don(M)の和が計算される。
【0046】
ステップS203においては、新たなデータの読み込みのための計算が行われる。すなわち、新たに取得された操舵トルクデータTSは、Don(0)、Don(1)・・Don(n)・・Don(M)のうち、どのデータであるか(すなわち、nがいくつとなるか)が計算される。具体的にはnは、n=int(TS/(TSmax/(M/2))+M/2+0.5)によって計算することができる。ステップS204においては、ステップS203で求めたnに基づいて、Don(n)を+1インクリメントする。ステップ207へと進み、この処理ルーチンを終了する。
【0047】
次に、ステップS109の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、非駆動走行時のデータを取得するためのルーチンである。図7は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の非駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。この処理ルーチンでは、先ほど述べたように、非駆動走行時の操舵トルクTSに係るデータ処理を行うためのルーチンである。
【0048】
なお、以下の説明において、Kは取得したデータの総数であり、Doff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)はデータ用配列を示している。TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最大値、−TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最小値であるとする(ただし、TSmaxは正の値)ときに、Don(n)は操舵トルクTSが、−TSmax+2TSmax×{n/(M+1)}から−TSmax+2TSmax×{(n+1)/(M+1)}までにあてはまるもののデータ数と定義することができる。
【0049】
以下、非駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートについて説明する。ステップS300で処理が開始されると、ステップS301に進み、取得データ数のカウントを行う。ここで、電気自動車1の不図示のイグニッションスイッチがオンとなりECU(電子制御ユニット)10のプログラムが起動される時に、K=0とされ初期化されている。そして、フローチャートのステップS301を通過するたびに、Kは1ずつインクリメントされ、取得データ数のカウントが行われる。
【0050】
次に、ステップ302へと進むと、取得総データ数であるKが所定の値Kmaxより大きいか小さいかが判定される。所定の値Kmaxは、取得データ数の上限値である。このように、取得データ数を制限するのは、不必要にデータ数を増やしてもあまり意義がないからである。そこで、ステップS300では、所定の値Kmaxと取得データ数Kとの大小比較を行う。ステップS302において、判定結果がNoであれば、ステップS305へと進み、取得データ数の調整が行われる。ステップS302の判定結果がYesであればステップS303へと進み、新たなデータの取得が行われる。
【0051】
ステップS305では、取得データ数が上限値Nmaxを超えてしまった場合であるので、取得データ数の調整が行われる。具体的には、Doff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)それぞれを2で割った値を、Doff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)それぞれに再設定する。ただし、このとき、小数点以下は切り捨てる。次に、ステップS306においては、Kの再計算がされる。すなわち、新たに設定し直されたDoff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)の和が計算される。
【0052】
ステップS303においては、新たなデータの読み込みのための計算が行われる。すなわち、新たに取得された操舵トルクデータTSは、Doff(0)、Doff(1)・・Doff(n)・・Doff(M)のうち、どのデータであるか(すなわち、nがいくつとなるか)が計算される。具体的にはnは、n=int(TS/(TSmax/(M/2))+M/2+0.5)によって計算することができる。ステップS304においては、ステップS303で求めたnに基づいて、Doff(n)を+1インクリメントする。ステップ307へと進み、この処理ルーチンを終了する。
【0053】
以上のようなステップS105の処理ルーチン及びステップS109の処理ルーチンによれば、図8に示すようなヒストグラムを得ることができる。図8は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車におけるデータ処理の概念を示す図である。ここで、図8(A)、(B)に示すヒストグラムは、駆動時用RAMの書き込み処理で取得されたデータに基づいて作成されるものであるが、非駆動時用RAMの書き込み処理で取得されたデータについても同じように考えることができるので、駆動時用RAMの書き込み処理で取得されたデータによるヒストグラムに基づいて説明する。ステップS105の処理ルーチンで作成されるは、操舵トルクデータTSがとり得る最小値である−TSmaxから、最大値TSmaxまでの値を(M+1)の幅で分割して、この分割された幅に入る操舵トルクデータTSの数のヒストグラムである。左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常がないような場合には、操舵トルクは0に付近の値となるはずなので、図(A)のようなヒストグラムが得られることとなる。逆に、左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常があるような場合には、操舵トルクは0からずれた値となるので、図(B)のようなヒストグラムが得られることとなる。
【0054】
次に、ステップS106の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、取得した操舵トルクデータに基づいて、電気自動車1のモーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常がないかを判定する処理ルーチンを実行するものである。図9は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常判定処理に係るフローチャートを示す図である。以下、この異常判定処理に係るフローチャートについて説明する。
【0055】
ステップS400で処理が開始されると、ステップS401に進み、ここで、これまでに取得した操舵トルクのデータ数が判定に十分なものであるかどうかが判定される。すなわち、Nが所定のしきい値であるNoより大きく、かつ、Kが所定のしきい値であるKoより大きいかどうかが判定される。なお、NoはNo<Nmax/2を満足する値、KoはKo<Kmax/2を満足する値とする。これは、図6の駆動時用RAMの書き込み処理フロー中、及び、図7の非駆動時用RAMの書き込み処理のフロー中において、取得データ数の調整を行っているためである。
【0056】
ステップS401で、判定の結果がNo(いいえ)であれば、異常判定を行うための十分なデータ数が得られていないこととなるので、ステップS405へと進みリターンとなる。ステップS401で、判定の結果がYesであれば、異常判定を行うための十分なデータ数が得られていることとなるので、ステップS402以下のフローで異常判定のための処理を行う。
【0057】
ステップS402では、Avg(Don)なる値が計算される。Avg(Don)は、
Avg(Don)=(Don(0)×0+Don(1)×1+・・+Don(M)×M)/N
によって定義されるものであり、前記のヒストグラムにおける各データの重み付け平均のような値である。このAvg(Don)は、概略、直進走行状態時のアクセルonのタイミングでの操舵トルクの平均値と考えることができる。これを、駆動時平均操舵入力量ともいう。
【0058】
また、ステップS403では、Avg(Doff)なる値が計算される。Avg(Doff)は、
Avg(Doff)=(Doff(0)×0+Doff(1)×1+・・+D0ff(M)×M)/K
によって定義されるものである。このAvg(Doff)は、概略、直進走行状態時のアクセルoffのタイミングでの操舵トルクの平均値と考えることができる。これを、非駆動時平均操舵入力量ともいう。
【0059】
ステップS404においては、計算されたAvg(Don)及びAvg(Doff)に基づいて異常の判定(どのような異常が発生したのかの種類分け)が行われる。なお、αは所定の値であり、異常判定における許容量に関する値である。ステアリング3のニュートラル位置から、右の方向における操舵トルクTSの値は+の値と定義され、左の方向における操舵トルクTSの値は−の値と定義されているので、ステップS404では以下のように判定する。
(ケース1)
Avg(Doff)<M/2−α
かつ
Avg(Don)<M/2−α
であるときは、直進・非駆動時での平均操舵トルク、及び、直進・駆動時での平均操舵トルクは共に左方向にずれている(駆動時平均操舵入力量及び非駆動時平均操舵入力量が共に左方向にずれている)ので、ホイールアライメントが右方向に向いていると判定する。
(ケース2)
M/2−α≦Avg(Doff)<M/2+α
かつ
Avg(Don)<M/2−α
であるときは、直進・駆動時での平均操舵トルクが左方向にずれている(駆動時平均操舵入力量が左方向にずれ、非駆動時平均操舵入力量は略中央である)ので、(左後輪用モーター5rlのトルク)>(右後輪用モーター5rrのトルク)
であると判定する。
(ケース3)
M/2−α≦Avg(Doff)<M/2+α
かつ
M/2+α≦Avg(Don)
であるときは、直進・駆動時での平均操舵トルクが右方向にずれている((駆動時平均操舵入力量が右方向にずれ、非駆動時平均操舵入力量が略中央にある))ので、(右後輪用モーター5rrのトルク)>(左後輪用モーター5rlのトルク)であると判定する。
(ケース4)
M/2+α≦Avg(Doff)
かつ
M/2+α≦Avg(Don)
であるときは、直進・非駆動時での平均操舵トルク、及び、直進・駆動時での平均操舵トルクは共に右方向にずれている(駆動時平均操舵入力量及び非駆動時平均操舵入力量が共に右方向にずれている)ので、ホイールアライメントが左方向に向いていると判定する。
(ケース5)
M/2−α≦Avg(Doff)≦M/2+α
かつ
M/2−α≦Avg(Don)≦M/2+α
であるときは、直進・非駆動時での平均操舵トルク、及び、直進・駆動時での平均操舵トルクは共にずれていない(駆動時平均操舵入力量及び非駆動時平均操舵入力量は共に略中央となっている)ので、異常なし、と判定する。
(ケース6)
(ケース1)乃至(ケース5)のいずれにも当てはまらないときには、単純な左右モーターのトルク差でも、車輪のホイールアライメントずれでもない、その他の異常である、と判定する。
【0060】
次に、ステップS107の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、S106で判定された異常の種類に基づいて、これらの異常に対応するための処理ルーチンである。図10は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常時処理に係るフローチャートを示す図である。以下、この異常時処理に係るフローチャートについて説明する。
【0061】
ステップS500で処理が開始されると、ステップS501に進み、異常判定処理ルーチンで異常あり、とされたかどうかを判定する。ステップS501で、Noと判定されれば、ステップS504へと進みリターンする。
【0062】
ステップS501において、Yesと判定された場合には、ステップS502へと進み、S106で判定された異常の種類に基づいて、異常時処理が行われる。異常時処理には、
(a)(左後輪用モーター5rlのトルク)>(右後輪用モーター5rrのトルク)である場合:
左後輪用モーター5rlのトルクを小さくするように補正するか、或いは、右後輪用モーター5rrのトルクを大きくするように補正する。
前者の補正を用いるときには、左後輪用モーター5rlの補正指令トルクをTlc、トルク補正値をTloとすると、
Tlc(補正指令トルク)= Tl(指令トルク)−Tlo(トルク補正値)
とし、後者の補正を用いるときには、右後輪用モーター5rrの補正指令トルクをTrc、トルク補正値をTroとすると、
Trc(補正指令トルク)= Tr(指令トルク)+Tro(トルク補正値)
のように補正する。
(b)(右後輪用モーター5rrのトルク)>(左後輪用モーター5rlのトルク)である場合:
右後輪用モーター5rrのトルクを小さくするように補正するか、或いは、左後輪用モーター5rlのトルクを大きくするように補正する。
前者の補正を用いるときには、右後輪用モーター5rrの補正指令トルクをTrc、トルク補正値をTroとすると、
Trc(補正指令トルク)= Tr(指令トルク)−Tro(トルク補正値)
とし、後者の補正を用いるときには、左後輪用モーター5rlの補正指令トルクをTlc、トルク補正値をTloとすると、
Tlc(補正指令トルク)= Tl(指令トルク)+Tlo(トルク補正値)
のように補正する。
【0063】
上記の(a)、(b)でのトルク補正値を求める方法としては、操舵トルクずれ量に対して計算式で求める方法や、操舵トルクずれ量に対してマップで求める方法など、当該分野において周知の方法を適宜用いればよい。
(c)ホイールアライメント異常である場合:
電気自動車1の不図示の運転席に設けられた警告ブザー17、警告表示18を用いて、ドライバーに対してアラインメント異常が発生した旨報知する。電気自動車1にホイールアライメント補正機構が設けられているような場合には、これにより自動補正を行うようにしてもよい。
(d)その他の異常である場合:
電気自動車1の不図示の運転席に設けられた警告ブザー17、警告表示18を用いて、ドライバーに対して何らかの異常が発生した旨警告する。
【0064】
ステップS503においては、前述の(a)、(b)でトルク補正を行ったような場合には、駆動時用RAM及び非駆動時用RAMを初期化する。そして、ステップS504に進み、リターンとなる。
【0065】
なお、本実施形態においては、後輪のみ駆動される形態で説明したが、前輪のみ駆動される形態や前後輪共に駆動される形態でも良く、前後輪共に駆動の場合、左前後輪、右前後輪それぞれトルクの和が一致するように補正すればよい。
【0066】
また、駆動走行時、非駆動走行時の判定は指令トルクを用いて行ったが、アクセルペダル開度をもとに実施してもよく、この場合、アクセルペダル開度が所定値以上で駆動走行、略0で非駆動走行であると判定するように構成する。さらに、駆動走行時、非駆動走行時の判定は、車両の駆動状態の判定ができれば他の手段を用いても構わない。
【0067】
なお、本実施形態においては、直進・非駆動走行時での操舵トルクTS、及び、直進・駆動走行時での操舵トルクTSのデータを取得して異常判定に供したが、他の実施形態としては、直進・非駆動走行時でのステアリング3の操舵角θ、及び、直進・駆動走行時でのステアリング3の操舵角θのデータを取得して異常判定を行うようにする形態もあり得る。操舵トルクTSも操舵角θの、ステアリングの回転角度と比例する量であるドライバーの操舵入力情報なので、本発明の検出原理を利用することができるわけである。この場合も、操舵トルクTSと同様のデータ処理を行えばよい。また、異常判定のデータ処理についてはその他種々の方法を適宜採用すればよく、要は、先に説明した左右モーターのトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を用いる限り、全て本発明の範疇に含まれるものである。
【0068】
以上、本発明の実施の形態によれば、左車輪用動力源と右車輪用動力源のトルク差に加えて、ホイールアライメントずれをも検出することができるので、本来対処が必要なホイールアライメントずれに対する処置を放置するような事態がなくなり、車両のエネルギー効率の悪化、車輪の偏磨耗の発生を抑制することができる。さらに、車輪用動力源のトルクを検出するトルクセンサを設けることなく、左右動力源のトルク差・ホイールアライメントずれの検出を行うことができるので、コストメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の主要構成の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のシステム構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を模式的に示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の制御用(検出動作用)のフローチャートを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の非駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車におけるデータ処理の概念を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常判定処理に係るフローチャートを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常時処理に係るフローチャートを示す図である。
【図11】前輪操舵・後輪駆動方式の電気自動車におけるトルク異常の補正方法を説明する図である。
【図12】前輪操舵・後輪駆動方式の電気自動車におけるトルク異常の補正方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・電気自動車、2・・・車両、3・・・ステアリング、4fl・・・左前輪、4fr・・・右前輪、4rl・・・左後輪、4rr・・・右後輪、5fl・・・左前輪用モーター、5fr・・・右前輪用モーター、5rl・・・左後輪用モーター、5rr・・・右後輪用モーター、6fl・・・左前輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6fr・・・右前輪用モーター用トウ角・キャンバ角調整機構、6rl・・・左後輪用モーター用トウ角・キャンバ角調整機構、6rr・・・右後輪用モーター用トウ角・キャンバ角調整機構、10・・・ECU(電子制御ユニット)、11・・・アクセルペダルセンサ、12・・・ブレーキペダルセンサ、13・・・ヨーレートセンサ、15・・・車輪速センサ、16・・・操舵トルクセンサ、17・・・警告ブザー、18・・・警告表示
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右の車輪をそれぞれ独立駆動する車両を制御するための車両用駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、左右の車輪をそれぞれ独立駆動する車両を制御するための車両用駆動制御装置に係り、左右の動力源の性能差をなくすように補正したり、或いは、動力源の性能低下を判定したりする機能が搭載された車両用駆動制御装置が知られている。
【0003】
前者のような車両用駆動制御装置としては、例えば、特許文献1(特開2005−160262号公報)に、車両を駆動する動力源に経時変化等に起因する駆動特性差が生じた場合にも左右の車輪に不必要な駆動力差が生じないよう各車輪の駆動力を制御する車両用駆動制御装置が開示されている。
【0004】
また、後者のような車両用駆動制御装置としては、特許文献2(特開2005−168184号公報)に、左右の車輪をそれぞれ駆動する車両用駆動制御装置で、片方の動力源の性能低下を、左右輪の回転差、操舵トルクなどから検出する車両用駆動制御装置が開示されている。
【特許文献1】特開2005−160262号公報
【特許文献2】特開2005−168184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1記載の車両用駆動制御装置のように左右の車輪をそれぞれ駆動する車両で、経年変化などによる駆動力差を生じないように制御する場合、実際の出力トルクを計測する必要があり、トルクセンサなどで直接計測する場合、モーターの個数分センサが必要となり、コストアップの原因となる。直接各モーターの出力トルクを検出しないで済むように特許文献2記載の車両用駆動制御装置のように駆動時の左右の回転差、操舵トルクを単純に見た場合、事故などによりホイールアライメントがずれた状態と、動力源のトルク異常の区別ができず、ホイールアライメントずれをトルク差で補正してしまった場合、燃費の悪化やタイヤの偏磨耗などをおこしてしまう。
【0006】
上記のホイールアライメントずれのことを図11及び図12を参照しつつ説明する。図11及び図12は、前輪操舵・後輪独立駆動方式の電気自動車におけるトルク異常の補正方法を説明する図である。図11及び図12におけるそれぞれの図は電気自動車の車体と車輪との関係を上部から見たものであり、図11及び図12において、2は電気自動車の車体、3はステアリング、4flは左前輪、4frは右前輪、4rlは左後輪、4rrは右後輪をそれぞれ模式的に示すものである。この電気自動車は、左後輪4rl、右後輪4rrが駆動され、左前輪4fl、右前輪4frで操舵される。図11及び図12において、左後輪4rl、右後輪4rrに示された黒矢印は、それぞれの車輪のトルクの大小を模式的に示すものであり、また、車両の前方の白矢印は車両の移動方向を示すものである。それぞれの車輪のトルクは、各車輪毎に設けられる不図示のモーターによって発生する。
【0007】
図11(A)は、電気自動車のドライバーの操作に基づいて、左後輪4rl、右後輪4rrの双方に対して同じようにトルク指令がなされているにも関わらず、図示するように左後輪4rlのトルクTl と右後輪4rrのトルクTrとが異なっており、車体2が左方に移動しようとしている様子を示している。これは、左右それぞれにモーターを持つ電気自動車で同じ各モーターに同じトルク指令を発しても、経年変化などにより、左右出力に差異が出てしまうからである。これに対して、図11(B)に示すようにドライバーがトルク差を打ち消すようにステアリング操作を行っていることを示している。このようなステアリング操作に基づいて、左後輪4rlのトルクTlと右後輪4rrのトルクTrが、同じになるようにモーターのトルク補正を行う(図11(C)参照)。なお、このようなトルク補正は、直進走行時のステアリングトルクまたはステアリング操作角を検出し、トルク制御値を補正する技術がある。
【0008】
次に事故等が要因で電気自動車にホイールアライメントずれが発生している場合について説明する。図12(A)は、電気自動車の後輪がホイールアライメントずれを起こしている様子を示している。このような場合には、左後輪4rl、右後輪4rrの双方に対して同じようにトルク指令がなされ、かつ左右のモーターで性能差がなかったとしても、図示するようにホイールアライメントずれのために電気自走車はA方向に移動してしまう。これに対して、図12(B)に示すようにドライバーがステアリング操作をして軌道修正を行い、このステアリング操作情報に基づいて、上述のトルク補正を行うと、図12(C)に示すような状態となる。すなわち、従来のトルク補正技術では、事故等が要因のホイールアライメントずれと、左右のモーター性能差の区別ができずに、本来修理が必要なホイールアライメントずれを、モーター出力で補正してしまい、その結果、ドライバーが異常を検知できずに、電気車両のエネルギー効率の悪化、車輪の偏磨耗が起きてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、請求項1に係る発明は、左右の車輪を独立に駆動可能な車両を制御する車両用駆動制御装置において、該車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段と、該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が非駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段と、該駆動状態記憶手段と該非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であり、かつ該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が略中央であるという結果であるときに、左右の車輪のトルク差があると判定することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果と、該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が共に、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であるときに、ホイールアライメントずれがあると判定することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段により左右の車輪のトルク差が検出されたとき、トルク指令を修正するトルク指令修正手段を備えることを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用駆動制御装置において、該異常判定手段によりホイールアライメントずれが検出されたとき、警告を発する警告発生手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の車両用駆動制御装置によれば、左右の車輪を独立に駆動可能な車両を制御する車両用駆動制御装置において、該車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段と、該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段と、該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が非駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段と、該駆動状態記憶手段と該非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段と、を備えることにより、左右の車輪の動力源のトルク差、ホイールアライメントずれなどの異常を判定することができるという効果がある。
【0015】
請求項2に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1に記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であり、かつ該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が略中央であるという結果であるときに、左右の車輪のトルク差があると判定することにより、左右の車輪の動力源のトルク差を的確に判定できるという効果がある。
【0016】
請求項3に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段は、該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果と、該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が共に、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であるときに、ホイールアライメントずれがあると判定することにより、ホイールアライメントずれを的確に判定できるという効果がある。
【0017】
請求項4に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段により左右の車輪のトルク差が検出されたとき、トルク指令を修正するトルク指令修正手段を備えることにより、車両を正常な状態に戻すことができるという効果がある。
【0018】
請求項5に記載の車両用駆動制御装置によれば、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用駆動制御装置が奏する効果に加え、該異常判定手段によりホイールアライメントずれが検出されたとき、警告を発する警告発生手段を備えることにより、ドライバーに車両の異常を伝えることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の主要構成の概略を示す図であり、図2は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のシステム構成を示す図である。なお、図2のシステム構成については、本実施形態の車両用駆動制御装置を適用した電気自動車に関連する部分のみを抜き出して示すものである。また、図1は、電気自動車の車体と車輪との関係を上部から見たものである。
【0020】
図1及び図2において、1は電気自動車、2は電気自動車1の車両、3はステアリング、4flは左前輪、4frは右前輪、4rlは左後輪、4rrは右後輪、5flは左前輪用モーター、5frは右前輪用モーター、5rlは左後輪用モーター、5rrは右後輪用モーター、6flは左前輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6frは右前輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6rlは左後輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6rrは右後輪用トウ角・キャンバ角調整機構、10はCPUや演算装置からなるECU(電子制御ユニット)、11は不図示のアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルセンサ、12は不図示のブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルセンサ、13はステアリング3の操舵角センサ、14はジャイロなどからなるヨーレートセンサ、15は各車輪4fl、4fr、4rl、4rrに設けられ各々の車輪の車輪速センサ、16はステアリング3の操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ、17は警告ブザー、18は警告表示をそれぞれ示している。
【0021】
以下、電気自動車1が、左後輪4rl、右後輪4rrが駆動され、左前輪4fl、右前輪4frで操舵される前提で説明するが、本発明の実施の形態はこれに限らず、本発明の趣旨を逸脱しない限り様々な態様が含まれるものである。
【0022】
また、また本実施形態においては、バッテリを充電するめのエンジン及び発電機を備えない、電気のみを動力エネルギー源とする電気自動車1を前提に説明するが、本発明の電気自動車1はエンジンにより駆動される電動機により発電された電力がバッテリに充電されるような車輌に適用されてもよい。
【0023】
ドライバーによるアクセルペダルの踏み込み量はアクセルペダルセンサ11で検出され、またドライバーによるブレーキペダルの踏み込み量はブレーキペダルセンサ12で検出される。これらの検出された情報は、ECU(電子制御ユニット)10に入力されて、電気自動車1に設定された走行モードに応じてECU(電子制御ユニット)10のプログラムに基づいて、モーターの制御信号が計算される。ECU(電子制御ユニット)10から御信号を各モーター5fl、5fr、5rl、5rrに対して出力される。なお、モーターの駆動は本実施形態では、左後輪用モーター5rl、右後輪用モーター5rrに限定される。各モーター5fl、5fr、5rl、5rrは、ホイールモーターを用いると好適であるが、本発明はこれに限定されるものではない。また、特開2004−330973号公報に記載のもののように通常のエンジンにより駆動される車両でもよい。
【0024】
ECU(電子制御ユニット)10には、本発明で説明する制御以外の他の制御を行うためのセンサ類、またそれらのセンサ類のセンシング結果によって車両搭載の各種機器を制御する制御装置類、大容量記憶装置、通信装置などが接続されるものである。また、ECU(電子制御ユニット)10には、不図示の不揮発性記憶手段や書き換え可能な記憶手段が接続されており、当該不揮発性記憶手段には、本実施形態に係る電気自走車を動作させるためのプログラム、及び前述したような他の制御のためのプログラムが記憶・格納されている。
【0025】
ドライバーのステアリング3の操作は、操舵角センサ13によって読み取られ、ECU(電子制御ユニット)10に入力されて、ECU(電子制御ユニット)10から出力される制御信号に基づいてそれぞれの車輪用トウ角・キャンバ角調整機構6fl、6fr、6rl、6rrが制御される。なお、トウ角・キャンバ角調整の調整は本実施形態では、左前輪用トウ角・キャンバ角調整機構6fl、右前輪用トウ角・キャンバ角調整機構6frに限定されている。
【0026】
なお、通常のリンク機構等を用いて機械的に操舵角を変更するものでも良い。
【0027】
ヨーレートセンサ14は、ジャイロなどからなり、車両2の角速度を検出する。ここで検出された情報は、ECU(電子制御ユニット)10に入力され、後述するような本実施形態における電気自動車1の制御に用いられる。また、車輪速センサ15は、各車輪4fl、4fr、4rl、4rrに設けられる。本実施形態においては、車輪速センサ15は、車両2が進行状態であるか、停止状態であるかを、ECU(電子制御ユニット)10が判定するために用いられる。また、操舵トルクセンサ16は、ステアリング3の操舵トルクを検出するセンサであり、本実施形態においては、主として操舵トルクセンサ16で検出された操舵トルクの分布に基づいてECU(電子制御ユニット)10が後述するような制御を行うものである。
【0028】
次に、本実施形態に係る電気自動車1の左右モーターのトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理について説明する。図3及び図4は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を模式的に示す図である。図3及び図4において、左後輪4rl、右後輪4rrに示された黒矢印は、それぞれの車輪のトルクの大小を模式的に示すものであり、また、車両の前方の白矢印は車両の移動方向を示すものである。それぞれの車輪のトルクは、図3及び図4には図示していない各車輪毎に設けられるモーターによって発生する。なお、本実施形態は車両2の直進走行状態を利用して左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれを検出する。
【0029】
図3は、モーター5rl、5rrのトルク差を検出するための原理を示している。図3(A)はドライバーによってアクセルペダルが踏み込まれているアクセルon時で車両が駆動されている状態を示し、図3(B)はドライバーによって、アクセルペダルが踏み込まれていないアクセルoff時で、慣性で車両2が進行している状態を示している。
【0030】
図4は、車輪4rl、4rrのホイールアライメントずれを検出するための原理を示している。図4(A)はドライバーによってアクセルペダルが踏み込まれているアクセルon時で車両が駆動されている状態を示し、図4(B)はドライバーによって、アクセルペダルが踏み込まれていないアクセルoff時で、慣性で車両2が進行している状態を示している。
【0031】
図3及び図4に示すように、アクセルon時の駆動走行においては、車輪4rl、4rrのそれぞれに図示するようなトルクが発生する。逆に、アクセルoff時の非駆動走行においては、車輪4rl、4rrにはトルクが発生しない。モーター5rl、5rrのトルク差が有る場合の図3(A)及び車輪4rl、4rrのホイールアライメントずれがある場合の図4(A)の場合には、直進走行とするために、ドライバーはステアリング3をそれぞれ図示するように操作しなくてはならない。これに対して、アクセルoff時の非駆動走行においては、図3(A)のトルク差が有る場合には、ドライバーはステアリング操作が不要となり、図4(A)のホイールアライメントずれが有る場合には、ドライバーはステアリング操作が必要となる。本実施形態においては、このようなアクセルon時及びアクセルoff時、すなわち駆動走行時及び非駆動走行時のドライバーによるステアリングの操作情報の違いから、左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれを検知する。
【0032】
次に、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車1の左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれの検出動作及び異常時処理について説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の制御用(検出動作用)のフローチャートを示す図である。図5の制御フローは、不図示の不揮発性記憶手段に記述された本実施形態の電気自動車1のプログラムに基づいて、図2におけるECU(電子制御ユニット)10、アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12、操舵角センサ13、ヨーレートセンサ14、各車輪速センサ15、操舵トルクセンサ16、モーター5fl、5fr、5rl、5rr、車輪用トウ角・キャンバ角調整機構6fl、6fr、6rl、6rr、警告ブザー17、警告表示18が協働することによって実現される。当該プログラムは、電気自動車1の全ての制御用プログラムの一つのルーチンである、というようにも考えることができる。なお、図5に示されたフローチャートによる制御はECU(電子制御ユニット)10が起動されることにより開始され、図には示されていないイグニッションスイッチがオフに切り換えられるまで所定の時間毎に繰返し実行される。以下、ヨーレートセンサ14で検出されるヨーレートをγ、操舵角センサ13で検出される操舵角をθ、操舵トルクセンサ16で検出されるステアリング3の操舵トルクをTS、アクセルペダルセンサ11、ブレーキペダルセンサ12に基づいてECU(電子制御ユニット)10が左後輪モーター6rl、右後輪モーター6rrそれぞれに対して出力するトルク指令(制御信号)をTl、Tr、車輪速センサ15によって検出される車両2の車速をVとする。ただし、ここで、ステアリング3のニュートラル位置から、右の方向における操舵トルクTSの値を+の値と定義し、左の方向における操舵トルクTSの値を−の値と定義する。同様に、操舵角θについても、ステアリング3のニュートラル位置から、右の方向における操舵角θの値を+の値と定義し、左の方向における操舵角θの値を−の値と定義する。
【0033】
図5において、ステップS100で処理が開始されると、まずステップS101に進み、ECU(電子制御ユニット)10は各センサからの信号を読み込む。次に、ステップS102に進み、車両2が直進走行状態であるかどうかが判定される。すなわち、ヨーレートγがγo(ただし、γoは0に十分近い値)より小さいかどうかが判定される。ステップS102の判定結果が、Yesであれば、直進走行状態であることになるので、次にステップS103に進む。ステップS102の判定結果が、Noであれば本実施形態に関連するデータの取得を行うことはないので、ステップS106へと進む。
【0034】
次にステップS103においては、左後輪モーター6rlへのトルク指令Tl、右後輪モーター6rrへのトルク指令Trが等しいかどうかを判定する。すなわち、ステップS103においては、Tl=Trであるか否かが判定され、Yesである場合には、ステップS104へと進む。ステップS103における判定結果がNoである場合には、本実施形態に関連するデータの取得を行うことはないので、ステップS106へと進む。
【0035】
なお、本処理はECU(電子制御ユニット)10により左右異なる指令を行うことがなければ必ずしも必要ではない。
【0036】
ステップS104においては、左後輪モーター6rl、右後輪モーター6rrが駆動中か否かが判定される。ステップS104では、指令トルクTl(=Tr、ステップS103の判定結果のため)が、所定の指令トルク値T1より大きいかどうか判定される。ステップS104における判定Yesの場合には、S105へと進む。ステップS104での判定がNoである場合には、ステップS108に進む。
【0037】
ステップS105では、先ほどの本実施形態の検出原理の欄で説明した駆動走行時のデータを取得するための処理ルーチンが実行される。ステップS105からとぶ処理ルーチンでは、 不図示の書き換え可能な記憶手段である駆動時用RAMに、操舵トルクTSに係るデータを書き込む。これについては後述する。
【0038】
ステップS104にける判定がNoであった場合に進むステップS108では、左後輪モーター6rl、右後輪モーター6rrが非駆動中とみなせるか否かが判定される。このために、ステップS108おいては、|Tl|<To(或いは|Tr|<Toでもよい。ステップS103の判定結果のため)であるかどうかが判定される。ただし、所定の指令トルク値T1と所定のトルク値Toは、T1>>Toの関係を満たすものであり、Toは0に十分近い値とする。ステップS108の判定結果がYesである場合には、ステップS109へと進む。ステップS108の判定結果がNoである場合には、本実施形態に関連するデータの取得を行うことはないので、ステップS106へと進む。
【0039】
ステップS109では、先ほどの本実施形態の検出原理の欄で説明した非駆動走行時のデータを取得するための処理ルーチンが実行される。ステップS109からとぶ処理ルーチンでは、 不図示の書き換え可能な記憶手段である非駆動時用RAMに、操舵トルクTSに係るデータを書き込む。これについては後述する。
【0040】
ステップS106では、取得したデータに基づいて、電気自動車1のモーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常がないかを判定する処理ルーチンを実行する。この詳細については後述する。また、ステップS107では、ステップS106での判定結果を踏まえ、異常に対応するための処理ルーチンを実行する。この詳細についても後述する。最後にステップS110へと進み、左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれの検出動作及び異常時処理の制御フローがENDとなる。
【0041】
次に、ステップS105の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、駆動走行時のデータを取得するためのルーチンである。図6は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。この処理ルーチンでは、先ほど述べたように、駆動走行時の操舵トルクTSに係るデータ処理を行うためのルーチンである。
【0042】
なお、以下の説明において、Nは取得したデータの総数であり、Don(0)、Don(1)・・・・Don(M)はデータ用配列を示している。TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最大値、−TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最小値であるとする(ただし、TSmaxは正の値)ときに、Don(n)は操舵トルクTSが、−TSmax+2TSmax×{n/(M+1)}から−TSmax+2TSmax×{(n+1)/(M+1)}までにあてはまるもののデータ数と定義することができる。
【0043】
以下、駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートについて説明する。ステップS200で処理が開始されると、ステップS201に進み、取得データ数のカウントを行う。ここで、電気自動車1の不図示のイグニッションスイッチがオンとなりECU(電子制御ユニット)10のプログラムが起動される時に、N=0とされ初期化されている。そして、フローチャートのステップS201を通過するたびに、Nは1ずつインクリメントされ、取得データ数のカウントが行われる。
【0044】
次に、ステップS202へと進むと、取得総データ数であるNが所定の値Nmaxより大きいか小さいかが判定される。所定の値Nmaxは、取得データ数の上限値である。このように、取得データ数を制限するのは、不必要にデータ数を増やしてもあまり意義がないからである。そこで、ステップS200では、所定の値Nmaxと取得データ数Nとの大小比較を行う。ステップS202において、判定結果がNoであれば、ステップS205へと進み、取得データ数の調整が行われる。ステップS202の判定結果がYesであればステップS203へと進み、新たなデータの取得が行われる。
【0045】
ステップS205では、取得データ数が上限値Nmaxを超えてしまった場合であるので、取得データ数の調整が行われる。具体的には、Don(0)、Don(1)・・・・Don(M)それぞれを2で割った値を、Don(0)、Don(1)・・・・Don(M)それぞれに再設定する。ただし、このとき、小数点以下は切り捨てる。次に、ステップS206においては、Nの再計算がされる。すなわち、新たに設定し直されたDon(0)、Don(1)・・・・Don(M)の和が計算される。
【0046】
ステップS203においては、新たなデータの読み込みのための計算が行われる。すなわち、新たに取得された操舵トルクデータTSは、Don(0)、Don(1)・・Don(n)・・Don(M)のうち、どのデータであるか(すなわち、nがいくつとなるか)が計算される。具体的にはnは、n=int(TS/(TSmax/(M/2))+M/2+0.5)によって計算することができる。ステップS204においては、ステップS203で求めたnに基づいて、Don(n)を+1インクリメントする。ステップ207へと進み、この処理ルーチンを終了する。
【0047】
次に、ステップS109の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、非駆動走行時のデータを取得するためのルーチンである。図7は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の非駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。この処理ルーチンでは、先ほど述べたように、非駆動走行時の操舵トルクTSに係るデータ処理を行うためのルーチンである。
【0048】
なお、以下の説明において、Kは取得したデータの総数であり、Doff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)はデータ用配列を示している。TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最大値、−TSmaxを取得し得る操舵トルクデータTSの最小値であるとする(ただし、TSmaxは正の値)ときに、Don(n)は操舵トルクTSが、−TSmax+2TSmax×{n/(M+1)}から−TSmax+2TSmax×{(n+1)/(M+1)}までにあてはまるもののデータ数と定義することができる。
【0049】
以下、非駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートについて説明する。ステップS300で処理が開始されると、ステップS301に進み、取得データ数のカウントを行う。ここで、電気自動車1の不図示のイグニッションスイッチがオンとなりECU(電子制御ユニット)10のプログラムが起動される時に、K=0とされ初期化されている。そして、フローチャートのステップS301を通過するたびに、Kは1ずつインクリメントされ、取得データ数のカウントが行われる。
【0050】
次に、ステップ302へと進むと、取得総データ数であるKが所定の値Kmaxより大きいか小さいかが判定される。所定の値Kmaxは、取得データ数の上限値である。このように、取得データ数を制限するのは、不必要にデータ数を増やしてもあまり意義がないからである。そこで、ステップS300では、所定の値Kmaxと取得データ数Kとの大小比較を行う。ステップS302において、判定結果がNoであれば、ステップS305へと進み、取得データ数の調整が行われる。ステップS302の判定結果がYesであればステップS303へと進み、新たなデータの取得が行われる。
【0051】
ステップS305では、取得データ数が上限値Nmaxを超えてしまった場合であるので、取得データ数の調整が行われる。具体的には、Doff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)それぞれを2で割った値を、Doff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)それぞれに再設定する。ただし、このとき、小数点以下は切り捨てる。次に、ステップS306においては、Kの再計算がされる。すなわち、新たに設定し直されたDoff(0)、Doff(1)・・・・Doff(M)の和が計算される。
【0052】
ステップS303においては、新たなデータの読み込みのための計算が行われる。すなわち、新たに取得された操舵トルクデータTSは、Doff(0)、Doff(1)・・Doff(n)・・Doff(M)のうち、どのデータであるか(すなわち、nがいくつとなるか)が計算される。具体的にはnは、n=int(TS/(TSmax/(M/2))+M/2+0.5)によって計算することができる。ステップS304においては、ステップS303で求めたnに基づいて、Doff(n)を+1インクリメントする。ステップ307へと進み、この処理ルーチンを終了する。
【0053】
以上のようなステップS105の処理ルーチン及びステップS109の処理ルーチンによれば、図8に示すようなヒストグラムを得ることができる。図8は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車におけるデータ処理の概念を示す図である。ここで、図8(A)、(B)に示すヒストグラムは、駆動時用RAMの書き込み処理で取得されたデータに基づいて作成されるものであるが、非駆動時用RAMの書き込み処理で取得されたデータについても同じように考えることができるので、駆動時用RAMの書き込み処理で取得されたデータによるヒストグラムに基づいて説明する。ステップS105の処理ルーチンで作成されるは、操舵トルクデータTSがとり得る最小値である−TSmaxから、最大値TSmaxまでの値を(M+1)の幅で分割して、この分割された幅に入る操舵トルクデータTSの数のヒストグラムである。左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常がないような場合には、操舵トルクは0に付近の値となるはずなので、図(A)のようなヒストグラムが得られることとなる。逆に、左右モーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常があるような場合には、操舵トルクは0からずれた値となるので、図(B)のようなヒストグラムが得られることとなる。
【0054】
次に、ステップS106の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、取得した操舵トルクデータに基づいて、電気自動車1のモーターのトルク差・車輪のホイールアライメントずれなどの異常がないかを判定する処理ルーチンを実行するものである。図9は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常判定処理に係るフローチャートを示す図である。以下、この異常判定処理に係るフローチャートについて説明する。
【0055】
ステップS400で処理が開始されると、ステップS401に進み、ここで、これまでに取得した操舵トルクのデータ数が判定に十分なものであるかどうかが判定される。すなわち、Nが所定のしきい値であるNoより大きく、かつ、Kが所定のしきい値であるKoより大きいかどうかが判定される。なお、NoはNo<Nmax/2を満足する値、KoはKo<Kmax/2を満足する値とする。これは、図6の駆動時用RAMの書き込み処理フロー中、及び、図7の非駆動時用RAMの書き込み処理のフロー中において、取得データ数の調整を行っているためである。
【0056】
ステップS401で、判定の結果がNo(いいえ)であれば、異常判定を行うための十分なデータ数が得られていないこととなるので、ステップS405へと進みリターンとなる。ステップS401で、判定の結果がYesであれば、異常判定を行うための十分なデータ数が得られていることとなるので、ステップS402以下のフローで異常判定のための処理を行う。
【0057】
ステップS402では、Avg(Don)なる値が計算される。Avg(Don)は、
Avg(Don)=(Don(0)×0+Don(1)×1+・・+Don(M)×M)/N
によって定義されるものであり、前記のヒストグラムにおける各データの重み付け平均のような値である。このAvg(Don)は、概略、直進走行状態時のアクセルonのタイミングでの操舵トルクの平均値と考えることができる。これを、駆動時平均操舵入力量ともいう。
【0058】
また、ステップS403では、Avg(Doff)なる値が計算される。Avg(Doff)は、
Avg(Doff)=(Doff(0)×0+Doff(1)×1+・・+D0ff(M)×M)/K
によって定義されるものである。このAvg(Doff)は、概略、直進走行状態時のアクセルoffのタイミングでの操舵トルクの平均値と考えることができる。これを、非駆動時平均操舵入力量ともいう。
【0059】
ステップS404においては、計算されたAvg(Don)及びAvg(Doff)に基づいて異常の判定(どのような異常が発生したのかの種類分け)が行われる。なお、αは所定の値であり、異常判定における許容量に関する値である。ステアリング3のニュートラル位置から、右の方向における操舵トルクTSの値は+の値と定義され、左の方向における操舵トルクTSの値は−の値と定義されているので、ステップS404では以下のように判定する。
(ケース1)
Avg(Doff)<M/2−α
かつ
Avg(Don)<M/2−α
であるときは、直進・非駆動時での平均操舵トルク、及び、直進・駆動時での平均操舵トルクは共に左方向にずれている(駆動時平均操舵入力量及び非駆動時平均操舵入力量が共に左方向にずれている)ので、ホイールアライメントが右方向に向いていると判定する。
(ケース2)
M/2−α≦Avg(Doff)<M/2+α
かつ
Avg(Don)<M/2−α
であるときは、直進・駆動時での平均操舵トルクが左方向にずれている(駆動時平均操舵入力量が左方向にずれ、非駆動時平均操舵入力量は略中央である)ので、(左後輪用モーター5rlのトルク)>(右後輪用モーター5rrのトルク)
であると判定する。
(ケース3)
M/2−α≦Avg(Doff)<M/2+α
かつ
M/2+α≦Avg(Don)
であるときは、直進・駆動時での平均操舵トルクが右方向にずれている((駆動時平均操舵入力量が右方向にずれ、非駆動時平均操舵入力量が略中央にある))ので、(右後輪用モーター5rrのトルク)>(左後輪用モーター5rlのトルク)であると判定する。
(ケース4)
M/2+α≦Avg(Doff)
かつ
M/2+α≦Avg(Don)
であるときは、直進・非駆動時での平均操舵トルク、及び、直進・駆動時での平均操舵トルクは共に右方向にずれている(駆動時平均操舵入力量及び非駆動時平均操舵入力量が共に右方向にずれている)ので、ホイールアライメントが左方向に向いていると判定する。
(ケース5)
M/2−α≦Avg(Doff)≦M/2+α
かつ
M/2−α≦Avg(Don)≦M/2+α
であるときは、直進・非駆動時での平均操舵トルク、及び、直進・駆動時での平均操舵トルクは共にずれていない(駆動時平均操舵入力量及び非駆動時平均操舵入力量は共に略中央となっている)ので、異常なし、と判定する。
(ケース6)
(ケース1)乃至(ケース5)のいずれにも当てはまらないときには、単純な左右モーターのトルク差でも、車輪のホイールアライメントずれでもない、その他の異常である、と判定する。
【0060】
次に、ステップS107の処理ルーチンについて説明する。このルーチンは、S106で判定された異常の種類に基づいて、これらの異常に対応するための処理ルーチンである。図10は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常時処理に係るフローチャートを示す図である。以下、この異常時処理に係るフローチャートについて説明する。
【0061】
ステップS500で処理が開始されると、ステップS501に進み、異常判定処理ルーチンで異常あり、とされたかどうかを判定する。ステップS501で、Noと判定されれば、ステップS504へと進みリターンする。
【0062】
ステップS501において、Yesと判定された場合には、ステップS502へと進み、S106で判定された異常の種類に基づいて、異常時処理が行われる。異常時処理には、
(a)(左後輪用モーター5rlのトルク)>(右後輪用モーター5rrのトルク)である場合:
左後輪用モーター5rlのトルクを小さくするように補正するか、或いは、右後輪用モーター5rrのトルクを大きくするように補正する。
前者の補正を用いるときには、左後輪用モーター5rlの補正指令トルクをTlc、トルク補正値をTloとすると、
Tlc(補正指令トルク)= Tl(指令トルク)−Tlo(トルク補正値)
とし、後者の補正を用いるときには、右後輪用モーター5rrの補正指令トルクをTrc、トルク補正値をTroとすると、
Trc(補正指令トルク)= Tr(指令トルク)+Tro(トルク補正値)
のように補正する。
(b)(右後輪用モーター5rrのトルク)>(左後輪用モーター5rlのトルク)である場合:
右後輪用モーター5rrのトルクを小さくするように補正するか、或いは、左後輪用モーター5rlのトルクを大きくするように補正する。
前者の補正を用いるときには、右後輪用モーター5rrの補正指令トルクをTrc、トルク補正値をTroとすると、
Trc(補正指令トルク)= Tr(指令トルク)−Tro(トルク補正値)
とし、後者の補正を用いるときには、左後輪用モーター5rlの補正指令トルクをTlc、トルク補正値をTloとすると、
Tlc(補正指令トルク)= Tl(指令トルク)+Tlo(トルク補正値)
のように補正する。
【0063】
上記の(a)、(b)でのトルク補正値を求める方法としては、操舵トルクずれ量に対して計算式で求める方法や、操舵トルクずれ量に対してマップで求める方法など、当該分野において周知の方法を適宜用いればよい。
(c)ホイールアライメント異常である場合:
電気自動車1の不図示の運転席に設けられた警告ブザー17、警告表示18を用いて、ドライバーに対してアラインメント異常が発生した旨報知する。電気自動車1にホイールアライメント補正機構が設けられているような場合には、これにより自動補正を行うようにしてもよい。
(d)その他の異常である場合:
電気自動車1の不図示の運転席に設けられた警告ブザー17、警告表示18を用いて、ドライバーに対して何らかの異常が発生した旨警告する。
【0064】
ステップS503においては、前述の(a)、(b)でトルク補正を行ったような場合には、駆動時用RAM及び非駆動時用RAMを初期化する。そして、ステップS504に進み、リターンとなる。
【0065】
なお、本実施形態においては、後輪のみ駆動される形態で説明したが、前輪のみ駆動される形態や前後輪共に駆動される形態でも良く、前後輪共に駆動の場合、左前後輪、右前後輪それぞれトルクの和が一致するように補正すればよい。
【0066】
また、駆動走行時、非駆動走行時の判定は指令トルクを用いて行ったが、アクセルペダル開度をもとに実施してもよく、この場合、アクセルペダル開度が所定値以上で駆動走行、略0で非駆動走行であると判定するように構成する。さらに、駆動走行時、非駆動走行時の判定は、車両の駆動状態の判定ができれば他の手段を用いても構わない。
【0067】
なお、本実施形態においては、直進・非駆動走行時での操舵トルクTS、及び、直進・駆動走行時での操舵トルクTSのデータを取得して異常判定に供したが、他の実施形態としては、直進・非駆動走行時でのステアリング3の操舵角θ、及び、直進・駆動走行時でのステアリング3の操舵角θのデータを取得して異常判定を行うようにする形態もあり得る。操舵トルクTSも操舵角θの、ステアリングの回転角度と比例する量であるドライバーの操舵入力情報なので、本発明の検出原理を利用することができるわけである。この場合も、操舵トルクTSと同様のデータ処理を行えばよい。また、異常判定のデータ処理についてはその他種々の方法を適宜採用すればよく、要は、先に説明した左右モーターのトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を用いる限り、全て本発明の範疇に含まれるものである。
【0068】
以上、本発明の実施の形態によれば、左車輪用動力源と右車輪用動力源のトルク差に加えて、ホイールアライメントずれをも検出することができるので、本来対処が必要なホイールアライメントずれに対する処置を放置するような事態がなくなり、車両のエネルギー効率の悪化、車輪の偏磨耗の発生を抑制することができる。さらに、車輪用動力源のトルクを検出するトルクセンサを設けることなく、左右動力源のトルク差・ホイールアライメントずれの検出を行うことができるので、コストメリットが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の主要構成の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のシステム構成を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車のトルク差・ホイールアライメントずれの検出原理を模式的に示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の制御用(検出動作用)のフローチャートを示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の非駆動時用RAMの書き込み処理に係るフローチャートを示す図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車におけるデータ処理の概念を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常判定処理に係るフローチャートを示す図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る車両用駆動制御装置を適用した電気自動車の異常時処理に係るフローチャートを示す図である。
【図11】前輪操舵・後輪駆動方式の電気自動車におけるトルク異常の補正方法を説明する図である。
【図12】前輪操舵・後輪駆動方式の電気自動車におけるトルク異常の補正方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・電気自動車、2・・・車両、3・・・ステアリング、4fl・・・左前輪、4fr・・・右前輪、4rl・・・左後輪、4rr・・・右後輪、5fl・・・左前輪用モーター、5fr・・・右前輪用モーター、5rl・・・左後輪用モーター、5rr・・・右後輪用モーター、6fl・・・左前輪用トウ角・キャンバ角調整機構、6fr・・・右前輪用モーター用トウ角・キャンバ角調整機構、6rl・・・左後輪用モーター用トウ角・キャンバ角調整機構、6rr・・・右後輪用モーター用トウ角・キャンバ角調整機構、10・・・ECU(電子制御ユニット)、11・・・アクセルペダルセンサ、12・・・ブレーキペダルセンサ、13・・・ヨーレートセンサ、15・・・車輪速センサ、16・・・操舵トルクセンサ、17・・・警告ブザー、18・・・警告表示
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右の車輪を独立に駆動可能な車両を制御する車両用駆動制御装置において、
該車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段と、
該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、
ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、
該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段と、
該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が非駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段と、
該駆動状態記憶手段と該非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段と、を備えることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項2】
該異常判定手段は、
該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であり、かつ該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が略中央であるという結果であるときに、左右の車輪のトルク差があると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項3】
該異常判定手段は、
該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果と、該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が共に、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であるときに、ホイールアライメントずれがあると判定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項4】
該異常判定手段により左右の車輪のトルク差が検出されたとき、トルク指令を修正するトルク指令修正手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用駆動制御装置。
【請求項5】
該異常判定手段によりホイールアライメントずれが検出されたとき、警告を発する警告発生手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用駆動制御装置。
【請求項1】
左右の車輪を独立に駆動可能な車両を制御する車両用駆動制御装置において、
該車両が直進走行状態にあるかどうかを判定する直進走行状態判定手段と、
該車両が駆動状態か非駆動状態かを判定する駆動状態判定手段と、
ドライバーの操舵入力を検出する操舵入力検出手段と、
該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する駆動状態記憶手段と、
該直進走行状態判定手段により車両が直進走行状態にあると判定された場合で、該駆動状態判定手段により車両が非駆動状態にあると判定されたときの該操舵入力検出手段による検出結果を記憶する非駆動状態記憶手段と、
該駆動状態記憶手段と該非駆動状態記憶手段とに基づいて異常判定を行う異常判定手段と、を備えることを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項2】
該異常判定手段は、
該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であり、かつ該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が、操舵入力量が略中央であるという結果であるときに、左右の車輪のトルク差があると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項3】
該異常判定手段は、
該駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果と、該非駆動状態記憶手段に記憶されている該操舵入力検出手段による検出結果が共に、操舵入力量が左方向または右方向にずれているという結果であるときに、ホイールアライメントずれがあると判定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項4】
該異常判定手段により左右の車輪のトルク差が検出されたとき、トルク指令を修正するトルク指令修正手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用駆動制御装置。
【請求項5】
該異常判定手段によりホイールアライメントずれが検出されたとき、警告を発する警告発生手段を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の車両用駆動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−61326(P2008−61326A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−233218(P2006−233218)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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