説明

車車間通信装置

【課題】本発明は、通信相手を特定するのに時間を要することなく、また、レーダ波の干渉の影響をなくし車両間で情報の交換を行うことができる車車間通信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】測位システムの衛星から受信した衛星時刻情報に合わせたタイミングで自車両のレーダ装置にレーダ波を送信させるタイミング合わせ手段と、他車両のレーダ装置から衛星時刻情報に合わせたタイミングで送信されたレーダ波と自車両のレーダ装置から衛星時刻情報に合わせたタイミングで送信するレーダ波とのビートから他車両の位置情報を検出する検出手段と、他車両の位置情報に基づいて他車両が自車両から所定範囲に存在するとき、レーダ波に通信情報を載せて送信する送信手段と、他車両から受信したレーダ波から通信情報を分離して取り出す受信手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車車間通信装置に係り、特に、レーダを用いて車車間通信データを送受信する車車間通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダは他車両などの障害物を検出することができるが、追従制御や衝突回避制御を精度良く行うためには、お互いの車両挙動がどのように変化するかが高精度に分かっている必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、通信ベースバンド信号をアップコンバートして車載レーダアンテナから送信し、車載レーダアンテナで受信してレーダ送信信号を用いてダウンコンバートした信号から通信ベースバンド信号を分離することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、道路交通通信を利用して他車両のレーダが使用していない周波数にレーダ送信信号の周波数を変え、他車両のレーダ装置との干渉を防ぐことが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、カメラ、レーダ、通信処理部によって周辺の車両の情報を取得し、周辺の車両が正常走行から逸脱するのを予測して回避策を決定することが記載されている。
【特許文献1】特開平11−331065号公報
【特許文献2】特開2000−304851号公報
【特許文献3】特開2005−115484号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
追従制御や衝突回避制御を行うに際し、お互いの車両挙動がどのように変化するかを知るために、車車間通信によって車両間の情報を交換する方法が検討されているが、周辺に多数の車両が存在する場合、位置情報を交換する相手(追従制御や衝突回避制御の相手)を特定するために比較的長い時間が必要となる。このため、特に、衝突回避のように短時間で制御を行う必要がある場合、車車間通信では実用上無理があるという問題があった。
【0007】
また、特許文献1のレーダを用いた車車間通信システムでは、レーダ波が干渉して正確に通信できない場合があるという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、通信相手を特定するのに時間を要することなく、また、レーダ波の干渉の影響をなくし車両間で情報の交換を行うことができる車車間通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車車間通信装置は、測位システムの衛星から受信した衛星時刻情報に合わせたタイミングで自車両のレーダ装置にレーダ波を送信させるタイミング合わせ手段と、
他車両のレーダ装置から前記衛星時刻情報に合わせたタイミングで送信されたレーダ波と自車両のレーダ装置から前記衛星時刻情報に合わせたタイミングで送信するレーダ波とのビートから前記他車両の位置情報を検出する検出手段と、
前記他車両の位置情報に基づいて前記他車両が自車両から所定範囲に存在するとき、前記レーダ波に通信情報を載せて送信する送信手段と、
前記他車両から受信したレーダ波から通信情報を分離して取り出す受信手段を有することにより、通信相手を特定するのに時間を要することなく、また、レーダ波の干渉の影響をなくし車両間で情報の交換を行うことができる。
【0010】
前記車車間通信装置において、
前記レーダ波は、周波数上昇期間と周波数下降期間が繰り返す周波数変調期間と周波数変調期間の間で周波数変調を行わない非周波数変調期間からなり、
前記送信手段は、前記レーダ波の前記非周波数変調期間に前記通信情報を載せることができる。
【0011】
前記車車間通信装置において、
前記他車両が自車両から所定範囲に存在するとき、前記タイミング合わせ手段を動作させる同期モードと、前記タイミング合わせ手段を停止させる非同期モードを切替えるモード切替え手段を有することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、通信相手を特定するのに時間を要することなく、また、レーダ波の干渉の影響をなくし車両間で情報の交換を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の車車間通信装置の一実施形態のブロック図を示す。同図中、車両制御ECU(電子制御装置)11は、車両10の追従制御や衝突回避制御を行う。レーダ装置12は、例えばアレイアンテナを持ち電波の受信方向を判別できるミリ波またはレーザーを使ったFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)レーダであり、車両の前方または前方及び後方の障害物を検出し、検出した障害物の方向、距離、相対速度を車両制御ECU11に通知する。また、レーダ装置12はGPS(Global Positioning System)受信機13で受信した測位システムの衛星時刻情報を供給されると共に、車両制御ECU11から加減速、操舵等の自車両制御情報を供給されており、上記自車両制御情報で変調したレーダ波を上記衛星時刻情報に同期して送信する。
【0015】
車両20は車両10と車両制御情報の相互通信を行う。車両制御ECU21は、車両20の追従制御や衝突回避制御を行う。レーダ装置22は、例えばアレイアンテナを持ち電波の到来方向を判別できるミリ波またはレーザーを使ったFMCWレーダであり、車両の前方または前方及び後方の障害物を検出し、検出した障害物の方向、距離、相対速度を車両制御ECU21に通知する。また、レーダ装置22はGPS受信機23で受信した測位システムの衛星時刻情報を供給されると共に、車両制御ECU21から加減速、操舵等の自車両制御情報を供給されており、上記自車両制御情報で変調したレーダ波を上記衛星時刻情報に同期して送信する。
【0016】
図2は、レーダ装置12,22の一実施形態のブロック図を示す。同図中、発振器31は連続波(CW)を周波数変調(FM)した送信信号を発生し、この送信信号は送信アンテナ32から送信される。
【0017】
素子アンテナ33〜33nは受信アレイアンテナを構成しており、素子アンテナ33〜33nで受信された信号はミキサ34〜34nで送信信号とミキシングされてビート信号とされてFFT(Fast Fourier Transform)35〜35nに供給され、デジタル化されたのちに周波数分析される。この後、合成回路36で合成されてレーダ信号解析回路37に供給される。レーダ信号解析回路37は障害物または制御対象車両の位置(方向、距離、相対速度)を解析する。この解析結果は車両制御ECUに通知される。
【0018】
制御回路38はレーダ装置全体の制御を行うもので、GPS受信機から衛星時刻情報を供給されて、同期モードと非同期モードの切替え、同期モードにおける周波数変調期間と非周波数変調期間のタイミング、非周波数変調期間の通信データの挿入等を発振器31に指示する。通信回路39は、外部から供給された通信データを非周波数変調期間に挿入して他車両に送信するために制御回路38に供給する。また、通信回路39はFFT35nの出力信号を供給され、この信号から他車両が送信した通信データを取り出して車両制御ECUに通知する。
【0019】
図3は、追従制御を説明するための図を示す。同図中、車両10は自車から所定距離(例えば数10m)以内で先行する車両20との間でレーダ装置12,22を用いて相互に通信することで、車両20の加減速、操舵等の車両制御情報をリアルタイムに得て、車間を狭め操舵追従を行う。なお、追従制御を行う場合には、先行する車両20のレーダ装置22は車両20の後方の障害物を検出できる必要がある。
【0020】
図4は、衝突回避制御を説明するための図を示す。同図中、車両10は所定距離(例えば数10m)以内で対向する車両20との間でレーダ装置12,22を用いて相互に通信することで、互いの加減速、操舵等の車両制御情報を得て、車両10,20が共に例えば左方向に操舵することで衝突回避を行う。
【0021】
ここで、ミリ波またはレーザーを使ったレーダ装置12は、近くに同種のレーダ装置22が存在する場合に、相互干渉を起こすことがある。しかし、近くに存在する同種のレーダ装置12,22が同期して正確に同一タイミングで発信を行うと、近くに存在する相手のレーダ装置の位置をビート信号として検出することができる。そして、GPS受信機13,23で得た衛星時刻情報を用いれば、レーダ装置12,22は、10nsec以下の誤差で精度良く同期をとることが可能となる。
【0022】
追従制御または衝突回避制御時について説明する。レーダ装置12,22が出力するレーダ波は、周波数上昇期間と周波数下降期間が繰り返す周波数変調期間と、周波数変調期間の間で周波数変調を行わない非周波数変調期間からなり、両レーダ波は同期がとれており周波数変調期間と非周波数変調期間は同一タイミングとなっている。
【0023】
レーダ装置12において、車両10のレーダ装置12が出力するレーダ波は図5(A)に実線Iaで示すようになり、車両20のレーダ装置22が出力するレーダ波は図5(A)に破線Ibで示すようになり(縦軸は周波数差)、このビート信号から車両10,20間の距離と相対速度が求められる。
【0024】
また、レーダ装置22において、車両20のレーダ装置22が出力するレーダ波は図5(B)に実線IIaで示すようになり、車両10のレーダ装置12が出力するレーダ波は図5(B)に破線IIbで示すようになり、両レーダ波のビート信号は図5(B)に実線IIcで示すようになり、このビート信号から車両10,20間の距離と相対速度が求められる。
【0025】
レーダ装置12,22を用いて車車間通信を行う場合、非周波数変調期間に通信データを載せる。レーダ装置12において、図6(A)に実線IIIaで示すように、非周波数変調期間を均等に分割したタイミングで例えば8つの周波数ピークを形成し、そのうち1,3,4番目の周波数ピークP1,P3,P4は非周波数変調期間を均等に分割したタイミングの変更を行わず、残りの2,5,6,7,8番目の周波数ピークP2,P5,P6,P7,P8は非周波数変調期間を均等に分割したタイミングから、レーダ装置12にて検出されたレーダ装置12のレーダ波とレーダ装置22のレーダ波の位相差分だけ進め(早め)て送信する。
【0026】
ここで、位相を進めていない周波数ピークP1,P3,P4を例えば値1に対応させ、残りの位相を進めた周波数ピークP2,P5,P6,P7,P8を値0に対応させた通信データを送信する。
【0027】
レーダ装置22において、図6(B)に実線IVaで示すように、非周波数変調期間を均等に分割したタイミングで例えば8つの周波数ピークを形成する。レーダ装置22において、車両10のレーダ装置12が出力するレーダ波は図6(B)に破線IVbで示すようになり、両レーダ波のビート信号は図6(B)に実線IVcで示すようになる。
【0028】
すなわち、レーダ装置12で位相を進めた周波数ピークP2,P5,P6,P7,P8は、レーダ装置22の対応する周波数ピークと位相差がなくなるためにビートが発生せず、レーダ装置12で位相を進めていない周波数ピークP1,P3,P4がレーダ装置22の対応する周波数ピークとの間でビートを発生する。この非周波数変調期間の周波数ピークの発生の有無により、例えば8ビットの通信データを送受信することができる。なお、通信データは8ビットに限るものではない。
【0029】
図7は、レーダ装置12,22が同期モードで実行する車車間通信処理のフローチャートを示す。同図中、ステップS11ではGPS受信機13,23で得た衛星時刻情報を用いて周波数変調期間と非周波数変調期間のタイミングを決定する。
【0030】
次に、ステップS12で受信したレーダ波をFFTにより周波数分析し自装置から送信したレーダ波の反射波と他車両のレーダ装置から送信されたレーダ波のビート信号を分離する。ステップS13で図5に示すようなビート信号から他車両のレーダ装置の位置(方向、距離、相対速度)を算出する。
【0031】
次に、ステップS14で他車両のレーダ装置を載せた車両が図3に示すような追従制御を行う所定距離以内、または、図4に示すような衝突回避制御を行う所定距離以内に存在するか否かを判別する。
【0032】
他車両が追従制御または衝突回避制御を行う所定距離以内で存在する場合には、ステップS15で自車の加減速、操舵等の車両制御情報をレーダ波の非周波数変調期間に載せて相手車両に送信する。また、ステップS16で相手車両からレーダ波の非周波数変調期間に載せて送信される他車両の加減速、操舵等の車両制御情報の通信データを受信する。そして、ステップS17で他車両の車両制御情報を車両制御ECUに通知する。これにより、車両制御ECUで他車両の車両制御情報を考慮して自車の追従制御または衝突回避制御を行って、ステップS14に進む。
【0033】
一方、ステップS14で他車両が追従制御または衝突回避制御を行う所定距離以内に存在しない場合にはステップS11に進む。
【0034】
図8は、レーダ装置12,22が実行するモード切替え処理のフローチャートを示す。同図中、ステップS21でレーダ装置は非同期モードとなり、衛星時刻情報に同期することなく自車両近傍の障害物を検出する。
【0035】
ステップS22で他車両のレーダ波との干渉があるか否かを判別し、他車両のレーダ波との干渉がない場合にはステップS21に進む。他車両のレーダ波との干渉がある場合にはステップS23で同期モードに遷移し、GPS受信機で得た衛星時刻情報を用いて周波数変調期間と非周波数変調期間のタイミングを決定し、自車両近傍の障害物を検出する。
【0036】
次に、ステップS24で一定時間T1が経過したか否かを判別し、一定時間T1(例えば数m秒〜数秒)が経過するとステップS25で非同期モードに遷移し、衛星時刻情報に同期することなく自車両近傍の障害物を検出する。さらに、ステップS26で一定時間T2(例えば数m秒〜数秒)が経過したか否かを判別し、一定時間T2が経過するとステップS22に進む。
【0037】
このようにして、通信相手を特定するのに時間を要することなく、また、レーダ波の干渉の影響をなくし、車両間で情報の交換を行うことができ、これによって、追従制御または衝突回避制御を行う高精度に行うことができる。
【0038】
また、追従制御または衝突回避制御を行う同期モードと自車両近傍の障害物を検出する非同期モードとを交互に切替えて、追従制御または衝突回避制御の相手車両と障害物の切り分けを行うことができる。
【0039】
なお、ステップS11が請求項記載のタイミング合わせ手段に相当し、ステップS13が検出手段に相当し、ステップS15が送信手段に相当し、ステップS16が受信手段に相当し、ステップS23〜S26がモード切替え手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の車車間通信装置の一実施形態のブロック図である。
【図2】レーダ装置の一実施形態のブロック図である。
【図3】追従制御を説明するための図である。
【図4】衝突回避制御を説明するための図である。
【図5】レーダ波形及びビート波形を示す図である。
【図6】レーダ波形及びビート波形を示す図である。
【図7】同期モードで実行する車車間通信処理のフローチャートである。
【図8】モード切替え処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0041】
10 車両
11 車両制御ECU
12 レーダ装置
13 GPS受信機
20 車両
21 車両制御ECU
22 レーダ装置
23 GPS受信機
31 発振器
32 送信アンテナ
33〜33n 素子アンテナ
34〜34n ミキサ
35〜35n FFT
36 合成回路
37 レーダ信号解析回路
38 制御回路
39 通信回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位システムの衛星から受信した衛星時刻情報に合わせたタイミングで自車両のレーダ装置にレーダ波を送信させるタイミング合わせ手段と、
他車両のレーダ装置から前記衛星時刻情報に合わせたタイミングで送信されたレーダ波と自車両のレーダ装置から前記衛星時刻情報に合わせたタイミングで送信するレーダ波とのビートから前記他車両の位置情報を検出する検出手段と、
前記他車両の位置情報に基づいて前記他車両が自車両から所定範囲に存在するとき、前記レーダ波に通信情報を載せて送信する送信手段と、
前記他車両から受信したレーダ波から通信情報を分離して取り出す受信手段を
有することを特徴とする車車間通信装置。
【請求項2】
請求項1記載の車車間通信装置において、
前記レーダ波は、周波数上昇期間と周波数下降期間が繰り返す周波数変調期間と周波数変調期間の間で周波数変調を行わない非周波数変調期間からなり、
前記送信手段は、前記レーダ波の前記非周波数変調期間に前記通信情報を載せることを特徴とする車車間通信装置。
【請求項3】
請求項2記載の車車間通信装置において、
前記他車両が自車両から所定範囲に存在するとき、前記タイミング合わせ手段を動作させる同期モードと、前記タイミング合わせ手段を停止させる非同期モードを切替えるモード切替え手段を
有することを特徴とする車車間通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−189436(P2007−189436A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5096(P2006−5096)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】