説明

車輪用軸受装置

【課題】円周方向のガタの抑制を図ることができ、しかも、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との連結作業性に優れるとともに、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との分離が可能とされてメンテナンス性に優れた車輪用軸受装置を提供する。
【解決手段】ハブ輪1と、ハブ輪1の孔部22に嵌挿される等速自在継手3の外側継手部材の軸部12とが凹凸嵌合構造Mを介して分離可能に結合された車輪用軸受装置である。外側継手部材の軸部12の外径面とハブ輪1の孔部22の内径面37とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部35を、軸方向に沿って他方に圧入し、他方に凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を形成して、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38全域が密着する凹凸嵌合構造Mを構成する。凹凸嵌合構造Mは軸方向の引き抜き力付与による分離を許容する。軸部圧入ガイド構造M1を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両において車輪を車体に対して回転自在に支持するための車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受装置には、第1世代と称される複列の転がり軸受を単独に使用する構造から、外方部材に車体取付フランジを一体に有する第2世代に進化し、さらに、車輪取付フランジを一体に有するハブ輪の外周に複列の転がり軸受の一方に内側転走面が一体に形成された第3世代、さらには、ハブ輪に等速自在継手が一体化され、この等速自在継手を構成する外側継手部材の外周に複列の転がり軸受の他方の内側転走面が一体に形成された第4世代のものまで開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、第3世代と呼ばれるものが記載されている。第3世代と呼ばれる車輪用軸受装置は、図14に示すように、外径方向に延びるフランジ101を有するハブ輪102と、このハブ輪102に外側継手部材103が固定される等速自在継手104と、ハブ輪102の外周側に配設される外方部材105とを備える。
【0004】
等速自在継手104は、前記外側継手部材103と、この外側継手部材103の椀形部107内に配設される内側継手部材108と、この内側継手部材108と外側継手部材103との間に配設されるボール109と、このボール109を保持する保持器110とを備える。また、内側継手部材108の中心孔の内周面にはスプライン部111が形成され、この中心孔に図示省略のシャフトの端部スプライン部が挿入されて、内側継手部材108側のスプライン部111とシャフト側のスプライン部とが係合される。
【0005】
また、ハブ輪102は、筒部113と前記フランジ101とを有し、フランジ101の外端面114(反継手側の端面)には、図示省略のホイールおよびブレーキロータが装着される短筒状のパイロット部115が突設されている。なお、パイロット部115は、大径の第1部115aと小径の第2部115bとからなり、第1部115aにホイールが外嵌され、第2部115bにブレーキロータが外嵌される。
【0006】
そして、筒部113の椀形部107側端部の外周面に切欠部116が設けられ、この切欠部116に内輪117が嵌合されている。ハブ輪102の筒部113の外周面のフランジ近傍には第1内側軌道面118が設けられ、内輪117の外周面に第2内側軌道面119が設けられている。また、ハブ輪102のフランジ101にはボルト装着孔112が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ101に固定するためのハブボルトがこのボルト装着孔112に装着される。
【0007】
外方部材105は、その内周に2列の外側軌道面120、121が設けられると共に、その外周にフランジ(車体取付フランジ)132が設けられている。そして、外方部材105の第1外側軌道面120とハブ輪102の第1内側軌道面118とが対向し、外方部材105の第2外側軌道面121と、内輪117の軌道面119とが対向し、これらの間に転動体122が介装される。
【0008】
ハブ輪102の筒部113に外側継手部材103の軸部123が挿入される。軸部123は、その反椀形部の端部にねじ部124が形成され、このねじ部124と椀形部107との間にスプライン部125が形成されている。また、ハブ輪102の筒部113の内周面(内径面)にスプライン部126が形成され、この軸部123がハブ輪102の筒部113に挿入された際には、軸部123側のスプライン部125とハブ輪102側のスプライン部126とが係合する。
【0009】
そして、筒部113から突出した軸部123のねじ部124にナット部材127が螺着され、ハブ輪102と外側継手部材103とが連結される。この際、ナット部材127の内端面(裏面)128と筒部113の外端面129とが当接するとともに、椀形部107の軸部側の端面130と内輪117の外端面131とが当接する。すなわち、ナット部材127を締付けることによって、ハブ輪102が内輪117を介してナット部材127と椀形部107とで挟持される。
【特許文献1】特開2004−340311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来では、前記したように、軸部123側のスプライン部125とハブ輪102側のスプライン部126とが係合するものである。このため、軸部123側及びハブ輪102側の両者にスプライン加工を施す必要があって、コスト高となるとともに、圧入時には、軸部123側のスプライン部125とハブ輪102側のスプライン部126との凹凸を合わせる必要があり、この際、歯面を合わせることによって、圧入すれば、この凹凸歯が損傷する(むしれる)おそれがある。また、歯面を合わせることなく、凹凸歯の大径合わせにて圧入すれば、円周方向のガタが生じやすい。このように、円周方向のガタがあると、回転トルクの伝達性に劣るとともに、異音が発生するおそれもあった。このため、従来のように、スプライン嵌合による場合、凹凸歯の損傷及び円周方向のガタの両者を成立させることは困難であった。
【0011】
また、筒部113から突出した軸部123のねじ部124にナット部材127を螺着する必要がある。このため、組立時にはねじ締結作業を有し、作業性に劣るとともに、部品点数も多く、部品管理性も劣ることになっていた。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みて、円周方向のガタの抑制を図ることができ、しかも、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との連結作業性に優れるとともに、ハブ輪と等速自在継手の外側継手部材との分離が可能とされてメンテナンス性に優れた車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の車輪用軸受装置は、ハブ輪と複列の転がり軸受と等速自在継手とがユニット化されるとともに、ハブ輪と、ハブ輪の孔部に嵌挿される等速自在継手の外側継手部材の軸部とが凹凸嵌合構造を介して分離可能に結合された車輪用軸受装置であって、外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入し、他方に凸部にて凸部に密着嵌合する凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する前記凹凸嵌合構造を構成し、かつこの凹凸嵌合構造は軸方向の引き抜き力付与による分離を許容するとともに、軸部圧入ガイド構造を凸部圧入開始側に設けたものである。
【0014】
本発明の車輪用軸受装置によれば、凹凸嵌合構造は、凸部と凹部との嵌合接触部位の全体が密着しているので、この嵌合構造において、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。しかも、外側継手部材の軸部に軸方向の引き抜き力を付与すれば、ハブ輪の孔部から外側継手部材を取外すことができる。また、外側継手部材の軸部をハブ輪の孔部から引き抜いた後において、再度、外側手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入すれば、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する前記凹凸嵌合構造を構成することができる。さらに、凸部圧入開始側に軸部圧入ガイド構造を設けたので、軸部をハブ輪の孔部に圧入する際には、軸部圧入ガイド構造に沿って圧入させていくことができる。
【0015】
軸部圧入ガイド構造は、前記凸部に嵌合するガイド用凹部を有し、この凸部の位相と、他方の凹部の位相とを一致させるのが好ましい。このような軸部圧入ガイド構造を備えたものであれば、外側継手部材の軸部をハブ輪の孔部から引き抜いた後において、再度、外側手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入する際に、凸部の位相と、他方の凹部の位相とが一致する。このため、再度の圧入時に、前回の圧入によって形成された凹部に嵌入して行き、凹部を損傷させることがない。
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部に前記凸部が嵌合した状態で、凸部の頂部とガイド用凹部の底部との間に径方向隙間が形成されたり、凸部の側部とガイド用凹部の側部との間に周方向隙間が形成されたり、凸部の頂部とガイド用凹部の底部との間に径方向隙間、および凸部の側部とガイド用凹部の側部との間に周方向隙間が形成されたりするのが好ましい。このような隙間を形成することによって、圧入前工程での凸部のガイド用凹部への嵌入を容易にでき、しかも、ガイド用凹部が凸部の圧入の妨げにならない。
【0016】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部の凹凸嵌合構造側の端部が、圧入方向に直交する平坦面であっても、圧入方向に沿って縮径する傾斜する傾斜面であってもよい。圧入方向に直交する平坦面であれば、軸部を孔部に圧入する際において、この平坦面で軸部を受けることができる。また、傾斜面であれば、凸部をガイド用凹部から相手側の凹部へ安定して嵌入させることができる。
【0017】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部の径方向深さが圧入方向に沿って縮径するものであってもよい。これによって、凸部をガイド用凹部から相手側の凹部へ安定して嵌入させることができる。
【0018】
ハブ輪と外側継手部材の軸部とを、外側継手部材の軸部の軸心部に軸方向に沿って形成されたねじ孔に螺合されるボルト部材を介してボルト固定するのが好ましい。これによって、ハブ輪からの外側継手部材の軸部の軸方向の抜けが規制される。
【0019】
ハブ輪と外側継手部材の軸部とのボルト固定状態において、外側継手部材の軸部の反継手側の端面と前記ボルト部材の頭部とで挟持される位置決め用内壁をハブ輪の孔部に設けることができる。これによって、ボルト固定が安定する。
【0020】
前記外側継手部材は、内側継手部材が内装されるマウス部と、このマウス部の底部から突設される前記軸部とを備え、ハブ輪の端部が加締られてハブ輪に外嵌される転がり軸受の内輪に対して予圧が付与される。この際、外側継手部材のマウス部と、ハブ輪の端部が加締られてなる加締部との間に隙間を設ける。また、この隙間を密封するシール部材を配置する。
【0021】
ハブ輪と外側継手部材の軸部とのボルト固定を行うボルト部材の座面と、位置決め用内壁との間にシール材を介在させた。
【0022】
外側継手部材の軸部に前記凹凸嵌合構造の凸部を設けるとともに、少なくともこの凸部の軸方向端部の硬度をハブ輪の孔部内径部よりも高くして、前記軸部をハブ輪の孔部に凸部の軸方向端部側から圧入することによって、この凸部にてハブ輪の孔部内径面に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、前記凹凸嵌合構造を構成してもよい。この際、凸部が相手側の凹部形成面(ハブ輪の孔部内径面)に食い込んでいくことによって、孔部が僅かに拡径した状態となって、凸部の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部に対して密着する。
【0023】
前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部を収納する収納部を、凹凸嵌合構造よりも反継手側の軸部外径側に設けるのが好ましい。ここで、はみ出し部は、凸部の凹部嵌合部位が嵌入(嵌合)する凹部の容量の材料分であって、形成される凹部から押し出されたもの、凹部を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。
【0024】
ハブ輪の孔部の内径面の内径寸法を、凸部の頂点を結ぶ円の最大直径寸法よりも小さく、凸部間の軸部外径面の凹部の最大直径寸法よりも大きく設定することによって、凸部の突出方向中間部位が、ハブ輪の孔部凹部形成前の凹部形成面の位置に対応させることができる。
【0025】
また、ハブ輪の孔部の内径面に前記凹凸嵌合構造の凸部を設けるとともに、少なくともこの凸部の軸方向端部の硬度を等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径部よりも高くして、前記ハブ輪側の凸部をその軸方向端部側から外側継手部材の軸部に圧入することによって、この凸部にて外側継手部材の軸部の外径面に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、前記凹凸嵌合構造を構成してもよい。凸部が軸部の外径面に食い込んでいくことによって、ハブ輪の孔部が僅かに拡径した状態となって、凸部の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、凸部とその凸部に嵌合する相手部材の凹部(シャフトの外径面)との嵌合接触部位全域が密着する。
【0026】
この際、前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部を収納する収納部をハブ輪の孔部の内径面に設けるのが好ましい。
【0027】
また、孔部の複数の凸部の頂点を結ぶ円弧の直径寸法を外側継手部材の軸部の外径寸法よりも小さくするとともに、凸部間の孔部内径面の内径寸法を外側継手部材の軸部の外径寸法よりも大きくすることによって、凸部の突出方向中間部位が、軸部の凹部形成前の凹部形成面の位置に対応させることができる。
【0028】
凸部の突出方向中間部位の周方向厚さの総和を、周方向に隣り合う凸部間に嵌合する相手側の凸部における前記中間部位に対応する位置での周方向厚さの総和よりも小さくするのが好ましい。
【0029】
凹凸嵌合構造を転がり軸受の軌道面の避直下位置に配置するのが好ましい。すなわち、軸部をハブ輪の孔部に圧入すれば、ハブ輪は膨張する。この膨張によって、転がり軸受の軌道面にフープ応力を発生させる。ここで、フープ応力とは、外径方向に拡径しようとする力をいう。このため、軸受軌道面にフープ応力が発生した場合は、転がり疲労寿命の低下やクラック発生を引き起こすおそれがある。そこで、凹凸嵌合構造を転がり軸受の軌道面の避直下位置に配置することよって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、凹凸嵌合構造において、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されないので、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。さらには、隙間無く密着しているので、トルク伝達部位の強度が向上する。このため、車輪用軸受装置を軽量、コンパクトにすることができる。
【0031】
また、外側継手部材の軸部に軸方向の引き抜き力を付与することによって、ハブ輪の孔部から外側継手部材を取外すことができるので、各部品の修理・点検の作業性(メンテナンス性)の向上を図ることができる。しかも、各部品の修理・点検後に再度外側継手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入することによって、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する凹凸嵌合構造を構成することができる。このため、安定したトルク伝達が可能な車輪用軸受装置を再度構成することができる。
【0032】
外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入することによって、この凸部に密着嵌合する凹部を形成することができる。このため、凹凸嵌合構造を確実に形成することができる。しかも、凹部が形成される部材には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、かつスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができて、安定した嵌合状態を維持できる。
【0033】
また、軸部をハブ輪の孔部に圧入する際には、軸部圧入ガイド構造に沿って圧入させていくことができる。これによって、安定した圧入が可能となって、芯ズレや芯傾き等を防止することが可能となる。
【0034】
凸部の位相と、他方の凹部の位相とを一致させるガイド用凹部を有する場合、再度、外側継手部材の軸部をハブ輪の孔部に圧入する際に、前回の圧入によって形成された凹部に嵌入して行き、凹部を損傷させることがない。このため、再度、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が生じない凹凸嵌合構造を高精度に構成することができる。
【0035】
凸部の頂部とガイド用凹部の底部との間等に隙間を形成することによって、圧入前工程での凸部のガイド用凹部への嵌入を容易にでき、しかも、ガイド用凹部が凸部の圧入の妨げにならない。このため、組立性の向上を図ることができる。
【0036】
ガイド用凹部の凹凸嵌合構造側の端部が、圧入方向に直交する平坦面であれば、この平坦面で軸部を受けることができ、圧入開始時の圧入が安定する。また、傾斜面であれば、凸部をガイド用凹部から相手側の凹部へ安定して嵌入させることができ、圧入作業の安定化を図ることができる。
【0037】
ガイド用凹部の径方向深さが圧入方向に沿って縮径するものであっても、凸部をガイド用凹部から相手側の凹部へ安定して嵌入させることができる。
【0038】
ボルト固定によって、ハブ輪からの軸部の軸方向の抜けが規制され、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。特に、外側継手部材の軸部の反継手側の端面とボルト部材の頭部とで挟持される位置決め用内壁を設けたことによって、ボルト固定が安定するとともに、位置決めされたことによって、この車輪用軸受装置の寸法精度が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造の軸方向長さを安定した長さに確保することができ、トルク伝達性の向上を図ることができる。
【0039】
また、ハブ輪の端部が加締られて転がり軸受の内輪に対して予圧が付与されるので、外側継手部材のマウス部によって内輪に予圧を付与する必要がなくなる。このため、内輪への予圧を考慮することなく、外側継手部材の軸部を圧入することができ、ハブ輪と外側継手部材との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。マウス部がハブ輪と非接触状であるので、マウス部とハブ輪との接触による異音の発生を防止できる。
【0040】
外側継手部材のマウス部と、ハブ輪の端部が加締られてなる加締部との間の隙間をシール部材にて密封しているので、この隙間から雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造への雨水や異物等による密着性の劣化を回避することができる。ハブ輪と外側継手部材の軸部とのボルト固定を行うボルト部材の座面と、位置決め用内壁との間にシール材を介在させたので、このボルト部材からの凹凸嵌合構造へ雨水や異物の侵入が防止され、品質向上を図ることができる。
【0041】
また、外側継手部材の軸部に前記凹凸嵌合構造の凸部を設けるとともに、この凸部の軸方向端部の硬度をハブ輪の孔部内径部よりも高くして、前記軸部をハブ輪の孔部に凸部の軸方向端部側から圧入するものであれば、軸部側の硬度を高くでき、軸部の剛性を向上させることができる。また、ハブ輪の孔部の内径面に前記凹凸嵌合構造の凸部を設けるとともに、この凸部の軸方向端部の硬度を等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径部よりも高くして、前記ハブ輪側の凸部をその軸方向端部側から外側継手部材の軸部に圧入するものでは、軸部側の硬度処理(熱処理)を行う必要がないので、等速自在継手の外側継手部材の生産性に優れる。
【0042】
圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部を収納する収納部を設けることによって、はみ出し部をこの収納部内に保持(維持)することができ、はみ出し部が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部を収納部に収納したままにしておくことができ、はみ出し部の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0043】
また、凸部の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面上に配置されるようにすることによって、凸部が圧入時に凹部形成面に食い込んでいき、凹部を確実に形成することができる。すなわち、凸部の相手側に対する圧入代を十分にとることができる。これによって、凹凸嵌合構造の成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度が得られる。
【0044】
凸部の突出方向中間部位の周方向厚さを、周方向に隣り合う凸部間における前記中間部位に対応する位置での寸法よりも小さくすることによって、凹部が形成される側の凸部(形成される凹部間の凸部)の突出方向中間部位の周方向厚さを大きくすることができる。このため、相手側の凸部(凹部が形成されることによる凹部間の硬度が低い凸部)のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、硬度が高い側の凸部の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。
【0045】
凹凸嵌合構造を転がり軸受の軌道面の避直下位置に配置することよって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑える。これにより、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下本発明の実施の形態を図1〜図12に基づいて説明する。図1に第1実施形態の車輪用軸受装置を示し、この車輪用軸受装置は、ハブ輪1と、複列の転がり軸受2と、等速自在継手3とが一体化されるとともに、ハブ輪1と、ハブ輪1の孔部22に嵌挿される等速自在継手3の外側継手部材の軸部12とが凹凸嵌合構造Mを介して分離可能に結合されてなる。
【0047】
等速自在継手3は、外側継手部材としての外輪5と、外輪5の内側に配された内側継手部材としての内輪6と、外輪5と内輪6との間に介在してトルクを伝達する複数のボール7と、外輪5と内輪6との間に介在してボール7を保持するケージ8とを主要な部材として構成される。内輪6はその軸孔内径6aに、図8等に示すように、シャフト10の端部10aを圧入することによりスプライン嵌合してシャフト10とトルク伝達可能に結合されている。なお、シャフト10の端部10aには、シャフト抜け止め用の止め輪9が嵌合されている。
【0048】
外輪5はマウス部11とステム部(軸部)12とからなり、マウス部11は一端にて開口した椀状で、その内球面13に、軸方向に延びた複数のトラック溝14が円周方向等間隔に形成されている。内輪6は、その外球面15に、軸方向に延びた複数のトラック溝16が円周方向等間隔に形成されている。
【0049】
外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16とは対をなし、各対のトラック溝14,16で構成されるボールトラックに1個ずつ、トルク伝達要素としてのボール7が転動可能に組み込んである。ボール7は外輪5のトラック溝14と内輪6のトラック溝16との間に介在してトルクを伝達する。ケージ8は外輪5と内輪6との間に摺動可能に介在し、外球面にて外輪5の内球面13と接し、内球面にて内輪6の外球面15と接する。なお、この場合の等速自在継手は、ツェパー型を示しているが、各トラック溝14、16の溝底に直線状のストレート部を有するアンダーカットフリー型等の他の等速自在継手であってもよい。
【0050】
また、図8等に示すように、マウス部11の開口部はブーツ18にて塞がれている。ブーツ18は、大径部18aと、小径部18bと、大径部18aと小径部18bとを連結する蛇腹部18cとからなる。大径部18aがマウス部11の開口部に外嵌され、この状態でブーツバンド19aにて締結され、小径部18bがシャフト10のブーツ装着部10bに外嵌され、この状態でブーツバンド19bにて締結されている。
【0051】
ハブ輪1は、図1と図7に示すように、筒部20と、筒部20の反継手側の端部に設けられるフランジ21とを有する。筒部20の孔部22は、軸部嵌合孔22aと、反継手側のテーパ孔22bとを有し、軸部嵌合孔22aとテーパ孔22bとの間に、内径方向へ突出する位置決め用内壁22cが設けられている。すなわち、軸部嵌合孔22aにおいて、後述する凹凸嵌合構造Mを介して等速自在継手3の外輪5の軸部12とハブ輪1とが結合される。なお、この位置決め用内壁22cの反軸部嵌合孔側の端面には凹窪部51が設けられている。
【0052】
孔部22は、軸部嵌合孔22aよりも反位置決め用内壁側の開口側に大径部46と、軸部嵌合孔22aよりも位置決め用内壁側に小径部48とを有する。大径部46と軸部嵌合孔22aとの間には、テーパ部(テーパ孔)49aが設けられている。このテーパ部49aは、ハブ輪1と外輪5の軸部12を結合する際の圧入方向に沿って縮径している。
【0053】
転がり軸受2は、ハブ輪1の筒部20の継手側に設けられた段差部23に嵌合する内方部材(内輪)24と、ハブ輪1の軸部12に外嵌される外方部材25とを備える。外方部材25は、その内周に2列の外側軌道面(アウターレース)26、27が設けられ、第1外側軌道面26とハブ輪1の軸部外周に設けられる第1内側軌道面(インナーレース)28とが対向し、第2外側軌道面27と、内輪24の外周面に設けられる第2内側軌道面(インナーレース)29とが対向し、これらの間に転動体30としてのボールが介装される。なお、外方部材25の両開口部にはシール部材Sが装着されている。また、外方部材25である外輪には、図示省略の車体の懸架装置から延びるナックル34(図8参照)が取り付けられている。
【0054】
この場合、ハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて内方部材(内輪)24に予圧を付与するものである。これによって、内輪24をハブ輪1に締結することができる。またハブ輪1のフランジ21にはボルト装着孔32が設けられて、ホイールおよびブレーキロータをこのフランジ21に固定するためのハブボルト33がこのボルト装着孔32に装着される。
【0055】
外輪5の軸部12には、その軸心部に反継手側(反マウス側)の端面に開口するねじ孔50が設けられている。このねじ孔50は、その開口部が開口側に向かって拡開するテーパ部50aとされている。また、軸部12の反継手側(反マウス側)の端部には小径部12bが設けられている。すなわち、軸部12は大径の本体部12aと小径部12bとを備える。
【0056】
凹凸嵌合構造Mは、図2と図3に示すように、例えば、軸部12に設けられて軸方向に延びる凸部35と、ハブ輪1の孔部22の内径面(この場合、軸部嵌合孔22aの内径面37)に形成される凹部36とからなり、凸部35とその凸部35に嵌合するハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着している。すなわち、軸部12の反マウス部側の外周面に、複数の凸部35が周方向に沿って所定ピッチで配設され、ハブ輪1の孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37に凸部35が嵌合する複数の凹部36が周方向に沿って形成されている。つまり、周方向全周にわたって、凸部35とこれに嵌合する凹部36とがタイトフィットしている。
【0057】
この場合、各凸部35は、その断面が凸アール状の頂点を有する三角形状(山形状)で
あり、各凸部35の嵌合接触部位(凹部嵌合部位)38とは、図3(b)に示す範囲Aであり、断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、ハブ輪1の内径面37よりも内径側に隙間40が形成されている。
【0058】
このように、ハブ輪1と等速自在継手3の外輪5の軸部12とを凹凸嵌合構造Mを介して連結できる。この際、前記したように、ハブ輪1の継手側の端部を加締めて、その加締部31にて内方部材(内輪)24に予圧を付与するものであるので、外輪5のマウス部11にて内輪24に予圧を付与する必要がなく、ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としている。
【0059】
ハブ輪1の端部(この場合、加締部31)に対してマウス部11を接触させない非接触状態としているので、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間58が設けられる。このため、図6(a)(b)に示すように、この隙間58をシール部材59にて塞ぐようにするのが好ましい。この場合、隙間58は、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間から軸部嵌合孔22aと軸部12の本体部12aとの間まで形成される。この実施形態では、シール部材59はハブ輪1の加締部31と本体部12aとのコーナ部に配置される。なお、シール部材59としては、図6(a)に示すようなOリング等のようなものであっても、図6(b)に示すようなガスケット等のようなものであってもよい。
【0060】
また、反継手側から軸部12のねじ孔50にボルト部材54を螺着している。ボルト部材54は、図1に示すように、フランジ付き頭部54aと、ねじ軸部54bとからなる。ねじ軸部54bは、図7に示すように、大径の基部55aと、小径の本体部55bと、先端側のねじ部55cとを有する。この場合、位置決め用内壁22cに貫通孔56が設けられ、この貫通孔56にボルト部材54の軸部54bが挿通されて、ねじ部55cが軸部12のねじ孔50に螺着される。貫通孔56の孔径d1は、軸部54bの大径の基部55aの外径d2よりも僅かに大きく設定される。具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる。なお、ねじ部55cの最大外径は、大径の基部55aの外径と同じか基部55aの外径よりも僅かに小さい程度とする。
【0061】
本車輪用軸受装置では、図2に示すように、圧入時に軸部12の圧入のガイドを行う軸部圧入ガイド構造M1を凸部圧入開始側に設けている。この場合、孔部22のテーパ部49aに設けられる雌スプライン44からなる。すなわち、図4(a)に示すように、テーパ部49aの軸部嵌合孔22a側に周方向に沿って所定ピッチ(この場合、凸部35の配置ピッチと同一ピッチ)にガイド用凹部44aを設ける。
【0062】
この場合、図7に示すように、ガイド用凹部44aの底部径寸法D10を凸部35の最大外径、つまりスプライン41の凸部41aである前記凸部35の頂点を結ぶ円の最大直径寸法(外接円直径)D1よりも大きくして、凸部35の頂部とガイド用凹部44aの底部との間に、図4(a)に示すように、径方向隙間C1を形成している。
【0063】
次に、凹凸嵌合構造Mの嵌合方法を説明する。この場合、図7に示すように、軸部12の外径部には熱硬化処理を施し、この硬化層Hに軸方向に沿う凸部41aと凹部41bとからなるスプライン41を形成する。このため、スプライン41の凸部41aが硬化処理されて、この凸部41aが凹凸嵌合構造Mの凸部35となる。このスプライン41は、軸部12の本体部12aの小径部側に設けられている。なお、この実施形態での硬化層Hの範囲は、クロスハッチング部で示すように、スプライン41の外端縁から外輪5のマウス部11の底壁の一部までである。この熱硬化処理としては、高周波焼入れや浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。ここで、高周波焼入れとは、高周波電流の流れているコイル中に焼入れに必要な部分を入れ、電磁誘導作用により、ジュール熱を発生させて、伝導性物体を加熱する原理を応用した焼入れ方法である。また、浸炭焼入れとは、低炭素材料の表面から炭素を浸入/拡散させ、その後に焼入れ行う方法である。軸部12のスプライン41のモジュールを0.5以下の小さい歯とする。ここで、モジュールとは、ピッチ円直径を歯数で割ったものである。
【0064】
ハブ輪1の孔部22の内径面37(つまり、軸部嵌合孔22aの内径面)側においては熱硬化処理を行わない未硬化部(未焼き状態)とする。外輪5の軸部12の硬化層Hとハブ輪1の未硬化部との硬度差は、HRCで20ポイント以上とする。さらに、具体的には、硬化層Hの硬度を50HRCから65HRC程度とし、未硬化部の硬度を10HRCから30HRC程度とする。
【0065】
この際、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(この場合、孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37)の位置に対応する。すなわち、図7に示すように、軸部嵌合孔22aの内径面37の内径寸法Dを、凸部35の最大外径、つまりスプライン41の凸部41aである前記凸部35の頂点を結ぶ円の最大直径寸法(外接円直径)D1よりも小さく、凸部間の軸部外径面に外径寸法、つまりスプライン41の凹部41bの底を結ぶ円の最大直径寸法D2よりも大きく設定される。すなわち、D2<D<D1とされる。また、孔部22の大径部46の孔径寸法D3よりもD1を小さく設定する。
【0066】
スプライン41は、従来からの公知公用の手段である転造加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としては、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。なお、スプライン41を形成することによって構成された凸部35の圧入開始端面35aは、軸部12の軸線方向に対して直交する平坦面とされる。
【0067】
そして、図7に示すように、軸部12にシール部材59を外嵌し、ハブ輪1の軸心と等速自在継手3の外輪5の軸心とを合わせた状態とする。この状態で、ハブ輪1に対して、外輪5の軸部12を挿入(圧入)していく。すなわち、軸部圧入ガイド構造M1の各ガイド用凹部44aに、軸部12の各凸35を嵌合させる。これによって、ハブ輪1の軸心と外輪5の軸心とが一致した状態となる。この際、各ガイド用凹部44aの凹凸嵌合構造側の端部が、圧入方向に対して直交する平坦面77a(図2参照)であるので、凸部35の圧入開始端面35aを受けることができ、この状態から圧入していくことができる。この際、前記したように、軸部嵌合孔22aの内径面37の径寸法Dと、凸部35の最大外径寸法D1と、スプライン41の凹部の最小外径寸法D2とが前記のような関係であり、しかも、凸部35の硬度が内径面37の硬度よりも30ポイント以上大きいので、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、この凸部35が内径面37に食い込んでいき、凸部35が、この凸部35が嵌合する凹部36を、軸方向に沿って形成していくことになる。
【0068】
この圧入は、軸部12の小径部12bに端面52が位置決め用内壁22cの端面53に当接するまで行われる。これによって、図3(a)(b)に示すように、軸部12の端部の凸部35と、これに嵌合する凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着している。すなわち、相手側の凹部形成面(この場合、孔部22の軸部嵌合孔22aの内径面37)に凸部35の形状の転写を行うことになる。この際、凸部35が孔部22の内径面37に食い込んでいくことによって、孔部22が僅かに拡径した状態となって、凸部35の軸方向の移動を許容し、軸方向の移動が停止すれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。言い換えれば、凸部35の圧入時にハブ輪1が径方向に弾性変形し、この弾性変形分の予圧が凸部35の歯面(凹部嵌合部位の表面)に付与される。このため、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。すなわち、軸部12側のスプライン(雄スプライン)41によって、ハブ輪1の孔部22の内径面に、雄スプライン41に密着する雌スプライン42が形成される。
【0069】
このように、凹凸嵌合構造Mが構成されるが、この場合の凹凸嵌合構造Mは転がり軸受2の軌道面26、27、28、29の避直下位置に配置される。ここで、避直下位置とは、軌道面26、27、28、29のボール接触部位置に対して径方向に対応しない位置である。
【0070】
圧入後には、反継手側から軸部12のねじ孔50にボルト部材54を螺着する。このように、ボルト部材54を軸部12のねじ孔50に螺着することによって、ボルト部材54の頭部54aのフランジ部60が位置決め用内壁22cの凹窪部51に嵌合する。これによって、軸部12の反継手側の端面52とボルト部材54の頭部54aとで位置決め用内壁22cが挟持される。
【0071】
軸部12に外嵌されたシール部材59によって、ハブ輪1の加締部31とマウス部11の底外面11aとの間に隙間58を塞ぐことができる。
【0072】
この場合、ボルト部材54の座面60aと位置決め用内壁22cとの間もシール材(図示省略)を介在させてもよい。例えば、ボルト部材54の座面60aに、塗布後に硬化して座面60aと位置決め用内壁22cの凹窪部51の底面との間において密封性を発揮できる種々の樹脂からなるシール材(シール剤)を塗布すればよい。なお、このシール材としては、この車輪用軸受装置が使用される雰囲気中において劣化しないものが選択される。
【0073】
このように、本発明では、軸部12の凸部35とハブ輪1の凹部36との嵌合接触部位38全域が密着する凹凸嵌合構造Mを確実に形成することができる。しかも、凹部36が形成される部材には、スプライン部等を形成しておく必要がなく、生産性に優れ、しかもスプライン同士の位相合わせを必要とせず、組立性の向上を図るとともに、圧入時の歯面の損傷を回避することができ、安定した嵌合状態を維持できる。
【0074】
凹凸嵌合構造Mは、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38の全体が密着しているので、この嵌合構造Mにおいて、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が形成されない。このため、嵌合部位の全てが回転トルク伝達に寄与し、安定したトルク伝達が可能であり、しかも、異音の発生も生じさせない。
【0075】
軸部圧入ガイド構造M1を設けたので、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際には、軸部圧入ガイド構造M1に沿って圧入させていくことができる。
【0076】
ところで、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入していけば、形成されるはみ出し部45は、図2と図5に示すように、カールしつつ軸部12の小径部12bの外径側に設けられる空間からなる空間の収納部57に収納されて行く。ここで、はみ出し部45は、凸部35が嵌入(嵌合)する凹部36の容量の材料分であって、形成される凹部36から押し出されたもの、凹部36を形成するために切削されたもの、又は押し出されたものと切削されたものの両者等から構成される。このため、孔部22の内径面から削り取られたり、押し出されたりした材料の一部であるはみ出し部45が収納部57内に入り込んでいく。
【0077】
このように、前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部45を収納する収納部57を設けることによって、はみ出し部45をこの収納部57内に保持(維持)することができ、はみ出し部45が装置外の車両内等へ入り込んだりすることがない。すなわち、はみ出し部45を収納部57に収納したままにしておくことができ、はみ出し部45の除去処理を行う必要がなく、組立作業工数の減少を図ることができて、組立作業性の向上及びコスト低減を図ることができる。
【0078】
ボルト固定によって、ハブ輪1からの軸部12の軸方向の抜けが規制され、長期にわたって安定したトルク伝達が可能となる。特に、外輪5の軸部12の反継手側の端面52とボルト部材54の頭部54aとで挟持される位置決め用内壁22cを設けたことによって、ボルト固定が安定するとともに、位置決めされたことによって、この車輪用軸受装置の寸法精度が安定するとともに、軸方向に沿って配設される凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを安定した長さに確保することができ、トルク伝達性の向上を図ることができる。
【0079】
ハブ輪1の端部が加締られて転がり軸受2の内輪24に対して予圧が付与されるので、外輪5のマウス部11によって内輪に予圧を付与する必要がなくなる。このため、内輪24への予圧を考慮することなく、外輪5の軸部12を圧入することができ、ハブ輪1と外輪5との連結性(組み付け性)の向上を図ることができる。マウス部11がハブ輪1と非接触状であるので、マウス部11とハブ輪1との接触による異音の発生を防止できる。
【0080】
外輪5のマウス部11と、ハブ輪1の端部が加締られてなる加締部31との間の隙間58をシール部材59にて密封しているので、この隙間58から雨水や異物の侵入が防止され凹凸嵌合構造Mへの雨水や異物等による密着性の劣化を回避することができる。ハブ輪1と外輪5の軸部12とのボルト固定を行うボルト部材54の座面60aと、位置決め用内壁22cとの間にシール材を介在させたので、このボルト部材54からの凹凸嵌合構造Mへ雨水や異物の侵入が防止され、品質向上を図ることができる。
【0081】
また、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面上に配置されるようにすることによって、凸部35が圧入時に凹部形成面に食い込んでいき、凹部36を確実に形成することができる。すなわち、凸部35の相手側に対する圧入代を十分にとることができる。これによって、凹凸嵌合構造Mの成形性が安定し、圧入荷重のばらつきも無く、安定した捩り強度が得られる。
【0082】
図1等に示す実施形態では、外輪5の軸部12に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けるとともに、この凸部35の軸方向端部の硬度をハブ輪1の孔部内径部よりも高くして、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入するものであれば、軸部側の硬度を高くでき、軸部の剛性を向上させることができる。
【0083】
凹凸嵌合構造Mを転がり軸受2の軌道面の避直下位置に配置することによって、軸受軌道面におけるフープ応力の発生を抑える。これにより、転がり疲労寿命の低下、クラック発生、及び応力腐食割れ等の軸受の不具合発生を防止することができ、高品質な軸受2を提供することができる。
【0084】
前記実施形態のように、軸部12に形成するスプライン41は、モジュールが0.5以下の小さい歯を用いたので、このスプライン41の成形性の向上を図ることができるとともに、圧入荷重の低減を図ることができる。なお、凸部35を、この種のシャフトに通常形成されるスプラインをもって構成することができるので、低コストにて簡単にこの凸部35を形成することができる。
【0085】
ところで、図1に示す状態から、ボルト部材54を螺退させることによって、ボルト部材54を取外せば、ハブ輪1から外輪5を引き抜くことができる。すなわち、凹凸嵌合構造Mの嵌合力は、外輪5に対して所定力以上の引き抜き力を付与することにより引き抜くことができるものである。
【0086】
例えば、図8に示すような治具70にてハブ輪1と等速自在継手3とを分離することができる。治具70は、基盤71と、この基盤71のねじ孔72に螺進退可能に螺合する押圧用ボルト部材73と、軸部12のねじ孔50に螺合されるねじ軸76とを備える。基盤71には貫孔74が設けられ、この貫孔74にハブ輪1のボルト33が挿通され、ナット部材75がこのボルト33に螺合される。この際、基盤71とハブ輪1のフランジ21とが重ね合わされて、基盤71がハブ輪1に取り付けられる。
【0087】
このように基盤71をハブ輪1に取り付けた後、又は基盤71を取り付ける前に、基部76aが位置決め用内壁22cから反継手側へ突出するように、軸部12のねじ孔50にねじ軸76を螺合させる。この基部76aの突出量は、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さよりも長く設定される。ねじ軸76と、押圧用ボルト部材73とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設される。
【0088】
その後は、図8に示すように、押圧用ボルト部材73を反継手側から基盤71のねじ孔72に螺着し、この状態で、矢印のようにねじ軸76側へ螺進させる。この際、ねじ軸76と、押圧用ボルト部材73とは、同一軸心上(この車輪用軸受装置の軸心上)に配設されているので、この螺進によって、押圧用ボルト部材73がねじ軸76を矢印方向へ押圧する。これによって、外輪5がハブ輪1に対して矢印方向へ移動して、ハブ輪1から外輪5が外れる。
【0089】
また、ハブ輪1から外輪5が外れた状態からは、例えば、ボルト部材54を使用して再度、ハブ輪1と外輪5とを連結することができる。すなわち、ハブ輪1から基盤71を取外すとともに、軸部12からねじ軸76を取外した状態として、図10(a)に示すように、軸部12の凸部35をガイド用凹部44aに嵌合させる。これによって、軸部12側の雄スプライン41と、前回の圧入によって形成されたハブ輪1の雌スプライン42との位相が合う。この際、図4(a)に示すように、凸部35の頂部とガイド用凹部44aの底部との間に径方向隙間C1が形成される。
【0090】
この状態で、図9に示すように、ボルト部材54を貫通孔56を介して軸部12のねじ孔50に螺合させ、ボルト部材54をねじ孔50に対して螺進させる。これによって、図10(b)に示すように、軸部12がハブ輪1内へ嵌入していく。この際、孔部22が僅かに拡径した状態となって、軸部12の軸方向の進入を許容し、軸部12の小径部12bに端面52が位置決め用内壁22cの端面53に当接するまで侵入する。この場合、位置決め用内壁22cと小径部12bが当接し、同時に図10(c)に示すように、凸部35の端面35aが凹部36の端面36aに当接する。軸方向の移動が停止した状態となれば、孔部22が元の径に戻ろうとして縮径することになる。これによって、前回の圧入と同様、凸部35の凹部嵌合部位の全体がその対応する凹部36に対して密着する凹凸嵌合構造Mを確実に構成することができる。
【0091】
なお、軸部12のねじ孔50の開口部が開口側に向かって拡開するテーパ部50aとさているので、ねじ軸76やボルト部材54をねじ孔50に螺合させさせ易い利点がある。
【0092】
ところで、1回目(孔部22の内径面37に凹部36を成形する圧入)では、圧入荷重が比較的大きいので、圧入のために、プレス機等を使用する必要がある。これに対して、このような再度の圧入では、圧入荷重を1回目の圧入荷重よりも小さいため、プレス機等を使用することなく、安定して正確に軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。このため、現場での外輪5とハブ輪1との分離・連結が可能となる。
【0093】
このように、外輪5の軸部12に軸方向の引き抜き力を付与することによって、ハブ輪1の孔部22から外輪5を取外すことができるので、各部品の修理・点検の作業性(メンテナンス性)の向上を図ることができる。しかも、各部品の修理・点検後に再度外輪5の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することによって、凸部35と凹部36との嵌合接触部位38全域が密着する凹凸嵌合構造Mを構成することができる。このため、安定したトルク伝達が可能な車輪用軸受装置を再度構成することができる。
【0094】
この軸部圧入ガイド構造M1では、凸部35の位相と、他方の凹部36の位相とを一致させるガイド用凹部44aを有しているので、再度、外側手部材の軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入する際に、前回の圧入によって形成された凹部36に嵌入して行き、凹部36を損傷させることがない。このため、再度、径方向及び円周方向においてガタが生じる隙間が生じない凹凸嵌合構造Mを高精度に構成することができる。
【0095】
凸部35の頂部とガイド用凹部44aの底部との間等に隙間を形成することによって、圧入前工程での凸部35のガイド用凹部44aへの嵌入を容易にでき、しかも、ガイド用凹部44aが凸部35の圧入の妨げにならない。このため、組立性の向上を図ることができる。
【0096】
ボルト部材54をねじ孔50に対して螺進させる際に、図7に示すように、ボルト部材54の基部55aが、貫通孔56に対応した状態となる。しかも、貫通孔56の孔径d1は、軸部54bの大径の基部55aの外径d2よりも僅かに大きく設定される(具体的には、0.05mm<d1−d2<0.5mm程度とされる)ので、ボルト部材54の基部55aの外径と、貫通孔56に内径とが、ボルト部材54がねじ孔50を螺進する際のガイドを構成することができ、芯ずれすることなく、軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入することができる。なお、貫通孔56の軸方向長さとしても、短すぎると、安定したガイドを発揮できず、逆に長すぎると、位置決め用内壁22cの厚さ寸法が大となって、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さを確保できないとともに、ハブ輪1の重量が大となる。このため、これらを考慮して種々変更することができる。
【0097】
前記実施形態では、図4(a)に示すように、凸部35の頂部とガイド用凹部44aの底部との間に径方向隙間C1が形成されているが、図4(b)に示すように、凸部35の側部とガイド用凹部44aの側部との間に周方向隙間C2、C2を形成するようにしてもよい。また、図4(c)に示すように、凸部35の頂部とガイド用凹部44aの底部との間に径方向隙間C1、および凸部35の側部とガイド用凹部44aの側部との間に周方向隙間C2を形成するようにしてもよい。このような隙間を形成することによって、圧入前工程での凸部35のガイド用凹部44aへの嵌入を容易にでき、しかも、ガイド用凹部44aが凸部35の圧入の妨げにならない。
【0098】
前記図2に示すスプライン41では、凸部41aのピッチと凹部41bのピッチとが同一設定される。このため、前記実施形態では、図2(b)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さLと、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L0とがほぼ同一となっている。
【0099】
これに対して、図11(a)に示すように、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における前記中間部位に対応する位置での周方向寸法L1よりも小さいものであってもよい。すなわち、軸部12に形成されるスプライン41において、凸部35の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L2を、凸部35間に嵌合するハブ輪1側の凸部43の突出方向中間部位の周方向厚さ(歯厚)L1よりも小さくしている。
【0100】
このため、軸部12側の全周における凸部35の歯厚の総和Σ(B1+B2+B3+・・・)を、ハブ輪1側の凸部43(凸歯)の歯厚の総和Σ(A1+A2+A3+・・・)よりも小さく設定している。これによって、ハブ輪1側の凸部43のせん断面積を大きくすることができ、ねじり強度を確保することができる。しかも、凸部35の歯厚が小であるので、圧入荷重を小さくでき、圧入性の向上を図ることができる。凸部35の周方向厚さの総和を、相手側の凸部43における周方向厚さの総和よりも小さくする場合、全凸部35の周方向厚さL2を、周方向に隣り合う凸部35間における周方向の寸法L1よりも小さくする必要がない。すなわち、複数の凸部35のうち、任意の凸部35の周方向厚さが周方向に隣り合う凸部間における周方向の寸法と同一であっても、この周方向の寸法よりも大きくても、総和で小さければよい。
【0101】
なお、図11(a)における凸部35は断面台形(富士山形状)としているが、凸部35の形状としては、図11(b)に示すように、インボリュート歯形状であってもよい。
【0102】
軸部圧入ガイド構造M1としては、図12に示すものであってもよい。図12(a)では、ガイド用凹部44aの凹凸嵌合構造M側の端部が、圧入方向(圧入進行方向)に沿って縮径する傾斜する傾斜面77bとしている。すなわち、傾斜面77bの傾斜角度θとしては、例えば45°程度としている。
【0103】
図12(b)(c)は、ガイド用凹部44aの径方向深さ寸法が圧入方向に沿って縮径するものである。また、図12(b)では、凹凸嵌合構造M側の端部を圧入方向に直交する平坦面77aとし、図12(c)では、凹凸嵌合構造M側の端部を圧入方向(圧入進行方向)に沿って縮径する傾斜する傾斜面77bとしている。
【0104】
ガイド用凹部44aの凹凸嵌合構造側の端部が、圧入方向に直交する平坦面77aであれば、軸部12を孔部22に圧入する際において、この平坦面77aで軸部12を受けることができる。また、傾斜面77bであれば、凸部35をガイド用凹部44aから相手側の凹部36へ安定して嵌入させることができる。ガイド用凹部44aの径方向深さが圧入方向に沿って縮径するものであっても、凸部35をガイド用凹部44aから相手側の凹部36へ安定して嵌入させることができる。
【0105】
ところで、前記各実施形態では、軸部12側に凸部35を構成するスプライン41を形成するとともに、この軸部12のスプライン41に対して硬化処理を施し、ハブ輪1の内径面を未硬化(生材)としている。これに対して、図13に示すように、ハブ輪1の孔部22の内径面に硬化処理を施されたスプライン61(凸条61a及び凹条61bとからなる)を形成するとともに、軸部12には硬化処理を施さないものであってもよい。なお、このスプライン61も公知公用の手段であるブローチ加工、切削加工、プレス加工、引き抜き加工等の種々の加工方法によって、形成することがきる。また、熱硬化処理としても、高周波焼入れ、浸炭焼入れ等の種々の熱処理を採用することができる。
【0106】
この場合、凸部35の突出方向中間部位が、凹部形成前の凹部形成面(軸部12の外径面)の位置に対応する。すなわち、スプライン61の凸部61aである凸部35の頂点を結ぶ円の径寸法(凸部35の最小径寸法)D4を、軸部12の外径寸法D6よりも小さく、スプライン61の凹部61bの底を結ぶ円の径寸法(凸部間の嵌合用孔内径面の内径寸法)D5を軸部12の外径寸法D6よりも大きく設定する。すなわち、D4<D6<D5とされる。
【0107】
軸部12をハブ輪1の孔部22に圧入すれば、ハブ輪1側の凸部35によって、軸部12の外周面にこの凸部35が嵌合する凹部36を形成することができる。これによって、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着している。
【0108】
ここで、嵌合接触部位38とは、図13(b)に示す範囲Bであり、凸部35の断面における山形の中腹部から山頂にいたる範囲である。また、周方向の隣合う凸部35間において、軸部12の外周面よりも外径側に隙間62が形成される。
【0109】
この図13に示すものでも、軸部圧入ガイド構造M1を設けるのが好ましい。この場合、軸部12側にガイド用凹部44bを設ければよい。また、凸部35の頂部とガイド用凹部44aの底部との間に径方向隙間C1を形成したり、凸部35の側部とガイド用凹部44aの側部との間に周方向隙間C2、C2を形成したり、さらには、径方向隙間C1及び周方向隙間C2、C2を形成したりすることができる。
【0110】
図13に示す場合であっても、圧入によってはみ出し部45が形成されるので、このはみ出し部45を収納する収納部57を設けるのが好ましい。はみ出し部45は軸部12のマウス側に形成されることになるので、収納部をハブ輪1側に設けることになる。
【0111】
このように、ハブ輪1の孔部22の内径面37に凹凸嵌合構造Mの凸部35を設けるとともに、この凸部35の軸方向端部の硬度を外輪5の軸部12の外径部よりも高くして、圧入するものでは、軸部側の硬度処理(熱処理)を行う必要がないので、等速自在継手の外側継手部材(外輪5)の生産性に優れる。
【0112】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凹凸嵌合構造Mの凸部35の形状として、前記図2に示す実施形態では断面三角形状であり、図11(a)に示す実施形態では断面台形(富士山形状)であるが、これら以外の半円形状、半楕円形状、矩形形状等の種々の形状のものを採用でき、凸部35の面積、数、周方向配設ピッチ等も任意に変更できる。すなわち、スプライン41を形成し、このスプライン41の凸部(凸歯)41aをもって凹凸嵌合構造Mの凸部35とする必要はなく、キーのようなものであってもよく、曲線状の波型の合わせ面を形成するものであってもよい。要は、軸方向に沿って配設される凸部35を相手側に圧入し、この凸部35にて凸部35に密着嵌合する凹部36を相手側に形成することができて、凸部35とこれに嵌合する凹部との嵌合接触部位38の全体が密着し、しかも、ハブ輪1と等速自在継手3との間で回転トルクの伝達ができればよい。
【0113】
ハブ輪1の孔部22としては円孔以外の多角形孔等の異形孔であってよく、この孔部22に嵌挿する軸部12の端部の断面形状も円形断面以外の多角形等の異形断面であってもよい。さらに、ハブ輪1に軸部12を圧入する際に凸部35の圧入始端部のみが、凹部36が形成される部位より硬度が高ければよいので、凸部35の全体の硬度を高くする必要がない。図3等では隙間40が形成されるが、凸部35間の凹部まで、ハブ輪1の内径面37に食い込むようなものであってもよい。なお、凸部35側と、凸部35にて形成される凹部形成面側との硬度差としては、HRCで20ポイント以上とするのが好ましいが、凸部35が圧入可能であれば20ポイント未満であってもよい。
【0114】
凸部35の端面(圧入始端)は前記実施形態では軸方向に対して直交する面であったが、軸方向に対して、所定角度で傾斜するものであってもよい。この場合、内径側から外径側に向かって反凸部側に傾斜しても凸部側に傾斜してもよい。
【0115】
さらに、ハブ輪1の孔部22の内径面37に、周方向に沿って所定ピッチで配設される小凹部を設けてもよい。小凹部としては、凹部36の容積よりも小さくする必要がある。このように小凹部を設けることによって、凸部35の圧入性の向上を図ることができる。すなわち、小凹部を設けることによって、凸部35の圧入時に形成されるはみ出し部45の容量を減少させることができて、圧入抵抗の低減を図ることができる。また、はみ出し部45を少なくできるので、収納部57の容積を小さくでき、収納部57の加工性及び軸部12の強度の向上を図ることができる。なお、小凹部の形状は、半楕円状、矩形等の種々のものを採用でき、数も任意に設定できる。
【0116】
軸受2の転動体30として、ローラを使用したものであってもよい。また、前記実施形態では、第3世代の車輪用軸受装置を示したが、第1世代や第2世代さらには第4世代であってもよい。なお、凸部35を圧入する場合、凹部36が形成される側を固定して、凸部35を形成している側を移動させても、逆に、凸部35を形成している側を固定して、凹部36が形成される側を移動させても、両者を移動させてもよい。なお、等速自在継手3において、内輪6とシャフト10とを前記各実施形態に記載した凹凸嵌合構造Mを介して一体化してもよい。
【0117】
ハブ輪1と軸部12とのボルト固定を行うボルト部材54の座面60aと、位置決め用内壁22cとの間に介在されるシール材は、前記実施形態ではボルト部材54の座面60a側に樹脂を塗布して構成していたが、逆に、位置決め用内壁22c側に樹脂を塗布するようにしてもよい。また、座面60a側および位置決め用内壁22c側に樹脂を塗布するようにしてもよい。なお、ボルト部材54を螺着した際において、ボルト部材54の座面60aと、位置決め用内壁22cの凹窪部51の底面とが密着性に優れるものであれば、このようなシール材を省略することも可能である。すわなち、凹窪部51の底面を研削することによって、ボルト部材54の座面60aとの密着性を向上させたりすることができる。もちろん、凹窪部51の底面を研削することなく、いわゆる旋削仕上げ状態であっても、密着性を発揮できれば、シール材を省略することができる。
【0118】
ガイド用凹部44aとしては、図4(a)(b)(c)に示すように、凸部35との間に隙間C1、C2が形成されることになるが、これらの隙間寸法としては、圧入時に芯ずれや芯傾きが生ぜず、しかも、凸部35がガイド用凹部44aの内面に圧接して圧入荷重の増大を招かないものであればよい。また、ガイド用凹部44aの軸方向長さとしても任意に設定でき、長ければ、芯合わせ上好ましいが、ハブ輪1の孔部22の軸方向長さからその上限は限られる。逆にハブ輪1の孔部22の軸方向長さが短ければ、ガイドとして機能せずに、芯ずれや芯傾きが生じるおそれがある。このため、ガイド用凹部44aの軸方向長さをこれらを考慮して決定する必要がある。
【0119】
また、ガイド用凹部44aの断面形状としては、凸部35が嵌合可能なものであればよく、図4に示すものに限るものではない。凸部35の断面形状等に応じて種々変更できる。ガイド用凹部44aの数としても、凸部35の数に合わせることなく、凸部35の数よりも少なくても、多くてもよい。要は、いくつかの凸部35がいくつかのガイド用凹部44aに嵌合して、凸部35の位相と、前回の圧入で形成された凹部36の位相とが一致すればよい。
【0120】
ガイド用凹部44aの端部の傾斜面77bの傾斜角度θやガイド用凹部44aの底部の傾斜角度θ1も任意に変更できる。傾斜面77bの傾斜角度θが90°に近ければ、圧入方向に直交する平坦面77aと機能的に同じとなり、傾斜角度θが小さければ、ガイド用凹部44aが長くなって、凹凸嵌合構造Mの軸方向長さが短くなる。また、底部の傾斜角度θ1が大きくなれば、ガイド用凹部44aの構成が困難となり、逆に小さければ、傾斜させる場合の機能を発揮できない。このため、各傾斜角度θ、θ1をこれらを考慮して設定する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の第1実施形態を示す車輪用軸受装置の縦断面図である。
【図2】前記凹凸嵌合構造の拡大縦断面図である。
【図3】前記車輪用軸受装置の凹凸嵌合構造を示し、(a)は図2のZ−Z線断面図であり、(b)は(a)のX部拡大図である。
【図4】前記車輪用軸受装置の軸部圧入ガイド構造を示し、(a)は図2のW−W線断面であり、(b)は軸部圧入ガイド構造の第1変形例を示す拡大断面図であり、(c)は軸部圧入ガイド構造の第2変形例を示す拡大断面図である。
【図5】前記車輪用軸受装置の要部拡大図である。
【図6】前記車輪用軸受装置の外輪のマウス部とハブ輪の加締部との間の隙間を密封するシール部材を示し、(a)はOリングを用いたときの拡大断面図であり、(b)がガスケットを用いたときの拡大断面図である。
【図7】前記車輪用軸受装置の分解状態を示す断面図である。
【図8】凹凸嵌合構造の分離方法を示す断面図である。
【図9】再圧入方法を示す断面図である。
【図10】再圧入方法を示し、(a)は圧入直前状態を示す断面図であり、(b)は圧入途中を示す断面図であり、(c)は圧入完了状態を示す断面図である。
【図11】凹凸嵌合構造の変形例を示す断面図である。
【図12】軸部圧入ガイド構造を示し、(a)は第1変形例の断面図であり、(b)は第2変形例の断面図であり、(c)は第3変形例の断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態を示す車輪用軸受装置を示し、(a)は横断面図である。(b)は(a)のY部拡大図である。
【図14】従来の車輪用軸受装置の断面図である。
【符号の説明】
【0122】
1 ハブ輪
2 軸受
3 等速自在継手
11 マウス部
12 軸部
22 孔部
22c 位置決め用内壁
24 内輪
26,27 外側軌道面
28,29 内側軌道面
31 加締部
35 凸部
36 凹部
38 嵌合接触部位
44a ガイド用凹部
45 はみ出し部
50 ねじ孔
52 端面
54 ボルト部材
54a 頭部
57 収納部
58 隙間
59 シール部材
60a 座面
77a 平坦面
77b 傾斜面
M 凹凸嵌合構造
M 軸部圧入ガイド構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブ輪と複列の転がり軸受と等速自在継手とがユニット化されるとともに、ハブ輪と、ハブ輪の孔部に嵌挿される等速自在継手の外側継手部材の軸部とが凹凸嵌合構造を介して分離可能に結合された車輪用軸受装置であって、
外側継手部材の軸部の外径面とハブ輪の孔部の内径面とのどちらか一方に設けられて軸方向に延びる凸部を、軸方向に沿って他方に圧入し、他方に凸部にて凸部に密着嵌合する凹部を形成して、凸部と凹部との嵌合接触部位全域が密着する前記凹凸嵌合構造を構成し、かつこの凹凸嵌合構造は軸方向の引き抜き力付与による分離を許容するとともに、軸部圧入ガイド構造を凸部圧入開始側に設けたことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
軸部圧入ガイド構造は、前記凸部に嵌合するガイド用凹部を有し、この凸部の位相と、他方の凹部の位相とを一致させることを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部に前記凸部が嵌合した状態で、凸部の頂部とガイド用凹部の底部との間に径方向隙間が形成されることを特徴とする請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部に前記凸部が嵌合した状態で、凸部の側部とガイド用凹部の側部との間に周方向隙間が形成されることを特徴とする請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部に前記凸部が嵌合した状態で、凸部の頂部とガイド用凹部の底部との間に径方向隙間、および凸部の側部とガイド用凹部の側部との間に周方向隙間が形成されることを特徴とする請求項2に記載の車輪用軸受装置。
【請求項6】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部の凹凸嵌合構造側の端部が圧入方向に直交する平坦面であることを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項7】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部の凹凸嵌合構造側の端部が圧入方向に沿って縮径する傾斜する傾斜面であることを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれか1項に車輪用軸受装置。
【請求項8】
軸部圧入ガイド構造は、ガイド用凹部の径方向深さが圧入方向に沿って縮径することを特徴とする請求項2〜請求項7のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項9】
ハブ輪と外側継手部材の軸部とを、外側継手部材の軸部の軸心部に軸方向に沿って形成されたねじ孔に螺合されるボルト部材を介してボルト固定したことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項10】
ハブ輪と外側継手部材の軸部とのボルト固定状態において、外側継手部材の軸部の反継手側の端面と前記ボルト部材の頭部とで挟持される位置決め用内壁をハブ輪の孔部に設けたことを特徴とする請求項9に記載の車輪用軸受装置。
【請求項11】
前記外側継手部材は、内側継手部材が内装されるマウス部と、このマウス部の底部から突設される前記軸部とを備え、ハブ輪の端部が加締られてハブ輪に外嵌される転がり軸受の内輪に対して予圧が付与されることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項12】
前記外側継手部材のマウス部と、ハブ輪の端部が加締られてなる加締部との間に隙間を設けたことを特徴とする請求項11に記載の車輪用軸受装置。
【請求項13】
前記外側継手部材のマウス部とハブ輪の加締部との間の隙間を密封するシール部材を配置したことを特徴とする請求項12に記載の車輪用軸受装置。
【請求項14】
ハブ輪と外側継手部材の軸部とのボルト固定を行うボルト部材の座面と、位置決め用内壁との間にシール材を介在させたことを特徴とする請求項2〜請求項13のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項15】
外側継手部材の軸部に前記凹凸嵌合構造の凸部を設けるとともに、少なくともこの凸部の軸方向端部の硬度をハブ輪の孔部内径部よりも高くして、前記軸部をハブ輪の孔部に凸部の軸方向端部側から圧入することによって、この凸部にてハブ輪の孔部内径面に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、前記凹凸嵌合構造を構成することを特徴とする請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項16】
前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部を収納する収納部を、凹凸嵌合構造よりも反継手側の軸部外径側に設けたことを特徴とする請求項15に記載の車輪用軸受装置。
【請求項17】
ハブ輪の孔部の内径面の内径寸法を、凸部の頂点を結ぶ円の最大直径寸法よりも小さく、凸部間の軸部外径面の凹部の最大直径寸法よりも大きく設定したことを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の車輪用軸受装置。
【請求項18】
ハブ輪の孔部の内径面に前記凹凸嵌合構造の凸部を設けるとともに、少なくともこの凸部の軸方向端部の硬度を等速自在継手の外側継手部材の軸部の外径部よりも高くして、前記ハブ輪側の凸部をその軸方向端部側から外側継手部材の軸部に圧入することによって、この凸部にて外側継手部材の軸部の外径面に凸部に密着嵌合する凹部を形成して、前記凹凸嵌合構造を構成することを特徴とする請求項1〜請求項14のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項19】
前記圧入による凹部形成によって生じるはみ出し部を収納する収納部をハブ輪の孔部の内径面に設けたことを特徴とする請求項18に記載の車輪用軸受装置。
【請求項20】
軸孔の複数の凸部の頂点を結ぶ円弧の直径寸法を外側継手部材の軸部の外径寸法よりも小さくするとともに、凸部間の孔部内径面の内径寸法を外側継手部材の軸部の外径寸法よりも大きくしたことを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の車輪用軸受装置。
【請求項21】
凸部の突出方向中間部位の周方向厚さの総和を、周方向に隣り合う凸部間に嵌合する相手側の凸部における前記中間部位に対応する位置での周方向厚さの総和よりも小さくしたことを特徴とする請求項1から請求項20のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項22】
凹凸嵌合構造を、前記転がり軸受の軌道面の避直下位置に配置したことを特徴とする請求項1から請求項21のいずれか1項に記載の車輪用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−97627(P2009−97627A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−269728(P2007−269728)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】