説明

転動装置部品の検査方法および検査装置

【課題】転動装置部品の表層部に形成された浸炭層、浸炭窒化層等の表面硬化層の深さを精度よく検出することのできる転動装置部品の検査方法を提供する。
【解決手段】転動装置部品の表層部に形成された表面硬化層の深さを測定する手段として電磁誘導センサ11を用い、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力に基づいて表面硬化層の深さを測定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受、ボールねじ、直動案内軸受装置などの転動装置を構成する転動装置部品(例えば軌道輪、転動体、ねじ軸、ナット、案内レール、スライダ)を検査する検査方法および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼用ロールネック軸受として用いられる転がり軸受は、過酷な環境下で使用されることから、芯部靱性及び表面圧縮残留応力の付加による高機能化を図る目的で、軌道輪素材や転動体素材に浸炭、浸炭窒化などの表面硬化処理を施し、さらに焼入れ焼戻しを施して製造されている。しかし、このような転がり軸受の軌道輪は浸炭または浸炭窒化処理による表面硬化層の深さが深くなり過ぎると、軌道輪の端面部に割れが発生しやすくなることが知られている。そこで、軌道輪の端面部に割れが発生することを抑制するために、軌道輪端面の表面硬化層深さを軌道輪軌道面の表面硬化層深さの0.8倍以下とすることが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、転がり軸受は環状部材、棒材又は線材を鍛造加工して軸受軌道輪や転動体の形状にする前工程を経て、研削や超仕上げ等により加工されるが、鍛造工程におけるファイバーフローや内部欠陥の発生が転がり軸受の寿命に影響するので、ファイバーフローの影響や割れの発生を防止する提案がなされている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−314427号公報
【特許文献2】特開2003−301850号公報
【特許文献3】特開2000−71046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、超音波探傷法を利用して表面硬化層の深さを測定している。このため、軌道輪の表面状態や形状などに大きく影響され、表面硬化層の深さを正確に測定するのに時間がかかるという問題がある。
また、軸受が破損した場合、軸受を外して交換する必要が生じて多大な損害を被ることになるため、剥離に起因するような軌道面の内部欠陥を無くすることが求められている。
【0005】
さらに、軸受の転走面に対する材料のファイバーフローと寿命の関係について、これまで定性的に示された例はあるが、寿命に有害な介在物の長さと寿命の影響について研究された例はない。
本発明は上述した点に鑑みてなされたものであり、その目的は、転動装置部品の表層部に形成された浸炭層、浸炭窒化層等の表面硬化層の深さを精度よく検出することのできる転動装置部品の検査方法および検査装置を提供することにある。
【0006】
また、本発明の他の目的は、鍛造加工された転動装置部品の内部にまくれ込み、クラックなどの鍛造欠陥があるか否かを正確に検査することのできる転動装置部品の検査方法および検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、浸炭または浸炭窒化による表面硬化層を表層部に有する転動装置部品の検査方法であって、前記転動装置部品を励磁コイルに印加された交流電圧によって発生した交流磁界内に配置し、電磁誘導により発生する起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定して前記転動装置部品の表面硬化層を検査することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項1記載の転動装置部品の検査方法において、前記転動装置部品が転がり軸受の軌道輪であって、前記軌道輪の端面部に割れが発生しているか否かを検査することを特徴とする。
請求項3記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、鍛造加工された転動装置部品の検査方法であって、前記転動装置部品を励磁コイルに印加された交流電圧によって発生した交流磁界内に配置し、電磁誘導により発生する起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定して前記転動装置部品の表面及び内部の加工層を検査することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明に係る転動装置部品の検査方法は、請求項3記載の転動装置部品の検査方法において、前記転動装置部品が転がり軸受の軌道輪または転動体であって、前記軌道輪または転動体に割れが発生しているか否かを検査することを特徴とする。
請求項5記載の発明に係る転動装置部品の検査装置は、請求項1〜4のいずれか一項記載の検査方法に用いられる転動装置部品の検査装置であって、前記転動装置部品の検査部位に交流磁界を付与する励磁コイルと前記交流磁界の磁束密度の変化を電磁誘導により検出する誘導コイルとを有する電磁誘導センサを備えてなることを特徴とする。
【0010】
請求項6記載の発明に係る転動装置部品の検査装置は、請求項5記載の転動装置部品の検査装置において、前記電磁誘導センサと前記転動装置部品のうち少なくとも一方が回転、直動および揺動可能であることを特徴とする。
請求項7記載の発明に係る転動装置部品の検査装置は、請求項5または6記載の転動装置部品の検査装置において、前記電磁誘導センサにより検出したデータの演算処理を行なうデータ処理部と、このデータ処理部を閾値と比較して欠陥の有無を判定する判定部を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項8記載の発明に係る転動装置部品の検査装置は、請求項7記載の転動装置部品の検査装置において、前記判定部の判定結果を表示する表示部と前記電磁誘導センサにより検出したデータを記憶する記憶部のうち少なくとも一つを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1及び2記載の発明に係る転動装置部品の検査方法によれば、転動装置部品の表面硬化層の深さを測定するセンサとして電磁誘導法を利用した電磁誘導センサを用いたことで、浸炭層、浸炭窒化層等の表面硬化層の深さを精度よく測定することができる。
請求項3及び4記載の発明に係る転動装置部品の検査方法によれば、転動装置部品の表層部に鍛造欠陥があるか否かを検査するセンサとして電磁誘導法を利用した電磁誘導センサを用いたことで、鍛造加工された転動装置部品の表層部に鍛造欠陥が存在するか否かを精度よく検査することができる。
【0013】
請求項5〜8記載の発明に係る転動装置部品の検査装置によれば、転動装置部品の表面硬化層や鍛造加工層を検査するときに有用な検査装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を図面に基づいて説明する。
図1は円錐ころ軸受の外輪断面を示す図であり、図中1は外輪、1aは外輪の外径面、1bは外輪の内径面、1cは外輪の端面、5は外輪1の表層部に形成された浸炭層を示している。
図2は転動装置部品の表層部に形成された浸炭層、浸炭窒化層等の表面硬化層の深さを測定する場合に用いられる表面硬化層深さ測定装置の概略構成を示す図であり、同図に示される表面硬化層深さ測定装置は、電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11から出力されたデータを処理して表面硬化層の深さを求めるデータ処理装置12とを備えている。
【0015】
電磁誘導センサ11は被測定物10の表層部に形成された表面硬化層10aに交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aにより被測定物10の表面硬化層10aに付与された交流磁界の磁束密度を検出するための誘導コイル11bとからなり、誘導コイル11bに発生した誘導起電力は、表面硬化層10aの深さ情報としてデータ処理装置12に供給されるようになっている。
【0016】
データ処理装置12は、誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量を検出する誘導起電力検出部としてのインダクタンス変化検出部12aを有している。また、データ処理装置12はインダクタンス変化検出部12aで検出された誘導起電力の振幅変化量と較正値に基づいて表面硬化層10aの深さを演算する演算部12bを有しており、この演算部12bから出力された信号は、表面硬化層10aの深さを表示する表示装置13、演算部12bの演算結果を記録用紙等の記録媒体に記録する記録装置14および演算部12bの演算結果を記憶する記憶装置15に供給されるようになっている。なお、電磁誘導センサ11の励磁コイル11aには、交流電源16から交流電流が供給されるようになっている。
【0017】
図3は電磁誘導センサ11の概略構成を示す図であり、同図に示されるように、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bは、その一部を励磁コイル11aに接触させて励磁コイル11aと同軸に巻回されている。
図2に示した表面硬化層深さ測定装置を用いて転動装置部品の表層部に形成された表面硬化層10aの深さを測定する場合は、転動装置部品の表面硬化層10aに電磁誘導センサ11を近づけた後、電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに交流電流を交流電源16から供給する。そうすると、図4に示すような交流磁界17が電磁誘導センサ11の励磁コイル11aから発生するとともに、誘導起電力が電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生する。このとき、発生した交流磁界17の磁束密度は転動装置部品の表層部に形成された表面硬化層10aの深さに応じて変化し、誘導コイル11bに発生した誘導起電力も交流磁界17の磁束密度に応じて変化する。そして、データ処理装置12では、誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量に基づいて表面硬化層10aの深さを演算する。
【0018】
このように、転動装置部品の表層部に形成された浸炭層、浸炭窒化層等の表面硬化層の深さを測定する際に、電磁誘導法を利用して表面硬化層の深さを測定することで、超音波探傷法を利用した場合のように、転動装置部品の表面状態や形状などに大きく影響されることがない。したがって、転動装置部品の表層部に形成された表面硬化層の深さを精度よく測定することができる。
【0019】
なお、上述した実施形態では誘導コイル11bに発生した誘導起電力の振幅変化量に基づいて表面硬化層の深さを求めるようにしたが、誘導起電力の位相変化量に基づいて表面硬化層の深さを求めるようにしてもよい。
図5は、円錐ころ軸受の外輪端面部に形成された浸炭層の深さを測定する浸炭層深さ測定装置の一例を示す図である。同図に示される浸炭層深さ測定装置は、円錐ころ軸受の外輪1を載置するためのターンテーブル20と、このターンテーブル20の上方に配置された電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11をX軸回り(図中矢印θx方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構21と、このセンサ揺動機構21を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構22と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かしてセンサを位置決めするセンサ位置決め機構23とを備えており、ターンテーブル20は転がり軸受部品の位置決め機構24により図中X軸方向に移動可能となっている。
【0020】
電磁誘導センサ11は、電磁誘導式探傷プローブの励磁コイルに印加された交流電圧により発生する交流磁界内に被測定物を配置し、前記電磁誘導式探傷プローブの誘導コイルに発生する起電力を検出するセンサで、外輪の表層部に形成された浸炭層に交流磁界を付与する励磁コイル11a(図2参照)と、励磁コイル11aにより付与された交流磁界の磁束密度を検出するための誘導コイル11bとからなる。励磁コイル11aは、その一部を誘導コイル11bに接触させて誘導コイル11bと同軸に巻回されている。また、励磁コイル11aと誘導コイル11bは一つの筐体内に収納されており、誘導コイル11bには、励磁コイル11aの励磁によって発生した交流磁界の変化を誘導コイル11bに発生した誘導起電力から検出する検出回路(図示せず)が接続されている。
【0021】
図5に示した浸炭層深さ測定装置を用いて外輪1の端面1cに形成された浸炭層の深さを測定する場合は、ターンテーブル20の上面に外輪1を載置した後、センサ揺動機構21、センサ昇降機構22、センサ位置決め機構23及び被測定物である転がり軸受部品の位置決め機構24を駆動して電磁誘導センサ11を外輪1の端面1cに近づける。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに高周波電流を供給する。そうすると、図4に示すような交流磁界17が電磁誘導センサ11の励磁コイル11aから発生するとともに、誘導起電力が電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生する。このとき、発生した交流磁界17の磁束密度は外輪1の表層部に形成された浸炭層の深さに応じて変化し、誘導コイル11bに発生した誘導起電力も交流磁界17の磁束密度に応じて変化する。したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさを検出することにより、外輪1の端面1cに形成された浸炭層の深さを精度よく測定することができる。
【0022】
また、電磁誘導センサ11の励磁コイル11aと誘導コイル11bを一つの筐体内に収納したことにより、一体のユニットとして小型化できると共に作業性が良好なものとすることができる。
図6は、円錐ころ軸受の外輪内径面に形成された浸炭窒化層の深さを測定する浸炭窒化層深さ測定装置の一例を示す図である。同図に示される浸炭窒化層深さ測定装置は、円錐ころ軸受の外輪1を載置するためのターンテーブル20と、このターンテーブル20の上方に配置された電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11を図中Z軸回り(図中矢印θz方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構21と、このセンサ揺動機構21を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構22と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かしてセンサを位置決めするセンサ位置決め機構23とを備えており、ターンテーブル20は転がり軸受部品の位置決め機構24により図中X軸方向に移動可能となっている。
【0023】
電磁誘導センサ11は、図2に示すように、外輪の浸炭窒化層に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aにより付与された交流磁界の磁束密度を検出するための誘導コイル11bとからなり、これらの両コイル11a,11bは一つの筐体内に収容されている。
図6に示した浸炭窒化層深さ測定装置を用いて外輪1の内径面1bに形成された浸炭窒化層の深さを測定する場合は、ターンテーブル20の上面に外輪1を載置した後、センサ揺動機構21、センサ昇降機構22、センサ位置決め機構23及び被測定物である転がり軸受部品の位置決め機構24を駆動して電磁誘導センサ11を外輪1の内径面1bに近づける。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに高周波電流を供給する。そうすると、図4に示すような交流磁界17が電磁誘導センサ11の励磁コイル11aから発生するとともに、誘導起電力が電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生する。このとき、発生した交流磁界17の磁束密度は外輪1の内径面1bに形成された浸炭窒化層の深さに応じて変化し、誘導コイル11bに発生した誘導起電力も交流磁界17の磁束密度に応じて変化する。したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさを検出することにより、外輪1の内径面1bに形成された浸炭窒化層の深さを精度よく測定することができる。
【0024】
図7は、自動調心ころ軸受の一部分を示す断面図である。同図に示される自動調心ころ軸受は、内輪2の二列の軌道溝2a,2bと外輪1の軌道面との間に二列のころ3が保持器4を介して周方向に転動可能に介装されている。そして、内輪2および外輪1のうちの少なくとも一方の軌道輪のファイバーフローところ3との接する角度θが15°以下、好ましくは10°以下であり、且つ、軌道面全周×最大せん断応力深さ=被検体積とした場合に、該被検体積内に存在する非金属介在物、地傷、開口クラック等の欠陥の平方根長さが0.3 mm以下であることが非破壊検査により検証されており、これにより、ころ3と外輪1及び内輪2との間にすべりが生じ易く、且つ、異物が侵入しない潤滑状態が良好な環境下での転がり疲れ寿命の延長を図ることができるようにしている。
【0025】
ここで、欠陥の平方根長さとは、欠陥の形状が線状である場合(線状欠陥)は、その長さLと幅Dとの積の平方根(L×D)1/2を平方根長さとし、欠陥の形状が粒状、球状又は塊状である場合(非線状欠陥)は、その最大径(長軸径)Dと最小径(短軸径)Dとの積の平方根(D×D1/2を平方根長さとする。
また、軌道輪のファイバーフローところ3との接する角度θは、軌道輪の転走面に対する材料のファイバーフローの角度θと同義であり、図2で内輪2を例に採って説明すると、このθは複列の2つの内輪軌道溝2a,2bによって2つ(θ,θ)でき、軸心Oから軌道溝範囲の内端と外端を結ぶ範囲の中点g,gの軌道溝表面上の接線とファイバーフローとのなす角度でθ(θ)を定義する。なお、小さい方θと大きい方θがあるが、大きい方の角度θに寿命は支配されるため、内輪2の場合はθを用いた。
【0026】
また、円すいころ軸受や円筒ころ軸受の場合のファイバーフローとのなす角度は、上記の自動調心ころ軸受のように球面とはなっておらず、軌道溝表面上の接線は軌道面そのものとなる。従って、この場合は、ファイバーフローの角度は、軌道輪の軸線を含む断面において軌道面とのなす角度で定義される。
図9は、軌道輪等の転動装置部品内に鍛造欠陥があるか否かを検査する場合に用いられる鍛造欠陥検査装置の概略構成を示す図である。同図に示される鍛造欠陥検査装置は、励磁コイル11a及び誘導コイル11bを有する電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさを検出する誘導起電力検出手段としてのインダクタンス変化検出回路25と、このインダクタンス変化検出回路25で検出された誘導起電力を予め設定された閾値と比較して鍛造欠陥の有無を判定する比較判定回路26とを備えており、比較判定回路26の判定結果は表示装置13に表示されるとともに、記録用紙等の記録媒体に記録装置14によって記録され、さらに記憶装置15に供給されるようになっている。なお、電磁誘導センサ11の励磁コイル11aには、交流電源16から交流電流が供給されるようになっている。
【0027】
図9に示した鍛造欠陥検査装置を用いて転動装置部品の内部にまくれ込み、クラックなどの鍛造欠陥があるか否かを検査する場合は、被測定物10の表面に電磁誘導センサ11を近づけた後、電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに交流電流を交流電源16から供給する。そうすると、図4に示すような交流磁界17が電磁誘導センサ11の励磁コイル11aから発生するとともに、誘導起電力が電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生する。このとき、発生した交流磁界17の磁束密度は被測定物10の内部に発生した鍛造欠陥の大きさに応じて変化し、誘導コイル11bに発生した誘導起電力も交流磁界17の磁束密度に応じて変化する。
【0028】
したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさをインダクタンス変化検出回路25で検出し、このインダクタンス変化検出回路25で検出された誘導起電力を比較判定回路26に供給して閾値と比較することにより、被測定物10の内部に鍛造欠陥が発生したか否かを正確に検査することができる。
図10は鍛造加工された外輪内径面のファイバーフローや鍛造欠陥の有無を検査する検査装置の一例を示す図であり、同図に示される検査装置は、円錐ころ軸受の外輪1を載置するためのターンテーブル20と、このターンテーブル20の上方に配置された電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11を図中Z軸回り(図中矢印θz方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構21と、このセンサ揺動機構21を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構22と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かしてセンサを位置決めするセンサ位置決め機構23と、を備えている。
【0029】
電磁誘導センサ11は、図2に示すように、鍛造加工された外輪の内径面に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aにより付与された交流磁界の磁束密度を検出するための誘導コイル11bとからなり、これらの両コイル11a,11bは一つの筐体内に収容されている。
図10に示した検査装置を用いて外輪内径面のファイバーフローや鍛造欠陥の有無を検査する場合は、ターンテーブル20の上面に外輪1を載置した後、センサ揺動機構21、センサ昇降機構22及びセンサ位置決め機構23を駆動して電磁誘導センサ11を外輪1の内径面に近づける。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに高周波電流を供給する。そうすると、図4に示すような交流磁界17が電磁誘導センサ11の励磁コイル11aから発生するとともに、誘導起電力が電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生する。このとき、発生した交流磁界17の磁束密度は外輪1の軌道面内部に発生した鍛造欠陥の大きさに応じて変化し、誘導コイル11bに発生した誘導起電力も交流磁界17の磁束密度に応じて変化する。したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさを検出することにより、まくれ込み、クラックなどの鍛造欠陥が外輪1の軌道面内部にあるか否かを正確に検査することができる。
【0030】
また、電磁誘導センサ11の励磁コイル11aと誘導コイル11bを一つの筐体内に収納したことにより、一体のユニットとして小型化できると共に作業性が良好なものとすることができる。
図11は鍛造加工された内輪外径面のファイバーフローや鍛造欠陥の有無を検査する検査装置の一例を示す図であり、同図に示される検査装置は、円錐ころ軸受の内輪2を載置するためのターンテーブル20と、このターンテーブル20の上方に配置された電磁誘導センサ11と、この電磁誘導センサ11を図中Z軸回り(図中矢印θz方向)に揺動駆動するセンサ揺動機構21と、このセンサ揺動機構21を介して電磁誘導センサ11を図中Z軸方向に昇降駆動するセンサ昇降機構22と、電磁誘導センサ11を図中X軸方向及びY軸方向に動かしてセンサを位置決めするセンサ位置決め機構23と、を備えている。
【0031】
電磁誘導センサ11は、図2に示すように、鍛造加工された内輪の外径面に交流磁界を付与する励磁コイル11aと、この励磁コイル11aにより付与された交流磁界の磁束密度を検出するための誘導コイル11bとからなり、これらの両コイル11a,11bは一つの筐体内に収容されている。
図11に示した検査装置を用いて内輪内径面のファイバーフローと鍛造欠陥の有無を検査する場合は、ターンテーブル20の上面に内輪2を載置した後、センサ揺動機構21、センサ昇降機構22及びセンサ位置決め機構23を駆動して電磁誘導センサ11を内輪2の外径面に近づける。そして、この状態で電磁誘導センサ11の励磁コイル11aに高周波電流を供給する。そうすると、図4に示すような交流磁界17が電磁誘導センサ11の励磁コイル11aから発生するとともに、誘導起電力が電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生する。このとき、発生した交流磁界17の磁束密度は内輪2の軌道面内部に発生した鍛造欠陥の大きさに応じて変化し、誘導コイル11bに発生した誘導起電力も交流磁界17の磁束密度に応じて変化する。したがって、電磁誘導センサ11の誘導コイル11bに発生した誘導起電力の大きさを検出することにより、まくれ込み、クラックなどの鍛造欠陥が内輪2の軌道面内部にあるか否かを正確に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】円錐ころ軸受の外輪断面を示す図である。
【図2】転動装置部品の表層部に形成された表面硬化層の深さを測定する場合に用いられる表面硬化層深さ測定装置の概略構成を示す図である。
【図3】電磁誘導センサの概略構成を示す図である。
【図4】電磁誘導センサから発生する交流磁界を示す図である。
【図5】円錐ころ軸受の外輪端面部に形成された浸炭層の深さを測定する浸炭層深さ測定装置の一例を示す図である。
【図6】円錐ころ軸受の外輪内径面に形成された浸炭窒化層の深さを測定する浸炭窒化層深さ測定装置の一例を示す図である。
【図7】自動調心ころ軸受の一部分を示す断面図である。
【図8】軌道輪の転走面に対する材料のファイバーフローの角度θの定義を説明するための説明図である。
【図9】転動装置部品内に鍛造欠陥があるか否かを検査する場合に用いられる鍛造欠陥検査装置の概略構成を示す図である。
【図10】鍛造加工された外輪内径面のファイバーフローや鍛造欠陥の有無を検査する検査装置の一例を示す図である。
【図11】鍛造加工された内輪外径面のファイバーフローと鍛造欠陥の有無を検査する検査装置の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 外輪
2 内輪
3 ころ
4 保持器
5 浸炭層
10a 表面硬化層
11 電磁誘導センサ
11a 励磁コイル
11b 誘導コイル
12 データ処理装置
12a 誘導起電力検出部
12b 演算部
13 表示装置
14 記録装置
15 記憶装置
16 交流電源
17 交流磁界
20 ターンテーブル
21 センサ揺動機構
22 センサ昇降機構
23 センサ位置決め機構
25 インダクタンス変化検出回路
26 比較判定回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸炭または浸炭窒化による表面硬化層を表層部に有する転動装置部品の検査方法であって、前記転動装置部品を励磁コイルに印加された交流電圧によって発生した交流磁界内に配置し、電磁誘導により発生する起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定して前記転動装置部品の表面硬化層を検査することを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項2】
前記転動装置部品が転がり軸受の軌道輪であって、前記軌道輪の端面部に割れが発生しているか否かを検査することを特徴とする請求項1記載の転動装置部品の検査方法。
【請求項3】
鍛造加工された転動装置部品の検査方法であって、前記転動装置部品を励磁コイルに印加された交流電圧によって発生した交流磁界内に配置し、電磁誘導により発生する起電力の振幅と位相のうち少なくとも一方の変化量を測定して前記転動装置部品の表面及び内部の加工層を検査することを特徴とする転動装置部品の検査方法。
【請求項4】
前記転動装置部品が転がり軸受の軌道輪または転動体であって、前記軌道輪または転動体に割れが発生しているか否かを検査することを特徴とする請求項3記載の転動装置部品の検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の検査方法に用いられる転動装置部品の検査装置であって、前記転動装置部品の検査部位に交流磁界を付与する励磁コイルと前記交流磁界の磁束密度の変化を電磁誘導により検出する誘導コイルとを有する電磁誘導センサを備えてなることを特徴とする転動装置部品の検査装置。
【請求項6】
前記電磁誘導センサと前記転動装置部品のうち少なくとも一方が回転、直動および揺動可能であることを特徴とする請求項5記載の転動装置部品の検査装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の転動装置部品の検査装置において、前記電磁誘導センサにより検出したデータの演算処理を行なうデータ処理部と、このデータ処理部を閾値と比較して欠陥の有無を判定する判定部を備えたことを特徴とする転動装置部品の検査装置。
【請求項8】
請求項7記載の転動装置部品の検査装置において、前記判定部の判定結果を表示する表示部と前記電磁誘導センサにより検出したデータを記憶する記憶部のうち少なくとも一つを備えたことを特徴とする転動装置部品の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−32677(P2008−32677A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326686(P2006−326686)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】