説明

透明有機薄膜トランジスタ

【課題】無色透明性の高い有機薄膜トランジスタ、該トランジスタを用いた透明半導体回路、および開口率の高い画像表示装置並びに受光装置を提供する。
【解決手段】半導体活性層に、膜厚30nmの薄膜としたときに可視域である400〜700nmの範囲の最大吸光度が0.2以下であるp型有機半導体材料を用いた透明有機薄膜トランジスタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質無色透明なp型有機半導体材料を用いてなる透明有機薄膜トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
いつでもどこでも情報を入手できるようなユビキタス情報社会に向けて、フレキシブル・軽量・外観を損ねないなど、日常生活の中で使いやすく存在を意識させない電子デバイスが望まれているが、従来の代表的な半導体材料であるシリコンではこれらの要望に十分に対応できていない。そこで、近年、これらの要望に応え得る材料として、有機半導体材料が注目されている。特に、溶液塗布法などの湿式プロセスにより成膜可能な有機半導体材料は、低温、低コストで大面積の素子を作製できる可能性を秘めている(例えば、非特許文献1又は2を参照。)。これらの特長に加え、さらに無色透明な電子デバイスを作製することができれば、ユビキタス情報社会の実現に大きく近づくと考えられる。
【0003】
また、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置や光センサ等の受光装置においては、従来のシリコン等を用いた不透明な半導体回路を選択駆動回路とした場合、選択駆動回路と開口部を別々の箇所に配置しなければならないため、開口率を低下させる原因となっていた。無色透明な薄膜トランジスタ(TFT)を選択駆動回路として使うことができれば画像表示素子や受光素子との積層化が可能となり、開口率の大きな向上が期待されるが、現在までに十分な透明性とトランジスタ特性を両立させることはできていなかった。
【0004】
TFTを選択駆動回路として用いるためにはp型トランジスタでもn型トランジスタでもよいが、有機半導体材料はp型材料の方が良好な特性を示すものが多く、また、一般に有機TFTの特性はp型の方が大気下での動作安定性が高いため優れている。
【0005】
これまでに、p型有機半導体材料を活性層に用いた透明有機薄膜トランジスタとして、ペンタセンを用いた例(例えば、非特許文献1を参照。)やバナジルフタロシアニン(VOPc)を用いた例(例えば、非特許文献2を参照。)が報告されている。これらの材料は、可視域に光吸収を有するが、薄膜として用いることで吸光度を小さいものにし、実質的に透明な薄膜トランジスタとしていた。そのため、これらの有機薄膜トランジスタは、比較的透明ではあるものの、さらなる無色透明性の向上が求められている。
【0006】
【非特許文献1】Advanced Materials,2004,16,312−316.
【非特許文献2】Applied Physics Letters,2006,88,113511.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、無色透明性の高い有機薄膜トランジスタ、該トランジスタを用いた透明半導体回路、および開口率の高い画像表示装置並びに受光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、下記の手段によって解決された。
[1]半導体活性層に、膜厚30nmの薄膜としたときに可視域である400〜700nmの範囲の最大吸光度が0.2以下であるp型有機半導体材料を用いたことを特徴とする透明有機薄膜トランジスタ。
[2]キャリア移動度が1.0×10-5cm/Vs以上である、[1]項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
[3]前記p型有機半導体材料が低分子化合物である、[1]又は[2]項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
[4]前記半導体活性層が溶液塗布法により成膜されたものである、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
[5]前記p型有機半導体材料の薄膜状態での吸収極大波長が700nm以上である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【0009】
[6]前記p型有機半導体材料が下記一般式(Pc−1)で表されるフタロシアニン化合物である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【化4】

(式中、Mは中心金属原子を表す。R1〜R16は水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表し、nは1又は2である。)
【0010】
[7]前記p型有機半導体材料が下記一般式(Nc−1)で表されるナフタロシアニン化合物である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【化5】

(式中、Mは金属原子、又はN1及びN2に結合する水素原子を表す。R17〜R40は水素原子または置換基を表す。)
【0011】
[8]前記p型有機半導体材料が下記一般式(Nc−2)で表されるナフタロシアニン化合物である、[6]又は[7]項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【化6】

(式中、Mは中心金属原子を表す。R17〜R40は水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表し、nは1又は2である。)
【0012】
[9][1]〜[8]のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタを用いた透明半導体回路。
[10][1]〜[8]のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタを用いた選択駆動回路で駆動される画像表示装置。
[11][1]〜[8]のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタを用いた選択駆動回路で駆動される受光装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の透明有機薄膜トランジスタは無色透明性が高い。本発明の透明有機薄膜トランジスタを用いた半導体回路は、外観を損ねず、また、選択駆動回路とした場合に発光層や受光層と積層することが可能となり、開口率の高い画像表示装置、受光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
[透明有機薄膜トランジスタ]
図1は、本発明の透明有機薄膜トランジスタ(透明有機TFT)素子の代表的な構造を概略的に示す断面図である。本発明の有機TFTはいかなる構造のものでもよいが、最も好ましいのは図1に示す電界効果型トランジスタ(FET)構造である。このトランジスタは積層構造を基本構造として有するものであり、最下層に透明基板11を配置し、その上面の一部に透明ゲート電極12を設け、さらに該電極12を覆い、かつ電極12以外の部分で透明基板11と接するように透明絶縁体層13を設けている。さらに透明絶縁体層13の上面に半導体活性層14を設け、その上面の一部に透明ソース電極15aと透明ドレイン電極15bとを隔離して配置している。なお、図1の構成はトップコンタクト型素子と呼ばれるが、電極15a及び15bが半導体活性層の下部にあるボトムコンタクト型素子も好ましく用いることができる。また、キャリアが有機半導体膜の膜厚方向に流れる縦型トランジスタ構造であってもよい。
【0016】
(半導体活性層)
本発明の透明有機薄膜トランジスタは、半導体活性層14に、膜厚30nmの薄膜としたときに可視域である400〜700nmの範囲の最大吸光度が0.2以下であるp型有機半導体材料を用いてなる。このp型有機半導体材料は実質的に無色透明である。有機半導体薄膜の膜厚は、例えば触針式膜厚計により測定できる。膜厚の異なる薄膜を複数作製して吸収スペクトルを測定し、検量線から膜厚30nmあたりの最大吸光度に換算してもよい。このような吸収特性のp型有機半導体材料を選ぶことにより、無色透明性が高い有機TFTを得ることができる。
【0017】
本発明における有機半導体材料とは、半導体の特性を示す有機材料のことであり、無機材料からなる半導体と同様に、正孔(ホール)をキャリアとして伝導するp型有機半導体材料(あるいは単にp型材料、正孔輸送材料とも言う。)と、電子をキャリアとして伝導するn型有機半導体材料(あるいは単にn型材料、電子輸送材料とも言う。)がある。有機半導体材料は一般にp型材料の方が良好な特性を示すものが多く、また、一般に大気下でのトランジスタ動作安定性もp型トランジスタの方が優れているため、本発明では、p型有機半導体材料が用いられる。
【0018】
有機薄膜トランジスタの特性の一つに、有機半導体層中のキャリアの動きやすさを示すキャリア移動度(単に移動度とも言う)μがある。用途によっても異なるが、一般に移動度は高い方がよく、1.0×10-7cm2/Vs以上であることが好ましく、1.0×10-6cm2/Vs以上であることがより好ましく、1.0×10-5cm2/Vs以上であることがさらに好ましい。移動度は電界効果トランジスタ(FET)素子を作製したときの特性や飛行時間計測(TOF)法により求めることができる。
【0019】
前記p型有機半導体材料は、膜厚30nmの薄膜としたときに可視域である400〜700nmの範囲の最大吸光度が0.2以下であればいかなる材料でもよく、低分子材料でも高分子材料でも良いが、好ましくは低分子材料である。低分子材料は、昇華精製や再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの様々な精製法が適用できるため高純度化が容易であること、分子構造が定まっているため秩序の高い結晶構造を取りやすいこと、などの理由から高い特性を示すものが多い。低分子材料の分子量は、好ましくは100以上5000以下、より好ましくは150以上3000以下、さらに好ましくは200以上2000以下である。
【0020】
有機半導体材料からなる半導体薄膜を形成する方法は、いかなる方法でも良いが、乾式プロセスあるいは湿式プロセスにより成膜される。乾式プロセス成膜の具体的な例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、分子ビームエピタキシー(MBE)法などの物理気相成長法あるいはプラズマ重合などの化学気相蒸着(CVD)法が挙げられ、これらの中で真空蒸着法が特に好ましい。湿式プロセス成膜(溶液塗布法)は、有機化合物を溶解させることができる溶媒中に溶解させ、あるいは均一に分散した分散液とし、その溶液または分散液を用いて成膜する方法であり、具体的にはキャスト法、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング(浸漬)コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、インクジェット法、スピンコート法、Langmuir−Blodgett(LB)法などが挙げられ、これらの中でキャスト法、スピンコート法およびインクジェット法が特に好ましい。乾式プロセス成膜、湿式プロセス成膜のいずれも好ましいが、湿式プロセス成膜(溶液塗布法)の方が低温、低コストで大面積の素子を作製できる点で好ましい。
【0021】
溶液塗布法を用いて有機半導体膜を形成する場合、有機半導体材料、あるいはその材料とバインダー樹脂を適当な有機溶媒および/または水に溶解、または分散させて塗布液とし、各種の塗布法により薄膜を形成することができる。塗布液中の本発明の有機半導体材料の濃度は、好ましくは、0.1〜80質量%、より好ましくは0.1〜30質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%とすることにより、任意の厚さの膜を形成できる。
前記有機溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒(例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1−メチルナフタレン、1,2−ジクロロベンゼン等)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン等)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル等)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール等)、エーテル系溶媒(例えば、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール等)、極性溶媒(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1−メチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等)などが挙げられる。
【0022】
樹脂バインダーを用いる場合、樹脂バインダーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの絶縁性ポリマー、およびこれらの共重合体、ポリビニルカルバゾール、ポリシランなどの光伝導性ポリマー、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレンビニレンなどの導電性ポリマーを挙げることができる。樹脂バインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用しても良い。膜の機械的強度を考慮するとガラス転移温度の高い樹脂バインダーが好ましく、電荷移動度を考慮すると極性基を含まない構造の樹脂バインダーや光伝導性ポリマー、導電性ポリマーが好ましい。樹脂バインダーは使わない方が有機半導体の特性上好ましいが、目的によっては使用することもある。使う場合の樹脂バインダーの使用量は、特に制限はないが、有機半導体膜中、好ましくは0.1〜90質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは0.1〜30質量%で用いられる。
【0023】
半導体活性層の厚みは、特に制限はないが、無色透明性を高めるためには薄い方がよく、1nm〜100nmであることが好ましく、1nm〜70nmであることがより好ましく、1nm〜50nmであることが特に好ましい。
【0024】
基板表面は凹凸や平滑性、親水性・疎水性、分子間相互作用などを制御し、膜のモルフォロジーや分子配向状態を制御するために処理がなされていてもよく、例としては、二酸化ケイ素表面をヘキサメチルジシラザン(HMDS)やオクタデシルトリクロロシラン(OTS)の塗布により表面処理する方法、金表面をアルカンチオールで表面処理する方法などが挙げられる。
【0025】
成膜の際、基板を加熱または冷却してもよく、基板の温度を変化させることで膜のモルフォロジーや分子配向状態を制御することが可能である。基板の温度としては特に制限はないが、0℃〜200℃の間であることが好ましい。
【0026】
本発明に用いられるp型有機半導体材料は、膜厚30nmの薄膜としたときに可視域である400〜700nmの範囲の最大吸光度が0.2以下であり、実質的に無色透明である。したがって、本発明に用いられるp型有機半導体材料の薄膜状態での吸収極大波長は、紫外域(400nm未満)もしくは赤外域(700nmを超える)にあることが好ましい。一般に半導体特性は、広いπ共役系を有するものの方が高く、したがって、薄膜状態での吸収極大波長が赤外域にある材料を選ぶことが好ましい。薄膜状態での吸収極大波長として、好ましくは700nmを超え、より好ましくは750nm以上、さらに好ましくは800nm以上である。
【0027】
本発明に用いられるp型有機半導体材料は、下記一般式(Pc−1)で表されるフタロシアニン化合物であることが好ましい。
【0028】
【化7】

【0029】
(式中、Mは中心金属原子を表す。R1〜R16は水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表し、nは1又は2である。)
【0030】
前記一般式(Pc−1)において、中心金属Mは置換基R(軸配位子とも言う。)を1つまたは2つ結合し得る金属原子(半金属原子も含む。)であればいかなるものでもよいが、好ましくはSi、Ge、Sn、Al、Ga、Inであり、より好ましくはSi、Ge、Snである。中心金属Mに軸配位子Rを導入することによりπ−π相互作用が効果的に抑制され、薄膜吸収スペクトルのブロード化(無色透明性の低下につながる)を低減させることができる。さらに、吸収極大波長が長波長化するJ会合様式が優先されるため、無色透明性の高い薄膜が得られる。また、溶解性向上や昇華・蒸着性向上につながり、精製や成膜に有利になるという利点がある。
【0031】
軸配位子として導入されるRとしてはいかなるものでもよく、後述のWの中から選ぶことができる。これらの中で、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シリル基、シリルオキシ基が好ましく、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シリルオキシ基がより好ましく、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基がさらに好ましい。これらにさらに置換基が結合していてもよい。Rが複数の場合、複数のRは同一でも異なっていてもよいが、同一である方が好ましい。
【0032】
1〜R16は水素原子または置換基であり、置換基としては後述のWの中から選ぶことができる。これらの中で、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シリル基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シリル基がより好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基がさらに好ましい。これらにさらに置換基が結合していてもよい。また、隣接する置換位置同士(好ましくはR2とR3、R6とR7、R10とR11、R14とR15)でベンゾ縮環している場合も好ましい。縮環したベンゼン環にさらに置換基が結合していてもよい。
【0033】
また、本発明に用いられるp型有機半導体材料は、下記一般式(Nc−1)で表されるナフタロシアニン化合物である場合も好ましい。ナフタロシアニン化合物は、フタロシアニン化合物よりもπ共役系の拡張されており、吸収極大波長が長波長化し、可視域の吸収が減少するため、無色透明性が向上するためより好ましい。
【0034】
【化8】

【0035】
(式中、Mは金属原子、又はN1及びN2に結合する水素原子を表す。R17〜R40は水素原子または置換基を表す。)
【0036】
前記一般式(Nc−1)において、Mは金属原子(半金属原子も含む)、またはN1及びN2で表される窒素原子に結合する2つの水素原子を表す。Mが金属原子を表す場合は、安定な錯体を形成するものであれば金属はいかなるものでも良い。
【0037】
Mとして好ましくは、水素原子、Li、Na、K、Mg、Ca、Ti、Zr、V、Mn、Fe、Ru、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sbであり、より好ましくは水素原子、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pbであり、さらに好ましくはAl、Ga、In、Si、Ge、Snである。
【0038】
Mが金属原子を表す場合は、金属原子には軸配位子Rが結合していてもよく、Rとしては後述のWから選ぶことができる。軸配位子Rは前記一般式(Pc−1)における軸配位子Rと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0039】
前記一般式(Nc−1)におけるMが水素原子である場合は、下記一般式(Nc−1’)で表すことができる。
【化9】

【0040】
(式中、R17〜R40は水素原子または置換基を表す。)
【0041】
前記一般式(Nc−1)又は(Nc−1’)において、R17〜R40は水素原子または置換基を表し、置換基は後述のWから選ぶことができる。これらの中で、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シリル基が好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、ハロゲン原子、ヘテロ環基、シリル基がより好ましく、水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基がさらに好ましい。これらにさらに置換基が結合していてもよい。なお、隣接する置換位置同士(特に好ましくはR19とR20、R25とR26、R31とR32、R37とR38)でさらにベンゾ縮環したアントラシアニン化合物も、吸収極大波長がより長波長化し、無色透明性を向上させる観点では好ましいが、溶解性や昇華・蒸着性は著しく低下する。
【0042】
中心金属Mに軸配位子Rを有する場合、軸配位子によりπ−π相互作用が効果的に抑制され、薄膜吸収スペクトルのブロード化(無色透明性の低下につながる)を低減させることができるとともに、吸収極大波長が長波長化するJ会合様式が優先されるため、無色透明性が高い吸収スペクトル形状が得られ、さらに良好な溶解性や昇華・蒸着性が得られる。したがって、R17〜R40として置換基を特別に導入しなくてもよく、半導体特性の観点から導入される置換基の数はR17〜R40のうち、8個以内であることが好ましく、4個以内であることがより好ましく、0個(全て水素原子)であることが最も好ましい。
【0043】
中心金属Mが軸配位子を有しない場合、吸収スペクトルのブロード化(無色透明性の低下につながる)を抑制し、溶解性や昇華・蒸発性を付与するため、R17〜R40に置換基を導入することが好ましい。このとき、導入される置換基の数としては、R17〜R40のうち0〜16個であることが好ましく、4〜16個であることがより好ましい。
【0044】
前記一般式(Pc−1)又は(Nc−1)で表される有機半導体材料は、下記一般式(Nc−2)で表される場合がより好ましい。
【化10】

【0045】
(式中、Mは中心金属原子を表す。R17〜R40は水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表し、nは1又は2である。)
【0046】
前記一般式(Nc−2)において、Mは軸配位子Rを1つまたは2つ結合し得る金属原子(半金属原子も含む)であればいかなるものでもよい。Mとして好ましくはSi、Ge、Sn、Al、Ga、Inであり、より好ましくはSi、Ge、Snであり、最も好ましくはSiである。
Rは前記一般式(Pc−1)及び(Nc−1)について上述したものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
17〜R40は前記一般式(Nc−1)について上述したものと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0047】
本発明において、置換基の特定の部分を「基」と称した場合には、当該部分の基はそれ自体が置換されていなくてもよく、また、一種以上の(可能な最多数までの)別の置換基でさらに置換されていても良いことを意味する。例えば、「アルキル基」とは置換または無置換のアルキル基を意味する。つまり、本発明における化合物における置換基はさらに置換されていても良い。
【0048】
このような置換基をWとすると、Wで示される置換基としてはいかなるものでも良く、特に制限は無いが、例えば、ハロゲン原子、アルキル基(直鎖もしくは分岐アルキル基のほか、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む。)、アルケニル基(直鎖もしくは分岐アルケニル基のほか、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む。)、アルキニル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む。)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル又はアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル又はアリールスルフィニル基、アルキル又はアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール又はヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH)2)、ホスファト基(−OPO(OH)2)、スルファト基(−OSO3H)、その他の公知の置換基が例として挙げられる。
【0049】
さらに詳しくは、Wは下記の(1)〜(48)などを表す。
(1)ハロゲン原子
例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子
【0050】
(2)アルキル基
直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。それらは、(2−a)〜(2−e)なども包含するものである。
(2−a)アルキル基
好ましくは炭素数1〜30のアルキル基(例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2−エチルヘキシル)
(2−b)シクロアルキル基
好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)
(2−c)ビシクロアルキル基
好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基(例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)
(2−d)トリシクロアルキル基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のトリシクロアルキル基(例えば、1−アダマンチル)
(2−e)さらに環構造が多い多環シクロアルキル基
なお、以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)はこのような概念のアルキル基を表すが、さらにアルケニル基、アルキニル基も含むこととする。
【0051】
(3)アルケニル基
直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。それらは、(3−a)〜(3−c)を包含するものである。
(3−a)アルケニル基
好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基(例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)
(3−b)シクロアルケニル基
好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基(例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)
(3−c)ビシクロアルケニル基
置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基(例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)
【0052】
(4)アルキニル基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキニル基(例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基)
【0053】
(5)アリール基
好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基(例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル、フェロセニル)
【0054】
(6)ヘテロ環基
好ましくは、5または6員の置換もしくは無置換の、芳香族もしくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜50の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。
(例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル。なお、1−メチル−2−ピリジニオ、1−メチル−2−キノリニオのようなカチオン性のヘテロ環基でも良い)
【0055】
(7)シアノ基
(8)ヒドロキシ基
(9)ニトロ基
(10)カルボキシ基
【0056】
(11)アルコキシ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)
【0057】
(12)アリールオキシ基
好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)
【0058】
(13)シリルオキシ基
好ましくは、炭素数3〜30のシリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)
【0059】
(14)ヘテロ環オキシ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)
【0060】
(15)アシルオキシ基
好ましくは、ホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基(例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)
【0061】
(16)カルバモイルオキシ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基(例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)
【0062】
(17)アルコキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基(例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)
【0063】
(18)アリールオキシカルボニルオキシ基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基(例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)
【0064】
(19)アミノ基
好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアニリノ基(例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)
【0065】
(20)アンモニオ基
好ましくは、アンモニオ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキル、アリール、ヘテロ環が置換したアンモニオ基(例えば、トリメチルアンモニオ、トリエチルアンモニオ、ジフェニルメチルアンモニオ)
【0066】
(21)アシルアミノ基
好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基(例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)
【0067】
(22)アミノカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ(例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)
【0068】
(23)アルコキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ)
【0069】
(24)アリールオキシカルボニルアミノ基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)
【0070】
(25)スルファモイルアミノ基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基(例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)
【0071】
(26)アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ(例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)
【0072】
(27)メルカプト基
【0073】
(28)アルキルチオ基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基(例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)
【0074】
(29)アリールチオ基
好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールチオ(例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)
【0075】
(30)ヘテロ環チオ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)
【0076】
(31)スルファモイル基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル)
【0077】
(32)スルホ基
【0078】
(33)アルキルもしくはアリールスルフィニル基
好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)
【0079】
(34)アルキルもしくはアリールスルホニル基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)
【0080】
(35)アシル基
好ましくは、ホルミル基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、炭素数4〜30の置換もしくは無置換の炭素原子でカルボニル基と結合しているヘテロ環カルボニル基(例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル、2−ピリジルカルボニル、2−フリルカルボニル)
【0081】
(36)アリールオキシカルボニル基
好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)
【0082】
(37)アルコキシカルボニル基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)
【0083】
(38)カルバモイル基
好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイル(例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)
【0084】
(39)アリール又はヘテロ環アゾ基
好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基(例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)
【0085】
(40)イミド基
好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド
【0086】
(41)ホスフィノ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィノ基(例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)
【0087】
(42)ホスフィニル基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニル基(例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)
【0088】
(43)ホスフィニルオキシ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基(例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)
【0089】
(44)ホスフィニルアミノ基
好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基(例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)
【0090】
(45)ホスホ基
【0091】
(46)シリル基
好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシリル基(例えば、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)
【0092】
(47)ヒドラジノ基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のヒドラジノ基(例えば、トリメチルヒドラジノ)
【0093】
(48)ウレイド基
好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のウレイド基(例えばN,N−ジメチルウレイド)
【0094】
また、2つのWが共同して環を形成することもできる。このような環としては芳香族、または非芳香族の炭化水素環、またはヘテロ環や、これらがさらに組み合わされて形成された多環縮合環が挙げられる。例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、及びフェナジン環が挙げられる。これらの中で好ましい環は、ベンゼン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環である。
【0095】
上記の置換基Wの中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていても良い。そのような置換基の例としては、−CONHSO2−基(スルホニルカルバモイル基、カルボニルスルファモイル基)、−CONHCO−基(カルボニルカルバモイル基)、−SO2NHSO2−基(スルフォニルスルファモイル基)が挙げられる。
【0096】
より具体的には、アルキルカルボニルアミノスルホニル基(例えば、アセチルアミノスルホニル)、アリールカルボニルアミノスルホニル基(例えば、ベンゾイルアミノスルホニル基)、アルキルスルホニルアミノカルボニル基(例えば、メチルスルホニルアミノカルボニル)、アリールスルホニルアミノカルボニル基(例えば、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル)が挙げられる。
【0097】
以下に、前記一般式(Pc−1)、(Nc−1)又は(Nc−2)のいずれかで表されるp型有機半導体材料の好ましい具体例を示す。ただし本発明は以下の例に限定されるものではない。本明細書において、Buはブチル基、Prはプロピル基、Etはエチル基、Phはフェニル基をそれぞれ表す。
【化11】

【0098】
(半導体活性層以外の素子構成材料)
以下に、図1に示した透明有機薄膜トランジスタにおける半導体活性層14以外の素子構成材料について説明する。これらの各材料は、いずれも可視光または赤外光の透過率が60%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0099】
図1中、透明基板11としては、無色透明性と必要な平滑性を有するものであれば特に制限はないが、例えば、ガラス、石英、光透過性プラスチックフィルムなどが挙げられる。光透過性プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。また、これらのプラスチックフィルムに光学的透明性を失わない範囲で、有機あるいは無機のフィラーを含有させてもよい。
【0100】
図1中、透明ゲート電極12、透明ソース電極15a、又は透明ドレイン電極15bを構成する材料としては、無色透明性と必要な導電性を有するものであれば特に制限はないが、例えば、ITO(インジウムドープ酸化スズ)、IZO(インジウムドープ酸化亜鉛)、SnO2、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、ZnO、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、TiO2、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)などの透明導電性酸化物、PEDOT/PSS(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸)などの透明導電性ポリマー、カーボンナノチューブなどの炭素材料が挙げられる。これらの電極材料は、例えば真空蒸着法、スパッタリング、溶液塗布法等の方法で成膜することができる。無色透明性を高めるため、電極の厚さは5〜200nmとすることが好ましく、5〜100nmとすることがより好ましく、5〜50nmとすることがさらに好ましい。
【0101】
図1中、透明絶縁層13に用いられる材料としては、無色透明性と必要な絶縁効果を有するものであれば特に制限はないが、例えば、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナなどの無機材料、ポリエステル(PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)など)、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアクリレート、エポキシ樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、ノボラック樹脂、PVA(ポリビニルアルコール)、PS(ポリスチレン)、などの有機材料が挙げられる。これらの絶縁膜材料は、例えば真空蒸着法、スパッタリング、溶液塗布法等の方法で成膜することができる。無色透明性を高めるため、絶縁層の膜厚は5〜300nmとすることがこのましく、5〜300nmとすることがより好ましく、5〜200nmとすることがさらに好ましい。
【0102】
ゲート幅(チャンネル幅)Wとゲート長(チャンネル長)Lに特に制限はないが、これらの比W/Lが10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。
【0103】
また、素子を大気や水分から遮断し、素子の保存性を高めるために、素子全体をガラス、窒化ケイ素、アルミナなどの無機材料、パリレンなどの高分子材料などで封止しても良い。
【0104】
[透明半導体回路、画像表示装置、受光装置]
本発明の透明有機TFT素子を透明導電材料(例えば先述の電極材料)で配線することにより、透明半導体回路を作製することができる。このような透明半導体回路は、画像表示装置や受光装置の各画素となる各々の素子を駆動する選択駆動回路として好ましく用いることができる。通常、これらの選択駆動回路としては透明でないシリコンTFT素子を用いるため、駆動素子と開口部を別々の箇所に配置しなければならず、開口率を低下させる原因となっていた。本発明の透明有機TFT素子をこれらの画像表示装置や受光装置の選択駆動回路に使うことにより、積層化が可能となり、開口率の高い電子デバイスが得られる。このような画像表示装置として、好ましくはアクティブマトリクス型の液晶表示装置や有機EL表示装置、受光装置として好ましくは固体撮像素子などの光センサを挙げることができる。
【0105】
選択駆動回路は、基板上に複数の走査線と複数の信号線とが互いに直交する方向に配設され、上記両配線の各交差部に画素部と該選択駆動回路が形成されており、液晶表示装置においては、ゲートに接続した走査線(ゲートバスライン)の制御で、ソースに接続する信号線(ソースバスライン)からの信号を表示電極に送るスイッチング素子として薄膜トランジスタが最低1つ、また、有機EL表示装置においては、走査線(ゲートバスライン)に接続し信号線からの信号のオン/オフを選択する選択トランジスタおよび信号線からの信号により電流を制御して有機EL素子を発光させる駆動トランジスタの少なくとも2つの薄膜トランジスタが用いられている。固体撮像素子の場合は有機EL表示装置と同様の回路構成である。これらのTFTとして前記実質無色透明な有機TFTを用い、また該TFTとの電気的接点を含め配線を実質透明な導電性材料によって構成することで、アクティブマトリクス型の選択駆動回路を実質無色透明とすることができ、シリコン等で形成した半導体回路により駆動回路を構成したアクティブマトリクス型液晶表示装置、有機EL表示装置、あるいは固体撮像素子等の受光装置において、各画素に配置された選択駆動回路が開口率を低下させている原因をとり除くことができる。
【0106】
図2は、有機EL表示装置の選択駆動回路の好ましい一実施形態を等価回路で示す。行方向に延びる複数のゲート線101が配置され、これに交差するように列方向に複数のデータ線102および駆動線103が配置されている。駆動線103は、電源PVに接続されている。電源PVは正の定電圧を出力する電源であり、その電圧は、例えば接地電圧を基準として10Vの正電圧である。ゲート線101とデータ線102とのそれぞれの交点には選択TFT104が接続されている。選択TFT104のゲートはゲート線101に接続され、選択TFT104のドレインがデータ線102に接続されている。選択TFT104のソースは保持コンデンサ105と駆動TFT106のゲートに接続されている。駆動TFT106のドレインは、駆動線103に接続され、ソースは有機EL表示素子107の陽極に接続されている。有機EL表示素子107の陰極は接地されている。保持コンデンサ105の対極には、列方向に延在する容量線109が接続されている。
【0107】
ゲート線101は図示しないゲート線ドライバに接続され、ゲート線101には、ゲート線ドライバによって順次ゲート信号が印加される。ゲート信号はオンもしくはオフの2値の信号で、例えば、オンの時は正の所定電圧、オフの時は0Vとなる。ゲート線ドライバは、複数接続されるゲート線101のうち、選択された所定のゲート線のゲート信号をオンとする。ゲート信号がオンとなると、そのゲート線101に接続された全ての選択TFT104がオンとなり、選択TFT104を介してデータ線102と駆動TFT106のゲートが接続される。データ線102にはデータ線ドライバ108から表示する映像に応じて決定されるデータ信号が出力されており、データ信号は駆動TFT106のゲートに入力されるとともに、保持コンデンサ105に充電される。駆動TFT106は、データ信号の大きさに応じた導電率で駆動線103と有機EL表示素子107とを接続する。この結果、データ信号に応じた電流が駆動TFT106を介して駆動線103から有機EL表示素子107に供給され、データ信号に応じた輝度で有機EL表示素子107が発光する。保持コンデンサ105は、専用の容量線109もしくは駆動線103など他の電極との間で静電容量を形成しており、一定時間データ信号を蓄積することができる。データ信号は、ゲート線ドライバが他のゲート線101を選択し、そのゲート線101が非選択となって選択TFT104がオフした後も、保持コンデンサ105によって1垂直走査期間の間保持され、その間、駆動TFT106は前記導電率を保持し、有機EL表示素子107はその輝度で発光を続けることができる。
【0108】
以上が、アクティブマトリクス型有機EL表示装置の動作原理であるが、本明細書において、上述した選択TFT104、駆動TFT106等を有し、ゲート信号のような表示素子の1つもしくは複数を同時に選択する信号と、表示する映像によって決定されるデータ信号とによって、所定の表示素子にデータ信号に応じた電流を供給する回路を総称して選択駆動回路と称する。選択駆動回路は、上述した以外にも様々なパターンが考えられ、また、既に提案されている。例えば、発光輝度の画素ごとのバラツキを抑えるために、4TFT構成とした駆動回路等もあり、上記の構成は一例にすぎず、本発明はこれに限られるものではない。
【0109】
図3に上記のアクティブマトリクス型有機EL表示装置の構成の好ましい一実施形態を断面図で示す。ただし上記のうち、選択TFT104およびこれとデータ線102、駆動TFT106との接続等については図示していない。下記の構成は一例にすぎず、本発明はこれに限られるものではない。
【0110】
ガラス基板112上に駆動TFT106を複数配置する。すなわち、ガラス基板112上に、まず駆動TFT106のゲート電極106Gを100nmの膜厚でITO膜をパターニングして形成する。次いで、Al23からなる層間絶縁膜111を電子ビーム蒸着により形成する(膜厚200nm)。次いで、層間絶縁膜111上にマスクを用いた低温スパッタによりITO膜を膜厚50nmで形成させてソース電極106S、ドレイン電極106Dを形成する。次いで、ソース、ドレイン電極間に例示化合物1のクロロホルム溶液(5g/L)をスピンコートして厚さ30nmの半導体活性層106Cを形成させる。駆動TFT106上に層間絶縁膜113をやはりAl23を電子ビーム蒸着することで膜厚100nmとなるよう形成させ、その上にデータ線102および駆動線103をやはり全面にITO膜を低温スパッタにより膜厚100nmとなるよう形成した後、パターニングして配置する。こうして形成した駆動線103は、駆動TFT106のドレイン電極106Dにコンタクトホールを介して接続させる。それらの上に、さらにAl23による平坦化絶縁膜114を電子ビーム蒸着により膜厚100nmとなるよう成膜する。平坦化絶縁膜114の上には以下のようにして、ITO透明電極よりなる陽極115をスパッタ、パターニングして形成し(膜厚100nm)、画素ごとに有機EL表示素子107を配置する。すなわち、Al23による平坦化絶縁膜114を電子ビーム蒸着した後、平坦化絶縁膜114および層間絶縁膜113を貫通して駆動TFT106のソース電極106Sに達するコンタクトホール用の孔をエキシマレーザによって開け、平坦化絶縁膜114の表面およびコンタクトホール用の孔の内壁に同時にITO膜を形成させ、その後表面のパターニングを行って、陽極115を形成すると共に、各陽極115と各駆動TFT106のソース電極106SとをITO膜によって電気的に接続する。
【0111】
次いで、こうして形成したITO膜からなる陽極上にホール輸送層116としてα−NPD(4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル)を40nmの膜厚となるよう蒸着し、さらに、CBP(4,4’−(N,N’−ビスカルバゾリル)ビフェニル)とトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体を体積比100:7となるよう膜厚20nmだけ共蒸着し、発光層117を設ける。次いで、膜厚10nmのBCP(バソキュプロイン)からなるホールブロック層を設け(図示せず)、さらに、Alq3(トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III))からなる膜厚40nmの電子輸送層118を同様に蒸着により設ける。さらに、陰極バッファ層として酸化リチウム(Li2O)を0.5nm蒸着する(同じく図示せず)。以上の層上に、さらにアルミニウムを真空蒸着によって、100nm積層し、前記陽極115に対向して陰極119を形成する。
【0112】
この様にして形成された有機EL表示装置は、陽極115からホール輸送層116に注入されたホールと、陰極119から電子輸送層118に注入された電子とが発光層117の内部で再結合することにより光が放たれ、この光が図3中矢印で示したように、透明な陽極115側からガラス基板112を透過して外部に放射される。陽極115は画素ごとに独立して形成され、ホール輸送層116、発光層117、電子輸送層118、陰極119は、ここにおいては各画素共通に形成される。
【0113】
液晶表示装置については、その構成等に関して、例えば特開2002−116744号公報、同2002−122844号公報等に詳しく記載されており、これらを参照することができる。EL表示装置に用いられる各種の材料およびその構成等については特開2002−56976号公報、同2002−141170号公報、同2002−100480号公報等に詳しく記載されており、これらを参照することができる。固体撮像素子等の受光装置に用いられる各種の材料およびその構成等については特開2003−234460号公報、同2003−332551号公報、同2005−268609号公報等に詳しく記載されており、これらを参照することができる。
【0114】
なお、これらの回路および装置中に無色透明性の低い配線や素子が部分的に含まれている場合も、その部分が実質的に大きな部分を占めない限り、トランジスタの無色透明性を向上させた効果は大きい。
【0115】
また、本発明で用いる実質無色透明なp型有機半導体材料を使うことにより、透明有機TFT以外の透明有機電子デバイスを得ることもできる。そのような透明有機電子デバイスとしてはいかなるものでも良いが、膜構造を有するエレクトロニクス要素を用いたデバイスとすることが好ましく、例えば、有機光電変換素子、有機電界発光素子、ガスセンサ、有機整流素子、有機インバータ、情報記録素子が挙げられる。有機光電変換素子は光センサ用途(固体撮像素子)、エネルギー変換用途(有機太陽電池)のいずれにも用いることができる。透明有機TFT以外の透明有機電子デバイスとしては、好ましくは透明有機光電変換素子、透明有機電界発光素子が挙げられる。これらの透明有機電子デバイスを作製する場合、先述の透明有機TFTの例で述べたものを参考に、基板、電極、その他素子構成材料に無色透明性の高いものを用いればよい。
【実施例】
【0116】
以下に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
【0117】
以下の実施例で用いた例示化合物1〜4は特開昭63−5903号公報を参照して合成した。例示化合物7〜10は特開昭63−186251号公報およびInorg.Chem.,1992,31,3371−3377を参照して合成した。例示化合物16〜20はJ.Am.Chem.Soc.,1990,112,8064−8070を参照して合成した。例示化合物5及び11〜15、並びに比較用化合物のペンタセン及びバナジルフタロシアニン(VOPc)はAldrich社より購入した。
【0118】
実施例1
(薄膜の吸収スペクトル)
例示化合物1〜4を、それぞれ膜厚約30nmとなるように石英基板上に真空蒸着した。また、比較用化合物として、ペンタセン及びVOPcを同様にそれぞれ膜厚約30nmとなるよう真空蒸着した。これらの薄膜の吸収スペクトルを紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製、商品名、UV−3600)を用いて測定した。測定結果を図4及び表1に示す。図4は、例示化合物1、並びに比較用化合物であるペンタセン及びバナジルフタロシアニン(VOPc)の薄膜の吸収スペクトル測定結果を示す図である。図4及び表1に示したデータはいずれも検量線を用いて膜厚30nmあたりの吸光度に換算したものである。膜厚は触針式膜厚計(ULVAC社製、商品名、DEKTAK 6M)を用いて測定した。比較に用いたペンタセンやVOPcと異なり、例示化合物1〜4はいずれも吸収極大波長が800nm以上にあり、可視域の最大吸光度も0.2以下となっており、例示化合物1〜4はいずれも無色透明性に優れていることが分かった。また、例示化合物5〜20も同様に高い無色透明性を示すことがわかった。
【0119】
【表1】

【0120】
実施例2
(透明有機TFT素子の作製と評価)
ITO付きガラス基板上に、透明絶縁体層としてAl23を電子ビーム(EB)蒸着により膜厚200nmとなるよう成膜した。この上にマスクを用いた低温スパッタ法によりITO膜を膜厚50nmとなるようパターニングし、透明ソース電極および透明ドレイン電極とした。この上に例示化合物1〜4のクロロホルム溶液(5g/L)をそれぞれスピンコートすることにより、厚さ30nmの半導体活性層を形成させ、ボトムコンタクト型の有機TFT素子を得た。作製した素子は無色透明性が高かった。
【0121】
作製した素子の概略的な断面図を図5に示す。作製した有機TFT素子は、図5に示すように、最下層に透明基板(ガラス)31が配置され、その上面に透明電極(ITO)32が設けられ、さらに該透明電極32を覆いかつ透明電極32以外の部分で透明基板31と接するように透明絶縁体層(Al23)33が設けられている。さらに透明絶縁体層33の上面の一部に透明ソース電極(ITO)34aと透明ドレイン電極(ITO)34bとが隔離して配置されている。さらに電極34a及び34bを覆い、かつ電極34a及び34b以外の部分で透明絶縁体層33と接するように半導体活性層(p型有機半導体材料)35が設けられている。
【0122】
この作製した素子のトランジスタ特性を、セミオートプローバー(ベクターセミコン社製、商品名、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent社製、商品名4156C)を用いて常圧・窒素雰囲気下(グローブボックス中)で測定した。結果を図6に示す。図6(a)はドレイン電圧を−100V印加した時のゲート電圧−ドレイン電流特性を示し、図6(b)は各ゲート電圧におけるドレイン電圧−ドレイン電流特性を示す。
図6から明らかなように、作製した素子は良好なp型のトランジスタ特性を示した。ドレイン電流IDを表わす式ID=(W/2L)μCi(VG−Vth2(式中、Lはゲート長、Wはゲート幅、Ciは絶縁層の単位面積当たりの容量、VGはゲート電圧、Vthは閾値電圧を表す)を用いて計算したキャリア移動度μは2.6×10-5cm2/Vsで、ドレイン電圧−100V、ゲート電圧−100Vで動作時のゲート電圧−ドレイン電流特性より求めたオン/オフ比は1.3×104である。同様にして作製した例示化合物2〜4のトランジスタ特性を表2に示す。例示化合物1〜4を用いた素子はいずれも無色透明性が高く、良好なp型のトランジスタ特性を示すことが分かった。また、例示化合物5〜20を用いた場合も同様に無色透明性が高く、良好なp型のトランジスタ特性を示した。
【0123】
【表2】

【0124】
実施例3
(透明有機TFTを用いた画像表示装置)
図2に示した有機EL表示装置の選択駆動回路を作製し、図3に示した有機EL表示装置を作製した。
ガラス基板112上に駆動TFT106を複数配置した。すなわち、ガラス基板112上に、まず駆動TFT106のゲート電極106Gを100nmの膜厚でITO膜をパターニングして形成した。次いで、Al23からなる層間絶縁膜111を電子ビーム蒸着により形成した(膜厚200nm)。次いで、層間絶縁膜111上にマスクを用いた低温スパッタによりITO膜を膜厚50nmで形成させてソース電極106S、ドレイン電極106Dを形成した。次いで、ソース、ドレイン電極間に例示化合物1のクロロホルム溶液(5g/L)をスピンコートして厚さ30nmの半導体活性層106Cを形成させた。駆動TFT106上に層間絶縁膜113をやはりAl23を電子ビーム蒸着することで膜厚100nmとなるよう形成させ、その上にデータ線102および駆動線103をやはり全面にITO膜を低温スパッタにより膜厚100nmとなるよう形成した後、パターニングして配置した。こうして形成した駆動線103は、駆動TFT106のドレイン電極106Dにコンタクトホールを介して接続させた。それらの上に、さらにAl23による平坦化絶縁膜114を電子ビーム蒸着により膜厚100nmとなるよう成膜した。平坦化絶縁膜114の上には以下のようにして、ITO透明電極よりなる陽極115をスパッタ、パターニングして形成し(膜厚100nm)、画素ごとに有機EL表示素子107を配置した。すなわち、Al23による平坦化絶縁膜114を電子ビーム蒸着した後、平坦化絶縁膜114および層間絶縁膜113を貫通して駆動TFT106のソース電極106Sに達するコンタクトホール用の孔をエキシマレーザによって開け、平坦化絶縁膜114の表面およびコンタクトホール用の孔の内壁に同時にITO膜を形成させ、その後表面のパターニングを行って、陽極115を形成すると共に、各陽極115と各駆動TFT106のソース電極106SとをITO膜によって電気的に接続した。
【0125】
次いで、こうして形成したITO膜からなる陽極上にホール輸送層116としてα−NPD(4,4’−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル)を40nmの膜厚となるよう蒸着し、さらに、CBP(4,4’−(N,N’−ビスカルバゾリル)ビフェニル)とトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体を体積比100:7となるよう膜厚20nmだけ共蒸着し、発光層117を設けた。次いで、膜厚10nmのBCP(バソキュプロイン)からなるホールブロック層を設け(図示せず)、さらに、Alq3(トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III))からなる膜厚40nmの電子輸送層118を同様に蒸着により設けた。さらに、陰極バッファ層として酸化リチウム(Li2O)を0.5nm蒸着した(同じく図示せず)。以上の層上に、さらにアルミニウムを真空蒸着によって、100nm積層し、前記陽極115に対向して陰極119を形成した。
【0126】
このようにして形成された有機EL表示装置は、陽極115からホール輸送層116に注入されたホールと、陰極119から電子輸送層118に注入された電子とが発光層117の内部で再結合することにより光が放たれ、この光が図3中矢印で示したように、透明な陽極115側からガラス基板112を透過して外部に放射される。陽極115は画素ごとに独立して形成され、ホール輸送層116、発光層117、電子輸送層118、陰極119は、ここにおいては各画素共通に形成される。
【0127】
この有機EL表示装置は、TFTおよびこれと電気的接点を有する導電性材料からなる配線を含む駆動回路が実質的に透明な材料で形成されているために、画素の一部に駆動回路を構成するためのスペースが不要となり、発光面積を大きくでき、明るい表示が可能である。一方、通常透明ではないシリコン系のTFTを用いた場合には、駆動回路が電界発光の観察側になるために、駆動回路分の大きさだけ光取り出しの開口率が小さくなってしまう。
【0128】
実施例4
(透明有機TFTを用いた固体撮像素子)
有機EL表示素子を光電変換素子に代えたこと以外は実施例3と同様にして図2に記載の選択駆動回路を作製した。光電変換素子の部分は、ITO膜からなる陽極上に電子ブロッキング層116としてα−NPDを100nmの膜厚となるよう蒸着し、さらに、キナクリドンを膜厚100nmだけ蒸着し、光電変換層117を設けた。次いで、膜厚50nmのAlq3からなる膜厚50nmのホールブロッキング層118を同様に蒸着により設けた。以上の層上に、さらにアルミニウムを真空蒸着によって、100nm積層し、前記陽極115に対向して陰極119を形成した。
【0129】
このようにして形成された固体撮像素子は、図3中に示した矢印とは逆向きに透明な陽極115側からガラス基板112を透過して内部に入射された光により光電変換層117で電荷分離が起こってホールと電子が生成し、ホールは電子ブロッキング層116を通って陽極115へ、電子はホールブロッキング層118を通って陰極119へと運ばれ、電気信号として取り出される。陽極115は画素ごとに独立して形成され、電子ブロッキング層116、光電変換層117、ホールブロッキング層118、陰極119は、ここにおいては各画素共通に形成される。
【0130】
この固体撮像素子は、TFTおよびこれと電気的接点を有する導電性材料からなる配線を含む駆動回路が実質的に透明な材料で形成されているために、画素の一部に駆動回路を構成するためのスペースが不要となり、受光面積を大きくでき、高感度での受光が可能である。一方、通常透明ではないシリコン系のTFTを用いた場合には、駆動回路が受光の入射側になるために、駆動回路分の大きさだけ受光の開口率が小さくなってしまう。
【0131】
以上のように、本発明により高い無色透明性と良好なトランジスタ性能を兼ね備えた透明有機TFT素子が得られた。本発明の透明有機TFT素子を用いた選択駆動回路を画像表示素子や受光素子と積層して、選択駆動回路として用いて各画素を駆動することで、開口率の高い画像表示装置および受光装置を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の透明有機薄膜トランジスタ素子の構造を概略的に示す断面図である。
【図2】有機EL表示装置または固体撮像素子の選択駆動回路の一例を等価回路で示した図である。
【図3】有機EL表示素子または固体撮像素子の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の例示化合物1、並びに比較用化合物であるペンタセン及びバナジルフタロシアニン(VOPc)の薄膜(いずれも膜厚30nm換算)の吸収スペクトル測定結果を示す図である。
【図5】実施例2で作製した透明有機薄膜トランジスタ素子の構造を概略的に示す断面図である。
【図6】例示化合物1を用いた本発明の透明有機薄膜トランジスタのトランジスタ特性を示す図である((a)ドレイン電圧−100V印加時のゲート電圧−ドレイン電流特性、(b)ドレイン電圧−ドレイン電流特性)。
【符号の説明】
【0133】
11 透明基板
12 透明ゲート電極
13 透明絶縁体層
14 半導体活性層
15a 透明ソース電極
15b 透明ドレイン電極
31 透明基板(ガラス)
32 透明電極(ITO)
33 透明絶縁体層(Al23
34a 透明ソース電極(ITO)
34b 透明ドレイン電極(ITO)
35 半導体活性層(p型有機半導体材料)
【0134】
101 ゲート線
102 データ線
103 駆動線
PV 電源
104 選択TFT
105 保持コンデンサ
106 駆動TFT
106G ゲート電極
107 有機EL表示素子(光電変換素子)
108 データ線ドライバ
109 容量線
111 層間絶縁膜
112 ガラス基板
113 層間絶縁膜
114 平坦化絶縁膜
115 陽極
116 ホール輸送層(電子ブロッキング層)
117 発光層(光電変換層)
118 電子輸送層(ホールブロッキング層)
119 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体活性層に、膜厚30nmの薄膜としたときに可視域である400〜700nmの範囲の最大吸光度が0.2以下であるp型有機半導体材料を用いたことを特徴とする透明有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
キャリア移動度が1.0×10-5cm/Vs以上である、請求項1記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
前記p型有機半導体材料が低分子化合物である、請求項1又は2に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
前記半導体活性層が溶液塗布法により成膜されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
前記p型有機半導体材料の薄膜状態での吸収極大波長が700nm以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
前記p型有機半導体材料が下記一般式(Pc−1)で表されるフタロシアニン化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【化1】

(式中、Mは中心金属原子を表す。R1〜R16は水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表し、nは1又は2である。)
【請求項7】
前記p型有機半導体材料が下記一般式(Nc−1)で表されるナフタロシアニン化合物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【化2】

(式中、Mは金属原子、又はN1及びN2に結合する水素原子を表す。R17〜R40は水素原子または置換基を表す。)
【請求項8】
前記p型有機半導体材料が下記一般式(Nc−2)で表されるナフタロシアニン化合物である、請求項6又は7に記載の透明有機薄膜トランジスタ。
【化3】

(式中、Mは中心金属原子を表す。R17〜R40は水素原子または置換基を表す。Rは置換基を表し、nは1又は2である。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタを用いた透明半導体回路。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタを用いた選択駆動回路で駆動される画像表示装置。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の透明有機薄膜トランジスタを用いた選択駆動回路で駆動される受光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−212389(P2009−212389A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55434(P2008−55434)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】