説明

運転支援システム、方法およびプログラム

【課題】回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電した場合であってもエンジンブレーキを作用させることによるエンジン回転によって運転者に大きな違和感を与えないようにする技術の提供。
【解決手段】車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定し、前記バッテリが前記上限電力量まで充電された状態で前記車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得し、前記バッテリに前記上限電力量まで充電されると推定される場合、前記バッテリの残電力量が前記上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって前記第1制動力よりも小さい第2制動力を前記車両に作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回生ブレーキとエンジンブレーキとを作用させることが可能な車両における運転支援システム、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に作用するエネルギーによってモータを駆動してバッテリを充電することによって車両に制動力を作用させる回生ブレーキが知られており、効率的に回生ブレーキを利用して走行時の消費エネルギーを抑制する各種の技術が開発されている。例えば、特許文献1には、経路上に大きな回生エネルギーを回収できる降坂路がある場合、一時的にバッテリに充電可能な上限電力量を増大させ、増大させた上限電力量まで回生エネルギーを回収可能にする技術が開示されている。すなわち、降坂路においてできるだけ多くの回生エネルギーを回収することで効率的にエネルギーを回収する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−160269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来技術においては、一時的にバッテリに充電可能な上限電力量が増大されるものの、当該増大された上限電力量までバッテリに充電されると、回生ブレーキを利用できなくなって回生ブレーキが停止する。そして、長い降坂路等においては、走行過程でバッテリに上限電力量まで充電されることがあり、バッテリに上限電力量まで電力が充電された場合、制動力を補うためにエンジンブレーキが利用されることがある。
【0005】
しかし、回生ブレーキを使用し、かつ、エンジンブレーキを使用していない状態から、回生ブレーキを使用せず、かつ、エンジンブレーキを使用する状態に切り替わると、エンジン回転数が急激に上昇し、運転者に大きな違和感を与えてしまう。
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電した場合であってもエンジンブレーキを作用させることによるエンジン回転によって運転者に大きな違和感を与えないようにする技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明においては、車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電される場合、バッテリの残電力量が上限電力量となる前にエンジンブレーキによって第2制動力を車両に作用させる。そして、当該第2制動力は、バッテリが上限電力量まで充電された状態で車両に作用させるべき制動力である第1制動力よりも小さくなるように制御する。
【0007】
すなわち、バッテリの残電力量が上限電力量となった状態で車両に第1制動力を作用させるべき場合、バッテリの残電力量が上限電力量となる以前に回生ブレーキによって車両を制動させ、バッテリの残電力量が上限電力量となった後にエンジンブレーキによって車両を制動させると、エンジン回転数が最低値である状態から急激に上昇し、運転者に大きな違和感を与えてしまう。そこで、バッテリの残電力量が上限電力量となる前に、第1制動力より小さい第2制動力が車両に作用するように車両に作用する制動力を制御する。
【0008】
この結果、バッテリの残電力量が上限電力量となった後にエンジン回転数が最低値である状態から急激に上昇することを防止することができ、回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電した場合であってもエンジンブレーキを作用させることによるエンジン回転によって運転者に大きな違和感を与えないようにすることができる。
【0009】
ここで、電力量推定手段は、車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定することができればよい。すなわち、予め走行予定経路が設定されている状態において、走行予定経路を構成する道路の地点毎のバッテリの残電力量を推定し、走行予定経路のいずれかの地点でバッテリの残電力量が上限電力量となるか否かを推定することができればよい。地点毎のバッテリの残電力量は、車両の動作(車速や加速度等)、道路の高度など、車両に作用するエネルギーを特定するために必要なパラメータに基づいて特定すればよい。また、車両の動作は道路の高度や渋滞度、時間帯等によって推定しても良いし、過去の車両の動作の履歴によって推定しても良い。なお、上限電力量は予め決められていればよく、一定の値でも良いし、動的に変動する値であっても良い。なお、走行予定経路は、車両で利用されるナビゲーションシステムによって設定されても良いし、車両と異なる位置に存在する管理装置にて設定された走行予定経路が通信によって取得される構成であっても良い。
【0010】
制動力取得手段は、バッテリが上限電力量まで充電された状態で車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得することができればよい。すなわち、車両に回生ブレーキを作用させずにエンジンブレーキを作用させた場合に、当該エンジンブレーキによってエンジン回転数が急激に増大することが運転者の違和感の原因となるため、当該エンジン回転数に対応するエンジンブレーキの制動力を第1制動力として取得することができればよい。また、第1制動力の大きさは走行前に特定できるように構成されていればよい。例えば、車両の仕様によって一定の制動力が作用するように決められている場合には当該一定の制動力が第1制動力になる。また、各種の指標に基づいて第1制動力が特定される構成であってもよく、例えば、バッテリが上限電力量まで充電される地点における道路勾配や車両の動作等によって特定する構成としてもよい。なお、車両の動作としては、車両の速度や加速度等が挙げられるが、むろん、車両が備えるトランスミッションの状態を規定するシフトレバーの状態から決められる動作であっても良い。
【0011】
制動力制御手段は、バッテリに上限電力量まで充電されると推定される場合、バッテリの残電力量が上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって第1制動力よりも小さい第2制動力を車両に作用させることができればよい。すなわち、エンジンブレーキによる制動を開始することに伴うエンジン回転数の上昇幅が、エンジンブレーキが車両に作用していない状態からエンジンブレーキによって車両に第1制動力を作用させる状態に切り替える場合と比較して抑制できるように、事前に第2制動力を車両に作用させることができればよい。
【0012】
なお、バッテリの残電力量が上限電力量となる前にエンジンブレーキによって第2制動力を作用させる状態とすることができる限り、その後、エンジンブレーキによって第1制動力を作用させる状態とすることは可能である。すなわち、ここでは、バッテリに上限電力量まで充電される前にエンジンブレーキによって第1制動力よりも小さい第2制動力を車両に作用させることができれば、エンジンブレーキによる制動を開始することに伴うエンジン回転数の上昇幅を抑制することができるため、第2制動力を作用させた後、制動力を変化させ車両に第1制動力が作用する状態となっても良い。
【0013】
例えば、エンジンブレーキによって第2制動力を車両に作用させる制御を開始した後、第1制動力となるまでエンジンブレーキによる制動力を徐々に増大させる構成としても良い。すなわち、第2制動力を作用させた後、制動力を徐々に増大させて第1制動力とすれば、エンジン回転数が徐々に上昇するため、運転者に違和感を与えることはない。
【0014】
また、エンジンブレーキによって一定の第2制動力を車両に作用させる構成としても良い。この構成によれば、極めて簡易な制御によって運転者の違和感を防止することができる。
【0015】
さらに、回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定する際に、走行予定経路に含まれる降坂路においてエンジンブレーキを使用せず、かつ、回生ブレーキを車両に作用させた場合にバッテリに上限電力量まで充電される地点を推定する構成としても良い。この場合、当該地点に到達する前にエンジンブレーキによって第2制動力を車両に作用させることになる。すなわち、当該地点が存在することが推定される場合に、回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるとみなす。また、走行予定経路に含まれる降坂路においてエンジンブレーキを使用せず、かつ、回生ブレーキを車両に作用させた場合にバッテリに上限電力量まで充電される地点を推定する構成においては、エンジンブレーキによる制動力を考慮することなく降坂路におけるバッテリの残電力量を推定することができるため、バッテリに上限電力量まで充電される地点を容易に推定することができる。
【0016】
さらに、バッテリに上限電力量まで充電された場合にエンジンブレーキによる制動が開始される車両において、バッテリの残電力量が上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって第1制動力よりも小さい第2制動力を車両に作用させる構成としても良い。すなわち、走行予定経路に基づいてバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定し、バッテリの残電力量が上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって第1制動力よりも小さい第2制動力を車両に作用させる構成とする。この場合、第1制動力は、バッテリに上限電力量まで充電された場合に始動するエンジンブレーキによって車両に作用させるべき制動力として予め決められた制動力である。
【0017】
さらに、本発明のようにバッテリの残電力量が上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって第1制動力よりも小さい第2制動力を車両に作用させる手法は、プログラムや方法としても適用可能である。また、以上のようなシステム、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合や、複数の装置によって実現される場合、車両に備えられる各部と共有の部品を利用して実現される場合が想定可能であり、各種の態様を含むものである。例えば、以上のような装置を備えたナビゲーションシステムや方法、プログラムを提供することが可能である。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、システムを制御するプログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】運転支援システムを含むナビゲーション装置のブロック図である。
【図2】(2A)(2B)(2C)は車両に制動力を作用させる際の各部の動作状態を説明する図である。
【図3】運転支援処理を示すフローチャートである。
【図4】(4A)は地点毎の高度、(4B)は目標車速、(4C)は制動力、(4D)は残電力量、(4E)はエンジン回転数を示す図である。
【図5】(5A)は地点毎の高度、(5B)は目標車速、(5C)は制動力、(5D)は残電力量、(5E)はエンジン回転数を示す図である。
【図6】(6A)は地点毎の高度、(6B)は目標車速、(6C)は制動力、(6D)は残電力量、(6E)はエンジン回転数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)ナビゲーション装置の構成:
(2)運転支援処理:
(3)他の実施形態:
【0020】
(1)ナビゲーション装置の構成:
図1は、本発明にかかる運転支援システムを含むナビゲーション装置10の構成を示すブロック図である。ナビゲーション装置10は、CPU,RAM,ROM等を備える制御部20、記録媒体30を備えており、記録媒体30やROMに記憶されたプログラムを制御部20で実行することが可能である。本実施形態においては、このプログラムとしてナビゲーションプログラムを実行可能であり、当該ナビゲーションプログラムは運転支援プログラム21を含んでいる。運転支援プログラム21は、制御部20がナビゲーションプログラムを実行している過程で実行される。
【0021】
本実施形態における車両は、GPS受信部41と車速センサ42とジャイロセンサ43と内燃機関44とギア機構45と出力軸46と発電機47とモータ48とバッテリ49と摩擦制動部50とを備えており、各部を必要に応じて利用して制御部20が運転支援プログラム21による機能を実現する。
【0022】
GPS受信部41は、GPS衛星からの電波を受信し、図示しないインタフェースを介して車両の現在地点を算出するための情報を出力する。制御部20は、この信号を取得して車両の現在地点を取得する。車速センサ42は、車両が備える車輪の回転速度に対応した信号を出力する。制御部20は、図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の現在車速を取得する。ジャイロセンサ43は、車両に作用する角速度に対応した信号を出力する。制御部20は図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の走行方向を取得する。車速センサ42およびジャイロセンサ43等は、GPS受信部41の出力信号から特定される車両の現在地点を補正するなどのために利用される。また、車両の現在地点は、当該車両の走行軌跡に基づいて適宜補正される。
【0023】
内燃機関44は、液体燃料の燃焼によって回転軸を回転させ、または回転軸の回転に対する抵抗によってエンジンブレーキを発生させる機関である。出力軸46は、車両が備える車輪に連動して回転軸が回転する機構である。発電機47は、バッテリ49からの電力共有によって回転軸が回転し、また、回転軸に作用するエネルギーによって電力を生成する装置である。発電機47の動作は制御部47aに制御され、制御部47aは制御部20からの指示によって発電機47の動作を決定する機能も備えている。すなわち、制御部20は、発電機47がバッテリ49から電力を受けて動力を発生する状態とギア機構45からトルクを受けて電力を発生する状態とを切り替えることができる。また、制御部47aは、図示しないインバータによって発電機47のインピーダンスを調整することができ、発電機47の回転軸を回転させるために必要なトルクを調整することができる。従って、発電機47を回転させるためのトルクを実質的に0として空転させることができる。
【0024】
モータ48、はバッテリ49からの電力共有によって回転軸が回転し、また、回転軸に作用する動力によって電力を生成する装置である。モータ48の動作は制御部48aに制御され、制御部48aは制御部20からの指示によってモータ48の動作を決定する機能も備えている。従って、制御部20は、モータ48がバッテリ49から電力を受けて動力を発生する状態とギア機構45からトルクを受けて電力を発生する状態とを切り替えることができる。また、制御部48aは、図示しないインバータによってモータ48のインピーダンスを調整することができ、モータ48の回転軸を回転させるために必要なトルクを調整することができる。従って、モータ48を回転させるためのトルクを実質的に0として空転させることができる。
【0025】
バッテリ49は電力を蓄積する機構であり、発電機47、モータ48のいずれかまたは双方を対象とし、蓄積された電力を供給し、また、電力の供給を受けて電力を蓄積することが可能である。なお、本実施形態においてバッテリ49に対して充電可能な電力量には予め上限が設定されており、ここでは当該上限を上限電力量と呼ぶ。また、制御部20がバッテリ49に対して制御信号を出力すると当該バッテリ49から残電力量を示す情報が出力され、制御部20は当該情報に基づいて残電力量を取得することができる。
【0026】
本実施形態にかかる車両は、ハイブリッド車両であり、内燃機関44と発電機47とモータ48とはギア機構45を介して出力軸46に接続されている。すなわち、ギア機構45は、内燃機関44の回転軸に連動するプラネタリキャリアと出力軸46の回転軸に連動するリングギアと発電機47の回転軸に連動するサンギアとを備えている。また、モータ48の回転軸と出力軸46の回転軸とリングギアとはギア機構45が備えるギアを介して接続されている。
【0027】
以上の構成により、ギア機構45においては、プラネタリキャリアに接続されたピニオンギアとリングギアとサンギアの歯数の比に応じた所定の関係の回転数で内燃機関44の回転軸と出力軸46の回転軸と発電機47の回転軸を回転させることができる。そして、ギア機構45は、内燃機関44の回転軸と出力軸46の回転軸と発電機47の回転軸の回転数を所定の関係に維持しながら、内燃機関44、出力軸46、発電機47、モータ48のいずれかまたは複数の部位における回転軸に作用するトルクを他の部位または他の複数の部位における回転軸に伝達することができる。
【0028】
また、本実施形態において、内燃機関44は図示しないスロットルペダルの操作量に応じてトルクが増減し、発電機47は制御部47aの制御によってトルクが増減し、モータ48は制御部48aの制御によってトルクが増減する。そして、本実施形態においては、内燃機関44の回転軸がスロットルペダルの操作量に応じた回転数で回転している状態、あるいは、スロットルペダルが操作されていないことによって積極的に目的回転数となるような制御が行われていない状態のそれぞれにおいて、制御部47a、制御部48aが適宜発電機47、モータ48のトルクを制御することで車両に作用する力を制御する。すなわち、制御部47a、制御部48aが適宜発電機47、モータ48のトルクを制御することにより、内燃機関44、発電機47、モータ48のいずれかまたは組み合わせが出力するトルクによって車両が駆動される。
【0029】
また、制御部47a、制御部48aが適宜発電機47、モータ48のトルクを制御することにより、出力軸46に作用するトルクを内燃機関44、発電機47、モータ48のいずれかまたは組み合わせに伝達することによって車両に作用する制動力を制御する。本実施形態においては、後述の処理により、回生ブレーキを使用し、エンジンブレーキを使用せずに車両を制動する状態と、回生ブレーキとエンジンブレーキとを使用して車両を制動する状態と、回生ブレーキを使用せず、エンジンブレーキを使用して車両を制動する状態とを切り替えることができる。また、制御部47a、制御部48aが発電機47、モータ48のトルクを制御することにより、車両に作用する制動力を制御することができる。
【0030】
図2Aは、回生ブレーキを使用し、エンジンブレーキを使用せずに車両を制動する状態における内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を説明するため図である。当該図2Aにおいては、内燃機関44等の各部の間に記された矢印がエネルギーの流れを示しており、矢印の幅がエネルギー量を模式的に示している。また、円形はエネルギーの分配が行われる部分を模式的に示しており、内燃機関44と出力軸46との間の2つの円形はギア機構45によって実現されるエネルギーの分配を示し、バッテリ49の上方に示す円形は電気的に実現されるエネルギーの分配を示している。当該表記は図2B,2Cにおいても同様である。
【0031】
図2Aに示す状態はスロットルペダルが操作されていない場合に実現される。スロットルペダルが操作されていない状態において、内燃機関44は積極的に回転されないため、内燃機関44の回転軸から他の部位へのエネルギーの流れは存在しない。一方、車両が走行することにより、出力軸46の回転軸は回転し、出力軸46から他の部位へエネルギーが伝達される。また、本実施形態では、図2Aに示す状態において、制御部47aが発電機47のインピーダンスを調整することで発電機47のトルクを調整し、発電機47の回転軸を空転させる。従って、出力軸46からギア機構45に伝達されるエネルギーから内燃機関44および発電機47に有意な量のエネルギーは伝達されず、図2Aにおいては、出力軸46側から内燃機関44や発電機47側に延びる矢印は記されていない。
【0032】
一方、図2Aに示す状態においては、制御部48aがモータ48のインピーダンスを調整することにより、出力軸46からモータ48にエネルギーが伝達されるようにモータ48のトルクを調整する。この結果、モータ48は出力軸46から伝達されるエネルギーによって発電し、発電されたエネルギーはバッテリ49に蓄積される。図2Aにおいては、この様子を矢印によって示している。また、当該モータ48での発電に伴って生じる抵抗が車両に対して制動力を作用させるため、図2Aに示す状態においては、車両に回生ブレーキを作用させた状態となる。さらに、制御部48aがモータ48のトルクを調整することにより、回生ブレーキによって車両に作用させる制動力を調整することができる。
【0033】
図2Bは、回生ブレーキとエンジンブレーキとを使用して車両を制動する状態における内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を説明するため図であり、図2Bに示す状態もスロットルペダルが操作されていない場合に実現される。図2Bに示す状態においても、車両が走行することにより出力軸46の回転軸は回転し、出力軸46から他の部位へエネルギーが伝達される。また、本実施形態では、図2Bに示す状態において、制御部48aがモータ48のインピーダンスを調整することにより、出力軸46からモータ48にエネルギーが伝達されるようにモータ48のトルクを調整する。さらに、制御部47aが発電機47のインピーダンスを調整することにより、出力軸46から内燃機関44へもエネルギーが伝達されるように発電機47のトルクを調整する。
【0034】
この結果、モータ48は出力軸46から伝達されるエネルギーによって発電し、発電されたエネルギーはバッテリ49に蓄積される。同時に、内燃機関44には出力軸46からエネルギーが伝達されて回転軸が回転する。図2Bにおいては、この様子を矢印によって示している。また、当該モータ48での発電に伴って生じる抵抗と内燃機関44の回転に伴って生じる抵抗とが車両に対して制動力を作用させるため、図2Bに示す状態においては、車両に回生ブレーキおよびエンジンブレーキを作用させた状態となる。なお、本実施形態においては、発電機47のトルクを調整することによって発電機47の回転数を調整することで、出力軸46の回転に伴って回転される内燃機関44の回転軸の回転数も調整することができる。従って、出力軸46から伝達されるエネルギーをモータ48と内燃機関44とに分配する際の分配率を調整することができる。このため、制御部47aの制御により、車両に作用する制動力と当該制動力における回生ブレーキとエンジンブレーキとの分配率とを調整することができる。
【0035】
図2Cは、回生ブレーキを使用せず、エンジンブレーキを使用して車両を制動する状態における内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を説明するため図であり、図2Cに示す状態もスロットルペダルが操作されていない場合に実現される。図2Cに示す状態においても、車両が走行することにより出力軸46の回転軸は回転し、出力軸46から他の部位へエネルギーが伝達される。また、本実施形態では、制御部48aがモータ48のインピーダンスを調整することでモータ48のトルクを調整し、モータ48の回転軸を空転させる。従って、出力軸46からギア機構45に伝達されるエネルギーからモータ48に有意な量のエネルギーは伝達されず、図2Cにおいては、出力軸46側からモータ48側に延びる矢印は記されていない。
【0036】
一方、図2Cに示す状態において、制御部47aが発電機47のインピーダンスを調整することにより、出力軸46から内燃機関44にエネルギーが伝達されるように発電機47のトルクを調整する。この結果、内燃機関44には出力軸46からエネルギーが伝達されて回転軸が回転する。図2Cにおいては、この様子を矢印によって示している。また、当該内燃機関44の回転に伴って生じる抵抗が車両に対して制動力を作用させるため、図2Cに示す状態においては、車両にエンジンブレーキを作用させた状態となる。なお、本実施形態においては、発電機47のトルクを調整することによって発電機47の回転数を調整することで、出力軸46の回転に伴って回転される内燃機関44の回転軸の回転数も調整することができる。従って、制御部47aの制御により、車両に作用する制動力を調整することができる。
【0037】
以上のように、本実施形態において制御部47a、制御部48aは、車両に対してエンジンブレーキのみが作用する状態と、回生ブレーキのみが作用する状態と、エンジンブレーキと回生ブレーキとが作用する状態とを切り替えることができるとともに、各状態における制動力を調整することができる。そして、制御部20から、制動力を指示する制御信号を制御部47a、48aのいずれかまたは双方に出力すると、エンジンブレーキと回生ブレーキとの一方または双方を利用して所望の制動力を車両に作用させるように調整することができる。
【0038】
摩擦制動部50は、車輪に搭載された摩擦ブレーキによる制動力を調整するホイールシリンダおよびホイールシリンダの圧力を調整するための減速量調整ペダルを含む装置である。すなわち、運転者は減速量調整ペダルを操作してホイールシリンダの圧力を調整して車両に作用する制動力を調整し、車両を減速させることができる。制御部20は、図示しないインタフェースを介して摩擦制動部50に対して制御信号を出力して減速量調整ペダルの操作量を示す情報を取得し、減速量調整ペダルの操作に応じて車両に作用している摩擦制動力の大きさを取得することができる。
【0039】
ユーザI/F部51は、ユーザに各種の情報を提供し、またはユーザの指示を入力するためのインタフェース部であり、本実施形態においては図示しないタッチパネルディスプレイからなる表示部と音声を出力するスピーカーを備えている。制御部20は、当該ユーザI/F部51に対して制御信号を出力して任意の画像を表示部に表示させ、任意の音声をスピーカーから出力させる。また、制御部20は、ユーザI/F部51の出力信号に基づいて利用者の指示内容を特定する。
【0040】
記録媒体30には地図情報30aが記録されている。地図情報30aは、車両が走行する道路上に設定されたノードを示すノードデータ,ノード間の道路の形状を特定するための形状補間点データ,ノード同士の連結を示すリンクデータ等を含んでいる。また、ノードデータおよび形状補間点データには、ノードや形状補間点に相当する道路の高度を示す情報が含まれており、リンクデータには、各リンクに対応した道路の摩擦や空気抵抗など車両走行時に作用する抵抗力を評価するための抵抗係数を示すデータが含まれている。
【0041】
制御部20は、ナビゲーションプログラムの処理により、ユーザI/F部51を介した利用者からの指示に応じて地図情報30aを参照し、車両の現在地点から目的地点までの経路を探索し、探索された経路を走行予定経路として取得する。また、制御部20は、走行予定経路を示す情報を経路情報30bとして記録媒体30に記録する。さらに、制御部20は、ナビゲーションプログラムの処理により、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて車両の現在地点を特定する。また、走行予定経路が設定されている場合、制御部20は、ナビゲーションプログラムの処理によりユーザI/F部51に制御信号を出力し、車両が走行予定経路に沿って走行できるように経路案内を行う。
【0042】
本実施形態においては、車両が走行予定経路に沿って走行している過程で降坂路にて車両に制動力を作用させることで運転支援を行う構成となっており、当該運転支援を実行するために、制御部20は、運転支援プログラム21の処理を実行する。運転支援プログラム21は、電力量推定部21aと制動力取得部21bと制動力制御部21cとを備えている。
【0043】
電力量推定部21aは、車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定する機能を制御部20に実現させるプログラムモジュールである。すなわち、制御部20は、ナビゲーションプログラムによって走行予定経路が設定され、走行予定経路を示す経路情報30bが記録媒体30に記録されている状態において、経路情報30bを参照し、走行予定経路を構成する道路の地点毎のバッテリの残電力量を推定する。
【0044】
具体的には、制御部20は、バッテリ49に対して制御信号を出力して走行開始前のバッテリ49の残電力量を取得する。また、制御部20は、地図情報30aを参照して走行予定経路を構成する道路の高度変化(勾配)と各道路での抵抗係数を取得し、車両の重量など、車両の動作を評価するためのパラメータに基づいて、各道路を所定の目標車速で走行するために車両に作用させるべき加速度を特定し、走行過程における地点毎の車速を特定する。制動力は当該加速度に基づいて特定される。すなわち、制御部20は、加速度が負である場合に車両の重量と加速度との積の絶対値を制動力として特定する。なお、車両の重量は定数であるため、制動力を特定することと加速度を特定することとは等価である。
【0045】
本実施形態においては、車両の制動力および車速に応じて内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態が予め決められており、制御部20は、走行予定経路上の各地点における内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態に基づいて各地点における電力の消費量あるいは充電量を特定する。この結果、走行開始前のバッテリ49の残電力量に対する走行後のバッテリ49の残電力量の推移を推定することができる。
【0046】
なお、本実施形態において制御部20は、走行予定経路に含まれる降坂路においてエンジンブレーキを使用せず、かつ、回生ブレーキを車両に作用させるように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を設定する。このような動作状態においては、回生ブレーキによって生成された電力がバッテリ49に充電されるため、当該動作状態での降坂路上の走行が続くと徐々にバッテリ49の残電力量が増大する。そして、降坂路の勾配や長さによっては、降坂路の途中でバッテリ49に上限電力量まで充電され得る。従って、このような地点が存在すると推定される場合、制御部20は、車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されると推定する。なお、本実施形態において、上限電力量は予め決められた一定の値である。
【0047】
制動力取得部21bは、バッテリ49が上限電力量まで充電された状態で車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得する機能を制御部20に実現させるプログラムモジュールである。すなわち、制御部20は、電力量推定部21aの処理によりバッテリ49に上限電力量まで充電されると推定される地点が走行予定経路上に特定された場合、当該地点における制動力を第1制動力として取得する。すなわち、電力量推定部21aの処理により上述のようにして走行予定経路上の地点毎に車両に作用させるべき制動力が特定されているため、制御部20は、当該制動力を第1制動力として取得する。
【0048】
制動力制御部21cは、バッテリ49に上限電力量まで充電されると推定される場合、バッテリ49の残電力量が上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって第1制動力よりも小さい第2制動力を車両に作用させる機能を制御部20に実現させるプログラムモジュールである。すなわち、制御部20は、電力量推定部21aの処理によりバッテリ49に上限電力量まで充電されると推定される地点が走行予定経路上に特定された場合、車両が走行を開始し、当該地点を含む降坂路に到達すると降坂路の開始地点以後においてエンジンブレーキを使用せず、かつ、回生ブレーキを車両に作用させるように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を設定する。
【0049】
そして、制御部20は、バッテリ49に上限電力量まで充電されると推定される地点に車両が到達する前に、エンジンブレーキによって車両に第2制動力を作用させるように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を設定する。なお、このとき、制御部20は、降坂路上の各地点にて車両に作用させるべき制動力を特定し、第2制動力が車両に作用させるべき制動力に満たない場合には回生ブレーキを併用して当該車両に作用させるべき制動力で車両を減速させるように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を設定する。また、本実施形態において制御部20は、エンジンブレーキによって車両に第2制動力を作用させる制御を開始した後、第1制動力となるまでエンジンブレーキによって車両に作用させる制動力を徐々に増大させる。
【0050】
なお、第2制動力は、エンジンブレーキによる制動を開始することに伴うエンジン回転数の上昇幅が、エンジンブレーキが車両に作用していない状態からエンジンブレーキによって車両に第1制動力を作用させる状態に切り替える場合と比較して抑制できるように決定されていればよい。従って、第2制動力は、エンジン回転数が最低値である状態から、エンジンブレーキによって車両に第2制動力を作用させた状態に切り替わった場合であっても、運転者が違和感を感じないように設定されていればよい。本実施形態において第2制動力は、エンジンブレーキによって車両に作用させることができる最小限の制動力として設定されている。
【0051】
以上の構成により、本実施形態においては、エンジンブレーキを作用させることによるエンジン回転によって運転者に大きな違和感を与えないようにすることができる。すなわち、バッテリ49の残電力量が上限電力量となった場合に第1制動力を車両に作用させるべき場合、バッテリ49の残電力量が上限電力量となる以前にエンジンブレーキを使用せず、かつ、回生ブレーキによって車両を制動させ、バッテリ49の残電力量が上限電力量となった後にエンジンブレーキによって車両を制動させると、エンジン回転数が最低値である状態から急激に上昇し、運転者に大きな違和感を与えてしまう。
【0052】
しかし、本実施形態においては、バッテリ49の残電力量が上限電力量となる前に、第1制動力より小さい第2制動力が車両に作用するように車両に作用する制動力を制御する。従って、バッテリ49の残電力量が上限電力量となった後にエンジン回転数が最低値である状態から急激に上昇することを防止することができ、回生ブレーキによってバッテリ49に上限電力量まで充電した場合であってもエンジンブレーキを作用させることによるエンジン回転によって運転者に大きな違和感を与えないようにすることができる。
【0053】
また、本実施形態においては、エンジンブレーキによって第2制動力を作用させた後、エンジンブレーキによる制動力を徐々に増大させて第1制動力としているため、エンジンブレーキによる制動力の上昇に伴って徐々にエンジン回転数が上昇する。従って、エンジン回転数を急激に上昇させることなく車両に必要とされる第1制動力を作用させることができ、運転者に違和感を与えることなく制動力を制御することができる。
【0054】
(2)運転支援処理:
次に、本実施形態にかかる運転支援処理を説明する。図3は、運転支援処理示すフローチャートであり、ナビゲーションプログラムの処理によって走行予定経路が作成された後、車両による走行が開始される前に運転支援処理の実行が開始される。以下、図4A〜図4Eに示す例を参照しながら運転支援処理を説明する。
【0055】
運転支援処理において、まず制御部20は、電力量推定部21aの処理により、経路情報30bを参照して走行予定経路を取得する(ステップS100)。次に、制御部20は、電力量推定部21aの処理により、走行予定経路を構成する道路の地点毎のバッテリの残電力量を推定する(ステップS105)。すなわち、制御部20は、地図情報30aを参照し、走行予定経路を構成する道路の地点毎の制動力と車速とを特定し、当該制動力と車速に対応する内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を決定して地点毎の電力の消費量あるいは充電量を特定することで、バッテリ49の残電力量の推移を推定する。
【0056】
図4Aは、走行予定経路に含まれるある降坂路に関する地点毎の高度、図4Bは対応する地点の目標車速、図4Cは対応する地点の制動力、図4Dは対応する地点の残電力量、図4Eは対応する地点のエンジン回転数を示す図であり、横軸を地点、縦軸を高度、目標車速、制動力、残電力量、エンジン回転数として示している。図4A〜4Eに示す例においては、地点P1より後方の道路区間Z1が平坦であり、地点P1から地点P2の間の道路区間Z2が降坂路であり、地点P2より前方の道路区間Z3が平坦である。また、本例において、道路区間Z1,Z2,Z3における目標車速は図4Bに示すように一定の車速V0である。
【0057】
この例に関してステップS105が実行されると、制御部20は、道路区間Z1,Z2,Z3において一定の目標車速V0で走行するために車両に作用させるべき加速度を地点毎に特定し、当該加速度で走行した場合の車両の車速を特定する。また、制御部20は、加速度が負である場合に、車両の重量と加速度との積の絶対値を制動力として特定する。図4Cにおいては、道路区間Z2における加速度が負であり、制動力Fが特定された状態を示している。すなわち、本例において、道路区間Z2の勾配は一定であるため、一定の目標車速V0で車両を走行させるための制動力が一定値として特定されている。むろん、加速度、車速、制動力は図4Cに示す道路区間のみならず、走行予定経路を構成する全ての道路区間について実行される。
【0058】
このようにして制動力が特定されると、制御部20は、さらに、バッテリ49の残電力量を推定する。すなわち、制御部20は、各地点における車両の制動力および車速に応じて内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を特定し、当該動作状態に基づいて各地点における電力の消費量あるいは充電量を特定する。そして、制御部20は、各地点における電力量の消費量あるいは充電量の累積値を走行前のバッテリ49における残電力量に加えることによってバッテリ49の残電力量の推移を推定する。
【0059】
図4Dに示す例においては、道路区間Z1,Z3おいて残電力量が徐々に減少している。また、本実施形態において制御部20は、上述のように、走行予定経路に含まれる降坂路においてエンジンブレーキを使用せず、かつ、回生ブレーキを車両に作用させるように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を設定する。従って、図4Dに示す例のように、降坂路である道路区間Z2において残電力量は徐々に増加する。なお、図4Dに示す例においては、道路区間Z2内の地点P3においてバッテリ49の残電力量が上限電力量Wuとなる。
【0060】
以上のようにして、ステップS105にて地点毎のバッテリ49の残電力量を推定すると、制御部20は、制動力取得部21bの処理により、バッテリ49に上限電力量まで充電される降坂路が存在するか否かを判定する(ステップS110)。図4Dに示す例においては道路区間Z2内の地点P3においてバッテリ49の残電力量が上限電力量Wuとなると推定されるため、本例においてステップS110が実施されると、バッテリ49に上限電力量まで充電される降坂路が存在すると判定される。
【0061】
次に、制御部20は、制動力取得部21bの処理により、第1制動力を取得する(ステップS115)。すなわち、制御部20は、バッテリ49が上限電力量まで充電された状態で車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得する。図4Cに示す例においては、地点P3において車両に作用させるべき制動力Fが第1制動力となる。
【0062】
次に、制御部20は、制動力制御部21cの処理により、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点と降坂路の終了地点とを取得する(ステップS120)。すなわち、制御部20は、ステップS105にて特定された地点毎のバッテリ49の残電力量に基づいて、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点を取得し、地図情報30aに基づいて当該地点を含む降坂路の終了地点を取得する。図4Dに示す例においては、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点P3および地点P3を含む降坂路の終了地点P2が取得される。
【0063】
次に、制御部20は、制動力制御部21cの処理により、エンジンブレーキの開始地点を取得し、当該開始地点と降坂路の終了地点との間の制動力を取得する(ステップS125)。なお、本実施形態において、制御部20は、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点以後、降坂路の終了地点までエンジンブレーキのみで車両を制動させる場合の制動力によって消費されるエネルギーと、エンジンブレーキの開始地点と降坂路の終了地点との間の区間にてエンジンブレーキによる制動力を徐々に増加させた場合に当該制動力によって消費されるエネルギーとが一致するように制動力を決定する。
【0064】
具体的には、制御部20は、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点において、エンジンブレーキによる制動力を第1制動力の1/2に設定する。また、当該地点の前後で単位距離当たりの制動力の変化が予め決められた値となるようにエンジンブレーキによる制動力を変化させることを想定し、制御部20は、当該地点よりも後方において制動力が最小限の制動力となる地点をエンジンブレーキの開始地点とする。また、制御部20は、当該地点よりも前方において制動力が第1制動力となる地点を特定するとともに当該地点から降坂路の終了地点までにおいては制動力が第1制動力となるように設定する。
【0065】
例えば、図4Cに示すように、制御部20は、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点P3における制動力を第1制動力Fの1/2、すなわちF/2に設定する。また、図4Cに示す例においては、地点P3の前後で単位距離当たりの制動力の変化が予め決められた値となるように設定した場合の制動力の変化を一点鎖線によって示している。さらに、図4Cに示す例において、最小限の制動力は略0であるため、一点鎖線とグラフの横軸とが交わる地点P4がエンジンブレーキの開始地点として設定される。また、図4Cに示す例において、第1制動力はFであるため、一点鎖線と制動力Fを示す実線の直線とが交わる地点P5が特定されると当該地点P5から降坂路の終了地点P2までにおいては制動力が第1制動力Fに設定される。なお、降坂路の終了地点P2がより後方であることにより、単位距離当たりの制動力の変化を予め決められた一点鎖線のような値とした場合に降坂路の終了地点までに制動力を第1制動力Fとすることができない場合、単位距離当たりの制動力の変化を修正することにより、降坂路の終了地点までに制動力を第1制動力Fとすることができるように調整すればよい。
【0066】
図4Cに示す例において、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点以後、降坂路の終了地点までエンジンブレーキのみで車両を制動させる場合の制動力によって消費されるエネルギーは、地点P3,P2間における制動力F以下の部分の面積に相当する。また、エンジンブレーキの開始地点と降坂路の終了地点との間の区間にてエンジンブレーキによる制動力を徐々に増加させた場合に当該制動力によって消費されるエネルギーは、地点P4,P5間における一点鎖線で示す制動力以下の部分の面積と地点P5,P2間における制動力F以下の部分の面積との和に相当する。従って、図4Cから明らかなように、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点以後、降坂路の終了地点までエンジンブレーキのみで車両を制動させる場合の制動力によって消費されるエネルギーと、エンジンブレーキの開始地点と降坂路の終了地点との間の区間にてエンジンブレーキによる制動力を徐々に増加させた場合に当該制動力によって消費されるエネルギーとは一致している。
【0067】
ここで、図4Cに示すように車両に作用させるべき制動力は道路区間Z2に渡って一定の制動力Fであるため、地点P4,P5間においてエンジンブレーキによって一点鎖線で示す制動力を車両に作用させるだけでは制動力Fに満たない。このため、地点P4,P5間において制動力Fを車両に作用させるためにエンジンブレーキのみでは足りない部分は回生ブレーキの制動力によって補われる。
【0068】
そして、上述のように、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点以後、降坂路の終了地点までエンジンブレーキのみで車両を制動させる場合の制動力によって消費されるエネルギーと、エンジンブレーキの開始地点と降坂路の終了地点との間の区間にてエンジンブレーキによる制動力を徐々に増加させた場合に当該制動力によって消費されるエネルギーとが一致するため、エンジンブレーキによって一点鎖線で示す制動力を車両に作用させたとしても、バッテリ49は上限電力量となるまで充電される。図4Dに示す例においては、エンジンブレーキによって一点鎖線で示す制動力を車両に作用させた場合のバッテリ49の残電力量の変化を一点鎖線で示している。なお、バッテリ49に上限電力量Wuまで蓄積された状態で回生ブレーキを使用せずエンジンブレーキを使用した場合、バッテリ49の電力が消費され得るが、その量は僅かであるため、図4Dに示す例においては、当該消費量を反映していない。
【0069】
以上のようなステップS115〜S125に示す処理は、走行予定経路に含まれる降坂路であって、バッテリ49に上限電力量まで充電されると推定される地点が複数箇所存在する場合、各地点について実行される。この場合、エンジンブレーキの開始地点以後の制動力が複数箇所について設定される。ステップS125において、エンジンブレーキの開始地点および当該開始地点と降坂路の終了地点との間の制動力が取得されると、制御部20は、制動力制御部21cの処理により、車両が走行中であるか否かを判定する(ステップS130)。車両が走行中であるか否かを判定するための構成としては、種々の構成を採用可能であり、例えば、車速センサ42の出力信号に基づいて車速が所定値以上となっている場合に車両が走行中であると判定する構成を採用可能である。むろん、車両の走行中において制御部20は、図示しないスロットルペダルの操作量、摩擦制動部50における減速量調整ペダルの操作量、車両の車速等に応じて予め決められた動作状態となるように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を制御して走行を行う。
【0070】
ただし、本実施形態において、摩擦制動部50の減速量調整ペダルが操作されておらず、上述のステップS105の処理過程で決定された制動力が0より大きい地点において制御部20は、内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を制御して回生ブレーキを車両に作用させる。例えば、図4Cに示す例では道路区間Z2において制動力が0より大きいため、道路区間Z2において減速量調整ペダルが操作されていない場合、制御部20は、制御部47aに対して発電機47を空転させるための制御信号を出力し、制御部48aに対して制動力Fで車両を制動させる回生ブレーキを作用させるための制御信号を出力する。この結果、内燃機関44、出力軸46、発電機47、モータ48、バッテリ49の動作状態が図2Aに示す状態となり、回生ブレーキによって車両に制動力Fが作用する。
【0071】
ステップS130にて車両が走行中であると判定されない場合、車両が走行中であると判定されるまで待機する。一方、ステップS130にて、車両が走行中であると判定された場合、制御部20は、制動力制御部21cの処理により、現在地点がエンジンブレーキの開始地点であるか否かを判定する(ステップS135)。すなわち、制御部20は、GPS受信部41、車速センサ42、ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて車両の現在地点を取得し、当該現在地点が、ステップS125にて取得されたエンジンブレーキの開始地点と一致するか否かを判定する。むろん、ここでは、所定のマージンを設け、車両の現在地点から所定範囲内の位置にエンジンブレーキの開始地点が存在する場合に、現在地点がエンジンブレーキの開始地点であると判定する構成であっても良い。
【0072】
ステップS135にて、現在地点がエンジンブレーキの開始地点であると判定された場合、制御部20は、エンジンが始動することを案内する(ステップS140)。すなわち、制御部20は、ユーザI/F部51に対して制御信号を出力し、ユーザI/F部51によってエンジンブレーキを車両に作用させていない状態からエンジンブレーキを車両に作用させる状態に切り替わることに伴ってエンジン回転数が上昇する旨を利用者に対して案内する。なお、当該案内は、エンジンブレーキが車両に作用する以前に実行されればよく、現在地点がエンジンブレーキの開始地点より後方の所定範囲内に達した段階で案内を行う構成であっても良い。
【0073】
次に、制御部20は、現在地点に対応付けられた制動力で制動する(ステップS145)。すなわち、制御部20は、制御部47a、制御部48aのいずれかまたは双方に制御信号を出力し、現在地点に対応付けられた制動力でエンジンブレーキが作用し、第1制動部に満たない制動力が回生ブレーキによって補われるように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態を制御する。例えば、図4Cに示す例においては、エンジンブレーキの開始地点P4から地点P5までの区間においては一点鎖線、地点P5から降坂路の終了地点P2までの区間においては実線の直線で示す制動力となるように地点毎の制動力が決定されているため、当該一点鎖線および実線の直線で示す制動力がエンジンブレーキによって車両に作用し、制動力Fに満たない残余の制動力が回生ブレーキによって車両に作用するように内燃機関44と発電機47とモータ48との動作状態が制御される。
【0074】
すなわち、エンジンブレーキの開始地点P4から地点P5までの区間において制御部20は、各地点におけるエンジンブレーキの制動力と回生ブレーキの制動力とを特定し、特定されたエンジンブレーキの制動力と回生ブレーキの制動力とで車両を制動させるための制御信号を制御部47aおよび制御部48aに対して出力する。この結果、内燃機関44、出力軸46、発電機47、モータ48、バッテリ49の動作状態が図2Bに示す状態となり、エンジンブレーキによって図4Cに示す一点鎖線の制動力が車両に作用し、エンジンブレーキと回生ブレーキとの和が制動力Fとなる。
【0075】
また、地点P5から降坂路の終了地点P2までの区間において制御部20は、制御部47aに対して制動力Fで車両を制動させるための制御信号を出力し、制御部48aに対してモータ48を空転させるための制御信号を出力する。この結果、内燃機関44、出力軸46、発電機47、モータ48、バッテリ49の動作状態が図2Cに示す状態となり、エンジンブレーキによって車両に制動力Fが作用する。
【0076】
なお、ステップS145が実行されると制御部20は、ステップS130以降の処理を繰り返す。一方、ステップS135において、現在地点がエンジンブレーキの開始地点であると判定されない場合、制御部20は、制動力制御部21cの処理により、現在地点が降坂路の終了地点であるか否かを判定する(ステップS150)。そして、ステップS150にて、現在地点が降坂路の終了地点であると判定された場合、制御部20はステップS145に示す制動処理を終了し(ステップS155)、再度ステップS130以降の処理を繰り返す。
【0077】
一方、ステップS150にて、現在地点が降坂路の終了地点であると判定されない場合、制御部20は、制動力制御部21cの処理により、車両が目的地点に到着したか否かを判定する(ステップS160)。すなわち、走行予定経路の目的地点と車両の現在地点とが一致するか否かを判定する。そして、ステップS160にて、目的地点に到着したと判定されない場合には、ステップS130以降の処理を繰り返す。すなわち、本実施形態においては、車両がエンジンブレーキの開始地点に到達することによってステップS145における制動処理が開示されると、降坂路の終了地点に到達するまでステップS145における制動処理が実行される。そして、ステップS145における制動処理が開始されると、車両が他のエンジンブレーキの開始地点に到達するか、目的地点に到達するまでステップS130以降の処理が繰り返されることになる。
【0078】
図4Eは地点毎のエンジン回転数を示すグラフである。当該図4Eにおいては、エンジン回転数と制動力とがほぼ比例関係にある場合におけるエンジン回転数をグラフ上に示している。また、当該図4Dにおいては、道路区間Z2において地点P3よりも後方では回生ブレーキ、地点P3よりも前方ではエンジンブレーキによって車両を制動させた場合のエンジン回転数を破線、道路区間Z2において地点P4からエンジンブレーキによる制動を開始して第1制動力となるまで制動力を徐々に増加させた場合のエンジン回転数を一点鎖線で示している。同図4Dに示すように、回生ブレーキのみで制動する状態からエンジンブレーキのみで制動する状態に切り替える場合には、地点P3にて急激にエンジン回転数が増加し、運転者に違和感を与える。しかし、図4Cにて一点鎖線で示す例のように、地点P4からエンジンブレーキによる制動を開始して第1制動力となるまで制動力を徐々に増加させた場合エンジン回転数が徐々に上昇するため、運転者に違和感を与えることはない。
【0079】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、バッテリの残電力量が上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって第1制動力よりも小さい第2制動力を車両に作用させる限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。
【0080】
例えば、地点毎の車両の動作は、目標車速に基づいて決定する構成の他、道路上の地点毎の渋滞度や時間帯等によって推定しても良いし、過去の車両の動作の履歴によって推定しても良い。また、上述の上限電力量は予め決められていればよく、動的に変動する値であっても良い。さらに、走行予定経路は、車両と異なる位置に存在する管理装置にて設定された走行予定経路が通信によって取得される構成であっても良い。
【0081】
さらに、第1制動力の大きさは走行前に特定できるように構成されていればよく、車両の仕様によってバッテリが上限電力量まで充電される地点にて一定の制動力が作用するように決められている場合には当該一定の制動力を第1制動力とすればよい。また、各種の指標に基づいて第1制動力が特定される構成であってもよく、例えば、バッテリが上限電力量まで充電される地点における道路勾配や車両が備えるトランスミッションの状態を規定するシフトレバーの状態に基づいて特定されても良い。
【0082】
さらに、エンジンブレーキによって一定の第2制動力を車両に作用させる構成としても良い。図5Aは、一定の第2制動力を車両に作用させる構成におけるある降坂路に関する地点毎の高度、図5Bは対応する地点の目標車速、図5Cは対応する地点の制動力、図5Dは対応する地点の残電力量、図5Eは対応する地点のエンジン回転数を示す図である。同図5A,5Bに示す地点毎の高度および目標車速は図4A、4Bに示す地点毎の高度および目標車速と同様である。従って、図1と同様の構成において、地点毎の制動力を特定すれば、道路区間Z2において車両に作用させるべき制動力が図5Cに示すように制動力Fとなる。
【0083】
この結果、バッテリ49の残電力量の推移は、図5Dにおいて実線で示されるような推移となり、バッテリ49が上限電力量まで充電されると推定される地点は地点P3となる。本例においては、バッテリ49が上限電力量まで充電されると推定される、制動力Fを作用させるべき降坂路の開始地点P1から一定の第2制動力F1を車両に作用させることによって車両を制動させる。すなわち、地点P1から地点P2の間の区間に車両の現在地点が存在する場合、制御部20は、エンジンブレーキによって車両に制動力F1を作用させ、回生ブレーキによって制動力(F−F1)を作用させるための制御信号を制御部47aおよび制御部48aに対して出力する。この結果、内燃機関44、出力軸46、発電機47、モータ48、バッテリ49の動作状態が図2Bに示す状態となり、エンジンブレーキによって図5Cに示す一点鎖線の制動力が車両に作用し、エンジンブレーキと回生ブレーキとの和が制動力Fとなる。
【0084】
本例においても、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点P3以後、降坂路の終了地点P2までエンジンブレーキによって制動力Fで車両を制動させる場合に消費されるエネルギーと、地点P1,P2間においてエンジンブレーキによって制動力F1で車両を制動させる場合に消費されるエネルギーとが一致するように構成される。このため、地点P1,P2間において、図5Cにて一点鎖線で示す一定の制動力F1をエンジンブレーキによって車両に作用させた場合であっても、図5Dにて一点鎖線で示すようにバッテリ49の残電力量が推移し、上限電力量となるまで充電される。
【0085】
さらに、図5Eに示すエンジン回転数のグラフも、エンジン回転数と制動力とがほぼ比例関係にある場合におけるエンジン回転数を示している。また、当該図5Eにおいては、道路区間Z2において地点P3よりも後方では回生ブレーキ、地点P3よりも前方ではエンジンブレーキによって車両を制動させた場合のエンジン回転数を破線、道路区間Z2においてエンジンブレーキによって一定の第2制動力で車両を制動させた場合のエンジン回転数を一点鎖線で示している。同図5Eに示すように、回生ブレーキのみで制動する状態からエンジンブレーキのみで制動する状態に切り替える場合には、地点P3にて急激にエンジン回転数が増加し、運転者に違和感を与える。しかし、図5Cに示す例のように、地点P1から一定の第2制動力でエンジンブレーキによる制動を開始する場合、地点P1においてエンジン回転数は変化するもののその変化幅は小さく運転者に違和感を与えることはない。以上の構成によれば、極めて簡易な制御によって運転者の違和感を防止することができる。
【0086】
図6Aは、過去の車両の動作の履歴によって車両の動作を推定する構成におけるある降坂路に関する地点毎の高度、図6Bは対応する地点の目標車速、図6Cは対応する地点の制動力、図6Dは対応する地点の残電力量、図6Eは対応する地点のエンジン回転数を示す図である。同図6Aに示す地点毎の高度は図4Aに示す地点毎の高度と同様である。そして、本例においては、図1と同様の構成において、車両の走行履歴として地点毎の車速を記録する構成とし、走行予定経路が設定された場合に、当該走行予定経路を構成する道路の各地点における目標車速を、走行履歴が示す車速(例えば、過去の平均車速)とする。
【0087】
ここでは、道路区間Z2における目標車速が図6Bに示すように地点P1,P6間および地点P7,P3間で徐々に小さくなり、地点P6,P7間および地点P3,P2間で目標車速が徐々に大きくなる場合を想定する。このように、車両の走行履歴に基づいて地点毎の目標車速が特定されると、当該目標車速に基づいて図6Cに示すように地点毎の制動力が特定される。本例では、図6Cに示すように、道路区間Z2において車両に作用させるべき制動力が、地点P1,P6間および地点P7,P3間で一定の制動力F、地点P6,P7間および地点P3,P2間で一定の制動力F2となる場合を想定する。
【0088】
図6Cに示すように、地点毎の制動力が特定されると、バッテリ49の残電力量の推移が推定される。ここでは、降坂路内で車両を制動させる場合に回生ブレーキを優先的に使用した場合の残電力量の推移が推定される。すなわち、地点毎の制動力が回生ブレーキの上限制動力以下である場合には必要とされる制動力の全てが回生ブレーキによってまかなわれ、地点毎の制動力が回生ブレーキの上限制動力より大きい場合には回生ブレーキで上限制動力を発生させ、残りの制動力を他のブレーキ(例えば、摩擦ブレーキ)によって発生させる状態を想定する。
【0089】
図6Cにおいては、回生ブレーキの上限制動力をFmaxとして示しており、地点P1,P6間および地点P7,P3間での制動力Fは回生ブレーキの上限制動力Fmaxより大きい。従って、地点P1,P6間および地点P7,P3間においては回生ブレーキによって車両に上限制動力Fmaxを作用させた場合の充電量に基づいて地点P1,P6間および地点P7,P3間のバッテリ49の残電力量の推移が推定される。また、地点P6,P7間および地点P3,P2間での制動力F2は回生ブレーキの上限制動力Fmaxより小さい。従って、地点P6,P7間および地点P3,P2間においては回生ブレーキによって車両に制動力F2を作用させた場合の充電量に基づいて地点P6,P7間および地点P3,P2間のバッテリ49の残電力量の推移が推定される。
【0090】
ここでは、図6Dにおいて実線の直線で示すようにバッテリ49の残電力量の推移が推定された例を想定する。従って、本例において、バッテリ49が上限電力量まで充電されると推定される地点は地点P7である。そして、本例においては、車両による走行が開始された後、当該地点P7に車両が到達する前に車両が通過する地点である降坂路の開始地点P1から一定の第2制動力F1を車両に作用させる。すなわち、地点P1から地点P2の間の区間に車両の現在地点が存在する場合、制御部20は、エンジンブレーキによって車両に制動力F1を作用させる。また、運転者が減速量調整ペダルを操作すると、制御部20は当該減速量調整ペダルの操作量を示す制御信号を摩擦制動部50に対して出力し、摩擦制動部50は当該減速量調整ペダルの操作量に応じた制動力を車両に作用させる。
【0091】
さらに、各地点において、上述の制動力F1と減速量調整ペダルの操作量に応じた制動力との和が図6Cに示す制動力に満たない場合、制御部20は、不足分を回生ブレーキで補う。この場合、エンジンブレーキと回生ブレーキとが併用される状態となる。なお、エンジンブレーキと回生ブレーキとが併用される場合、制御部20は、エンジンブレーキによって車両に制動力F1を作用させ、回生ブレーキによって上述の不足分の制動力を作用させるための制御信号を制御部47aおよび制御部48aに対して出力する。この結果、内燃機関44、出力軸46、発電機47、モータ48、バッテリ49の動作状態が図2Bに示す状態となる。また、回生ブレーキを使用しない場合、制御部20は、エンジンブレーキによって車両に制動力F1を作用させるための制御信号を制御部47aおよび制御部48aに対して出力する。この結果、内燃機関44、出力軸46、発電機47、モータ48、バッテリ49の動作状態が図2Cに示す状態となる。
【0092】
なお、本例においては、バッテリ49に上限電力量まで充電される地点P7以後、降坂路の終了地点P2まで車両を制動させる場合に消費されるエネルギーと、地点P1,P2間においてエンジンブレーキによって制動力F1で車両を制動させる場合に消費されるエネルギーとが一致するように構成される。このため、地点P1,P2間において、図6Cに示すような制動力が車両に作用した場合には、図6Dにて一点鎖線で示すようにバッテリ49の残電力量が推移し、地点P2まで走行する過程でバッテリ49は上限電力量となるまで充電される。
【0093】
さらに、図6Eに示すエンジン回転数のグラフも、エンジン回転数と制動力とがほぼ比例関係にある場合におけるエンジン回転数を示している。また、当該図6Eにおいては、道路区間Z2において地点P7よりも後方でエンジンブレーキを使用せず、地点P7よりも前方でエンジンブレーキを使用して車両を制動させた場合のエンジン回転数を破線、道路区間Z2においてエンジンブレーキによって一定の第2制動力で車両を制動させた場合のエンジン回転数を一点鎖線で示している。同6Eに示すように、エンジンブレーキを使用しない状態からエンジンブレーキのみで制動する状態に切り替える場合には、地点P7にて急激にエンジン回転数が増加し、運転者に違和感を与える。しかし、図6Cに示す例のように、地点P1から一定の第2制動力でエンジンブレーキによる制動を開始する場合、地点P1においてエンジン回転数は変化するもののその変化幅は小さく運転者に違和感を与えることはない。以上の構成によれば、極めて簡易な制御によって運転者の違和感を防止することができる。
【0094】
以上の構成においては、降坂路を構成する道路区間でエンジンブレーキによって一定の第2制動力を作用させる構成となっていたが、むろん、車両の走行履歴に基づいてバッテリ49の残電力量が上限電力量となる地点を推定する構成において、第2制動力を徐々に増大させる構成であっても良い。例えば、車両が走行する過程において、バッテリ49の残電力量と上限電力量との差分が所定の閾値以下となった地点からエンジンブレーキによって最小限の制動力を車両に作用させ、制動力を徐々に増大させて第1制動力に一致させるように制御する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0095】
10…ナビゲーション装置、20…制御部、21…運転支援プログラム、21a…電力量推定部、21b…制動力取得部、21c…制動力制御部、30…記録媒体、30a…地図情報、30b…経路情報、41…GPS受信部、42…車速センサ、43…ジャイロセンサ、44…内燃機関、45…ギア機構、46…出力軸、47…発電機、47a…制御部、48…モータ、48a…制御部、49…バッテリ、50…摩擦制動部、51…ユーザI/F部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定する電力量推定手段と、
前記バッテリが前記上限電力量まで充電された状態で前記車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得する制動力取得手段と、
前記バッテリに前記上限電力量まで充電されると推定される場合、前記バッテリの残電力量が前記上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって前記第1制動力よりも小さい第2制動力を前記車両に作用させる制動力制御手段と、
を備える運転支援システム。
【請求項2】
前記制動力制御手段は、前記エンジンブレーキによって前記第2制動力を前記車両に作用させる制御を開始した後、前記第1制動力となるまで前記エンジンブレーキによる制動力を徐々に増大させる、
請求項1に記載の運転支援システム。
【請求項3】
前記制動力制御手段は、前記エンジンブレーキによって一定の前記第2制動力を前記車両に作用させる、
請求項1に記載の運転支援システム。
【請求項4】
前記電力量推定手段は、前記走行予定経路に含まれる降坂路において前記エンジンブレーキを使用せず、かつ、前記回生ブレーキを前記車両に作用させた場合に前記バッテリに前記上限電力量まで充電される地点を推定し、
前記制動力制御手段は、前記地点に到達する前に前記エンジンブレーキによって前記第1制動力よりも小さい前記第2制動力を前記車両に作用させる、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の運転支援システム。
【請求項5】
前記電力量推定手段は、ナビゲーションシステムによって設定された前記走行予定経路に基づいて前記バッテリに前記上限電力量まで充電されるか否かを推定する、
請求項1〜請求項4のいずれかに記載の運転支援システム。
【請求項6】
バッテリに上限電力量まで充電された場合にエンジンブレーキによる制動が開始される車両の運転支援システムであって、
前記車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定する電力量推定手段と、
前記エンジンブレーキによる制動が開始される場合に当該エンジンブレーキによって前記車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得する制動力取得手段と、
前記バッテリに前記上限電力量まで充電されると推定される場合、前記バッテリの残電力量が前記上限電力量となる前に、前記エンジンブレーキによって前記第1制動力よりも小さい第2制動力を前記車両に作用させる制動力制御手段と、
を備える運転支援システム。
【請求項7】
車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定する電力量推定工程と、
前記バッテリが前記上限電力量まで充電された状態で前記車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得する制動力取得工程と、
前記バッテリに前記上限電力量まで充電されると推定される場合、前記バッテリの残電力量が前記上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって前記第1制動力よりも小さい第2制動力を前記車両に作用させる制動力制御工程と、
を含む運転支援方法。
【請求項8】
車両が走行予定経路を走行する過程において回生ブレーキによってバッテリに上限電力量まで充電されるか否かを推定する電力量推定機能と、
前記バッテリが前記上限電力量まで充電された状態で前記車両に作用させるべき制動力を第1制動力として取得する制動力取得機能と、
前記バッテリに前記上限電力量まで充電されると推定される場合、前記バッテリの残電力量が前記上限電力量となる前に、エンジンブレーキによって前記第1制動力よりも小さい第2制動力を前記車両に作用させる制動力制御機能と、
をコンピュータに実現させる運転支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−35480(P2013−35480A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174624(P2011−174624)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】