説明

酸化物焼結体、酸化物透明導電膜、およびこれらの製造方法

【課題】電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法で酸化物透明導電膜を製造する際に、大量の電子ビームを投入しても、割れやクラックが発生することのない酸化物焼結体を提供する。
【解決手段】タングステンを固溶したインジウム酸化物を含有し、タングステンがインジウムに対する原子数比で0.001以上0.034以下含まれ、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下である酸化物焼結体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池や表示素子などに用いられる透明導電膜、該透明導電膜を製造するための酸化物焼結体、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物透明導電膜は、高い導電性と可視光領域での高い透過率とを有する。このため、酸化物透明導電膜は、太陽電池や液晶表示素子、その他各種受光素子の電極などに利用されているばかりでなく、近赤外線領域の波長での反射吸収特性を生かして、自動車や建築物の窓ガラス等に用いる熱線反射膜や、各種の帯電防止膜、冷凍ショーケースなどの防曇用の透明発熱体としても利用されている。
【0003】
酸化物透明導電膜には、アンチモンやフッ素をドーパントとして含む酸化錫(SnO2)や、アルミニウムやガリウムをドーパントとして含む酸化亜鉛(ZnO)や、錫をドーパントとして含む酸化インジウム(In23)などが広範に利用されている。特に、錫をドーパントとして含む酸化インジウム膜、すなわちIn23−Sn系膜は、ITO(Indium tin oxide)膜と称され、特に低抵抗の酸化物透明導電膜が容易に得られることから、これまでよく用いられてきた。
【0004】
これらの酸化物透明導電膜の製造方法としては、真空蒸着法や、イオンプレーティング法、スパッタリング法、透明導電層形成用塗液を塗布する方法が、よく用いられている。その中でも、真空蒸着法やイオンプレーティング法、スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料を使用する際や、精密な膜厚制御を必要とする際に有効な手法であり、操作が非常に簡便であるため、工業的に広範に利用されている。
【0005】
真空蒸着法は、一般に、10-3〜10-2Pa程度の真空中で蒸発源である固体(または液体)を加熱して、気体分子や原子に一度分解した後、再び基板表面上に薄膜として凝縮させる方法である。蒸発源の加熱方式には、抵抗加熱法(RH法)、電子ビーム加熱法(EB法、電子ビーム蒸着法)が一般的であるが、レーザー光による方法や高周波誘導加熱法などもある。また、フラッシュ蒸着法や、アークプラズマ蒸着法、反応性蒸着法なども知られており、真空蒸着法に含まれる(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
ITOのような酸化物膜を堆積させる場合には、以前より、電子ビーム蒸着法がよく利用されている。蒸発源にITOの焼結体(ITOタブレットあるいはITOペレットとも呼ぶ。)を用いて、成膜室(チャンバー)に反応ガスであるO2ガスを導入して、熱電子発生用フィラメント(主にW線)から飛び出した熱電子を電界で加速させてITOタブレットに照射すると、照射された部分は局所的に高温になり、蒸発して基板に堆積される。また、蒸発物や反応ガス(O2ガスなど)を、熱電子エミッタやRF放電を用いて活性化させることにより、低温基板上でも低抵抗の膜を作製することができる。この方法は、活性化反応性蒸着法(ARE法)と呼ばれており、ITO成膜には有用な方法である。
【0007】
また、プラズマガンを用いた高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)もITO成膜に広範に用いられている(例えば、非特許文献2参照)。この方法では、プラズマ発生装置(プラズマガン)を用いたアーク放電を利用する。該プラズマガンに内蔵されたカソードと蒸発源の坩堝(アノード)との間でアーク放電が維持される。カソードから放出される電子を磁場によりガイドして、坩堝に仕込まれたITOタブレットの局部に集中して照射する。この電子ビームにより、局所的に高温となった部分から、蒸発物が蒸発して基板に堆積される。気化した蒸発物や導入したO2ガスは、このプラズマ内で活性化されるため、良好な電気特性を持つITO膜を作製することができる。
【0008】
真空蒸着法の中で、蒸発物や反応ガスのイオン化を伴うものは、総称してイオンプレーティング法(IP法)と呼ばれ、低抵抗で高透過率のITO膜が得られることから、工業的にも広範に利用されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0009】
一方、酸化物透明導電膜が使用される太陽電池についてみると、太陽電池はp型とn型の半導体を積層したものであり、半導体の種類によって大別される。最も多く使用されている太陽電池は、安全で資源量の豊富なシリコンを用いたものである。シリコンを用いた太陽電池としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンの3種類がある。また、化合物薄膜太陽電池とよばれ、CuInSe2、GaAs、CdTeなどの化合物半導体を用いた太陽電池も開発が行われている。
【0010】
しかし、何れのタイプの太陽電池でも、光が当たる表側の電極には酸化物透明導電膜が不可欠であり、従来は、ITO膜や、アルミニウムやガリウムがドーピングされた酸化亜鉛(ZnO)膜が利用されてきた。これらの酸化物透明導電膜には、低抵抗であることや、太陽光の透過率が高いことなどの特性が求められる。
【0011】
また、本発明者が、特許文献1(特開2004−43851号)に記載したように、主としてインジウムからなり、タングステンを含む結晶性の酸化物透明導電膜(結晶性In−W−O)が、太陽電池の透明電極として有用であることが最近明らかとなってきた。これらの酸化物透明導電膜は、低抵抗で、可視光領域の光透過性能が優れているだけでなく、従来使用されてきた前述のITO膜や酸化亜鉛系膜と比べて、近赤外線領域における光透過性能に優れている。このため、このような酸化物透明導電膜を太陽電池の表側の電極に用いると、近赤外光エネルギーも有効に利用することができる。
【0012】
次に、EL素子について説明する。
【0013】
EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、電界発光を利用したものであり、自己発光のため視認性が高く、かつ、液晶やプラズマディスプレイの表示素子とは異なり、完全固体素子である。このため、EL素子は、耐衝撃性に優れるなどの利点を有し、各種の表示装置における発光素子としての利用が注目されている。
【0014】
EL素子には、発光材料として無機化合物を用いる無機EL素子と、有機化合物を用いる有機EL素子とがある。
【0015】
このうち、有機EL素子は、駆動電圧を大幅に低くしても(例えば、10V以下の直流電圧)、明るい発光が得られるため、小型化が容易であり、次世代の表示素子としての実用化研究が積極的になされている。
【0016】
有機EL素子の構成は、透明絶縁性基板/陽極(透明電極)/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極(金属電極)の積層構造を基本とし、ガラス板などの透明絶縁性基板上に透明導電性薄膜を形成して、該透明導電性薄膜を陽極とする構成のボトムエミッション型が、通常、採用されている。この場合、発光は基板側に取り出される。
【0017】
この有機EL素子やLCD(液晶ディスプレイ)用の電極には、表面が平滑な透明導電性薄膜が必要とされている。特に、有機EL素子用の電極の場合、その上に有機化合物の超薄膜を形成するため、透明導電性薄膜には、優れた表面平滑性が要求される。表面平滑性は、一般に、膜の結晶性に大きく左右される。同一組成のものでも、粒界の存在しない非晶質構造の透明導電性薄膜(非晶質膜)の方が、結晶質構造の透明導電性薄膜(結晶質膜)に比べて、表面平滑性は良好である。
【0018】
従来組成のITO膜の場合でも、非晶質の方が表面平滑性に優れている。非晶質ITOは、成膜時の基板温度を下げて、低温(ITOの結晶化温度である150℃未満)で、電子ビーム蒸着やイオンプレーティング、高密度プラズマアシスト蒸着法やスパッタリングで成膜して得ることができる。しかし、非晶質ITO膜の比抵抗は、9×10-4Ωcmが限界であり、表面抵抗の低い膜を形成するためには、膜自体を厚く形成する必要がある。しかし、ITO膜の膜厚が厚くなると、膜の着色という問題が生ずる。
【0019】
また、基板を加熱せずに室温で成膜したITO膜でも、電子ビーム蒸着法や、イオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法、あるいはスパッタリング法のようなプラズマを伴う成膜法では、プラズマから受ける熱の影響で基板表面が局所的に温度が上がり、微細な結晶相と非晶質相で構成された膜が得られやすい。微細な結晶相の存在は、X線回折のほか、透過型電子顕微鏡や電子線回折でも確認することができる。しかし、このような微細な結晶相が一部で形成されていると、表面平滑性に大きな影響を及ぼす。また、透明導電性薄膜を所定の形状に、弱酸でエッチング除去する際には、結晶相のみが除去できずに残存することがあり、問題となっている。
【0020】
非晶質ITO膜においては、前述の比抵抗の問題のほかに、安定性の問題もある。LCDや有機EL素子用の電極として、非晶質ITO膜を利用する場合、製造工程の中で、電極形成後の熱履歴により150℃(ITOの結晶化温度)以上の加熱が行われると、透明導電性薄膜が結晶化してしまう場合がある。この理由は、非晶質相が準安定相だからである。非晶質相が結晶化してしまうと、結晶粒が形成されるため、表面平滑性が悪くなり、同時に比抵抗が大きく変化するという問題が生ずる。
【0021】
有機ELやLCDなどの表示デバイス用の透明導電性薄膜には、以上述べてきた表面平滑性や比抵抗が小さいことが求められるが、本発明者が特許文献2(特開2004−52102号公報)に記載したように、インジウムを主成分とし、所定量のタングステンを含む非晶質性の酸化物透明導電膜(非晶質In−W−O膜)は、有機ELやLCDなどの表示デバイス用の透明導電性薄膜に適する。In−W−Oは、ITOよりも結晶化温度が高いため、前記のプラズマを伴う成膜法を用いて成膜しても、安定して非晶質膜を得ることができる。さらに、非晶質In−W−O膜は、表面平滑性に優れるだけでなく、低抵抗であるため、有機ELやLCDなどの表示デバイスのように表面平滑性および低い比抵抗が要求される用途において特に好適である。
【0022】
特に、有機EL素子に用いる透明導電性薄膜の場合、その上に有機化合物の超薄膜が形成され、透明導電性薄膜には表面平滑性が要求されるので、非晶質In−W−O膜は有機EL素子に用いる透明導電性薄膜として好適である。透明導電性薄膜の表面に凹凸があると、有機化合物の超薄膜にはリークダメージが生じてしまう。
【0023】
また、本発明者が、特許文献3(特開2004−50643号公報)に記載したように、タングステンが含有される非晶質の酸化インジウム膜(非晶質In−W−O膜)と金属系導電膜層とからなる薄膜積層体は、表面平滑性に優れ、膜厚100〜150nmでも1〜5Ω/□の低いシート抵抗を有し、透明性に優れており、高精細もしくは大型のLCDや、有機EL用透明電極として有用である。この薄膜構成体において、タングステンが含有される酸化インジウム膜は非晶質膜であり、真空蒸着法やイオンプレーティング法で形成することができ、金属系導電膜層の表面に形成することによって、金属系導電膜層を保護する。
【0024】
以上述べてきた非晶質In−W−O膜は、その膜の構成元素を含む酸化物焼結体のタブレット(すなわち、In−W−Oの酸化物焼結体のタブレット)を原料として用いて、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの各種真空蒸着法で製造することができる。生産性の向上や製造コストの低減を考慮すると、高速で成膜する必要があるが、特に、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法あるいは高密度プラズマアシスト蒸着法で製造することにより、導電性や透過性に優れた非晶質In−W−O膜を高速に製造することができる。前記成膜法では、原料である酸化物焼結体タブレットに照射する電子ビームの量を増やすことによって高速成膜が可能となる。
【0025】
しかし、非晶質In−W−O膜を高速で成膜するために、高い電子ビームを投入すると、酸化物焼結体タブレットが割れてしまい、安定して成膜を行うことができなかった。成膜中に酸化物焼結体タブレットが割れると、成膜速度が急激に減少するなどの不都合が生じる。このため、成膜を中断して、未使用の酸化物焼結体タブレットに交換する必要があり、生産性を悪くする要因となっていた。
【0026】
【特許文献1】特開2004−43851号公報。
【特許文献2】特開2004−52102号公報。
【特許文献3】特開2004−50643号公報。
【非特許文献1】「薄膜の作製・評価とその応用技術ハンドブック」、フジ・テクノシステム社、昭和59年11月5日刊、p.250〜255。
【非特許文献2】「真空」、Vol.44、No.4、2001年、p.435〜439。
【非特許文献3】「透明導電膜の技術」、オーム社、1999年刊、p.205〜211。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法により酸化物透明導電膜を製造する際に、大量の電子ビームを投入しても、割れやクラックが発生することのない酸化物焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係る酸化物焼結体の第一の態様は、タングステンを固溶したインジウム酸化物を含有し、タングステンがインジウムに対する原子数比で0.001以上0.034以下含まれ、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下であることを特徴とする。
【0029】
本発明に係る酸化物焼結体の第二の態様は、タングステン、亜鉛を固溶したインジウム酸化物を含有し、タングステンがインジウムに対する原子数比で0.001以上0.034以下含まれ、亜鉛がインジウムに対する原子数比で0.00018以上0.017以下含まれ、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下であることを特徴とする。
【0030】
前記酸化物焼結体において、金属相が含まれていないことが好ましい。
【0031】
前記酸化物焼結体の結晶粒径の平均値は10μm以下であることが好ましく、また、前記酸化物焼結体の比抵抗は1kΩcm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明に係る酸化物焼結体の製造方法の第一の態様は、タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、温度:700℃以上900℃以下、時間:1h以上3h未満、圧力:2.45MPa以上29.40MPa以下でホットプレスして酸化物焼結体を得る工程2と、を有することを特徴とする。
【0033】
本発明に係る酸化物焼結体の製造方法の第二の態様は、タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下、亜鉛のインジウムに対する原子数比が0.00018以上0.017以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末と酸化亜鉛粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、温度:700℃以上900℃以下、時間:1h以上3h未満、圧力:2.45MPa以上29.40MPa以下でホットプレスして酸化物焼結体を得る工程2と、を有することを特徴とする。
【0034】
本発明に係る酸化物焼結体の製造方法の第三の態様は、タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、圧力:9.8MPa以上294MPa以下の冷間静水圧プレスで成形して成形体を得る工程2と、工程2で得られた成形体を、常圧で、温度:1300℃以上、時間:5h以上で焼結させて酸化物焼結体を得る工程3と、を有することを特徴とする。
【0035】
本発明に係る酸化物焼結体の製造方法の第四の態様は、タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下、亜鉛のインジウムに対する原子数比が0.00018以上0.017以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末と酸化亜鉛粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、圧力:9.8MPa以上294MPa以下の冷間静水圧プレスで成形して成形体を得る工程2と、工程2で得られた成形体を、常圧で、温度:1000℃以上1300℃以下、時間:1h以上5h以下で焼結させて酸化物焼結体を得る工程3と、を有することを特徴とする。
【0036】
前記焼結工程を、焼結炉内に、炉内容積0.1m3当たり3〜8L/minの割合の酸素を導入する雰囲気で実施することが好ましい。また、焼結工程の後の炉冷を行うに際して、酸素の導入を中止することが好ましい。
【0037】
本発明に係る酸化物透明導電膜は、上記いずれかに記載の酸化物焼結体のタブレットを用い、真空蒸着法によって作製された酸化物透明導電膜であって、比抵抗が9×10-4Ωcm以下であり、波長400〜800nmの光に対する膜自体の平均透過率が82%以上であることを特徴とする。
【0038】
前記酸化物透明導電膜において、波長900〜1100nmの光に対する膜自体の平均透過率が80%以上であることが好ましい。
【0039】
本発明に係る酸化物透明導電膜の製造方法は、前記酸化物焼結体のタブレットを用いて、130℃以下の基板上に真空蒸着法によって膜を作製した後、作製した膜を不活性ガス中または真空中で200〜400℃で熱処理をすることを特徴とする。
【0040】
なお、本発明に係る酸化物焼結体、およびこれを用いて製造される酸化物透明導電膜は、主に、インジウムおよびタングステンの酸化物、または、インジウム、タングステンおよび亜鉛の酸化物からなることを特徴とするが、本発明の特徴を損なわない範囲で、Sn、Ga、Cd、Ti、Ir、Ru、ReおよびOsの中から選択される一種以上の他の元素が含むことは許容され、これらの元素を含む酸化物焼結体および酸化物透明導電膜も、本発明の範囲に包含されるものである。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る酸化物焼結体からなるタブレットを、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法における蒸着源として用いると、大量の電子ビームを投入しても、酸化物焼結体に割れやクラックが発生しないため、成膜を中断することなく、安定して成膜することができる。
【0042】
本発明の酸化物焼結体のタブレットを各種の真空蒸着法に用いることによって、低抵抗で、かつ、可視域から近赤外域までの透過率が大きく、太陽電池に好適に用いることができる酸化物透明導電膜や、低抵抗で、かつ、表面平滑性に優れ、表示デバイスに好適に用いることができる酸化物透明導電膜を、高速で安定的に成膜することができ、生産性を向上させることができる。このため、本発明の酸化物焼結体を用いることにより、高効率の太陽電池や性能に優れた有機EL、LCDを低コストに作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明者は、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの各種真空蒸着法に用いる蒸着源タブレットとして、大量の電子ビームを投入しても該タブレットに割れやクラックの発生がなく成膜を中断することなく、安定に成膜することができるものを得ることを目的に、タングステンを固溶したインジウム酸化物を主として含有した酸化物焼結体タブレット(以下、In−W−O系酸化物焼結体タブレットと記す。)、タングステン、亜鉛を固溶したインジウム酸化物を主として含有した酸化物焼結体タブレット(以下、In−W−Zn−O系酸化物焼結体と記す。)を様々な製造条件にて作製して、種々の密度の蒸着用タブレットを作製し、研究開発を鋭意進めた。
【0044】
電子ビームを一定時間投入してタブレットの割れやクラックの発生状況を調べたところ、In−W−O系酸化物焼結体タブレットにおいて、所定量のタングステンを含有させ、密度を所定の範囲にすると、高い電子ビームを投入しても割れることなく、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法で高速成膜が実現可能となることを見出した。
【0045】
また、In−W−Zn−O系酸化物焼結体タブレットにおいても、所定量のタングステン、亜鉛を含有させ、密度を所定の範囲にすると、高い電子ビームを投入しても割れることなく、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法で高速成膜が実現可能となることを見出した。
【0046】
さらに、インジウムとタングステンの酸化物に亜鉛を所定量だけ含ませることにより焼結性が著しく向上することも見出した。
【0047】
また、平均の結晶粒径が所定の大きさ以下であり、比抵抗が所定の値以下であると、長時間安定して高い電子ビームを投入することが可能であり、高速成膜が持続できることも見出した。
【0048】
本発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。以下、本発明に係る酸化物焼結体および酸化物透明導電膜について詳細に説明する。
【0049】
1.酸化物焼結体
本発明に係るIn−W−O系酸化物焼結体は、タングステンがW/In原子数比で0.001以上0.034以下の割合で含まれ、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下である。
【0050】
本発明に係るIn−W−Zn−O系酸化物焼結体は、タングステンがW/In原子数比で0.001以上0.034以下の割合で含まれ、亜鉛がZn/In原子数比で0.00018以上0.017以下の割合で含まれ、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下である。
【0051】
タングステンは、得られる酸化物導電膜のキャリア電子の濃度を増加させ導電性を高めるという働きがある。W/In原子数比が0.001よりも小さいと、前記の効果が現れず、0.034を超えると、不純物散乱による移動度の低下が顕著になり、得られる酸化物導電膜の抵抗が上昇する。
【0052】
酸化物焼結体の密度が4.0g/cm3を下回ると、焼結体自体の強度が劣るため、僅かな局所的熱膨張に対してクラックや割れが起こりやすくなる。密度が6.5g/cm3を上回ると、電子ビーム投入時に局部に発生した応力や歪みを吸収することができずに、クラックが生じやすくなる。なお、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法は、酸化物焼結体タブレットの表面の一部分に電子ビームが照射され、局所的に加熱されて蒸発物が発生して成膜が行われる。局所的に加熱されると、その部分で熱膨張が起きて焼結体に応力や歪みが生じる。
【0053】
亜鉛は、焼結性を著しく向上させる効果がある。Zn/In原子数比が0.00018よりも小さいと、焼結体の焼結性向上のための添加効果が現れない。一方、Zn/In原子数比で0.017を超えてZnを添加しても、焼結体の焼結性はそれ以上は向上しない。
【0054】
亜鉛を含まないIn−W−O系酸化物焼結体において、常圧焼結法で4.0g/cm3以上の密度のものを製造する場合は、1300℃以上で5時間以上という、高温で長時間の焼結条件でしか製造できない。また、得られる焼結体の密度も4.0〜4.2g/cm3という、小さい密度の焼結体しか得られない。亜鉛を含まないIn−W−O系酸化物焼結体において、密度が4.2g/cm3を超えて6.5g/cm3以下の焼結体を得るためには、ホットプレス焼結法を用いる必要がある。
【0055】
これに対して、酸化亜鉛をZn/In原子比で0.00018以上0.017以下の割合で含有させることにより、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下の酸化物焼結体タブレットを、1000〜1200℃の温度範囲での常圧焼結法で、容易に製造することが可能となる。
【0056】
なお、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下の酸化物焼結体であっても、焼結体中に微量でも金属相が含まれると電子ビームの投入に対して充分な耐久性を得ることができない。一般に金属の熱膨張係数は酸化物とくらべて高いため、電子ビーム照射により局所的な加熱がなされると、金属相部分における熱膨張が著しくなり、クラック発生の要因となるからである。
【0057】
本発明に係るIn−W−O系酸化物焼結体、In−W−Zn−O系酸化物焼結体の平均結晶粒径、比抵抗については、平均結晶粒径は10μm以下、比抵抗は1kΩcm以下であることが好ましい。平均結晶粒径、比抵抗がこの範囲にあると、より長時間、より安定して、高い電子ビームを投入することが可能となり、高速成膜に有効である。
【0058】
平均の結晶粒径が10μmを超えると、電子ビームによる局所加熱により、大きな粒径の結晶に応力が集中しやすく、クラックや割れを発生しやすくなる。また、焼結体の比抵抗が1kΩcmを超えると、電子ビームを照射したとき、電荷がたまって帯電してしまい、長時間安定して高い電子ビームを投入することが困難となる。
【0059】
また、上記本発明の酸化物焼結体に、本発明の特徴を損なわない範囲で、他の元素(例えば、Sn、Ga、Cd、Ti、Ir、Ru、Re、Osなど)が含まれていてもかまわない。ただし、添加元素によっては(例えばBiやPbなど)、膜の透過率を減少させたり、比抵抗を悪化させるものもあり、このような元素を添加すると、本発明に係る酸化物焼結体の特徴を損ねてしまう。
【0060】
次に、本発明に係るIn−W−O系酸化物焼結体、In−W−Zn−O系酸化物焼結体の製造方法について説明する。
【0061】
In−W−O系酸化物焼結体の製造においては、平均粒径が1μm以下のIn23粉末、および平均粒径が1μm以下のWO3粉末を原料粉末とし、In23粉末とWO3粉末を、W/Inの原子数比が所定の割合になるように調合する。これらの原料を乾式ボールミル、Vブレンダーなどで均一に混合し、カーボン容器中に給粉してホットプレス法により焼結する。焼結温度は700〜900℃、圧力は2.45MPa〜29.40MPa(25kgf/cm2〜300kgf/cm2)、焼結時間は1〜10時間程度とすればよい。ホットプレス中の雰囲気はArガス等の不活性ガス中または真空中が好ましい。なお、常圧焼結法でIn−W−O系酸化物焼結体の製造をすることも可能であるが、前述のように、高温で長時間の焼結条件で製造することが必要である。
【0062】
In−W−Zn−O系酸化物焼結体の製造においては、平均粒径が1μm以下のIn23粉末、および平均粒径が1μm以下のWO3粉末、さらに平均粒径が1μm以下のZnO粉末を原料粉末とし、In23粉末とWO3粉末とZnO粉末を、W/Inの原子数比およびZn/Inの原子数比が所定の割合になるように調合する。これらの原料を樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル等で混合する。この際、混合用ボールとしては、硬質ZrO2ボールを用いればよい。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒を行う。その後、該造粒物に、冷間静水圧プレスで9.8MPa(0.1ton/cm2)〜294MPa(3ton/cm2)程度の圧力をかけて成形する。
【0063】
次に、得られた成形体を、焼結炉内の大気に酸素を導入した雰囲気で、1000℃〜1300℃で1〜5時間程度かけて焼結する(常圧焼結法)。この際、炉内の均熱を悪化させないように、約1℃/分で昇温し、焼結後の冷却の際は、酸素導入を止め、1000℃までを約10℃/分で降温することが好ましい。また、焼結炉内に導入する酸素量は、炉内容積0.1m3当たり3〜8L/minの割合で流すことが好ましい。導入量を低下させるとWO3、ZnOの揮発が激しくなり、所定組成の焼結体を得ることが難しくなる。導入量を増加させると炉内の均熱を悪化させる。なお、In−W−Zn−O系酸化物焼結体の製造では、In−W−O系酸化物焼結体タブレットの製造と同様に、ホットプレス法で焼結することも可能である。
【0064】
2.酸化物透明導電膜
In−W−O系の酸化物透明導電膜は、前述のように太陽電池や表示デバイスの透明電極用として有用であるが、その理由は、以下の通りである。
【0065】
In−W−O系酸化物焼結体から酸化物透明導電膜を作製すると、原子価が3価であるインジウム位置を、原子価4〜6価のタングステンが不純物イオンとして占有し、これによってキャリア電子を放出して、導電率が増加する。一般に、酸化インジウムのようなn型半導体に不純物イオンが増加すると、キャリア電子数は増加するが、不純物イオン散乱によってキャリア電子の移動度が減少する。しかし、タングステンを不純物イオンとして酸化インジウムに添加すると、移動度を大幅に減少させることなく、キャリア電子数を増加させることができる。従って、タングステンを含ませると、キャリア電子の移動度が高い状態で、キャリア電子数を増加させることができるため、低抵抗で赤外線透過率の高い酸化物透明導電膜を実現できる。本発明で、タングステンを含ませる主な理由はここにある。
【0066】
酸化物透明導電膜の作製条件は特に制限されないが、具体的には、本発明に係る酸化物焼結体を用いて、130℃以下の基板上に、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法によって、主として非晶質構造の酸化物透明導電膜を作製することができる。
【0067】
得られる膜は、表面の中心線平均粗さ(Ra)で1.5nm以下であり表面平滑性が良好であり、比抵抗は9×10-4Ωcm以下の高い導電性を有し、波長400〜800nmにおける膜自体の平均透過率が82%以上であり、内部応力も低いため、有機ELなどの透明電極として有用な膜である。
【0068】
また、上記方法で酸化物透明導電膜を作製した後、得られた膜を不活性ガス中あるいは真空中で200〜400℃で加熱することが好ましい。前記加熱温度範囲内で加熱を行うと、結晶性の酸化物透明導電膜が得られる。この結晶性の酸化物透明導電膜は、比抵抗が9×10-4Ωcm以下であり、波長400〜800nmの光に対する膜自体の平均透過率が82%以上であり、さらに、波長900〜1100nmの光に対する膜自体の平均透過率が80%以上であり、低抵抗で可視域から近赤外域までの透過率が大きい酸化物透明導電膜である。
【0069】
本発明に係る酸化物焼結体を用い、電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの真空蒸着法で、上記のような手順で酸化物透明導電膜を作製すると、低抵抗で可視域から近赤外域までの透過率が大きい酸化物透明導電膜を得ることができる。
【0070】
従って、本発明に係る酸化物焼結体を用いて電子ビーム蒸着法やイオンプレーティング法や高密度プラズマアシスト蒸着法などの各種真空蒸着法で透明導電膜を作製すれば、低抵抗で高い透過率を有する酸化物透明導電膜や、表面が平滑で、低抵抗であり、かつ、内部応力の小さい酸化物透明導電膜を、高速に安定して製造することができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。
【0072】
(実施例1〜6)ホットプレス法によるIn−W−O系酸化物焼結体タブレット(4.1〜6.4g/cm3)の作製
平均粒径が1μm以下のIn23粉末、および平均粒径が1μm以下のWO3粉末を原料粉末とし、In23粉末とWO3粉末を、W/Inの原子数比が0.006となるような割合で調合した。これらの原料を乾式ボールミル、Vブレンダーなどで均一に混合し、カーボン製容器中に給粉して各条件でホットプレス法を用いて焼結した。焼結温度は700〜900℃、圧力は2.45MPa(25kgf/cm2)〜29.40MPa(300kgf/cm2)の範囲から選択し、焼結時間は1時間で一定とした。雰囲気は不活性ガス(Arガス)中で行った。
【0073】
得られた酸化物焼結体を、直径30mm、厚み40mmの大きさの円柱形状に加工し、体積と質量を測定して密度を算出した。焼結温度や焼結圧力を変えることで種々の密度の酸化物焼結体タブレットを製造した。得られた酸化物焼結体タブレットの密度は4.1〜6.4g/cm3であった。測定結果を表1に示す。
【0074】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンとインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンが固溶していると考えられる。
【0075】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも4〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.9kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0076】
透明導電膜の作製には磁場偏向型電子ビーム蒸着装置を用いた。該蒸着装置の真空排気系はロータリーポンプによる低真空排気系とクライオポンプによる高真空排気系から構成されており、5×10-5Paまで排気することが可能である。電子ビームはフィラメントの加熱により発生し、カソード−アノード間に印加された電界によって加速され、永久磁石の磁場中で曲げられた後、タングステン製の坩堝内に設置されたタブレットに照射される。電子ビームの強度はフィラメントへの印加電圧を変化させることで調整できる。また、カソード−アノード間の加速電圧を変化させるとビームの照射位置を変化させることができる。
【0077】
得られた酸化物焼結体タブレットについて、以下の手順で成膜を行うことにより、耐久試験を実施した。真空室内にArガスとO2ガスを導入して圧力を1.5×10-2Paに保持した。タングステン製坩堝に実施例1〜6の円柱状タブレットを立てて配置し、タブレットの円形面の中央部に、60分間連続して電子ビームを照射した。電子銃の設定電圧は9kV、電流値は150mAとした。薄膜を成膜する基板は、ガラス基板(厚み1.1mmのコーニング7059)とし、基板温度は室温〜130℃とした。60分間の電子ビーム照射後に坩堝内のタブレットを観察し、タブレットに割れやクラックが入っていないか目視観察した。
【0078】
実施例1〜6のタブレットについて、各々20個づつ、上記の条件で耐久試験を行ったが、全て割れやクラックは発生しなかった。このようなタブレットを用いることで、安定に高速成膜を行うことができるため有用である。
【0079】
得られた酸化物焼結体タブレットを用いて、前記磁場偏向型電子ビーム蒸着装置により、成膜を行った。それぞれ200nmの膜厚となるように、それぞれの成膜速度から算出した成膜時間だけ、ガラス基板(厚み1.1mmのコーニング7059)上に成膜して薄膜を作製した。ガラス基板の温度は室温〜130℃とした。
【0080】
得られた薄膜について、表面抵抗を四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で測定して比抵抗を算出した。また、分光光度計(日立製作所社製、U−4000)でガラス基板を含めた膜(膜付ガラス基板)の透過率(T膜+基板(%))およびガラス基板のみの透過率(T基板(%))を測定した。そして、(T膜+基板÷T基板)×100(%)で膜自体の透過率を算出した。
【0081】
また、膜の10μm×10μmの領域における中心線平均表面粗さ(Ra)を原子間力顕微鏡(デジタルインスツルメンツ社製、NS−III、D5000システム)で測定した。膜の結晶性はCuKα線を用いたX線回折測定で測定した。膜の組成はICP発光分析法で測定した。
【0082】
その結果、得られたいずれの薄膜においても、比抵抗は7×10-4Ωcm以下であり、可視域(400〜800nm)の膜自体の平均透過率は83〜90%であり、900〜1100nmの近赤外域での膜自体の平均透過率は60〜74%であり、膜表面の中心線平均表面粗さ(Ra)は1.5nm以下であり、膜質は非晶質であった。このような特性を有する膜は、有機ELやLCDなどの表示素子の透明電極に有用である。なお、膜の組成は用いた酸化物焼結体タブレットの組成とほぼ同じであった。
【0083】
また、この膜を窒素雰囲気中で250℃にて1時間アニールして同様に特性の評価を行った。アニール後の膜はビックスバイト型構造の酸化インジウム結晶膜であることをX線回折測定で確認した。その結果、可視光領域だけでなく近赤外線領域においても、アニール前と比べて光透過率が良好になり、膜自体の平均透過率は可視域(400〜800nm)で87〜93%となり、900〜1100nmの近赤外域でも85〜89%となった。また、膜の比抵抗は、3×10-4〜6×10-4Ωcmであった。このような酸化物透明導電膜を太陽電池の透明電極に用いると、近赤外光エネルギーも有効に利用することができるため有用である。
【0084】
(比較例1)ホットプレスによるIn−W−O系酸化物焼結体タブレット(3.8g/cm3
焼結温度を700℃、焼結時間を0.5時間、焼結圧力を4.91MPaとした以外は、実施例1〜6と同じ条件でホットプレス焼結法で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は3.8g/cm3であった。測定結果を表1に示す。
【0085】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンとインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンが固溶していると考えられる。
【0086】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも4〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.9kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0087】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、全て、割れてしまった。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表1に示す。
【0088】
(比較例2)ホットプレス法によるIn−W−O系酸化物焼結体タブレット(6.7g/cm3)の作製
焼結温度を900℃、焼結時間を3時間、焼結圧力を29.40MPaとした以外は、実施例1〜6と同じ条件でホットプレス焼結法で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は6.7g/cm3であった。測定結果を表1に示す。
【0089】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンとインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンが固溶していると考えられる。
【0090】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも4〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.9kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0091】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、5個にクラックが入っていた。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表1に示す。
【0092】
(比較例3)ホットプレス法によるIn−W−O系酸化物焼結体タブレット(6.7g/cm3、金属相あり)の作製
焼結温度を1000℃、焼結時間を1時間、焼結圧力を14.70MPaとした以外は、実施例1〜6と同じ条件でホットプレス焼結法で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は6.6g/cm3であった。測定結果を表1に示す。
【0093】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)と金属インジウム結晶相(JCPDSカードの5−642に記載の相)で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、酸素の存在が確認され、酸化物相がほとんどであったが、酸素が存在しない金属相の存在も確認された。酸化物相にはタングステンとインジウムが均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンが固溶していると考えられる。また、金属相は、10〜500μmの大きさで存在していたが、金属インジウムが主成分であり、上述のX線回折測定で確認された金属インジウム結晶相であった。
【0094】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも4〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.4kΩcm以下であった。また全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0095】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、16個にクラックが入っていた。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
(実施例7〜11)常圧焼結法によるIn−W−Zn−O系酸化物焼結体タブレットの作製
平均粒径が1μm以下のIn23粉末、および平均粒径が1μm以下のWO3粉末、さらに平均粒径が1μm以下のZnO粉末を原料粉末とし、In23粉末とWO3粉末を、W/Inの原子数比が0.006、Zn/Inの原子数比が0.00018〜0.017となるような割合で調合し、樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。
【0098】
造粒物に、冷間静水圧プレスで294MPa(3ton/cm2)の圧力を掛けて成形した。
【0099】
次に、成形体を次のように焼結した。焼結炉内の大気に、炉内容積0.1m3当たり5L/minの割合の酸素を導入する雰囲気で、1100℃で2時間焼結した(常圧焼結法)。この際、1℃/minで昇温し、焼結後の冷却の際は、酸素導入を止め、1000℃までを10℃/minで降温した。
【0100】
得られた酸化物焼結体タブレットを、直径30mm、厚み40mmの大きさの円柱形状に加工し、体積と重量を測定して密度を算出した。焼結温度や焼結時間を変えて種々の密度の酸化物焼結体タブレットを製造した。酸化物焼結体タブレットの密度は4.4〜5.8g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0101】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンと亜鉛とインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンと亜鉛が固溶していると考えられる。
【0102】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも2〜7μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、1kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0103】
タブレットの耐久試験を実施例1〜6と同様の条件で行った。実施例7〜11のタブレットについて、各々20個づつ、上記の条件で耐久試験を行ったが、全て割れやクラックは発生しなかった。このようなタブレットを用いることで、安定に高速成膜を行うことができるため有用である。測定結果を表2に示す。
【0104】
このようにZnをZn/In原子数比で0.00018〜0.017の割合で含有させると、焼結性が改善され、本発明で規定した焼結体密度(4.0〜6.5g/cm3)をZnを含ませない時より低温の焼結で達成することができる。
【0105】
この効果は、W/Inの原子数比が0.001、0.025、0.034の組成においても同様であった。この結果から、ZnがZn/In原子数比で0.00018〜0.017の割合で含有されると焼結性が改善されるといえる。
【0106】
(比較例4)常圧焼結法によるIn−W−Zn−O系酸化物焼結体タブレット(3.7g/cm3)の作製
原料粉末の調合におけるZnO粉末の量をZn/Inの原子数比で0.00015とした以外は、実施例7〜11と同じ条件で常圧焼結法による酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は3.7g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0107】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンと亜鉛とインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相には、タングステンと亜鉛が固溶していると考えられる。
【0108】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、何れも2〜7μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、1kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0109】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、全て、割れてしまった。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表2に示す。
【0110】
(比較例5)常圧焼結法によるIn−W−O系酸化物焼結体タブレット(3.2g/cm3)の作製
平均粒径が1μm以下のIn23粉末、および平均粒径が1μm以下のWO3粉末を原料粉末とし、In23粉末とWO3粉末を、W/Inの原子数比が0.006となるような割合で調合し、樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。
【0111】
造粒物に、冷間静水圧プレスで294MPa(3ton/cm2)の圧力を掛けて成形した。
【0112】
次に、成形体を次のように焼結した。焼結炉内の大気に、炉内容積0.1m3当たり5L/minの割合の酸素を導入する雰囲気で、1100℃で2時間焼結した(常圧焼結法)。この際、1℃/minで昇温し、焼結後の冷却の際は、酸素導入を止め、1000℃までを10℃/minで降温した。
【0113】
得られた酸化物焼結体タブレットを、直径30mm、厚み40mmの大きさの円柱形状に加工し、体積と質量を測定して密度を算出した。得られた酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は3.2g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0114】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶(JCPDSカードの6−416)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンとインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンが固溶していると考えられる。
【0115】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも2〜8μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、1kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0116】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、全てのタブレットにクラックが入っていた。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表2に示す。
【0117】
(比較例6)常圧焼結法によるIn−W−O系酸化物焼結体タブレット(3.4〜3.8g/cm3)の作製
焼結温度を1150〜1250℃とし、焼結時間を1〜5時間とした以外は、比較例5と同じ条件で常圧焼結法で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は3.4〜3.8g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0118】
したがって、ZnOを含まない場合は、1250℃以下の焼結温度では、常圧焼結法では、密度が4.0g/cm3以上の焼結体を得ることができないと考えられる。
【0119】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンとインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンが固溶していると考えられる。
【0120】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも2〜7μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、1kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0121】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、全て、割れてしまった。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表2に示す。
【0122】
この傾向は、酸化物焼結体タブレットの作製時の配合組成(W/In原子数比、Zn/In原子数比)が(0.001、0)、(0.025、0)、(0.034、0)の場合でも全く同じであった。
【0123】
(実施例12)常圧焼結法によるIn−W−O系酸化物焼結体タブレット(4.1g/cm3)の作製
焼結温度を1300℃とし、焼結時間を5時間とした以外は、比較例5と同じ条件で常圧焼結法で酸化物焼結体タブレットの作製をしたところ、密度は4.1g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0124】
したがって、ZnOを含まない場合は、1300℃の高温で5時間の長時間の焼結を行わないと、常圧焼結法では密度が4.0g/cm3以上の焼結体を得ることができないと考えられる。
【0125】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンとインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンが固溶していると考えられる。
【0126】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも2〜7μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、1kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0127】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、全て割れやクラックは発生しなかった。このようなタブレットを用いることで、安定に高速成膜を行うことができるため有用である。測定結果を表2に示す。
【0128】
この傾向は、酸化物焼結体タブレットの作製時の配合組成(W/In原子数比、Zn/In原子数比)が(0.001、0)、(0.025、0)、(0.034、0)の場合でも全く同じであった。したがって、ZnOを含まない場合であっても、1300℃で5時間という焼結条件を用いれば、常圧焼結法により、密度が4.0〜4.2g/cm3であって、耐久試験で評価しても割れの生じない焼結体を得ることができる。
【0129】
(実施例13〜18)常圧焼結法によるIn−W−Zn−O系酸化物焼結体タブレット(4.2〜6.5g/cm3)の作製
平均粒径が1μm以下のIn23粉末、および平均粒径が1μm以下のWO3粉末、さらに平均粒径が1μm以下のZnO粉末を原料粉末とし、In23粉末とWO3粉末を、W/Inの原子数比が0.012、Zn/Inの原子数比が0.008となるような割合で調合し、樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミルで混合した。この際、硬質ZrO2ボールを用い、混合時間を18時間とした。混合後、スラリーを取り出し、濾過、乾燥、造粒した。
【0130】
造粒物に、冷間静水圧プレスで294MPa(3ton/cm2)の圧力を掛けて成形した。
【0131】
次に、成形体を次のように焼結した。焼結炉内の大気に、炉内容積0.1m3当たり5L/minの割合の酸素を導入する雰囲気で、1000〜1200℃で1〜2時間、常圧で焼結した。この際、1℃/minで昇温し、焼結後の冷却の際は、酸素導入を止め、1000℃までを10℃/minで降温した。
【0132】
得られた酸化物焼結体タブレットを、直径30mm、厚み40mmの大きさの円柱形状に加工し、体積と質量を測定して密度を算出した。焼結温度や焼結時間を変えることで種々の密度の酸化物焼結体タブレットを製造した。酸化物焼結体タブレットの密度は4.2〜6.5g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0133】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンと亜鉛とインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンと亜鉛が固溶していると考えられる。
【0134】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも1〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.9kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0135】
タブレットの耐久試験を実施例1〜6と同様の条件で行った。実施例13〜18のタブレットについて、各々20個づつ、上記の条件で耐久試験を行ったが、全て割れやクラックは発生しなかった。このようなタブレットを用いることで、安定に高速成膜を行うことができるため有用である。測定結果を表2に示す。
【0136】
得られた酸化物焼結体タブレットを用いて、実施例1〜6と同様に、前記磁場偏向型電子ビーム蒸着装置により、成膜を行った。それぞれ200nmの膜厚となるように、それぞれの成膜速度から算出した成膜時間だけ、ガラス基板(厚み1.1mmのコーニング7059)上に成膜して薄膜を作製した。ガラス基板は加熱しなかった。
【0137】
実施例1〜6と同様に、比抵抗、膜自体の透過率、表面粗さ(Ra)、結晶性を評価した。
【0138】
その結果、薄膜の比抵抗は3.2×10-4〜8×10-4Ωcmであり、可視域(400〜800nm)の膜自体の平均透過率は82〜89%であり、900〜1100nmの近赤外域での膜自体の平均透過率は61〜75%であり、膜表面の中心線平均表面粗さ(Ra)は1.7nm以下の非晶質膜が得られていることがわかった。このような特性の膜は有機ELやLCDなどの表示素子に有用である。なお、膜の組成は酸化物焼結体タブレットの組成とほぼ同じであった。
【0139】
また、この膜を窒素雰囲気中で230℃にて1時間アニールして同様に特性の評価を行った。アニール後の膜はビックスバイト型構造の酸化インジウム結晶膜であることをX線回折測定で確認した。その結果、可視光領域だけでなく近赤外線領域においても、光透過率が良好になり、膜自体の平均透過率は可視域(400〜800nm)で87〜91%であり、900〜1100nmの近赤外域でも80〜86%であった。また、膜の比抵抗は、4.2×10-4〜7×10-4Ωcmであった。このような酸化物透明導電膜を太陽電池の透明電極に用いると、近赤外光エネルギーも有効に利用することができるため有用である。
【0140】
(比較例7)常圧焼結法によるIn−W−Zn−O系酸化物焼結体タブレット(3.8g/cm3)の作製
焼結時間を0.5時間とした以外は、実施例13と同じ条件で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は3.8g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0141】
酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンと亜鉛とインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相にはタングステンと亜鉛が固溶していると考えられる。
【0142】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも1〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.9kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0143】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、全て、割れてしまった。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表2に示す。
【0144】
(比較例8)常圧焼結法によるIn−W−Zn−O系酸化物焼結体タブレット(6.8g/cm3)の作製
焼結温度を1200℃とし、焼結時間を4時間とした以外は、実施例18と同じ条件で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は6.8g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0145】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内でタングステンと亜鉛とインジウムは均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相には、タングステンと亜鉛が固溶していると考えられる。
【0146】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも1〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.9kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0147】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、5個にクラックが入っていた。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表2に示す。
【0148】
(比較例9)常圧焼結法によるIn−W−Zn−O系酸化物焼結体タブレット(6.2g/cm3、金属相あり)の作製
焼結中に焼結炉内に酸素を導入しないこととした以外は、実施例17と同じ条件で常圧焼結法で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は6.2g/cm3であった。測定結果を表2に示す。
【0149】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶相(JCPDSカードの6−416に記載の相)と金属インジウム結晶相(JCPDSカードの5−642に記載の相)で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、酸素の存在が確認された酸化物相がほとんどであったが、酸素が存在しない金属相の存在も確認された。酸化物相にはタングステンと亜鉛とインジウムが均一に分布していた。したがって、酸化インジウム結晶相には、タングステンと亜鉛が固溶していると考えられる。また、金属相は、20〜400μmの大きさで存在していたが、金属インジウムが主成分で極微量の亜鉛が固溶しており、上述のX線回折測定で確認された金属インジウム結晶相であると考えられる。
【0150】
酸化物焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも4〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.5kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0151】
さらに、実施例1〜6と同様に酸化物焼結体タブレットの耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、15個にクラックが入っていた。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。測定結果を表2に示す。
【0152】
【表2】

【0153】
(実施例19)
酸化物焼結体タブレットの組成(W/In原子数比、Zn/In原子数比)を(0.001、0)、(0.025、0)、(0.034、0)として、実施例1〜6と同様に、ホットプレス焼結法で焼結条件を変えて種々の密度の蒸着用焼結体タブレットを作製し、同様に電子ビーム照射による耐久性を調べた。
【0154】
その結果は全く同じ傾向であり、酸化物焼結体タブレットの密度が4.0〜6.5g/cm3のときに割れやクラックが発生せず安定して使用することができた。
【0155】
また、酸化物焼結体タブレットの組成(W/In原子数比、Zn/In原子数比)を(0.001、0.001)、(0.025、0.008)、(0.034、0.017)に対しても、実施例13〜18と同様に、常圧焼結法で焼結条件を変えて種々の密度の酸化物焼結体タブレットを作製し、同様に電子ビーム照射による耐久性を調べた。
【0156】
その結果は全く同じ傾向であり、酸化物焼結体タブレットの密度が4.0〜6.5g/cm3のときに割れやクラックが発生せず安定して使用することができた。
【0157】
これらの酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内で各構成金属元素は均一に分布していた。
【0158】
これらの焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、酸化物焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、いずれも1〜9μmであった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.8kΩcm以下であった。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0159】
得られた酸化物焼結体タブレットを用いて、実施例1〜6と同様に、前記磁場偏向型電子ビーム蒸着装置により、成膜を行った。それぞれ200nmの膜厚となるように、それぞれの成膜速度から算出した成膜時間だけ、ガラス基板(厚み1.1mmのコーニング7059)上に成膜して薄膜を作製した。ガラス基板は加熱しなかった。
【0160】
実施例1〜6と同様に、比抵抗、膜自体の透過率、表面粗さ(Ra)、結晶性を評価した。
【0161】
その結果、薄膜の比抵抗は2.1×10-4〜9×10-4Ωcmであり、可視域(400〜800nm)の膜自体の平均透過率は85〜90%であり、900〜1100nmの近赤外域での膜自体の平均透過率は63〜73%であり、膜表面の中心線平均表面粗さ(Ra)は1.6nm以下の非晶質膜が得られていることがわかった。このような特性の膜は有機ELやLCDなどの表示素子に有用である。なお、膜の組成は酸化物焼結体タブレットの組成とほぼ同じであった。
【0162】
また、この膜を窒素雰囲気中で200〜400℃の各温度にて1時間アニールして同様に特性の評価を行った。アニール後の膜はビックスバイト型構造の酸化インジウム結晶膜であることをX線回折測定で確認した。その結果、可視光領域だけでなく近赤外線領域においても、光透過率が良好になり、膜自体の平均透過率は可視域(400〜800nm)で88〜92%であり、900〜1100nmの近赤外域でも80〜90%であった。また、膜の比抵抗は、1.9×10-4〜8.5×10-4Ωcmであった。このような酸化物透明導電膜を太陽電池の透明電極に用いると、近赤外光エネルギーも有効に利用することができるため有用である。
【0163】
(比較例10)
平均粒径が約10μmのIn23粉末を用いた以外は実施例3と同様の条件で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は4.5g/cm3であった。また、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、0.9kΩcm以下であった。
【0164】
酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内で各構成金属元素は均一に分布していた。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0165】
焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ、21μmと実施例1〜15のもの(10μm以下)と比べて大きかった。
【0166】
このような結晶粒径の大きい酸化物焼結体タブレットに対し、実施例1〜6と同様の条件で耐久試験を実施した。20個のタブレットについて試験を行ったところ、2個にクラックが入っていた。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができないことがわかる。
【0167】
(比較例11)比抵抗が2.5kΩcm
酸化物焼結体タブレットの組成(W/In原子数比、Zn/In原子数比)を(0.018、0.008)とし、焼結体作製時において、常圧焼結後の冷却の際に焼結炉内に導入していた酸素を止めずに5L/minの割合で酸素導入したまま降温した以外は、実施例14と同様の条件で酸化物焼結体タブレットを作製したところ、密度は4.7g/cm3であった。
【0168】
得られた酸化物焼結体を乳鉢で粉砕して、CuKα線を用いた粉末X線回折測定を行ったところ、ビックスバイトの酸化インジウム結晶(JCPDSカードの6−416に記載の相)の単相で構成されていた。また、酸化物焼結体の組成分布を調査するため、破断面についてEPMAによる面分析を行ったところ、各結晶粒内で各構成金属元素は均一に分布していた。また、全ての酸化物焼結体に対してICP発光分析法で組成分析を行ったところ、仕込み組成(原料粉末の調合割合に基づく組成)を有することがわかった。
【0169】
焼結体の破断面の走査型電子顕微鏡(日立製作所社製、S−800)による観察から、焼結体中の100個の結晶粒径の平均値を求めたところ8μmであった。しかし、酸化物焼結体の電子ビーム照射面に対し、四端針法抵抗率計ロレスタEP(ダイアインスツルメンツ社製、MCP−T360型)で電子ビーム照射面である円形面の表面抵抗を測定して比抵抗を算出したところ、2.5kΩcmであり、実施例1〜19の酸化物焼結体(1kΩcm以下)と比べて高抵抗であった。
【0170】
このような高抵抗の酸化物焼結体タブレットに対し、実施例1〜6と同様の条件で電子ビーム照射による耐久試験を試みたところ、電子ビーム照射開始5分後に電子ビームの照射位置が所定の場所に定まらずに不安定になり、安定な成膜が実施できなかった。タブレットが高抵抗であったため電子ビーム照射により帯電が起きたことが原因と考えられる。このようなタブレットを用いたのでは、安定に高速成膜を行うことができない。
【0171】
(実施例20)
実施例1〜19、比較例1〜11の酸化物焼結体タブレットを用いて、プラズマガンを用いた高密度プラズマアシスト蒸着法(HDPE法)による成膜を行い、酸化物焼結体タブレットとしての耐久性を調べた。その結果、実施例1〜19、比較例1〜11で得られた結果と同様の傾向を示しており、密度が4.0〜6.5g/cm3の酸化物焼結体タブレットを使用することで、割れやクラックの発生しない蒸着用タブレットが得られることがわかった。
【0172】
得られた薄膜について、実施例1〜6と同様に、比抵抗、膜自体の透過率、表面粗さ(Ra)、結晶性を評価した。
【0173】
その結果、加熱しないガラス基板(厚み1.1mmのコーニング7059)上に成膜した薄膜の比抵抗は1.8×10-4〜9×10-4Ωcmであり、可視域(400〜800nm)の膜自体の平均透過率は85〜88%であり、900〜1100nmの近赤外域での膜自体の平均透過率は61〜75%であり、膜表面の中心線平均表面粗さ(Ra)は1.6nm以下の非晶質膜が得られていることがわかった。このような特性の膜は有機ELやLCDなどの表示素子に有用である。なお、膜の組成は酸化物焼結体タブレットの組成とほぼ同じであった。
【0174】
また、この膜を窒素雰囲気中で200〜400℃の各温度にて1時間アニールして同様に特性の評価を行った。アニール後の膜はビックスバイト型構造の酸化インジウム結晶膜であることをX線回折測定で確認した。その結果、可視光領域だけでなく近赤外線領域においても、光透過率が良好になり、膜自体の平均透過率は可視域(400〜800nm)で87〜91%であり、900〜1100nmの近赤外域でも80〜90%であった。また膜の比抵抗は、1.8×10-4〜9.0×10-4Ωcmであった。このような酸化物透明導電膜を太陽電池の透明電極に用いると、近赤外光エネルギーも有効に利用することができるため有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを固溶したインジウム酸化物を含有し、タングステンがインジウムに対する原子数比で0.001以上0.034以下含まれ、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項2】
タングステン、亜鉛を固溶したインジウム酸化物を含有し、タングステンがインジウムに対する原子数比で0.001以上0.034以下含まれ、亜鉛がインジウムに対する原子数比で0.00018以上0.017以下含まれ、密度が4.0g/cm3以上6.5g/cm3以下であることを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項3】
金属相が含まれていないことを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
前記酸化物焼結体の結晶粒径の平均値が10μm以下であることを特徴とした請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
比抵抗が1kΩcm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、温度:700℃以上900℃以下、時間:1h以上3h未満、圧力:2.45MPa以上29.40MPa以下でホットプレスして酸化物焼結体を得る工程2と、を有することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項7】
タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下、亜鉛のインジウムに対する原子数比が0.00018以上0.017以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末と酸化亜鉛粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、温度:700℃以上900℃以下、時間:1h以上3h未満、圧力:2.45MPa以上29.40MPa以下でホットプレスして酸化物焼結体を得る工程2と、を有することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項8】
タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、圧力:9.8MPa以上294MPa以下の冷間静水圧プレスで成形して成形体を得る工程2と、工程2で得られた成形体を、常圧で、温度:1300℃以上、時間:5h以上で焼結させて酸化物焼結体を得る工程3と、を有することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項9】
タングステンのインジウムに対する原子数比が0.001以上0.034以下、亜鉛のインジウムに対する原子数比が0.00018以上0.017以下となるように酸化インジウム粉末と酸化タングステン粉末と酸化亜鉛粉末を調合し、混合する工程1と、工程1で得られた混合物を、圧力:9.8MPa以上294MPa以下の冷間静水圧プレスで成形して成形体を得る工程2と、工程2で得られた成形体を、常圧で、温度:1000℃以上1300℃以下、時間:1h以上5h以下で焼結させて酸化物焼結体を得る工程3と、を有することを特徴とする酸化物焼結体の製造方法。
【請求項10】
焼結工程を、焼結炉内に、炉内容積0.1m3当たり3〜8L/minの割合の酸素を導入する雰囲気で実施する請求項8または9に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項11】
焼結工程の後の炉冷を行うに際して、酸素の導入を中止する請求項10に記載の酸化物焼結体の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体のタブレットを用い、真空蒸着法によって作製された酸化物透明導電膜であって、比抵抗が9×10-4Ωcm以下であり、波長400〜800nmの光に対する膜自体の平均透過率が82%以上であることを特徴とする酸化物透明導電膜。
【請求項13】
波長900〜1100nmの光に対する膜自体の平均透過率が80%以上であることを特徴とする請求項12に記載の酸化物透明導電膜。
【請求項14】
請求項1〜5のいずれかに記載の酸化物焼結体のタブレットを用いて、130℃以下の基板上に真空蒸着法によって膜を作製した後、作製した膜を不活性ガス中または真空中で200〜400℃で熱処理をすることを特徴とする酸化物透明導電膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−347807(P2006−347807A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175794(P2005−175794)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】