説明

銅導体インク及び導電性基板及びその製造方法

【課題】導電性を低下させることなく、基板との密着性が高い導電層を形成可能な銅導体インク、及び導電層と基板との密着性が高く、該導電層の導電性が高い導電性基板を製造し得る製造方法を提供することにある。
【解決手段】銅系ナノ粒子と、熱硬化前の熱硬化性樹脂とを含有する銅導体インクであって、前記熱硬化性樹脂の含有体積が、銅系ナノ粒子を最密充填したときの空隙体積の1/4の体積より大きく、該空隙体積よりも小さい体積である銅導体インクである。また、前記銅導体インクを基板上に塗布し塗布層を形成し、乾燥する工程Aと、乾燥した塗布層に導体化処理を施し導電層へと変化させる工程Bと、前記工程Aと前記工程Bとの間に、又は前記工程Bの後に、前記熱硬化性樹脂を熱硬化する工程Cと、を含む導電性基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅配線パターン等の形成に使用される銅導体インク、及び銅導体インクを用いて行う導電性基板の製造方法、並びに導電性基板に関する。
【背景技術】
【0002】
低エネルギー、低コスト、高スループット、オンデマンド生産などの優位点から印刷法による配線パターンの形成が有望視されている。この目的には、金属元素を含むインク・ペーストを用い印刷法によりパターンを形成した後、印刷された配線パターンに金属伝導性を付与することにより実現される。
従来この目的には、フレーク状の銀あるいは銅を熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のバインダに有機溶剤、硬化剤、触媒などと共に混合したペーストが用いられてきた。この金属ペーストの使用方法は、対象物にディスペンサやスクリーン印刷により塗布し、常温で乾燥するか、あるいは150℃程度に加熱してバインダ樹脂を硬化し、導電性被膜とすることで行われている。このようにして得られた導電性被膜では、内部の金属粒子の一部のみが物理的に接触して導通を取ると共に硬化した樹脂により、導電層の強度と基板との接着性を発現している。しかし、このような導電ペーストでは、粒子間の物理接触により導通が取られ、かつ一部銀粒子の間にバインダが残存し接触を阻害するため導電性は体積抵抗率は、製膜条件にもよるが、10−6〜10−7Ω・mの範囲であり、金属銀や銅の体積抵抗率16×10−9Ω・m、17×10−9Ω・mに比べて、10〜100倍の値となっており金属膜には到底及ばない値となっている。また、従来の銀ペーストでは、銀粒子が粒径1〜100μmのフレーク状であるため、原理的にフレーク状銀粒子の粒径以下の線幅の配線を印刷することは不可能である。また、配線の微細化やインクジェット法への適用からは、粒径が100nm以下の粒子を用いたインクが求められており、これらの点から従来の銀ペーストは微細な配線パターン形成には不適である。
【0003】
これらの銀や銅ペーストの欠点を克服するものとして金属ナノ粒子を用いた配線パターン形成方法が検討されており、金あるいは銀ナノ粒子を用いる方法は確立されている(例えば、特許文献1、2参照。)。具体的には、金あるいは銀ナノ粒子を含む分散液を利用した極めて微細な回路パターンの描画と、その後、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより、得られる焼結体型配線層において、配線幅および配線間スペースが5〜50μm、体積固有抵抗率が1×10−8Ω・m以下の配線形成が可能となっている。しかしながら、金や銀といった貴金属ナノ粒子を用いる際には、材料自体が高価であるため、かかる超ファイン印刷用分散液の作製単価も高くなり、汎用品として幅広く普及する上での、大きな経済的障害となっている。さらに、銀ナノ粒子では、配線幅および配線間スペースが狭くなっていくにつれ、エレクトロマイグレーションに起因する回路間の絶縁低下という欠点や問題として浮上している。
【0004】
配線形成用の金属ナノ粒子分散液としては、エレクトロマイグレーションが少なく、金や銀と比較して材料自体の単価も相当に安価な銅の利用が期待されている。銅の粒子は貴金属と比較して酸化されやすい性質を持つため、表面処理剤には分散性の向上目的以外に酸化防止の作用を持つものが用いられる。このような目的には銅表面と相互作用する置換基を有する高分子や長鎖アルキル基を有する表面処理剤(例えば、特許文献3、4参照。)が用いられている。
【0005】
このように、金属ナノ粒子を用いたインクは分散性を向上させるための分散剤、金属ナノ粒子の酸化を防ぐための表面保護剤や場合によっては還元剤が多量に含まれており、さらに導体化する処理にはこれらの分散剤、表面保護剤等を分解するための手段が提案されている(例えば、特許文献6〜7参照。)。
【0006】
一方、金属ナノ粒子を用いた配線パターンは導電性ペーストのような積極的に接着性を持たせるような樹脂成分は含まれず、さらに粒子が物理的に基板上に載った状態から焼結するため生成した導体層は基板から剥離し易い欠点がある。また、粒子の焼結により生じた導体層は層中に粒子間隙間や表面保護剤の脱離により生じた空隙を多量に含んでおり、導体層が脆弱になり、上述の接着性の欠如とあいまって導体層の接着性は大きな問題となっている。
【0007】
そこで、接着性向上のために樹脂を添加することが考えられるが、インクには上述のように分散剤、表面保護剤等が大量に含まれるため、さらに樹脂を添加することは困難であり、たとえ樹脂を添加しても導体化する処理において分散剤、表面保護剤と共に分解されてしまい十分な効果が得られない。
そのため、接着性の向上には基板側に工夫をして接着性を向上させる試みが報告されている(例えば、特許文献8参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−273205号公報
【特許文献2】特開2003−203522号公報
【特許文献3】特許第3599950号公報
【特許文献4】特開2005−081501号公報
【特許文献5】特開2006−26602号公報
【特許文献6】特開2006−210872号公報
【特許文献7】特開2004−119686号公報
【特許文献8】特開2008−200557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記従来の技術に鑑みてなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
本発明の目的は、導電性を低下させることなく、基板との密着性が高い導電層を形成可能な銅導体インクを提供することにある。
本発明の別の目的は、導電層と基板との密着性が高く、該導電層の導電性が高い導電性基板を製造し得る導電性基板の製造方法を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、導電性が高く、基板との密着性が高い導電層を有する導電性基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の如き欠点に対し、銅ナノ粒子を用いたインクの導体化において、表面保護剤、分散剤に代表される有機不純物は粒子間の接触を妨げ導体化、低体積抵抗率化を阻害するが、ナノ粒子を最密充填しても残る空間(空隙)より少ない体積であれば有機不純物の影響は最小限に抑えられると考え鋭意検討を行い、本発明に至った。また、銅粒子に対し41vol%以下の添加であれば体積抵抗率の増加はほとんど生じず、6vol%以上の樹脂が添加されれば密着性が向上することを見出した。
すなわち、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
【0011】
(1)銅系ナノ粒子と、熱硬化前の熱硬化性樹脂とを含有する銅導体インクであって、
前記熱硬化性樹脂の含有体積が、銅系ナノ粒子を最密充填したときの空隙体積の1/4の体積より大きく、該空隙体積よりも小さい体積であることを特徴とする銅導体インク。
【0012】
(2)前記銅系ナノ粒子の体積に対して、前記熱硬化性樹脂を6〜41vol%含有することを特徴とする前記(1)に記載の銅導体インク。
【0013】
(3)25℃における動的粘度が5〜20mPa・sであることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の銅導体インク。
【0014】
(4)前記銅系ナノ粒子が、コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子及び/又は銅酸化物粒子からなることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の銅導体インク。
【0015】
(5)前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、イソシアナート樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、及びシロキサン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の銅導体インク。
【0016】
(6)分散媒として、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項が8MPa1/2以下であり、かつハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒を用いたことを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の銅導体インク。
【0017】
(7)前記銅系ナノ粒子に対する分散剤を用いずに調製されてなることを特徴とする前記(6)に記載の銅導体インク。
【0018】
(8)前記(1)〜(7)のいずれかに記載の銅導体インクを基板上に塗布し塗布層を形成し、乾燥する工程Aと、
乾燥した塗布層に導体化処理を施し導電層へと変化させる工程Bと、
前記工程Aと前記工程Bとの間に、又は前記工程Bの後に、前記熱硬化性樹脂を熱硬化する工程Cと、
を含むことを特徴とする導電性基板の製造方法。
【0019】
(9)前記(8)に記載の導電性基板の製造方法により製造されてなることを特徴とする導電性基板。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、導電性を低下させることなく、基板との密着性が高い銅配線パターンを形成可能な銅導体インクを提供することができる。
また、本発明によれば、導電層と基板との密着性が高く、該導電層の導電性が高い導電性基板を製造し得る導電性基板の製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、導電性が高く、基板との密着性が高い導電層を有する導電性基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例において使用した銅箔パターンを有する基板を示す上面図である。
【図2】実施例1、比較例2、及び比較例4において調製した銅導体インクのせん断粘度についてグラフで示す図である。
【図3】(A)は実施例1において、(B)は実施例2において、(C)は比較例2において、それぞれ調製した銅導体インクを用いて形成した塗布層に対し導体化処理を行い、5時間経過した後の表面を表す図面代用写真である。
【図4】(A)は実施例1において、(B)は実施例2において、(C)は比較例2において、それぞれテープ剥離試験を行った後の銅導体層表面を表す図面代用写真(各写真の左側がテープ側であり、右側が基板側である。)である。
【図5】実施例3、比較例3において調製した銅導体インクのせん断粘度についてグラフで示す図である。
【図6】実施例4〜10のテープ剥離前後の表面抵抗をグラフで示す図である。
【図7】実施例11〜17のテープ剥離前後の表面抵抗をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<銅導体インク>
本発明の銅導体インクは、銅系ナノ粒子と、熱硬化前の熱硬化性樹脂とを含有する銅導体インクであって、前記熱硬化性樹脂の含有体積が、銅系ナノ粒子を最密充填したときの空隙体積の1/4の体積より大きく、該空隙体積よりも小さい体積であることを特徴としている。
本発明の銅導体インクは、より具体的には、表面保護剤や分散剤を含まない銅酸化物表面を有する銅系ナノ粒子の分散液に、銅系ナノ粒子に対し41vol%以下の樹脂を添加したインクとし、印刷あるいは塗布した後乾燥し、粒子間の金属結合形成を含む導体化処理を行い、導体化処理後も導体層中に樹脂が残存する銅導体インクである。
以下に、本発明の銅導体インクに含まれる成分について説明する。
【0023】
[銅系ナノ粒子]
銅系ナノ粒子としては、コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子(以下、「銅/酸化銅コアシェル粒子」と称する。)、又は銅酸化物粒子をいい、それらのうちいずれかを単独、あるいは両者を併用してもよい。
【0024】
(銅/酸化銅コアシェル粒子)
銅/酸化銅コアシェル粒子は、例えば、還元作用を示さない有機溶剤中に分散させた原料金属化合物にレーザー光を攪拌下で照射して製造されたものを用いることができる。また、不活性ガス中のプラズマ炎に銅原料を導入し、冷却用不活性ガスで急冷して製造された銅/酸化銅コアシェル粒子を用いることもできる。レーザー光を用いた銅/酸化銅コアシェル粒子の特性は、得られる粒子の特性は、原料銅化合物の種類、原料銅化合物の粒子径、原料銅化合物の量、有機溶剤の種類、レーザー光の波長、レーザー光の出力、レーザー光の照射時間、温度、銅化合物の攪拌状態、有機溶剤中に導入する気体バブリングガスの種類、バブリングガスの量、添加物などの諸条件を適宜選択することによって制御される。
以下に詳細について説明する。
【0025】
A.原料
原料は銅化合物であって、具体的には、酸化銅・亜酸化銅・硫化銅・オクチル酸銅・塩化銅などを用いることができる。
なお、原料の大きさは重要であり、同じエネルギー密度のレーザー光を照射する場合でも、原料の金属化合物粉体の粒径が小さいほど粒径の小さなコア/シェル粒子が効率よく得られる。また、形状は真球状、破砕状、板状、鱗片状、棒状など種々の形状の原料を用いることができる。
【0026】
B.レーザー光
レーザー光の波長は銅化合物の吸収係数がなるべく大きくなるような波長とすることが好ましいが、ナノサイズの銅微粒子の結晶成長を抑制するためには、熱線としての効果が低い短波長のレーザー光を使用することが好ましい。
例えば、レーザー光は、Nd:YAGレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー、色素レーザーなどを用いることができる。また、高エネルギーのレーザーを同じ条件で多くの銅化合物に照射するためにはパルス照射が好ましい。
【0027】
C.有機溶剤(粒子生成時の分散媒)
粒子生成の際の銅化合物の分散媒に用いる有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤を使用することがナノサイズの粒子を得る際には好ましいが、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどの極性溶剤やトルエン、テトラデカンなどの炭化水素系溶剤を用いることもできる。また、1種を単独で又は2種以上を組合わせて使用してもよい。なお、還元性を示す有機溶剤を用いると、銅粒子のシェルを形成する酸化皮膜を還元し、金属が露出することにより、凝集体を形成するために、粒子の分散安定性を損なうことになる。従って、還元作用を示さない有機溶剤を用いることが好ましい。
なお、以上の銅/酸化銅コアシェル粒子の作製手法は一例であり、本発明はそれに限定されることはない。また、例えば、市販のものがあればそれを用いてもよい。
【0028】
本発明において使用される銅/酸化銅コアシェル粒子は、一次粒子の数平均粒子径が1〜1,000nmであることが好ましく、1〜500nmであることがより好ましく、10〜100nmであることがさらに好ましい。
【0029】
(銅酸化物粒子)
銅酸化物粒子としては、酸化第一銅、酸化第二銅あるいはその混合物からなる球状あるいは塊状の粒子 であり、例えば、シーアイ化成製の気相蒸発法により作成された酸化銅ナノ粒子や日清エンジニアリング製のプラズマ炎法により合成された酸化銅ナノ粒子のような市販品として入手可能なものを用いてもよい。
【0030】
本発明において、銅酸化物が粒子として使用される場合、分散液中での分散安定性という観点から、一次平均粒子径が1〜10,000nmであることが好ましく、2〜1,000nmであることがより好ましく、3〜300nmであることが好ましい。
【0031】
[添加樹脂]
添加する樹脂は、基板との接着性を有し、銅系ナノ粒子の分散媒に可溶であり、樹脂を添加した銅系粒子分散液が、添加していない銅系粒子分散液と比較して凝集や粘度の増加の少ない樹脂が好ましい。
具体的にはインクジェットインクとしての制約から、樹脂を添加した銅系粒子分散液は10μm以上の凝集や粗大粒子を含まず、25℃における動的粘度が5〜20mPa・s、銅系ナノ粒子の濃度が10mass%以上であることが望ましい。
【0032】
(樹脂)
樹脂成分は導体化した銅系ナノ粒子層(導電層)の補強、基板との密着性向上の観点から、三次元架橋樹脂を使用する。
具体的には、エポキシ樹脂、イソシアナート樹脂、ポリウレア樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、シロキサン樹脂、アルコキシシラン縮合物、有機アルミ縮合物、ポリエーテル樹脂などが挙げられ、中でも熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、イソシアナート樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、又はシロキサン樹脂がより好ましい。樹脂成分として、これらの複数の樹脂の併用も可能である。
いずれの樹脂成分を用いた場合でも、粒子間のフロック形成による粘度およびチキソ性上昇や凝集の原因となるため、樹脂置換基として水素結合性を有する置換基やイオン性の置換基を含まないことが望ましい。具体的には1級、2級アミンおよびアミンの塩、スルホン酸基およびスルホン酸塩、リン酸基およびリン酸塩、カルボン酸およびカルボン酸塩を含まないことが望ましい。
【0033】
また同様の理由から樹脂成分の触媒や添加剤、不純物としてアミン、メタノール、エタノール、水、イオン性物質を樹脂の樹脂の添加量に依存するが10mass%以上含まないことが好ましい。
【0034】
理論計算から求めた、単一粒径の粒子の最密充填(六法最密充填)において空間率は26.0vol%、最密充填の隙間にちょうど入る二次球を考えた場合20.7vol%の空間が粒子間に生じる(柳田 博明、鈴木 道隆:“第6節 集合体の性質”,微粒子工学体系 第一巻 基本技術,フジ・テクノシステム,p 168)。すなわち、樹脂の添加量が20vol%以下であれば導体化処理時に樹脂は粒子間の空間に押し出され、粒子間の焼結が可能である。実際には、焼結に伴う粒子間距離の縮小があり許容される樹脂添加量は少なくなることが想定され、これを実験で求める必要がある。発明者らの検討の結果、樹脂添加量が29vol%以下であれば、導体化後の体積抵抗率に影響がないことを見出した。また、検討の結果、樹脂添加量が6vol%より少ない場合には密着性向上の効果は見られなくなった。このことから樹脂添加量は6vol%以上、29vol%以下である必要がある。
【0035】
[分散媒]
本発明の銅導体インクに使用する分散媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイト、アセトニトリル、スルホランなどが挙げられる。中でも特にγ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイト、スルホランが好ましい。
その他、分散媒は、凝集、沈澱の原因となるためイオン性成分、多量の水分を含まないことが好ましい。
【0036】
一方、特にインクジェット用インクに提供されるような低粘度で凝集の少ない分散液を得る目的においては、分散媒としては、ハンセン溶解度パラメータで規定される分散媒が好ましい。ハンセン溶解度パラメータについては特願2008−62969号に記載されている。具体的には、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項が8MPa1/2以下であり、かつハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒が好ましい。
【0037】
以上の条件を満足する分散媒を用いることで、前記粒子の分散性が向上するのは、酸化銅表面と分散媒の接触により自由エネルギーが低下し分散状態のほうが安定化するためと考えられる。
ここで、ハンセン溶解度パラメータとは、溶剤の溶解パラメータを定義する方法の1種であり、詳細は、例えば「INDUSTRIAL SOLVENTSHANDBOOK」(pp.35-68、Marcel Dekker, Inc.、1996年発行)や、「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS:A USER’S HANDBOOK」(pp.1-41,CRC Press,1999)「DIRECTORYOF SOLVENTS」(pp.22-29、Blackie Academic & Professional、1996年発行)などに記載されている。ハンセン溶解度パラメータは溶媒と溶質の親和性を推測するために導入された物質固有のパラメータであり、ある溶媒と溶質が接したときに系の自由エネルギーがどの程度下がるか、あるいは上がるかをこのパラメータから推測できる。すなわち、ある物質を溶かすことのできる溶媒はある領域のパラメータを有することになる。本発明者等は、同様のことが粒子表面と分散媒との間にも成立すると考えた。すなわち、酸化銅表面を持つ粒子と分散媒とが接したときエネルギー的に安定化するには、分散媒がある領域の溶解度パラメータを有すると類推した。
【0038】
前記分散媒は、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項は8MPa1/2以下であることが好ましく、水素結合性が低いことを示しているが、9MPa1/2以下であることが好ましく、8MPa1/2以下であることがより好ましい。8MPa1/2を超えると、分散系は凝集し、増粘や粒子の沈降、粒子と分散媒の分離を生じることとなってしまう。また、下限は通常は0MPa1/2である。
【0039】
また、前記分散媒は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項は11MPa1/2以上であることが好ましく、高極性であることを示しているが、11MPa1/2以上であることが好ましく、12MPa1/2以上であることがより好ましい。11MPa1/2未満では、分散系は凝集し、増粘や粒子の沈降、粒子と分散媒の分離を生じることとなってしまう。また、上限は通常は20MPa1/2であり、上限以上の物質がより良いかもしれないが、20MPa1/2を超え、なおかつ水素結合項が7MPa1/2以下の物質は知られていない。
【0040】
以上の条件を満足する分散媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイト、アセトニトリルなどが挙げられる。中でも特にγ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレングリコールスルファイトが好ましい。
【0041】
本発明において、置換分散媒は1種を単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。混合する場合は、混合後におけるハンセン溶解度パラメータが上記範囲内となればよい。そして、2種以上を混合する場合は、いずれも本発明において規定する範囲内の分散媒を混合してもよいし、あるいは本発明において規定する範囲内の分散媒と、範囲外の分散媒とを混合してもよい。
【0042】
<導電性基板の製造方法>
本発明の導電性基板の製造方法は、既述の本発明の銅導体インクを基板上に塗布し塗布層を形成し、乾燥する工程Aと、乾燥した塗布層に導体化処理を施し導電層へと変化させる工程Bと、前記工程Aと前記工程Bとの間に、又は前記工程Bの後に、前記熱硬化性樹脂を熱硬化する工程Cと、を含むことを特徴している。
以下に、本発明の製造方法について詳述する。
【0043】
(基板)
本発明の製造方法において、銅導体インクは基板上に塗布されるが、該基板の材料としては、具体的には、ポリイミド、ポリエチレンナフレタート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、繊維強化樹脂、無機粒子充填樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレン、架橋ポリビニル樹脂、ガラス、セラミックス等からなるフィルム、シート、板が挙げられる。
【0044】
[工程A]−塗布層の形成〜乾燥−
塗布層の形成は、既述の本発明の銅導体インクを塗布液として基板表面に塗布し、得られた塗布層を乾燥することにより行うことができる。塗布液の塗布は、バーコーター、カンマコータ、ダイコータ、スリットコータ、グラビアコータ、インクジェットコータなどを用いて行うことができる。塗布層厚は、0.01〜100μmとすることが好ましく、0.1〜50μmとすることがより好ましく、0.1〜10μmとすることがさらに好ましい。塗布層の乾燥は、用いた分散媒や塗布層厚に依存するが、例えば、塗布層が形成された基板をホットプレート上にて、80〜150℃で、5〜30分間載置することにより行うことができる。その他、周知の乾燥手段を採用することができる。この際、銅系ナノ粒子が、銅/酸化銅コアシェル粒子及び酸化銅粒子の場合、いずれも表面が酸化銅であるため金属銅粒子のように酸素を除いた雰囲気で乾燥する必要はない。
【0045】
[工程B]−導体化処理−
次いで、乾燥した塗布層に対して導体化処理を行うが、例えば、以下に示す処理液、あるいは還元性液体を用いて導体化処理することができる。
【0046】
〈処理液〉
以上のように構成された塗布層を処理し導体化するための処理液は、銅酸化物成分を銅イオンや銅錯体として溶出させる薬剤と、溶出された銅イオン又は銅錯体を還元し金属上に析出させる還元剤と、これらを溶かす溶媒とを必須とし、銅イオンを含まない溶液である。以下に、各成分について詳述する。
【0047】
(薬剤)
薬剤としては、銅酸化物をイオン化又は錯体化して溶かすものであればよく、塩基性含窒素化合物、塩基性含窒素化合物の塩、無機酸、無機酸塩、有機酸、有機酸塩、ルイス酸、ジオキシム、ジチゾン、ヒドロキシキノリン、EDTA、及びβ−ジケトンからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
以上の薬剤の中でも、還元剤の多くが塩基側で活性となることから、塩基性含窒素化合物が好ましく、特にアミン、アンモニアが好ましく、銅酸化物を溶かす能力が高いことから、1級アミン、アンモニアがより好ましい。
また、塩基性含窒素化合物の他の例として、第3級アミンとしては、エチレンジアミン4酢酸塩、トリエタノールアミン、トリイソパノールアミンが好ましい。
有機酸、有機酸塩としては、カルボン酸、カルボン酸塩が挙げられ、中でも、多価カルボン酸、多価カルボン酸塩、芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸塩が好ましく、具体的には、酒石酸、フタル酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、サリチル酸、リンゴ酸、クエン酸及びこれらの塩などが好ましい。
ジオキシムとしては、ジメチルグリオキシムやベンジルジグリオキシム、1,2−シクロヘキサンジオンジグリオキシムなどがあり、β−ジケトンとしてはアセチルアセトン、アミノ酢酸としてはグリシンなどのアミノ酸が挙げられる。
銅酸化物をイオン化又は錯体化する薬剤の濃度としては、0.001〜30mol/Lが好ましく、0.01〜15mol/Lがより好ましく、0.1〜8mol/Lがさらに好ましい。0.001mol/L未満の場合、銅酸化物を十分な速度で溶かすことができないことがある。
【0048】
(還元剤)
還元剤は、水素化ホウ素化合物、水素化アルミニウム化合物、アルキルアミンボラン、ヒドラジン化合物、アルデヒド化合物、亜リン酸化合物、次亜リン酸化合物、アスコルビン酸、アジピン酸、蟻酸、アルコール、スズ(II)化合物、金属スズ、及びヒドロキシアミン類からなる群より選択される少なくとも1種が好適に使用でき、特に、ジメチルアミンボラン(DMAB)、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸等が好ましく、その他クエン酸等も好適に使用できる。
処理液に用いる還元剤の濃度としては、0.001〜30mol/Lが好ましく、0.01〜15mol/Lがより好ましく、0.01〜10mol/Lがさらに好ましい。還元剤濃度が0.001mol/L未満の場合、十分な速度で金属銅が生成しないことがある。
また、銅酸化物をイオン化又は錯体化する薬剤の濃度と還元剤の濃度のモル比が5,000以上では溶液中に遊離する銅イオン濃度が高くなり粒子堆積部以外への銅の析出が生じるため好ましくない。
溶媒としては、上記の溶解剤、還元剤及び銅イオン又は銅錯体を溶かす必要から高極性の溶媒が好ましく、具体的には水、グリセリン、ホルムアミドを用いることができる。
処理は室温で進行するが、反応の加速、減速、生成する銅膜(導電層)の状態を変える必要に応じて加熱又は冷却してもよい。また銅膜の均質性や反応速度、反応時の発泡を制御するため添加物の添加、攪拌や基板の動揺、超音波の付加を行ってもよい。
【0049】
〈処理液による処理〉
既述のようにして形成した乾燥後の塗布層に対し、処理液を用いて処理するが、具体的には、処理液が満たされた容器中に、塗布層が形成された基板を浸漬することや、あるいは塗布層に対して処理液を連続的に噴霧する、など挙げられる。いずれの場合であっても、塗布層中の銅酸化物は処理液中の薬剤によりイオン化又は錯体化され、次いで還元剤により金属銅に還元され、粒子間を金属銅で埋めることができ、緻密な導電層が形成される。
処理液による処理時間は処理液の濃度や温度によって異なるから適宜設定するが、例えば、処理時間は0.5〜6時間とし、温度は室温から90℃とすることができる。
導電層が形成された基板は、超純水等にさらした後、風乾、ホットプレート、温風乾燥、オーブン等により乾燥する。この際、乾燥しやすくするために、アセトン、メタノール、エタノール等をかけて、水を溶媒に置換した後乾燥してもよい。
以上のようにして導電層を製造することができる。
【0050】
〈還元性液体による導体化処理〉
本発明においては、銅導体性インク塗布後の基板を、加熱した還元性液体に浸漬することによっても導体化処理を行うことができる。
還元性液体としては、酸化銅を還元し得る液体で、かつ銅の焼結温度よりも沸点が高い液体であればよく、例えば、一級あるいは二級水酸基を有する有機化合物、フェノール基を有する化合物、水素化珪素基を有する液状の有機化合物、1級あるいは2級アミノ基を有する有機化合物、亜リン酸化合物、ヒドラジン化合物があげられる。また、これらの化合物あるいは固体の還元性物質を混ぜた高沸点溶媒でもよい。水酸基を有する有機溶媒としては、グリセリン、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタノール、ブタンジオールなどが好ましい。また、還元性物質としては、アスコルビン酸、クエン酸、亜リン酸塩、スズ(II)化合物、水素化ホウ素化合物、水素化珪素化合物、水素化アルミニウム化合物、有機アルミニウムがあげられる。
【0051】
上記のような還元性液体への浸漬により、塗布乾燥膜中の銅/酸化銅コアシェル粒子又は酸化銅粒子の酸化銅が還元されて銅粒子となる。上述のように、この状態での還元性液体は非加熱であるが、還元反応の進行を促進させる目的で適宜加熱してもよい。この場合の還元性液体の温度は、室温〜200℃とすることが好ましく、その温度の保持時間は、処理する粒子層の厚さや基板の熱容量、還元剤、温度により異なるが、10秒〜60分とすることが好ましい。
【0052】
[工程C]−熱硬化−
本発明の銅導体インクは、既述のように熱硬化性樹脂を含むが、本工程においては、導体化処理して得られた導電層(工程Bの後)を加熱して当該熱硬化性樹脂を硬化する。このとき、銅系ナノ粒子同士間の空隙に熱硬化性樹脂が入り込むように、熱硬化性樹脂の体積が設定されているため、銅系ナノ粒子同士の接触が妨げられることが少なく、低体積抵抗率化を実現することができる。その一方で、熱硬化性樹脂の本来の接着機能により、基板と導電層との接着性を向上させるとともに、導電層自体の機械強度を向上させることができる。
なお、当該工程Cは、塗布乾燥後の塗布層に行ってもよく(工程Aと工程Bとの間)、その場合であっても、最終的に基板と導電層との接着性、導電層の機械強度を向上させることができるが、上述のように、工程Bの後に行うことが、より低体積抵抗率となる点で好ましい。
【0053】
工程Cにおける加熱温度は、100〜250℃とすることが好ましく、150〜200℃とすることがより好ましい。また、加熱時間は、加熱温度により変動するため一概には言えないが、例えば、175℃の温度で加熱する場合、5〜60分とすることが好ましく、10〜30分とすることがより好ましい。
本工程において、加熱する手段として、ホットプレート、温風乾燥機、温風加熱炉、窒素乾燥機、赤外線乾燥機、赤外線加熱炉、遠赤外線加熱炉、マイクロ波加熱装置、レーザー加熱装置、電磁加熱装置、ヒーター加熱装置、蒸気加熱炉、熱板プレス装置などを使用することができる。
【0054】
以上の本発明の導電性基板の製造方法により、導電層と基板との密着性が高く、該導電層の導電性が高い導電性基板を製造することができる。
すなわち、本発明の導電性基板は、前記導電性基板の製造方法により得られるものであるから、導電層と基板との密着性が高く、該導電層の導電性が高い導電性基板である。
【0055】
<銅配線基板の製造方法>
本発明の銅導体インクは、基板上に配線パターンを描画するためのインクとして用いることにより、配線と基板との密着性が高く、かつ高い導電性を有する銅配線基板を得ることができる。特に、動的粘度を既述のように5〜20mPa・sに設定した場合にはインクジェット適性に優れることから該銅導体インクを用いたインクジェット記録により、銅配線基板を製造することができる。
以下に、銅配線基板の製造方法について説明するが、当該銅配線基板の製造方法は、既述の本発明の導電性基板の製造方法とは導電層と配線パターンとにおいて異なり、それ以外の構成は同様であるため、配線パターンの描画についてのみ説明する。
【0056】
〈配線パターンの描画〉
本発明の銅導体インクを基板上に任意の配線パターンを描画する手法としては、従来からインクを塗布するのに用いられている印刷あるいは塗工を利用することができる。配線パターンを描画するには、前記分散液を用い、スクリーン印刷、ジェットプリンティング法、インクジェット印刷、転写印刷、オフセット印刷、ディスペンサを用いることができる。
【0057】
以上のようにして配線パターンの描画後は、既述の本発明の導電性基板の製造方法と同様にして、銅導体インクによる配線パターンを導体化処理することにより、配線パターン中の酸化銅が金属銅に変化し導体化して、銅配線基板が製造される。
なお、配線パターン描画後の工程は、既述の本発明の導電性基板の製造方法と実質的に同様であり、既述の本発明の導電性基板の製造方法の説明における「塗布膜」は、本発明の銅配線基板の製造方法では「配線パターン」に相当する。
【0058】
銅配線基板の製造方法において使用される基板として、具体的には、ポリイミド、ポリエチレンナフレタート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、繊維強化樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド等からなるフィルム、シート、板が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
(樹脂添加銅系ナノ粒子分散液の調製)
酸化銅ナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成製)10gと、レーザーアブレーション法銅ナノ粒子(試作品、福田金属箔粉工業製)28mass%のγ−ブチロラクトン分散液35.7gと、γ−ブチロラクトン53gと、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(N865 大日本インキ化学工業製)0.6gと、ビスフェノールFとジメトキシジフェニルシランの縮合物0.43gと、2−エチル−4−メチルイミダゾール(和光純薬工業製)の1mass%のγ−ブチロラクトン溶液0.105gとを秤量し、ホモミキサーで8,000rpmで、1時間分散した。この調合のうち、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールFとジメトキシジフェニルシランの縮合物、2−エチル−4−メチルイミダゾールが樹脂成分であり、銅系粒子に対し29vol%(5mass%)添加させるように調整した。以上のようにして実施例1の銅導体インクを調製した。
得られた銅導体インクの粘度をコーンプレート(直径50mm、角度1°)を用いたレオメータ(Physica MCR301、Anton Paar製)にて計測した結果を図2に示す。図2は、実施例1と比較例2及び4において調製した銅導体インクのせん断粘度(動的粘度)を示すグラフであるが、実施例1の銅導体インクは、樹脂成分を添加しなかった点においてのみ実施例1と異なる比較例2と比較して粘度に差異はほとんど見られなかった。
【0061】
(塗布、乾燥)
図1に示す銅パターンを有するエポキシ基板(商品名:MCL−679F、日立化成工業(株)製)上に、調製した銅導体インクをギャップ100μmのアプリケータにより塗布し、100℃のホットプレート上で20分乾燥、塗布と乾燥を2度繰り返して銅導体インクの塗布層を有する基板を得た。
【0062】
(導体化処理)
導体化処理のための処理液Aを表1に従って秤量した。シャーレの底部に銅導体インクの塗布層を有する基板を置き、端にガラスの小片を載せて基板が浮かないようにして、処理液Aを注いで導体化処理を行い、銅導体インクの塗布層を導電層へと変化させた。室温(20℃)で処理を行った結果、当初黒色であった樹脂添加銅系ナノ粒子塗布層を有する基板は発泡を伴って徐々に銅色へと変化し、5時間後には鮮やかな銅光沢を示した(図3(A))。なお、図はいずれも白黒ではあるが、実際には上記のような色になっている。
【0063】
【表1】

【0064】
(樹脂成分の硬化処理)
導体化処理した銅導体インクの塗布層(導電層)を有する基板をホットプレート上で175℃にて30分加熱して導電層中のエポキシ樹脂を硬化した。以上のようにして、導電性基板を得た。
【0065】
(テープ剥離試験)
テープ剥離試験はセロテープ(登録商標)(ニチバン、商品名)を、上記のようにして得た導電性基板の導電層側に貼り付け、指で十分密着させた後、剥離した。その結果、図4(A)に示すように、セロテープ(登録商標)の粘着面に少量の粉末状の物質が付着したものの基板側からは導電層は剥離せず、テープ剥離前に0.1Ωであった抵抗はテープ剥離後もほぼ同程度の0.2Ωであった。これらの結果をまとめて表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
[実施例2]
樹脂成分の硬化処理を導体化処理前に行ったこと以外は実施例1と同様に処理し、同様に評価を行った。テープ剥離試験の結果、図4(B)に示すように、セロテープ(登録商標)の粘着面に少量の粉末状の物質が付着したものの基板側からは導電層は剥離せず、テープ剥離前に0.3Ωであった抵抗はテープ剥離後18.4Ωであった(表2)。なお、図3(B)は、実施例2の(樹脂成分の硬化処理)と(導体化処理)を行った後における銅導体層表面を示す。
【0068】
[実施例3]
酸化銅ナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成製)45gと、γ−ブチロラクトン102gと、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(N865 大日本インキ化学工業製)1.5gと、ビスフェノールAノボラック(VH−4170大日本インキ化学工業製)0.84gと、2−エチル−4−メチルイミダゾール(和光純薬工業製)の1mass%γ−ブチロラクトン溶液0.237gとを秤量し、ホモミキサーで8,000rpm、1時間分散した。この調合のうち、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック、2−エチル−4−メチルイミダゾールが樹脂成分であり、銅系粒子に対し29vol%(5mass%)に調整した。以上のようにして実施例3の銅導体インクを調製した。
得られた銅導体インクの粘度をコーンプレートを用いたレオメータにて計測した結果を図5に示す。図5は、実施例3及び比較例3において調製した銅導体インクのせん断粘度(動的粘度)を示すが、実施例3の銅導体インクは、樹脂成分を添加しなかったこと以外はほぼ実施例3と同じ比較例3と比較して粘度に差異はほとんど見られなかった。
その後、実施例1と同様に(塗布、乾燥)、(導体化処理)、(樹脂成分の硬化処理)、(テープ剥離試験)を行った。
【0069】
[実施例4〜10]
樹脂添加量を、実施例4は6vol%(1mass%)、実施例5は11vol%(2mass%)、実施例6は29vol%(5mass%)、実施例7は41vol%(10mass%)、実施例8は55vol%(16.4mass%)、実施例9は68vol%(25mass%)、実施例10は82vol%(41.2mass%)とした以外は、実施例1と同様に(樹脂添加銅系ナノ粒子分散液の調製)、(塗布、乾燥)、(導体化処理)、(樹脂成分の硬化処理)、(テープ剥離試験)を行った。これらの結果をまとめて表3に示す。表3において、テープ剥離試験の評価は、以下の評価基準に従って行った。また、テープ剥離前後の表面抵抗を図6に示す。
〜評価基準〜
○:テープ剥離後におけるテープ側に付着物なし
△:テープ剥離後におけるテープの一部に付着物あり
×:テープ剥離後におけるテープ前面に付着物あり
【0070】
【表3】

【0071】
[実施例11〜17]
樹脂添加量を、実施例11は6vol%(1mass%)、実施例12は11vol%(2mass%)、実施例13は29vol%(5mass%)、実施例14は41vol%(10mass%)、実施例15は55vol%(16.4mass%)、実施例16は68vol%(25mass%)、実施例17は82vol%(41.2mass%)とし、(導体化処理)の前に(樹脂成分の硬化処理)をおこなった以外は、実施例1と同様に(樹脂添加銅系ナノ粒子分散液の調製)、(塗布、乾燥)、(樹脂成分の硬化処理)、(導体化処理)、(テープ剥離試験)を行った。これらの結果をまとめて表4に示す。また、テープ剥離前後の表面抵抗を図7に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
[実施例18]
(樹脂添加銅系ナノ粒子分散液の調製)
酸化銅ナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成製)10gと、銅ナノ粒子(試作品、日清エンジニアリング製)1.1gと、γ−ブチロラクトン29.2gと、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂(N865 大日本インキ化学工業製)0.47gと、ビスフェノールAノボラック(VH-4170 大日本インキ化学工業製)0.26gと、2−エチル−4−メチルイミダゾール(和光純薬工業製)の1mass%のγ−ブチロラクトン溶液0.072gとを秤量し、ホモミキサーで8,000rpmで、1時間分散した。この調合のうち、ビスフェノールAノボラックエポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック、2−エチル−4−メチルイミダゾールが樹脂成分であり、銅系粒子に対し29vol%(6mass%)添加させるように調整した。以上のようにして実施例18の銅導体インクを調製した。
【0074】
(塗布、乾燥)
銅箔を全面エッチングしたエポキシ基板(商品名:MCL−679F、日立化成工業(株)製)上に、調製した銅導体インクをギャップ100μmのアプリケータにより塗布し、100℃のホットプレート上で20分乾燥して銅導体インクの塗布層を有する基板を得た。
【0075】
(導体化処理)
実施例18の樹脂添加銅系ナノ粒子塗布層を有する基板を150℃に加熱したグリセリン浴に浸漬し導体化処理を行った。20分間処理を行った結果、当初黒色であった樹脂添加銅系ナノ粒子塗布層を有する基板は茶色の変色した。体積抵抗率は四端針表面抵抗測定装置(ロレスタ,三菱化学製)を用いて測定した表面抵抗に、カッターナイフでつけた傷を表面形状測定装置(MM3000,菱化システム製)で測定して求めた膜厚を乗算してもとめた。体積抵抗率は6.5 × 10−6Ω・mであった。
【0076】
(樹脂成分の硬化処理)
導体化処理した樹脂添加銅系ナノ粒子塗布層を有する基板を窒素気流下のホットプレート上175℃30分加熱して添加したエポキシ樹脂を硬化した。以上のようにして、導電性基板を得た。
【0077】
(テープ剥離試験)
テープ剥離試験はセロテープ(登録商標)(ニチバン、商品名)を、上記のようにして得た導電性基板の導電層側に貼り付け、指で十分密着させた後、剥離した。その結果、セロテープ(登録商標)の粘着面に少量の粉末状の物質が付着したものの基板側からは導電層は剥離せず、体積抵抗率は7.8 × 10−5Ω・mであった。
【0078】
[比較例1]
樹脂成分の硬化処理を行っていないこと以外は実施例1と同様に銅導体インクの調製、及び導電性基板の作製を行い、さらに実施例1と同様に評価を行った。テープ剥離試験の結果、図4(C)に示すように、セロテープ(登録商標)の粘着面に多量の導電層が付着し、基板表面が露出しているのが認められた。また、テープ剥離前に0.1Ωであった抵抗はテープ剥離後導通がなくなった(表2)。
【0079】
[比較例2]
樹脂成分を添加していないこと以外は実施例1と同様に処理した。テープ剥離試験の結果、セロテープ(登録商標)の粘着面に多量の銅層が付着した〔図4(C)〕。その結果、テープ剥離前に0.1 Ωであった抵抗はテープ剥離後導通がなくなった(表2)。
【0080】
[比較例3]
酸化銅ナノ粒子(平均粒径70nm、シーアイ化成製) 45gとγ−ブチロラクトン105gを秤量し、ホモミキサーで8,000rpm、1時間分散した。粘度をレオメータにて計測した。
【0081】
[比較例4]
実施例1の樹脂添加銅系ナノ粒子分散液の調整において、樹脂成分のうちビスフェノールFとジメトキシジフェニルシランの縮合物の代りにジシアンジアミド(和光純薬工業)を用いた以外は実施例1と同様に樹脂添加銅系ナノ粒子分散液を調製した。その結果、分散液は粘稠なペースト状となり、動的粘度は図2に示したように樹脂未添加の比較例2や樹脂を添加した実施例1の分散液と比較して高粘度となり、さらに強いチキソ性を示しインクジェットインクとして不適であった。
アミン類であるトリエチルアミン、エチレンジアミン、ジブチルアミン、トリエチレンテトラミンをCuOナノ粒子に添加する実験から、これらはCuOナノ粒子を凝集させる挙動が見られ、硬化剤にアミン化合物を用いるのはインクジェットインク用には不適であった。
【符号の説明】
【0082】
10 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅系ナノ粒子と、熱硬化前の熱硬化性樹脂とを含有する銅導体インクであって、
前記熱硬化性樹脂の含有体積が、銅系ナノ粒子を最密充填したときの空隙体積の1/4の体積より大きく、該空隙体積よりも小さい体積であることを特徴とする銅導体インク。
【請求項2】
前記銅系ナノ粒子の体積に対して、前記熱硬化性樹脂を6〜29vol%含有することを特徴とする請求項1に記載の銅導体インク。
【請求項3】
25℃における動的粘度が5〜20mPa・sであることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅導体インク。
【請求項4】
前記銅系ナノ粒子が、コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子及び/又は銅酸化物粒子からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の銅導体インク。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、イソシアナート樹脂、フェノール樹脂、レゾール樹脂、及びシロキサン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の銅導体インク。
【請求項6】
分散媒として、ハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項が8MPa1/2以下であり、かつハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒を用いたことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の銅導体インク。
【請求項7】
前記銅系ナノ粒子に対する分散剤を用いずに調製されてなることを特徴とする請求項6に記載の銅導体インク。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の銅導体インクを基板上に塗布し塗布層を形成し、乾燥する工程Aと、
乾燥した塗布層に導体化処理を施し導電層へと変化させる工程Bと、
前記工程Aと前記工程Bとの間に、又は前記工程Bの後に、前記熱硬化性樹脂を熱硬化する工程Cと、
を含むことを特徴とする導電性基板の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性基板の製造方法により製造されてなることを特徴とする導電性基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−142052(P2011−142052A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3192(P2010−3192)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】