説明

隔壁構造

【課題】隔壁の衝撃吸収性能を向上させて、隔壁の破片が乗員側に飛散するのを抑制可能な隔壁構造を提供すること。
【解決手段】車両Vの室内Rを仕切る隔壁1に加わる衝突エネルギーを吸収するための隔壁構造が、カバー6と、カバー6の内部に車幅方向に間隔を空けて配置された複数の補強部材(ワイヤ)3と、各補強部材3に対して交差するように補強部材3の後方に配置されたベルト4と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突エネルギーを吸収するための隔壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車などの車両において、室内を仕切るために隔壁が設けられている(特許文献1参照)。前記特許文献1には、隔壁にビードを一体的に形成することで、隔壁自体の強度を高め、外力に抗して変形を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−139348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、隔壁の後方に積載した荷物が、例えば、前面衝突時や急制動時などに慣性力により前方に移動し、隔壁に衝突する場合がある。しかし、前記隔壁自体の強度を高める構造では、このように荷物が隔壁に衝突した場合において、限界強度を超えると一気に破壊され、その破片が乗員側(隔壁の前方)に飛散する虞があった。
【0005】
そこで、本発明では、隔壁の衝撃吸収性能を向上させて、隔壁の破片が乗員側に飛散するのを抑制可能な隔壁構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため本発明は、車両の室内を仕切る隔壁に加わる衝突エネルギーを吸収するための隔壁構造であって、カバーと、前記カバーの内部に車幅方向に間隔を空けて配置された複数の補強部材と、前記各補強部材に対して交差するように前記補強部材の後方に配置されたベルトと、を備えたことを特徴とする。
【0007】
なお、補強部材はワイヤであり、ベルトはシートベルト装置のウェビングであることが望ましい。
【0008】
本発明によれば、複数の補強部材がカバーの内部に車幅方向に間隔を空けて配置されるとともに、ベルトが各補強部材に対して交差するように当該補強部材の後方に配置されることによって、前面衝突時や急制動時などに慣性力により隔壁の後方に積載された荷物が前方に移動して、隔壁に衝突した場合に、衝突時の荷重がベルトに伝達され、当該ベルトを介して、各補強部材に伝達されることになる。したがって、ベルトと複数の補強部材とに荷重を分散させることが可能になるため、隔壁の衝撃吸収性能が向上して、隔壁が破壊され難くなり、又は仮に破壊されても衝突エネルギーを吸収しつつ破壊が進行することになり、その破片が乗員側(隔壁の前方)に飛散するのを抑制できる。
【0009】
また、車幅方向に延在し、上下方向に間隔を空けて補強部材の前方に配置され、補強部材の両端部が係合される一対のパイプフレームをさらに備えることが望ましい。このようにすると、衝突時の荷重が、ベルト及び各補強部材を介して、一対のパイプフレームに伝達されることになる。したがって、荷重を一層分散させることが可能になるため、隔壁の衝撃吸収性能が一層向上する。
【0010】
また、上下方向に延在し車幅方向に間隔を空けて配置された一対の側部パイプフレームと、車幅方向に延在し両端部が一対の側部パイプフレームに係合され補強部材に対して交差するように補強部材の前方に配置された補助ワイヤと、をさらに備えることが望ましい。このようにすると、衝突時の荷重が、ベルト及び各補強部材を介して、補助ワイヤ及び一対の側部パイプフレームに伝達されることになる。したがって、荷重をより一層分散させることが可能になるため、隔壁の衝撃吸収性能がより一層向上する。
【0011】
さらに、カバーは、乗員側に位置するフロントカバーと、フロントカバーを挟んで乗員側と反対側に位置するリアカバーと、を有し、フロントカバーは、リアカバーよりも高強度の材料で形成されていることが望ましい。このようにすると、リアカバーが破損しやすくなるため、ベルトなどの部材に荷重を円滑に伝達できる一方で、フロントカバーが破壊され難くなるため、フロントカバーの破片が乗員側に飛散するのをより一層抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、隔壁の衝撃吸収性能が向上し、隔壁の破片が乗員側に飛散するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る隔壁構造を備えた車両を側方から見た状態を示す概略図である。
【図2】実施形態に係る隔壁の構成を示す斜視図である。
【図3】隔壁からリアカバー及び吸音材を取り外した状態を示す背面図である。
【図4】図2のX−X線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。本実施形態では、運転席と助手席のみでそれ以外に座席が存在しない、所謂2シーターの車両に本発明を適用した場合を例にして説明する。
以下の説明において、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。なお、本実施形態では、前後上下左右は、車両Vを基準とし、また、車幅方向と左右方向とは同義である。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る隔壁構造を備えた車両を側方から見た状態を示す概略図、図2は、実施形態に係る隔壁の構成を示す斜視図、図3は、隔壁からリアカバー及び吸音材を取り外した状態を示す背面図、図4は、図2のX−X線断面図である。
図1に示すように、本実施形態の隔壁1は、荷物を載置可能な台座部Pに対して前後方向に傾倒自在に取り付けられており、室内Rを仕切る役割を果たす。本実施形態では、荷室CRと荷室LRとを仕切る隔壁1を例にして説明する。
なお、隔壁1は、その前面が台座部Pの上面に重なるように傾倒されることで(図1中の二点鎖線参照)、荷室CRと荷室LRとを連通して荷室スペースを拡大するとともに、荷物を載置する役割も果たす。また、図2に示すように、台座部Pの上部には、収納部P1が下方に窪んで形成されている。
【0016】
隔壁1は、図3に示すように、略四角枠状に組み合わされたフレーム2と、前記フレーム2の後方に配置されたワイヤ3と、前記ワイヤ3に対して交差し且つ後方に配置されたベルト4と、前記ワイヤ3に対して交差するように配置された補助ワイヤ5と、前記フレーム2、ワイヤ3、ベルト4及び補助ワイヤ5を外側から覆うカバー6(図2及び図4参照)と、を主に備えて構成されている。
【0017】
フレーム2は、図3に示すように、車幅方向に延在する上部パイプフレーム21と、この上部パイプフレーム21から下方に離間し且つ上部パイプフレーム21に対して略平行に延在する下部パイプフレーム22と、上部パイプフレーム21及び下部パイプフレーム22の両端部間に配置され且つ上部パイプフレーム21に対して略直交する方向に延在する一対の側部パイプフレーム23,23と、から構成されている。
【0018】
上部パイプフレーム21は、図4に示すように、中空筒状の金属製パイプ部材であり、図示しない支持部材を介して、後記するフロントカバー61に固定されている。
【0019】
下部パイプフレーム22は、図4に示すように、中空筒状の金属製パイプ部材であり、図示しない支持部材を介して、フロントカバー61に固定されている。
【0020】
一対の側部パイプフレーム23,23は、図3に示すように、左右対称形状を呈し、中空筒状の金属製パイプ部材であり、フロントカバー61に固定されている。側部パイプフレーム23は、その上部側が内方に湾曲して形成されている。
【0021】
このように側部パイプフレーム23の上部側が湾曲されることで、スペースSが形成され、このスペースSには、フロントカバー61に取着されたロック装置(図示省略)が配設される。ロック装置は、車両Vの内壁面に設けられたストライカー(図示省略)に係合又は非係合可能であり、図示しないワイヤ部材(連結部材)を介して、カバー6の上端中央部に設けられた持ち手8に連結されている。すなわち、本実施形態では、隔壁1が荷室CRと荷室LRとを仕切っている状態で、ロック装置がストライカーに係合されることにより、隔壁1が台座部Pに対して傾倒しないように固定され、この状態から持ち手8を引くことで、ロック装置とストライカーとの係合状態が解除され、隔壁1を前方に傾倒できるように構成されている。なお、カバー6の側面上部には、図2に示すように、ロック装置が臨む孔部9が形成されている。
【0022】
補強部材としてのワイヤ3は、図3及び図4に示すように、細長い中空円筒状の鋼材であり、上部パイプフレーム21及び下部パイプフレーム22に対して略直交する方向(上下方向)に延在する。ワイヤ3の一端部(上端部)は、上部パイプフレーム21の外周面と略同じ曲率に折曲され、上部パイプフレーム21に引っ掛けられて溶接で固定されている。また、ワイヤ3の他端部(下端部)は、下部パイプフレーム22に溶接で固定されている。つまり、ワイヤ3は、上部パイプフレーム21と下部パイプフレーム22との間に架け渡されている。図3に示すように、本実施形態のワイヤ3は、車幅方向に間隔を空けて複数本(例えば、左右それぞれ4本ずつ、合計8本)配置されている。そして、複数本のワイヤ3のうち中央寄りの2本は、フロントカバー61の内面(後面)にボルトBで取着されたハット状の支持部材61aを介して、フロントカバー61に固定されている。
【0023】
ベルト4は、図3に示すように、長手方向に沿って一定の幅を有する帯状を呈し、シートベルト装置のウェビングと同質な材料であるポリエステル繊維を編み込んで形成されている。ベルト4は、車幅方向に延在し、その車幅方向両端部には、ボルトBを挿通するためのボルト挿通孔4a,4aが形成されている。そして、ベルト4は、フロントカバー61の内面に取着されたブラケット(図示省略)にボルトBで固定されている。本実施形態のベルト4は、上下方向に間隔を空けて複数本(例えば、2本)配置されている。
【0024】
補助ワイヤ5は、図3及び図4に示すように、ワイヤ3よりも小径の中空筒状を呈する鋼材である。図3に示すように、本実施形態では、補助ワイヤ5が上下方向に間隔を空けて複数本(例えば、2本)配置されている。上側に位置する補助ワイヤ5は、ワイヤ3の後方に配置され、その両端部が上方に向かって折り曲げられ溶接で上部パイプフレーム21に固定されている。下側に位置する補助ワイヤ5は、ワイヤ3の前方に配置されるとともに、一対の側部パイプフレーム23,23間に架け渡され、その両端部が溶接で側部パイプフレーム23に固定されている。また、各補助ワイヤ5,5の適所は、図3及び図4に示すように、フロントカバー61に取着された複数の係止部材(クリップ部材)51,51を介して、フロントカバー61に固定されている。
【0025】
カバー6は、図2及び図4に示すように、荷室CRに面するフロントカバー61と、荷室LRに面するリアカバー62と、から構成され、その内部に中空部が形成されるようにフロントカバー61とリアカバー62とが接合されている。
【0026】
乗員側に位置するフロントカバー61は、図2に示すように、略矩形状を呈し、比較的高強度のポリプロピレン(耐熱衝撃PP)で形成され、フロントカバー61を挟んで乗員側と反対側に位置するリアカバー62は、略矩形状を呈し、フロントカバー61よりも低強度のポリプロピレン(耐熱PP)で形成される。当該構成により、リアカバー62が破損しやすくなるため、後方からリアカバー62に加わった荷重がベルト4、ワイヤ3、補助ワイヤ5及びフレーム2に円滑に伝達されることになる。なお、リアカバー62がフロントカバー61を挟んで乗員側と反対側に位置しているため、当該リアカバー62が破損しても、その破片が乗員側(荷室CR内)に飛散せずに済むこととなる。
【0027】
リアカバー62は、その適所が図示しないボルトでフロントカバー61に固定されている。また、リアカバー62の内側(前側)には、図4に示すように、その内面(前面)に沿うように吸音材7が設けられている。
【0028】
本発明の実施形態に係る隔壁1は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0029】
前面衝突時や急制動時などに荷室LR内の荷物が慣性力により前方に移動して、隔壁1に衝突し、隔壁1のリアカバー62に対して略直交する方向の荷重が入力されると、比較的低強度のリアカバー62が破損し、リアカバー62に入力された荷重は、吸音材7を介してベルト4に伝達される(図4参照)。
続いて、ベルト4に伝達された荷重は、ベルト4の前方に配置されたワイヤ3に伝達され、当該ワイヤ3を介して上部パイプフレーム21及び下部パイプフレーム22に伝達される(図3参照)。
また、ベルト4に伝達された荷重は、ワイヤ3を介して、下側に位置する補助ワイヤ5に伝達され、当該補助ワイヤ5を介して一対の側部パイプフレーム23,23に伝達される(図3参照)。
その結果、ベルト4、ワイヤ3、補助ワイヤ5、上部パイプフレーム21、下部パイプフレーム22及び側部パイプフレーム23などが変形するため、この変形により荷重が吸収されることになる。
【0030】
以上のように、本実施形態では、複数のワイヤ3が上部パイプフレーム21と下部パイプフレーム22の間に架け渡され、ベルト4が当該ワイヤ3に対して交差し且つ後方に配置されるとともに、ワイヤ3の下側に位置する補助ワイヤ5が一対の側部パイプフレーム23,23間に架け渡されることによって、ベルト4、ワイヤ3、補助ワイヤ5、上部パイプフレーム21、下部パイプフレーム22及び一対の側部パイプフレーム23,23に、荷重を分散させることができる。
したがって、隔壁1の衝撃吸収性能が向上して、フロントカバー61が破壊され難くなり、又は仮に破壊されても衝突エネルギーを吸収しつつ破壊が進行することになり、その破片が乗員側(荷室CR内)に飛散するのを抑制できる。特に、本実施形態では、フロントカバー61が比較的高強度のポリプロピレンで形成されることにより、より一層破壊され難くなるため、その破片が乗員側に飛散するのをより一層抑制できる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、荷室CRと荷室LRとを仕切る隔壁1に本発明を適用しているが、これに限定されることなく、例えば、車室(居室)と荷室とを仕切る隔壁に本発明を適用してもよいし、車室内を仕切る隔壁に本発明を適用しても構わない。
【0032】
また、本実施形態では、上部パイプフレーム21、下部パイプフレーム22、一対の側部パイプフレーム23,23、ワイヤ3及び補助ワイヤ5を中空円筒状に形成したが、これに限定されることなく、例えば、中空角筒状や中実状などで形成してもよい。
【0033】
また、本実施形態では、ワイヤ3を8本配置し、ベルト4を2本配置するとともに、補助ワイヤ5を2本配置したが、これに限定されることなく、ワイヤ3、ベルト4及び補助ワイヤ5の数は適宜変更してよい。例えば、比較的幅寸法が大きいベルト4を1本配置してもよい。
【0034】
また、本実施形態では、ワイヤ3が上下方向に延在されるとともに、ベルト4が車幅方向に延在されることで、ワイヤ3とベルト4とが互いに直交するように配置されたが、これに限定されることなく、ワイヤ3が鉛直軸(上下軸)に対して傾斜され、又はベルト4が水平軸(左右軸)に対して傾斜されることで、ワイヤ3とベルト4とが互いに斜交するように配置されてもよい。
【0035】
また、本実施形態では、ベルト4をフロントカバー61の内面(後面)に取着されたブラケットにボルトBで固定したが、これに限定されることなく、側部パイプフレーム23にボルトで固定してもよい。
さらに、本実施形態では、補助ワイヤ5を設けたが、補助ワイヤ5を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 隔壁
2 フレーム
21 上部パイプフレーム(パイプフレーム)
22 下部パイプフレーム(パイプフレーム)
23 側部パイプフレーム
3 ワイヤ(補強部材)
4 ベルト
4a ボルト挿通孔
5 補助ワイヤ
51 係止部材
6 カバー
61 フロントカバー
61a 支持部材
62 リアカバー
7 吸音材
8 持ち手
9 孔部
V 車両
R 室内
CR 荷室
LR 荷室
S スペース
P 台座部
P1 収納部
B ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の室内を仕切る隔壁に加わる衝突エネルギーを吸収するための隔壁構造であって、
カバーと、
前記カバーの内部に車幅方向に間隔を空けて配置された複数の補強部材と、
前記各補強部材に対して交差するように前記補強部材の後方に配置されたベルトと、
を備えたことを特徴とする隔壁構造。
【請求項2】
車幅方向に延在し、上下方向に間隔を空けて前記補強部材の前方に配置され、前記補強部材の両端部が係合される一対のパイプフレーム、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の隔壁構造。
【請求項3】
上下方向に延在し、車幅方向に間隔を空けて配置された一対の側部パイプフレームと、
車幅方向に延在し、両端部が一対の前記側部パイプフレームに係合され、前記補強部材に対して交差するように前記補強部材の前方に配置された補助ワイヤと、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の隔壁構造。
【請求項4】
前記カバーは、乗員側に位置するフロントカバーと、前記フロントカバーを挟んで前記乗員側と反対側に位置するリアカバーと、を有し、
前記フロントカバーは、前記リアカバーよりも高強度の材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の隔壁構造。
【請求項5】
前記補強部材は、ワイヤであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の隔壁構造。
【請求項6】
前記ベルトは、シートベルト装置のウェビングであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の隔壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−121550(P2011−121550A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282925(P2009−282925)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】