説明

電力供給装置

【課題】配線ショートの発生時とコネクタの接触不良とを区別して回路を保護することが可能な電力供給装置を提供する。
【解決手段】本発明の電力供給装置では、半導体素子T1のドレインの電圧V1が、コンパレータCMP1の同相入力最低電圧を下回る前に半導体素子T1を遮断するので、負荷回路を確実に保護することができる。また、第1判定電圧をL_V1とし、第2判定電圧をV3としたとき、電圧V1が「V1<L_V1」となった場合に、リトライ動作を実行し、「V1<L_V1」となる回数がN1回に達した場合、または、「L_V1<V1<V3」となる回数がN2回に達した場合に、半導体素子T1の遮断状態を保持して負荷回路を保護する。更に、コネクタ11の接触不良に起因して電圧V1が急激に低下した場合には、電圧V1の最低値が安定した値とならず、半導体素子T1の遮断状態は保持されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子のオン、オフを制御して負荷に電力を供給する電力供給装置に係り、特に、配線ショート発生時には即時に回路を遮断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来における電力供給装置として、例えば特開2006−5581号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
【0003】
図9は、上記特許文献1に記載された装置の回路図である。図9に示す回路は、例えば車両に搭載されるランプやモータ等の負荷にバッテリの電力を供給して駆動するものであり、負荷102とバッテリVBとの間にMOSFET等の半導体素子(T101)を設け、該半導体素子(T101)のオン、オフを切り換えることにより、負荷102の駆動、停止を制御する。
【0004】
半導体素子(T101)のドレイン(点P1)は、コネクタ101に接続され、且つ該コネクタ101は、電源側配線W1を介してバッテリVBのプラス端子に接続されている。また、半導体素子(T101)のソース(点P2)は、負荷側配線W2を介して負荷に接続されている。
【0005】
ここで、電源側配線W1の抵抗をRw1、インダクタンスをL1とし、負荷側配線W2の抵抗をRw2、インダクタンスをL21+L22とする。また、負荷102の抵抗をRz、インダクタンスをLzとする。
【0006】
また、半導体素子(T101)のゲートは、抵抗R5を介してドライバ104の出力端子に接続され、ドライバ104は、制御ロジック回路105により制御される。そして、入力信号スイッチSW1がオンとされて制御ロジック回路105の始動入力端子がグランドに接地されると、制御ロジック回路105はドライバ104を駆動させ、チャージポンプ103の電圧を半導体素子(T101)のゲートに供給して、該半導体素子(T101)をオンとする。これにより、バッテリVBより出力される電力が、半導体素子(T101)を経由して負荷に供給される。
【0007】
更に、点P1は2系統に分岐され、一方の分岐線はコンパレータCMP102の反転入力端子に接続され、他方の分岐線は、抵抗R1とR2の直列接続回路を介してグランドに接地されている。そして、抵抗R1とR2の接続点P3(電圧V3)はコンデンサC1を介してグランドに接地され、且つコンパレータCMP102の正転入力端子に接続されている。
【0008】
いま、負荷側配線W2が配線ショート故障により、点P4でグランドに接地すると、バッテリVB→電源側配線W1→コネクタ101→点P1→半導体素子T101→負荷側配線W2(Rw2、L21)→点P4→接地抵抗Rw3→GNDの経路で短絡電流が流れ、半導体素子(T101)のドレイン電圧(点P1の電圧)V1が低下する。そして、電圧V1はコンパレータCMP102の反転入力端子に入力され、配線ショートが発生する前(点P4が接地する前)の電圧V1を抵抗R1とR2で分圧した判定電圧V3が、コンパレータCMP102の正転入力端子に入力され、電圧V1(配線ショート発生後の電圧V1)と判定電圧V3がコンパレータCMP102により比較される。
【0009】
そして、コンデンサC1が存在することにより判定電圧V3は時定数をもって変化するので、配線ショート発生後しばらくの間はほとんど変化しない。従って、配線ショート発生時にはV1<V3となって、コンパレータCMP102の出力信号がLレベルからHレベルに反転する。コンパレータCMP102の出力信号の反転が制御ロジック回路105に入力されると、制御ロジック回路105がドライバ104の出力を接地する。その結果、半導体素子(T101)がオフとなり、半導体素子(T101)、及び負荷回路の配線が配線ショートによる過電流から保護されることになる。
【0010】
ここで、点P4で配線ショートが発生したことにより、インダクタンスL1、L21にショート電流が流れたときの電圧V1の低下量は、以下のように計算できる。
【0011】
最初にインダクタンスと抵抗からなる回路に電圧を印加したときの回路電流を計算する。図10(a)はSW、抵抗R、インダクタンスLを直列接続して、電源VBとGND間に配置した回路である。t=0でSWをオンとしたときの回路電流をIとすると、
VB=L*dI/dt+R*I
I=VB/R{1−Exp(−R/L*t)}
dI/dt=VB/L*Exp(−R/L*t)
dI/dt|t=0=VB/L
このときの電流波形を図10(b)に示す。t=0でI=0[A]であり、時間経過に伴って、電流Iは指数関数的に上昇し、電流値VB/Rに収束する。そのときの電流Iの勾配dI/dtはt=0において最大になり、その値はVB/Lとなる。
【0012】
図10(c)は、図9に示した負荷回路と同様の回路で、半導体素子(T101)と負荷との間で配線ショートが発生したときの回路を示している。また、図10(d)は、t=0で半導体素子(T101)をオンとしたときの、半導体素子(T101)のドレイン電圧V1の変化を示している。電源側配線の抵抗、及びインダクタンスをR1、L1とし、T101ソース〜GND間の抵抗及びインダクタンスをR2、L2とすると、t=0において電源線のインダクタンスL1に発生する逆起電力E1、及びそのときのV1は、次のように表される。
【0013】
E1=VB*L1/(L1+L2) …(1)
V1=VB−E1=VB*L2/(L1+L2) …(2)
図9に示した回路で、点P4における配線ショートが無い場合と、ある場合の逆起電力E1をそれぞれE1a、E1bとして、(1)式を当てはめると、
E1a=VB*L1/(L1+L21+L22+Lz)
E1b=VB*L1/(L1+L21)
そして、L22+Lz≠0であるから
E1a<E1b …(3)
となる。
【0014】
即ち、負荷側配線W2がショートした状態で半導体素子(T101)がオンとなったときの電圧V1の落ち込み量E1bは、配線が正常なときの落ち込み量E1aよりも常に大きくなる。また、負荷のインダクタンスLzが大きくなる程、その差は拡大することになる。従って、電圧V1(=VB−E1)の大きさを判定電圧V3と比較するとき、該判定電圧V3を配線が正常状態における電圧「VB−E1a」よりも小さい値に設定すれば、「V1<V3」を検出したときは負荷側配線W2がショートしていると判定できる。配線のインダクタンスはおおよそ1[μH/m]であり、配線断面積にはほとんど依存しない。従って、電源側配線の長さが2mとして、P2〜P4間の配線長が0.2mとなるような極端なデッドショートでは、電圧V1は電源電圧VBの1/10にまで低下する。VB=12Vとすれば、V1=1.2Vまで低下することになる。
【0015】
これは、電圧V1と判定電圧V3を比較するコンパレータCMP102の同相入力電圧範囲を超えて低下することになる。ここで、「同相入力電圧範囲」とは、コンパレータCMP102を構成するオペアンプが正常に動作する範囲の電圧であり、この範囲よりも低下した電圧が入力された場合には、コンパレータCMP102の動作が保証されない。つまり、誤作動する可能性がある。
【0016】
一方、電圧V1の低下は配線ショート以外でも起こり得る。例えば、図9に示す回路において、電源側配線W1に接続されるコネクタ101の接点に接触不良が発生したとする。その結果、正常なときは1[mΩ]程度であった接触抵抗が5[Ω]に増加したとする。このとき負荷電流IDとして10Aが流れていたとすると、電圧降下は50Vに達し得る。電源電圧VB=12Vであれば電圧V1は、ほぼGNDレベルになる。
【0017】
このように、図9に示す過電流保護装置では、電圧V1が極端に低下して、コンパレータCMP102の同相入力範囲以下になったとき、コンパレータCMP102が機能しなくなるという問題がある。この対策として、電圧V1がコンパレータの同相入力電圧範囲下限より低下したら、コンパレータCMP102の出力を強制的に反転させ、半導体素子(T101)を遮断するように制御することができる。しかし、この方法では、電源側に設けられるコネクタ101の接触不良等で電源瞬断が発生した場合においても半導体素子(T101)が遮断することになり、瞬断した電源電圧が正常電圧に回復したとき、半導体素子(T101)がオン状態に復帰できないという問題が生じる。
【特許文献1】特開2006−5581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
図9に示したように、電圧V1の低下量から過電流の発生を検出する方式においては、以下に示す問題が発生する。
【0019】
(1)電圧V1がコンパレータCMP102の同相入力電圧下限値を下回った場合には、回路が正常に作動しない。
【0020】
(2)電圧V1が同相入力電圧下限値を下回る原因として、極端なデッドショートの発生と、コネクタの接触不良等に起因する電源瞬断の2種類があり、極端なデッドショートの場合は半導体素子(T101)を遮断保持し、電源瞬断の場合は電圧V1が回復したときに、半導体素子(T101)のオン復帰させるという、正反対の処置が必要になる。
【0021】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電圧V1が同相入力電圧下限より低下したとき、その原因がデッドショートの場合は半導体素子を遮断保持し、電源瞬断の場合は瞬断回復後、半導体素子をオン状態に回復させる電力供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するため、本願請求項1に記載の発明は、半導体素子(T1)の第1の主電極を電源側配線(W1)を介して電源のプラス端子に接続し、前記半導体素子の第2の主電極とグランドとの間に負荷を接続し、前記半導体素子のオン、オフを制御することにより前記負荷に電力を供給する電力供給装置において、前記第1の主電極と前記電源側配線との間の点の電圧である第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回った場合に前記半導体素子をオフとし、第1の所定時間(t1)経過後に前記半導体素子をオンとし、前記半導体素子をオンとしたことにより前記第1の電圧(V1)の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回った場合には、前記半導体素子のオン状態を継続し、前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回った場合には、前記半導体素子をオフ状態に保持する制御を行う制御手段を備えることを特徴とする。
【0023】
請求項2に記載の発明は、半導体素子(T1)と負荷の直列接続回路からなる負荷回路を複数備え、前記各半導体素子の第1の主電極どうしが接続点(P1)にて接続され、この接続点(P1)が唯一の電源側配線(W1)を介して電源のプラス端子に接続され、前記各半導体素子の第2の主電極が負荷に接続され、前記各負荷回路の前記半導体素子のオン、オフを制御することにより前記各負荷回路に電力を供給する電力供給装置において、前記第1の接続点(P1)の第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回った場合に、前記各負荷回路に設けられた前記半導体素子のうちオン状態の半導体素子を全てオフとし、第1の所定時間(t1)経過後に所定の時間差を持って、前記オフとした半導体素子を順次オンとし、前記半導体素子をオンとしたことにより前記第1の電圧(V1)の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回った場合には、前記各半導体素子のオン状態を継続し、前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回った場合には、前記各半導体素子をオフ状態に保持する制御を行う制御手段を備えることを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載の電力供給装置において、前記制御手段は、前記第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回って前記半導体素子をオフとし、第1の所定時間(t1)経過後にオンとしたとき、再度第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回った場合には、前記半導体素子を再度オフとして、前記第1の所定時間(t1)経過後に再度前記半導体素子をオンとする操作を第1の所定回数(N1)繰り返して試行し、全ての試行時に前記半導体素子がオンとされたときの前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回った場合に、この半導体素子のオフ状態を保持する制御を行うことを特徴とする。
【0025】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電力供給装置において、前記制御手段は、前記第1判定電圧(L_V1)よりも大きい第2判定電圧(V3)を設定し、前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回ったことによりオン状態の半導体素子をオフとし、前記第1の所定時間(t1)経過後にこの半導体素子を再度オンとする場合に、前記第1の電圧(V1)の最低値が、前記第1判定電圧(L_V1)を上回り、且つ前記第2判定電圧(V3)を下回ったとき、第2の所定時間(t2)の間隔で前記半導体素子のオン、オフを繰り返すように制御し、その間に前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回ったときは、前記第1の所定時間(t1)の間隔で前記半導体素子のオン、オフを繰り返すように制御し、その過程で、前記半導体素子がオンとされたときに、前記第1の電圧の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回り前記第2判定電圧(V3)を下回ることが、連続して第2の回数(N2)繰り返されるか、または、前記第1判定電圧(L_V1)を下回ることが、連続して前記第1の回数(N1)繰り返された場合に、前記半導体素子を遮断状態に保持することを特徴とする。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の電力供給装置において、前記制御手段は、前記半導体素子がオフとされた後、再度オンとされたときに、前記第1の電圧の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回り、且つ前記第2判定電圧(V3)を下回るときには、前記第2判定電圧を上昇させた後、前記半導体素子をオンとする制御を行うことを特徴とする。
【0027】
請求項6に記載の発明は、請求項4に記載の電力供給装置において、前記第1の所定時間(t1)、及び前記第2の所定時間(t2)を、一定時間ではなくランダムに変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
請求項1の発明では、デッドショート等の配線ショートに起因して第1の電圧が急激に低下した場合に、この第1の電圧がコンパレータの同相入力電圧下限値を下回る前に半導体素子をオフとするので、誤動作が発生することを防止でき、半導体素子を確実にオフとして負荷回路を保護することができる。
【0029】
請求項2の発明では、複数の負荷回路が並列的に設けられる場合において、一つの負荷回路でデッドショートが発生して第1の電圧が急激に低下した場合に、複数の負荷回路のうち動作中の負荷回路について、第1の電圧がコンパレータの同相入力電圧下限値を下回る前に半導体素子をオフとするので、各負荷回路で誤動作が発生することを防止でき、半導体素子を確実にオフとして負荷回路を保護することができる。
【0030】
請求項3の発明では、第1の電圧が急激に低下して第1判定電圧L_V1を下回った場合にリトライ動作を実行し、N1回(第1の所定回数)連続して半導体素子のオン時に電圧V1が第1判定電圧を下回った場合に、半導体素子のオフ状態を保持する。従って、コネクタの接触不良等に起因して電圧V1が低下した場合等、配線ショートが発生していない場合には半導体素子のオン状態を維持し、負荷回路の駆動を継続させることができる。
【0031】
請求項4の発明では、第1判定電圧L_V1、及び該第1判定電圧L_V1よりも大きい第2判定電圧V3を設定し、第1の電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回った後、リトライ動作を実行し、半導体素子をオンとしたときの電圧V1が「V1<L_V1」となる場合がN1回(第1の所定回数)連続した場合、または、電圧V1が「L_V1<V1の最低値<V3」となる場合がN2回(第2の所定回数)連続した場合に、半導体素子のオフ状態を保持する。従って、デッドショート等の配線ショートが発生した場合には、確実に半導体素子のオフ状態を保持して負荷回路を保護することができる。
【0032】
また、負荷側配線に設けられるコネクタの接触不良等に起因して電圧V1が低下した場合には、電圧V1が「V1<L_V1」となったり、「L_V1<V1の最低値<V3」となったりするので、上記の所定回数N1、N2に達しない。従って、接触不良に起因して電圧V1が低下した場合に、半導体素子のオフ状態が保持されることはなく、負荷回路を動作させることができる。
【0033】
請求項5の発明では、デッドショート等の配線ショートが発生してリトライ動作が実行され、半導体素子をオンとした場合で、電圧V1が「L_V1<V1の最低値<V3」となった場合には、第2判定電圧V3が徐々に大きくなるように変更される。従って、デッドショートが発生した場合に、電圧V1が「V1<L_V1」となったり、「L_V1<V1の最低値<V3」となったりすることを防止でき、確実に半導体素子のオフ状態を保持して負荷回路を保護することができる。
【0034】
請求項6の発明では、接続点(P1)に複数の半導体素子と負荷からなる回路が接続され、それらは複数のグループに分かれて、グループ毎に独立した制御回路(IC)で制御されるとき、各制御回路(IC)が独立していることにより、半導体素子をオフとした後にオンとするタイミングが一致する可能性がある。接続点(P1)に接続した複数の半導体素子のうち、同時に2個以上の半導体がオンとなると、負荷回路の正常、異常を正確に判断できなくなる。この対策として、各制御回路(IC)が半導体素子を再起動させる時間間隔をランダムに変化させることにより、複数の半導体素子が同時にオンとなることを回避することができ、負荷回路の正常、異常を正確に判定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る電力供給装置の第1実施形態の構成を示す回路図である。
【0036】
図1に示す電力供給装置は、例えば車両に搭載されるランプやモータ等の負荷にバッテリの電力を供給して駆動するものであり、負荷12とバッテリVB(例えば、直流12V)との間にMOSFET等の半導体素子T1を設け、該半導体素子T1のオン、オフを切り換えることにより、負荷12の駆動、停止を制御する。
【0037】
半導体素子T1のドレイン(点P1、第1の主電極)は、コネクタ11に接続され、且つ該コネクタ11は、電源側配線W1を介してバッテリVBのプラス端子に接続されている。また、半導体素子T1のソース(点P2、第2の主電極)は、負荷側配線W2を介して負荷12の一端に接続されている。更に、負荷12の他端はグランドに接地されている。
【0038】
ここで、電源側配線W1の抵抗をRw1、インダクタンスをL1とし、負荷側配線W2の抵抗をRw2、インダクタンスを点P4で分割されたL21、L22とする。また、負荷12の抵抗をRz、インダクタンスをLzとする。
【0039】
半導体素子T1のゲートは、抵抗R5を介してドライバ14の出力端子に接続され、該ドライバ14は、制御ロジック回路15により制御される。そして、入力信号スイッチSW1がオンとされて制御ロジック回路の始動入力端子がグランドに接地されると、制御ロジック回路15はドライバ14を駆動させ、チャージポンプ13の電圧を半導体素子T1のゲートに供給して、該半導体素子T1をオンとする。その結果、バッテリVBより出力される電力が、コネクタ11及び半導体素子T1を経由して負荷12に供給される。
【0040】
更に、半導体素子T1のドレインである点P1は3系統に分岐され、このうち1つ目の分岐線はコンパレータCMP2の反転入力端子に接続され、2つ目の分岐線はコンパレータCMP1の反転入力端子に接続され、3つ目の分岐線は抵抗R1とR2の直列接続回路を介してグランドに接地されている。そして、抵抗R1とR2の接続点P3(電圧V3)はコンデンサC1を介してグランドに接地され、且つコンパレータCMP2の正転入力端子に接続されている。
【0041】
コンパレータCMP1の正転入力端子には、第1判定電圧L_V1を出力する電圧源が接続されている。ここで、電圧L_V1はV3(第2判定電圧)よりも小さく、且つ、コンパレータCMP1の同相入力電圧下限値よりも若干高い電圧(例えば2[V]程度の電圧)とされている。
【0042】
また、制御ロジック回路15は、第1カウンタ16aと第2カウンタ16bを備えており、後述するように、第1カウンタ16aはコンパレータCMP1の出力信号が反転する毎にカウントアップされ、第2カウンタ16bはコンパレータCMP2の出力信号が反転する毎にカウントアップされる。
【0043】
更に、制御ロジック回路15、チャージポンプ13、ドライバ14等の各構成要素(図1に示す鎖線で囲まれる構成要素)は、IC17(制御手段)として構成されている。
【0044】
次に、本実施形態に係る電力供給装置の動作について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
【0045】
通常動作時には、ドライバ14より駆動信号が出力されて半導体素子T1がオンとされると、該半導体素子T1に負荷電流IDが流れて、ランプやモータ等の負荷12に電力が供給され、該負荷12が駆動する。このとき、半導体素子T1のドレイン(点P1)の電圧V1(第1の電圧)は、抵抗R1とR2の接続点である点P3に生じる電圧V3(第2判定電圧)よりも大きいので、コンパレータCMP2の出力信号がLレベルとなる。同様に、電圧V1は、コンパレータCMP1の正転入力端子に入力される電圧L_V1(第1判定電圧)よりも大きいので、コンパレータCMP1の出力信号はLレベルとなる。
【0046】
ここで、負荷回路の点P4が直接グランドに短絡するようなデッドショートが発生すると、短絡経路の抵抗Rw3を介して短絡電流が流れる。その結果、電源側配線W1に逆起電力E1が発生するので、点P1の電圧V1が急激に低下し、第1判定電圧L_V1を下回る(図2のステップS11でYES)。その結果、コンパレータCMP1の出力信号は、LレベルからHレベルに反転する。
【0047】
制御ロジック回路15は、コンパレータCMP1の反転信号が入力されると、ドライバ14を停止させる。即ち、ドライバ14の出力端子をグランドに接地することにより、半導体素子T1のゲート電圧をほぼグランドレベルに低下させて、該半導体素子T1をオフとし(ステップS12)、負荷12への電力供給を遮断する。このとき、制御ロジック回路15は、タイマ(図示省略)を起動させて、半導体素子T1をオフとしてからの経過時間tを計時する。その後、リトライ動作を開始する。また、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回った時点で半導体素子T1をオフとするので、コンパレータCMP1の入力電圧が同相入力電圧下限値よりも低くなることはなく、コンパレータCMP1を正常に動作させることができる。
【0048】
リトライ動作では、制御ロジック回路15は、第1カウンタ16a及び第2カウンタ16bをリセットする(ステップS13)。そして、タイマによる経過時間tが予め設定した第1の時間t1に達した場合には(ステップS14でYES)、ドライバ14に駆動指令信号を出力して、半導体素子T1をオンとする(ステップS15)。
【0049】
次いで、制御ロジック回路15は、コンパレータCMP2の出力信号に基づき、電圧V1が第2判定電圧V3を下回っているか否かを判定する(ステップS16)。そして、電圧V1が第2判定電圧V3を下回っていない場合、即ち、コンパレータCMP2の出力がLレベルの場合には(ステップS16でNO)、ステップS11の処理に戻る。つまり、電圧V1が低下して、一旦第1判定電圧L_V1を下回り、半導体素子T1をオフとした後、時間t1が経過してから再度半導体素子T1をオンとしたときに、電圧V1が通常電圧に復帰した場合には、そのまま半導体素子T1のオン状態を継続させる。換言すれば、半導体素子T1がリトライ動作している間に、電圧V1が正常値に復帰した場合には、半導体素子T1のオン状態を継続させる。
【0050】
他方、ステップS16の処理で、電圧V1が第2判定電圧V3を下回った場合、即ち、ステップS15の処理で半導体素子T1をオンとした後、例えば、40μsec以内にコンパレータCMP2の出力信号がHレベルに反転した場合には(ステップS16でYES)、引き続き、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回っているか否かを判定する(ステップS17)。そして、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回っていない場合、即ち、コンパレータCMP1の出力信号がLレベルである場合には(ステップS17でNO)、再度半導体素子T1を遮断する(ステップS18)。つまり、電圧V1の最低値が第1判定電圧L_V1と第2判定電圧V3の間である場合には、ステップS18に処理を進める。
【0051】
更に、第2カウンタ16bをカウントアップ(+1)する(ステップS19)。そして、制御ロジック回路15は、第2カウンタ16bのカウント値が予め設定した回数(第2の回数N2、例えば8回)に達したか否かを判定する(ステップS20)。そして、第2カウンタ16bのカウント値がN2に達しない場合には(ステップS20でNO)、予め設定した第2の時間t2が経過した後(ステップS21でYES)、再度半導体素子T1をオンとしてステップS15からの処理を繰り返す。
【0052】
また、第2カウンタ16bのカウント値がN2に達した場合には(ステップS20でYES)、半導体素子T1のオフ状態をラッチして負荷回路を保護する(ステップS33)。即ち、リトライ動作実行中に、電圧V1が「L_V1<V1<V3」となる状態が連続してN2回(例えば、8回)繰り返された場合には、デッドショート等の配線ショートが発生しているものと判定して、半導体素子T1のオフ状態をラッチして負荷回路を保護する。
【0053】
他方、再度半導体素子T1をオンとした際に、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回った場合には(ステップS17でYES)、再度半導体素子T1を遮断し(ステップS22)、更に、第2カウンタ16bをリセットする(ステップS23)。その後、第1の時間t1が経過したか否かを判定し(ステップS24)、時間t1を経過した場合には(ステップS24でYES)、再度半導体スイッチT1をオンとする(ステップS25)。
【0054】
その後、制御ロジック回路15は、コンパレータCMP2の出力信号に基づき、電圧V1が第2判定電圧V3を下回っているか否かを判定する(ステップS26)。そして、電圧V1が第2判定電圧V3を下回っていない場合、即ち、コンパレータCMP2の出力がLレベルの場合には(ステップS26でNO)、ステップS11の処理に戻る。つまり、ステップS22の処理で半導体素子T1をオフとし、時間t1が経過した後に再度半導体スイッチT1をオンとした場合に、電圧V1が通常電圧に戻った場合には、そのまま半導体素子T1のオン状態を継続させる。
【0055】
他方、ステップS26の処理で、電圧V1が第2判定電圧V3を下回った場合、即ち、ステップS25の処理で半導体素子T1をオンとした後、例えば、40μsec以内にコンパレータCMP2の出力信号がHレベルに反転した場合には(ステップS26でYES)、引き続き、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回っているか否かを判定する(ステップS27)。そして、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回っている場合、即ち、コンパレータCMP1の出力信号がHレベルである場合には(ステップS27でYES)、再度半導体素子T1を遮断し(ステップS28)、更に、第1カウンタ16aをカウントアップ(+1)する(ステップS29)。
【0056】
その後、制御ロジック回路15は、第1カウンタ16aのカウント値が予め設定した回数(第1の回数N1、例えば5回)に達したか否かを判定し(ステップS30)、第1カウンタ16aのカウント値がN1に達しない場合には(ステップS30でNO)、時間t1が経過した後(ステップS24でYES)、再度半導体素子T1をオンとしてステップS25からの処理を繰り返す。
【0057】
また、第1カウンタ16aのカウント値がN1(例えば、5回)に達した場合には(ステップS30でYES)、半導体素子T1のオフ状態をラッチして負荷回路を保護する(ステップS33)。即ち、電圧V1が、「V1<L_V1」となる状態が連続してN1回繰り返された場合には、デッドショート等の配線ショートが発生しているものと判定して、負荷回路を遮断する。
【0058】
他方、ステップS27の処理で、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回っていない場合、即ち、コンパレータCMP1の出力信号がLレベルである場合には(ステップS27でNO)、再度半導体素子T1を遮断し(ステップS31)、更に、第1カウンタ16aをリセットする(ステップS32)。その後、処理をステップS21に移行する。
【0059】
上記の処理をまとめると、図1に示す負荷回路にデッドショート等の配線ショートが発生して、点P1の電圧V1が急激に低下し「V1<L_V1」となった場合には、再度半導体スイッチT1をオンとするリトライ動作(半導体スイッチT1を繰り返してオンとする動作)を行う。
【0060】
そして、リトライ動作を行うことにより、電圧V1が「V1<L_V1」となった場合には、第1の時間t1を周期としてリトライ動作を繰り返す。そして、このリトライ回数(半導体素子T1をオンとした際に電圧V1が「V1<L_V1」となった回数)が、N1回連続すると第1カウンタ16aがオーバーフローして(上述したステップS30)、半導体素子T1は遮断状態に保持され、半導体素子T1、及び負荷側配線W1を保護することができる。即ち、図4の特性曲線S1に示すように、リトライ動作を繰り返すことにより電圧V1の最低値が安定して「V1<L_V1」となる場合には、デッドショートが発生したものと判定して、回路を保護する。
【0061】
また、リトライ動作を行うことにより、電圧V1が「L_V1<V1<V3」となった場合には、第2の時間t2を周期としてリトライ動作を繰り返す。そして、このリトライ回数(半導体素子T1をオンとした際に電圧V1が「L_V1<V1<V3」となった回数)が、N2回連続すると第2カウンタ16bがオーバーフローして(上述したステップS20)、半導体素子T1は遮断状態に保持され、半導体素子T1、及び負荷側配線W1を保護することができる。
【0062】
つまり、デッドショート等の配線ショートの発生時には、電圧V1の低下分がほぼ安定しているから、第1カウンタ16a、または第2カウンタ16bがオーバーフローすることになり、半導体素子T1をオフとして回路を保護することができる。即ち、図5の特性曲線S2に示すように、電圧V1の最低値が安定して「L_V1<V1<V3」となる場合には、デッドショートが発生したものと判定して、回路を保護する。
【0063】
他方、電源線に含まれるコネクタ11(図1参照)の接触不良等により電圧V1が低下して「V1<L_V1」となった場合は、コネクタ11の接触抵抗が不規則に変化するので、リトライ動作期間中に電圧V1が「V1<L_V1」となったり、「L_V1<V1の最低値<V3」となったり、更には「V3<V1の最低値」となったりする。つまり、コネクタ11の接触不良が発生した場合には、点P1の電圧V1は、第1判定電圧L_V1、及び第2判定電圧V3の上下でばらついて変動する。例えば、図6の特性曲線S3に示すように、電圧V1の最低値が第1判定電圧L_V1の上下でばらつくことになる。
【0064】
この場合には、第1カウンタ16aが連続してN1回カウントされることや、第2カウンタ16bが連続してN2回カウントされることが起こり難くなる。従って、図2のステップS23、ステップS32に示すように、第1カウンタ16aのカウント値、及び第2カウンタ16bのカウント値が頻繁にリセットされることになり、半導体素子T1の遮断が保持されることなく、リトライ動作が繰り返されることになる。なお、電圧V1の最低値が第2判定電圧V3よりも大きくなると、ステップS13の処理により、第1カウンタ16a、第2カウンタ16bの双方がリセットされ、半導体素子T1はオン状態を維持する。
【0065】
このように、本発明の第1実施形態に係る電力供給装置では、負荷回路にデッドショートが発生して電圧V1が急激に低下した場合には、半導体素子T1のオフ状態をラッチして負荷回路を保護することができる。また、コネクタ11の接触不良に起因して電圧V1が急激に低下した場合には、半導体素子T1をオン、オフさせるリトライ動作を行い、電圧V1が通常電圧に復帰した際に、半導体素子T1のオン状態を継続させる。従って、コネクタ11の接触不良等に起因して負荷回路が誤遮断することを防止できる。
【0066】
なお、上記した第1実施形態では、第1の時間t1と第2の時間t2が異なる時間である場合について説明したが、第1の時間t1と第2の時間t2が同一であっても良い。
【0067】
また、上記した第1実施形態では、一つのコネクタ11に対して1系統の負荷回路が接続された電力供給回路を例に挙げて説明したが、図3に示すように、一つのコネクタ11に対して複数の負荷回路、及び半導体素子T1を制御するIC17が接続される回路構成の場合についても、本発明を適用することができる。この場合には、リトライ動作を実行するタイミングを、各系統の負荷回路毎に一定時間ずらす必要がある。
【0068】
それは、同一の電源線W1に点P1で接続する複数の半導体素子がリトライ動作時に、2個以上同時にオンとなると、電圧V1の落ち込みが単独オン時に比べて大きくなり、負荷回路の配線ショートを正確に判定できなくなるからである。即ち、正常な負荷回路が異常であると判定され、遮断されるという誤作動が起こる可能性がある。いくつかの半導体素子を1つのICに組み込まれた制御回路で制御するが、半導体素子の数が多くなるとICを複数使用することになる。このとき各ICは独立して動作するので、異なるICで制御される2個以上の半導体素子が同時に遮断されると、ICの仕様(特性)が同一の場合には、リトライ動作時に同時に2個以上の半導体素子がオンとなり、上述の誤遮断を発生させる可能性が出てくる。
【0069】
この対策として、各ICの動作を連携させて、優先順位の高いICのリトライが完了するまでは、優先順位の低い他のICのリトライを禁止し、1つの半導体だけがオンとなるように、各IC間を結合してリトライ動作を管理する方法がある。しかし、実際の回路では、異なるICで制御される2個以上の半導体素子が同時に遮断されるケースは稀であり、そのために、ICに専用端子を設けて結合し、優先順位を管理する制御を組み込むことはICのコストが増大し、得策ではない。本実施形態では、半導体素子が同時にオンとなることによる誤遮断を防止するために、リトライ時に第1の所定時間(t1)と、第2の所定時間(t2)の時間間隔をランダムに変化させる。このようにすれば、異なるICで制御される2個以上の半導体素子が同時に遮断された場合であっても、リトライ動作でオンとなるときのタイミングが一致しなくなり、半導体素子の同時オンを回避することができる。
【0070】
また、上記した第1実施形態では、第1判定電圧L_V1、及び第2判定電圧V3を設定し、点P1の電圧V1と各判定電圧L_V1、V3との関係により、遮断状態を維持するか、またはリトライ動作を継続するかを決定する構成としたが、本発明は、これに限定されるものではなく、判定電圧として同相入力電圧下限値よりも若干大きい第1判定電圧L_V1のみを設定し、点P1の電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回った場合に、半導体素子T1の遮断状態を保持するようにしても良い。この場合には、コンパレータCMP1の入力電圧が同相入力電圧下限値を下回る前に半導体素子T1を遮断できるので、誤動作の発生を防止することができる。
【0071】
更に、第1判定電圧L_V1のみを設定し、点P1の電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回った場合に、リトライ動作を実行し、半導体素子T1をオンとしたときの電圧V1の最低値が第1判定電圧L_V1を下回る回数が所定回数連続した場合に、半導体素子T1の遮断状態を保持するようにしても良い。
【0072】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上述した第1実施形態では、リトライ動作を実行することにより、電圧V1が「V1<L_V1」となることがN1回繰り返された場合、または電圧V1が「L_V1<V1の最低値<V3」となることがN2回繰り返された場合に、半導体素子T1の遮断をラッチすることで、負荷回路を保護する構成とした。しかし、デッドショート等の配線ショートが発生したときに、極めて稀ではあるが、その条件によっては電圧V1が低下して、その最低値が第1判定電圧L_V1と一致するか、またはその近傍になることが起こり得る。
【0073】
この場合には、デッドショートが発生しているにも関わらず、リトライ動作期間中に電圧V1が、第1判定電圧L_V1の上下で変動することがある。即ち、「V1<L_V1」となったり、「L_V1<V1の最低値<V3」となったりする場合がある。従って、図2に示したステップS32,S23の処理により第1カウンタ16a及び第2カウンタ16bがリセットされてしまい、リトライ動作が継続して実行されるので、半導体素子T1をオフ状態にラッチすることができない。
【0074】
更に、第1の時間t1、または第2の時間t2の間隔でリトライ動作を行うと、電圧V1の波形は毎回同一の波形が再現されるのではなく、波形にばらつきが生じる。これはリトライ動作を開始するまでの、半導体素子T1のオフ期間に該半導体素子T1のゲートの電荷が完全に放電されないことや、電圧V1の波形とゲート容量の間に生じるミラー効果によりゲート電荷の残存量がばらつくことに起因する。
【0075】
その結果、デッドショートが発生しているので、本来は第1カウンタ16a、または第2カウンタ16bを連続してカウントアップして、半導体素子T1を遮断状態に保持すべきところ、電圧V1が、第1判定電圧L_V1の上下で変動してしまい、リトライ動作が継続して実行されてしまうことがある。第2実施形態に係る電力供給装置では、このような場合でもデッドショートに起因する電圧V1の変化と、コネクタの接触不良に起因する電圧V1の変化を確実に区別して、半導体素子T1のオン、オフを制御する。
【0076】
図7は、第2実施形態に係る電力供給装置の構成を示す回路図である。同図に示すように、図7に示す回路は、図1に示した回路に対して、コンデンサC2、ダイオードD1、及び抵抗R3を追加している点で相違する。即ち、点P1と点P3との間に、コンデンサC2とダイオードD1の直列接続回路を挿入し、更に、ダイオードD1に対して並列に抵抗R3を設けている。また、第2実施形態では、前述した第1の時間t1と第2の時間t2との関係は、「t1>t2」とされている。
【0077】
以下、第2実施形態に係る電力供給装置の動作について説明する。デッドショートの発生により、電圧V1が低下して「V1<L_V1」となり、半導体素子T1が遮断されると、第1の時間t1間隔でリトライ動作が繰り返される。このときの電圧V1は、図4に示した特性曲線S1のように変化する。デッドショートの発生に起因して半導体素子でT1が遮断されると、その後、電圧V1は電源電圧VBを超えて上昇する(図4の電圧q11参照)。例えば、電源電圧VBが12Vの場合には、電圧q11は約18Vとなり、6V程度上昇する。この電圧V1の上昇により、図7に示すコンデンサC2に充電電流が流れ、ダイオードD1を経由してコンデンサC1に、コンデンサC2の充電電流が流れ込んでコンデンサC1が充電される。
【0078】
コンデンサC1の1回の充電量は、コンデンサC2の容量と電圧V1が、電源電圧VBを超えて上昇したときの上昇量(即ち、電圧q11の上昇量)により決まる。電圧V1は、電源電圧VBを超えて上昇しても、短期間(約6μsec程度)で電源電圧VBに復帰する。従って、コンデンサC2からコンデンサC1に充電された電荷は、第1の時間t1が経過するとそのほとんどが放電することになるが、第1の時間t1よりも短い第2の時間t2では、若干の電荷が残存することになる。
【0079】
ここで、点P1の電圧V1が「V1<L_V1」となって時間t1間隔のリトライ動作を繰り返しているときに、電圧V1が「V3>V1最低値>L_V1」となって時間t2間隔でのリトライ動作に切り替わると、コンデンサC1に、未だコンデンサC2による充電電荷が残存している状態で、電圧V1と第2判定電圧V3とを比較することになる。
【0080】
この場合、第2判定電圧V3は、通常時よりも高い電圧に変化するので、半導体素子T1の遮断が早まることになる。以下、この動作を図8に示す特性図を参照して説明する。図8に示すように、1回目のリトライ期間A(時間t2)では、電圧V1が第2判定電圧V3を下回った時点(時間t11が経過した時点)で半導体素子T1がオフとなるので、特性曲線S4に示す電圧V1は最低値q1まで低下した後上昇に転じ、電源電圧VBを超えた後、電源電圧VBに安定する。
【0081】
また、2回目のリトライ期間B(時間t2)では、上述したようにコンデンサC2からコンデンサC1に充電された電荷が完全に放電されていないので、第2判定電圧は通常時のV3よりも高い電圧V3aとなる。このため、半導体素子T1がオフとなるまでの経過時間が短くなり、時間t12(t12<t11)となる。このため、電圧V1が上昇に転じるタイミングが早まり、電圧V1が最低値q2(q2>q1)まで低下した時点で上昇を開始する。その後、電源電圧VBを超え、更に下降して電源電圧VBに安定する。
【0082】
そして、3回目のリトライ期間C(時間t2)では、前回と同様に、コンデンサC2からコンデンサC1に充電された電荷が完全に放電されていないので、第2判定電圧は前回のV3aよりも更に高い電圧V3bとなる。このため、半導体素子T1がオフとなるまでの経過時間がより一層短くなり、時間t13(t13<t12)となる。このため、電圧V1が上昇に転じるタイミングが更に早まり、電圧V1が最低値q3(q3>q2)まで低下した時点で上昇を開始する。その後、電源電圧VBを超え、更に下降して電源電圧VBに安定する。
【0083】
つまり、時間t2の周期でリトライ動作を繰り返すと、第2判定電圧V3は徐々に大きくなり、電圧V1は第1判定電圧L_V1を下回り難くなる。換言すれば、電圧V1が第1判定電圧L_V1の上下で変動することを抑制することができる。このため、第2カウンタ16bが連続してカウントアップされ、オーバーフローして半導体素子T1が遮断状態に保持される。
【0084】
他方、電源線に含まれるコネクタ11の接触不良で電圧V1が急激に低下した場合には、その後、接触不良が解消されて電圧V1が上昇した場合に、この電圧V1が電源電圧VBを超えることはないか、超えたとしても僅かである。つまり、コネクタ11の接触不良に起因して電圧V1が急激に低下した場合には、その後V1が上昇する場合に、図6の符号x1に示すように電圧上昇はほとんど発生しない。このため、コンデンサC2の充電電流はほとんど流れず、コンデンサC1の電圧が持ち上げられることはない。つまり、コネクタ11の接触不良に起因して電圧V1が急激に低下した場合には、図8に示すように第2判定電圧V3が徐々に上昇することがない。
【0085】
従って、電源電圧VBの瞬断により電圧V1が低下した場合には、各素子C2、D1、R3の追加回路はリトライ動作にほとんど影響しない。従って、コネクタ11の接触不良が振動により繰り返されるときは電圧V1が「V1<L_V1」、または「L_V1<V1<V3」を行ったり来たりする動作が損なわれることは無いので、接触不良による誤遮断を回避する機能は変らない。
【0086】
また、デッドショートが発生し、電圧V1が第1判定電圧L_V1を下回った場合には、第1の時間t1(t1>t2)の周期でリトライ動作が行われるので、たとえコンデンサC2の電荷がコンデンサC1に蓄積されたとしても、時間t1が経過するまでの間にコンデンサC2により蓄積された電荷は完全に放電されるので、第2判定電圧V3が上昇することはない。
【0087】
つまり、図4に示したように、電圧V1の最低値が第1判定電圧L_V1を下回った場合には、第2判定電圧V3が上昇しないので、電圧V1の最低値が上昇することはなく、「V1<L_V1」となることが連続して繰り返され、確実に負荷回路を遮断することができる。
【0088】
このようにして、第2実施形態に係る電力供給装置では、前述した第1実施形態に示した電力供給装置に対して、コンデンサC2、ダイオードD1、及び抵抗R3を追加することにより、電圧V1の最低値が第1判定電圧L_V1と一致するか、またはその近傍の値となった場合であっても、デッドショートの発生時には確実に回路を保護することができ、また、コネクタの接触不良の場合には半導体素子T1をオンに復帰させることができる。
【0089】
以上、本発明の電源供給装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【0090】
例えば、上記した実施形態では、半導体素子としてMOSFETを用いる場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子を用いることも可能である。
【0091】
また、上記した実施形態では、車両に搭載される負荷に電力を供給する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の負荷回路についても適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
デッドショート等の配線ショートの発生時に確実に半導体素子を遮断し、且つコネクタの接触不良が発生した場合には、半導体素子をオン状態に維持する上で極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電力供給装置の構成を示す回路図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電力供給装置の処理動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態に係り、複数系統の電力供給装置が並列に接続された状態を示す接続図である。
【図4】本発明の実施形態に係り、デッドショートが発生して、電圧V1の最低値が連続して第1判定電圧L_V1を下回った場合の、電圧V1の変化を示す特性図である。
【図5】本発明の実施形態に係り、デッドショートが発生して、電圧V1の最低値が連続して第1判定電圧L_V1と第2判定電圧V3の間の電圧となった場合の、電圧V1の変化を示す特性図である。
【図6】本発明の実施形態に係り、コネクタの接触不良により、電圧V1の最低値が第1判定電圧L_V1の上下で変化する場合の、電圧V1の変化を示す特性図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る電力供給装置の構成を示す回路図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係り、デッドショートが発生して、第2判定電圧V3が徐々に上昇する場合の、電圧V1の変化を示す特性図である。
【図9】従来における電力供給装置の構成を示す回路図である。
【図10】デッドショートが発生したときに、電圧V1が低下する原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0094】
11 コネクタ
12 負荷
13 チャージポンプ
14 ドライバ
15 制御ロジック回路
16a 第1カウンタ
16b 第2カウンタ
17 IC
W1 電源側配線
W2 負荷側配線
T1 半導体スイッチ
VB バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子(T1)の第1の主電極を電源側配線(W1)を介して電源のプラス端子に接続し、前記半導体素子の第2の主電極とグランドとの間に負荷を接続し、前記半導体素子のオン、オフを制御することにより前記負荷に電力を供給する電力供給装置において、
前記第1の主電極と前記電源側配線との間の点の電圧である第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回った場合に前記半導体素子をオフとし、第1の所定時間(t1)経過後に前記半導体素子をオンとし、
前記半導体素子をオンとしたことにより前記第1の電圧(V1)の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回った場合には、前記半導体素子のオン状態を継続し、前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回った場合には、前記半導体素子をオフ状態に保持する制御を行う制御手段を備えることを特徴とする電力供給装置。
【請求項2】
半導体素子(T1)と負荷の直列接続回路からなる負荷回路を複数備え、前記各半導体素子の第1の主電極どうしが接続点(P1)にて接続され、この接続点(P1)が唯一の電源側配線(W1)を介して電源のプラス端子に接続され、前記各半導体素子の第2の主電極が負荷に接続され、前記各負荷回路の前記半導体素子のオン、オフを制御することにより前記各負荷回路に電力を供給する電力供給装置において、
前記第1の接続点(P1)の第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回った場合に、前記各負荷回路に設けられた前記半導体素子のうちオン状態の半導体素子を全てオフとし、第1の所定時間(t1)経過後に所定の時間差を持って、前記オフとした半導体素子を順次オンとし、
前記半導体素子をオンとしたことにより前記第1の電圧(V1)の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回った場合には、前記各半導体素子のオン状態を継続し、前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回った場合には、前記各半導体素子をオフ状態に保持する制御を行う制御手段を備えることを特徴とする電力供給装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の電力供給装置において、
前記制御手段は、
前記第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回って前記半導体素子をオフとし、第1の所定時間(t1)経過後にオンとしたとき、再度第1の電圧(V1)が第1判定電圧(L_V1)を下回った場合には、前記半導体素子を再度オフとして、前記第1の所定時間(t1)経過後に再度前記半導体素子をオンとする操作を第1の所定回数(N1)繰り返して試行し、全ての試行時に前記半導体素子がオンとされたときの前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回った場合に、この半導体素子のオフ状態を保持する制御を行うことを特徴とする電力供給装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力供給装置において、
前記制御手段は、
前記第1判定電圧(L_V1)よりも大きい第2判定電圧(V3)を設定し、
前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回ったことによりオン状態の半導体素子をオフとし、前記第1の所定時間(t1)経過後にこの半導体素子を再度オンとする場合に、
前記第1の電圧(V1)の最低値が、前記第1判定電圧(L_V1)を上回り、且つ前記第2判定電圧(V3)を下回ったとき、第2の所定時間(t2)の間隔で前記半導体素子のオン、オフを繰り返すように制御し、
その間に前記第1の電圧(V1)が前記第1判定電圧(L_V1)を下回ったときは、前記第1の所定時間(t1)の間隔で前記半導体素子のオン、オフを繰り返すように制御し、その過程で、前記半導体素子がオンとされたときに、前記第1の電圧の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回り前記第2判定電圧(V3)を下回ることが、連続して第2の回数(N2)繰り返されるか、または、前記第1判定電圧(L_V1)を下回ることが、連続して前記第1の回数(N1)繰り返された場合に、前記半導体素子を遮断状態に保持することを特徴とする電力供給装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電力供給装置において、
前記制御手段は、
前記半導体素子がオフとされた後、再度オンとされたときに、前記第1の電圧の最低値が前記第1判定電圧(L_V1)を上回り、且つ前記第2判定電圧(V3)を下回るときには、前記第2判定電圧を上昇させた後、前記半導体素子をオンとする制御を行うことを特徴とする電力供給装置。
【請求項6】
請求項4に記載の電力供給装置において、
前記第1の所定時間(t1)、及び前記第2の所定時間(t2)をランダムに変化させることを特徴とする電力供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−231969(P2009−231969A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−72324(P2008−72324)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】