説明

電力変換装置

【課題】小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できる電力変換装置を提供することにある。
【解決手段】パワー半導体素子2の表面電極と電極用の金属板3は、金属ワイヤ8により金属接合される。接合部特性検出回路20は、金属接合の接合部の特性を検出し、接合部の劣化による抵抗RT8の上昇と寿命の関係から決定したしきい値VLを用いて、接合部の劣化を予測する。第1端子は、第1金属製ワイヤの一端及び他端の接続部の特性を検出するためにパワー半導体素子2の他方の主面に形成された電極面の電位に係る情報を伝達し、第2端子は、第1金属製ワイヤの一端及び他端の接続部の特性を検出するために金属板の電位に係る情報を伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワー半導体モジュールを用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パワー半導体素子を用いたパワー半導体モジュールで構成された電力変換装置は、モータ等の負荷に効率良く電力を供給することができるため、電車,自動車等の移動体のモータ駆動に幅広く利用されている。特に、最近では、自動車用の燃費向上のためのアイドルストップ後の再始動用のモータの駆動に使われつつある。
【0003】
パワー半導体素子は、電力変換装置の運転によるスイッチング、定常通電により発熱する。このため、異材間の接合部,例えば、単結晶シリコンからなるパワー半導体素子と、アルミからなるボンディングワイヤとの接合部では、線膨張係数の相違により、熱疲労による歪が生じる。そこで、従来は、長寿命化策として、温度上昇の少ない運転制御方法,パワー半導体モジュールを並列接続し電流密度を低減した構成,温度を低減するために冷却能力を拡大する方法,低熱抵抗の材料選定などにより、パワー半導体素子の温度上昇を抑え、温度マージンを大きくとることで、パワーモジュールの長寿命化、高信頼化を図ってきた。
【0004】
一方では、突然の破壊で装置停止することによる損害を防ぐため、例えば、特開平7−14948号公報に記載されるように、熱電対等の温度センサをパワー半導体モジュールに内蔵し、各接合部劣化による熱抵抗変化を使用中の温度モニターにより把握するものが知られている。また、特開平8−275586号公報に記載されるように、寿命をスイッチング動作の開始回数で置き換え、動作の開始回数をカウントすることにより寿命を把握する方法も知られている。さらには、特開2002−101668号公報に記載されるように、パワー半導体モジュールに温度検出器をとりつけ、毎運転時の温度上昇から累積被害率を計算し、寿命を算出する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−14948号公報
【特許文献2】特開平8−275586号公報
【特許文献3】特開2002−101668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の温度上昇の少ない運転制御方法等の長寿命化方法では、パワー半導体モジュールや冷却装置が大型化するという問題があった。
【0007】
また、特開平7−14948号公報等に記載された寿命予測方法では、温度センサの精度や、予測精度をこれまで以上に向上させる必要がある。パワー半導体モジュールは基本的に低い熱抵抗材料で構成されているため、亀裂による金属接合部の熱抵抗増加を、温度検知するためには1℃以下の精度が必要で、冷却能力の変化、環境温度の変化を考慮すると、実現が厳しい。特に、ワイヤボンディング等の金属接合部の劣化は、パワー半導体素子による発熱に対して劣化部の発熱、放熱が少ないため温度検知が非常に厳しいという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できる電力変換装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
記目的を達成するために、本発明は、電力変換に用いられるパワー半導体モジュールと、前記パワー半導体モジュールの駆動を制御する制御回路部と、を備える電力変換装置であって、前記パワー半導体モジュールは、金属製の配線パターンを有する絶縁板と、一方の主面に形成された電極面が前記配線パターンと対向して、かつ当該電極面が当該配線パターンと電気的に接続されるパワー半導体素子と、外部電極と電気的に接続される金属板と、前記パワー半導体素子の他方の主面に形成された電極面の電位を検出し、かつ前記制御部と電気的に接続される第1端子と、前記金属板の電位を検出し、かつ前記制御部と電気的に接続される第2端子と、一端が前記パワー半導体素子の他方の前記電極面と接合され、かつ他端が前記金属板と接合され、さらに当該パワー半導体素子の主電流が流れる第1金属製ワイヤと、一端が前記パワー半導体素子の他方の前記電極面と接合され、かつ他端が前記第1端子と接合される第2金属製ワイヤと、一端が前記金属板と接合され、かつ他端が前記第2端子と電気的に接続される第3金属製ワイヤと、を備え、前記制御部は、前記第1端子からの電位に関する情報及び前記第2端子からの電位に関する情報とに基づいて、前記第1金属製ワイヤと前記パワー半導体素子との接合部の特性、及び前記第1金属製ワイヤと前記金属板との接合部の特性を検出するための接合部特性検出部を有するものである。
かかる構成により、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できる電力変換装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。
【図2】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールに用いる接合部特性検出回路20によって検出される接合部の特性図である。
【図4】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第2の回路図である。
【図5】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第3の回路図である。
【図6】本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。
【図7】本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。
【図8】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の回路図である。
【図9】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置のシステム構成図である。
【図10】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第2の回路図である。
【図11】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置による寿命予測の原理説明図である。
【図12】本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第3の回路図である。
【図13】本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。
【図14】本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜図5を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの構成及び動作について説明する。
最初に、図1を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの回路構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。
【0013】
パワー半導体素子2は、ここでは、IGBTを例にして説明する。パワー半導体素子2は、上面電圧端子11と、ゲート端子12と、下面電圧端子13とを備えている。パワー半導体素子2のエミッタは、図2を用いて後述するように、複数の金属ワイヤ8および金属板3を介して、アースに接続される。また、パワー半導体素子2のコレクタは、ハンダを介して下面電圧端子13に接続される。ここで、パワー半導体素子2のエミッタと金属ワイヤ8は、超音波接合されるため、複数の第1の接合部が形成され、また、金属ワイヤ8と金属板3も、超音波接合されるため、複数の第2の接合部が形成される。抵抗Rt8は、これらの第1および第2の接合部の抵抗を示している。また、抵抗Rt9は、パワー半導体素子2のコレクタと下面電圧端子13を接合するハンダによる接合部の抵抗を示している。
【0014】
接合部特性検出回路20は、上面電圧端子11と、新たに設けられた電圧端子10に接続され、抵抗Rt8の両端電圧を検出する。接合部特性検出回路20は、検出された電圧値,若しくは電圧値から求められた抵抗値により、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。寿命の判定方法については、図3を用いて後述する。判定した結果は、表示器30に表示され、接合部の寿命が短くなると警報器32により警報し、また、接合部の特性や寿命を記憶部34に記憶する。記憶部34に記憶された情報は、携帯端末40を接続することにより、外部から読み出すことができる。パワー半導体モジュールを電動車両等に用いる場合は、カーディーラや自動車の修理工場が携帯端末40を有しており、この携帯端末40を用いて、接合部の寿命に関するデータを読み出すことができる。
【0015】
次に、図2を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成について説明する。
図2は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0016】
パワー半導体モジュール1は、表面に電極を持つパワー半導体素子2と、外部電極用の金属板3と、放熱用の金属板4と、両面が金属メッキ6され電極ともなる絶縁板5と、これらを支える絶縁樹脂の構造材7とを備えている。パワー半導体素子2の下面は、スイッチング時や定常通電時の発熱を放熱するため、放熱用の金属板4に、絶縁板5を介して、ハンダ9で金属接合されている。また、パワー半導体素子2の上面と外部電極用の金属板3は、複数の金属ワイヤ8により超音波接合されている。金属板3は、接地される。図1の回路図から理解されるように、パワー半導体素子2の上面電極(エミッタ)からアースに大電流が流れるため、金属ワイヤ8は複数本用いている。各電圧端子として、パワー半導体素子の上面電圧端子11,ゲート端子12,下面電圧端子13が設けられている。上面電圧端子11は、パワー半導体素子2のエミッタ電極に接続される。ゲート端子12は、パワー半導体素子2のゲート電極に接続される。下面電圧端子13は、パワー半導体素子2のコレクタ電極に接続される。
【0017】
ここで、パワー半導体素子2のエミッタ電極と金属ワイヤ8との間に、複数の第1の接合部が形成され、金属ワイヤ8と金属板3との間に、複数の第2の接合部が形成され、これらの合成抵抗が、図1に示した抵抗Rt8である。また、パワー半導体素子2のコレクタ電極と下面電圧端子13を接合するハンダ9による接合部が形成され、この抵抗が、図1に示した抵抗Rt9である。
【0018】
さらに、本実施形態では、第1の接合部の劣化の程度を判定するために、外部電極の電圧端子10を新たに設けている。パワー半導体素子2は、通電により発熱し、温度が上昇・下降を繰り返す。例えば、パワー半導体素子2は、主に単結晶シリコンからなり、線膨張係数は約4.2×10−6/℃であるのに対して、金属ワイヤ8は、純アルミまたは数ppmのニッケル含有のアルミからなり、線膨張係数は約23×10−6/℃で、約5倍の違いがある。このため、長い間の使用により、線膨張係数の違いによる歪が生じ、パワー半導体素子2の上面で接合された金属ワイヤ8の接合部には亀裂の発生・進展が生じる。この亀裂・進展により、金属ワイヤ8の接合面積は、長い間の使用により、徐々に小さくなり、この部分は電気抵抗が徐々に大きくなる。そして、図1に示したように、電圧端子10および上面端子11を用いて、第1の接合部の両端電圧を測定するようにしている。同様にして、下面の接合部であるハンダ9も電気抵抗が徐々に大きくなる。したがって、ハンダ9の接合部の抵抗によっても、接合部の劣化を判定することができる。
【0019】
なお、以上の説明では、パワー半導体素子2として、IGBTを例にしているが、MOSFETを用いた場合についても同様である。
【0020】
次に、図3を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールに用いる接合部特性検出回路20によって検出される接合部の特性について説明する。
図3は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールに用いる接合部特性検出回路20によって検出される接合部の特性図である。
【0021】
図3において、横軸は、耐久回数,すなわち、パワー半導体素子のスイッチング回数を示している。縦軸は、接合部特性検出回路20によって検出される接合部の電圧を示している。なお、接合部を流れる電流を検出することができるので、接合部の抵抗であってもよいものである。
【0022】
図3に示すように、耐久回数が増加するに従って、接合部の電圧は次第に増加する。パワー半導体素子の長い間の使用により、線膨張係数の違いによる歪が生じ、パワー半導体素子2の上面で接合された金属ワイヤ8の接合部には亀裂の発生・進展が生じる。この亀裂・進展により、金属ワイヤ8の接合面積は、長い間の使用により、徐々に小さくなり、この部分は電気抵抗が徐々に大きくなる。
【0023】
この中で、点D1,D2,D3においては、特性を示す曲線が屈曲し、各点において、電圧値が急激に増加している。これは、図2に示したように複数本ある金属ワイヤ8の複数の接合部の内の、1カ所ないし数カ所が切断され、パワー半導体素子2のエミッタ電極と金属板3とを接続する金属ワイヤ8の本数が減少して、金属ワイヤ8の合成抵抗値が急激に増加したことを示している。
【0024】
点D4では、全ての金属ワイヤ8の接合部が切断され、電圧値は無限大に上昇することを示している。したがって、点D1におけるように、接合部の最初の破壊を検出することにより、半導体パワーモジュールの寿命を知ることができる。点D1におけるしきい値VLを求めるには、予め、寿命時の金属接合部の抵抗を試験、または、面積計算によりもとめ、設計マージンをとった寿命時の金属接合部の抵抗、または電圧のしきい値を決定する。
【0025】
図1に示した回路構成では、初期状態においては、金属ワイヤ8と金属板3の抵抗は小さく、初期電圧VO、殆ど0Vである。一方、しきい値VLは、例えば、100mV程度となる。もちろん、このしきい値の値は、回路構成によって異なるものである。
【0026】
さらに、上述の考え方から、現在の寿命を次のようにして求めることができる。すなわち、現在の寿命=(現在の金属接合部の電圧V−初期の金属接合部電圧VO)/(しきい値VL−初期の金属接合部電圧値VO)として、寿命(%)を求めることができる。
【0027】
接合部特性検出回路20は、求められた寿命を表示器30に表示する。また、接合部特性検出回路20は、検出された接合部の電圧がしきい値VLとなるか、しきい値VLに近接した場合に、警報器32から警報を出力する。さらに、接合部特性検出回路20は、検出された接合部の電圧値若しくは求められた接合部の寿命を記憶部34に記憶する。記憶された内容は、外部端末40を用いることにより、記憶部34から読み出すことができる。
【0028】
次に、図4を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの第2の回路構成について説明する。
図4は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第2の回路図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0029】
接合部特性検出回路20Aは、下面電圧端子13と、新たに設けられた電圧端子10に接続され、抵抗Rt8および抵抗Rt9の両端電圧を検出する。すなわち、接合部特性検出回路20Aは、金属ワイヤ8の接合部の抵抗Rt8とハンダ9の接合部の抵抗Rt9をモニターする。
【0030】
ただし、この場合、パワー半導体素子2の電圧も含むことになる。そして、パワー半導体素子2は、温度により電圧が変化する。そこで、パワー半導体素子2の温度を検出する温度センサ52と、温度センサ52によって検出されたパワー半導体素子2の温度に基づいて、温度特性を補正する温度補正回路50を備える。接合部特性検出回路20Aは、温度補正回路50の出力によって温度補正し、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、図1に示したように、表示器30,警報器32,記憶部34に出力する。
【0031】
なお、パワー半導体素子モジュールの使用開始直後のように、通電による発熱がまだ殆どなく、外気温と同じ状態であれば、毎回ほぼ同じ温度の状態で測定することができるので、金属接合部の抵抗による電圧の測定が可能となる。したがって、通電直後のようなほぼ同じ温度の状態で測定すれば、温度センサ52や、温度補正回路50は不要となる。
【0032】
次に、図5を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの第3の回路構成について説明する。
図5は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールの第3の回路図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0033】
接合部特性検出回路20Aは、下面電圧端子13と、上面電圧端子11に接続され、抵抗Rt9の両端電圧を検出する。すなわち、接合部特性検出回路20Aは、ハンダ9の接合部の抵抗Rt9をモニターする。
【0034】
ただし、この場合、パワー半導体素子2の電圧も含むことになるので、温度センサ52と温度補正回路50とにより温度補正する。接合部特性検出回路20Aは、温度補正回路50の出力によって温度補正し、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、図1に示したように、表示器30,警報器32,記憶部34に出力する。
【0035】
なお、パワー半導体素子モジュールの使用開始直後のように、通電による発熱がまだ殆どなく、外気温と同じ状態であれば、毎回ほぼ同じ温度の状態で測定することができるので、金属接合部の抵抗による電圧の測定が可能となる。したがって、通電直後のようなほぼ同じ温度の状態で測定すれば、温度センサ52や、温度補正回路50は不要となる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、外部端子を設けて、接合部の電圧を測定するだけでよいため、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
【0037】
次に、図6および図7を用いて、本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの構成及び動作について説明する。
最初に、図6を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成について説明する。
図6は、本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの外観構成を示す断面斜視図である。なお、図2と同一符号は、同一部分を示している。
【0038】
本実施形態において、図2に示した実施形態と異なる点は、外部電極側の電圧端子10Aをパワー半導体素子の電極11,12,13と同様の形状で設けたところである。電圧端子10Aは、金属ワイヤ8Bによって外部電極3と接続されている。
【0039】
次に、図7を用いて、本実施形態によるパワー半導体モジュールの回路構成について説明する。
図7は、本発明の他の実施形態によるパワー半導体モジュールの回路図である。なお、図1と同一符号は、同一部分を示している。
【0040】
本実施形態において、図1に示した実施形態と異なる点は、接合部特性検出回路20は、上面電圧端子11と、電圧端子10Aに接続され、抵抗Rt8の両端電圧を検出することである。接合部特性検出回路20は、検出された電圧値,若しくは電圧値から求められた抵抗値により、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、図1と同様に、表示器30,警報器32,記憶部34に出力される。
【0041】
本実施形態では、図2に示した例に対して、図2の外部電極3が発生する電圧の影響、図2の電圧端子10の接触抵抗による影響が除外され、ワイヤ接合部の抵抗による電圧を精度良く測定可能となる。
【0042】
アイドルストップ等の極短時間に大電流を通電する運転モードで、放熱用の金属板4があまり温度上昇せず、ハンダ9の接合部よりも金属ワイヤ8の接合部の劣化進行が早い場合は、本例が有効である。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によれば、外部端子を設けて、接合部の電圧を測定するだけでよいため、小型で、しかも、金属接合部の劣化を精度良く検知できるものとなる。
【0044】
次に、図8および図9を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の構成及び動作について説明する。
図8は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の回路図である。図9は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置のシステム構成図である。
【0045】
図8に示すように、電力変換装置16は、3相交流モータ17を制御する場合、6個のパワー半導体素子2a,2b,2c,2d,2e,2fを備えており、バッテリ19の直流電流を3相交流電流に変換して、モータ17に供給する。例えば、パワー半導体素子2a,2bは、U相交流電流を生成し、パワー半導体素子2c,2dは、V相交流電流を生成し、パワー半導体素子2e,2fは、W相交流電流を生成する。パワー半導体素子2a,2b,2c,2d,2e,2fは、モータコントロールユニット(MCU)60によりゲート電圧を制御され、スイッチング動作する。なお、コンデンサ18は、フィルタコンデンサとして用いられている。
【0046】
上側パワー半導体素子2a,2c,2eは高電圧に接続され、下側パワー半導体素子2b,2d,2fはグランドに接続されている。この場合、電圧測定しやすい、グランド側に接続されているパワー半導体モジュール2b,2d,2fのうち、さらにモジュール内で最も温度が高くなるパワー半導体素子の金属接合部の電圧を取り出すことにより、高電圧を考慮しなくても簡単に電圧を取り出すことができる。具体的には、下側パワー半導体素子2b,2fは両端部に配置されるために比較的放熱状態がよいの対して、中央の下側パワー半導体素子2dは放熱状態が悪く、高温になりやすい。そこで、接合部特性検出回路20は、中央の下側パワー半導体素子2dの金属ワイヤ接合部の両端電圧を、図1に示した構成により、検出する。
【0047】
図9に示すように、モータコントロールユニット60は、運転者の加速の程度のような意図を検出するセンサ62の出力に応じて、電力変換装置16を構成するパワー半導体素子をスイッチング駆動する。これによって、バッテリ19からモータ17に供給されるモータ駆動電流が制御される。ここで、センサ62としては、例えば、アクセル開度センサが用いられる。
【0048】
接合部特性検出回路20は、図1に示したようにして、接合部電圧Vとして、金属ワイヤの接合部の抵抗Rt8の両端電圧を検出する。なお、モータ駆動電流Iをモニタすることにより、接合部特性検出回路20は、接合部の抵抗値により劣化の具合を判定するようにすることもできる。接合部特性検出回路20は、検出された電圧値,若しくは電圧値から求められた抵抗値により、接合部の特性を検出し、接合部の寿命等を判定する。判定した結果は、表示器30に表示され、接合部の寿命が短くなると警報器32により警報し、また、接合部の特性や寿命を記憶部34に記憶する。記憶部34に記憶された情報は、携帯端末を接続することにより、外部から読み出すことができる。
【0049】
次に、図10および図11を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第2の構成及び動作について説明する。
図10は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第2の回路図である。なお、図8と同一符号は、同一部分を示している。図11は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置による寿命予測の原理説明図である。
【0050】
図10に示すように、本例では、図8に示した構成に加えて、寿命予測回路22を備えている。寿命予測回路22は、図11に示すように、これまでの寿命推移から、直線近似で将来の寿命を予測する。この予測結果を表示器30に表示する。表示内容は、例えば、「本装置の寿命は、x年y月z日です」というようにする。これにより、使用者は、時間で寿命を把握することが出来る。
【0051】
次に、図12を用いて、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第3の構成及び動作について説明する。
図12は、本発明の一実施形態によるパワー半導体モジュールを用いた電力変換装置の第3の回路図である。なお、図8と同一符号は、同一部分を示している。
【0052】
本実施形態では、接合部特性検出回路20Bは、判定された半導体パワーモジュールの寿命が所定に寿命になると、モータコントロールユニット60に対して、パワーセーブ信号PSを出力する。モータコントロールユニット60は、パワーセーブ信号が入力すると、モータ17に供給する電流を減少させ、モータの出力トルクを小さくして、パワーセーブ運転とする。モータ電流が小さくなることにより、接合部に流れる電流も小さくなるため、接合部の寿命を長くすることができる。パワーセーブ信号を出力するときの寿命は、例えば、95%とする。また、パワーセーブ信号を出力したときは、表示器30に、「現在寿命xx%。パワーセーブ運転中」というような表示をする。これにより寿命に近づくと、運転が制限され、モータの停止による損害を防ぐことができる。
【0053】
次に、図13を用いて、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体の構成について説明する。
図13は、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。なお、図12と同一符号は、同一部分を示している。
【0054】
移動体70は、モータ17のみによって駆動される電気自動車や、モータとエンジンによって駆動されるハイブリット自動車等の電動車両である。モータ17は、図12に示した電力変換システムによって駆動される。接合部特性検出回路20Bがパワーセーブ信号を出力したときは、表示器30に、「現在寿命xx%。パワーセーブ運転中。点検してください」というような表示をする。これにより、電力変換装置の交換時期の把握ができるため、コストを低減が可能で、移動体に搭載することができる。特に、自動車用の燃費向上のためのアイドルストップ用のモータ駆動のような、通電モードの電力変換装置として有効である。
【0055】
ここで、図14を用いて、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体の構成について説明する。
図14は、本発明の一実施形態による電力変換装置を用いた移動体のブロック図である。なお、図13と同一符号は、同一部分を示している。
【0056】
本実施形態は、モータ17に加えて、エンジン80を備えているハイブリット自動車に適用した場合を示している。例えば、モータ17によって前輪を駆動し、エンジン80によって後輪を駆動する。なお、モータ17によって後輪を駆動し、エンジン80によって前輪を駆動するものでもよく、モータ17及びエンジン80によって前輪若しくは後輪を駆動するものであってもよいものである。
【0057】
エンジンコントロールユニット(ECU)70は、クランク角センサ92によって検出されたエンジン回転数や、空気流量センサ93によって検出された吸入空気量等に応じて、エンジン80に対する燃料噴射量や点火時期を制御する。ECU70は、例えば、ブレーキペダルセンサ94によってブレーキが踏まれていることを検出し、しかも、車速センサ95によって車速が0km/hであり停止状態にあることを検出するなどの所定の条件を満たされると、エンジン80を停止して、アイドルストップする。その後、ブレーキペダルセンサ94によってブレーキの踏込みが中止され、アクセルペダルセンサ96によってアクセルペダルが踏み込まれたことを検出するなどの所定の条件を満たされると、MCU60にモータ駆動の指令を送る。MCU60によってモータ17が駆動されると、移動体が移動を始める。ECU70は、車速センサ95によって検出される車速が0km/hより早くなり、移動体が移動し始めたことを検出すると、燃料噴射制御や点火時期制御を開始して、エンジン80を再始動する。以上のようにして、アイドルストップ時には、モータ17により移動体を移動開始するとともに、その後はエンジン70を再始動する。
【0058】
以上説明したように、本発明の各実施形態によれば、金属接合部の劣化を、その抵抗上昇や電圧上昇により検知することで、パワー半導体モジュール,それを用いた電力変換装置,電気自動車等の移動体において、保守費用のコストダウンや、小型化,軽量化による燃費等のユーザメリットの拡大、予期せぬ破壊による損害の低減を実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換に用いられるパワー半導体モジュールと、
前記パワー半導体モジュールの駆動を制御する制御回路部と、を備える電力変換装置であって、
前記パワー半導体モジュールは、
金属製の配線パターンを有する絶縁板と、
一方の主面に形成された電極面が前記配線パターンと対向して、かつ当該電極面が当該配線パターンと電気的に接続されるパワー半導体素子と、
外部電極と電気的に接続される金属板と、
前記パワー半導体素子の他方の主面に形成された電極面の電位を検出し、かつ前記制御部と電気的に接続される第1端子と、
前記金属板の電位を検出し、かつ前記制御部と電気的に接続される第2端子と、
一端が前記パワー半導体素子の他方の前記電極面と接合され、かつ他端が前記金属板と接合され、さらに当該パワー半導体素子の主電流が流れる第1金属製ワイヤと、
一端が前記パワー半導体素子の他方の前記電極面と接合され、かつ他端が前記第1端子と接合される第2金属製ワイヤと、
一端が前記金属板と接合され、かつ他端が前記第2端子と電気的に接続される第3金属製ワイヤと、を備え、
前記制御部は、前記第1端子からの電位に関する情報及び前記第2端子からの電位に関する情報とに基づいて、前記第1金属製ワイヤと前記パワー半導体素子との接合部の特性、及び前記第1金属製ワイヤと前記金属板との接合部の特性を検出するための接合部特性検出部を有することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電力変換装置において、
前記金属板を固定するための樹脂製構造体と、を備え、
前記第1金属製ワイヤと前記金属板との接合部の高さは、前記パワー半導体素子の他方の前記電極面の高さと異なるように、前記金属板が前記樹脂製構造体に固定されることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載された電力変換装置において、
前記パワー半導体素子のスイッチング動作を制御するための電極と電気的に接続された第3端子と、を備え、
前記第1端子と前記第2端子と前記第3端子は、前記樹脂製構造体の側壁に沿って、一列に並べて配置されることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電力変換装置において、
前記パワー半導体素子の他方の前記電極面と前記第1金属製ワイヤは、超音波によって接合され、
前記金属板と前記第1金属製ワイヤは超音波によって接合されることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれかに記載の電力変換装置において、
前記パワー半導体素子の一方の主面に形成された前記電極面と前記配線パターンと電気的に接続するための第1はんだ材と、
前記絶縁板を介して、前記パワー半導体素子が配置された側とは反対側に配置され、かつ前記パワー半導体素子の発生熱を放熱するための放熱金属板と、
前記絶縁板と前記放熱金属板を接合するための第2はんだ材と、を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれかに記載の電力変換装置において、
前記パワー半導体素子は、IGBTであり、
前記パワー半導体素子の一方の主面に形成された前記電極面は、コレクタ電極を形成し、
前記パワー半導体素子の他方の主面に形成された前記電極面は、エミッタ電極を形成する電力変換装置。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれかに記載の電力変換装置において、
前記接合部特性検出部は、前記接合部の特性の検出結果に係る情報を、当該接合部の特性の検出結果を表示するための表示器に伝達することを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれかに記載の電力変換装置において、
前記接合部特性検出部は、前記接合部の特性の検出結果に係る情報を、当該接合部の特性の検出結果を警報するための警報器に伝達することを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれかに記載の電力変換装置において、
前記接合部特性検出部は、前記接合部の特性の検出結果に係る情報を記憶するための記憶部と有し、
前記記憶部に記憶された前記接合部の特性の検出結果に係る情報は、外部端末から指令に応じて当該外部端末に送信されることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2010−81796(P2010−81796A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294075(P2009−294075)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【分割の表示】特願2005−509597(P2005−509597)の分割
【原出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】