説明

電力変換装置

【課題】比較的簡素な処理で異常を検出可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置1は、複数の相に対応するコイル11〜13から構成される巻線組18を有するモータ10に通電される電力を変換する。インバータ部20は、U相コイル11、V相コイル12、W相コイル13の各相に対応する上MOS21〜23および下MOS24〜26によりスイッチング素子対をなす複数のMOS21〜26を有する。プルアップ抵抗61〜63は、コイル11〜13の各相とバッテリ31の高電位側との間に設けられる。中性点電圧検出部51は、巻線組18の中性点電圧Vmを検出する。マイコン70は、中性点電圧Vmに基づき、異常を検出する。これにより、電圧を検出する箇所を減らしているので、電圧検出に係る部品点数を低減することができ、比較的簡素な処理で異常を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に通電される電力を変換する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のスイッチング素子のオンおよびオフを切り替えることにより回転電機に通電される電力を変換する電力変換装置が公知である。例えば、回転電機がモータである場合、電力変換装置に故障が生じていると、所望のトルクを出力できず、モータの出力軸と連結されるギア等の機械装置にダメージを与える虞がある。そこで、特許文献1では、給電線の任意の一線にバイアス電圧を印加するバイアス回路を設け、給電線の異常を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−50707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、全ての相の給電線の電圧を検出しているため、電圧検出箇所が多く、異常検出に係る処理が複雑であるという問題点があった。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的簡素な処理で異常を検出可能な電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の電力変換装置は、複数の相に対応する巻線から構成される巻線組を有する回転電機に通電される電力を変換する。電力変換装置は、インバータ部と、抵抗器と、中性点電圧検出手段と、異常検出手段と、を備える。インバータ部は、巻線の各相に対応し、高電位側に配置された高電位側スイッチング素子および低電位側に配置された低電位側スイッチング素子によりスイッチング素子対をなす複数のスイッチング素子を有する。抵抗器は、巻線の各相と電源の高電位側との間に設けられる。中性点電圧検出手段は、巻線組の中性点電圧を検出する。異常検出手段は、中性点電圧検出手段により検出された電圧に基づき、異常を検出する。
【0006】
本発明では、巻線組の中性点電圧を検出し、各相の巻線に印加される電圧を検出していない。これにより、電圧を検出する箇所を減らしているので、電圧検出に係る部品点数を低減することができ、比較的簡素な処理で異常を検出することができる。
なお、インバータ部および巻線組が複数系統からなる場合、抵抗器および中性点電圧検出手段は、系統ごとに上記の如く設けられることが好ましい。以下の請求項に係る発明においても同様である。インバータ部および巻線組が複数系統からなる場合、電圧検出に係る部品点数の削減効果がより大きい。
【0007】
請求項2に記載の発明では、抵抗器の抵抗値は、相毎に異なっている。これにより、異常箇所に応じて中性点電圧が異なる値となるので、中性点電圧に基づき、異常箇所を比較的容易に特定することができる。
【0008】
請求項3に記載の電力変換装置は、複数の相に対応する巻線から構成される巻線組を有する回転電機に通電される電力を変換する。電力変換装置は、インバータ部と、第1の抵抗器と、第2の抵抗器と、中性点電圧検出手段と、異常検出手段と、を備える。インバータ部は、巻線の各相に対応し、高電位側に配置された高電位側スイッチング素子および低電位側に配置された低電位側スイッチング素子によりスイッチング素子対をなす複数のスイッチング素子を有する。第1の抵抗器は、巻線と電源の高電位側との間に設けられる。第2の抵抗器は、巻線ごとに設けられ、一端が巻線と接続し、他端が1つの結線部で結線される。中性点電圧検出手段は、結線部に印加される電圧を中性点電圧として検出する。異常検出手段は、中性点電圧検出手段により検出された中性点電圧に基づき、異常を検出する。
【0009】
巻線ごとに設けられた第2の抵抗器の結線部に印加される電圧は、巻線の中性点に印加される電圧と一致する。そこで、第2の抵抗器の結線部に印加される電圧を中性点電圧とみなし、当該電圧に基づいて異常を検出するので、電圧の検出箇所を低減でき、電圧検出に係る部品点数を減らすことができる。また、比較的簡素な処理で異常を検出することができる。なお、第2の抵抗器の抵抗値は、巻線の抵抗値と比較して十分に大きい値とすることが好ましい。
また、回転電機の外部にて各相の巻線と第2の抵抗器の一端とを接続すれば、中性点電圧を検出するための配線を回転電機から別途取り出す必要がないので、回転電機の構成を変更することなく中性点電圧を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態による電力変換装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態による異常検出処理を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の第2実施形態による電力変換装置の構成を示す模式図である。
【図4】本発明の他の実施形態による電力変換装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による電力変換装置を図面に基づいて説明する。なお、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態による電力変換装置1は、回転電機としてのモータ10に通電される電力を変換するものである。電力変換装置1は、モータ10とともに、例えば車両のステアリング操作をアシストするための電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)に適用される。
【0012】
モータ10は、三相ブラシレスモータであり、図示しないロータおよびステータを有している。ロータは、円板状の部材であり、その表面に永久磁石が貼り付けられ、磁極を有している。ステータは、ロータを内部に収容するとともに、回転可能に支持している。ステータは、径内方向へ所定角度毎に突出する突出部を有し、この突出部に図1に示すU相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13が巻回されている。U相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13は、それぞれU相、V相、およびW相に対応する巻線であり、全体で巻線組18を構成している。なお、図1には、U相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13は、それぞれ1つのコイルとして図示されているが、U相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13は、複数のコイルから構成されていても差し支えない。本実施形態では、U相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13は、中性点17で接続されている。すなわち、U相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13は、Y結線されている。
【0013】
電力変換装置1は、インバータ部20、中性点電圧検出手段としての中性点電圧検出部51、抵抗器としてのプルアップ抵抗61〜63、およびマイコン70等を備えている。
インバータ部20は、三相インバータであり、巻線組18のU相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13のそれぞれへの通電を切り替えるべく、6つのスイッチング素子21〜26がブリッジ接続されている。スイッチング素子21〜26は、本実施形態においては、電界効果トランジスタの一種であるMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)である。以下、スイッチング素子21〜26を、MOS21〜26という。
【0014】
3つのMOS21〜23は、電源としてのバッテリ31の正極側にドレインが接続されている。また、MOS21〜23のソースが、それぞれMOS24〜26のドレインに接続されている。MOS24〜26のソースは、シャント抵抗27〜29を介してグランドに接続されている。
【0015】
対になっているMOS21とMOS24との接続点は、U相コイル11の一端に接続している。また、対になっているMOS22とMOS25との接続点は、V相コイル12の一端に接続している。さらにまた、対になっているMOS23とMOS26との接続点は、W相コイル13の一端に接続している。
【0016】
MOS24〜26とグランドとの間には、シャント抵抗27〜29が設けられている。具体的には、MOS24とグランドとの間にシャント抵抗27が設けられ、MOS25とグランドとの間にシャント抵抗28が設けられ、MOS26とグランドとの間にシャント抵抗29が設けられる。このシャント抵抗27〜29に通電される電流の電圧値(または電流値)を検出することにより、コイル11〜13に通電される電流を検出している。
【0017】
ここで、MOS21〜23がインバータ部20における「高電位側スイッチング素子」に対応している。また、MOS24〜26がインバータ部20における「低電位側スイッチング素子」に対応している。以下、適宜、「高電位側スイッチング素子」を「上MOS」といい、「低電位側スイッチング素子」を「下MOS」という。また、必要に応じて「U上MOS21」といった具合に、対応する相を合わせて記載する。また、対になっているMOS21とMOS24、MOS22とMOS25、MOS23とMOS26が、それぞれ「スイッチング素子対」に対応している。
【0018】
また、バッテリ31の正極側から上MOS21〜23のドレインへ至る経路を、バッテリライン33とし、シャント抵抗27〜29からグランドへ至る経路を、グランドライン34とする。本実施形態では、バッテリライン33が「電源の高電位側」と対応し、グランドライン34が「電源の低電位側」と対応している。以下、バッテリ31の正極側からグランドへ至る経路において、バッテリ31側を上流、グランド側を下流とする。
【0019】
バッテリ31の正極側とインバータ部20との間のバッテリライン33には、電源リレー32が設けられている。電源リレー32は、マイコン70によりオン/オフが制御され、バッテリ31とインバータ部20およびモータ10との間の電流の流れを許容または遮断する。電源リレー32は、所謂ノーマリーオープンタイプの電源リレーであり、マイコン70からのオン指令がないときはオープン状態(オフ状態)のため電流の流れを遮断し、マイコン70からのオン指令があったときはクローズ状態(オン状態)となり電流の流れを許容する。
【0020】
コンデンサ36は、一端が電源リレー32とインバータ部20との間にてバッテリライン33と接続し、他端がインバータ部20とバッテリ31との間にてグランドライン34と接続している。すなわち、コンデンサ36は、バッテリ31とインバータ部20との間に設けられている。コンデンサ36は、電荷を蓄えることで、MOS21〜26への電力供給を補助したり、バッテリ80からモータ10へ電力を供給する際に生じるリップル電流を抑制したりする。
【0021】
プリチャージ回路40は、コンデンサ36とバッテリライン33との接続部と、電源リレー32と、の間に接続される。プリチャージ回路40は、プリチャージバッテリ41、プリチャージリレー42、プリチャージ抵抗43を有している。
プリチャージバッテリ41は、バッテリ31よりも電圧が小さい。本実施形態では、バッテリ31の電圧(以下、「バッテリ電圧Vpig」という。)が12Vであり、プリチャージバッテリ41の電圧(以下、「プリチャージ電圧Vpre」という。)が5Vである。
【0022】
プリチャージリレー42は、マイコン70によりオン/オフが制御され、プリチャージバッテリ41とバッテリライン33との間の電流の流れを許容または遮断する。本実施形態では、プリチャージリレー42とバッテリライン33との間には、プリチャージ抵抗43が設けられている。プリチャージ抵抗43は、プリチャージリレー42がオンとなるように制御したとき、プリチャージバッテリ41からコンデンサ36に瞬間的に大電流が流れるのを防止するために設けられている。プリチャージ抵抗43の抵抗値は、例えば10Ωまたは100Ω等の任意の値に設定されている。なお、プリチャージバッテリ41からの過剰な出力を制限する機能が備えられていれば、プリチャージ抵抗43は設けなくてもよい。
【0023】
リレー後電圧検出部50は、電源リレー32の下流側におけるバッテリライン33の電圧(以下、「リレー後電源電圧Vr」という。)を検出する。リレー後電圧検出部50は、一端がプリチャージ回路40とコンデンサ36との間のバッテリライン33に接続され、他端がグランドに接続されている。リレー後電圧検出部50は、3つの抵抗501、502、503を有している。直列に接続される2つの抵抗501、502は、分圧抵抗を構成する。抵抗501、502の抵抗値は、抵抗501、502の接続点に印加される電圧がマイコン70にて検出可能な電圧となるように設定される。また、抵抗501、502の接続点とマイコン70との間に接続される抵抗503は、マイコン70側に過電流が流れるのを防ぐために設けられている。
【0024】
本実施形態では、巻線組18の中性点電圧を検出する中性点電圧検出部51が設けられている。中性点電圧検出部51は、U相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13の中性点17に印加される電圧(以下、「中性点電圧Vm」という。)を検出する。中性点電圧検出部51は、一端が中性点17に接続され、他端がグランドに接続されている。本実施形態では、中性点17と中性点電圧検出部51とを接続する配線171が、コイル11〜13の相毎にインバータ部20側へ取り出される配線とは別途、モータ10から取り出されている。中性点電圧検出部51は、リレー後電圧検出部50と同様、3つの抵抗511、512、513を有している。直列に接続される2つの抵抗511、512は、分圧抵抗を構成する。抵抗511、512の抵抗値は、抵抗511、512の接続点に印加される電圧がマイコン70にて検出可能な電圧となるように設定される。また、抵抗511、512の接続点とマイコン70との間に接続される抵抗513は、マイコン70側に過電流が流れるのを防ぐために設けられている。
【0025】
プルアップ抵抗61〜63は、巻線の各相とバッテリ31の高電位側との間に設けられる。具体的には、U相コイル11とバッテリ31の高電位側との間にプルアップ抵抗61が設けられ、V相コイル12とバッテリ31の高電位側との間にプルアップ抵抗62が設けられ、W相コイル13とバッテリ31の高電位側との間にプルアップ抵抗63が設けられる。換言すると、プルアップ抵抗61が、電源リレー32の下流側においてバッテリライン33とU相コイル11とを接続し、プルアップ抵抗62が、電源リレー32の下流側においてバッテリライン33とV相コイル12とを接続し、プルアップ抵抗63が、電源リレー32の下流側において、バッテリライン33とW相コイル13とを接続する。すなわち、本実施形態では、U相、V相、およびW相がプルアップ抵抗61〜63によりプルアップされている。
【0026】
ここで、電力変換装置1に用いられる各種抵抗の抵抗値をまとめておく。
プルアップ抵抗61の抵抗値(以下、「RpullU」という。)、プルアップ抵抗62の抵抗値(以下、「RpullV」という。)、およびプルアップ抵抗63の抵抗値(以下、「RpullW」という。)は、いずれも10500Ωである。また、中性点電圧検出部51を構成する抵抗511の抵抗値(以下、「RupM」という。)は0Ωであり、抵抗512の抵抗値(以下、「RdownM」という。)は1000Ωであり、抵抗513の抵抗値(以下、「RdampM」という。)は2400Ωである。さらに、U相コイル11の抵抗値(以下、「RmU」という。)、V相コイル12の抵抗値(以下、「RmV」という。)、およびW相コイル13の抵抗値(以下、「RmW」という。)は、いずれも0.01Ωである。
【0027】
マイコン70は、集積回路等を有する小型のコンピュータであり、電力変換装置1の種々の部品および検出手段等に接続している。マイコン70の記憶部にはプログラムが格納されており、マイコン70は当該プログラムに従い種々の処理を実行するとともに接続先の部品等の作動を制御する。
【0028】
マイコン70は、MOS21〜26、電源リレー32、プリチャージリレー42、のそれぞれに接続している。図1では、煩雑になることを避けるため、これらの制御線については省略している。また、マイコン70には、イグニッション電源71が接続されている。車両の操作者がイグニッションキーをオンにすると、イグニッション電源71からマイコン70へ電力が供給され、マイコン70による種々の処理が開始される。
【0029】
マイコン70は、PWM制御によりMOS21〜26のオン/オフを切り替えることで、モータ10のトルクおよび回転数を調節する。電源リレー32がオンとなるように制御され、インバータ部20側への電力の供給が許容されているとき、マイコン70は、MOS21〜26のオン/オフを切り替える。これにより、バッテリ31からの直流電流が相毎に位相の異なる正弦波電流に変換される。そして、位相の異なる正弦波電流に変換された電流がU相コイル11、V相コイル12、およびW相コイル13に通電され、通電により生じる磁界を受けてモータ10が回転する。このように、マイコン70は、MOS21〜26のオン/オフを切り替えることにより、モータ10の駆動を制御している。
マイコン70は、リレー後電圧検出部50からリレー後電源電圧Vrを取得する。また、マイコン70は、中性点電圧検出部51から中性点電圧Vmを取得する。
【0030】
本実施形態では、マイコン70は、中性点電圧Vmに基づき、インバータ部20、コイル11〜13、およびインバータ部20とコイル11〜13との間における異常を検出している。
ここで、異常検出処理を図2に示すフローチャートに基づいて説明する。図2に示す処理は、イグニッション電源71がオンされたときに実行される処理である。
【0031】
最初のステップS101(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、プリチャージリレー42をオンにする。このとき、電源リレー32はオンせず、オフの状態を維持する。
【0032】
S102では、リレー後電圧検出部50からリレー後電源電圧Vrを取得し、リレー後電源電圧Vrが正常か否かを判断する。ここでは、電源リレー32がオフ、プリチャージリレー42がオンであるので、正常時のリレー後電源電圧Vrは、プリチャージ電圧Vpre、すなわち5Vとなる。したがって、リレー後電源電圧Vrがプリチャージ電圧Vpreである5Vを含む所定の範囲内であるとき、リレー後電源電圧Vrが正常であると判断する。例えば、4.5≦Vr≦5.5のとき、正常であると判断する。リレー後電源電圧Vrが正常でないと判断された場合(S102:NO)、すなわちVr<4.5またはVr>5.5である場合、S108へ移行する。なお、Vr≒0のとき、コンデンサ36のショート故障、プリチャージバッテリ41の故障、またはプリチャージリレー42の故障であると特定できる。また、Vr≒12のとき、電源リレー32のショート故障であると特定できる。リレー後電源電圧Vrが正常であると判断された場合(S102:YES)、すなわち4.5≦Vr≦5.5である場合、S103へ移行する。
【0033】
S103では、電源リレー32をオンにし、プリチャージリレー42をオフにする。
S104では、中性点電圧検出部51から中性点電圧Vmを取得し、取得した中性点電圧Vmが正常か否かを判断する。
正常時における中性点電圧Vmは、以下の式(1)で算出される。
Vm=Vpig×(RdownM)/(Rp3+RupM+RdownM)
…(1)
ただし、Rp3は、プルアップ抵抗61およびU相コイル11と、プルアップ抵抗62およびV相コイル12と、プルアップ抵抗63およびW相コイル13と、の合成抵抗であって、以下の式(2)で算出される。
Rp3={(RpullU+RmU)×(RpullV+RmV)
×(RPullW+RmW)}
/{(RpullU+RmU)(RpullV+RmV)
+(RpullV+RmV)(RpullW+RmW)
+(RpullW+RmW)(RpullU+RmU)}
…(2)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値とすると、正常時の中性点電圧Vmは、2.66Vとなる。
【0034】
本実施形態では、中性点電圧Vmが上記式(1)により算出される値である2.66Vを含む所定の範囲内のとき、中性点電圧Vmが正常であると判断する。例えば、2.4≦Vm≦2.8のとき、中性点電圧Vmが正常であると判断する。中性点電圧Vmが正常でないと判断された場合(S104:NO)、すなわち、Vm<2.4またはVm>2.8である場合、S108へ移行する。なお、中性点電圧Vmに基づき、異常の有無だけでなく、異常箇所を特定可能であるが、異常箇所の特定については後述する。中性点電圧Vmが正常であると判断された場合(S104:YES)、すなわち2.4≦Vm≦2.8である場合、S105へ移行する。
【0035】
S105では、電源リレー32をオンにし、プリチャージリレー42をオフにする。
S106では、MOS21〜26を1相ずつ50%駆動したときの中性点電圧が正常か否かを判断する。具体的には、U上MOS21およびU下MOS24を50%駆動したときの中性点電圧Vmを取得し、取得した中性点電圧Vmが正常か否かを判断する。また、V上MOS22およびV下MOS25を50%駆動したときの中性点電圧Vmを取得し、取得した中性点電圧Vmが正常か否かを判断する。さらにまた、W上MOS23およびW下MOS26を50%駆動したときの中性点電圧Vmを取得し、取得した中性点電圧Vmが正常か否かを判断する。
なお、正常時における各相MOS50%駆動時の中性点電圧Vmは、以下のように算出される。すなわち、U相を50%駆動したときの中性点電圧Vmを式(3−1)、V相を50%駆動したときの中性点電圧Vmを式(3−2)、W相を50%駆動したときの中性点電圧Vmを式(3−3)に示す。
Vm=Vpig×0.5×RdownM/(RmU+RdownM) …(3−1)
Vm=Vpig×0.5×RdownM/(RmV+RdownM) …(3−2)
Vm=Vpig×0.5×RdownM/(RmW+RdownM) …(3−3)
【0036】
本実施形態では、中性点電圧Vmが上記式(3−1)〜(3−3)にて算出される値を含む所定の範囲内である場合、各相MOS50%駆動時の電圧が正常であると判断する。具体的には、例えば上記式(3−1)〜(3−3)で算出される値に0.9を乗じた値以上、1.1を乗じた値以下のとき、正常であると判断する。各相MOS50%駆動時の中性点電圧Vmが正常ではないと判断された場合(S106:NO)、S108へ移行する。各相MOS50%駆動時の中性点電圧Vmが正常であると判断された場合(S106:YES)、S107へ移行する。
【0037】
S107では、EPSの駆動を開始する。
リレー後電源電圧Vrが正常でないと判断された場合(S102:NO)、中性点電圧Vmが正常でないと判断された場合(S104:NO)、または各相MOS50%駆動時の中性点電圧Vmが正常でないと判断された場合(S106:NO)に移行するS108では、停止処理を実行し、本処理を終了する。具体的には、例えば電源リレー32がオンになっている場合、電源リレー32をオフにする。
【0038】
ここで、電源リレー32をオン、プリチャージリレー42をオフにしたときの中性点電圧Vmに基づく異常箇所の特定について説明する。
上MOS21〜23のいずれかがショートしている場合、中性点電圧Vmは、以下の式(4)で算出される。
Vm=Vpig×{(RdownM)/(RupM+RdownM)} …(4)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値としたとき、上MOS21〜23ショート時における中性点電圧Vmは、12Vとなる。
また、下MOS24〜26のいずれかがショートしている場合、中性点電圧Vmは、以下の値となる。
Vm=0 …(5)
【0039】
U相配線が断線している場合、中性点電圧Vmは、以下の式(6)で算出される。
Vm=Vpig×(RdownM)/(Rp2u+RupM+RdownM)
…(6)
ただし、Rp2uは、プルアップ抵抗62およびV相コイル12と、プルアップ抵抗63およびW相コイル13と、の合成抵抗であって、以下の式(7)で算出される。
Rp2u={(RpullV+RmV)×(RpullW+RmW)}
/{(RpullV+RmV)+(RpullW+RmW)} …(7)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値としたとき、U相配線断線時の中性点電圧Vmは1.92Vとなる。
【0040】
V相配線が断線している場合、中性点電圧Vmは、以下の式(8)で算出される。
Vm=Vpig×(RdownM)/(Rp2v+RupM+RdownM)
…(8)
ただし、Rp2vは、プルアップ抵抗61およびU相コイル11と、プルアップ抵抗63とW相コイル13と、の合成抵抗であって、以下の式(9)で算出される。
Rp2v={(RpullU+RmU)×(RpullW+RmW)}
/{(RpullU+RmU)+(RpullW+RmW)} …(9)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値としたとき、V相配線断線時の中性点電圧Vmは1.92Vとなる。
【0041】
W相配線が断線している場合、中性点電圧Vmは、以下の式(10)で算出される。
Vm=Vpig×(RdownM)/(Rp2w+RupM+RdownM)
…(10)
ただし、Rp2wは、プルアップ抵抗61およびU相コイル11と、プルアップ抵抗62とV相コイル12と、の合成抵抗であって、以下の式(11)で算出される。
Rp2w={(RpullU+RmU)×(RpullV+RmV)}
/{(RpullU+RmU)+(RpullV+RmV)} …(11)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値としたとき、W相配線断線時の中性点電圧Vmは1.92Vとなる。
【0042】
なお、「U相配線」とは、U相コイル11だけでなく、U上MOS21とU下MOS24との接続点からU相コイル11へ至る配線を含む。同様に、「V相配線」とは、V相コイル12だけでなく、V上MOS22とV下MOS25との接続点からV相コイル12へ至る配線を含む。また、「W相配線」とは、W相コイル13だけでなく、W上MOS23とW下MOS26の接続点からW相コイル13へ至る配線を含む。
【0043】
上記式(4)、(5)、(6)、(8)、(10)に示すように、電源リレー32をオン、プリチャージリレー42をオフにしたときの中性点電圧Vmは、異常箇所に応じて異なる値となるので、中性点電圧Vmに基づき、異常箇所を特定することができる。例えば、式(4)、(5)、(6)、(8)、(10)で算出される値を含む所定の範囲を設定し、中性点電圧Vmが設定された所定の範囲内の値となる場合、該当する異常が生じていると特定することができる。なお、プルアップ抵抗61〜63の抵抗値が等しいので、U相配線が断線している場合、V相配線が断線している場合、およびW相配線が断線している場合、中性点電圧Vmは同じ値となる。これらを区別する必要がある場合には、本処理とは別処理にて異常箇所を特定するようにしてもよい。なお、本実施形態では、プルアップ抵抗61〜63の抵抗値が等しいので、異常箇所の特定が不要である場合、または異常箇所の特定を別処理で行う場合、異常検出に係る閾値となる上限値と下限値との幅を大きくすることができ、異常検出が容易になる。
【0044】
以上詳述したように、電力変換装置1は、複数の相(本実施形態では3相)に対応するコイル11〜13から構成される巻線組18を有するモータ10に通電される電力を変換する。インバータ部20は、U相コイル11、V相コイル12、W相コイル13の各相に対応する上MOS21〜23および下MOS24〜26によりスイッチング素子対をなす複数のMOS21〜26を有する。プルアップ抵抗61〜63は、コイル11〜13の各相とバッテリ31の高電位側との間に設けられる。中性点電圧検出部51は、巻線組18の中性点電圧Vmを検出する。マイコン70は、中性点電圧Vmに基づき、異常を検出する。
【0045】
本実施形態では、コイル11〜13の中性点17に印加される電圧を中性点電圧Vmとして検出し、各相のコイル11〜13に印加される電圧を検出していない。これにより、電圧を検出する箇所を減らしているので、電圧検出に係る部品点数を低減することができ、コストを抑えることができる。また、中性点電圧Vmは、異常の有無または異常箇所によって異なる値となる。これにより、電圧検出箇所を低減し、比較的簡素な処理で異常を検出することができる。
【0046】
また、モータ10をEPSに適用しているので、コイル11〜13の断線等の異常が生じていると、ハンドルのトルクリップルが大きくなりドライバーに不快感を与えたり、ハンドル角によってはアシストトルクを出力できなかったりする虞がある。本実施形態では、コイル11〜13の断線等の異常を検出しているので、速やかにワーニングランプを点灯するなどの報知手段によりドライバーに異常を伝えたり、モータ10を故障時用の駆動に切り替えたりすることにより、安全性を向上できる。
なお、本実施形態では、マイコン70が「異常検出手段」を構成する。また、図2中のS104が「異常検出手段」の機能としての処理に相当する。
【0047】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態による電力変換装置を図3に示す。
第2実施形態による電力変換装置2は、擬似中性点構成部210を備えている。擬似中性点構成部210は、第2の抵抗器としての抵抗211、212、213を有している。抵抗211の一端は、U相コイル11に接続される。抵抗212の一端は、V相コイル12に接続される。抵抗213の一端は、W相コイル13に接続される。本実施形態では、抵抗211〜213とコイル11〜13とは、モータ10の外部で接続している。また、抵抗211〜213の他端は、1つの結線部217で結線される。
【0048】
擬似中性点構成部210の結線部217に印加される電圧は、モータ10の中性点17に印加される電圧と等しい。そこで本実施形態では、擬似中性点構成部210の結線部217に印加された電圧を「中性点電圧」とみなす。以下、結線部217に印加された電圧を「擬似中性点電圧Vn」という。
【0049】
中性点電圧検出手段としての擬似中性点電圧検出部250は、擬似中性点構成部210の結線部217に印加される電圧を検出する。擬似中性点電圧検出部250は、一端が結線部217に接続され、他端がグランドに接続されている。擬似中性点電圧検出部250は、2つの抵抗252、253を有している。結線部217とグランドとの間に接続される抵抗252の抵抗値は、結線部217と抵抗252の間の電圧がマイコン70にて検出可能な電圧となるように設定される。結線部217および抵抗512の間とマイコン70との間に接続される抵抗253は、マイコン70側に過電流が流れるのを防ぐために設けられている。
【0050】
本実施形態では、第1実施形態と異なり、V相およびW相をプルアップするためのプルアップ抵抗は設けられておらず、U相コイル11とバッテリ31の高電位側との間に第1の抵抗器としてのプルアップ抵抗261が設けられている。プルアップ抵抗261は、電源リレー32の下流側において、バッテリライン33とU相コイル11とを接続する。
【0051】
ここで、電力変換装置2に用いられる各種抵抗の抵抗値をまとめておく。
プルアップ抵抗261の抵抗値(以下、「RpullU2」という。)は、1000Ωである。擬似中性点構成部210の抵抗211の抵抗値(以下、「RnU」という。)、抵抗212の抵抗値(以下、「RnV」という。)、および抵抗213の抵抗値(以下、「RnW」という。)は、いずれも4200Ωである。また、擬似中性点電圧検出部250の抵抗252の抵抗値(以下、「RdownN」という。)は1000Ωであり、抵抗253の抵抗値(以下、「RdampN」という。)は2400Ωである。さらにまた、U相コイル11の抵抗値RmU、V相コイル12の抵抗値RmV、W相コイル13の抵抗値RmWは、第1実施形態と同様であり、いずれも0.01Ωである。すなわち、抵抗211〜213の抵抗値は、コイル11〜13の抵抗値と比べて十分に大きい、といえる。
【0052】
本実施形態における異常検出処理は、図2に示す異常検出処理と概ね同じであるので、第1実施形態と異なる点についてのみ説明し、他の部分についての説明は省略する。
S104では、擬似中性点電圧検出部250から擬似中性点電圧Vnを取得し、取得した擬似中性点電圧Vnが正常か否かを判断する。
【0053】
正常時における擬似中性点電圧Vnは、以下の式(12)で算出される。
Vn=Vpig×(RdownN)/(RpullU2+Rp4+RdownN)
…(12)
ただし、Rp4は、抵抗211と、抵抗212およびV相コイル12と、抵抗213およびW相コイル13と、の合成抵抗であって、以下の式(13)で算出される。
Rp4=(RnU)×(RnV+RmV+RmU)×(RnW+RmW+RmU))
/{(RnU)(RnV+RmV+RmU)
+(RnV+RmV+RmU)(RnW+RmW+RmU)
+(RnW+RmW+RmU)(RnU)} …(13)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値とすると、正常時の擬似中性点電圧Vnは、3.53Vとなる。
【0054】
本実施形態では、擬似中性点電圧Vnが上記式(12)により算出される値である3.53Vを含む所定の範囲内のとき、擬似中性点電圧Vnが正常であると判断する。例えば、3.2≦Vn≦3.8のとき、擬似中性点電圧Vnが正常であると判断する。擬似中性点電圧が正常でないと判断された場合(S104:NO)、すなわちVn<3.2またはVn>3.8である場合、S108へ移行する。また、擬似中性点電圧Vnが正常であると判断された場合(S104:YES)、すなわち3.2≦Vn≦3.8である場合、S105へ移行する。
【0055】
S106における判断処理は、MOS21〜26を1相ずつ50%駆動したときの擬似中性点電圧Vnが正常か否かを判断する。正常時における各相MOS50%駆動時の擬似中性点電圧Vnは、以下のように算出される。すなわち、U相を50%駆動したときの中性点電圧Vnを式(14−1)、V相を50%駆動したときの中性点電圧Vnを式(14−2)、W相を50%駆動したときの中性点電圧Vwを式(14−3)に示す。
Vn=Vpig×0.5×RdownN/(Rp4+RdownN) …(14−1)
Vn=Vpig×0.5×RdownN/(Rp5+RdownN) …(14−2)
Vn=Vpig×0.5×RdownN/(Rp6+RdownN) …(14−3)
なお、式(14−1)中のRp4は、上記式(13)に示した通りであるが、式(14−2)中のRp5は式(14−4)、式(14−3)中のRp6は式(14−5)で算出される。
Rp5=(RnU+RmU+RmV)×(RnV)×(RnW+RmW+RmV)
/{(RnU+RmU+RmV)(RnV)
+(RnV)(RnW+RmW+RmV)
+(RnW+RmW+RmV)(RnU+RmU+RmV)}
…(14−4)
Rp6=(RnU+RmU+RmW)×(RnV+RmV+RmW)×(RnW)
/{(RnU+RmU+RmW)(RnV+RmV+RmW)
+(RnV+RmV+RmW)(RnW)
+(RnW)(RnU+RmU+RmW)} …(14−5)
【0056】
本実施形態では、擬似中性点電圧Vnが上記式(14−1)〜(14−3)で算出される値を含む所定の範囲内である場合、各相MOS50%駆動時の端子電圧が正常であると判断する。具体的には、第1実施形態と同様、例えば上記式(14−1)〜(14−3)で算出される値に0.9を乗じた値以上、1.1を乗じた値以下のとき、正常であると判断する。すなわち、S106では、各相MOS50%駆動時の擬似中性点電圧Vnが正常でないと判断された場合、否定判断してS108へ移行し、各相MOS50%駆動時の擬似中性点電圧Vnが正常であると判断された場合、肯定判断してS107へ移行する。
【0057】
ここで、電源リレー32をオン、プリチャージリレー42をオフにしたときの擬似中性点電圧Vnに基づく異常箇所の特定について説明する。
上MOS21〜23のいずれかがショートしている場合、擬似中性点電圧Vnは、以下の式(15)で算出される。
Vn=Vpig×(RdownN)/(Rp4+RdownN) …(15)
また、下MOS24〜26のいずれかがショートしている場合、擬似中性点電圧Vnは、以下の値となる。
Vn=0 …(16)
【0058】
U相配線が断線している場合、擬似中性点電圧Vnは、以下の式(17)で算出される。
Vn=Vpig×(RdownN)/(RpullU2+RdownN)
…(17)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値としたとき、U相配線断線時の擬似中性点電圧Vnは1.94Vとなる。
【0059】
V相配線が断線している場合、擬似中性点電圧Vnは、以下の式(18)で算出される。
Vn=Vpig×(RdownN)/(Rp4v+RdownN) …(18)
ただし、Rp4vは、抵抗213、W相コイル13、およびU相コイル11と、抵抗211と、の合成抵抗であって、以下の式(19)で算出される。
Rp4v={(RnU)×(RnW+RmW+RmU)}
/{(RnU)+(RnW+RmW+RmU)} …(19)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値としたときの、V相配線断線時の擬似中性点電圧Vnは2.93Vとなる。
【0060】
W相配線が断線している場合、擬似中性点電圧Vnは、以下の式(20)で算出される。
Vn=Vpig×(RdownN)/(Rp4w+RdownN) …(20)
ただし、Rp4wは、抵抗212、V相コイル12、およびU相コイル11と、抵抗211との合成抵抗であって、以下の式(21)で算出される。
Rp4w={(RnU)×(RnV+RmV+RmU)}
/{(RnU)+(RnV+RmV+RmU)} …(21)
バッテリ電圧Vpigを12V、各抵抗値を上記の値としたとき、W相配線断線時の擬似中性点電圧Vnは、2.93Vとなる。
【0061】
上記式(15)〜(18)、(20)に示すように、電源リレー32をオン、プリチャージリレー42をオフにしたときの擬似中性点電圧Vnは、異常箇所に応じて異なる値となるので、擬似中性点電圧Vnに基づき、異常箇所を特定することができる。例えば、式(15)〜(18)、(20)で算出される値を含む所定の範囲を設定し、擬似中性点電圧Vnが設定された所定の範囲内の値となる場合、該当する異常が生じていると特定することができる。なお、U相のみがプルアップされており、V相およびW相はプルアップされていないので、プルアップされていないV相配線が断線している場合、および、W相配線が断線している場合、擬似中性点電圧Vnは、同じ値となる。これらを区別する必要がある場合には、本処理とは別処理にて異常箇所を特定するようにしてもよい。
【0062】
以上詳述したように、電力変換装置2は、複数の相(本実施形態では3相)に対応するコイル11〜13から構成される巻線組18を有するモータ10に通電される電力を変換する。インバータ部20は、U相コイル11、V相コイル12、W相コイル13の各相に対応する上MOS21〜23および下MOS24〜26によりスイッチング素子対をなす複数のMOS21〜26を有する。プルアップ抵抗261は、U相コイル11とバッテリ31の高電位側との間に設けられる。抵抗211〜213は、コイル11〜13ごとに設けられ、一端が1つの結線部217で結線され、他端がコイル11〜13と接続する。擬似中性点電圧検出部250は、結線部217に印加される擬似中性点電圧Vnを中性点電圧として検出する。マイコン70は、擬似中性点電圧Vnに基づき、異常を検出する。
【0063】
コイル11〜13ごとに設けられた抵抗211〜213の結線部217に印加される擬似中性点電圧Vnは、コイル11〜13の中性点である中性点17に印加される電圧と一致する。そこで、結線部217に印加される擬似中性点電圧Vnを中性点電圧とみなし、擬似中性点電圧Vnに基づいて異常を検出するので、電圧の検出箇所を低減でき、電圧検出に係る部品点数を減らすことができ、コストを抑えることができる。また、擬似中性点電圧Vnは、異常の有無または異常箇所によって異なる値となる。これにより、電圧検出箇所を低減し、比較的簡素な処理で異常を検出することができる。
また本実施形態では、モータ10の外部にてコイル11〜13と抵抗211〜213の一端とを接続しているので、中性点電圧を検出するための配線をモータ10から別途取り出す必要がないので、モータ10の構成を変更することなく中性点電圧を検出することができる。
【0064】
さらにまた、モータ10をEPSに適用しているので、コイル11〜13の断線等の異常が生じていると、ハンドルのトルクリップルが大きくなりドライバーに不快感を与えたり、ハンドル角によってはアシストトルクを出力できなかったりする虞がある。本実施形態では、コイル11〜13の断線等の異常を検出しているので、速やかにワーニングランプを点灯するなどの報知手段によりドライバーに異常を伝えたり、モータ10を故障時用の駆動に切り替えたりすることにより、安全性を向上できる。
なお、本実施形態では、マイコン70が「異常検出手段」を構成する。また、図2中のS104が「異常検出手段」の機能としての処理に相当する。
【0065】
(他の実施形態)
上記実施形態では、巻線組およびインバータ部が1つずつ設けられていた。他の実施形態では、巻線組およびインバータ部が複数系統であってもよい。
ここで、巻線組およびインバータ部が複数系統である場合の電力変換装置の具体例を図4に基づいて説明する。なお、図4においては、リレー後電圧検出部、プリチャージ回路、マイコン等は記載を省略している。また、コイル11〜13とコイル14〜16、巻線組18と巻線組19、インバータ部20とインバータ部420、MOS21〜26とMOS421〜426、電源リレー32と電源リレー432、コンデンサ36とコンデンサ436、中性点電圧検出部51と中性点電圧検出部451、抵抗511〜513と抵抗411〜413、プルアップ抵抗61〜63とプルアップ抵抗461〜463とは、同様の構成であるものとする。
【0066】
図4に示す電力変換装置4では、モータ410は、U相コイル11、V相コイル12、W相コイル13からなる巻線組18と、U相コイル14、V相コイル15、W相コイル16からなる巻線組19を備える。巻線組18は、インバータ部20により通電が切り替えられる。また、巻線組19は、インバータ部420により通電が切り替えられる。
【0067】
また、電力変換装置4は、第1実施形態と同様、コイル11〜16の各相とバッテリ31の高電位側との間にプルアップ抵抗61〜63、461〜463が設けられている。また、中性点17に印加される中性点電圧を中性点電圧検出部51にて検出し、結線部417に印加される中性点電圧を中性点電圧検出部451にて検出する。そして、中性点電圧検出部51にて検出される中性点17に印加される中性点電圧に基づいて巻線組18に係る系統における異常を検出し、中性点電圧検出部451にて検出される結線部417に印加される中性点電圧に基づいて巻線組19に係る系統における異常を検出する。これにより、上記第1実施形態と同様の効果を奏する。さらに、中性点電圧に基づいて異常を検出することができるので、巻線組およびインバータ部が複数系統である場合、電圧検出に係る部品点数の削減効果がより大きい。
【0068】
なお、電力変換装置4では、第1実施形態と同様、各相にプルアップ抵抗が設けられ、中性点電圧を検出したが、各系統を第2実施形態のように構成し、擬似中性点電圧に基づいて異常を検出するようにしてもよい。これにより、上記第2実施形態と同様の効果を奏する他、擬似中性点電圧に基づいて異常を検出することができるので、巻線組およびインバータ部が複数系統である場合、電圧検出に係る部品点数の削減効果がより大きい。
また、上記第2実施形態では、U相にプルアップ抵抗が設けられていたが、他の実施形態では、プルアップ抵抗を設ける相は、どの相であってもよい。また、プルアップ抵抗を複数設けてもよい。さらにまた、上記実施形態では、巻線をY結線して巻線組を構成していたが、上記第2実施形態のように擬似中性点構成部を設ける場合、巻線をΔ結線して巻線組を構成してもよい。
【0069】
上記第1実施形態では、プルアップ抵抗61〜63の抵抗値は等しかった。他の実施形態では、プルアップ抵抗61〜63の抵抗値が相毎に異なってもよい。プルアップ抵抗61〜63の抵抗値を相毎に異なる値とした場合、式(6)、(8)、(10)で算出される中性点電圧Vmが異なる値となる。すなわち、断線箇所に応じて中性点電圧が異なる値となるので、中性点電圧Vmに基づき、異常箇所を比較的容易に特定することができる。
【0070】
上記実施形態では、図2中のS103にて、電源リレー32をオンにし、プリチャージリレー42をオフとした。他の実施形態では、S103にて、電源リレーをオフにし、プリチャージリレー42をオンとしてもよい。この場合、式(1)〜式(21)においてバッテリ電圧Vpigを用いたところを、プリチャージ電圧Vpreを用いる。すなわち、式(1)〜式(21)の「Vpig」を「Vpre」に置き換えた値を算出し、算出された中性点電圧または擬似中性点電圧と、検出された中性点電圧または擬似中性点電圧とに基づき、異常の有無や異常箇所を特定する。なお、上記実施形態では、S101にてプリチャージリレー42がオンされているので、S103ではコンデンサ36が充電されている。このように、コンデンサ36が充電されている場合、プリチャージリレー42をオフとして図2中のS104の異常検出処理を行ってもよい。
【0071】
上記実施形態では、巻線は3相であり、3相インバータが用いられた。他の実施形態では、3相に限らず、2相であってもよいし、4相以上であってもよい。また、回転電機としてのモータは、電動パワーステアリング装置に用いられたが、電動パワーステアリング装置以外の装置に適用してもよい。また、回転電機は、モータではなく、発電機であってもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0072】
1・・・電力変換装置
10・・・モータ(回転電機)
11〜13・・・コイル(巻線)
18・・・巻線組
20・・・インバータ部
21〜23・・・上MOS(高電位側スイッチング素子)
24〜26・・・下MOS(低電位側スイッチング素子)
31・・・バッテリ(電源)
32・・・電源リレー
33・・・バッテリライン
34・・・グランドライン
36・・・コンデンサ
40・・・プリチャージ回路
51・・・中性点電圧検出部(中性点電圧検出手段)
61〜63・・・プルアップ抵抗(抵抗器)
70・・・マイコン(異常検出手段)
211〜213・・・抵抗(第2の抵抗器)
217・・・結線部
250・・・擬似中性点電圧検出部(中性点電圧検出手段)
261・・・プルアップ抵抗(第1の抵抗器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相に対応する巻線から構成される巻線組を有する回転電機に通電される電力を変換する電力変換装置であって、
前記巻線の各相に対応し、高電位側に配置された高電位側スイッチング素子および低電位側に配置された低電位側スイッチング素子によりスイッチング素子対をなす複数のスイッチング素子を有するインバータ部と、
前記巻線の各相と電源の高電位側との間に設けられる抵抗器と、
前記巻線組の中性点電圧を検出する中性点電圧検出手段と、
前記中性点電圧検出手段により検出された前記中性点電圧に基づき、異常を検出する異常検出手段と、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記抵抗器の抵抗値は、相ごとに異なっていることを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
複数の相に対応する巻線から構成される巻線組を有する回転電機に通電される電力を変換する電力変換装置であって、
前記巻線の各相に対応し、高電位側に配置された高電位側スイッチング素子および低電位側に配置された低電位側スイッチング素子によりスイッチング素子対をなす複数のスイッチング素子を有するインバータ部と、
前記巻線と電源の高電位側との間に設けられる第1の抵抗器と、
前記巻線ごとに設けられる第2の抵抗器であって、一端が前記巻線と接続し、他端が1つの結線部で結線される第2の抵抗器と、
前記結線部に印加される電圧を中性点電圧として検出する中性点電圧検出手段と、
前記中性点電圧検出手段により検出された前記中性点電圧に基づき、異常を検出する異常検出手段と、
を備えることを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−39740(P2012−39740A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177309(P2010−177309)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】