説明

電動ブレーキ装置

【課題】 電動ブレーキ装置のアクチュエータに結合される駆動制御装置の防水性と遮熱性を確保し、小型で信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 電気モータ12により制動力を発生するアクチュエータ7と、アクチュエータ7に装着された推力センサ41、回転角センサ51、モータ温度センサ61と、前記各センサの出力を入力の一部として前記アクチュエータ7を駆動制御する駆動制御装置6とを含んで電動ブレーキ装置を構成し、前記各センサは、駆動制御装置6から無線電磁波によって電力供給を受けるとともに検出したデータを無線電磁波によって駆動制御装置6へ伝送する推力センサアンテナ部42もしくは複合センサアンテナ部52を、それぞれ備えて形成され、駆動制御装置6には、無線電磁波によって前記各センサに電力を供給するとともに、前記データを受信するセンサ信号受信アンテナ33を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキ装置に係り、特に、電気を用いて制動力を発生する車載用のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータを作動させて、制動力を発生するブレーキ装置が知られている。例えば、特許文献1で提案されている電動ブレーキ装置は、ブレーキペダルの踏込状態を検出する操作力センサの出力、アクチュエータの荷重を検出する制動力センサ、推力センサの出力に応じて、車両運動制御装置が要求制動力を駆動制御装置へ送信し、駆動制御装置で駆動制御されるアクチュエータでブレーキパッドをディスクロータに押圧し、車輪に制動力を加えるようになっている。この電動ブレーキ装置は、ソフトウエアによる対応でアンチロック制御、自動ブレーキ制御などの高度な車両制御を行うことができる。また、本従来技術の電動ブレーキ装置では、車両の車輪側にアクチュエータと駆動制御装置が取付けられ、車両の車体側に設置される車両運動制御装置との通信を双方向の多重通信によって行っている。これによって、ノイズの影響を低減できる小型の電動ブレーキ装置を提供している。
【0003】
【特許文献1】特開2003−137081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の電動ブレーキ装置では、制動力発生時には、制動力センサとモータ回転角センサの信号値に基づいて車両運動制御装置からの要求制動力を制御している。これらのセンサと駆動制御装置とは信号線によって接続されている。したがって、センサの数に応じた本数の信号線が必要となって配線が複雑になり、信号線を接続するためのコネクタも大型になる。特に、推力センサはアクチュエータの移動部分に装着されるため、推力センサと駆動制御装置を接続する信号線は、アクチュエータの動作に応じて屈曲、伸長を繰り返すため、信号線の屈曲、伸長のためのスペースが必要になるとともに、屈曲、伸長の繰り返しによる疲労断線の恐れがあり、信頼性に影響していた。
【0005】
また、アクチュエータと駆動制御装置が車両の車輪側に取り付けられる場合、雨水などが浸水する恐れがあるため、信頼性を確保するためには特に駆動制御装置の防水性を高めることが必要である。ブレーキが占めることができる車輪側のスペースは限られるため、スペース効率の良い構造で防水性を確保する必要がある。また、ブレーキ装置は自動車の運動エネルギーを、ブレーキパッドとブレーキディスクの摩擦熱へ変換して減速する仕組みであるため、ブレーキパッドとブレーキディスクは車両の減速に伴って高温になる。この熱が駆動制御装置へ伝わり、駆動制御装置が高温になると、想定通りの制御を行うことができず、アクチュエータの性能低下を招く恐れがある。したがって、ブレーキパッドとブレーキディスクから駆動制御装置への伝熱を抑制する必要がある。
【0006】
本発明の課題は、駆動制御装置の防水性と遮熱性を確保し、小型で信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、電気モータの駆動トルクにより制動力を発生する制動力発生手段と、前記制動力発生手段に装着されて制動力発生状態を検出するセンサと、前記センサの出力を入力の一部として前記制動力発生手段を駆動制御する駆動制御装置とを有してなり、前記センサが、前記駆動制御装置から無線電磁波によって電力供給を受けるとともに、検出した制動力発生状態を示す信号を無線電磁波によって前記駆動制御装置へ伝送するセンサアンテナ手段を含んで構成され、前記駆動制御装置が、無線電磁波によって前記センサに電力を供給するとともに、制動力発生状態を示す信号を受信する駆動制御装置アンテナ手段を含んで構成されている電動ブレーキ装置により、達成される。
【0008】
上記構成によれば、制動力発生手段と駆動制御装置の間の信号の授受が無線で行なわれるので電気的な接続箇所を低減することができ、駆動制御装置の防水性と遮熱性を高めることが可能となる。また、電気的な接続箇所を低減することでコネクタが少なくて済むとともに、センサがストロークを伴う直動部材に設置されても、信号線が断線する危険性を排除することができ、センサの耐久性を高めることが可能となる。したがって、小型で信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0009】
電気モータの磁気発生部位を金属部材により遮蔽することで、電気モータの磁界があるアクチュエータ内部において、センサ通信の安定性を高めることが可能となり、信頼性低下を防ぐことができる。
【0010】
前記制動力発生手段はブレーキ摩擦材と前記ブレーキ摩擦材に荷重を付勢する直動部材とを含んで構成されるから、前記センサは、電気モータの温度を検出するセンサ、前記ブレーキ摩擦材の温度を検出するセンサ、電気モータの回転角を検出するセンサ、前記ブレーキ摩擦材に作用する荷重を検出するセンサのいずれかを含んでいる。
【0011】
また、前記センサアンテナ手段と駆動制御装置アンテナ手段を、金属によって密閉された空間に配置することにより、センサアンテナ手段と駆動制御装置アンテナ手段間の電磁波が外部の電気機器に悪影響を及ぼすことが避けられると同時に、外部の電磁波がセンサアンテナ手段と駆動制御装置アンテナ手段間の交信に悪影響を及ぼすことを避ける効果がある。
【0012】
前記センサアンテナ手段は複数のセンサの信号を送信するよう構成されていることが望ましく、前記駆動制御装置アンテナ手段は複数のセンサの信号を受信するよう構成されていることが望ましい。これにより、電磁波を発生するアンテナの数を低減でき、センサ通信の安定性を高めること、およびアンテナを設置するスペースを低減することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電動ブレーキ装置のアクチュエータに結合される駆動制御装置の防水性と遮熱性を確保し、小型で信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(第1の実施の形態)
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る電動ブレーキ装置の断面図を示す。図示の電動ブレーキ装置は、ブレーキペダル1と、ブレーキペダル1の踏込量を検出するペダルセンサ2と、運転状態検出装置3と、ペダルセンサ2と運転状態検出装置3の出力に基づいて目標の制動力を算出し、制動力信号を出力する車両運動制御装置4と、電力供給源5と、電動の制動力発生手段であるアクチュエータ7と、車両運動制御装置4に信号線9で接続され、車両運動制御装置4の出力信号に基づいてアクチュエータ7を駆動すると同時にセンサ信号の送受信を行う駆動制御装置6と、駆動制御装置6に電力線8で接続されて電力を供給する電力供給源5と、を含んで構成されている。
【0015】
ペダルセンサ2は、ブレーキペダル1の踏込量に応じた電気信号を出力する。運転状態検出装置3は、例えば、車両の速度、車輪速、車両の加速度、車両の旋回角速度、タイヤの旋回力、運転者のアクセルペダルの踏込量、エンジンのスロットル開度、操舵装置の舵角、前方走行車との車間距離や相対速度、障害物の有無、道路勾配などを検出して、各運転状態に応じた電気信号を車両運動制御装置4へ送るものである。駆動制御装置6からは、モータ回転角、ピストン推力、モータ温度などのアクチュエータの作動状態、タイヤ空気圧などの情報が車両運動制御装置4へ送られる。
【0016】
車両運動制御装置4の信号が信号線9によって駆動制御装置6へ伝送されるとともに、アクチュエータ7に設置された複数のセンサの情報も駆動制御装置6から信号線9によって車両運動制御装置4へ伝送される。
【0017】
アクチュエータ7は、ほぼ円筒形の金属製のハウジング11と、ハウジング11に内装されハウジング11へ固定されたモータステータ13と、モータステータ13内にモータステータ13と同心状にかつ回転可能に配置されたモータロータ14と、モータロータ14をハウジング11内周面に前記モータステータ13の軸方向両側で支持する第1軸受15、第2軸受16と、モータロータ14の内部に同心状に配置され、モータロータ14の回転運動をモータ軸方向の直進運動へ変換するボールねじロッド17と、ボールねじロッド17の一方の端部に軸方向に形成された孔にその軸部を挿入固定され、ボールねじロッド17に作用する推力をブレーキパッド21へ伝達するピストン18と、ピストン18の推力を受けてディスクロータ22を挟み込む2つのブレーキパッド21と、電磁波によって電力と信号の送受信を行う電磁波電源供給型ワイヤレスセンサ(RF(Radio-Frequency)センサ)を含んで構成されている。モータステータ13とモータロータ14とでモータ12が構成されている。
【0018】
前記ピストン18は、2つのブレーキパッド21の一つが固着される平板部と、この平板部に直交して植立された軸部で構成され、この軸部が前記ボールねじロッド17の一方の端部に軸方向に形成された孔に挿入固定されている。また、ハウジング11は前記円筒形部分の端部から軸方向に延び、次いでピストン18の平板部に対向する位置にかぎ状に曲がり込む部分を備え、ピストン18の平板部に対向する位置に前記2つのブレーキパッド21のうちの他の一つが固着されている。アクチュエータ7が車両に装着された状態では、前記2つのブレーキパッド21がハブに固定されたディスクロータ22を挟んで互いに対向している。
【0019】
前記RFセンサは、ピストン18の推力を検出する推力センサ41と、モータ12の回転角を検出する回転角センサ51と、モータ12の温度を検出するモータ温度センサ61である。
【0020】
推力センサ41は、ボールねじロッド17の後端(図面右側、すなわちブレーキパッド21から遠い側)に取り付けられ、駆動制御装置6、具体的には後述する駆動制御装置アンテナ手段であるセンサ信号受信アンテナ33から電磁波を介して電力の供給を受けるとともに、センサ信号受信アンテナ33との間で電磁波信号を送受信するセンサアンテナ手段である推力センサアンテナ部42と、ピストン18の推力に応じてひずみが生じる部位に設置され、ひずみ量に応じた電気抵抗変化が生じる推力検出部43と、推力検出部43へ電力を供給し、推力検出部43の電気抵抗に応じた信号を推力センサアンテナ部42へ出力する推力センサ回路部44を含んで構成されている。推力センサ回路部44は、アンプ、A/D変換器、通信制御部、記憶回路、及び整流・検波・変復調回路を備えている。記憶回路にはアクチュータ7の校正情報、すなわちピストン18とゼロ点やゲインの校正値が記憶されている。
【0021】
推力センサ回路部44は、推力センサアンテナ部42に隣接して配置され、推力検出部43は、ボールねじロッド17の前記軸方向に形成された孔の底部とピストン18のあいだに設置され、ピストン18に生じる荷重に応じてひずみが発生する構造になっている。推力検出部43と推力センサ回路部44は分割された構成になっており、電線で接続されている。
【0022】
このように、軸方向に進退するボールねじロッド17に装着された推力検出部43が検出した推力を表す信号が、電磁波によってセンサ信号受信アンテナ33に無線送信されるので、推力検出部43の進退に伴う信号線の屈曲、伸長が発生せず、信号線の屈曲、伸長を許容するためのスペースが不要であり、屈曲、伸長の繰り返しに伴う疲労断線の恐れもなくなる。また、アクチュエータ7に内装された推力センサアンテナ部42と駆動制御装置6に内装されたセンサ信号受信アンテナ33を介して信号が授受されるので、アクチュエータ7と駆動制御装置6を信号線で接続する場合のコネクタが不要であり、コネクタ設置のためのスペースが不要である。
【0023】
推力センサアンテナ部42を推力センサ回路部44よりもセンサ信号受信アンテナ33に近い位置へ設置することによって、推力センサアンテナ部42とセンサ信号受信アンテナ33の距離を短縮でき、電磁波による通信の安定性が高められている。また、推力センサ回路部44を推力検出部43よりもブレーキパッド21から遠ざかる位置に設置することによって、ブレーキパッド21から発生する熱の影響を受けにくい低温部へ推力センサ回路部44を配置でき、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0024】
また、推力検出部43にはホイートストンブリッジが付随しており、このホイートストンブリッジはシリコンの基板内部に設けてある。よって周囲の温度変化に対しても補正でき、安価で精度の高い推力計測が可能となる。
【0025】
回転角センサ51とモータ温度センサ61は、センサアンテナ手段とセンサ回路部を共有しており、センサ信号受信アンテナ33との間で電磁波の送受信を行うセンサアンテナ手段である複合センサアンテナ部52と、それぞれの検出部へ電力を供給し、センサ信号を複合センサアンテナ部52へ出力する複合センサ回路部54と備えている。回転角センサ51は、前記第2軸受16よりも図上右側のモータロータ14の後端、すなわちブレーキパッド21から遠い側に配置されてモータロータ14の回転角に応じて電圧が変化する回転角検出部53を備え、モータ温度センサ61は、モータステータ13の図上右側のコイル上、すなわちブレーキパッド21から遠い側に固定されてモータ温度に応じて電圧が変化するモータ温度検出部63を備える。
【0026】
複合センサアンテナ部52と複合センサ回路部54は、回転角検出部53よりもセンサ信号受信アンテナ33側(図面右側)、すなわち、前記第2軸受16よりも図上右側に配置されている回転角検出部53よりもセンサ信号受信アンテナ33側(図面右側)に配置されている。つまり、モータ温度検出部63と複合センサ回路部54、および回転角検出部53と複合センサ回路部54は、それぞれ分割された構成であり、それぞれ電線55、電線65で接続されている。
【0027】
アクチュエータ7のハウジング11は、図2に示すように、サスペンションや操舵の動きに連動するハブ71に対して、モータ12の回転軸方向(図面の左右方向)に移動可能なように、かつ、タイヤとともに回転しないように支持されている。摩擦材である2つのブレーキパッド21は、ハブ71に取り付けられてタイヤと共に回転するディスクロータ22を間に挟んで互いに対向して配置されている。
【0028】
モータ12が回転するとボールねじロッド17が軸方向に進退し、ボールねじロッド17の進退とともに、ピストン18が進退する。図上左方向にピストン18が動くと、その推力によってブレーキパッド21がディスクロータ22に押し付けられ、両者間に発生した摩擦力は、タイヤを介して路面に伝達され、各車輪の制動力となる。
【0029】
駆動制御装置6は、金属製円形深皿状の回路ハウジング31と、回路ハウジング31に内装された駆動制御回路32と、同じく回路ハウジング31に内装されたセンサ信号受信アンテナ33と、駆動制御回路32とセンサ信号受信アンテナ33の間に挿入された金属の遮蔽板38と、回路ハウジング31の円板面に装着された入力コネクタ34と、出力ピン35とを含んで構成され、前記回路ハウジング31の周縁部がハウジング11に脱着可能なようにボルトで固定されており、接続面には浸水を防止するためのシール30が装着されている。
【0030】
入力コネクタ34は、車両運動制御装置4からの信号線9と電力供給源5からの電力線8に接続されている。入力コネクタ34は防水構造になっており、外部から回路ハウジング31内部への浸水やダストの進入を防いでいる。出力ピン35は、アクチュエータ7との接続面に配置され、回路ハウジング31内側端が駆動制御回路32に、他方の端部がモータステータ13への電力線に接続されている。出力ピン35は樹脂部材36によって回路ハウジング31に固定され、外部から回路ハウジング31内部への浸水やダストの進入を防ぐ防水構造になっている。
【0031】
アクチュエータ7には、先に述べたように、電磁波によって電力と信号の送受信を行う電磁波電源供給型ワイヤレスセンサ(RF(Radio-Frequency)センサ)が装備されている。駆動制御装置6のセンサ信号受信アンテナ33は、電磁波を用いてアクチュエータ7内の各種RFセンサ(後述)へ電力を供給すると同時に、それらRFセンサから電磁波として発信されるセンサ信号を受信する。駆動制御回路32は、センサ信号受信アンテナ33が受信するセンサ信号と車両運動制御装置4からの信号に基づき、モータステータ13へ通電する電流を算出し、モータの駆動制御を行う。駆動制御回路32とセンサ信号受信アンテナ33の間に挿入された金属の遮蔽板38は、駆動制御回路32が発生する電磁波とセンサ信号受信アンテナ33が送受信する電磁波との干渉を抑制する。電磁波の送受信が安定に行われるように、センサ信号受信アンテナ33のコイルが構成する面(最大断面積の平面)は、アクチュエータ側に装備されるRFセンサの電磁波をより安定的に受信するために、モータ12の回転軸に対して垂直になるように設置され、少なくともモータ12の回転軸に対して45度以上の角度で設置される。回路ハウジング31とセンサ信号受信アンテナ33の接続面には、アクチュエータ7から回路ハウジング31内への浸水やグリスの進入を防ぐシール39が装着されている。
【0032】
このように、アクチュエータ7のセンサと駆動制御装置6との間の電力供給と情報通信を、電線を接続することなく電磁波によって行うことで、アクチュエータ7と駆動制御装置6とを接続する電線の数を低減することができた。従来の電線による信号伝送では各センサ毎に少なくとも2本の電線が必要となるため、本実施の形態に示す信号の授受を従来の電線による信号伝送で行なう場合、少なくとも6本の信号線を駆動制御装置6とアクチュエータ7の間で接続する必要がある。この場合、防水性を確保したコネクタを用いて本数の多い信号線を接続し、コネクタまでの配線スペースを確保する必要があるため、駆動制御装置6とアクチュエータ7が大型になり、配線も複雑になる。また、駆動制御装置6とアクチュエータ7間の信号線用のコネクタを配置することによって、アクチュエータ7から駆動制御装置6への伝熱経路が増え、駆動制御装置6が高温になりやすい。
【0033】
これに対して本実施の形態では、RFセンサを用い、電磁波によって駆動制御装置6へ情報を伝達することで信号線用のコネクタを設ける必要がなくなり、コネクタを介した伝熱経路がなくなるとともに、コネクタからの浸水の恐れもなくなり、簡素で小型な構造で、駆動制御装置の防水性と遮熱性を高めることが可能となる。したがって、小型で信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0034】
また、モータステータ13は、ハウジング11、第1軸受15、第2軸受16、モータロータ14に囲まれた空間に配置されており、したがって、モータステータ13のコイルに装着されたモータ温度検出部63と複合センサ回路部54は第2軸受16で隔てられている。このため、第2軸受16が装着されている箇所のハウジング11には、軸方向に次いで半径方向に延びる空孔66が形成されており、モータ温度検出部63と複合センサ回路部54を接続する電線65はハウジング11に設けられた前記空孔66を経由する。
【0035】
空孔66の断面積は、電線65の断面積の10倍以下であり、また、空孔66の経路は、モータ12が発生する電磁波が、推力センサアンテナ部42、複合センサアンテナ部52、センサ信号受信アンテナ33へ直射しないように、構成されている。
【0036】
このように、モータステータ13とモータロータ14からなるモータ12の磁気発生部位が、ハウジング11、第1軸受15、第2軸受16、モータロータ14の軸などの金属部材によって遮蔽され、遮蔽されたモータ収納空間と外部を接続する空孔66から、モータ12の電磁波がセンサのアンテナへ直進しないような構造になっているので、モータ12が発生する電磁波のセンサ通信に対する影響を抑制することができる。したがって、電磁波の安定した送受信を行うことができ、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0037】
さらに、回転角検出部53は、金属のセンサケース57内に配置されていて、回転角検出部53と複合センサ回路部54を接続する電線55は、金属のセンサケース57に設けられセンサケース57の内部空間と外部空間を接続する空孔56を経由する。空孔56の断面積は、電線の断面積の10倍以下に抑えられている。また、空孔56は、回転角検出部53が発生する電磁波が、推力センサアンテナ部42と複合センサアンテナ部52とセンサ信号受信アンテナ33へ直射しないように、その位置、経路が設定されている。センサケース57はまた、モータ12の磁気発生部位から発生し、前記第2軸受16を通過する電磁波を複合センサアンテナ部52とセンサ信号受信アンテナ33から遮蔽する位置形状に構成されている。
【0038】
このように、回転角検出部53が収納される空間が金属部材で遮蔽され、回転角検出部53の電磁波が収納空間と外部を接続する空孔56から、センサのアンテナへ直進しないようにしてあるので、モータ12が発生する電磁波のセンサ通信に対する影響が抑制される。したがって、電磁波の安定した送受信を行うことができ、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0039】
複合センサ回路部54と複合センサアンテナ部52は、回転角検出部53とモータ温度検出部63の2つの検出部の情報を受信し、センサ信号受信アンテナ33へ送信する。これにより、複数のアンテナで送受信する場合よりも電磁波の混信を抑制することができ、さらに、センサ回路部とセンサアンテナ手段の数を削減することができ、故障の可能性を低減できる。したがって、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0040】
また、センサ信号受信アンテナ33は、推力センサ41と回転角センサ51とモータ温度センサ61という複数のセンサに対して、1つのアンテナで、電力を供給し、信号を受信している。これにより、複数のアンテナで送受信する場合よりも電磁波の混信を抑制することができ、さらに、センサ回路部とセンサアンテナ手段の数を削減することができ、故障の可能性を低減できる。したがって、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0041】
本実施の形態では、推力センサ41が直動部材、すなわち軸方向に進退するボールねじロッド17に設置され、断線の危険性を低減するため、回転角センサ51とモータ温度センサ61の信号を処理する複合センサ回路部54と複合センサアンテナ部52とは独立に、推力センサ回路部44と推力センサアンテナ部42を備えているが、推力検出部43と複合センサ回路部54を接続して、複合センサ回路部54と複合センサアンテナ部52が推力検出部43の信号をも管理するようにしてもよい。これにより、センサ回路部とセンサアンテナ手段の数を低減することができ、より少ない部品点数で、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0042】
また、センサ信号受信アンテナ33と各センサのアンテナが通信する空間は、ハウジング11、遮蔽板38、モータロータ14の軸、ボールねじロッド17、回路ハウジング31、センサケース57などの金属によって囲まれ、電磁波がアクチュエータ7や駆動制御装置6の外部へ漏洩しないような構造になっている。これにより、他の無線通信等への影響を抑制することができ、センサ通信の電磁波の強度を強めることができるとともに、外部の電磁波によるセンサ信号受信アンテナ33と各センサのアンテナ間の送受信への悪影響を回避できる。したがって、電磁波による通信の安定性を高めることができ、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0043】
推力センサ41にはアクチュータ7の校正情報、すなわちピストン18とゼロ点やゲインの校正値が記憶されている。したがって、故障などの要因で駆動制御装置6を部品交換する必要がある場合、推力センサ41の校正動作を行う必要がなくなり、メンテナンス性を向上することができる。
【0044】
図2に、アクチュエータ7が装着されたハブ71とタイヤ72の断面を示す。ハブ71には車輪速センサ81とタイヤ力センサ82が装着されており、これらの2つのセンサは共通のセンサ回路部とセンサアンテナ手段を備える。車輪速センサ81は、車軸に設けられた複数のスリットの速度を電圧パルスに変換し、タイヤ72の回転速度の情報として出力する。タイヤ力センサ82はハブ71のひずみを検出することによってタイヤ72に作用する旋回力の情報を出力する。車輪速センサ81とタイヤ力センサ82の情報は、駆動制御装置6の回路ハウジング31に設けられたハブセンサ信号受信アンテナ83によって受信され、車両運動情報として車両運動制御装置4へ送信される。
【0045】
このように、駆動制御装置6のハウジングにハブセンサ信号受信アンテナ83を設け、ハブ71に設置された車輪速センサ81とタイヤ力センサ82の情報を受信することによって、車輪速センサ81とタイヤ力センサ82に接続される電線を省略することができる。したがって、駆動制御装置6に電線で接続した場合に想定される接続部からの浸水を排除でき、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0046】
タイヤ72は、ハブ71によって回転支持されるホイール73に装着されている。ホイール73にはタイヤの空気圧を検出するタイヤ空気圧センサ85が設置され、タイヤ空気圧センサ85は検出部、回路部、アンテナ部を備える。アンテナ部は、金属のホイール73による電磁波の遮蔽効果を回避するため、ホイール73の回転中心側に配置される。タイヤ空気圧センサ85の情報は、アクチュエータ7のハウジング11に設けられた空気圧センサ信号受信アンテナ86によって受信され、駆動制御装置6を経て、車両運動情報として車両運動制御装置4へ送信される。
【0047】
このように、アクチュエータ7のハウジングに空気圧センサ信号受信アンテナ86を設け、ホイール73に設置されたタイヤ空気圧センサ85の情報を受信することによって、短い通信距離で電磁波の送受信で安定的に行えるため、信頼性の高い電動ブレーキ装置を提供できる。
【0048】
以下、上述の構成をもつブレーキ装置の動作について説明する。ペダルセンサ2は、ブレーキペダル1の踏込量に応じた電気信号を出力する。運転状態検出装置3は、例えば、車両の速度、車輪速、車両の加速度、車両の旋回角速度、タイヤの旋回力、運転者のアクセルペダルの踏込量、エンジンのスロットル開度、操舵装置の舵角、前方走行車との車間距離や相対速度、障害物の有無、道路勾配などを検出し、各運転状態に応じた電気信号を車両運動制御装置4へ送るものである。駆動制御装置6からは、モータ回転角、ピストン推力、モータ温度などのアクチュエータの作動状態、タイヤ空気圧などの情報が車両運動制御装置4へ送られる。
【0049】
車両運動制御装置4は、ペダルセンサ2、運転状態検出装置3、駆動制御装置6からの信号に基づいて各車輪の目標制動力を演算し、算出した目標制動力の大きさに応じた信号(制動力信号)を駆動制御装置6へ送信する。駆動制御装置6は、車輪の制動力が、車両運動制御装置4から要求される目標制動力になるように、アクチュエータ7のモータ12を制御する。このとき駆動制御装置6は、回転角センサ51、推力センサ41の信号をフィードバックし、制動力を制御する。ピストン18がパッド側(図2の左方向)へ前進する方向(正転方向)にモータロータ14を回転させると、推力が増加する。また、ピストン18が後退する方向(逆転方向)へモータロータ14を回転させると、推力が減少する。ブレーキパッド21とディスクロータ22にクリアランスが生じると、ピストン推力がゼロとなり、制動力が解除される。制動力要求値がゼロの状態、すなわちピストン推力発生の要求がない制動力解除時には、ピストン推力がゼロになるように、駆動制御装置6がモータ12を制御する。
【0050】
モータ温度センサ61の情報に異常な状態を示す情報が含まれているときには、駆動制御装置6は、異常を知らせる信号を車両運動制御装置4へ送信すると同時に、その状態に応じて車両の危険を回避するようにアクチュータ7を制御する。例えば、温度センサが異常な高温を示すときには、その温度に応じて、モータへ通電する電流を制限する。
【0051】
本実施の形態によれば、上述のように、RFセンサを用い、電磁波によって駆動制御装置6へ情報を伝達することで信号線用のコネクタを設ける必要がなくなり、コネクタを介した伝熱経路がなくなるとともに、コネクタからの浸水の恐れもなくなる。また、コネクタを設けるスペースや信号線を配置するスペースも不要になり、簡素で小型な構造で、駆動制御装置の防水性と遮熱性を高めることが可能となり、信頼性が向上する。
【0052】
(第2の実施の形態)
図3に、本発明の第2の実施の形態に係る駆動制御装置6及びアクチュエータ7の断面図を示す。本実施の形態が前記第1の実施の形態と異なるのは、推力センサ41が省かれ、駆動制御装置6は、モータ12の回転角からピストン18の推力を推定し、制動力をコントロールするよう構成されている点と、ブレーキパッド21にパッド温度センサ91が設置されている点である。なお、他の構成は前記第1の実施の形態と同様であるので、同様の機能を有する要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0053】
本実施の形態では、駆動制御装置6は、モータ12の回転角度とピストン18の推力との関係を予め駆動制御回路32に記憶しており、車両運動制御装置4から送信される制動力信号で示される目標推力に対応するモータ回転角になるように、モータ12の回転角を制御する。また、ピストン18側(図面右側)のブレーキパッド21にはパッド温度センサ91が設置されている。パッド温度センサ91は、パッド温度を検出する温度検出部、センサ回路部及びセンサアンテナ手段を含んで構成され、温度検出部で検出したパッド温度に応じた信号とブレーキパッドの特性情報をセンサアンテナ手段からセンサ信号受信アンテナ33へ送信する。センサ回路部には、ブレーキパッド温度に対応したブレーキパッド21の剛性情報、すなわちブレーキパッド21に作用する荷重と変形量の関係を含むブレーキパッド21の特性情報が記憶されている。
【0054】
ピストン18には、パッド温度センサ91からセンサ信号受信アンテナ33へ送信される信号の電磁波を通すための空孔26が設けられている。ピストン18の空孔26後端(図面右側、すなわちセンサ信号受信アンテナ33側)は、浸水やダストの進入を防ぐため樹脂製のシール部材96で覆われている。
【0055】
駆動制御装置6は、ブレーキパッド21の特性情報とパッド温度に応じて、ピストン推力とモータ回転角度の関係を補正する。すなわち、パッド温度が通常よりも高温になり、ブレーキパッド21の剛性が低いと判断される場合には、モータ回転角度を常温よりも増力側へ前進するように補正する。他方、パッド温度が通常よりも低温になり、ブレーキパッド21の剛性が高いと判断される場合には、モータ回転角度を常温よりも減力側へ後退するように補正する。
【0056】
これにより、ブレーキパッド21に温度変化が生じて、ピストン推力とモータ回転角度の関係に変化が生じるときに、その変化分を適正に補正することができるため、高精度にピストン推力を制御できる。したがって、車両挙動を正確にコントロールできる信頼性の高い電動ブレーキ装置を実現できる。
【0057】
ブレーキパッド21の磨耗が進行し、ブレーキパッド21を部品交換する場合、新しいブレーキパッド21の特性情報が、古いブレーキパッドの特性情報と異なる場合には、新しいブレーキパッド21の特性情報に応じて、ピストン推力とモータ回転角度の関係を更新すればよい。これにより、ブレーキパッド21の部品交換が行われ、ピストン推力とモータ回転角度の関係に変化が生じるときに、その変化分を適正に補正することができるため、高精度にピストン推力を制御できる。したがって、車両挙動を正確にコントロールできる信頼性の高い電動ブレーキ装置を実現できる。
【0058】
本実施の形態によっても、前記第1の実施の形態と同様に、RFセンサを用い、電磁波によって駆動制御装置6へ情報を伝達することで信号線用のコネクタを設ける必要がなくなり、コネクタを介した伝熱経路がなくなるとともに、コネクタからの浸水の恐れもなくなる。また、コネクタを設けるスペースや信号線を配置するスペースも不要になり、簡素で小型な構造で、駆動制御装置の防水性と遮熱性を高めることが可能となり、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る電動ブレーキ装置を示す断面図である。
【図2】図1に示す電動ブレーキ装置と車輪の関係を示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態に係る電動ブレーキ装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 ブレーキペダル
2 ペダルセンサ
3 運転状態検出装置
4 車両運動制御装置
5 電力供給源
6 駆動制御装置
7 アクチュエータ
12 モータ
32 駆動制御回路
33 センサ信号受信アンテナ
41 推力センサ
51 回転角センサ
61 モータ温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータの駆動トルクにより制動力を発生する制動力発生手段と、前記制動力発生手段に装着されて制動力発生状態を検出するセンサと、前記センサの出力を入力の一部として前記制動力発生手段を駆動制御する駆動制御装置とを有してなり、前記センサが、前記駆動制御装置から無線電磁波によって電力供給を受けるとともに、検出した制動力発生状態を示す信号を無線電磁波によって前記駆動制御装置へ伝送するセンサアンテナ手段を含んで構成され、前記駆動制御装置が、無線電磁波によって前記センサに電力を供給するとともに、制動力発生状態を示す信号を受信する駆動制御装置アンテナ手段を含んで構成されている電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ブレーキ装置において、前記電気モータの磁気発生部位が金属部材によって遮蔽されており、前記センサアンテナ手段と前記駆駆動制御装置アンテナ手段が、前記金属部材によって遮蔽されている磁気発生部位がある空間の外部に配置されていることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動ブレーキ装置において、前記制動力発生手段はブレーキ摩擦材と前記ブレーキ摩擦材に荷重を付勢する直動部材とを含んで構成され、前記センサは、電気モータの温度を検出するセンサ、前記ブレーキ摩擦材の温度を検出するセンサ、電気モータの回転角を検出するセンサ、前記ブレーキ摩擦材に作用する荷重を検出するセンサのいずれかを含んでなることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の電動ブレーキ装置において、前記センサアンテナ手段と駆動制御装置アンテナ手段が、金属によって密閉された空間に配置されていることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の電動ブレーキ装置において、前記センサアンテナ手段は複数のセンサの信号を送信するよう構成されていることを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の電動ブレーキ装置において、前記駆動制御装置アンテナ手段は複数のセンサの信号を受信するよう構成されていることを特徴とする電動ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−213080(P2006−213080A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25150(P2005−25150)
【出願日】平成17年2月1日(2005.2.1)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】