説明

電動式直動アクチュエータ

【課題】外輪部材の軸方向の位置を精度よく制御することが可能な電動式直動アクチュエータを提供する。
【解決手段】電動モータ15で駆動される回転軸10と、その回転軸10の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ11と、その複数の遊星ローラ11を自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤ13と、複数の遊星ローラ11を囲むように配置され、軸方向にスライド可能に支持された外輪部材12と、その外輪部材12の内周に設けられた螺旋凸条22と、その螺旋凸条22と係合するように各遊星ローラ11の外周に設けられた円周溝23とを有し、回転軸10の回転を外輪部材12の直線運動に変換する電動式直動アクチュエータにおいて、キャリヤ13の回転角を検出する公転センサ33を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータで駆動される回転軸の回転を直動部材の直線運動に変換し、その直動部材で対象物を押圧する電動式直動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブレーキ装置として、摩擦パッドを油圧シリンダで駆動してブレーキディスクを押圧する油圧ブレーキ装置が採用されてきたが、近年、ABS(アンチロックブレーキシステム)等のブレーキ制御の導入に伴い、油圧回路を使用しない電動ブレーキ装置が注目されている。
【0003】
電動ブレーキ装置は、電動モータで駆動する回転軸の回転を直動部材の直線運動に変換する電動式直動アクチュエータを用い、この電動式直動アクチュエータで駆動する摩擦パッドでブレーキディスクを押圧することによって、制動力を発生するものである。
【0004】
このような電動ブレーキ装置に用いられる電動式直動アクチュエータとして、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。特許文献1の電動式直動アクチュエータは、電動モータで駆動される回転軸と、その回転軸の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラと、その複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤと、複数の遊星ローラを囲むように配置され、軸方向にスライド可能に支持された外輪部材と、その外輪部材の内周に設けられた螺旋凸条と、その螺旋凸条と係合するように各遊星ローラの外周に設けられた螺旋溝とを有する。
【0005】
そして、電動モータで回転軸を回転させると、回転軸に転がり接触する遊星ローラが自転しながら公転し、このとき、外輪部材の内周の螺旋凸状と遊星ローラの外周の螺旋溝とのリード角の差によって外輪部材が直線運動し、その直線運動する外輪部材で摩擦パッドを駆動してブレーキディスクを押圧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−65777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記電動ブレーキ装置では、ブレーキを解除したときの摩擦パッドとブレーキディスクの間のクリアランスが狭すぎると、ブレーキディスクの振れ等によりブレーキディスクが摩擦パッドに接触して抵抗となり、燃費の低下や摩擦パッドの異常摩耗が生じるおそれがある。他方、クリアランスが広すぎると、ブレーキをかけたときに、摩擦パッドがブレーキディスクに接触する位置まで移動するのに要する時間が長くなり、ブレーキの応答性が低下してしまう。
【0008】
そのため、摩擦パッドとブレーキディスクの間のクリアランスは所定の大きさに調整する必要があり、このクリアランス調整を行なうためには、外輪部材の軸方向位置を制御する必要がある。
【0009】
この外輪部材の位置制御を行なうため、本願発明の発明者は、ブレーキディスクに摩擦パッドを押圧した状態からの電動モータの回転角を回転センサで検出し、この回転センサで検出した電動モータの回転角に基づいて、外輪部材の軸方向の位置を制御する方法を検討していた。
【0010】
しかしながら、実際に電動モータの回転角に基づいて外輪部材の位置制御を行なったところ、制御開始直後は、精度よく外輪部材の位置制御を行なうことができるが、その後、外輪部材の位置精度が低下する問題が発生した。
【0011】
そして、本願発明の発明者は、この問題が生じる原因を調査した結果、遊星ローラを用いた電動式直動アクチュエータでは、回転軸から遊星ローラに摩擦によるトルク伝達を行なっていることから、回転軸と遊星ローラの間で微小な滑りが生じることがあり、特に外輪部材に軸方向の荷重が負荷されたとき(すなわち摩擦パッドでブレーキディスクを押圧したとき)に回転軸と遊星ローラの間の滑りが生じやすく、この滑りが原因で、実際の外輪部材の軸方向位置と、電動モータの回転角に基づいて算出される外輪部材の軸方向位置との間に誤差が生じていることが分かった。
【0012】
この発明が解決しようとする課題は、外輪部材の軸方向の位置を精度よく制御することが可能な電動式直動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本願発明の発明者は、回転軸と遊星ローラの間で滑りが生じたときに、その滑りに相当する分、回転軸の回転角と外輪部材の軸方向位置の対応関係にずれが生じるが、キャリヤの回転角と外輪部材の軸方向位置の対応関係にはずれが生じない点に着眼した。そして、電動モータで駆動される回転軸と、その回転軸の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラと、その複数の遊星ローラを自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤと、前記複数の遊星ローラを囲むように配置され、軸方向にスライド可能に支持された外輪部材と、その外輪部材の内周に設けられた螺旋凸条と、その螺旋凸条と係合するように前記各遊星ローラの外周に設けられた螺旋溝または円周溝とを有し、前記回転軸の回転を前記外輪部材の直線運動に変換する電動式直動アクチュエータにおいて、前記キャリヤまたはキャリヤと一体に公転する部材の回転角を検出する公転センサを設けた。
【0014】
このようにすると、回転軸と遊星ローラの間で滑りが生じた場合にも、キャリヤの回転角と外輪部材の軸方向位置の対応関係には影響がないので、公転センサで検出したキャリヤの回転角に基づいて外輪部材の位置制御を行なうことにより、外輪部材の軸方向の位置を精度よく制御することが可能となる。
【0015】
この電動式直動アクチュエータは、電動モータの回転角を検出する回転角検出手段を更に設けると好ましい。
【0016】
電動モータの回転角を検出する回転角検出手段を設けると、その回転角検出手段で検出した電動モータの回転角と、前記公転センサで検出したキャリヤの回転角とを比較し、その回転角の比が予め設定された異常しきい値を超えたときに異常が発生していると判定する異常検出手段を更に設けることができ、これにより、回転軸と遊星ローラの間の異常滑りなど異常の発生を検出することが可能となる。
【0017】
また、電動モータの回転角を検出する回転角検出手段を設けると、通常時は、前記公転センサで検出したキャリヤの回転角に基づいて前記外輪部材の位置制御を行ない、前記公転センサが故障したときは、前記回転角検出手段で検出した電動モータの回転角に基づいて前記外輪部材の位置制御を行なうことができ、これにより、冗長性を高めることが可能となる。
【0018】
前記異常検出手段で異常を検出したときに外部に異常を報知する異常報知手段を更に設けることができる。異常報知手段としては、警告ブザーや警告表示灯や画面モニターへの警告表示を行なう電子制御装置等が挙げられる。
【0019】
前記キャリヤをスラスト軸受を介して支持する反力受け部材を設ける場合、前記公転センサとしては、前記キャリヤと一体に回転するようにキャリヤと同軸に設けられた環状のターゲットと、そのターゲットと対向する位置に固定して設けられたターゲット位置検出部とからなるものを採用することができる。
【0020】
この場合、前記ターゲット位置検出部を前記ターゲットに対して非接触に配置し、そのターゲット位置検出部を、前記ターゲットに向けて光を出す投光部と、前記ターゲットを透過または反射した光を受光する受光部とで構成することができる。このようにすると、ターゲット位置検出部とターゲットとが互いに非接触なので、長期にわたる公転センサの耐久性を確保することが可能となる。
【0021】
また、前記ターゲットを反対の磁極が周方向に交互にあらわれるように着磁し、前記ターゲット位置検出部を前記ターゲットに対して非接触に配置した磁気検出部で構成すると好ましい。このようにすると、ターゲット位置検出部とターゲットとが互いに非接触なので、長期にわたる公転センサの耐久性を確保することが可能となるだけでなく、公転センサに汚れが付着した場合にも安定した検出精度を保つことが可能となる。
【0022】
前記回転角検出手段としては、例えば、前記電動モータに電力を供給する線間電圧に基づいて回転角を推定する電源装置を採用することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明の電動式直動アクチュエータは、公転センサで検出したキャリヤの回転角に基づいて外輪部材の位置制御を行なうことにより、回転軸と遊星ローラの間で滑りが生じた場合にも、外輪部材の軸方向の位置を精度よく制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態の電動式直動アクチュエータを組み込んだ電動ブレーキ装置を示す断面図
【図2】図1に示す電動式直動アクチュエータの拡大断面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【図4】図1に示す電動モータを制御する電子制御装置のブロック図
【図5】図4の電子制御装置による異常検出制御を示すフロー図
【図6】図2に示す公転センサの他の例を示す電動式直動アクチュエータの拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に、この発明の実施形態の電動式直動アクチュエータ1を用いた車両用の電動ブレーキ装置を示す。この電動ブレーキ装置は、車輪と一体に回転するブレーキディスク2を間に挟んで対向する対向片3,4をブリッジ5で連結した形状のキャリパボディ6と、左右一対の摩擦パッド7,8とを有する。そして、対向片3のブレーキディスク2に対する対向面に開口する収容孔9に電動式直動アクチュエータ1が組み込まれている。
【0026】
摩擦パッド7,8は、それぞれ対向片3,4とブレーキディスク2の間に設けられており、車輪を支持するナックル(図示せず)に固定されたマウント(図示せず)に対してブレーキディスク2の軸方向に移動可能に支持されている。また、キャリパボディ6も、ブレーキディスク2の軸方向にスライド可能にマウントに支持されている。
【0027】
図2に示すように、電動式直動アクチュエータ1は、回転軸10と、回転軸10の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ11と、これらの遊星ローラ11を囲むように配置された外輪部材12と、遊星ローラ11を自転可能かつ公転可能に保持するキャリヤ13と、外輪部材12の軸方向後方に配置された反力受け部材14とを有する。
【0028】
回転軸10は、図1に示す電動モータ15の回転が歯車16を介して入力されることにより回転駆動される。回転軸10は、対向片3を軸方向に貫通して形成された収容孔9の軸方向後側の開口から一端が突出した状態で収容孔9に挿入され、収容孔9からの突出部分に歯車16が固定されている。歯車16は、収容孔9の軸方向後側の開口を塞ぐようにボルト17で固定した蓋18で覆われている。蓋18には回転軸10を回転可能に支持する軸受19が組み込まれている。
【0029】
図3に示すように、遊星ローラ11は、回転軸10の外周の円筒面に転がり接触しており、回転軸10が回転したときに遊星ローラ11と回転軸10の間の摩擦によって遊星ローラ11も回転するようになっている。遊星ローラ11は、周方向に一定の間隔をおいて複数設けられている。
【0030】
図2に示すように、外輪部材12は、キャリパボディ6の対向片3に設けられた収容孔9内に収容され、その収容孔9の内周で軸方向にスライド可能に支持されている。外輪部材12の軸方向前端には、摩擦パッド7の背面に形成された係合凸部20に係合する係合凹部21が形成され、この係合凸部20と係合凹部21の係合によって、外輪部材12がキャリパボディ6に対して回り止めされている。
【0031】
外輪部材12の内周には螺旋凸条22が設けられ、遊星ローラ11の外周には、螺旋凸条22に係合する円周溝23が設けられており、遊星ローラ11が回転したときに、外輪部材12の螺旋凸条22が円周溝23に案内されて、外輪部材12が軸方向に移動するようになっている。この実施形態では遊星ローラ11の外周にリード角が0度の円周溝23を設けているが、円周溝23のかわりに螺旋凸条22と異なるリード角をもつ螺旋溝を設けてもよい。
【0032】
キャリヤ13は、遊星ローラ11を回転可能に支持するキャリヤピン13Aと、その各キャリヤピン13Aの軸方向前端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤプレート13Cと、各キャリヤピン13Aの軸方向後端の周方向間隔を一定に保持する環状のキャリヤ本体13Bとからなる。キャリヤプレート13Cとキャリヤ本体13Bは遊星ローラ11を間に軸方向に対向しており、周方向に隣り合う遊星ローラ11の間に配置された連結棒24を介して連結されている。連結棒24には、遊星ローラ11の外周に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材24aが取り付けられている。
【0033】
キャリヤ本体13Bは、滑り軸受25を介して回転軸10に支持され、回転軸10に対して相対回転可能となっている。遊星ローラ11とキャリヤ本体13Bの間には、遊星ローラ11の自転がキャリヤ本体13Bに伝達するのを遮断するスラスト軸受26が組み込まれている。
【0034】
各キャリヤピン13Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数のキャリヤピン13Aに外接するように装着された縮径リングばね27で径方向内方に付勢されている。この縮径リングばね27の付勢力によって、遊星ローラ11の外周は回転軸10の外周に押さえ付けられ、回転軸10と遊星ローラ11の間の滑りが防止されている。縮径リングばね27の付勢力を遊星ローラ11の軸方向全長にわたって作用させるため、キャリヤピン13Aの両端に縮径リングばね27,27が設けられている。
【0035】
反力受け部材14は、環状円板部14Aと、環状円板部14Aの径方向内端に一体に設けられた筒部14Bとからなる。環状円板部14Aは、収容孔9の内周の外輪部材12のスライドする部分よりも軸方向後側の部分に嵌合している。また、環状円板部14Aの径方向外端は、収容孔9の内周に取り付けた止め輪28で係止されている。筒部14Bの内周には、回転軸10を回転可能に支持する複数の転がり軸受29が軸方向に間隔をおいて組み込まれている。キャリヤ13と環状円板部14Aの間には、キャリヤ13と一体に公転する間座30と、間座30を公転可能に支持するスラスト軸受31とが組み込まれている。
【0036】
反力受け部材14は、収容孔9の内周に装着した止め輪28,39によって、軸方向の前方および後方への移動が規制されている。そして、この反力受け部材14は、間座30とスラスト軸受31とを介してキャリヤ本体13Bを軸方向に支持することで、キャリヤ13の軸方向後方への移動を規制している。また、キャリヤ13は、回転軸10の軸方向前端に装着された止め輪32で軸方向前方への移動も規制されている。したがって、キャリヤ13は、軸方向前方と軸方向後方の移動がいずれも規制され、キャリヤ13に保持された遊星ローラ11も軸方向移動が規制された状態となっている。なお、ブレーキ解除時に反力受け部材14を軸方向前方へ移動させようとする力は非常に小さいため、反力受け部材14とキャリパボディ6の収容孔9を負の隙間にて圧入し、止め輪39を廃止することも出来る。
【0037】
反力受け部材14の筒部14Bは、環状に形成された間座30を相対回転可能に挿通しており、間座30を挿通した部分がキャリヤ本体13Bと軸方向に対向している。筒部14Bとキャリヤ本体13Bの対向面間に、キャリヤ13の回転角を検出する公転センサ33が設けられている。公転センサ33は、キャリヤ本体13Bと一体に回転するようにキャリヤ本体13Bに同軸に固定された環状のターゲット34と、ターゲット34と軸方向に対向するように反力受け部材14の筒部14Bに固定されたターゲット位置検出部35とからなる。ターゲット位置検出部35は、ターゲット34に対して非接触に配置されている。
【0038】
公転センサ33としては、例えば電気接点式エンコーダを採用することも可能であるが、ターゲット34に向けて光を出す投光部とターゲット34で反射した光を受光する受光部とからなるターゲット位置検出部35をもつ光電式エンコーダを採用すると好ましい。このようにすると、ターゲット位置検出部35とターゲット34とが互いに非接触なので、長期にわたる公転センサ33の耐久性を確保することが可能となる。
【0039】
また、公転センサ33として、反対の磁極が周方向に交互にあらわれるように着磁したターゲット34を用い、そのターゲット34の発生する磁界をターゲット位置検出部35で検出するようにした磁気式エンコーダを採用することもできる。このようにすると、ターゲット位置検出部35とターゲット34とが互いに非接触なので、長期にわたる公転センサ33の耐久性を確保することが可能となるだけでなく、公転センサ33に汚れが付着した場合にも安定した検出精度を保つことが可能となる。静電容量式エンコーダを採用しても同様である。
【0040】
電動モータ15には、電動モータ15の回転角を検出する回転角検出手段36(図4参照)が組み込まれている。回転角検出手段36としては、レゾルバやホール素子を採用することができる。また、回転角検出手段36として、電動モータ15に電力を供給する線間電圧に基づいて回転角を推定する電源装置を採用することも可能である。
【0041】
電動モータ15は、図4に示す電子制御装置37で制御される。電子制御装置37には、公転センサ33からキャリヤ13の回転角に対応する信号が入力され、回転角検出手段36から電動モータ15の回転角に対応する信号が入力される。電子制御装置37からは、電動モータ15の回転角を制御する制御信号が出力される。また、電子制御装置37には、運転者に異常を報知する異常報知手段38が接続されている。異常報知手段38としては、警告ブザーや警告表示灯や画面モニターへの警告表示を行なう電子制御装置等が挙げられる。
【0042】
次に上述した電動式直動アクチュエータ1の動作例を説明する。
【0043】
電動モータ15を作動させると、回転軸10が回転し、遊星ローラ11がキャリヤピン13Aを中心に自転しながら回転軸10を中心に公転する。このとき螺旋凸条22と円周溝23の係合によって外輪部材12と遊星ローラ11が軸方向に相対移動するが、遊星ローラ11はキャリヤ13と共に軸方向の移動が規制されているので、遊星ローラ11は軸方向に移動せず、外輪部材12が軸方向に移動する。このようにして、電動式直動アクチュエータ1は、電動モータ15で駆動される回転軸10の回転を外輪部材12の直線運動に変換し、その外輪部材12で摩擦パッド7を駆動してブレーキディスク2を押圧することによって、電動ブレーキ装置の制動力を発生させる。
【0044】
摩擦パッド7でブレーキディスク2を押圧するとき、外輪部材12はブレーキディスク2を押圧する荷重の反力を受け、その反力は、遊星ローラ11、キャリヤ13、間座30、スラスト軸受31を介して反力受け部材14で受け止められる。
【0045】
ところで、上記電動ブレーキ装置は、ブレーキを解除したときの摩擦パッド7,8とブレーキディスク2の間のクリアランスが狭すぎると、ブレーキディスク2の振れ等によりブレーキディスク2が摩擦パッド7,8に接触して抵抗となり、車両の燃費の低下や摩擦パッド7,8の異常摩耗が生じるおそれがある。他方、クリアランスが広すぎると、ブレーキをかけたときに、摩擦パッド7,8がブレーキディスク2に接触する位置まで移動するのに要する時間が長くなり、ブレーキの応答性が低下してしまう。
【0046】
そこで、摩擦パッド7,8とブレーキディスク2の間のクリアランスを所定の大きさに調整するため、電子制御装置37は外輪部材12の軸方向位置を制御する。ここで、外輪部材12の位置制御を行なう方法として、例えば、ブレーキディスク2に摩擦パッド7,8を押圧した状態からの電動モータ15の回転角を回転角検出手段36で検出し、この回転角検出手段36で検出した電動モータ15の回転角に基づいて、外輪部材12の軸方向の位置を制御する方法が考えられる。
【0047】
しかしながら、遊星ローラ11を用いた上記電動式直動アクチュエータ1では、回転軸10から遊星ローラ11に摩擦によるトルク伝達を行なっていることから、回転軸10と遊星ローラ11の間で微小な滑りが生じることがあり、特に外輪部材12に軸方向の荷重が負荷されたとき(すなわち摩擦パッド7,8でブレーキディスク2を押圧したとき)に回転軸10と遊星ローラ11の間の滑りが生じやすい。
【0048】
そのため、電動モータ15の回転角に基づいて外輪部材12の位置制御を行なう方法では、回転軸10と遊星ローラ11の間の滑りが原因で、実際の外輪部材12の軸方向位置と、電動モータ15の回転角に基づいて算出される外輪部材12の軸方向位置との間に誤差が生じる可能性がある。
【0049】
そこで、この実施形態に係る電動式直動アクチュエータ1においては、公転センサ33で検出したキャリヤ13の回転角に基づいて外輪部材12の位置制御を行なうようにしている。また、公転センサ33の出力と回転角検出手段36の出力とを比較することによって、回転軸10と遊星ローラ11の間の異常滑りなど異常の発生を検出し、運転者に報知するようにしている。
【0050】
以下、この異常検出制御を、図5に示すフロー図に基づいて説明する。
【0051】
まず、回転角検出手段36で検出した電動モータ15の回転角と、公転センサ33で検出したキャリヤ13の回転角とを比較し、キャリヤ13の回転角に対する電動モータ15の回転角の比が予め設定された異常しきい値を超えているか否かを判定する(ステップS,S)。
【0052】
回転角の比が異常しきい値を超えているときは、電動式直動アクチュエータ1に何らかの異常が生じているものと考えられるので、電子制御装置37から異常報知手段38に異常信号を出力し、異常報知手段38から運転者に異常の発生を知らせる(ステップS)。異常の種類としては、回転軸10と遊星ローラ11の間の異常滑りが主なものであるが、その他にも、歯車16の故障などが挙げられる。回転軸10と遊星ローラ11の間の異常滑りが生じると、電動ブレーキ装置の応答性が低下するため、速やかにメンテナンスを行なう必要がある。
【0053】
その後、キャリヤ13の回転角に対する電動モータ15の回転角の比が、予め設定された解除しきい値(<異常しきい値)よりも小さくなったときは、回転軸10と遊星ローラ11の間の異常滑りが解消したと考えられるので、異常信号を解除する(ステップS,S)。
【0054】
この電動式直動アクチュエータ1は、公転センサ33で検出したキャリヤ13の回転角に基づいて外輪部材12の位置制御を行なうので、回転軸10と遊星ローラ11の間で滑りが生じた場合にも、外輪部材12の軸方向の位置を精度よく制御することが可能である。
【0055】
また、この電動式直動アクチュエータ1は、通常時は、公転センサ33で検出したキャリヤ13の回転角に基づいて外輪部材12の位置制御を行ない、公転センサ33が故障したときは、回転角検出手段36で検出した電動モータ15の回転角に基づいて外輪部材12の位置制御を行なうことができる。そのため、外輪部材12の位置制御を電動モータ15の回転角のみに基づいて行なう場合と比べて、冗長性が高い。
【0056】
上記実施形態では、ターゲット34とターゲット位置検出部35とが軸方向に対向するように配置した公転センサ33を例に挙げて説明したが、図6に示すように、ターゲット34とターゲット位置検出部35が径方向に対向するように配置してもよい。
【0057】
図6において、環状のターゲット34は、キャリヤ本体13Bと一体に回転する間座30の外周に固定され、ターゲット位置検出部35は、ターゲット34と径方向に対向するように収容孔9の内周に固定されている。この公転センサ33も、上記実施形態と同様に光電式エンコーダや磁気式エンコーダを採用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 電動式直動アクチュエータ
7,8 摩擦パッド
10 回転軸
11 遊星ローラ
12 外輪部材
13 キャリヤ
14 反力受け部材
15 電動モータ
22 螺旋凸条
23 円周溝
30 間座
31 スラスト軸受
33 公転センサ
34 ターゲット
35 ターゲット位置検出部
36 回転角検出手段
37 電子制御装置
38 異常報知手段
39 止め輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(15)で駆動される回転軸(10)と、その回転軸(10)の外周の円筒面に転がり接触する複数の遊星ローラ(11)と、その複数の遊星ローラ(11)を自転可能かつ公転可能に保持し、軸方向移動を規制されたキャリヤ(13)と、前記複数の遊星ローラ(11)を囲むように配置され、軸方向にスライド可能に支持された外輪部材(12)と、その外輪部材(12)の内周に設けられた螺旋凸条(22)と、その螺旋凸条(22)と係合するように前記各遊星ローラ(11)の外周に設けられた螺旋溝または円周溝(23)とを有し、前記回転軸(10)の回転を前記外輪部材(12)の直線運動に変換する電動式直動アクチュエータにおいて、前記キャリヤ(13)またはキャリヤ(13)と一体に公転する部材(30)の回転角を検出する公転センサ(33)を設けたことを特徴とする電動式直動アクチュエータ。
【請求項2】
前記電動モータ(15)の回転角を検出する回転角検出手段(36)を更に設けた請求項1に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項3】
前記回転角検出手段(36)で検出した電動モータ(15)の回転角と、前記公転センサ(33)で検出したキャリヤ(13)の回転角とを比較し、その回転角の比が予め設定された異常しきい値を超えたときに異常が発生していると判定する異常検出手段(37)を更に設けた請求項2に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項4】
通常時は、前記公転センサ(33)で検出したキャリヤ(13)の回転角に基づいて前記外輪部材(12)の位置制御を行ない、前記公転センサ(33)が故障したときは、前記回転角検出手段(36)で検出した電動モータ(15)の回転角に基づいて前記外輪部材(12)の位置制御を行なう請求項2または3に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項5】
前記異常検出手段(37)で異常を検出したときに外部に異常を報知する異常報知手段(38)を更に設けた請求項3または4に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項6】
前記キャリヤ(13)をスラスト軸受(31)を介して支持する反力受け部材(14)を設け、前記公転センサ(33)が、前記キャリヤ(13)と一体に回転するようにキャリヤ(13)と同軸に設けられた環状のターゲット(34)と、そのターゲット(34)と対向する位置に固定して設けられたターゲット位置検出部(35)とからなる請求項1から5のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項7】
前記ターゲット位置検出部(35)を前記ターゲット(34)に対して非接触に配置し、そのターゲット位置検出部(35)を、前記ターゲット(34)に向けて光を出す投光部と、前記ターゲットで反射した光を受光する受光部とで構成した請求項6に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項8】
前記ターゲット(34)を反対の磁極が周方向に交互にあらわれるように着磁し、前記ターゲット位置検出部(35)を前記ターゲット(34)に対して非接触に配置した磁気検出部で構成した請求項6に記載の電動式直動アクチュエータ。
【請求項9】
前記回転角検出手段(36)が、前記電動モータに電力を供給する線間電圧に基づいて回転角を推定する電源装置である請求項2から8のいずれかに記載の電動式直動アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96522(P2013−96522A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241064(P2011−241064)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】