説明

電動機の制御装置

【課題】電動機出力を確保しつつ電動機の過温度上昇を防止することが可能な出力制限を実現する。
【解決手段】実験結果に基づき、電動機での損失電力をパラメータとして、各損失電力における動作点の集合、すなわち、電動機回転速度Nmおよび出力トルクTqの対応関係を示す損失特性線150を予めマップ化される。電動機の運転時には、電動機温度の検出値に基づいて電動機での損失電力許容値Llmtを設定するとともに、設定した損失電力許容値Llmtに対応する損失特性線150に従って、各回転速度Nmに対するトルク上限値が設定される。これにより、最大出力線110に従うトルク上限値に制限係数(<1.0)を乗算することによりトルク上限値を設定する場合と比較して、電動機の過熱を防止した上で出力トルクを確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電動機の制御装置に関し、より特定的には、電動機の温度上昇に伴う出力制限のための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機制御の一環として、電動機温度を検出するとともに、電動機温度が許容値以上の場合には電動機の出力を制限して過熱を防止するようにした構成が知られている。
【0003】
たとえば、特開2004−166415号公報(特許文献1)の図6には、モータ温度に対してモータ出力制限係数を設定するモータ出力制限マップが開示され、本来のトルク指令値とモータ出力制限係数との積に従ってトルク指令値を補正するモータ駆動制御装置が開示されている。特に、特許文献1のモータ駆動制御装置は、モータ温度に応じたモータ出力制限係数とインバータ温度に応じたモータ出力制限係数のうちの小さい方を総合出力制限係数として、この総合出力制限係数と本来のトルク指令値との積に従ってトルク指令値を補正する。
【特許文献1】特開2004−166415号公報
【特許文献2】特開2006−46576号公報
【特許文献3】特開平7−67398号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電動機での温度上昇度合、すなわち発熱量は、単純に出力トルクに比例する特性ではないため、特許文献1のモータ駆動制御装置のような出力制限では、電動機の過熱を精密に防止することが困難である。このため、電動機保護を優先するためには出力制限係数を安全側に設定する必要が生じ、電動機の過熱を防止できる範囲内で可能な限り電動機出力を確保するという観点からは必ずしも適切な出力制限を行なうことができない。
【0005】
特に、ハイブリッド車に搭載された電動機では、車両発進時あるいは坂道走行時等の低速時に電動機出力が要求される傾向にあるため、このような領域で特許文献1に開示されたような出力制限を行なうと、十分な車両性能を発揮できない可能性がある。
【0006】
この発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、電動機出力を最大限確保しつつ電動機の過熱を防止することが可能な制御構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電動機の制御装置は、電動機の温度を検出する温度検出器と、温度検出器により検出された電動機温度に基づき、電動機の出力を制限するための出力制限手段とを備える。そして、出力制限手段は、電動機温度に応じて電動機で発生する損失電力の許容値を設定するとともに、設定した許容値に基づいて電動機の出力を制限する。
【0008】
上記電動機の制御装置によれば、電動機の温度上昇に直接影響を与える電動機での損失電力の許容値に着目して出力制限を行なうので、より高精度に電動機の過熱状態を防止できるとともに、過熱状態とならない限界まで電動機の出力確保を図ることが可能となる。
【0009】
好ましくは、出力制限手段は、損失許容値設定手段と、制限手段とを含む。損失許容値設定手段は、電動機温度に基づいて損失電力の許容値を設定する。制限手段は、電動機の回転速度および出力トルクの組合わせにより定義される動作点に対する電動機での損失電力予測値に基づき、損失電力予測値が許容値以下となる範囲内に動作点を制限する。
【0010】
上記構成とすることにより、電動機温度に基づいて電動機での損失電力の許容値を設定し、この許容値内に電動機の動作点(回転速度,出力トルク)を制限することによって、上記のような電動機の出力制限を実現することができる。
【0011】
さらに好ましくは、制限手段は、損失特性記憶手段と、トルク制限手段とを有する。損失特性記憶手段と、損失電力予測値が一定となる電動機の回転速度および出力トルク値の対応関係を示す損失特性を記憶する。トルク制限手段は、損失電力予測値が損失許容値設定手段によって設定された許容値であるときの損失特性に従って、現在の回転速度に基づき出力トルクの上限値を設定する。
【0012】
上記構成とすることにより、予め実験等で求めた損失電力予測値に基づき、損失電力予測値が一定となる電動機の回転速度および出力トルク値の対応関係を示す損失特性を予めマップ化しておき、かつ、電動機の運転中には当該マップを適宜参照する態様によって、現在の電動機温度における損失電力許容値に対応した電動機のトルク制限を簡易に実現することができる。
【0013】
好ましくは、電動機は、車両に搭載されて、車両の駆動力を発生するように構成される。
【0014】
上記構成によれば、車両搭載用電動機の低回転速度領域において過熱状態の発生を防止しつつ出力を確保することが可能となる。したがって、車両発進時あるいは坂道走行時(登坂時)のような電動機に高トルク出力が要求される場面において、車両駆動力を確保できるようになる。
【発明の効果】
【0015】
この発明による電動機の制御装置によれば、電動機出力を確保しつつ電動機の過温度上昇を防止することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下にこの発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお以下では図中の同一または相当部分には同一符号を付してその詳細な説明は原則的に繰返さないものとする。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に従う電動機の制御装置による電動機制御構成を説明する図である。以下の実施の形態では、制御対象となる電動機について、電動車両に搭載された車両駆動用電動機を代表例として説明する。
【0018】
図1を参照して、電動車両100は、直流電圧発生部10♯と、平滑コンデンサC0と、インバータ20と、代表的にはECU(Electronic Control Unit)により構成される制御回路50および制御装置80と、モータジェネレータMGと、駆動軸62と、駆動軸62の回転に伴って回転駆動される車輪65とを含む。駆動軸62は、一般的には図示しない減速機等の変速機構を介して、モータジェネレータMGの出力軸との間で回転力を相互に伝達可能に構成される。また、車輪65には、制動機構、代表的には油圧供給により機械的に制動力を発揮する油圧ブレーキ90が設けられる。
【0019】
モータジェネレータMGは、ハイブリッド自動車または電気自動車等の電動車両に搭載されて、力行時に車輪の駆動トルクを発生するとともに、回生時には、駆動輪65の回転方向と反対方向の回生トルクを発生することにより、電気的な制動力(回生制動力)の発生による回生発電を行なう。すなわち、モータジェネレータMGは、本発明での「電動機」に対応する。ハイブリッド自動車では、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように構成された、別のモータジェネレータがさらに設けられてもよい。なお、電動車両100がハイブリッド自動車である場合には、エンジン(図示せず)の出力によっても駆動軸62を回転可能なように車両駆動系が構成されてもよい。
【0020】
直流電圧発生部10♯は、直流電源Bと、システムリレーSR1,SR2と、平滑コンデンサC1と、昇降圧コンバータ12とを含む。直流電源Bとしては、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池、あるいは、電気二重層キャパシタ等の蓄電装置を適用可能である。直流電源Bが出力する直流電圧Vbは、電圧センサ10によって検知される。電圧センサ10は、検出した直流電圧Vbを制御回路50へ出力する。
【0021】
システムリレーSR1は、直流電源Bの正極端子および電源ライン6の間に接続され、システムリレーSR2は、直流電源Bの負極端子および接地ライン5の間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御回路50からの制御信号SEに応答してオン/オフされる。
【0022】
昇降圧コンバータ12は、リアクトルL1と、電力用半導体スイッチング素子Q1,Q2とを含む。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2は、電源ライン7および接地ライン5の間に直列に接続される。電力用半導体スイッチング素子Q1およびQ2のオン・オフは、制御回路50からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
【0023】
本発明の実施の形態において、電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電
力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラト
ランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと電源ライン6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、電源ライン7および接地ライン5の間に接続される。
【0024】
インバータ20は、電源ライン7および接地ライン5の間に並列に設けられる、U相アーム22と、V相アーム24と、W相アーム26とから成る。各相アームは、電源ライン7および接地ライン5の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。たとえば、U相アーム22は、スイッチング素子Q11,Q12から成り、V相アーム24は、スイッチング素子Q13,Q14から成り、W相アーム26は、スイッチング素子Q15,Q16から成る。また、スイッチング素子Q11〜Q16に対して、逆並列ダイオードD11〜D16がそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q11〜Q16のオン・オフは、制御回路50からのスイッチング制御信号S11〜S16によって制御される。
【0025】
各相アームの中間点は、モータジェネレータMGの各相コイルの各相端に接続されている。すなわち、モータジェネレータMGは、3相の永久磁石モータであり、U,V,W相の各相コイル巻線の一端が中性点Nに共通接続されて構成される。さらに、各相コイル巻線の他端は、各相アーム22,24,26のスイッチング素子の中間点と接続されている。
【0026】
昇降圧コンバータ12は、昇圧動作時には、直流電源Bから供給された直流電圧Vbを昇圧した直流電圧VH(インバータ20への入力電圧に相当)をインバータ20へ供給する。より具体的には、制御回路50からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1,Q2のデューティ比(オン期間比率)が設定され、昇圧比は、デューティ比に応じたものとなる。
【0027】
また、昇降圧コンバータ12は、降圧動作時には、平滑コンデンサC0を介してインバータ20から供給された直流電圧を降圧して直流電源Bを充電する。より具体的には、制御回路50からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1のみがオンする期間と、スイッチング素子Q1,Q2の両方がオフする期間とが交互に設けられ、降圧比は上記オン期間のデューティ比に応じたものとなる。
【0028】
平滑コンデンサC0は、昇降圧コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ20へ供給する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧(すなわち、インバータ入力電圧)を検出し、その検出値VHを制御回路50へ出力する。
【0029】
インバータ20は、モータジェネレータMGのトルク指令値が正(Tqcom>0)の場合には、制御回路50からのスイッチング制御信号S11〜S16に応答したスイッチング素子Q11〜Q16のスイッチング動作により、平滑コンデンサC0から供給される直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するようにモータジェネレータMGを駆動する。また、インバータ20は、モータジェネレータMGのトルク指令値が零の場合(Tqcom=0)には、スイッチング制御信号S11〜S16に応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるようにモータジェネレータMGを駆動する。これにより、モータジェネレータMGは、トルク指令値Tqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
【0030】
さらに、電動車両100の回生制動時には、モータジェネレータMGのトルク指令値Tqcomは負に設定される(Tqcom<0)。この場合には、インバータ20は、スイッチング制御信号S11〜S16に応答したスイッチング動作により、モータジェネレータMGが発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧(システム電圧)を平滑コンデンサC0を介して昇降圧コンバータ12へ供給する。
【0031】
なお、ここで言う回生制動とは、ハイブリッド自動車または電気自動車の運転者によるフットブレーキ(ブレーキペダル)操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
【0032】
電流センサ27は、モータジェネレータMGに流れるモータ電流MCRTを検出し、その検出したモータ電流を制御回路50へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ27は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。
【0033】
回転角センサ(レゾルバ)28は、モータジェネレータMGの図示しない回転子の回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御回路50へ送出する。制御回路50では、回転角θに基づきモータジェネレータMGの回転速度Nmを算出することができる。
【0034】
モータジェネレータMGには、温度センサ29がさらに設けられる。一般に、温度センサ29は、温度上昇による絶縁被覆の破壊等が懸念されるコイル巻線部位の温度を測定して、少なくとも制御装置80へ出力するように設けられる。以下では、温度センサ29により測定された温度をモータ温度Tmと称する。
【0035】
制御装置80には、直流電源(バッテリ)Bの充電状態や入出力電力制限を示すバッテリ情報や、各種車両センサ信号(たとえば、車速や路面状況等の車両状態を示すセンサ検出値や、車両内の各種機器の動作状態を示すセンサ検出値)が入力される。制御装置80は、車両状態および運転者によるアクセル/ブレーキ操作等に基づいて、電動車両100が要求された所要の性能を発揮するように、モータジェネレータMGのトルク指令値Tqcomおよび回生指示信号RGEを発生する。
【0036】
なお、制御装置80は、直流電源Bに関する、満充電時を100%とした充電率(SOC:State of Charge)や充電制限を示す入力可能電力Pin、放電制限を示す出力可能電力Pout等の情報に基づき、直流電源Bの過充電あるいは過放電が発生しない範囲内で、トルク指令値Tqcomおよび回生指示信号RGEを生成する。また、制御装置80は、温度センサ29により検出されたモータ温度Tmに基づき、モータジェネレータMGの過熱状態発生を防止するような、モータジェネレータMGの出力制限を、代表的には、トルク指令値Tqcom設定時の上限値を制限することにより実行する。
【0037】
電動機制御用の制御回路(MG−ECU)50は、制御装置80から入力されたトルク指令値Tqcom、電圧センサ10によって検出されたバッテリ電圧Vb、電圧センサ13によって検出されたシステム電圧VHおよび電流センサ27からのモータ電流MCRT、回転角センサ28からの回転角θに基づいて、モータジェネレータMGがトルク指令値Tqcomに従ったトルクを出力するように、昇降圧コンバータ12およびインバータ20の動作を制御するスイッチング制御信号S1,S2,S11〜S16を生成する。
【0038】
昇降圧コンバータ12の昇圧動作時には、制御回路50は、モータジェネレータMGの運転状態に応じてシステム電圧VHの指令値を算出し、この指令値および電圧センサ13によるシステム電圧VHの検出値に基づいて、出力電圧VHが電圧指令値となるようにスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
【0039】
また、制御回路50は、電動車両100が回生制動モードに入ったことを示す制御信号RGEを制御装置80から受けると、トルク指令値Tqcomに従った回生トルクの出力によりモータジェネレータMGで発電された交流電圧を直流電圧に変換するようにスイッチング制御信号S11〜S16を生成してインバータ20へ出力する。これにより、インバータ20は、モータジェネレータMGからの回生電力を直流電圧に変換して昇降圧コンバータ12へ供給する。
【0040】
さらに、制御回路50は、制御信号RGEに応答して、インバータ20から供給された直流電圧を必要に応じて直流電源Bの充電電圧に降圧するように、スイッチング制御信号S1,S2を生成し、昇降圧コンバータ12へ出力する。このようにして、モータジェネレータMGからの回生電力は、直流電源Bの充電に用いられる。
【0041】
さらに、制御回路50は、電動車両100の駆動システム起動/停止時に、システムリレーSR1,SR2をオン/オフするための信号SEを生成してシステムリレーSR1,SR2へ出力する。
【0042】
なお、図1の例では、制御回路50および制御装置80を別個のECUで構成したが、両者の機能を単一のECUに一体化する構成とすることも可能である。
【0043】
次に図2および図3を用いて、比較例として示される一般的なモータ出力制限について説明する。
【0044】
図2を参照して、モータジェネレータMGの動作点は、横軸をモータ回転速度Nmとし、縦軸を出力トルクTqとした平面上の各点で示される。最大出力線110は、モータ温度等による出力制限が不要である場合における、モータジェネレータMGの各回転速度Nmにおける出力トルク上限値の集合で示される。なお、以下では代表例として、モータジェネレータMGの動作点のうちの、Nm>0かつTq>0の象限についてモータジェネレータMGの出力制限を説明する。
【0045】
図3には、モータ温度に対する出力制限係数の設定例が示される。
図3に示されるように、モータ温度Tm≦Taのときには出力制限係数KL=1.0に設定されて、図2の最大出力線110に従って各回転速度におけるトルク上限値が設定される。すなわち、モータジェネレータMGの動作点は、最大出力線110の範囲内に設定されることになる。
【0046】
これに対して、モータ温度Tm>Taの領域では、KLが1.0から徐々に減少される。たとえば、KL=0.5となるモータ温度Tbでは、図2の50%出力制限線で示されるように、各回転速度において、最大出力線110上のトルク上限値を0.5倍した値にトルク上限値が設定される。すなわち、50%の出力制限線120の範囲内にモータジェネレータMGの動作点が制限されることになる。さらに、モータ温度が上昇してモータ温度Tm≧Tcとなると、KL=0とされてモータジェネレータMGによるトルク出力が禁止される。
【0047】
しかしながら、モータジェネレータMGでの発熱は、出力トルクに単純に比例するのではなく、モータジェネレータMGで発生する損失電力(以下、モータ損失電力と称する)に応じたものとなる。このモータ損失電力は、主に、モータ電流によって発生する銅損と、モータコアに発生する渦電流によって生じる鉄損との和で示される。銅損は、モータ電流の上昇、すなわち、出力トルクの上昇に応じて増加し、鉄損は、モータ回転速度の上昇に応じて増加する特性を示す。
【0048】
ここで、モータジェネレータMGの各動作点におけるモータ損失電力は、予め実験によって実測することが可能である。したがって、この実験結果に基づき、モータ損失電力が一定値である下のモータジェネレータMGの動作点の集合を求めることができる。
【0049】
図4に示すように、本実施の形態では、上記のような実験結果に基づき、モータ損失電力をパラメータとして、各モータ損失電力における動作点の集合、すなわち、モータ回転速度Nmおよび出力トルクTqの対応関係を示す損失特性線150を予めマップ化しておく。
【0050】
そして、図5に示すように、本実施の形態では、モータ温度Tmに対して、モータジェネレータMGでの発熱量に直接的に関係する損失電力について、損失電力許容値Llmtを設定する。
【0051】
図5に示されるように、モータ温度Tm≦Taの範囲では、Llmt=Lmaxに設定される。このときには、図3でのKL=1.0の場合と同様に、最大出力線110に従って各回転速度Nmにおけるトルク上限値が設定される。
【0052】
一方、モータ温度TmがTa〜Tcの範囲内では、モータジェネレータMGでの損失電力許容値LlmtがLmaxより小さい値に設定される。
【0053】
そして、図4上において、図5に従って設定された損失電力許容値Llmtに対応する損失特性線150に従って、各回転速度Nmに対するトルク上限値が設定される。
【0054】
図6は、本発明の実施の形態によるモータ出力制限の制御構成を説明する概略ブロック図である。図6に示される各ブロックの機能は、制御装置80によってハードウェア的あるいはソフトウェア的に実現される。
【0055】
図6を参照して、出力制限部200は、損失許容値設定部210と、損失特性マップ220と、トルク上限値設定部230とを含む。損失許容値設定部210は、図5に示すような制限特性に従い、モータ温度Tmに基づきモータジェネレータMGでの損失電力許容値Llmtを設定する。
【0056】
損失特性マップ220は、損失電力許容値Llmtの値をパラメータとして、図4中に示した損失特性線150が複数設定されたマップに相当する。損失特性マップ220からは、損失許容値設定部210において設定された損失電力許容値Llmtと、そのときのモータジェネレータMGの回転速度Nmを引数として、損失電力許容値Llmtに対応する損失特性線150上のトルク値Tqが読出される。
【0057】
トルク上限値設定部230は、損失特性マップ220から読出されたトルク値Tqをトルク上限値Tqmaxとして設定する。そしてトルク上限値設定部230は、モータジェネレータMGに本来要求されるトルク指令値Tqcom♯と、トルク上限値Tqmaxとを比較し、トルク上限値Tqmaxを超えないように制限してトルク指令値Tqcomを最終的に設定する。
【0058】
図7は、図6に示したモータ出力制限を制御装置80でのプログラム処理によって実現するためのフローチャートである。
【0059】
図7を参照して、制御装置80は、ステップS100では、温度センサ29の出力によりモータ温度Tmを取得する。続いて、制御装置80は、ステップS110では、モータ温度Tmに基づいて損失電力許容値Llmtを設定する。すなわち、ステップS110の処理は図6に示した損失許容値設定部210の機能に相当する。
【0060】
さらに、制御装置80は、ステップS120では、損失特性マップ220の参照により、現在のモータ回転速度Nmと、ステップS110で設定された損失電力許容値Llmtに対応する出力トルク値を読出す。すなわち、ステップS120の処理は、図6における損失特性マップ220の参照動作に対応する。
【0061】
そして、制御装置80は、ステップS130では、読出した出力トルク値をトルク上限値Tqmaxに設定し、ステップS140により、本来のトルク指令値Tqcom♯がトルク上限値Tqmaxより大きいか否かを判定する。
【0062】
制御装置80は、Tqcom♯>Tqmaxのとき(S140のYES判定時)には、ステップS150により、トルク指令値Tqcom=Tqmaxに設定する。一方、制御装置80は、Tqcom♯≦Tqmaxのとき(S140のNO判定時)には、ステップS160により、トルク指令値Tqcom♯を修正することなくそのまま最終的なトルク指令値Tqcomとする。
【0063】
これにより、モータジェネレータMGでの損失電力がモータ温度Tmに基づく損失電力許容値Llmtを超えない範囲内に制限してトルク指令値Tqcomの上限が設定されるような、モータジェネレータの出力制限が実現される。
【0064】
このように本実施の形態によれば、モータジェネレータMGでの発熱に直接的に影響するモータ損失電力を許容値以下に制限するように出力制限を行なうので、より精密にモータジェネレータMGの過熱を防止することができる。特に、損失電力許容値に基づく出力制限とすることにより、モータジェネレータMGが過熱状態に至らない範囲内での出力確保を追求できる。
【0065】
たとえば、図4から理解されるように、従来(図3)の出力制限係数設定において出力制限係数=0.5となるときのモータ温度Tbに対する、出力制限線120および損失特性線150とを比較すると、本実施の形態では、図4中にハッチングした領域について従来よりも出力トルクを確保することができる。
【0066】
一般に、最大出力線110の設定において、モータ低回転速度領域でのトルク上限値は一定値に制限される。したがって、最大出力線110の相似形によるのではなく、モータジェネレータMGでの損失電力を評価して出力(トルク)上限を設定する本実施の形態によれば、特に車両発進時や登坂時等に使用されるモータジェネレータMGの低回転速度領域において、モータ温度上昇時にも出力トルクを確保する余地が生じる。したがって、本発明の実施の形態による電動機の制御装置により制御されるモータジェネレータMGを搭載した車両では、このような領域で車両性能を確保することが可能となる。
【0067】
なお、以上の説明では、Nm>0かつTq>0の象限のみを例示して、モータジェネレータMGの出力制限を説明したが、出力トルクが負(Tq<0)のときを含む他の象限についても、同様の手法に基づく出力制限を行なうことができる。
【0068】
制御対象となる電動機についても、電動機あるいは発電機の機能のみを有するものとすることも可能であり、例示した永久磁石型モータ以外とすることも可能である。また、電動車両搭載用以外に適用される電動機についても、本発明による出力制限を適用できる。すなわち、本発明は、過熱状態回避のための出力制限が必要とされる電動機であれば、電動機の種類・形式や適用用途を特に限定することなく共通に適用することが可能である。
に限定されるものではない。すなわち、共通に本発明を適用することが可能である。
【0069】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施の形態に従う電動機の制御装置による電動機の制御構成を説明する図である。
【図2】比較例として示される一般的なモータ出力制限を説明する概念図である。
【図3】図2に示したモータ出力制限における出力制限係数の設定例を示す概念図である。
【図4】本発明の実施の形態によるモータ出力制限を説明する概念図である。
【図5】本発明の実施の形態によるモータ出力制限における損失電力許容値の設定を示す概念図である。
【図6】本発明の実施の形態によるモータ出力制限の制御構成を説明する概略ブロック図である。
【図7】本発明の実施の形態によるモータ出力制限プログラム処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
5 接地ライン、6,7 電源ライン、10 電圧センサ、10♯ 直流電圧発生部、12 昇降圧コンバータ、13 電圧センサ、20 インバータ、22,24,26 各相アーム、27 電流センサ、28 回転角センサ、29 温度センサ、50 制御回路、62 駆動軸、65 車輪(駆動輪)、80 制御装置、90 油圧ブレーキ、100 電動車両、110 最大出力線、120 出力制限線、150 損失特性線、200 出力制限部、210 損失許容値設定部、220 損失特性マップ、230 トルク上限値設定部、B 直流電源、C0,C1 平滑コンデンサ、D1,D2,D11〜D16 逆並列ダイオード、iu,iv,iw 三相電流、L1 リアクトル、Llmt 損失電力許容値、MCRT モータ電流、MG モータジェネレータ、N 中性点、Nm モータ回転速度、Pin 入力可能電力、Pout 出力可能電力、Q1,Q2,Q11〜Q16 電力用半導体スイッチング素子、RGE 回生指示信号、S1,S2,S11〜S16 スイッチング制御信号、SE 制御信号(システムリレー)、SR1,SR2 システムリレー、Tm モータ温度、Tqcom♯ トルク指令値(本来)、Tqcom トルク指令値(最終)、Tqmax トルク上限値、Vb バッテリ電圧、VH 直流電圧、θ 回転角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の温度を検出する温度検出器と、
前記温度検出器により検出された電動機温度に基づき、前記電動機の出力を制限するための出力制限手段とを備え、
前記出力制限手段は、前記電動機温度に応じて前記電動機で発生する損失電力の許容値を設定するとともに、設定した許容値に基づいて前記電動機の出力を制限する、電動機の制御装置。
【請求項2】
前記出力制限手段は、
前記電動機温度に基づき、前記損失電力の許容値を設定する損失許容値設定手段と、
前記電動機の回転速度および出力トルクの組合わせにより定義される動作点に対する前記電動機での損失電力予測値に基づき、前記損失電力予測値が前記許容値以下となる範囲内に前記動作点を制限する制限手段とを含む、請求項1記載の電動機の制御装置。
【請求項3】
前記制限手段は、
前記損失電力予測値が一定となる前記電動機の回転速度および出力トルク値の対応関係を示す損失特性を記憶する損失特性記憶手段と、
前記損失電力予測値が前記損失許容値設定手段によって設定された前記許容値であるときの前記損失特性に従って、現在の前記回転速度に基づき前記出力トルクの上限値を設定するトルク制限手段とを有する、請求項2記載の電動機の制御装置。
【請求項4】
前記電動機は、車両に搭載されて、前記車両の駆動力を発生するように構成される、請求項1から3のいずれか1項に記載の電動機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−211861(P2008−211861A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43593(P2007−43593)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】