説明

電子グレード・シルク溶液、絶縁材料としてシルクプロテインを用いたOTFTおよびMIMキャパシタ、およびそれらの製造方法

【課題】有機薄膜トランジスタ(OTFT)および金属−絶縁体−金属(MIM)キャパシタ、を簡便で安価な方法で提供する。
【解決手段】有機薄膜トランジスタ(OTFT)のゲート絶縁層、あるいは金属−絶縁体−金属(MIM)キャパシタの絶縁体として、電子グレード・シルク溶液を基板上に形成されたゲート電極上、あるいはキャパシタ電極上にコートし乾燥させ、ゲート電極上あるいはキャパシタ電極上にシルクプロテインで作られたゲート絶縁層あるいはキャパシタ絶縁体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子グレード・シルク溶液(electronic grade silk solution)、電子グレード・シルク溶液を用い、絶縁材料としてシルクプロテインを用いる有機薄膜トランジスタ(organic thin film transistor: OTFT)および金属−絶縁体−金属(metal-insulator-metal: MIM)キャパシタ、およびそれらの製造方法に関し、より具体的には、電子グレード・シルク溶液、絶縁材料としてシルクプロテインを用いたOTFTおよびMIMキャパシタ、および溶液法によるそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(thin film transistor: TFT)は、センサー、無線自動識別(radio frequency identification: RFID)タグ、および電子表示装置等の、現代のエレクトロニクスにおける基本要素である。近年、製造コストの削減および製品用途の拡大のため、低コストおよび適応性の利点を有し、大面積に製造し得る有機薄膜トランジスタ(OTFT)が急速に発達した。
【0003】
OTFTは、ボトムゲートまたはトップゲート構造のいずれかを使用して製造し得る。ボトムゲート構造の中で、OTFTは、トップコンタクトOTFTおよびボトムコンタクトOTFTに分類し得る。図1Aに示す通り、トップコンタクトOTFTは、基板10;基板10上に配置されたゲート電極11;基板10上に配置され、ゲート電極11を覆う、ゲート絶縁層12;ゲート絶縁層12の表面全体を覆う、有機半導体層13;および、有機半導体層13上にそれぞれ配置された、ソース電極14およびドレイン電極15を含む。
【0004】
加えて、図1Bに示す通り、ボトムコンタクトOTFTは、基板10;基板10上に配置されたゲート電極11;基板10上に配置され、ゲート電極11を覆う、ゲート絶縁層12;ゲート絶縁層12上にそれぞれ配置された、ソース電極14およびドレイン電極15;および、ゲート絶縁層12、ソース電極14およびドレイン電極15を覆う、有機半導体層13を含む。
【0005】
従来のゲート絶縁層の形成方法では、誘電材料を基板およびゲート電極上にスパッタして、ゲート絶縁層を形成する。しかし、スパッタリングプロセス用の装置は非常に高価であり、プロセスは複雑である。加えて、OTFTの有機半導体層において従来使用される最も好適な材料はペンタセンである。しかし、ペンタセンは、従来の誘電材料とは良好に適合し得ないので、ペンタセンのキャリア移動度は低い。例えば、ペンタセンOTFTにおいてゲート絶縁層の材料として窒化ケイ素を使用する場合、ペンタセンのキャリア移動度は0.5cm2/V・秒より低い。ペンタセンOTFTにおいてゲート絶縁層の材料として窒化アルミニウムを使用しても、ペンタセンのキャリア移動度は2cm2/V・秒より高くなり得ない。故に、現在の技術および材料を使用して高性能のOTFTを製造することは不可能である。
【0006】
従って、OTFTを簡便で安価な方法で製造し、OTFTの性能を上げるために、OTFTおよびその製造方法を開発することが望ましい。
【0007】
加えて、金属−絶縁体−金属(MIM)キャパシタが、デジタルおよび高周波(RF)回路の設計に広く適用されている。現在、MIMキャパシタの容量(capacitor)密度を増し、そのリーク電流を減らすため、高誘電定数を有するいくつかの誘電材料が開発されている。
【0008】
図2に示す通り、従来のMIMキャパシタは、基板20;基板20上に配置された第一の電極21;基板20上に配置され、第一の電極21を覆う、絶縁層22;および絶縁層22上に配置された、第二の電極23を含む。ここで、MIMキャパシタの絶縁層に使用される従来の誘電材料は、TiN、TiO2、SiO2、およびSiNであり得る。しかし、上記の誘電材料をMIMキャパシタの絶縁層として使用する場合、絶縁層はスパッタリングプロセスまたは真空蒸着装置を使用することによって金属層上に形成されるが、これらは製造コストおよびプロセスの複雑さを増す可能性がある。
【0009】
従って、MIMキャパシタを簡便で安価な方法で製造し、それを種々のデジタルおよびRF回路に適用するために、MIMキャパシタおよびその製造方法を開発することが望ましい。
【0010】
加えて、従来の誘電材料を用いた場合、OTFTのゲート絶縁層およびMIMキャパシタの絶縁層を形成するために、スパッタリングプロセスまたは真空蒸着法を実施しなければならない。故に、プロセスの複雑さおよび製造コストは著しく上昇する。従って、容易に入手でき、簡便な方法で製造可能で、いくつかの電子デバイスに適用し得る、電子デバイス用の誘電材料を開発することも望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、OTFTおよび、高性能のOTFTを製造するための、その製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、簡便で安価な方法でMIMキャパシタを製造するため、MIMキャパシタおよびその製造方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、電子グレード・シルク溶液を提供することである。本発明の電子グレード・シルク溶液を使用する場合、誘電材料としてシルクプロテインを用いた電子デバイスを得ることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
目的を達成するため、本発明のOTFTは、基板;基板上に配置されたゲート電極;基板上に配置され、ゲート電極を覆う、ゲート絶縁層であって、ゲート絶縁層がシルクプロテインを含むもの;有機半導体層;および、ソース電極およびドレイン電極を含み、ここで有機半導体層、ソース電極およびドレイン電極は、ゲート絶縁層上に配置される。
【0015】
加えて、本発明は、さらに、上記のOTFTの製造方法であって、以下の工程:(A)基板を用意する工程;(B)基板上にゲート電極を形成する工程;(C)ゲート電極がその上に形成された基板をシルク溶液でコートして、基板およびゲート電極上にゲート絶縁層を得る工程;および(D)ゲート絶縁層上に、有機半導体層、ソース電極およびドレイン電極を形成する工程を含む方法を提供する。
【0016】
さらに、目的を達成するために、本発明のMIMキャパシタは、基板;基板上に配置された第一の電極;基板上に配置され、第一の電極を覆う、絶縁層であって、絶縁層がシルクプロテインを含むもの;および、絶縁層上に配置された第二の電極を含む。
【0017】
加えて、本発明は、さらに、上記のMIMキャパシタの製造方法であって、以下の工程:(A)基板を用意する工程;(B)基板上に第一の電極を形成する工程;(C)第一の電極がその上に形成された基板をシルク溶液でコートして、基板および第一の電極上に絶縁層を得る工程;および(D)絶縁層上に、第二の電極を形成する工程を含む方法を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、シルクプロテインおよび水を含む、電子グレード・シルク溶液も提供するが、この電子グレード・シルク溶液のpHは3〜6である。加えて、本発明は、上記の電子グレード・シルク溶液の製造方法も提供するが、これは、以下の工程:(A)カイコ(silkworm)の繭をアルカリ溶液中に入れ、アルカリ溶液を加熱して、シルクプロテインを得る工程;(B)シルクプロテインをリン酸溶液に溶解する工程;および(C)シルクプロテインを溶解しているリン酸溶液中のリン酸塩を除去する工程を含む。
【0019】
本発明のOTFTおよびMIMキャパシタおよびそれらの製造方法では、ゲート電極または第一の電極がその上に形成された基板をシルク溶液でコートして、シルクプロテインを含有するゲート絶縁層または絶縁層を形成する。スパッタリングプロセスまたは真空蒸着法による、ゲート絶縁層または絶縁層の従来の形成方法と比較して、本発明の方法は、溶液法で実施し得る。故に、本発明の方法は、低コストで簡便であり、大面積のOTFTおよびMIMキャパシタの製造に使用し得る。また、シルクプロテインは低コストで容易に入手できる。加えて、本発明のOTFTに使用されるシルクプロテインは、有機半導体層の材料に良好に適合するので、OTFTのトランジスタ特性は著しく改善され得る。さらに、本発明の電子グレード・シルク溶液およびその製造方法では、種々の電子デバイスに好適なシルク溶液を、簡便で安価な方法で得ることができる。また、本発明の電子グレード・シルク溶液を使用した溶液法を使用することによって、電子デバイスの絶縁層または誘電層を得ることができる。従って、製造コストおよび製法の複雑さを著しく減じ得る。
【0020】
本発明の電子グレード・シルク溶液およびその製造方法、およびOTFTおよびMIMキャパシタの構造では、シルクプロテインは天然シルクプロテインであってもよい。好ましくは、シルクプロテインはフィブロイン(fibroin)である。加えて、本発明のOTFTおよびMIMキャパシタの製造方法では、シルク溶液は、天然シルクプロテインを含有する水溶液であってもよい。好ましくは、シルク溶液はフィブロインを含有する水溶液である。
【0021】
本発明のOTFTの製造方法では、シルク溶液をコートする工程(C)は、さらに、以下の工程:(C1)シルク溶液を用意する工程;(C2)ゲート電極がその上に形成された基板を、シルク溶液でコートする工程;および(C3)基板およびゲート電極上にコートされたシルク溶液を乾燥させて、基板およびゲート電極上にゲート絶縁層を得る工程を含んでもよい。ここで、工程(C2)は、スピンコーティング法、浸漬コーティング法、ロールコーティング法、または印刷法によって実施し得る。好ましくは、工程(C2)は、浸漬コーティング法によって実施される。故に、工程(C2)は、好ましくは、ゲート電極がその上に形成された基板をシルク溶液に浸して、基板およびゲート電極をシルク溶液でコートすることによって実施される。
【0022】
加えて、本発明のMIMキャパシタの製造方法では、シルク溶液をコーティングする工程(C)は、さらに、以下の工程:(C1)シルク溶液を用意する工程;(C2)第一の電極がその上に形成された基板を、シルク溶液でコートする工程;および(C3)基板および第一の電極上にコートされたシルク溶液を乾燥させて、基板および第一の電極上に絶縁層を得る工程を含んでもよい。ここで、工程(C2)は、スピンコーティング法、浸漬コーティング法、ロールコーティング法、または印刷法によって実施し得る。好ましくは、工程(C2)は、浸漬コーティング法によって実施される。故に、工程(C2)は、好ましくは、第一の電極がその上に形成された基板をシルク溶液に浸して、基板および第一の電極をシルク溶液でコートすることによって実施される。
【0023】
故に、本発明のOTFTおよびMIMキャパシタの製造方法では、ゲート絶縁層または絶縁層として使用されるシルクフィルムは、浸漬コーティング工程および乾燥工程によって容易に形成し得る。ここで、乾燥工程は、空気乾燥工程または焼成工程等の、あらゆる従来の乾燥法であり得る。シルク溶液をコートする工程(C)が一回実施される場合、単層構造のシルクフィルムが得られる。加えて、工程(C)は、必要に応じて、繰り返して、多層構造を有するシルクフィルムを形成し得る。
【0024】
加えて、本発明のOTFTおよびMIMキャパシタおよびそれらの製造方法では、基板はプラスチック基板、ガラス基板、水晶基板、またはシリコン基板であってもよい。好ましくは、基板はフレキシブル基板、即ちプラスチック基板である。プラスチック基板を使用する場合、本発明において製造されるデバイスは、柔軟性を有する。加えて、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、第一の電極および第二の電極を含む、各電極の材料は、Cu、Cr、Co、Ni、Zn、Ag、Pt、AuおよびAlよりなる群から独立して選択してもよい。
【0025】
本発明のOTFTおよびその製造方法では、有機半導体層の材料は、ペンタセン(pentacene)、および他の好適な材料を含んでもよい。好ましくは、有機半導体層の材料はペンタセンである。
【0026】
さらに、本発明のOTFTの製造方法では、工程(D)において、有機半導体層がゲート絶縁層の表面全体を覆い、ソース電極およびドレイン電極が有機半導体層上に形成されて、トップコンタクト有機薄膜トランジスタを得る。
【0027】
加えて、本発明のOTFTの製造方法では、工程(D)において、ソース電極およびドレイン電極がゲート絶縁層上に形成され、有機半導体層が、ソース電極、ドレイン電極およびゲート絶縁層を覆って、ボトムコンタクト有機薄膜トランジスタを得る。
【0028】
さらに、電子グレード・シルク溶液およびその製造方法では、工程(C)は、シルクプロテインと共に溶解したリン酸を水で透析して、リン酸塩を除去してシルク溶液を得る工程であってもよい。ここで、透析工程は、シルクプロテインを溶解しているリン酸溶液を、膜内に入れることによって実施される。膜の分子量カットオフは、10000〜20000であり得る。好ましくは、膜の分子量カットオフは12000〜16000である。より好ましくは、膜の分子量カットオフは13000〜15000である。加えて、工程(A)は、さらに、以下の工程(A1)〜(A3)を含んでもよい:(A1)カイコの繭をアルカリ溶液に入れ、アルカリ溶液を沸騰させて、シルクプロテインを得る工程;(A2)アルカリ溶液からシルクプロテインを取り出し、シルクプロテインを洗浄する工程;および(A3)洗浄後、シルクプロテインを乾燥する工程。好ましくは、アルカリ溶液は炭酸ナトリウム溶液である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1Aは、従来のトップコンタクトOTFTの透視図である。図1Bは、従来のボトムコンタクトOTFTの透視図である。
【図2】従来のMIMキャパシタの透視図である。
【図3】本発明の実施例1におけるトップコンタクトOTFTの製造方法を図示する、断面図である。
【図4】本発明の実施例1のOTFTの、伝達(transfer)特性を示す曲線である。
【図5】本発明の実施例1のOTFTの、出力特性を示す曲線である。
【図6】本発明の実施例2におけるボトムコンタクトOTFTの製造方法を図示する、断面図である。
【図7】本発明の実施例3におけるMIMキャパシタの製造方法を図示する、断面図である。
【図8】本発明の実施例3のMIMキャパシタの、キャパシタンス−周波数特性を示す、曲線である。
【図9】本発明の実施例3のMIMキャパシタの、電場−漏れ電流特性を示す、曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を実例を挙げて記載したが、使用された用語は、制限ではなく、説明を目的とすることを理解すべきである。上記の教示に照らして、本発明の多くの改良および変更が可能である。従って、添付した特許請求の範囲内で、本発明は、具体的に記載されたものとは別の方法で実施してもよいことを理解すべきである。
【実施例】
【0031】
実施例1−トップコンタクトOTFT
[シルク溶液の製造]
先ず、10重量%のNa2CO3水溶液を用意し、加熱した。溶液が沸騰していた時に、カイコの繭(天然シルク)をそこに加え、溶液を30分〜1時間、沸騰し続けて、セリシン(sericin)を除いた。その後、セリシンを除いたシルクを脱イオン水で洗浄して、シルクに付着したアルカリ塩を除去した。乾燥工程の後、精製シルク、即ちフィブロインを得た。
【0032】
次に、精製シルクを85重量%リン酸(H3PO4)溶液(20ml)中に加え、得られた溶液を、精製シルクが溶解するまで撹拌した。その後、精製シルクを含有するリン酸溶液を、膜(スペクトラ(Spectra)/Por3膜、分子量カットオフ=14000)内に入れ、水で透析した。透析工程は3日間実施して、リン酸塩イオン類を除去した。得られるシルク溶液のpHは、水の容量および透析工程の回数を変えることによって調節し得る。ここで、得られるシルク溶液のpHは、3〜6の間に制御する。透析工程の終了後、濾紙を用いて不純物を濾別し、フィブロインの水溶液を得る。
【0033】
[トップコンタクトOTFTの製造]
図3Aに示す通り、基板30を用意し、基板30をソニケーション工程で脱イオン水により清浄した。本実施例において、基板30はPET製のプラスチック基板であった。
【0034】
次に、基板30を真空チャンバー(図には示さず)内に置き、マスク(図には示さず)を使用して基板30上に金属を蒸着させて、パターン化した金属層を形成したが、図3Aに示す通り、これ(パターン化した金属層)をゲート電極31として使用した。本実施例において、ゲート電極31において使用した金属はAuであり、ゲート電極31の厚さは約80nmであった。加えて、ゲート電極31を形成する蒸着工程の条件を以下に記載する。
【0035】
圧力:5×10-6トル
蒸着速度:1Å/s
【0036】
その後、ゲート電極31がその上に形成された基板30を、シルク溶液に15分間浸漬して、ゲート電極31を有する基板30をシルク溶液でコートした。コーティング工程の後、シルク溶液でコートした基板30を60℃で乾燥して、シルクフィルムを形成し、図3Bに示す通り、シルクフィルムをゲート絶縁層32として使用した。本実施例において、シルクフィルムによって形成されるゲート絶縁層32は厚さが400nmである。加えて、コーティング工程および乾燥工程を数回実施して、多層構造を有するシルクフィルムを形成し得る。
【0037】
図3Cに示す通り、熱蒸着工程により、シャドウ金属マスクを使用して、ペンタセンを室温でゲート絶縁層32上に析出させて、有機半導体層33を形成した。本実施例において、有機半導体層33の厚さは約70nmである。加えて、有機半導体層33を形成する熱蒸着工程の条件を以下に記載する。
【0038】
圧力:2×10-6トル
蒸発速度:0.3Å/s
【0039】
最後に、ゲート電極を形成する同様の蒸着工程を実施して、パターン化金属層を形成したが、図3Dに示す通り、これ(パターン化金属層)は、他のマスク(図中には示さず)を使用することにより、有機半導体層33上のソース電極34およびドレイン電極35として使用した。本実施例において、ソース電極34およびドレイン電極35の材料はAuであり、ソース電極34およびドレイン電極35の厚さは約80nmであった。
【0040】
図3Dに示す通り、上記の工程の後、本実施例のトップコンタクトOTFTを得たが、これは、基板30;基板30上に配置されたゲート電極31;基板30上に配置され、ゲート電極31を覆う、ゲート絶縁層32であって、ゲート絶縁層32がシルクフィブロインを含むもの;ゲート絶縁層32の表面全体を覆う、有機半導体層33;および有機半導体層33にそれぞれ配置された、ソース電極34およびドレイン電極35を含む。
【0041】
[OTFTの特性評価]
本実施例のトップコンタクトOTFTについて、電流電圧試験を実施した。OTFTの伝達特性の結果を図4に示し、種々のゲート電圧(VG)下でのアウトプット特性の結果を図5に示す。電流オン/オフ比(ION/OFF)、サブスレッショルド係数(subthreshold swing: S.S)、キャリア移動度および閾値電圧(VTH)を以下の表1に記載する。
【0042】
【表1】

【0043】
図4、図5および表1に示す結果によれば、シルクプロテインで作られたゲート絶縁層のキャリア移動度は、約40cm2/V・秒である。窒化ケイ素または窒化アルミニウムで作られたゲート絶縁層を有する従来のペンタセンOTFTと比較して、本実施例のペンタセンOTFTのデバイス性能は、ゲート絶縁層の誘電材料としてシルクプロテインを使用することにより、著しく向上し得る。
【0044】
実施例2−ボトムコンタクトOTFT
図6Aに示す通り、基板30を用意し、続いて基板30上に、ゲート電極31およびゲート絶縁層32を逐次形成した。本実施例において、基板30、ゲート電極31、およびゲート絶縁層32の各々の製造方法および材料は、実施例1において説明したものと同様である。加えて、本実施例において、ゲート電極31の厚さは約100nmであり、ゲート絶縁層32の厚さは約500nmであった。
【0045】
次に、実施例1に記載したゲート電極を形成する蒸着工程と同様の工程によって、ゲート絶縁層32上に蒸着工程を実施して、パターン化金属層を形成したが、ここで、図6Bに示す通り、パターン化金属層はソース電極34およびドレイン電極35として使用した。本実施例において、ソース電極34およびドレイン電極35の材料はAuであり、ソース電極34およびドレイン電極35の厚さは約100nmであった。
【0046】
最後に、図6Cに示す通り、実施例1に記載した有機半導体層の形成工程と同様の工程で、有機半導体層33をゲート絶縁層32、ソース電極34およびドレイン電極35上に形成した。本実施例において、有機半導体層33の材料はペンタセンであり、有機半導体層33の厚さは約100nmである。
【0047】
図6Cに示す通り、上記の工程の後、本実施例のボトムコンタクトOTFTを得たが、これは、基板30;基板30上に配置されたゲート電極31;基板30上に配置され、ゲート電極31を覆う、ゲート絶縁層32であって、ゲート絶縁層32がシルクフィブロインを含むもの;ゲート絶縁層32上にそれぞれ位置する、ソース電極34およびドレイン電極35;およびゲート絶縁層32、ソース電極34およびドレイン電極35を覆う、有機半導体層33を含む。
【0048】
実施例3−MIMキャパシタ
図7Aに示す通り、基板70を用意し、基板70上に第一の電極71を形成した。本実施例において、第一の電極71の製造方法および材料は、実施例1に説明したゲート電極の形成工程と同様である。本実施例において、基板70はプラスチック基板であり、第一の電極71の材料はAuであり、第一の電極71の厚さは約80nmであった。
【0049】
次に、第一の電極71がその上に形成された基板70を、実施例1で調製したシルク溶液中に15分間浸漬して、第一の電極71を有する基板70をシルク溶液でコートした。コーティング工程の後、シルク溶液でコートした基板70を60℃で乾燥して、シルクフィルムを形成し、図7Bに示す通り、シルクフィルムを絶縁層72として使用した。
【0050】
最後に、図7Cに示す通り、基板70を圧力5×10-6トルの真空チャンバー(図中には示さず)中に置いて、厚さが80nmの第二の電極73を形成した。
【0051】
図7Cに示す通り、上記の工程の後、本実施例のMIMキャパシタを得たが、これは、基板70;基板70上に配置された第一の電極71;基板70上に配置され、第一の電極71を覆う、絶縁層72であって、絶縁層72がシルクプロテインを含むもの;および絶縁層72上に配置された第二の電極73を含む。
【0052】
[MIMキャパシタの特性評価]
本実施例のMIMキャパシタの誘電特性を評価し、評価結果を図8および図9に示すが、図8は、MIMキャパシタの、キャパシタンス−周波数特性を示す曲線であり、図9は、MIMキャパシタの、電場−漏れ電流特性を示す曲線である。計算後、シルクフィブロインの誘電定数(ε)は約7.2であり、MIMキャパシタの漏れ電流は、−0.1MV/cmの電場下で約10-7A/cm2である。これらの結果は、シルクフィブロインが良好な誘電材料であることを示す。
【0053】
結論として、本発明のOTFTおよびMIMキャパシタおよびそれらの製造方法では、シルクフィブロインを誘電材料として使用し、溶液法によりゲート絶縁層または絶縁層を形成する。故に、方法の複雑さおよび製造コストは著しく減じ得る。また、本発明の方法は、大面積のOTFTおよびMIMキャパシタの形成に使用し得る。加えて、シルクフィブロインをペンタセンOTFTにおけるゲート絶縁層の材料として使用する場合、シルクフィブロインは、ペンタセン層に良好に適合し得る。故に、OTFTにおけるペンタセンのキャリア移動度は著しく上昇し得る。加えて、本発明の電子グレード・シルク溶液は容易に入手でき、種々の電子デバイスに適用し得る。さらに、本発明の電子グレード・シルク溶液の製造方法は、スパッタリングプロセスまたは真空蒸着法に比べて、非常に簡便である。故に、本発明の電子グレード・シルク溶液を使用する場合、製造コストおよび方法の複雑さが減じ得るのみならず、大面積の絶縁層を得ることもできる。
【0054】
本発明を好ましい実施例に関して説明したが、以下に特許請求した通りの本発明の範囲から逸脱することなく、多数の他の可能な改良および変更がなされ得ることを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板;
基板上に配置されたゲート電極;
基板上に配置され、ゲート電極を覆うゲート絶縁層であって、ゲート絶縁層がシルクプロテインを含むもの;
有機半導体層;および
ソース電極およびドレイン電極
を含む、有機薄膜トランジスタであって;
有機半導体層、ソース電極およびドレイン電極がゲート絶縁層上に配置された、有機薄膜トランジスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の有機薄膜トランジスタであって、シルクプロテインが天然シルクプロテインである、有機薄膜トランジスタ。
【請求項3】
請求項1に記載の有機薄膜トランジスタであって、シルクプロテインがフィブロインである、有機薄膜トランジスタ。
【請求項4】
請求項1に記載の有機薄膜トランジスタであって、ゲート絶縁層が単層構造または多層構造を有する、有機薄膜トランジスタ。
【請求項5】
請求項1に記載の有機薄膜トランジスタであって、有機半導体層の材料がペンタセンを含む、有機薄膜トランジスタ。
【請求項6】
請求項1に記載の有機薄膜トランジスタであって、基板がプラスチック基板、ガラス基板、水晶基板、またはシリコン基板である、有機薄膜トランジスタ。
【請求項7】
請求項1に記載の有機薄膜トランジスタであって、有機薄膜トランジスタがトップコンタクト有機薄膜トランジスタである場合、有機半導体層がゲート絶縁層の表面全体を覆い、ソース電極およびドレイン電極がそれぞれ有機半導体層上に位置する、有機薄膜トランジスタ。
【請求項8】
請求項1に記載の有機薄膜トランジスタであって、有機薄膜トランジスタがボトムコンタクト有機薄膜トランジスタである場合、ソース電極およびドレイン電極がそれぞれゲート絶縁層上に位置し、有機半導体層がゲート絶縁層、ソース電極およびドレイン電極を覆う、有機薄膜トランジスタ。
【請求項9】
以下の工程を含む、有機薄膜トランジスタの製造方法:
(A)基板を用意する工程;
(B)基板上にゲート電極を形成する工程;
(C)ゲート電極がその上に形成された基板をシルク溶液でコートして、基板およびゲート電極上にゲート絶縁層を得る工程;および
(D)ゲート絶縁層上に、有機半導体層、ソース電極およびドレイン電極を形成する工程。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、工程(C)が以下の工程を含む、方法:
(C1)シルク溶液を用意する工程;
(C2)ゲート電極がその上に形成された基板を、シルク溶液でコートする工程;および
(C3)基板およびゲート電極上にコートされたシルク溶液を乾燥させて、基板およびゲート電極上にゲート絶縁層を得る工程。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、シルク溶液が天然シルクプロテインを含有する水溶液である、方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、シルク溶液がフィブロインを含有する水溶液である、方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であって、有機半導体層の材料がペンタセンを含む、方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法であって、基板がプラスチック基板、ガラス基板、水晶基板またはシリコン基板である、方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法であって、工程(D)において、有機半導体層がゲート絶縁層の表面全体を覆い、かつソース電極およびドレイン電極が有機半導体層上に形成されて、トップコンタクト有機薄膜トランジスタを得る、方法。
【請求項16】
請求項9に記載の方法であって、工程(D)において、ソース電極およびドレイン電極がゲート絶縁層上に形成され、かつ有機半導体層がソース電極、ドレイン電極およびゲート絶縁層を覆って、ボトムコンタクト薄膜トランジスタを得る、方法。
【請求項17】
基板;
基板上に配置された第一の電極;
基板上に配置され、第一の電極を覆う絶縁層であって、絶縁層がシルクプロテインを含むもの;および
絶縁層上に配置された第二の電極:
を含む、金属−絶縁体−金属キャパシタ。
【請求項18】
請求項17に記載の金属−絶縁体−金属キャパシタであって、シルクプロテインが天然シルクプロテインである、金属−絶縁体−金属キャパシタ。
【請求項19】
請求項17に記載の金属−絶縁体−金属キャパシタであって、シルクプロテインがフィブロインである、金属−絶縁体−金属キャパシタ。
【請求項20】
請求項17に記載の金属−絶縁体−金属キャパシタであって、絶縁層が多層構造を有する、金属−絶縁体−金属キャパシタ。
【請求項21】
請求項17に記載の金属−絶縁体−金属キャパシタであって、基板がプラスチック基板、ガラス基板、水晶基板またはシリコン基板である、金属−絶縁体−金属キャパシタ。
【請求項22】
以下の工程を含む、金属−絶縁体−金属キャパシタの製造方法:
(A)基板を用意する工程;
(B)基板上に第一の電極を形成する工程;
(C)第一の電極がその上に形成された基板をシルク溶液でコートして、基板および第一の電極上に絶縁層を得る工程;および
(D)絶縁層上に、第二の電極を形成する工程。
【請求項23】
請求項22に記載の方法であって、工程(C)が以下の工程を含む、方法:
(C1)シルク溶液を用意する工程;
(C2)第一の電極がその上に形成された基板を、シルク溶液でコートする工程;および
(C3)基板および第一の電極上にコートされたシルク溶液を乾燥させて、基板および第一の電極上に絶縁層を得る工程。
【請求項24】
請求項22に記載の方法であって、シルク溶液が天然シルクプロテインを含有する水溶液である、方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法であって、シルク溶液がフィブロインを含有する水溶液である、方法。
【請求項26】
請求項22に記載の方法であって、基板がプラスチック基板、ガラス基板、水晶基板またはシリコン基板である、方法。
【請求項27】
シルクプロテインを含む、電子グレード・シルク溶液であって、電子グレード・シルク溶液のpHが3〜6である、電子グレード・シルク溶液。
【請求項28】
請求項27に記載の電子グレード・シルク溶液であって、電子グレード・シルク溶液が、以下の工程によって製造される、電子グレード・シルク溶液:
(A)カイコの繭をアルカリ溶液中に入れ、アルカリ溶液を加熱して、シルクプロテインを得る工程;
(B)シルクプロテインをリン酸溶液に溶解する工程;および
(C)シルクプロテインを溶解しているリン酸溶液中のリン酸塩を除去して、シルク溶液を得る工程。
【請求項29】
請求項28に記載の電子グレード・シルク溶液であって、工程(C)が、シルクプロテインと共に溶解したリン酸を水で透析して、リン酸塩を除去してシルク溶液を得る工程である、電子グレード・シルク溶液。
【請求項30】
請求項28に記載の電子グレード・シルク溶液であって、工程(A)が、さらに以下の工程(A1)〜(A3)を含む、電子グレード・シルク溶液:
(A1)カイコの繭をアルカリ溶液に入れ、アルカリ溶液を沸騰させて、シルクプロテインを得る工程;
(A2)アルカリ溶液からシルクプロテインを取り出し、シルクプロテインを洗浄する工程;および
(A3)洗浄後、シルクプロテインを乾燥する工程。
【請求項31】
請求項27の電子グレード・シルク溶液であって、アルカリ溶液が炭酸ナトリウムの溶液である、電子グレード・シルク溶液。
【請求項32】
請求項27の電子グレード・シルク溶液であって、シルクプロテインが天然シルクプロテインである、電子グレード・シルク溶液。
【請求項33】
請求項27の電子グレード・シルク溶液であって、シルクプロテインがフィブロインである、電子グレード・シルク溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−199254(P2011−199254A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259647(P2010−259647)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(509035129)ナショナル・ツィン・ファ・ユニヴァーシティ (5)
【Fターム(参考)】