説明

電池システム

【課題】組電池を構成する複数の電池セルを管理すること。
【解決手段】複数の電池セル管理ユニットを有し、電池セル管理ユニットは互いに接続されており、各々の電池セル管理ユニットは、動作モード切替部と、パラメータ関連データ生成部と、パラメータデータ送信部と、パラメータデータ受信部と、最小値特定部と、切替命令データ送信部と、切替命令データ受信部とを備え、マスターモードによって動作している場合に、切替命令データ送信部が他の電池セル管理ユニットに対し切替命令を送信したとき、動作モード切替部は、自ユニットの動作モードをマスターモードからスレーブモードへ切り替え、スレーブモードによって動作している場合に、切替命令データ受信部が他の電池セル管理ユニットから切替命令を受信したとき、動作モード切替部は、自ユニットの動作モードをスレーブモードからマスターモードへ切り替えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組電池を構成する複数の電池セルを管理する電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、組電池を構成する複数の電池セルの充放電を監視制御する場合、電池セル毎に1つずつ、あるいは、いくつかの電池セル毎に1つずつ、電池セルを監視するCMU(Cell Monitoring Unit)を設け、各CMUの電池セルに対する制御動作をBMU(Battery Management Unit)で管理する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−265733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような技術では、BMUを設置するためのスペースを確保しなければならないという問題や、多数のCMUを用いる場合、BMUと各CMUとを接続する配線が煩雑になってしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の電池システムにおいては、組電池を構成する複数の電池セルを管理する電池システムであって、前記電池セルに接続され、当該接続された電池セルを管理する複数の電池セル管理ユニットを有し、前記電池セル管理ユニットは互いに接続されており、前記各々の電池セル管理ユニットは、自ユニットの動作モードを、自己に接続された前記電池セルの管理を行うスレーブモード又は自己に接続された前記電池セルの管理を行うとともに他の電池セル管理ユニットの制御を行うマスターモードのいずれかに択一的に切り替える動作モード切替部と、前記接続された電池セルのパラメータを取得してパラメータ関連データを生成するパラメータ関連データ生成部と、前記スレーブモードによって動作している場合に、前記パラメータ関連データを、前記マスターモードによって動作している他の電池セル管理ユニットに送信するパラメータデータ送信部と、前記マスターモードによって動作している場合に、前記スレーブモードによって動作している他の電池セル管理ユニットから、当該他の電池セルユニットにおいて取得されたパラメータ関連データを受信するパラメータデータ受信部と、前記マスターモードによって動作している場合に、自己の前記パラメータ関連データ生成部が生成したパラメータ関連データと、前記パラメータデータ受信部が受信したパラメータ関連データとを比較して、最小のパラメータ関連データを特定する最小値特定部と、前記マスターモードによって動作している場合に、前記最小値特定部が特定したパラメータ関連データが他の電池セル管理ユニットから受信したものであるとき、当該他の電池セル管理ユニットに対し切替命令を送信する切替命令データ送信部と、前記スレーブモードによって動作している場合に、前記マスターモードによって動作している他の電池セル管理ユニットから前記切替命令を受信する切替命令データ受信部とを備え、前記マスターモードによって動作している場合に、前記切替命令データ送信部が他の電池セル管理ユニットに対し前記切替命令を送信したとき、前記動作モード切替部は、自ユニットの動作モードをマスターモードからスレーブモードへ切り替え、前記スレーブモードによって動作している場合に、前記切替命令データ受信部が他の電池セル管理ユニットから前記切替命令を受信したとき、前記動作モード切替部は、自ユニットの動作モードをスレーブモードからマスターモードへ切り替えることを特徴とする電池システムを提供する。
【0006】
かかる電池システムとしては、フォークリフトなどの産業車両、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車などの移動体、または家屋の電力供給システムなどがありうる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、最も状態が安定している電池セル、すなわち劣化状態が最も小さい電池セルを監視する電池セル管理ユニットが、他の電池セル管理ユニットによる電池セルの制御動作を管理する。また他の電池セル管理ユニットによる電池セルの制御動作を管理している電池セル管理ユニットが監視する電池セルよりも、安定している電池セルがあれば、その最も安定している電池セルを監視している電池セル管理ユニットに、他の全体の電池セル管理ユニットによる電池セルの制御動作を管理させる。
【0008】
したがって、複数の電池セルに直接的に接続される複数の各電池セル管理ユニット、例えば複数のCMUだけで、処理効率を落とすことなく、全体として安定した電池セルの管理をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る電池セル管理システム100を含む電池システムの構成の一例を示す。
【図2】電池セル210とCMU110とを接続する構成の一例を示す図である。
【図3】電池セル210にCMU110を取り付けるためのカバーユニット900を組み合わせた電池セルユニット990を示す斜視図である。
【図4】図3に示す電池セルユニット990のカバーユニット900を上下に分解した状態を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係るCMU110の構成の一例を示すブロック図である。
【図6】マスターモードのCMU110における処理の一例を示す流れ図である。
【図7】スレーブモードのCMU110における処理の一例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る電池システムの構成の一例を示す。
電池セル管理システム100は、複数のCMU(Cell Monitoring Unit)が並列に接続された構成を備えており、ここではCMU110a〜z(以下、CMU110と総称する)を備えた例を示す。各CMU110a〜zは、組電池200内のそれぞれ1対1に対応する電池セル210a〜z(以下、電池セル210と総称する)に接続され、これら電池セルの充放電をそれぞれ個別に監視制御する。各CMU110a〜zのうち、後述するとおり、最も劣化が少ない電池セル210に接続されたCMUが他のCMU110による電池セル210の制御動作を担当するので、システム全体の処理効率を落とすことなく、安定した一定のパフォーマンスが維持される。なおCMUと電池は必ずしも1対1対応でなくても良く、またCMUは直列接続でも良い。
【0012】
CMU110は、各々の電池セル210に掛かる負荷の増減に応じて、値が増減するパラメータ(例えば、端子電圧、缶温度など)をそれぞれ取得することができる。当該パラメータは電池セル210の劣化の度合いを測る指標となるものであり、各々の電池セル210から取得したパラメータを比較すれば、どの電池セル210が最も安定しているのかを判定することができる。
【0013】
組電池200は電力駆動する電力負荷(例えば、インバータ、電気モータ)に接続されてこれに電力を供給する。通信ケーブル(バス)120の他端は接続ポートに接続する。またその接続ポートから負荷制御装置などに接続し、負荷制御装置から表示装置へと接続する。例えば、あるパラメータが異常値を示した場合などに、電気自動車の運転席のメーターパネルに表示させ、人に対して不具合の発生した可能性のある電池の存在を注意喚起してもよい。
【0014】
かように電池セル管理システム100と組電池200は、上記負荷制御装置と上記負荷と接続されて1つの電池システムを構成、例えば、フォークリフトなどの産業車両、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車などの移動体、または家屋の電力供給システムなどを構成することになる。
【0015】
本実施形態に係るCMU110には、例えば自己のCMU110に接続された電池セル210の充放電を監視制御すると共に他のCMU110の動作を制御するマスターモードと、他のCMU110から制御されて自己のCMU110に接続された電池セル210の充放電を監視制御するスレーブモードの2通りの動作モードがある。
【0016】
本実施形態に係るCMU110は、常に何れか一方の形態でのみ動作するのではなく、後述のとおり、その時々の状況に応じて動作モードが切り替えられ、最も劣化状態の低い電池セルに接続されたCMU110がマスターモードで動作する。従って、電池セル管理システム100内の複数のCMU110の1つはマスターモードであって、他のCMU110はスレーブモードとなる。
【0017】
マスターモードのCMU110は他のCMU110を管理するので、一般的にCMU110の管理のために別途設置されるBMU(Battery Management Unit)が不要となる。
【0018】
図2は、電池セル210とCMU110とを接続する構成の一例を示す図である。
電池セル210の容器本体214には、温度計測回路213が設けられる。温度計測回路213は、電池セル210の温度を計測するセンサを含む。CMU110は、温度計測回路213によって計測された電池セル210の温度の値を示すデータを取得する。また、CMU110は、基準電位に対する正極端子211の電位の値を検出する。また、CMU110は、正極端子211と負極端子212との間の端子間電圧を検出する。電池セル210においては、容器本体214に有意な電位を得るために、容器本体214と正極端子211とを抵抗器230を介して接続することがある。CMU110は、このような容器本体214に生じる電位の値を検出するようにしてもよい。
【0019】
電池セル210においては、他の電池セル210との間に電圧のバラつきが生じてしまった場合に、電圧を均衡化させるためのバランス回路が設けられる。バランス回路は、作動することによって電池セル210の電圧を降下させるための回路である。バランス回路は、例えば、正極端子211と負極端子212とを抵抗器240を介して接続し、この接続のオン/オフを切り替えるためのスイッチ250を備えて成る。バランス回路は、CMU110からの制御命令によってスイッチ250のオン/オフを切り替える。
【0020】
バランス回路を作動させるまでの処理の流れを簡単に説明すると、スレーブモードの各CMU110は、管理対象の電池セル210の電圧をそれぞれ監視し、その値を示すデータ及び当該CMU110のアドレス情報を、マスターモードのCMU110に通信ケーブル120を介して一定時間ごともしくはマスターモードのCMU110の要求に応じて送信する。
【0021】
マスターモードのCMU110は、各CMU110から受信したデータによって示される各電池セル210の電圧値を比較する。比較の結果、電池セル210同士の電圧の値にバラつきが生じた場合、電圧の高い電池セル210を管理しているCMU110に対し、バランス回路を作動させる命令を当該CMU110のアドレス情報とともに通信ケーブル120を介して送信する。通信ケーブル120は各CMU110に直列または並列に接続されているので、この命令は全てのスレーブモードのCMU110により受信されるが、当該アドレス情報に対応するCMU110のみ、スイッチ250をオンに切り替えるようバランス回路に制御命令を送る。そして、バランス回路は、この命令を受けてスイッチ250をオンにすることによって作動することとなる。
【0022】
図3は、電池セル210にCMU110を取り付けるためのカバーユニット900を組み合わせた電池セルユニット990を示す斜視図である。また、図4は、図3に示す電池セルユニット990のカバーユニット900を上下に分解した状態を示す斜視図である。
カバーユニット900は絶縁体、例えばプラスチックで形成される。プラスチックであると型で形成が容易であるので、以下の構造を製造容易である。
【0023】
ここでは、1つの電池セルと1つのCMUが1対1に対応づけて接続され、かつ、複数のCMU同士は並列接続される場合に適用される電池セルユニット990の構成を示す。
【0024】
電池セルユニット990は、カバーユニット900の内側に電池セル210及びCMU110を収納した構造を有する。カバーユニット900は、上部カバー910と下部カバー920とに分離可能とされて、その内側に電池セル210を収納することが可能となっている。この構成は、電池セルとCMUが1対1に対応づけて接続される場合、すなわち1つの電池セルと1つのCMUが1組として用いられる場合に、電池セルとCMUが1体的に構成できるので、取り扱いが容易になるという利点がある。
【0025】
このうち上部カバー910には、電池セル210の上部側が嵌め込まれる凹部918が形成されている。そして、この上部カバー910の四隅の角部には、下方に延びる支柱919a〜d(以下、支柱919と総称する)がそれぞれ形成されている。また、上部カバー910の上部には、電池セル210を嵌め込んだときに、電池セル210の正極端子211及び負極端子212を挿通させるための孔部911、912がそれぞれ形成されている。これにより上部カバー910の凹部918に電池セル210を嵌め込んだとき、電池セル210の正極端子211及び負極端子212の先端の一部は、上部カバー910の本体の外側に露出することになる。
【0026】
また、上部カバー910の凹部918に電池セル210を嵌め込んで、正極端子211及び負極端子212を孔部911及び912にそれぞれ挿通させたときに、電池セル210の安全弁215が臨む位置には、安全弁215が解放されたときに噴出するガスを外部へ逃がすための孔部915が形成されている。
【0027】
また、上部カバー910の側面には、電池セル210を嵌め込んだときに、電池セル210の温度計測回路213と電気的に接続するための金属端子913が設けられている。また、上部カバー910の孔部911及び912の周囲には、電池セル210の正極端子211及び負極端子212と電気的に接続するための金属接点916a、916b(以下、金属接点916と総称する)がそれぞれ設けられている。
【0028】
また、上部カバー910の上面には、入出力コネクタ917a、917b(以下、入出力コネクタ917と総称する)が形成される。入出力コネクタ917a、917bには、データを送受信するための通信ケーブル120のコネクタが接続される。そして、その通信ケーブル120の他方端のコネクタは、別のカバーユニット900の入出力コネクタ917と接続される。
【0029】
上部カバー910の入出力コネクタ917a、917b間には、上部カバーの内部でこれらコネクタの両方になんら装置を介することなく直結された内部バスが配置される。よって、カバーユニット900同士が通信ケーブル120によって接続されることによって、各CMUを互いに並列に接続する通信ケーブル120が形成される。上部カバー910内に通信ケーブル120の一部が構成されるので通信ケーブル120の形成の融通がきき、電池セル管理システム100および組電池200が極力狭い範囲に設置されることが要求される電気自動車等のシステムにおけるコンパクト化の要請に資する。
【0030】
上部カバー910の各支柱919a〜dの先端面には、金属端子914a〜d(以下、金属端子914と総称する)がそれぞれ設けられている。これらの金属端子914a〜dは、金属端子913、金属接点916a、916b、または図示しないバランス回路と電気的に接続されている。さらに、金属端子914a〜dは、入出力コネクタ917a、917bの一方または上記内部バスと電気的に接続されている。入出力コネクタ917は通信ケーブル120に接続されることから多ピンのコネクタとなっており、また、金属端子914、上記2つの金属接点、バランス回路の制御等のための電気接続もあることから、少なくとも4本より多い電気経路が4つの各支柱919a〜dを介して後述する下部カバー920のCMU110との間に形成されることになる。従って、金属端子914の一部または全部は、複数の電気信号を伝達できるよう多ピンの端子(または多ピンのコネクタ)となっている。
【0031】
一方、下部カバー920には、電池セル210の下部側が嵌め込まれる凹部928が形成されている。そして、この下部カバー920の四隅の角部には、上方に延びる支柱929a〜d(以下、支柱929と総称する)がそれぞれ形成されている。また、下部カバー920の底面921には、CMU110が埋め込まれている。電池セル210は上部の方が高温となるため、高温に比較的弱いCMUのような集積回路は上部カバー910よりも下部カバー920に設置するのが望ましいからである。
【0032】
下部カバーの各支柱929a〜dの先端面には、金属端子924a〜d(以下、金属端子924と総称する)がそれぞれ設けられている。各金属端子924a〜dの形状は、それぞれ対応して電気的に接続される各金属端子914a〜dと一対一に嵌合する形状となっている。そして、これらの金属端子a〜dは、下部カバー920の内部にてCMU110と電気的に接続される。
【0033】
電池セルユニット990は、このような上部カバー910と下部カバー920との間に電池セル210を嵌め込んで組み合わせることによって、上部カバー910及び下部カバー920に設けられた各金属端子を介して、CMU110が電池セル210の温度や端子間電圧、基準電位に対する正極端子211の電位値等を取得することができるようになっている。
【0034】
以上、角型のカバーユニット900を採用する構成について説明したが、カバーユニット900の形状は、角型に限られない。カバーユニット900の形状は、電池セル210の形状に合わせて様々な形状とすることができる。例えば、電池セル210が略円柱形状の場合、カバーユニット900の形状は、略円柱形状の電池セル210を収納し得る形状であればよい。即ち、カバーユニット900は、上部カバー910と下部カバー920とを組み合わせたときの形状が略円柱形状となるようにしてもよいし、上部カバー910と下部カバー920とを組み合わせたときの形状を角型とし、上部カバー910の凹部918、及び下部カバー920の凹部928の形状を、それぞれ電池セル210の形状に合わせて略円柱形状としてもよい。
【0035】
また、本実施形態においては、上部カバー910の支柱919、及び下部カバー920の支柱が四隅の角部に形成されているが、これらの支柱919、929が形成される位置は、これに限られない。即ち、支柱919、929が形成される位置は、上部カバー910及び下部カバー920を組み合わせたときに、支柱919の先端と支柱929の先端とが接するような形状であればよく、電池セル210の側面と接する位置に形成されていてもよい。また、支柱919と支柱929は、必ずしも4つずつ形成される必要はなく、同じ数ずつ形成されていればよい。上部カバー910と下部カバー920のそれぞれの支柱919、929を嵌合させて電池セル210をこれらカバーで挟みこむことで、電池セル210においてこれらカバーで被覆されない部分ができ、この部分から効率的に放熱することができる。
【0036】
図3、図4では、電池セルユニット990として1つの電池セルと1つのCMUが一体的に形成される構成を示したが、1つのCMUが複数の電池セル(例えば4つの電池セル)を監視する場合には、4つ分の上部カバー910を予め一体形成し、4つ分の下部カバー920を予め一体形成するなど、適宜、設計変更することができる。
【0037】
図5は、本発明の実施形態に係るCMU110の構成の一例を示すブロック図である。
CMU110は、パラメータ取得部111、劣化状態値算出部112、パラメータデータ送信部113、パラメータデータ受信部114、最小値特定部115、切替命令データ送信部116、切替命令データ受信部117、及び動作モード切替部118を有する。
【0038】
図5の動作を、図6、図7のフローチャートを用いて説明する。図6はマスターモード、図7はスレーブモードのCMU110における処理を示す。
まず、マスターモードのCMU110の動作を説明する。マスターモードのCMU110のパラメータ取得部111が、自己に接続された管理対象の電池セル210のパラメータをパラメータ取得部111にて取得する(S101)。パラメータ取得部111は、管理対象の電池セル210の劣化状態の指標となり得るパラメータを取得する処理部である。当該パラメータには、例えば、電池セル210が起動している間に達した電池セル210の最高温度、電池セル210に設けられたバランス回路が起動された回数、電池セル210の端子間電圧、電池セル210の周囲の環境温度、及び電池セル210の周囲の環境湿度等がある。パラメータ取得部111は、温度、電圧についてはアナログデータとして取得し、これをデジタルデータに変換する。バランス回路が起動された回数については、CMU110が上記バランス回路に制御命令を発した回数をCMU110内のカウンタ(図示しない)に格納しておき、一定時間ごとにパラメータ取得部111にて他のパラメータのアナログデータが取得されてデジタルデータへ変換される際に、同期してパラメータ取得部に取得されうる。
【0039】
後述の劣化状態算出部112では、これらの中の1種類のみを用いて劣化状態を算出してもよいし、複数用いて劣化状態を算出してもよい。電池は複雑な化学反応を起こすため、より正確に劣化状態を算出するためには1つのパラメータのみを用いるよりも複数のパラメータを用いる方が望ましい。よって、以下では複数のパラメータが劣化状態値算出に使用されるとして説明する。
【0040】
次に、パラメータ取得部111は上記デジタル信号を劣化状態算出部112に出力する。劣化状態算出部112では、取得された各パラメータに対応するデジタルデータを変数として、管理対象の電池セル210の劣化状態を示す劣化状態値を算出する(S102)。例えば、複数種類の各パラメータに対して、重み付けのための係数を積算し、これらの係数が積算されたパラメータを加算して劣化状態値とする。なお、重み付けのための係数は、パラメータの種類毎に予め設定されており、電池セル210に掛かる負荷によって増減しやすいパラメータほど大きい係数が設定される。
【0041】
例えば、パラメータ取得部111によって、電池セル210の起動中の最高温度(T)と、バランス回路を起動した回数(N)が取得されたとすると、劣化状態値算出部112によって算出される劣化状態値(Y)は、
Y=a・T+b・N
と表せる。上記式におけるa及びbは、それぞれ重み付けのための係数である。
【0042】
その後、算出された劣化状態値が後述の最小値特定部115に出力される。
【0043】
そして、パラメータデータ受信部114は、スレーブモードの各CMU110からそれぞれ通信ケーブル120を介して送信される劣化状態値および当該CMU110のアドレスを示すデジタルデータを受信する(S103)。そして、かかるデジタルデータを最小値特定部115へ出力する。
【0044】
そして、最小値特定部115は、マスターモードおよびスレーブモードの各CMU110から受信した劣化状態値を比較して、最小の劣化状態値を出力したCMU110を特定する(S104)。これは、スレーブモードの各CMU110の劣化状態値のみならずアドレスも最小値特定部115が受信しているため、容易に特定可能となる。
【0045】
なお、マスターモードのCMU110のアドレスについては、劣化状態値算出部112が算出した劣化状態値とともに出力してもよいし、最小値特定部が自らのCMU110のアドレスを予め格納し、自己の劣化状態値をスレーブモードのCMU110から受信される他のデータと識別可能としておいてもよい。
【0046】
最小値特定部115は、最小の劣化状態値を出力したCMU110のアドレスを動作モード切替部118へ出力する。
【0047】
そして、動作モード切替部118は自己のCMU110のアドレス情報と最小値特定部115から入力されたアドレス情報とを比較し、これらアドレス情報が異なる場合(S105:No)、最小値のパラメータを取得したスレーブモードのCMU110の動作モードをスレーブモードからマスターモードに切り替えるべく、当該CMU110のアドレスとともに切替命令を切替命令データ送信部116から通信ケーブル120に出力する(S106)。そして、かかる切替命令とアドレスを出力後、動作モード切替部118は自己のCMUの動作モードをマスターモードからスレーブモードに切り替える(S107)。
【0048】
一方、自己のCMU110のアドレス情報と最小値特定部115から入力されたアドレス情報とが同一の場合(S105:Yes)、動作モード切替部118は何ら切替処理を行わない。
【0049】
次に、スレーブモードのCMU110の動作を説明する。
【0050】
マスターモードのCMU110と同様に、パラメータ取得部111が、管理対象の電池セル210の劣化の指標となるパラメータを取得する(S201)。そして、パラメータ取得部111が出力したデジタルデータは劣化状態値算出部112に入力され、劣化状態値が算出される(S202)。
【0051】
そして、劣化状態値算出部112は、算出した劣化状態値をパラメータデータ送信部113に出力する。パラメータデータ送信部113は、入力された劣化状態値とともに自己のCMUのアドレス情報を通信ケーブル120に出力する(S203)。これらデジタルデータは、マスターモードのCMU110のパラメータデータ受信部114に受信される。
【0052】
そして、スレーブモードのCMU110の切替命令データ受信部117が、マスターモードのCMU110が通信ケーブル120に出力した当該スレーブモードのCMU110のアドレス情報と切替命令を受信すると(S204:Yes)、切替命令データ受信部117は動作モード切替部118へ制御信号を出力する。この制御信号が入力された動作モード切替部118は、自己のCMU110(自ユニット)の動作を、スレーブモードからマスターモードに切り替える(S205)。
【0053】
一方、スレーブモードのCMU110の切替命令データ受信部117が、自己のアドレス情報および切替命令を受信しないうちは(S204:No)、スレーブモードのCMU110は、S201〜S204の処理を繰り返す。
【0054】
なお、上述の説明では複数のパラメータにて劣化状態値を算出したが、たった1つのパラメータのみで各電池セルの劣化状態を比較する場合もありうる。この場合には、上述のような劣化状態値を算出する必要もなく、各CMU110のパラメータ取得部111から出力されるデジタルデータを比較してもよい。
【0055】
従って、この場合には、マスターモードのCMU110はパラメータ取得部111の出力を劣化状態値算出部112を介すことなく直接的に最小値特定部115に入力させてもよい。また、この場合、スレーブモードのCMU110はパラメータ取得部111の出力を劣化状態値算出部112を介すことなく直接的にパラメータデータ送信部113に入力させてもよい。
【0056】
予めパラメータを1つで使用することが判明している場合には、劣化状態値算出部112をCMU110に設ける必要がないのでコスト削減、小型化が可能となる。もちろん、汎用性を持たせるために劣化状態値算出部112をCMU110に設けておき、パラメータが1つのみであるか複数であるかで、劣化状態値算出部112を使用する経路か省略する経路かのいずれかに切り替える構成としてもよい。
【0057】
また、上述の説明は、1つのCMUの管理対象の電池セルが1つの場合であるが、1つのCMUの管理対象の電池セルが複数、例えば4つ存在する場合には、パラメータ取得部111は4つの電池セルのパラメータをそれぞれ取得する。そして、パラメータ取得部111がこの4つの電池セルのパラメータの同一種類のパラメータの平均値を計算して、その値を上述のように最小値特定部115または劣化状態値算出部112に送信する。このようにすれば、上述の1つの電池セルからパラメータを取得する場合と同様の動作が可能となる。
【0058】
このように、パラメータ取得部111にパラメータとして入力されるアナログデータは、1種類のパラメータである場合には、デジタルデータに変換された後にパラメータ送信部113および最小値特定部115へ送信される。また、電池セルの起動中の最高温度、バランス回路を起動した回数、端子間電圧、環境温度、環境湿度など複数種類のパラメータである場合には、それぞれがデジタルデータに変換された後、劣化状態値算出部で計算要素として用いられることでデジタルデータである劣化状態値が算出され、これが最小値特定部115またはパラメータデータ送信部へ出力される。さらに、パラメータ取得部111が複数電池セルのパラメータを取得する場合には、パラメータ取得部111が同一種類のパラメータの平均値をアナログデータとして出力するので、1つの電池セルのみのパラメータのみが入力される場合と同様の処理が劣化状態値算出部112や最小値特定部115で行われる。
【0059】
パラメータ取得部111と劣化状態値算出部112とでパラメータ関連データ生成部を構成し、パラメータ取得部111からの出力されるデジタルデータ、劣化状態値算出部112から出力される劣化状態値は、いずれもパラメータに関連するデジタルデータであるので、パラメータ関連データ生成部の出力であるパラメータ関連データとして扱う。
【0060】
このように本実施形態に係る電池セル管理システム100によれば、マスターモードのCMU110は、自ユニットが監視している電池セル210よりも劣化の小さい電池セル210を監視しているCMU110があれば、そのCMU110を新たにマスターモードのCMU110として動作するように監視制御モードを制御する。従って、一般に設置されるBMUが不要となる。
【0061】
また、劣化状態が大きい電池セルを監視しているCMU110は、例えば電池温度が過大な場合など、負荷制御装置へエラー信号を送信して上述のようにユーザーに注意喚起を行うなど、劣化状態が小さい電池セルを監視しているCMU110に比べ、CMU内部のプロセッサ等処理装置の処理負担が大きくなる。処理負担が大きい場合には処理エラー、処理速度低下など問題が発生しうるが、本実施形態に係る電池セル管理システム100では、マスターモードのCMUは複数のCMU中の最も処理負担が小さいものに適時切り替わるので、上記処理速度低下などの問題も生じにくい。
【0062】
すなわち、本実施形態に係る電池セル管理システム100は、BMUを用いないシステムでありながら、いずれのCMU110にも無理な処理負担をかけることのないマスタースレーブシステムを構築することができる。
【0063】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0064】
100 電池セル管理システム
110 CMU
120 通信ケーブル
111 パラメータ取得部
112 劣化状態値算出部
113 パラメータデータ送信部
114 パラメータデータ受信部
115 最小値特定部
116 切替命令データ送信部
117 切替命令データ受信部
118 動作モード切替部
200 組電池
210 電池セル
900 カバーユニット
910 上部カバー
911 孔部
912 孔部
913 金属端子
914 金属端子
915 孔部
916 金属端子
917 入出力コネクタ
918 凹部
919 支柱
920 下部カバー
921 底面
924 金属端子
928 凹部
929 支柱
990 電池セルユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組電池を構成する複数の電池セルを管理する電池システムであって、
前記電池セルに接続され、当該接続された電池セルを管理する複数の電池セル管理ユニットを有し、
前記電池セル管理ユニットは互いに接続されており、
前記各々の電池セル管理ユニットは、
自ユニットの動作モードを、自己に接続された前記電池セルの管理を行うスレーブモード又は自己に接続された前記電池セルの管理を行うとともに他の電池セル管理ユニットの制御を行うマスターモードのいずれかに択一的に切り替える動作モード切替部と、
前記接続された電池セルのパラメータを取得してパラメータ関連データを生成するパラメータ関連データ生成部と、
前記スレーブモードによって動作している場合に、前記パラメータ関連データを、前記マスターモードによって動作している他の電池セル管理ユニットに送信するパラメータデータ送信部と、
前記マスターモードによって動作している場合に、前記スレーブモードによって動作している他の電池セル管理ユニットから、当該他の電池セルユニットにおいて取得されたパラメータ関連データを受信するパラメータデータ受信部と、
前記マスターモードによって動作している場合に、自己の前記パラメータ関連データ生成部が生成したパラメータ関連データと、前記パラメータデータ受信部が受信したパラメータ関連データとを比較して、最小のパラメータ関連データを特定する最小値特定部と、
前記マスターモードによって動作している場合に、前記最小値特定部が特定したパラメータ関連データが他の電池セル管理ユニットから受信したものであるとき、当該他の電池セル管理ユニットに対し切替命令を送信する切替命令データ送信部と、
前記スレーブモードによって動作している場合に、前記マスターモードによって動作している他の電池セル管理ユニットから前記切替命令を受信する切替命令データ受信部と
を備え、
前記マスターモードによって動作している場合に、前記切替命令データ送信部が他の電池セル管理ユニットに対し前記切替命令を送信したとき、前記動作モード切替部は、自ユニットの動作モードをマスターモードからスレーブモードへ切り替え、
前記スレーブモードによって動作している場合に、前記切替命令データ受信部が他の電池セル管理ユニットから前記切替命令を受信したとき、前記動作モード切替部は、自ユニットの動作モードをスレーブモードからマスターモードへ切り替えることを特徴とする電池システム。
【請求項2】
前記パラメータ関連データ生成部は、前記パラメータとして、前記接続された電池セルの起動中の最高温度、バランス回路を起動した回数、端子間電圧、環境温度、環境湿度のうち少なくとも何れか1つのパラメータを取得することを特徴とする請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
前記パラメータ関連データ生成部は複数種類の前記パラメータを取得し、
前記複数種類のパラメータを用いて前記接続された電池セルの劣化状態値を算出し、前記劣化状態値を前記パラメータ関連データとして出力する劣化状態値算出部を備えることを特徴とする請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記組電池から供給される電力で動作する電力負荷と、
接続ポートと、
前記接続ポートを介して前記電池セル管理ユニットに接続され、前記パラメータに応じて前記電力負荷を制御する負荷制御装置と
負荷制御装置から出力される電池情報を表示する表示装置とをさらに有することを特徴とする請求項3に記載の電池システム。
【請求項5】
前記電力負荷は電気モータであり、前記電池システムは前記電気モータにより移動可能となる産業車両、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車のいずれか1つであることを特徴とする請求項4に記載の電池システム。
【請求項6】
絶縁物で形成されて対をなす上部カバーと下部カバーとを複数対さらに有し、
前記上部カバーは、入出力コネクタを備え、
前記下部カバーには前記電池セル管理ユニットが配置され、
正負極の端子が形成される前記電池セルの上部に前記上部カバーが設置され、前記下部カバーは前記電池セルを挟みこんで前記上部カバーと嵌合されることで、前記電池セルと前記上部カバーおよび前記下部カバーとが一体的に形成され、かつ、前記入出力コネクタと前記電池セル管理ユニットとが電気的に接続され、
前記入出力コネクタを介して前記複数の電池セル管理ユニットが互いに接続されることを特徴とする請求項1に記載の電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−67047(P2011−67047A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216955(P2009−216955)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】