説明

電界効果型トランジスタ及びその製造方法

【課題】半導体特性に影響を与えることなく、印刷法により形成される半導体の形状再現性に優れた電界効果型トランジスタの製造方法を提供すること。
【解決手段】基材上に、少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、半導体層およびゲート絶縁膜とが形成されてなる電界効果型トランジスタの製造方法であって、少なくともゲート絶縁膜上に半導体層を形成する工程を有し、該ゲート絶縁膜は露光によりシランカップリング剤と反応可能な官能基を生成し得る材料で形成されており、該工程の前に、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲を露光する工程及び露光部においてフッ化アルキル基を有するシランカップリング剤と該官能基とを反応させる工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体を用いた電界効果型トランジスタ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体材料を利用した電界効果型トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)の研究開発が盛んに行われている。有機半導体材料は、従来半導体素子に用いられてきたシリコンに代表される無機材料と比較して、印刷法による室温での薄膜形成が容易であるという特徴があり、製造プロセスを簡便化・低温化できるという利点を有している。これらの特長により、電界効果型トランジスタは従来困難であったプラスチック基板上への半導体素子形成を容易にし、さらに大面積に低コストで製造可能なものとして期待されている。このような電界効果型トランジスタの作製に用いられる印刷法の代表的な例としてインクジェット法が挙げられる(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
インクジェット印刷法を用いると、電極パターンを直接描画することができるため、材料の利用効率が高くなり製造プロセスの簡略化及び低コスト化を実現できる可能性がある。
しかしながらインクジェット印刷法は、インクの着弾バラツキが大きく、また被印刷物表面の塗れ性により形成されるパターン形状が大きく影響を受けるため、高精細なトランジスタ素子パターンの形成は難しい。印刷されたパターンにおいて、上記のような問題により形状不良が発生すると、電極においては断線やリークといった問題が発生し半導体においてはオフ電流の上昇や特性の不均一化の原因となる。
【0004】
このような問題に対して、例えば特開2005‐310962号公報(特許文献5)に記載の発明では、エネルギーの付与により絶縁膜表面の臨界表面エネルギーを変化させ、配線電極の高精細なパターニングを実現している。
しかしながら、このような絶縁膜表面へのエネルギー付与は、電極形成の場合は大きな問題とならないが、半導体材料の形成に用いた場合その特性に大きな影響を与える。すなわち、絶縁膜表面へのエネルギー付与により、絶縁膜表面にラジカルやイオン種が形成され、あるいは絶縁膜表面形状が乱れ、結果としてその上に形成される半導体の特性が大きな影響を受ける。このように、電極形成において基材の表面エネルギーを制御することは非常に有用な手段であるが、半導体層形成にその手法をそのまま適用することは非常に困難であった。
【0005】
一方、シリコン酸化膜をゲート絶縁膜として用い、該ゲート絶縁膜上に自己組織化単分子膜(SAM)を形成することにより、半導体の特性向上を行う試みが多数行われている。
例えば、特許4419373号公報(特許文献6)に記載の発明では、2種類のSAM処理剤を用いて有機半導体と親和性の高いSAM上に半導体を形成している。しかし、光照射と化学反応を利用するSAM処理法は、光反応によるラジカルやイオン種の生成及び未反応部分の欠陥さらには過剰な化学反応による絶縁膜表面の乱れといった不具合が起こり、特に印刷法で用いられるポリマー絶縁膜で用いることは困難であった。
また、特開2009−246342号公報(特許文献7)に記載の発明では、ゲート絶縁膜を三層構造として形成しその最上層をSAMとする、特開2009−290187号公報(特許文献8)に記載の発明では、特定な方法でゲート絶縁膜上にSAMを形成するとしているが、これらによっても前記の不具合は起こる可能性は残されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電界効果型トランジスタの製造において、半導体特性に影響を与えることなく、印刷法により形成される半導体の形状再現性に優れた電界効果型トランジスタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は検討を重ねた結果、以下の方法で課題が解決できることを見出した。
(1)基材上に、少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、半導体層およびゲート絶縁膜とが形成されてなる電界効果型トランジスタの製造方法であって、少なくともゲート絶縁膜上に半導体層を形成する工程を有し、該ゲート絶縁膜は露光によりシランカップリング剤と反応可能な官能基を生成し得る材料で形成されており、該工程の前に、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲を露光する工程及び露光部においてフッ化アルキル基を有するシランカップリング剤と該官能基とを反応させる工程を有することを特徴とする電界効果型トランジスタの製造方法。
(2)前記ゲート絶縁膜がポリマー材料である上記(1)に記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(3)前記ポリマー材料がポリイミド樹脂である上記(2)に記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(4)前記ポリイミド樹脂が、下記式で表される構造を有する化合物、または下記式で表される構造を主鎖に含む化合物である上記(3)に記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【0008】
【化1】

【0009】
(5)前記絶縁膜のチャネル領域の表面エネルギーが40mN/m以下である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(6)前記ゲート絶縁膜の表面粗さがRa=10nm以下である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(7)前記のソース電極及びドレイン電極の表面エネルギーと絶縁膜のチャネル領域の表面エネルギーとの差が10mN/m以下である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(8)前記ゲート絶縁膜における照射量(露光量)が5〜20J/cmである上記(1)〜(7)のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(9)前記シランカップリング剤の反応性官能基が、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリクロロシランのいずれかである上記(1)〜(8)のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(10)前記露光の波長が真空紫外域の波長を含む上記(1)〜(9)のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに記載の製造方法により作製されたことを特徴とする電界効果型トランジスタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体特性に影響を与えることなく、印刷法により形成される半導体の形状再現性に優れた電界効果型トランジスタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電界効果型トランジスタの構成を示す図である。
【図2】電界効果型トランジスタの他の構成を示す図である。
【図3】実施例1で作製した電界効果型トランジスタを上面からみた図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、基材上に、少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、半導体層およびゲート絶縁膜とが形成されてなる電界効果型トランジスタの製造方法であって、少なくともゲート絶縁膜上に半導体層を形成する工程を有し、該ゲート絶縁膜は露光によりシランカップリング剤と反応可能な官能基を生成し得る材料で形成されており、該工程の前に、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲を露光する工程及び露光部においてフッ化アルキル基を有するシランカップリング剤と該官能基とを反応させる工程を有することを特徴とする。
【0013】
本発明で用いられる絶縁膜材料は、露光によりシランカップリング剤と反応可能な官能基(水酸基、アミノ基等)が生成される材料であればよいが、印刷法に適用するためにはポリマー材料が好ましい。
具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイソブチレン、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフラレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド等の汎用樹脂が挙げられ、あるいはこれらの混合物を用いてもよいが、特に好ましくはポリイミドが用いられる。
ポリイミドとしては、前記の特定構造を有する構造体(化合物)、または下記式で表される構造を主鎖に含む構造体(化合物)であるのが特に好ましい。
これらのポリマーは、光もしくは熱で硬化されることにより、より耐久性に優れたものとなる。光硬化性の材料を用いる場合、前記露光に用いる波長と硬化に用いる波長は異なることが好ましい。
【0014】
絶縁膜表面は、半導体の特性あるいは半導体形状の安定性、さらには絶縁膜の汚染防止の点から、その表面エネルギーが40mN/m以下、好ましくは30mN/m以下であることが好ましい。また、絶縁膜表面の表面粗さがRa=10nm以下であれば、さらに特性に優れた電界効果型トランジスタの提供が可能となる。
絶縁膜の形成方法としては、特にこれに限るものではないが、スピンコーターあるいはスリットコーター、ダイコーター、スプレーコーター、バーコーター等を用いる方法が好ましい塗布方法として挙げられる。
【0015】
露光に用いる光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、エキシマUVランプ等のランプ、エキシマレーザー、COレーザー、XeFエキシマレーザー、YAGレーザー、Arレーザー等のレーザー等が挙げられる。また露光に用いる波長領域としては、絶縁膜表面にシランカップリング剤と反応可能な官能基を生成するために、紫外線が好ましく用いることが出来るが、より好ましくは真空紫外域の波長を含む光源を用いる。
【0016】
露光するところは、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲である。ここで、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲の“周囲”とは、「ゲート絶縁膜上のチャネル領域に近接しているが、該チャネル領域から外れかつ該チャネル領域の周辺」を意味する。
本発明においては、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲を露光し該露光部にフッ化アルキル基を有するシランカップリング剤を反応させ、半導体形成位置の表面エネルギーを相対的に高めることで半導体を任意の形状に形成することが可能となる。任意の位置を露光する方法としては、マスクを用いてもよいし、レーザー等により任意の位置をスキャンしてもよい。露光部位は半導体形成位置を外れていれば良く、半導体形成位置の外周全域を露光すればより形状安定性は良くなるが、半導体が任意の形状に形成可能なら外周全域を露光しなくともよい。
【0017】
露光により絶縁膜表面にシランカップリング剤と反応可能な官能基を生成するためには、絶縁膜表面における照射量(露光量)が0.1〜50J/cmであるのが好ましく、5〜20)J/cmであるのがより好ましい。照射量が0.1J/cmより少ないと、シランカップリング剤と反応可能な官能基が生成されず、また生成されたとしてもその官能基数が少なく、一方、照射量が50J/cmより多いと、絶縁膜表面が荒れてしまいシランカップリング剤との良好な反応が行われなくなる。
絶縁膜に露光がなされると、何故官能基が生成されるかについての詳細な検討はなされていないが、露光により絶縁膜表面の化学結合が切断され、その部分が空気中の酸素や水分と反応することにより、あるいは露光によって発生するオゾン等の活性なガスが絶縁膜表面と反応することによって官能基が生成されると考えられる。この生成された官能基は、外部からの何等かの作用、エネルギーの付与等がない限り、経時により容易に消失することはない。
なお、絶縁膜表面にシランカップリング剤と反応可能な官能基が生成されたか否かは、絶縁膜表面の赤外吸収スペクトルを測定することにより、容易に判定することができる。
【0018】
本発明で用いるシランカップリング剤は、少なくとも一部にフッ化アルキル基を有していれば良くそのアルキル基の長さやフッ素化率は問わないが、アルキル鎖長4以上のフッ化アルキル基を有することが好ましい。また材料製造の容易さや、カップリング反応条件均一化の点から、シランカップリング剤の反応性官能基はトリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリクロロシラン、のいずれかであることが好ましい。
【0019】
本発明で用いられるシランカップリング剤の構造を下記化合物No.1〜10に示すが、本発明で用いられるシランカップリング剤はこれらに限るものではない。これらの中でもNo.9、No.10の構造のシランカップリング剤が反応性や特性の面から好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
シランカップリング剤の反応は、反応溶液への浸漬による液相法あるいは反応性ガスを用いる気相法等が挙げられるが、基材へのダメージの少ない気相法が好ましい。
本発明において気相法により、前記絶縁膜に生成した官能基とシランカップリング剤とを反応させるには、例えば、基板上にゲート電極、官能基が生成された絶縁膜が積層されたものを、40〜200℃、好ましくは100〜180℃で、シランカップリング剤の蒸気に曝すことにより、シランカップリング剤を反応させればよい。
【0022】
本発明の電界効果型トランジスタの製造方法は、前述のとおり、ゲート絶縁膜を露光によりシランカップリング剤と反応可能な官能基を生成し得る材料で形成し、及び、ゲート絶縁膜上に半導体層を形成するのに先だって、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲を露光し、その露光部においてフッ化アルキル基を有するシランカップリング剤とゲート絶縁膜に生成した官能基とを反応させる工程を設けた以外は、従来の電界効果型トランジスタの製造方法と同様である。
【0023】
したがって、本発明の電界効果型トランジスタの製造方法としては、ソース電極・ドレイン電極上に半導体を形成しチャネルを構成する方法と、半導体上にソース電極・ドレインを形成しチャネルを構成する方法が考えられ、本発明の電界効果型トランジスタの製造方法は上記どちらの方法を用いても良いが、特にソース電極・ドレイン上に半導体を形成する方法においては、ソース電極・ドレイン電極の表面エネルギーと絶縁膜チャネル領域の表面エネルギーとの差が10mN/m以下であれば、半導体形状への電極表面の影響を軽減することが可能となる。
【0024】
以下に、本発明により作製される電界効果トランジスタに関してより詳細に説明するが、本発明はこれらに限るものではない。
一般的な電界効果型トランジスタは、ガラスやプラスチック等の支持体基板、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極、ゲート絶縁膜および有機半導体層の構成からなる。ゲート電圧を変化させることで、ゲート絶縁層と有機半導体層との界面の電荷量を制御し、ドレイン電極とソース電極との間を流れるドレイン電流の大きさを変化させ、スイッチングを行う。
【0025】
電界効果型トランジスタの構成として、一般的には、図1に示すように、第一の基材1上にゲート電極2を形成し、ゲート電極2を覆う形でゲート絶縁膜3を形成、さらにソース電極5およびドレイン電極6を形成した上に有機半導体層4を形成し電界効果型トランジスタとする。あるいは図2に示すように、基材11上にゲート電極12を形成し、ゲート電極12を覆う形でゲート絶縁膜13を形成、その上に有機半導体層14を形成した後さらにソース電極15およびドレイン電極16を形成し電界効果型トランジスタとするといった構成が考えられる。なお図1、図2において、符号7、17はチャネル領域を表している。
電界効果型トランジスタの構成はプロセスの適性等により最適な構造が選ぶことができ、本発明はこれらの構成に限るものではない。
【0026】
用いる基板としては、電界効果型トランジスタを形成可能な支持体であれば良く、上記したようにガラスやポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエステル等のプラスチック、シリコンウェハ、ステンレス等の金属類等用いることができる。特にポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート等が、耐熱性や耐久性の面から好ましい。
【0027】
ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極の部材は、同一な部材であってもそれぞれ別個の部材であってもよく、半導体素子の駆動に十分な電流を流せればよい。具体的には、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、亜鉛、スズ、タンタル、アルミニウム、タングステン等の金属、ATO、ITO、IZO、FTO等の酸化物、導電性ポリアニリン、導電性ポリピロール、導電性ポリチオフェン、PEDOT/PSS、等の導電性高分子、カーボン、等が挙げられるが、中でも、白金、金、銀、銅、アルミニウム、インジウム、ITO、IZO、PEDOT/PSS、及びカーボンが好ましい。また、これらの材料を2種類以上併用しても構わない。
【0028】
それら電極の形成方法としては、蒸着法やスパッタ法等を用いることもできるが、プロセスの簡便性から上記部材の溶液あるいは分散液を用いた印刷法による形成法が好ましく用いられる。電極を形成するための印刷法の例としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、マイクロコンタクトプリント法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、などが挙げられる。
【0029】
本発明における半導体材料としては、ペンタセン、アントラセン、テトラセン、ポルフィリン類あるいはそれらの誘導体のような低分子有機半導体、フタロシアニン類のような有機顔料、有機ケイ素化合物等、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、あるいはそれらの誘導体のような共役系高分子等、一般的な有機半導体材料を用いることができる。
半導体層の形成方法は、上記部材の溶液あるいは分散液を用いた印刷法による形成法が好ましく用いられる。印刷法の例としては、インクジェット法、スクリーン印刷法、マイクロコンタクトプリント法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、などが挙げられるが、材料利用効率が高いこと、またインクの調整が比較的容易であることなどから、インクジェット法が特に好ましい。
【0030】
本発明の製造方法により作製される、電界効果型トランジスタは、必要に応じて各電極からの引出し電極を設けてもよい。また、機械的破壊からの保護、水分やガスからの保護、またはデバイスの集積の都合上の保護等のため必要に応じて保護層を設けることもできる。
【0031】
上述した本発明の電界効果型トランジスタは、液晶、エレクトロルミネッセンス、エレクトロクロミック、電気泳動等の、従来公知の各種表示画像素子を駆動するための素子として好適に利用でき、これらの集積化により、いわゆる「電子ペーパー」と呼ばれるディスプレイを製造することが可能である。ディスプレイ装置は、例えば、液晶表示装置では液晶表示素子、EL表示装置では有機若しくは無機のエレクトロルミネッセンス表示素子、電気泳動表示装置では電気泳動表示素子などの表示素子を1表示画素として、該表示素子をX方向及びY方向にマトリックス状に複数配列して構成される。前記表示素子は、該表示素子に対して電圧の印加又は電流の供給を行うためのスイッチング素子として、本発明の電界効果型トランジスタを備えて成る。
【0032】
ディスプレイ装置としては、前記スイッチング素子が前記表示素子の数、即ち表示画素数に対応して複数備えられる。前記表示素子は、前記スイッチング素子の他に、例えば、基板、透明電極等の電極、偏光板、カラーフィルタなどの構成部材を備えるが、これらの構成部材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、従来から公知のものを使用することができる。
【0033】
前記ディスプレイ装置が、所定の画像を形成する場合には、例えば、マトリックス状に配置されたスイッチング素子の中から任意に選択された前記スイッチング素子が、対応する前記表示素子に電圧の印加又は電流を供給する時のみスイッチがON又はOFFとなり、その他の時間はOFF又はONとなるように構成することにより、高速、高コントラストで、前記ディスプレイ装置の表示を行うことができる。
【0034】
なお、前記ディスプレイ装置における画像の表示動作としては、従来から公知の表示動作により画像等が表示される。
例えば、前記液晶表示素子の場合には、液晶に対して電圧を印加することにより、該液晶の分子配列を制御して画像等の表示が行われる。また、前記有機若しくは無機のエレクトロルミネッセンス表示素子の場合には、有機若しくは無機膜で形成された発光ダイオードに電流を供給して該有機若しくは無機膜を発光させることにより画像等の表示が行われる。また、前記電気泳動表示素子の場合には、例えば、異なる極性に帯電された白及び黒色の着色粒子に電圧を印加して、電極間で前記粒子を所定方向に電気的に泳動させて画像等の表示が行われる。
【0035】
前記ディスプレイ装置は、前記スイッチング素子を塗工、印刷等の簡易なプロセスにより作製可能であり、プラスチック基板、紙等の高温処理に耐えない基板を用いることができるとともに、大面積のディスプレイであっても、省エネルギー、低コストで前記スイッチング素子を作製可能となる。また、ICタグ等のデバイスとして、本発明の電界効果型トランジスタを集積化したICを利用することが可能である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りこれらの実施例を適宜改変したものも本件の発明の範囲内である。なお、ここでの部は重量基準である。
【0037】
〔実施例1〕
1)ゲート電極の形成
ナノ銀溶液(水分散媒あるいは有機溶媒分散媒にナノ銀粒子を分散させたもの)を、ガラス基板上にスピンコート法を用いて塗布・焼成し、ナノ銀薄膜(Ag膜)を得た。次に、フォトレジストをスピンコートし、90℃で30分間プレアニールした。さらに、フォトマスクを介して露光し(150mJ/cm)、現像及びポストベークを120℃で20分間実施した。次に、Ag膜をエッチングし、レジスト剥離及び洗浄リンスすることで、長さ50μm、幅20μmのゲート電極および走査線を形成した。得られたゲート電極は厚さ200nmであった。
【0038】
2)ゲート絶縁膜の形成
焼成後、下記式で表される構造体となるポリマー前駆体溶液(溶媒:ジメチルアセトアミド)を、スピンコート法にて成膜・乾燥・焼成して、ゲート絶縁膜を作製した。形成されたゲート絶縁膜は厚さ700nmであった。
【0039】
【化3】

【0040】
3)シランカップリング処理
ゲート絶縁膜表面を、ゲート電極中央部の15μm×45μmの範囲にマスクを施し、その領域の周囲に紫外光を照射した。紫外光は、UVランプを用い、250nmの光の強度が5mW/cmとなるように光源と基板との距離を調整し、照射量(露光量)10J/cmの紫外線を照射した。さらにこの基板を、150℃の恒温槽内でトリエトキシ−1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロ−n−オクチルシランの蒸気に暴露して、露光部に前記化合物NO.1のシランカップリング剤(Lot1)を反応させた。シランカップリング処理前の露光部の表面エネルギーは40mN/mであったが、シランカップリング処理後の露光部の表面エネルギーは20mN/mであった。
【0041】
4)半導体の形成
P3HT(ポリ−3−ヘキシルチオフェン)のテトラリン溶液(2wt%)を、インクジェット法を用いて上記非露光部の中央に約20pLの液滴を吐出した。半導体は、長さ:15μm、幅:45μm、厚さ:0.2μmであった。
【0042】
5)電界効果型トランジスタの作製
ポリジメチルシロキサンをソース・ドレイン電極の形状に加工し、マイクロコンタクトプリント用の凸版を作製した。該凸版を用いて、半導体上に銀ナノインク(銀ナノ粒子を水系溶媒に分散させた分散液)をマイクロコンタクトプリント法により印刷し乾燥、180℃で1時間焼成してソース・ドレイン電極を作製した。形成されたソース電極及びドレイン電極は厚さ150nmであった。作製したゲート電極、半導体及びソース・ドレイン電極の配置(上面から)を図3に示す。
図3において、21はゲート電極、22はソース電極、23はドレイン電極、24は半導体であり、ゲート電極は20μmX50μm、半導体は15μmX45μm、チャネル長は10μmであった。
以上により、本発明の電界効果型トランジスタを作製した。このトランジスタ素子の特性の評価結果をまとめて表1に示す。
【0043】
〔実施例2〜10〕
前記化合物NO.1のシランカップリング剤(Lot1)の替わりに前記化合物NO.2〜10のシランカップリング剤(Lot2〜10)を用いた以外は実施例1と同様にして、本発明の電界効果型トランジスタを作製した。これらのトランジスタ素子の特性の評価結果をまとめて表1に示す。
【0044】
〔比較例1〜10〕
シランカップリング処理の工程を省いた以外は実施例1と同様にして、比較の電界効果型トランジスタを作製した。これらのトランジスタ素子の特性の評価結果をまとめて表1に示す。
【0045】
<半導体形状評価>
半導体形成、乾燥後の半導体形状を光学顕微鏡で観察したところ、実施例1〜10のサンプルはいずれもマスクの形状が再現されていることが確認できた。一方の比較例1〜10のサンプルでは、半導体インクはゲート電極上からはみ出し、あるいはゲート電極からずれてしまいチャネル上にほとんど残らないものも確認された。
【0046】
<半導体特性評価>
室温・窒素雰囲気下の条件でこれらトランジスタの特性を評価したところ、ほとんどの素子で典型的なp型トランジスタの特性を示した。飽和領域において算出した電界効果移動度(チャネル幅は設計値である50μmで算出)、およびon/off比(VG=−80V/VG=40V)を表1に示す。
(1)電界効果移動度の算出は以下の式を用いて行った。
ds=μCinW(V−Vth/2L
ただし、Cinはゲート絶縁膜の単位面積あたりのキャパシタンス、Wはチャネル幅(チャネル幅は設計値である50μm)、Lはチャネル長、Vgはゲート電圧、Idsはソースドレイン電流、μは移動度、Vthはチャネルが形成し始めるゲートのしきい値電圧である。
(2)on/off比は、ソース−ドレイン間に電圧を40V印加したときにおいて、ゲート電圧が+40Vのときのソース−ドレイン間電流Ioffと、ゲート電圧を−80V印加したときのソース−ドレイン間電流Ionと、の比Ion/Ioffから求めた。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、比較例1〜10の電界効果型トランジスタは非常に特性のバラツキが大きいが、これは半導体の形成が不均一なことも大きな要因と考えられる。それに対して、実施例1〜10の電界効果型トランジスタは、バラツキが小さく特性に優れたものである。
【0049】
〔実施例11〕
シランカップリング処理において、照射量(露光量)10J/cmを5J/cmに変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の電界効果型トランジスタを作製した。このトランジスタ素子の特性は、移動度:1.9×10−3cm/Vs、on/off:1.0X10であり、特性に優れたものである。
【0050】
〔実施例12〕
シランカップリング処理において、照射量(露光量)10J/cmを(20)J/cmに変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の電界効果型トランジスタを作製した。このトランジスタ素子の特性は、移動度:1.8×10−3cm/Vs、on/off:1.2X10であり、特性に優れたものである。
【0051】
〔実施例13〕
シランカップリング処理において、照射量(露光量)10J/cmを0.01J/cmに変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の電界効果型トランジスタを作製した。このトランジスタ素子の特性は、移動度:0.8×10−3cm/Vs、on/off:1.1×10であり、特性には問題が見受けられた。
【符号の説明】
【0052】
1、11 基板
2、12、22 ゲート電極
3、13 ゲート絶縁層
4、14、24 半導体層
5、15、25 ソース電極
6、16、26 ドレイン電極
7、17 チャネル領域
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特開2003−229579号公報
【特許文献2】特開2005−039086号公報
【特許文献3】特開2005−142474号公報
【特許文献4】特開2005−294809号公報
【特許文献5】特開2005−310962号公報
【特許文献6】特許4419373号公報
【特許文献7】特開2009−246342号公報
【特許文献8】特開2009−290187号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくともゲート電極、ソース電極、ドレイン電極と、半導体層およびゲート絶縁膜とが形成されてなる電界効果型トランジスタの製造方法であって、少なくともゲート絶縁膜上に半導体層を形成する工程を有し、該ゲート絶縁膜は露光によりシランカップリング剤と反応可能な官能基を生成し得る材料で形成されており、該工程の前に、ゲート絶縁膜上の半導体を形成する領域の周囲を露光する工程及び露光部においてフッ化アルキル基を有するシランカップリング剤と該官能基とを反応させる工程を有することを特徴とする電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項2】
前記ゲート絶縁膜がポリマー材料であることを特徴とする請求項1に記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項3】
前記ポリマー材料がポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミド樹脂が、下記式で表される構造を有する化合物、または下記式で表される構造を主鎖に含む化合物であることを特徴とする請求項3に記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【化1】

【請求項5】
前記ゲート絶縁膜のチャネル領域の表面エネルギーが40mN/m以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項6】
前記ゲート絶縁膜の表面粗さがRa=10nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項7】
前記のソース電極、ドレイン電極の表面エネルギーと、前記絶縁膜のチャネル領域の表面エネルギーとの差が、10mN/m以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項8】
前記ゲート絶縁膜における照射量(露光量)が5〜20J/cmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項9】
前記シランカップリング剤の反応性官能基が、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリクロロシランのいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項10】
前記露光の波長が真空紫外域の波長を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の電界効果型トランジスタの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法により作製されたことを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−129396(P2012−129396A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280441(P2010−280441)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】