説明

静電気保護用半導体装置

【課題】 半導体集積回路をESDの過電流ノイズ及びラッチアップ試験の過電流ノイズから保護する保護回路であって、電源端子から保護素子への配線の配置の自由度を高めることができ、チップ面積の増大とはならない、保護回路を提供する。
【解決手段】 ラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するバイポーラトランジスタ12のベース接地電流増幅率を0.5〜1.0になるような構造とすることで、I/O端子10から入ったラッチアップ試験の過電流ノイズは、バイポーラトランジスタ12を通り接地端子11へ流れるので、電源端子9からバイポーラトランジスタ12のベースへの配線を細くすることが可能となり、配線配置の自由度が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐圧な半導体集積回路の静電気保護用半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は、外部端子から印加される過電流ノイズ(例えばESD (Electrostatic Discharge) シミュレータやラッチアップシミュレータの試験パルスのようなパルス電流)によって、内部回路が破壊するのを防ぐために、通常外部端子と内部回路の間に設けられた静電保護回路を有している。この静電保護回路は、例えばI/O端子に過電流ノイズが印加されたとき、内部回路を構成する素子の最大動作電圧よりも数ボルト程度高い電圧(以下、トリガー電圧と呼ぶ)で動作し、過電流ノイズを接地端子或いは、電源端子に流すように設計される。この目的を満たす最も簡単な方法としては、ダイオード(逆方向接続)、オフトランジスタ、サイリスタなどのように、ある電圧以下では電流を流さないが、ある印加電圧以上になると急激に電流が流れるような素子を静電保護素子としてI/O端子と接地端子の間に接続することによって実現できる。上記のような静電保護素子を備えた半導体集積回路のノイズに対する耐量は、ESDシミュレータ、CDM (Charged Device Model) シミュレータ、ラッチアップシミュレータなどのシミュレータを用いて評価される。
【0003】
より高い耐圧の半導体集積回路を作製しようとする場合、過電流ノイズから保護するために用いられる静電保護素子は、より高いトリガー電圧で過電流ノイズを接地端子或いは電源端子へ流すことが出来なければならない。このような耐圧の高い内部回路を保護するための保護素子は、耐圧の低い内部回路を保護する保護素子よりも、ジュール熱による破壊に関してより厳しい条件に耐えることができなければならない。過電流ノイズのパルス幅に関しても、時間的に長いパルス幅の方が、ジュール熱による破壊に関して厳しい条件となる。特にラッチアップをシミュレートするために用いられる電流パルスのパルス幅は、数msオーダーと他のノイズに比べ時間が長いため、静電保護素子自身の破壊に関して特に注意が必要である。
【0004】
ジュール熱によって静電保護素子自身が破壊しないようにするためには、電流が流れる断面の単位面積当たりの電流密度を下げて、発熱を抑制することが必要であるが、素子サイズの拡大につながるので、コストの観点から際限なく大きくすることは出来ない。また、過電流ノイズが印加される際の各端子の状態によっても、保護の方法が異なってくる。例えば、ESDの場合は、ノイズが印加される端子と接地端子以外の端子はオープンの状態でノイズが印加されるので、ノイズを逃がす端子は接地端子しか無いが、ラッチアップ試験の電流パルスの場合は、電源端子と接地端子をそれぞれ接続した状態で、残りの端子に過電流ノイズを印加するので、過電流ノイズを逃がせる端子は、電源端子と接地端子の2つになるといった具合である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−26695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように耐圧の高い内部回路を保護する場合、チップサイズを大きくせずに、上記ESDの過電流ノイズ及びラッチアップシミュレータの試験パルスのような数msオーダーのパルス幅の過電流ノイズから保護するためには、従来、図3或いは図4に示すような保護回路が考えられた。
【0007】
第1の従来例(図3)は、I/O端子15と電源端子14の間にダイオード17と接続し、I/O端子15と接地端子16の間にダイオード18を接続した形の保護回路である。I/O端子15にESDのような過電流ノイズが印加される場合、電源端子14は接続しないので、I/O端子15と接地端子16の間に接続したダイオード18が降伏し、過電流ノイズを接地端子16に逃がすことになる。ラッチアップ試験の場合においては、電源端子14には電源が接続され最大動作電圧に電位が維持される。この状態でI/O端子15に過電流ノイズを印加すると、I/O端子15の電位が(電源端子14の電位+ダイオード17の拡散電位)以上の状態になったときに、過電流ノイズはI/O端子15と電源端子14の間に接続されたダイオード17を通り順方向で電源端子14に流すことになる。
【0008】
第2の従来例(図4)は、I/O端子20と電源端子19の間にダイオード22、I/O端子20と接地端子21の間にオフMOS型電界効果トランジスタ23を接続した形になっている。第1の従来例(図3)と同様に、I/O端子20にESDのような過電流ノイズが印加される場合、オフMOS型電界効果トランジスタ23が動作して、I/O端子20から接地端子21に過電流ノイズを流す。ラッチアップ試験の場合においても、第1の従来例(図3)と同様に、過電流ノイズはI/O端子20と電源端子19の間に接続されたダイオード22を通り順方向で電源端子19に流すことになる。
【0009】
上記のような構成にすれば、I/O端子15と接地端子16の間のダイオード18、或いはI/O端子20と接地端子21の間のオフMOS型電界効果トランジスタ23は、ESDのような十数nsオーダーの過電流ノイズだけを流すことが出来るような素子サイズにすれば良いので、素子サイズの縮小化が見込める。また、ラッチアップシミュレータの試験パルスのような数msオーダーのパルス幅をもつエネルギーの大きい過電流ノイズは、I/O端子15と電源端子14の間のダイオード17、或いはI/O端子20と電源端子19の間のダイオード22を通って順方向に過電流ノイズを流すことになるから、逆方向で過電流ノイズを流す場合よりも抵抗が低く、素子サイズを小さくすることができる。
【0010】
上記のような構成を採った場合の問題点として挙げられることは、過電流ノイズが流せるような太い配線を電源端子14からダイオード17、或いは電源端子19からダイオード22まで引かなければならず、配線配置の自由度が制限され、I/O端子の配置によっては、配線幅分のチップ面積の増加につながってしまう可能性があることである。
【0011】
本発明は、上記のような課題を鑑みたものである。耐圧の高い内部回路を保護する静電保護回路において、ESDの過電流ノイズ及びラッチアップ試験の過電流ノイズから内部回路を保護し、且つ配線によるチップ面積の増大を抑制するような、静電気保護用半導体装置を提供するのが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するたに、本発明に係る静電気保護用半導体装置は、I/O端子と接地端子の間に接続されたESD保護素子と、電源端子をベース、I/O端子をエミッタ、接地端子をコレクタに接続されたバイポーラトランジスタを有する静電保護回路において、バイポーラトランジスタの構造をベース接地電流利得率α0が0.5〜1.0になるような構造にして、I/O端子から入ったESDの過電流ノイズ或いはラッチアップ試験の過電流ノイズを接地端子側に流すようにした。
【発明の効果】
【0013】
以上の構成とすることで、電源端子からバイポーラトランジスタのベースまでの配線の幅を小さくすることができ、配線配置の自由度の向上や配線分のチップ面積を縮小した静電保護回路を備えた半導体集積回路をつくることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る静電気保護用半導体装置の一部を表す断面図。
【図2】本発明の実施形態に係る回路図。
【図3】第1の従来例に係る回路図。
【図4】第2の従来例に係る回路図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においてはI/O端子あるいは入出力端子という語句はいわゆる入出力端子だけではなく、入力のみの端子および出力のみの端子も含むものとして使用する。
【0016】
図2は、本発明の実施形態に係る回路図である。実施例では、接地端子11とI/O端子10(入出力端子とも呼ぶ)の間にESDの過電流ノイズを保護するESD保護素子として、例えばNチャネルオフMOS型電界効果トランジスタ13を配置して、ドレインをI/O端子10に接続し、ソースとゲートとバックゲートを接地端子11に接続する。更に、ラッチアップ試験の過電流ノイズから保護するラッチアップ保護素子として、ベース接地電流利得率α0が0.5〜1.0になるような、例えばpnpバイポーラトランジスタ12を配置して、エミッタをI/O端子10にコレクタを接地端子11に、ベースを電源端子9に接続する。
【0017】
上記pnpバイポーラトランジスタ12の実施例の断面図を図1に示す。pnpバイポーラトランジスタ100は、以下のような構成である。例えば、抵抗が20〜30ΩcmのP型シリコン基板1に、P型埋め込みコレクタ領域7を表面から5〜6um程度の深さ位置から下方に8um程度の厚みに、不純物は例えばボロンとして1×1016cm-3程度に形成する。次いで、P型埋め込みコレクタ領域7上に低濃度のN型ウェルベース領域4を厚み6um程度、不純物は例えばリンとして濃度は1×1016cm-3程度に形成し、次いで、低濃度のN型ウェルベース領域4に接してN型ウェルベース領域4を囲むように、低濃度のP型ウェルコレクタ領域3を厚み10um程度、不純物は例えばボロンとして濃度は1×1016cm-3程度に形成する。次いで、低濃度のN型ウェルベース領域4内に、レジストパターンをマスクとしたイオン注入により、P型高濃度エミッタ領域2を深さ0.4um、不純物は例えばボロンとして1×1020cm-3程度に形成し、更に低濃度のN型ウェルベース領域4内に、レジストパターンをマスクとしたイオン注入により、N型高濃度ベース領域6を深さ0.4um、不純物は例えばリンとして1×1020cm-3程度に形成し、更に低濃度のP型ウェルコレクタ領域3内に、レジストパターンをマスクとしたイオン注入により、P型高濃度コレクタ領域5を深さ0.4um、不純物は例えばリンとして1×1020cm-3程度に形成する。
【0018】
P型埋め込みコレクタ領域7を設けることにより、エミッタ−コレクタ間距離8を例えば5um程度に設定することにより、P型高濃度エミッタ領域2から注入された正孔のうち、N型ウェルベース領域4を通過して、P型埋め込みコレクタ領域7に到達し、P型ウェルコレクタ領域3を通ってP型高濃度コレクタ領域5にたどり着く正孔の割合が増え、結果としてベース接地電流利得率α0が0.5〜1.0となるpnpバイポーラトランジスタ100を得ることができる。図2において、上記のような構造のベース接地電流利得率α0が0.5〜1.0のpnpバイポーラトランジスタ12を用いれば、I/O端子10から電源端子9に流れる電流が減るので、電源端子9からpnpバイポーラトランジスタ12のエミッタに接続する配線の太さを小さくすることができ、配線の配置の自由度の向上とチップ面積の縮小を図ることができる。
【0019】
以上は、I/O端子と接地端子との間にMOS電界効果トランジスタ、I/O端子と電源端子との間にバイポーラトランジスタを設けた例で説明したが、I/O端子と接地端子との間にはMOS電界効果トランジスタ以外の半導体素子をESD保護素子として配置しても良い。ESD保護素子がダイオードやサイリスタの場合にはI/O端子にダイオードのアノードを接続し、接地端子にカソードを接続し、I/O端子と電源端子との間にバイポーラトランジスタを設けることで同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0020】
1 P型シリコン基板
2 P型高濃度エミッタ領域
3 P型ウェルコレクタ領域
4 N型ウェルベース領域
5 P型高濃度コレクタ領域
6 N型高濃度ベース領域
7 P型埋め込みコレクタ領域
8 エミッタ−コレクタ間距離
9 電源端子
10 I/O端子
11 接地端子
12 pnpバイポーラトランジスタ
13 NチャネルオフMOS型電界効果トランジスタ
100 pnpバイポーラトランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板の表面に配置され、入出力端子と接地端子の間に接続されたESD保護素子と、
前記半導体基板の表面に配置され、エミッタを前記入出力端子に、ベースを電源端子に、コレクタを前記接地端子に接続したバイポーラトランジスタと、を有し、
前記バイポーラトランジスタのベース接地電流利得率が0.5〜1.0である静電気保護用半導体装置。
【請求項2】
前記バイポーラトランジスタは、
第1導電型の前記半導体基板上に設けられた第2導電型の第1の低濃度ウェル領域と、
前記第1の低濃度ウェル領域の下に設けられた第1導電型の埋め込み領域と、
前記第1の低濃度ウェル領域の表面に設けられた第1の第1導電型高濃度領域と、
前記第1の低濃度ウェル領域の表面に前記第1の第1導電型高濃度領域と離間し、前記第1の第1導電型高濃度領域を囲んで設けられた第2導電型高濃度領域と、
前記第1の低濃度ウェル領域に接し、前記第1の低濃度ウェル領域を囲んで設けられた第1導電型の第2の低濃度ウェル領域と、
前記第2の低濃度ウェル領域の表面に設けられた第2の第1導電型高濃度領域と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の静電保護用半導体装置。
【請求項3】
前記ESD保護素子は、アノードが前記入出力端子に接続され、カソードが前記接地端子に接続された保護ダイオードである請求項1あるいは2に記載の静電気保護用半導体装置。
【請求項4】
前記ESD保護素子は、ドレインが前記入出力端子に接続され、ソースとゲートとバックゲートが前記接地端子に接続されたMOSトランジスタである請求項1あるいは2に記載の静電気保護用半導体装置。
【請求項5】
前記ESD保護素子は、アノードが前記入出力端子に接続され、カソードが前記接地端子に接続されたサイリスタである請求項1あるいは2に記載の静電気保護用半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−66244(P2011−66244A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216243(P2009−216243)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】