説明

高い誘電率を有するパイロクロール構造のセラミック酸化物材料を形成するプロセスおよびマイクロエレクトロニクス用途のためのこのプロセスの実施

【課題】電子部品の誘電材料として機能し得るセラミック酸化物材料を形成するプロセスにおいて、周囲の部品を劣化させるような温度を用いることなく、高い誘電率および低い誘電正接を有する材料を得ることができるプロセスを提供すること。
【解決手段】本発明のプロセスは、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料を形成するプロセスであって、a)該鉛ベースのセラミック酸化物材料の少なくとも1つの非晶層を基板上に堆積させる工程と;b)550℃を超えない温度で該非晶層に施され、それにより、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料が得られる、結晶化アニール工程と;を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイロクロール構造を有する鉛ベースのセラミック酸化物材料を形成するプロセスに関し、この材料は、有利なことには、0.015以下の誘電損失および40以上の誘電率を有する。
【0002】
このプロセスは、具体的には、受動部品の製造、特に単位面積当たりで大量の電荷を蓄え得る誘電部分を有するコンデンサーの設計に適用され得る。これらの部品は集積回路表面に配置され得、したがって、「above IC」アプローチに対応する。このプロセスはまた、「stand-alone」部品(すなわち、関連する集積回路の基板とは別個の基板上で製造される部品に対応する)の製造にも適用され得る。
【背景技術】
【0003】
マイクロエレクトロニクス分野においては、現在、電子デバイス、特にその誘電部分を、その電気的特性を維持しつつ最小化するという要望がある。
【0004】
誘電材料の電気的特性は、以下の量により表され得る:
− 誘電材料の比誘電率(通常、εで表される)、これは、いわば材料の絶縁特性を表す;
− 誘電正接(通常、tanδで表される)、これは、正弦波交流電圧に供される絶縁材料については、無効電力の絶対値に対する吸収された有効電力の比を表す;および
− Q値、これは上記誘電正接の逆数に対応する。
【0005】
集積回路に含まれるよう設計された容量性デバイスについては、誘電率は理想的には高くなければならず(例えば、40以上)、誘電正接は低くなければならず(例えば、2%未満)、これらの特性は、必然的に、使用される誘電材料の性質に由来する。
【0006】
集積回路において現在最も一般的に用いられる誘電材料は、酸化ケイ素SiOである。しかし、この誘電材料には、多くの欠点がある。中でも、誘電率が約3.9と低いことが挙げられる。回路が正常に作動するのに必要な容量値を得るためには、誘電材料として酸化ケイ素を用いるコンデンサーは、比較的低い誘電率を補償するために非常に大きな面積と非常に小さな厚みを有さなければならない。これは、集積回路において高密度の静電容量部品を得るという要求と相容れない。さらに、SiO層の厚みを小さくすることにより、高いトンネル電流が発現し得、これはコンデンサーが含まれる集積回路の正常な動作に悪影響を与える。したがって、酸化ケイ素SiOよりも高い誘電率を有する誘電材料が開発されなければならない。
【0007】
したがって、いくつかの著者は、他の誘電材料、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛材料(PZT材料として知られている)のようなペロブスカイト系に結晶化したセラミック酸化物材料を用いている。
【0008】
これらの材料は、有利なことには非常に高い誘電率(1000の桁)を有するが、誘電損失も大きい(約0.02〜0.05)。これは、ある種のマイクロエレクトロニクス用途においては問題となり得る。
【0009】
また、いくつかの著者は、例えば以下の組成を有する材料のような、パイロクロール系に結晶化したセラミック酸化物材料を製造している:(Bi3XZn2−3X)(ZnNb2−X)O(特許文献1)および(BaSr1−X(TaNb1−y(特許文献2)。しかし、このような材料の形成には、550℃を超える温度での作業が要求されることが多い。このような温度は、特に上記材料が集積回路上で製造されることが意図される場合には有害であり得、このような温度レベルは周囲の部品および相互接続を劣化させる可能性がある。
【0010】
したがって、電子部品(例えば、集積回路に組み込まれるコンデンサー)において誘電材料として機能し得るセラミック酸化物材料を形成するプロセスであって、周囲の部品を劣化させ得るような温度を用いる必要がなく、高い誘電率および低い誘電正接を少なくとも有する材料を得ることができるプロセスが、切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6482527号
【特許文献2】米国特許第6495878号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、特定のベース材料から出発し特定のアニール温度範囲で作業することにより、パイロクロール系に結晶化し、特に有利な誘電特性(例えば、高い誘電率および低い熱拡散定数)を有する材料が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明の主題は、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料を形成するプロセスであって、
a)該鉛ベースのセラミック酸化物材料の少なくとも1つの非晶層を基板上に堆積させる工程と;
b)550℃を超えない温度で該非晶層に施され、それにより、少なくとも1つのパイロクロール相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料が得られる、結晶化アニール工程と
を含む、プロセスである。
【0014】
有利なことには、上記結晶化アニールは、上記非晶層において、450℃を超えない温度で、好ましくは400〜450℃の範囲の温度で行われる。
【0015】
上記工程a)および工程b)は、連続的に行われてもよく、同時に行われてもよい。
【発明の効果】
【0016】
したがって、本発明者らは、驚くべきことに、550℃を超えない温度での結晶化アニール工程を鉛ベースの非晶性セラミック酸化物材料に適用することにより、該材料の全部又は一部をパイロクロール系に結晶化することができること、さらに、この材料の特に有利な誘電特性、すなわち、高い(有利なことには40を超える)誘電率、ならびに、低い(有利なことには0.015未満の)誘電正接および有利なことには800kV/cm以上の誘電強度を得ることができることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のプロセスによって製造されたコンデンサーの断面図である。
【図2】下記実施例に記載のプロトコルにしたがって得られた0.9Pb(Mg1/3Nb2/3)O−0.1PbTiOの組成式を有するセラミック酸化物材料の層のX線回折パターン(角度2θ(°)の関数としてプロットされた強度I(原子単位a.u.))である(曲線a、b、cおよびdは、それぞれ、アニール温度400、450、500および550℃に対応する)。
【図3】下記実施例に記載のプロトコルにしたがって得られた0.9Pb(Mg1/3Nb2/3)O−0.1PbTiOの組成式を有するセラミック酸化物材料の層についての、種々のアニール温度T(℃)(室温、300、350、400、450、500および550℃)における比誘電率εおよび誘電正接tanδの変化を示すグラフである。
【図4】下記実施例に記載のプロトコルにしたがい、450℃の温度でアニールされて得られた0.9Pb(Mg1/3Nb2/3)O−0.1PbTiOの組成式を有するセラミック酸化物材料の層について、DCバイアス(V)(−6Vから+6Vの範囲)の関数としての比誘電率εおよび誘電正接tanδを示すグラフである。
【図5】本発明の方法によって製造されたコンデンサーの1つの実施形態の断面図である。
【図6】本発明の方法によって製造されたコンデンサーの1つの実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
用語「パイロクロール系」とは、一般的には、AまたはA型の結晶構造を意味するものとして理解されることに留意すべきである。ここで、Aは鉛であり、BはNb、Mg、Tiおよびこれらの混合物であり得、この系は、具体的には、1つの特定の場合について、図2に示すX線回折パターンにおけるピークP1およびP2の存在により特徴付けられる。
【0019】
本発明のプロセスにより製造され得る少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含むセラミック酸化物材料は、ニオブ酸鉛(PN)層、ニオブ酸鉛マグネシウム(PMN)層、および、ニオブ酸鉛マグネシウムとチタン酸鉛との混合物(PMNT)から得られる固溶体の層であり得る。具体的には、本発明のプロセスにより調製されるパイロクロール構造を有するセラミック酸化物層は、下記の組成式を満足するPMNT層である:
(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O − xPbTiO
ここで、xは0〜1の範囲であり、1は含まれず、特に、xは0.1であり得る。
【0020】
上記基板に非晶性セラミック酸化物材料の層を堆積させる工程a)は、以下から選択される技術により行われる:
− 物理蒸着(PVD)技術;
− 化学蒸着(CVD)技術;および
− 溶液蒸着技術。
【0021】
物理蒸着技術は、以下の2つのサブグループにさらに分割され得る:
− 真空蒸着PVD技術;および
− スパッタリングPVD技術。
【0022】
真空蒸着技術においては、堆積することを意図される材料は、真空下で加熱される。気化させられる当該材料の原子は、これらの原子の結合エネルギーを超える十分な熱エネルギーを受け、その結果、気化する。次いで、蒸気状態の材料原子は、被覆される基板上で固化(condense)する。上記材料を加熱する種々の方法が想定され得る。中でも、電子衝撃加熱、抵抗加熱、アーク加熱、誘導加熱、イオンビーム加熱およびレーザーアブレーション加熱を挙げることができる(後者の場合における堆積はPLDとして知られている)。
【0023】
スパッタリング蒸着技術は、堆積させる材料(ターゲットと称される)の表面にアルゴンイオンのようなエネルギー性粒子(機械的効果によって生成された蒸気)を衝突させることにより、この表面から粒子を放出することからなる。当該粒子は、プラズマまたはイオン源からのものであり得る。具体的には、イオンビームスパッタリング(すなわちIBS)を挙げることができる。
【0024】
有利なことには、本発明の蒸着技術は、特定のスパッタリング蒸着技術、すなわちマグネトロンスパッタリングにより行われ得る。
【0025】
通常、マグネトロンスパッタリングは、逆極性の2つの同心磁石からなるマグネトロン装置をターゲットに提供することからなる。極片が一方の磁気回路を閉じ、これに対して、ターゲットは非磁性材料であり、その結果、マグネトロン効果が得られる。すなわち、磁力線(field lines)にガス相で回路を完成させ、これは二次電子を捕捉する効果を有し、したがってイオン化相互作用の場合に二次電子がプラズマガス原子(例えば、アルゴン原子)に出会う確率を増大させる。次いで、磁石間のギャップに高密度プラズマが発生し、このプラズマは、ターゲットと接触すると当該ターゲットを侵食し、当該ターゲット材料を基板に堆積し得る粒子に変換する。
【0026】
有利なことには、この技術を採用すると、マグネトロンスパッタリングに由来するイオン衝撃による加熱は別として、基板は加熱工程に供されない。
【0027】
このタイプの技術を用いる例を示すと、ターゲットは0.9Pb(Mg1/3Nb2/3)O−0.1PbTiOの組成式を有するセラミックであり得、用いられるプラズマガスはアルゴンであり得る。
【0028】
CVD技術は、接触する成分の間で化学反応が起きる場合にガス状態から固体状態に変化する材料を基板表面に堆積させることからなる。当該成分(互いに反応することにより堆積されるべきセラミック酸化物を形成する)は、ガス(例えば、水素および二酸化炭素)が存在する金属塩化物または有機金属化合物であり得る。
【0029】
上記技術が有機金属化合物を含む場合、当該技術は通常MOCVD(有機金属化学蒸着)と称される。
【0030】
最後に、溶液蒸着技術は、ゾル−ゲル技術を含む。ゾル−ゲル技術は、金属前駆体を溶液中で混合することにより酸化物を調製すること、次いで、当該溶液を基板に堆積することからなる。
【0031】
特に、形成されるセラミック酸化物が上記のようなPMNTタイプの1つに対応する場合には、溶液は以下の前駆体から形成され得る:酢酸鉛・三水和物、酢酸マグネシウム、ニオブエトキシドおよびチタンイソプロポキシド。より詳細には、この溶液の形成は、最初に酢酸鉛および酢酸マグネシウムと2−メトキシエタノールとを混合することを含み、次いで、当該混合物は環流しながら100℃で1時間加熱される。次いで、残留水(具体的には、酢酸鉛前駆体由来である)が、125℃で蒸留することにより除去される。室温まで冷却した後、チタンイソプロポキシドおよびニオブエトキシドが、アルゴン流下で上記溶液に添加される。得られる溶液の濃度は、より多くの溶媒を加える(当該濃度を減少させる)か、溶媒のいくらかを蒸留する(当該濃度を増大させる)かによって調整され得る。このようにして得られるものは、「母液(原液とも称される)」と称される溶液である。
【0032】
得られたゾル−ゲル溶液は、次いで、以下の技術により堆積され得る:
− ディップコーティング;
− スピンコーティング;
− 層流コーティングまたはメニスカスコーティング;
− スプレーコーティング;
− 浸透コーティング;
− ロールコーティングまたはロールトゥロールコーティング;
− はけ塗り;および
− スクリーン印刷。
【0033】
有利なことには、上記ゾル−ゲル溶液は、スピンコーティングにより堆積され、それにより、堆積層の厚みを正確に制御することができる。
【0034】
堆積工程が行われ得る方法とは独立して、基板は、その全体または一部が、金属製(例えば、白金またはルテニウムを含む基板)のような導電性であり得る。基板はまた、シリコン(酸化されていてもよい)、サファイア、導電性の相互接続を有する半導体材料、導電性セラミックまたは誘電材料から選択される材料で構成され得る。基板は電気絶縁性であってもよい。
【0035】
堆積工程が一旦完了すると、550℃を超えない温度、有利なことには400〜450℃の範囲の温度まで上記で堆積された層を加熱することにより、当該層上で結晶化アニール工程が行われる。当該工程後、上記層は、少なくとも一部にパイロクロール結晶相を含む。
【0036】
したがって、上記プロセスの後、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物材料が、フィルム形態で得られる。このフィルムは、0.01〜1μmの範囲、例えば40〜110nmの範囲の厚みを有し得、および、以下の電気的特性の少なくとも1つを有し得る:
− 40以上の比誘電率;および
− 0.015以下の誘電正接。
【0037】
上記結晶化アニール工程が550℃を超えない温度で行われるので、特に集積回路(例えば、CMOS回路)の製造用に意図されるコンデンサーの作製にこのプロセスを用いることができる。これらのCMOS回路は、550℃または場合によっては450℃の最高製造温度を要求し、その結果、金属相互接続の一体性を保持する。したがって、本発明のプロセスは、上ですでに定義した「above IC」アプローチと称されるものにおいて特に有利である。
【0038】
本発明のプロセスをstand-alone部品(その下側に集積回路が存在しない回路である)の製造に用いることができる。つまり、集積回路および受動部品の製造が、2つの異なる基板上で行われる。したがって、受動部品を製造するための集積回路に起因する熱的制限が存在しない。
【0039】
すなわち、本発明の別の主題は、コンデンサー、特に集積回路の上方に配置されるコンデンサーを形成するプロセスであって、
− 上記のプロセスを実施する工程であって、基板が酸化物材料の層と接触する上側部分において少なくとも導電性であり、したがって当該部分が下側電極を構成し、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む当該酸化物材料の層が誘電領域を構成する、工程と;
− 該酸化物材料の層の該基板と接触する表面とは反対側の表面に導電層、例えば白金のような金属製の層を堆積し、上側電極を構成する工程と
を含む、プロセスである。
【0040】
この状況においては、上記基板の上側部分は、有利なことには、白金のような金属からなり、下側電極を構成し得る。
【0041】
このようなコンデンサーは、図5に示すように、
− 基板13、導電性であり、したがって当該基板の上側部分15はコンデンサーの下側電極を形成する;
− 本発明のプロセスにより得られたパイロクロール相を有する酸化物材料の層17;および
− 該酸化物材料の層上に堆積され、したがってコンデンサーの上側電極を形成する導電層19
を含む。
【0042】
別の実施形態によれば、本発明の主題はまた、コンデンサー、特に集積回路の上方に配置されるコンデンサーを形成するプロセスであって、
− 上記のプロセスを実施する工程であって、基板が酸化物材料の層と接触する上側部分において少なくとも電気絶縁性であり、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む酸化物材料の該層が誘電領域を構成する、工程と;
− 該酸化物材料の層の該基板と接触する表面とは反対側の表面に2つの別個の導電層、例えば白金のような金属製の層を堆積し、2つの別個の電極を形成し、これらがコンデンサーの動作中に逆極性を有する2つの電極を構成する工程と
を含む、プロセスである。
【0043】
このようなコンデンサーは、図6に示すように、
− 基板21;
− 本発明のプロセスにより得られた、パイロクロール相を有する酸化物材料の層23;および
− 該酸化物材料の層上に堆積されて2つの異なる電極を形成する、2つの異なる導電層25、27
を含む。
【0044】
得られるコンデンサーは金属−絶縁物−金属(MIM)型コンデンサーであり、低周波または無線周波数領域で使用され得る。
【0045】
コンデンサーの作製という文脈においては、上記導電性基板は、シリコン層、シリカSiO層、ならびにチタンまたは二酸化チタン層(この層はシリカ上の導電性基板への結合層として機能する)を順に有する多層積層体上にあらかじめ堆積され得る。シリカ層自体は、上層とシリコンとの間の通常の拡散バリアを構成する。
【0046】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。これらの実施例は非限定的な説明である。
【0047】
(実施例)
− シリコンウェハ1;
− 厚み約0.5μmのシリカSiO層3;
− 厚み約20nmの二酸化チタンTiO層5;および
− 厚み約100nmの白金Pt層7
を有する、図1に示すような多層積層体に、15%過剰のMgOを有し、0.9Pb(Mg1/3Nb2/3)O−0.1PbTiOの組成式を有する非晶性セラミック酸化物層9を、プラズマガスとしてアルゴンを用いるマグネトロンスパッタリングにより堆積した(スパッタリングターゲットは、米国のSuper Conductor Materials, Inc.から購入した)。
【0048】
次いで、得られた多層積層体を、通常の空気オーブン内で、室温から300、350、400、450℃、500および550℃までの種々のアニール温度で加熱した。
【0049】
セラミック酸化物層の厚みは、約50nmであった。
【0050】
堆積されたセラミック酸化物層の電気的特性および誘電特性を決定するために、直径110μmの環状白金電極11を、DCスパッタリングとリソグラフィーとを組み合わせた方法により上記層表面に堆積した。
【0051】
Agilent B1500A分析器およびHP 4194インピーダンス分析器を用いて、誘電特性および電気的特性を室温で測定した。
【0052】
図2は、得られたセラミック酸化物層についての、結晶化アニール温度が400、450、500および550℃(曲線a、b、cおよびd)の場合のそれぞれのX線回折パターンを示す。これらの曲線は、このようなアニール温度についてパイロクロール相の存在を示し(図2のピークP1およびP2)、450℃のアニール温度についてパイロクロール相の割合がより高いことを示す。
【0053】
次いで、上記で形成されたセラミック酸化物層について、種々のアニール温度(室温、300℃、350℃、400℃、450℃、500および550℃)で、比誘電率ε(曲線a)および誘電正接tanδ(曲線b)を周波数10kHzで測定した。測定値は、図3にプロットされている。
【0054】
この図は、400℃を超えると比誘電率(曲線a)が顕著に増大することを示す。
【0055】
比誘電率および誘電正接はまた、450℃の温度でアニールされたセラミック酸化物層についてのDCバイアス電圧の関数として、上に記載したようにして測定した。これらの測定は、図4にプロットされている。
【0056】
比誘電率は、バイアス電圧の範囲の大部分にわたって増大していることが見て取れ(曲線a)、DCバイアス電圧の関数としての容量の負変動を示している。
【0057】
誘電正接に関しては、バイアス電圧範囲全体にわたって0.02より小さい値を維持している(曲線b)。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料を形成するプロセスであって、
a)該鉛ベースのセラミック酸化物材料の少なくとも1つの非晶層を基板上に堆積させる工程と;
b)550℃を超えない温度で該非晶層に施され、それにより、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料が得られる、結晶化アニール工程と
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料が、ニオブ酸鉛、ニオブ酸鉛マグネシウム、および、ニオブ酸鉛マグネシウムとチタン酸鉛との混合物から得られる固溶体から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料が、下記の組成式を満足し得るニオブ酸鉛マグネシウムとチタン酸鉛との混合物から得られる固溶体である、請求項2に記載のプロセス:
(1−x)Pb(Mg1/3Nb2/3)O − xPbTiO
ここで、xは0〜1(1は含まれない)の範囲である。
【請求項4】
前記堆積工程a)が、物理蒸着(PVD)工程、化学蒸着(CVD)技術またはゾル−ゲル蒸着技術により行われる、請求項1から3のいずれかに記載のプロセス。
【請求項5】
前記物理蒸着技術が、真空蒸着またはスパッタリング技術である、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記堆積工程a)が、マグネトロンスパッタリングにより行われる、請求項1から5のいずれかに記載のプロセス。
【請求項7】
前記基板の全部または一部が導電性である、請求項1から6のいずれかに記載のプロセス。
【請求項8】
前記基板が、白金またはルテニウムを含む、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記結晶化アニール工程b)が、450℃を超えない温度で行われる、請求項1から8のいずれかに記載のプロセス。
【請求項10】
前記結晶化アニール工程b)が、400〜450℃の範囲の温度で行われる、請求項1から9のいずれかに記載のプロセス。
【請求項11】
前記工程a)および工程b)が、連続的に、または同時に行われる、請求項1から10のいずれかに記載のプロセス。
【請求項12】
前記少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料が、0.01〜1μmの範囲の厚みを有するフィルム形態である、請求項1から11のいずれかに記載のプロセス。
【請求項13】
前記少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む鉛ベースのセラミック酸化物誘電材料が、以下の電気的特性の少なくとも1つを有する、請求項1から12のいずれかに記載のプロセス:
− 40以上の比誘電率;および
− 0.015以下の誘電正接。
【請求項14】
コンデンサー、特に集積回路上に配置されるコンデンサーを形成するプロセスであって、
− 請求項1から13のいずれかに記載のプロセスを実施する工程であって、基板が少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む酸化物材料の層と接触する上側部分において少なくとも導電性であり、該部分が下側電極を構成し、該少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む酸化物材料の層が誘電領域を構成する、工程と;
− 該酸化物材料の層の該基板と接触する表面とは反対側の表面に導電層を堆積し、上側電極を構成する工程と
を含む、プロセス。
【請求項15】
コンデンサー、特に集積回路の上方に配置されるコンデンサーを形成するプロセスであって、
− 請求項1から13のいずれかに記載のプロセスを実施する工程であって、基板が酸化物材料の層と接触する上側部分において少なくとも電気絶縁性であり、少なくとも1つのパイロクロール結晶相を含む酸化物材料の該層が誘電領域を構成する、工程と;
− 該酸化物材料の層の該基板と接触する表面とは反対側の表面に2つの別個の導電層を堆積し、2つの別個の電極を形成する工程と
を含む、プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−77020(P2010−77020A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−216780(P2009−216780)
【出願日】平成21年9月18日(2009.9.18)
【出願人】(502124444)コミッサリア タ レネルジー アトミーク (383)
【Fターム(参考)】