説明

Al−Ni−B合金配線材料及びそれを用いた素子構造

【課題】 薄膜トランジスタや透明電極層を備える表示デバイスにおいて、ITOやIZOなどの透明電極層との直接接合が可能であるとともに、n−Siなどの半導体層とも直接接合が可能なAl系合金配線材料を提供する。
【解決手段】 Al−Ni−B合金配線材料において、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%、ボロンの含有量を原子百分率Yat%とした場合、式0.5≦X≦10.0、0.05≦Y≦11.0、Y+0.25X≧1.0、Y+1.15X≦11.5の各式を満足する領域の範囲内にあり、残部がアルミニウムであるAl−Ni−B合金配線材料とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、液晶ディスプレイなどの表示デバイスの素子に用いられるAl系合金配線材料に関し、特に、薄膜トランジスタや透明電極を備える表示デバイスに好適なAl−Ni−B合金の配線材料及びそれを用いた素子構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイに代表される薄型テレビなどの表示デバイスには、その構成材料としてアルミニウム(以下、単にAlと記載する場合がある)系合金の配線材料が広く普及している。この理由は、Al系合金配線材料の比抵抗値が低く、配線加工が容易な特性を有することによる。
【0003】
例えば、アクティブマトリックスタイプの液晶ディスプレイの場合、スイッチング素子としての薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下、TFTと略称する)や、ITO(Indium Tin Oxide)或いはIZO(Indium Zinc Oxide)などの透明電極(以下、透明電極層と称する場合がある)と、Al系合金配線材料より形成された配線回路(以下、配線回路層と称する場合がある)とから素子が構成される。このような素子構造では、Al系合金配線材料による配線回路を、透明電極と接合させる部分やTFT内におけるn−Si(リンドープの半導体層)と接合させる部分が存在する。
【0004】
現在使用されているAl系合金配線材料では、上述のような素子を構成する場合、Al系合金配線材料に形成されるアルミニウム酸化物の影響を考慮し、配線回路と透明電極との間に、モリブデン(Mo)やチタニウム(Ti)などの高融点金属材料を、いわゆるキャップ層として形成している。また、n−Siのような半導体層と配線回路との接合においては、製造工程中の熱プロセスにより、AlとSiとが相互拡散することを防止すべく、半導体層と配線回路との間に、上記キャップ層と同じモリブデン(Mo)やチタニウム(Ti)などの高融点金属材料を介在させるようにしている。
【0005】
図1を参照しながら、上記した素子構造について具体的に説明する。図1には、液晶ディスプレイに関するa−SiタイプのTFT断面概略図を示している。このTFT構造では、ガラス基板1上に、ゲート電極部Gを構成するAl系合金配線材料からなる電極配線回路層2と、MoやMo−Wなどからなるキャップ層3とが形成されている。そして、このゲート電極部Gには、その保護としてSiNxのゲート絶縁膜4が設けられている。また、このゲート絶縁膜4上には、a−Si半導体層5、チャネル保護膜層6、n−Si半導体層7、キャップ層3、電極配線回路層2、キャップ層3が順次堆積され、適宜パターン形成されることにより、ドレイン電極部Dとソース電極部Sとが設けられる。このドレイン電極部Dとソース電極部Sとの上には、素子の表面平坦化用樹脂またはSiNxの絶縁膜4’が被覆される。さらに、ソース電極部S側には、絶縁層4’にコンタクトホールCHが設けられ、その部分にITOやIZOの透明電極層7’が形成される。このような電極配線回路層2にAl系合金配線材料を用いる場合では、n−Si半導体層7と電極配線層2との間やコンタクトホールCHにおける透明電極層7’と電極配線層2との間に、キャップ層3を介在させる構造となっている。
【0006】
この図1に示す素子構造では、Moなどのキャップ層を形成するため、材料や製造設備などのコストアップは避けられず、製造工程の複雑化が指摘されていた。そのため、本願出願人は、このような従来の素子構造におけるキャップ層の省略を可能とする技術を既に提案している(特許文献1参照)。この特許文献1では、ITOとの直接接合が可能となる、Al−C−Ni合金やAl−C−Ni−Si合金の配線材料を開示した。
【特許文献1】特開2003−89864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1のAl系合金配線材料では、ITOやIZOなどの透明電極層との直接接合は可能となるものではあるが、n−Siなどの半導体層と直接接合させる場合にあっては十分に満足できる特性を備えるものではなかった。例えば、Al系合金配線材料からなる配線回路層と半導体層とを直接接合した際に、接合界面においてAlとSiとの拡散現象などが生じ、接合特性を満足できない傾向を示すことがあった。
【0008】
より具体的には、図1で示した素子構造のキャップ層を省略した場合には、次のような特性を満足するAl系合金配線材料が要求される。図1の素子構造におけるゲート電極Gの電極配線回路層2については、図示はないが引き出し配線部分でITOなどの透明電極層との直接接合が可能である必要があり、望ましくは350℃以上の耐熱性を満足することが要求される。その理由は、ゲート電極Gの上に形成するゲート絶縁膜を形成する際に、高温の熱履歴が加わるため、350℃以上の温度においても、電極配線回路層がヒロックなどの欠陥を生じないような耐熱性が必要となるからである。また、図1の素子構造におけるドレイン電極部Dやソース電極部Sの電極配線回路層2については、ITOなどの透明電極層との直接接合が可能であり、且つ、n−Siなどの半導体層との直接接合が可能であることが要求される。このn−Siなどの半導体層との直接接合では、200℃以上の熱履歴が加わってもAlとSiとの拡散現象などが生じないことが必要とされる。そして、このドレイン電極部Dやソース電極部Sの電極配線回路層2では、250℃程度の熱履歴が加わっても、ヒロックなどの欠陥を生じない耐熱性も要求される。さらに、ゲート電極部G、ドレイン電極部D、ソース電極部S、その他の配線部分を形成するAl系合金配線材料には、当然に、比抵抗が低い特性、即ち、10μΩ・cm以下、望ましくは5μΩ・cm以下の比抵抗値を満足することが要求されるのである。つまり、このような要求特性をすべからく満足するAl系合金配線材料が切望されているのが現状である。
【0009】
また、従来のAl系合金配線材料では、配線回路中に金属間化合物などの析出物が存在し、この析出物の存在により透明電極層(画素電極)との直接接合が可能となることが推測されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、Al系合金配線材料により形成した配線回路中の析出物が、どのような分散状態であるときに直接接合に影響をするのかは、本願発明者等の知る限りでは明確に解明されてはいない。そのため、より理想的な直接接合を実現するために、このAl系合金配線材料における析出物に関しても、さらなる現象解明を要求されているのが現状である。
【特許文献2】特開2004−214606号公報
【0010】
そして、従来のAl系合金配線材料においては、配線回路を形成する際にスパッタリングにより成膜したAl系合金膜の表面がかなり荒れた状態になることが知られている。このような荒れた表面状態においては、そのAl系合金膜上に、透明電極層や半導体層などを直接積層した場合、その積層する材料によるカバレッジが良好に行えないこと、すなわち、表面凹凸の凹部分に積層される材料で完全に被覆できないことが懸念されている。そのため、配線回路を形成するAl系合金膜の表面状態を平滑にする技術についても更なる検討が要求されている。
【0011】
本願発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、薄膜トランジスタや透明電極層を備える表示デバイスにおいて、ITOやIZOなどの透明電極層との直接接合が可能であるとともに、n−Siなどの半導体層と直接接合が可能なAl系合金配線材料を提供するものである。そして、Al系合金配線材料により形成された配線回路層が、透明電極層或いは半導体層と直接接合された構造を有する表示デバイスの素子に関し、直接接合した際のコンタクト抵抗値の増加や接合不良を生じさせることのない、表示デバイスの素子構造を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者等は、Al−Ni系合金に関して鋭意検討したところ、Al−Ni合金に、所定量のボロン(B)を含有させることにより上記課題が解決できることを見出し、本願発明を想到するに至った。
【0013】
本願発明は、アルミニウムにニッケル及びボロンを含有したAl−Ni−B合金配線材料において、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、ボロン含有量を原子百分率Yat%とした場合、
式 0.5≦X≦10.0・・・・・・(1)
0.05≦Y≦11.0・・・・・(2)
Y+0.25X≧1.0・・・・・(3)
Y+1.15X≦11.5・・・・(4)
の各式を満足する領域の範囲内にあり、残部がアルミニウムであるAl−Ni−B合金配線材料である。尚、本願発明におけるAl−Ni−B合金配線材料は、以下に述べる本願発明の奏する効果を逸脱しない範囲において、例えば、材料製造工程或いは配線回路形成工程や素子製造工程などで混入する可能性のあるガス成分やその他の不可避不純物の混入を妨げるものではない。
【0014】
ニッケルは、熱処理によりアルミニウムとの金属間化合物を形成し、透明電極層との直接接合における接合特性を良好にする作用を有する。但し、ニッケル含有量が多くなると、配線回路自体の比抵抗が高くなり実用的でなくなる。また、ニッケル含有量が少ないと、アルミニウムとの金属間化合物の生成量が減少し、透明電極層との直接接合ができなくなり、耐熱性(熱によるAl系合金配線材料の塑性変形発生に対する抑止作用)も低下する傾向となる。これらのことからニッケル含有量は上記(1)式を満足する必要がある。
【0015】
具体的には、ニッケル含有量が10.0at%を超えると、配線材料の比抵抗値が大きくなりすぎるとともに、ディンプルと呼ばれる窪み状の欠陥が配線材料表面に形成され易く、耐熱性を確保できなくなる傾向とある。また、0.5at%未満であると、いわゆるヒロックと呼ばれる突起物が配線材料表面に形成され易くなり、耐熱性を確保できなくなる傾向となる。このディンプルとは、Al系合金配線材料を熱処理した際に生じる応力ひずみによって材料表面に形成される微小な窪み状の欠陥のことをいい、このディンプルが発生すると、接合特性に悪影響を与え、接合信頼性が低下する。一方、ヒロックとは、ディンプルとは逆に、Al系合金配線材料を熱処理した際に生じる応力ひずみによって材料表面に形成される突起物であるが、このヒロックが発生しても、接合特性に悪影響を与え、接合信頼性が低下する。このディンプルとヒロックとは、熱によるAl系合金配線材料の塑性変形である点で共通するものであり、総称してストレスマイグレーションと呼ばれる現象で、これらの欠陥の発生レベルによりAl系合金配線材料の耐熱性を判断することができる。
【0016】
そして、本願発明のように、アルミニウムに、ニッケルに加えてボロンを含有させると、n−Siなどの半導体層と直接接合をした際に、接合界面におけるAlとSiとの相互拡散を効果的に防止する作用を奏する。また、このボロンは、ニッケルと同様に耐熱性にも作用する。ボロンは、11.00at%を超える含有量であると配線回路自体の比抵抗が高くなり実用的でなくなる。逆に、0.05at%未満の含有量であると、AlとSiとの相互拡散の防止能力が低下し、半導体層との直接接合ができなくなる。具体的には、半導体層とAl−Ni−B合金配線材料を直接接合し、所定温度で熱処理した際に、接合部分においてAlとSiとの相互拡散が生じ易くなるのである。さらに加えて、ディンプルも発生し易い傾向となる。そのため、ボロンの含有量は上記(2)の式を満足する必要がある。
【0017】
また、本願発明者等は、半導体層と直接接合した場合であって、240℃を超える温度の熱プロセスにおいても、その接合界面でAlとSiとの相互拡散を確実に防止するためには、上記(3)式を満足する必要があることを見出した。そして、Al−Ni−B合金配線材料自体の比抵抗を10μΩcm以下に確実に維持するためには、上記(4)式を満足する必要があることを見出した。
【0018】
さらに、上記(1)〜(4)式を満足する範囲のうち、ニッケル含有量が4.0at%以上で、ボロン含有量が0.80at%以下であると、上述したディンプルの発生が極力抑制されたAl−Ni−B合金配線材料となり、半導体層や透明電極層に対しても直接接合をした際の接合信頼性を向上できる。より具体的には、350℃、30分間の熱処理を行った場合、Al−Ni−B合金配線材料の表面に生じるディンプルの発生率を1.6%以下に抑制できるため、より好ましいものとなる。
【0019】
上述したように、ディンプルとはAl−Ni−B合金配線材料を熱処理した際に配線材料表面に形成される微小な窪み状の欠陥であるが、本願発明者等は、Al−Ni−B合金配線材料に対し所定の熱処理を行った後、その材料表面を観察し、発生したディンプル(0.3〜0.5μm)を調査した。このディンプル調査において、観察視野内に発生した全ディンプルの面積を求め、観察視野におけるディンプルの占める面積比率をディンプル発生率として、配線材料の耐熱特性を調べた結果、上記(1)〜(4)式を満足する範囲のうち、ニッケル含有量が4.0at%以上であり、ボロン含有量が0.80at%以下であると350℃、30分間の熱処理を行った場合でも、ディンプルの発生率を1.6%以下に抑制できることを見出したのである。このディンプルは極力発生しないことが望ましいものであり、このディンプル発生率が低いと、表示デバイスの素子製造工程における熱プロセスを通過しても、半導体層や透明電極層との直接接合した接合界面において、接合欠陥などを発生しにくくなり、接合信頼性が向上するため、より好ましいものとなる。また、ディンプル発生率が1.6%以下に抑制されたものであると、例えば、半導体層と直接接合した構造を備えるTFTにおけるオン−オフ比(on/off比)が安定し、接続信頼性が向上するものと考えられる。尚、本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料は、半導体層や透明電極層との直接接合に好適なものではあるが、例えば、半導体層側にMoなどの高融点金属材料からなるキャップ層を設けた素子構造において適用することを妨げるものではない。さらに、上述する半導体層や透明電極層との直接接合の用途以外に、いわゆる反射膜として、本願発明に係る本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料を適用することも可能である。
【0020】
さらに、本願発明者等は、上記(1)〜(4)式を満足する範囲のうち、ニッケル含有量が4.0at%〜6.0at%で、ボロン含有量が0.20at%〜0.80at%であると、半導体層と直接接合させる際に、特に好適なAl−Ni−B合金配線材料となることを見出した。
【0021】
Al系合金配線材料からなる配線回路層と半導体層とを直接接合した際には、接合界面においてAlとSiとの拡散現象が生じることが知られているが、本願発明者等の研究によると、この相互拡散の影響によって、直接接合した際の接合界面に変質層が形成される現象を確認したのである。この変質層とは、Al系合金配線材料と半導体層とを直接接合し、所定の熱処理を加えた後、Al系合金配線材料を剥離して、その半導体層表面を観察した際に、半導体層表面に認められる黒点となった変質部分、或いは半導体層表面の変色や荒れなどの状態(本明細書においては、このような半導体層表面を変質層と称する)のことをいう。この変質層は、熱処理温度が高くなるほど発生し易くなる傾向があり、実用上200℃以上の熱処理(30分間)で発生しないことが望ましい。また、CVDにより絶縁層を形成する際に加わる熱履歴を考慮すると、240℃〜300℃の高温域においても変質層が生じないことが望ましく、さらに、素子の製造工程における各熱履歴の加わる製造条件の適用範囲に余裕を持たせるためには、330℃以上での変質層の発生が抑制されていることが望ましいものと考えられる。そこで、このような変質層を生じない組成範囲を検討した結果、上記(1)〜(4)式を満足する範囲のうち、ニッケル含有量が4.0at%〜6.0at%で、ボロン含有量が0.20at%〜0.80at%であると、330℃、30分間の熱処理においても変質層の形成が抑制される傾向を見出した。そして、この組成範囲では配線材料自体の比抵抗値も5μΩcm以下となる。つまり、このような組成範囲であれば、上述したようにディンプルの発生が極めて抑制され、比抵抗値も低いものとなるので、半導体層との直接接合を実現するためのAl−Ni−B合金配線材料として、実用上、非常に好適なものとなる。
【0022】
また、本願発明者等は、半導体層の表面状態変化に関して調査した。この調査は、直接接合して熱処理した後に、Al系合金配線材料を剥離して露出させた半導体層の表面粗さRz(十点平均粗さ、JIS B0601:1994)と、直接接合前の半導体層表面粗さRzとを比較することで行った。この表面状態変化の調査結果より、本願発明のAl合金配線材料では、上記(1)〜(4)式を満足する範囲のうち、ニッケル含有量が4.0at%〜6.0at%で、ボロン含有量が0.20at%〜0.80at%とした組成範囲であれば、直接接合前の半導体層表面粗さ値を1とした場合、直接接合して熱処理後の露出させた半導体層表面粗さ値を1.5倍以下の変化量にすることができることを、更に見出したのである。
【0023】
この半導体層の表面粗さの変化量は、SiとAlとの相互拡散に直接関連するパラメータとなるものかは明確には把握できていないものの、熱処理温度が高くなるほどその変化量が大きくなることは確認されている。また、半導体層の表面状態が変化することは、TFTにおけるスイッチング特性に影響することが予想される。つまり、TFTにおけるオン−オフ比(on/off比)の変化に繋がるものと推測され、半導体層との直接接合をして熱処理を行っても、半導体層の表面状態があまり変化しないことが、トランジスタのスイッチング特性を良好に維持できることが予想される。そのため、直接接合して熱処理した後に、Al系合金配線材料を剥離して露出させた半導体層の表面粗さRzが、直接接合前の半導体層表面粗さ値を1としたときに、直接接合前の半導体層表面粗さ値の1.5倍以下の変化量となることが、TFTのスイッチング特性などを考慮した接続信頼性を十分に確保できるものと考えられる。尚、本願発明では、直接接合における半導体層の表面状態変化に関し、その表面状態を特定する際に表面粗さRzを採用しているが、JIS B0601などに記載されている表面性状パラメータ、例えば、表面粗さRa(算術平均粗さ)などのパラメータを採用することもできる。
【0024】
そして、本願発明者等は、Al系合金配線材料が透明電極層や半導体層と直接接合された構造を有する表示デバイスの素子構造に関し、直接接合した際のコンタクト抵抗値の増加や接合不良を生じさせる要因として、Al系合金膜の表面粗度Raについて研究したところ、半導体層および/または透明電極層と直接接合される前記配線回路を構成するAl−Ni−B合金配線材料により形成されたAl−Ni−B合金膜の表面粗度Raが2.0Å〜20.0Åであることが望ましいことを見出した。本願発明のAl系合金配線材料により形成されたAl−Ni−B合金膜の表面粗度Raが2.0Å未満であると、透明電極層を直接接合した際にその接合強度が低くなり、一方、20.0Åを超えると、コンタクト抵抗値が大きくなる傾向が顕著となることが認められたのである。尚、この表面粗度Raは、成膜後におけるAl−Ni−B合金膜の表面の粗さをいう。表示デバイスの製造方法によっては、成膜されたAl−Ni−B合金膜には、スタガ構造の場合は半導体層或いは逆スタガ構造の場合は透明電極層がさらに成膜される構造となる。尚、この表面粗度Raは、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)により非接触測定を行い、JIS B0601−1982準拠してRaを算出したものである。
【0025】
本願発明のAl−Ni−B合金配線材料により形成されたAl−Ni−B合金膜に関しては、その膜厚が1000Å〜3000Åであることが望ましいものである。Al−Ni−B合金膜厚が1000Å未満であると、配線回路を形成した際の実効抵抗値が実用的レベルを満足することが困難となり、3000Åを超えるとAl−Ni−B合金膜上に積層する上層のカバレッジが不均一となることから、実用的な素子構造を形成することが困難となる傾向があるためである。
【0026】
更に加えて、本願発明者等の研究によると、本願発明のAl−Ni−B合金配線材料により形成された配線回路層では、素子を構成した際の配線回路層中に分散析出する析出物が偏析することなく均一に分散していることを見出した。
【0027】
本願発明者等の研究では、従来提唱されているAl系合金配線材料の特定の組成においては配線回路中に析出する化合物、いわゆる金属間化合物が偏析する傾向があることを確認している。例えば、上記特許文献2に開示されたNdを含むAl−Ni−Nd合金配線材料では、素子を形成した際の熱処理によって、配線回路層中の析出物が偏析する傾向を示すのである(図5参照)。
【0028】
このように、配線回路層中に析出物の偏析が起こると、配線回路層との接合位置によっては直接接合における接合特性が良好とならないことが懸念される。つまり、配線回路層中に析出する金属間化合物が直接接合における接合抵抗等に影響を与えるので、透明電極層や半導体層が、配線回路層の偏析を生じている部分に直接接合される場合と、偏析のない部分に直接接合される場合とでは、その接合特性に相違が生じることになる。また、Al系合金配線材料により成膜した薄膜をエッチングして配線回路を形成する場合、偏析の生じた部分と偏析のない部分とのエッチング速度の違いから、適正な形状の配線回路を形成できないことも生じる。
【0029】
一方、本願発明のAl−Ni−B合金配線材料により形成された配線回路層では、素子を構成した際に、Ni化合物が分散析出し、このNi化合物が、配線回路層断面における配線回路層厚み方向と直交する線分上において、その存在率が、配線回路層の厚み方向で25%〜45%となるのである。つまり、配線回路層の厚み全体においてNi化合物が偏析する傾向を示さないのである(図6参照)。そのため、上述したAl−Ni−Nd合金配線材料のように、透明電極層や半導体層を直接接合させる場所を特定する必要が無く、また、適正な回路形状の配線回路をエッチングにより確実に形成できることとなる。
【0030】
本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料により形成された配線回路層中に分散析出するNi化合物は、主にAlNi相の金属間化合物である。本発明者等がNi化合物を調査した結果、配線回路表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察した場合、大きさ20nm〜160nm径のものが存在し、各観察視野における平均粒径としては80nm〜140nmであることが確認された。また、そのNi化合物が観察視野を占める面積比は5〜20%であり、そのNi化合物の密度は1000個/100μm〜5000個/100μmであった。さらに、配線回路層断面を透過電子顕微鏡(TEM)により観察した場合、Ni化合物の大きさは、配線回路層厚み200nmに対して10%〜80%の径のものであり、各Ni化合物の相互間隔は10nm〜150nmの距離があった。
【0031】
上記した本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料により、表示ディスプレイの素子を製造する場合には、ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Yat%とした場合、上記式(1)〜(4)の各式を満足する領域の範囲内にあり、残部がアルミニウムであるスパッタリングターゲットを用いることが好ましい。特に、上記(1)〜(4)式を満足する範囲のうち、ニッケル含有量が4.0at%〜6.0at%で、ボロン含有量が0.20at%〜0.80at%であるスパッタリングターゲットであれば、半導体層との直接接合に極めて好適な配線回路を容易に実現できる。このような組成のスパッタリングターゲットを用いる場合、スパッタリング時の成膜条件に多少左右されることもあるが、ターゲット組成とほぼ同じ組成のAl−Ni−B合金薄膜を容易に形成できる。
【0032】
尚、本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料は、上記したようにスパッタリング法により成膜することが実用的に望ましいが、他の異なる方法を採用しても良い。例えば、蒸着法、スプレーホーミング法などの乾式法によってもよく、本願発明のAl−Ni−B合金組成からなる合金粒子を配線材料として用い、エアロゾルディポジッション法で配線回路を形成することや、インクジェット法により配線回路を形成することなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本願発明によれば、Moなどの高融点金属材料からなるキャップ層を省略しても、ITOやIZOなどの透明電極層と直接接合できるとともに、薄膜トランジスタのn−Siなどの半導体層とも直接接合ができる配線回路を形成することが可能となる。特に、240℃を超える熱プロセスを加えた場合において、本願発明のAl−Ni−B合金配線材料からなる配線回路と半導体層とを直接接合した接合界面では、AlとSiとの相互拡散が抑制される。
【0034】
加えて、本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料は、耐熱性も極めて良好で、その比抵抗が10μΩcm以下と低いため、大画面化された表示ディスプレイの構成材料として極めて好適である。このようなことから、本願発明は、液晶ディスプレイなどの表示デバイスの製造における材料面、設備面、工程面のすべての点においてコスト削減を可能とし、優れた特性を備えた表示デバイスを実現可能とする技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本願発明における最良の実施形態について説明する。
【0036】
第一実施形態:本実施形態では、表1に示す実施例及び比較例の各組成のAl−Ni−B合金配線材料についてスパッタリングにより膜形成し、その膜の特性評価を行った。スパッタリングターゲットは、アルミニウムに、表1記載の各組成の金属を混合して、真空中で溶解攪拌した後、不活性ガス雰囲気中で鋳造した後、得られたインゴットを圧延、成型加工をし、スパッタに供する表面を平面加工して製造したものを用いた。表1記載の各組成における膜の特性評価は、半導体層と直接接合した際のSi拡散耐熱性、膜の比抵抗、膜の350℃耐熱性、透明電極層と直接接合した際のITO接合性及びIZO接合性について行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
以下に各特性評価の測定条件について説明する。
Si拡散耐熱性:この特性の評価サンプルには、ガラス基板上にn−Si半導体層(300Å)をCVDにより形成し、その半導体層上にスパッタリング(マグネトロン・スパッタリング装置、投入電力3.0Watt/cm、アルゴンガス流量100sccm、アルゴン圧力0.5Pa)により、表1に示す各組成膜(2000Å)を形成したものを用いた。そして、評価サンプルを150〜350℃の温度域で10℃毎に熱処理温度を設定し、窒素ガス雰囲気中30分間の熱処理を行った後、リン酸系Alエッチング液(関東化学(株)社製、液温32℃のAl混酸エッチャント/組成(容量比)リン酸:蓚酸:酢酸:水=16:1:2:1)に10分間浸漬させることにより、上層に形成した各組成膜のみを溶解し、半導体層を露出させた。この露出した半導体層表面を光学顕微鏡(200倍)にて観察し、SiとAlとの相互拡散が生じているかを調べた。
【0040】
図2及び図3には、露出した半導体層表面における、代表的な光学顕微鏡写真を示す。図2は相互拡散が全く認められない半導体層表面であり、図3は相互拡散の痕跡(写真中の黒点)が認められたものである。Si拡散耐熱性は、図3のような黒点が認められたサンプルを不良とし、図2のように相互拡散が全く認められなかったサンプルのうち、最も高い熱処理温度値をSi拡散耐熱性の評価の指標値として表2に記載した。
【0041】
膜の比抵抗:表1記載の各組成膜の比抵抗値は、ガラス基板上にスパッタリング(条件は上記と同様)により単膜(厚み約0.3μm)を形成し、窒素ガス雰囲気中、300℃、30分間の熱処理を行った後、4端子抵抗測定装置により測定した。
【0042】
350℃耐熱性:表1記載の各組成膜の耐熱性は、ガラス基板上にスパッタリング(条件は上記と同様)により単膜(厚み約0.3μm)を形成し、窒素ガス雰囲気中、100℃〜400℃範囲の温度で、30分間の熱処理後、走査型電子顕微鏡(SEM:1万倍)で膜表面を観察して行った。また、このSEM観察は、各観察試料について観察範囲10μm×8μmを5視野確認するようにした。そして、350℃耐熱性の評価は、350℃、30分間の熱処理において、観察表面に径0.1μm以上の突起物(ヒロック)が確認されたか、或いは観察表面に窪み状部分(径0.3μm〜0.5μm)となったディンプルが4個以上確認されたものを×とした。突起物が全く無く、ディンプルが3個以下のものを○とした。
【0043】
ITO接合性:このITO接合性は、図4の概略斜視図に示すようにガラス基板上にITO(In−10wt%SnO)電極層(1000Å厚、回路幅10μm)を形成し、その上に各組成膜層(2000Å厚、回路幅10μm)をクロスするように形成した試験サンプル(ケルビン素子)を用いて評価した。
【0044】
この試験サンプルの作製は、まず、ガラス基板上に、前記組成の各Al系合金ターゲットを用い、上記スパッタリング条件にて、厚み2000ÅのAl系合金膜を形成した。このときのスパッタリング時の基板温度については、表6に示すように設定して各成膜を行った。そして、各Al系合金膜表面にレジスト(OFPR800:東京応化工業(株))を被覆し、10μm幅回路形成用パターンフィルムを配置して露光処理をし、濃度2.38%、液温23℃のテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドを含むアルカリ現像液(以下、TMAH現像液と略す)で現像処理をした。現像処理後、リン酸系混酸エッチング液(関東化学(株)社製)により回路形成を行い、ジメチルスルフォキシド(以下DMSOと略す)剥離液によりレジストの除去を行って、10μm幅のAl系合金膜回路を形成した。
【0045】
そして、10μm幅のAl系合金膜回路を形成した基板を、純水洗浄、乾燥処理を行い、その表面にSiNxの絶縁層(厚み4200Å)を形成した。この絶縁層の成膜は、スパッタリング装置を用い、投入電力RF3.0Watt/cm、アルゴンガス流量90sccm、窒素ガス流量10sccm、圧力0.5Pa、基板温度300℃のスパッタ条件により行った。
【0046】
続いて、絶縁層表面にポジ型レジスト(東京応化工業(株)社製:TFR−970)を被覆し、10μm×10μm角のコンタクトホール開口用パターンフィルムを配置して露光処理をし、TMAH現像液により現像処理をした。そして、CFのドライエッチングガスを用いて、コンタクトホールを形成した。コンタクトホール形成条件は、CFガス流量50sccm、酸素ガス流量5sccm、圧力4.0Pa、出力150Wとした。
【0047】
上記したDMSO剥離液によりレジストの剥離処理を行った。そして、イソプロピルアルコールを用いて残存剥離液を除去した後、水洗、乾燥処理を行った。このレジストの剥離処理が終了した各サンプルに対し、ITOターゲット(組成In−10wt%SnO)を用いて、コンタクトホール内及びその周囲にITOの透明電極層を形成した。透明電極層の形成は、スパッタリング(基板温度70℃、投入電力1.8Watt/cm、アルゴンガス流量80sccm、酸素ガス流量0.7sccm、圧力0.37Pa)を行い、厚み1000ÅのITO膜を形成した。
【0048】
このITO膜表面にレジスト(東京応化工業(株)社製:OFPR800)を被覆し、パターンフィルムを配置して露光処理をし、TMAH現像液で現像処理をし、しゅう酸系混酸エッチング液(関東化学(株)社製:ITO05N)により10μm幅回路の形成を行った。ITO膜回路形成後、DMSO剥離液によりレジストを除去した。
【0049】
以上のような作製方法により得られた各試験サンプルを、大気雰囲気中、250℃、30分間の熱処理を行った後、図4に示す試験サンプルの矢印部分の端子部から連続通電(3mA)をして抵抗を測定した。このときの抵抗測定条件は、85℃の大気雰囲気中における、いわゆる寿命加速試験条件で行った。そして、この寿命加速試験条件の下、各試験サンプルにおいて、測定開始における初期抵抗値の100倍以上の抵抗値に変化した時間(故障時間)を調べた。この寿命加速試験条件で250時間を超えても故障しなかった試験サンプルを評価○とした。また、寿命加速試験条件の下、250時間以下で故障した試験サンプルを評価×とした。尚、上記した寿命加速試験については、JIS C 5003:1974、参照文献(著書名「信頼性加速試験の効率的な進め方とその実際」:鹿沼陽次 編著、発行所 日本テクノセンター(株))に準拠したものである。
【0050】
IZO接合性:このIZO接合性は、上記IZO接合性評価と同様に、IZO(In−10.7wt%ZnO:1000Å厚、回路幅50μm)電極層の上に、各Al系合金膜層(2000Å厚、回路幅50μm)をクロスするように形成した試験サンプル(ケルビン素子)を用いて評価した。試験サンプルの作製条件は、上記ITO接合性と同様とした。この試験サンプルを、上記ITO接合性の場合と同様な寿命加速試験条件により抵抗を測定し、その寿命加速試験結果よりIZO接合性評価を行った。評価基準も上記ITO接合性と同様にした。
【0051】
表1に示すように、本願発明に関する各実施例のAl−Ni−B合金配線材料では、比抵抗値が10μΩcm以下であり、本願発明の組成範囲を外れる比較例9、比較例11、比較例12については、10μΩcmを超える比抵抗値であった。また、表2に示すように、各実施例のAl−Ni−B合金配線材料では、Si拡散耐熱性は240℃以上あり、330℃の高温においても、接合界面にAlとSiとの相互拡散が認められないものが存在した。そして、表2に示すように、各実施例のAl−Ni−B合金配線材料では、ITO及びIZOの透明電極層との直接接合も可能であることが確認された。尚、このSi拡散耐熱性は、実用上200℃以上の熱処理で発生しないことが望ましく、CVDにより絶縁層を形成する際に加わる熱履歴を考慮すると、240℃〜300℃の高温域においても変質層が生じないことが望ましい。さらに、素子の製造工程における各熱履歴の加わる製造条件の適用範囲に余裕を持たせるためには、330℃以上でのSi拡散耐熱性を備えることが望ましいものである。
【0052】
一方、比較例1〜3の場合、比抵抗以外の特性がすべて実用上不十分であることが確認された。また、Al−Ni合金の比較例4及び5では、透明電極層との接合特性は良好なものの、耐熱性及びSi拡散耐熱性において不十分な特性であり、Niの含有量が高い比較例6では、膜比抵抗が10μΩcmを超えるものとなった。そして、本願発明の組成範囲外となる比較例7〜12の場合、ITOとの直接接合に問題があったり(比較例7)、Si拡散耐熱性が200℃以下であったり(比較例8、比較例10)、比抵抗値が10μΩcmを超え(比較例9、比較例11、比較例12)、総合的に満足できる膜特性とは言えなかった。また、ニッケルの代わりにシリコン(Si)を含有した比較例13では、Si拡散耐熱性ばかりでなく、透明電極層との接合性も悪くなる結果となった。さらに、本願出願人の提案した従来のAl−Ni−C合金配線材料(比較例14、比較例15)では、透明電極層との接合性は問題ないものの、耐熱性及びSi拡散耐熱性において不十分な特性であることが確認された。
【0053】
第二実施形態:この第二実施形態においては、本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料の組成範囲に関し、膜の耐熱性及び半導体層の接合特性との関係を更に詳細に検討した結果について説明する。表3〜表5には、ニッケル含有量及びボロン含有量を変化させた際の、膜の比抵抗値、膜のディンプル発生率、半導体層と直接接合した際の変質層の発生状況及び半導体層表面の粗さ変化量を調べた結果を示している。
【0054】
【表3】









【0055】
【表4】












【0056】
【表5】

【0057】
表3には、各組成における膜の比抵抗値及びディンプル発生率を示している。膜の比抵抗値の測定条件は、上記第一実施形態と同様である。また、ディンプル発生率は、上記第一実施形態における耐熱性評価と同様の条件で、熱処理温度350℃、400℃にした各評価サンプルをSEM観察して得られた結果である。但し、この第二実施形態における耐熱性評価は、上記第一実施形態の耐熱性評価よりも、さらに詳細な検討をするため、ディンプルの発生率を調べた。このディンプル発生率は、観察表面に窪み状部分(径0.3μm〜0.5μm)となったディンプルを検出し、その大きさ及び個数からディンプルの占める面積を算出し、観察面積に対する割合を求めた面積比率で代替した値である。このディンプル面積の計算については、観察表面に存在する窪み状部分を画像解析により二値化して、その窪み状部分を円に近似して行った。尚、このディンプルの深さは、幾つかのディンプルを測定したところ、約100Åであった。また、表3に示すディンプル発生率の値は、各観察試料についての観察範囲10μm×8μmの5視野における平均値を示している。
【0058】
表3の比抵抗値の結果より、ニッケルが6.0at%以下で、ボロンが0.80at%以下であると、5μΩcm以下となることが判明した。また、表3のディンプル発生率の結果から判るように、熱処理温度が高いほどその発生率が大きくなる傾向があり、また、ニッケルが多いほど発生率が小さくなる傾向が認められた。そして、ボロンが増加すると、ディンプルの発生率が大きくなる傾向が認められた。この表3の結果より、350℃、30分間の熱処理において、ディンプル発生率を1.6%以下とするためには、ニッケルが4.0at%以上で、ボロンが0.80at%以下であればよいことが判明した。
【0059】
次に、表4に示す接合界面における変質層の発生調査の結果について説明する。この変質層調査は、上記第一実施形態で説明したSi拡散耐熱性の評価と同様な条件で作成した評価サンプルを用いた。具体的には、ガラス基板上にn−Si半導体層(300Å)をCVDにより形成し、その半導体層上にスパッタリング(マグネトロン・スパッタリング装置、投入電力3.0Watt/cm、アルゴンガス流量100sccm、アルゴン圧力0.5Pa)により、表4記載の各組成のAl−Ni−B合金膜(2000Å)を形成したものを用いた。そして、この評価サンプルを300、330、350℃の各温度で、窒素ガス雰囲気中30分間の熱処理を行った後、上述したリン酸系Alエッチング液を用いて、上層に形成したAl系合金膜のみを溶解し、半導体層を露出させた。この露出した半導体層表面を光学顕微鏡(200倍)にて観察し、図3に示した黒点となった変質部分の存在や、或いは半導体層表面の変色や荒れの状態を確認した。表4では、SiとAlとの相互拡散により多数黒点が認められたものを評価×、数個以下の黒点の存在或いは黒点は認められないのの観察表面の変色や、荒れた状態が認められたものを評価△、観察表面に黒点が全く無く、変色や荒れた表面状態が認められなかったものを評価○とした。
【0060】
そして、表5には、上記変質層調査に伴い、半導体層の表面状態変化を調べた結果を示している。この半導体層の表面状態変化は、半導体層の表面粗さ測定をすることで行った。具体的には、ガラス基板上にn−Si半導体層(300Å)を形成した直後の表面粗度(以下、as−depo粗さとする)と、上記変質層調査の評価サンプルの露出した半導体層の表面粗さ(以下、直接接合粗さとする)とを、それぞれ測定し、(直接接合粗さ値)/(as−depo粗さ値)を算出した。つまり、表5に示す粗さ変化量の数値が1よりも大きくなるほど、直接接合をして熱処理した後の半導体層の表面状態が荒れていることを示す。尚、半導体層の表面粗さ測定には、段差・表面粗さ(あらさ)・微細形状測定装置(KLA Tencor社製:P−15型)を用い、JIS B0601:1994に準じて十点平均粗さRzを求めた。
【0061】
表4の結果より、ニッケルが多くなるほど、変質層の発生を抑制できる傾向が認められた。また、330℃の熱処理の場合、ニッケルが4.0〜6.0at%で、ボロンが0.20〜0.80at%であると、変質層の発生が特に抑制されていることが判明した。また、ニッケルが4.0〜6.0at%で、ボロンが0.30〜0.50at%であると、350℃の高温においても、変質層が発生しない傾向が認められた。
【0062】
そして、表5の粗さ変化量については、表3の変質層の結果とほぼ相関した傾向を示すことが判明した。この表5の粗さ変化量の結果から、直接接合後330℃の熱処理によっても、半導体層の接合表面がひどく荒れた状態にならない、つまり、as−depo粗さ値の1.5倍以内の変化量である組成範囲は、ニッケルが4.0〜6.0at%、ボロンが0.20〜0.60at%であることが判った。
【0063】
第三実施形態:この第三実施形態においては、スパッタリングにより成膜した際の表面粗度の調査結果について説明する。この第三実施形態では、本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料のうちAl−5.0at%Ni−0.4at%Bの組成(実施例15)のAl−Ni−B合金膜と、比較のための純Al膜(上記第一実施形態と同様に比較例1とする)、Al−2.0at%Nd合金膜(比較例16)について調査を行った。
【0064】
まず、実施例15及び比較例1、比較例16についての成膜条件は、ガラス基板(コーニング社製:#1737)上に、前記組成の各Al系合金ターゲットを用い、スパッタリング条件、投入電力3.0Watt/cm、アルゴンガス流量100sccm、アルゴン圧力0.5Paとしてマグネトロン・スパッタリング装置(トッキ社製:マルチチャンバータイプスパッタ装置MSL464)を用い、厚み2000Åの各合金膜を形成した。また、スパッタリング時の基板温度については、表6に示すように設定して成膜を行った。
【0065】
そして、表6に示す各合金膜の表面粗度Raの測定を行った。この表面粗度測定には、原子間力顕微鏡(セイコーインスツルメンツ(株)製:SPI−3800N)を用い、算術平均粗さRa(JIS B0601−1982)を求めた。また、この測定は、各合金膜表面の5箇所を測定してその平均値を算出した。その結果を表6に示す。表6中、実施例15−1〜3は基板温度100℃〜250℃におけるAl−5.0at%Ni−0.4at%B合金膜の結果を示している。また、この表6では、基板温度が室温におけるAl5.0at%Ni−0.4at%B合金膜の結果を比較例17とし、基板温度が300℃におけるAl−5.0at%Ni−0.4at%B合金膜の結果を比較例18としている。そして、比較例1は純Al膜、比較例16はAl−2.0at%Nd合金膜の結果を示している。尚、ガラス基板表面の平均表面粗度値(Ra)は、1.8Åであった。
【0066】
【表6】

【0067】
表6の結果より、Al−Ni−B合金膜の表面粗度は、基板温度により変化することが確認された。また、比較例1の純Al膜では非常に荒れた表面状態となり、比較例16のAl−2.0at%Nd合金膜では基板温度が100℃程度であっても、Ra20Åを超えるような荒れた表面状態であった。
【0068】
次に、透明電極層との直接接合におけるコンタクト抵抗値及びその接合強度を調査した結果について説明する。まず、コンタクト抵抗値測定について説明する。上記表面粗度測定で説明したように、ガラス基板上に、前記組成の各Al系合金ターゲットを用い、上記スパッタリング条件にて、厚み2000ÅのAl系合金膜を形成した。このときのスパッタリング時の基板温度については、表6に示す温度で各成膜を行った。そして、各Al系合金膜表面にレジスト(OFPR800:東京応化工業(株))を被覆し、20μm幅回路形成用パターンフィルムを配置して露光処理をし、上記第一実施形態で説明したTMAH現像液で現像処理をした。現像処理後、上記第一実施形態で説明したリン酸系混酸エッチング液により回路形成を行い、DMSO剥離液によりレジストの除去を行って、20μm幅のAl系合金膜回路を形成した。
【0069】
そして、20μm幅のAl系合金膜回路を形成した基板を、純水洗浄、乾燥処理を行い、その表面にSiNxの絶縁層(厚み4200Å)を形成した。この絶縁層の成膜は、スパッタリング装置を用い、投入電力RF3.0Watt/cm、アルゴンガス流量90sccm、窒素ガス流量10sccm、圧力0.5Pa、基板温度300℃のスパッタ条件により行った。
【0070】
続いて、絶縁層表面にポジ型レジスト(東京応化工業(株)社製:TFR−970)を被覆し、10μm×10μm角のコンタクトホール開口用パターンフィルムを配置して露光処理をし、TMAH現像液により現像処理をした。そして、CFのドライエッチングガスを用いて、コンタクトホールを形成した。コンタクトホール形成条件は、CFガス流量50sccm、酸素ガス流量5sccm、圧力4.0Pa、出力150Wとした。
【0071】
その後、DMSO剥離液によりレジストの剥離処理を行った。そして、イソプロピルアルコールを用いて残存剥離液を除去した後、水洗、乾燥処理を行った。このレジストの剥離処理が終了した各サンプルに対し、ITOターゲット(組成In−10wt%SnO)を用いて、コンタクトホール内及びその周囲にITOの透明電極層を形成した。透明電極層の形成は、スパッタリング(基板温度70℃、投入電力1.8Watt/cm、アルゴンガス流量80sccm、酸素ガス流量0.7sccm、圧力0.37Pa)を行い、厚み1000ÅのITO膜を形成した。
【0072】
このITO膜表面にレジスト(東京応化工業(株)社製:OFPR800)を被覆し、パターンフィルムを配置して露光処理をし、TMAH現像液で現像処理をし、しゅう酸系混酸エッチング液(関東化学(株)社製:ITO05N)により20μm幅回路の形成を行った。ITO膜回路形成後、DMSO剥離液によりレジストを除去した。
【0073】
以上のような手順により、コンタクトホールを形成し、コンタクトホールを介してAl系合金膜と透明電極層とが直接接合された評価サンプルについて、そのコンタクト抵抗値を測定した。このコンタクト抵抗値の測定法は、図4に示すような四端子法に基づき、評価サンプルの素子を大気中、250℃、30minのアニール処理後、各評価サンプルの抵抗値測定を行った。このコンタクト抵抗値の測定結果を表7に示す。尚、図4に示す四端子法は、熱処理後の評価サンプルの端子部分から100μAを通電して、その抵抗を測定したものである。
【0074】
続いて、透明電極層との直接接合における接合強度の測定について説明する。この接合強度については、JIS C 5012に準拠した碁盤目試験により行った。上記表面粗度測定の場合と同様に、ガラス基板上に、まず先に各Al系合金膜(2000Å)を成膜し、その上にITO膜(1000Å)を積層した。成膜条件については、上記スパッタリング条件と同様である。
【0075】
このようにして作製した各評価サンプルについて、そのITO膜表面側からカッターを用いて、一辺5mmの正方形が40個形成されるように、格子状の切り傷を形成した(5mm角正方形が縦4個(20mm)×横10個(50mm))。そして、その表面にテープを貼付し、その後テープを剥がしとり、テープ剥がし後のITO膜表面に設けた格子状態を目視で確認した。40個の正方形の中で膜が剥がれている部分の面積を測定し、40個の正方形の全面積に対する割合(剥離率%)を計算して、各評価サンプルの接合強度を評価した。剥離率0〜20%を○、剥離率21〜60%を△、剥離率61〜100%を×とした。この接合強度の試験結果を表7に示す。
【0076】
【表7】

【0077】
表6及び表7の結果から判るように、Al系合金膜の表面粗度値が大きくなると、素子を形成したときのコンタクト抵抗値も大きくなる傾向となるが、接合強度に関しては、逆に、粗度値が小さくなるとその強度が低下する傾向となった。以上の結果からコンタクト抵抗値が200Ω以下で、実用的な接合強度を確保できる表面粗度としては、Ra2.0Å〜20Åの範囲であり、より好ましくは10Å〜20Åであると考えられた。
【0078】
第四実施形態:この第四実施形態においては、本願発明に係るAl−Ni−B合金配線材料により形成した配線回路における析出物に関して調査した結果について説明する。この配線回路中の析出物の調査は、その分散状態を解析することにより行った。
【0079】
ここで、この第四実施形態における断面観察用サンプルの製法について説明する。この断面観察用サンプルは、ガラス基板上に厚み200nmのAl−5.0at%Ni−0.4at%B合金膜、Al−2.0at%Ni−1.0at%Nd合金膜、Al−3.0at%Ni合金膜を、それぞれスパッタにより形成し、各合金膜上にITO膜を成膜した後、大気中250℃の熱処理を行ったものを用いた。図5及び図6には、Al−2.0at%Ni−1.0at%Nd合金とAl−5.0at%Ni−0.4at%B合金の場合における透過電子顕微鏡(日立製作所社製/H−9000 TEM:倍率20万倍)により配線回路層(膜)断面を観察した結果の概略断面図を示している。図5及び図6の符号AはITO膜、符号Bはガラス基板を示している。
【0080】
次に、上記したTEM観察写真から析出物の分布状態を評価する方法について説明する。図6の中央帯部分が配線回路層を示しており、その中に分散しているものがNi化合物(Al−Ni系の金属間化合物)を示している。Ni化合物の分布状態は、この断面概略図で示すように層厚み方向に直交する線分がNi化合物を切断する合計長さ(l+l+l+l+l+l=Σl)を測定し、その線分全体長さ(L)に対する割合(%)を求め、この値をNi化合物の存在率とした。また、EDX分析により、Ni化合物を同定したところ、Al−5.0at%Ni−0.4at%B合金配線材料の場合では、配線回路層中に分散析出しているのはAlNi相の金属間化合物であった。そして、Al−2.0at%Ni−1.0at%Nd合金配線材料の場合では、Al−Ni系、Al−Nd系、Al−Ni−Nd系の金属間化合物が析出していることが判明した。さらに、図5の概略図で示すように、Al−2.0at%Ni−1.0at%Nd合金の場合、ガラス基板側の方(符号B)にAl−Ni−Nd系の金属間化合物が多く偏析していることが認められた。一方、Al−5.0at%Ni−0.4at%B合金の場合では、配線回路相中の析出物であるAlNi相の金属間化合物は特に偏析することなく、均一的に分散していることが判明した。
【0081】
図7には、各配線回路層の厚み方向における所定の厚み位置での、Ni化合物の存在率を調査した結果を示している。図7に示すように、Al−2.0at%Ni−1.0at%Nd合金の場合では、Ni化合物の存在率が、ガラス基板側(B)からITO膜面側(A)にかけて75%から0%まで変化していることが判明した。同様に、Al−3.0at%Ni合金配線材料に関しても、同様に、Ni化合物の存在率を調べたところ、その存在率は、基板側から膜面側にかけて40%から0%まで変化していることが判明した。一方、本願発明に係わるAl−5.0at%Ni−0.4at%B合金配線材料の場合では、Ni化合物の存在率は、基板側から膜面側に亘り、数値の大きな隔たりが無く、約25%〜45%の範囲内であり、Ni化合物の偏析がなく、均一に分散していることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】TFT概略断面図。
【図2】Si拡散耐熱性評価の光学顕微鏡写真。
【図3】Si拡散耐熱性評価の光学顕微鏡写真。
【図4】ITO(IZO)電極層とAl合金電極層とをクロスして積層した試験サンプル概略斜視図。
【図5】Al−2.0at%Ni−1.0at%Nd合金の場合のTEM観察写真の概略図。
【図6】Al−5.0at%Ni−0.4at%B合金の場合のTEM観察写真の概略図。
【図7】Ni化合物の存在率の測定グラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムにニッケルとボロンとを含有したAl−Ni−B合金配線材料において、
ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Yat%とした場合、式
0.5≦X≦10.0
0.05≦Y≦11.00
Y+0.25X≧1.00
Y+1.15X≦11.50
の各式を満足する領域の範囲内にあり、残部がアルミニウムであることを特徴とするAl−Ni−B合金配線材料。
【請求項2】
ニッケル含有量が4.0at%以上であり、ボロン含有量が0.80at%以下である請求項1に記載のAl−Ni−B合金配線材料。
【請求項3】
350℃、30分間の熱処理後、配線材料表面に生じるディンプル発生率が1.6%以下である請求項2に記載のAl−Ni−B合金配線材料。
【請求項4】
ニッケル含有量が4.0at%〜6.0at%であり、ボロン含有量が0.20at%〜0.80at%である請求項1〜請求項3いずれかに記載のAl−Ni−B合金配線材料。
【請求項5】
比抵抗値が5.0μΩcm以下である請求項4に記載のAl−Ni−B合金配線材料。
【請求項6】
請求項1〜請求項5いずれかに記載のAl−Ni−B合金配線材料により形成された配線回路層と、半導体層と、透明電極層とを備える表示デバイスの素子構造であって、
前記配線回路層が、半導体層に直接接合された部分を有することを特徴とする表示デバイスの素子構造。
【請求項7】
請求項1〜請求項5いずれかに記載のAl−Ni−B合金配線材料により形成された配線回路層と、半導体層と、透明電極層とを備える表示デバイスの素子構造であって、
前記配線回路層が、透明電極層に直接接合された部分を有することを特徴とする表示デバイスの素子構造。
【請求項8】
請求項6及び請求項7の素子構造を備える表示デバイスの素子構造。
【請求項9】
直接接合された配線回路層を剥離した半導体層表面の表面粗さ値(Rz)が、半導体層形成後の半導体層表面の表面粗さ値(Rz)の1.5倍以下である請求項6または請求項8に記載の表示デバイスの素子構造。
【請求項10】
請求項1〜請求項5いずれかに記載のAl−Ni−B合金配線材料により形成された配線回路層と、半導体層若しくは透明電極層の少なくとも一方と前記配線回路層とが直接接合されている表示デバイスの素子構造であって、
前記配線回路層には、Ni化合物が分散析出しており、
配線回路層断面における配線回路層厚み方向と直交する線分上の前記Ni化合物の存在率が、配線回路層厚み方向で25%〜45%であることを特徴とする表示デバイスの素子構造。
【請求項11】
請求項1〜請求項5いずれかに記載のAl−Ni−B合金配線材料からなる配線回路を形成するためのスパッタリングターゲットであって、
ニッケル含有量をニッケルの原子百分率Xat%とし、ボロン含有量をボロンの原子百分率Yat%とした場合、式
0.5≦X≦10.0
0.05≦Y≦11.00
Y+0.25X≧1.00
Y+1.15X≦11.50
の各式を満足する領域の範囲内にあり、残部がアルミニウムであることを特徴とするスパッタリングターゲット。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−142356(P2007−142356A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93701(P2006−93701)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】