説明

AlN単結晶膜の作製方法

【課題】結晶品質が良くかつ表面平坦性の優れたAlN単結晶膜の形成方法を提供する。
【解決手段】サファイア基材上に、AlN単結晶による成長下地層をMOCVD法により(0002)面におけるX線ロッキングカーブ半値幅が200秒以下で、かつその表面を原子レベルで平坦となるように形成する。つづいて、前記成長下地層上に、HVPE法により、1100℃以上の形成温度T(℃)に対してA≦0.3T−330なる関係を満たすように、形成速度A(μm/hr)を制御しながらAlNの単結晶膜を形成する。形成速度の制御は、例えばAl原料ガスの供給量を調整することによりおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlNの単結晶作製技術、特にHVPE法による作製に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN単結晶を作製する手法として、LPE(Liquid Phase Epitaxy)、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)、昇華法などの成長方法を用いて、サファイア、SiCなどの単結晶基材上に、直接成長する方法が研究されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
【非特許文献1】“Hydride vapor phase epitaxy of AlN: Thermodynamic analysis and its application to actual growth”; Y. Kumagai et al., Abstract of 5th International Conference on Nitride Semiconductors, Mo-P1.015, p212, (May 25-30, 2003, Nara, Japan)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1に開示された方法は、AlNとは異種の物質である基材上に直接、AlNの単結晶膜をHVPE法により成長させるものであるので、結晶品質の向上が困難であるという問題がある。さらに、非特許文献1においては、HVPE法により成長したAlN単結晶膜の表面平坦性に関する検討もなされていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、HVPE法を用いて結晶品質が良くかつ表面平坦性の良好なAlNの単結晶膜を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、HVPE法によりAlNの単結晶膜を作製する方法であって、所定の単結晶基材の主面上に形成されたAlN単結晶による下地層の上に、AlN膜の形成温度をT(℃)とし、形成速度をA(μm/hr)とするときに、A≦0.3T−330をみたすように前記形成速度を制御しつつAlN膜を形成する、ことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の作製方法であって、AlN膜を形成する際の雰囲気ガスの主成分を窒素ガスとする、ことを特徴とする。
【0008】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の作製方法であって、AlN膜を形成する際の雰囲気ガスの主成分を窒素ガスとする、ことを特徴とする。
【0009】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の作製方法であって、AlN膜の形成に用いるAl原料の供給量を制御することによって前記形成速度を制御する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1ないし請求項4の発明によれば、AlNの単結晶膜を、同じくAlN単結晶からなる下地層の上に形成することにより、異相界面接合に伴う格子不整合あるいは結晶構造の違いによる結晶品質の劣化を防ぐことができ、結晶品質のよいAlN単結晶を得ることが出来る。さらに、HVPE法によりAlN単結晶膜を形成する際の形成温度をT(℃)とし、形成速度をA(μm/hr)とするときに、A≦0.3T−330をみたすように形成速度を制御することにより、表面平坦性の良好なAlN単結晶膜を得ることが可能となる。下地層の平坦性が高い場合に、その効果は顕著なものとなる。特に、原子レベルで表面平坦性の良好なAlN単結晶膜を得ることが出来た場合には、当該AlN単結晶膜をIII族窒化物形成用基板として用いる際に、その研磨工程を簡便化あるいは省略化することができる。
【0011】
特に、請求項2の発明によれば、X線ロッキングカーブ測定による(0002)面の半値幅が500秒以下であり、刃状転位密度が5×1010/cm以下であり、Ra値が20nmという、良好な結晶品質と表面平坦性とを有するAlN単結晶膜を得ることが出来る。
【0012】
特に、請求項3の発明によれば、HVPE法によるAlN単結晶膜形成時の雰囲気でのエッチングによる表面の劣化が抑制されるため、より表面平坦性の良好なAlN単結晶膜を得ることができる。
【0013】
特に、請求項4の発明によれば、HVPE法に使用する装置の具体的構成態様によらず、Al原料の供給量とAlN単結晶膜の形成速度との間には正の相関があることから、Al原料の供給量を適宜に定めることで、AlNの形成速度を好適に設定することができ、ひいては表面平坦性の良好はAlN単結晶膜を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<基板および単結晶>
図1は、本発明の実施の形態に係る単結晶形成を説明するための模式図である。図1においては、単結晶形成用基板(以下、単に「基板」と称する)1の上に、単結晶膜2が形成された積層構造3を断面図として示している。
【0015】
基板1は、単結晶基材1aと、その上に形成されたAlN単結晶からなる成長下地層1bとにより構成される。成長下地層1bは、基板1にとっては表面層であるが、基板1を用いた単結晶成長の際に下地層としての役割を果たすものである。すなわち、単結晶成長時には、成長下地層1bの直上に単結晶膜2が形成される。本実施の形態に係る基板1は、この成長下地層1bが好適に形成されることで、AlNの単結晶を、高結晶品質で得るのに適した基板として、単結晶膜2の形成に供されるものである。なお、単結晶膜2には、意図的であるなしにかかわらず、不純物として、AlとN以外の元素が含まれても構わない。このように、AlNの単結晶膜2を、同じくAlN単結晶からなる成長下地層1bの上に形成することは、異相界面接合に伴う格子不整合あるいは結晶構造の違いによる結晶品質の劣化を防ぐことができる点で好適である。特に、HVPE法では界面部分での正確な条件制御が困難であるので、AlN下地膜1bを介さず直接にAlN単結晶膜2をHVPE法にて単結晶基材1a上に成長させた場合、AlN単結晶膜の結晶品質は大幅に劣化してしまうことになる。
【0016】
基材1aは、その上に形成する成長下地層1bおよび単結晶膜2の組成や構造、あるいは各層の形成手法に応じて適宜に選択される。例えば、SiC(炭化ケイ素)やサファイアなどの単結晶を所定の厚みに切り出したものを用いる。あるいは、ZnO,LiAlO,LiGaO,MgAl,(LaSr)(AlTa)O,NdGaO,MgOといった各種酸化物材料,Si,Geといった各種IV族単結晶、SiGeといった各種IV−IV族化合物,GaAs,GaN,AlGaNといった各種III―V族化合物およびZrBといった各種ホウ化物の単結晶から適宜選択して用いてもよい。ただし、同結晶であるAlNを排除するものではない。AlNの表面は酸化されやすく、ごく表層部が異相界面と同様の状態になることがあるからである。こうした単結晶の中では、SiC基材、サファイア基材が望ましい。特に、C面を主面とするAlN単結晶を成長下地層1bとして得る場合には、C面SiCあるいはC面サファイアを基材1aとして用いるのが望ましい。高品質な成長下地層1bの形成を実現できるからである。また、A面を主面とするAlN単結晶を成長下地層1bとして得る場合には、A面SiCあるいはR面サファイアを基材1aとして用いるのが望ましい。基材1aの厚みには特段の材質上の制限はないが、取り扱いの便宜上、数百μm〜数mmの厚みのものが好適である。
【0017】
成長下地層1bは、基材1a上にAlNをエピタキシャル成長させることによって形成される。すなわち、基板1はいわゆるエピタキシャル基板である。このようにして形成される成長下地層1bとしてのAlNは通常、六方晶系のウルツ鉱型構造をとる。特に、C面を主面とするAlN単結晶を成長下地層1bとして用いる場合、該成長下地層1bについては、X線ロッキングカーブ測定(ωスキャン)による(0002)面の半値幅が200秒以下、より好ましくは100秒以下であることが好ましい。係る半値幅が実現されるということは、成長下地層1bの表面において、成長方位に揺らぎが少なく、C面が揃い、らせん成分の転位が少ない状態が実現されているということになり、このことは成長下地層1b上に結晶品質の良い単結晶膜2を形成する上でより好適だからである。この結晶性を実現するためには、基材1a上に、いわゆる低温緩衝層を挿入することは望ましくない。X線ロッキングカーブ測定(ωスキャン)による(0002)面の半値幅の下限値は、特に定めるものではないが、材料及び結晶構造から計算される理論値(〜10秒)を下回るものではない。また、成長下地層1b内の刃状転位密度は、5×1010/cm以下であることが望ましく、基材1aの表面に窒化層を形成しておくことで、この状態は実現可能であり、形成温度を高温化する場合など、条件設定によっては、1×10/cmという転位密度まで実現可能である。なお、本実施の形態において、転位密度は、平面TEMを用いて評価している。
【0018】
また、成長下地層1bは、好ましくは10nm〜100μmの厚みに形成される。これよりも厚みが小さいと成長下地層1bが十分に結晶成長せず、基材1aと成長下地層1bの界面で発生した多量の転位がほとんど成長下地層1bの表面まで残存してしまって好ましくない。よって、成長下地層1bは、内部の転位が十分に消失してなる程度の厚みで、少なくとも、転移密度が5×1010/cm以下となる程度の厚みで、形成することが望ましい。300nm以上の厚みとすれば、5×1010/cm以下の転位密度を安定して実現することができる。ただし、厚みが大きすぎると、コスト面でのデメリットが生じることに加え、成長下地層1bの内部にクラックが発生する可能性があるため、クラックの発生しない範囲内で適宜厚みを設定する。10μm以下がコスト的に現実的な厚みである。1.5μm以上の厚みとなると、転位低減率が鈍化することから、品質の面から考えると、1.5μm以下の厚みが望ましい厚みである。
【0019】
成長下地層1bは、例えば、MOCVD法、あるいやMBE法(分子線エピタキシ法;Molecular Beam Epitaxy)を用いて形成することができる。MOCVD法には、PALE法(パルス原子層エピタキシ法;Pulsed Atomic Layer Epitaxy)、プラズマアシスト法やレーザーアシスト法などが併用できる。MBE法に関しても、同様の技術を併用可能である。MOCVD法あるいはMBE法といった成長方法は、製造条件を高精度に制御することができるので、高品質な結晶を成長させることに適しており、本実施の形態のように、異種基材上にAlNによる高品質な成長下地層1bを成長させる場合には、1100℃〜1600℃の加熱温度で、減圧条件の設定が可能なこうした方法を用いることが望ましい。より具体的な作製条件は、それぞれの形成手法に応じて、適切に選択、設定されることになる。こうした方法の中では、より熱平衡状態に近い状態を実現できる、MOCVD法を用いることが特に望ましい。
【0020】
成長下地層1bの表面は、種々の形状を有することが出来る。原子レベルで平坦であってもよいし、サブミクロンオーダーの凹凸が形成されていてもよい。これらは、形成条件を適宜に選択することにより実現可能である。また、微細加工プロセスを用いることにより、係る凹凸を形成してもよい。さらには、成長下地層1b表面の一部を被覆するようなパターン、例えば所定のマスクパターンなどが、同じく微細加工プロセスによって形成されていてもよい。また、再成長前に、プラズマ処理、光化学処理、及び洗浄処理による表面改質を加えてもよい。
【0021】
図2は、最表面が実質的に原子レベルで平坦となるように形成した成長下地層1bについて、その表面をAFM(原子間力顕微鏡)にて観察することにより得られる、表面形態像の一例を示す図である。図2からは、成長下地層1bの表面が、原子ステップが明瞭に観察される程度の平坦性を有していることがわかる。成長下地層1bは、AFMによって評価される最表面の表面粗さ(本願においては、5μm×5μmの正方形領域における算術平均粗さRaで評価)が成長下地層1bを構成するAlNのc軸の格子定数と略同程度の0.5nm以下、好ましく0.3nm以下となるように形成され、実質的な原子レベルの平坦性が実現される。Raの値が0.3nm以下となると、表面においてピットはほとんど観察されなくなる。
【0022】
成長下地層1bの表面においてこのような原子レベルの平坦性を実現するためには、局所的な凹凸バラツキが生じにくい結晶成長手法を用いることが好ましい。形成速度がせいぜい数μm/hr程度であるMOCVD法は、その手法として好適であるといえる。上記のような成長下地層1bを、トリメチルアルミニウムとアンモニアを用いてMOCVD法によって形成する場合、基板自体の温度を1100℃以上、1250℃以下とし、形成時圧力を5Torr以上20Torr以下とし、トリメチルアルミニウムとアンモニアの供給比を1:500以下、より好ましくは1:200以下とするのが望ましい。このような条件によって成長下地層1bが形成された基板1を用いて、HVPE法により単結晶膜2を成長させた場合、表面にはピットがほとんど存在しないので、単結晶膜2において結晶欠陥がピットから誘発されるといった状況の発生を抑制することが出来る。
【0023】
なお、上述のように成長下地層1bを構成するAlNは通常、ウルツ鉱型構造をとることから、結晶構造が対象中心を有さず、Al原子と窒素原子とが入れ換わると、結晶の向きが反転することになる。すなわち、結晶が原子配列に応じた極性を有しているといえる。仮に、成長下地層1bの表面において互いに極性の異なる領域である反位区が併存する場合には、反位区の境界(反位境界)は一種の面欠陥となってしまう。この場合、単結晶膜2の形成時に、この面欠陥に起因した欠陥が生じてしまうおそれがあり、好ましくない。よって、成長下地層1bは、その表面の極性が全体に揃っていることが好ましい。
【0024】
単結晶膜2は、HVPE法によってAlNを基板1上にエピタキシャル成長させることにより形成される。HVPE法を用いる場合、Al金属とHClガスなどのハイドライドガスとを高温で直接に反応させてAl原料ガス(AlClガス)を生じさせ、これとNHガスとを反応させることによって、AlNを得ることになる。すなわち、高濃度のAl原料を供給することができることから、HVPE法によれば、他の成膜手法による形成速度(MOCVD法であればせいぜい数μm/hr)よりも大きな、例えば数十〜数百μm/hrという形成速度で単結晶膜を成長させることが、原理的には可能である。
【0025】
ただし、本実施の形態においては、単結晶膜2を形成するに際して、形成温度をT(単位:℃)とし、形成温度Tにおける形成速度をA(単位:μm/hr)とするとき、
A≦0.3T−330 (式1)
なる関係を満たすように、形成速度Aを制御するものとする。図5は式1について説明するための図である。図5は、原子レベルの平坦性を有する成長下地層1bを有する基板1を用い、形成温度としていくつかの温度を設定し、各形成温度に対し種々の形成速度を与えてHVPE法によって単結晶膜2(AlN膜)を形成した場合の、それぞれの単結晶膜2の表面状態の判定結果を、形成温度Tを横軸に、形成速度Aを横軸にして示したグラフである。図5において、○印は単結晶膜2の表面平坦性が良好な場合を、●印はそうでない場合を示している。ここでは、Raが20nm以下の場合を、表面平坦性が良好であるとする。なお、この結果は、目視観察を行った場合のAlN膜の透明性とも合致する。具体的に言えば、○印を付した場合の単結晶膜2はいずれも透明であるが、●印を付した場合の単結晶膜2は、透明ではないと判断される。
【0026】
ここで、○印は、図中に実線で示すA=0.3T−330なる直線よりも下方にのみ分布している。これは、式1の範囲を満たすように形成速度を制御することで、表面平坦性の良好な単結晶膜2を形成できることを意味している。すなわち、1100℃を越える温度を形成温度として設定し、式1の関係を満たすように形成速度Aを制御することで、表面平坦性の良好な単結晶膜2を確実に得ることが出来る。特に、成長下地層1bの表面が原子レベルで平坦である場合、式1を満たすように形成速度を定めることで、表面のRaが20nm以下である単結晶膜2を形成することが出来る。また、単結晶膜2のX線ロッキングカーブ測定による(0002)面の半値幅が500秒以下であり、刃状転位密度は成長下地層1bの刃状転位密度とほぼ同程度かそれ以下の5×1010/cm以下である。すなわち、単結晶膜2は良好な結晶品質を有しているといえる。なお、1350℃以上の形成温度で、40μm/hr以下の形成速度で単結晶膜2を形成する場合においては、表面に原子ステップが観察出来る程度に平坦な単結晶膜2を、確実に得ることができる。
【0027】
式1の関係をみたすために行う単結晶膜2の形成速度の制御は、例えば、HVPE法による成膜を行うことができる所定の製造装置において、Al原料ガスの供給量を制御することにより可能である。なぜならば、該供給量と単結晶膜2の形成速度との間には、正の相関があるからである。ただし、具体的な供給量の範囲は、個々の製造装置の構成等によって適宜に定めることになる。なお、Al原料ガスの供給量に代えて、あるいはこれと共に、該製造装置の反応管内における形成時圧力や、NHガスの流量や、Al原料ガス等のガス流速のいずれか、あるいはこれらの一部若しくは全部を組み合わせた制御を行うことにより、式1を満たすように形成速度を制御する態様であってもよい。
【0028】
なお、HVPE法による単結晶膜2の形成に際しては、窒素ガスを主成分とすることで、単結晶膜2の表面の平坦性をより向上させることができる。
【0029】
また、AlClガスとNHガスとを反応させる際、形成時圧力を5Torr以上50Torr以下、AlClガスの供給量を1としたときのNHガスの供給量を1以上1000以下とするのが望ましい。こうした条件を選定した場合、気相中での反応が抑制されて、原料ガスの単結晶膜2への取り込み率が大きくなるので、原料ガスの利用効率が高まるという利点がある。
【0030】
<成長下地層の形成>
図3は、本実施の形態における成長下地層1bの形成に用いる製造装置10を例示する図である。図3に示す製造装置10は、MOCVD法によって基材1a上に成長下地層1bを形成するものである。すなわち、製造装置10は、III族有機金属ガスを原料ガスとして用い、化学気相反応法によってIII族窒化物膜を形成する、いわゆる「MOCVD装置」である。製造装置10は、基板1を作製するための原料ガスを、基材1aの主面上に流すことができるように構成されている。なお、製造装置10は、必ずしも成長下地層1bの形成のみに用いられるものではなく、所定の基材に対し結晶層を単層または多層にエピタキシャル形成することも可能に構成されており、これによって種々の半導体デバイスを作製することも可能である。
【0031】
製造装置10は、反応性ガスを基材1aの主面に導入するための、反応性ガス導入管31を備える。反応性ガス導入管31は、気密の反応容器21内にあり、その2つの外部端は、それぞれ、反応性ガスの導入口22および排気口24となっている。また、反応性ガス導入管31には、基材1aの主面上に反応性ガスを接触させるために開口部31hが設けられている。
【0032】
反応容器21の外側にある導入口22には、配管系L1およびL2が接続されている。
【0033】
配管系L1は、アンモニアガス(NH)、窒素ガス(N)および水素ガス(H)を供給するための配管系である。
【0034】
一方、配管系L2は、TMA(トリメチルアルミニウム;Al(CH)、TMG(トリメチルガリウム;Ga(CH)、TMI(トリメチルインジウム;In(CH)、TEB(トリエチルホウ素;B(C)、CPMg(シクロペンタジエニルマグネシウム;Mg(C)、シランガス(SiH)、窒素ガスおよび水素ガスを供給するための配管系である。さらに、配管系L2には、エピタキシャル基板やデバイス形成の際の原料ガスとなるTMA、TEB、TMG、TMIおよびCPMgの供給源24d〜24gが接続される。ここで、CPMgおよびシランガスそれぞれ、III族窒化物においてアクセプタおよびドナーとなるMgおよびSiの原料であるので、使用するアクセプタおよびドナーに応じて適宜に変更しうるものである。
【0035】
なお、TMA、TMG、TMI、TEBおよびCPMgの供給源24d〜24hは、バブリングを行うために、窒素ガスの供給源24bに接続されている。同様に、TMA、TMG、TMI、TEBおよびCPMgの供給源24d〜24hは、水素ガスの供給源24cに接続される。
【0036】
また、製造装置10においては、水素(H)もしくは窒素(N)、またはその混合ガスがキャリアガスとして機能する。なお、全てのガス供給系は、流量計を用いて、ガス流量が制御されている。各ガスの流量を適宜に制御することにより、種々の混晶組成を有するIII族窒化物をエピタキシャル形成させることが可能となっている。
【0037】
さらに、排気口24には、反応容器21の内部のガスを強制排気する真空ポンプ27が接続されている。
【0038】
反応容器21の内部には、基材1aを載置する基材台(サセプタ)28と、基材台28を反応容器21の内部に支持する支持脚29とが設けられる。基材台28は、その直下に設けられたヒータ30によって加熱することにより温度制御可能である。ヒータ30は、例えば抵抗加熱式のヒータである。製造装置10においては、基材1aと密着している基材台28の温度を変更することにより、エピタキシャル層の成長温度を変化させることが可能である。換言すれば、MOCVD法におけるエピタキシャル成長温度は、ヒータ30によって可変に制御可能とされている。
【0039】
本実施の形態においては、このような製造装置10において、成長温度やガス流量などの条件を例えば後述する実施例のように適宜に設定したうえで、成長下地層となるIII族窒化物を基材1aの上にエピタキシャル成長させることにより、例えば、最表面が実質的に原子レベルで平坦である成長下地層1bを基材1aの表面に形成することができる。
【0040】
<単結晶膜の形成>
図4は、本実施の形態における単結晶膜2の形成に用いる製造装置40を例示する図である。図4に示す製造装置40は、HVPE法によって基板1の成長下地層1b上に単結晶膜2を形成するものである。すなわち、製造装置40は、HClガスとIII族金属原料とを反応させて塩化物ガスを生成し、これをNHと反応させることによってIII族窒化物を形成する装置である。
【0041】
製造装置40は、その内部においてIII族窒化物の成長反応がなされる反応管41を備える。反応管41は、SUS、石英ガラス、AlN、BNなどによって形成されてなる。
【0042】
反応管41の内部は、それぞれ金属原料を保持可能な第1のボート45と第2のボート47とが配置可能とされている。例えば、AlGaNを成長させる場合は、金属Al原料44と金属Ga原料46とがそれぞれ第1のボート45および第2のボート47に保持される。AlNのみ、あるいはGaNのみを成長させる場合には、金属Al原料のみ、あるいは金属Ga原料のみが第1のボート45あるいは第2のボート47に保持される。
【0043】
また、反応管41には、第1および第2のガス導入管48および49がそれぞれ、所定の箇所に連通されてなる。第1のガス導入管48は、Hガス供給源51cから供給されるHガスをキャリアガスとして、HClガス供給源51dから配管系L11を経て供給されるHClガスを金属Al原料44の近傍に供給するために備わる。第2のガス導入管49は、同様に、Hガスをキャリアガスとして、配管系L12を経てHClガスを金属Ga原料46の近傍に供給するために備わる。
【0044】
反応管41においては、供給されたHClガスと金属Al原料44とが反応することによって、AlClガスが生成する。また、供給されたHClガスと金属Ga原料46とが反応することによって、GaClガスが生成する。これらの塩化物ガスは、Hガスをキャリアガスとするガス流となってさらに下流側へと輸送される。
【0045】
また、反応管41の内部においては、当該ガス流の下流側となる位置に、サセプタ43によって、基板1が水平に保持されるようになっている。加えて、反応管41にはさらに、NHガス供給源51a、Nガス供給源51b、およびHガス供給源51cからそれぞれ供給されるNH、N、およびHの混合ガスを、配管系L13を経てこのサセプタ43に保持された基板1の近傍にまで導入する第3のガス導入管50が備わっている。
【0046】
また、反応管内の圧力設定については、特にAlClガスとNHガスとの気相中での反応を抑制するために、減圧雰囲気であることが望ましく、さらに、50Torr以下に設定することがより望ましい。
【0047】
上述したAlClガスあるいはGaClガスと、第3のガス導入管50から供給されるNHガスとが、基板1の近傍において反応することによって、AlNあるいはGaNがそれぞれ基板1の上に形成される。これらが基板1の表面に堆積することで、AlNあるいはGaN単結晶が、基板1上にエピタキシャル形成され、AlClガスとGaClガスとをともに反応に供される場合であれば、AlGaNの単結晶が、基板1の上に形成されることになる。特に、反応炉が石英部材から構成される場合は、AlClガスを用いることが望ましい。なお、図4においては、サセプタ43が基板1を水平方向下向きに保持する態様を示しているが、水平方向上向きに保持する態様であってもよい。また、図示しない第3のボートに金属In原料を保持して反応管41内部の所定の場所に適宜に配置するとともに、所定のガスを導入する導入管を適宜に備えることで、Inを含む結晶を成長させることも可能である。
【0048】
反応管41の外周には、反応管41の内部における各種反応の温度を制御すべく、第1および第2の加熱装置53および54が設けられてなる。第1の加熱装置53は、第1の波線領域55の近傍、つまりは、第1および第2のボート45および47を含むガス流の上流側の領域を加熱するために備わる。第2の加熱装置54は、第2の波線領域56の近傍、つまりは、サセプタ43を含むガス流の下流側の領域を加熱するために備わる。これら第1及び第2の加熱装置53及び54は、図示しない制御手段によってそれぞれ独立に昇降温制御できるように構成されており、上流側において塩化物ガスを生成させる温度と、下流側においてIII族窒化物を生成させ基板1上にエピタキシャル形成させる温度とを、独立して制御できるようになっている。例えば、上流側は400〜1000℃程度に、下流側は約600〜1300℃程度に保持される。各領域の温度は、図示しない温度センサによって測温される。なお、便宜上、図4においては、金属Al原料44と金属Ga原料46は、同一ヒーターで加熱するよう記載されているが、別のヒーターを用いて別温度に加熱し、別系統でAl原料とGa原料を供給することも可能である。
【0049】
なお、全てのガス供給源は、図示しない流量計を用いて、ガス流量が制御されている。各ガスの流量を適宜に制御することにより、種々の組成を有するIII族窒化物をエピタキシャル形成させることが可能となっている。
【0050】
また、反応管41には、ガス流の下流側端部となる位置に、排気系52が連通されており、反応管41内に存在する気体成分を適宜に排気することができるようになっている。
【0051】
本実施の形態においては、このような製造装置40において、成長温度やガス流量などの条件を、例えば後述する実施例のように適宜に設定したうえで、基板1の上に、AlNをエピタキシャル成長させる。
【実施例】
【0052】
<実施例1および比較例>
成長下地層1bの表面が原子レベルで平坦な基板1を作製し、これを用いて、HVPE法により、図5に示した形成温度と形成速度とが異なるいくつかの単結晶膜2を作製した。
【0053】
まず、基材1aとして2インチ径の厚さ400μmの(001)面サファイアを用い、これを製造装置10の反応容器21内のサセプタ28に載置した。反応容器21内の圧力を20Torr以下に設定した後、全ガスの平均流速を1m/sec以上となるように流量を設定し、基材1a自体の温度を1200℃まで昇温した。
【0054】
その後、NHガスを供給して基材1a表面に窒化処理を施した後、TMAとNHとを供給して、成長下地層1bとして厚さ1μmのAlN層を形成した。この際、形成速度を1μm/hrとなるように、TMA及びNHの供給量を設定した。AlNの(0002)面のX線ロッキングカーブを測定したところ、その半値幅は200秒以下であり、転位密度は9×10/cmであり、AFMにより求めた表面粗さRaは0.3nm以下であり、原子ステップが明瞭に観察された。すなわち、AlNによる成長下地層1bは良好な結晶品質を有することが確認された。
【0055】
この際、Al原子面の成長を実現するために、AlN層成長中のAl原料と窒素原料の供給モル比を、1:100となるように設定している。引き続き、成長させた成長下地層1bを保護するために、全ガスの平均流速を2m/secとなるように流量を設定し、GaN膜を厚さ10nm成長させた。
【0056】
このような処理によって、必要数の基板1を得た。引き続いて、HVPE法により、単結晶膜2としてのAlN膜を形成すべく、それぞれの基板1ごとに処理条件を変えつつ処理を行った。
【0057】
まず、反応容器21から取り出した基板1を、製造装置40の反応管41のサセプタ43中に設置した。また、反応管41には、第1のボート45に金属Al原料を保持した、第2のボート47は用いなかった。すなわち、III族元素としては、Alのみを用いるものとした。
【0058】
そして、反応管41内の圧力を5〜50Torrに設定するとともに、第1の加熱装置53における加熱温度を500℃に、第2の加熱装置における加熱温度を1100℃〜1400℃に設定して、反応管41内を昇温させた。昇温中は、NHとNガスのみを供給している。
【0059】
反応管41内の圧力および温度が安定すると、それぞれのガス供給源から、NHガスと、HガスとHClガス(水素希釈、20%HClガス含有)とを第1のガス導入管48を介して第1のボート45の近傍へと供給し、NHガスと、Hガスとを、第3のガス導入管50を介してサセプタ43で保持された基板1の近傍へ供給した。HClの供給量を適宜に調整することにより、AlNの形成速度を40μm/hr以下の所定の値となるように制御することで、厚みが10μmのAlNを得た。なお、反応管41内の圧力は5〜50Torrに設定した。
【0060】
このようにして得られたAlN膜についてRa値により表面平坦性を判断した結果、図5のような結果が得られた。○印を付した条件が、実施例1に相当し、●印を付した条件が比較例に相当する。
【0061】
図6は、図5の○印の点P1の条件によって形成したAlN膜の表面の鳥瞰SEM像である。図6からは、AlN膜が良好は表面平坦性を有していることが確認される。この条件における表面粗さは、Ra値で17nmであった。また、AlNの(0002)面のX線ロッキングカーブを測定したところ、その半値幅は300秒以下であり、転位密度は9×10/cmであった。一方、図7は、図5の●印の点P2の条件によって形成したAlN膜の表面の鳥瞰SEM像である。図7からは、AlN膜の表面に顕著な凹凸が確認される。
【0062】
すなわち、本実施例(および比較例)によれば、HVPE法を用いてAlN単結晶膜を形成する際、その形成速度が式1を満たすように制御することで、表面平坦性の優れたAlN単結晶膜を得ることができることが確認された。
【0063】
<実施例2>
AlN膜の形成に際して、供給ガス種のうちHガスを全てNガスとする以外は、実施例1と同様の処理を行った。
【0064】
式1を満たすように形成速度を制御して得られた全ての単結晶膜においては、図6と同様の表面形態が確認された。表面粗さはRa値で15nm以下であった。また、AlNの(0002)面のX線ロッキングカーブを測定したところ、その半値幅は500秒以下であり、転位密度は9×10/cmであった。
【0065】
すなわち、本実施例によれば、Nガスを雰囲気ガスの主成分とすることにより、より表面平坦性の優れたAlN単結晶膜を得られることが確認された。
【0066】
<変形例>
上述の実施の形態では、第1および第2のボート45および47を上下2段に配置する態様を示しているが、両者がガス流方向に略平行に配置される態様であってもよい。
【0067】
なお、上述の実施の形態で形成した単結晶膜2は、基板1と一体のものとして、デバイス形成等の所定の処理に供することができるが、例えば、レーザーリフトオフ法、エッチング法、研削などを用いて、基材1aから剥離して用いることも可能である。また、単結晶膜2の表面に対して適宜の研磨処理を施すことにより、さらに表面平坦性を向上させた態様にて、そのような後段の処理に供することも出来る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態に係る単結晶成長を説明するための模式図である。
【図2】AFMで観察した成長下地層1bの表面の一例を示す図である。
【図3】成長下地層1bの形成に用いる製造装置10を例示する図である。
【図4】単結晶膜2の形成に用いる製造装置40を例示する図である。
【図5】HVPE法によって単結晶膜2を形成した場合の、表面状態の判定結果を、グラフ化して示す図である。
【図6】式1を満たしてAlN膜を形成した場合のAlN膜表面の鳥瞰SEM像を示す図である。
【図7】式1を満たさずAlN膜を形成した場合のAlN膜表面の鳥瞰SEM像を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 基板
1a 基材
1b 成長下地層
2 単結晶膜
10 (成長下地層の)製造装置
21 反応容器
28 サセプタ
31 反応性ガス導入管
31h 開口部
40 (単結晶膜の)製造装置
41 反応管
43 サセプタ
44 金属Al原料
45、47 ボート
48、49、50 ガス導入菅
53、54 加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HVPE法によりAlNの単結晶膜を作製する方法であって、
所定の単結晶基材の主面上に形成されたAlN単結晶による下地層の上に、
AlN膜の形成温度をT(℃)とし、形成速度をA(μm/hr)とするときに、
A≦0.3T−330
をみたすように前記形成速度を制御しつつAlN膜を形成する、
ことを特徴とするAlN単結晶膜の作製方法。
【請求項2】
請求項1に記載の作製方法であって、
前記下地層が実質的に原子レベルで平坦である、
ことを特徴とするAlN単結晶膜の作製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の作製方法であって、
AlN膜を形成する際の雰囲気ガスの主成分を窒素ガスとする、
ことを特徴とするAlN単結晶膜の作製方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の作製方法であって、
AlN膜の形成に用いるAl原料の供給量を制御することによって前記形成速度を制御する、
ことを特徴とするAlN単結晶膜の作製方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−321705(P2006−321705A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24940(P2006−24940)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年4月8日 物理系学術誌刊行協会発行の「応用物理学会論文誌 Japanese Journal of Applied Physics Vol.44,No.17,2005」に発表
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】