説明

AlN結晶およびその成長方法

【課題】大口径の厚いAlN結晶を安定して成長させることができるAlN結晶の成長方法を提供する。
【解決手段】本AlN結晶の成長方法は、1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2でありかつ100μm以上1000μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプ4mpの密度が0.1cm-2以下である主面4mを有するSiC基板4を準備する工程と、気相法により主面4m上にAlN結晶5を成長させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの半導体デバイスの基板などに用いられるAlN結晶およびその成長方法に関する。さらに詳しくは、SiC基板を用いたAlN結晶の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN結晶は、発光素子、電子素子、半導体センサなどの半導体デバイスを形成するための材料として非常に有用なものである。かかるAlN結晶を作製するための方法としては、昇華法などの気相法がよく用いられる。
【0003】
気相法において、大型のAlN結晶を成長させるためには、大口径の下地基板が必要となる。このため、各種下地基板を用いて昇華法によりAlN結晶をさせることが提案されている(たとえば、特開平10−53495号公報(特許文献1)、米国特許第6045612号明細書(特許文献2)、米国特許第6296956号明細書(特許文献3)、米国特許第6770135号明細書(特許文献4)を参照)。しかし、現実には大口径のAlN基板は入手が困難であるため、下地基板には、成長させるAlN結晶を構成する元素の種類および比率が異なる異種下地基板が用いられる。かかる異種下地基板として、AlN結晶との格子の不整合が小さいSiC基板などが好ましく用いられている。
【特許文献1】特開平10−53495号公報
【特許文献2】米国特許第6045612号明細書
【特許文献3】米国特許第6296956号明細書
【特許文献4】米国特許第6770135号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、昇華法などの気相法においては、AlN結晶の成長温度が、SiCの昇華温度付近またはそれ以上となる場合があり、SiC基板に存在するマイクロパイプが大きく成長するなどSiC基板が劣化しやすい。このため、AlN結晶を安定して厚く成長させることが困難となる。近年は、かかるマイクロパイプが低減されまたは存在しないSiC基板が開発されている。
【0005】
そこで、本発明は、マイクロパイプの密度が小さいかまたはゼロであり劣化が少ないSiC基板を用いて、大口径の厚いAlN結晶を安定して成長させることができるAlN結晶の成長方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2でありかつ100μm以上1000μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0.1cm-2以下である主面を有するSiC基板を準備する工程と、気相法により主面上にAlN結晶を成長させる工程と、を備えるAlN結晶の成長方法である。
【0007】
本発明にかかるAlN結晶の成長方法においては、主面において100μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度を0cm-2としかつ10μm以上100μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度を1.0cm-2以下とすることができる。さらに、主面において10μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度を0cm-2としかつ1μm以上10μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度を1.0cm-2以下とすることができる。さらに、主面において1μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度を0cm-2としかつ0.1μm以上1μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度を1.0cm-2以下とすることができる。ここで、主面をC原子表面とすることができる。
【0008】
また、本発明は、上記の成長方法により得られるAlN結晶であって、結晶主表面における貫通孔の密度が1.0cm-2以下であるAlN結晶である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マイクロパイプの密度が小さいかまたはゼロであり劣化が少ないSiC基板を用いて、大口径の厚いAlN結晶を安定して成長させることができるAlN結晶の成長方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(実施形態1)
本発明にかかるAlN結晶の成長方法の一実施形態は、図1および図2を参照して、1000μm以上のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2でありかつ100μm以上1000μm未満のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0.1cm-2以下である主面4mを有するSiC基板4を準備する工程と、気相法により主面4m上にAlN結晶5を成長させる工程と、を備える。
【0011】
主面4mにおいて1000μm以上のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2でありかつ100μm以上1000μm未満のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0.1cm-2以下と小さいSiC基板4の主面4m上に、AlN結晶5を成長させることにより、大口径の厚いAlN結晶を安定して成長させることができる。
【0012】
本実施形態のAlN結晶の成長方法は、図1を参照して、1000μm以上のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2であり100μm以上1000μm未満のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0.1cm-2以下である主面4mを有するSiC基板4を準備する工程を備える。
【0013】
ここで、図1および図2を参照して、SiC基板4には、結晶欠陥としてマイクロパイプ4mpと呼ばれるパイプ状の孔が含まれる場合がある。かかるマイクロパイプ4mpがSiC基板4の主面4m上に現れている場合、その主面4m上にAlN結晶5を成長させても、マイクロパイプ4mpの直上にはAlN結晶5が成長せず孔5hが形成される。かかる孔5hのいくつかは、AlN結晶5を厚く成長させることにより、AlN結晶5により埋め込まれて埋め込み孔5hsとなって結晶主表面5sに現れない。しかし、孔5hの他のいくつかは、AlN結晶5を厚く成長させても、AlN結晶5により埋め込まれることなく、AlN結晶5のSiC基板4との界面から結晶主表面5sまでAlN結晶5を貫通する貫通孔5htとなって結晶主表面5sに現れる。
【0014】
SiC基板4の主面4m上にAlN結晶5を成長させる際に、AlN結晶5がSiC基板のマイクロパイプ4mpの直上の孔5hを埋め込むか否か、すなわち、成長したAlN結晶5の結晶主表面5sに貫通孔5htが現れないか現れるかは、マイクロパイプ4mpのパイプ径Dおよび密度、AlN結晶5の成長厚さなどによって異なる。マイクロパイプ4mpのパイプ径Dおよび密度が小さくなるほど、また、AlN結晶5の成長厚さが大きくなるほど、AlN結晶5がSiC基板4のマイクロパイプ4mpの直上の孔5hを埋め込む確率が大きくなる。ここで、SiC基板は六方晶系の結晶構造を有するため、マイクロパイプ4mpのパイプ断面の形状は一般的に六角形となる。したがって、マイクロパイプ4mpのパイプ径Dは互いに対向する角の間の距離の平均と定義する。
【0015】
上記の観点から、本実施形態のAlN結晶の成長方法において用いられるSiC基板4は、主面4mにおいて1000μm以上のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2でありかつ100μm以上1000μm未満のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0.1cm-2以下である。かかるSiC基板4の主面4mp上にAlN結晶5を1mm以上の厚さに成長させることにより、SiC基板4のマイクロパイプ4mpの直上に形成される孔5hをAlN結晶5で埋め込むことができ、大口径で厚さの大きいAlN結晶5を安定して成長させることが可能となる。1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプ4mpが存在する主面4m上にAlN結晶5を1mm以上の厚さに成長させても、そのマイクロパイプ4mpの直上に形成される孔5hをAlN結晶5で埋め込むことができない。ここで、1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度および100μm以上1000μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度は、X線トポグラフィ法を用いて測定することができる。
【0016】
また、本実施形態のAlN結晶の成長方法は、図2を参照して、気相法により前記主面上にAlN結晶を成長させる工程を備える。
【0017】
ここで、気相法とは、気相状態となっている原料あるいは気相状態とした原料から基板(SiC基板)上に結晶(AlN結晶)を成長させる方法をいい、昇華法、HVPE(ハイドライド気相成長)法などが含まれる。AlN結晶の成長には、簡便な製造装置を用いても高品質の結晶が得られる観点から、昇華法がよく用いられる。以下、昇華法によりSiC基板上にAlN結晶を成長させる方法について説明する。
【0018】
本実施形態において用いられる昇華法とは、図3を参照して、AlN原料2をを昇華させた後、SiC基板4上に再度固化させてAlN結晶5を得る方法をいう。昇華法による結晶成長においては、たとえば、図3に示すような高周波加熱方式の縦型の昇華炉10を用いる。この縦型の昇華炉10における反応容器11の中央部には、通気口12cを有するWC製の坩堝12が設けられ、坩堝12の周りに坩堝12の内部から外部への通気を確保するようにカーボン製の加熱体13が設けられている。坩堝12は、坩堝本体12qと坩堝蓋12pにより構成されている。また、反応容器11の外側中央部には、加熱体13を加熱するための高周波加熱コイル14が設けられている。さらに、反応容器11の端部には、反応容器11の坩堝12の外部にN2ガスを流すためのN2ガス導入口11aおよびN2ガス排出口11cと、坩堝12の下面および上面の温度を測定するための放射温度計15が設けられている。
【0019】
本実施形態のAlN結晶の成長方法において、SiC基板4の主面4m上にAlN結晶5を成長させる工程は、たとえば、図3を参照して、上記縦型の昇華炉10を用いて、以下のように行なわれる。
【0020】
まず、坩堝本体12qの下部にAlN原料2を収納し、坩堝蓋12pの内面上に、上記のSiC基板4を、その主面4mがAlN原料2に対向するように配置する。次に、反応容器11内にN2ガスを流しながら、高周波加熱コイル14を用いて加熱体13を加熱することにより坩堝12内の温度を上昇させて、坩堝12のAlN原料2側の温度を、SiC基板4側の温度よりも高く保持することによって、AlN原料2からAlNを昇華させて、SiC基板4の主面4m上でAlNを再度固化させてAlN結晶5を成長させる。
【0021】
ここで、AlN結晶5の成長中は、坩堝12のAlN原料2側の温度(以下、昇華温度ともいう。)は1600℃〜2300℃程度とし、坩堝12のSiC基板4側の温度(以下、結晶成長温度ともいう)をAlN原料2側の温度(昇華温度)より10℃〜200℃程度低くすることにより、大口径で厚いAlN結晶5が安定して得られる。また、結晶成長中も反応容器11内の坩堝12の外側にN2ガスを、ガス分圧が101.3hPa〜1013hPa程度になるように流し続けることにより、AlN結晶5への不純物の混入を低減することができる。
【0022】
なお、坩堝12内部の昇温中は、坩堝12のAlN原料2側の温度よりもそれ以外の部分の温度を高くすることにより、坩堝12内部の不純物を通気口12cを通じて除去することができ、AlN結晶5への不純物の混入をより低減することができる。
【0023】
本実施形態のAlN結晶の成長方法において用いられるSiC基板4は、主面4mにおいて100μm以上のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2でありかつ10μm以上100μm未満のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が1.0cm-2以下であることが好ましい。かかるSiC基板4の主面4m上にAlN結晶5を1mm以上の厚さに成長させることにより、SiC基板4のマイクロパイプ4mpの直上に形成される孔5hをAlN結晶5で埋め込むことができ、大口径で厚さの大きいAlN結晶をさらに安定して成長させることが可能となる。ここで、100μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度および10μm以上100μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度は、X線トポグラフィ法を用いて測定することができる。
【0024】
本実施形態のAlN結晶の成長方法において用いられるSiC基板4は、主面4mにおいて10μm以上のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2でありかつ1μm以上10μm未満のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が1.0cm-2以下であることがより好ましい。かかるSiC基板4の主面4m上にAlN結晶5を1mm以上の厚さに成長させることにより、SiC基板4のマイクロパイプ4mpの直上に形成される孔5hをAlN結晶5で埋め込むことができ、大口径で厚さの大きいAlN結晶をさらに安定して成長させることが可能となる。ここで、10μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度および1μm以上10μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度は、X線トポグラフィ法を用いて測定することができる。
【0025】
本実施形態のAlN結晶の成長方法において用いられるSiC基板4は、主面4mにおいて1μm以上のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が0cm-2でありかつ0.1μm以上1μm未満のパイプ径Dを有するマイクロパイプ4mpの密度が1.0cm-2以下であることがさらに好ましい。かかるSiC基板4の主面4m上にAlN結晶5を1mm以上の厚さに成長させることにより、SiC基板4のマイクロパイプ4mpの直上に形成される孔5hをAlN結晶5で埋め込むことができ、大口径で厚さの大きいAlN結晶をさらに安定して成長させることが可能となる。ここで、1μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度は、X線トポグラフィ法を用いて測定することができる。また、0.1μm以上1μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度は、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて測定することができる。
【0026】
本実施形態のAlN結晶の成長方法において、SiC基板の主面はC原子表面であることが好ましい。SiC基板の主面であるC原子表面上にAlN結晶を成長させると、AlN結晶はC原子表面上に2次元的に広がって成長するため、SiC基板の主面であるSi原子表面上にAlN結晶を成長させる場合に比べて、結晶主表面が平坦になり易くなる。
【0027】
(実施形態2)
本発明にかかるAlN結晶の一実施形態は、図2を参照して、実施形態1の成長方法により得られるAlN結晶5であって、結晶主表面5sにおける貫通孔5htの密度が1.0cm-2以下である。実施形態1のAlN結晶の成長方法により、AlN結晶を1mm以上の厚さに成長させることにより、結晶主表面5sにおける貫通孔5htの密度が1.0cm-2以下のAlN結晶が得られる。
【0028】
実施形態1のAlN結晶の成長方法においては、ある範囲内のパイプ径を有するマイクロパイプが存在するSiC基板上においては、それより1/10以下のパイプ径のマイクロパイプの存在の影響をほとんど受けないでAlN結晶が成長する。このため、1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2でありかつ100μm以上1000μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0.1cm-2以下である主面を有するSiC基板、100μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2でありかつ10μm以上100μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下である主面を有するSiC基板、10μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2であり1μm以上10μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下である主面を有するSiC基板、および1μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2であり0.1μm以上1μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下である主面を有するSiC基板のいずれの基板を用いても、結晶主表面における貫通孔の密度が1.0cm-2以下であるAlN結晶が得られる。
【0029】
なお、AlN結晶の成長方法は、本実施形態においては、昇華法に基づいて説明したが、HVPE(ハイドライド気相成長)法などの他の気相法においても適用可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0030】
(実施例A)
1.SiC基板の準備
市販されている多数の直径1in(25.4mm)×厚さ400μmの4H−SiC基板(CREE社製、シクスオン社製など)の中から、主面であるSi原子表面において表1に示すようなパイプ径Dのマイクロパイプを表1に示すような密度で有する複数のSiC基板(実施例A1〜A8の基板、比較例AR1〜AR4)を選択した。なお、表1において、「−」は未測定であることを示す。
【0031】
2.AlN結晶の成長
図3を参照して、WC製の坩堝本体12qの下部に、原料としてAlN焼結体(AlN原料2)を配置した。次いで、WC製の坩堝蓋12pの内面上に、上記で選択した各4H−SiC基板4をその主表面4mであるSi原子表面がAlN焼結体(AlN原料2)に対向するように配置した。
【0032】
次に、反応容器11内にN2ガスを流しながら、高周波加熱コイル14を用いて坩堝12内の温度を上昇させた。坩堝12内の昇温中は、坩堝12の坩堝蓋12p側の温度をAlN原料2側の温度よりも高くして、昇温中に坩堝蓋12pおよびSiC基板4のSi原子表面(主面4m)をエッチングにより清浄するとともに、昇温中に坩堝12内部から放出された不純物を、通気口12cを通じて除去した。
【0033】
次に、坩堝12のAlN原料2側の温度(昇華温度)を2100℃、4H−SiC基板4側の温度(結晶成長温度)を2000℃にして、AlN焼結体(AlN原料2)からAlNを昇華させて、坩堝12の上部の4H−SiC基板4のSi原子表面(主面4m)上で、AlNを再度固化させてAlN結晶5を成長させた。AlN結晶5成長中も、反応容器11内の坩堝12の外側にN2ガスを流し続け、反応容器11内の坩堝12の外側のガス分圧が101.3hPa〜1013hPa程度になるように、N2ガス導入量とN2ガス排出量とを制御した。上記の結晶成長条件で15時間AlN結晶5を成長させた後、室温(25℃)まで冷却して、坩堝蓋12pを取り出したところ、4H−SiC基板4のSi原子表面(主面4m)上に厚さが約1mmのAlN結晶5が成長していた。このようにして、実施例A1〜A8および比較例AR1〜AR4の4H−SiC基板の主面であるSi原子表面上に厚さ約1mmのAlN結晶を成長させた。
【0034】
こうして得られた、実施例A1〜A8および比較例AR1〜AR4のAlN結晶の結晶主表面における貫通孔の密度を光学顕微鏡観察により算出した。結果を表1にまとめた。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例A1に示すように、1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で100μm以上1000μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0.1cm-2であるSi原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。また、実施例A2およびA3に示すように、100μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で10μm以上100μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下であるSi原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。また、実施例A4およびA5に示すように、10μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で1μm以上10μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下であるSi原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。さらに、実施例A6〜A8に示すように、1μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で0.1μm以上1μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下であるSi原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。こうして、直径が1in(25.4mm)で厚さが約1mmのAlN結晶を安定して成長させることができた。
【0037】
(実施例B)
1.SiC基板の準備
市販されている多数の直径1in(25.4mm)×厚さ400μmの4H−SiC基板(CREE社製、シクスオン社製など)の中から、主面であるC原子表面において表1に示すようなパイプ径のマイクロパイプを表2に示すような密度で有する複数のSiC基板(実施例B1〜B8の基板、比較例BR1〜BR4)を選択した。なお、表2において、「−」は未測定であることを示す。
【0038】
2.AlN結晶の成長
WC製の坩堝蓋12pの内面上に、上記で選択した各4H−SiC基板4をその主表面4mであるC原子表面がAlN焼結体(AlN原料2)に対向するように配置したこと以外は、実施例A1と同様にして、実施例B1〜B8および比較例BR1〜BR4の4H−SiC基板の主面であるC原子表面上に厚さ約1mmのAlN結晶を成長させた。
【0039】
こうして得られた、実施例B1〜B8および比較例BR1〜BR4のAlN結晶の結晶主表面における貫通孔の密度を光学顕微鏡観察により算出した。結果を表2にまとめた。
【0040】
【表2】

【0041】
実施例B1に示すように、1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で100μm以上1000μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0.1cm-2であるC原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。また、実施例B2およびB3に示すように、100μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で10μm以上100μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下であるC原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。また、実施例B4およびB5に示すように、10μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で1μm以上10μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下であるC原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。さらに、実施例B6〜B8に示すように、1μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2で0.1μm以上1μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下であるC原子表面(主面)上に成長させたAlN結晶の結晶表面における貫通密度は0cm-2であった。こうして、直径が1in(25.4mm)で厚さが約1mmのAlN結晶を安定して成長させることができた。
【0042】
また、実施例A1〜A8および実施例B1〜B8のAlN結晶の主表面をAFM(原子間力顕微鏡)により観察したところ、表2に示すように、実施例B1〜B8のAlN結晶の主表面は、それぞれ実施例A1〜A8のAlN結晶の主表面に比べて、より平坦であった。
【0043】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明にかかる成長方法により得られたAlN結晶は、発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光素子、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(高電子移動度トランジスタ)などの電子素子、微小電子源(エミッタ)、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視-紫外光検出器などの半導体センサ、SAW(表面弾性波)デバイス、振動子、共振子、発振器、MEMS(Micro Electro Mechanical System)部品、圧電アクチュエータなどのデバイス用の基板として広く用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明にかかるAlN基板の成長方法において用いられるSiC基板の一実施形態を示す概略図である。ここで、(A)は概略平面図を示し、(B)は(A)のIB−IBにおける概略断面図を示す。
【図2】本発明におけるAlN結晶の成長方法の一実施形態を示す概略断面図である。
【図3】本発明におけるAlN結晶の成長方法の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0046】
2 AlN原料、4 SiC基板、4m 主面、4mp マイクロパイプ、5 AlN結晶、5h 孔、5hs 埋め込み孔、5ht 貫通孔、5s 結晶主表面、10 昇華炉、11 反応容器、11a N2ガス導入口、11c N2ガス排出口、12 坩堝、12c 通気口、12p 坩堝蓋、12q 坩堝本体、13 加熱体、14 高周波加熱コイル、15 放射温度計、D パイプ径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2でありかつ100μm以上1000μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0.1cm-2以下である主面を有するSiC基板を準備する工程と、
気相法により前記主面上にAlN結晶を成長させる工程と、を備えるAlN結晶の成長方法。
【請求項2】
前記主面において100μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2でありかつ10μm以上100μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下である請求項1に記載のAlN結晶の成長方法。
【請求項3】
前記主面において10μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2でありかつ1μm以上10μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下である請求項2に記載のAlN結晶の成長方法。
【請求項4】
前記主面において1μm以上のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が0cm-2でありかつ0.1μm以上1μm未満のパイプ径を有するマイクロパイプの密度が1.0cm-2以下である請求項3に記載のAlN結晶の成長方法。
【請求項5】
前記主面がC原子表面である請求項1から請求項4までのいずれかに記載のAlN結晶の成長方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかの成長方法により得られるAlN結晶であって、結晶主表面における貫通孔の密度が1.0cm-2以下であるAlN結晶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−137777(P2009−137777A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313359(P2007−313359)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】