説明

Cu配線膜形成方法

【課題】半導体デバイスでCu配線を用いる場合に、拡散バリア用下地膜とCu配線膜との密着性を、簡易な構成と簡略な工程で向上させることができ、製作コストの低下と生産効率の向上を実現できるCu配線膜形成方法を提供する。
【解決手段】拡散バリア用TiN膜を下地膜として成膜し、この下地膜の上にCu配線膜を成膜する方法であって、前記下地膜の成膜工程とCu配線膜の成膜工程の間に、下地膜の成膜工程後大気にさらすことなく真空一貫の状態で前記下地膜を200℃以上の温度で加熱するアニール工程を設ける。このアニール工程ではアンモニア単体またはアンモニアガスを含むガスを用い、該アニール工程の後、前記Cu膜をCVD法により成膜することで、前記下地膜とその後の成膜で堆積する上層のCu膜との密着性を高くすることができる。アニール工程は、下地膜の成膜を行うチャンバと同じチャンバで実施することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスで配線材料としてCuを用いる場合に拡散バリア用下地膜と配線用Cu膜の間の密着性を高めたCu配線膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの高性能化で配線材料としてCu(銅)が注目されている。その理由は、Cuは、Al(アルミニウム)に比較して、ストレスマイグレーションやエレクトロマイグレーションという配線を構成する金属原子の拡散挙動が支配する現象に対して高い耐性を有しているからである。Cu膜の成膜方法としては、多層配線層間の接続孔(ビアホールまたはコンタクトホール)等の段差被覆性が優れたCVD法(化学気相成長法)が使用される。一方、Cu膜を半導体デバイスの配線材料として利用する場合、Cu膜中のCu原子はシリコンやシリコン酸化膜の中に拡散し、トランジスタ素子等の電気特性に悪影響を及ぼすため、配線層のCu原子の拡散を阻止する目的で拡散防止用薄膜(拡散バリア層)を下地膜として形成する必要がある。拡散バリア層としては熱的に安定な高融点金属の窒化物としてのTiNが注目されている。シリコン大規模集積回路の極微細化によるビアホール等の増加するアスペクト比に対する良好なステップカバリレッジの形成方法としてTiN膜のCVD法が研究されている。
【0003】
かかる配線用Cu膜を形成するCVD法では、従来より拡散バリア用下地膜であるTiN膜とCu膜の間の密着性が弱いという問題があり、そのため配線形成後の研磨工程等でCu膜が剥がれるという不具合があった。密着性が弱い理由は、MOCVD法で成膜されたTiNの膜中からガスが放出されるからである。従来では、下地膜とCu膜の間の密着性を高めるために、密着層としてのTi膜を設ける方法があった。また当該密着性を良好にする従来の技術として特許文献1に開示される半導体装置の製造方法があった。この方法によれば、例えばその実施例1に記載されるごとく、拡散防止層としての下地のTiN膜をスパッタリング法で成膜し、さらにTiN膜の上に熱CVD法により成膜されたCu膜を、その後で加熱処理するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−288242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体デバイスで配線材料としてCu膜を用いるとき、拡散バリア用下地膜としてのTiN膜と配線用Cu膜との間の密着性を高めるためTi膜を成膜する方法は、Ti膜を成膜するための装置構成(電力供給系を備えたプラズマ生成機構等)を別途に追加しなければならず、装置の複雑化を招くという問題が起きる。上記密着性を高くするための手段は、低コストな簡易な構成で実現されることが望まれる。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、半導体デバイスでCu配線を用いる場合において、拡散バリア用下地膜とCu配線膜との密着性を高め、簡易な構成および簡略な工程で密着性を向上でき、製作コストの上昇と生産効率の低下を抑制したCu配線膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るCu配線膜形成方法は、MOCVD法により原料としてテトラキスジアルキルアミノチタン(TDAAT)を用いて拡散バリア用TiN膜を下地膜として成膜し、この下地膜の上に配線用Cu膜を成膜するCu配線膜形成方法において、前記下地膜の成膜工程と前記Cu膜の成膜工程の間に、前記下地膜の成膜工程後大気にさらすことなく真空一貫の状態で前記下地膜を200℃以上の温度で加熱するアニール工程を設け、このアニール工程ではアンモニア単体またはアンモニアガスを含むガスを用い、前記アニール工程の後、前記Cu膜をCVD法により成膜することを特徴とする。さらに好ましくは、前記アニール工程を1Pa〜10kPaの圧力範囲で行い、前記アンモニア単体またはアンモニアを含むガスによりラジカルを生成させ、このラジカルにより前記下地膜に残留する不純物を放出させることを特徴とする。MOCVD法によるTDAATを用いたTiN膜は、非常に活性で、大気にさらされると、大気中の酸素等と反応を起こし、また、酸素をTiNの膜中に取り込む。真空下にあり、酸素を取り込んでいないTiN膜は、前記アニール工程により、成膜時残留したガスを放出させることは容易であるが、一旦、大気にさらすことにより取り込んだ酸素を放出することは困難である。ここにMOVCD法によるTiN膜の成膜とアニール工程が真空一貫の条件下で行われる必要性がある。これによって、TiN膜中の密着性に悪影響を及ぼす残留ガスは低減され、その後の成膜で堆積する上層のCu膜との密着性が向上する。200〜500℃の温度範囲は、例えばMOCVD−TiN膜の場合、膜形成後のCu−CVDの成膜条件は通常200℃以下であり、従って最低限200℃以上に加熱しないと、密着性改善の効果が不十分となる。また上限の500℃は、高温アニールによる基板へのダメージが生じない温度範囲であり、半導体製造工程で広く実施されている多層配線形成時の上限温度である。ただし、アニール工程で使用されるガスは、窒素、アルゴン、水素、アンモニアのうちのいずれか1種類のガスあるいは2種類以上の混合ガスであり、その圧力範囲は1Pa〜10kPaとする。特に、アニール工程で使用するガスとして、アンモニア単体やこれを含む混合ガスを用いた場合、アンモニアは、200℃以上で乖離を起こし、化学的に活性なラジカル(NH,NH2 等)を生成するため、これらのラジカルにより、TiN膜中の不純物の除去をさらに促進させ、堆積するCu膜との密着性をいっそう高める効果がある。
【0008】
上記方法において、下地膜はTiN膜であってMOCVD法で成膜され、Cu膜はCVD法で成膜される。本発明ではMOCVD法で作製されるTiN膜が最も好ましい。MOCVD法でTiN膜をバリア層として成膜する場合、原料としてはテトラキスジアルキルアミノチタン(TDAAT)が好ましい。また上記のアニール工程は、TiN膜の成膜が行われるチャンバ内で、成膜工程が終了した後に行うことも可能である。
【発明の効果】
【0009】
発明によれば、MOCVD法により所定の原料を用いて拡散バリア用のTiN膜を成膜し、このTiN膜の上にCu配線膜を成膜する方法において、TiN膜の成膜とCu配線膜の成膜の間に下地膜の成膜工程後大気にさらすことなく真空一貫の状態で200〜500℃の温度で加熱するアニール工程を設けため、TiN膜とCu配線膜との密着性を高めることができ、特にアンモニアガスを用いた場合、良好な密着性が得られた。その結果、簡易な構成および簡略な工程で密着性を向上でき、製作コストの上昇と生産効率の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明に係るCu配線膜形成方法の実施する装置の概略構成の一例を示す。この装置は、MOCVD(Metal Organic Chemical vapour Deposition)チャンバ11、CVDチャンバ12、アニールチャンバ13を備えたマルチチャンバ式装置である。この装置の構成によれば、中央に位置する搬送モジュール14の周囲にMOCVDチャンバ11、CVDチャンバ12、アニールチャンバ13が設けられ、さらに2つのロード/アンロード・ロック・モジュール15,16が付設されている。ここで「モジュール」とは、装置・機械・システムを構成する部分で、機能的にまとまった部分を意味する。なおMOCVD、CVD、アニールが実施されるチャンバもモジュールとして構成されるのは当然であるが、これらの処理方法が実施される場所を指す用語としてチャンバが使用される。チャンバ等の各々にはゲートバルブ17が設けられている。搬送モジュール14のチャンバ中には搬送ロボット(基板搬送機構)18が設けられ、搬送ロボット18はそのハンドでシリコン基板19を各チャンバ等に搬入しまたは各チャンバ等から搬出する。
【0012】
上記装置において、カセット(図示せず)にセットされた1枚のシリコン基板19は1つのロード/アンロード・ロック・モジュール15から搬送ロボット18によって搬送モジュール14内に搬入される。MOCVDチャンバ11、CVDチャンバ12、アニールチャンバ13のそれぞれで所定処理を行った後に、シリコン基板19は搬送ロボット18によってロード/アンロード・ロック・モジュール16に戻され、搬出される。上記のマルチチャンバ式装置構成では、搬送モジュール14によって、真空雰囲気に維持されたまま、すなわち大気に晒されることなく真空一貫の接続構造で、予め定められた手順に従って行われる。
【0013】
図1に示された構成において、MOCVDチャンバ11は配線用Cu膜(Cu配線膜)の中の金属原子がシリコン等に拡散するのを防止するバリア層としての下地膜(拡散バリア用下地膜)を成膜するためのチャンバであり、CVDチャンバ12はCu配線膜を成膜するためのチャンバであり、アニールチャンバ13は各層における下地膜の成膜とCu配線膜の成膜に関し下地膜とCu配線膜の密着性を高めるアニール処理を実施するためのチャンバである。MOCVDチャンバ11では、原料ガスが導入され、MOCVD法によって拡散バリア用下地膜が成膜される。下地膜は好ましくはTiN膜である。TiN膜の成膜では、原料としてテトラキスジアルキルアミノチタン(TDAAT)を用いられることが好ましい。またCVDチャンバ12では、有機金属錯体等の原料を用いてCVD法によって、バリア膜であるTiN膜の上にCu配線膜が成膜される。多層配線構造の半導体デバイスの場合、下層の電気回路部と上層の電気回路部との間に層間絶縁膜が形成されており、下層と上層のそれぞれで下地膜の成膜とCu配線膜の成膜が行われる。上層における下地膜とCu配線膜の成膜工程では、下層のCu配線膜との電気的接続を行うため、層間絶縁膜にビアホールを形成し、その後に、バリア層としての下地膜を成膜し、さらにその後に上層のCu配線膜の成膜が行われることになる。上層のCu配線膜の成膜ではCuがビアホールの中に埋め込まれ、ビアプラグが形成され、下層のCu配線膜と上層のCu配線膜とが接続される。
【0014】
本発明によるCu配線膜形成方法では、アニールチャンバ13でのアニール処理によって、各層における下地膜の成膜とCu配線膜の成膜に関し下地膜とCu配線膜の密着性が高められる。MOCVDチャンバ11で基板19に対してMOCVDによって下地膜の成膜が行われた後に、当該基板はアニールチャンバ13に搬入され、ここにおいて当該下地膜は200〜500℃の範囲に含まれる温度でアニールされる。これにより下地膜とCu配線膜の密着性が高められる。本実施形態の場合には、アニール専用のチャンバを設けた構成としたが、特別にアニール工程用のチャンバを設けず、例えばMOCVDチャンバ11にてアニール工程が実施されるように構成することもできる。MOCVDチャンバ11は、本来、前述のごとく拡散バリア用の下地膜を成膜するためのチャンバではあるが、500℃までの加熱が可能な熱CVDチャンバとして構成されているものであるので、これによってMOCVDチャンバ11内で密着性改善のためのアニール工程を行うことが可能となる。従って、MOCVDチャンバ11で、MOCVDによって下地膜の成膜が行われた後に、当該下地膜は200〜500℃の範囲に含まれる温度でアニールすることもできる。
【0015】
上記のごとくアニールチャンバ13でアニール処理が行われた後に、基板19はCVDチャンバ12に搬入され、ここでCu配線膜が成膜される。
【0016】
上記の構成において、各チャンバ11,12,13には、それぞれ真空排気機構11a,12a,13aを備える。各チャンバは、その真空排気機構によって内部を適宜な減圧状態すなわち所望の真空状態に保持される。真空排気機構11a,12a,13aの動作はコントローラ20によって制御される。またアニール工程で使用されるガス(窒素、アルゴン、水素、アンモニア)は、主にMFCと配管より構成されるガス供給系(図示せず)によりアニールチャンバ13へ導入されるが、その他のチャンバで使用されるプロセスガスと同様、それらの流量制御も上記コントローラ20によって行われる。
【0017】
またチャンバ11,12,13の間の基板の移動は、基板に対する処理の手順に応じて決まる。当該基板19の移動は、搬送ロボット18の動作によって行われる。基板19の移動の仕方についてはコントローラ20によって制御される。また各チャンバ11,12,13における下地膜あるいはCu配線膜の成膜、下地膜のアニール等の各動作もコントローラ20によって制御される。
【0018】
次に、本発明に係るCu配線膜形成方法の実施例について述べる。
【0019】
実施例1:
MOCVDチャンバ11において拡散バリア用下地膜としてTiN膜を成膜する条件は次の通りである。まず原料としてTDAATが例えば0.004〜0.2g/分の範囲で供給され、このときキャリアガス(アルゴン:Ar)は例えば100〜1000sccmの流量範囲で、添加ガス(NH3 )は例えば1〜500sccmの流量範囲で供給される。MOCVDチャンバ11の内部圧力は例えば0.1〜15Paの範囲である。さらに温度条件は例えば約300〜400℃となるように加熱される。上記の条件によってバリア層であるTiN膜は例えば10〜30nmの膜厚で成膜される。
【0020】
実施例2:
アニールチャンバ13において、成膜されたTiN膜をアニールする条件は、次の通りである。基板はその温度が例えば約400℃になるように加熱される。その結果、TiN膜は400℃で加熱される。このとき、チャンバ内はArが導入され、Ar雰囲気で例えば約8.0Paに保持されている。加熱時間は例えば約10分である。
【0021】
実施例3:
アニールに使用するガスとしてアンモニアを用いた場合のアニール条件は次の通りである。アンモニア流量を50sccm、窒素流量を50sccmの混合ガスを使用し、圧力1kPa、加熱温度300℃で30分加熱した。
【0022】
実施例4:
CVDチャンバ12において拡散バリア用下地膜としての上記TiN膜の上にCu配線膜を成膜する条件は次の通りである。材料としてCu(hfac)(tmvs)が例えば約0.17g/分の流量で供給され、このときキャリアガス(H2 )が例えば約300sccmで供給される。また成膜の際の温度は例えば約170℃に保持され、内部圧力は例えば約2.6kPaに保持される。この条件で、Cu配線膜は約200nmの膜厚で成膜される。
【0023】
前述の本実施例(実施例1〜4)と同じ手順で成膜したCVDCu/MO−CVDTiN/Siウェハーの積層構造を有する試料について、Cu膜とTiN膜の密着性の評価としてテープ(メンディングテープ)を用いた引き剥がし試験を行った。下記の表1は、実施例および比較例のテープ引き剥がし試験の評価結果を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
上記の表中では、CVDCu/MO−CVDTiNの積層条件の違い、つまり、MO−CVDTiN成膜後のアニールの有無、および積層過程での雰囲気の違いにより、比較用として比較例A〜Cを作成した。ただし、上記アニールの有無、および積層過程での雰囲気以外のCVDCu/MO−CVDTiNの積層条件本実施例と同等である。また表中の密着性評価結果において、○はCu膜の剥離がなかったもの、△は一部剥離が確認されたもの、×は完全にCu膜が箔状に剥がれたものを示している。以上のことから、本発明によるCu配線膜の形成方法を用いることにより、Cu膜と下地であるTiN膜との密着性を向上させることができることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るCu配線膜形成方法を実施するための装置の概略図である。
【符号の説明】
【0027】
11 MOCVDチャンバ
12 CVDチャンバ
13 アニールチャンバ
14 搬送モジュール
18 搬送ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOCVD法により原料としてテトラキスジアルキルアミノチタン(TDAAT)を用いて拡散バリア用TiN膜を下地膜として成膜し、この下地膜の上に配線用Cu膜を成膜するCu配線膜形成方法において、前記下地膜の成膜工程と前記Cu膜の成膜工程の間に前記下地膜の成膜工程後大気にさらすことなく真空一貫の状態で前記下地膜を200℃以上の温度で加熱するアニール工程を設け、このアニール工程ではアンモニア単体またはアンモニアガスを含むガスを用い、前記アニール工程の後、前記Cu膜をCVD法により成膜することを特徴とするCu配線膜形成方法。
【請求項2】
前記アニール工程を1Pa〜10kPaの圧力範囲で行い、前記アンモニア単体またはアンモニアを含むガスによりラジカルを生成させ、このラジカルにより前記下地膜に残留する不純物を放出させることを特徴とする請求項1に記載のCu配線膜形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−166847(P2008−166847A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70590(P2008−70590)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【分割の表示】特願平11−135592の分割
【原出願日】平成11年5月17日(1999.5.17)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】