説明

PLLシンセサイザ

【課題】 高速起動性、低消費電力性、定常状態における低スプリアス性を同時に満足させるPLLシンセサイザを構成する。
【解決手段】 可変整数分周器と可変分数分周器としての機能を有し、外部からの切換信号によりこの2つの分周器の機能を切り換える手段を含む切換型可変分周器と、外部からの切換信号により分周比の切り換えが可能な切換型基準分周器と、切換型可変分周器を可変分数分周器として機能させ、かつ切換型基準分周器の出力信号の周波数が電圧制御発振器の出力信号の周波数チャネル間隔より大きくなるようにその分周比を設定する分数分周モードと、切換型可変分周器を可変整数分周器として機能させ、かつ切換型基準分周器の出力信号の周波数が電圧制御発振器の出力信号の周波数チャネル間隔に等しくなるようにその分周比を設定する整数分周モードを切り換える切換制御回路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送受信装置に用いられるPLLシンセサイザに関する。
【背景技術】
【0002】
図16は、従来の整数分周型のPLLシンセサイザの構成例を示す。図16において、整数分周型のPLLシンセサイザは、高精度の基準周波数信号を出力する基準発振器1、基準分周器2、位相比較器3、ループフィルタ4、電圧制御発振器(VCO)5、分周比が可変かつ整数である可変整数分周器6Aにより構成される。
【0003】
電圧制御発振器5の出力信号は、分岐して可変整数分周器6Aに入力され、分周して位相比較器3の一方の入力としてフィードバックされる。基準発振器1から出力される基準周波数信号は基準分周器2で分周され、位相比較器3の他方の入力として与えられる。位相比較器3は、2つの入力信号の位相比較を行い、その出力信号をループフィルタ4を介して電圧制御発振器5に与え、基準周波数に対応する発振周波数になるように制御する。
【0004】
このような構成のPLLシンセサイザにおいて、引き込み時間を短縮するためは基準分周器2の出力周波数を高くする必要がある。ここで、基準分周器2の初期の出力周波数をfr=Δfとし、可変整数分周器6Aがとる分周比を
…,N−1,N,N+1,…
とすると、引き込み後の電圧制御発振器5の出力周波数は、
…,(N−1)Δf,NΔf,(N+1)Δf,…
となり、間隔Δfの周波数チャネルを有することになる。
【0005】
引き込み時間を短縮するために、基準分周器2の出力周波数をL倍(Lは整数)であるfr=LΔfとし、可変整数分周器6Aがとる分周比を
…,N/L−1,N/L,N/L+1,…
とすると(N/Lは整数)、引き込み後の電圧制御発振器5の出力周波数は、
…,(N−L)Δf,NΔf,(N+L)Δf,…
となる。このとき、周波数は間隔LΔfで変化するので、間隔Δfの周波数チャネルに対して使用できない周波数チャネルが生じ、必ずしも収束時間を短縮できない問題がある。
【0006】
図17は、従来の分数分周型(フラクショナルN)のPLLシンセサイザの構成例を示す。図16に示す整数分周型のPLLシンセサイザとの違いは、可変整数分周器6Aに代えて可変分数分周器6Bを用いるところにある。
【0007】
基準分周器2の出力周波数をL倍(Lは整数)であるfr=LΔfとし、可変分数分周器6Bがとる分周比を
N/L,(N+1)/L,(N+2)/L,…
とすると、引き込み後の電圧制御発振器5の出力周波数は、
NΔf,(N+1)Δf,(N+2)Δf,…
となり、周波数は間隔Δfで変化するので、すべての周波数チャネルを使用できることになる。
【0008】
図18は、可変分数分周器6Bの構成例を示す。図18において、可変分数分周器6Bは、可変分周器61とアキュムレータ(ACC)62を用いて構成される。アキュムレータ62は、基準分周器2から基準周波数信号をクロックとして入力し、その1クロックごとにnずつインクリメントし、その内容がm以上になるとオーバーフロー信号を出力し、可変分周器61の分周比をNからN+1に切り替える。
【0009】
すなわち、アキュムレータ62ではα個のクロック入力後の内容はαnになる。ここで、α>1,n≧0,m>nの関係がある整数である。αn≧mとなったときに、アキュムレータ62はオーバーフロー信号を出力し、可変分周器61の分周比をN+1にすると同時に内容をαn−mとし、再び1クロックごとにインクリメントを行う。このように、アキュムレータ62はmクロック中n回オーバーフローを起こすので、可変分周器61の分周比はmクロック中n回はN+1で、残りの(m−n)回はNになる。したがって、このmクロックの1クロック当たりの平均分周比は、
((N+1)n+N(m−n))/m=N+n/m
となる。ここで、m>nなのでn/m<1となる。
【0010】
例えば、m=8,n=3とすると、クロック入力ごとにアキュムレータ62の内容は3,6と累算される。次のクロック入力で9となるが、このときオーバーフローを起こし、8を引いた残りの1を初期値として累算動作を継続する。この結果、アキュムレータ62の内容は、
3,6,,4,7,,5,,3,…
と変化し、8クロックに対して下線を引いた3回のオーバーフローを起こす。可変分周器61は、オーバーフロー信号に応じてその分周比をNからN+1に変更する。したがって、分周比は8クロック中3回がN+1、5回がNとなるので、平均分周比はN+3/8となる。
【0011】
以上説明したように、分数分周型(フラクショナルN)PLLシンセサイザは、可変周波数ステップ幅を増やすことなく、基準分周器2の出力周波数を高くすることができるので、引き込み時間を短縮できる。
【0012】
しかし、この方法では位相比較器3の出力がmクロックの周期性をもって変化するので、電圧制御発振器5の制御電圧が周期性をもち、電圧制御発振器5の出力はスプリアスを生じる。このスプリアスは、PLLシンセサイザの周波数が一定である定常状態においてチャネル間干渉の原因となり、望ましくない。
【0013】
このスプリアスを低減する方法として、図19に示す位相誤差拡散回路が用いられる(非特許文献1)。図19において、アキュムレータ(ACC)62−1〜62−4は縦属に接続され、それぞれのオーバーフロー信号OVF1〜OVF4が直接または遅延素子(τ)63を介して加算器64に入力され、加算器64の出力が可変分周器61に与えられる。ここで、遅延素子63は1クロックだけ信号を遅らせる。
【0014】
1段目のACC62−1は、オーバーフローを起こすとその1クロックで分周比を+1とする。2段目のACC62−2は、ACC62−1の出力a1を毎クロック累積した結果として生じたOVF2により分周比を+1とし、次のクロックでは−1とする。3段目のACC62−3は、ACC62−2の出力a2を累積してOVF3で+1、次のクロックで−2、さらに次のクロックで+1とする。4段目のACC62−4は、ACC62−3の出力a3を累積してOVF4で+1、次のクロックで−3、次のクロックで+3、次のクロックで−1とする。
【0015】
これらの信号を受けた加算器64は、分周比Nと分周比変化分の総和を可変分周器61の分周比に設定する。この結果、分周比の変化が頻繁になり、分周比の変化による周波数成分は高周波数域に拡散され、低周波数域のスプリアスが低減される。ここでは、アキュムレータを4段にしたが、さらに多段に接続することにより、低周波数域のスプリアスを低減することができる。アキュムレータの段数と分周比の変化分との関係は、図20のパスカルの三角形で表される(1−z)i、i=(アキュムレータの段数−1)を展開したときのzk (0≦k≦i)の係数と等しくなる。
【非特許文献1】足立寿史,他,「分数分周方式を用いた高速周波数切換シンセサイザ」,電子情報通信学会論文誌 C-1, Vol.J76-C-1, No.11, pp.445-452, 1993年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記の従来技術を整理すると、分数分周器を用いたPLLシンセサイザは、可変周波数ステップ幅を増やすことなく基準分周器の出力周波数を高くすることができるので、引き込み時間を短縮し、高速起動を実現することができる。しかし、電圧制御発振器の制御電圧の周期性により出力がスプリアスを生じる問題があった。一方、スプリアスを低減するために位相誤差拡散回路を用いた回路構成は、スプリアス低減効果は期待できるものの、大規模な回路構成が必要となり、消費電力が増大する問題がある。このように、従来のPLLシンセサイザでは、(1) 高速起動性、(2) 低消費電力性、(3) 定常状態における低スプリアス性の3点を同時に満足するものはなかった。
【0017】
本発明は、高速起動性、低消費電力性、定常状態における低スプリアス性を同時に満足することができる、あるいはそれぞれの用途に応じて使い分けができるPLLシンセサイザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、入力する制御信号に応じた発振周波数の信号を出力する電圧制御発振器と、電圧制御発振器の出力信号を分岐して入力し、可変設定される分周比で分周して出力する可変分周器と、高精度の基準周波数信号を出力する基準発振器と、基準周波数信号を所定の分周比で分周して出力する基準分周器と、基準分周器の出力信号と可変分周器の出力信号を入力して位相比較を行い、その位相差信号を出力する位相比較器と、位相差信号を平滑化して制御信号として電圧制御発振器に与えるループフィルタとを備え、電圧制御発振器の出力信号を可変分周器を介して位相比較器にフィードバックする位相同期ループ(PLL)構成により、基準分周器の出力信号に対して電圧制御発振器の出力信号の周波数および位相の同期引き込みを行うPLLシンセサイザにおいて、可変分周器は、分周比が整数である可変整数分周器と、1クロック当たりの平均分周比が分数で表される可変分数分周器としての機能を有し、外部からの切換信号によりこの2つの分周器の機能を切り換える手段を含む切換型可変分周器であり、基準分周器は、外部からの切換信号により分周比の切り換えが可能な切換型基準分周器であり、切換型可変分周器を可変分数分周器として機能させ、かつ切換型基準分周器の出力信号の周波数が電圧制御発振器の出力信号の周波数チャネル間隔より大きくなるようにその分周比を設定する分数分周モードと、切換型可変分周器を可変整数分周器として機能させ、かつ切換型基準分周器の出力信号の周波数が電圧制御発振器の出力信号の周波数チャネル間隔に等しくなるようにその分周比を設定する整数分周モードを切り換える切換信号を生成し、切換型可変分周器および切換型基準分周器に送出する切換制御回路を備える。
【0019】
切換制御回路は、同期引き込みにおける初期状態から定常状態に遷移するまでの期間は分数分周モードに設定する切換信号を出力し、定常状態に遷移した後は整数分周モードに設定する切換信号を出力する構成としてもよい。
【0020】
さらに、切換制御回路は、初期状態では分数分周モードに設定する切換信号を出力し、タイマを用いて同期引き込みによる周波数が一定値に収束したと見なす設定時間の経過を検出したタイミングで整数分周モードに設定する切換信号を出力する構成としてもよい。また、切換制御回路は、初期状態では分数分周モードに設定する切換信号を出力し、位相比較器またはループフィルタの出力をモニタするロック検出回路を用い、同期引き込みによる位相周波数誤差が許容範囲内に収束したことを検出したタイミングで整数分周モードに設定する切換信号を出力する構成としてもよい。
【0021】
ここで、切換制御回路は、タイマまたはロック検出回路の検出タイミングで、かつ位相比較器の2つの入力信号の立ち下がり(または立ち上がり)の直後のタイミングで切換信号を出力する構成としてよい。
【0022】
また、ループフィルタは、注入電流の切り換えが可能な電流切換チャージ・ポンプ回路を含み、切換制御回路から出力される切換信号に応じてその注入電流を切り換える構成としてもよい。また、ループフィルタは、抵抗値の切り換えが可能な低域通過フィルタを含み、切換制御回路から出力される切換信号に応じてその抵抗値を切り換える構成としてもよい。ここで、切換信号により分数分周モードから整数分周モードに切り換えるときに、抵抗値を小から大に切り換える構成としてもよい。
【0023】
また、切換制御回路は、切換型可変分周器および切換型基準分周器が切換信号に応じて分周比を切り換える直前に、ループフィルタに注入電流または抵抗値を切り換える切換信号を出力する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明のPLLシンセサイザは、同期引き込みにおける初期状態から定常状態に遷移するまでの期間は分数分周型として動作させ、その後に整数分周型として動作させることにより、高速起動性と定常状態における低スプリアス性を実現することができる。また、その切換制御は簡単な構成で実現できるので、低消費電力性も併せて実現することができる。
【0025】
また、本発明のPLLシンセサイザは、高速起動性、低消費電力性、定常状態における低スプリアス性を同時に満足することができるとともに、その用途に応じて分数分周型と整数分周型の構成の使い分けが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(本発明のPLLシンセサイザの実施形態)
図1は、本発明のPLLシンセサイザの実施形態を示す。図1において、本実施形態のPLLシンセサイザは、高精度の基準周波数信号を出力する基準発振器1、分周比の切り換えが可能な切換型基準分周器11、位相比較器3、ループフィルタ4、電圧制御発振器(VCO)5、可変分数分周器と可変整数分周器の切り換えが可能な切換型可変分周器12、切換型可変分周器12の切り換えタイミングを制御し、かつその切り換えタイミングに対応させて切換型基準分周器11の分周比を切り換える切換制御回路13により構成される。なお、電圧制御発振器5の出力段に分周器8を備え、電圧制御発振器5の出力信号を分周して取り出すようにしてもよい。
【0027】
ここで、基準発振器1の出力信号の周波数をfr 、切換型可変分周器12の可変分数分周器または可変整数分周器の設定に対応して分周比が設定された切換型基準分周器11の出力信号の周波数をff またはfi (ff >fi )、電圧制御発振器5の出力信号の周波数をfv とする。
【0028】
本実施形態におけるPLLシンセサイザとしての基本的な動作は従来構成と同様である。すなわち、電圧制御発振器5の出力信号(fv )は、分岐して切換型可変分周器12に入力され、分周して位相比較器3の一方の入力としてフィードバックされる。基準発振器1の出力信号(基準周波数信号(fr ))は切換型基準分周器11で分周され、位相比較器3の他方の入力(位相比較信号(ff ,fi ))として与えられる。位相比較器3は、2つの入力信号の位相比較を行い、その出力信号をループフィルタ4を介して電圧制御発振器5に与え、所定の発振周波数になるように制御する。
【0029】
本実施形態の特徴とする制御手順について図2を参照して説明する。本実施形態のPLLシンセサイザの切換制御回路13は、初期状態(休止状態)から定常状態に遷移するまでの起動状態(分数分周モード)と、定常状態(整数分周モード)の切り換えタイミングをタイマで管理し、あらかじめ設定した設定時間Ts で分数分周モードでの同期引き込み完了とみなし、分数分周モードから整数分周モードに切り換える。以下、詳しく説明する。
【0030】
まず、初期状態から設定時間ts が経過するまでの分数分周モード(S1〜S3)では、切換制御回路13は切換型基準分周器11の分周比をfr /ff に設定し、基準周波数信号(fr )から位相比較信号(ff )を生成する。なお、位相比較信号の周波数ff は、電圧制御発振器5の出力信号(fv )の周波数チャネル間隔より大きい。また、切換制御回路13は切換型可変分周器12を分数分周器としてその分周比を
v /ff =Nv +n/m
に設定する。なお、Nv は整数であり、n/m<1である。
【0031】
以上の分数分周モードにより初期状態から設定時間Ts まで同期引き込み動作を行い、設定時間Ts が経過した時点で、切換制御回路13は分数分周モードから整数分周モードに移行する。整数分周モード(S2,S4,S5)では、切換型基準分周器11の分周比をfr /fi に切り換え、基準周波数信号(fr )から位相比較信号(fi )を生成する。このときの位相比較信号の周波数fi は、電圧制御発振器5の出力信号(fv )の周波数チャネル間隔と等しい。すなわち、設定時間Ts が経過したときに、位相比較信号の周波数が周波数fv の周波数チャネル間隔に等しい周波数fi になるように切換型基準分周器11の分周比を切り換える。また、切換制御回路13は切換型可変分周器12を整数分周器としてその分周比をfv /fi に切り換え、位相および周波数の同期動作を行う。
【0032】
本発明のPLLシンセサイザでは、以上説明したように最初は分数分周モードで同期引き込み動作を行い、周波数が一定値に収束したとみなす設定時間Ts の経過タイミングで整数分周モードに切り換える。このように、初期状態から設定時間Ts まで分数分周モードで動作させることにより周波数が一定値に収束する時間を短縮でき、さらに設定時間Ts 以降の定常状態において整数分周モードで動作させることによりスプリアスの発生を抑制することができる。この切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の切り換えを行うPLLシンセサイザの分周モード切り換え機構は、以下に示すように簡単な構成で実現できるので、低消費電力性、高速起動性、定常状態における低スプリアス性を同時に達成することができる。また、本実施形態の構成では、高速起動が必要でない場合は整数分周型のPLLシンセサイザとして動作させることもできる。
【0033】
切換型基準分周器11は、プログラマブルカウンタで構成することができる。この場合には、PLLシンセサイザを分数分周型として動作させるときは分周比fr /ff に対応する計数データをプログラマブルカウンタに与え、整数分周型として動作させるときは分周比fr /fi に対応する計数データをプログラマブルカウンタに与える。
【0034】
(切換型可変分周器12の構成例)
図3は、切換型可変分周器12の第1の構成例を示す。図3において、切換型可変分周器12は、プログラマブルカウンタ21、プログラマブルカウンタ21に与える計数データを出力する計数データ設定回路22、切換制御回路13から出力される停止/起動信号に応じて動作するN/N+1切換回路23により構成される。切換制御回路13は、PLLシンセサイザを分数分周型として動作させる場合はN/N+1切換回路23に起動信号を出力し、整数分周型として動作させる場合はN/N+1切換回路23に停止信号を出力するとともに、計数データ設定回路22に計数データを整数型に変更する信号を出力する。これらの信号をまとめて切換信号という。
【0035】
切換型可変分周器12が切換制御回路13の制御により分数分周型として動作するときは、計数データ設定回路22からプログラマブルカウンタ21に与える計数データとして、N/N+1切換回路23からmクロック中n回はN+1で、残りの(m−n)回はNを与える。これにより、切換型可変分周器21における1クロック当たりの平均分周比は、従来の可変分数分周器6Bと同様に(N+n/m)となる。なお、N/N+1切換回路23は、オーバーフロー信号を出力するアキュムレータにより構成することができる。
【0036】
切換型可変分周器12が切換制御回路13の制御により整数分周型として動作するときは、N/N+1切換回路23の動作を停止し、計数データ設定回路22から時間に対して一定の整数分周用計数データをプログラマブルカウンタ21に与える。
【0037】
図4は、切換型可変分周器12の第2の構成例を示す。ここでは、パルス・スワロー型カウンタを用いる例を示す。図4において、切換型可変分周器12は、プログラマブルカウンタ21−1,21−2、N/N+1分周器24、切換制御回路13から出力される停止/起動信号に応じて動作するN/N+1切換回路25により構成される。切換制御回路13は、PLLシンセサイザを分数分周型として動作させる場合は、プログラマブルカウンタ21−1に計数データP1 を与えるとともに、N/N+1切換回路23を起動して計数データP1 とP1 +1の切り換えを行う。また、PLLシンセサイザを整数分周型として動作させる場合は、N/N+1切換回路25に停止信号を出力するとともに、プログラマブルカウンタ21−2に計数データP2 を与える。
【0038】
ここで、計数データP1 は、プログラマブルカウンタ21−1が2モジュラス・プロスケーラに(N+1)分周させる回数である。計数データP2 は、N分周と(N+1)分周の合計回数である。このとき、パルス・スワロー型カウンタとしての分周比Mは、
M=(P2 −P1 )N+P1 (N+1)
=P2 N+P1
となる。
【0039】
ところで、以上の説明では、切換制御回路13が分数分周モードから整数分周モードに切り換えるタイミングをタイマで管理し、まず分数分周モードで同期引き込み動作を行い、同期引き込み完了とみなす設定時間Ts の経過で整数分周モードに切り換える例を示した。これに代わるものとして、切換制御回路13に位相比較器3またはループフィルタ4の出力をモニタするロック検出回路を備え、位相比較器3の2入力信号の位相および周波数誤差が許容範囲内(定常位相差程度)に収束したことを検出し、その検出タイミングで分数分周モードから整数分周モードに切り換えるようにしてもよい。
【0040】
(切換制御回路13の切換信号の出力タイミング)
切換制御回路13が切換信号を出力するタイミングは、タイマまたはロック検出回路により管理することができるが、位相比較器3の2つの入力信号の位相差を考慮した切換信号の出力タイミングについて、図5〜図7を参照して説明する。
【0041】
シミュレーションでは、位相比較器3の2つの入力信号が同期状態(定常位相差)になったときに、切換制御回路13が各入力信号の立ち下がり(立ち上がり)の前のタイミングで切換信号を出力し、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の各分周比の切り換えが行われると、図5に示すように2つの入力信号の位相差は定常位相差から大きくずれてしまう。
【0042】
そこで、切換制御回路13では、位相比較器3の2つの入力信号の立ち下がり(立ち上がり)を検出し、その直後のタイミングで切換信号を出力し、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12は次の立ち上がり(立ち下がり)のタイミングで各々の分周比を切り換えるようにする。そのシミュレーション結果を図6に示すが、2つの入力信号の位相差を大きくすることなく分周比の切り換えが行われることが確認される。
【0043】
図7は、切換タイミングを考慮した切換制御回路13の構成例を示す。図において、タイマ(ロック検出回路)131は、上記のように分数分周モードにおける同期引き込み完了とみなして(検出して)切換信号を出力する。一方、立ち下がり検出回路132は、この切換信号を入力し、さらに位相比較器3の2つの入力信号の立ち下がりを検出したときに、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12に対して切換信号を出力する。ここでは、タイマ(ロック検出回路)131からの切換信号により2つのDフリップフロップのD入力に「1」を接続し、それぞれのクロックとして位相比較器3の2つの入力信号を与え、切換信号の入力直後に2つのクロックがともに立ち下がったことをAND回路で検出し、切換制御回路13の切換信号として出力する構成を示す。
【0044】
切換型基準分周器11および切換型可変分周器12では、この切換信号によりプログラマブルカウンタに与える分周比データを変更する。プログラマブルカウンタは、最終桁が繰り上がり(繰り下がり)信号を出力するたびに新たに分周比データを読み込むため、位相比較器3の2つの入力信号の立ち上がりとともに、各分周比が切り換わる。その結果、図6に示すように、2つの入力信号の位相差を大きくすることなく分周比の切り換えが行われることになる。
【0045】
また、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12では、位相比較器3の2つの入力信号の立ち下がり(立ち上がり)を検出し、その直後のタイミングで切換信号が入力されるが、その時点からそれぞれ設定する分周比に応じて内部クロックをカウントし、図6の例では位相比較器3の2つの入力信号が立ち下がるタイミングを合わせるようにしてもよい。
【0046】
(ループフィルタ4の構成例)
図8は、ループフィルタ4の第1の構成例を示す。図において、ループフィルタ4は、注入電流の切り換えが可能な電流切換チャージ・ポンプ回路41と、低域通過フィルタ42を縦属に接続した構成である。切換制御回路13は、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比をそれぞれ切り換えるときに、その切換信号をループフィルタ4の電流切換チャージ・ポンプ回路41に入力して注入電流を切り換える。これにより、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比のみを切り換える場合に比べて、制動係数や固有周波数などのループ定数の可変範囲をより大きくすることができる。電流切換チャージ・ポンプ回路41の等価回路を図9に示す。
【0047】
また、電流切換チャージ・ポンプ回路41の注入電流の切り換えは、次のタイミングが望ましい。図10に示すように、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比が、位相比較器3の2入力信号の各立ち上がり(立ち下がり)に伴って切り換わる直前で、かつ位相比較器3から位相差検出信号が出力されていないタイミングで注入電流を切り換える。これにより、電流切換チャージ・ポンプ回路41の注入電流を切り換えによる位相差の増大をおこすことなく切り換えが可能となる。
【0048】
図11は、ループフィルタ4の第2の構成例を示す。図において、ループフィルタ4は、チャージ・ポンプ回路43と、抵抗値の切り換えが可能な抵抗切換低域通過フィルタ44を縦続に接続した構成である。切換制御回路13は、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比をそれぞれ切り換えるときに、その切換信号をループフィルタ4の抵抗切換低域通過フィルタ44に入力して抵抗値を切り換える。これにより、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比の切り換えに対して、制動係数を幅広い範囲で最適値に調整可能となる。例えば、切換型可変分周器12を分数分周型から整数分周型に切り換えるときに、抵抗切換低域通過フィルタ44の抵抗値を小から大に切り換えることによりループを安定化することができる。
【0049】
図12は、抵抗切換低域通過フィルタ44の構成例を示す。図12(a) は、抵抗と容量からなる低域通過フィルタにおいて、抵抗値R1の抵抗とスイッチ付きの抵抗値R2(R1>R2)の抵抗を並列に接続し、切換信号によりスイッチをオンからオフにすることにより、抵抗値を小から大に切り換える構成を示す。
【0050】
図12(b) は、抵抗と容量からなる低域通過フィルタにおいて、スイッチ付きの抵抗値R3の抵抗とスイッチ付きの抵抗値R4(R3>R4)の抵抗を並列に接続し、切換信号により2つのスイッチを相補的にオンオフすることにより、抵抗値を小から大に切り換える構成を示す。この構成は、スイッチをMOS伝達ゲートで実現したときに、スイッチの切り換え時のMOS伝達ゲートの出入りする電荷によるノイズを抑制することができる。
【0051】
また、抵抗切換低域通過フィルタ44の抵抗値の切り換えは、次のタイミングが望ましい。図13に示すように、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比が、位相比較器3の2入力信号の各立ち上がり(立ち下がり)に伴って切り換わる直前のタイミングで、小さな抵抗値から大きな抵抗値に切り換える。これにより、安定なループのまま切り換えることができるので、位相差の増大をおこすことなく分数型から整数型に切り換えることができる。
【0052】
図14は、ループフィルタ4の第3の構成例を示す。図において、ループフィルタ4は、注入電流の切り換えが可能な電流切換チャージ・ポンプ回路41と、抵抗値の切り換えが可能な抵抗切換低域通過フィルタ44を縦続に接続した構成である。切換制御回路13は、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比をそれぞれ切り換えるときに、その切換信号をループフィルタ4の電流切換チャージ・ポンプ回路41および抵抗切換低域通過フィルタ44に入力し、注入電流および抵抗値をそれぞれ切り換える。それによる効果は上記の通りてある。
【0053】
また、電流切換チャージ・ポンプ回路41の注入電流の切り換え、および抵抗切換低域通過フィルタ44の抵抗値の切り換えは、次のタイミングが望ましい。図15に示すように、切換型基準分周器11および切換型可変分周器12の分周比が、位相比較器3の2入力信号の各立ち上がり(立ち下がり)に伴って切り換わる直前のタイミングで、抵抗切換低域通過フィルタ44を小さな抵抗値から大きな抵抗値に切り換え、さらに電流切換チャージ・ポンプ回路41の注入電流を切り換える。それによる効果は上記の通りである。
【0054】
以上の説明は、PLLシンセサイザの高速起動性、低消費電力性、定常状態における低スプリアス性を同時に満足するために、初期状態では分数分周型として、定常状態では整数分周型とする切り換えを行う例を示した。一方、本発明のPLLシンセサイザおよび各部の構成からもわかるように、高速起動性、低消費電力性、定常状態における低スプリアス性に対して重視する用途に応じて、分数分周型の構成または整数分周型の構成を選択することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のPLLシンセサイザの実施形態を示す図。
【図2】本発明のPLLシンセサイザの特徴とする制御手順を示すフローチャート。
【図3】切換型可変分周器12の第1の構成例を示す図。
【図4】切換型可変分周器12の第2の構成例を示す図。
【図5】切換制御回路13の切換信号の出力タイミング1を示すタイムチャート。
【図6】切換制御回路13の切換信号の出力タイミング2を示すタイムチャート。
【図7】切換制御回路13の構成例を示す図。
【図8】ループフィルタ4の第1の構成例を示す図。
【図9】電流切換チャージ・ポンプ回路41の等価回路を示す図。
【図10】電流切換チャージ・ポンプ回路41の切り換えタイミングを示すタイムチャート。
【図11】ループフィルタ4の第2の構成例を示す図。
【図12】抵抗切換低域通過フィルタ44の構成例を示す図。
【図13】抵抗切換低域通過フィルタ44の切り換えタイミングを示すタイムチャート。
【図14】ループフィルタ4の第3の構成例を示す図。
【図15】ループフィルタ4の電流・抵抗の切り換えタイミングを示すタイムチャート。
【図16】従来の整数分周型のPLLシンセサイザの構成例を示す図。
【図17】従来の分数分周型のPLLシンセサイザの構成例を示す図。
【図18】アキュムレータで可変分数分周器を構成したPLLシンセサイザの構成例を示す図。
【図19】位相誤差拡散回路を用いた可変分数分周器の構成例を示す図。
【図20】アキュムレータの段数と分周比の変化分を示す図。
【符号の説明】
【0056】
1 基準発振器
2 基準分周器
3 位相比較器
4 ループフィルタ
5 電圧制御発振器(VCO)
6A 可変整数分周器
6B 可変分数分周器
7 分周器
11 切換型基準分周器
12 切換型可変分周器
13 切換制御回路
21 プログラマブルカウンタ
22 計数データ設定回路
23 N/N+1切換回路
24 N/N+1分周器
25 N/N+1切換回路
41 電流切換チャージ・ポンプ回路
42 低域通過フィルタ
43 チャージ・ポンプ回路
44 抵抗切換低域通過フィルタ
61 可変分周器
62 アキュムレータ(ACC)
63 遅延素子(τ)
64 加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力する制御信号に応じた発振周波数の信号を出力する電圧制御発振器と、
前記電圧制御発振器の出力信号を分岐して入力し、可変設定される分周比で分周して出力する可変分周器と、
高精度の基準周波数信号を出力する基準発振器と、
前記基準周波数信号を所定の分周比で分周して出力する基準分周器と、
前記基準分周器の出力信号と前記可変分周器の出力信号を入力して位相比較を行い、その位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相差信号を平滑化して前記制御信号として前記電圧制御発振器に与えるループフィルタとを備え、
前記電圧制御発振器の出力信号を前記可変分周器を介して前記位相比較器にフィードバックする位相同期ループ(PLL)構成により、前記基準分周器の出力信号に対して前記電圧制御発振器の出力信号の周波数および位相の同期引き込みを行うPLLシンセサイザにおいて、
前記可変分周器は、分周比が整数である可変整数分周器と、1クロック当たりの平均分周比が分数で表される可変分数分周器としての機能を有し、外部からの切換信号によりこの2つの分周器の機能を切り換える手段を含む切換型可変分周器であり、
前記基準分周器は、外部からの切換信号により分周比の切り換えが可能な切換型基準分周器であり、
前記切換型可変分周器を前記可変分数分周器として機能させ、かつ前記切換型基準分周器の出力信号の周波数が前記電圧制御発振器の出力信号の周波数チャネル間隔より大きくなるようにその分周比を設定する分数分周モードと、前記切換型可変分周器を前記可変整数分周器として機能させ、かつ前記切換型基準分周器の出力信号の周波数が前記電圧制御発振器の出力信号の周波数チャネル間隔に等しくなるようにその分周比を設定する整数分周モードを切り換える前記切換信号を生成し、前記切換型可変分周器および前記切換型基準分周器に送出する切換制御回路を備えた
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項2】
請求項1に記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記切換制御回路は、前記同期引き込みにおける初期状態から定常状態に遷移するまでの期間は前記分数分周モードに設定する前記切換信号を出力し、定常状態に遷移した後は前記整数分周モードに設定する前記切換信号を出力する構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項3】
請求項2に記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記切換制御回路は、初期状態では前記分数分周モードに設定する前記切換信号を出力し、タイマを用いて前記同期引き込みによる周波数が一定値に収束したと見なす設定時間の経過を検出したタイミングで前記整数分周モードに設定する前記切換信号を出力する構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項4】
請求項2に記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記切換制御回路は、初期状態では前記分数分周モードに設定する前記切換信号を出力し、前記位相比較器または前記ループフィルタの出力をモニタするロック検出回路を用い、前記同期引き込みによる位相周波数誤差が許容範囲内に収束したことを検出したタイミングで前記整数分周モードに設定する前記切換信号を出力する構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記切換制御回路は、前記タイマまたは前記ロック検出回路の検出タイミングで、かつ前記位相比較器の2つの入力信号の立ち下がり(または立ち上がり)の直後のタイミングで前記切換信号を出力する構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項6】
請求項1に記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記ループフィルタは、注入電流の切り換えが可能な電流切換チャージ・ポンプ回路を含み、前記切換制御回路から出力される前記切換信号に応じてその注入電流を切り換える構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項7】
請求項1に記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記ループフィルタは、抵抗値の切り換えが可能な低域通過フィルタを含み、前記切換制御回路から出力される前記切換信号に応じてその抵抗値を切り換える構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項8】
請求項7に記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記ループフィルタは、前記切換信号により前記分数分周モードから前記整数分周モードに切り換えるときに、前記抵抗値を小から大に切り換える構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれかに記載のPLLシンセサイザにおいて、
前記切換制御回路は、前記切換型可変分周器および前記切換型基準分周器が前記切換信号に応じて分周比を切り換える直前に、前記ループフィルタに注入電流または抵抗値を切り換える前記切換信号を出力する構成である
ことを特徴とするPLLシンセサイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−300486(P2007−300486A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127763(P2006−127763)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】