説明

ZrBO膜の形成装置

【課題】大気開放することなく真空槽内に付着したZr化合物を除去することのできるZrBO膜の形成装置を提供する。
【解決手段】プラズマCVD装置10は、基板Sを収容して接地電位に接続される真空槽と、載置された基板Sを加熱する基板ステージ13と、真空槽内に活性状態の酸素ガスと、Zr(BHとを各別に供給するシャワープレート16とを備え、加熱された基板S上でZrBO膜を形成する。シャワープレート16は、チャンバ本体11に対して電気的に絶縁された導体であり、シャワープレート16に接続された高周波電源RF1と、真空槽内にフッ素ガスを供給するクリーニングガス供給部とを備え、基板Sが真空槽内に収容されていない状態で、クリーニングガス供給部は、真空槽内にフッ素ガスを供給し、高周波電源RF1は、シャワープレート16に供給する高周波電力でフッ素ガスをプラズマ化して真空槽内に付着したZr化合物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマCVD法にて基板上に酸ホウ化ジルコニウム(ZrBO)膜を成膜するZrBO膜の形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、半導体デバイスの高性能化を図る技術の一つとして、例えば特許文献1に記載のように、シリコン基板に形成された貫通電極(シリコン貫通電極:Through Silicon Via (TSV))を介して複数の半導体チップを積層する三次元実装技術が注目されている。各半導体チップの有するTSVは、シリコン基板に形成された貫通孔の内面を囲む絶縁膜を介して該貫通孔内に埋め込まれている。TSVを囲む絶縁膜は、一般にシリコン窒化物やシリコン酸化物で形成されるものであって、TSVが所定の配線以外の配線と電気的に接続したり、TSVの構成元素が貫通孔の外側に移動したりすることを抑えている。
【0003】
上記TSVを形成する方法としては、(a)Via First 法、(b)Via Middle 法、(c)Via Last 法、(d)Via after Bonding 法と呼ばれる4つの方法が検討されている。
【0004】
これら方法のうち、(a)Via First 法では、素子形成プロセスの前にTSVが形成されることから、TSVに用いられる材料には、素子形成プロセスにて不可欠な熱処理に対し、耐久性の高い材料が求められる。そのため、熱処理に対して耐久性の高いタングステンが一般に用いられる。タングステンは、これまで配線材料として多用されてきた銅よりも大幅に高い電気抵抗を有することから、Via First 法とは、半導体素子の動作を高速化するという点において不可避的な課題を有した方法である。
【0005】
また、(b)Via Middle 法では、素子形成プロセスと同時にTSVが形成される。すなわち、パターンの寸法がナノメートルオーダーの微細な半導体素子と、パターンの寸法がマイクロメートルオーダーのTSVとが同時に形成されることとなる。そのため、素子形成プロセスの処理工程数や処理時間をTSVに合わせて増やす必要があることから、Via Middle 法とは、プロセスのコストが大きいという点において不可避的な課題を有した方法である。
【0006】
そのため、近年では、こうした課題を有しない方法である(c)Via Last法及び(d)Via after Bonding法についての検討が盛んに行われている。
上記(c)Via Last 法及び(d)Via after Bonding 法では、基板の厚さが100
μmから数μmまで削られた後に、TSV用のホールが形成される。より詳しくは、(c)Via Last法では、石英等のサポート基板に基板が仮接着された状態で、基板の裏面が削られた後に、TSVが形成される。他方、(d)Via after Bonding 法では、(c)Via Last 法と同様に、一対の基板が半導体素子の形成された表面同士で接着された状態で、半導体素子の形成されていない裏面が削られた後に、TSVが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−87233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記接着剤は、高分子樹脂から構成されるものであることから、その熱処理に対する膨張量や変形量は、半導体素子に用いられている一般的な材料と比較して著しく大きいものである。それゆえに、こうした接着剤の耐熱温度は、通常、180℃以下、好ましくは150℃以下である。そこで、上記(c)Via Last 法や(d)Via after Bonding 法では、こうした接着剤の耐熱温度以下、すなわち、180℃以下、好ましくは150℃以下でのプロセスが要求されている。
【0009】
そこで、本願発明者らは、こうした要求に応える新規な絶縁膜を鋭意探求した結果、酸ホウ化ジルコニウム(ZrBO)からなる絶縁膜を見出した。ZrBO膜は、活性状態の酸素を用いるCVD法によって、上述のような低温条件下にて上記貫通孔内への成膜が可能である。加えて、ZrBO膜は、こうした低温条件下にて形成可能な絶縁膜でありながら、プラズマCVD法を用いて250℃から400℃程度の温度条件にて成膜されたシリコン酸化膜や、300℃程度の温度条件にて成膜されたシリコン窒化膜と同等レベルの優れた絶縁性を有することが、本願発明者らによって見出された。
【0010】
ところで、本願発明者らの研究によれば、上述のような低温条件でのZrBO膜の形成時に、以下のような現象が認められた。すなわち、ZrBO膜の形成時には、形成材料であるZr(BHと活性状態の酸素等とが基板上で反応することで、基板の表面にZrBO膜が形成される。この際、プラズマ生成空間を形成する真空槽の内壁や形成材料及び活性種を真空槽内に供給するシャワープレートなど、真空槽内における基板以外の各部位にも、主生成物であるZrBOやZrBO以外のZr化合物が付着する。そして、真空槽内の各部位に付着したZr化合物は、ZrBO膜の形成反応を行っている間に、真空槽内における流体の流れや堆積したZr化合物そのものの自重等によって、真空槽の内壁面やシャワープレートから剥がれ落ちる。剥離物の一部は、上記流体によって基板の表面にまで運ばれて、該基板に付着してしまう。
【0011】
こうした剥離物の付着によって基板の品質が落ちることを避けるためには、真空槽を大気に開放することで、その内部に付着した反応生成物を除去することが可能ではある。しかしながら、一旦、真空槽を大気に開放すると、ZrBO膜の形成が可能な圧力にまで真空槽内を減圧するまでの時間を要してしまい、ひいては、基板に対してZrBO膜を形成する処理の効率が低下してしまうことになる。そこで、ZrBO膜の成膜装置においては、真空槽内を減圧条件に維持した状態で、該真空槽内に付着したZr化合物を除去することのできる形成装置の開発が望まれている。
【0012】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、大気開放することなく真空槽内に付着したZr化合物を除去することのできるZrBO膜の形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、基板を収容する真空槽と、前記真空槽内にて前記基板が載置され、該載置された基板を加熱する基板ステージと、前記真空槽内に活性状態の酸素原子が含まれる酸素含有ガスと、Zr(BHとを各別に供給するシャワープレートとを備え、加熱された前記基板上でZrBO膜を形成するZrBO膜の形成装置であって、前記シャワープレートは、前記真空槽に対して電気的に絶縁された導体であり、前記基板ステージに内設されたステージ電極と、前記シャワープレート及び前記ステージ電極の少なくとも一方である接続先に接続されて、該接続先に高周波電力を供給する高周波電源と、前記真空槽内にハロゲン系ガスを供給するクリーニングガス供給部とを備え、前記基板が前記真空槽内に収容されていない状態で、前記クリーニングガス供給部は、前記真空槽内に前記ハロゲン系ガスを供給し、前記高周波電源は、前記接続先に供給する前記高周波電力で前記ハロゲン系ガスをプラズマ化して前記真空槽内に付着したZr化合物を除去することを要旨とする。
【0014】
請求項1に記載の発明では、ZrBO膜の形成装置が、シャワープレート及びステージ電極の少なくとも一方に高周波電力を供給する高周波電源と、ハロゲン系ガスを供給するクリーニングガス供給部とを備えるようにしている。そして、ZrBO膜の形成対象である基板が真空槽内に収容されていないときに、真空槽内にハロゲン系ガスを供給するとともに、シャワープレート及びステージ電極の少なくとも一方に高周波電力を供給するようにしている。これにより、プラズマ中に含まれるハロゲン元素を含む正イオンのうちシャワープレート近傍の正イオンが、高周波電力の供給されたシャワープレート及び基板ステージの少なくとも一方に向かって引き込まれる。また、シャワープレートや基板ステージに向かって引き込まれない正イオンの一部が、シャワープレートや基板ステージ以外の真空槽内の各部位に接触する。すなわち、シャワープレート及び基板ステージの少なくとも一方を含む真空槽内の各部位に付着したZr化合物に対してハロゲン元素を含む正イオンが衝突する。その結果、Zr化合物と正イオンとの反応によって、揮発性の高いハロゲン化ジルコニウムとしてZr化合物が除去される。したがって、真空槽を大気に開放することなく、真空槽内の各部位に付着したZr化合物を除去することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のZrBO膜の形成装置において、前記ZrBO膜を形成するときに、前記真空槽の内壁面の温度を80℃以上170℃以下に温調する温調部を備えることを要旨とする。
【0016】
本願発明者らは、真空槽の内壁面に付着するZr化合物には、膜状のZr化合物と粉状のZr化合物とが存在し、これらのうち、膜状のZr化合物は、基板上に形成されるZrBO膜と同等の組成を有するものであって、粉状のZr化合物よりも上記クリーニング処理によって除去されやすいことを見出した。そして、粉状のZr化合物は、真空槽の内壁面の温度が、80℃以上であるときに、ほとんど生成されなくなることを見出した。
【0017】
この点、請求項2に記載の発明では、ZrBO膜の形成時に、真空槽の内壁面の温度を80℃以上170℃以下に温調する温調部を備えるようにしている。このような構成であれば、真空槽の内壁面に付着するZr化合物のほとんどが膜状のZr化合物になる。それゆえに、上記クリーニング処理後に残るZr化合物の量を抑えることが可能になる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のZrBO膜の形成装置において、前記温調部は、前記ZrBO膜を形成するときに、前記シャワープレートのうち前記真空槽内に露出する面を80℃以上170℃以下に温調することを要旨とする。
【0019】
本願発明者らは、真空槽の内壁面だけでなく、シャワープレートにおける真空槽に露出する面にも、上述のような膜状のZr化合物と粉状のZr化合物とが付着することを見出した。この点、請求項3に記載の発明では、ZrBO膜の形成時に、シャワープレートにおける真空槽内に露出する面を80℃以上170℃以下に温調部が温調するようにしている。そのため、シャワープレートにおける真空槽内に露出する面に付着するZr化合物のほとんどが膜状のZr化合物になる。それゆえに、上記クリーニング処理後に残るZr化合物の量をさらに抑えることが可能になる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置において、前記クリーニングガス供給部は、前記ハロゲン系ガスに加えて酸素ガスを含むクリーニングガスを前記真空槽内に供給することを要旨とする。
【0021】
請求項4に記載の発明では、クリーニングガス供給部から真空槽内に供給されるクリーニングガスに酸素ガスが含まれるようにしている。上述した付着物であるZr化合物のなかには、ZrBO膜と同じ構成元素からなるZrBOが含まれることが少なくない。この点、上述した構成によれば、真空槽内に付着したZrBOが酸素ガスとも反応することで、ハロゲン化ジルコニウム及びハロゲン化ホウ素に加えて、これらと同様に揮発性の高いハロゲン化酸化ホウ素が生成される。それゆえに、クリーニングガスに酸素ガスが含まれない構成と比較して、Zr化合物が除去されやすくなる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置において、前記クリーニングガス供給部は、前記ハロゲン系ガスであるフッ素ガスを前記真空槽内に供給することを要旨とする。
【0023】
請求項5に記載の発明では、クリーニングガス供給部から真空槽内に供給されるハロゲン系ガスがフッ素ガスである。これにより、フッ素ガスとZr化合物との反応によって、Zrハロゲン化物の中でも特に揮発性の高いフッ化ジルコニウム(ZrF)が生成される。なお、真空槽やシャワープレートの形成材料として例えばアルミニウムが用いられる場合には、アルミニウムとフッ素ガスとの反応によって、揮発性の相対的に低いフッ化アルミニウム(AlF)が生成される。このような構成であれば、真空槽及びシャワープレートが腐食されることを抑えつつ、Zr化合物を除去されやすくすることができる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置において、前記真空槽内に水素ガスを供給する水素ガス供給部を備え、前記クリーニングガスの前記真空槽内への供給が停止された後に、前記水素ガス供給部は、前記真空槽内に前記水素ガスを供給し、前記高周波電源は、前記接続先に供給する前記高周波電力で前記水素ガスをプラズマ化することを要旨とする。
【0025】
請求項6に記載の発明では、真空槽内に水素ガスを供給する水素ガス供給部を備えるとともに、上記クリーニングガスの真空槽内への供給が停止された後に、水素ガスのプラズマを同真空槽内に生成するようにしている。そのため、真空槽の内壁面に吸着されたクリーニングガス由来のハロゲン元素を水素ガスのプラズマによって除去することができる。これにより、クリーニング処理において真空槽内の各部位に吸着されたハロゲン系ガスやハロゲン元素が、クリーニング処理後の成膜反応を不安定にすること、及び、クリーニング処理後の成膜処理にて形成されるZrBO膜中に混入することを抑制できる。
【0026】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置において、前記活性状態の酸素原子が含まれる前記酸素含有ガスをマイクロ波の照射により生成するマイクロ波プラズマ源と、前記真空槽内に水素ガスを供給する水素ガス供給部とを備え、前記マイクロ波プラズマ源は、前記真空槽に向けて流れる前記水素ガスにもマイクロ波を照射することを要旨とする。
【0027】
請求項7に記載の発明では、ZrBO膜形成時に用いるマイクロ波プラズマ源を経由して真空槽内に水素ガスを供給する水素ガス供給部を備えている。そして、上記ハロゲンガスによるクリーニング処理が終了した後に、励起状態の水素ガスをマイクロ波プラズマ源から流すことで、上記シャワープレートの内部に吸着したクリーニングガス由来のハロゲン元素を除去することが可能となる。また、励起状態の水素ガスが、シャワープレートを介して真空槽内にも供給されることで、真空槽の内壁面に吸着された上記ハロゲン元素を除去することができる。これにより、クリーニング処理において真空槽内の各部位に吸着されたハロゲン系ガスやハロゲン元素が、クリーニング処理後の成膜反応を不安定にすること、及び、クリーニング処理後の成膜処理にて形成されるZrBO膜中に混入することを抑制できる。
【0028】
請求項8に記載の発明は、請求項2〜7のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置において、前記真空槽の内壁面を覆う防着板を備え、前記温調部が、前記防着板の温度を80℃以上170℃以下に温調することを要旨とする。
【0029】
請求項8に記載の発明では、真空槽の内壁面を覆う防着板を備えるとともに、ZrBO膜の形成時には、温調部が、防着板の温度を80℃以上170℃以下に温調するようにしている。そのため、防着板には、Zr化合物としてZrBO膜が主に形成されるようになることから、上記クリーニング処理によって、該Zr化合物のほとんどが除去されるようになる。しかも、ZrBO膜を形成するときのZr化合物は、真空槽の内壁面ではなく防着板の内壁面に付着するようになることから、Zr化合物の付着した防着板と新しい防着板とを交換するのみで、真空槽内に付着したZr化合物を取り除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のZrBO膜の形成装置をプラズマCVD装置として具現化した一実施形態の概略構成を示す図。
【図2】同実施形態のプラズマCVD装置が行う成膜処理、クリーニング処理、及び水素プラズマ処理における各種ガスの供給態様、チャンバ設定温度の変更態様、及び各種電源からの電力の供給態様を示すタイミングチャート。
【図3】チャンバ温度と粉状のZr化合物の付着量との関係を示すグラフ。
【図4】基板上に付着した粉状のZr化合物を上方から撮像したSEM写真。
【図5】基板上に付着した粉状のZr化合物を側方から撮像したSEM写真。
【図6】粉状のZr化合物が付着してない基板の表面を上方から撮像したSEM写真。
【図7】本発明のZrBO膜の形成装置をプラズマCVD装置として具現化した他の実施形態の概略構成を示す図。
【図8】本発明のZrBO膜の形成装置をプラズマCVD装置として具現化した他の実施形態の概略構成を示す図。
【図9】本発明のZrBO膜の形成装置をプラズマCVD装置として具現化した他の実施形態の概略構成を示す図。
【図10】(a)(b)プラズマCVD装置が行う上記クリーニング処理、及び水素プラズマ処理における各種ガスの供給態様、及び各種電源からの電力の供給態様の他の形態を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のZrBO膜の形成装置をプラズマCVD装置として具現化した一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。まず、プラズマCVD装置の全体構成について図1を参照して説明する。
[プラズマCVD装置]
図1に示されるように、プラズマCVD装置10が有するチャンバ本体11には、該チャンバ本体11の上部開口を塞ぐチャンバリッド12が、絶縁材11aを介してチャンバ本体11に連結されている。プラズマCVD装置10では、これらチャンバ本体11とチャンバリッド12によって真空槽が構成されている。チャンバ本体11とチャンバリッド12とは、例えばアルミニウムなどの金属材料によって形成された導電性部材である。このうちチャンバ本体11が接地電位に接続されている。チャンバ本体11とチャンバリッド12とには、温媒の循環する流路がそれぞれ内設され、各々の流路には、チャンバ本体11とチャンバリッド12との温度を所定の温度に維持する温調部H1が接続されている。温調部H1は、上述した流路に流れる温媒を所定の温度に維持することで、チャンバ本体11の内壁面及びチャンバリッド12の内壁面の温度を80℃以上170℃以下の範囲で所定の温度に調節する。
【0032】
チャンバ本体11とチャンバリッド12とによって囲まれる内部空間である成膜室11Sには、基板Sが載置される基板ステージ13が配設されている。基板ステージ13内には、ヒータ電源H2の接続された抵抗加熱ヒータ13aが内設されている。抵抗加熱ヒータ13aは、基板ステージ13に基板Sが載置されるときに、ヒータ電源H2から供給される電流によって発熱することで、100℃以上180℃以下、好ましくは120℃以上150℃以下の範囲で基板Sの温度を所定の温度にまで昇温させる。基板Sは、基板ステージ13に載置されることによって、成膜室11S内での位置が決められるとともに、成膜処理が行われている間中、その温度が所定温度に維持される。基板ステージ13の下方には、基板Sの搬出入を行う際等に基板ステージ13を上下方向に動かす昇降機構14が連結されている。
【0033】
また、成膜室11S内には、チャンバ本体11の内壁面を覆う防着板15が、着脱可能に設置されている。防着板15は、上記チャンバ本体11とチャンバリッド12と同様、アルミニウムで形成されて、チャンバ本体11と同じく、接地電位に接続されている。また、防着板15には、チャンバ本体11やチャンバリッド12と同じく、温媒の循環する流路が内設され、該流路には、上記温調部H1が接続されている。そして、防着板15の内壁面の温度も上記チャンバ本体11の内壁面及びチャンバリッド12の内壁面と同一の温度に調節される。ちなみに、防着板15の温度を所定の温度に加熱調整する機構は、防着板15で温媒を循環させるための循環機構以外、防着板15に内蔵されてチャンバ本体11の外部から駆動電流が供給される加熱ヒータ、あるいはこれら循環機構と加熱ヒータとの双方に適宜変更することが可能である。なお、本実施形態では、防着板15の内壁面も、真空槽の内壁面の一部を構成している。
【0034】
チャンバ本体11の側部には、排気ポートP1を介して成膜室11S内を排気する排気ポンプVCが接続されている。また排気ポートP1と排気ポンプVCとの間には、チャンバ本体11内の圧力を調節するためのメインバルブVと圧力調節バルブAPCとが排気ポートP1側から順に設置されている。排気ポンプVCは、ターボ分子ポンプやドライポンプ等の各種ポンプによって構成されるものであって、プラズマCVD装置10での成膜処理を行うときには、圧力調節バルブAPCの調節を行うことによって成膜室11S内の圧力を例えば1Pa以上1000Pa以下の範囲で所定圧力に減圧する。
【0035】
チャンバリッド12のチャンバ本体11側には、複数の第1供給孔16aと、各第1供給孔16aとは独立する複数の第2供給孔16bとを有するシャワープレート16が取り付けられている。シャワープレート16には、該シャワープレート16に高周波電力を供給することで、成膜室11S内に供給されたガスをプラズマ化するシャワープレート側高周波電源RF1が接続されている。
【0036】
シャワープレート16の第1供給孔16aは、ZrBO膜の形成材料である四水素化ホウ素ジルコニウム(Zr(BH)を成膜室11Sに供給する。より詳しくは、第1供給孔16aには、チャンバリッド12の内部に形成されたガス通路GP1と該チャンバリッド12を貫通する原料ガスポートP2とを介して、Zr(BHの入った原料タンクTKが接続されている。
【0037】
原料タンクTKには、キャリアガスであるアルゴン(Ar)を該原料タンクTKに供給するためのマスフローコントローラMFC1が接続されている。原料タンクTKの温度は、−2℃以上10℃以下、好ましくは0℃以上5℃以下の範囲で所定の温度に調整されている。原料タンクTKは、マスフローコントローラMFC1からのキャリアガスによって押し出されたZr(BH昇華ガスを、キャリアガスとともに原料ガスポートP2に導出することで、Zr(BHとキャリアガスとを第1供給孔16aから成膜室11Sに供給する。
【0038】
また、原料タンクTKとチャンバ本体11とを繋ぐZr(BH供給配管には、Arガスを供給するマスフローコントローラMFC2が接続されている。マスフローコントローラMFC2は、Zr(BHとキャリアガスとが停止されたときに、これらZr(BHとキャリアガスとの流量の和に相当する流量のArガスを成膜室11Sに供給する。つまり、マスフローコントローラMFC2は、Zr(BHが間欠的に成膜室11Sに供給される場合に、成膜室11S内の圧力バランスを常に保つことを目的として設けられている。
【0039】
他方、チャンバリッド12におけるシャワープレート16の上方には、第2供給孔16bに接続されるガス通路GP2が形成されている。ガス通路GP2内には、石英で形成されるとともに、ガス通路GP2内を流通するガスを分散させる分散板12aが配置されている。分散板12aの材質は、成膜時やクリーニング時の加熱に対する耐熱性、活性状態のハロゲン元素に対する耐食性、機械的な加工性など、これらが満たされる範囲であれば、アルミナセラミックスや表面がアルマイトでコーティングされたアルミニウムに適宜変更することが可能である。
【0040】
上記第2供給孔16bは、活性状態の窒素及び活性状態の酸素等を成膜室11Sに供給する。より詳しくは、第2供給孔16bには、チャンバリッド12の内部に形成されたガス通路GP2と該チャンバリッド12の上部に設置したマイクロ波プラズマ源PLとを介して、酸素(O)ガスを供給するマスフローコントローラMFC3、窒素(N)ガスを供給するマスフローコントローラMFC4、及びArガスを供給するマスフローコントローラMFC5が接続されている。また、同じく第2供給孔16bには、フッ素(F)ガスとアルゴン(Ar)ガスとを供給するマスフローコントローラMFC6、及び水素(H)ガスを供給するマスフローコントローラMFC7が接続されている。マスフローコントローラMFC6から供給されるガスでは、例えば該ガスの20%がフッ素ガスであるとともに、同ガスの80%がアルゴンガスである。フッ素ガスは非常に活性あることから、各種ガスを供給する配管やバルブの形成材料に用いられるSUS系金属に対して腐食性が高い。そのため、一般には、フッ素ガス単独での供給は行われていない。上記Arで希釈するかたちでフッ素ガスを供給するのが一般的である。また、フッ素ガスは、上記20%での供給が実用範囲での上限である。
【0041】
これらマスフローコントローラMFC1〜MFC6から供給されるガスのうち、支燃性である酸素ガスを供給するマスフローコントローラMFC3は支燃性ガス配管POに接続される。また、可燃性ガスである水素ガスを供給するマスフローコントローラMFC7は、可燃性ガス配管PHに接続される。そして、ハロゲンガスであるフッ素ガスを供給するマスフローコントローラMFC6は、ハロゲンガス配管PFに接続される。これら3つの配管PF,PH,POは、マイクロ波プラズマ源PLの直前にて接続される。また、不活性ガスである窒素ガスを供給するマスフローコントローラMFC4、及び同じく不活性ガスであるアルゴンガスを供給するマスフローコントローラMFC5は、上記支燃性ガス配管POに接続されている。また、上記3つのガス配管PF,PH,POの各々には、マイクロ波プラズマ源PLに接続される直前にバルブが設置されている。
【0042】
このように、支燃性ガスと可燃性ガスとを各別の配管PH,POを用いてプラズマCVD装置10に供給することで、これらガスが該プラズマCVD装置10外にて混合することを回避できるため、プラズマCVD装置10におけるプロセスの安定性を高めることができる。また、支燃性ガス、可燃性ガス、及びハロゲンガスとの間でのコンタミネーションを避けることができる。
【0043】
これらマスフローコントローラMFC3〜MFC7は、各ガスの貯蔵されたボンベに接続されることで、各ガスを所定流量に調量しつつ上記マイクロ波プラズマ源PLに導出する。これらマスフローコントローラMFC2〜MFC7のうち、マスフローコントローラMFC6が、クリーニングガス供給部を構成するとともに、マスフローコントローラMFC6を介して供給されるフッ素ガスとアルゴンガスとがクリーニングガスを構成している。また、マスフローコントローラMFC7は、水素ガス供給部を構成している。
【0044】
ガス通路GP2の上部に設置されたマイクロ波プラズマ源PLの内部には、石英或いはアルミナによって形成された耐熱性を有する放電管17が配設されている。マイクロ波プラズマ源PLの外側には、マイクロ波電源FGによって駆動されるマイクロ波源18が配設されている。マイクロ波源18から出力されるマイクロ波は、同軸ケーブル19aでマイクロ波プラズマ源PLにコネクタ19bを介して導かれた後、コネクタ19bに繋がれたアンテナ19cを介して放電管17に供給される。
【0045】
放電管17の内部は、チャンバリッド12の内部に形成されたガス通路GP2を介して成膜室11Sに繋がれている。マイクロ波源18は、例えば2.45GHzのマイクロ波を発振させるマグネトロンであって、マイクロ波電源FGからの駆動電力により所定の出力範囲、例えば0.01kW以上3.0kW以下の範囲でマイクロ波を出力する。同軸ケーブル19aは、マイクロ波源18が発振させるマイクロ波をその内部に伝播させることでマイクロ波プラズマ源PLの内部へと導く。上記放電管17の内部には、上記成膜室11S内の圧力が所定値に保たれることによって上記酸素、窒素、アルゴン、フッ素、及び水素の各ガスが所定の流量で流れる。
【0046】
放電管17の内部を通過するガスの活性化は、マイクロ波源18がマイクロ波を発振させるときに、同軸ケーブル19aにより伝播されたマイクロ波をマイクロ波プラズマ源PL内のアンテナ19cを介して放電管17に照射することによって行われる。なお、プラズマCVD装置10は、各種ガスの活性化によって生成されたラジカル成分が、成膜室11S内に供給されるように構成されている。
[作用]
上記プラズマCVD装置10の作用のうち、該プラズマCVD装置10の成膜処理、クリーニング処理、及び水素プラズマ処理に際して該プラズマCVD装置10が行う動作について図2を参照して説明する。なお、成膜処理とは、基板Sの表面にZrBO膜を形成する処理である。また、クリーニング処理とは、成膜処理時にチャンバ本体11の内壁面及びシャワープレート16の成膜室11S側の面に付着したZr化合物を取り除く処理である。そして、水素プラズマ処理とは、クリーニング処理時にチャンバ本体11の内壁面、シャワープレート16の成膜室11S側の面、及び同シャワープレート16の内部に吸着したフッ素及びホウ素を取り除く処理である。
[成膜処理]
まず、成膜処理が開始される前のタイミングt1にて、温調部H1によるチャンバ本体11、防着板15、及びシャワープレート16の温調が開始される。温調部H1におけるチャンバ本体11、防着板15、及びシャワープレート16の設定温度は、例えば120℃である。なお、設定温度は、上記チャンバ本体11の内壁面、防着板15の内壁面、及びシャワープレート16の内壁面の温度、これらの温度の設定値である。そして、上記排気ポンプVCによって成膜室11S内が所定の圧力に減圧されて、チャンバ本体11の内壁面、防着板15の内壁面、及びシャワープレート16の表面の温度が設定温度に到達すると、成膜室11S内に基板Sが搬入され、その後、ZrBO膜の成膜に用いられる成膜ガスの供給が、タイミングt2にて開始される。
【0047】
なお、成膜ガスには、上記マスフローコントローラMFC1から供給されるアルゴンガスと昇華したZr(BHとを含む原料ガス、マスフローコントローラMFC3から供給される酸素ガス、マスフローコントローラMFC4から供給される窒素ガス、及びマスフローコントローラMFC5から供給されるアルゴンガスが含まれる。
【0048】
これら成膜ガスの供給が開始されると、上記マイクロ波電源FGからマイクロ波プラズマ源PLへのマイクロ波電力の供給が開始される。これにより、上記酸素ガス、窒素ガス、及びアルゴンガスからプラズマが生成される。そして、こうしたプラズマ中に含まれるガスのラジカル成分などの励起成分が、成膜室11S内に保持された基板S上にて上記原料ガスに含まれるZr(BHと反応することにより、基板Sの表面にZrBO膜が形成される。
【0049】
そして、ZrBO膜の形成が所定時間だけ継続されると、成膜室11Sへの成膜ガスの供給と、マイクロ波プラズマ源PLへのマイクロ波電力の供給とが、タイミングt4にて停止される。次いで、ZrBO膜の形成された基板Sが、チャンバ本体11内から搬出される。本実施形態では、マイクロ波プラズマ源PLへのマイクロ波電力の供給が開始されるタイミングt3から、マイクロ波電力の供給が停止されるタイミングt4までの間を成膜処理が行われている期間としている。
【0050】
こうした成膜処理によれば、基板Sの表面にZrBO膜が形成されるとともに、上記防着板15の内壁面やシャワープレート16の成膜室11S側の面など、真空槽内の各部位にも膜状のZr化合物が形成される。なお、真空槽内の各部位には、膜状のZr化合物の他、ZrBO膜とは組成が異なる粉状のZr化合物も付着する。ただし、ZrBO膜が成膜される期間は、防着板15の温度が、80℃以上170℃以下の範囲で温調されるため、防着板15に付着するZr化合物は、そのほとんどが膜状のZr化合物、つまりはZrBO膜であり、粉状のZr化合物はほとんど生成されない。
[クリーニング処理]
上記成膜処理が所定の回数だけ実施されると、上記防着板15の内壁面とシャワープレート16の成膜室11S側の面など、真空槽内の各部位に堆積したZr化合物を取り除くためのクリーニングガスの供給が、タイミングt5にて開始される。クリーニングガスには、マスフローコントローラMFC6から供給されるフッ素とアルゴンの混合ガスが含まれる。また、クリーニングガスの供給時には、マスフローコントローラMFC2及びマスフローコントローラMFC5から成膜室11Sへのアルゴンガスの供給も行われる。マスフローコントローラMFC2からのアルゴンガスの供給により、クリーニングガスに含まれるフッ素成分が、成膜ガスを供給するための第1供給孔16aに逆流することを抑えることが可能となる。そして、Zr(BHの純度がフッ素ガスで失われること、ひいては成膜処理時に生成されるプラズマの安定化を図ることが可能となる。
【0051】
これらクリーニングガスの供給が開始されると、上記シャワープレート側高周波電源RF1からシャワープレート16への高周波電力の供給が、タイミングt6にて開始される。これにより、成膜室11S内のフッ素ガスとアルゴンガスとからプラズマが生成されるとともに、該プラズマに接触する面積がチャンバ本体11に比べて小さいシャワープレート16には、チャンバ本体11の内壁面に比べて負方向に絶対値の大きい自己バイアス電圧が印加される。そして、チャンバ本体11及びチャンバリッド12で構成される真空槽の内部に対するクリーニング処理が開始される。そのため、成膜室11S内に生成されたフッ素を含有する正イオン及びアルゴンイオンが、シャワープレート16における成膜室11S側の面に引き込まれることで、シャワープレート16に付着したZrBO膜やZr化合物と正イオンとの間での化学的な反応と物理的な反応とが進行する。これにより、揮発性のZr化合物及びB化合物が形成されることで、シャワープレート16に付着したZrBO膜やZr化合物が除去される。
【0052】
なお、防着板15の内壁面やチャンバ本体11の内壁面には、シャワープレート16に作用する自己バイアスよりも負方向に絶対値の小さい自己バイアス電圧が印加される。そして、上記フッ素を含有する正イオン、及びアルゴンイオンの一部は、真空槽の内壁面の一部を構成する防着板15の内壁面やチャンバ本体11の内壁面にも引き込まれる。これにより、防着板15に付着したZrBO膜やZr化合物と正イオンとの間でも反応が進行することで、防着板15に付着したZrBO膜やZr化合物が除去される。
【0053】
こうしたクリーニング処理が所定の時間継続されると、タイミングt7にて、成膜室11S内へのクリーニングガスの供給が停止される。同時に、シャワープレート側高周波電源RF1からシャワープレート16への高周波電力の供給も停止される。
[水素プラズマ処理]
上記タイミングt7にてクリーニングガスの供給が停止された後に、タイミングt8にてマスフローコントローラMFC7から成膜室11Sに対する水素ガスの供給が開始される。このとき、水素ガスの供給と同時に、マスフローコントローラMFC4から成膜室11Sに窒素ガスの供給を開始してもよい。そして、水素ガスの供給が開始された後に、タイミングt9にて再びシャワープレート側高周波電源RF1からシャワープレート16への高周波電力の供給が開始される。これにより、成膜室11S内に供給された水素ガスがプラズマ化される。この際、防着板15の内壁面やチャンバ本体11の内壁面、さらにはシャワープレート16の表面等、真空槽内の各部位には、クリーニング処理時に用いられたクリーニングガスやクリーニング反応で生成された各種の副生成物も吸着されている。また、成膜処理時に用いられた成膜ガスや成膜反応で生成された各種の副生成物も少なからず吸着されている。そして、成膜室11S内で生成される水素プラズマとこれらの吸着物とが反応する結果、揮発性の水素化合物が生成され、これにより、例えば真空槽内の各部位に吸着されたホウ素及びフッ素が除去される。こうした水素プラズマ処理が、上記タイミングt9から所定の期間継続されると、タイミングt10にて、高周波電力の供給が停止される。
【0054】
続いてタイミングt11にて、上記成膜処理に用いるマイクロ波プラズマ源PLに対してマイクロ波電力を供給する。これにより、水素ガスは、マイクロ波プラズマ源PLによって再びプラズマ化されることから、水素のラジカル成分などの励起水素が、シャワープレート16の内部や第2供給孔16bを介して成膜室11S内にも供給される。この水素ガスのマイクロ波励起により、上記シャワープレート側高周波電源RF1のプラズマでは除去しきれなかったハロゲン成分やハロゲン系生成物を除去することが可能となる。そして、水素ガスの供給とマイクロ波電極の供給とが、タイミングt12にて停止される。
【0055】
このように、チャンバ本体11内に基板Sが収容されていない状態でクリーニング処理と水素プラズマ処理とが行われると、再びチャンバ本体11内に基板Sが搬入された後、成膜ガスの供給が、タイミングt13にて開始される。次いでタイミングt14にて、マイクロ波電源FGがマイクロ波電力を出力することによって、成膜処理が開始される。
[チャンバ本体、シャワープレート、及び防着板の温度]
本願発明者らは、上述のように、チャンバ本体11、シャワープレート16、及び防着板15において、成膜室11Sに露出している面に付着するZr化合物には、膜状のZr化合物であるZrBO膜と粉状のZr化合物とが含まれることを見出した。また、本願発明者らは、これら膜状のZr化合物と粉状のZr化合物とを比較した場合、膜状のZr化合物の方が、上記クリーニング処理によって除去されやすいことを見出した。さらに、本願発明者らは、上記チャンバ本体11、シャワープレート16、及び防着板15の温度によって、これらに付着するZr化合物に含まれる膜状のZr化合物と粉状のZr化合物との割合が異なることを見出した。以下、真空槽内における各部位の温度と、Zr化合物の形状や付着量との関係について、図3〜図6を参照して説明する。なお、ここでは、説明の便宜上、基板S上に形成されたZrBO膜と粉状のZr化合物とを用いる。
【0056】
図3に示されるように、チャンバ本体11の内壁面、シャワープレート16の表面、及び防着板15の内壁面の温度が80℃よりも低いと、図4に示されるような粉状のZr化合物Pが、防着板15の内壁面、及びシャワープレート16における成膜室11Sに露出する面に付着する。このように付着したZr化合物Pの量について、図5に示されるようなZr化合物Pの堆積した高さPhを測定したところ、図3に示されるように、チャンバ本体11、シャワープレート16、及び防着板15等、真空槽内の各部位の温度が低い程、Zr化合物Pの付着量が多いことが認められた。また、同図3に示されるように、チャンバ本体11、シャワープレート16、及び防着板15の温度が80℃以上になると、Zr化合物Pの付着はほとんど認められなくなり、代わりに、図6に示されるような膜状のZr化合物であるZrBO膜の付着が認められた。
【0057】
本実施形態では、上述のように、ZrBO膜を形成するときに、上記温調部H1が、チャンバ本体11の内壁面、シャワープレート16の内壁面、及び防着板15の内壁面の温度を80℃以上170℃以下に温調するようにしている。そのため、これらに付着するZr化合物のほとんどがZrBO膜になることから、成膜処理に続くクリーニング処理の効果を高めることができる。加えて、チャンバ本体11、シャワープレート16、及び防着板15の温度は、170℃以下であって、上記Zr(BHの分解温度である175℃よりも低い。それゆえに、成膜室11S内に供給されたZr(BHが、基板S上以外の領域で分解されることを抑制でき、ひいては、ZrBO膜の形成効率が低下することを抑制できる。
【0058】
このように、本実施形態によれば、ZrBO膜の形成効率を低下させることなく、防着板15の内壁面、及びシャワープレート16における成膜室11Sに露出する面に粉状のZr化合物が付着する量を少なくすることができる。
【0059】
[実施例]
直径200mmのシリコン基板である基板Sに対して、以下の条件にて150nmのZrBO膜を形成した。該成膜条件にて5枚の基板にZrBO膜を形成した後、下記実施例1〜実施例4に記載の条件にてクリーニング処理を行った。なお、上記マスフローコントローラMFC6から供給されるガスは、実施例2では三フッ化窒素(NF)ガスであり、実施例3では三フッ化塩素(ClF)ガスであり、実施例4では臭化水素(HBr)である。
○成膜条件
・キャリアガス(Arガス)流量 100sccm
・Nガス流量 475sccm
・Oガス流量 25sccm
・成膜室11S内圧力 300Pa
・マイクロ波電力 50W(ガス励起に消費される電力値)
・基板温度 150℃
・設定温度(温調部) 120℃
・成膜時間 100秒
なお、温調部での設定温度と、チャンバ本体11、シャワープレート16、及び防着板15の温度と略同一であった。
【0060】
[実施例1]
○クリーニング条件1
・20%F+80%Arの混合ガス流量 100sccm以上500sccm以下
・Arガス(マスフローコントローラMFC5)流量 0sccm以上500sccm以下
・Arガス(マスフローコントローラMFC2)流量 0sccm以上500sccm以下
・成膜室11S内圧力 10Pa以上100Pa以下
・高周波電力密度 0.150W/cm以上3W/cm以下
・設定温度(温調部) 120℃
・クリーニング処理時間 10分
なお、チャンバ本体11内に供給するガスに含まれるFガスの流量としてのFガスの濃度と、同チャンバ本体11内に供給するArガスの流量としてのArガスの濃度との比を「10:90」から「15:85」の範囲で制御するとともに、これらガスの流量の和を500sccm以上1000sccm以下とした。
【0061】
[実施例2]
○クリーニング条件2
・NFガス流量 300sccm以上500sccm以下
・Arガス流量(マスフローコントローラMFC5) 0sccm以上500sccm以下
・成膜室11S内圧力 10Pa以上100Pa以下
・高周波電力密度 0.150W/cm以上3W/cm以下
・設定温度(温調部) 120℃
・クリーニング処理時間 10分
なお、NFガスの流量とArガスの流量との和に占めるNFガスの流量の割合を1/2以上1以下とした。
【0062】
[実施例3]
○クリーニング条件3
・ClFガス流量 100sccm以上300sccm以下
・Arガス流量(マスフローコントローラMFC5) 0sccm以上500sccm以下
・Arガス流量(マスフローコントローラMFC2) 0sccm以上500sccm以下
・成膜室11S内圧力 10Pa以上100Pa以下
・高周波電力密度 0.150W/cm以上3W/cm以下
・設定温度(温調部) 120℃
・クリーニング処理時間 15分
[実施例4]
○クリーニング条件4
・HBrガス流量 100sccm以上300sccm以下
・Arガス流量(マスフローコントローラMFC5) 0sccm以上500sccm以下
・Arガス流量(マスフローコントローラMFC2) 0sccm以上500sccm以下
・成膜室11S内圧力 10Pa以上100Pa以下
・高周波電力密度 0.150W/cm以上3W/cm以下
・設定温度(温調部) 120℃
・クリーニング処理時間 30分
上記実施例1〜実施例4によれば、上記各条件によってクリーニング処理を行うことで、成膜処理によってチャンバ本体11の内壁面、防着板15の内壁面、及びシャワープレート16における成膜室11Sに露出する面に付着したZr化合物が除去された。そのため、上記成膜処理を繰り返し行っても、基板SへのZr化合物の付着は認められなかった。
【0063】
【表1】

なお、上記Zr化合物、特にZrBO膜がクリーニング処理によって除去されるときに形成されるハロゲン化物では、上記表1に示されるように、フッ化物の沸点が、他のハロゲン化物の沸点よりも低いことから、最も揮発しやすい。加えて、上記チャンバ本体11及びチャンバリッド12の形成材料であるAlのフッ化物は、他のハロゲン化物の沸点よりも高い。つまり、実施例1のように、クリーニングガスに含まれるハロゲンガスとしてフッ素ガスを用いることにより、チャンバ本体11及びチャンバリッド12の腐食を抑えつつ、Zr化合物の除去効率を高めることができる。
[比較例]
基板Sに対して上記成膜条件にてZrBO膜の形成を連続して実施したところ、300枚の基板Sに対してZrBO膜を形成したところで、該基板Sへの異物であるZr化合物の付着が認められた。
【0064】
以上説明したように、本発明のZrBO膜の形成装置における一実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)プラズマCVD装置10が、シャワープレート16に高周波電力を供給するシャワープレート側高周波電源RF1と、フッ素ガスを供給するクリーニングガス供給部を構成するマスフローコントローラMFC6を備えるようにしている。そして、基板Sが、チャンバ本体11とチャンバリッド12とによって構成される真空槽内に収容されていないときに、真空槽の内部空間である成膜室11Sにフッ素ガスを供給するとともに、シャワープレート16に高周波電力を供給するようにしている。これにより、プラズマ中に含まれるフッ素を含む正イオンのうち、シャワープレート16近傍の正イオンが、高周波電力の供給されたシャワープレート16に向かって引き込まれる。また、シャワープレート16に向かって引き込まれない正イオンの一部が、シャワープレート16以外の真空槽内の各部位、例えばチャンバ本体11の内壁面や防着板15の内壁面に接触する。すなわち、シャワープレート16を含む真空槽内の各部位に付着したZr化合物に対してフッ素を含む正イオンが衝突する。その結果、Zr化合物と正イオンとの反応によって、揮発性の高いフッ化ジルコニウムとしてZr化合物が除去される。したがって、真空槽を大気に開放することなく、真空槽内の各部位に付着したZr化合物を除去することができる。
【0065】
(2)ZrBO膜の形成時に、温調部H1が、シャワープレート16における真空槽の内部空間である成膜室11Sに露出する面を80℃以上170℃以下に温調するようにしている。そのため、シャワープレート16における成膜室11Sに露出する面に付着するZr化合物のほとんどが膜状のZr化合物になる。それゆえに、上記クリーニング処理によって除去されるZr化合物の量が多くなる。
【0066】
(3)クリーニングガスに含まれるハロゲン系ガスがフッ素ガスである。そのため、フッ素ガスとZr化合物であるZrBOとの反応によって、ハロゲン化物の中でも特に揮発性の高いフッ化ジルコニウム(ZrF)とフッ化ホウ素(BF)とが生成される。一方、チャンバ本体11とシャワープレート16を含むチャンバリッド12を形成するアルミニウムとフッ素ガスとの反応によって、揮発性の相対的に低いフッ化アルミニウム(AlF)が生成される。それゆえに、チャンバ本体11の内壁面及びシャワープレート16を腐食することなく、Zr化合物を除去されやすくすることができる。
【0067】
(4)成膜室11S内に水素ガスを供給するマスフローコントローラMFC7を備えるとともに、上記クリーニングガスのプラズマを成膜室11S内に生成した後に、水素ガスのプラズマを同成膜室11S内に生成するようにしている。そのため、チャンバ本体11の内壁面、防着板15の内壁面、及びシャワープレート16における成膜室11Sに露出する面に吸着されたクリーニングガス由来のハロゲンを水素ガスのプラズマによって除去することができる。これにより、クリーニング処理においてチャンバ本体11の内壁面、防着板15の内壁面、及びシャワープレート16における成膜室11Sに露出する面に吸着されたハロゲンガスが、クリーニング処理後の成膜反応を不安定にすること、及び、クリーニング処理後の成膜処理にて形成されるZrBO膜中に混入することを抑制できる。
【0068】
(5)チャンバ本体11の内壁面を覆う防着板15を備えるとともに、ZrBO膜の形成時には、温調部H1が、防着板15の温度を80℃以上170℃以下に温調するようにしている。そのため、防着板15には、Zr化合物としてZrBO膜が主に形成されるようになることから、上記クリーニング処理によって、該Zr化合物のほとんどが除去されるようになる。しかも、ZrBO膜を形成するときのZr化合物は、チャンバ本体11の内壁面ではなく主に防着板15の内壁面に付着するようになることから、Zr化合物の付着した防着板15と新しい防着板15とを交換するのみで、チャンバ本体11内に付着したZr化合物を取り除くことができる。
【0069】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[ハロゲン系ガスを供給する配管の接続位置]
・上記ハロゲンガス配管PFが、マイクロ波プラズマ源PLに連結されるようにした。これに限らず、例えば図7に示されるように、ハロゲンガス配管PFが、チャンバリッド12に貫通形成された第1フッ素ガスポートP3に接続されるようにしてもよい。これにより、フッ素ガスは、ガス通路GP2とシャワープレート16の第2供給孔16bとを介して上記成膜室11S内に供給される。他方、支燃性ガス配管POと、可燃性ガス配管PHとは、上記実施形態と同様、マイクロ波プラズマ源PLに接続されている。このような構成であれば、マイクロ波プラズマ源PL内にハロゲン系ガスが流れ難くなるため、ハロゲン系ガスに対する耐食性がマイクロ波プラズマ源PLにて必要とされなくなる。それゆえに、このような構成は、マイクロ波プラズマ源PLを構成する各種の部材に対し材料の自由度が高められるという点において優れている。
【0070】
・また、ハロゲンガス配管PFは、図8に示されるように、チャンバ本体11に貫通形成された第2フッ素ガスポートP4に接続されるようにしてもよい。これにより、フッ素ガスは、成膜室11S内に直接供給される。他方、支燃性ガス配管POと、可燃性ガス配管PHとは、上記実施形態と同様、マイクロ波プラズマ源PLに接続されている。このような構成であれば、マイクロ波プラズマ源PL内とシャワープレート16内とにハロゲン系ガスが流れ難くなるため、ハロゲン系ガスに対する耐食性がマイクロ波プラズマ源PL内とシャワープレート16内とに必要とされなくなる。それゆえに、このような構成は、マイクロ波プラズマ源PLを構成する各種の部材やシャワープレート16の内部に対し材料の自由度が高められるという点において優れている。また、マイクロ波プラズマ源PL内やシャワープレート16内にハロゲン系ガスが逆流したとしても、こうしたハロゲン系ガスの吸着する機会が少ないため、吸着したハロゲン系ガスを取り除くためのパージ時間を短くすること、さらにはパージ処理そのものを省略することも可能である。そのため、このような構成は、ハロゲン系ガスに起因して成膜プロセスが不安定になることを抑えられる点、あるいはハロゲン系ガスを除くためのパージ時間が短くなる点において優位である。
【0071】
[水素ガスを供給する配管の接続位置]
・上記可燃性ガス配管PHは、上記マイクロ波プラズマ源PLに接続されるようにした。これに限らず、該可燃性ガス配管PHは、図7に示される第1フッ素ガスポートP3、又は、図8に示される第2フッ素ガスポートP4に接続されるようにしてもよい。なお、可燃性ガス配管PHが、上記ハロゲンガス配管PFと同一のポートP3,P4に接続されるときには、これら配管PH,PFは、上記マイクロ波プラズマ源PLに接続されるときと同様、ポートP3,P4の直前にて接続される。また、可燃性ガス配管PHの接続位置が上述のように変更される場合には、ハロゲンガス配管PFの接続位置が、可燃性ガス配管PHの下流側であることが好ましい。このような構成であれば、ハロゲン系ガスの流れた流路の全てに水素ガスが流れるようになるため、成膜時のチャンバ本体11内にハロゲン系ガスが混ざることを効果的に抑えることが可能にもなる。
【0072】
[高周波電源の接続位置]
・フッ素ガスをプラズマ化するための高周波電源は、上記シャワープレート側高周波電源RF1に限られず、図9に示されるように、基板ステージ13に内設されたステージ電極に接続されるステージ側高周波電源RF2として具現化されてもよい。また、プラズマCVD装置10が、シャワープレート側高周波電源RF1とステージ側高周波電源RF2との両方を備え、これらシャワープレート側高周波電源RF1とステージ側高周波電源RF2との両方でフッ素ガスがプラズマ化される構成であってもよい。このような構成であれば、上記クリーニング処理時における真空槽の内壁面において、フッ素を含有する正イオンの引き込まれる領域が拡大される。それゆえに、このような構成は、真空槽の内壁面においてクリーニングされる領域が拡大されることにおいて優位である。
【0073】
・なお、プラズマCVD装置10が、上記シャワープレート側高周波電源RF1とステージ側高周波電源RF2との両方を備える構成では、これら高周波電源RF1,RF2の出力する電力の周波数が互いに異なることが好ましい。これにより、各高周波電源RF1,RF2の出力する電力が互いに干渉することを回避できる。例えば、シャワープレート側高周波電源RF1の出力する電力の周波数が13.56MHzであるときには、ステージ側高周波電源RF2の出力する電力の周波数を相対的に小さい周波数である800kHzとすることが好ましい。
【0074】
・また、シャワープレート側高周波電源RF1が、ステージ側高周波電源RF2よりも相対的に低い周波数の電力を出力するようにしてもよい。
・また、シャワープレート側高周波電源RF1とステージ側高周波電源RF2との各々から出力される電力間での干渉がなければ、これら高周波電源RF1,RF2の出力する電力は同一の周波数であってもよい。
【0075】
・上記実施形態では、チャンバ本体11が接地電位に接続されるようにした。これに限らず、チャンバ本体11及びチャンバリッド12の少なくとも1つがキャパシタや抵抗等を介して接地電位に接続されてもよい。要は、シャワープレート16にシャワープレート側高周波電源RF1が接続される場合であれ、ステージ電極にステージ側高周波電源RF2が接続される場合であれ、これら高周波電源RF1,RF2の両方が接続される場合であれ、高周波電源の接続先がカソードとなる構成であればよい。
【0076】
・上記チャンバ本体11とチャンバリッド12とは、アルミニウムで形成されるものに限らず、例えば、その一部あるいは全部がステンレスで形成されたものであってもよく、要は接地電位に接続される導電性と温媒によって温調される熱伝導性とを有する材料であればよい。
【0077】
・成膜室11Sを構成するチャンバ本体11の内壁面やチャンバリッド12の内壁面とは、その表面がアルマイト処理されていてもよい。
・上記防着板15は、アルミニウムで形成されるものに限らず、例えば、アルミナで形成されたものであってもよく、このような構成であっても、シャワープレート16がカソードとして機能し、且つチャンバ本体11がアノードとして機能する以上、上記効果に準じた効果を得ることは可能である。
【0078】
・ZrBO膜の成膜時には、酸素ガスに代えてNOガスを用いるようにしてもよい。
・ZrBO膜の成膜時には、各種ガスを活性状態とするプラズマ源として、マイクロ波電源FGを用いるようにしたが、高周波電源を用いるようにしてもよい。
【0079】
・成膜ガスの供給を開始してから所定期間の後にマイクロ波電力の供給を開始するようにしたが、成膜ガスの供給とマイクロ波電力の供給とを同時に開始するようにしてもよい。また、マイクロ波電力の供給を開始してから所定期間の後に成膜ガスの供給を開始するようにしてもよい。
【0080】
・第1供給孔16aに逆流するクリーニングガスが後続する成膜処理に影響を及ぼさない程度であることを前提として、クリーニング処理時には、マスフローコントローラMFC2からのArガスを成膜室11Sに供給しなくともよい。
【0081】
・クリーニングガスの供給を停止するタイミングと、水素ガスの供給を開始するタイミングとを離間して行うことで、クリーニングガスと水素ガスとがチャンバ本体11内に同時に供給されないようにした。これに限らず、クリーニングガスと水素ガスとの両方が供給される期間を設けるようにしてもよい。
【0082】
・クリーニングガスの供給の停止と、水素ガスの供給の開始とは、時間的に離間させてもよい。この場合、クリーニングガスの供給の停止後、成膜室11Sを不活性ガスでパージし、その後、水素ガスの供給を開始するようにしてもよく、あるいはクリーニングガスの供給の停止後、成膜室11Sを所定時間だけ排気し、その後、水素ガスの供給を開始するようにしてもよい。なお、この際、クリーニングガスの供給の停止と同時に、高周波電力の供給も停止し、その後、水素ガスの供給を開始した後に、再び高周波電力の供給を開始することが好ましい。
【0083】
[水素プラズマ処理]
・上記熱CVD装置では、下記(a)(b)の処理がこの順に行われる。
(a)シャワープレート側高周波電源RF1を用いた水素プラズマ処理
(b)マイクロ波電源FGを用いた水素プラズマ処理
これに限らず、上記(b)の水素プラズマ処理を最初に行った後に、上記(a)の水素プラズマ処理が行われる構成であってもよい。上記(a)の水素プラズマ処理が行われる際には、チャンバ本体11内に残存するハロゲン元素がチャンバ本体11内から排気される一方、上記(b)の水素プラズマ処理が行われる際には、放電管17内に残存するハロゲン元素が水素ガスとともにチャンバ本体11内に流入することとなる。それゆえに、上記(a)の水素プラズマ処理が行われた後に、上記(b)の水素プラズマ処理が行われる場合には、後続する(b)の水素プラズマ処理によって、チャンバ本体11内がハロゲン元素で汚染される虞がある。
【0084】
この点、上記(b)の水素プラズマ処理の後に上記(a)の水素プラズマ処理が行われる構成であれば、先行する上記(b)の水素プラズマ処理でチャンバ本体11内がハロゲン元素に汚染されたとしても、後続する上記(a)の水素プラズマ処理により、該ハロゲン元素がチャンバ本体11の外部へ排出されることになる。そのため、上記(b)の水素プラズマ処理の後に上記(a)の水素プラズマ処理が行われる構成は、チャンバ本体11内におけるハロゲン元素の残存量を抑える観点において優れている。
【0085】
なお、上述した効果は、ハロゲンガス配管PFがマイクロ波プラズマ源PLに接続される構成に限られるものではない。すなわち、ハロゲンガス配管PFがチャンバ本体11に接続される構成であれ、ハロゲンガス配管PFがチャンバリッド12に接続される構成であれ、チャンバ本体11内のハロゲン元素は、少なからず放電管17に向けて逆流する。そして、このようにして逆流したハロゲン元素が上記(b)の水素プラズマ処理でチャンバ本体11内を汚染するため、上記(b)の水素プラズマ処理の後に上記(a)の水素プラズマ処理が行われる構成であれば、こうした汚染を抑えることが可能である。ちなみに、ハロゲンガス配管PFがマイクロ波プラズマ源PLに接続される構成では、放電管17やシャワープレート16にハロゲン元素が直接供給されるため、放電管17やシャワープレート16におけるハロゲン元素の残存量も高いものとなる。そして、上記(b)の水素プラズマ処理によりチャンバ本体11内がハロゲン元素で汚染される度合いも自ずと高くなる。そのため、ハロゲンガス配管PFがマイクロ波プラズマ源PLに接続される構成であれば、上述した効果が、より顕著なものとなる。
【0086】
・上記プラズマCVD装置10は、図10(a)に示されるように、上記(b)のみが行われる構成であってもよい。この場合、プラズマCVD装置10の構成としては、図1に示されるように、ハロゲンガス配管PFがマイクロ波プラズマ源PLに接続される構成であるときに、該マイクロ波プラズマ源PL及びシャワープレート16の内部に吸着されたハロゲンが、優先的に水素プラズマ処理によって除去されるようになる。なお、マイクロ波プラズマ源PLにて生成された水素プラズマの一部は、シャワープレート16を介してチャンバ本体11内にも供給される。そのため、チャンバ本体11内に吸着したハロゲンも少なからず除去されることになる。なお、図10(a)には、図2に示されるタイミングt5以降に行われるクリーニング処理と水素プラズマ処理における各種ガスの供給態様、及び各種電源からの電力の供給態様を示している。
【0087】
・上記プラズマCVD装置10では、図10(b)に示されるように、上記(a)のみが行われる構成であってもよい。この場合、プラズマCVD装置10の構成としては、図8に示されるように、ハロゲンガス配管PFが、チャンバ本体11に貫通形成された第2フッ素ガスポートP4に接続される構成が好ましい。こうした構成であれば、ハロゲン元素の殆どがチャンバ本体11の内壁面及びシャワープレート16の表面に吸着するため、該吸着したハロゲン元素を効果的に除去することができる。なお、図9に示されるように、プラズマCVD装置10がステージ側高周波電源RF2を備える構成であれば、該ステージ側高周波電源RF2によって水素プラズマ処理が行われることにより上記と同様の効果を得ることが可能である。なお、図10(b)には、図10(a)と同様、図2に示されるタイミングt5以降に行われるクリーニング処理と水素プラズマ処理における各種ガスの供給態様、及び各種電源からの電力の供給態様を示している。
【0088】
・図9に示されるように、ステージ側高周波電源RF2を備える場合には、ステージ側高周波電源RF2を用いて水素プラズマ処理を行うようにしてもよい。
・温調部H1によって防着板15の温調を行うようにしたが、防着板15の温調を行わなくともよい。
【0089】
・チャンバ本体11の内壁面に沿って防着板15を設けるようにしたが、上記プラズマCVD装置10は、防着板15を有していなくともよい。この場合であっても、上記温調部H1によってチャンバ本体11の内壁面の温度を80℃以上170℃以下に温調することで、以下のような効果を得ることができる。
【0090】
(6)ZrBO膜の形成時に、チャンバ本体11の内壁面の温度を80℃以上170℃以下に温調する温調部H1を備えるようにしている。そのため、チャンバ本体11の内壁面に付着するZr化合物のほとんどが膜状のZr化合物になる。それゆえに、上記クリーニング処理によって除去されるZr化合物の量が多くなる。
【0091】
・プラズマCVD装置10は、水素ガスを供給するマスフローコントローラMFC7を備えていなくともよい。
・クリーニングガスには、フッ素ガス及びアルゴンガスに加えて、酸素ガスが含まれていてもよい。これにより、以下のような効果を得ることができる。
【0092】
(7)上記Zr化合物に含まれるZrBOが酸素ガスと反応することで、ハロゲン化ジルコニウム及びハロゲン化ホウ素と同様に揮発性の高いハロゲン化酸化ホウ素を形成することができることから、Zr化合物が除去されやすくなる。
【0093】
・シャワープレート16の温度を80℃以上170℃以下の所定の温度に温調するようにしたが、こうした温調を行わなくともよい。
・チャンバ本体11の内壁面の温度は、80℃以上170℃以下の所定の温度に温調するようにした。これに限らず、チャンバ本体11の内壁面の温度は、80℃未満且つ170℃よりも高い温度でもあってもよい。チャンバ本体11の温度が170℃よりも高い温度であっても、上記Zr(BHの分解反応が、主に基板表面にて起こるようにすればよい。
【0094】
・チャンバ本体11の内壁面の温度、防着板15の内壁面の温度、及びシャワープレート16の表面、すなわち上記成膜室11Sを囲う面の温度を80℃以上170℃以下の所定の温度に温調する際には、温調部H1の設定温度を上記所定の温度とするようにした。これに限らず、例えばチャンバ本体11の外壁面の温度、防着板15の外壁面の温度、及びシャワープレート16の外壁面の温度が温調部H1での設定温度である場合等、成膜室11Sを囲う面と各外壁面との間に所定の温度差が生じるような場合には、設定温度を該所定の温度差に応じた温度としつつ、成膜室11Sを囲う面の温調を行うようにしてもよい。要は、成膜室11Sを囲う面の温度が80℃以上170℃以下となる温調であればよい。
【0095】
・上記クリーニングガスに含まれるハロゲン系ガスは、フッ素ガスの他、ハロゲン元素であるフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)が含まれるガスであればよい。例えば、上記NFガス、ClFガス、HBrガス、及びHIガス等のハロゲン含有ガスを用いることができる。また、これらハロゲン含有ガスの混合ガスをクリーニングガスとして用いるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0096】
10…プラズマCVD装置、11…チャンバ本体、11a…絶縁材、12…チャンバリッド、12a…分散板、13…基板ステージ、13a…抵抗加熱ヒータ、14…昇降機構、15…防着板、16…シャワープレート、16a…第1供給孔、16b…第2供給孔、17…放電管、18…マイクロ波源、19a…同軸ケーブル、19b…コネクタ、19c…アンテナ、APC…圧力調節バルブ、FG…マイクロ波電源、GP1,GP2…ガス通路、H1…温調部、H2…ヒータ電源、MFC1〜MFC7…マスフローコントローラ、P…Zr化合物、P1…排気ポート、P2…原料ガスポート、P3…第1フッ素ガスポート、P4…第2フッ素ガスポート、PF…ハロゲンガス配管、PH…可燃性ガス配管、PO…支燃性ガス配管、PL…マイクロ波プラズマ源、RF1…シャワープレート側高周波電源、RF2…ステージ側高周波電源、S…基板、TK…原料タンク、V…メインバルブ、VC…排気ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を収容する真空槽と、
前記真空槽内にて前記基板が載置され、該載置された基板を加熱する基板ステージと、
前記真空槽内に活性状態の酸素原子が含まれる酸素含有ガスと、Zr(BHとを各別に供給するシャワープレートとを備え、
加熱された前記基板上でZrBO膜を形成するZrBO膜の形成装置であって、
前記シャワープレートは、前記真空槽に対して電気的に絶縁された導体であり、
前記基板ステージに内設されたステージ電極と、
前記シャワープレート及び前記ステージ電極の少なくとも一方である接続先に接続されて、該接続先に高周波電力を供給する高周波電源と、
前記真空槽内にハロゲン系ガスを供給するクリーニングガス供給部とを備え、
前記基板が前記真空槽内に収容されていない状態で、
前記クリーニングガス供給部は、前記真空槽内に前記ハロゲン系ガスを供給し、
前記高周波電源は、前記接続先に供給する前記高周波電力で前記ハロゲン系ガスをプラズマ化して前記真空槽内に付着したZr化合物を除去する
ことを特徴とするZrBO膜の形成装置。
【請求項2】
前記ZrBO膜を形成するときに、前記真空槽の内壁面の温度を80℃以上170℃以下に温調する温調部を備える
請求項1に記載のZrBO膜の形成装置。
【請求項3】
前記温調部は、前記ZrBO膜を形成するときに、前記シャワープレートのうち前記真空槽内に露出する面を80℃以上170℃以下に温調する
請求項2に記載のZrBO膜の形成装置。
【請求項4】
前記クリーニングガス供給部は、前記ハロゲン系ガスに加えて酸素ガスを含むクリーニングガスを前記真空槽内に供給する
請求項1〜3のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置。
【請求項5】
前記クリーニングガス供給部は、前記ハロゲン系ガスであるフッ素ガスを前記真空槽内に供給する
請求項1〜4のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置。
【請求項6】
前記真空槽内に水素ガスを供給する水素ガス供給部を備え、
前記クリーニングガスの前記真空槽内への供給が停止された後に、
前記水素ガス供給部は、前記真空槽内に前記水素ガスを供給し、
前記高周波電源は、前記接続先に供給する前記高周波電力で前記水素ガスをプラズマ化する
請求項1〜5のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置。
【請求項7】
前記活性状態の酸素原子が含まれる前記酸素含有ガスをマイクロ波の照射により生成するマイクロ波プラズマ源と、
前記真空槽内に水素ガスを供給する水素ガス供給部とを備え、
前記マイクロ波プラズマ源は、前記真空槽内に向けて流れる前記水素ガスにもマイクロ波を照射する
請求項1〜6のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置。
【請求項8】
前記真空槽の内壁面を覆う防着板を備え、
前記温調部が、前記防着板の温度を80℃以上170℃以下に温調する
請求項2〜7のいずれか一項に記載のZrBO膜の形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−238644(P2012−238644A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105212(P2011−105212)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】