ねじ装置用シールの製造方法とねじ装置用シール及びねじ装置
【課題】熱可塑性エラストマからなるシールリップを射出成形するときにウェルドラインの発生する部分の強度が弱くなることを抑制することのできるねじ装置用シールの製造方法を提供する。
【解決手段】シールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度で配列された多数のゲート3aを有する金型3を用いてねじ装置用シールを製造する。
【解決手段】シールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度で配列された多数のゲート3aを有する金型3を用いてねじ装置用シールを製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、ローラねじ、遊星ローラねじ等のねじ装置に用いられるねじ装置用シールとその製造方法及びねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ装置のねじ軸とナットとの間を密封するねじ装置用シールとして、例えば特許文献1に示されたねじ装置用シールは、図8および図9に示すように、ねじ装置のねじ軸外周面およびねじ軸外周面に形成されたねじ溝に接触するシールリップ1と、このシールリップ1を保持するシールリップ保持部材(芯金)2とからなり、シールリップ1は熱可塑性エラストマから形成されている。
【特許文献1】特開2002−070979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなねじ装置用シールは、ねじ軸外周面に形成されたねじ溝が螺旋状に形成されているため、ねじ軸外周面(ランド)とねじ溝との境界部やねじ溝の溝底部では、シールリップが比較的強い繰り返し応力を受けることになる。
しかしながら、上述したねじ装置用シールは、従来、シールリップを射出成形するときに用いる金型として、図10および図11に示すような金型3、すなわち多数のゲート3aが円環状に配列された金型3を用いて製造されている。
【0004】
このため、金型3の各ゲート3aからシールリップ1の先端までの距離(最短距離)が一定でないため、シールリップ1の先端部で熱可塑性エラストマの冷却速度にばらつきが発生し、ウェルドライン4(図8参照)の生じる部分でシールリップ1の強度が弱くなるという問題があった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、熱可塑性エラストマからなるシールリップを射出成形するときにウェルドラインの発生する部分の強度が弱くなることを抑制することのできるねじ装置用シールの製造方法とねじ装置用シール及びねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、ねじ装置のねじ軸外周面および該ねじ軸外周面に形成されたねじ溝に接触するシールリップが熱可塑性エラストマからなるねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度で配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とする。
請求項3記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1又は2記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマが硬度デュアロメータA75±10の弾性を有することを特徴とする。
【0007】
請求項4記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項3記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマがオレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマであることを特徴とする。
請求項5記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1〜4のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを保持するシールリップ保持部材として、前記金型の各ゲートに対応した多数のアンカ孔を有するシールリップ保持部材を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とする。
請求項6記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1〜5のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ軸外周面と前記ねじ溝との境界部までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とする。
【0008】
請求項7記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1〜6のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ溝の溝底までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とする。
請求項8記載の発明に係るねじ装置用シールは、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法により製造されたことを特徴とする。
請求項9記載の発明に係るねじ装置は、請求項8記載のシールを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、シールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いたことにより、シールリップの先端部で熱可塑性エラストマの冷却速度にばらつきが生じ難くなる。したがって、熱可塑性エラストマからなるシールリップを射出成形するときにウェルドラインの発生する部分の強度が弱くなることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1〜図5を参照して本発明に係るねじ装置用シールの製造方法について説明する。なお、図8〜図11に示したものと同一の部分には同一の符号を付し、その部分の詳細な説明は割愛する。
図1および図2は本発明に係るねじ装置用シールの製造方法で用いられる金型の一例を示す図であり、図1および図2に示される金型3が図10および図11に示した金型と異なる点は、シールリップ1の先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度(例えば15°前後)で配列された多数のゲート3aを有する点である。
【0011】
このような金型を用いてねじ装置用シールのシールリップを射出成形する場合は、先ず、図3(a)に示すように、芯金と称されるねじ装置用シールのシールリップ保持部材2を、シールリップ保持部材2に形成された多数のアンカ孔2aが金型3の各ゲート3aと対向するように、金型3のキャビティ3b(図1参照)内に配置する。次に、図3(b)に示すように、金型3を型締めした後、金型3のキャビティ3b内に硬度デュアロメータA75±10の弾性を有する熱可塑性エラストマ(好ましくは、オレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマ)を金型3の各ゲート3aから射出し、ねじ装置用シールのシールリップ1を射出成形する。
【0012】
なお、金型3のキャビティ3b内にセットされるシールリップ保持部材2としては、図4に示すように、金型の各ゲートと対応した多数のアンカ孔2aを有するものを用いることが好ましい。
上述したように、ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップ1の先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度(例えば15°前後)で配列された多数のゲート3aを有する金型3を用いると、金型3の各ゲート3aからシールリップ1の先端までの最短距離のばらつきが±10%以下となり、シールリップ1の先端部で熱可塑性エラストマの冷却速度にばらつきが生じ難くなる。したがって、熱可塑性エラストマからなるシールリップ1を射出成形するときにウェルドライン4の発生する部分の強度が弱くなることを抑制することができる。
【0013】
また、図5に示すように、シールリップ1の比較的強い繰り返し応力を受ける部位(ねじ軸外周面とねじ溝との境界部に接触する位置Aやねじ溝の溝底部に接触する位置B)にウェルドライン4が発生しなくなるため、耐久性に優れたシールリップを射出成形することができる。
具体的に、シールリップ1のねじ軸外周面とねじ溝との境界部に接触する位置Aに関しては、図5に示すように、図1および図2に示した金型3で、位置Aに最も近い二つのゲート3A,3Bを、位置Aからの距離L1,L2が異なるように配置してある(L1<L2、好ましくは、L2/L1≦1.2)ことで、位置Aへのウエルドライン4の発生が防止されている。シールリップ1のねじ溝の溝底部に接触する位置Bに関しては、図5に示すように、図1および図2に示した金型3で、前記位置Bの位相にゲート3Cが配置されていることで、位置Bへのウエルドライン4の発生が防止されている。
【0014】
また、金型3のキャビティ3b内に射出される熱可塑性エラストマとして、硬度デュアロメータA75±10の弾性を有する熱可塑性エラストマ、好ましくはオレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマ)を用いると、ボールねじ等のねじ装置に降りかかる各種クーラントやグリースなどに対する高い耐溶剤性を得られるとともに、ねじ装置のナットにねじ装置用シールを組み付けるときなどに発生する異物の噛み込みによる損傷がシールリップに発生することを防止することができる。
【0015】
図1及び図2に示した一実施形態では、ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度(例えば15°前後)で配列された多数のゲートを有する金型を示したが、シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いても同様の効果を得ることができる。
【0016】
また、図1及び図2に示した一実施形態では、ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップのねじ軸外周面とねじ溝との境界部に接触する位置(図5の位置A)で、隣合う二つのゲート(位置Aに最も近い二つのゲート)からねじ軸外周面とねじ溝との境界部までの距離が異なるように前記二つのゲートが配列された金型を示したが、シールリップのねじ溝の溝底部に接触する位置(図5の位置B)で、隣合う二つのゲート(位置Bに最も近い二つのゲート)からねじ溝の溝底までの距離が異なるように前記二つのゲートが配列された金型を用いても、同様の効果(ウエルドライン発生の防止効果)を得ることができる。
【0017】
また、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、たとえば、図6に示すように、直動案内装置の案内レールとスライダとの間を密封する直動案内装置用シール6を製造する場合にも本発明を適用することができる。
次に、本発明に係るねじ装置の一実施形態を図7に示す。同図において、11はねじ軸、12はナットを示し、ねじ軸11の外周面には、ねじ溝13が形成されている。このねじ溝13はナット12の内周面に形成されたねじ溝14と対向しており、ねじ溝13とねじ溝14との間には、多数のボール15が設けられている。これらのボール15はねじ軸11またはナット12の回転に伴ってねじ溝13とねじ溝14との間のボール負荷転走路を転走するようになっており、ボール負荷転走路を転走したボール15はナット12に組み付けられた循環チューブ16に導入され、この循環チューブ16内を経由して元の位置に戻されるようになっている。
【0018】
ナット12の両端には、ねじ軸11とナット12との間の隙間をシールする接触型のシール17が装着されている。このシール17はねじ軸11の外周面およびねじ溝13に接触するシールリップ1と、このシールリップ1を保持するシールリップ保持部材(芯金)2とからなり、シールリップ1は図1及び図2に示す金型3で熱可塑性エラストマを射出成形して形成されている。
【0019】
このようなねじ装置では、シール17のシールリップ1に発生するウェルドライン部の強度が従来よりも高くなるため、シール性の向上を図ることができる。
図7に示した一実施形態では、本発明をボールねじに適用した場合を示したが、これに限られるものではなく、たとえば、ローラねじ、遊星ローラねじについても本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るねじ装置用シールの製造方法で用いられる金型の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す金型をゲート側から視た正面図である。
【図3】図1に示す金型を用いてねじ装置用シールのシールリップを射出成形する場合の手順を示す図である。
【図4】図1に示す金型のキャビティ内にセットされるシールリップ保持部材の正面図である。
【図5】図1に示す金型を用いて製造されたねじ装置用シールの正面図である。
【図6】直動案内装置用シールの正面図である。
【図7】本発明に係るねじ装置の一実施形態を示す図である。
【図8】従来方法で製造されたねじ装置用シールの正面図である。
【図9】図8のIX−IX断面を示す図である。
【図10】ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いられる従来の金型を示す断面図である。
【図11】図10に示す金型をゲート側から視た正面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 シールリップ
2 シールリップ保持部材
2a アンカ孔
3 金型
3a ゲート
3b キャビティ
4 ウェルドライン
11 ねじ軸
12 ナット
13,14 ねじ溝
15 ボール
16 循環チューブ
17 シール
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、ローラねじ、遊星ローラねじ等のねじ装置に用いられるねじ装置用シールとその製造方法及びねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ装置のねじ軸とナットとの間を密封するねじ装置用シールとして、例えば特許文献1に示されたねじ装置用シールは、図8および図9に示すように、ねじ装置のねじ軸外周面およびねじ軸外周面に形成されたねじ溝に接触するシールリップ1と、このシールリップ1を保持するシールリップ保持部材(芯金)2とからなり、シールリップ1は熱可塑性エラストマから形成されている。
【特許文献1】特開2002−070979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようなねじ装置用シールは、ねじ軸外周面に形成されたねじ溝が螺旋状に形成されているため、ねじ軸外周面(ランド)とねじ溝との境界部やねじ溝の溝底部では、シールリップが比較的強い繰り返し応力を受けることになる。
しかしながら、上述したねじ装置用シールは、従来、シールリップを射出成形するときに用いる金型として、図10および図11に示すような金型3、すなわち多数のゲート3aが円環状に配列された金型3を用いて製造されている。
【0004】
このため、金型3の各ゲート3aからシールリップ1の先端までの距離(最短距離)が一定でないため、シールリップ1の先端部で熱可塑性エラストマの冷却速度にばらつきが発生し、ウェルドライン4(図8参照)の生じる部分でシールリップ1の強度が弱くなるという問題があった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、熱可塑性エラストマからなるシールリップを射出成形するときにウェルドラインの発生する部分の強度が弱くなることを抑制することのできるねじ装置用シールの製造方法とねじ装置用シール及びねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、ねじ装置のねじ軸外周面および該ねじ軸外周面に形成されたねじ溝に接触するシールリップが熱可塑性エラストマからなるねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度で配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とする。
請求項3記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1又は2記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマが硬度デュアロメータA75±10の弾性を有することを特徴とする。
【0007】
請求項4記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項3記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマがオレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマであることを特徴とする。
請求項5記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1〜4のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを保持するシールリップ保持部材として、前記金型の各ゲートに対応した多数のアンカ孔を有するシールリップ保持部材を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とする。
請求項6記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1〜5のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ軸外周面と前記ねじ溝との境界部までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とする。
【0008】
請求項7記載の発明に係るねじ装置用シールの製造方法は、請求項1〜6のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ溝の溝底までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とする。
請求項8記載の発明に係るねじ装置用シールは、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法により製造されたことを特徴とする。
請求項9記載の発明に係るねじ装置は、請求項8記載のシールを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、シールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いたことにより、シールリップの先端部で熱可塑性エラストマの冷却速度にばらつきが生じ難くなる。したがって、熱可塑性エラストマからなるシールリップを射出成形するときにウェルドラインの発生する部分の強度が弱くなることを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図1〜図5を参照して本発明に係るねじ装置用シールの製造方法について説明する。なお、図8〜図11に示したものと同一の部分には同一の符号を付し、その部分の詳細な説明は割愛する。
図1および図2は本発明に係るねじ装置用シールの製造方法で用いられる金型の一例を示す図であり、図1および図2に示される金型3が図10および図11に示した金型と異なる点は、シールリップ1の先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度(例えば15°前後)で配列された多数のゲート3aを有する点である。
【0011】
このような金型を用いてねじ装置用シールのシールリップを射出成形する場合は、先ず、図3(a)に示すように、芯金と称されるねじ装置用シールのシールリップ保持部材2を、シールリップ保持部材2に形成された多数のアンカ孔2aが金型3の各ゲート3aと対向するように、金型3のキャビティ3b(図1参照)内に配置する。次に、図3(b)に示すように、金型3を型締めした後、金型3のキャビティ3b内に硬度デュアロメータA75±10の弾性を有する熱可塑性エラストマ(好ましくは、オレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマ)を金型3の各ゲート3aから射出し、ねじ装置用シールのシールリップ1を射出成形する。
【0012】
なお、金型3のキャビティ3b内にセットされるシールリップ保持部材2としては、図4に示すように、金型の各ゲートと対応した多数のアンカ孔2aを有するものを用いることが好ましい。
上述したように、ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップ1の先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度(例えば15°前後)で配列された多数のゲート3aを有する金型3を用いると、金型3の各ゲート3aからシールリップ1の先端までの最短距離のばらつきが±10%以下となり、シールリップ1の先端部で熱可塑性エラストマの冷却速度にばらつきが生じ難くなる。したがって、熱可塑性エラストマからなるシールリップ1を射出成形するときにウェルドライン4の発生する部分の強度が弱くなることを抑制することができる。
【0013】
また、図5に示すように、シールリップ1の比較的強い繰り返し応力を受ける部位(ねじ軸外周面とねじ溝との境界部に接触する位置Aやねじ溝の溝底部に接触する位置B)にウェルドライン4が発生しなくなるため、耐久性に優れたシールリップを射出成形することができる。
具体的に、シールリップ1のねじ軸外周面とねじ溝との境界部に接触する位置Aに関しては、図5に示すように、図1および図2に示した金型3で、位置Aに最も近い二つのゲート3A,3Bを、位置Aからの距離L1,L2が異なるように配置してある(L1<L2、好ましくは、L2/L1≦1.2)ことで、位置Aへのウエルドライン4の発生が防止されている。シールリップ1のねじ溝の溝底部に接触する位置Bに関しては、図5に示すように、図1および図2に示した金型3で、前記位置Bの位相にゲート3Cが配置されていることで、位置Bへのウエルドライン4の発生が防止されている。
【0014】
また、金型3のキャビティ3b内に射出される熱可塑性エラストマとして、硬度デュアロメータA75±10の弾性を有する熱可塑性エラストマ、好ましくはオレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマ)を用いると、ボールねじ等のねじ装置に降りかかる各種クーラントやグリースなどに対する高い耐溶剤性を得られるとともに、ねじ装置のナットにねじ装置用シールを組み付けるときなどに発生する異物の噛み込みによる損傷がシールリップに発生することを防止することができる。
【0015】
図1及び図2に示した一実施形態では、ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度(例えば15°前後)で配列された多数のゲートを有する金型を示したが、シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いても同様の効果を得ることができる。
【0016】
また、図1及び図2に示した一実施形態では、ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いる金型として、シールリップのねじ軸外周面とねじ溝との境界部に接触する位置(図5の位置A)で、隣合う二つのゲート(位置Aに最も近い二つのゲート)からねじ軸外周面とねじ溝との境界部までの距離が異なるように前記二つのゲートが配列された金型を示したが、シールリップのねじ溝の溝底部に接触する位置(図5の位置B)で、隣合う二つのゲート(位置Bに最も近い二つのゲート)からねじ溝の溝底までの距離が異なるように前記二つのゲートが配列された金型を用いても、同様の効果(ウエルドライン発生の防止効果)を得ることができる。
【0017】
また、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、たとえば、図6に示すように、直動案内装置の案内レールとスライダとの間を密封する直動案内装置用シール6を製造する場合にも本発明を適用することができる。
次に、本発明に係るねじ装置の一実施形態を図7に示す。同図において、11はねじ軸、12はナットを示し、ねじ軸11の外周面には、ねじ溝13が形成されている。このねじ溝13はナット12の内周面に形成されたねじ溝14と対向しており、ねじ溝13とねじ溝14との間には、多数のボール15が設けられている。これらのボール15はねじ軸11またはナット12の回転に伴ってねじ溝13とねじ溝14との間のボール負荷転走路を転走するようになっており、ボール負荷転走路を転走したボール15はナット12に組み付けられた循環チューブ16に導入され、この循環チューブ16内を経由して元の位置に戻されるようになっている。
【0018】
ナット12の両端には、ねじ軸11とナット12との間の隙間をシールする接触型のシール17が装着されている。このシール17はねじ軸11の外周面およびねじ溝13に接触するシールリップ1と、このシールリップ1を保持するシールリップ保持部材(芯金)2とからなり、シールリップ1は図1及び図2に示す金型3で熱可塑性エラストマを射出成形して形成されている。
【0019】
このようなねじ装置では、シール17のシールリップ1に発生するウェルドライン部の強度が従来よりも高くなるため、シール性の向上を図ることができる。
図7に示した一実施形態では、本発明をボールねじに適用した場合を示したが、これに限られるものではなく、たとえば、ローラねじ、遊星ローラねじについても本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るねじ装置用シールの製造方法で用いられる金型の一例を示す断面図である。
【図2】図1に示す金型をゲート側から視た正面図である。
【図3】図1に示す金型を用いてねじ装置用シールのシールリップを射出成形する場合の手順を示す図である。
【図4】図1に示す金型のキャビティ内にセットされるシールリップ保持部材の正面図である。
【図5】図1に示す金型を用いて製造されたねじ装置用シールの正面図である。
【図6】直動案内装置用シールの正面図である。
【図7】本発明に係るねじ装置の一実施形態を示す図である。
【図8】従来方法で製造されたねじ装置用シールの正面図である。
【図9】図8のIX−IX断面を示す図である。
【図10】ねじ装置用シールのシールリップを射出成形するときに用いられる従来の金型を示す断面図である。
【図11】図10に示す金型をゲート側から視た正面図である。
【符号の説明】
【0021】
1 シールリップ
2 シールリップ保持部材
2a アンカ孔
3 金型
3a ゲート
3b キャビティ
4 ウェルドライン
11 ねじ軸
12 ナット
13,14 ねじ溝
15 ボール
16 循環チューブ
17 シール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ装置のねじ軸外周面および該ねじ軸外周面に形成されたねじ溝に接触するシールリップが熱可塑性エラストマからなるねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度で配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマが硬度デュアロメータA75±10の弾性を有することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマがオレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマであることを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを保持するシールリップ保持部材として、前記金型の各ゲートに対応した多数のアンカ孔を有するシールリップ保持部材を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ軸外周面と前記ねじ溝との境界部までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ溝の溝底までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の方法により製造されたことを特徴とするねじ装置用シール。
【請求項9】
請求項8記載のシールを備えたことを特徴とするねじ装置。
【請求項1】
ねじ装置のねじ軸外周面および該ねじ軸外周面に形成されたねじ溝に接触するシールリップが熱可塑性エラストマからなるねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定に配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを射出成形するときに用いる金型として、前記シールリップの先端までの最短距離が一定で且つ周方向に等角度で配列された多数のゲートを有する金型を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマが硬度デュアロメータA75±10の弾性を有することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記熱可塑性エラストマがオレフィン系の動的架橋型熱可塑性エラストマであることを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記シールリップを保持するシールリップ保持部材として、前記金型の各ゲートに対応した多数のアンカ孔を有するシールリップ保持部材を用いて前記ねじ装置用シールを製造することを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ軸外周面と前記ねじ溝との境界部までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項記載のねじ装置用シールの製造方法であって、前記多数のゲートのうち隣合う二つのゲートから前記ねじ溝の溝底までの距離が異なるように、前記ゲートが周方向に等角度で配列されていることを特徴とするねじ装置用シールの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の方法により製造されたことを特徴とするねじ装置用シール。
【請求項9】
請求項8記載のシールを備えたことを特徴とするねじ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−121677(P2009−121677A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272964(P2008−272964)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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