説明

ばね下制振装置

【課題】車輪を制動するディスクブレーキ装置を構成するブレーキキャリパを動吸振器の質量体として用いてばね下の制振を行う場合に、広範な周波数域のばね下振動を低減することができるようにする。
【解決手段】ブレーキキャリパ2に設けられた摩擦パッド4をブレーキロータ3に対して圧接動作させる液圧を発生する液圧制御回路13を制御するコントローラ31を備え、このコントローラが、車輪の制動を要しない通常走行時に、摩擦パッドをブレーキロータに圧接させるように液圧制御回路を制御して、動吸振器の質量体としてのブレーキキャリパに、ブレーキロータと摩擦パッドとの間の摩擦力を作用させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪を制動するディスクブレーキ装置を構成するブレーキキャリパを動吸振器の質量体として用いて、車両の懸架装置を構成するばねよりも車輪側の部分、いわゆるばね下の制振を行うばね下制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の懸架装置を構成するばねよりも車輪側の部分、通常は空気入りタイヤ及びホイールと、これを回転可能に保持して車体側の懸架装置に連結されるナックルとで構成される、いわゆるばね下に、走行路面の凹凸などに起因する振動が発生するが、このばね下振動は、車輪の接地性や乗り心地を低下させるため、低減することが望まれる。
【0003】
このような要望に対して、車輪を制動するディスクブレーキ装置を構成するブレーキキャリパを動吸振器の質量体として用いてばね下の制振を行う技術が知られている(特許文献1参照)。これによると、既設のブレーキキャリパを動吸振器の質量体として用いるため、ばね下の重量を増大させることなく、ばね下振動を効果的に抑制することができる。
【特許文献1】特表2006−518296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術では、動吸振器の質量体となるブレーキキャリパの重量、及びブレーキキャリパを弾性支持するばねのばね定数に応じて定まる特定の周波数にしか制振効果が期待できない難点がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術の問題点を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、車輪を制動するディスクブレーキ装置を構成するブレーキキャリパを動吸振器の質量体として用いてばね下の制振を行う場合に、広範な周波数域のばね下振動を低減することができるように構成されたばね下制振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決するために、本発明においては、請求項1に示すとおり、車輪を制動するディスクブレーキ装置(1)を構成するブレーキキャリパ(2)を、動吸振器の質量体として、ばね(10)を介してブレーキロータ(3)の周方向に移動可能に支持部材(キャリパブラケット8)に支持させて、ばね下の制振を行うようにしたばね下制振装置において、前記ブレーキキャリパに設けられた摩擦パッド(4)をブレーキロータに対して圧接動作させるパッド駆動手段(液圧制御回路13、ピストン14、液圧室15、ブレーキ配管16、及び液圧路17)を制御するコントローラ(31)を備え、このコントローラが、車輪の制動を要しない通常走行時に、前記摩擦パッドを前記ブレーキロータに圧接させるように前記パッド駆動手段を制御して、動吸振器の質量体としての前記ブレーキキャリパに、前記ブレーキロータと前記摩擦パッドとの間の摩擦力を作用させるようにしたものとした。
【0007】
これによると、動吸振器の質量体として機能するブレーキキャリパに、ブレーキロータと摩擦パッドとの間の摩擦力が作用する固体摩擦減衰振動系を構成し、この固体摩擦減衰振動系は、質量体とばねのみの振動系や、ばねに粘性ダンパを併設した粘性減衰振動系とは異なる振動特性を示し、広範な周波数域のばね下振動を低減することが可能となる。
【0008】
この場合、支持部材(キャリパブラケット)は、車輪を回転可能に支持する車輪支持部材(ナックル)に対して固定される。動吸振器を構成するばねは、支持部材とブレーキキャリパとの間に介装すれば良い。
【0009】
また、ブレーキキャリパは、その周方向の移動方向が、制振対象となるばね下振動の振動方向に略一致するように配置される。特に接地性及び乗り心地の向上を図る観点から、ばね下に発生する上下方向の振動を主に制振するには、ブレーキキャリパをブレーキロータの前側あるいは後側に配置して、ブレーキキャリパの周方向の移動が略上下方向となるようにすれば良い。
【0010】
さらに、制振対象となるばね下振動の振動方向などに応じて、1つのブレーキロータに対して複数のブレーキキャリパを配置することも可能である。この場合、複数のブレーキキャリパごとの摩擦パッドの圧接動作を個別に制御する構成も可能である。例えば、ブレーキキャリパを、回転軸を挟んだ対称位置に1対設け、コントローラにおいて、加速度センサにより検出された加速度の方向に応じて、摩擦パッドに圧接動作を行わせるブレーキキャリパを切り替えるように制御することも可能である。これにより、制御性を確保して、制振効果が低下することを避けることができる。
【0011】
前記ばね下制振装置においては、請求項2に示すとおり、ばね下に発生する加速度を検出する加速度センサ(32)を備え、前記コントローラが、前記加速度センサにより検出された加速度に基づいて、前記摩擦パッドの圧接動作を制御する構成とすることができる。これによると、加速度センサにより検出された加速度に基づく実際のばね下の振動状況に応じて、ブレーキキャリパにばね下制振に最適な運動を行わせることが可能になるため、制振効果をより一層高めることができる。
【0012】
この場合、加速度センサは、ブレーキキャリパの周方向の移動方向に略一致する方向、すなわち制振対象となるばね下振動の振動方向に略一致する方向の加速度を検出するように設けられる。
【0013】
前記ばね下制振装置においては、請求項3に示すとおり、前記支持部材に対する前記ブレーキキャリパの移動を規制するストッパ(22)と、車輪を制動するために前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに圧接する動作と同時に、前記ストッパに規制動作を行わせるストッパ駆動手段とを備えた構成とすることができる。これによると、車輪の制動時に、ブレーキロータに対する摩擦パッドの圧接動作と同時にストッパが規制動作を行って、ブレーキキャリパの移動が規制されるため、摩擦力によりブレーキキャリパがブレーキロータの回転方向に引き摺られて移動することが阻止されるので、制動力の立ち上がりが遅れることを避けることができる。
【0014】
前記ばね下制振装置においては、請求項4に示すとおり、前記ストッパ駆動手段(ピストン24、液圧室25、及び液圧路26)が、前記パッド駆動手段の駆動力を利用して前記ストッパに規制動作を行わせるものであり、前記コントローラからの指示に応じて、前記パッド駆動手段から前記ストッパ駆動手段への駆動力の伝達を断続する駆動力断続手段(ソレノイドバルブ28)を備え、前記コントローラが、車輪の制動を要しない通常走行時に、駆動力の伝達が遮断されるように前記駆動力遮断手段を制御して、前記ストッパを規制解除状態に保持する構成とすることができる。これによると、ストッパの動作のために特別な駆動力の発生源が不要なため、装置構成を簡素化することができる。そして、通常走行時には、ストッパが規制解除状態に保持されるため、摩擦制振制御の円滑な実行がストッパにより阻害されることを避けることができる。
【0015】
この場合、摩擦パッドにブレーキロータに対する圧接動作を行わせるパッド駆動手段が、液圧発生手段(液圧制御回路)と、これが発生する液圧を摩擦パッドの圧接運動に変換するピストン及び液圧室と、液圧発生手段の液圧を液圧室に案内する液圧経路とからなる構成では、ストッパ駆動手段が、液圧をストッパの規制運動に変換するピストン及び液圧室と、摩擦パッドを動作させる液圧を導く液圧経路から分岐してストッパ側の液圧室に液圧を案内する液圧経路とからなるものとすれば良い。
【0016】
また、駆動力断続手段は、摩擦パッド側の液圧室に液圧を導く液圧経路から分岐してストッパ側の液圧室に液圧を導く液圧路を閉鎖・開放するバルブとすれば良い。
【0017】
なお、加速度センサにより検出される加速度に基づいて制御を行う他、ばね下の振動に関連するばね下の状態量を検出するセンサ、例えばばね下とばね上との間に介装されて懸架装置のストローク量を検出するストロークセンサなどの出力値に基づいて制御を行う構成も可能である。
【0018】
また、パッド駆動手段は、液圧により摩擦パッドを動作させる構成の他、電動モータの駆動力により摩擦パッドを機械的にブレーキロータに対して進退動作させる構成も可能である。
【0019】
また、ストッパは、支持部材に圧接した際の摩擦力によりブレーキキャリパの移動を規制する構成の他、支持部材に設けられた凹部にストッパが突入してブレーキキャリパの移動を規制する構成も可能である。
【0020】
また、ストッパ駆動手段は、摩擦パッドの駆動手段の駆動力を利用してストッパを動作させる他に、摩擦パッドとは独立した駆動力でストッパを動作させる構成も可能である。この場合、運転者によるブレーキペダルの操作を検出するブレーキスイッチの出力信号などによりブレーキ作動を検知したコントローラからの動作指令に応じて、ストッパ駆動手段、例えばソレノイドや電動モータなどの電気的な駆動手段を動作させるようにすれば良い。
【発明の効果】
【0021】
このように本発明によれば、摩擦パッドをブレーキロータに圧接させるように制御して、動吸振器の質量体としてのブレーキキャリパに、ブレーキロータと摩擦パッドとの間の摩擦力を作用させるようにしたため、広範な周波数域のばね下振動を低減することが可能となり、車輪の接地性や乗り心地を向上させる上で大きな効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明によるばね下制振装置の概略構成を示す模式的な正面図であり、一部を切断して示している。図2は、図1に示したばね下制振装置を側方から見た模式的な断面図である。このばね下制振装置は、車両の車輪を制動するディスクブレーキ装置1を構成するブレーキキャリパ2を動吸振器の質量体として用いて、車両の懸架装置を構成するばね(図示しない)よりも車輪側の部分、いわゆるばね下の制振を行うものである。
【0024】
ブレーキキャリパ2は、車輪と共に回転するブレーキロータ3の前側に配置され、このブレーキロータ3の側面に対向して配置された摩擦パッド4と、この摩擦パッド4をブレーキロータ3に対して進退可能に保持するキャリパボディ5とを備えている。
【0025】
キャリパボディ5は、図1に示すように、車輪を回転可能に保持して車体側の懸架装置に連結されるナックル(車輪支持部材)7に固定されるキャリパブラケット(支持部材)8に支持されており、このキャリパブラケット8には、キャリパボディ5がブレーキロータ3の周方向に所定の範囲で移動可能に案内されるように、ブレーキロータ3と同心な円弧状をなすガイドレール9が設けられている。
【0026】
キャリパボディ5の周方向の両側には、動吸振器を構成するばね10が、周方向に伸縮可能に設けられており、このばね10は、キャリパブラケット8においてブレーキロータ3の略径方向に延出されたばね取付部11とキャリパボディ5との間に介装されて、キャリパボディ5を弾性支持している。
【0027】
またここでは、摩擦パッド4にブレーキロータ3に対する圧接動作を行わせるためのパッド駆動手段として、図1に示した液圧制御回路(液圧発生手段)13と、図2に示すように、摩擦パッド4を保持するピストン14と、ピストン14の背面側から液圧を作用させる液圧室15と、液圧制御回路13が発生する液圧をブレーキキャリパ2まで導くブレーキ配管16と、ブレーキ配管16により導かれた液圧をキャリパボディ5内の液圧室15に案内する液圧路17とが設けられている。
【0028】
液圧制御回路(VSAモジュレータ)13は、旋回時の横すべりを抑制して方向安定性を向上させるために、車体速、ヨーレート及び横加速度などの車体情報に基づいて各輪の制動力を制御する車両挙動安定化制御システムを構成するものであり、摩擦パッド4をブレーキロータ3に軽く圧接させる低圧から、車体の減速に要する大きな制動力を得るための高圧まで広範囲に液圧を制御することができる。
【0029】
この液圧制御回路13は、運転者がブレーキペダル19に加える踏力に応じた液圧を発生するマスタシリンダ20の出力ポートと接続されており、ブレーキペダル19の操作に応じて所要の液圧をブレーキキャリパ2に供給する。またこの液圧制御回路13は、コントローラ31からの動作指令に応じて内部の電磁弁を開閉動作させてブレーキキャリパ2に供給する液圧を制御する。
【0030】
コントローラ31には、ナックル7に固設されてばね下に発生する上下方向の加速度を検出する上下加速度センサ32、及び車輪の回転速度を検出する車輪速センサ33の各出力信号が入力され、この上下加速度及び車輪速に基づいて、制振動作演算部にて制振制御に要する演算処理が行われる。また、コントローラ31には、運転者によるブレーキペダル19の操作を検知するブレーキスイッチ34の出力信号が入力される。
【0031】
またキャリパボディ5には、キャリパブラケット8に対するキャリパボディ5の移動を規制するキャリパストッパ22が設けられており、さらにキャリパストッパ22に規制動作を行わせるストッパ駆動手段として、キャリパストッパ22を保持するピストン24と、ピストン24の背面側から液圧を作用させる液圧室25と、摩擦パッド4を動作させる液圧を導く液圧路17から分岐して液圧室25に連通された液圧路26とが設けられており、液圧制御回路13が発生する液圧によりキャリパストッパ22が摩擦パッド4と連動して動作する。
【0032】
さらにキャリパボディ5には、摩擦パッド4側の液圧室15に液圧を導く液圧経路17から分岐してキャリパストッパ22側の液圧室25に液圧を導く液圧路26を閉鎖・開放するソレノイドバルブ(駆動力断続手段)28が設けられている。このソレノイドバルブ28は、ブレーキペダル19の操作の有無に応じてコントローラ31により開閉制御される。
【0033】
このように構成されたばね下制振装置においては、ブレーキペダル19が操作されていない通常走行時には、液圧制御回路13が発生する液圧によりブレーキロータ3に対する摩擦パッド4の圧接動作を制御する摩擦制振制御が行われ、この摩擦制振制御では、動吸振器の質量体として機能するブレーキキャリパ2に、ブレーキロータ3と摩擦パッド4との間に発生する摩擦力Fが作用することで制振特性が変化し、広範な周波数域のばね下振動を低減することができる。
【0034】
このとき、ソレノイドバルブ28は閉鎖されているため、液圧制御回路13が発生する液圧は、摩擦パッド4のピストン14のみに作用し、液圧制御回路13により液圧が増圧されても、キャリパストッパ22は規制解除状態に保持され、これにより摩擦制振制御が円滑に行われる。
【0035】
一方、ブレーキペダル19が操作されて車輪の減速を行う制動時には、ソレノイドバルブ28が開放され、液圧制御回路13が発生する液圧が、摩擦パッド4のピストン14と共にキャリパストッパ22のピストン24にも作用し、これによりキャリパストッパ22が前進してガイドレール9に圧接して、キャリパブラケット8に対するキャリパボディ5の移動が規制され、速やかに制動力が立ち上がる。
【0036】
なお、摩擦制振制御では、一定の液圧で摩擦パッド4をブレーキロータ3に圧接させる他、最適な制振特性が得られるように、ブレーキロータ3に対する摩擦パッド4の圧接力を増減するように制御する構成も可能である。この場合、上下加速度センサ32により検出されたばね下の加速度の方向や大きさなどのばね下の状態量に基づいて制御を行うと良い。また、ばね下の振動状態に応じて、摩擦パッド4を圧接させずに、質量体とばねのみの振動系からなる動吸振器として機能させる制振モードと、摩擦パッド4を圧接させる摩擦制振モードとを切り替えるように制御することも可能である。
【0037】
図3は、本発明によるばね下制振装置の別の例を示す図1と同様の模式的な正面図である。ここでは、ブレーキロータ3の前後にブレーキキャリパ2が配置されている。各ブレーキキャリパ2には、図1の例と同様に、ブレーキ配管16を介して、液圧制御回路(VSAモジュレータ)13が発生する液圧が供給されるようになっており、また各キャリパボディ5には、キャリパストッパ22及びソレノイドバルブ28が設けられており、液圧制御回路13からの液圧供給、及びソレノイドバルブ28の開閉動作は、前後のブレーキキャリパ2で個別に制御することができる。
【0038】
図4は、図3に示したばね下制振装置における動作可能範囲及び動作不可能範囲を示す模式図である。ブレーキロータ3と摩擦パッド4との間の摩擦力により制振特性を変化させる摩擦制振制御時には、摩擦力によりブレーキキャリパ2がブレーキロータ3に引き摺られてブレーキロータ3の回転方向に移動し、このとき、ブレーキキャリパ2がこれを支持するキャリパブラケット8のばね取付部11に近づくと、ばね10の撓みが大きくなることから、ばね定数が増大して制振特性が変化することから、所期の摩擦制振制御ができなくなり、またブレーキキャリパ2とキャリパブラケット8との間隔が小さくなることから、干渉を生じ、ノイズの発生が懸念される。
【0039】
このため、ブレーキキャリパ2がキャリパブラケット8のばね取付部11に近接する所定の領域を動作不可能範囲として、この動作不可能範囲にブレーキキャリパ2が位置する場合には、摩擦制振制御を行わない。
【0040】
ブレーキキャリパ2の位置は、前回の動作指示時の液圧及び車輪速、ブレーキキャリパ2の質量、並びにブレーキキャリパ2の両側に設けられたばね10のばね定数などから推定することができる。
【0041】
また、この動作不可能範囲は、ばね下に生じる加速度の状態に応じて変化する。そこでここでは、ナックル7に設けられた上下加速度センサ32により検出されるばね下に生じる加速度の方向に応じて、摩擦制振制御を行うブレーキキャリパ2を前後で切り替える制御が行われ、具体的には、ばね下に上向きの加速度が生じると、前側のブレーキキャリパ2のみの液圧を増圧して摩擦パッド4に圧接動作を行わせる。他方、ばね下に下向きの加速度が生じると、後側のブレーキキャリパ2のみの液圧を増圧して摩擦パッド4に圧接動作を行わせる。これにより、所期の制御性を確保することができる。
【0042】
図5は、図3に示したばね下制振装置の動作手順を示すフロー図である。ここでは、運転者によるブレーキペダル19の操作を検知するブレーキスイッチ34のオン/オフが判定され(ステップ101)、ブレーキスイッチ34がオンの場合には、常時閉のソレノイドバルブ28が開放され(ステップ102)、他方、ブレーキスイッチ34がオフの場合には、キャリパ制御が実行される(ステップ103)。
【0043】
図6は、図5に示したキャリパ制御の手順を示すフロー図である。ここでは、上下加速度センサ32により検出されたばね下の加速度の方向が判定され(ステップ201)、このばね下の加速度が上向きの場合には、前側のブレーキキャリパ2の摩擦パッド4を動作させ(ステップ202)、ばね下の加速度が下向きの場合には、後側のブレーキキャリパ2の摩擦パッド4を動作させる(ステップ203)。
【0044】
図7は、図6に示した前後のキャリパ動作の手順を示すフロー図である。ここでは、まずブレーキキャリパ2の位置を算出する処理が行われ(ステップ301)、ついでブレーキキャリパ2が図4に示した動作可能範囲にあるか否かが判定され(ステップ302)、ここでブレーキキャリパ2が動作可能範囲にある場合には、ソレノイドバルブ28が閉鎖され(ステップ303)、コントローラ31から液圧制御回路(VSAモジュレータ)13に昇圧の指示が出力され(ステップ304)、これに応じて液圧制御回路13が発生する液圧により摩擦パッド4がブレーキロータ3に所要の圧力で圧接してばね下制振が行われる。
【0045】
なお、図1に示したように、1つのブレーキロータ3に対して1つのブレーキキャリパ2が設けられたばね下制振装置においては、図5の例と同様に、運転者によるブレーキペダル19の操作に応じて、ソレノイドバルブ28が開閉され、さらに図7の例と同様に、ブレーキキャリパ2が動作可能範囲にある場合にのみ摩擦制振制御が実行される。
【0046】
また、図1に示したばね下制振装置においては、図6に示したように、ばね下の加速度の方向を考慮した制御も可能であり、具体的には、ブレーキキャリパ2がブレーキロータ3の前側に配置されている場合には、ばね下の加速度が上向きの場合にのみ摩擦制振制御が実行され、他方、ブレーキキャリパ2がブレーキロータ3の後側に配置されている場合には、ばね下の加速度が下向きの場合にのみ摩擦制振制御が実行されるようにすることも可能である。
【0047】
なお、前記の例では、接地性及び乗り心地の向上を図る観点から、ばね下に発生する上下方向の振動を主に制振するため、ブレーキキャリパをブレーキロータの前側あるいは前後に配置して、ブレーキキャリパの周方向の移動が略上下方向となるようにしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、制振対象となるばね下振動の振動方向に応じて、ブレーキロータに対するブレーキキャリパの配置位置を適宜に設定すれば良い。また加速度センサも、制振対象となるばね下振動の振動方向の加速度を検出可能なように設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明によるばね下制振装置の概略構成を示す模式的な正面図である。
【図2】図1に示したばね下制振装置を側方から見た模式的な断面図である。
【図3】本発明によるばね下制振装置の別の例を示す図1と同様の模式的な正面図である。
【図4】図3に示したばね下制振装置における動作可能範囲及び動作不可能範囲を示す模式図である。
【図5】図3に示したばね下制振装置の動作手順を示すフロー図である。
【図6】図5に示したキャリパ制御の手順を示すフロー図である。
【図7】図6に示した前後のキャリパ動作の手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ディスクブレーキ装置
2 ブレーキキャリパ
3 ブレーキロータ
4 摩擦パッド
5 キャリパボディ
7 ナックル
8 キャリパブラケット
9 ガイドレール
10 ばね
13 液圧制御回路
17 液圧路
19 ブレーキペダル
22 キャリパストッパ
26 液圧路
28 ソレノイドバルブ
31 コントローラ
32 上下加速度センサ
33 車輪速センサ
34 ブレーキスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を制動するディスクブレーキ装置を構成するブレーキキャリパを、動吸振器の質量体として、ばねを介してブレーキロータの周方向に移動可能に支持部材に支持させて、ばね下の制振を行うようにしたばね下制振装置であって、
前記ブレーキキャリパに設けられた摩擦パッドをブレーキロータに対して圧接動作させるパッド駆動手段を制御するコントローラを備え、
このコントローラが、車輪の制動を要しない通常走行時に、前記摩擦パッドを前記ブレーキロータに圧接させるように前記パッド駆動手段を制御して、動吸振器の質量体としての前記ブレーキキャリパに、前記ブレーキロータと前記摩擦パッドとの間の摩擦力を作用させるようにしたことを特徴とするばね下制振装置。
【請求項2】
ばね下に発生する加速度を検出する加速度センサを備え、
前記コントローラが、前記加速度センサにより検出された加速度に基づいて、前記摩擦パッドの圧接動作を制御することを特徴とする請求項1に記載のばね下制振装置。
【請求項3】
前記支持部材に対する前記ブレーキキャリパの移動を規制するストッパと、
車輪を制動するために前記摩擦パッドが前記ブレーキロータに圧接する動作と同時に、前記ストッパに規制動作を行わせるストッパ駆動手段とを備えたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のばね下制振装置。
【請求項4】
前記ストッパ駆動手段が、前記パッド駆動手段の駆動力を利用して前記ストッパに規制動作を行わせるものであり、
前記コントローラからの指示に応じて、前記パッド駆動手段から前記ストッパ駆動手段への駆動力の伝達を断続する駆動力断続手段を備え、
前記コントローラが、車輪の制動を要しない通常走行時に、駆動力の伝達が遮断されるように前記駆動力遮断手段を制御して、前記ストッパを規制解除状態に保持することを特徴とする請求項3に記載のばね下制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−207733(P2008−207733A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47740(P2007−47740)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】