説明

ばね部材及びばね型アクチュエータ

【課題】低速の運動ではばね定数が小さくなり、高速の運動ではばね定数が大きくなって共振周波数が高くなるばね部材及びばね型アクチュエータを提供する。
【解決手段】ばね部材11は、第1のばね部22及び減衰力発生部23からなるばねユニットと、ばねユニットに接続された第2のばね部25とを備えている。ばねユニットの減衰力発生部23は、第1のばね部22が伸縮する方向へ運動することにより減衰力を発生する。第2のばね部25は、ばねユニットの第1のばね部22と同じ方向に伸縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のサスペンション、位置決め制御または振動制御に用いて好適なばね部材及びそのばね部材を用いたばね型アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のサスペンションは、乗り心地や操縦の安定性などを向上させるために、低速の運動では柔らかくなり、高速の運動では堅くなって車体の振動を最適に抑制することが望まれる。そのため、低速の運動では減衰力を小さくして、高速の運動では減衰力を大きくする切り替え式のセミアクティブダンパと、ばねとを備えたサスペンション装置が知られている。
【0003】
一方、ばね型アクチュエータとしては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。この特許文献1に記載されたばね型アクチュエータは、コイルばねの復元力を利用して機械的な運動を生じさせるものであり、コイルばねの復元力で原点復帰するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2006−320059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたばね型アクチュエータは、駆動力を小さくするためにばね定数を小さくしてコイルばねを柔らかくすると、共振周波数が低くなり、使用可能な周波数の範囲が狭くなってしまう。一方、共振周波数を高くするためにばね定数を大きくしてばねを堅くすると、大きな駆動力が必要になる。
【0006】
また、セミアクティブダンパとばねとを備えたサスペンション装置は、運動の速度に応じてセミアクティブダンパの減衰係数を変化させても、ばねのばね定数が変化することはない。
【0007】
本発明は、このような従来技術に鑑みてなされたものであり、低速の運動ではばね定数が小さくなり、高速の運動ではばね定数が大きくなって共振周波数が高くなるばね部材及びばね型アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するため、本発明のばね部材は、第1のばね部及び減衰力発生部からなるばねユニットと、ばねユニットに接続された第2のばね部とを備えている。ばねユニットの減衰力発生部は、第1のばね部が伸縮する方向へ運動することにより減衰力を発生する。第2のばね部は、ばねユニットの第1のばね部と同じ方向に伸縮する。
【0009】
また、本発明のばね型アクチュエータは、ばね部材と、ばね部材を伸縮させる駆動部とを備えている。ばね部材は、第1のばね部及び減衰力発生部からなるばねユニットと、ばねユニットに接続された第2のばね部とを有している。ばねユニットの減衰力発生部は、第1のばね部が伸縮する方向へ運動することにより減衰力を発生する。第2のばね部は、ばねユニットの第1のばね部と同じ方向に伸縮する。
【0010】
本発明のばね部材及びばね型アクチュエータでは、第1のばね部及び第2のばね部が伸縮する方向への運動が低速であると、減衰力発生部に発生する減衰力がほぼ0になり、第1のばね部と第2のばね部が直列結合した状態になる。これにより、ばね部材全体のばね定数は、第1のばね部及び第2のばね部のばね定数を合成したものになる。
【0011】
一方、第1のばね部及び第2のばね部が伸縮する方向への運動が高速であると、減衰力発生部に発生する減衰力が極めて大きくなり、ばねユニットは、剛体と等しい状態になる。これにより、ばね部材全体のばね定数は、第2のばね部のばね定数になる。したがって、ばね部材のばね定数は、低速の運動に対して小さくなり、高速の運動に対して大きくなる。その結果、高速の運動に対してばね部材の剛性が大きくなり、第1のばね部と第2のばね部を単に直列結合したものよりも共振周波数を高くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のばね部材及びばね型アクチュエータによれば、低速の運動におけるばね定数を小さくすると共に、高速の運動におけるばね定数を大きくすることができる。したがって、共振周波数を高くすることができ、使用可能な周波数領域を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のばね部材の構成図である。
【図2】本発明のばね部材の第1の実施の形態を示す部分断面図である。
【図3】本発明のばね型アクチュエータの第1の実施の形態を示す断面図である。
【図4】本発明のばね型アクチュエータの一実施形態に係る印可電圧と変位との関係を示すグラフである。
【図5】本発明のばね型アクチュエータの一実施形態に係る変位の応答性の測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明のばね型アクチュエータの一実施形態に係る周波数応答の測定結果を示すグラフである。
【図7】本発明のばね型アクチュエータの一実施形態に係る絞り板の材質を変化させたときの電流と変位との関係を示すグラフである。
【図8】本発明のばね型アクチュエータの第2の実施の形態を示す断面図である。
【図9】本発明のばね部材の第2の実施の形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のばね部材及びばね型アクチュエータを実施するための形態について、図1〜図9を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0015】
1.ばね部材の構成
まず、本発明のばね部材の構成について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明のばね部材の構成図である。
【0016】
本発明のばね部材1は、第1のばね部2及び減衰力発生部3を有するばねユニット4と、第2のばね部5を備える。すなわち、ばね部材1は、第1のばね部2、減衰力発生部3及び第2のばね部5の3つの要素で構成されている。減衰力発生部3は、第1のばね部2が伸縮する方向へ運動することにより減衰力を発生する。第2のばね部5は、ばねユニット4に接続されており、第1のばね部2と同じ方向に伸縮する。
【0017】
ここで、第1のばね部2のばね定数をkとし、第2のばね部5のばね定数をkとする。また、減衰力発生部3の減衰係数をcとし、この減衰係数cを極めて大きい値にする。そして、ばねユニット4の一端の変位をxとし、ばねユニット4の他端の変位をxとすると、ばねユニット4の他端に対する一端の相対速度Vrは、次式により算出される。
【数1】

【0018】
この相対速度Vrは、ばね部2,5が伸縮する方向へばね部材1をゆっくり(低速で)運動させたときに0に近づく。また、減衰力発生部3に発生する減衰力dは、次式により算出される。
【数2】

【0019】
したがって、ばね部2,5が伸縮する方向へばね部材1を低速で運動させたときの減衰力dは、ほぼ0になり、ばね部材1は、第1のばね部2と第2のばね部5が直列結合した状態になる。このとき、ばね部材1のばね定数は、ばね定数kとばね定数kを合成した合成ばね定数kになる。この合成ばね定数kは、次式により算出される。
【数3】

【0020】
一方、減衰力発生部3の減衰係数cは極めて大きいため、相対速度Vrが大きくなると、減衰力dは無限大に近づく。つまり、ばね部材1の先端(ばねユニット4の一端)の速度が大きくなると、減衰力dが無限大に近づく。その結果、ばねユニット4が剛体と等しい状態になり、ばね部材1の先端の振動は、第2のばね部5のみの振動となる。
【0021】
第2のばね部5のばね定数kは、合成ばね定数kよりも大きい(k>k)。したがって、ばね部材1のばね定数は、低速の運動に対しては小さくなり、高速の運動に対しては大きくなる。言い換えれば、ばね部材1のばね定数は、振動数とともに増大する。これにより、ばね部材1の剛性は、低速の運動に対しては低くなり、高速の運動に対しては高くなる。その結果、ばね部材1の共振周波数は、第1のばね部2と第2のばね部5を単に直列結合したものよりも高くなる。
【0022】
2.ばね部材の第1の実施の形態
次に、本発明のばね部材の第1の実施の形態について、図2を参照して説明する。
図2は、本発明のばね部材の第1の実施の形態を示す部分断面図である。
【0023】
ばね部材11は、ベローズ12と、塞ぎ板13と、絞り板14を備えている。ベローズ12は、筒状の弾性体であり、軸方向に伸縮可能に形成されている。このベローズ12は、軸方向に直交する横方向への変位が抑制されるように、横方向の剛性が高められている。また、ベローズ12の軸方向への変位は、ばね力によって安定するようになっている。
【0024】
塞ぎ板13は、ベローズ12の軸方向の一端に固定リング15を介して固定されており、ベローズ12の筒孔12aを塞いでいる。絞り板14は、ベローズ12の内面に固定されており、塞ぎ板13との間に空気室17を形成する。絞り板14には、複数の貫通孔14aが設けられている。この複数の貫通孔14aは、空気室17と開口側の筒孔12aとを連通している。これにより、空気室17には、外部から空気が流動するようになっている。
【0025】
ベローズ12は、第1のばね部22と、第2のばね部25からなっている。第1のばね部22は、ベローズ12の軸方向の一側であり、塞ぎ板13が固定されたベローズ12の一端から絞り板14が固定されたベローズ12の中間部までの領域である。つまり、塞ぎ板13は、第1のばね部22の一端を閉じており、絞り板14が第1のばね部22の他端に固定されている。一方、第2のばね部25は、ベローズ12の軸方向の他側であり、絞り板14が固定されたベローズ12の中間部からベローズ12の他端までの領域である。
【0026】
また、ばね部材11には、減衰力発生部23が形成されている。この減衰力発生部23は、ベローズ12における第1のばね部22と、塞ぎ板13と、絞り板14から構成されている。本実施の形態では、減衰力発生部23の一部を第1のばね部22で形成することにより、減衰力発生部23自体がばねユニットになる。これにより、部品点数を削減することができ、且つ、ばね部材11を簡単な構造にすることができる。
【0027】
減衰力発生部23の空気室17には、絞り板14の複数の貫通孔14aのみから空気が出入りできるようになっている。これにより、空気が複数の貫通孔14aを通って空気室17から第2のばね部25側の筒孔12a或いは第2のばね部25側の筒孔12aから空気室17へ流動するときの抵抗力が、減衰力発生部23に発生する減衰力となる。この減衰力発生部23の減衰係数は、貫通孔14aの数、大きさ及び配置などによって適宜設定することができる。
【0028】
このように構成されたばね部材11では、先端(塞ぎ板13側)の速度が大きくなると、減衰力が無限大に近づく。これにより、減衰力発生部23自体であるばねユニットが剛体と等しい状態になり、ばね部材11の先端の振動は、第2のばね部25のみの振動となる。したがって、ばね部材11のばね定数は、低速の運動に対しては小さくなり、高速の運動に対しては大きくなる。その結果、ばね部材11の共振周波数は、第1のばね部22と第2のばね部25を単に直列結合したものよりも高くなる。
【0029】
本実施の形態では、絞り板14に複数の貫通孔14aを設けたが、本発明に係る絞り板は、貫通孔が少なくとも1つあればよい。
【0030】
また、本実施の形態では、ベローズ12の一端に塞ぎ板13を固定し、ベローズ12の中間部に絞り板14を固定した。しかしながら、本発明に係る塞ぎ板及び絞り板は、両者を逆に配置することもできる。つまり、ベローズの一端に絞り板を固定し、ベローズの中間部に塞ぎ板を固定してもよい。この場合は、空気が絞り板の貫通孔を通って空気室からベローズの外部或いはベローズの外部から空気室へ流動するときの抵抗力を減衰力として用いる。
【0031】
3.ばね型アクチュエータの第1の実施の形態
次に、本発明のばね型アクチュエータの第1の実施の形態について、図3を参照して説明する。
図3は、本発明のばね型アクチュエータの第1の実施の形態を示す断面図である。
【0032】
ばね型アクチュエータ31は、ばね部材11と、このばね部材11を伸縮させる駆動部32を備える。ばね部材11については、既に説明しているので、重複する説明を省略する。駆動部32は、永久磁石34と、電磁石35から構成されている。永久磁石34は、ばね部材11の塞ぎ板13に固定されており、空気室17に配置されている。この永久磁石34は、板状に形成されており、ベローズ12の軸方向と平行な厚み方向に磁化されている。
【0033】
電磁石35は、ベローズ12の他端(第2のばね部25)に固定されている。この電磁石35は、ボビン36と、このボビン36に巻回されるコイル37を備えている。ボビン36は、筒状に形成されたボビン本体38と、このボビン本体38の軸方向の一端に設けられたフランジ39からなっている。
【0034】
ボビン本体38は、ベローズ12の筒孔12a(図2参照)に挿入されている。このボビン本体38の筒孔38aは、絞り板14の貫通孔14aよりも大きな径になっている。そのため、ベローズ12の筒孔12aには、外部の空気が自由に出入りできるようになっている。フランジ39は、ベローズ12の筒孔12aよりも大きい径に形成されており、ベローズ12の軸方向の他端に固定リング41を介して固定されている。
【0035】
電磁石35と絞り板14との間には、空気室42が形成されている。この空気室42は、絞り板14の複数の貫通孔14aによって空気室17と連通しており、電磁石35の筒孔(貫通孔)38aによって外部に開口されている。外部の空気は、電磁石35の筒孔38aを通って空気室42に入り、空気室17に流動する。また、空気室17の空気は、電磁石35の筒孔38aを通って空気室42に流動する。なお、筒孔38aが貫通孔14aよりも大きいため、空気が筒孔38aを通って空気室42から外部或いは外部から空気室42へ流動するときの抵抗力は、減衰力発生部23に発生する減衰力よりも極めて小さくなる。
【0036】
ばね型アクチュエータ31を設置する場合は、フランジ39を設置対象物に固定し、塞ぎ板13側の一端(先端)を自由端にする。そして、電磁石35のコイル37に電流を流すと、電磁石35と永久磁石34間の磁束密度が変化し、電磁石35と永久磁石34との間に吸引・反発力が作用する。その結果、ばね型アクチュエータ31の先端が変位する。
【0037】
このばね型アクチュエータ31では、鉄粉を固めた板(鉄粉層)によって絞り板14を形成している。これにより、電磁石35と絞り板14間の磁束密度が大きくなって、電磁力が増大するため、同じ電流による駆動変位を大きくすることができる。
【0038】
ばね型アクチュエータ31は、ばね部としてベローズ12を用いているため、復元力と変位の関係がほぼ線形になる。ここで、絞り板14を備えたばね型アクチュエータ31と、絞り板14を取り外したばね型アクチュエータ31を用意し、それぞれに加えた電圧と変位との関係を測定した。その測定結果を図4に示す。
【0039】
図4に示すように、ばね型アクチュエータ31では、電圧が−5Vで約1.7mm、−10Vで約3.8mmの変位が得られた。そして、絞り板14が有る場合の変位と、絞り板14が無い場合の変位は、ほぼ一致した。これにより、絞り板14を設けても、駆動部32による変位に影響を及ぼさないことがわかった。また、両者とも変位と電圧との間に若干の非線形性はあるものの、変位が(−1)〜(+1)mmの範囲では、ほぼ線形と近似することがわかった。
【0040】
次に、ばね型アクチュエータ31にステップ電圧を加えて、応答性と可動範囲を検討した。この実験では、ステップ電圧として、V=VU(t)をコイル37(図3参照)に加え、ばね型アクチュエータ31の先端の変位をレーザ変位計で計測した。なお、Vは入力電圧(−10V)であり、U(t)はステップ関数である。この実験により得られた結果を図5に示す。
【0041】
図5に示すように、ばね型アクチュエータ31の変位は、−10Vで約3.8mmであることがわかる。このときの整定速度は、約0.3秒である。そして、絞り板14が有る場合も絞り板14が無い場合も、整定値はほぼ同じ値となっているが、絞り板14が有る場合には、オーバーシュートが無くなっており、整定速度も小さくなっていることが認められる。これは、絞り板14が有る場合に、空気室17から空気室42に空気が流動するとき(あるいはその逆のとき)に貫通孔14aが抵抗となって大きな減衰を発生させたからである。
【0042】
なお、ばね型アクチュエータ31は、前述したように三要素モデルで構成れるため、単純な一自由度系に対して、整定するまでの現象に若干の差がある。しかしながら、整定値は変わらないので、通常のアクチュエータと同様に、位置決め制御に用いることができる。また、電圧を0にすると、ばね型アクチュエータ31の先端は、ばね(ベローズ12)の復元力によって原点に復帰する。
【0043】
ばね型アクチュエータ31は、通常のアクチュエータと同様に、正負の電圧に対して正負の変位が得られるため、振動制御等のアクチュエータとしても利用することができる。そこで,振動絶縁制御に応用することを考え、周波数応答の計測を行った。この実験では、ばね型アクチュエータ31の先端に質量2.1kgを載荷し、上下振動加振器に載せて加振したときの質量(振動体)の伝達率(W/u)の周波数応答を計測した。なお、Wは振動体の振動振幅であり、uは床の振動振幅(0.43mm)である。また、コイル37には、電流を流していない。計測結果を図6に示す。
【0044】
図6に示すように、絞り板14(図4参照)が有る場合は、絞り板14が無い場合に比べて共振周波数が約2.5倍になっていることがわかる。この特性が、本発明のばね部材及びばね型アクチュエータの特徴である。すなわち、ばね部材11(図3及び図4参照)は低速で柔らかくなり、高速で堅くなる。このばね部材11をサスペンション装置として用いる場合は、セミアクティブダンパなどのダンパ装置が不要になる。
【0045】
また、同じ素材のばね(ベローズ12)を用いていても共振周波数を高くすることができる。したがって、遅い運動に対するばね定数が小さいので駆動部32の駆動力を小さくすることができ、且つ、共振振動数(周波数)を大きくすることができるため、適用周波数の範囲を広くすることができる。
【0046】
次に、絞り板14の材質を変えて、変位と電流の関係を測定した。この実験では、鉄粉と接着剤の割合が2:1の鉄粉層(2:1)と、鉄粉と接着剤の割合が4:1の鉄粉層(4:1)と、鉄板の3つの材質で絞り板を形成し、変位と電流の関係を測定した。測定結果を図7に示す。
【0047】
図7に示すように、鉄板で絞り板14を形成した場合は、反発力や復元力よりも吸引力が大きくなり、伸張方向に変位しにくい。また、圧縮方向では、鉄板の絞り板14が電磁石35にすぐに接着してしまうため、変位量を制御することが難しい。
【0048】
鉄粉層(2:1)で絞り板14を形成した場合は、吸引力を得ることが難しく、変位を大きくとることができない。鉄粉層(4:1)で絞り板14を形成した場合は、大きな変位量を確保することができると共に、変位量の制御も容易に行うことができる。したがって、鉄粉層(4:1)で絞り板14を形成することが好ましいことがわかった。
【0049】
本実施の形態のばね型アクチュエータ31によれば、ベローズ12によって2つのばね部22,25を形成し、駆動部32を永久磁石34と電磁石35から構成したため、ばね部材11を伸縮させる場合の摩擦抵抗を無くすことができる。したがって、摩耗による劣化を防止して耐久性を向上させることができると共に、高精度の位置決めを行うことができる。
【0050】
また、本実施の形態のばね型アクチュエータ31によれば、ベローズ12と永久磁石34及び電磁石35を一体化したことにより、原点復帰機能を有しながら小型化を図ることができる。さらに、電磁吸引・反発力を用いることにより、10mm程度の大きな変位を得ることができる。そして、空気が絞り板14の複数の貫通孔14aを通って空気室17から空気室42或いは空気室42から空気室17へ流動するときの抵抗力を減衰力として用いることにより、高減衰化を図ることができる。
【0051】
本実施の形態のばね型アクチュエータ31では、駆動部32を永久磁石34と電磁石35から構成したが、本発明に係る駆動部としては、圧電素子を用いて駆動部を構成することもできる。
【0052】
また、本実施の形態のばね型アクチュエータ31では、駆動部32の電磁石35をベローズ12の他端(第2のばね部25)に固定した。しかしながら、本発明に係るばね型アクチュエータとしては、電磁石35をベローズ12及び永久磁石34と一体に構成しなくてもよい。本発明に係る電磁石は、永久磁石34に対向していればよく、例えば、塞ぎ板13の外側に配置してもよい。
【0053】
また、本実施の形態のばね型アクチュエータ31では、塞ぎ板13に永久磁石34を固定した。しかしながら、本発明のばね型アクチュエータとしては、永久磁石が塞ぎ板を兼ねる構成であってもよい。この場合は、部品点数を削減することができ、コストダウンを図ることができる。
【0054】
また、本実施の形態のばね型アクチュエータ31では、電磁石35のボビン本体38を筒状に形成して、空気室42に連通する筒孔(貫通孔)38aを設ける構成とした。しかしながら、本発明に係る電磁石としては、ボビンのフランジに貫通孔を設ける構成としてもよい。その場合は、コイルがフランジの貫通孔に干渉しない(貫通孔を塞がない)ようにする。
【0055】
4.ばね型アクチュエータの第2の実施の形態
次に、本発明のばね型アクチュエータの第2の実施の形態について、図8を参照して説明する。
図8は、本発明のばね型アクチュエータの第2の実施の形態を示す断面図である。
【0056】
ばね型アクチュエータ51は、第1の実施の形態のばね型アクチュエータ31と同様の構成を有している。このばね型アクチュエータ51がばね型アクチュエータ31と異なるところは、絞り板14の他に仕切り板54を設けた点である。そのため、ここでは、仕切り板54について説明し、ばね型アクチュエータ31と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0057】
図8に示すように、ばね型アクチュエータ51は、ばね部材52と、このばね部材52を伸縮させる駆動部32を備える。ばね部材52の減衰力発生部53は、ベローズ12における第1のばね部22と、塞ぎ板13と、絞り板14と、仕切り板54から構成されている。
【0058】
仕切り板54は、塞ぎ板13と絞り板14との間に配置され、ベローズ12の内面に固定されている。この仕切り板54は、空気室17をベローズ12の軸方向に仕切っている。仕切り板54には、複数の貫通孔54aが設けられている。この複数の貫通孔54aは、2つに仕切られた空気室17間を連通している。
【0059】
仕切り板54を設けることにより、空気が絞り板14の複数の貫通孔14aを通って空気室17から空気室42或いは空気室42から空気室17へ流動するときの抵抗力を大きくすることができる。つまり、減衰力発生部53に発生する減衰力の減衰定数を大きくすることができる。
【0060】
また、仕切り板54は、絞り板14と同様に、鉄粉を固めた板(鉄粉層)によって形成されている。これにより、電磁石35と絞り板14間の磁束密度が大きくなって、電磁力が増大するため、同じ電流による駆動変位を大きくすることができる。なお、本実施の形態では、仕切り板54と絞り板14とを同一の形状にしている。したがって、第1のばね部22の他端に固定したものが絞り板14になり、その絞り板14と塞ぎ板13(永久磁石34)との間に固定したものが仕切り板54になる。
【0061】
本実施の形態では、1つの仕切り板54を設ける構成としたが、本発明に係る仕切り板としては、2つ以上設けてもよい。鉄粉層で形成した複数の仕切り板を設けることにより、絞り板を含めた鉄粉層間の隙間を小さくして各層間の電磁力を大きくすることができる。また、電磁力を受ける部材の板数が増えるので、電磁力の作用点(面)が増大し、ベローズの大きな変位量を確保することができる。
【0062】
5.ばね部材の第2の実施の形態
次に、本発明のばね部材の第2の実施の形態について、図9を参照して説明する。
図9は、本発明のばね部材の第2の実施の形態を示す断面図である。
【0063】
ばね部材61は、第1のばね部62及び減衰力発生部63を有するばねユニット64と、このばねユニット64に接続される第2のばね部65を備えている。第1のばね部62及び第2のばね部65は、それぞれコイルばねからなっている。
【0064】
減衰力発生部63は、作動流体としてのオイル70が充填されたシリンダ67と、シリンダ67の内部を第1の油室67Aと第2の油室67Bに仕切るピストン68と、ピストン68に取り付けられるピストンロッド69を備えている。シリンダ67は、中空の円柱状に形成されており、第2のばね62の内側に挿入される。このシリンダ67の一端には、第1のばね部62の一端が固定される固定用フランジ71が設けられている。また、シリンダ67の一端は、ばね部材61の先端になる。
【0065】
ピストン68には、複数の貫通孔68aが設けられている。この複数の貫通孔68aは、第1の油室67Aと第2の油室67Bとを連通している。これにより、2つの油室67A、67Bには、オイル70が流動するようになっている。ピストンロッド69は、シリンダ67の他端を貫通している。このピストンロッド69には、接続用フランジ72が設けられている。
【0066】
接続用フランジ72のシリンダ67に対向する面には、第1のばね部62の他端が固定されている。また、接続用フランジ72のシリンダ67に対向する面とは反対側の面には、第2のばね部65が固定されている。第2のばね部65は、第1のばね部62と同じ方向に伸縮する。
【0067】
このように構成されたばね部材61においても、先端(シリンダ67の一端)の速度が大きくなると、減衰力が無限大に近づく。これにより、ばねユニット64が剛体と等しい状態になり、ばね部材61の先端の振動は、第2のばね部65のみの振動となる。したがって、ばね部材61のばね定数は、低速の運動に対しては小さくなり、高速の運動に対しては大きくなる。その結果、ばね部材61の共振周波数は、第1のばね部62と第2のばね部65を単に直列結合したものよりも高くなる。
【符号の説明】
【0068】
1,11,52,61…ばね部材、 2,22,62…第1のばね部、 3,23,53,63…減衰力発生部、 4,64…ばねユニット、5,25,65…第2のばね部、 12…ベローズ、 12a…筒孔、 13…塞ぎ板、 14…絞り板、 14a…貫通孔、 17,42…空気室、 31,51…ばね型アクチュエータ、 32…駆動部、 34…永久磁石、 35…電磁石、 36…ボビン、 37…コイル、 38…ボビン本体、 38a…筒孔(貫通孔)、 39…フランジ、 54…仕切り板、 54a…貫通孔、 67…シリンダ、 67A…第1の油室、 67B…第2の油室、 68…ピストン、 68a…貫通孔、 69…ピストンロッド、 70…オイル、 71…固定用フランジ、 72…接続用フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のばね部と、前記第1のばね部が伸縮する方向へ運動することにより前記第1のばね部に対して減衰力を発生する減衰力発生部とを有するばねユニットと、
前記ばねユニットに接続され、前記第1のばね部と同じ方向に伸縮する第2のばね部と、
を備えるばね部材。
【請求項2】
前記第1のばね部及び前記第2のばね部は、ベローズを形成しており、
前記ベローズの軸方向の一側が前記第1のばね部であり、前記ベローズの軸方向の他側が前記第2のばね部である請求項1に記載のばね部材。
【請求項3】
前記減衰力発生部は、
前記第1のばね部と、
前記第1のばね部の軸方向の一端を閉じる塞ぎ板と、
前記第1のばね部の軸方向の他端に固定されて前記塞ぎ板との間に空気室を形成すると共に貫通孔が設けられた絞り板と、
から構成される請求項2に記載のばね部材。
【請求項4】
ばね部材と、
前記ばね部材を伸縮させる駆動部と、を備え、
前記ばね部材は、
第1のばね部と、前記第1のばね部が伸縮する方向へ運動することにより減衰力を発生する減衰力発生部とからなるばねユニットと、
前記ばねユニットに接続され、前記第1のばね部と同じ方向に伸縮する第2のばね部と、
を有するばね型アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1のばね部及び前記第2のばね部は、ベローズを形成しており、
前記ベローズの軸方向の一側が前記第1のばね部であり、前記ベローズの軸方向の他側が前記第2のばね部であって、
前記減衰力発生部は、
前記第1のばね部と、
前記第1のばね部の軸方向の一端を閉じる塞ぎ板と、
前記第1のばね部の軸方向の他端に固定されて前記塞ぎ板との間に空気室を形成すると共に貫通孔が設けられた絞り板と、
から構成される請求項4に記載のばね型アクチュエータ。
【請求項6】
前記駆動部は、
前記第1のばね部の前記第2のばね部とは反対側の端部に固定された永久磁石と、
前記永久磁石との間に吸引力及び/又は反発力を作用させる電磁石と
を備える請求項5に記載のばね型アクチュエータ。
【請求項7】
前記永久磁石は、前記減衰力発生部の前記塞ぎ板を兼ねる請求項6に記載のばね型アクチュエータ。
【請求項8】
前記電磁石は、前記第2のばね部の前記第1のばね部とは反対側の端部に固定されており、前記ベローズの軸方向に貫通し、且つ、前記絞り板の貫通孔よりも大きな貫通孔を有する請求項7に記載のばね型アクチュエータ。
【請求項9】
前記絞り板は、鉄粉を板状に固めて形成される請求項8に記載のばね型アクチュエータ。
【請求項10】
前記絞り板と前記塞ぎ板との間に配置され、前記空気室をベローズの軸方向に仕切る仕切り板を備え、
前記仕切り板には、ベローズの軸方向に貫通する貫通孔が設けられている請求項5〜9に記載のばね型アクチュエータ。
【請求項11】
前記仕切り板は、鉄粉を板状に固めて形成される請求項10に記載のばね型アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−106573(P2011−106573A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262256(P2009−262256)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月20日第21回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム事務局発行「第21回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム講演論文集」
【出願人】(508324433)財団法人大分県産業創造機構 (17)
【Fターム(参考)】