説明

アンギュラコンタクト玉軸受、建設機械用走行減速機のスプロケット支持装置及びロボットアームの関節装置

【課題】ラジアル荷重及び一方向のアキシアル荷重を2点接触で受けるアンギュラコンタクト玉軸受において、更なる剛性向上を図る。
【解決手段】玉5が外輪1の軌道面2および内輪3の軌道面4と軸受中心線Cの互いに反対側で接触し、その少なくとも一方の軌道面2と異なる接触角α1、α2の2点で接触するアンギュラコンタクト玉軸受において、内外輪の軌道面2、4間に前記玉5を総玉入れとし、隣り合う玉5、5間のすきまδの和Σδが玉5の直径を越えないように設定することにより、ラジアル荷重及び一方向のアキシアル荷重を受ける軌道面2、4の2接触点a、b;c、dの接触応力が可及的に低減され、その結果、2接触点a、b;c、dにおける弾性変形が抑制される。接触角α1、α3は15°〜25°、α2、α4は40°〜50°、広がり角β1、β2は20°以上が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速域での使用に好適なアンギュラコンタクト玉軸受、並びに、このアンギュラコンタクト軸受を使用した建設機械用走行減速機のスプロケット支持装置及びロボットアームの関節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
100rpmを超えない低速回転の出力軸を有する駆動装置、例えば、建設用機械のスプロケット駆動装置やロボットアームの関節装置などは、駆動源、減速機などから構成される。減速機の出力軸は、駆動側との間に介在する主軸受により回転可能に支持される。主軸受には、荷重点が軸受外にあり、モーメント荷重が負荷されるため、アンギュラコンタクト玉軸受が利用されている。
【0003】
上記のような装置では、機械、アームの姿勢制御や被駆動部の位置決め精度の改善などのため、モーメント荷重に対する主軸受の剛性向上が求められている。
【0004】
上述の要求に応じたアンギュラコンタクト玉軸受としては、図5に示すように、外輪11の軌道面12と内輪13の軌道面14の一方に、保持器15で周方向に配置が決められた玉16が2点で接触し、他方に玉16が少なくとも1点で接触し、前記一方の軌道面12上の接触点a、bが軸受中心線Cを境界としてアキシアル方向の一方側に片寄って位置し、前記他方の軌道面14上の接触点c、dが前記の一方側と反対側に片寄って位置するようにしたものが提案されている(特許文献1)。
【0005】
図5の軸受によって受けることができるアキシアル荷重Pは、図5中に白抜き矢印で示す方向に限定され、この反対方向のアキシアル荷重を受けることはできない。
このように、一方向に限定されたアキシアル荷重Pを2点a、bで受けることにより、各接触点a、bに加えられる荷重は、1点接触で受ける場合に比べて分散軽減され、弾性変形量が小さくなる。即ち、アキシアル荷重Pに対する軸受の剛性が増大する。なお、ラジアル荷重が2点接触で受けられるのは勿論である。
【0006】
【特許文献1】特開2005−201294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一方の軌道面12と玉16との各接触点a、b間における許容接触圧力に限界がある以上、上述のように、ラジアル荷重及び一方向のアキシアル荷重を2点接触で受けることによる剛性向上にも限界がある。
【0008】
そこで、本発明の課題は、ラジアル荷重及び一方向のアキシアル荷重を2点接触で受けるアンギュラコンタクト玉軸受において、更なる剛性向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、玉が外輪および内輪の軌道面と軸受中心線の互いに反対側で接触し、その少なくとも一方の軌道面と異なる接触角の2点で接触するアンギュラコンタクト玉軸受において、前記内外輪の軌道面間に前記玉を総玉入れとしたことを特徴とするものである。
【0010】
保持器で玉同士の接触を防ぎ玉を周方向に等配する場合、玉に押される保持器柱部の強度を確保する柱幅を設ける都合上、玉P.C.D(ピッチ円径)の円周上において隣り合う玉間に隙間が生じ、その隙間の総和が玉直径以上になっている。これは、荷重の分散支持に直結する玉数が保持器で減少させられることに他ならない。
この発明は、低速回転の条件下で軸受を使用する場合において、経験上、玉同士の接触が致命的な損傷の原因とならないことに着目し、前記内外輪の軌道面間に前記玉を総玉入れとした構成の採用により、玉数を最大化した。これにより、ラジアル荷重及び一方向のアキシアル荷重を受ける2接触点の接触応力が可及的に低減され、その結果、2接触点における弾性変形が抑制される。
【発明の効果】
【0011】
すなわち、この発明によれば、内外輪の軌道面間に前記玉を総玉入れとした構成の採用により、更なる剛性向上が図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図1に基づき、本発明の実施形態を説明する。このアンギュラコンタクト玉軸受は、外輪1の軌道面2と内輪3の軌道面4の間に、玉5、5・・・が総玉入れとされ、玉5が軌道面2、4と軸受中心線Cの互いに反対側で接触し、その少なくとも一方の軌道面2と異なる接触角の2点で接触するようになったものである。このアンギュラコンタクト玉軸受においては、ラジアル荷重及び一方向のアキシアル荷重Pは、外輪1の軌道面2における2箇所の接触点a、bで受けられ、前記と反対のアキシアル方向の荷重Pは、内輪3の軌道面4における接触点c、dで受けられる。
【0013】
具体的には、外輪1の内径面一端側の肩部6と他端側の肩落とし部7との間に、アーチ型の2個の円弧面からなる軌道面2が形成され、その両円弧面の衝合点の両側において玉5との接触点a、bが生じるようになっている。内輪3の外径面の形状は、前記外輪1の内径面の形状と玉5の中心点Oを基準に点対称の形状をなしている。このため、内輪3の外径面他端側の肩部8と一端側の肩落とし部9間に形成された軌道面4にも玉5との接触点c、dが生じるようになっている。
【0014】
玉5が異なる接触角の2点a、bで少なくとも一方の軌道面2と接触するため、両接触点a、bでの軌道面2の周速差によって摩耗が生じやすくなるが、100rpm以下の低速回転で使用される場合、この周速差が小さく、摩耗は問題とならない。
【0015】
軸受中心線Cに対する接触点aの角度(接触角)をα1、接触点bの角度(接触角)をα2、接触点cの角度(接触角)をα3、及び接触点dの角度(接触角)をα4としたとき、上述の接触角α1、α3は最小5°であり、α2、α4の最大は80°であり、各接触点間の角度β1、β2はこれらの範囲で適宜定められる。このアンギュラコンタクト玉軸受では、両方の軌道面2、4の各接触点a、b、c、dでの接触角を点対称で等しく設定したが、これらの接触角は必ずしも点対称で等しく設定する必要はない。また、内輪と外輪のいずれか一方の軌道面のみと玉を2つの接触点で接触させるようにしてもよい。
【0016】
なお、軸受中心線Cに近い側の接触点a、cの接触角α1、α3は、それぞれ小さくするほどラジアル変位が少なくなる。接触角α1等が15°未満になると、玉5が肩落とし部7、9へ乗り上げる恐れがある。
軸受中心線Cから離れた側の接触点b、dの接触角α2、α4は、それぞれ大きくするほどアキシアル変位が少なくなる。接触角α2等が50°を超えると、玉5が肩部6、8へ乗り上げる恐れがある。
広がり角β1等が小角度から大角度に変化する程、接触点a、b等の接触楕円同士の重なりが避けられるので、接触応力の上昇が抑えられる。このため、広がり角β1等は、可及的に大きく設定することが好ましく、互いの接触点a、b間等の接触楕円同士が重ならないように設定することが最も好ましい。
上述の事項を考慮すると、実用上、接触角α1等は、15°〜25°にすることが好ましく、接触角α2等は、40〜50°が好ましく、広がり角β1等は20°以上が好ましい。
【0017】
上述のように、このアンギュラコンタクト玉軸受は、α1、β1等の設定による軸受の剛性向上を図った上で、図2に示すように、隣り合う玉5、5間のすきまδ、δ・・・の和が玉5の直径dを超えないように設定し、保持器を省略し、すきまδを、保持器がなくとも軸受に満足な機能をもたせるのに十分小さな量にしたものである。
この総玉入れにより、図1に示した各接触点a〜dにおいて、玉5と軌道面2、4間の接触応力が最小化され、保持器付きとした場合と比して、各接触点a〜dにおける弾性変形が更に抑制される。
したがって、このアンギュラコンタクト玉軸受は、更なる剛性向上を図ることができる。
【0018】
なお、隣り合う玉5、5同士の接触は、100rpm以下の低速域で使用される条件下である限り、致命的な損傷の原因とならない。玉5としてセラミックス玉を採用したり、玉5に耐摩耗性被覆を施したりすることにより、玉5の耐摩耗性や剛性向上を図ることも可能である。
【0019】
次に、この発明に係るアンギュラコンタクト軸受をロボットアームの関節装置に使用した一例を図3に基づいて説明する。 図3に示したロボットアームの関節装置は、偏心差動型減速機からなる減速機21を有する。減速機21は、その出力軸22がアームと一体化される旋回部材23を動かすようになっている。
【0020】
具体的には、減速機21は、旋回部材23と基座側との間に固定されるケース24と、ケース24内に配され、旋回部材23に一体化されたキャリアからなる出力軸22と、ケース24の内周に設けられたピン歯に噛み合う外歯付ピニオン25とを備える。出力軸22とケース24との間には、主軸受26が装着されている。
【0021】
主軸受26は、上記実施形態に係るアンギュラコンタクト玉軸受を背面組合せ軸受としたものである。主軸受26は、出力軸22をケース24に対し回転可能に支持するように出力軸22の外周とケース24の内周間に介在されている。出力軸22の両側フランジ部とケース24の両端部との間にはシール部材27が介装されており、主軸受26は、グリース潤滑の環境下にある。
【0022】
ピニオン25の貫通孔には、複数のクランクピン28が挿通されており、クランクピン28は、軸受29、30を介して出力軸22に対して回転可能に支持されている。また、クランクピン28は、中央部に偏心した2個のクランク部を有し、これらクランク部がニードル軸受31を介した状態でピニオン25に挿入されている。
【0023】
旋回部材23には、駆動モータ32が取り付けられている。モータ32の出力軸の先端に外歯車33が固定され、前記クランクピン28のうちの1つに外歯車34が固定されている。この外歯車33と34は直接噛み合っており、外歯車33の回転駆動力が外歯車34に伝達されることにより、前記のクランクピン28が回転される。
【0024】
また、外歯車34には、軸受を介して旋回部材23に回転可能に支持された歯車35が直接噛み合っている。この歯車35は外歯車34からの回転駆動力を受けて回転し、前記のクランクピン28以外の他のクランクピンに噛み合い、回転トルクを分配するようになっている。
【0025】
上記の構成により、ピニオン25がクランクピン28と同一回転数で偏心回転(公転)するが、クランクピン28に伝達された回転駆動力は、ピニオン25の外歯がケース24のピン歯より少なく、ケース24が基座側に固定されているため、ケース24、ピニオン25によって高比で減速されて出力軸22に取り出され、旋回部材23に伝達される。
【0026】
アームを動かす駆動力が入力される減速機21の出力軸の支持に、この発明に係るアンギュラコンタクト玉軸受を採用すれば、軸受の剛性が向上するため、アーム関節の小型化や軽量化が可能になり、その剛性向上とアーム関節に生じる慣性力の軽減により、位置決め精度や制御応答性の向上を図ることができる。
【0027】
次に、この発明に係るアンギュラコンタクト軸受を建設機械用走行減速機のスプロケット支持装置に使用した一例を図4に基づいて説明する。
図4に示した建設機械用走行減速機のスプロケット支持装置は、スプロケット100と、走行体側に固定するハウジング110と、スプロケット100の内周とハウジング110の外周との間に組み込んだアンギュラコンタクト軸受120、120とを備えている。
【0028】
この種の走行減速機は、例えば、油圧ショベル、ショベル系掘削機、ブルドーザ、ローダ、トレンチャ、ダンパ、スクレーパ、パイプレイヤなどの履帯式建設機械に適用され、特にショベル、ブルドーザによく利用されている。
【0029】
スプロケット100は、回転ドラム101と、この回転ドラム101の外周部に取り付けられたスプロケットホイル102とからなる。スプロケットホイル102には、履帯130が掛け回される。
【0030】
ハウジング110は、油圧ショベル又はブルドーザの走行サイドフレーム(図示省略)に固定される。
【0031】
ハウジング110は内周部を有し、その内方には、油圧モータ140が設けられている。ハウジング110の外周部には、回転ドラム101の内周部との間にアンギュラコンタクト軸受120、120を装着するための軸受座111が設けられている。
【0032】
アンギュラコンタクト軸受120、120は、上記実施形態に係るものであり、スプロケット100をハウジング110に対し回転自在に支持する。
なお、アンギュラコンタクト軸受120、120は、背面組合せ軸受として構成されており、それぞれに所定の予圧が付与されている。
【0033】
油圧モータ140の出力軸141は、この出力軸141の回転を減速してスプロケット100に伝達する減速機150に接続されている。減速機150は、回転ドラム101の油圧モータ140と反対側に取り付けられたケーシング160の内部に設けられている。なお、ケーシング160の回転ドラム101と反対側の側面は、着脱式のカバー161になっている。
【0034】
減速機150は、ケーシング160の内周に設けられたリングギヤ151と、油圧モータ140の出力軸141に結合されたプロペラシャフト152の第1サンギヤ153aと、第1サンギヤ153aとリングギヤ151との間に設けられた遊星歯車減速機構とからなる。遊星歯車減速機構は、第1キャリア154a、第1ピン155a、第1プラネタリギヤ156a、第2サンギヤ153b、第2キャリア154b、第2ピン155b、第2プラネタリギヤ156b、第3サンギヤ153c、第3キャリア154c、第3ピン155c、第3プラネタリギヤ156cからなる周知の構成のものが採用されている。
【0035】
油圧モータ140が駆動されると、前述の遊星歯車減速機構により回転力が増大する。最終段減速部である第3キャリア154cはハウジング110に結合されており、回転不可能となっている。第3プラネタリギヤ156cの自転力がリングギヤ151を回転させ、ケーシング160、回転ドラム101を介してリングギヤ151と一体化されているスプロケットホイル102が一体回転し、履帯130が移動させられ、建設機械の走行が行なわれる。
【0036】
回転ドラム101とハウジング110との回転摺動部には、外部からの土砂、泥水の侵入を防ぐためラビリンス部170が形成されている。ラビリンス部170の内側には、フローティングシール部171が設けられている。フローティングシール部171は、回転ドラム101、ハウジング110の内周部に対向するOリング溝が形成された一対のリング部材と、Oリングとからなる周知の構成のものが採用されている。フローティングシール部171は、走行減速機内からの油漏れや走行減速機内への異物侵入を防止する。
【0037】
上記のスプロケット支持装置においては、上述のようにアンギュラコンタクト軸受120の剛性が増大するため、フローティングシール部171への負担を軽減し、又は、回転ドラム101の薄肉化を図り、走行減速機をコンパクトにすることができる。
また、回転ドラム101が薄肉なため、回転ドラム101とケーシング160とを溶接することが可能になる。溶接によれば、ボルト、ボルト穴の形成が不要になり、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】aは実施形態に係るアンギュラコンタクト玉軸受を側方から示し、内外輪の一部を切欠いた正面図、bはaの部分拡大縦断面図
【図2】図1aの切欠き表示部分の拡大図
【図3】実施形態に係るアンギュラコンタクト軸受をロボットアームの関節装置に使用した一例を示す要部断面図
【図4】実施形態に係るアンギュラコンタクト軸受を建設機械用走行減速機のスプロケット支持装置に使用した一例を示す要部断面図
【図5】従来例のアンギュラコンタクト軸受の縦断面図
【符号の説明】
【0039】
1 外輪
2、4 軌道面
3 内輪
5 玉
6、8 肩部
7、9 肩落とし部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玉が外輪および内輪の軌道面と軸受中心線の互いに反対側で接触し、その少なくとも一方の軌道面と異なる接触角の2点で接触するアンギュラコンタクト玉軸受において、前記内外輪の軌道面間に前記玉を総玉入れとしたことを特徴とするアンギュラコンタクト玉軸受。
【請求項2】
アームを動かす駆動力が入力される減速機と、この減速機の出力軸に装着された請求項1に記載のアンギュラコンタクト玉軸受とを有するロボットアームの関節装置。
【請求項3】
スプロケットと、走行体側に固定する軸受ハウジングと、前記スプロケットの内周と前記ハウジングの外周との間に組み込んだ請求項1に記載のアンギュラコンタクト玉軸受とを備えた建設機械用走行減速機のスプロケット支持装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−196601(P2008−196601A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−32373(P2007−32373)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】