説明

インバータの作製方法及びインバータ

【課題】 簡便に作製できるE/Dインバータを提供する。
【解決手段】 本発明は、同一基板上に形成され、チャネル層がIn、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体からなるインバータの作製方法であって、前記インバータは複数の薄膜トランジスタを有するエンハンスメント−ディプリーション(E/D)インバータであり、前記チャネル層の膜厚が互いに異なる第1のトランジスタと第2のトランジスタと、を形成する工程と、前記第1及び第2のトランジスタのチャネル層のうち、少なくとも1つを熱処理する熱処理工程と、を含むことを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物半導体層をチャネル層とする薄膜トランジスタからなるインバータに関する。また、本発明はそれを含む集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上にTFTをアレイ状に配したTFTバックプレーンは、液晶ディスプレイや有機電界発光ダイオード(OLED)ディスプレイなどの各種アクティブマトリクスディスプレイの基幹部品である。アクティブマトリクスディスプレイにおいて、TFTは各画素に対応する電気光学素子を駆動し、所望の内容を表示する。このためのTFTとして、低温多結晶シリコン(LTPS)TFTや、水素化アモルファスシリコン(a−Si:H)TFTが検討されている。
【0003】
また、TFTバックプレーンと同一基板上に、機能の異なるTFTを同時に製造する技術が検討されている。具体的には、各画素の電気光学素子を駆動するTFT(画素回路)と同時に、TFTで形成されたゲートドライバやソースドライバなどの周辺回路を同一基板上に作製する技術が検討されている。この場合、画素回路や周辺回路などの各回路ブロックごとにTFTの機能が異なるため、回路ブロックごとにTFTの閾値電圧を調節することが望ましい。たとえば、画素回路においては電気光学素子の反転閾値に合った大きな閾値電圧が、周辺回路においては消費電力抑制のために小さな閾値電圧が望ましい。このような背景から、エキシマレーザアニール(ELA)を用いたLTPS TFT回路において、回路ブロックごとにTFTの閾値電圧を調節する方法が特許文献1に開示されている。
【0004】
周辺回路にはシフトレジスタなどのデジタル回路が含まれる。デジタル回路をTFTによって作製する場合、NOT素子(インバータ)は次の(1)〜(4)の構成が考えられる。すなわち、(1)抵抗負荷、(2)エンハンスメント−エンハンスメント(E/E)、(3)エンハンスメント−ディプリーション(E/D)、(4)CMOS の4通りである。省レイアウト面積と高速動作の観点からE/D構成またはCMOS構成が多く用いられる。E/Dインバータを有効に動作させるために、TFTの閾値電圧を制御し、インバータを構成する2つのTFTの閾値電圧の差を十分に大きくする必要がある。一方、CMOSインバータにはnチャネルTFTとpチャネルTFTの両方が必要であり、これらのドーピング工程のためにフォトリソグラフィー工程が他の構成と比べて多くなる。
【0005】
ところで、LTPS TFTやa−Si:H TFTに代わる高性能TFTの候補として、チャネル層に酸化物半導体を用いたTFT(酸化物TFT)の研究開発が活発に行われている。チャネル層としてアモルファスIn−Ga−Zn−O(IGZO)のRFマグネトロンスパッタ薄膜を用いた酸化物TFTの作製法が非特許文献1に開示されている。アモルファスIGZOなどの高移動度酸化物半導体は多くがn型(電子)伝導であり、ドーピングによってもp型(ホール伝導)化しないことから、CMOS構成は利用できない。しかし、酸化物TFTには以下の2つの利点がある。(1)酸化物TFTはa−Si:H TFTをはるかに凌ぐ高移動度を示す。このため、動作速度の点で不利な飽和負荷E/E構成インバータによってもa−Si:H TFTインバータを上回る高速動作が可能であることが非特許文献4に開示されている。(2)チャネル層がスパッタ成膜可能である。これによりマザーガラス基板の大型化が可能であり、基板の大型化に伴う製造コストメリットが期待できる。
【0006】
酸化物TFTにおいても閾値電圧の制御方法が下記文献に開示されている。まず特許文献2は、In、Ga、Zn、Oを構成元素に含み、電子キャリア濃度が1018cm−3未満である透明アモルファス酸化物薄膜をチャネル層に利用したTFT及び該TFTを利用した集積回路を開示している。更に特許文献2は、ディプリーション(D)型TFTの利用について言及している。しかし、TFTにおける具体的なVthの制御法については言及していない。
【0007】
特許文献3は、酸化亜鉛(ZnO)をチャネル層材料とするTFTにおいて、チャネル層成膜雰囲気へのドーピングによりVthを制御する方法を開示している。
【0008】
非特許文献2では、酸化亜鉛をチャネル層材料とするTFTにおいて、チャネル層成膜膜厚によりVthを制御している。
【0009】
非特許文献3では、酸化亜鉛インジウム(Zn−In−O)をチャネル層材料とするTFTにおいて、熱処理温度によりVthを制御している。
【0010】
上記の特許文献3及び非特許文献2及び3はいずれも、異なる基板上に異なる条件で作製されたTFTの特性が互いに異なることを開示する。しかし、異なるVthを有するTFTを同一基板上に作製する具体的な方法については開示がない。
【特許文献1】特開2005−72461号広報
【特許文献2】特開2006−165532号公報
【特許文献3】特開2005−33172号公報
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett.,89,112123(2006).
【非特許文献2】Solid State Electronics、352(9−20)、p.1749(2006)
【非特許文献3】Journal of Applied Physics、97、p.064505(2005)
【非特許文献4】IEEE Elec.Dev.Lett.,28,p.273(2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の方法では、下記2つの理由によりTFTデジタル回路を安価に作製することは困難である。第1に、特許文献1で開示されているTFTはLTPS TFTである。すなわち、マザーガラス基板を大型化してもELA装置の大型化に伴うコスト増が伴うため、基板の大型化による製造コストメリットが小さい。第2に、特許文献1の方法で得られるTFT閾値電圧の変化量は小さく、E/Dインバータが有効に動作しない。このため特許文献1で開示されているインバータはCMOS構成となり、他の構成と比べてフォトリソグラフィー工程が複雑で高コストになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決することを目的とするものである。その骨子は、同一基板上に形成され、チャネル層がIn、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体からなるインバータの作製方法であって、前記インバータは複数の薄膜トランジスタを有するエンハンスメント−ディプリーション(E/D)インバータであり、前記チャネル層の膜厚が互いに異なる第1のトランジスタと第2のトランジスタと、を形成する工程と、前記第1及び第2のトランジスタのチャネル層のうち、少なくとも1つを熱処理する熱処理工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0013】
また本発明は、同一基板上に形成され、チャネル層がIn、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体からなるインバータの作製方法であって、前記インバータは複数の薄膜トランジスタを有するエンハンスメント−ディプリーション(E/D)インバータであり、第1のトランジスタのチャネル層と、第2のトランジスタのチャネル層となる共通の堆積膜を形成する工程と、前記第1のトランジスタのチャネル層と前記第2のトランジスタのチャネル層と、のいずれか一方に、より多くの熱量を与えて熱処理する熱処理工程と、を含むことを特徴とするものである。
【0014】
また本発明は、同一基板上に形成された複数のIn、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体薄膜トランジスタのうち、少なくとも2つのトランジスタのチャネル層の膜厚がそれぞれ異なり、かつ、前記2つのトランジスタの閾値電圧がそれぞれ異なることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、同一基板上に閾値の異なる酸化物半導体薄膜トランジスタを、酸化物半導体薄膜トランジスタの特性を利用して比較的容易に作製することができる。例えばその特性とは、チャネル層膜厚の差によって閾値電圧に差が生じる特性と、チャネル層の加熱処理条件の差によって閾値電圧に差が生じる特性である。いずれの特性を利用しても、閾値電圧の差は十分に大きくすることができ、E/Dインバータが有効に動作する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によって作製できるE/Dインバータの回路図を図1に示す。エンハンスメント型(E型)TFTとディプリーション型(D型)TFTが1つずつ用いられている。電源電圧はVdd−GND間電位差として外部より供給されている。D型TFTのソース電極とE型TFTのドレイン電極は互いに接続されており、D型TFTのゲート電極はD型TFTのソース電極と接続されている。また、D型TFTのドレイン電極を電源電圧Vddに接続し、E型TFTのソース電極を接地し、E型TFTのゲート電極を入力、E型TFTのドレイン電極を出力とする。
【0017】
E/Dインバータは、High出力時の出力電圧が原理的には電源電圧と同値まで上昇する。このため、出力電圧振幅が広いという特徴を有する。また、出力電圧の立ち上がりが速いという特徴を有する。
【0018】
これに対して、負荷TFTと駆動TFTの両方をE型とした飽和負荷E/Eインバータの回路図を図2に示す。E/Dインバータと同様に電源電圧はVdd−GND間電位差として外部より供給されている。
【0019】
この2種類の型のインバータを比較すると、E/Dインバータの方が負荷容量を高速に大振幅で駆動できる。
【0020】
TFTにおいてドレイン−ソース電圧(Vds)がゲート−ソース電圧(Vgs)より十分大きい場合、TFTは飽和領域で動作し、ドレイン−ソース電流(Ids)は下記式(1)で表される。
ds=(W・C・μ/2L)・(Vgs−Vth (1)
ここでLはチャネル長(単位:μm)、Wはチャネル幅(μm)、Cはゲート絶縁膜容量(F/cm)、μは電界効果移動度(cm/Vs)、Vthは閾値電圧(V)である。
【0021】
μとVthの実験的な求め方にはいくつか方法があるが、一つの方法を下記に示す。TFTにおいて、Vgsを掃引しながら、Vgsよりも十分大きな一定値のVdsを印加しながらその間のIdsの平方根をVgsの関数としてグラフ上にプロットする。このグラフ上で任意のVgsにおいて引いた傾きと切片から、μとVthを求めることができる。接線は、先のプロットのVgsに対する変化率が最大となる点で引くことも、TFTに実際に印加するVgsにおいて引くこともできる。後者からは、そのVgs近傍における実効的なμとVthが得られると考えられる。
【0022】
本発明におけるE型・D型TFTの1つの定義を、簡単のためにnチャネルTFTを例にとって説明する。Vgs=0においてIdsが十分に小さく、TFTがオフ状態とみなせるTFTをエンハンスメント型(E型)TFTと呼ぶ。逆に、nチャネルTFTにおいてVgs=0で有限のIdsをもち、TFTをオフするために逆バイアスとして負のVgsを印加しなければならないものをディプリーション型(D型)TFTと呼ぶ。このE型とD型の定義は、TFTオフ領域からVgsを増加したときにIdsが増加に転じるVgsを立ち上がり電圧(Von)とし、Vonが正のTFTと負のTFTとをそれぞれE型・D型と定義することと同値である。また上記の定義の代わりに、Vthが実質的に正のTFTをE型、実質的に負のTFTをD型とそれぞれ定義することもできる。
【0023】
以上はnチャネルTFTを用いて説明したが、上記と同様に、pチャネルTFTにおいてもE型・D型に関する種々の定義が考えられる。
【0024】
以下では、Vthが基本的に正のnチャネルTFTをE型・実質的に負のnチャネルTFTをD型とそれぞれ定義する。ただし、正のnチャネルTFTを2つ用いる場合も、両Vthに大きな差がある場合は、片方のTFTをE型ではなくD型として扱いインバータを構成することもできる。
【0025】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態によるインバータの断面図の一部を図3に示す。
【0026】
基板100上に第1のTFT901及び第2のTFT902が作製されている。
【0027】
第1のTFT901は第1のゲート電極201、絶縁膜300、第1のチャネル層401、第1のドレイン電極501、第1のソース電極601を含む。
【0028】
第2のTFT902は第2のゲート電極202、絶縁膜300、第2のチャネル層402、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を含む。
【0029】
ここでは、第1のTFT901及び第2のTFT902においてゲート絶縁膜300を一体としたが、TFTごとに別なものであってもよい。
【0030】
第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は互いに接続されている。また第1のゲート電極201は、不図示の配線により第1のソース電極601と接続されている。
【0031】
第1のドレイン電極501を電源電圧Vddに接続し、第2のソース電極602を接地すると、第2のゲート電極202を入力、第2のドレイン電極502を出力とするE/Dインバータとなる。
【0032】
つまり、一方のトランジスタである第1のトランジスタがD型となり、他方のトランジスタである第2のトランジスタがE型として動作する。
【0033】
第1のチャネル層401は第2のチャネル層402よりも厚い。このように互いに厚さが異なるチャネル層を作製した後、任意の製造工程において全体を一括して加熱処理する。このプロセスの結果、第1のTFT901と第2のTFT902のVthが異なる値となる。
【0034】
チャネル層401及び402の膜厚を調整するために、チャネル層401及びチャネル層402となる酸化物半導体からなる共通の堆積膜を形成した後に、ドライエッチング又はウェットエッチングを施せばよい。このようにエッチングを利用すれば、チャネル層の成膜が1回で済むので製造コストが低くなる。
【0035】
また、リフトオフも利用できる。すなわち、第2のチャネル層402であるE型チャネル層に相当する厚さのチャネル層を全面にわたって作製した後、E型チャネル層上部にフォトレジストを塗布し、再びチャネル層の成膜を行うことでも膜厚制御が可能である。全体を有機溶媒で濯げば2種の厚さを有するチャネル層が基板上に得られる。この場合、チャネル層ごとの膜厚制御性が高く好ましい。
【0036】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態である表示装置の断面図の一部を図4に示す。
【0037】
基板100上に第1のTFT901及び第2のTFT902が作製されている。
【0038】
第1のTFT901は第1のゲート電極201、絶縁膜300、第1のチャネル層401、第1のドレイン電極501、第1のソース電極601を含む。
【0039】
第2のTFT902は第2のゲート電極202、絶縁膜300、第2のチャネル層402、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を含む。
【0040】
第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は互いに接続されている。また第1のゲート電極201は、不図示の配線により第1のソース電極601と接続されている。
【0041】
第1のドレイン電極501を電源電圧Vddに接続し、第2のソース電極602を接地すると、第2のゲート電極202を入力、第2のドレイン電極502を出力とするE/Dインバータとなる。
【0042】
つまり、一方のトランジスタである第1のトランジスタがD型となり、他方のトランジスタである第2のトランジスタがE型として動作する。
【0043】
第1のチャネル層401と第2のチャネル層402は厚さがほぼ等しい。第2のTFTのチャネル層402と比較して第1のTFTのチャネル層401に選択的に加熱処理することにより、第1のTFT901と第2のTFT902のVthが異なる値となる。
【0044】
本発明において選択的に加熱処理するということは、基板上の予め定めた特定の部分(領域ともいう)のみに局所的(選択的/集中的)に熱量を与えるように制御することである。例えば特定の部分のみを局所的に加熱する方法がある。但し、当該特定の部分に加熱処理を行った際に熱の一部が当該特定の部分以外の部分に伝播する場合もあるが、本発明においては伝播した熱の影響(膜質に与える影響等)が無視できる程度であれば、許容される。当該特定の部分に加熱処理を行った際に熱の一部が当該特定の部分以外の部分に伝播する影響を抑制するために必要に応じて冷却手段を設けることも有効である。第1のTFTと第2のTFTのそれぞれの酸化物半導体薄膜の組成や膜厚によって,各TFTを保持すべき温度および時間における最適値は変化する。
【0045】
本発明者らの知見によれば、In:Ga:Zn=1:0.9:0.6なる酸化物半導体薄膜を後述のような条件で作製する場合の熱処理条件と効果について一例としては以下の関係にある。即ち、たとえば第2のTFTを120℃以下に保ちながら,第1のTFTを200℃10分間以上保持することで一定の効果が得られる。
【0046】
第1のTFTのみを選択的に加熱するためには、接触加熱や電磁波の照射による加熱(高周波照射、紫外光照射、レーザ光照射など)を利用したさまざまな局所的な加熱方法を用いることができる。
本発明において、上記電磁波とは、ラジオ波、マイクロ波等の高周波及び、紫外線、可視光線、赤外線、x線、γ線などの光も含むものである。
本発明においては、各種材料における抵抗率や比熱、特定の波長における吸収係数の違いを利用する誘導加熱を行うことで、選択加熱を行うことが可能である。
【0047】
誘導加熱を行う場合、材料の選び方によっては発熱量の差が大きくなるため、VthをTFTごとに効果的に制御できるので好ましい。
【0048】
また、材料による吸光係数の差を利用すれば、フラッシュランプなどの一括加熱によっても特定のTFTを選択的に加熱することが可能である。具体的には、特定のTFTの電極の構成材料(ゲート電極、ソース/ドレイン電極など)に他のTFTの対応する電極の構成材料と異なる物を用いる。このような構成とすることで、フラッシュランプなどを用いて一括光照射を行い特定のTFTを選択的に加熱することが可能である。これは吸収係数の高い材料で形成された電極部分のみが選択的に光エネルギーを吸収して加熱されるためである。とくにフラッシュランプによる光照射は加熱装置が単純であり好ましい。
【0049】
このとき、特定のTFTの温度を制御するために、TFT構成材料以外に光吸収又は光反射材料を補ってもよい。また、必要に応じて集光・投影・走査などの光学系を用いることもできる。さらに、選択加熱された部分の熱が隣接する部分に伝播して膜質等を変化させるおそれのある場合には、必要に応じて冷却手段を設けることもできる。
【0050】
要するに、本発明の実施形態において、前記インバータは、下記A乃至Cの少なくとも何れか一種の構成を有することが好ましい。
A:前記第1のトランジスタのソース電極の構成材料と前記第2のトランジスタのソース電極の構成材料とが互いに異なる構成。
B:前記第1のトランジスタのドレイン電極の構成材料と前記第2のトランジスタのドレイン電極の構成材料とが互いに異なる構成。
C:前記第1のトランジスタのゲート電極の構成材料と前記第2のトランジスタのゲート電極の構成材料とが互いに異なる構成。
そして、熱処理工程は、電磁波の照射による加熱工程を含むことが好ましいものである。
また、本発明の実施形態においては、前記インバータは、下記D乃至Fの少なくとも何れか一種の構成を有することが好ましい。
D:前記第1のトランジスタのソース電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのソース電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成。
E:前記第1のトランジスタのドレイン電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのドレイン電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成。
F:前記第1のトランジスタのゲート電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのゲート電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成。
そして、前記物性が抵抗率、比熱、及び吸光係数から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0051】
(第3の実施形態)
第1の実施形態に示したように厚さが異なるチャネル層を作製した後、任意の製造工程において熱処理を施す際に、第2の実施形態に記載した方法のように第1のチャネル層と第2のチャネル層の加熱処理条件に違いを付ける。
【0052】
この結果、第1のTFT901と第2のTFT902のVthが異なる値となる。
【0053】
本発明によるE/Dインバータが有効に動作するために、2種類のトランジスタの閾値電圧の差として適切な範囲について説明する。図5は、飽和負荷E/Eインバータによる31段リングオシレータの発振特性と、E/Dインバータによる31段リングオシレータの発振特性をSPICEシミュレーションにより比較した結果である。図5左側に示す、形状ベータ比、移動度比、電源電圧(Vdd)、E型駆動TFTのVthの各条件において、負荷TFTのVthを変化させたものを図5右側に示した。ここで、形状ベータ比とは、負荷TFTのW/L比に対する駆動TFTのW/L比の比である。また、移動度比とは、負荷TFTの移動度に対する駆動TFTの移動度の比である。なお、チャネル長は全てのTFTにおいてL=10μmとした。チャネル幅については負荷TFTにおいてW=40μm、駆動TFTについてはW=40×ベータ比(μm)とした。各TFTのゲートオーバラップ長を5μmとし、寄生容量についてはこれによるもののみを考慮した。
【0054】
図5によれば、インバータへの電源電圧Vddに対して負荷TFTのVthが式(2)にて示す関係を満たす場合、リングオシレータの発振振幅又は発振周波数の少なくともどちらかにおいてE/D化の効果がある。すなわち、各E/Dインバータにおいては飽和負荷E/Eインバータと比較してスイッチング速度又はノイズマージンの少なくともどちらかの点で優れている。
0.7<|(Vth(Ld)−Vth(Dr))/Vdd|<2・・・(2)
つまり、この式(2)は第1及び第2のトランジスタの閾値電圧の差が電源電圧の70%以上200%以下となるような電源電圧を供給されて動作することを示す。
【0055】
上記評価条件において、上記不等式の外側ではE/D化の効果が小さい。具体的には、|(Vth(Ld)−Vth(Dr))/Vdd|<0.7の場合は負荷容量を充電するための駆動力が不足する、或いは不安定な発振が認められる場合がある。一方、|(Vth(Ld)−Vth(Dr))/Vdd|>2の場合は反転電圧が電源電圧に対し上がりすぎ、入出力電圧範囲が小さくなる。
【0056】
さらに、本発明によるインバータに用いられるTFTを構成する材料について詳しく説明する。
【0057】
・チャネル層
チャネル層には酸化物半導体材料が用いられる。具体的には、ZnO、In、Ga等、及びこれらの混晶や非晶質固溶体など(In−Zn−O、In−Ga−Zn−Oなど)を用いることができる。つまり、In、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体を用いることができる。
【0058】
特に、In−Ga−Zn−O膜をスパッタリング法により、TFTのチャネル層として形成すれば、電界効果移動度が十分に大きなトランジスタを作製することができる。この場合、チャネル層となる材料の成膜温度が低いため、プラスチックなどの可撓性基板上に発光装置を作製することができる。
【0059】
更に、In−Ga−Zn−O膜において、少なくとも一部を非晶質とすることが望ましい。これにより、エッチング加工性が向上する。
【0060】
・ソース・ドレイン電極
ソース・ドレイン電極に用いられる材料は、チャネル層がn型半導体の場合、チャネル層に対する電子の注入障壁が十分小さいことが必要である。p型半導体の場合にはホールの注入障壁が十分小さいことが必要である。例えば、Al・Cr・W・Ti・Auなどの金属や、Al合金、WSi等のシリサイドなどが利用可能である。また、透明導電性酸化物や、キャリア濃度が大きな透明酸化物半導体も用いることができる。酸化インジウム錫(ITO)・酸化インジウム亜鉛(IZO)や、In−Ga−Zn−O膜などがこれにあたる。
【0061】
また、ソース・ドレイン電極が複数の材料の接続により形成されていてもよい。また、複数の材料の多層膜であってもよい。
【0062】
・ゲート電極
ゲート電極に用いられる材料は、上記ソース・ドレイン電極と同様の材料群から選択して用いられる。各種金属薄膜、導電性酸化物薄膜、導電性有機物薄膜などが利用できる。これらの各種材料における抵抗率や、比熱や、特定の波長における吸収係数などの物性の違いを利用して選択加熱に用いることができる。なお、ソース・ドレイン電極の材料によってもチャネル部の選択加熱が達成できる。
【0063】
また、ゲート電極が複数の材料の接続により形成されていてもよく、複数の材料の多層膜であってもよい。
【0064】
ゲート絶縁層には、平坦な膜が形成でき、導電性が小さい材料である必要がある。具体的には、ゲート−ソースリーク電流Igsがドレイン−ソース電流Idsに比べて実用上十分小さい必要がある。
【0065】
化学気相蒸着(CVD)成膜によるSiO、SiN、SiOや、RFマグネトロンスパッタによるSiO、SiN、SiO、Al、Y、HfO、Ta等、及びこれらからなる多層膜の中から選ばれる。図3のように2つ以上のTFTで共有されていても、TFTごとに区別された個別な膜でもよい。
【0066】
なお、2種のTFTでE/Dインバータを作製する時、2つのVthは、回路に組み込む際において必ずしもゼロをまたいでいる(一方がマイナスで他方がプラスの関係を有する)ことが必須ではない。2種のTFTがともにE型若しくはともにD型であっても、互いのVthが互いに十分離れており、回路設計の見地から区別して利用できる場合には本発明が適用できる。
【0067】
さらに、互いにVthが区別できる3種以上のTFTを作製する場合においても同様に本発明が適用できる。
【0068】
TFTのチャネル層として用いるアモルファスIn−Ga−Zn−O膜の物性を評価した。
【0069】
被成膜基板としてはガラス基板(コーニング社製1737)を脱脂洗浄したものを用意した。ターゲット材料としては、InGaO3(ZnO)組成を有する多結晶焼結体(サイズ直径98mm、厚さ5mm)を用いた。
【0070】
この焼結体は出発原料として、In2O3:Ga2O3:ZnO(各4N試薬)を湿式混合(溶媒:エタノール)し、仮焼結(1000℃、2h)乾式粉砕、本焼結(1500℃、2h)を経て作製した。
【0071】
このターゲットの電気伝導度は0.25(S/cm)であり、半絶縁体状態であった。
【0072】
堆積室内の到達真空は、3×10−4Paであり、酸素が3.3体積%含まれる酸素−アルゴン混合気体により成膜中の全圧を0.53Paとした。
【0073】
また、基板温度は特に制御せず、ターゲットと被成膜基板間の距離は80(mm)であった。投入電力はRF300Wであり、成膜レートは、2(Å/s)で行った。
【0074】
60nm積層した膜に対し、測定対象面に対して入射角0.5度でX線を入射させX線回折測定を薄膜法にて行った。その結果明瞭な回折ピークは認められなかったことから、作製したIn−Ga−Zn−O膜はアモルファスであると判断された。
【0075】
蛍光X線(XRF)分析の結果、薄膜の金属組成比はIn:Ga:Zn=1:0.9:0.6であった。
【0076】
また、チタンと金の積層蒸着膜を用いたコプラナー型電極パターンによる2端子I−V測定を行い、同薄膜の電気伝導度を測定したところ、約7×10−5(S/cm)であった。電子移動度を約5(cm/Vs)と仮定すると、電子キャリア濃度は約1014(cm−3)と推定される。
【0077】
以上のことから、作製したIn−Ga−Zn−O系薄膜は、InとGaとZnを含み、かつ少なくとも一部が非晶質の酸化物である事を確認した。
【0078】
以下、作製するチャネル層を形成する物質はこのInとGaとZnを含み、かつ少なくとも一部が非晶質の酸化物である。
【0079】
また、この金属組成比は上記のIn:Ga:Zn=1:0.9:0.6でもなくても構わない。
【0080】
そこで、以下の手順で、異なる4枚の基板上にそれぞれ複数のTFTを作製し、試料1〜4とした。試料1〜4のそれぞれにおいて作製したTFTの断面図を図6に示す。
【0081】
清浄なガラス基板(コーニング社製1737)を基板100とし、この上に電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着し、リフトオフ法でパターニングすることで、ゲート電極200を得た。次にRFマグネトロンスパッタにより、ゲート絶縁膜300となるSiO層を全面に成膜した(成膜ガスAr、成膜圧力0.1Pa、投入電力400W、膜厚100nm)。ゲート電極200の上部にあるゲート絶縁層300の一部(不図示)にエッチングで開口し、ゲート電極200に接触するためのコンタクトホールを得た。続いてチャネル層400としてアモルファスIGZO層をRFマグネトロンスパッタにより成膜した(成膜ガスO(3.3%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W)。膜厚は、試料1及び2においては30nm、試料3及び4においては60nmとした。スパッタ成膜中には基板温度は特に制御しなかった。
【0082】
続いてエッチングによりチャネル層400を所定のチャネルサイズにパターニングした。
【0083】
続いて、試料2及び4については全体を大気雰囲気中にて設定温度300℃のホットプレート上で20分間、均一的に加熱した。試料1及び3についてはこの加熱処理を行わなかった。
【0084】
最後に、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜し、リフトオフによってドレイン電極500、ソース電極600を形成した。各試料それぞれにおいてチャネル幅W=40μm、と200μm又は800μmのTFTを作製した。チャネル長LはいずれもL=10μmとした。
【0085】
これらの試料においてVds=+10Vにて測定したIds−Vgs特性を図7(a)から7(h)に示す。いずれも明らかなnチャネルTFT特性となっている。
【0086】
μ(cm/Vs)とVth(V)を求めると次のようであった。
試料1(チャネル層厚d=30nm、熱処理なし)
W=40μm:μ=6.5、Vth=+3.5
W=800μm:μ=2.0、Vth=+3.4
試料2(チャネル層厚d=30nm、熱処理あり)
W=40μm:μ=9.3、Vth=−0.23
W=200μm:μ=7.8、Vth=+1.4
試料3(チャネル層厚d=60nm、熱処理なし)
W=40μm:μ=6.0、Vth=+2.1
W=200μm:μ=4.2、Vth=+1.5
試料4(チャネル層厚d=60nm、熱処理あり)
W=40μm:μ=9.7、Vth=−10.1
W=200μm:μ=15、Vth=−3.0
試料1及び3のTFTはいずれもE型であり、試料4のTFTはともにD型TFTである。
【0087】
一方、試料2のW=40μmなるTFTにおいては厳密にはVthは負であるが、後に示すように、他のTFTとの組み合わせによってはE型TFTとして動作することが期待できる。
【0088】
また、特に記さなかったが,すべての試料において作製工程中に空気中での乾燥を複数回行っており(120℃10分)、試料完成後においてもこれに準ずる条件での熱印加による電気特性の変化は無視できると考えられる。
【0089】
上記の実験を元に、以下の各実施例のようなインバータを作製する。
【実施例1】
【0090】
本実施例1は第1の実施形態を利用したものの一例である。図8に、実施例1における酸化物半導体薄膜トランジスタを用いたE/Dインバータの作製工程を示す。
【0091】
清浄なガラス基板(コーニング社製1737)を基板100とする。
【0092】
この上に第1のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着し、リフトオフ法でパターニングすることで、第1のゲート電極201及び第2のゲート電極202を得る。
【0093】
次にRFマグネトロンスパッタにより、第1のTFT及び第2のTFTに共通のゲート絶縁膜300となるSiO層を全面に成膜する(成膜ガスAr、成膜圧力0.1Pa、投入電力400W、膜厚100nm)。この上に第2のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、ゲート電極201及び202の上方にあるゲート絶縁層300の一部をエッチングでパターニングし、コンタクトホール(不図示)を得る。
【0094】
続いて酸化物半導体からなるチャネル層となるアモルファスIGZO膜(共通の堆積膜)400をRFマグネトロンスパッタ法により成膜する(成膜ガスO(3.3体積%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W)。膜厚は、第1及び第2のTFTの各チャネル層に相当する部分においてともに60nm成膜する。スパッタ成膜中には基板温度は特に制御しない。
【0095】
続いて、第1のTFTが形成される領域801におけるアモルファスIGZO膜400の上部に第3のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成し、アモルファスIGZO膜400をドライエッチングする。エッチングは第2のTFTが形成される領域802におけるアモルファスIGZO膜400の膜厚が30nmになるように時間及び強度を調節して行う。
【0096】
第4のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後にアモルファスIGZO膜400をエッチングして各トランジスタ毎にチャネル層が独立するように当該アモルファスIGZO膜を分断する。こうして、第1のチャネル層401及び第2のチャネル層402を得る。
【0097】
続いて、全体を大気雰囲気中にて設定温度300℃のホットプレート上で20分間、均一的に加熱する。
【0098】
最後に、第5のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜する。そして、リフトオフによって第1のドレイン電極501、第1のソース電極601、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を形成する。このとき、第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は図8のように一体であり、電気的に接続されている。また、ソース・ドレイン電極と同時に上記コンタクトホールを介した層間配線(不図示)を形成することにより、第1のソース電極601を第1のゲート電極201と接続する。
【0099】
以上により、第1のドレイン電極501を外部電源端子、第2のソース電極602を接地端子とするE/Dインバータが完成する。
【0100】
フォトリソグラフィー工程は5回である。
【0101】
上記手順で作製されるE/Dインバータの動特性を見積もるため、試料4におけるW=40μmのTFTを負荷TFT、試料2におけるW=200μmのTFTを駆動TFTとするE/Dインバータからなる5段リングオシレータの回路シミュレーションを行った。シミュレーションには、最も単純なMOSモデルであるグラジュアルチャネルのLevel1(nチャネル型MOS)モデルを用いた。その結果、外部電源電圧+10Vにおいて470kHzで発振した。遅延時間は0.21μsであった。振幅は8.0Vであり、出力電圧の最大値+9.7Vは電源電圧+10Vに近い。出力波形を図9に示す。
【0102】
本実施例1では、比較例1−1に示す飽和負荷E/Eインバータの作製プロセスに対しフォトリソグラフィー工程が1回増えるだけで、E/Dインバータが簡便に構成できる。
【0103】
(比較例1−1)
実施例1と類似の作製法であるが、両チャネル層の膜厚を異なる膜厚に調整する工程を踏まず、同一基板上に2種類のTFT作製する。すなわち、両TFTのチャネルが30nmと同じ膜厚で、加熱処理条件も同じ作製法にて同一基板上に2種類のTFTを作製する。すると飽和負荷E/Eインバータが作製できる。その工程を図10に示す。
【0104】
清浄なガラス基板(コーニング社製1737)を基板100とする。
【0105】
この上に第1のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着しリフトオフ法でパターニングすることで、第1のゲート電極201及び第2のゲート電極202を得る。
【0106】
次にRFマグネトロンスパッタにより、第1のTFT及び第2のTFTに共通のゲート絶縁膜300となるSiO層を全面に成膜する(成膜ガスAr、成膜圧力0.1Pa、投入電力400W、膜厚100nm)。この上に第2のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、ゲート絶縁層300をエッチングでパターニングし、ゲート電極201及び202の上方にコンタクトホール(不図示)を得る。
【0107】
続いてチャネル層400としてアモルファスIGZO層をRFマグネトロンスパッタにより成膜する(成膜ガスO2(3.3%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W)。膜厚は、第1及び第2のTFTの各チャネル層に相当する部分においてともに30nm成膜する。スパッタ成膜中には基板温度は特に制御しない。
【0108】
第3のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後にチャネル層400をエッチングし、第1のチャネル層401及び第2のチャネル層402を得る。
【0109】
続いて、全体を大気雰囲気中にて設定温度300℃のホットプレート上で20分間、均一的に加熱する。
【0110】
最後に、第4のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜する。そして、リフトオフによって第1のドレイン電極501、第1のソース電極601、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を形成する。同時に、上記コンタクトホールを介した層間配線(不図示)を形成することにより、第1のドレイン電極501を第1のゲート電極201と接続する。
【0111】
また、第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は一体とする。
【0112】
以上により、第1のドレイン電極501を外部電源端子、第2のソース電極602を接地端子とする飽和負荷E/Eインバータが完成する。フォトリソグラフィー工程は4回である。
【0113】
上記手順で作製される飽和負荷E/Eインバータの動特性を見積もるため、以下の回路シミュレーションを行った。即ち、試料2におけるW=40μmのTFTを負荷TFT、試料2におけるW=200μmのTFTを駆動TFTとする飽和負荷E/Eインバータからなる5段リングオシレータの回路シミュレーションを行った。出力波形を図11に示す。外部電源電圧+10Vにおいて350kHzで発振した。1段あたりの遅延時間は0.29μsであり、実施例1よりも約4割長くなった。また、振幅は5.5Vであり、出力電圧の最大値は+7.1Vであり、電源電圧の+10Vに対し約3V低下した。
【0114】
すなわち、実施例1のE/Dインバータのほうが本比較例の飽和負荷E/Eインバータよりも高速・大振幅動作しており、実施例1の作製法によれば比較例1−1よりも高性能なインバータが得られると期待できる。
【0115】
なお、試料2におけるW=40μmのTFTのVthは厳密にはゼロに対して若干負にある。しかし、試料2におけるW=200μmのTFTのVthと近い値であることが重要であり、この組み合わせでは試料2におけるW=40μmの負荷TFTは実質E型とみなせる。
【0116】
また、試料4におけるW=40μmのTFTを負荷TFT・試料4におけるW=200μmのTFTを駆動TFTとする5段リングオシレータの回路シミュレーションも行った。インバータがE/Dインバータの場合・飽和負荷E/Eインバータの場合のいずれにおいても発振しなかった。
【0117】
(比較例1−2)
特許文献2に開示されているチャネル層形成法をもとにした、上記実施例1と類似のE/Dインバータ作製法を考える。特許文献2に開示されている方法ではVthはZnO成膜雰囲気への一酸化窒素濃度によって制御される。2種類のVthを有するTFTを同一基板上に作製する場合、第1のチャネル層と第2のチャネル層のそれぞれを得るためにはドーピング濃度の異なる別々なチャネル層成膜工程が必要である。
【0118】
比較例1−1と類似の以下の工程で、E/Dインバータを作製できる。図12を用いて工程を説明する。
【0119】
清浄なガラス基板(コーニング社製1737)を基板100とする。
【0120】
この上に第1のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着しリフトオフ法でパターニングすることで、第1のゲート電極201及び第2のゲート電極202を得る。
【0121】
次にRFマグネトロンスパッタにより、第1のTFT及び第2のTFTに共通のゲート絶縁膜300となるSiO 層を全面に成膜する(成膜ガスAr、成膜圧力0.1Pa、投入電力400W、膜厚100nm)。この上に第2のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、ゲート絶縁層300をエッチングでパターニングし、ゲート電極201及び202の不図示領域の上方にコンタクトホール(不図示)を得る。
【0122】
続いて第1のチャネル層401となるZnO層をパルスレーザ堆積法により成膜する。第1のチャネル層401には意図的なドープを行わない。第3のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成しエッチングによりパターニングを行い、第1のチャネル層401を得る。さらに、同様の手順で第2のチャネル層402となるZnO層をパルスレーザ堆積法により成膜する。このときの成膜雰囲気を酸素と一酸化窒素の減圧混合気とすることで、第2のチャネル層402に窒素をドープする。第4のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成しエッチングによりパターニングを行い、第2のチャネル層402を得る。
【0123】
最後に、第5のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜する。次いで、リフトオフによって第1のドレイン電極501、第1のソース電極601、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を形成する。同時に、上記コンタクトホールを介した層間配線(不図示)を形成することにより、第1のソース電極601を第1のゲート電極201と接続する。
【0124】
また、第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は一体とする。
【0125】
以上により、第1のドレイン電極501を外部電源端子、第2のソース電極602を接地端子とするE/Dインバータが完成する。なお、この上に引き続いて保護層を適宜成膜し、第1のトランジスタ901のVthと第2のトランジスタ902のVthとの間の差をさらに好ましく調節してもよい。
【0126】
上記手順でのフォトリソグラフィー工程は5回であり、実施例1と等しい。
【0127】
しかし、実際には上記手順でのインバータの作製は困難であり、フォトリソグラフィー工程は少なくとも6回必要であり、実施例1に対して1回増となる。
【0128】
その理由として次の2点があげられる。
【0129】
まず1点目は、第2のチャネル層402の成膜時に第1のチャネル層401も成膜チャンバに入る。上記の方法では第1のチャネル層401が第2のチャネル層402の成膜中に成膜雰囲気に晒されることは避けられない。この結果、第1のチャネル層401の電気特性が第2のチャネル層の成膜前後で変化するおそれがあり好ましくない。これを防ぐ為、第2のチャネル層の成膜雰囲気から第1のチャネル層401を保護するために、第1のチャネル層401の上に何らかの封止層(フォトレジストやSiNxスパッタ膜など)を設ける場合は更にフォトリソグラフィー工程が必要である。
【0130】
2点目は、第1のチャネル層401のパターニング後に第2のチャネル層402をエッチングでパターニングする場合、後者のエッチングによって前者が浸食されないためには前者に対する後者のエッチング選択比が重要となる。しかし、第1のチャネル層401と第2のチャネル層402の構成成分の差はドーパント含有量のみであり、エッチング選択比は1に近いと考えられる。従って、確実なパターニングのためには、第1のTFTが形成される領域801の上にエッチング保護層などを設ける必要があり、この場合もさらにフォトリソグラフィー工程が必要である。
【0131】
よって、従来技術を応用したE/Dインバータ作製法よりも、本発明の作製法の方がプロセス回数も少ない簡便な方法でE/Dインバータを作製することができる。
【実施例2】
【0132】
実施例1におけるチャネル層形成部分にリフトオフ法を用いた場合を実施例2に示す。その工程を、再び図8を用いて説明する。
【0133】
実施例1と同様の方法でコンタクトホールを得た後、続いてチャネル層の一部となるアモルファスIGZO膜400をRFマグネトロンスパッタにより成膜する(成膜ガスO(3.3体積%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W)。膜厚は、第1のTFT及び第2のTFTの各チャネル層に相当する部分においてともに30nmと同じ膜厚分を成膜する。スパッタ成膜中には基板温度は特に制御しない。
【0134】
続いて、第2のTFTが形成される領域802におけるアモルファスIGZO膜400の上部に第3のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成する。フォトレジストは適宜熱処理し、これに続く工程でのスパッタダメージに対する耐性を高めておくことが好ましい。このフォトレジストと、第1のTFTが形成される領域801との上に、アモルファスIGZO膜400の残りとして再びアモルファスIGZO膜を同様の条件でのRFマグネトロンスパッタにより30nm成膜する。さらに、全体をフォトレジスト除去液でリンスし、フォトレジスト及びその上方に成膜されたアモルファスIGZO膜を除去し、第1のTFTのみにチャネル層を積層し、第1のTFTのチャネル層を形成する。この時点で図8(d)で示すように、2つのTFT毎に膜厚の異なるチャネル層が得られる。
【0135】
以降、実施例1と同様の手順でE/Dインバータが完成する。フォトリソグラフィー工程は5回である。
【0136】
この様にチャネル層形成時にリフトオフ法を用いる場合、実施例1と同様の効果を得られる。また、実施例1と比較して、チャネル層の膜厚制御性が高い。
【実施例3】
【0137】
本実施例3は第2の実施形態を利用したものの一例である。図13に、実施例3における酸化物薄膜トランジスタを用いたE/Dインバータの作製工程を示す。
【0138】
清浄なガラス基板(コーニング社製1737)上に酸化インジウム錫(ITO、導電率1×10S/cm)をRFマグネトロンスパッタによって膜厚200nm成膜し、この上に第1のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成する。その後、エッチングでパターニングし、第1のゲート電極201を得る。
【0139】
続いて同基板に第2のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着し、リフトオフ法でパターニングし、第2のゲート電極202を得る。
【0140】
次にRFマグネトロンスパッタにより、第1のTFT及び第2のTFTに共通のゲート絶縁膜300となるSiO層を全面に成膜する(成膜ガスAr、成膜圧力0.1Pa、投入電力400W、膜厚100nm)。この上に第3のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、エッチングでパターニングし、コンタクトホール(不図示)を得る。
【0141】
続いてチャネル層となるアモルファスIGZO膜400をRFマグネトロンスパッタにより成膜する(成膜ガスO(3.3体積%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W)。膜厚は、第1のTFT及び第2のTFTの各チャネル層に相当する部分においてともに60nm成膜する。スパッタ成膜中には基板温度は特に制御しない。アモルファスIGZO膜400をエッチングして、各トランジスタ毎にチャネル層が独立するように分断する。こうして、第1のチャネル層401及び第2のチャネル層402を得る。
【0142】
続いて、全体を誘導加熱する。ITO電極の抵抗率は金の約50倍なので第2のゲート電極202に比べて第1のゲート電極201が選択的に加熱される。交流印加磁場のパワー、周波数、印加時間は最適化されたものを用いる。また、必要に応じて誘導加熱用の交流磁場を断続的に印加することで、基板の熱伝導による加熱選択比の低下を防ぐ。ヒートシンク等の冷却手段を利用しゲート電極202に加わる熱を冷ますことも有効である。
【0143】
最後に、第5のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜する。その後、リフトオフによって第1のドレイン電極501、第1のソース電極601、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を形成する。同時に、上記コンタクトホールを介した層間配線(不図示)を形成することにより、第1のソース電極601を第1のゲート電極201と接続する。
【0144】
また、第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は一体とする。
【0145】
以上により、第1のドレイン電極501を外部電源端子、第2のソース電極602を接地端子とするE/Dインバータが完成する。フォトリソグラフィー工程は5回である。
【0146】
E/Dインバータの動特性を見積もるため、試料4におけるW=40μmのTFTを負荷TFT、試料3におけるW=200μmのTFTを駆動TFTとするE/Dインバータからなる5段リングオシレータの回路シミュレーションを行った。
【0147】
その結果、外部電源電圧+10Vにおいて390kHzで発振した。遅延時間は0.26μsであった。振幅は5.5V、1段あたりの出力電圧の最大値は+9.0Vであり、電源電圧+10Vからは1.0V低下した。出力波形を図14に示す。
【0148】
本実施例では、飽和負荷E/Eインバータの作製プロセス(比較例3−1)に対しフォトリソグラフィー工程が1回増えるだけで、E/Dインバータが簡便に構成できる。
【0149】
また、この2種類のTFTにおいてソース・ドレイン・ゲートの電極を構成する材料に同じ材料を用いる。このような構成とすることにより、膜厚も同じチャネル層を形成した場合でも、チャネル層の加熱処理時に、接触加熱やレーザアニールにより第1のチャネル層401近傍のみを集中加熱しても、実施例3と同様の効果を得ることができる。
【0150】
この場合、フォトリソグラフィ−工程の数を1回減らすことができる。
【0151】
しかし、本実施例3のようにソース・ドレイン・ゲートの電極を構成する材料が異なるTFTを作製し誘導加熱を行う、又は材料による吸光係数の差を利用してフラッシュランプ等で加熱すれば、装置を単純にでき制御性が向上する。
【0152】
そして、本実施例3では2種類のトランジスタにおいてゲート電極に異なる材料を用い、誘導加熱を行った。しかし、第1のトランジスタのソースやドレイン等のゲート以外の電極と、第2のトランジスタにて対応する電極に異なる材料を用い、誘導加熱を行っても本実施例3と同様の効果を得ることができる。
【0153】
(比較例3−1)
実施例3と類似の作製法であるが、両チャネル層の膜厚を60nmとし、第1のチャネル層401の選択的加熱を行わず、かつ両TFTのチャネルとも加熱処理工程を踏まず同一基板上に2種類のTFTを作製する。すると、実施例1における比較例1−1と同様に、4回のフォトリソグラフィー工程を用いて飽和負荷E/Eインバータを作製することができる。
【0154】
飽和負荷E/Eインバータの動特性を見積もるため、試料3におけるW=40μmのTFTを負荷TFT、試料3におけるW=200μmのTFTを駆動TFTとする飽和負荷E/Eインバータからなる5段リングオシレータの回路シミュレーションを行った。その結果、外部電源電圧+10Vにおいて150kHzで発振し、振幅は4.4Vであった。1段あたりの遅延時間は0.66μsであり、実施例2に対して2.5倍程度に長くなった。出力電圧の最大値は約+6Vであり、実施例2と比較して大幅に低下した。すなわち、実施例3のE/Dインバータのほうが本比較例の飽和負荷E/Eインバータよりも高速・大振幅動作している。従って、実施例2の作製法によれば本比較例よりも高性能なインバータが得られると期待できる。出力波形を図15に示す。
【実施例4】
【0155】
本実施例4は第3の実施形態を利用したものの一例である。図8に、本実施例4における酸化物半導体薄膜トランジスタを用いたE/Dインバータの作製工程を示す。
【0156】
清浄なガラス基板(コーニング社製1737)を基板100とする。
【0157】
この上に第1のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着しリフトオフ法でパターニングすることで、第1のゲート電極201及び第2のゲート電極202を得る。
【0158】
次にRFマグネトロンスパッタにより、第1及び第2のTFTに共通のゲート絶縁膜300となるSiO層を全面に成膜する(成膜ガスAr、成膜圧力0.1Pa、投入電力400W、膜厚100nm)。この上に第2のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、第1のゲート電極201及び第2のゲート電極202の上方にあるゲート絶縁層300の一部をエッチングでパターニングし、コンタクトホール(不図示)を得る。
【0159】
続いてチャネル層となるアモルファスIGZO膜400をRFマグネトロンスパッタにより成膜する(成膜ガスO2(3.3体積%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W)。膜厚は、第1のTFT、第2のTFTの各チャネル層に相当する部分においてともに60nm成膜する。スパッタ成膜中には基板温度は特に制御しない。
【0160】
続いて、第1のTFTが形成される領域801におけるアモルファスIGZO膜400の上部に第3のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成し、アモルファスIGZO膜400をドライエッチングする。エッチングは第2のTFTが形成される領域802におけるアモルファスIGZO膜400の膜厚が30nmになるように時間及び強度を調節して行う。
【0161】
第4のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後にアモルファスIGZO膜400をエッチングして、各トランジスタ毎にチャネル層が独立するように分断する。こうして、第1のチャネル層401及び第2のチャネル層402を得る。
【0162】
続いて、集光したレーザ光により、第1のチャネル層401近傍のみを集中加熱する。このとき第1のチャネル層401ほどではないが、基板の熱伝導により第2のチャネル層402も若干加熱される。
【0163】
しかし、図7(a)〜(h)に示して確認したように、第2のチャネル層を用いるTFTは第1のチャネル層を用いるTFTに比べて加熱前後のVthの変化が小さいので、この402は加熱処理されていないものとして扱う。
【0164】
最後に、第5のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜する。その後、リフトオフによって第1のドレイン電極501、第1のソース電極601、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を形成する。このとき、第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は図8(d)のように一体であり、電気的に接続されている。また、ソース・ドレイン電極と同時に上記コンタクトホールを介した層間配線(不図示)を形成することにより、第1のソース電極601を第1のゲート電極201と接続する。
【0165】
以上により、第1のドレイン電極501を外部電源端子、第2のソース電極602を接地端子とするE/Dインバータが完成する。フォトリソグラフィー工程は5回である。
【0166】
上記手順で作製されるE/Dインバータの動特性を見積もるため、試料4におけるW=40μmのTFTを負荷TFT、試料1におけるW=800μmのTFTを駆動TFTとするE/Dインバータからなる5段リングオシレータの回路シミュレーションを行った。
【0167】
その結果、外部電源電圧+10Vにおいて114kHzで発振した。遅延時間は0.88μsであった。振幅は7.8Vであり、出力電圧の最大値は電源電圧と等しい+10Vであった。出力波形を図16に示す。
【0168】
本実施例4では、次の比較例に示すような飽和負荷E/Eインバータの作製プロセスに対しフォトリソグラフィー工程が同回数ないし1回増えるだけで、E/Dインバータが簡便に構成できる。
【0169】
また、膜厚差を設ける際にエッチングではなく、実施例2で示したようにリフトオフによる膜厚調節を行っても良い。この場合、膜厚制御性が良くなる。
【0170】
そして、加熱条件に差を設ける際にも、実施例3で示したようにソース・ドレイン・ゲートの電極を構成する材料において異なる材料で2種類のTFTを作製し、誘導加熱又は光照射によって選択的に加熱を行っても良い。
【0171】
(比較例4−1)
実施例4と類似の作製法であるが、第1のチャネル層401の選択的加熱を行わず、両TFTのチャネルとも加熱処理工程を踏まず同一基板上に2種類のTFTを作製する。すると飽和負荷E/Eインバータが作製できる。
【0172】
実施例4と同様に図8に示すように、エッチング又はリフトオフにより膜厚差を設けた、第1のチャネル401及び第2のチャネル402を得る。その後、第5のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成する。その後、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜し、リフトオフによって第1のドレイン電極501、第1のソース電極601、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を形成する。
【0173】
これを不図示の外部配線によって、第2のゲート電極201は第1のソース電極601ではなく第1のドレイン電極501と接続する。このようにして、第1のドレイン電極501を外部電源端子、第2のソース電極602を接地端子とする飽和負荷E/Eインバータを作製できる。フォトリソグラフィー工程は5回である。
【0174】
上記手順で作製される飽和負荷E/Eインバータの動特性を見積もるため、以下回路シミュレーションを行った。即ち、試料3におけるW=40μmのTFTを負荷TFT、試料1におけるW=800μmのTFTを駆動TFTとする飽和負荷E/Eインバータからなる5段リングオシレータの回路シミュレーションを行った。出力波形を図17に示す。外部電源電圧+10Vにおいて30kHzで発振した。1段あたりの遅延時間は3.4μsであり、実施例4の3.8倍であった。また、振幅は5.6V、出力電圧の最大値は+6.8Vであり、電源電圧の+10Vに対し約3.2Vも低下した。すなわち、本比較例3で作製した飽和負荷E/Eインバータと比較して、実施例4のE/Dインバータの方がより高速・大振幅動作しており、実施例4の作製法によれば比較例3よりも高性能なインバータが得られると期待できる。
【0175】
(比較例4−2)
実施例4と類似の作製法であるが、両チャネルを異なる膜厚に調製する工程を踏まず、両TFTのチャネルとも30nmと同じ膜厚で、加熱処理条件のみ違えて同一基板上に2種類のTFTを作製する。すると飽和負荷E/Eインバータが作製できる。
【0176】
この作製工程を図10に示す。
【0177】
清浄なガラス基板(コーニング社製1737)を基板100とする。
【0178】
この上に第1のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法でチタンと金を合計50nm蒸着しリフトオフ法でパターニングすることで、第1のゲート電極201及び第2のゲート電極202を得る。
【0179】
次にRFマグネトロンスパッタにより、第1のTFT及び第2のTFTに共通のゲート絶縁膜300となるSiO層を全面に成膜する(成膜ガスAr、成膜圧力0.1Pa、投入電力400W、膜厚100nm)。この上に第2のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、ゲート絶縁層300をエッチングでパターニングし、ゲート電極201、202の不図示領域の上方にコンタクトホール(不図示)を得る。
【0180】
続いてチャネル層400としてアモルファスIGZO層をRFマグネトロンスパッタにより成膜する(成膜ガスO(3.3%)+Ar、成膜圧力0.53Pa、投入電力300W)。膜厚は、第1のTFT及び第2のTFTの各チャネル層に相当する部分においてともに30nm成膜する。スパッタ成膜中には基板温度は特に制御しない。
【0181】
第3のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後にチャネル層400をエッチングし、第1のチャネル層401及び第2のチャネル層402を得る。
【0182】
続いて、集光したレーザ光により、第2のチャネル層402近傍のみを局所的(選択的/集中的)に加熱する。
【0183】
最後に、第4のフォトリソグラフィー工程によりフォトレジスト(不図示)を形成した後、電子ビーム蒸着法で再びチタンと金を合計100nm成膜する。その後、リフトオフによって第1のドレイン電極501、第1のソース電極601、第2のドレイン電極502、第2のソース電極602を形成する。同時に、上記コンタクトホールを介した層間配線(不図示)を形成することにより、第1のドレイン電極501を第1のゲート電極201と接続する。
【0184】
また、第1のソース電極601と第2のドレイン電極502は一体とする。
【0185】
以上により、第1のドレイン電極501を外部電源端子、第2のソース電極602を接地端子とする飽和負荷E/Eインバータが完成する。フォトリソグラフィー工程は4回である。
【0186】
上記手順で作製される飽和負荷E/Eインバータの動特性を見積もるため、以下の回路シミュレーションを行った。即ち、試料2におけるW=40μmのTFTを負荷TFT、試料1におけるW=800μmのTFTを駆動TFTとする飽和負荷E/Eインバータからなる5段リングオシレータの回路シミュレーションを行った。出力波形を図18に示す。外部電源電圧+10Vにおいて68kHzで発振した。1段あたりの遅延時間は1.48μsであり、実施例1よりも約7割長くなった。また、振幅は6.3V、出力電圧の最大値は+8.3Vであり、電源電圧の+10Vに対し約1.7V低下した。すなわち、本比較例4−2で作製した飽和負荷E/Eインバータと比較して、実施例4のE/Dインバータの方がより高速・大振幅動作している。従って、実施例4の作製法によれば比較例4よりも高性能なインバータが得られると期待できる。
【実施例5】
【0187】
実施例1〜4によって作製された酸化物TFTからなるインバータは、デジタル回路における任意の回路素子に応用できる。例えば、NAND、NOR、リングオシレータ、クロックトインバータ、フリップフロップ、シフトレジスタ、SRAM、NOR型ROM、NAND型ROMなどに利用できる。
【0188】
デジタル回路の他、異なる閾値を有するTFTを積極的に利用したアナログ回路の作製においても本発明が適用できる。例えば、差動増幅器の入力段などに利用できる。
【0189】
また、本発明は、インバータを含む上記回路素子を用いた任意の回路に適用できる。例えば、アクティブマトリクスディスプレイ、RFIDタグなどに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0190】
【図1】E/Dインバータの回路図
【図2】飽和負荷E/Eインバータの回路図
【図3】第1の実施形態の説明図(断面)
【図4】第2の実施形態の説明図(断面)
【図5】E/Dインバータの有効な作製条件の検討(シミュレーション)結果
【図6】作製したTFTの説明図(断面)
【図7】(a)〜(h)作製したTFTのIds−Vgs特性
【図8】実施例1、実施例4、比較例4−1におけるE/Dインバータの工程図(断面)
【図9】実施例1におけるE/Dインバータからなるリングオシレータの出力シミュレーション波形
【図10】比較例1−1、比較例4−2における飽和負荷E/Eインバータの工程図(断面)
【図11】比較例1−1における飽和負荷E/Eインバータからなるリングオシレータの出力シミュレーション波形
【図12】比較例1−2における飽和負荷E/Eインバータの工程図(断面)
【図13】実施例3におけるE/Dインバータの工程図(断面)
【図14】実施例3におけるE/Dインバータからなるリングオシレータの出力シミュレーション波形
【図15】比較例3−1におけるE/Dインバータの工程図(断面)
【図16】実施例4におけるE/Dインバータからなるリングオシレータの出力シミュレーション波形
【図17】比較例4−1における飽和負荷E/Eインバータからなるリングオシレータの出力シミュレーション波形
【図18】比較例4−2における飽和負荷E/Eインバータからなるリングオシレータの出力シミュレーション波形
【符号の説明】
【0191】
100 基板
200 ゲート電極
201、202 第1及び第2のゲート電極
300 ゲート絶縁膜
400 チャネル層となるアモルファスIGZO膜
401、402 第1及び第2のチャネル層
500 ドレイン電極
501、502 第1及び第2のドレイン電極
600 ソース電極
601、602 第1及び第2のソース電極
801、802 第1及び第2のTFTが形成される領域
900 TFT
901、902 第1及び第2のTFT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一基板上に形成され、チャネル層がIn、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体からなるインバータの作製方法であって、
前記インバータは複数の薄膜トランジスタを有するエンハンスメント−ディプリーション(E/D)インバータであり、
前記チャネル層の膜厚が互いに異なる第1のトランジスタと第2のトランジスタと、を形成する工程と、
前記第1及び第2のトランジスタのチャネル層のうち、少なくとも1つを熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とするインバータの作製方法。
【請求項2】
前記熱処理工程は、前記第1のトランジスタのチャネル層と前記第2のトランジスタのチャネル層のいずれか一方に、より多くの熱量を与えて熱処理することを特徴とする請求項1に記載のインバータの作製方法。
【請求項3】
前記熱処理工程は、接触加熱又は電磁波の照射によってチャネル層の一部の領域を局所的に加熱する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のインバータの作製方法。
【請求項4】
前記インバータは、
前記第1のトランジスタのソース電極の構成材料と前記第2のトランジスタのソース電極の構成材料とが互いに異なる構成、
前記第1のトランジスタのドレイン電極の構成材料と前記第2のトランジスタのドレイン電極の構成材料とが互いに異なる構成、及び
前記第1のトランジスタのゲート電極の構成材料と前記第2のトランジスタのゲート電極の構成材料とが互いに異なる構成、
のうち、少なくともいずれか一種の構成を有し、
前記熱処理工程は、電磁波の照射による加熱工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のインバータの作製方法。
【請求項5】
前記インバータは、
前記第1のトランジスタのソース電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのソース電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成、
前記第1のトランジスタのドレイン電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのドレイン電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成、及び
前記第1のトランジスタのゲート電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのゲート電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成、
のうち、少なくともいずれか一種の構成を有し、
前記物性が抵抗率、比熱、及び吸光係数から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載のインバータの作製方法。
【請求項6】
前記第1及び第2のトランジスタのチャネル層の膜厚を異ならしめるべく、前記チャネル層をエッチングするエッチング工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載のインバータの作製方法。
【請求項7】
前記第1及び第2のトランジスタのチャネル層の膜厚を異ならしめるべく、
前記第1のトランジスタのチャネル層を成膜する工程と第2のトランジスタのチャネル層を成膜する工程の回数又は時間を異ならしめること
を特徴とする、請求項1に記載のインバータの作製方法。
【請求項8】
同一基板上に形成され、チャネル層がIn、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体からなるインバータの作製方法であって、
前記インバータは複数の薄膜トランジスタを有するエンハンスメント−ディプリーション(E/D)インバータであり、
第1のトランジスタのチャネル層と、第2のトランジスタのチャネル層となる共通の堆積膜を形成する工程と、
前記第1のトランジスタのチャネル層と前記第2のトランジスタのチャネル層と、のいずれか一方に、より多くの熱量を与えて熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とするインバータの作製方法。
【請求項9】
前記熱処理工程は、接触加熱又は電磁波の照射によってチャネル層の一部の領域を局所的に加熱する工程を含むことを特徴とする請求項8に記載のインバータの作製方法。
【請求項10】
前記インバータは、
前記第1のトランジスタのソース電極の構成材料と前記第2のトランジスタのソース電極の構成材料とが互いに異なる構成、
前記第1のトランジスタのドレイン電極の構成材料と前記第2のトランジスタのドレイン電極の構成材料とが互いに異なる構成、及び
前記第1のトランジスタのゲート電極の構成材料と前記第2のトランジスタのゲート電極の構成材料とが互いに異なる構成、
のうち、少なくともいずれか一種の構成を有し、
前記熱処理工程は、電磁波の照射による加熱工程を含むことを特徴とする請求項8に記載のインバータの作製方法。
【請求項11】
前記インバータは、
前記第1のトランジスタのソース電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのソース電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成、
前記第1のトランジスタのドレイン電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのドレイン電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成、及び
前記第1のトランジスタのゲート電極の構成材料の物性と前記第2のトランジスタのゲート電極の構成材料の物性とが互いに相違する構成、
のうち、少なくともいずれか一種の構成を有し、
前記物性が抵抗率、比熱、及び吸光係数から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載のインバータの作製方法。
【請求項12】
同一基板上に形成された複数のIn、Ga、Znから選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物半導体薄膜トランジスタのうち、少なくとも2つのトランジスタのチャネル層の膜厚がそれぞれ異なり、かつ、前記2つのトランジスタの閾値電圧がそれぞれ異なることを特徴とするインバータ。
【請求項13】
前記第1及び第2のトランジスタの閾値電圧の差が電源電圧の70%以上200%以下となるような電源電圧を供給されて動作することを特徴とする請求項12に記載のインバータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2009−4733(P2009−4733A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−44527(P2008−44527)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】