説明

インホイールモータ車両駆動装置

【課題】 潤滑油供給機構を含むインホイールモータ車両駆動装置において、潤滑油の漏れを防止することができるインホイールモータ車両駆動装置を提供する。
【解決手段】 このインホイールモータ車両駆動装置は、車輪を駆動するモータ1と、このモータ1の回転を減速する減速機2と、減速機2の入力軸3と同軸の出力部材4によって回転される車輪用軸受5と、減速機2の潤滑およびモータ1の冷却のいずれか一方または両方に用いられる潤滑油を供給する潤滑油供給機構40とを備えている。潤滑油供給機構40は潤滑油を貯留する潤滑油貯留部45を有し、モータ1から外方に引き出されるモータケーブル20の引き出し部21を、モータ1の駆動停止状態における潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油の油面高さH1よりも上方に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、電気自動車等の駆動輪に用いられるインホイールモータ車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪用軸受、モータ、およびこのモータと前記車輪用軸受との間に介在した減速機を有するインホイールモータ駆動装置が提案されている(特許文献1)。インホイールモータ駆動装置は、車両の足回りに配置されるため、インホイールモータ駆動装置と、この駆動装置を駆動する駆動源とを電気的に接続する動力ケーブルが必要になる。動力ケーブルは、モータコイルと接続するために、ねじ、半田付け、加締め等で締結される。またインホイールモータ駆動装置は、前記のように足回りに配置され、車内空間を広く確保するためには、軸方向寸法を小さくする必要がある。図8(A)は、従来例のインホイールモータ駆動装置の正面図、図8(B)は、同インホイールモータ駆動装置を軸方向から見た側面図である。インホイールモータ駆動装置の軸方向寸法を小さくするため、同図に示すように、動力ケーブル100の端子箱101を、モータ102のモータハウジング102aの側面に配置する構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−219271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8に示す従来構造は、減速機103の潤滑およびモータ102の冷却に用いられる潤滑油を供給する潤滑油供給機構(図示せず)が設けられている。この場合、モータハウジング102aの内部に貯留された潤滑油が、動力ケーブル100の引き出し部104からこの動力ケーブル100を伝って外部に漏れ出す可能性があった。
【0005】
この発明の目的は、潤滑油供給機構を含むインホイールモータ車両駆動装置において、潤滑油の漏れを防止することができるインホイールモータ車両駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のインホイールモータ車両駆動装置は、車輪を駆動するモータと、このモータの回転を減速する減速機と、この減速機の入力軸と同軸の出力部材によって回転される車輪用軸受と、前記減速機の潤滑およびモータの冷却のいずれか一方または両方に用いられる潤滑油を供給する潤滑油供給機構とを備えたインホイールモータ車両駆動装置において、
前記潤滑油供給機構は潤滑油を貯留する潤滑油貯留部を有し、前記モータから外方に引き出されるモータケーブルの引き出し部を、モータの駆動停止状態における潤滑油貯留部に貯留された潤滑油の油面高さよりも上方に設けたことを特徴とする。
【0007】
この構成によると、モータケーブルの引き出し部を、モータの駆動停止状態における潤滑油貯留部に貯留された潤滑油の油面高さよりも上方に設けたため、潤滑油貯留部に貯留された潤滑油が、モータケーブルの引き出し部からこのモータケーブルを伝って外部に漏れ出すおそれがなくなる。このように潤滑油の漏れを防止できるため、減速機の潤滑やモータの冷却を確実に行うことができる。これにより、モータの高速回転化を図ることができるうえ、例えば、潤滑油貯留部の油面高さの確認などメンテナンスの容易化を図ることができる。
【0008】
前記潤滑油供給機構は、モータのモータハウジングに設けられる潤滑油流路と、モータのモータ回転軸内の軸心に沿って設けられ、前記潤滑油流路に連通するモータ回転軸油路と、減速機に設けられ、潤滑油流路および潤滑油貯留部に連通して潤滑油を減速機に供給する減速機油路と、潤滑油貯留部に貯留された潤滑油を吸い上げて潤滑油流路を経由して減速機油路およびモータ回転軸油路に循環させるポンプとを有する軸心給油機構であっても良い。この場合、潤滑油をポンプにより循環させることで、モータを冷却することができるため、例えば、モータハウジングに別の冷却剤通路を設ける必要がなくなる。またモータ回転軸内の空間等を有効に利用して潤滑油を循環させることができるため、潤滑油用の配管を新たに設けることなく、潤滑油を必要な箇所に供給することができる。このため、部品点数の低減を図り、インホイールモータ車両駆動装置全体の小型化を図ることができる。
【0009】
前記モータの駆動停止状態における潤滑油貯留部に貯留された潤滑油の油面高さを、モータのモータロータに掛かる程度としても良い。この場合、モータロータの冷却を行うことができると共に、例えばモータロータ全体が潤滑油に漬かる場合と比べて、潤滑油の攪拌抵抗を少なくすることができる。これにより動力伝達の効率の向上を図ることができる。
【0010】
前記モータの回転角を検出する角度センサを設け、前記モータケーブルは、モータを回転駆動する電力を供給する動力ケーブルと、角度センサ用の回転角度検出ケーブルとを含むものであっても良い。
前記モータのコイルの温度を検出するコイル温度検出手段を設け、前記モータケーブルは、コイル温度検出手段用のケーブルを含むものであっても良い。
前記モータのモータロータの温度を検出するロータ温度検出手段を設け、前記モータケーブルは、ロータ温度検出手段用のケーブルを含むものであっても良い。
【0011】
前記モータに、モータケーブルの引き出し部を封止する封止手段を設けても良い。この場合、潤滑油が、モータケーブルの引き出し部から外部に漏れ出すことをより確実に防止することができる。
前記減速機がサイクロイド減速機によって構成されているものであっても良い。
【発明の効果】
【0012】
この発明のインホイールモータ車両駆動装置は、車輪を駆動するモータと、このモータの回転を減速する減速機と、この減速機の入力軸と同軸の出力部材によって回転される車輪用軸受と、前記減速機の潤滑およびモータの冷却のいずれか一方または両方に用いられる潤滑油を供給する潤滑油供給機構とを備えたインホイールモータ車両駆動装置において、
前記潤滑油供給機構は潤滑油を貯留する潤滑油貯留部を有し、前記モータから外方に引き出されるモータケーブルの引き出し部を、モータの駆動停止状態における潤滑油貯留部に貯留された潤滑油の油面高さよりも上方に設けた。このため、潤滑油供給機構を含むインホイールモータ車両駆動装置において、潤滑油の漏れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は、この発明の第1の実施形態に係るインホイールモータ車両駆動装置の正面図、(B)は同インホイールモータ車両駆動装置を軸方向から見た側面図、(C)は同インホイールモータ車両駆動装置の正面図である。
【図2】同インホイールモータ車両駆動装置の断面図である。
【図3】図2のIII−III線断面となる減速機の断面図である。
【図4】同インホイールモータ車両駆動装置の端子ボックスの一部破断した平面図(図2のIV−IV線端面図)である。
【図5】この発明の他の実施形態に係る制御系のブロック図である。
【図6】同インホイールモータ車両駆動装置を含む電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。
【図7】同電気自動車の制御系のブロック図である。
【図8】(A)は、従来例のインホイールモータ駆動装置の正面図、(B)は、同インホイールモータ駆動装置を軸方向から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図4と共に説明する。
この実施形態に係るインホイールモータ車両駆動装置は、例えば、電気自動車に搭載される。図1(A)は、この実施形態に係るインホイールモータ車両駆動装置の正面図(図1(B)のIA-IA線端面図)であり、図1(B)は、同インホイールモータ車両駆動装置を軸方向から見た側面図である。図1(C)は、同インホイールモータ車両駆動装置の正面図(図1(B)のIC-IC線端面図)である。
図1(A),(C)に示すように、インホイールモータ車両駆動装置は、車輪を駆動するモータ1と、このモータ1の回転を減速する減速機2と、この減速機2の入力軸3(図2)と同軸の出力部材4によって回転される車輪用軸受5と、後述の潤滑油供給機構とを備えている。
【0015】
車輪用軸受5とモータ1との間に減速機2を介在させ、車輪用軸受5で支持される駆動輪である車輪のハブと、モータ1のモータ回転軸6(図2)とを同軸心上で連結してある。減速機2の減速機ハウジング7には、サスペンション8のアッパーアーム8aおよびロアーアーム8bが連結される。なお、この明細書において、インホイールモータ車両駆動装置を車両に取り付けた状態で車両の車幅方向の外側寄りとなる側をアウトボード側と呼び、車両の中央寄りとなる側をインボード側と呼ぶ。
【0016】
図2に示すように、モータ1は、筒状のモータハウジング9に固定したモータステータ10と、モータ回転軸6に取り付けたモータロータ11との間にラジアルギャップを設けたラジアルギャップ型のIPMモータ(すなわち埋込磁石型同軸モータ)である。モータハウジング9には、軸方向に離隔して軸受12,13が設けられ、これら軸受12,13にモータ回転軸6が回転自在に支持されている。モータ回転軸6は、モータ1の駆動力を減速機2に伝達するものである。モータ回転軸6の軸方向中間付近部には、径方向外方に延びるフランジ部6aが設けられ、このフランジ部6aにロータ固定部材14を介してモータロータ11が取付けられている。
【0017】
モータ1には、モータステータ10とモータロータ11の間の相対回転角度を検出する角度センサ15が設けられる。角度センサ15は、モータステータ10とモータロータ11の間の相対回転角度を表す信号を検出して出力する角度センサ本体16と、この角度センサ本体16の出力する信号から角度を演算する角度演算回路17とを有する。角度センサ本体16は、例えば、モータ回転軸6の外周面に設けられる被検出部16aと、モータハウジング9に設けられ前記被検出部16aに例えば径方向に対向して近接配置される検出部16bとを有する。被検出部16aと検出部16bは軸方向に対向して近接配置されるものであっても良い。角度センサ15はレゾルバであっても良い。
【0018】
モータハウジング9の上部には、端子ボックス18が設けられる。図4に示すように、端子ボックス18内には複数の端子19が設けられている。図4は、図2のIV−IV線端面図である。この端子ボックス18におけるインボード側の一端部18aには、モータケーブル20の引き出し部21が設けられている。端子ボックス18の一端部18aに、引き出し部21を封止する例えばグロメットなどの封止手段22が設けられている。封止手段22は、ゴム等の弾性体から円筒状に形成され、軸方向両端部にフランジ部22a,22aがそれぞれ設けられている。端子ボックス18の一端部18aにおける引き出し部21に、封止手段22の外周面が圧入されると共に、前記一端部18aの内外面を両フランジ部22a,22aで挟持している。この封止手段22の中空部にモータケーブル20を密着させて通している。前記モータケーブル20は、この例では、モータ1を回転駆動する電力を供給する動力ケーブル20aと、前述のモータ1の回転角を検出する角度センサ15用の回転角度検出ケーブル20bとを含む。モータハウジング9(図2)内において、モータ1内の各相(U,V,W)の配線が、それぞれ端子ボックス18内の対応する各端子19までそれぞれ延びて接続されている。これら各端子19に動力ケーブル20aがそれぞれ接続されている。
【0019】
これら動力ケーブル20aは、端子ボックス18の引き出し部21からモータ外に引き出され、車両に搭載された後述のインバータに接続されている。前記インバータは、バッテリの直流電流をモータ1の駆動に用いる3相の交流電力に変換するものである。
また図2に示すように、モータハウジング9内において、前記角度センサ本体16のうち検出部16bから延びる配線が、端子ボックス18内の対応する端子19に接続されている。この端子19に回転角度検出ケーブル20bが接続されている。この回転角度検出ケーブル20bは、端子ボックス18の引き出し部21からモータ外に引き出され、後述するモータコントロール部に接続されている。
【0020】
減速機2の入力軸3は、軸方向一端がモータ回転軸6内に延びて、モータ回転軸6とスプライン嵌合されている。減速機ハウジング7に軸受23が設けられ、入力軸3の軸方向他端が前記軸受23によって支持される。したがって、減速機2の入力軸3およびモータ回転軸6は、軸受12,13,23により一体に回転自在に支持される。減速機ハウジング7内における、入力軸3の軸方向他端寄りの外周面には、偏心部24,25が設けられる。これら偏心部24,25は、偏心運動による遠心力が互いに打ち消されるように180°位相をずらして設けられている。
【0021】
減速機2は、減速比が1/6以上のものであるのが良い。この減速機2は、曲線板26,27と、複数の外ピン28と、運動変換機構29と、カウンタウェイト30,30とを有するサイクロイド減速機である。図3に示すように、曲線板26,27は、偏心部24,25にそれぞれ回転自在に設けられる。モータハウジング9および減速機ハウジング7に渡って複数の外ピン28が支持され、これら外ピン28が曲線板26,27の外周に転接するようになっている。前記運動変換機構29は、曲線板26,27の自転運動を、出力部材4に伝達する機構である。この運動変換機構29は、出力部材4に設けられた複数の内ピン31と、曲線板26,27に設けられた貫通孔32とを有する。内ピン31は、出力部材4の回転軸心を中心として円周方向に等間隔に配設されている。図2に示すように、減速機2の入力軸3における偏心部24,25に隣接する軸方向位置に、それぞれカウンタウェイト30,30が設けられている。
【0022】
車輪用軸受5は、内周に複列の軌道面を形成した外方部材33と、これら各軌道面に対向する軌道面を外周に設けた内方部材34と、これら外方部材33および内方部材34の軌道面間に介在した複列の転動体35とを有する。内方部材34は、駆動輪を取付けるハブを兼用する。この車輪用軸受5は、複列のアンギュラ玉軸受とされていて、転動体35はボールからなり、各列毎に保持器で保持されている。前記軌道面は断面円弧状であり、各軌道面は接触角が背面合わせとなるように形成されている。また外方部材33と内方部材34との間の軸受空間のアウトボード側端、インボード側端は、それぞれシール部材36,37でシールされている。
【0023】
外方部材33は静止側軌道輪となるものであって、減速機ハウジング7のアウトボード側端に取付けるフランジ33aを有し、外方部材33および減速機ハウジング7が一体の部品とされている。フランジ33aには、周方向の複数箇所にボルト挿通孔が設けられ、減速機ハウジング7には、ボルト挿通孔に対応する位置に、雌ねじからなるボルト螺着孔が設けられている。ボルト挿通孔に挿通した取付ボルトをボルト螺着孔に螺着させることにより、外方部材33が減速機ハウジング7に取付けられる。
【0024】
内方部材34は、回転側軌道輪となるものであって、出力部材4を挿通する中空部におけるインボード側の外周面に段部34aが形成され、この段部34aに内輪38が嵌合固定されている。内方部材34の外周面に一列の軌道面が一体形成され、前記内輪38の外周面に他列の軌道面が形成されている。内方部材34のアウトボード側端には、車輪取付用のハブフランジ34aが設けられている。内方部材34の中空部にはスプライン孔が形成され、同中空部に出力部材4がスプライン嵌合されている。出力部材4の先端部には雄ねじが形成され、中空部から突出する出力部材4の先端部にナット39を螺着することで、出力部材4と内方部材34とが連結されている。
【0025】
潤滑油供給機構40について説明する。
潤滑油供給機構40は、この例では、減速機2の潤滑およびモータ1の冷却の両方に用いられる潤滑油を供給する機構である。この潤滑油供給機構40は、いわゆる軸心給油機構であって、潤滑油流路41と、モータ回転軸油路42と、減速機油路43と、ポンプ44と、潤滑油を貯留する潤滑油貯留部45とを有する。潤滑油流路41は、モータハウジング9に設けられ、第1流路41a〜第4流路41dを含む。潤滑油貯留部45からポンプ44の吸入口44aまで第1流路41aが傾斜状に延び、ポンプ44の吐出口44bに、順次、径方向に延びる第2流路41b,軸方向に延びる第3流路41c,主に径方向に延びる第4流路41dが連通する。第2流路41bの流路途中に減速機油路43が繋がっている。潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油が、ポンプ44により吸い上げられて潤滑油流路41および減速機油路43に導かれるようになっている。
【0026】
モータ回転軸油路42は、モータ回転軸6内の軸心に沿って設けられ、潤滑油流路41の第4流路41dに連通している。モータ回転軸6において、ロータ固定部材14が設けられる軸方向位置に、径方向に貫通する複数の貫通孔6bが設けられている。またロータ固定部材14には、前記複数の貫通孔6bに連通して径方向外方に延びる油路14aが設けられている。この油路14aは、ロータ固定部材14とモータロータ11の内周面との環状隙間δ1に連通する。潤滑油は、順次、潤滑油流路41、モータ回転軸油路42、貫通孔6b、および油路14aを経由して環状隙間δ1に導かれて、モータ1の冷却に供される。冷却に供された潤滑油は、ロータ固定部材14のフランジ14bと、モータロータ11の端面との間のスリットからそれぞれ排出されて、潤滑油貯留部45に貯留される。
【0027】
減速機油路43は、減速機2に設けられ、潤滑油流路41および潤滑油貯留部45にそれぞれ連通して潤滑油を減速機2に供給する。この減速機内部を潤滑する潤滑油は、遠心力および重力によって径方向外方で且つ下方に移動し、潤滑油貯留部45に戻される。
ポンプ44は、潤滑油流路41における第1流路41aと第2流路41bとの間の流路途中に設けられ、潤滑油を強制的に循環させている。このポンプ44は、例えば、出力部材4の回転により回転する図示外のインナーロータと、このインナーロータの回転に伴って従動回転するアウターロータと、ポンプ室と、前記吸入口44aと、前記吐出口44bとを有するサイクロイドポンプである。前記インナーロータが内方部材34の回転により回転すると、アウターロータは従動回転する。このときインナーロータおよびアウターロータはそれぞれ異なる回転中心を中心として回転することで、前記ポンプ室の容積が連続的に変化する。これにより、前記吸入口44aから流入した潤滑油が前記吐出口44bから第2流路41bに圧送される。
【0028】
潤滑油貯留部45は、減速機側貯留部45aとモータ側貯留部45bとを有する。減速機側貯留部45aは、減速機ハウジング7の下部に設けられ、モータ側貯留部45bは、モータハウジング9の下部に設けられる。モータハウジング9のうち、第1流路41aが形成される軸方向一端部における下部には、貫通孔46が形成されている。減速機側貯留部45aとモータ側貯留部45bとは、前記貫通孔46により連通して同一の油面高さH1となる。減速機2において、減速機内部を潤滑する潤滑油が、遠心力および重力によって下方に移動し、前記減速機側貯留部45aに貯留される。またモータ1において、モータ1の冷却に供された潤滑油が、遠心力および重力によって下方に移動し、前記モータ側貯留部45bに貯留されるようになっている。
【0029】
端子ボックス18におけるモータケーブル20の引き出し部21は、潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油の油面高さH1よりも上方に設けられている。前記油面高さH1とは、モータ1の駆動停止状態における潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油の油面高さを言う。潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油の油面高さH1は、モータ1の駆動停止状態において、モータロータ11に掛かる程度、具体的には、モータロータ11の外周面が潤滑油に漬かる程度に定められている。
【0030】
潤滑油の油面高さH1を確認する油面高さ確認手段としては、例えば、モータハウジング9にレベルゲージを挿脱可能な挿入孔を設け、レベルゲージに付着する潤滑油の位置(レベル)によって油面高さH1を目視確認しても良いし、モータハウジング9に油面高さ確認用の光透過性の窓を設けてこの窓から油面高さH1を目視確認しても良い。このような油面高さ確認手段に代えて、または前記油面高さ確認手段と共に、油面高さH1を検出する液面レベルセンサをモータハウジング9内に設けても良い。前記液面レベルセンサは、液体の水位制御に用いられる磁気式、光学式、電極式、または超音波式の液面レベルセンサから成る。この場合、液面レベルセンサで検出された値が定められた油面高さH1の上限値と下限値との間に収まっているか否かを判定する判定手段が、後述のモータコントロール部に設けられる。
【0031】
作用効果について説明する。
モータケーブル20の引き出し部21を、モータ1の駆動停止状態における潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油の油面高さH1よりも上方に設けたため、潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油が、モータケーブル20の引き出し部21からこのモータケーブル20を伝って外部に漏れ出すおそれがなくなる。このように潤滑油の漏れを防止できるため、減速機2の潤滑やモータ1の冷却を確実に行うことができる。これにより、モータ1の高速回転化を図ることができる。さらに、潤滑油貯留部45の油面高さH1を油面高さ確認手段で目視確認する頻度を低減することができる。このためインホイールモータ車両駆動装置のメンテナンスの容易化を図ることができる。
【0032】
潤滑油をポンプ44により循環させることで、モータ1を冷却することができるため、例えば、モータハウジング9に別の冷却剤通路を設ける必要がなくなる。モータハウジング9に設けられる潤滑油流路41のうち、第3流路41cを流れる潤滑油、および潤滑油貯留部45のうちモータ側貯留部45bに貯留された潤滑油によって、モータステータ10が冷却される。また潤滑油が環状隙間δ1に導かれてスリットから排出されることで、モータロータ11の表面積の大部分が冷却される。このようにモータステータ10およびモータロータ11をそれぞれ冷却することで、モータ1を効果的に冷却し得る。またモータ回転軸6内の空間等を有効に利用して潤滑油を循環させることができるため、潤滑油用の配管を新たに設けることなく、潤滑油を必要な箇所に供給することができる。このため、部品点数の低減を図り、インホイールモータ車両駆動装置全体の小型化を図ることができる。
【0033】
モータ1の駆動停止状態における潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油の油面高さH1を、モータ1のモータロータ11に掛かる程度としたため、潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油によってもモータロータ11の冷却を行うことができる。これと共に、例えばモータロータ全体が潤滑油に漬かる場合と比べて、潤滑油の攪拌抵抗を少なくすることができる。これにより動力伝達の効率の向上を図ることができる。
端子ボックス18に、引き出し部21を封止する封止手段22を設けたため、潤滑油が、モータケーブル20の引き出し部21から外部に漏れ出すことをより確実に防止することができる。
インホイールモータ車両駆動装置における減速機2をサイクロイド減速機として減速比を例えば1/6以上に高くした場合、モータ1の小型化を図り、装置のコンパクト化を図ることができる。前記のようにモータケーブル20の引き出し部21を、モータ1の駆動停止状態における潤滑油貯留部45に貯留された潤滑油の油面高さH1よりも上方に設けたうえで、減速比を高くすることで、モータ1の高速回転化を図ることが可能となる。
【0034】
他の実施形態について説明する。
図5に示すように、モータ1のコイル1aの温度を検出するコイル温度検出手段Saを設け、前記モータケーブル20(図2)は、コイル温度検出手段用のケーブルを含むものであっても良い。この場合、コイル温度検出手段Saとして例えばサーミスタが使用される。このサーミスタを、コイル1aに接触固定することで、コイル1aの温度を検出し得る。コイル温度検出手段Saで検出された検出値は、モータコントロール部において、アンプApで増幅され、この増幅値が判定部47にて判定される。判定部47は、コイル温度検出手段Saで検出される温度が定められた閾値を超えるか否かを常時判定する。前記閾値は、例えば、実験、シミュレーション等により、コイル1aに絶縁を生じさせる、コイル1aの温度および時間の関係に基づいて適宜に求められる。このようなコイル温度検出手段Sa等を設けた場合、高速運転時においてモータコイル1aの絶縁劣化等の異常を早期に検知し、適切な対処が迅速に行える。
モータロータ11の温度を検出するロータ温度検出手段を設け、前記モータケーブル20は、ロータ温度検出手段用のケーブルを含むものであっても良い。ロータ温度検出手段としてもサーミスタ等が使用される。
【0035】
図6は、いずれかの実施形態に係るインホイールモータ車両駆動装置を含む電気自動車を平面図で示す概念構成のブロック図である。この電気自動車は、車体51の左右の後輪となる車輪52が駆動輪とされ、左右の前輪となる車輪53が従動輪の操舵輪とされた4輪の自動車である。駆動輪および従動輪となる車輪52,53は、いずれもタイヤを有し、それぞれ車輪用軸受5を介して車体51に支持されている。車輪用軸受5は、図6ではハブベアリングの略称「H/B」を付してある。駆動輪となる左右の車輪52,52は、それぞれ独立の走行用のモータ1,1により駆動される。モータ1の回転は、減速機2および車輪用軸受5を介して車輪52に伝達される。これらモータ1、減速機2、および車輪用軸受5は、互いに一つの組立部品であるインホイールモータ車両駆動装置58を構成しており、インホイールモータ車両駆動装置58は、一部または全体が車輪52内に配置される。各車輪52,53には、電動式のブレーキ59,60が設けられている。
【0036】
左右の前輪となる操舵輪である車輪53,53は、転舵機構61を介して転舵可能であり、操舵機構62により操舵される。転舵機構61は、タイロッド61aを左右移動させることで、車輪用軸受5を保持した左右のナックルアーム11bの角度を変える機構であり、EPS(電動パワーステアリング)モータ63により、回転・直線運動変換機構(図示せず)を介して左右移動させられる。操舵機構62は、タイロッド61aと機械的に連結されていないステアリングホイール64の操舵角を操舵角センサ65で検出し、その検出した操舵角である旋回指令によりEPSモータ63に駆動指令を与えるステアバイワイヤ式とされている。
【0037】
制御系を説明する。
自動車全般の制御を行う電気制御ユニットであるECU71と、このECU71の指令に従って走行用のモータ1の制御を行うインバータ装置72と、ブレーキコントローラ73とが、車体51に搭載されている。ECU71は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、並びに各種の電子回路等で構成される。
【0038】
ECU71は、機能別に大別すると駆動制御部71aと一般制御部71bとに分けられる。駆動制御部71aは、アクセル操作部66の出力する加速指令と、ブレーキ操作部67の出力する減速指令と、操舵角センサ65の出力する旋回指令とから、左右輪の走行用モータ1,1に与える加速・減速指令を生成し、インバータ装置72へ出力する。駆動制御部71aは、上記の他に、出力する加速・減速指令を、各車輪52,53の車輪用軸受5,5に設けられた回転センサ74から得られるタイヤ回転数の情報や、車載の各センサの情報を用いて補正する機能を有していても良い。アクセル操作部66は、アクセルペダルとその踏み込み量を検出して前記加速指令を出力するセンサ66aとでなる。ブレーキ操作部67は、ブレーキペダルとその踏み込み量を検出して前記減速指令を出力するセンサ67aとでなる。
【0039】
ECU71の一般制御部71bは、前記ブレーキ操作部67の出力する減速指令をブレーキコントローラ73へ出力する機能、各種の補機システム75を制御する機能、コンソールの操作パネル76からの入力指令を処理する機能、表示装置77に表示を行う機能などを有する。表示装置77は、液晶表示装置等の画像を表示可能なものである。前記補機システム75は、例えば、エアコン、ライト、ワイパー、GPS、アエバッグ等であり、ここでは代表して一つのブロックとして示す。
【0040】
ブレーキコントローラ73は、ECU71から出力される減速指令に従って、各車輪52,53のブレーキ59,60に制動指令を与える手段である。ECU71から出力される制動指令には、ブレーキ操作部67の出力する減速指令によって生成される指令の他に、ECU71の持つ安全性向上のための手段によって生成される指令がある。ブレーキコントローラ73は、この他にアンチロックブレーキシステムを備える。ブレーキコントローラ73は、電子回路やマイコン等により構成される。
【0041】
インバータ装置72は、各モータ1に対して設けられたパワー回路部78と、このパワー回路部78を制御するモータコントール部79とで構成される。モータコントール部79は、各パワー回路部78に対して共通して設けられていても、別々に設けられていても良いが、共通して設けられた場合であっても、各パワー回路部78を、例えば互いにモータトルクが異なるように独立して制御可能なものとされる。モータコントール部79は、このモータコントール部79が持つインホイールモータ駆動装置58に関する各検出値や制御値等の各情報(「IWMシステム情報」と称す)をECUに出力する機能を有する。
【0042】
図7は、油面高さが定められた値に収まっているかを判定する判定手段47Aを、インバータ装置72に設けた概念構成のブロック図である。パワー回路部78は、バッテリ69の直流電力をモータ1の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ81と、このインバータ81を制御するPWMドライバ82とで構成される。モータ1は3相の同期モータ等からなる。インバータ81は、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWMドライバ82は、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0043】
モータコントール部79は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成され、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部83を有している。モータ駆動制御部83は、上位制御手段であるECU71から与えられるトルク指令等による加速・減速指令に従い、電流指令に変換して、パワー回路部78のPWMドライバ82に電流指令を与える手段である。モータ駆動制御部83は、インバータ81からモータ1に流すモータ電流値を電流センサ85から得て、電流フィードバック制御を行う。また、モータ駆動制御部83は、モータロータ11(図2)の回転角を角度センサ15から得て、ベクトル制御を行う。
【0044】
この実施形態では、油面高さを検出する液面レベルセンサSbをモータハウジング内に設けると共に、液面レベルセンサSbで検出された値が定められた油面高さH1の上限値と下限値との間に収まっているか否かを判定する判定手段47Aを、インバータ装置72における上記構成のモータコントロール部79に設けている。判定手段47Aは、検出値が油面高さH1の上限値と下限値との間に収まっていないと判定したとき、異常報告手段91に出力する。このとき異常報告手段91がECU71に異常の報告を行い、その異常の報告により、ECU71の異常表示手段92が運転席の表示装置77に異常の表示を行う。このため、運転者は、その異常を直ぐに認識することができて、車両の停止や徐行、修理工場への走行など、運転者により迅速に適切な処置を行うことができる。
【符号の説明】
【0045】
1…モータ
2…減速機
3…入力軸
4…出力部材
5…車輪用軸受
6…モータ回転軸
9…モータハウジング
20…モータケーブル
21…引き出し部
40…潤滑油供給機構
45…潤滑油貯留部
52…車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を駆動するモータと、
このモータの回転を減速する減速機と、
この減速機の入力軸と同軸の出力部材によって回転される車輪用軸受と、
前記減速機の潤滑およびモータの冷却のいずれか一方または両方に用いられる潤滑油を供給する潤滑油供給機構と、
を備えたインホイールモータ車両駆動装置において、
前記潤滑油供給機構は潤滑油を貯留する潤滑油貯留部を有し、前記モータから外方に引き出されるモータケーブルの引き出し部を、モータの駆動停止状態における潤滑油貯留部に貯留された潤滑油の油面高さよりも上方に設けたことを特徴とするインホイールモータ車両駆動装置。
【請求項2】
請求項1において、前記潤滑油供給機構は、
モータのモータハウジングに設けられる潤滑油流路と、
モータのモータ回転軸内の軸心に沿って設けられ、前記潤滑油流路に連通するモータ回転軸油路と、
減速機に設けられ、潤滑油流路および潤滑油貯留部に連通して潤滑油を減速機に供給する減速機油路と、
潤滑油貯留部に貯留された潤滑油を吸い上げて潤滑油流路を経由して減速機油路およびモータ回転軸油路に循環させるポンプと、
を有する軸心給油機構であるインホイールモータ車両駆動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記モータの駆動停止状態における潤滑油貯留部に貯留された潤滑油の油面高さを、モータのモータロータに掛かる程度としたインホイールモータ車両駆動装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記モータの回転角を検出する角度センサを設け、前記モータケーブルは、モータを回転駆動する電力を供給する動力ケーブルと、角度センサ用の回転角度検出ケーブルとを含むインホイールモータ車両駆動装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記モータのコイルの温度を検出するコイル温度検出手段を設け、前記モータケーブルは、コイル温度検出手段用のケーブルを含むインホイールモータ車両駆動装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記モータのモータロータの温度を検出するロータ温度検出手段を設け、前記モータケーブルは、ロータ温度検出手段用のケーブルを含むインホイールモータ車両駆動装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記モータに、モータケーブルの引き出し部を封止する封止手段を設けたインホイールモータ車両駆動装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記減速機がサイクロイド減速機によって構成されているインホイールモータ車両駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−104532(P2013−104532A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250768(P2011−250768)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】