説明

エッチング液組成物

【課題】アルミニウム膜やアルミニウム合金膜などの金属膜を制御性よく、かつ、レジスト滲みの発生を抑制、防止しつつエッチングし、意図する低テーパー角を有する望ましい形状と、優れた平坦性を有する金属膜を得ることができるようにする。
【解決手段】リン酸、硝酸、有機酸塩、界面活性剤を含有する水溶液を、基板上の金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物として用いる。
前記有機酸塩として、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いる。
また、本発明のエッチング液組成物を、前記金属膜がアルミニウムまたはアルミニウム合金である場合に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子部品の配線形成などに用いられる、アルミニウム膜、アルミニウム合金膜などの金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物に関し、詳しくは、半導体装置や液晶表示装置を構成する基板上に設けられたアルミニウム膜やアルミニウム合金膜などの金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の電子部品において、半導体基板やガラス基板などの表面に配線や電極などを形成する方法として、以下のようなエッチングによる方法が知られている。
【0003】
まず、基板上に配線・電極材料(基材)であるアルミニウム膜やアルミニウム合金膜を形成する。それから、その表面にフォトリソグラフィ法により感光性樹脂を塗布して、露光・現像を行うことによりパターンマスクを形成する。
そして、このパターンマスクを用いてアルミニウム膜やアルミニウム合金膜のエッチングを行う。これにより、アルミニウム膜やアルミニウム合金膜所望のパターンの配線や電極を形成することが可能になる。
【0004】
ところで、近年、半導体装置や液晶表示装置においては、製品の小型化や高性能化への要求が大きくなるにともない、これら装置が備えている配線や電極などに対する微小化、高性能化への要求もより厳しくなっている。そして、それに伴い、多層化が進行している技術分野においては、多層化に対応するため、エッチングされた配線の側面と、配線が形成されている基材(例えば、絶縁層や基板など)の表面のなす角度(以下この角度をテーパー角という)が、90°未満になるような形状(順テーパー形状)に、配線の断面形状を制御することが強く要望されている。
【0005】
そして、近年の、パターンの高密度化と微細化に伴う、配線材料の低抵抗化の必要性などから、配線材料として、アルミニウムまたはアルミニウム合金が広く用いられている。
【0006】
また、多層配線を行う場合には、信号遅延を少なくする目的で下層配線の材料にアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いられる。そして、上層配線と下層配線を電気的に絶縁するため、下層のアルミニウム配線またはアルミニウム合金配線上に絶縁層を何らかの手段で形成した後、その上に、上層配線として、アルミニウム配線またはアルミニウム合金配線を形成することが行われている。
【0007】
ここで、下層のアルミニウム配線またはアルミニウム合金配線は、その上に形成される絶縁層の被覆性を向上させるため、配線の断面形状を、順テーパー形状となるように制御することが必要になる。
この場合、下層のアルミニウム配線またはアルミニウム合金配線の断面形状の制御性が重要であり、断面形状が順テーパー形状の配線が得られない場合や、配線のテーパー角θが所望の範囲から外れた場合には、上層のアルミニウム配線またはアルミニウム合金配線が断線したり、絶縁層の生じるクラックを介して上層配線が下層配線と短絡したりする場合があり、信頼性が低下するという問題点がある。
【0008】
ところで、一般的に、エッチングにより順テーパー形状の配線を形成する場合、リン酸/硝酸/酢酸の水溶液をエッチング液として用いて、アルミニウム膜またはアルミニウム合金膜をエッチングすることにより、順テーパー形状の配線を形成することは可能である。
【0009】
例えば、リン酸/硝酸/酢酸/水の容量比が16:2〜8:2:1の混合液を用い、マスクとなるレジストを露光・現像処理して所定の配線形状にパターニングした後、前記レジストを金属膜との密着性が十分なマスクが得られる焼成温度で焼成(ポストベーク)して形成した、金属膜との密着性に優れたマスクを用いてエッチングを行った場合には、配線の側面と、配線が形成されている基材(例えば、絶縁層や基板など)の表面のなす角度(テーパー角)θが、90°未満で、90°(垂直)に近い配線を得ることができる。
【0010】
しかしながら、レジストの焼成温度が適切な温度より低い場合には、金属膜とのマスクの密着性が不十分になり、レジストと金属膜との界面にエッチング液が侵入して、金属膜のエッチング面は、金属膜がその上面側からもエッチングされるため、配線の側面と配線の上面のなす角度が大きくなり、配線の側面が緩やかに傾斜した1段のテーパー形状を有する配線が形成されることが報告されており、エッチング液中の硝酸濃度がさらに高くなると、テーパー角が小さくなることが報告されている(特許文献1参照)。
【0011】
一方、硝酸濃度が低い場合には、テーパー角の大きい1段のテーパー形状を形成するが、硝酸濃度を高めると、レジストと金属膜との界面のエッチングレートが高くなり、レジストと金属膜との界面側に形成されるテーパー角が小さい一つ目の段と、一つ目の段よりも基板に近い側に形成されるテーパー角が大きい2つ目の段の2つの段を備えた順テーパー形状を有する配線が形成され、さらに硝酸濃度が高くなると、傾斜の小さい1段の順テーパー形状を有する配線が形成されることが知られている(特許文献2、特許文献3参照)。
【0012】
しなしながら、エッチング液中の硝酸濃度を高くするとアルミニウム膜またはアルミニウム合金膜のエッチングレートは高くなるが、エッチングの制御性が低下し、制御性の良いテーパー形状を有する配線を得ることが困難になる。
【0013】
また、リン酸/硝酸/酢酸/水の混合液であるエッチング液の硝酸濃度が高い場合は、硝酸によるレジストダメージが生じ、レジスト表面にひび割れが確認されたが、ひび割れはレジスト表面で抑えられていて、金属表面にはエッチング痕が確認されないことが報告されている(特許文献2参照)。
【0014】
さらに、エッチング液によるレジストの収縮は一定以上進行しないことが報告されている(特許文献3)。
しかしながら、硝酸濃度が高い場合において、エッチング後に、電子顕微鏡(SEM)でレジスト表面を観察すると、レジスト表面にヒビが入っているほか、エッチング面より内側、すなわち、エッチングが行われていない、レジストと金属膜との界面に、エッチング液の滲み込みによるエッチング痕(以下「レジスト滲み」とよぶ)が生じることが確認される。そして、レジスト滲みの現象が発生すると、レジストで覆われている金属膜表面がエッチングされて平坦でなくなり、所望の形状が得られなくなるという問題が発生する。
【0015】
また、半導体プロセスの微細化の進行により、エッチング後の金属膜表面について、金属膜の表面荒れのない、優れた平坦性、平滑性を有する高品質な金属膜を得る方法が求められている。エッチング液に添加剤を加えてエッチング後の金属膜表面の状態を改善する試みとして、例えば、エッチング工程で気泡が金属膜表面に付着することにより、エッチングが阻害されエッチング面の平滑性が損なわれることを防止すべく、硝酸が金属膜をエッチングする際に発生する水素の金属膜表面への付着を回避することができるように、リン酸/硝酸/酢酸/水を主成分とするエッチング液に、トリアルキルアミンオキサイド系界面活性剤を添加したエッチング液組成物が提案されている(例えば特許文献4)。また、エッチング液の微細加工性を改善するために、濡れ性を改善する目的で界面活性剤を添加することが知られている(例えば、特許文献5)。
【0016】
しかしながら、これらの特許文献4,5には、表面荒れがなく、平滑性にすぐれた高品質な金属表面を有するテーパー形状の金属膜を形成することについては特に提案はなされていないのが実情である。
【0017】
また、リン酸/硝酸/酢酸/水を主成分とするエッチング液にアルキル硫酸エステルまたはパーフルオロアルケニルフェニルエーテルスルホン酸およびそれらの塩である界面活性剤を添加したエッチング液が提案されている(特許文献6)。しかしながら、この特許文献6のエッチング液を用いた場合、低テーパー角を実現することはできるが、アルミニウム膜の表面荒れ、レジスト滲みに関しては、十分な解決策が開示されていないのが実情である。
【0018】
以上のように、テーパー角を精度よく制御することが可能で、レジスト滲みが生じず、表面荒れのない、優れた平坦性、平滑性を有する高品質なエッチング面を備えた順テーパー形状を有するとともに、低いテーパー角を有する金属膜を形成することが可能なエッチング液組成物が要望されているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2003−110243号公報
【特許文献1】特開平7−176525号公報
【特許文献2】特開平6−122982号公報
【特許文献3】特開2001−77098号公報
【特許文献4】特表平4−506528号公報
【特許文献5】特開2003−49285号公報
【特許文献6】特開2005−162893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上記実情に鑑み、上述の課題を解決するためになされたものであり、多層配線を有する半導体装置の上層配線の断線や短絡を防止し、歩留まりよく、信頼性に優れた半導体装置を得るため、金属膜、特にアルミニウムまたはアルミニウム合金膜を制御性よく、かつ、レジスト滲みを生じることなくエッチングすることが可能で、適切なテーパー形状と、優れた平坦性、平滑性を有する金属膜を得ることが可能なエッチング液組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意、検討を重ねた結果、下記のエッチング液組成物の発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明のエッチング液組成物は、基板上の金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物であって、リン酸、硝酸、有機酸塩、および界面活性剤を含有する水溶液であることを特徴としている。
【0022】
また、本発明のエッチング液組成物においては、前記有機酸塩として、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが望ましい。
【0023】
また、本発明のエッチング液組成物においては、有機酸塩の濃度が0.1〜20重量%であることが望ましい。
【0024】
また、前記界面活性剤として、陰イオン性界面活性剤および/またはフッ素系界面活性剤を用いることが望ましい。
【0025】
また、前記陰イオン性界面活性剤として、ポリスチレンスルホン酸および/またはそれらの塩、または、アルキル硫酸エステルおよび/またはそれらの塩を用いることが望ましい。
【0026】
また、前記フッ素系界面活性剤として、パーフルオロアルケニルフェニルエーテルスルホン酸および/またはそれらの塩を用いることが望ましい。
【0027】
また、前記界面活性剤の濃度は、0.001〜1.0重量%とすることが望ましい。
【0028】
さらに、本発明のエッチング液組成物は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属膜をエッチングする場合に用いることが特に望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のエッチング液組成物を、金属膜のエッチングに用いた場合、エッチングレートを制御することが可能になる。その結果、本発明のエッチング液組成物を用いて金属膜をエッチングすることにより、金属膜のエッチング後の形状を制御して、低テーパー角の形状を有する配線や電極を形成することができる。
【0030】
有機酸塩として、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることにより、金属膜のエッチング後の形状を制御して、所望の低テーパー角の形状を有する配線や電極をより確実に形成することができる。
【0031】
また、本発明のエッチング液組成物においては、有機酸塩の濃度を0.1〜20重量%の範囲とすることにより、金属膜のエッチング後の形状を確実に制御して、所望の低テーパー角の形状を有する配線や電極を形成することができる。
【0032】
また、界面活性剤として、陰イオン性界面活性剤および/またはフッ素系界面活性剤を用いることにより、効率よく、確実に所望の低テーパー角の形状を有する配線や電極を形成することができる。
【0033】
また、陰イオン性界面活性剤として、ポリスチレンスルホン酸および/またはそれらの塩、または、アルキル硫酸エステルおよび/またはそれらの塩を用いるようにした場合にも、効率よく、確実に所望の低テーパー角の形状を有する配線や電極を形成することができる。
【0034】
また、フッ素系界面活性剤として、パーフルオロアルケニルフェニルエーテルスルホン酸および/またはそれらの塩を用いるようにした場合にも、効率よく、確実に所望の低テーパー角の形状を有する配線や電極を形成することができる。
【0035】
また、界面活性剤の濃度を0.001〜1.0重量%とすることにより、確実に効率のよいエッチングを行って、所望の低テーパー角の形状を有する配線や電極を形成することができる。
【0036】
さらに、本発明のエッチング液組成物を用いて、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる金属膜をエッチングした場合、エッチングレートやエッチング後の形状をより確実に制御することが可能になる。そして、その結果、意図する低テーパー角を有し、安定したテーパー形状を有する配線や電極を得ることが可能になる。
【0037】
さらに、本発明の金属膜のエッチング液組成物は、硝酸の濃度が高いにもかかわらず、レジスト滲みが発生しないという特徴を備えている。
【0038】
また、本発明のエッチング液組成物は、硝酸濃度が高いにもかかわらず、エッチング後にレジスト表面に見られるヒビの数を、従来のエッチング液を用いた場合に比べて少なくすることが可能で、レジストの劣化を抑制することができる。
【0039】
また、本発明の金属膜のエッチング液組成物を用いることにより、テーパー角が小さい場合にも、金属膜のエッチング後に形成されるエッチング面を、表面荒れのない平坦な表面とすることができる。
【0040】
また、本発明のエッチング液組成物を用いてエッチングを行った場合、レジストのパターニングの前処理の薬液処理温度や処理時間による、テーパー角の変動を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のエッチング液組成物を用いて形成した金属膜(アルミニウム膜)のテーパー角を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
本発明のエッチング液組成物中の、リン酸の好ましい濃度は、30〜80重量%であり、さらに好ましくは40〜70重量%である。
【0043】
また、本発明のエッチング液組成物中の、硝酸の好ましい濃度は、1〜40重量%であり、さらに好ましくは5〜30重量%である。
【0044】
また、本発明のエッチング液組成物に用いられる有機酸塩としては、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸などのアンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩などが挙げられる。
【0045】
上記有機酸塩を構成する有機酸としては、具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸などの脂肪族モノカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸などの脂肪族ポリカルボン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸などの脂肪族オキシカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸などの芳香族モノカルボン酸、フタル酸、トリメリット酸などの芳香族ポリカルボン酸、サリチル酸、没食子酸などの芳香族オキシカルボン酸などが挙げられる。
【0046】
また、上記有機酸塩としては、具体的には、上述の有機酸のアンモニウム塩、あるいはメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、ヒドロキシルアミン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、モルホリンなどのアミン塩、テトラメチルアンモニウム水酸化物、テトラエチルアンモニウム水酸化物、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム水酸化物などの第四級アンモニウム塩、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属塩が挙げられる。
【0047】
本発明のより好ましい有機酸塩としては、脂肪族モノカルボン酸のアンモニウム塩である、ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、イソ酪酸アンモニウム、吉草酸アンモニウム、イソ吉草酸アンモニウム、トリメチル酢酸アンモニウム、カプロン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらの有機酸塩は、入手しやすく、また溶解性も高く、取り扱いが容易である。
【0048】
本発明に使用される有機酸塩の濃度は、エッチングレートを十分に制御し、レジスト滲みの発生を低減する見地からは、0.5〜30重量%の範囲とすることが好ましく、さらには1〜20重量%の範囲とすることが好ましい。
【0049】
本発明に使用される界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤である。具体的には、陰イオン性界面活性剤としては、ポリスチレンスルホン酸および/またはそれらの塩、または、アルキル硫酸エステルおよび/またはそれらの塩であり、アルキル基は直鎖状または分岐鎖状で、炭素数8〜18のものが好ましく、さらには炭素数12〜14のものが好ましい。また、ポリスチレンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩としてはアンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩が挙げられるがアンモニウム塩、アミン塩が汚染防止の点から特に好ましい。
【0050】
また、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルケニルフェニルエーテルスルホン酸および/またはそれらの塩が用いられる。アルケニル基としては直鎖状または分岐鎖状で、炭素数3〜12のものが好ましく、さらには炭素数6のものが好ましい。
【0051】
本発明のエッチング液組成物において、界面活性剤の濃度は0.001〜1.0重量%とすることが好ましい。これは、界面活性剤の濃度が0.001重量%未満になると添加効果が不十分になり、また、界面活性剤の濃度が1.0重量%を超えると添加効果の飽和、発泡などの問題が生じる場合があることによる。
【0052】
本発明のエッチング液組成物は、金属膜をエッチングするものであるが、特に、アルミニウム又はアルミニウム合金膜に好適に使用できる。
【0053】
本発明のエッチング液組成物を使用する場合、通常、エッチング温度は30〜60℃、エッチング時間は0.1〜10分程度とする。ただし、エッチング温度、エッチング時間はアルミニウム又はアルミニウム合金膜の厚さ等を勘案して決定すればよい。
また、本発明のエッチング方式は浸漬法、スプレー法、シャワー法などの各種の方式で行われるが、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<本発明の実施例にかかるエッチング液組成物の調製>
表1に示すような割合で、リン酸、硝酸、有機酸塩、界面活性剤および水を配合して、本発明の要件を備えたエッチング液組成物(実施例1〜6)を調製した。
【0056】
【表1】

【0057】
また、比較のため、表2に示すような割合で、リン酸、硝酸、有機酸塩または有機酸、および水を配合して、本発明の要件を備えていない比較例としてのエッチング液組成物(比較例1〜9)を調製した。
なお、この比較例1〜9のエッチング液組成物は、表2に示すように、リン酸、硝酸、有機酸塩または有機酸、およびおよび水を含有するが、界面活性剤を含有しない、本発明の範囲外のエッチング液組成物である。
【0058】
【表2】

【0059】
表1,2の各エッチング液組成物を使用して、以下に説明する方法により、金属膜のエッチングを行うとともに、以下の各項目について、測定、観察を行い、その特性を評価した。
【0060】
<アルミニウム膜のエッチングレートの測定>
基板(Si基板)上にスパッタリング法により、アルミニウム膜を膜厚が400nmとなるように成膜した。
次に、基板上に形成された膜厚400nmのアルミニウム膜上に、レジストを塗布してレジストパターンを形成した。
それから、この基板を、表1及び2に示すエッチング液組成物に40℃の温度条件下に、数分間(エッチングレートを測定することが可能な時間)、浸漬してエッチングを行った。
エッチング終了後、水洗、乾燥を行い、レジストを剥離した後、触針式膜厚計によりエッチング量を測定し、エッチングレートを求めた。
【0061】
<アルミニウム膜のテーパー角の測定> 基板(Si基板)上にスパッタリング法により、アルミニウム膜を膜厚が400nmとなるように成膜した。
そして、アルミニウム膜上に、レジストを塗布し、露光、現像を行ってレジストパターンを形成した。
それから、レジストパターンの形成された基板を、エッチング液に40℃の温度条件下に、エッチングレートから算出されるジャストエッチング時間の1.1倍の時間、浸漬処理した。
その後、水洗、乾燥を行い、レジストを剥離した後、電子顕微鏡(SEM)でアルミニウム膜のエッチング状態を観察し、エッチングにより形成されたテーパー形状を有するアルミニウム膜のテーパー角を測定した。
なお、ここでのテーパー角は、図1に示すように、基板1上に形成されたアルミニウム膜2の側面2aと、アルミニウム膜2が形成されている基板1の表面1aのなす角度θをいう。
【0062】
<アルミニウム膜のエッチング面の表面荒れおよびレジスト滲みの観察>
基板(Si基板)上にスパッタリング法により、アルミニウム膜を膜厚が400nmとなるように成膜した。
そして、アルミニウム膜上に、レジストを塗布し、露光、現像を行ってレジストパターンを形成した。
それから、レジストパターンの形成された基板を、エッチング液に40℃の温度条件下に、エッチングレートから算出されるジャストエッチング時間の1.1倍の時間、浸漬処理した。
その後、水洗、乾燥を行い、レジストを剥離した後、電子顕微鏡(SEM)でアルミニウム膜のエッチング面の表面荒れおよびレジスト滲みの状態を観察した。
【0063】
各実施例の試料(表1の実施例1〜6)について行った、テーパー角、表面荒れ、レジスト滲みの測定、観察結果を表1に併せて示す。
また、同様にして比較例の試料(比較例1〜9)について行った、テーパー角、表面荒れ、レジスト滲みの測定、観察結果を表2に併せて示す。
なお、表1及び2の表面荒れ、およびレジスト滲みの評価において、欠陥が認められないものを○、若干の欠陥が認められたものを△、欠陥があるものを×、欠陥が著しいものを××として評価した。
【0064】
表1に示すように、リン酸、硝酸、有機酸塩、界面活性剤、および水を配合した、実施例1〜6のエッチング液組成物を用いて、アルミニウム膜をエッチングした場合、任意の低テーパー角を得ることができるとともに、表面荒れおよびレジスト滲みの全くない平滑なエッチング面が得られた。
【0065】
なお、表1の実施例1〜6の試料についてのテーパー角はそれぞれ、目標値に近いものであり、エッチング液組成物の組成や、エッチング条件により意図するような低テーパー角を有する金属膜(アルミニウム膜)が得られることがわかった。
【0066】
この結果より、本発明の要件を備えたエッチング液組成物は、アルミニウム膜などの金属膜を制御性よく、かつ、レジスト滲みを生じることなくエッチングして、適切な低テーパー角を有する形状と、優れた平坦性、平滑性を有する金属膜を得ることが可能な優れたエッチング液組成物であることが確認された。
【0067】
一方、表2に示すように、有機酸塩または有機酸を含有しているが、界面活性剤が配合されていない、比較例1〜9のエッチング組成物を用いてエッチングした場合、低テーパー角の形状を実現することが困難であるか(比較例1,6,8)、または表面荒れが生じたり(比較例2,3,4,5,7,9)、顕著なレジスト滲みも認められたりする(比較例5)などの種々の問題点があることが確認された。
【0068】
上記実施例の試料と比較例の試料の比較から、本発明のエッチング液組成物の有意性は明らかであり、本発明のエッチング液組成物を用いることにより、効率よく、精度の高いエッチングを行うことが可能になることがわかる。
【0069】
なお、上記実施例では金属膜がアルミニウム膜である場合を例にとって説明したが、本発明はアルミニウム合金膜をエッチングする場合にも適用することが可能である。
【0070】
本発明は、さらにその他の点においても、上記実施例に限定されるものではなく、有機酸塩の種類、界面活性剤の種類、あるいは各成分の配合割合、温度や時間などのエッチング条件、金属膜の厚みや配設態様などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
上述のように、本発明のエッチング液組成物を使用することにより、金属膜を制御性よく、意図するような低テーパー角を有する形状にエッチングすることが可能になる。
また、エッチング面を表面荒れのない平坦な面にすることが可能になるとともに、レジスト滲みの発生を防止することが可能になる。
したがって、本発明は、低抵抗で低テーパー角の形状を有する配線膜や電極を必要とする多層配線などの技術分野、すなわち、パターンの高密度化と微細化が必要な技術分野に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 基板
1a 基板の表面
2 アルミニウム膜
2a アルミニウム膜の側面
θ テーパー角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の金属膜をエッチングするためのエッチング液組成物であって、
リン酸、硝酸、有機酸塩、および界面活性剤を含有する水溶液であることを特徴とするエッチング液組成物。
【請求項2】
前記有機酸塩が、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族ポリカルボン酸、脂肪族オキシカルボン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、芳香族オキシカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の、アンモニウム塩、アミン塩、第四級アンモニウム塩、アルカリ金属塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1記載のエッチング液組成物。
【請求項3】
前記有機酸塩の濃度が0.1〜20重量%であることを特徴とする、請求項1または2記載のエッチング液組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤が、陰イオン性界面活性剤および/またはフッ素系界面活性剤であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項5】
前記陰イオン性界面活性剤が、ポリスチレンスルホン酸および/またはそれらの塩、または、アルキル硫酸エステルおよび/またはそれらの塩であることを特徴とする、請求項4記載のエッチング液組成物。
【請求項6】
前記フッ素系界面活性剤が、パーフルオロアルケニルフェニルエーテルスルホン酸および/またはそれらの塩であることを特徴とする、請求項4記載のエッチング液組成物。
【請求項7】
前記界面活性剤の濃度が、0.001〜1.0重量%であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のエッチング液組成物。
【請求項8】
前記金属膜がアルミニウムまたはアルミニウム合金であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のエッチング液組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163661(P2010−163661A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7235(P2009−7235)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(501464440)三洋半導体製造株式会社 (49)
【出願人】(596151168)林純薬工業株式会社 (13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【Fターム(参考)】