説明

エピタキシャル層の抵抗率測定方法

【課題】シリコンウェーハ上の高濃度にドープされたエピタキシャル層の抵抗率であっても、従来に比べて正確且つ容易に測定することができるエピタキシャル層の抵抗率の測定方法を提供する。
【解決手段】シリコン単結晶ウェーハ上に形成されたエピタキシャル層の抵抗率を測定する方法であって、少なくとも、エピタキシャル成長装置に、モニターウェーハとしてSOIウェーハを投入し、該SOIウェーハのSOI層上に、前記シリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させるエピタキシャル層の成長条件と同一条件でモニターエピタキシャル層を成長させ、その後、前記モニターエピタキシャル層の膜厚及び抵抗値を測定して前記モニターエピタキシャル層の抵抗率を算出し、該算出された抵抗率を、前記シリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させる前記エピタキシャル層の抵抗率とすることを特徴とするエピタキシャル層の抵抗率測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンエピタキシャル層の抵抗率を測定する方法に関するものであり、特には、高濃度にドーパントがドーピングされた低抵抗率シリコンエピタキシャル層の抵抗率を高精度に測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層の抵抗率の測定方法は、2種類の方法が一般的に知られている。そのうちの一つはC−V法である。
これは、空乏層容量の電圧依存性(C−V特性)からキャリア濃度を求め、抵抗率に換算する方法であり、低抵抗率ウェーハ(pウェーハ又はnウェーハ)の上に同じ導電型で通常抵抗率を有するエピタキシャル層を成長したp/pあるいはn/nエピウェーハの抵抗率測定が可能である(例えば特許文献1等参照)。
【0003】
しかしながらこのC−V法では、エピタキシャル層の抵抗率が低くなる(実質的には0.1Ωcm以下)と、空乏層が広がらなくなり、C−V特性が測定できないという問題がある。すなわち、0.1Ωcm以下の抵抗率測定は、C−V法では困難である。
【0004】
もう一つの方法が四探針法であるが、これは抵抗率の制限は受けないために0.1Ωcm以下の抵抗率の測定にも適用可能である。
図1に示すように、四探針法は、厚さを半無限とみなせる試料の平面上に探針を4本(1,2,3,4)、間隔を取った状態で一直線上に並べ、測定対象に接触させる。そして、外側の両端を電流電極(1,4)とし、電流Iを流し、内側の2本(2,3)を電位差電極として、2,3間の電位差Vを測定するものである。
電極間距離を等間隔Sとすると、抵抗率ρは、
ρ=2πS・V/I (1)
と表すことができる。
【0005】
しかしながら、図2に示すような、エピタキシャル層12とシリコン単結晶ウェーハ11からなるエピタキシャルウェーハのようなウェーハ状試料を測定する場合は、探針間隔に対して試料の大きさが無視できなくなる。
このため、厚み、形状、測定位置による補正が必要となり、厚みを考慮した場合の抵抗率ρ[Ωcm]は、
ρ=2πS・V/I・Ft・Fr (2)
Ft:厚みに関する補正係数
Fr:形状および測定位置に関する補正係数
となり、エピタキシャル層の厚みをtとすると、抵抗率ρは一般的には、
ρ=4.532・V/I・t (3)
となることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−211113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、四探針法で抵抗率を正確に求めるためには、式(3)に示すように抵抗値を測定する箇所のエピタキシャル層の膜厚を正確に求めなければならない。
【0008】
しかし、実際に一般的な膜厚測定器でエピタキシャル層の膜厚測定を行うためには、モニターウェーハとして高濃度のドーパントを含有する低抵抗率ウェーハ(pウェーハ又はnウェーハ)を用い、その表面にノンドープ或いは低濃度ドープのエピタキシャル層を成長させる必要がある。その一方で、四探針法でエピタキシャル層の抵抗値を測定するためには、エピタキシャル層と反対の導電型のモニターウェーハを用いる必要がある。
【0009】
このように、エピタキシャル層の膜厚と抵抗値の測定上の制約から、同一のモニターウェーハ上に測定対象となるエピタキシャル層を形成したエピタキシャルウェーハを用いてエピタキシャル層の膜厚と抵抗値を測定することができないため、通常の場合は、別々の仕様のモニターウェーハを用いて別々のエピタキシャルウェーハを作製し、これらを用いてエピタキシャル層の膜厚と抵抗値の測定が別々に行われている。従って、これらの測定値から算出される抵抗率には当然に不確定要素が含まれることになり、真に正確な測定が行われているとは言えなかった。
【0010】
さらに、モニターウェーハとして仕様の異なる2枚のシリコン単結晶ウェーハを用意し、それぞれに対し別々のドーパント濃度でのエピタキシャル成長を行わなければならず、モニターウェーハ作製及びエピタキシャル成長に時間とコストがかかってしまうという欠点があった。
【0011】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、シリコンウェーハ上の高濃度にドーパントがドープされたエピタキシャル層の抵抗率を、従来に比べて正確且つ容易に測定することができるエピタキシャル層の抵抗率の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明では、シリコン単結晶ウェーハ上に形成されたエピタキシャル層の抵抗率を測定する方法であって、少なくとも、エピタキシャル成長装置に、モニターウェーハとしてSOIウェーハを投入し、該SOIウェーハのSOI層上に、前記シリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させるエピタキシャル層の成長条件と同一条件でモニターエピタキシャル層を成長させ、その後、前記モニターエピタキシャル層の膜厚及び抵抗値を測定して前記モニターエピタキシャル層の抵抗率を算出し、該算出された抵抗率を、前記シリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させる前記エピタキシャル層の抵抗率とすることを特徴とするエピタキシャル層の抵抗率測定方法を提供する。
【0013】
このように、モニター用のSOIウェーハのSOI層上に実際のエピタキシャル層の成長条件と同一条件でモニターエピタキシャル層を形成する。SOI層+モニターエピタキシャル層のトータル膜厚は、例えば反射分光法、分光エリプソメトリ、FT−IRのような方法によって容易に評価することができる。またSOI層の厚さは大抵の場合予め既知であるため、これらの値からモニターエピタキシャル層の厚さも容易且つ高精度に評価できる。従って、モニターエピタキシャル層の抵抗値を測定すれば、既知の膜厚から抵抗率を高精度に算出することができ、よって従来に比べて正確且つ容易にモニターエピタキシャル層、すなわち実際のエピタキシャル層の抵抗率を評価することができる。
また、同一のモニターウェーハで膜厚及び抵抗値を測定できるため、モニターウェーハが1枚で済むため、モニターウェーハの作製にかかる時間とコストは従来に比べて大幅に削減できる。
【0014】
ここで、前記膜厚は反射分光法で測定し、前記抵抗値は四探針法で測定することが好ましい。
このように、膜厚を反射分光法で測定することによって、容易且つ高い精度でモニターエピタキシャル層の膜厚を評価することができる。そして反射分光法によって膜厚を正確に測定できているので、四探針法で抵抗値を測定することによって、先に求めた正確なモニターエピタキシャル層の膜厚からモニターエピタキシャル層の抵抗率を正確に算出することができる。
また、膜厚と抵抗値を1枚のモニターウェーハで測定することができるため、従来の抵抗率測定における別個のモニターウェーハによる抵抗率評価では不可避な不確定要因を排除することができ、正確な抵抗率測定を行うことができる。同時に、モニターウェーハの作製も1枚で済み、抵抗率測定用のエピタキシャル成長も1回で済むため、時間とコストの削減が可能となる。すなわち、シリコン単結晶ウェーハ上に成長させたエピタキシャル層の抵抗率を従来に比べてより簡易且つ高精度に評価することができる。
【0015】
また、前記反射分光法では、可視光領域の波長の光を用いることが好ましい。
このように、可視光領域の波長の光は、高濃度にドーパントがドープされた低抵抗率のモニターエピタキシャル層であっても透過するため、可視光領域の波長の光を用いることによって、簡易且つ高精度でモニターエピタキシャル層の膜厚を評価することができ、算出する抵抗率の精度もより向上させることができる。
【0016】
そして、前記膜厚は、前記モニターエピタキシャル層を成長させた後に前記可視光領域の波長の光を用いた反射分光法によって測定された前記SOI層と前記モニターエピタキシャル層の厚さから、前記モニターエピタキシャル層を成長させる前に前記可視光領域の波長の光を用いた反射分光法によって測定した前記SOI層の厚さを減ずることによって測定することが好ましい。
これによって、より高精度にモニターエピタキシャル層の膜厚を測定することができ、エピタキシャル層の抵抗率をより高精度に測定することができる。
【0017】
更に、前記モニターエピタキシャル層の面内の同一箇所に対して、前記反射分光法による前記膜厚の測定と前記四探針法による前記抵抗値の測定を行うことが好ましい。
このように、モニターエピタキシャル層の同一箇所の膜厚と抵抗値を測定することによって、正確に膜厚が測定された箇所の抵抗値を測定することになり、更に高精度に抵抗率を測定・評価することができる。
【0018】
また、前記SOIウェーハは、ベースウェーハとしてのシリコン単結晶ウェーハ上にシリコン酸化膜、前記SOI層が積層された構造であり、該SOI層の抵抗率は、前記エピタキシャル層の抵抗率より高抵抗率であることが好ましい。
近年求められているエピタキシャルウェーハには、通常抵抗率若しくは高抵抗率のシリコン単結晶ウェーハの表面上に低抵抗率のエピタキシャル層が形成されたものがある。従って、モニター用のSOIウェーハとして、ベースウェーハとしてのシリコン単結晶ウェーハ上に、シリコン酸化膜、エピタキシャル層(モニターエピタキシャル層)よりも抵抗率の高いSOI層が積層された構造のSOIウェーハを用いることによって、モニターウェーハがより実際に即した構造となり、より実際に即した高精度なエピタキシャル層の抵抗率の測定を行うことができる。
【0019】
そして、前記エピタキシャル層の抵抗率を、0.01Ωcm以下であることとすることが好ましい。
本発明のエピタキシャル層の抵抗率評価方法は、C−V法では測定が困難であった0.1Ωcm以下の低抵抗率でも正確に測定できることはもちろん、ドーパントがさらに高濃度にドープされ抵抗率が0.01Ωcm以下と極めて低抵抗率なエピタキシャル層であっても膜厚及び抵抗値を従来に比べて正確に測定できるものであるから、近年要求されている0.01Ωcm以下のような低抵抗率のエピタキシャルウェーハであっても、抵抗率を正確に評価することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明のように、モニターウェーハとしてSOIウェーハを用い、そのSOI層上にモニターエピタキシャル層の成長を行い、またモニターエピタキシャル層の膜厚測定を反射分光法で行い、同ウェーハに対して四探針法で抵抗値測定を行うことによって、従来に比べて大幅に高い精度で、かつ容易にエピタキシャル層の抵抗率を算出することができ、また例え0.01Ωcm以下の低抵抗率なエピタキシャル層であってもその抵抗率を高精度に評価することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】厚さを無視できるバルク試料での四探針法による抵抗率測定方法の概略を示した図である。
【図2】厚さを無視できないエピタキシャルウェーハでの四探針法による抵抗率測定方法の概略を示した図である。
【図3】一般的な反射分光法によるSOIウェーハの膜厚測定方法の測定原理を説明する図である。
【図4】実施例における反射分光法で測定したモニターウェーハ(モニターエピタキシャル層+SOIウェーハ)のモニターエピタキシャル層の膜厚面内分布の測定結果の一例を示した図である。
【図5】PHガスの流量を変化させた時のモニターエピタキシャル層の抵抗率と膜厚の関係を示した図である。
【図6】実施例、比較例における反射分光法及び四探針法での膜厚及び抵抗値の測定を行うモニターウェーハの面内の位置関係を示した図である。
【図7】実施例、比較例におけるPHガスの流量と、実施例、比較例における抵抗率の算出値から計算したP濃度算出値やSIMSによる実測値との関係を示した図である。
【図8】実施例における抵抗率の算出値から計算したP濃度算出値とSIMSによるP濃度実測値との相関関係を示した図である。
【図9】比較例におけるエピタキシャル層の膜厚及び抵抗値の測定方法の概略を示した図である。(a)は膜厚、(b)は抵抗値の測定方法の概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について図を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、エピタキシャル成長装置に、モニターウェーハとしてSOIウェーハを投入する。
このエピタキシャル成長装置は、バッチ式でも枚葉式でもかまわず、その様式は特に限定されない。
【0023】
モニターウェーハとしてSOIウェーハを用い、この後の工程でSOI層上に実際のエピタキシャル層の成長条件と同一条件でモニターエピタキシャル層を形成する。
ここで、SOI層+モニターエピタキシャル層の膜厚は、例えば反射分光法、分光エリプソメトリ、FT−IR等の方法で容易に評価することができる。またSOI層の厚さは予め既知であることが多いので、モニターエピタキシャル層の厚さを容易に且つ高精度に評価できる。従って、モニターエピタキシャル層の抵抗値を測定することによって、先に測定した膜厚から正確な抵抗率を算出することができ、従来より正確且つ容易なモニターエピタキシャル層、すなわち実際のエピタキシャル層の抵抗率の評価が可能となる。
また、測定方法によっては同一のモニターウェーハで膜厚及び抵抗値を測定できるため、モニターウェーハが1枚で足りる。従って、モニターウェーハの作製に要する時間とコストは従来に比べて大幅に削減され、安価かつ正確にエピタキシャル層の抵抗率を評価できる。
【0024】
またこのモニター用のSOIウェーハの物性については特に限定されないが、ベースウェーハとしてのシリコン単結晶ウェーハ上にシリコン酸化膜(埋め込み酸化膜(BOX層))、SOI層が積層された構造であり、かつSOI層の抵抗率は、抵抗率を測定したいエピタキシャル層(同一条件で形成するモニターエピタキシャル層)の抵抗率より高抵抗率なものとすることができる。
【0025】
通常抵抗率若しくは高抵抗率のシリコン単結晶ウェーハの表面上に低抵抗率のエピタキシャル層が形成された構造のエピタキシャルウェーハが求められることがあるが、従来はこのような構造のエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層の抵抗率を高精度且つ簡易に評価することができなかった。しかし後述するように、本発明によれば通常若しくは高抵抗率のシリコン単結晶ウェーハ上の低抵抗率のエピタキシャル層の抵抗率を従来より高い精度で簡易に評価することができる。このため、SOI層の抵抗率が抵抗率を測定したいエピタキシャル層より高抵抗率なSOIウェーハを用いると、通常抵抗率若しくは高抵抗率のシリコン単結晶ウェーハの表面上に低抵抗率のエピタキシャル層が形成された構造のエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層の抵抗率を間接的ではあるが高精度且つ容易に測定することができ、より実際に即した構造のエピタキシャルウェーハの評価を行うことになる。
【0026】
そして、SOIウェーハのSOI層上に、シリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させるエピタキシャル層の成長条件と同一条件でモニターエピタキシャル層を成長させる。
このときのエピタキシャル層(モニターエピタキシャル層)の物性は特に限定されないが、抵抗率は0.01Ωcm以下とすることができる。
後述するように、本発明のエピタキシャル層の抵抗率評価方法は、抵抗率が0.01Ωcm以下と高濃度ドープエピタキシャル層であっても、膜厚及び抵抗値、特に膜厚を従来に比べて正確に測定することができるものである。従って、近年要求されるような0.01Ωcm以下と極めて低抵抗率のエピタキシャル層を有するエピタキシャルウェーハであっても、そのエピタキシャル層の抵抗率を従来に比べてより正確に評価することができる測定方法となっている。
【0027】
そして、モニターエピタキシャル層の膜厚及び抵抗値を測定してモニターエピタキシャル層の抵抗率を算出する。
【0028】
ここで、膜厚は反射分光法で測定し、抵抗値は四探針法で測定することができる。
反射分光法で膜厚を測定することによって、容易且つ簡易にモニターエピタキシャル層の膜厚を従来に比べてより正確に評価することができる。そして四探針法で抵抗値を正確に測定し、先に反射分光法によって測定した正確なモニターエピタキシャル層の膜厚を利用することによって、モニターエピタキシャル層の抵抗率を従来に比べて簡易且つ正確に算出することができる。すなわち、膜厚と抵抗値が1枚のモニターウェーハで測定できるため、従来のように別々のエピタキシャルウェーハによる抵抗率評価では避けることができなかった不確定要因を排除することができ、正確な抵抗率測定を行うことができる。
そして、モニターウェーハも1枚で間に合うため、抵抗率測定用のエピタキシャル成長が1回で足りるので、ウェーハ作製のための時間とコストを削減することができ、より好都合である。
【0029】
図3は、一般的な反射分光法を用いたSOIウェーハのSi(SOI)層およびSiO層の膜厚を測定する原理について説明したものである。
SOI層14の表面側から入射させた入射光の強度Iと、SOI層14表面・SOI層14とSiO層13との境界・SiO層13とベースウェーハ(シリコン単結晶ウェーハ)11aとの境界で反射した反射光の強度Rの比(R/I)は、式(4)のように、SOI層・SiO層の膜厚、SOI層・SiO層・シリコン単結晶ウェーハの屈折率、吸収係数および測定波長λの関数として表される。
(R/I)=f(t,t,n,n,n,k,k,k,λ) (4)
,n,k:SOI層の膜厚,屈折率,吸収係数
,n,k:SiO層の膜厚,屈折率,吸収係数
,k:Siウェーハの屈折率,吸収係数
【0030】
この関係を用いて、SOI層14、SiO層13の膜厚tおよびtは、波長λを変化させながら(R/I)を計測し、既知数であるn、n、n、k、k、kを用いることで求めることができる。
【0031】
また、反射分光法では、可視光領域の波長の光を用いることができる。
例えば、モニターエピタキシャル層(エピタキシャル層)を、高濃度にドーパントがドープされた低抵抗率のものとしても、可視光領域の波長の光はこのような低抵抗率モニターエピタキシャル層を透過できる。このため、たとえ低抵抗率のエピタキシャル層の評価であったとしても、可視光領域の波長の光を用いれば、容易にモニターエピタキシャル層の膜厚を高精度に評価することができ、算出する抵抗率の精度もより向上することになる。
【0032】
そして、モニターエピタキシャル層の面内の同一箇所に対して、反射分光法による膜厚の測定と四探針法による抵抗値の測定を行うことができる。
モニターエピタキシャル層の同一箇所に対して、反射分光法による膜厚の測定と四探針法による抵抗値の測定を行うことによって、正確に膜厚が測定された箇所の抵抗値を正確に測定することができるため、更に高精度に抵抗率の測定を行うことができる。
【0033】
更に、予めモニターエピタキシャル層を成長させる前に可視光領域の波長の光を用いた反射分光法によってSOI層の厚さを測定しておき、更にモニターエピタキシャル層を成長させた後に可視光領域の波長の光を用いた反射分光法によってSOI層とモニターエピタキシャル層の厚さを測定する。そしてこのSOI層とモニターエピタキシャル層の厚さからSOI層の厚さを減ずることによって、モニターエピタキシャル層の膜厚を測定するものとすることができる。
【0034】
反射分光法では、本発明のようなベースウェーハ+SiO層+SOI層+モニターエピタキシャル層との構造のSOIウェーハのシリコン酸化膜より表面側の厚さを評価しても、モニターエピタキシャル層とSOI層の厚さを区別して測定することは容易ではない。
そこで、まず予めSOI層のみの厚さを反射分光法で測定しておく。そしてモニターエピタキシャル層の厚さの測定を行った後に、測定値から先に測定しておいたSOI層の厚さを減算することによって、従来より更に高精度にモニターエピタキシャル層の膜厚を測定することができる。すなわち、エピタキシャル層の抵抗率をより高精度に測定することができるようになる。
【0035】
このようにして算出されたモニターエピタキシャル層の抵抗率は、同一条件で成長させるシリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させるエピタキシャル層の抵抗率とほとんど同一視できるものであるので、このモニターエピタキシャル層の抵抗率を実際のエピタキシャル層の抵抗率とみなすことができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
直径300mm、導電型p型、10Ωcmのシリコン単結晶ウェーハをベースウェーハとし、膜厚145nmのBOX層、導電型p型、10Ωcm、膜厚88nmのSOI層からなるSOIウェーハをモニターウェーハとして複数枚準備した。そして、エピタキシャル成長装置に1枚毎に別個に投入した。
【0037】
そして、ドーパントガスの流量を変化させて、抵抗率が0.1Ωcm以下で膜厚が約3.5μmのn型エピタキシャル層をモニターエピタキシャル層として以下に示す条件で成長させた。
圧力を常圧(760torr(1×10Pa))、温度1080℃、Hガス流量を50slm、シリコン原料ガスとしてジクロロシランを450sccm、ドーパントガスとしてホスフィン(PH)の流量を10〜950sccmの範囲で変化させた。
【0038】
このように作製したモニターSOIウェーハのモニターエピタキシャル層とSOI層のトータル膜厚を、反射分光法を用いたADE社製AcuMap(波長:0.45〜0.9μm)を用いて評価した。その結果の一例を図4に示す。
図4に示すように、モニターSOIウェーハのモニターエピタキシャル層とSOI層のトータル膜厚は正確に測定できることが判った。
【0039】
そしてPH流量のみを変化させたことによって抵抗率を変えたモニターエピタキシャル層の膜厚とPHガス流量との関係を評価した。その結果を図5に示す。
図5に示すように、反射分光法によって測定されるモニターエピタキシャル層の膜厚は、モニターエピタキシャル層の抵抗率が変化しても一定の値を示していることが判った。従って、可視光領域の光を用いた反射分光法であればエピタキシャル層の抵抗率にかかわらず正確に膜厚を評価でき、0.1Ωcm以下の低抵抗率の測定はもちろん、少なくとも0.003Ωcmの極めて低抵抗率のエピタキシャル層までは膜厚測定が可能であることが確認できた。
【0040】
このように作製した抵抗率の異なるn型モニターエピタキシャル層が形成されたモニターウェーハの中から3種類(サンプル1(PHガス流量200sccm)、サンプル2(PHガス流量400sccm)、サンプル3(PHガス流量950sccm))を選択した。
そして、図6に示したウェーハ面内9点に対して、AcuMapによる膜厚測定および四探針法による抵抗値測定を行い、抵抗率を算出した。そのモニターウェーハ上に成長させたモニターエピタキシャル層の膜厚・抵抗値・抵抗率の測定結果を表1に示す。
尚、表1中のモニターエピタキシャル層の膜厚は、AcuMapによって測定したトータル膜厚(モニターエピタキシャル層+SOI層)から、予め測定してあったSOI層の膜厚を減じた値を示している。
【0041】
【表1】

【0042】
表1に示すように、PH流量の増加とともにエピタキシャル層の抵抗率が低くなっており、Pが高濃度にドーピングされたことが示されている。
【0043】
そして、この抵抗率の測定方法によって算出した抵抗率の確からしさを確認するために、先に四探針測定を行った箇所のSIMS分析(P濃度のデプスプロファイル測定)を行った。その結果を図7に示す。図7は、PH流量に対する実施例における抵抗率から算出したP濃度やSIMS分析によるP濃度実測値をプロットしたグラフである。
実施例の測定方法によるP濃度算出値も、SIMSによる実測値も、PHドープ流量が増加するに従ってP濃度が増加する傾向が見られた。尚、SIMSによるP濃度よりも実施例の測定方法から算出したP濃度の方が若干低い値となっているのは、ドーパントの活性化の影響が含まれているためと考えられる。
【0044】
また、図8は先に求めたP濃度とSIMS分析によるP濃度実測値との相関を示したものであり、ほぼ同じ値を示すこと、良好な相関関係があることが判った。
以上の結果をまとめると、実施例によるエピタキシャル層の抵抗率測定方法は、低抵抗率のエピタキシャル層の抵抗率であっても正確に測定できる手法であるとことが判った。
【0045】
(比較例)
実施例と比較するため、図9に示すような直径300mmのシリコン単結晶ウェーハからなる2種類のモニターウェーハ(膜厚測定用のp型シリコン単結晶ウェーハ21aと抵抗率測定用のp型シリコン単結晶ウェーハ21b)を3組用意し、抵抗率測定用モニターウェーハ23bとして実施例と同一条件で3種類のn型のモニターエピタキシャル層22b(nエピタキシャル層)を形成(サンプル1’(PHガス流量200sccm)、サンプル2’(PHガス流量400sccm)、サンプル3’(PHガス流量950sccm))し、膜厚測定用モニターウェーハ23aとしてPHをドープせずにノンドープエピタキシャル層22aを形成した以外は実施例と同一条件でエピタキシャル層を形成した。
【0046】
そして、抵抗率測定用モニターウェーハ23bに対しては四探針法で抵抗値を測定し、膜厚測定用モニターウェーハ23aに対してはFTIR赤外干渉法で膜厚を測定し、これらの値から抵抗率を求め、表2に記載した。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、比較例の3種類のモニターウェーハのモニターエピタキシャル層も、PH流量の増加とともにエピタキシャル層の抵抗率が低くなっており、Pが高濃度にドーピングされたことが示されている。
【0049】
そして図7に、比較例の抵抗率測定方法で測定した抵抗率から算出したP濃度を示す。
図7に示すように、実施例の測定方法に比べると、比較例の測定方法の方がSIMSによる測定値から乖離した値となっていることが判った。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
11…シリコン単結晶ウェーハ、
11a…ベースウェーハ(シリコン単結晶ウェーハ)、
12…エピタキシャル層、
13…シリコン酸化膜(SiO層)、
14…SOI層、
21a…p型シリコン単結晶ウェーハ、 21b…p型シリコン単結晶ウェーハ、
22a…ノンドープエピタキシャル層、 22b…n型エピタキシャル層、
23a…膜厚測定用モニターウェーハ、 23b…抵抗率測定用モニターウェーハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶ウェーハ上に形成されたエピタキシャル層の抵抗率を測定する方法であって、少なくとも、
エピタキシャル成長装置に、モニターウェーハとしてSOIウェーハを投入し、
該SOIウェーハのSOI層上に、前記シリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させるエピタキシャル層の成長条件と同一条件でモニターエピタキシャル層を成長させ、
その後、前記モニターエピタキシャル層の膜厚及び抵抗値を測定して前記モニターエピタキシャル層の抵抗率を算出し、
該算出された抵抗率を、前記シリコン単結晶ウェーハの主表面に成長させる前記エピタキシャル層の抵抗率とすることを特徴とするエピタキシャル層の抵抗率測定方法。
【請求項2】
前記膜厚は反射分光法で測定し、前記抵抗値は四探針法で測定することを特徴とする請求項1に記載のエピタキシャル層の抵抗率測定方法。
【請求項3】
前記反射分光法では、可視光領域の波長の光を用いることを特徴とする請求項2に記載のエピタキシャル層の抵抗率測定方法。
【請求項4】
前記膜厚は、前記モニターエピタキシャル層を成長させた後に前記可視光領域の波長の光を用いた反射分光法によって測定された前記SOI層と前記モニターエピタキシャル層の厚さから、前記モニターエピタキシャル層を成長させる前に前記可視光領域の波長の光を用いた反射分光法によって測定した前記SOI層の厚さを減ずることによって測定することを特徴とする請求項3に記載のエピタキシャル層の抵抗率測定方法。
【請求項5】
前記モニターエピタキシャル層の面内の同一箇所に対して、前記反射分光法による前記膜厚の測定と前記四探針法による前記抵抗値の測定を行うことを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載のエピタキシャル層の抵抗率測定方法。
【請求項6】
前記SOIウェーハは、ベースウェーハとしてのシリコン単結晶ウェーハ上にシリコン酸化膜、前記SOI層が積層された構造であり、該SOI層の抵抗率は、前記エピタキシャル層の抵抗率より高抵抗率であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のエピタキシャル層の抵抗率測定方法。
【請求項7】
前記エピタキシャル層の抵抗率が、0.01Ωcm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のエピタキシャル層の抵抗率測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−138899(P2011−138899A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297599(P2009−297599)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】