説明

エポキシ樹脂成形体、エポキシ樹脂成形体の表面改質方法、及びそれを用いた導電性膜の形成方法

【課題】エポキシ樹脂成形体の表面を粗らすことなく、簡便な方法でエポキシ樹脂表面が改質された、エポキシ樹脂成形体、及びその表面改質方法、並びに、その表面改質方法により表面改質されたエポキシ樹脂成形体上に導電性膜を容易に形成することができる導電性膜の形成方法を提する。
【解決手段】エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が硬化したエポキシ樹脂成形体であって、該エポキシ樹脂成形体の全体の厚みに対して、表面から30%以内の厚みの領域に、
エポキシ樹脂成形体の表面のアクリル樹脂組成分の質量分析による強度を100とした場合、該領域のアクリル樹脂組成分の強度が80以上であることを特徴とするエポキシ樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂を主成分とする成形体の表面改質方法及びそれを用いた導電性膜の形成方法に関し、特に、プリント配線基板に有用な導電性膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板用の絶縁基板として、エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂基板が最も一般的に用いられており、エポキシ樹脂基板の表面上に所定のパターンで導体を形成することによって回路が形成される。
エポキシ樹脂基板上に導体(導電性膜)を形成する方法として、エポキシ樹脂基板の表面をデスミア液で化学的に処理(デスミア処理)して凹凸を形成(粗面化)する方法や、エポキシ樹脂基板の表面を親水化した後、めっき触媒を吸着させて無電解めっきを行う方法が知られている。親水化の方法としては、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、光触媒による処理などが知られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
しかしながらデスミア処理では基板表面が粗れるため、高周波特性が悪化するという問題点がある。また、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理ではデスミア処理ほどではないが基板表面がダメージを受けてやや粗れるという問題点のほか、それぞれ特有の表面処理を行う装置を必要とするためコストが高くなるという問題点がある。更に、光触媒による処理は、具体的には、二酸化チタンの水分散液に基板を浸漬させた後、UV光を長時間照射して光触媒の酸化力を利用して親水化する方法であるが、例えばプリント配線基板の作製にとって実用的な方法とは言い難い。
【0004】
一方、エポキシ樹脂基板の表面に重合性基を有するポリマーを塗布した後、紫外線を照射して基板表面にグラフトポリマーを生成させ、表面のグラフトポリマーに導電性素材を付与する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、エポキシ樹脂基板とグラフトポリマーとの密着性が十分とは言えず、また、ポリマーの塗布と紫外線照射が必要であるため、コストが高くなってしまうおそれがある。
【0005】
【非特許文献1】日本接着学会第44回年次大会 講演要旨集 p181−184
【特許文献1】特開2006−57059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにエポキシ樹脂基板の表面を改質する方法は種々提案されているが、エポキシ樹脂基板の表面を粗らすことなく、簡便な方法でエポキシ樹脂基板の表面を改質することができる方法が望ましい。
【0007】
本発明は、上記従来の技術的問題点を考慮してなされたものであり、エポキシ樹脂成形体の表面を粗らすことなく、簡便な方法でエポキシ樹脂表面が改質された、エポキシ樹脂成形体、及びその表面改質方法を提供することを目的とする。また本発明の他の目的は、前記本発明のエポキシ樹脂成形体の表面改質方法により表面改質されたエポキシ樹脂成形体上に導電性膜を容易に形成することができる導電性膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では以下の方法が提供される。
【0009】
<1> エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が硬化したエポキシ樹脂成形体であって、該エポキシ樹脂成形体の全体の厚みに対して、表面から30%以内の厚みの領域に、
エポキシ樹脂成形体の表面のアクリル樹脂組成分の質量分析による強度を100とした場合、該領域のアクリル樹脂組成分の強度が80以上であることを特徴とするエポキシ樹脂成形体。
【0010】
<2> 前記エポキシ樹脂成形体の全体の厚みに対する、表面からの厚みが20%以内であることを特徴とする<1>に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0011】
<3> 前記エポキシ樹脂成形体の全体の厚みに対する、表面からの厚みが10%以内であることを特徴とする<1>又は<2>に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0012】
<4> 前記質量分析が、SIMS(2次イオン質量分析)であることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0013】
<5> 前記アクリル樹脂のSP値が20 〜29の範囲にあることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0014】
<6> 前記アクリル樹脂のSP値が23 〜28の範囲にあることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0015】
<7> 前記アクリル樹脂の含有量が、全固形分中の濃度として、1〜10質量%であることを特徴とする<1>〜<6>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0016】
<8> 前記アクリル樹脂が、分子内にめっき触媒を吸着し得る官能基を有することを特徴とする<1>〜<7>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0017】
<9> 前記めっき触媒を吸着し得る官能基が、シアノ基、アミノ基、又は含窒素複素環基であることを特徴とする<8>に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0018】
<10> 前記エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が、さらに硬化剤を含むことを特徴とする<1>〜<9>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0019】
<11> 前記硬化剤が、分子内にアミノ基及び水酸基の少なくとも1種を含むことを特徴とする<10>に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0020】
<12> 前記エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が、更にフェノキシ樹脂を含むことを特徴とする<1>〜<11>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0021】
<13> 前記エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が、さらに硬化促進剤を添加することを特徴とする、<1>〜<12>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【0022】
<14> エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂と反応する硬化剤、溶剤、及びSP値が20〜29の範囲にあり、且つ、全固形分中の濃度として、1〜10質量%のアクリル樹脂を含む混合物を成形し、加熱硬化させる工程を含むことを特徴とするエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【0023】
<15> 前記アクリル樹脂のSP値が23 〜28の範囲にあることを特徴とする<14>に記載のエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【0024】
<16> 前記溶剤が、ケトン系溶剤を含むことを特徴とする<14>に記載のエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【0025】
<17> 前記ケトン系溶剤として、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンの少なくとも1種を用いることを特徴とする<16>に記載のエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【0026】
<18> <1>〜<13>のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体の表面に、無電解めっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、前記無電解めっき触媒又はその前駆体を付与したエポキシ樹脂混合物に無電解めっきを行って導電性膜を形成する工程とを含むことを特徴とする導電性膜の形成方法。
【0027】
<19> 前記無電解めっき触媒をパラジウムとすることを特徴とする<18>に記載の導電性膜の形成方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、エポキシ樹脂を主成分とする混合物中にアクリル樹脂を添加したエポキシ樹脂混合物を成形し、加熱硬化してエポキシ樹脂成形体を形成することで、エポキシ樹脂成形体の表面をアクリル樹脂により効率良く改質された、エポキシ樹脂成形体を提供することができる。このような方法によれば、エポキシ樹脂成形体の表面を粗らすことなく、簡便な方法でエポキシ樹脂成形体の表面改質を行うことができる。また、アクリル樹脂の選択により、その表面改質されたエポキシ樹脂成形体上に導電性膜を容易に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明に係るエポキシ樹脂成形体の表面改質方法は、エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂と反応する硬化剤、アクリル樹脂、及び溶剤を含むエポキシ樹脂混合物を成形し、加熱硬化させて、該アクリル樹脂が表面に偏析したエポキシ樹脂成形体を形成する工程を含むことを特徴とする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、エポキシ樹脂基板の表面改質に関して、加熱硬化により形成したエポキシ樹脂基板を、デスミア処理、UVオゾン処理、コロナ処理、プラズマ処理、光触媒処理などにより化学的又は物理的に処理するのではなく、エポキシ樹脂基板を形成する際に、少量のアクリル樹脂を添加したエポキシ樹脂混合物を成形して加熱硬化させた成形体とすることで、エポキシ樹脂本来の物性をほとんど損なわず、表面をアクリル樹脂によって効率良く改質できることを見出した。特に、めっき触媒を吸着し得る官能基を有するアクリル樹脂を用いることで、めっき触媒吸着性が良好な表面を形成することができ、めっき触媒付与後、無電解めっきを行うことで導電性膜を確実に形成することができることを見出した。
【0030】
<エポキシ樹脂>
本発明で使用するエポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であり、好ましくは1分子中にエポキシ基を2〜50個、より好ましくは2〜20個有するエポキシ化合物である。エポキシ基は、オキシラン環構造を有する構造であればよく、例えば、グリシジル基、オキシエチレン基、エポキシシクロヘキシル基等を挙げることができる。このような多価エポキシ化合物は、例えば、新保正樹編「エポキシ樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社刊(昭和62年)等に広く開示されており、これらを用いることが可能である。
【0031】
具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、3官能型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールA含核ポリオール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリオキザール型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂などを挙げることができる。これらは、単独で用いても良く、2種以上併用してもよい。多官能エポキシ、エポキシ当量の低いエポキシ、ナフタレン型エポキシ、ジシクロペンタジエン型エポキシなどの使用により、耐熱性等に優れたエポキシ樹脂となる。
【0032】
エポキシ樹脂の全固形分中の濃度としては、樹脂混合物中に含まれる全固形分中、エポキシ樹脂が20質量%以上であることが好ましく、30〜80質量%がより好ましく、 40〜60%質量%が特に好ましい。
【0033】
<質量分析>
本発明のエポキシ樹脂成形体は、アクリル樹脂の分布がエポキシ樹脂成形体中に不均一であり、表層(外周)部に集中して偏在している。これを本発明においては「偏析」と称する。エポキシ樹脂成形体中のアクリル樹脂の偏析状態は、種々の解析方法を使用し、解析することができる。また、本発明において、種々の基板上にエポキシ樹脂成形体を作成した場合は、表面及び表層部は、基板と反対側の空気との界面のことを言い、基板上に作成しない場合は、エポキシ樹脂成形体の外周部の空気との界面のことを言う。
本発明におけるエポキシ樹脂成形体の偏析状態の解析方法としては、二次イオン質量分析法を好適に使用することができる。本発明のエポキシ樹脂成形体の偏析状態の解析により好ましく使用できる方法として、TOF−SIMS(飛行時間型2次イオン質量分析法)を挙げることができる。TOF-SIMSとは数100〜数万eVのエネルギーをもったイオンビームを、 試料表面(固体)に照射すると、 エネルギーを受けとった試料内の原子の一部が粒子として飛び出す。 飛び出す粒子の大半は電気的に中性であるが、 一部は帯電して(電価をもった)イオンになり(二次イオンと称する)、質量/電価の比に応じて、分離することができる。こうして分離されたイオンを数えることによって、 試料の化学組成や同位体組成を解析する方法である。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂成形体の偏析状態は、上記の質量分析法により得られたスペクトルの縦軸(検出強度)により求めることができる。例えば、本発明のエポキシ樹脂成形体を斜め切断し、TOF-SIMS(PHI−TRIFTII)を用いて分布を測定すると、アクリル樹脂が偏析した領域において、アクリル樹脂の含有量に応じてスペクトルのカーブを得ることができる。そのカーブによって、アクリル樹脂がエポキシ樹脂成形体の表面付近に偏析していることがわかる。本発明においては、アクリル樹脂が偏析した、エポキシ樹脂成形体の最表面の強度を100とした場合、相対値として、アクリル樹脂の含有量が80以上の部分が、エポキシ樹脂成形体の全体の厚さに対して、表面から30%以内の厚みの領域にあり、表面からの厚みの領域が20%以下であることが好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂成形体の偏析状態を解析する方法としては、偏析している状態を解析することができれば上記手法に限らず、例えば、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)やX線光電子分光装置(XPS)、極低加速電圧走査電子顕微鏡、オージェ電子分光分析、グロー放電発光分光分析、ラマン散乱分光分析などを使用できる。
また、本発明においては、例えばTOF-SIMSの測定条件として、一次イオンAu+、加速電圧:22kV、一次イオン電流:2nA、中和銃on、スペクトル測定(positive/negative)、バンチングあり、測定面積:80μm□、測定時間3minによって、偏析状態を解析することができるが、この条件に限定されず、偏析状態を確認できる範囲で、所望の条件で測定することが可能である。
さらに、本発明においては、1回の測定において、表面の領域に対して一部でも、アクリル樹脂の含有量(相対値)が80以上の部分が存在すればよく、好ましくは、アクリル樹脂の含有量(相対値)が80以上の部分が、表面の領域に対して半分以上占めていることが好ましい。
【0036】
<硬化剤>
エポキシ樹脂と反応する硬化剤としては、1分子中に2個以上のエポキシ基と反応する官能基を有する化合物(本発明では硬化剤と称する。)を用いる。このような硬化剤における官能基としては、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、チオール基などの官能基が挙げられる。
硬化剤の具体例としては、テレフタル酸などの多官能カルボン酸化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、レゾルシノール誘導体、カテコール誘導体等の二官能フェノール化合物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂、アミノ樹脂、1,3,5―トリアミノトリアジン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンなどの多官能アミノ化合物を挙げることができる。中でも、エポキシ基と反応する官能基として、水酸基及びアミノ基の少なくともいずれか一方を有する化合物を硬化剤として用いることが好ましい。
【0037】
硬化剤の添加量としては、上記エポキシ樹脂中のエポキシ基に対して、硬化剤の官能基の割合(硬化剤の固形分量(g)/硬化剤当量)÷(エポキシ樹脂の固形分量(g)/エポキシ当量)が0.1〜5.0であることが好ましく、0.3〜2.0であることがより好ましい。上記定義式において、当量とは、1分子あたりの官能基の数のことを示し、硬化剤としてはエポキシ基と反応する官能基の数、エポキシ樹脂としてはエポキシ基の数のことを示す。
【0038】
<アクリル樹脂>
アクリル樹脂は、エポキシ樹脂成形体の表面に機能を付与して表面の物性をリフォームする(表面改質する)ために添加するものであり、アクリル樹脂に含まれる機能性基の機能がエポキシ樹脂成形体の表面特性に反映されることになる。アクリル樹脂に含まれる機能性基としては、親水性基、疎水性基、感光性基など種々の官能基を使用することができる。また、めっき触媒吸着性基を有するアクリル樹脂を用いることで、エポキシ樹脂成形体の表面にめっき形成を行って導電化することが可能となる。めっき触媒を吸着し得る官能基として、シアノ基、アミノ基、及び含窒素複素環基のうちの少なくともいずれか1つを有することが好ましい。
【0039】
アクリル樹脂に含まれる機能性基及び機能性基以外の官能基は、エポキシ樹脂と反応しない基であることが好ましい。アクリル樹脂がエポキシ樹脂と反応する官能基を有していると、加熱硬化時にエポキシ樹脂と反応を起こし、アクリル樹脂がエポキシ樹脂内に均一に近い分布で存在することとなり、表面改質が効率良く行われなくなるおそれがある。
アクリル樹脂中に含まれる機能性基以外の官能基としては、エポキシ樹脂と反応しない官能基であれば、有機溶剤への溶解性付与の点などから種々の官能基を選択することができる。なお、表面偏析後、エポキシ樹脂成形体の表面にアクリル樹脂を固定化するという点からアクリロイル基、メタクロイル基等の感光性基を含むことが好ましい。
【0040】
また、アクリル樹脂の物性値として、SP(Solubility Parameter)値を制御することで表面偏析度をコントロールし易くなる。SP値は、凝集エネルギー密度、つまり、1分子の単位体積あたりの蒸発エネルギーの平方根で表される値である。本発明で用いるアクリル樹脂のSP値(沖津法)としては、20〜29が好ましく、23〜28が特に好ましい。なお、沖津法はSP値を算出する方法の一つであり、例えば、日本接着学会誌Vol.29、No.6(1993年)249〜259頁に詳述され、アクリル樹脂の場合は共重合成分のモル比により加重平均した値を採用した。
【0041】
また、アクリル樹脂の添加量は、そのSP値によっても異なるが、少量のアクリル樹脂で表面改質が可能であり、全固形分中の濃度としては、0.01〜30質量%が好ましく、1〜10質量%が特に好ましい。
【0042】
本発明で使用することができるアクリル樹脂としては、特願2006−53430号明細書段落番号[0095]〜[0097]、特願2006−287930号明細書等に記載の感光性基やめっき触媒吸着性基を含むアクリル樹脂を挙げることができる。具体的には、下記化合物を挙げることができる。
【0043】
【化1】

【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

【0046】
本発明においては、アクリル樹脂は感光性基を有していても、有していなくても良いが、感光性基を有している場合、本発明において生成したエポキシ樹脂成形体の表面に、さらに重合反応によってポリマーなどを結合することができる。
感光性基やめっき触媒吸着性基を含むアクリル樹脂としては、例えば、以下一般式(1)及び一般式(2)で表される共重合ポリマーを挙げることができる。
【0047】
【化4】

【0048】
一般式(1),(2)中、R〜Rは、夫々独立して、水素原子又は置換若しくは無置換のアルキル基を表し、Yは、夫々独立して、単結合、又は置換若しく無置換の二価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表し、L、Lは、夫々独立して、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0049】
〜Rが、置換若しくは無置換のアルキル基である場合、無置換のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられ、また、置換アルキル基としては、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素、臭素、フッ素等で置換された、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
なお、Rとしては、水素原子、メチル基、水酸基、臭素で置換されたメチル基が好ましい。
としては、水素原子、メチル基、水酸基、臭素で置換されたメチル基が好ましい。
としては水素原子が好ましい。
としては、水素原子が好ましい。
としては、水素原子、メチル基が好ましい。
【0050】
Yが置換若しくは無置換の二価の有機基の場合、該二価の有機基の有機基としては、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、又はこれらの基が、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素、臭素、フッ素等で置換されたものが好ましい。
芳香族炭化水素基としては、無置換のフェニル基、若しくは、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素、臭素、フッ素等で置換されたフェニル基が好ましい。
中でも、−(CH)n−(nは1〜3の整数)が好ましく、更に好ましくは、−CH−である。
【0051】
はウレタン結合又はウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、中でも、総炭素数1〜9であるものが好ましい。なお、ここで、Lの総炭素数とは、Lに含まれる総炭素原子数を意味する。
の構造として、より具体的には、下記式(1−1)で表される構造であることが好ましい。
【0052】
【化5】

【0053】
上記一般式(1−1)中、R及びRは、夫々独立して、置換若しくは無置換の、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基を表す。
【0054】
また、Lは、直鎖、分岐、又は環状のアルキレン基、芳香族基、またはこれらを単結合、エーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基と組み合わせた基であることが好ましい。中でも、Lは総炭素数が1〜15であることが好ましい。なお、ここで、Lの総炭素数とは、Lに含まれる総炭素原子数を意味する。
具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基、及びこれらの基が、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素、臭素、フッ等で置換されたもの、更には、これらを組み合わせた基が挙げられる。
【0055】
本発明のアクリル樹脂としては、前記式(1)で表されるユニットが、下記式(3)で表されるユニットであることが好ましい。
【0056】
【化6】

【0057】
上記式(3)中、R及びRは、夫々独立して、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表し、Zは、単結合、又は置換若しくは無置換の二価の有機基、エステル基、アミド基、又はエーテル基を表し、Wは、窒素原子、又は酸素原子、Lは、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0058】
式(3)におけるR及びRは、前記式(1)におけるR及びRと同義であり、好ましい例も同様である。
【0059】
式(3)におけるZは、前記式(1)におけるZと同義であり、好ましい例も同様である。
また、式(3)におけるLも、前記式(1)におけるLと同義であり、好ましい例も同様である。
【0060】
本発明のアクリル樹脂としては、前記式(3)で表されるユニットが、下記式(4)で表されるユニットであることが好ましい。
【化7】

【0061】
式(4)中、R及びRは、夫々独立して、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表し、V及びWは、夫々独立して、窒素原子又は酸素原子を表し、Lは、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0062】
式(4)におけるR及びRは、前記式(1)におけるR及びRと同義であり、好ましい例も同様である。
【0063】
式(4)におけるLは、前記式(1)におけるLと同義であり、好ましい例も同様である。
【0064】
前記式(3)及び式(4)において、Wは、酸素原子であることが好ましい。
また、前記式(3)及び式(4)において、Lは、無置換アルキレンまたはウレタン結合又はウレア結合を有する二価の有機基が好ましく、中でも、総炭素数1〜9であるものが特に好ましい。
【0065】
また、本発明のアクリル樹脂としては、前記式(2)で表されるユニットが、下記式(5)で表されるユニットであることが好ましい。
【0066】
【化8】

【0067】
上記式(5)中、Rは、水素原子、又は置換若しく無置換のアルキル基を表し、Uは、窒素原子又は酸素原子を表し、Lは、置換若しくは無置換の二価の有機基を表す。
【0068】
式(5)におけるRは、前記式(1)におけるR及びRと同義であり、水素原子であることが好ましい。
【0069】
また、式(5)におけるLは、前記式(1)におけるLと同義であり、直鎖、分岐、又は環状のアルキレン基、芳香族基、又はこれらを単結合、エーテル基、エステル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基と組み合わせた基であることが好ましい。
特に、式(5)においては、Lが、ニトリル基との連結部位に、直鎖、分岐、又は環状のアルキレン基を有する二価の有機基であることが好ましく、中でも、この二価の有機基が総炭素数1〜10であることが好ましい。
また、別の好ましい態様としては、式(5)におけるLが、ニトリル基との連結部位に、芳香族基を有する二価の有機基であることが好ましく、中でも、該二価の有機基が、総炭素数6〜15であることが好ましい。
【0070】
本発明のアクリル樹脂は、前記式(1)〜式(5)で表されるユニットを含んで構成されるものであり、感光性基とニトリル基とを側鎖に有するポリマーである。
このアクリル樹脂は、例えば、以下のように合成することができる。
【0071】
合成方法としては、i)ニトリル基を有するモノマーと感光性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)ニトリル基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)ニトリル基を有するポリマーと感光性基を有するモノマーとを反応させ、二重結合を導入(感光性基を導入する)方法が挙げられる。好ましいのは、合成適性の観点から、ii)ニトリル基を有するモノマーと二重結合前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)ニトリル基を有するポリマーと感光性基を有するモノマーとを反応させ、感光性基を導入する方法である。
【0072】
前記i)の合成方法で用いられる感光性基を有するモノマーとしては、アリル(メタ)アクリレートや以下の化合物などが挙げられる。
【0073】
【化9】

【0074】
前記ii)の合成方法で用いられる二重結合前駆体を有するモノマーとしては、下記式(a)で表される化合物などが挙げられる。
【0075】
【化10】

【0076】
上記式(a)中、Aは感光性基を有する有機団、R〜Rは、夫々独立して、水素原子又は1価の有機基、B及びCは脱離反応により除去される脱離基であり、ここでいう脱離反応とは、塩基の作用によりCが引き抜かれ、Bが脱離するものである。Bはアニオンとして、Cはカチオンとして脱離するものが好ましい。
式(a)で表される化合物としては、具体的には以下の化合物を挙げることができる。
【0077】
【化11】

【0078】
【化12】

【0079】
また、前記ii)の合成方法において、二重結合前駆体を二重結合に変換するには、下記に示すように、B、Cで表される脱離基を脱離反応により除去する方法、つまり、塩基の作用によりCを引き抜き、Bが脱離する反応を使用する。
【0080】
【化13】

【0081】
上記の脱離反応において用いられる塩基としては、アルカリ金属類の水素化物、水酸化物又は炭酸塩、有機アミ化合物、金属アルコキシド化合物が好ましい例として挙げられる。アルカリ金属類の水素化物、水酸化物、又は炭酸塩の好ましい例としては、水素化ナトリウム、水素化カルシウム、水素化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。有機アミン化合物の好ましい例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N−メチルジシクロヘキシルアミン、N−エチルジシクロヘキシルアミン、ピロリジン、1−メチルピロリジン、2,5−ジメチルピロリジン、ピペリジン、1−メチルピペリジン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ピペラジン、1,4−ジメチルピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、モルホリン、4−メチルモルホリン、ピリジン、ピコリン、4−ジメチルアミノピリジン、ルチジン、1,8−ジアザビシクロ〔5,4,0〕−7−ウンデセン(DBU)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルエチルアミン、Schiff塩基などが挙げられる。金属アルコキシド化合物の好ましい例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシドなどが挙げられる。これらの塩基は、1種或いは2種以上の混合であってもよい。
【0082】
また、前記脱離反応において、塩基を付与(添加)する際に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンジクロリド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、トルエン、酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、水などが挙げられる。これらの溶媒は単独或いは2種以上混合してもよい。
【0083】
使用される塩基の量は、化合物中の特定官能基(B、Cで表される脱離基)の量に対して、当量以下であってもよく、また、当量以上であってもよい。また、過剰の塩基を使用した場合、脱離反応後、余剰の塩基を除去する目的で酸などを添加することも好ましい形態である。
【0084】
前記iii)の合成方法において、ニトリル基を有するポリマーと反応させる感光性基を有するモノマーとしては、ニトリル基を有するポリマー中の反応性基の種類によって異なるが、以下の組合せの官能基を有するモノマーを使用することができる。
即ち、(ポリマーの反応性基、反応性化合物の官能基)=(カルボキシル基、カルボキシル基)、(カルボキシル基、エポキシ基)、(カルボキシル基、イソシアネート基)、(カルボキシル基、ハロゲン化ベンジル)、(水酸基、カルボキシル基)、(水酸基、エポキシ基)、(水酸基、イソシアネート基)、(水酸基、ハロゲン化ベンジル)(イソシアネート基、水酸基)、(イソシアネート基、カルキシル基)等を挙げることができる。
具体的には以下のモノマーを使用することができる。
【0085】
【化14】

【0086】
以上のようにして合成された本発明のアクリル樹脂は、共重合成分全体に対し、感光性基含有ユニット、ニトリル基含有ユニットの割合が以下の範囲であることが好ましい。
即ち、感光性基含有ユニットが、共重合成分全体に対し5〜50mol%で含まれることが好ましく、更に好ましくは5〜40mol%である。5mol%以下では反応性(硬化性、重合性)が落ち、50mol%以上では合成の際にゲル化しやすく合成しにくい。
また、シアノ基含有ユニットは、共重合成分全体に対し1〜95mol%で含まれることが好ましく、更に好ましくは10〜95mol%である。
【0087】
なお、本発明のアクリル樹脂は、シアノ基含有ユニット、感光性基含有ユニット以外に、他のユニットを含んでいてもよい。この他のユニットを形成するために用いられるモノマーとしては、本発明の効果を損なわないものであれば、いかなるモノマーも使用することができる。
ただし、前述のように感光性基をポリマーに反応させて導入する場合は、100%導入することが困難な場合で、少量の反応性部分が残ってしまい、これが第3のユニットとなる可能性もある。
具体的には、ラジカル重合でポリマー主鎖を形成する場合は、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどの無置換(メタ)アクリル酸エステル類、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、3,3,3−トリフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン置換(メタ)アクリル酸エステル類、2−(メタ)アクリルロイロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライドなどのアンモニウム基置換(メタ)アクリル酸エステル類、ブチル(メタ)アクリルアミド、イソプロピル(メタ)アクリルアミド、オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類、スチレン、ビニル安息香酸、p−ビニルベンジルアンモニウムクロライドなどのスチレン類、N−ビニルカルバゾール、酢酸ビニル、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル化合物類や、その他にジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−エチルチオ−エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが使用できる。
また、上記記載のモノマーを用いて得られたマクロモノマーも使用できる。
【0088】
カチオン重合でポリマー主鎖を形成する場合は、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、エチレングリコールビニルエーテル、ジ(エチレングリコール)ビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル、2−クロロエチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、2−ビニルオキシテトラヒドロピラン、ビニルベンゾエート、ビニルブチレートなどのビニルエーテル類、スチレン、p−クロロスチレン、p−メトキシスチレンなどのスチレン類、アリルアルコール、4−ヒドロキシ−1−ブテンなどの末端エチレン類を使用することができる。
【0089】
本発明のアクリル樹脂の分子量(Mw)は、3000〜20万が好ましく、更に好ましくは4000〜10万である。
【0090】
本発明に用いられるアクリル樹脂の具体例を以下に示す。但し、本願発明で用いることができる共重合ポリマーは、これらに限定されるものではない。
なお、これらの具体例の重量平均分子量は、いずれも、3000〜100000の範囲である。
【0091】
【化15】

【0092】
【化16】

【0093】
例えば、化合物2−2−11を作る場合は、アクリル酸と2−シアノエチルアクリレートを例えばN−メチルピロリドンに溶解させ、重合開始剤として例えばアゾイソブチロニトリル(AIBN)を用いてラジカル重合を行い、その後、グリシジルメタクリレートをベンジルトリエチルアンモニウムクロライドのような触媒を用い、ターシャリーブチルハイドロキノンのような重合禁止剤を添加した状態で付加反応する事で合成することができる。また、例えば、例えば、化合物2−2−19を作る場合は、以下のモノマーとp-シアノベンジルアクリレートをN、N−ジメチルアクリルアミドのような溶媒に溶解させ、重合開始剤としてアゾイソ酪酸ジメチルのような重合開始剤を用いてラジカル重合を行い、その後、トリエチルアミンのような塩基を用いて脱塩酸を行う事で合成することができる。
【0094】
【化17】




【0095】
本発明で使用するエポキシ樹脂混合物(ポリマーアロイ)は、樹脂成分として上記のようなエポキシ樹脂、硬化剤、及びアクリル樹脂が含まれていることを必須とするが、目的等に応じて他の成分を添加することもできる。
【0096】
<硬化促進剤>
例えば、熱硬化をさらに促進するための硬化促進剤を添加しても良い。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール系化合物、4−ジメチルアミノピリジンなどのピリジン系化合物、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン系化合物などを使用することができる。このような硬化促進剤を配合する場合、その配合量は、例えば前記したフェノール系硬化剤等の硬化剤の配合量を100質量%とした場合に0.5〜2質量%の範囲内とすることが好ましい。
【0097】
<熱可塑性樹脂>
さらに、熱可塑性樹脂を配合することもできる。
近年、半導体封止材料やプリント配線基板の分野で使用するはんだは、環境問題による法規制により鉛を使用しない高融点はんだが主流となりつつある。そのため、例えば半導体チップの実装時のリフロー温度が従来温度より上昇し、このリフロー時の高温化によって絶縁層内部にクラックが発生しやすくなる。このためプリント配線基板を構成するエポキシ樹脂成形体には、高耐熱性化や応力発生の低減が望まれている。
【0098】
そこで、耐クラック性付与の方法として、発生した応力を緩和させるため、熱可塑性樹脂を混合することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等が挙げられる。そのほかの熱可塑性樹脂としては、以下の(1)〜(3)の熱可塑性樹脂が挙げられる。
(1)1,2−ビス(ビニルフェニル)エタン樹脂(1,2−Bis(vinylphenyl)ethane resin)、もしくはこれとポリフェニレンエーテル樹脂との変性樹脂(天羽悟ら、Journal of Applied Polymer Science Vol.92,1252−1258(2004)に記載)
(2)液晶性ポリマー(クラレ製「ベクスター」等)
(3)フッ素樹脂(PTFE等)
なお、本発明で使用する熱硬化性樹脂としては、上記の中でも応力緩和の程度からフェノキシ樹脂が好ましい。
【0099】
熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。熱可塑性樹脂の含有量としては、応力緩和効果を十分発揮させるために全固形分中の10質量%〜80質量%が好ましく、30質量%〜60質量%がより好ましい。
【0100】
なお、上記のようなエポキシ樹脂以外の他の成分の添加量は、エポキシ樹脂に対して好ましくは30〜300質量%の範囲、より好ましくは50〜200質量%の範囲で添加する。上記他の添加成分の配合量がエポキシ樹脂に対して30質量%以上であれば、その添加成分の効果を十分に得ることができ、一方、300質量%以下であれば、エポキシ樹脂成形体の強度などの特性が低下することを効果的に防ぐことができる。
【0101】
<溶剤>
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、メトキシプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等を挙げることができる。中でもケトン系溶剤が好ましく、特にメチルエチルケトン、及びシクロヘキサノンが好ましい。溶剤は、いずれかの種類を単独で使用しても良いし、2種以上の混合溶剤として使用しても良い。
溶剤の含有量としては、樹脂混合物の塗布容易性等の点から、全混合物中の20質量%〜90質量%が好ましく、30質量%〜60質量%がより好ましい。
【0102】
−成形(加熱硬化)工程−
上記のようなエポキシ樹脂、該エポキシ樹脂と反応する硬化剤、アクリル樹脂、及び溶剤を含み、さらに必要に応じて硬化促進剤、熱可塑性樹脂等を含むエポキシ樹脂混合物を調製した後、このエポキシ樹脂混合物を成形し、加熱硬化して、アクリル樹脂が表面に偏析したエポキシ樹脂成形体を形成する。なお、本発明でいうエポキシ樹脂成形体とは、形状、厚さ等は特に限定されず、例えばμmオーダーの厚さの層状としてもよいし、mmオーダーの基板状とすることもできる。また、成形体は平板状に限らず、例えば曲がった形状や凹凸を有する形状としてもよいし、さらに、厚みは必ずしも均一である必要はない。
【0103】
エポキシ樹脂成形体を形成する方法は、上記エポキシ樹脂混合物を成形して加熱硬化した後、アクリル樹脂が表層に偏析すれば特に限定されない。通常は、液状の上記エポキシ樹脂混合物(ワニス)を支持体上に付与し、所定の形状及び厚みに成形した状態で加熱硬化させる。エポキシ樹脂混合物を支持体上に付与する方法は特に限定されず、目的等に応じて選択すれば良い。例えば ナイフコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、バーコーティング等を採用することができる。支持体上に付与するエポキシ樹脂混合物の厚さは特に限定されず、溶剤の比率や加熱硬化後に得られるエポキシ樹脂成形体の目的等に応じて決めればよいが、0.5μm以上が好ましく、3μm以上にすることで、本願発明の効果をより高く得ることができる。
なお、支持体の材質は目的等に応じて選択すればよく、ポリイミド等のプラスチック材料でもよいし、金属、紙等の非プラスチック材料でもよい。また、支持体の形状も特に限定されず、板状のほか所望の形状を採用することができる。また、支持体は、加熱硬化されたエポキシ樹脂成形体と一体化するものでもよいし、加熱硬化後、支持体から分離できるようにしてもよい。この場合、例えば支持体に予め離型剤を設けておけばよい。
【0104】
エポキシ樹脂混合物を支持体上に付与して成形した後、加熱硬化を行う。なお、エポキシ樹脂混合物を支持体上に付与した後、すぐに加熱硬化を行うと、アクリル樹脂が十分表面偏析せずに硬化してしまうおそれがある。各樹脂成分や溶剤の成分比、膜厚等にもよるが、通常は、液状のエポキシ樹脂混合物(ワニス)を支持体上に付与した後、5分以上、好ましくは10分〜30分間常温で放置する。
【0105】
加熱硬化の条件は、樹脂混合物の成分比、膜厚などにもよるが、一般的に、加熱温度は20〜200℃が好ましく、より好ましくは80〜180℃である。また、加熱時間は、1秒〜50時間が好ましく、より好ましくは10秒〜10時間である。このような加熱条件を採用することで、アクリル樹脂をより確実に表面析出させることができる。
このように本発明に係るエポキシ樹脂混合物を支持体上に付与して成形し、さらに加熱硬化を行うことで、加熱硬化する過程でアクリル樹脂が表面に偏析する。これにより、アクリル樹脂が表面偏析したエポキシ樹脂成形体を形成することができる。
【0106】
上記のような方法によれば、エポキシ樹脂に少量のアクリル樹脂を添加することでエポキシ樹脂本来の物性をほとんど損なうことなく、効率的にエポキシ樹脂表面を改質することが可能である。また、加熱硬化と同時に表面改質を行う、いわばワンステップの方法であるため、例えばエポキシ樹脂基板を成形した後、その表面にアクリル樹脂を塗布する方法に比べて簡便でありコストも低く抑えることができ、極めて実用的である。また、アクリル樹脂を塗布する方法とは異なり、エポキシ樹脂と表面偏析したアクリル樹脂との間に明確な界面を持たないため、密着性の点でも優れている。更に、目的に応じて種々の種類の官能基を有するアクリル樹脂を選択することで、簡便な方法でエポキシ樹脂成形体の表面を所望の機能を有する表面に改質することができる。
なお、上記のようにして得られるエポキシ樹脂成形体の表面(表層)にアクリル樹脂が偏析していることを確認する方法は特に限定されるものではないが、例えば、成形体を斜めに切断し、切断面を飛行時間型二次イオン質量分析装置、光学顕微鏡、電子顕微鏡等で分析して調べることができる。
【0107】
上記のように表面改質されたエポキシ樹脂成形体の用途は特に限定されるものではないが、例えば、分子内にめっき触媒を吸着し得る官能基を有するアクリル樹脂を用いた場合には、そのアクリル樹脂の表面析出により表面改質されたエポキシ樹脂成形体の表面に導電性膜を容易に形成することができる。以下、このような導電性膜の形成方法について具体的に説明する。
【0108】
−めっき触媒付与工程−
本工程では、前記の表面改質されたエポキシ樹脂成形体の表面に、無電解めっき触媒又はその前駆体を付与する。
【0109】
<無電解めっき触媒>
本工程において用いることができる無電解めっき触媒は、主に0価金属であり、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。本発明においては、特に、Pd及びAgがその取り扱い性の良さ、触媒能の高さ等から好ましい。0価金属を前記エポキシ樹脂成形体の表面上に固定する手法としては、例えば、エポキシ樹脂成形体の表面に偏析したアクリル樹脂の官能基(めっき触媒を吸着し得る官能基)が、上記のような無電解めっき触媒又はその前駆体と相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを適用する手法を用いることができる。
一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの電荷は、ここで使用する界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように電荷を調節した金属コロイドを、エポキシ樹脂成形体の表面に偏析したアクリル樹脂が有するめっき触媒吸着性の官能基と相互作用させることで、エポキシ樹脂成形体の表面上に選択的に金属コロイド(無電解めっき触媒)を吸着させることができる。
【0110】
<無電解めっき触媒前駆体>
一方、無電解めっき触媒前駆体としては、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主に、上記無電解めっき触媒で用いた0価金属の金属イオンを用いることができる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒である金属イオンは、表面改質されたエポキシ樹脂成形体の表面に付与した後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてもよいし、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0111】
例えば、上記のような無電解めっき前駆体である金属イオンを、金属塩の状態でエポキシ樹脂成形体の表面に付与し、表面析出されているアクリル樹脂の官能基と相互作用させる。このような金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)に解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO、MCl、M2/n(SO)、M3/n(PO)(Mはn価の金属原子を表す。)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオン等が挙げられ、Agイオン及びPdイオンが触媒能の点で好ましい。
【0112】
無電解めっき触媒である金属コロイド、或いは、無電解めっき前駆体である金属塩をエポキシ樹脂成形体の表面に付与する方法としては、例えば、金属コロイドを適当な分散媒に分散させ、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その溶液を、アクリル樹脂が偏析したエポキシ樹脂成形体の表面に塗布するか、或いは、その溶液中にエポキシ樹脂成形体を浸漬すればよい。このような方法により金属イオンを含む溶液をエポキシ樹脂成形体の表面に接触させることで、前記エポキシ樹脂成形体の表面に偏析したアクリル樹脂が有する相互作用性基(めっき触媒吸着性基)に、イオン−イオン相互作用、または、双極性−イオン相互作用を利用して金属イオンを吸着させるか、或いは金属イオンを含浸させることができる。このような金属イオンの吸着或いは含浸を十分に行うという観点から、エポキシ樹脂成形体と接触させる溶液の金属イオン濃度或いは金属塩濃度は1〜50質量%の範囲であることが好ましく、10〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、金属イオン濃度等にもよるが、生産性等の観点から、1分〜24時間程度であることが好ましく、5分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0113】
−無電解めっき工程−
次に、前記無電解めっき触媒又はその前駆体を付与したエポキシ樹脂組成形体に無電解めっきを行う。これにより、エポキシ樹脂成形体の表面に高密度の金属膜、すなわち、導電性膜が形成される。このように形成された導電性膜は、優れた導電性と密着性を有するものとなる。
【0114】
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、前記無電解めっき触媒が表面に付与されたエポキシ樹脂成形体を水洗して余分な無電解めっき触媒(Pd、Ag等の金属)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行なう。無電解めっき浴としては公知の無電解めっき浴を使用することができる。
【0115】
また、無電解めっき触媒前駆体がエポキシ樹脂成形体に吸着又は含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、エポキシ樹脂成形体の表面を水洗して余分な無電解めっき触媒前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬する。この場合、無電解めっき浴中において上記前駆体の還元と、それに引き続いて無電解めっきが行われる。この態様での無電解めっき浴も、公知の無電解めっき浴を使用することができる。
【0116】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、主に(1)めっき用の金属イオン、(2)還元剤、(3)金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)を含むものを用いる。このめっき浴には、さらに、めっき浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅及び金が特に好ましい。
【0117】
なお、無電解めっきによりエポキシ樹脂成形体の表面に形成させる金属に合わせて、最適な還元剤及び添加物を選択することが好ましい。例えば、銅の無電解めっき浴は、銅塩としてCu(SO、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤を含むことが好ましい。また、CoNiPの無電解めっきに使用するめっき浴には、その金属塩として硫酸コバルト及び硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウム等が含まれていることが好ましい。また、パラジウムの無電解めっき浴は、金属イオンとして(Pd(NH)Cl、還元剤としてNH、HNNH等、安定化剤としてEDTAが含まれていることが好ましい。これらのめっき浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0118】
上記のような無電解めっきによりエポキシ樹脂成形体の表面に形成させる金属膜の膜厚は、めっき浴中の金属塩の種類、金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、めっき浴の温度などにより制御することができ、導電性の観点から0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。なお、生産性等の観点から、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜3時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0119】
以上のように、アクリル樹脂の表面析出により表面改質されたエポキシ樹脂成形体の表面に、めっき触媒又はその前駆体を付与した後、無電解めっきを行うことで密着性の高い導電性膜を形成することができる。
なお、上記のような無電解めっきによりエポキシ樹脂成形体の表面に導電性膜を形成した後、さらに電解めっきを行うこともできる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0121】
<実施例1>
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、カプトン500H、厚さ128μm)上に、以下に示す、アクリル樹脂を含有した熱硬化性エポキシ樹脂混合物を、コーティングバーを用いて塗布した。その後、170℃の温度条件下において30分間加熱して硬化させることで、厚さが8μmのエポキシ樹脂層を形成した。
【0122】
−熱硬化性エポキシ樹脂混合物−
(A)エポキシ樹脂 16.7g
(ジャパンエポキシレジン製、エピコート806、エポキシ当量167)
(B)アミノトリアジンノボラック樹脂 6.6g
(大日本インキ化学工業(株)製、フェノライトLA7052、不揮発分62質量%、不揮発分のフェノール性水酸基当量120)
(C)フェノキシ樹脂 30.5g
(不揮発分35質量%、東都化成(株)、YP−50EK35)
(D)2−エチル−4−メチルイミダゾール(和光純薬工業社製) 0.18g
(E)メチルエチルケトン(和光純薬工業社製) 23g
(F)下記アクリル樹脂A(SP値:23.35、沖津法による) 3.5g
【0123】
【化18】

【0124】
上記のようにして得た基板を斜め切断角度5°で斜め切断し(切断装置:ライカウルトラミクロトーム、ガラスナイフ)、その後、TOF−SIMS(PHI−TRIFTII)を用いて、以下の測定条件で、基板表面真上からアクリル樹脂Aの分布を測定した。
一次イオンAu+、加速電圧:22kV、一次イオン電流:2nA、中和銃on
スペクトル測定(positive/negative)、バンチングあり、測定面積:80μm□、測定時間3min
イメージング測定(positive/negative)、バンチングなし、測定面積:150、100μm□、測定時間10min、室温
【0125】
図1は、上記のようにして測定した切断面のイメージを示しており、a−b線間がエポキシ樹脂成形体層を表し、a線より上(表面側)の部分の質量分析による強度を100とした場合、a−c線間がアクリル樹脂組成分の強度が80以上であり、偏析したアクリル樹脂成分を表している。この図より、アクリル樹脂Aはエポキシ樹脂層の表面付近に分布(偏析)していることがわかる。また、偏析したアクリル樹脂領域は、全体の厚さ8μmに対して、0.56μm(約7%)であった。
【0126】
<実施例2>
実施例1で使用したアクリル樹脂Aの代わりに、下記アクリル樹脂B(SP値:24.56、沖津法による)を用いた以外は実施例1と同様に熱硬化性エポキシ樹脂層をポリイミドフィルム上に形成した。
【0127】
【化19】

【0128】
エポキシ樹脂層を形成した後、実施例1と同様の方法によりTOF−SIMSを用いてエポキシ樹脂中のアクリル樹脂の分布を測定した。図2は切断面のイメージを示しており、図1と同様、a−b線間がエポキシ樹脂成形体層を表し、a線より上(表面側)の部分の質量分析による強度を100とした場合、a−c線間がアクリル樹脂組成分の強度が80以上であり、偏析したアクリル樹脂成分を表している。これより、アクリル樹脂Bはエポキシ樹脂層の表面付近に分布(偏析)していることがわかる。また、偏析したアクリル樹脂領域は全体の厚さ8μmに対して1.44μm(約18%)であった。
【0129】
<実施例3>
実施例1で使用したアクリル樹脂の代わりに、下記アクリル樹脂Cを用いた以外は実施例1と同様に熱硬化性エポキシ樹脂層をポリイミドフィルム上に形成した。
【0130】
【化20】

【0131】
次いで、上記のようにしてエポキシ樹脂層を形成した基板を、硝酸パラジウム(和光純薬製)1質量%のアセトン溶液に30分間浸漬した後、蒸留水で洗浄した。その後、下記組成の無電解めっき浴にて20分間無電解めっきを行った。
【0132】
<無電解めっき浴の組成>
・OPCカッパ―H T1(奥野製薬(株)製) 6mL
・OPCカッパ―H T2(奥野製薬(株)製) 1.2mL
・OPCカッパ―H T3(奥野製薬(株)製) 10mL
・水 83mL
【0133】
次いで、下記組成の電解めっき浴にて3A/dmの電流密度で20分間電気めっきを行い、厚さ8μmの電解銅めっき層を形成した。その後100℃で60分間のアフターベークを行った。
【0134】
<電解めっき浴の組成>
・硫酸銅 38g
・硫酸 95g
・塩酸 1mL
・カッパ−グリームPCM(メルテックス(株)製) 3mL
・水 500mL
【0135】
このようにして作製した電解銅めっき膜の剥離強度及び表面抵抗値を測定した。
剥離強度はテンシロン(型番RTM−100、株式会社オリエンテック製)により、JIS C 6481に準拠して、導体(銅めっき膜)の剥離強度(Max値、Min値、Ave値)を測定し、最大値と最小値の平均値を、導体の剥離強度とした。その結果、実施例3で作製した電解銅めっき膜の剥離強度は0.7kN/mであった。
【0136】
表面抵抗値は、JISK7194に準拠し、表面抵抗計(ロレスタ−EP、型番MCP−T360、三菱化学(株)製)を用いて四探針法により測定した。その結果、実施例3で作製した電解銅めっき膜の表面抵抗値は、2.0×10−3Ω/□であった。
これらの結果より、本発明の方法にて作製した導電性膜は、剥離強度が高く、且つ、導電性に優れていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】実施例1で作製した基板の切断面のイメージを示す図である。
【図2】実施例2で作製した基板の切断面のイメージを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が硬化したエポキシ樹脂成形体であって、該エポキシ樹脂成形体の全体の厚みに対して、表面から30%以内の厚みの領域に、
エポキシ樹脂成形体の表面のアクリル樹脂組成分の質量分析による強度を100とした場合、該領域のアクリル樹脂組成分の強度が80以上であることを特徴とするエポキシ樹脂成形体。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂成形体の全体の厚みに対する、表面からの厚みが20%以内であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂成形体の全体の厚みに対する、表面からの厚みが10%以内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項4】
前記質量分析が、SIMS(2次イオン質量分析)であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項5】
前記アクリル樹脂のSP値が20 〜29の範囲にあることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項6】
前記アクリル樹脂のSP値が23 〜28の範囲にあることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項7】
前記アクリル樹脂の含有量が、全固形分中の濃度として、1〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項8】
前記アクリル樹脂が、分子内にめっき触媒を吸着し得る官能基を有することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項9】
前記めっき触媒を吸着し得る官能基が、シアノ基、アミノ基、又は含窒素複素環基であることを特徴とする請求項8に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項10】
前記エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が、さらに硬化剤を含むことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項11】
前記硬化剤が、分子内にアミノ基及び水酸基の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項10に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項12】
前記エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が、更にフェノキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項13】
前記エポキシ樹脂とアクリル樹脂の混合物が、さらに硬化促進剤を添加することを特徴とする、請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体。
【請求項14】
エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂と反応する硬化剤、溶剤、及びSP値が20〜29の範囲にあり、且つ、全固形分中の濃度として、1〜10質量%のアクリル樹脂を含む混合物を成形し、加熱硬化させる工程を含むことを特徴とするエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【請求項15】
前記アクリル樹脂のSP値が23 〜28の範囲にあることを特徴とする請求項14に記載のエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【請求項16】
前記溶剤が、ケトン系溶剤を含むことを特徴とする請求項14に記載のエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【請求項17】
前記ケトン系溶剤として、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンの少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項16に記載のエポキシ樹脂成形体の表面改質方法。
【請求項18】
請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂成形体の表面に、無電解めっき触媒又はその前駆体を付与する工程と、前記無電解めっき触媒又はその前駆体を付与したエポキシ樹脂混合物に無電解めっきを行って導電性膜を形成する工程とを含むことを特徴とする導電性膜の形成方法。
【請求項19】
前記無電解めっき触媒をパラジウムとすることを特徴とする請求項18に記載の導電性膜の形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−255140(P2008−255140A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95710(P2007−95710)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】