説明

エンジン制御方法

【課題】発熱量を直接検出することなく、発熱量の変動に酔って理論空燃比が変動しても空気過剰率を所定値に保値、かつ燃焼効率を最大にする
【解決手段】出力の実際値が出力の目標値に一致するように混合気流量を制御する工程と、出力の実際値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値が、出力、燃料制御弁開度、及び空燃比の第1相関関係を満たすように、燃料制御弁開度を制御する工程と、回転数の実際値を検出する工程と、出力の実際値、回転数の実際値、空燃比の実際値によって特定される発熱量の実際値、及び点火時期の目標値が、第2相関関係を満たすように、点火時期を制御する工程と、を備え、第1相関関係は、発熱量の変動による理論空燃比の変動に合わせて空燃比を変動させ、空気過剰率を所定値に保つように設定し、第2相関関係は、空気過剰率が所定値に保たれている場合に燃焼の熱効率が最大に保たれるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の単位体積当たりの発熱量が変動する場合にエンジンを制御するエンジン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料は、通常、組成の異なる多数の成分によって構成されており、各成分の発熱量は異なっている。このため、燃料自体の発熱量は、各成分の濃度によって変化する。例えば、ガス化炉で生成される燃料の場合、成分の濃度は、ガスの原材料の種類及びガス化炉の運転状態によって大きく影響を受ける。このため、ガス化炉で生成される燃料では、単位体積当たりにおける燃料の発熱量が時間的に変動する。ガス化炉で生成される燃料には、木屑などを熱分解して得られるガス燃料、ごみ処理施設から排出されるガス燃料、生物の排泄物等から得られるバイオガス燃料、及び埋立地等からの自噴ガス燃料などがある。
【0003】
図19は、ガス化炉から供給される燃料について、各成分の濃度及び燃料自体の低位発熱量(LHV)の時間的変化を示す図である。図19において、各成分の濃度は時間的に変化している。この結果、燃料自体の発熱量(単位体積当たり発熱量)も時間的に変化している。
【0004】
特許文献1は、バイオマス原料を熱分解することによって発生する熱分解ガスを燃料ガスとして利用するバイオマスガス化システムを開示している。バイオマス原料から発生する熱分解ガスも、成分の濃度が時間的に変動する燃料である。
【0005】
特許文献2は、予混合燃焼方式のエンジンの制御方法において、発熱量の変動に対応する排温補正処理を実行することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−249600号公報
【特許文献2】特開2009−57873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に発熱量が低下する場合、燃料を構成する各成分において、発熱量の低い成分の濃度又は燃焼に寄与しない成分の濃度が増大している。この結果、発熱量が低下するにつれて、一定量の燃料を完全燃焼させるのに必要な空気量が減少する。つまり、発熱量が低下すると、理論空燃比が低下する。特に、低発熱量燃料の場合、発熱量の変動による理論空燃比の変動量が、高発熱量燃料と比べて大きい。
【0008】
例えばガソリンの場合、成分の濃度は一定である。このため、ガソリンタンクからミキサ又はインジェクターに供給される燃料において、燃料の発熱量は時間的に変動しない。つまり、理論空燃比が時間的に変動しない。この場合、空燃比を一定に保つことによって、空燃比と理論空燃比との比を一定に保つことができ、空気過剰率を一定に保つことができる。しかし、発熱量が変動する場合、理論空燃比が変動する。この場合、空燃比を一定に保つことによって、空気過剰率を一定に保つことができない。
【0009】
特許文献2の制御方法は、排温補正処理において、排気温度に基づいて理論空燃比を補正している。特に、特許文献2は、0011、0047段落において、発熱量の異なる成分を有する燃料が利用される場合に理論空燃比が変動する課題を指摘しており、その課題を解決する手段として、排気温度に基づいて理論空燃比を補正する排温補正処理を開示している。
【0010】
しかし、実際の排気温度は外気温やエンジンの過熱状態にも影響を受けるため、排気温度の適切な検出は容易ではない。つまり、理論空燃比の検出精度が低下する。この結果、混合気流量の算出精度も低下してしまう。
【0011】
また、エンジンの熱効率を最適にするために、点火時期の調整が必要である。最適な点火時期は、出力及び回転数だけでなく、発熱量によって変動する。上述したように、例えばガソリンの場合、成分の濃度は一定であり、発熱量は時間的に変動しない。このため、ガソリンの点火時期マップでは、発熱量は変数としてではなく定数として設定されており、出力および回転数のみが変数として設定されている。
【0012】
そこで、本発明は、発熱量を直接に検出することなく、発熱量の変動によって理論空燃比が変動しても空気過剰率を所定値に保つことができ、且つ燃焼の熱効率を最大にするように点火時期を制御できる、エンジンの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、燃料の単位体積当たりの発熱量が変動する場合にエンジンを制御するエンジン制御方法であって、エンジンの出力の目標値を設定する工程と、出力の実際値を検出する工程と、燃料流量の実際値と空燃比の実際値とを特定できる制御量の実際値を検出する工程と、出力の実際値が出力の目標値に一致するように、且つ出力の目標値、燃料流量の実際値、及び空燃比の実際値が、出力、燃料流量、及び空燃比の第1相関関係を満たすように、燃料流量及び空燃比を制御する工程と、エンジンの回転数の実際値を検出する工程と、出力の実際値、回転数の実際値、空燃比の実際値によって特定される発熱量の実際値、及び点火時期の目標値が、出力、回転数、発熱量、及び点火時期の第2相関関係を満たすように、点火時期を制御する工程と、を備えており、第1相関関係は、発熱量の変動による理論空燃比の変動に合わせて空燃比を変動させることによって、空気過剰率を所定値に保つように設定されており、第2相関関係は、空気過剰率が所定値に保たれている場合に燃焼の熱効率が最大に保たれるように設定されている、エンジン制御方法を提供する。
【0014】
(a)エンジン制御方法において、好ましくは、前記エンジンは、ミキサにより混合気を生成する予混合燃焼エンジンであり、制御量の実際値を検出する工程は、燃料制御弁開度の実際値を検出する工程と、混合気流量の実際値を検出する工程と、からなっており、燃料流量及び空燃比を制御する工程は、出力の実際値が出力の目標値に一致するように混合気流量を制御する工程と、出力の実際値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値が、第1相関関係を満たすように、燃料制御弁開度を制御する工程と、からなっており、点火時期を制御する工程において、発熱量の実際値は、燃料制御弁開度の実際値及び混合気流量の実際値によって特定されており、第1相関関係は、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の相関関係として表現されている。
【0015】
(b)エンジン制御方法において、好ましくは、前記エンジンは、ミキサにより混合気を生成する予混合燃焼エンジンであり、制御量の実際値を検出する工程は、燃料制御弁の上流側と下流側との間における燃料圧力の差圧の実際値を検出する工程と、混合気流量の実際値を検出する工程と、からなっており、燃料流量及び空燃比を制御する工程は、出力の実際値が出力の目標値に一致するように混合気流量を制御する工程と、出力の実際値、燃料圧力の差圧の実際値、及び混合気流量の実際値が、第1相関関係を満たすように、燃料制御弁開度を制御する工程と、からなっており、点火時期を制御する工程において、発熱量の実際値は、燃料圧力の差圧の実際値及び混合気流量の実際値によって特定されており、第1相関関係は、出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量の相関関係として表現されている。
【0016】
(c)エンジン制御方法において、好ましくは、混合気流量の実際値を検出する工程は、給気圧力の実際値を検出する工程と、給気温度の実際値を検出する工程と、給気圧力の実際値及び給気圧力の実際値に基づいて混合気流量の実際値を算出する工程と、からなっている。
【0017】
(d)エンジン制御方法において、好ましくは、混合気流量の実際値を検出する工程は、給気圧力の実際値を検出する工程と、給気圧力の実際値に基づいて混合気流量の実際値を算出する工程と、からなっている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るエンジン制御方法は、発熱量を直接に検出することなく、発熱量の変動によって理論空燃比が変動しても、空気過剰率を所定値に保つことができ且つ燃焼の熱効率を最大にするように点火時期を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】エンジン、エンジン制御システム、及び燃料源を示す概略図である(第1実施形態)。
【図2】出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の第1相関関係を示す図である(第1実施形態)。
【図3】空気過剰率が境界値よりも小さな範囲内で制御される場合における運転状態の変化の様子を示す図(第1実施形態)。
【図4】空気過剰率が境界値よりも大きな範囲内で制御される場合における運転状態の変化の様子を示す図(第1実施形態)。
【図5】空気過剰率が境界値に近い範囲内で制御される場合における運転状態の変化の様子を示す図(第1実施形態)。
【図6】燃料制御弁開度を調整するためのフローを示す図である(第1実施形態)。
【図7】点火時期調整制御に関連する構成を含むエンジン制御システムを示す概略図である。(第1実施形態)。
【図8】出力、燃料制御弁開度、混合気流量、及び発熱量の第1相関関係を示す図である(第1実施形態)。
【図9】出力、回転数、発熱量、及び点火時期の第2相関関係を示している(第1実施形態)。
【図10】発熱量、熱効率、及び点火時期の第3相関関係を示す図である(第1実施形態)。
【図11】点火時期調整制御のフローを示す図である(第1実施形態)。
【図12】エンジン、エンジン制御システム、及び燃料源を示す概略図である(第2実施形態)。
【図13】出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量の第1相関関係を示す図である(第2実施形態)。
【図14】燃料制御弁開度を調整するためのフローを示す図である(第2実施形態)。
【図15】点火時期調整制御に関連する構成を含むエンジン制御システムを示す概略図である。(第2実施形態)。
【図16】出力、燃料圧力の差圧、混合気流量、及び発熱量の第1相関関係を示す図である(第2実施形態)。
【図17】点火時期調整制御のフローを示す図である(第2実施形態)。
【図18】エンジン、エンジン制御システム、及び燃料源を示す概略図である(第3実施形態)。
【図19】ガス化炉から供給される燃料における各成分の濃度及び燃料の低位発熱量(LHV)の時間的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
図1は、エンジン1、エンジン制御システム100、及び燃料源200を示す概略図である。図1において、エンジン1は、シリンダ2、ピストン3、クランク軸4、給気管5、排気管6、スロットル弁7、ベンチュリ式ミキサ8、燃料制御弁9、燃料配管10、及び点火プラグ11を備えている。つまり、エンジン1は、燃料制御弁及びミキサを有する予混合燃焼エンジンである。スロットル弁7及びベンチュリ式ミキサ8は給気管5内に配置されている。スロットル弁7は、給気方向におけるベンチュリ式ミキサ8の下流側にある。燃料配管10は、燃料源200からベンチュリ式ミキサ8に燃料を供給する。燃料制御弁9は、燃料配管10の経路上に配置されている。また、クランク軸4は、発電機12に接続されている。
【0021】
燃料源200は、単位体積当たりの発熱量が時間的に変化する燃料をエンジン1に供給する。燃料源200は、例えば、木屑を熱分解することによってガス燃料を発生させるガス化炉である。
【0022】
エンジン制御システム100は、回転数センサ21、出力センサ22、給気圧力センサ23、給気温度センサ24、スロットル開度センサ25、燃料制御弁開度センサ26、及び制御装置30を備えている。回転数センサ21は、エンジン1の回転数、すなわちクランク軸4の回転数を検出する。出力センサ22は、発電機12の発電電力に基づいて、エンジン4の出力、すなわちクランク軸4の出力を検出する。給気圧力センサ23は、スロットル弁7の下流側において、給気管5内の給気圧力(混合気の圧力)を検出する。給気温度センサ24は、スロットル弁7の下流側において、給気管5内の給気温度(混合気の温度)を検出する。スロットル開度センサ25は、スロットル弁7の開度を検出する。燃料制御弁開度センサ26は、燃料制御弁9の開度を検出する。以下、スロットル開度は、スロットル弁7の開度を指し、燃料制御弁開度は、燃料制御弁9の開度を指している。
【0023】
制御装置30は、各種センサ21−26によって得られた検出情報に基づいて、点火プラグ11の作動時期、スロットル開度、及び燃料制御弁開度を制御する。制御装置30は、CPU及びメモリ等のハードウェアと、ハードウェアを作動させるプログラムとからなっている。
【0024】
((空気過剰率維持制御))
制御装置30は、出力目標値設定部31、混合気流量演算部32、スロットル制御部33、第1相関関係記憶部34、及び燃料制御弁制御部35を備えている。設定部31は、出力の目標値を設定する。演算部32は、回転数の実際値、給気圧力の実際値、及び給気温度の実際値に基づいて、混合気流量の実際値を算出する。スロットル制御部33は、出力の目標値と出力の実際値とが一致するようにスロットル弁7の開度を制御する。第1記憶部34は、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の第1相関関係を記憶している。燃料制御弁制御部35は、出力の目標値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値が、第1相関関係を満たすように、燃料制御弁開度を制御する。
【0025】
図2は、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の第1相関関係を示す図である。図2において、縦軸は混合気流量の目標値を示しており、横軸は燃料制御弁開度を示している。図2に示される第1相関関係は、空気過剰率λを所定値λ0に保つように設定されている。第1相関関係は、3つの相関グラフC1、C2、及びC3からなっている。各相関グラフは、出力毎に設定されており、燃料制御弁開度及び混合気流量の相関を示している。相関グラフC1、C2、及びC3は、それぞれ、出力が10kw、6kw、2kwに保たれている場合を示している。
【0026】
図2には、点データ群C11−C15、C21−C25、及びC31−C35が示されている。各点データは、情報として、出力、混合気流量、及び燃料制御弁開度を有している。点データCnmにおいて、添字nは出力の大きさに対応する値であり、添字mは単位体積当たりの発熱量の大きさに対応する値である。nは1−3のいずれか1つである。出力10kw、6kw、及び2kwは、それぞれ、n=1、n=2、及びn=3に対応している。mは1−5のいずれか1つである。添字mが大きくなるほど、発熱量が小さくなっている。例えば、C31における燃料の発熱量は、C35における燃料の発熱量よりも大きい。
【0027】
各相関グラフは、出力が同一である点データ群に基づいて、特定されている。相関グラフC1、C2、及びC3は、それぞれ、点データ群C11−C15、点データ群C21−C25、及び点データ群C31−C35をカーブフィッティングすることによって得られている。
【0028】
図2は、次の内容を示している。一般に、発熱量が低下する場合、燃料を構成する各成分において、発熱量の低い成分の濃度又は燃焼に寄与しない成分の濃度が増大している。つまり、発熱量が低下するにつれて、同一の空気量(酸素量)に対して完全燃焼を発生させるために必要な燃料量が、増大する。このため、発熱量が上昇すると理論空燃比が増大し、発熱量が低下すると理論空燃比が減少する。空気過剰率が一定に保たれている場合、発熱量が低下するにつれて、混合気流量に占める燃料流量の割合が大きくなる。一方、燃料制御弁開度の大きさは、混合気流量に占める燃料流量の割合を決定する。図2において、右側は、燃料制御弁開度の増大側、つまり混合気流量に占める燃料流量の割合の高い側、したがって発熱量の小さい側を示している。同様に、図2において、左側は、混合気流量に占める燃料流量の割合の減少側、つまり混合気流量に占める燃料流量の割合の低い側、したがって発熱量の大きい側を示している。図2において、各相関グラフは右上がりである。つまり、発熱量が低下するにつれて、混合気流量及び燃料制御弁開度が増大している。これは、混合気流量に占める燃料流量の割合の増大によって空気流量が減少するので、空気流量の不足を補うために、混合気流量自体が増大することを示している。
【0029】
上述の点データ群C11−C15、C21−C25、及びC31−C35は、次のようにして、理論的に取得されている。各点データは出力及び燃料の発熱量に基づいて特定されており、各点データの座標は、出力及び燃料の発熱量を示している。燃料の発熱量は、各成分の発熱量を、濃度を重みとして加重平均することによって得られる。各成分の発熱量は、燃料を構成する各成分の化学組成に基づいて、特定される。また、単位量の各成分の完全燃焼に必要な空気量(酸素量)も、燃料を構成する各成分の化学組成に基づいて、特定される。完全燃焼に必要な空気量が特定されると、理論空燃比が特定される。空気過剰率λが所定値λ0に保たれているので、特定された理論空燃比に基づいて空燃比が特定される。更に、特定された空燃比に基づいて、燃料制御弁開度が特定される。このようにして、各点データの燃料制御弁開度が特定される。上述の各点データは、このように理論的に得られたデータである。
【0030】
図3から図5を参照して、制御装置30によって実行される空気過剰率維持制御を説明する。空気過剰率維持制御は、出力の実際値が出力の目標値に一致するようにスロットル開度を調整すると共に、空気過剰率が所定値に保たれるように燃料制御弁開度を調整する。図3から図5は、図2に示される相関グラフC1、C2、及びC3と、運転状態データ群D1a−D1c及びD2a−D2cとを示している。各運転状態データは、情報として、出力の実際値、混合気流量の実際値、及び燃料制御弁開度の実際値を含んでいる。運転状態データD1a−D1c及びD2a−D2cは、運転状態が第2相関グラフC2を満たすように制御される場合、つまり出力が6kwに保たれる場合を示している。
【0031】
図3から図5は、いずれも、運転状態の変化の様子を示している。図3から図5において、空気過剰率λの変動する範囲が異なっている。図3において、空気過剰率λは、境界値λPよりも小さな範囲内で制御される。図4において、空気過剰率λは、境界値λPよりも大きな範囲内で制御される。図5において、空気過剰率λは、境界値λPに近い範囲内で制御される。ここで、境界値λPは、空燃比が出力空燃比に保たれているときにおける空気過剰率λの値を指している。空燃比が出力空燃比よりも大きいか否かに応じて、発熱量の変動に対する出力の変動の様子が異なっている。つまり、図3から図5は、運転状態の変化における異なる三つのパターンを示している。
【0032】
図3は、空気過剰率λが境界値λPよりも小さな範囲内で制御される場合における運転状態の変化の様子を示す図である。空気過剰率λの目標値である所定値λ0も、当然ながら、境界値λPよりも小さな範囲内に設定されている。空気過剰率λが境界値λPよりも小さな範囲内で制御される場合、発熱量の低下に伴って出力が減少し、発熱量の上昇に伴って出力が増大する。運転状態データ群D1a−D1cは、ある時点における発熱量の低下によって空気過剰率λが所定値λ0よりも増大した後、再び空気過剰率λが所定値λ0に復帰する状況を示している。空気過剰率λが所定値λ0に保たれている場合、運転状態は、出力に対応する相関グラフを満たしている。
【0033】
運転状態データD1aは、過去において第2相関グラフC2を満たしていたが、発熱量の低下によって現時点では第2相関グラフC2を満たしていない。これは、具体的には次のような状況を示している。上述したように、発熱量の低下は、理論空燃比の減少を招く。一方、空燃比は、発熱量の低下前の理論空燃比に基づいて制御されている。このため、空気過剰率λが所定値λ0よりも増大する。空気過剰率λが境界値λPからより遠ざかるので、空燃比が出力空燃比から遠ざかる。この結果、運転状態データD1aの時点において、発熱量の低下によって出力が低下する。運転状態データD1aにおいて、出力の実際値は出力の目標値(6kw)より小さく、空気過剰率λは所定値λ0より大きい。
【0034】
スロットル制御部33は、出力の目標値と出力の実際値とが一致するようにスロットル開度を制御する。スロットル制御部33は、運転状態データD1aにおいて減少している出力を増大させるため、スロットル開度を増大させる。スロットル開度の増大は、混合気流量及び燃料流量を増大させるので、出力が増大する。この結果、出力の実際値が出力の目標値に到達する。運転状態データD1bは、スロットル開度の制御によって、出力の実際値が出力の目標値に一致している状況を示している。運転状態データD1a及びD1bにおいて、燃料制御弁開度は変更されていない。運転状態データD1bにおいて、出力の実際値は出力の目標値(6kw)に略等しいが、空気過剰率λは所定値λ0より大きい。
【0035】
説明の便宜上、ここでは、運転状態データD1aからD1bへの変化は、スロットル開度の制御のみによって行われている。実際には、スロットル開度の制御及び後述の燃料制御弁開度の制御は並行して行われている。後述の運転状態データD1aからD1bへの変化における説明も、同様に、スロットル開度の制御のみに基づいて説明されている。
【0036】
燃料制御弁制御部35は、出力の目標値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値が、第2相関グラフC2を満たすように、燃料制御弁開度を制御する。上述したように、運転状態が第2相関グラフC2を満たす限り、出力は一定に保たれ且つ空気過剰率λは所定値λ0に保たれている。一方、運転状態データD1bは、第2相関グラフC2を満たしていない。発熱量の低下による出力の低下を補うために、運転状態データD1bにおける混合気流量は、運転状態データD1aにおける混合気流量よりも増大している。この結果、運転状態データD1bは第2相関グラフC2よりも上方にあり、空気過剰率λは所定値λ0より大きい。この場合、燃料制御弁制御部35は、空気過剰率λを所定値λ0に近づけるために、つまり空燃比を減少後の出力空燃比に近づけるために、燃料制御弁開度を増大させる。燃料制御弁開度の増大は、混合気流量に占める燃料流量の割合を増大させ、空燃比を減少させる。この結果、空燃比が出力空燃比に近づくので、出力が増大する。一方、スロットル制御部33は、出力が一定に保たれるように、スロットル開度を減少させる。このため、燃料制御弁開度の増大に伴って、空燃比が減少すると共にスロットル開度が減少する。図3において、混合気流量の実際値及び燃料制御弁開度の実際値は、斜め右下に向けて変化する。この結果、運転状態が第2相関グラフC2を満たすようになる。
【0037】
運転状態データD1cは、第2相関グラフC2を満たしている。運転状態データD1cにおいて、出力の実際値は出力の目標値に略等しく、空気過剰率λは所定値λ0に略等しい。一旦運転状態が第2相関グラフC2を満たすと、運転状態が第2相関グラフC2から外れないように、スロットル制御部33がスロットル開度を制御すると共に燃料制御弁制御部35が燃料制御弁開度を制御する。このため、運転状態が、運転状態データD1cの状態に維持される。
【0038】
運転状態データ群D1a−D1cは、発熱量が低下した場合における運転状態の変化を示している。一方、運転状態データ群D2a−D2cは、発熱量が上昇した場合における運転状態の変化を示している。運転状態データD2aは、過去において第2相関グラフC2を満たしていたが、発熱量の上昇によって現時点では第2相関グラフC2を満たしていない。上述したように、発熱量の上昇は、理論空燃比の増大を招く。一方、空燃比は、発熱量の上昇前の理論空燃比に基づいて制御されている。このため、空気過剰率λが所定値λ0よりも減少する。空気過剰率λが境界値λPに近づくので、空燃比が出力空燃比に近づく。この結果、運転状態データD2aの時点において、発熱量の上昇によって出力が上昇する。運転状態データD2aにおいて、出力の実際値は出力の目標値(6kw)より大きく、空気過剰率λは所定値λ0より小さい。
【0039】
スロットル制御部33は、運転状態データD2aにおいて増大している出力を減少させるため、スロットル開度を減少させる。スロットル開度の減少は、混合気流量及び燃料流量を減少させるので、出力が減少する。この結果、出力の実際値が出力の目標値に到達する。運転状態データD2bは、スロットル開度の制御によって、出力の実際値が出力の目標値に一致している状況を示している。運転状態データD2a及びD2bにおいて、燃料制御弁開度は変更されていない。運転状態データD2bにおいて、出力の実際値は出力の目標値(6kw)に略等しいが、空気過剰率λは所定値λ0より小さい。
【0040】
運転状態データD2bは第2相関グラフC2よりも下方にあり、空気過剰率λは所定値λ0より小さい。この場合、燃料制御弁制御部35は、空気過剰率λを所定値λ0に近づけるために、つまり空燃比を増大後の出力空燃比に近づけるために、燃料制御弁開度を減少させる。燃料制御弁開度の減少は、混合気流量に占める燃料流量の割合を減少させ、空燃比を増大させる。この結果、空燃比が出力空燃比に近づくので、出力が減少する。一方、スロットル制御部33は、出力が一定に保たれるように、スロットル開度を増大させる。このため、燃料制御弁開度の減少に伴って、空燃比が増大すると共にスロットル開度が増大する。図3において、混合気流量の実際値及び燃料制御弁開度の実際値は、斜め左上に向けて変化する。この結果、運転状態が第2相関グラフC2を満たすようになる。運転状態データD2cは、第2相関グラフC2を満たしている。
【0041】
空気過剰率維持制御において、運転状態は、出力の目標値に対応する相関グラフを満たすように制御される。図3において、運転状態D1a、D1b間における離間距離は、混合気流量の実際値と相関グラフとの離間幅を示している。空気過剰率維持制御は、この離間幅を小さくするように、スロットル開度及び燃料制御弁開度を制御する。
【0042】
図4は、空気過剰率λが境界値λPよりも大きな範囲内で制御される場合における運転状態の変化の様子を示す図である。空気過剰率λの目標値である所定値λ0も、当然ながら、境界値λPよりも大きな範囲内に設定されている。空気過剰率λが境界値λPよりも大きな範囲内で制御される場合、発熱量の低下に伴って出力が増大し、発熱量の上昇に伴って出力が減少する。空気過剰率維持制御は、混合気流量の実際値と相関グラフとの離間幅を小さくするように、スロットル開度及び燃料制御弁開度を制御する。
【0043】
図5は、空気過剰率λが境界値λPに近い範囲内で制御される場合における運転状態の変化の様子を示す図である。空気過剰率λの目標値である所定値λ0も、当然ながら、境界値λPに近い範囲内に設定されている。空気過剰率λが境界値λPに近い範囲内で制御される場合、発熱量の低下に伴って出力が減少し、発熱量の上昇に伴って出力が減少する。つまり、いずれの場合でも、出力が減少する。空気過剰率維持制御は、混合気流量の実際値と相関グラフとの離間幅を小さくするように、スロットル開度及び燃料制御弁開度を制御する。
【0044】
図3から図5において、運転状態データD1a−D1cの変化及び運転状態データD2a−D2cの変化は、説明の便宜上、折れ線を描いている。しかし、スロットル開度の制御及び燃料制御弁開度の制御は常に並行して行われるため、運転状態の変化は、図3において曲線Vで示されるように、実際には曲線を描く。
【0045】
図6を参照して、空気過剰率維持制御のフローを説明する。図6は、燃料制御弁開度を調整するためのフローを示す図である。図6は、燃料制御弁開度の制御のみを示し、スロットル開度の制御を示していない。しかし、図6に示される燃料制御弁開度の制御に並行して、スロットル開度の制御が常時実行されている。
【0046】
燃料制御弁開度の制御は、具体的には次のように実行される。ステップS1において、演算部32は、回転数の実際値、給気圧力の実際値、及び給気温度の実際値を取得する。回転数の実際値、給気圧力の実際値、及び給気温度の実際値は、それぞれ、回転数センサ21、給気圧力センサ23、及び給気温度センサ24によって得られている。
【0047】
ステップS2において、演算部32は、回転数の実際値、給気圧力の実際値、及び給気温度の実際値に基づいて、単位時間当たりの混合気流量を算出する。第1実施形態において、混合気流量の実際値は、演算部32によって算出された混合気流量を指す。
【0048】
ステップS3において、燃料制御弁制御部35は、出力の実際値及び燃料制御弁開度の実際値を取得する。出力の実際値は、出力センサ22によって取得されている。燃料制御弁開度の実際値は、燃料制御弁開度センサ26によって得られている。
【0049】
ステップS4、S5において、燃料制御弁制御部35は、現在の運転状態が第1相関関係を満たしているかどうかを判定する。ステップS4において、燃料制御弁制御部35は、現在の運転状態と同一の燃料制御弁開度において、第1相関関係(図2)を満たす混合気流量の対応値を取得する。
【0050】
例えば、運転状態が第3相関グラフC3を満たすように制御される場合、混合気流量の対応値は、具体的には、次のようにして、取得される。図3には、座標P1、P2が示されている。座標P1は、現在の運転状態に対応するデータを示している。座標P1は第3相関グラフC3から外れており、座標P2は第3相関グラフC3を満たしている。座標P1における燃料制御弁開度は、座標P2における燃料制御弁開度に等しい。このため、座標P2は、現在の運転状態と同一の燃料制御弁開度において、第3相関グラフC3を満たしている。したがって、燃料制御弁制御部35は、第3相関グラフC3を満たす混合気流量の対応値として、座標P2の混合気流量を取得する。
【0051】
ステップS5において、燃料制御弁制御部35は、混合気流量の実際値と混合気流量の対応値との差の絶対値Lが、所定の許容幅Aより大きいか否かを判定する。許容幅Aは、運転状態が相関グラフを満たしているか否かを判定するための基準値である。絶対値Lが許容幅A内にある限り運転状態が相関グラフを満たしているとみなされる。したがって、許容幅Aは、比較的小さな幅に設定されている。絶対値Lが許容幅Aよりも大きい場合、つまり運転状態が相関グラフを満たしていないとみなされる場合、燃料制御弁開度の制御に係るステップS6が実行される。絶対値Lが許容幅Aよりも小さい場合、つまり運転状態が相関グラフを満たしているとみなされる場合、燃料制御弁開度の制御は実行されず、ステップS1が再度実行される。
【0052】
ステップS6からS9において、燃料制御弁制御部35は、混合気流量の実際値と混合気流量の対応値との差の絶対値を小さくするように、燃料制御弁開度を制御する。
【0053】
ステップS6、S7において、燃料制御弁制御部35は、混合気流量の実際値と混合気流量の対応値との差の絶対値Lを小さくするために、燃料制御弁開度を減少させればよいかそれとも増加させればよいかを判定する。ステップS6において、燃料制御弁制御部35は、燃料制御弁開度を、所定の試行量だけ減少させる。ステップS7において、燃料制御弁開度の減少によって、絶対値Lが小さくなったか否かを判定する。絶対値Lが小さくなった場合、ステップS8が実行される。逆に、絶対値Lが大きくなった場合、ステップS9が実行される。
【0054】
ステップS8において、燃料制御弁制御部35は、燃料制御弁開度を一定量だけ増大させる。一方、ステップS9において、燃料制御弁制御部35は、燃料制御弁開度を一定量だけ減少させる。この一定量は、ステップS6における試行量よりも大きな量である。なお、ステップS8における増加量としての一定量と、ステップS9における減少量としての一定量とは、異なる量であっても良く、絶対値Lが大きくなるにつれて大きくなるように変更されても良い。
【0055】
ステップS8又はS9が終了すると、再度ステップS1が実行される。このため、発熱量の変動によって運転状態が一時的に、対応する相関グラフから外れたとしても、最終的に運転状態が対応する相関グラフを満たすようになる。
【0056】
((第1相関関係))
第1実施形態において、第1相関関係は、発熱量の変動による理論空燃比の変動に合わせて空燃比を変動させることによって、空気過剰率λを所定値λ0に保つように設定されている。第1実施形態における第1相関関係は、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の相関を示している。ミキサ8により混合気を生成する予混合燃焼エンジン1において、空燃比に関係する制御量には、例えば、混合気流量、燃料流量、空気流量、空燃比、及び燃料制御弁開度がある。混合気流量は、燃料流量及び空気流量の合計に等しい。空燃比は、燃料流量を空気流量で割ることによって得られる値に等しい。混合気はベンチュリ式ミキサ8によって生成されるので、燃料流量、空気流量、及び燃料制御弁開度の間には、所定の関係がある。このため、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の第1相関関係を、出力、燃料流量、及び空気流量の第1相関関係として表現でき、更に出力、燃料流量、及び空燃比の第1相関関係として表現できる。
【0057】
第1相関関係の表現形態の変更に応じて、空燃比を制御するために用いられる制御量も変更される。第1相関関係が、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の第1相関関係として表現される場合(第1実施形態)、空燃比を制御するための制御量は、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量である。ここで、基準となる第1相関関係を、例えば、出力、燃料流量、及び空燃比の第1相関関係に設定する。
【0058】
((点火時期調整制御))
図7を参照して、点火時期調整制御に関連する構成を説明する。図7は、点火時期調整制御に関連する構成を含むエンジン制御システム100を示す概略図である。制御装置30は、更に、発熱量演算部41、第2相関関係記憶部42、及び点火時期設定部43を備えている。発熱量演算部41は、燃料制御弁開度の実際値及び混合気流量の実際値によって特定される発熱量の実際値を算出する。第2相関関係記憶部42は、出力、回転数、発熱量、及び点火時期の第2相関関係を記憶している。点火時期設定部43は、点火時期を設定することによって点火時期を制御する。
【0059】
点火時期調整制御は、第1段階として、空気過剰率維持制御において空気過剰率λが所定値λ0に保たれていることに基づいて、燃料の発熱量を特定する。次に、点火時期調整制御は、第2段階として、発熱量に基づいて点火時期を制御する。以下で詳しく説明する。
【0060】
まず、点火時期調整制御の第1段階を説明する。空気過剰率維持制御において、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量が第1相関関係(図2)を満たすように制御される。このとき、空気過剰率λが所定値λ0に保たれている。この場合、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量を指定することによって、理論空燃比が特定される。上述したように、理論空燃比は、発熱量に応じて変動する。図2に示される第1相関関係は、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量を変数として表現されている。一方、上述したように、第1相関関係の表現形態を変更することができる。このため、第1相関関係を、図8に示されるように、出力及び混合気流量を定数とし、燃料制御弁開度及び発熱量を変数として、表現できる。
【0061】
図8は、出力、混合気流量、燃料制御弁開度、及び発熱量の第1相関関係を示す図である。図8には、相関グラフD1が示されている。相関グラフD1は、燃料制御弁開度及び発熱量の相関を示している。相関グラフD1において、空気過剰率λの実際値は所定値λ0に保たれており、出力の実際値及び混合気流量の実際値は一定値に保たれている。空気過剰率維持制御によって空気過剰率λが所定値λ0に保たれているとき、図8を参照することによって、発熱量の実際値が、燃料制御弁開度の実際値に基づいて、特定される。
【0062】
次に、点火時期調整制御の第2段階を説明する。図9は、出力、回転数、発熱量、及び点火時期の第2相関関係を示している。第2相関関係は、空気過剰率λが所定値λ0に保たれている場合における燃焼の熱効率が最大に保たれるように設定されている。図9には、相関グラフD2が示されている。相関グラフD2は、図10において得られる点データをカーブフィッティングすることによって、作成されている。
【0063】
図10は、発熱量、熱効率、及び点火時期の第3相関関係を示す図である。図10には、3つの相関グラフG1、G2、及びG3が示されており、各相関グラフG1、G2、及びG3の発熱量H1、H2、及びH3は一定に保たれている。発熱量は、相関グラフG1、G2、及びG3の順に高い。また、図10において、各相関グラフのピーク値が特定されている。ピーク値は、熱効率が最大の値を示している。相関グラフG1、G2、及びG3において熱効率を最大にする点火時期はそれぞれ、−35度、−25度、及び−15度である。この結果、熱効率が最大に保たれる場合における発熱量と点火時期との対応データとして、3つの点データ(H1,−35度)、(H2,−25度)、及び(H3,−15度)が得られる。これらの3つの点データをカーブフィッティングすることによって、図9に示される相関グラフD2が作成されている。
【0064】
図11を参照して、点火時期調整制御のフローを説明する。図11は、点火時期調整制御のフローを示す図である。制御装置30は、図11に示されるフローに基づいて、点火時期を設定する。
【0065】
ステップS11において、発熱量演算部41は、出力の実際値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値を取得する。出力の実際値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値は、それぞれ、出力センサ22、燃料制御弁開度センサ26、及び混合気流量演算部32によって得られている。
【0066】
ステップS12において、発熱量演算部41は、第1相関関係(図8)に基づいて、出力の実際値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値に対応する発熱量の実際値を特定する。出力の実際値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値は、現在の運転状態を示している。
【0067】
ステップS13において、点火時期設定部42は、第2相関関係(図9)に基づいて、発熱量演算部41によって特定された発熱量の実際値に対応する点火時期を特定し、特定された点火時期を、点火時期の目標値(目標点火時期)に設定する。この結果、目標点火時期に点火プラグ11の作動が行われる。
【0068】
発熱量の変動による最適な点火時期の変化に対応できるように、ステップS11−S13の処理は、エンジン1の運転中に、繰り返し実行される。
【0069】
(第2実施形態)
((空気過剰率維持制御))
図12は、エンジン1、エンジン制御システム100、及び燃料源200を示す概略図である。第2実施形態では、第1相関関係は、出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量の第1相関関係として表現されている。これに応じて、燃料制御弁開度の制御における制御量として、燃料制御弁開度の実際値の代わりに、燃料制御弁9の上流側と下流側との間における燃料圧力の差圧の実際値が用いられている。このため、第2実施形態に係るエンジン制御システム100は、燃料制御弁開度センサ26の代わりに、上流側圧力センサ27、下流側圧力センサ28、及び差圧演算部36を備えている。第2実施形態は、圧力センサ27、28、差圧演算部36、及び制御量として燃料圧力の差圧及び混合気流量を用いることを除いて、第1実施形態に等しい。以下では、第2実施形態と第1実施形態との間の相違点を説明する。
【0070】
上流側圧力センサ27及び下流側圧力センサ28は、燃料配管10内を流れる燃料の圧力を検出する。上流側圧力センサ27は燃料制御弁9の上流側に配置されており、下流側圧力センサ28は燃料制御弁9の下流側に配置されている。また、制御装置30は、更に差圧演算部36を備えている。差圧演算部36は、上流側圧力センサ27によって得られる上流側圧力と、下流側圧力センサ28によって得られる下流側圧力とに基づいて、燃料制御弁9の上流側と下流側との間における燃料圧力の差圧を検出する。
【0071】
図13は、出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量の第1相関関係を示す図である。図13において、縦軸は混合気流量の目標値を示しており、横軸は燃料圧力の差圧を示している。第1相関関係は、3つの相関グラフCa1、Ca2、及びCa3からなっている。各相関グラフは、出力毎に設定されており、燃料制御弁開度及び混合気流量の相関を示している。相関グラフCa1、Ca2、及びCa3は、それぞれ、出力が10kw、6kw、及び2kwに保たれている場合を示している。
【0072】
図14を参照して、空気過剰率維持制御のフローを説明する。図14は、燃料制御弁開度を調整するためのフローを示す図である。図14に示される燃料制御弁開度の制御に並行して、スロットル開度の制御が常時実行されている。
【0073】
第2実施形態では、第1相関関係が、出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量の関係として表現されている。つまり、第2実施形態では、第1相関関係を表現するために、燃料制御弁開度の代わりに、燃料圧力の差圧が用いられている。このため、ステップS3において、第1実施形態の燃料制御弁開度の実際値の代わりに、燃料圧力が差圧の実際値が用いられている。また、ステップS4において、燃料制御弁開度及び図2に示される第1相関関係の代わりに、燃料圧力の差圧及び図13に示される第1相関関係が用いられている。第1相関関係の表現に係る制御量において燃料制御弁開度の代わりに燃料圧力の差圧が用いられている点を除いて、空気過剰率維持制御のフロー自体は、第1及び第2実施形態において同じである。
【0074】
((点火時期調整制御))
図15を参照して、点火時期調整制御に関連する構成を説明する。図15は、点火時期調整制御に関連する構成を含むエンジン制御システム100を示す概略図である。点火時期調整制御に関連する構成において、第1及び第2実施形態の間に相違はない。しかし、第2実施形態では、第1相関関係は、出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量を制御量として表現されている。このため、発熱量演算部41は、出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量に基づいて発熱量を特定する。
【0075】
図16は、出力、燃料圧力の差圧、混合気流量、及び発熱量の第1相関関係を示す図である。図16には、相関グラフDa1が示されている。相関グラフDa1は、燃料圧力の差圧及び発熱量の相関を示している。相関グラフDa1において、空気過剰率λの実際値は所定値λ0に保たれており、出力の実際値及び混合気流量の実際値は一定値に保たれている。空気過剰率維持制御によって空気過剰率λが所定値λ0に保たれているとき、図16を参照することによって、発熱量の実際値が、燃料圧力の差圧の実際値に基づいて、特定される。
【0076】
図17は、点火時期調整制御のフローを示す図である。ステップS11において、発熱量演算部41は、出力の実際値、燃料圧力の差圧の実際値、及び混合気流量の実際値を取得する。ステップS12において、発熱量演算部41は、第1相関関係(図16)に基づいて、出力の実際値、燃料圧力の差圧の実際値、及び混合気流量の実際値に対応する発熱量の実際値を特定する。出力の実際値、燃料圧力の差圧の実際値、及び混合気流量の実際値は、現在の運転状態を示している。ステップS13において、点火時期設定部42は、第2相関関係(図17)に基づいて、発熱量演算部41によって特定された発熱量の実際値に対応する点火時期を特定し、特定された点火時期を、点火時期の目標値(目標点火時期)に設定する。
【0077】
(第3実施形態)
図18は、エンジン1、エンジン制御システム100、及び燃料源200を示す概略図である。第3実施形態は、混合気流量を特定するための情報として、給気圧力及び給気温度に代えて、給気圧力のみを利用している。このため、第3実施形態におけるエンジン制御システム100は、給気圧力センサ23を備えているが、給気温度センサ24を備えていない。また、混合気流量演算部32は、給気温度の検出値の情報を利用することなく、回転数の検出値、及び給気圧力の検出値に基づいて、混合気流量を算出する。第3実施形態は、給気温度の検出値を用いることなく混合気流量の検出値を取得する点を除いて、第1実施形態に等しい。
【0078】
(本実施形態の効果)
本実施形態(第1−第3実施形態)に係るエンジン制御方法は、次の効果を有している。本実施形態では、出力、燃料流量、及び空燃比の第1相関関係が、発熱量の変動による理論空燃比の変動に合わせて空燃比を変動させることによって、空気過剰率λを所定値λ0に保つように設定されている。このため、本実施形態に係るエンジン制御方法は、第1相関関係を満たすように出力、燃料流量、及び空燃比を制御することによって、発熱量の変動によって理論空燃比が変動しても空気過剰率を所定値に保つことができる。また、本実施形態では、出力、回転数、発熱量、及び点火時期の第2相関関係が、燃焼の熱効率が最大に保たれるように設定されている。このため、本実施形態に係るエンジン制御方法は、発熱量の変動によって理論空燃比が変動しても、燃焼の熱効率を最大にするように点火時期を制御できる。
【0079】
(変形例)
本エンジン制御方法は、次の変形構成を採用できる。
【0080】
第1相関関係の表現形態は、出力、燃料流量、及び空燃比の第1相関関係に限定されない。空燃比を制御するための制御量として、混合気流量、燃料流量、空気流量、空燃比、燃料制御弁開度、及び燃料流量の差圧のうちの複数の量を利用できる。
【0081】
出力、燃料流量、及び空燃比の第1相関関係は、ミキサにより混合気を生成する予混合燃焼エンジンだけでなく、インジェクターにより燃料を噴射するエンジンを含む一般のエンジンにおいて、成立する。このため、本エンジン制御方法を、一般のエンジンに適用できる。
【0082】
本エンジン制御方法は、燃料流量を特定するための混合気流量を、給気圧力及び給気温度に基づいて、又は給気圧力のみに基づいて、算出できる。
【0083】
本エンジン制御方法は燃料流量の検出値に基づいて点火時期を決定するので、本エンジン制御方法を、ミキサを有するエンジンだけでなく、インジェクターを有するエンジンに適用できる。
【0084】
本実施形態では、エンジンの出力は、発電機12の出力に基づいて算出されている。エンジンの出力は、回転数の検出値と、予め取得された回転数とトルクとの関係とに基づいて、算出されても良い。
【符号の説明】
【0085】
1 エンジン
21 回転数センサ
22 出力センサ
23 給気圧力センサ
24 給気温度センサ
25 スロットル開度センサ
26 燃料制御弁開度センサ
27 上流側圧力センサ
28 下流側圧力センサ
31 出力目標値設定部
32 混合気流量演算部
34 第1相関関係記憶部
35 燃料制御弁制御部
36 差圧演算部
41 発熱量演算部
42 第2相関関係記憶部
43 点火時期設定部
100 エンジン制御システム
200 燃料源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の単位体積当たりの発熱量が変動する場合にエンジンを制御するエンジン制御方法であって、
エンジンの出力の目標値を設定する工程と、
出力の実際値を検出する工程と、
燃料流量の実際値と空燃比の実際値とを特定できる制御量の実際値を検出する工程と、
出力の実際値が出力の目標値に一致するように、且つ出力の目標値、燃料流量の実際値、及び空燃比の実際値が、出力、燃料流量、及び空燃比の第1相関関係を満たすように、燃料流量及び空燃比を制御する工程と、
エンジンの回転数の実際値を検出する工程と、
出力の実際値、回転数の実際値、空燃比の実際値によって特定される発熱量の実際値、及び点火時期の目標値が、出力、回転数、発熱量、及び点火時期の第2相関関係を満たすように、点火時期を制御する工程と、を備えており、
第1相関関係は、発熱量の変動による理論空燃比の変動に合わせて空燃比を変動させることによって、空気過剰率を所定値に保つように設定されており、
第2相関関係は、空気過剰率が所定値に保たれている場合に燃焼の熱効率が最大に保たれるように設定されている、
ことを特徴とするエンジン制御方法。
【請求項2】
前記エンジンは、ミキサにより混合気を生成する予混合燃焼エンジンであり、
制御量の実際値を検出する工程は、
燃料制御弁開度の実際値を検出する工程と、
混合気流量の実際値を検出する工程と、からなっており、
燃料流量及び空燃比を制御する工程は、
出力の実際値が出力の目標値に一致するように混合気流量を制御する工程と、
出力の実際値、燃料制御弁開度の実際値、及び混合気流量の実際値が、第1相関関係を満たすように、燃料制御弁開度を制御する工程と、からなっており、
点火時期を制御する工程において、発熱量の実際値は、燃料制御弁開度の実際値及び混合気流量の実際値によって特定されており、
第1相関関係は、出力、燃料制御弁開度、及び混合気流量の相関関係として表現されている、
請求項1に記載のエンジン制御方法。
【請求項3】
前記エンジンは、ミキサにより混合気を生成する予混合燃焼エンジンであり、
制御量の実際値を検出する工程は、
燃料制御弁の上流側と下流側との間における燃料圧力の差圧の実際値を検出する工程と、
混合気流量の実際値を検出する工程と、からなっており、
燃料流量及び空燃比を制御する工程は、
出力の実際値が出力の目標値に一致するように混合気流量を制御する工程と、
出力の実際値、燃料圧力の差圧の実際値、及び混合気流量の実際値が、第1相関関係を満たすように、燃料制御弁開度を制御する工程と、からなっており、
点火時期を制御する工程において、発熱量の実際値は、燃料圧力の差圧の実際値及び混合気流量の実際値によって特定されており、
第1相関関係は、出力、燃料圧力の差圧、及び混合気流量の相関関係として表現されている、
請求項1に記載のエンジン制御方法。
【請求項4】
混合気流量の実際値を検出する工程は、
給気圧力の実際値を検出する工程と、
給気温度の実際値を検出する工程と、
給気圧力の実際値及び給気圧力の実際値に基づいて混合気流量の実際値を算出する工程と、からなっている、
請求項2又は3に記載のエンジン制御方法。
【請求項5】
混合気流量の実際値を検出する工程は、
給気圧力の実際値を検出する工程と、
給気圧力の実際値に基づいて混合気流量の実際値を算出する工程と、からなっている、
請求項2又は3に記載のエンジン制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−87758(P2012−87758A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237563(P2010−237563)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】