説明

オートバイに対して働く左右方向の力の削減のための方法及び装置

【課題】オートバイのカーブ走行の際に、後輪の横滑り、オートバイは棒立ち(ハイサイダー)を防ぐ制御装置及び方法を提供する。
【解決手段】カーブ走行の間にオートバイの後輪が左右方向にスリップする不安定な状態を後輪のスリップ角、操舵角、車体の傾斜状態、加速度、後輪のホイールスリップ等の変化度により検知して、ハイサイダーの危険が検知されると、ドライバーがその様な状況でエンジントルクを絞っても、エンジントルクの低下が自動的に制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、オートバイに対して働く左右方向の力の削減のための方法および当該方法の実施のための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オートバイのカーブ走行の際には速度が高過ぎると車輪の接地力の限界が越えられてしまうことがある。そうなると、後輪がカーブの外側の方向へ横滑りし始め、後輪のスリップが大きくなる。その様な状況の下でドライバーがアクセルを緩めると、後輪のスリップが低下して、後輪が急激に接地力を獲得する。それによってオートバイは棒立ちに立ち上がり、後輪のショックアブソーバが一杯に縮んでから再び伸び、ドライバーをシートからカタパルトの様に‘発射’してしまう。その様な状況は“ハイサイダー(Highsider)”とも呼ばれている。
【0003】
図1は或る場合にはカーブを通って安定に走り又別の場合はハイサイダーを発生させる、カーブ走行の際のオートバイの運動の軌道を示している。その際この安定なカーブ走行は参照番号2で又ハイサイダーを伴う不安定なカーブ走行は参照番号3で示されている。
【0004】
ハイサイダーが発生する状況の下ではオートバイは先ず運動の軌道2の上を、左から右へ、ポイントT迄動いて行く。この時点で後輪のタイヤの最大伝達可能なコーナリングフォースがオーバーされる。それによって後輪が外へ向かって横方向にスリップする。次いでオートバイは線3の上をカーブの外側の方向へ動いて行く。時点Tでドライバーは、後輪のそれ以上のスリップと場合によっては起こり得る転倒を避けるために、直観的にアクセルを緩める。それによって後輪は再び静止摩擦を獲得する。ポイントTとTとの間でオートバイは再び獲得されたコーナリングフォースによって立ち上がり、後輪のショックアブソーバが縮んでから位置Tで再び伸び、これによってドライバーはシートから‘発射’されてしまう。もしドライバーが投げ落とされてしまわなければ、後輪の動きはポイントTとTの間で再び収束するので、走行の継続が可能である。しかしながらその様な走行状況は訓練を積んでいないドライバーにとっては大抵の場合最早コントロール不能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って本発明の課題は、その様な状況の下でオートバイとドライバーに対して働く力を削減することの出来る装置及び方法を作ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は本発明によれば特許請求項1並びに特許請求項7に示されているメルクマールによって解決される。本発明のその他の実施態様は諸従属請求項の対象となっている。
本発明によれば走行状況が、後輪がカーブ走行の間に左右方向へスリップする不安定な状態に関して監視される。その様な不安定な走行状態は常にハイサイダーの最初の段階で発生するので、ハイサイダーの危険を示唆している。本発明によれば、ドライバーがその様な状況の下でエンジントルクを引き下げた時に、エンジントルクの低下が制限される。ハイサイダーの運動力学はとりわけ、ドライバーが限界状況の認知の後でどれだけ速やかにアクセルを戻すかと云うことに依存していると云うことが既に明らかにされている。エンジントルクの許容引下げが自動的に制限されれば、オートバイとドライバーに対して働く力を大幅に減少させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は安定なカーブ走行とハイサイダーの時のオートバイの、運動軌道付きの走行軌道を示す。
【図2a】図2aはエンジントルクの許容低下の制限付きと制限無しの場合の、ハイサイダーの下でのエンジントルクの変化を示す。
【図2b】図2bはエンジントルクの低下の制限付きと制限無しの場合の、後輪のホイールスリップの変化を示す。
【図2c】図2cはエンジントルクの低下の制限付きと制限無しの場合の、後輪のスリップ角の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
上述した不安定な状態は好ましくは次の諸パラメータ、とりわけ後輪のスリップ角、操舵角、車体の傾斜状態、加速度、後輪のホイールスリップ、車両速度、の内の一つ又は幾つかの評価、及び/又は、それ等の諸パラメータの内の一つの変化度(勾配)の評価、によって検知される。それ等のパラメータの内の一つ又は幾つかの動きが例えば定められた、前もって定められた、モデルに対応しているか或いはそれ等のパラメータの内の少なくとも一つが前もって定められた閾値をオーバーしていると、不安定な状態が検知される。
【0009】
一つの好ましくは実施態様によれば後輪のホイールスリップ変化度及び/又はスリップ角変化度が監視される。対象となっている変化度(勾配)が例えば定められている閾値をオーバーするか或いは操作のその後の動きの中で値ゼロになる(即ち観察されているパラメータの値が最大値になる)と、ハイサイダーの危険が検知されてエンジントルクの低下が制限される。
【0010】
最大値ではエンジントルクの低下が制限されるが、その最大値は好ましくは、後輪のスリップ角、操舵角、及び/又は後輪のホイールスリップの向きが反対方向とならない様に定められる。即ち、監視されているパラメータがハイサイダーの初期段階の間に正の値領域内にあれば、そのパラメータは負の値領域へ達してはならず、又逆の場合にはその反対となる。
【0011】
本発明の一つの特別な実施態様によれば後輪のホイールサスペンションのばね又はショックアブソーバ特性が、不安定な状態が検知された後に自動的に変化される。好ましくはこのばね及び/又は減衰特性は少なくとも、スプリングが緩やかに伸びる様に変化される。
【0012】
最大値ではエンジントルクの低下が制限されるが、その最大値は可変的とすることが出来、例えば次の諸パラメータ、即ち後輪のスリップ角、操舵角、車体の傾斜状態、加速度、ホイールスリップ、車両速度、の大きさ、及び/又は、それ等の諸パラメータの内の一つの変化度(勾配)の大きさ、に依存している。従ってこの最大値は様々な状況に適合させることが出来る。
【0013】
ハイサイダーの危険の検知のために好ましくは、上述の諸パラメータの内の一つ又は幾つかを測定する適当なセンサ装置が備えられている。対応するアルゴリズムを備えている制御装置がセンサ信号を評価し、ハイサイダーの危険が検知されると、例えば噴射或いはスロットルバルブの制御を通じて、エンジントルクの低下を制限する。
なお、各図について、以下のとおり補足説明する。
【0014】
図1の説明については明細書の導入の部分を参照されたい。
図2aはカーブ走行の間のハイサイダーの発生時のエンジントルクの変化6を示している。図に示されている例ではドライバーがエンジントルクを時点Tから最大値まで連続的に引き上げて行く。その際後輪はその静止摩擦を変化させ、左右方向へスリップする。既に図1に関して述べられた様に、ドライバーは転倒を避けるために時点Tから突然エンジントルクを低下させる。それに応じて特性曲線6の中には急なこう配が認められる。
【0015】
それに続く後輪のサスペンションの収縮を弱めて、オートバイとドライバーに対して働く力を削減するために、ここでエンジントルクの低下が定められた値に制限される。これが破線7として示されている。ご覧の通り、破線7はドライバーによって設定されたエンジントルクよりも緩やかな変化度(勾配)を示している。
【0016】
図2bと2cには後輪の対応するホイールスリップλとスリップ角βの変化が示されている。時点TとTの間の段階では後輪のホイールスリップ(特性曲線5)もスリップ角(特性曲線4)も連続的に増加して行き、ほぼ時点T2で最大値が到達される。この時点でドライバーは直感的にアクセルを緩め、ホイールスリップλもスリップ角βも急激に低下する。ご覧の通り、この変化は反対方向へ大きく曲げられ、ホイールスリップλもスリップ角βも負の値を取っている。
【0017】
それに対してエンジントルクが自動的に制限される(特性曲線7参照)と、ホイールスリップλの低下もスリップ角βの低下も変化度(勾配)はより緩やかとなる。どちらのパラメータも正の値領域の中に留まっている。その結果、オートバイの上での様々な動力学的プロセスが大幅に緩やかに行われ、最も上手く行けばドライバーはオートバイから“発射”されなくなる。
【符号の説明】
【0018】
1 曲線道路
2 安定なカーブ走行軌道
3 ハイサイダーを伴う不安定なカーブ走行軌道
4 スリップ角の特性曲線
5 ホイールスリップの特性曲線
6 カーブ走行の間のハイサイダーの発生時のエンジントルクの変化
7、8、9 エンジントルクが自動的に制限された時の特性曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不安定なカーブ走行の際にオートバイに対して働く力の削減のための方法であって、
走行状況を、カーブ走行の間のオートバイの後輪が左右方向にスリップする不安定な状態について監視するステップと、
ドライバーがその様な状況の下でエンジントルクを引き下げる時に、エンジントルクの低下を制限するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
不安定な状況が以下の諸パラメータ、即ち後輪のスリップ角、操舵角、車体の傾斜状態、加速度、後輪のホイールスリップ、及び、それ等の諸パラメータの内の一つの変化度のうちの、少なくとも一つのパラメータの評価によって検知されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
エンジントルクの低下が、スリップ角、操舵角、及び後輪のホイールスリップの少なくとも一つが、負の値領域へ入らない様に定められている最大値に制限されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
後輪のホイールスリップ変化度及びスリップ角変化度の少なくともいずれかが監視され、その変化度が定められた閾値をオーバーし、その後の変化の中で変化度が値ゼロに到達すると、不安定な状態が検知され、且つエンジントルクの低下が制限されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
駆動輪のサスペンションのばね又はショックアブソーバ特性が変化されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
最大値でエンジントルクの低下が制限されるが、その最大値が好ましくは、以下の諸パラメータ、即ちスリップ角、操舵角、車体の傾斜状態、加速度、ホイールスリップ、車両速度の大きさの内の一つ又は幾つかに依存しているか、それ等のパラメータの内の何れかの変化度の大きさに依存していることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法を実施するのための手段を含んでいる制御装置。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【公開番号】特開2011−94619(P2011−94619A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239284(P2010−239284)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】