説明

ガスバリア性蒸着フィルム、その製造方法及びそれを使用した積層材

【課題】 アンチモン系触媒を使用せずに製造された蒸着フィルムであって、且つ、優れたガスバリア性を示し、包装用途及び光学用途に好適な物性を備えた蒸着フィルム。
【解決手段】 重縮合触媒としてチタン系触媒を使用して製造したポリエステルフィルムからなる基材フィルムの一方の面に、アンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートを積層したガスバリア性蒸着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性を有する蒸着フィルム、その製造方法、及びそれを使用した積層材に関する。より詳細には、本発明は、酸素ガス又は水蒸気等に対する高いバリア性を有すると共に、飲食品、医薬品、化粧品、化学品、電子製品、雑貨品等の種々の物品の充填包装に好適な物性及び色調を有する蒸着フィルム、その製造方法、及びそれを使用した積層材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲食品、医薬品、化粧品等の物品を充填包装するために、種々の包装用素材が開発され、提案されている。それらの中で、近年、酸素ガス又は水蒸気等に対するバリア性素材として、プラスチックフィルムの表面に、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等の酸化物を使用し、各種蒸着方法により、その酸化物蒸着膜を形成してなるガスバリア性蒸着フィルムが注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、透明性及びガスバリア性に優れたフィルムであって、基材となるプラスチックフィルム上に酸化物蒸着膜を設け、その上に、ケイ素酸化物膜からなる塗布膜を設けたことを特徴とする透明ガスバリア性フィルムを開示する。
【0004】
このようなガスバリア性蒸着フィルムにおいて、基材となるプラスチックフィルムとしては、機械的強度、化学的安定性に優れ、さらに軽量かつ安価であるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのようなポリエステルフィルムが広く用いられている。
【0005】
ポリエステルは、その製造時の重縮合反応において何らかの触媒を要し、該重縮合触媒としては、アンチモン系触媒、ゲルマニウム系触媒等が挙げられる。しかしながら、ゲルマニウム系触媒は、非常に高価であり、コスト面での負担が大きいため、工業的規模での使用には制限がある。これに対し、アンチモン系触媒は安価であり、そしてこれにより得られるポリエステルは透明度が高く、酸化物を蒸着させた場合に優れたガスバリア性を示し得る。したがって、現在のところ、ガスバリア性蒸着フィルムの基材として使用するポリエステルフィルムの製造においては、アンチモン系触媒、例えば三酸化アンチモンが最も一般的に用いられている。
【0006】
しかしながら、近年、ポリエステル製品に関し、アンチモン系触媒の毒性に基く安全・衛生性の欠如、及び環境への負荷が問題視されている。具体的には、アンチモン系触媒を用いて製造されるポリエステル中には、数百ppmのアンチモンが混入するため、環境上好ましくなく、また、該ポリエステルからなる包装容器中に入れられた飲料水においては、アンチモン濃度が上昇することが明らかになっており、人体への悪影響が懸念されている。
【特許文献1】特開平11−151774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アンチモン系触媒を使用せずに製造された蒸着フィルムであって、且つ、優れたガスバリア性を示し、包装用途及び光学用途に好適な色調、防湿性、耐衝撃性等を備えた蒸着フィルム、その製造方法、及びそれを使用した積層材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、基材フィルムとして、アンチモン系触媒以外の種々の重縮合触媒を使用して製造したポリエステルからなる、様々な物性を示すポリエステルフィルムを用いて、これにアンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートを順に積層し、その相性を調べた。その結果、優れたガスバリア性を示し、かつ包装用途及び光学用途に好適な色調、防湿性、耐衝撃性等を備えた蒸着フィルムを得るために必要な、基材フィルムの特性に関する条件を見出した。
【0009】
具体的には、重縮合触媒としてチタン系触媒を使用して製造したポリエステルからなり、その色座標b値が−0.5〜5であるフィルムであって、且つ、該フィルムに荷重0.05〜0.15N/mmを負荷しながら昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温するときに、その縦方向及び横方向の寸法変化率がそれぞれ−5.0〜+1.0%及び−2.0〜+2.0%であるポリエステルフィルムを、基材フィルムとして用いて、その一方の面に、アンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートを順に積層した蒸着フィルムを製造したところ、上記目的の蒸着フィルムが得られた。
また、このガスバリア性蒸着フィルムのバリアコート側の表面上に、ヒートシール性樹脂層を積層することにより、包装用途に好適な積層材が得られた。
【0010】
すなわち、本発明は、基材フィルムの一方の面に、アンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートを順に積層したガスバリア性蒸着フィルムであって、該基材フィルムが、重縮合触媒としてチタン系触媒を使用して製造したポリエステルフィルムからなり、該基材フィルムの色座標b値が−0.5〜5であり、且つ、該基材フィルムに荷重0.05〜0.15N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温するときに、基材フィルムの縦方向及び横方向の寸法変化率が、それぞれ−5.0〜+1.0%及び−2.0〜+2.0%である、ガスバリア性蒸着フィルム、及びそれを使用した積層材に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のガスバリア性蒸着フィルム、及びそれを使用した積層材は、アンチモンを含有せず、したがって環境面及び安全・衛生面において好ましいものである。
また、本発明において基材フィルムとして使用されるポリエステルフィルムは、(i)色座標b値−0.5〜5、並びに、(ii)実際の工程において蒸着中に基材フィルムにかかる荷重に相当する荷重0.05〜0.15N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温するときの、縦方向の寸法変化率−5.0〜+1.0%、及び(iii)横方向の寸法変化率−2.0〜+2.0%、の条件を満たすものである。これら全ての条件を満たすポリエステルフィルムは、包装用途及び光学用途に好適な色調を有し、低分子量成分を溶出しにくいため、アンカーコート及び酸化物蒸着膜の膜質との相性がよく、該酸化物を極めて密に蒸着させることができ、また、蒸着膜の膜質の劣化に起因するガスバリア性の劣化を最小限に抑えることができる。したがって、本発明によれば、酸素ガス、水蒸気等に対する高いガスバリア性を安定して維持することができ、同時に、良好な色調、防湿性、耐衝撃性等を備えた蒸着フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下に図面等を用いてさらに詳しく説明する。
<1>本発明のガスバリア性蒸着フィルムの層構成
まず、本発明のガスバリア性蒸着フィルムの層構成について説明する。図1は、本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムについて、その層構成の一例を示す概略的断面図である。
本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムAは、図1に示すように、基材フィルム1の一方の面に、アンカーコート2、酸化物蒸着膜3及びバリアコート4を順に積層した構成を基本構造とするものである。
また、本発明において、酸化物蒸着膜の層は、単層であっても、2層以上からなる多層であってもよい。
【0013】
<2>基材フィルム
本発明において、酸化物蒸着膜を支持する基材フィルムとして、ポリエステルフィルムが用いられる。該ポリエステルフィルムは、有害な重金属であるアンチモン系触媒を使用して製造したものであってはならず、安価で安全衛生等に問題のないチタン系触媒を使用して製造することが好ましい。
(1)色座標b値
チタン系触媒を使用して製造されるポリエステルの中でも、本発明においては特に、色調として、JIS Z8730の参考1に記載されるLab表色系におけるハンターの色差式の色座標b値が−0.5〜5、より好ましくは0〜4であるものを使用する。チタン系触媒を使用して製造されるポリエステルは、一般的には、特有の黄色みを有し、フィルムを通して色彩が変化するため、食品包装用や光学用途に適しないものが多いが、当該範囲の色座標b値を有するものは、本発明に従ってアンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートを積層したときに、前記用途にも好適な色調を示す。
色座標b値が−0.5より小さいものは、アンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートを積層したときに、青みが強くなりすぎるため、また5より大きいものは、黄色みが強くなりすぎるため、好ましくない。
【0014】
(2)触媒
上記の範囲の色座標b値の調整は、黄色みの抑えられたポリエステルが得られるよう開発された種々のチタン系触媒、例えば、周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素の化合物と、マグネシウム化合物及びリン化合物より選択される少なくとも1種の化合物との混合物であるチタン系触媒を使用することにより行うことができる。
【0015】
(3)寸法変化率
また、本発明において、基材フィルムは、アンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートを支持する基材であることから、熱的寸法変化に優れ、アンカーコート、酸化物蒸着膜及びバリアコートの形成、加工等の条件に耐え、かつ、該蒸着膜の特性を損なうことなく、良好に支持し得るものでなければならない。
このような観点から、上記色座標b値及び触媒に関する条件と合わせて、本発明においては、荷重0.05〜0.15N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温するときに、縦方向の寸法変化率が−5.0〜+1.0%、好ましくは−5.0〜−2.0%であり、そして横方向の寸法変化率が−2.0〜+2.0%、好ましくは−1.0〜+1.0%であるポリエステルフィルムを使用する。
縦方向及び横方向の寸法変化率が上記の範囲を外れる場合、昇温に伴うポリエステルフィルムの寸法変化によって、酸化物蒸着膜にマイクロクラックが入るため、好ましくない。
【0016】
本発明において、このようなポリエステルフィルムの数値限定は、酸化物蒸着膜を積層する蒸着工程において、ポリエステルフィルムが曝される環境、すなわち、テンション(張力)を張った状態で高温領域を走行する環境下でのポリエステルフィルムの寸法変化に着目し、その範囲を限定したものである。荷重0.05〜0.15N/mmという限定は、実際にポリエステルフィルムにかかるテンション(張力)を意味し、昇温速度5℃/minで25〜200℃という限定は、蒸着チャンバー内において、コーターの乾燥フード内の温度範囲を意味する。
【0017】
(4)材料
本発明のガスバリア性蒸着フィルムにおいて、酸化物蒸着膜を支持する基材層を構成するポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるフィルムが最適であり、また、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCT)等の樹脂からなるフィルムを使用することができる。
【0018】
(5)膜厚
ポリエステルフィルムの厚さとしては、製造時の安定性等を考慮して、約6〜100μm、好ましくは10〜40μmが望ましい。
【0019】
(6)製造方法
本発明において、ポリエステルフィルムは、例えば、上記のポリエステル系樹脂の1種又はそれ以上を、個々に又は混合して使用し、適切なチタン系触媒を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法、多層共押し出し法等の製膜化法を用いて製造することができる。また、ポリエステルフィルムは、未延伸、縦方向若しくは横方向のいずれかの一軸方向、又は二軸方向に延伸した延伸フィルムであってもよい。その延伸方法としては、例えば、フラット法、インフレーション法等の公知の方法で行うことができ、その延伸倍率としては、2倍〜10倍のものを使用することができる。
【0020】
(7)添加剤
なお、ポリエステルフィルムには、用途に応じて、例えば帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、充填剤等の所望の添加剤を、その色調に影響しない範囲内で任意に添加することができる。
【0021】
<3>アンカーコート
本発明において、基材フィルムと酸化物蒸着膜との間に、アンカーコート層を設ける。これにより、基材フィルムと酸化物蒸着膜との密着強度を高め、熱水殺菌処理後のデラミネーションの発生を防くことができる。
このような目的で、本発明において使用することができるアンカーコート剤としては、耐熱温度が135℃以上である任意の樹脂、例えばビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等からなるアンカーコート剤が挙げられるが、特に、構造中に2以上のヒドロキシル基を有するポリアクリル系又はポリメタクリル系樹脂と、硬化剤としてのイソシアネート化合物とからなるアンカーコート剤を、好ましく使用することができる。
また、これに添加剤としてシランカップリング剤を併用してもよく、また、硝化綿を、耐熱性を高めるために併用してもよい。
【0022】
本発明において、構造中に2以上のヒドロキシル基を有するポリアクリル系又はポリメタクリル系樹脂とは、アクリル酸誘導体モノマーを単独で重合させるか、又はその他のモノマーと共に共重合させて得られる高分子化合物であって、末端ヒドロキシル基を有するものを意味し、例えばエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートやヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレートなどのアクリル酸誘導体モノマーを単独で重合させたものや、スチレン等のその他のモノマーを加え共重合させたアクリルポリオール等が挙げられる。
【0023】
本発明において、イソシアネート化合物は、アクリルポリオールと反応してウレタン結合を形成する化合物であって、イソシアネート硬化剤として知られる任意の化合物、例えば芳香族系のトリレンジイソシアネート(TDI)やジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、TDI、MDIの水添体や、脂肪族系のキシレンジイソシアネート(XDI)やヘキサレンジイソシアネート(HMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などのモノマー類と、これらの重合体、誘導体が用いられ、これらが単独か又は混合物等として用いられる。
【0024】
アンカーコート層は、上述のようなアンカーコート剤を、例えばロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレイコート等の公知のコーティング法でコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去し、硬化させることにより、形成することができる。上記のアンカーコート層の厚さは、0.2〜0.3μm程度が好ましい。
【0025】
<4>酸化物蒸着膜
本発明において、酸化物蒸着膜としては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の酸化物からなる蒸着膜を挙げることができる。
好ましいものとしては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等の金属の酸化物からなる蒸着膜を挙げることができる。
【0026】
また、上記の金属の酸化物蒸着膜は、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物等のように金属酸化物ともいうことができ、その表記は、例えば、SiOx、AlOx、MgOx等のようにMOx(ただし、式中、Mは、金属元素を表し、xの値は、金属元素によってそれぞれ範囲が異なる)で表される。
【0027】
また、上記のxの値の範囲として、ケイ素(Si)は0〜2、アルミニウム(Al)は0〜1.5、マグネシウム(Mg)は0〜1、カルシウム(Ca)は0〜1、カリウム(K)は0〜0.5、スズ(Sn)は0〜2、ナトリウム(Na)は0〜0.5、ホウ素(B)は0〜1.5、チタン(Ti)は0〜2、鉛(Pb)は0〜1、ジルコニウム(Zr)は0〜2、イットリウム(Y)は0〜1.5の範囲の値をとることができる。
上記において、x=0の場合は、完全な金属であり、透明ではないので使用することができない。また、xの範囲の上限は、完全に酸化したときの値である。
望ましくは、ケイ素(Si)は1.0〜2.0、アルミニウム(Al)は0.5〜1.5の範囲の値のものを使用することができる。
【0028】
酸化物蒸着膜の膜厚は、使用する金属、又は金属の酸化物の種類等によって異なるが、例えば50〜1000Å、好ましくは100〜500Åの範囲内で任意に選択することができる。
また、酸化物蒸着膜として、使用する金属、又は金属の酸化物は、1種又は2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した酸化物蒸着膜を構成することもできる。
【0029】
さらに、酸化物が、酸化ケイ素である場合は、SiOxCyで表される炭素含有酸化ケイ素であってもよい[式中、xは1.5〜2.2の範囲内にあって、yは0.15〜0.80の範囲内にあるのが好ましく、そしてxが1.7〜2.1の範囲内にあって、yが0.39〜0.47の範囲内にあるのがさらに好ましい]。
【0030】
<5>蒸着方法
本発明において、所望のガスバリア性を得るために、上記酸化物蒸着膜を、化学気相成長法又は物理気相成長法により、又はこれらを併用して形成することができる。
(1)化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)
化学気相成長法には、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等が含まれる。
本発明においては、具体的には、基材フィルムの一方の面に設けたアンカーコートの上に、有機ケイ素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて、酸化物からなる蒸着膜を形成することができる。
【0031】
本発明における、低温プラズマ化学気相成長法による酸化物蒸着膜の形成法について、その一例を挙げて説明する。図2は、上記のプラズマ化学気相成長法において使用される低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
【0032】
本発明においては、図2に示すように、低温プラズマ化学気相成長装置21の真空チャンバー22内に配置された巻き出しロール23から、予めアンカーコートを積層した基材フィルム1を繰り出し、更に、該基材フィルム1を、補助ロール24を介して所定の速度で冷却・電極ドラム25周面上に搬送する。ガス供給装置26、27及び、原料揮発供給装置28から酸素ガス、不活性ガス、蒸着用モノマーガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しながら原料供給ノズル29を通して真空チャンバー22内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム25周面上に搬送された、基材フィルム1の一方の面に設けたアンカーコートの上に、グロー放電プラズマ30によってプラズマを発生させ、これを照射して、酸化物蒸着膜を形成する。その際に、冷却・電極ドラム25は、真空チャンバー22の外に配置されている電源31から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム25の近傍には、マグネット32を配置してプラズマの発生が促進されている。次いで、基材フィルム1は、予めアンカーコートを積層した側の表面に、酸化物蒸着膜を形成した後、補助ロール33を介して巻き取りロール34に巻き取られる。なお、図中、35は真空ポンプを表す。
【0033】
図示しないが、本発明において、酸化物蒸着膜の層は、単層であっても、2層以上からなる多層であってもよく、また、使用する酸化物は、単独で使用しても、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0034】
また、上記の低温プラズマ化学気相成長装置において、酸化物蒸着膜は、プラズマ化した原料ガスを用いて、基材フィルム上に薄膜状に形成されるので、緻密で、隙間の少ない、可撓性に富む連続層となる。従って、従来の真空蒸着法等によって形成される酸化物蒸着膜よりもはるかに高いバリア性を示し、薄い膜厚で十分なバリア性を得ることができる。
【0035】
また、本発明においては、プラズマにより基材フィルムの表面が清浄化され、基材フィルムの表面に極性基やフリーラジカル等が発生するので、形成される酸化物蒸着膜と基材フィルムとの密接着性が高いものとなるという利点を有する。
【0036】
(2)物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)
物理気相成長法には、例えば、真空蒸着法、スバッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等が含まれる。
本発明における酸化物の蒸着方法について、その一例を挙げてさらに具体的に説明する。図3は、本発明における酸化物の蒸着方法の一例を示す巻き取り式真空蒸着装置の概略的構成図である。
【0037】
図3に示すように、巻き取り式真空蒸着装置41の真空チャンバー42の中で、巻き出しロール43から、予めアンカーコートを積層した基材フィルム1を繰り出し、該基材フィルム1を、ガイドロール44、45を介して、冷却したコーティングドラム46に案内する。次いで、冷却したコーティングドラム46上に案内された基材フィルム1の一方の面に設けたアンカーコートの上に、るつぼ47で熱せられた蒸着源48を、必要ならば、酸素ガス吹出口49から酸素ガス等を供給しながら蒸着させ、マスク50を介して酸化物蒸着膜を成膜化する。次いで、酸化物蒸着膜を積層した基材フィルム1を、ガイドロール51、52を介して、巻き取りロール53に巻き取る。これにより、本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムを製造することができる。
【0038】
<6>バリアコート、及びその形成方法
(1)バリアコート
本発明の透明ガスバリア性フィルムにおいては、上記酸化物蒸着膜上に、さらにバリアコートを設ける。これにより、さらにガスバリア性を向上することができる。このようなバリアコートとしては、一般式:R1nM(OR2mで表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールを含有する組成物をゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物によるものを好適に使用することができる。
【0039】
上記のバリアコートに好適に使用できるアルコキシドは、一般式:R1nM(OR2m(式中、R1、R2が炭素数1〜8の有機基、Mは金属原子、nは0以上の整数、mは1以上の整数、n+mはMの原子価を表す)で表されるものであり、このアルコキシドの部分加水分解物又はアルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができる。なお上記のアルコキシドの部分加水分解物としては、アルコキシ基のすべてが加水分解されている必要はなく、1個以上が加水分解されているもの、及びその混合物であってもよい。また、加水分解の縮合物は、部分加水分解アルコキシドが2量体以上のものを表しており、2〜6量体が通常使用される。
【0040】
上記一般式:R1nM(OR2mにおける、Mで表される金属原子としては、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等を使用することができる。特に本発明においては、MがSiであるアルコキシシランが好ましい。また、単独又は2種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うこともできる。
【0041】
また、上記の一般式:R1nM(OR2mで表されるアルコキシドにおいて、R1で表される有機基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等のアルキル基を挙げることができる。
【0042】
上記アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン Si(OCH34、テトラエトキシシラン Si(OC254、テトラプロポキシシラン Si(OC374、テトラブトキシシラン Si(OC494等を使用することができる。これらのアルコキシシランは、単独又は2種以上を混合しても用いてもよい。
【0043】
本発明においては、上記アルコキシドと共にシランカップリング剤を併用することが好ましい。これにより高温・高湿下、又はレトルト・ボイル処理後におけるガスバリア性の低下を防止することが可能となる。シランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランを使用することができる。このようなシランカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよく、その使用量は、上記アルコキシシラン100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲内である。20重量部以上を使用すると形成される複合ポリマーの剛性と脆性とが大きくなり、複合ポリマー層の絶縁性及び加工性が低下する。
【0044】
本発明においては、バリアコート形成用の組成物に、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーが含まれる。ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーを組み合わせることによって、得られるバリアコートのガスバリア性、耐水性、耐候性等が著しく向上する。さらに、ポリビニルアルコールとエチレン・ビニルアルコールコポリマーとを組み合わせた積層フィルムは、ガスバリア性、耐水性、及び耐候性に加えて、耐熱水性及び熱水処理後のガスバリア性に優れる。
ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーの組み合わせを採用する場合のそれぞれの含有重量比は10:0.05〜10:6であることが好ましい。
【0045】
上記ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーの合計の含有量は、上記アルコキシドの合計量100重量部に対して5〜600重量部の範囲である。600重量部を上回ると複合ポリマーの脆性が大きくなり、得られる積層フィルムの耐水性及び耐候性も低下する。5重量部を下回るとガスバリア性が低下する。
【0046】
ポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、株式会社クラレ製PVA110(ケン化度=98〜99%、重合度=1100)、PVA117(ケン化度=98〜99%、重合度=1700)、PVA124(ケン化度=98〜99%、重合度=2400)、PVA135H(ケン化度=99.7%以上、重合度=3500)、同社製のRSポリマーであるRS−110(ケン化度=99%、重合度=1000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(ケン化度=40%、重合度=2000)、日本合成化学工業株式会社製のゴーセノールNM−14(ケン化度=99%、重合度=1400)及びゴーセノールNH−18(ケン化度=98〜99%、重合度=1700)等を使用することができる。
【0047】
また、本発明において、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体のケン化物、すなわち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体をケン化して得られるものを使用することができる。このようなケン化物には、酢酸基が数十モル%残存する部分ケン化物から、酢酸基が数モル%しか残存していないか又は酢酸基が全く残存していない完全ケン化物までが包含される。特に限定されるものではないが、ガスバリア性の観点から、ケン化度が80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であるものを使用することが望ましい。また、上記のエチレン・ビニルアルコール共重合体中のエチレンに由来する繰り返し単位の含量(以下「エチレン含量」ともいう)は、通常、0〜50モル%、好ましくは20〜45モル%であるものを使用することが好ましい。上記のエチレン・ビニルアルコール共重合体の具体例としては、株式会社クラレ製、エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業株式会社製、ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。
【0048】
本発明においては、上記の組成物を蒸着膜上に塗布し、その組成物をゾルゲル法により重縮合してバリアコートを形成する。ゾルゲル法の触媒、主として重縮合触媒としては、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三級アミンが用いられる。例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等がある。その使用量は、アルコキシド及びシランカップリング剤の合計量100重量部当り、0.01〜1重量部である。
【0049】
本発明においては、上記の組成物は第三級アミンに代えて、又は第三級アミンに加えてさらに酸を含んでいてもよい。酸は、ゾルゲル法の触媒、主としてアルコキシドやシランカップリング剤等の加水分解のための触媒として用いられる。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸、ならびに酢酸、酒石酸等の有機酸が用いられる。酸の使用量は、アルコキシド及びシランカップリング剤のアルコキシド分(例えばシリケート部分)の総モル量に対して、0.001〜0.05モルである。
【0050】
本発明においては、上記バリアコート形成用組成物中に、アルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1〜100モルの割合の水を含んでなることが望ましい。また、バリアコート形成用組成物は、有機溶剤を含有することが好ましい。有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等が用いられる。
【0051】
(2)バリアコートの形成方法
本発明におけるバリアコートの形成方法について以下に説明する。
まず、上記のアルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾルゲル法の触媒、水、有機溶媒、及び、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合してガスバリア性組成物を調製する。ガスバリア性組成物中では次第に重縮合反応が進行する。
【0052】
次いで、基材フィルムの一方の面に設けた酸化物蒸着膜の上に、常法により、上記のガスバリア性組成物を通常の方法で塗布し、乾燥する。乾燥により、上記アルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤及びビニルアルコールポリマーの重縮合がさらに進行し、複合ポリマーの層が形成される。好ましくは上記の操作を繰り返して、複数の複合ポリマー層を積層する。
【0053】
最後に、上記組成物を塗布したフィルムを通常の環境下、50℃〜300℃、高温・高湿下、又はレトルト・ボイル処理後におけるバリア性低下の観点から、好ましくは70℃〜200℃の温度で、0.005分間〜60分間、加熱・乾操することにより縮合が行われ、バリアコートを形成することができる。
【0054】
本発明においては、ビニルアルコールポリマーの代わりに、エチレン・ビニルアルコールコポリマー又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーとポリビニルアルコールとの両者を用いた組成物を使用してもよい。エチレン・ビニルアルコールコポリマーとポリビニルアルコールとの両者を用いることにより、ボイル処理、レトルト処理等の熱水処理後のガスバリア性がさらに向上する。
【0055】
バリアコート形成用組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアコーター等のロールコート、スプレーコート、スピンコート、デイッピング、刷毛、バーコード、アプリケータ等の塗装手段により、1回あるいは複数回の塗装で、乾燥膜厚が0.01μm〜30μm、好ましくは0.1μm〜10μmのバリアコートを形成することができる。
また必要ならば、バリアコート形成用組成物を塗布する際に、予め、酸化物蒸着膜の上に、プライマー剤等を塗布することもできる。
【0056】
本発明においては、上記樹脂のフィルム上に蒸着層とバリアコートを設けた後、さらに蒸着層を設け、その蒸着層上にバリアコートを上記と同様にして形成してもよい。このように積層数を増やすことにより、より一層ガスバリア性を向上することができる。
【0057】
<7>本発明のガスバリア性蒸着フィルムを使用した積層材
次に、本発明のガスバリア性蒸着フィルムAを表基材として使用した積層材の層構成について説明する。
図4は、図1に示す本発明のガスバリア性蒸着フィルムAのバリアコート側の表面に、ヒートシール性樹脂層5を積層した積層材Bを示す概略的断面図である。
図5は、バリアコート4とヒートシール性樹脂層5との間に、中間基材6を積層した積層材B1を示す概略的断面図である。
また、本発明のガスバリア性蒸着フィルムの基材フィルム側の表面に、プラスチックフィルム、例えばアンチモン系触媒を使用せずに製造されたポリエステルフィルムを積層することもできる。
【0058】
以下、本発明の積層材に使用することができる、ヒートシール性樹脂層、及び中間基材層等について説明する。
(1)ヒートシール性樹脂層
本発明において、ヒートシール性樹脂層を構成するヒートシール性樹脂としては、熱によって溶融して相互に融着し得る樹脂を使用することができ、具体的には、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、メチルペンテンポリマー、ポリブテンポリマー、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリルニトリル系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS系樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS系樹脂)等を使用することができる。本発明においては、上記のような樹脂のフィルムないしシート、あるいは上記のような樹脂を主成分とする樹脂組成物によるコーティング膜等によって、ヒートシール性樹脂層を構成することができる。その厚さとしては1〜200μm、好ましくは5〜100μmが望ましい。
【0059】
(2)中間基材層
上記のとおり本発明においては、バリアコートとヒートシール性樹脂層との間に、中間基材層を設けてもよく、このような中間基材層を設けることにより、強度や耐突き刺し性等が向上する。
中間基材層として使用する樹脂のフィルムとしては、機械的、物理的、化学的等において優れた強度を有し、耐突き刺し性等に優れ、その他、耐熱性、防湿性、耐ピンホール性、透明性等に優れた樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。具体的には、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアラミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアクリル又はメタクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、その他の強靱な樹脂フィルムないしシートを使用することができる。
【0060】
上記の樹脂のフィルムないしシートとしては、未延伸フィルム、あるいは一軸方向又は二軸方向に延伸した延伸フィルム等のいずれのものでも使用することができる。また、本発明において、その樹脂のフィルムないしシートの厚さとしては、強度、耐突き刺し性等について、必要最低限に保持され得る厚さであればよく、厚すぎると、コストが上昇し、逆に、薄すぎると、強度、耐突き刺し性等が抵下するという問題が生じる。
【0061】
(3)本発明の積層材を製造する方法
次に本発明の積層材の製造方法について説明する。この製造方法における積層工程は、通常の積層材をラミネートする方法、例えば、ウエットラミネーション法、ドライラミネーション法、無溶剤型ドライラミネーション法、押出ラミネーション法、Tダイ押出成形法、共押出ラミネーション法、インフレーション法、共押出インフレーション法等によって行うことができる。その場合、必要に応じて、例えば、コロナ処理、オゾン処理、フレーム処理等の前処理を貼り合わせるフィルムに施すことができる。また例えば、ポリエステル系、イソシアネート系(ウレタン系)、ポリエチレンイミン系、ポリブタジエン系、有機チタン系等のアンカーコーティング剤、或いはポリウレタン系、ポリアクリル系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系、その他のラミネート用接着剤等の公知のアンカーコート剤、接着剤を使用することができる。
【0062】
<8>本発明の積層材の用途
本発明に係るガスバリア性蒸着フィルム、又は積層材を用いて製造した包装用容器は、アンチモン系触媒を使用せずに製造されるため、アンチモン非含有であり、また、包装用途及び光学用途に好適な色調を有し、酸素ガス、水蒸気等に対するガスバリア性、耐衝撃性等に優れ、さらに、ラミネート加工、印刷加工、製袋ないし製函加工等の後加工適性を有し、例えば、飲食品、医薬品、洗剤、シャンプー、オイル、歯磨き、接着剤、粘着剤等の化学品ないし化粧品等の種々の物品の充填包装適性、保存適性等に優れているものである。
次に本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。
【実施例】
【0063】
[実施例1]
(1)荷重0.07N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温したときの縦方向の寸法変化率が−3.0%であり、そして横方向の寸法変化率が0.1%以下であり、且つ、色座標b値が2.4である二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚12μm)を、チタン系触媒を用いて製造した。このフィルムに、アンカーコート剤を塗布乾燥し、0.3μmのアンカーコート層を形成した。上記アンカーコート剤は、硝化綿1重量部及びアクリルポリオール5重量部を、メチルエチルケトン(MEK)/酢酸エチル1:1の希釈溶剤中で混合撹拌して得られた主剤と、イソホロンジイソシアネート(IPDI)からなる硬化剤とからなり、ここで、主剤のOH基に対して、NCO基が等量となるように調製した。次いで、40℃で48時間エージングを行った後、下記に示す蒸着条件により、電子線(EB)加熱方式による真空蒸着法により、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を積層した。このときの冷却ドラム温度は、−15℃であった。
(蒸着条件)
蒸着チャンバー内の真空度: 2×10-4 mbar
巻き取りチャンバー内の真空度: 2×10-2 mbar
電子ビーム電力: 25 kw
フィルムの搬送速度: 480 m/min
蒸着面: コロナ処理
【0064】
(2)形成した蒸着膜上に、以下の組成を有するバリアコート形成用組成物を、グラビアロールコート法により塗布し、次いで、180℃で60秒間、加熱処理して、厚さ0.3μm(乾燥状態)のバリアコートを形成し、本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムを得た。
【表1】

【0065】
(調製方法)
調製した組成aのポリビニルアルコールと、イソプロピルアルコール及びイオン交換水からなる混合液に、予め調製した組成bのエチルシリケート、シランカップリング剤、塩酸、イソプロピルアルコール、イオン交換水からなる加水分解液を加えて撹拌し、無色透明のバリアーコート形成用組成物を得た。
【0066】
[実施例2]
荷重0.07N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温したときの縦方向の寸法変化率が−3.5%であり、そして横方向の寸法変化率が0.1%以下であり、且つ、色座標b値が3.2である二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚12μm)を、チタン系触媒を用いて製造した。このフィルムに、実施例1と同様に、アンカーコート層及び蒸着膜を積層した。ただし、酸化アルミニウムの蒸着膜の代わりに、酸化ケイ素の蒸着膜(膜厚300Å)を積層し、以下の蒸着条件を用いた。このときの冷却ドラム温度は、−15℃であった。
(蒸着条件)
蒸着チャンバー内の真空度: 2×10-4 mbar
巻き取りチャンバー内の真空度: 2×10-2 mbar
電子ビーム電力: 40 kw
フィルムの搬送速度: 240 m/min
蒸着面: コロナ処理
以下、実施例1と同様にしてバリアコート層を形成し、本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムを得た。
【0067】
[実施例3]
荷重0.07N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温したときの縦方向の寸法変化率が−2.5%であり、そして横方向の寸法変化率が0.1%以下であり、且つ、色座標b値が2.8である二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚12μm)を、チタン系触媒を用いて製造した。このフィルムに、実施例1と同様にアンカーコートを積層した。これをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、次いで、下記に示す条件により、フィルムの、アンカーコートを積層した側の表面に、膜厚120Åの酸化ケイ素の蒸着膜を形成した。
(蒸着条件)
蒸着面: コロナ処理
導入ガス量: ヘキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=
1.0:3.0:3.0(単位:slm)
真空チャンバー内の真空度:2〜6×10-6 mbar
蒸着チャンバー内の真空度:2〜5×10-3 mbar
冷却・電極ドラム供給電力:10 kw
ライン速度: 100 m/min
【0068】
次に、酸化ケイ素の蒸着膜を形成した直後に、その酸化ケイ素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス(O2):アルゴンガス(Ar)=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10-5Torr、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、酸化ケイ素の蒸着膜面の表面張力を54dyn/cm以上に向上させたプラズマ処理面を形成した。
以下、プラズマ処理面に、実施例1と同様にしてバリアコート層を形成し、本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムを得た。
【0069】
[比較例1]
荷重0.07N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温したときの縦方向の寸法変化率が−6.0%であり、そして横方向の寸法変化率が0.1%以下であり、且つ、色座標b値が3.2である二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚12μm)を、チタン系触媒を用いて製造した。このフィルムに、実施例1と同様に、アンカーコート層、蒸着膜及びバリアコート層を積層した。
【0070】
[比較例2]
荷重0.07N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温したときの縦方向の寸法変化率が−3.0%であり、そして横方向の寸法変化率が0.1%以下であり、且つ、色座標b値が5.5である二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚12μm)を、チタン系触媒を用いて製造した。このフィルムに、実施例1と同様に、アンカーコート層、蒸着膜及びバリアコート層を積層した。
【0071】
[比較例3]
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと蒸着膜の間に、アンカーコート層を設けない点を除き、実施例1と同様にして、蒸着フィルムを得た。
【0072】
[結果]
上記の実施例1〜3及び比較例1〜3において製造した蒸着フィルムについて、以下の測定を行った。
(1)酸素透過度の測定
これは、温度23℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機(オクストラン:OX-TRAN2/21)にて測定した。
【0073】
(2)水蒸気透過度の測定
これは、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン社製の測定機(パーマトラン:PERMATRAN3/31)にて測定した。
【0074】
(3)色調の測定
これは、日本電色工業(株)製分光色色差計「SE−2000型」を使用し、JIS Z−8722の方法に準じて、透過法によるb値を測定した。
昇温による寸法変化率の測定は、熱機械分析装置であるセイコーインスツル(株)製のTMA/SS6000にて測定した。
【0075】
【表2】

【0076】
上記の表1に示す測定結果から明らかなように、実施例1〜3の蒸着フィルムは、酸素透過度及び水蒸気透過度がいずれも低く、ガスバリア性に優れたものであることが確認され、また、透明性を有し、内容物の視認性に優れるものであった。
【0077】
これに対し、比較例1〜2の蒸着フィルムは、より高い値の酸素透過度及び水蒸気透過度を示し、したがって総合的に判断すると、ガスバリア性が著しく劣るものであった。
【0078】
さらに、実施例1〜3及び比較例1〜3において製造した蒸着フィルムを用いて、以下の構造を有する、ボイル用及びレトルト用積層材サンプルを製造した:
ボイル用積層材サンプル:蒸着フィルム/接着剤層/ポリエチレンフィルム60μm
レトルト用積層材サンプル:蒸着フィルム/接着剤層/延伸ナイロンフィルム15μm/接着剤層/未延伸ポリプロピレンフィルム60μm
【0079】
得られた積層材サンプルを用いて、内部に水200ccを充填して四方パウチを作成し、ボイル条件95℃/60分、レトルト条件135℃/60分で、熱水殺菌処理を実施し、処理前及び処理直後の酸素透過度、並びに剥離強度(gf/15mm、T字剥離、測定速度50mm/min)を測定した。酸素透過度測定条件:23℃、90%RH。
【0080】
また、同様にして、水100ccを充填した四方パウチを作成し、これに罫線をつけ、180°に折り曲げてクリップで固定した状態で、ボイル及びレトルト殺菌処理を、上記と同様に実施し、デラミネーションの発生の有無を確認した。
【0081】
また、ボイル用積層材サンプルの剥離界面に水を垂らしながら剥離を行い、耐水ラミネート強度(gf/15mm、T字剥離、測定速度50mm/min)を測定した。
【0082】
【表3】

【0083】
上記の表2から明らかなように、実施例1〜3の蒸着フィルムを用いた積層材は、ボイル処理の前後で、酸素透過度及び剥離強度はほぼ変化せず、低い酸素透過度及び所望の剥離強度を維持していた。また、いずれにおいてもデラミネーションは発生せず、美麗な外観を維持していた。
【0084】
これに対し、比較例1〜3の蒸着フィルムを用いた積層材は、いずれも、ボイル処理後に酸素透過度が上昇した。また、比較例1及び3の蒸着フィルムを用いた積層材は、ボイル処理後に剥離強度が大幅に低下し、また、デラミネーションの発生が確認された。
【0085】
【表4】

【0086】
上記の表3から明らかなように、実施例1〜3の蒸着フィルムを用いた積層材は、レトルト処理の前後で、酸素透過度及び剥離強度は大幅には変化せず、低い酸素透過度を維持しており、また層間の密着は強力なままであった。また、いずれにおいてもデラミネーションは発生せず、美麗な外観を維持していた。
【0087】
これに対し、比較例1〜3の蒸着フィルムを用いた積層材は、いずれも、レトルト処理後に酸素透過度が大幅に上昇した。また、比較例1及び3の蒸着フィルムを用いた積層材は、レトルト処理後に剥離強度が大幅に低下し、また、デラミネーションの発生が確認された。
【0088】
【表5】

【0089】
上記の表4から明らかなように、実施例1〜3の蒸着フィルムを用いた積層材は、十分な耐水ラミネート強度を示し、水中での処理にも好適であることが分かった。
【0090】
これに対し、比較例1及び3の蒸着フィルムを用いた積層材は、剥離界面に水が存在することにより、ラミネート強度が著しく低下した。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムの層構成を示す概略的断面図である。
【図2】プラズマ化学気相成長装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【図3】巻き取り式真空蒸着装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【図4】図1に示す本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムを使用した積層材について、その層構成の一例を示す概略的断面図である。
【図5】図1に示す本発明に係るガスバリア性蒸着フィルムを使用した積層材についてその層構成の一例を示す概略的断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重縮合触媒としてチタン系触媒を使用して製造したポリエステルからなる基材フィルムの一方の面に、アンカーコート層、酸化物蒸着膜、及びバリアコート層を順に積層したガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項2】
基材フィルムの色座標b値が、−0.5〜5である、請求項1に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項3】
基材フィルムに荷重0.05〜0.15N/mmを負荷しながら、昇温速度5℃/minで25〜200℃まで昇温するときに、基材フィルムの縦方向及び横方向の寸法変化率が、それぞれ−5.0〜+1.0%及び−2.0〜+2.0%である、請求項1又は2に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項4】
チタン系触媒が、周期表第4A族のチタン族元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素の化合物と、マグネシウム化合物及びリン化合物より選択される少なくとも1種の化合物との混合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項5】
酸化物蒸着膜が、化学気相成長法又は物理気相成長法により積層された、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項6】
酸化物が、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項7】
バリアコート層が、一般式R1nM(OR2m(式中、R1、R2は炭素数1〜8の有機基を表し、Mは金属原子を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種のアルコキシド、ポリビニルアルコ−ル、及び/又はエチレン・ビニルアルコールを含んでなる組成物を、ゾルゲル法によって重縮合して得られるアルコキシドの加水分解物又はアルコキシドの加水分解縮合物からなる層である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項8】
アンカーコート層が、構造中に2以上のヒドロキシル基を有するポリアクリル系又はポリメタクリル系樹脂と、硬化剤としてのイソシアネート化合物とが反応硬化してなる層である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のガスバリア性蒸着フィルムを表基材として使用する、積層材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−132060(P2009−132060A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310403(P2007−310403)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】