説明

ガス検知装置及びガス検知方法

【課題】本発明は、一つのパルス通電により加熱される一つのセンサ素子(ガス検知層)の電気抵抗値を用いて、検出対象ガスおよび湿度の検出を行い、装置構成の簡略化、消費電力の低減を図りつつ、より正確な湿度を検出できる技術の提供を提供する。
【解決手段】検出対象ガスとの接触により電気的特性が変化するガス検知層、及びガス検知層を加熱するヒータ層を形成したセンサ素子と、ヒータ層への通電を断続的に行って、ガス検知層の温度を変化させる通電駆動手段と、ヒータ層通電時のガス検知層の電気的特性に基づいて、検出対象ガスを検出するガス検出手段とを備えたガス検知装置であって、ヒータ層への通電を停止してから再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時のガス検知層の電気的特性を用いて、検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度を検出する湿度検出手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象ガスとの接触により電気的特性が変化するガス検知層、及びガス検知層を加熱するヒータ層を形成したセンサ素子と、ヒータ層への通電を断続的に行って、ガス検知層の温度を変化させる通電駆動手段と、ヒータ層通電時のガス検知層の電気的特性に基づいて、検出対象ガスを検出するガス検出手段とを備えたガス検知装置及びそのガス検知装置において実行されるガス検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなガス検知装置においては、ヒータ層への通電を開始することにより、ガス検知層を検出対象ガスの種類に応じた適切な温度にまで加熱し、この加熱されたガス検知層の電気的特性(電気抵抗値など)に基づいて被検出ガス中に含まれる検出対象ガスの有無及び濃度を検出する。
【0003】
特許文献1には、上記のようなガス検知装置を用いて、検出対象ガスを検出するとともに、湿度をも検出することが可能なガス検出装置が開示されている。
すなわち、特許文献1に開示の発明は、センサ素子に設けられたヒータ層への通電の停止と開始とをパルス状に断続的に行い、ヒータ層通電時であって、ガス検知層の温度が低温状態から高温状態(例えば、400℃程度)に変化する過程のガス検知層の電気抵抗値を用いて湿度を検出するとともに、当該高温状態となった時(定常状態)の電気抵抗値を用いて検出対象ガスを検出する。これにより、一つのパルス通電により加熱される一つのセンサ素子(ガス検知層)の電気抵抗値を用いて、検出対象ガスおよび湿度の検出を行うことができ、装置構成の簡略化、消費電力の低減を図ることができる。
【0004】
【特許文献1】特開2002−296212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の発明では、一つのパルス通電により加熱される一つのセンサ素子(ガス検知層)の電気抵抗値を用いて、検出対象ガスおよび湿度の検出を行い、装置構成の簡略化、消費電力の低減を図ることができるものの、以下に説明するように、実際のガス検知層の周辺の雰囲気中における水蒸気の濃度を、正確に反映した湿度として検出することは困難であることが、発明者の検討により判明した。
【0006】
具体的には、特許文献1に開示の発明のように、ヒータ層への通電がパルス状に断続的に行われて、ガス検知層の温度が低温状態と高温状態との間で繰り返し変化するガス検知装置においては、低温状態(平衡状態)ではガス検知層において水蒸気が飽和状態となっており、このような水蒸気が残存している状態から出発して、ガス検知層の電気抵抗値を用いて湿度を検出すると、既にガス検知層に吸着されている水分の影響を受けて、当該ガス検知層の雰囲気中の湿度を正確に検出することが困難になる。
すなわち、引用文献1に開示の発明のように、ヒータ層への通電をしてガス検知層が低温状態から高温状態に変化する際の電気抵抗値を用いて湿度を検出した場合には、既にガス検知層に吸着されている水分の影響を受けて、当該ガス検知層の雰囲気中の湿度を正確に検出することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みて、一つのパルス通電により加熱される一つのセンサ素子(ガス検知層)の電気抵抗値を用いて、検出対象ガスおよび湿度の検出を行い、装置構成の簡略化、消費電力の低減を図りつつ、より正確な湿度を検出できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔構成1〕
上記の目的を達成するための本発明に係るガス検知装置は、検出対象ガスとの接触により電気的特性が変化するガス検知層、及び前記ガス検知層を加熱するヒータ層を形成したセンサ素子と、
前記ヒータ層への通電を断続的に行って、前記ガス検知層の温度を変化させる通電駆動手段と、
ヒータ層通電時の前記ガス検知層の電気的特性に基づいて、前記検出対象ガスを検出するガス検出手段とを備えたガス検知装置であって、その特徴構成は、
前記ヒータ層への通電を停止してから再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時の前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度を検出する湿度検出手段を備えた点にある。
【0009】
また、上記の目的を達成するための本発明に係るガス検知方法は、上記特徴構成を有するガス検知装置により好適に実行されるものであり、検出対象ガスとの接触により電気的特性が変化するガス検知層、及び前記ガス検知層を加熱するヒータ層を形成したセンサ素子を用いて、
通電駆動手段が、前記ヒータ層への通電を断続的に行って、前記ガス検知層の温度を変化させ、
ガス検出手段が、ヒータ層通電時の前記ガス検知層の電気的特性に基づいて、前記検出対象ガスを検出するガス検知方法であって、その特徴手段は、
湿度検出手段が、前記ヒータ層への通電を停止してから再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時の前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度を検出する点にある。
【0010】
上記構成1のガス検知装置及びガス検知方法によれば、ヒータ層へ通電(ヒータ層通電時)をしてガス検知層の温度が高温状態に変化したときの電気的特性に基づいて、検出対象ガスの検出を行えることに加えて、ガス検知層の温度が高温状態となってヒータ層への通電を停止してから、ガス検知層の温度が低温状態となって再度通電が開始されるまで(ヒータ層通電停止時)のガス検知層の電気的特性を用いて、湿度を検出することができるので、一つのセンサ素子を用いて一つのパルス通電により、検出対象ガスの検出および検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度の検出を行うことができる。これにより、装置の簡素化、および消費電力の低減を図ることができる。なお、電気的特性とは、ガス検知層の電気抵抗値、電圧値の変化状態を示すものである。
【0011】
特に、検出対象ガスを良好に検出するためにヒータ層へ通電してガス検知層を高温状態とすることにより、ガス検知層に雰囲気中から吸着された水蒸気を少ない状態とした後に、改めてガス検知層に雰囲気中から吸着された水蒸気のみを検出して、このガス検知層の雰囲気中に存在する水蒸気の濃度を正確に反映した湿度を検出することができる。
ここで、上記のように、ヒータ層への通電がパルス状に断続的に行われて、ガス検知層の温度が低温状態と高温状態との間で繰り返し変化するガス検知装置においては、ガス検知層の雰囲気中に存在する水蒸気は当該ガス検知層への吸着と脱離とを繰り返している。具体的には、まず、ガス検知層は、ヒータ層への通電が停止されて低温状態にある場合には比較的多くの水分が吸着されており、ヒータ層への通電がされ高温状態に変化するにつれて脱離が進行し、高温状態となった際には水蒸気はガス検知層表面に略存在しなくなって、検出対象ガスの検出が非常に精度高く行える状態となる。次に、ヒータ層への通電が停止されて高温状態から低温状態に変化するにつれて再度ガス検知層に水分が吸着され始め、低温状態となった際には水蒸気は充分に吸着されて、その後、水蒸気の吸着と脱離とは平衡状態になるというサイクルを繰り返している。
したがって、湿度の検出を行う前には検出対象ガスを精度高く検出できるようにガス検知層は高温状態とされており、当該ガス検知層に吸着されている水蒸気のほとんど全てが脱離された状態(ガス検知層に水蒸気がほとんど存在しない状態)となっているため、ヒータ層への通電を停止してガス検知層が高温状態から低温状態に変化する過程において、当該ガス検知層の周辺に存在する水蒸気をガス検知層の表面に改めて吸着することにより、ガス検知層の雰囲気の水蒸気濃度を正確に反映した電気的特性を用いて湿度を検出することが可能となる。
【0012】
なお、上記センサ素子を薄膜式に形成すると、ガス検知層の熱容量は非常に小さく、ヒータ層からの熱の入力に対し非常に応答性が高く構成することができる。すなわち、薄膜式のセンサ素子を用いることにより、通電駆動手段によるヒータ層への通電に対応してガス検知層の温度を即座に高温状態とし、通電の停止に対応して即座に低温状態に変化させることができ、検出対象ガス及び湿度の検出の際の通電時間を短くして、検出速度を早くすることができるとともに消費電力を低減することもできる。
【0013】
〔構成2〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1のガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、前記湿度検出手段が、前記ヒータ層への通電駆動を停止してから前記ガス検知層が水蒸気の吸着平衡に達するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう点にある。
【0014】
上記構成2のガス検知装置によれば、ヒータ層への通電を停止してから再度通電が開始されるまでの間であって、特に、ヒータ層への通電を停止して低温状態となった後、ガス検知層の水蒸気の吸着・脱離が、平衡状態となるまでの電気的特性を用いて湿度を検出することができるので、水蒸気の濃度をより正確に反映した電気的特性を用いて湿度を検出することができる。すなわち、ガス検知層の温度が低温状態となって所定の時間が経過すると、ガス検知層には多量の水蒸気が吸着されて水蒸気の吸着・脱離が平衡状態となる。このような平衡状態になってしまうと、仮に水蒸気の濃度が変化したとしてもガス検知層の電気的特性はほとんど変化せず、水蒸気の濃度変化に対応した正確な湿度を検出することが困難となる。したがって、このように平衡状態となる前における電気的特性が水蒸気の濃度に対し一定の関係で変化する関係にある場合において湿度を検出することにより、ガス検知層の雰囲気中における水蒸気の濃度を、より正確に反映した湿度を検出することができる。
【0015】
〔構成3〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1又は2のガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、前記湿度検出手段が、前記ガス検知層への水蒸気の吸着が始まってから前記ガス検知層が水蒸気の吸着平衡に達するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう点にある。
【0016】
上記構成3のガス検知装置によれば、ヒータ層への通電を停止してから再度通電を開始するまでの間であって、特に、ガス検知層の温度が高温状態から徐々に低下して当該ガス検知層に水蒸気の吸着が始まってから、低温状態となった後、ガス検知層の水蒸気の吸着・脱離が平衡状態となるまでの電気的特性を用いて湿度を検出することができるので、水蒸気の濃度をより正確に反映した電気的特性を用いて湿度を検出することができる。すなわち、ヒータ層への通電を停止することによりガス検知層の温度が低下して水蒸気が吸着されるが、この吸着が開始された時点以降に湿度を検出することにより、吸着された水蒸気による電気的特性の変化を確実に反映させて、より良好にガス検知層の雰囲気の湿度を検出することができる。加えて、ガス検知層の水蒸気の吸着・脱離が平衡状態となる前における電気的特性が、水蒸気の濃度に対し一定の関係で変化する関係にある場合において湿度を検出することにより、ガス検知層の雰囲気中における水蒸気の濃度を、より正確に反映した湿度を検出することができる。
【0017】
〔構成4〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1から3の何れかのガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、前記湿度検出手段が、前記ガス検知層の温度が前記ガス検知層への水蒸気の吸着が始まる温度から前記ガス検知層の雰囲気温度に低下するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう点にある。
【0018】
また、本発明に係るガス検知方法は、上記特徴構成を有するガス検知装置により好適に実行されるものであり、上記構成1のガス検知方法の手段に加えて、その特徴手段は、前記湿度検出手段が、前記ガス検知層の温度が前記ガス検知層への水蒸気の吸着が始まる温度から前記ガス検知層の雰囲気温度に低下するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう点にある。
【0019】
上記構成4のガス検知装置及びガス検知方法によれば、ヒータ層への通電を停止してから再度通電が開始されるまでの間であって、特に、ガス検知層の温度が、高温状態から徐々に低下して当該ガス検知層に水蒸気の吸着が始まる温度から、ガス検知層の雰囲気温度(ガス検知層の雰囲気中に存在する被検出ガスの温度)に低下するまでの電気的特性を用いて湿度の検出を行なうことができるので、水蒸気の濃度をより正確に反映した電気的特性を用いて湿度を検出することができる。すなわち、ガス検知層の温度を高温状態とし、このガス検知層に吸着されていた水蒸気を一度脱離させた後、ガス検知層を雰囲気温度(低温状態)にまで低下させることにより、改めて吸着された水蒸気の濃度を正確に反映した電気的特性を用いて、より正確に湿度を検出することができる。
【0020】
〔構成5〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1又は2のガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、前記湿度検出手段が、前記ヒータ層への通電を停止してから所定時間経過するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう点にある。
【0021】
上記構成5のガス検知装置によれば、ヒータ層への通電を停止してから所定時間経過するまでの電気的特性を用いることができるので、ガス検知層の温度を高温状態として既に吸着されている水蒸気を脱離して少ない状態とした後、このガス検知層の温度を低温状態にまで低下させて改めて水蒸気を吸着させ、この水蒸気の濃度を正確に反映した電気的特性を用いることにより、より正確な湿度を検出できるとともに、所定時間の経過を測定し、その所定時間での電気的特性を用いるだけで簡便に湿度を検出することができる。ここで、所定時間は、ヒータ層への通電を停止してから水蒸気の濃度とガス検知層の電気的特性が一定の関係で変化している時間帯あるいは時点に設定することで、上記のように、雰囲気中の水蒸気の濃度に対応した正確な湿度を検出することができる。例えば、ヒータ層通電停止時から、10〜100msec経過するまで、特に50msec経過した時点における電気的特性を用いることが、上記一定の関係で変化している電気的特性を用いることができるので、好ましい。
【0022】
〔構成6〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1から5の何れかのガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、前記ヒータ層への通電を行うことにより前記ガス検知層の温度を、前記ヒータ層への通電を停止した後において前記ガス検知層で水蒸気の吸着が始まる温度よりも高い温度にまで加熱する点にある。
【0023】
また、本発明に係るガス検知方法は、上記構成1又は構成4のガス検知方法の手段に加えて、その特徴手段は、前記ヒータ層への通電を行うことにより前記ガス検知層の温度を、前記ヒータ層への通電を停止した後において前記ガス検知層で水蒸気の吸着が始まる温度よりも高い温度にまで加熱する点にある。
【0024】
上記構成6のガス検知装置及びガス検知方法によれば、ヒータ層への通電によりガス検知層の温度を、ガス検知層で水蒸気の吸着が始まる温度よりも高く加熱するので、ヒータ層への通電を停止した後、ガス検知層の温度が雰囲気温度(低温状態)まで低下する際には、上記水蒸気の吸着が始まる温度よりも確実に低下させることができ、ガス検知層において水蒸気の脱離が完了した状態(水蒸気がほとんど吸着されていない状態)から、雰囲気中の水蒸気を改めて吸着した状態におけるガス検知層の電気的特性を用いて、雰囲気中の水蒸気の濃度を反映した湿度を正確に検出することができる。ここで、ガス検知層を加熱する際には、水蒸気の吸着が始まる温度よりもさらに高い温度である、検出対象ガスを精度高く検出することができる高温にまで加熱することにより、一度水分を全て脱離させて、その後、低温状態となる過程において吸着した水蒸気の濃度を確実に検出して、より正確な湿度を検出することもできる。
【0025】
〔構成7〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1から6の何れかのガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、前記湿度検出手段により検出された湿度に基づいて、前記検出対象ガスを検出する際の電気的特性の補正を行う補正手段を備えた点にある。
【0026】
上記構成7のガス検知装置によれば、補正手段が、湿度検出手段により検出された湿度に基づいて、検出対象ガスを検出する際の電気的特性の補正を行なうことができるので、ガス検知層の雰囲気中に水蒸気が存在する場合でも、湿度の影響を考慮して正確に検出対象ガスを検出することができる。
【0027】
〔構成8〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1から7の何れかのガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、前記湿度検出手段により検出された湿度を表示する湿度表示手段を備えた点にある。
【0028】
上記構成8のガス検知装置によれば、湿度検出手段により検出された湿度を表示する湿度表示手段を備えるので、検出された湿度をガス検知装置の外部周辺に存在する人などに、LEDや液晶画面に表示して知らせることができ、ガス検知装置でありながら湿度検出装置としても用いることができる。
【0029】
〔構成9〕
本発明に係るガス検知装置は、上記構成1から8の何れかのガス検知装置の構成に加えて、その特徴構成は、内蔵された電池からの電力供給により駆動する点にある。
【0030】
上記構成9のガス検知装置によれば、ガス検知装置は、内蔵された電池からの電力供給により駆動するので、固定の電源の近傍に設置する必要が無くなり、設置性が向上する。
また、上記ガス検知装置においては、ヒータ層への通電はパルス通電として断続的に行われ、この断続的な1周期、すなわち、ガス検知層が低温状態から高温状態、高温状態から低温状態へと変化する1周期において、検出対象ガスの有無及び濃度、さらには湿度をも検出できる。したがって、センサ素子(ガス検知層)の湿度を検出するために別途ヒータ層によりガス検知層を加熱する必要が無く、消費電力が低減されていることから、内蔵する電池を用いた場合であっても、所定の期間充分に稼動を続けることができるガス検知装置を構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
〔第1実施形態〕
以下、本発明に係るガス検知装置100の第1実施形態について詳細を説明する。
ガス検知装置100は、図1に示すように、薄膜式のセンサ素子20と、ヒータ層6への通電を断続的に行って、ガス検知層10の温度を変化させる通電駆動手段12と、ガス検知層10の電気抵抗値に基づいて検出対象ガスを検出するガス検出手段13と、検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度を検出する湿度検出手段14と、湿度検出手段14により検出された湿度を表示する湿度表示手段15と、これらに電力供給するリチウム電池(図示せず)と、湿度検出手段14により検出された湿度に基づいて電気的特性を補正する補正手段17とを備えて構成される。なお、後述するように、ガス検知装置100においては、検出対象ガスは、例えば、メタンガス、一酸化炭素ガスとされ、ヒータ層6への通電を断続的に行って、ガス検知層10の温度を低温状態と高温状態との間での変化を繰り返して、高温状態において検出対象ガスを検出し、高温状態から低温状態に変化する過程において雰囲気中の湿度を検出するものである。
【0032】
〔センサ素子〕
図1に本発明の実施形態に用いた薄膜式のセンサ素子20の構造を示す。
センサ素子20は、薄膜状の支持層5の外周部又は両端部がSi基板1により支持されたダイアフラム構造の支持基板上に、被検出ガスに含まれる検出対象ガスの有無及び濃度の少なくとも一方により電気的特性としての電気抵抗値が変化するガス検知層10、及びガス検知層10を加熱するためのヒータ層6を形成して構成されている。
【0033】
次に、センサ素子20の詳細な構造及び製造方法を説明する。
センサ素子20は、Si基板1上に、支持層5、ヒータ層6及び絶縁層7、一対の電極9及びガス検知層10、選択触媒層11が、半導体プロセスにより順次積層されて製造される薄膜式のセンサ素子20であり、その各々の層厚は0.1〜50μm程度のものである。そして、センサ素子20による一回のガス検出のために必要な期間の消費電力量が8.0mJ未満とされ、通電を開始してからガス検知層10の温度が所定の高温状態となるまでのセンサ素子20の応答時間は、50〜100msecとなり、通電を停止してからガス検知層の温度が雰囲気温度(室温程度)と同程度の温度まで低下する応答時間は、50〜100msecとなる。
【0034】
より詳しくは、センサ素子20は、熱酸化膜2、Si34膜3、SiO2膜4が順次積層された支持層5の上にヒータ層6を設けて構成され、当該ヒータ層6の上側に全体を覆う状態でSiO2膜からなる絶縁層7を設けるとともに、当該絶縁層7の上に一対の電極層9を設け、当該一対の電極層9上及びこれら電極層9に渡ってガス検知層10を設けて構成される。さらに、図1に示す例の場合は、一対の電極層9およびガス検知層10の全体を覆う形態で、選択触媒層11が設けられている。
【0035】
ガス検知層10は、例えば酸化スズ(SnO2)のn型半導体を、スパッタリング法などにより形成したものである。
【0036】
選択触媒層11は、金属酸化物からなる担体上に触媒を担持して構成されるものであり、触媒を担持した金属酸化物をバインダーを介して互いに結合させて層状に構成するものである。
触媒としては、検出対象ガスに対して妨害ガスともなる還元性ガスを酸化除去できる、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)等を使用する。
担体を構成する金属酸化物としては、例えばアルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、酸化スズ(SnO2)、酸化インジュウム(In23)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe23)、酸化銅(CuO)あるいはこれらの混合物等を使用できる。
また、上記の金属酸化物(触媒を担持する金属酸化物)同士を結合させるバインダーとしては、例えばアルミナ微粉末、アルミナゾル、シリカ微粉末、シリカゾル、マグネシアを使用することができる。
ここで、上記のような触媒、金属酸化物、バインダーはいずれも、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用することもできる。
【0037】
センサ素子20は、以下のように製造される。
図1に示すように、両面に熱酸化膜2が付いたSi基板1上に、ダイアフラム構成の支持層5として、Si34膜3、SiO2膜4を、順次プラズマCVD法にて形成する。次にダイアフラム構造の中央部分にヒータ層6、このヒータ層6を覆うようにSiO2絶縁層7を、順にスパッタ法で形成する。その上に一対の接合層8、この接合層8の上に一対の電極層9を形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行なう。成膜条件は接合層8(TaまたはTi)、電極層9(PtまたはAu)とも同じで、Arガス圧力1Pa、基板温度300℃、RFパワー2W/cm2、膜厚は、例えば接合層8/電極層9=500Å/2000Åとする。
【0038】
次に、前記一対の電極層9上及びこれら電極層9に渡ってガス検知層10であるSnO2膜を成膜する。成膜にはRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、反応性スパッタリング法によって行なう。ターゲットにはSbを0.5質量%有するSnO2を用いる。成膜条件はArガス圧力2Pa、基板温度150〜300℃、RFパワー2W/cm2である。ガス検知層10の大きさは50〜200μm角程度、厚さは、例えば、0.2〜1.6μm程度が望ましい。
【0039】
ガス検知層10の上にはAl23、Cr23などの多孔質金属酸化物からなる担体にPdまたはPtなどの貴金属酸化触媒を担持し、無機バインダーと溶剤でペースト状にした選択触媒層材料をスクリーン印刷法により塗布し、500℃で1時間以上焼成することによって、ガス検知層10の全体を覆うように選択触媒層11を形成する。選択触媒層11は、ガス検知層10の全体を十分に覆いきる大きさに形成する必要がある。最後に、Si基板1の裏面よりエッチングによりSi(シリコン)を除去し、ダイアフラム構造とする。
選択触媒層11の役割は、検出対象ガスであるメタンガス、一酸化炭素ガス以外の水素ガス、アルコールガスなどの還元性(妨害)ガスを燃焼してガス検知層10に到達しないようにし、薄膜状のセンサ素子20にガス選択性を持たせることにある。さらに、ガス検知層10の表面に酸素を供給することにより、感度を向上する役割をも果たしていると考えられる。
この選択触媒層11に含まれるPdまたはPtなどの貴金属酸化触媒の担持量は、5〜9質量%(触媒質量/(触媒+担体)質量×100)とする。
【0040】
〔通電駆動手段〕
次に、通電駆動手段12は、ヒータ層6への通電を断続的に行って、ガス検知層10の温度を低温状態と高温状態との間で変化させることができるように構成されている。すなわち、図2に示すように、この通電駆動手段12はパルス通電を行って通電を断続的に行い(図2上、2点鎖線で示す)、ヒータ層6への通電を停止(ヒータ層通電停止時)して、ガス検知層10の温度を、雰囲気温度(例えば、室温)まで低下させた低温状態と、ヒータ層6への通電(ヒータ層通電時)をしてガス検知層10を所定の温度にまで加熱する高温状態との間で繰り返し変化させるように構成されている(図2上、センサ素子20の出力電圧を実線で示し、当該出力電圧が高い状態が上記高温状態に対応し、当該出力電圧が低い状態が上記低温状態に対応している。)。
なお、図2においては、通電駆動手段12によるヒータ層6への通電電圧の経時的な変化を2点鎖線で示しており、また、センサ素子20に一定の電圧を印加して(図2上、1点鎖線で示す)、センサ素子20中に備えられた固定抵抗の出力電圧の経時的な変化を実線で示した。センサ素子20中には固定抵抗と直列に可変抵抗が設けられ、図3において、この可変抵抗の電気抵抗値と水蒸気濃度との関係(ヒータ層6への通電を停止してから50msec経過時)を示した。
ここで、通電駆動手段12がヒータ層6を所定の温度にまで加熱する際には、センサ素子20の周囲温度を検出して、この周囲温度に応じて補正を行った上で、ヒータ層6への通電を制御することが好ましい。これにより、適切な通電により、ヒータ層6の温度を所定の温度にまで正確に加熱することができる。
【0041】
〔ガス検出手段〕
ガス検出手段13は、ガス検知層10の温度が検出対象ガスを精度高く検出可能な上記所定の温度になった状態(高温状態)での、ガス検知層10の電気抵抗値(センサ素子20の可変抵抗の電気抵抗値)に基づいて、検出対象ガスの有無や濃度を検出することができるように構成されている。すなわち、ヒータ層6に通電して検出対象ガス存在下でガス検知層10が高温状態となるに従い、このガス検知層10の電気抵抗値が低下して所定の電気抵抗値に近づいて安定化するため、この電気抵抗値(図2上、例示として、メタンガス検出と記載)を用いることにより、検出対象ガスの有無や濃度を正確かつ精度の高い状態で検出することができる。
なお、上記所定の温度は、ガス検出手段13が検出する検出対象ガスの種類に応じて、当該検出対象ガスを良好に検出することができる温度を適宜採用できる。例えば、検出対象ガスが、メタンガスの場合には350〜450℃であり、一酸化炭素ガスの場合には50〜150℃とすることができる。
この際には、被検出ガス中における検出対象ガスが存在する場合と存在しない場合の電気抵抗値や、被検出ガス中に特定の濃度の検出対象ガスが存在する場合の電気抵抗値を予めガス検知装置(センサ素子)ごとに設定しておき、この設定結果と上記ガス検知層10の電気抵抗値とを比較することにより、検出対象ガスの有無や濃度を検出することができる。
【0042】
〔湿度検出手段〕
湿度検出手段14は、ヒータ層6への通電を停止してから再度通電が開始されるまで(ヒータ層通電停止時)の、ガス検知層10の電気抵抗値(センサ素子20の可変抵抗の電気抵抗値)に基づいて、検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度を検出することができるように構成されている。すなわち、一つのセンサ素子20に対する一つのパルス通電による電気抵抗値を用いて、異なるタイミングで検出対象ガス及び湿度の両方を検出することができる。
通電駆動手段12によるヒータ層6への通電はパルス状に断続的に行なわれるが、ヒータ層6へ通電されると、ガス検知層10の温度は上昇し、雰囲気温度(室温程度)の低温状態から所定の温度の高温状態に変化する。この高温状態においては、ガス検知層10に吸着されていた水蒸気のほとんど全てが脱離して、ガス検知層10には水蒸気が存在しない状態となる。そして、ヒータ層6への通電を停止して、このように水蒸気が存在しない状態となっているガス検知層10の温度を低下させて、改めてガス検知層10に吸着された水蒸気による影響を、正確に反映した電気抵抗値を用いて湿度を検出することができる。
また、上記検出対象ガスを検出するための所定の温度を、ヒータ層6への通電を停止した後においてガス検知層10で水蒸気の吸着が始まる温度よりも高い温度とすることにより、正確な湿度を検出することができる。例えば、上記したセンサ素子20の場合は、250〜450℃とすることにより、後述のとおり、水蒸気の吸着が始まる温度(室温〜200℃)よりも高い温度とすることができ正確に湿度を検出することができる。
ここで、検出対象ガス検出と湿度検出との関係を述べると、以下のようになる。例えば、メタンガスの検出にあっては、ガス検知層10の温度はメタンガスの検出に適した温度(350〜450℃)とされるので、メタンガスを精度高く検出し、さらに、メタンガスの検出後、本願の手法により、湿度を検出する。一方、例えば、一酸化炭素ガスの検出にあっては、ガス検知層10の温度は一酸化炭素ガスの検出に適した温度(50〜150℃)とされるので、湿度の検出を目的として精度よく湿度を検出するのに適した温度(250〜450℃)とした後、上記一酸化炭素ガスの検出に適した温度にすることで一酸化炭素ガスを精度高く検出する。
【0043】
〔湿度表示手段〕
湿度表示手段15は、LEDや液晶ディスプレイなどにより構成され、湿度検出手段14により検出された湿度を表示することが可能に構成されている。例えば、液晶ディスプレイに湿度を表示することにより、ガス検知装置100は、現在の湿度をガス検知装置の周辺に存在する人に知らせる湿度検出装置としての機能も発揮することができる。
【0044】
〔電池〕
電池は、ガス検知装置100の内部に配置されて、上記各手段に電力を供給するように構成されている。例えば、耐用年数の比較的長いリチウム電池を用いる。
【0045】
〔補正手段〕
補正手段17は、湿度検出手段14により検出された湿度を用いて、ガス検出手段13により検出された電気抵抗値の補正を行うように構成されている。例えば、特定の水蒸気の濃度(湿度)における検出対象ガスの濃度とガス検知層10の電気抵抗値との関数を予め測定することにより導出し、当該関数に湿度検出手段14により検出された湿度の影響を考慮した補正項を導入することにより、ガス検出手段13により検出された電気抵抗値の補正を行うことができる。これにより、ガス検知層10の電気抵抗値が、当該ガス検知層の雰囲気中の湿度の影響を受けて変動する場合でも、このような変動を考慮することにより、正確な検出対象ガスの有無及び濃度の検出が可能となる。
【0046】
〔検出対象ガスの有無および濃度の検出・被検出ガスの湿度の検出〕
以下、上記構成のガス検知装置100において、被検出ガス(空気)中に含まれる検出対象ガスとしてのメタンガスを検出する場合における、メタンガスの検出と空気中の湿度の検出に関して説明する。
【0047】
空気中に含まれるメタンガスを検出する場合は、図2に示すように、通電駆動手段12によりヒータ層6にパルス通電を行って所定の高温状態とし、ヒータ層6へ通電をしているヒータ層通電時(特に、パルス通電の通電終了間際)において、ガス検知層10の電気抵抗値が安定化してメタンガスを精度高く良好に検出可能な状態の電気抵抗値を用いる。そして、ガス検出手段13が、センサ素子20について予め設定しておいた、空気中にメタンガスが存在する場合と存在しない場合の電気抵抗値や空気中に特定の濃度のメタンガスが存在する場合の電気抵抗値を、上記安定化した電気抵抗値と比較することにより、メタンガスの有無や濃度を検出する。
【0048】
この際、通電駆動手段12は、ガス検知層10の温度をメタンガスが良好に検知できる所定の温度(高温状態)となるように通電駆動を行う。この所定の温度は、350〜450℃程度であり、この例では、400℃としている。この所定の温度(高温状態)は、ガス検知層の温度が高温状態から低温状態に変化する過程において、水蒸気の吸着が始まる温度(室温〜200℃程度)よりも高温に設定されている。したがって、ガス検知層10に吸着された水蒸気は、高温状態となるたび毎に、ほとんど全てが脱離してガス検知層10の表面には水蒸気がほぼ存在しない状態となり、上記高温状態から低温状態に変化する過程においてガス検知層10の雰囲気中の水蒸気のみを当該ガス検知層10に吸着させることが可能となっている。なお、ガス検知層10の低温状態の温度は、通常、ガス検知層10の雰囲気温度である室温に設定される。
上記パルス通電は、例えば、図2に示すように、パルス通電から次のパルス通電が行われるまでの間隔を30sec周期とし、その30secのうち、通電を50msecの間実施し、29.95secの間実施しないように、断続的に(繰り返し)行うことができる。
【0049】
一方、湿度検出手段14は、図2に示すように、ヒータ層6への通電が停止されてから、再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時であって、当該通電が停止されてから所定時間経過するまでの電気抵抗値を用いることにより、湿度を検出する。
具体的には、湿度検出手段14は、ヒータ層6への通電を停止してから所定時間経過するまでの電気抵抗値として、水蒸気の濃度(湿度)とガス検知層10の電気抵抗値とが一定の関係で変化している時点における電気抵抗値を用いる。例えば、ヒータ層6への通電を停止してから50msec経過した時点におけるガス検知層10の電気抵抗値を用い(図3参照)、予め当該ガス検知層10について計測しておいた湿度と電気抵抗値との関係から、空気中の水蒸気濃度(湿度)を導出することができる。すなわち、例えば、図3に示すように、ヒータ層6への通電の停止から50msec経過した時点における水蒸気濃度は、少なくとも当該濃度が1.5〜2.1%の場合において、ガス検知層10の電気抵抗値と一定の関係(水蒸気の濃度が低下すると、電気抵抗値が上昇する関係)を有しており、このように50msec経過した時点における電気抵抗値を用いると、正確な湿度を検出できることがわかる。
なお、図2は、センサ素子20において、ヒータ層6への通電を50msec、停止を29.95secとする30secの周期のパルス通電を行なった際における経過時間とガス検知層10(センサ素子20の固定抵抗)の出力電圧との関係を示すグラフ図であり、図3は、センサ素子20において、ヒータ層6への通電を50msec、停止を29.95secとする30secの周期のパルス通電を行なって、ヒータ層6の通電の停止から50msec経過時における水蒸気の濃度(湿度)とガス検知層10(センサ素子20の可変抵抗)の電気抵抗値との関係を示すグラフ図である。
【0050】
これにより、ガス検知層10の温度を高温状態として既に吸着されている水蒸気のほとんど全てを一度脱離させた後、このガス検知層10の温度を低温状態にまで低下させて改めて水蒸気を吸着させ、この吸着された水蒸気の濃度を正確に反映した電気抵抗値を用いることにより、正確な湿度を検出することができる。さらに、湿度と電気抵抗値とが一定の関係で変化する関係にある時点での電気抵抗値を用いるので正確な湿度を検出できるとともに、ヒータ層6への通電の停止からの時間を計測して、その時点における電気抵抗値を検出すれば良いので、簡便に湿度を検出することができる。
【0051】
よって、ヒータ層6への通電を停止してから再度通電が開始されるまでの間であって、特に、ヒータ層6への通電を停止してから所定時間経過するまでの電気抵抗値を用いて湿度の検出を行なうことができるので、水蒸気の濃度をより正確に反映した電気抵抗値を用いて湿度を検出することができる。また、一つのセンサ素子20を用いて一つのパルス通電により、メタンガスの検出およびメタンガスが含まれる空気中の湿度の検出を行うことができ、装置の簡素化、および消費電力の低減を図ることができる。
【0052】
補正手段17は、湿度検出手段14により検出された湿度を用いて、ガス検出手段13により検出された電気抵抗値の補正を行うように構成されている。例えば、特定の水蒸気の濃度(湿度)における検出対象ガスの濃度とガス検知層10の電気抵抗値との関数を予め測定することにより導出し、当該関数に湿度検出手段14により検出された湿度の影響を考慮した補正項を導入することにより、ガス検出手段13により検出された電気抵抗値の補正を行うことができる。これにより、ガス検知層10の電気抵抗値が、当該ガス検知層の雰囲気中の湿度の影響を受けて変動する場合でも、このような変動を考慮することにより、正確な検出対象ガスの有無及び濃度の検出が可能となる。
【0053】
次に、補正手段17が、このようにして検出した空気中の湿度から、特定の水蒸気の濃度(湿度)における検出対象ガスの濃度とガス検知層10の電気抵抗値との関数に、湿度検出手段14により検出された湿度の影響を考慮した補正項を導入することにより、ガス検出手段13により検出された電気抵抗値の補正を行う。これにより、湿度の影響を考慮した電気抵抗値を得て、メタンガスの有無及び濃度を正確に導出することができる。
【0054】
この際には、湿度検出手段14により検出された湿度を、湿度表示手段により表示することにより、ガス検知装置100の周辺に存在する人に湿度を知らせることもできる。
【0055】
そして、警報手段18(図示せず)により、ガス検出手段13により検出されたメタンガスの濃度が所定の閾値を超えて存在しているものと判定された場合には、例えば、当該警報手段18としてのスピーカからの警報の発生や液晶ディスプレイでの警報の表示などにより、ガス漏れなどの異常状態の発生を報知することができる。
【0056】
上記では、湿度検出手段14が湿度を検出する際には、ヒータ層6への通電の停止から所定時間(例えば50msec)経過時点のガス検知層10の電気抵抗値を用いたが、当該所定時間を、ヒータ層6への通電の停止からガス検知層10が水蒸気の吸着平衡に達するまでの時間として、この時間における電気抵抗値を用いて、湿度を検出することもできる。なお、センサ素子20におけるガス検知層10が、水蒸気の吸着平衡になるまでの時間は、ヒータ層6の通電の停止から80msec程度であり、そのときのガス検知層の温度は、当該ガス検知層10の雰囲気中の温度(例えば、室温程度)である。
これにより、水蒸気の濃度をより正確に反映した電気抵抗値を用いて湿度を検出することができる。すなわち、ガス検知層10の温度が低温状態となって所定の時間が経過すると、ガス検知層10には多量の水蒸気が吸着されて水蒸気の吸着・脱離が平衡状態となる。このような平衡状態になってしまうと、仮に水蒸気の濃度が変化したとしてもガス検知層10の電気的特性がほとんど変化せず、水蒸気の濃度変化に対応した正確な湿度を検出することが困難となる。したがって、このように平衡状態となる前における電気的特性が水蒸気の濃度に対し一定の関係で変化する関係にある場合において湿度を検出することにより、ガス検知層10の雰囲気中における水蒸気の濃度を、より正確に反映した湿度を検出することができる。
【0057】
また、上記では、湿度検出手段14が湿度を検出する際には、ヒータ層6への通電の停止から所定時間(例えば50msec)経過時点のガス検知層10の電気抵抗値を用いたが、当該所定時間内の複数の時点における複数の電気抵抗値の差分を用いて、当該差分と予め測定しておいた差分とを比較することにより、湿度を検出することもできる。さらに、当該所定時間内の任意の時間帯における電気抵抗値の積分値を用いて、当該積分値と予め測定しておいた積分値とを比較することにより、湿度を検出することもできる。
【0058】
〔第2実施形態〕
上記第1実施形態では、湿度検出手段14が、ヒータ層6への通電が停止されてから、再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時であって、当該通電が停止されてから所定時間経過するまでのガス検知層10の電気抵抗値を用いて、被検出ガスの湿度を検出した。これに対し、本第2実施形態では、湿度検出手段14が、上記ヒータ層通電停止時であって、ガス検知層10の温度が高温状態から徐々に低下して当該ガス検知層10に水蒸気の吸着が始まる温度から、ガス検知層10の雰囲気温度に低下するまでのガス検知層10の電気抵抗値を用いて被検出ガスの湿度を検出することもできる。
なお、上記第1実施形態と共通する構成については、簡単のため説明を省略する。
【0059】
具体的には、湿度検出手段14は、図2に示すように、ヒータ層6への通電が停止されてから、再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時であって、ガス検知層10の温度が、上記高温状態から徐々に低下して当該ガス検知層10に水蒸気の吸着が始まる温度から、ガス検知層10の雰囲気温度(空気中の温度)に低下するまでのガス検知層10の電気抵抗値を用いて空気中の湿度を検出する。
すなわち、ガス検知層10の温度を高温状態(図2上、センサ素子20の出力電圧が高い状態)とし、このガス検知層10に吸着されていた水蒸気を脱離して少ない状態とした後、このガス検知層10の温度を低温状態である雰囲気温度(図2上、センサ素子20の出力電圧が低い状態)にまで低下させることにより、改めて吸着された水蒸気の濃度を正確に反映した電気抵抗値を用いて、より正確な湿度を検出することができる。
なお、酸化スズからなるガス検知層10において水蒸気の吸着が開始される温度は、室温〜200℃程度であり、ガス検知層10の雰囲気温度は、ガス検知層10の周辺に存在する空気の温度、例えば、室温に設定される。
【0060】
具体的には、湿度検出手段14が湿度を検出する際には、ガス検知層10の温度が室温となった時点における電気抵抗値を用いて、予め当該ガス検知層10について計測しておいた湿度と電気抵抗値との関係から、空気中の湿度を導出することができる。なお、図3に示すように、予め計測しておいた湿度と電気抵抗値とは、水蒸気濃度(湿度)が低下するにつれて、ガス検知層10の電気抵抗値が高くなる関係にあることがわかる。
【0061】
これにより、ヒータ層6への通電を停止してから再度通電が開始されるまでの間であって、特に、ガス検知層10の温度が、高温状態から徐々に低下して当該ガス検知層10に水蒸気の吸着が始まる温度から、ガス検知層10の雰囲気温度に低下するまでの電気抵抗値を用いて湿度の検出を行なうことができるので、水蒸気の濃度をより正確に反映した電気抵抗値を用いて湿度を検出することができる。すなわち、ガス検知層10を水蒸気の吸着が始まる温度よりも高温状態とし、このガス検知層10に吸着されていた水蒸気を一度脱離させた後、ガス検知層10を雰囲気温度(例えば、室温)にまで低下させることにより、改めて吸着された水蒸気の濃度を正確に反映した電気抵抗値を用いて、より正確に湿度を検出することができる。また、一つのセンサ素子20を用いて一つのパルス通電により、メタンガスの検出およびメタンガスが含まれる空気中の湿度の検出を行うことができ、装置の簡素化、および消費電力の低減を図ることができる。
【0062】
上記では、湿度検出手段14が湿度を検出する際には、ガス検知層10の温度が室温となった時点における電気抵抗値を用いて湿度を検出したが、ガス検知層10において吸着が始まる温度から当該ガス検知層10の雰囲気温度(室温)に低下するまでの任意の時点における電気抵抗値を用いて、湿度を検出することもできる。
また、ガス検知層10において吸着が始まる温度から室温に低下するまでの複数の時点における電気抵抗値の差分を用いて、当該差分と予め測定しておいた差分とを比較することにより、湿度を検出することもできる。
さらに、ガス検知層10において吸着が始まる温度から当該ガス検知層10の雰囲気温度(室温)に低下するまでの任意の時間帯における電気抵抗値の積分値を用いて、当該積分値と予め測定しておいた積分値とを比較することにより、湿度を検出することもできる。
【0063】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態においては、ガス検知層10(センサ素子20)の電気的特性として可変抵抗の電気抵抗値を用いて湿度を検出したが、特にこれに限定されるものではなく、ガス検知層10(センサ素子20)の固定抵抗の出力電圧を用いて湿度を検出することもできる。
【0064】
(2)上記実施形態においては、ガス検知層10を酸化スズ(SnO2)を主成分とする材料からなるものとしたが、特にこれに限定されるものではなく、このような主成分材料としては、検出対象ガスに応じ、酸化インジウム(In23)、酸化タングステン(WO3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO2)、酸化鉄(Fe23)等も採用できる。
【0065】
(3)上記実施形態においては、内蔵された電池からの電力供給により駆動するように構成したが、特にこれに限定されるものではなく、ガス検知装置の設置箇所の近傍に固定電源が存在するのであれば、この固定電源から電力供給を受ける構成としてもよい。
【0066】
(4)上記実施形態においては、通電駆動手段12によるパルス通電は30sec周期で行なったが、ガス検知層10が高温状態となった後、当該ガス検知層10に水蒸気が吸着されており、当該水蒸気の濃度とガス検知層10の電気的特性とが一定の関係で変化する関係を有している状態の電気的特性を用いて湿度を検出できれば、特にこれに限定されず、パルス通電の周期を適宜、短縮・延長することができる。
例えば、パルス通電の周期を60secにした場合(パルス通電:50msec、パルス通電停止:59.95sec)であって、ヒータ層6への通電の停止から50msec経過時点の電気抵抗値と水蒸気濃度とは、上記パルス通電の周期が30secの場合と同様に、水蒸気の濃度が低下すると電気抵抗値が上昇する関係を有することが確認されている。
【0067】
(5)上記実施形態においては、図1に示したように、支持層5の上に設けられたヒータ層6の全体を覆う状態でSiO2膜からなる絶縁層7が設けられ、当該絶縁層7の上に一対の電極層9が設けられる構成を例示した。しかし、絶縁層7が設けられることなく、ヒータ層の上に電極層が設けられる構成であってもよい。また、電極層とヒータ層とが独立して設けられず、兼用される構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、一つのパルス通電により加熱される一つのセンサ素子(ガス検知層)の電気抵抗値を用いて、検出対象ガスおよび湿度の検出を行い、装置構成の簡略化、消費電力の低減を図りつつ、より正確な湿度を検出できるガス検知装置及びガス検知方法に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ガス検知装置の構造を示す概略図
【図2】ヒータ層へのパルス通電の電圧と時間との関係、パルス通電の際のガス検知層の出力電圧と時間との関係を示すグラフ図
【図3】ガス検知層の電気抵抗値と水蒸気濃度との関係を示すグラフ図
【符号の説明】
【0070】
1: Si基板(支持基板)
6: ヒータ層
10: ガス検知層
11: 選択触媒層
12: 通電駆動手段
13: ガス検出手段
14: 湿度検出手段
15: 湿度表示手段
17: 補正手段
20: センサ素子
100:ガス検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象ガスとの接触により電気的特性が変化するガス検知層、及び前記ガス検知層を加熱するヒータ層を形成したセンサ素子と、
前記ヒータ層への通電を断続的に行って、前記ガス検知層の温度を変化させる通電駆動手段と、
ヒータ層通電時の前記ガス検知層の電気的特性に基づいて、前記検出対象ガスを検出するガス検出手段と、を備えたガス検知装置であって、
前記ヒータ層への通電を停止してから再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時の前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度を検出する湿度検出手段を備えたガス検知装置。
【請求項2】
前記湿度検出手段が、前記ヒータ層への通電を停止してから前記ガス検知層が水蒸気の吸着平衡に達するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう請求項1に記載のガス検知装置。
【請求項3】
前記湿度検出手段が、前記ガス検知層への水蒸気の吸着が始まってから前記ガス検知層が水蒸気の吸着平衡に達するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう請求項1又は2に記載のガス検知装置。
【請求項4】
前記湿度検出手段が、前記ガス検知層の温度が前記ガス検知層への水蒸気の吸着が始まる温度から前記ガス検知層の雰囲気温度に低下するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう請求項1から3の何れか一項に記載のガス検知装置。
【請求項5】
前記湿度検出手段が、前記ヒータ層への通電を停止してから所定時間経過するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう請求項1又は2に記載のガス検知装置。
【請求項6】
前記ヒータ層への通電を行うことにより前記ガス検知層の温度を、前記ヒータ層への通電を停止した後において前記ガス検知層で水蒸気の吸着が始まる温度よりも高い温度にまで加熱する請求項1から5の何れか一項に記載のガス検知装置。
【請求項7】
前記湿度検出手段により検出された湿度に基づいて、前記検出対象ガスを検出する際の電気的特性の補正を行う補正手段を備えた請求項1から6の何れか一項に記載のガス検知装置。
【請求項8】
前記湿度検出手段により検出された湿度を表示する湿度表示手段を備えた請求項1から7の何れか一項に記載のガス検知装置。
【請求項9】
内蔵された電池からの電力供給により駆動する請求項1から8の何れか一項に記載のガス検知装置
【請求項10】
検出対象ガスとの接触により電気的特性が変化するガス検知層、及び前記ガス検知層を加熱するヒータ層を形成したセンサ素子を用いて、
通電駆動手段が、前記ヒータ層への通電を断続的に行って、前記ガス検知層の温度を変化させ、
ガス検出手段が、ヒータ層通電時の前記ガス検知層の電気的特性に基づいて、前記検出対象ガスを検出するガス検知方法であって、
湿度検出手段が、前記ヒータ層への通電を停止してから再度通電が開始されるまでのヒータ層通電停止時の前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記検出対象ガスが含まれる被検出ガスの湿度を検出するガス検知方法。
【請求項11】
前記湿度検出手段が、前記ガス検知層の温度が前記ガス検知層への水蒸気の吸着が始まる温度から前記ガス検知層の雰囲気温度に低下するまでの前記ガス検知層の電気的特性を用いて、前記湿度の検出を行なう請求項10に記載のガス検知方法。
【請求項12】
前記ヒータ層への通電を行うことにより前記ガス検知層の温度を、前記ヒータ層への通電を停止した後において前記ガス検知層で水蒸気の吸着が始まる温度よりも高い温度にまで加熱する請求項10又は11に記載のガス検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−210342(P2009−210342A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52364(P2008−52364)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】