説明

サスペンション装置

【課題】 エアばね装置による車高調整を電磁アクチュエータにてエネルギー効率良く補助する。
【解決手段】 車両停車時に、エアばね制御部がエアばね装置を使って車高調整をするときに、アクチュエータ制御部が蓄電装置に蓄えた電気エネルギーで電磁アクチュエータを作動させて車高調整を補助する。この場合、アクチュエータ制御部は、ポンプ回転数からエアばね装置に給排される空気流量Qを検出し、空気流量Qに応じたデューティ比でスイッチング素子をPWM制御して電磁アクチュエータの電動モータを駆動制御する。これにより、エアばね装置による車高調整と同程度の速度で電磁アクチュエータによる車高調整補助を行うことができる。この結果、蓄電装置の蓄電エネルギーを効率良く使いながら、迅速に車高調整を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車輪のサスペンション装置に係り、特に、車体と車輪との相対運動により電動モータが電磁力を発生して車体と車輪との相対運動を減衰させる電磁アクチュエータを備えたサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車体と車輪との相対運動により電動モータが回されて電磁力を発生し、この電磁力により減衰力を得る電磁アクチュエータをショックアブソーバとして備えたいわゆる電磁サスペンション装置が知られている。また、特許文献1に提案されているように、空気の流入・流出により車高調整可能なエアばね装置と、電磁アクチュエータとを組み合わせた電磁サスペンション装置も知られている。こうした、エアばね装置と電磁アクチュエータとを組み合わせた電磁サスペンション装置においては、エアばね装置と電磁アクチュエータとの両方を協働させて車高調整を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−38115
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、車高調整を行うときに、特許文献1のものでは、電磁アクチュエータの電動モータをエネルギー効率よく作動させることができない。つまり、エアばね装置の車高調整速度(空気流入速度)はポンプ回転数によって決まるため、電磁アクチュエータの電動モータを最大速度で駆動しても、エアばね装置の車高調整速度(空気流入速度)が遅い場合には、電磁アクチュエータにとっては、エアばね装置が余分な抵抗となる。逆に、電磁アクチュエータの電動モータの駆動量を抑えて、エアばね装置に比べて電磁アクチュエータの車高調整速度を遅くした場合には、エアばね装置にとって電磁アクチュエータが余分な抵抗となってしまい車高調整を良好に補助できない。特に、車両停車時における車高調整においては、車載電源を構成するオルタネータの発電電力が得られないため、限られた電源を効率よく使う必要が生じる。
【0005】
本発明は、上記問題に対処するためになされたもので、エアばね装置による車高調整を電磁アクチュエータにてエネルギー効率良く補助することを目的とする。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車体と車輪とを相互に流体の圧力によって弾性的に支持し、前記流体が流入・流出させられることによって上下方向における車体と車輪との離隔距離を変更可能な流体スプリングと、前記流体スプリングと並列的に設けられ、前記車体と前記車輪との相対運動により電動モータが発電して前記車体と前記車輪との相対運動を減衰させる一方、前記電動モータが電源供給を受けて駆動されることによって前記車体と車輪との離隔距離を変更可能な電磁アクチュエータと、前記流体スプリングに対する流体の流入・流出を制御することにより車高を調整する車高調整手段と、前記電動モータの発電により充電される蓄電装置と、車両停車時に前記車高調整手段が車高を調整するときに、前記流体スプリングに流れる流体の流量を検出する流量検出手段と、前記蓄電装置を電源として使用し、前記検出された流量に応じた駆動量で前記電磁アクチュエータの電動モータを駆動制御して前記車高調整を補助する車高調整補助手段とを備えたことにある。
【0007】
本発明においては、流体スプリングにより車体を車輪に弾性的に支持する。車体と車輪との相対運動(相対位置の変化)が発生すると、この相対運動により電磁アクチュエータの電動モータが発電して、車体と車輪との相対運動を減衰させる減衰力を発生する。これにより、車体と車輪との相対振動が抑制される。電動モータにより発電された電力は、減衰力の発生に使われるだけでなく蓄電装置に蓄電される。車高調整手段は、流体スプリングに対する流体の流入・流出を制御することにより車高を調整する。
【0008】
車両停車時、つまり、イグニッションスイッチがオフ状態となっているときに車高調整を行う場合には、その電源としてオルタネータの電力を使うことができない。そこで、本発明においては、車高調整補助手段が、蓄電装置に蓄電した電力を使用して、電磁アクチュエータの電動モータを駆動して車高調整を補助する。この車高調整を補助するにあたっては、流量検出手段により流体スプリングに流れる流体の流量を検出し、この検出された流量に応じた駆動量で電動モータを駆動制御する。つまり、流体スプリングに流れる流体の流量の増減にあわせて増減する電動モータの駆動量を設定し、この駆動量で電動モータを駆動制御する。例えば、電動モータの駆動回路にスイッチング素子を設けて、流体スプリングに流れる流体の流量に比例したデューティ比でスイッチング素子をPWM制御することにより電動モータの通電量を制御する。
【0009】
これにより、流体スプリングによる車高調整と同程度の速度で電磁アクチュエータによる車高調整を行うことができる。この結果、蓄電装置の蓄電エネルギーを効率良く使いながら、迅速に車高調整を行うことができる。尚、流量検出手段は、流体スプリングに流体を供給するポンプの回転数を検出し、この検出した回転数を、流体スプリングに流れる流体の流量とみなすようにしても良い。また、車高調整補助手段は、車両停車時における車高調整においてのみ作動する必要はなく、走行中においても流体スプリングによる車高調整を補助するようにしてもよい。また、車高調整補助手段は、流体スプリングが車高を上昇させる場合と下降させる場合との両方において補助する必要はなく、少なくとも、車高を上昇させる場合に車高調整を補助する構成であればよい。
【0010】
尚、例えば、電磁アクチュエータの作動方向に応じて発電電流の流れる回路が切り替わるとともに、各回路ごとに発電電流の大きさを調整する電流調整素子を備えた電流調整回路を設けることで、電磁アクチュエータの作動方向に応じた減衰力を独立して設定することができる。また、電流調整回路に蓄電装置を接続することで、電動モータの駆動回路を構成することができる。この場合、電流調整回路を利用して、車高調整方向に働く力よりも車高調整方向とは反対方向に働く力に対して大きな減衰力を発生させる車高調整時減衰力調整手段を設けると車高調整補助を安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るサスペンション装置のシステム構成図である。
【図2】サスペンション本体の概略構成を表す断面図である。
【図3】外部回路の回路構成図である。
【図4】車高調整補助制御ルーチンを表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るサスペンション装置について図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係るサスペンション装置のシステム構成を概略的に示している。
【0013】
このサスペンション装置は、各車輪WFL、WFR、WRL、WRRと車体Bとの間にそれぞれ設けられる4組のサスペンション本体10FL、10FR、10RL、10RRと、各サスペンション本体10FL、10FR、10RL、10RRの作動を制御するサスペンション電子制御ユニット50とを備えている。以下、4組のサスペンション本体10FL、10FR、10RL、10RRおよび車輪WFL、WFR、WRL、WRRについては、特に前後左右を区別する場合を除いて、単にサスペンション本体10および車輪Wと総称する。
【0014】
サスペンション本体10は、図2に示すように、車輪Wを支持するロアアームLAと車体Bとの間に設けられ、空気の弾性(圧縮性)を利用して路面から受ける衝撃を吸収し乗り心地を高めるとともに車体Bの重量を弾性的に支持するエアばね装置20と、エアばね装置20の上下振動に対して減衰力を発生させるショックアブソーバとして機能する電磁アクチュエータ30とを並列的に備えて構成される。以下、場合によっては、エアばね装置20の上部側、つまり車体B側を「ばね上」と呼び、エアばね装置20の下部側、つまり車輪W側を「ばね下」と呼ぶ。
【0015】
電磁アクチュエータ30は、同軸状に配置されるアウタシリンダ31およびインナシリンダ32と、インナシリンダ32の内側に設けられるボールねじ機構35と、ボールねじ機構35を動作させる電動モータ40とを備える。本実施形態においては、電動モータ40として、ブラシ付DCモータが用いられる。
【0016】
アウタシリンダ31とインナシリンダ32とは、同軸異径パイプで構成され、インナシリンダ32の外周に軸方向へ摺動可能にアウタシリンダ31が設けられる。図中、符号33,34は、アウタシリンダ31内にインナシリンダ32を摺動可能に支持する軸受である。
【0017】
ボールねじ機構35は、電動モータ40の回転動作により回転するボールねじ36と、ボールねじ36に形成された雄ねじ部分37に螺合する雌ねじ部分38を有するボールねじナット39とからなる。ボールねじナット39は、図示しない回り止めにより、その回転運動ができないように規制されている。従って、このボールねじ機構35においては、ボールねじ36の回転運動がボールねじナット39の上下軸方向の直線運動に変換され、逆に、ボールねじナット39の上下軸方向の直線運動がボールねじ35の回転運動に変換される。
【0018】
ボールねじナット39の下端は、アウタシリンダ31の底面に固着されており、電動モータ40の回転によりボールねじナット39が上下動するとアウタシリンダ31を下方に押し下げ又は上方に引き上げる。逆に、ボールねじ36に対してアウタシリンダ31を軸方向に相対移動させようとする外力が加わると、ボールねじ36が回転して電動モータ40を回転させる。このとき電動モータ40は、そのロータに設けた電磁コイル(図示略)が、ステータに設けた永久磁石(図示略)から発生する磁束を横切ることによって、電磁コイルに誘導起電力を発生させて発電機として働く。
【0019】
インナシリンダ32の上端は、取付プレート41に固定される。この取付プレート41は、電動モータ40のモータケーシング42に固定されるとともに、その中央に形成した貫通孔43にボールねじ36が挿通される。ボールねじ36は、モータケーシング42内においてモータ軸と連結されるとともに、インナシリンダ32内の軸受44によって回転可能に支持される。
【0020】
車両が走行中に車輪Wが上下動する場合は、インナシリンダ32に対してアウタシリンダ31が軸方向に摺動し、ボールねじナット39がボールねじ36に対して上下動してボールねじ36を回転させる。このため、電動モータ40は、ロータが回転して電磁コイルに誘導起電力が発生し、後述する外部回路100を介して発電電流が流れることによりロータの回転を止めようとする抵抗力が発生する。この抵抗力が電磁アクチュエータ30の減衰力として働く。また、後述する蓄電装置110に蓄電した電力を使って電動モータ40へ通電することでボールねじ機構35を伸縮させてアウタシリンダ31に推進力(インナシリンダ32とアウタシリンダ31とのあいだの相対移動力)を与え、車体Bの上下振動に対して所定の減衰力を発生させたり、車体Bと車輪Wとの離間距離を変化させて車高調整したりすることもできる。減衰力の調整は、外部回路100により電動モータ40の電磁コイルに流れる電流の大きさを調整することで可能となる。電磁アクチュエータ30は、この外部回路100を含んで構成される。
【0021】
エアばね装置20は、この電磁アクチュエータ30の外周に設けられるもので、モータケーシング42の外周を囲む円筒状の上部ケース21と、アウタシリンダ31の外周面を囲む下部ケース22と、両ケース21,22を気密状態で連結するゴムを主成分としたダイアフラム23とを備え、これらのケース21,22とダイアフラム23とによりアウタシリンダ31、インナシリンダ32、モータケーシング42の外周に空気室24を形成する。上部ケース21および下部ケース22は、それぞれモータケーシング42およびアウタシリンダ31の外周面に気密的に溶接固定されることで、空気室24を密閉状態にする。
【0022】
上部ケース21には、この空気室24内に空気を供給したり空気室24内から空気を排出したりする給排口としてのノズル25が設けられる。このノズル25には、図1に示すように、給排装置80からの高圧空気流路となる給排気管81が接続され、ノズル25からの給排気により空気室24内の空気圧が調整されるようになっている。
【0023】
このように構成されたサスペンション本体10は、上部ケース21の上面で弾性材料からなるアッパーサポート26を介して車体Bに取り付けられる。
【0024】
次に、サスペンション本体10の作動を制御する構成について説明する。サスペンション装置は、外部回路100と給排装置80の作動を制御するサスペンション電子制御ユニット(以下、ECUと呼ぶ)50を備えている。ECU50は、マイクロコンピュータを主要部として備え、その機能に着目すると、外部回路100のスイッチング制御により電磁アクチュエータ30の電動モータ40に流れる電流量を調整するアクチュエータ制御部51と、給排装置80の制御によりエアばね装置20に供給される空気量を調整するエアばね制御部52とに大別される。ECU50には、各車輪Wの位置に設けられるセンサとして、車体Bの上下方向の加速度(ばね上加速度)を検出するばね上加速度センサ(以下、ばね上Gセンサと呼ぶ)61と、車輪Wと車体Bとの上下方向の離間距離(以下、ストロークと呼ぶ)を検出するストロークセンサ62とを接続している。
【0025】
次に、図3を用いて、外部回路100について説明する。図中において、Rmは電動モータ40の内部抵抗、Lはモータインダクタンスを表し、電動モータ40の表示記号の外に記載している。外部回路100は、車体Bと車輪Wとの相対運動により電動モータ40がボールねじ機構35を介して回されたとき、電動モータ40で発生した誘導起電力により、電動モータ40の端子間(第1端子t1と第2端子t2との間)に発電電流が流れることを許容する回路であり、また、電動モータ40の発電電力を使って蓄電装置110を充電する回路でもあり、また、蓄電装置110に蓄えた電気エネルギーを使って電動モータ40を駆動する回路でもある。
【0026】
外部回路100は、第1端子t1と第2端子t2とを、a点とb点とにおいて電気的に結ぶ配線abと、c点とd点とにおいて電気的に結ぶ配線cdと、e点とf点とにおいて電気的に結ぶ配線efとを備えている。尚、図中において、配線については、各点(a,b,c…)を結ぶ線であるため、その符号の表示を省略している。配線abには、b点からa点に向かう方向の電流の流れを許容しa点からb点に向かう方向の電流の流れを阻止する第1ダイオードD1と、a点からb点に向かう方向の電流の流れを許容しb点からa点に向かう方向の電流の流れを阻止する第2ダイオードD2とが設けられている。配線cdには、c点側から順に、第2スイッチング素子SW2,第2抵抗器R2,第1抵抗器R1,第1スイッチング素子SW1が設けられている。第1抵抗器R1,第2抵抗器R2は、減衰力を設定する固定抵抗器である。配線efには、e点側から順に、第4スイッチング素子SW4,第3スイッチング素子SW3が設けられている。本実施形態においては、第1スイッチング素子SW1,第2スイッチング素子SW2,第3スイッチング素子SW3,第4スイッチング素子SW4としてMOS−FETを使用するが他のスイッチング素子を使用することもできる。第1スイッチング素子SW1,第2スイッチング素子SW2,第3スイッチング素子SW3,第4スイッチング素子SW4は、それぞれゲートがECU50のアクチュエータ制御部51に接続され、アクチュエータ制御部51からのPWM(Pulse Width Modulation)制御信号により設定されるデューティ比でオンオフ作動するように構成されている。尚、本明細書におけるデューティ比とは、オンデューティ比、つまり、パルス信号のオン時間とオフ時間とを足し合わせた時間に対するパルス信号のオン時間の比を表す。
【0027】
また、配線abにおける第1ダイオードD1と第2ダイオードD2との間のg点と、配線cdにおける第1抵抗器R1と第2抵抗器R2との間のh点とは、配線ghにより電気的に連結されている。また、配線efにおける第3スイッチング素子SW3と第4スイッチング素子SW4との間のi点と、上記h点とは、配線hiにより電気的に接続されている。配線hiには、蓄電装置110がi点側を正極側にして設けられている。図中において、Reは、蓄電装置110の内部抵抗である。この蓄電装置110は、電動モータ40が発電した電力を回生して蓄電するもので、例えば、蓄電可能なバッテリが使用される。また、バッテリに代えて、キャパシタやコンデンサ等を使用することもできる。尚、外部回路100は、各電磁アクチュエータ30ごとに設けられるものであるため、この蓄電装置110は、車両内の種々の電気負荷に電源供給する主バッテリとは異なり、電動モータ40の駆動用のみに使用されるものであるが、上記主バッテリを使用するようにしてもよい。
【0028】
また、第1端子t1とa点とは、配線t1aにより電気的に連結され、第2端子t2とb点とは、配線t2bにより電気的に連結されている。配線t1aには、電流センサ111が設けられている。電流センサ111は、電動モータ40に流れる電流を検出して、その測定値を表す検出信号をアクチュエータ制御部51に出力する。
【0029】
次に、外部回路100の動作について説明する。電動モータ40は、車輪Wと車体Bとの相対運動によりボールねじ機構35を介して回されると、その回転方向に応じた向きに誘導起電力を発生する。例えば、車輪Wと車体Bとが接近して電磁アクチュエータ30が圧縮される圧縮動作時においては、電動モータ40の第1端子t1が高電位となり第2端子t2が低電位となる。逆に、車輪Wと車体Bとが離れて電磁アクチュエータ30が伸ばされる伸長動作時においては、電動モータ40の第2端子t2が高電位となり第1端子t1が低電位となる。
【0030】
アクチュエータ制御部51は、電動モータ40の回転速度が基準速度以下となっているか否かを判断し、電動モータ40の回転速度が基準速度以下となっている状況においては、配線abと配線cdと配線ghからなるブリッジ回路に電動モータ40の発電電流を対角位置で流して減衰力を発生させ(発電モード)、電動モータ40の回転速度が基準速度を越える状況であれば、更に発電電力を蓄電装置110に充電する(回生モード)。また、車体Bの上下加速度が基準加速度を超えるような大きな路面入力が働いている場合には、配線cdと配線efと配線hiからなるブリッジ回路を使って蓄電装置110に蓄えた電気エネルギーで積極的に電動モータ40を通電駆動して車体Bの振動を抑制する(駆動モード)。また、車両の停車時(イグニッションスイッチをオフ操作したとき)には、配線cdと配線efと配線hiからなるブリッジ回路を使って蓄電装置110に蓄えた電力で電動モータ40を通電駆動して電磁アクチュエータ30を伸長あるいは圧縮して、エアばね装置20の車高調整を補助する。
【0031】
まず、発電モードにおける外部回路100の動作について説明する。電磁アクチュエータ30が圧縮される圧縮動作時においては、電動モータ40の発電電流は、第1端子t1からc点,第2スイッチング素子SW2,第2抵抗器R2,h点、g点、第2ダイオードD2,b点を通って第2端子t2に流れる。一方、電磁アクチュエータ30が伸ばされる伸長動作時においては、電動モータ40の発電電流は、第2端子t2からd点,第1スイッチング素子SW1,第1抵抗器R1,h点、g点、第1ダイオードD1,a点を通って第1端子t1に流れる。従って、電磁アクチュエータ30の圧縮動作と伸長動作とで発電電流の流れる回路が異なるように構成されている。この例では、第2抵抗器R2が、第1端子t1から第2端子t2に流れる発電電流に対する抵抗となり、第2スイッチング素子SW2が、第1端子t1から第2端子t2に流れる発電電流の大きさ(通電量)を調整する電流調整器として機能する。また、第1抵抗器R1が、第2端子t2から第1端子t2に流れる発電電流に対する抵抗となり、第1スイッチング素子SW1が、第2端子t2から第1端子t1に流れる発電電流の大きさ(通電量)を調整する電流調整器として機能する。
【0032】
電動モータ40の電磁コイルに発電電流が流れることにより、電動モータ40に発電ブレーキが働き、これによりボールねじナット39とボールねじ36との相対回転を抑制する、つまり、車体Bと車輪Wとの相対運動を抑制する減衰力が発生する。また、発電電流の大きさを調整することにより減衰力を調整することができる。従って、第1抵抗器R1の抵抗値と第1スイッチング素子SW1のデューティ比にて伸長方向動作に対する減衰力を設定でき、第2抵抗器R2の抵抗値と第2スイッチング素子SW2のデューティ比にて圧縮方向動作に対する減衰力を設定できる。つまり、電磁アクチュエータ30の圧縮動作方向と伸長動作方向とに対して、独立して減衰力を設定することができる。
【0033】
アクチュエータ制御部51は、各輪毎に目標減衰力F*を次式のように設定する。
F*=C・V−C・V
ここで、Vは、各車輪位置における車体Bの上下方向の動作速度(ばね上速度)、Vは、各車輪Wの上下方向の動作速度(ばね下速度)である。ばね上速度Vは、ばね上Gセンサ61により検出されたばね上加速度Gを積分処理して算出される。また、ばね下速度Vは、ストロークセンサ62により検出されたストロークSを微分処理してストローク速度Vを求め、ばね上速度Vとストローク速度Vとの差から算出される。尚、算出にあたっては、ノイズとなる周波数振動成分をフィルタ処理により適宜カットする。また、Cは、ばね上速度Vに応じた減衰力を発揮させるためのゲインであり、Cは、ばね下速度Vに応じた減衰力を発揮させるためのゲインである。つまり、C、Cは、いわゆる減衰係数である。アクチュエータ制御部51は、このように設定された目標減衰力F*に基づいて、目標減衰力F*を発生させるために必要な目標電流値i*を算出する。また、減衰力は、車体Bと車輪Wとを離間させる方向(リバウンド方向)のものが正の値、車体Bと車輪Wとを接近させる方向(バウンド方向)のものが負の値となるものとして扱う。
【0034】
アクチュエータ制御部51は、ストローク速度Vの符号に基づいて、電磁アクチュエータ30が圧縮動作中(外力により縮む方向に変化している状態)であるか伸長動作中(外力により伸び方向に変化している状態)であるかを判断する。そして、電磁アクチュエータ30が圧縮動作をしていると判断した場合には、電流センサ111により検出される電流値が目標電流値i*と等しくなるように第2スイッチング素子SW2のデューティ比を調整する。つまり、電流センサ111により検出される電流値をフィードバックして、目標電流値i*との偏差が無くなるようなPWM制御信号を第2スイッチング素子SW2に出力する。この場合、第1スイッチング素子SW1はオフ状態にしておけばよい。一方、電磁アクチュエータ30が伸長動作をしていると判断した場合には、電流センサ111により検出される電流値が目標電流値i*と等しくなるように第1スイッチング素子SW1のデューティ比を調整する。つまり、電流センサ111により検出される電流値をフィードバックして、目標電流値i*との偏差が無くなるようなPWM制御信号を第1スイッチング素子SW1に出力する。この場合、第2スイッチング素子SW2はオフ状態にしておけばよい。これにより、車体Bと車輪Wとの相対運動を適正に減衰させることができる。
【0035】
次に、回生モードについて説明する。電動モータ40で発生する誘導起電力は、モータ回転速度が大きくなるほど大きくなる。そこで、アクチュエータ制御部51は、モータ回転速度が基準速度を超える場合には、この回生モードを実行して、発電により減衰力を発生させるだけでなく、蓄電装置110に発電電流を流して蓄電装置110を充電する。モータ回転速度は、ストローク速度Vに相当するものであるため、本実施形態においては、ストロークセンサ62により検出されたストロークSを微分処理して得られたストローク速度Vの大きさ|V|が基準速度V0を越える場合に回生モードを実行する。尚、蓄電装置110への電力回生は、電動モータ40で発生する誘導起電圧と蓄電装置110の蓄電電圧とのバランスで行われるため、電動モータ40で発生する誘導起電圧が蓄電装置110の蓄電電圧よりも低い場合には行われない。
【0036】
回生モード時においては、電磁アクチュエータ30の圧縮動作時であれば第4スイッチング素子SW4がオン(デューティ比100%)され、電磁アクチュエータ30の伸長動作時であれば第3スイッチング素子SW3がオン(デューティ比100%)される。また、第1スイッチング素子SW1および第2スイッチング素子SW2に関しては、発電モードと同様に、電流センサ111により検出される電流値が目標電流値i*となるようにデューティ比が制御される。従って、発電電流は、電磁アクチュエータ30の圧縮動作時であれば、第1端子t1からc点に流れ、このc点にて2方向に分流し、その一方は、第2スイッチング素子SW2,第2抵抗器R2,h点,g点,第2ダイオードD2,b点を通って第2端子t2に流れ、他方は、e点、第4スイッチング素子SW4,i点,蓄電装置110,h点,g点,第2ダイオードD2,b点を通って第2端子t2に流れる。同様に、電磁アクチュエータ30の伸長動作時であれば、発電電電流は、第2端子t2からd点に流れ、このd点にて2方向に分流し、その一方は、第1スイッチング素子SW1,第1抵抗器R1,h点,g点,第1ダイオードD1,a点を通って第1端子t1に流れ、他方は、f点、第3スイッチング素子SW3,i点,蓄電装置110,h点,g点,第1ダイオードD1,a点を通って第1端子t1に流れる。
【0037】
こうした回生モードにおいても、上述したように目標電流値iが設定されて、電流センサ111により検出される電流値が目標電流値i*と等しくなるように第1スイッチング素子SW1、あるいは、第2スイッチング素子SW2のデューティ比が制御される。これにより、車体Bの振動抑制と蓄電装置110の充電とが適切に行われる。
【0038】
次に、駆動モードについて説明する。路面から大きな入力が働いた場合には、電動モータ40の発電による減衰力だけでは車両の振動を抑えられないことがある。そこで、アクチュエータ制御部51は、ばね上Gセンサ61により検出されたばね上加速度Gの大きさ|G|が基準加速度G0を超えているか否かを判断し、ばね上加速度Gの大きさ|G|が基準加速度G0を超えている場合には、駆動モードを実行して、配線cdと配線efと配線hiからなるブリッジ回路を使って蓄電装置110に蓄えた電力で電動モータ40を通電駆動する。
【0039】
例えば、電磁アクチュエータ30を伸ばす方向に通電駆動する場合には、第1スイッチング素子SW1と第4スイッチング素子SW4とをオフ(デューティ比0%)、第2スイッチング素子SW2をオン(デューティ比100%)にした状態で、第3スイッチング素子SW3をPWM制御する。これにより、電動モータ40に駆動電流が流れる。駆動電流は、蓄電装置110の正極から、i点,第3スイッチング素子SW3,f点,d点,b点,第2端子t2,電動モータ40の電磁コイル,第1端子t1,a点,c点,第2スイッチング素子SW2,第2抵抗器R2,h点,蓄電装置110の負極へと流れる。
【0040】
また、電磁アクチュエータ30を縮める方向に通電駆動する場合には、第2スイッチング素子SW2と第3スイッチング素子SW3とをオフ(デューティ比0%)、第1スイッチング素子SW1をオン(デューティ比100%)にした状態で、第4スイッチング素子SW4をPWM制御する。これにより、電動モータ40に駆動電流が流れる。駆動電流は、蓄電装置110の正極から、i点,第4スイッチング素子SW4,e点,c点,a点,第1端子t1,電動モータ40の電磁コイル,第2端子t2,b点,d点,第1スイッチング素子SW1,第1抵抗器R1,h点,蓄電装置110の負極へと流れる。
【0041】
こうした駆動モードにおいても、上述したように目標電流値i*が設定されて、電流センサ111により検出される電流値が目標電流値i*と等しくなるように第3スイッチング素子SW3、あるいは、第4スイッチング素子SW4のデューティ比が制御される。これにより、車輪Wに大きな路面入力が働いても、車体Bの振動を良好に減衰させることができる。
【0042】
次に、車高調整制御について説明する。本実施形態のサスペンション装置においては、基本的にはエアばね装置20により車高調整を行うが、イグニッションスイッチ(図示略)がオフ操作されたときの車高調整に関しては、電磁アクチュエータ30がエアばね装置20の車高調整を補助する。まず、エアばね装置20により車高調整を行う構成について説明する。エアばね装置20は、給排装置80からの高圧空気流路となる給排気管81が接続され、給排装置80の作動により空気室24内の空気圧が調整されることにより、車輪Wと車体Bとの離間距離を調整する。これにより、車高が調整される。
【0043】
給排装置80は、ポンプ85と、ポンプ85を駆動するポンプモータ86と、給気と排気とを切り換える電磁式の切替弁87とを備えている。切替弁87は、2位置切替弁であって、第1位置においては、ポンプ85の高圧側(吐出側)と主給排気管82とを連通するとともにポンプ85の低圧側(吸入側)と低圧配管83とを連通し、第2位置においては、ポンプ85の高圧側と低圧配管83とを連通するとともにポンプ85の低圧側と主給排気管82とを連通する。主給排気管82は、途中で4本に分岐し、この分岐した給排気管81が各エアばね装置20のノズル25に接続されている。また、給排気管81にはそれぞれ電磁式の開閉弁84(常閉弁)が設けられている。低圧配管83の先端側は、フィルタ(図示略)を介して大気開放されている。
【0044】
また、ポンプモータ86には、ポンプ回転数を検出するポンプ回転数センサ88が設けられている。このポンプ回転数センサ88は、ECU50のアクチュエータ制御部51に接続され、ポンプ回転数を表す検出信号をアクチュエータ制御部51に出力する。
【0045】
この給排装置80は、ECU50のエアばね制御部52により制御される。エアばね制御部52は、給排装置80を駆動するための駆動回路(図示略)を備えており、ストロークセンサ62により検出されるストロークに基づいて、駆動回路を制御してポンプモータ86、切替弁87、開閉弁84を駆動する。本実施形態のサスペンション装置においては、運転者の操作によって車高を変更するための車高変更スイッチ90が設けられており、走行中における設定車高を運転者の好みに応じて選択できるようになっている。そして、エアばね制御部52は、車高変更スイッチ90により設定された車高に基づいて給排装置80を駆動制御する。車高は、ストロークセンサ62により検出されるストロークに対応した値となるため、以下、ストロークセンサ62により検出されるストロークから求められた車高を実車高と呼ぶ。
【0046】
エアばね制御部52は、ストロークセンサ62により検出した実車高と設定車高とを比較し、実車高が設定車高よりも低い場合には、切替弁87を第1位置にした状態でポンプモータ86を駆動するとともに各開閉弁84を開弁する。これにより、圧縮エアがエアばね装置20の空気室24に供給され車高が上がっていく。エアばね制御部52は、4輪ごとにストロークセンサ62により実車高を検出し、実車高が設定車高になると、その車輪Wに対応する開閉弁84を閉弁する。そして、4輪の実車高が全て設定車高に達するとポンプモータ86の作動を停止する。
【0047】
また、実車高が設定車高よりも高い場合には、切替弁87を第2位置にした状態でポンプモータ86を駆動するとともに各開閉弁84を開弁する。これにより、エアばね装置20の空気室24内の空気がポンプ85により吸引されて排出され車高が下がっていく。エアばね制御部52は、4輪ごとにストロークセンサ62により実車高を検出し、実車高が設定車高になると、その車輪Wに対応する開閉弁84を閉弁する。そして、4輪の実車高が全て設定車高に達するとポンプモータ86の作動を停止する。
【0048】
尚、エアばね制御部52は、ポンプモータ86を作動させる場合、予め決まったロジックにしたがってポンプモータ86の通電を制御する。例えば、給気あるいは排気の開始時においては、低速度にてポンプモータ86を回転させ、起動から所定時間経過後に高速回転に切り換える。そして、実車高が設定車高に接近したときに低速回転に戻すように制御する。あるいは、設定車高と実車高との偏差に基づいたPID制御によりポンプモータ86の駆動制御量を決定するようにしてもよい。従って、ポンプモータ86の回転数は、一定に制御されるものではない。
【0049】
本実施形態のサスペンション装置においては、走行中における設定車高とは別に、停車中(イグニッションスイッチのオフ時)における車高が設定されている。このため、停車中における設定車高が走行中における設定車高と相違する場合には、イグニッションスイッチのオン操作時とオフ操作時において給排装置80が駆動されて上述したように車高調整される。
【0050】
エアばね制御部52および給排装置80は、主バッテリとオルタネータとを備えた車載電源装置(図示略)から電源供給されため、イグニッションスイッチをオフ操作した後の車高調整は、オルタネータの発電電力を使用することができず、主バッテリのみから電源供給を受けることになる。このため、イグニッションスイッチをオフ操作した後の車高調整に関しては、主バッテリの電源供給能力を低下させないように、電力消費をできるだけ抑えたい。そこで、本実施形態においては、イグニッションスイッチをオフ操作した後の車高調整については、エアばね装置20に加えて電磁アクチュエータ30をも作動させる。
【0051】
上述したように、電磁アクチュエータ30は、外部回路100に蓄電装置110を備え、回生モードにおいては電動モータ40で発生した発電電力を蓄電装置110に充電するため、この蓄電装置110に蓄電されている電力を使って電動モータ40を駆動して車高を調整することができる。このため、エアばね装置20の行う車高調整を電磁アクチュエータ30にて補助することで、主バッテリの電力消費を低減させることができる。ところが、エアばね装置20と電磁アクチュエータ30とを同時に作動させる時には、両者をバランス良く作動させないと電力消費効率が悪くなってしまう。つまり、電磁アクチュエータ30に比べてエアばね装置20の車高調整速度が遅い場合には、電磁アクチュエータ30にとっては、エアばね装置20が余分な抵抗となり、蓄電装置110の電力消費が大きくなる。逆に、電磁アクチュエータ30の電動モータ40の出力を下げて、エアばね装置20に比べて電磁アクチュエータ30の車高調整速度を遅くした場合には、エアばね装置20にとって電磁アクチュエータ30が余分な抵抗となってしまい、主バッテリの電力消費が大きくなる。
【0052】
そこで、本実施形態においては、電磁アクチュエータ30の電動モータ40の通電量をエアばね装置20に流れる空気の流量に従って制御することで、電磁アクチュエータ30とエアばね装置20とが互いに抵抗にならないようにして、電力消費効率を高めている。以下、電磁アクチュエータ30による車高調整補助制御について説明する。
【0053】
図4は、ECU50のアクチュエータ制御部51が実行する車高調整補助制御ルーチンを表すフローチャートである。この車高調整補助制御ルーチンは、ECU50のROM内に制御プログラムとして記憶されており、イグニッションスイッチがオフ操作されると起動する。
【0054】
本ルーチンが起動すると、アクチュエータ制御部51は、ステップS11において、エアばね装置20による車高調整が開始されたか否かを判断する。エアばね制御部52は、イグニッションスイッチがオフ操作されると、別の制御ルーチンにしたがって上述したように給排装置80を制御してエアばね装置20による車高調整を行うため、このステップS11においては、エアばね制御部52から給排装置80への作動開始指令を入力することにより判断する。
【0055】
アクチュエータ制御部51は、エアばね制御部52により車高調整が開始されるまで待機し、車高調整が開始されたことを検出すると(S11:Yes)、ステップS12において、エアばね制御部52から切替弁87の制御状態信号を読み込み、車高の調整方向(上昇方向あるいは下降方向)を判断する。つまり、切替弁87が第1位置であれば車高を上昇させる側の調整が開始され、切替弁87が第2位置であれば車高を下降させる側の調整が開始されたと判断する。続いて、ステップS13において、ポンプ回転数センサ88から出力されるポンプ回転数を表す検出信号を読み込む。ポンプ回転数は、エアばね装置20の空気室24に空気を流入あるいは流出させる流量に比例する。従って、アクチュエータ制御部51は、このステップS13において、ポンプ回転数から空気室24に空気が流入あるいは流出する空気流量を検出する。以下、ポンプ回転数から求めた空気流を空気流量Qと呼ぶ。
【0056】
続いて、アクチュエータ制御部は、ステップS14において、スイッチング素子のデューティ比Rduty(%)を次式により算出する。
Rduty=(Q/Qmax)×100 (%)
ここで、Qmaxは、後述のステップS16,S17におけるPWM制御の対象となる外部回路100のスイッチング素子(SW3またはSW4)をデューティ比100%で駆動したときに、エアばね装置20と電磁アクチュエータ30とが互いに抵抗とならないような流量(エアばね装置の空気室に空気を流入あるいは流出させる流量)、つまり、エアばね装置20と電磁アクチュエータ30とが同じ速度で車高調整できる流量であり、予め実験等により平均的な値が求められて設定されている。
【0057】
続いて、アクチュエータ制御部51は、ステップS15において、ステップS12で読み込んだ切替弁87の制御状態信号に基づいて、車高の調整方向が上昇方向であるか否かを判断する。そして、上昇方向であれば、ステップS16において、外部回路100の第1スイッチング素子SW1をオフ(デューティ比0%)、第2スイッチング素子SW2をオン(デューティ比100%)、第4スイッチング素子SW4をオフ(デューティ比0%)に保った状態で、第3スイッチング素子SW3をデューティ比RdutyにてPWM制御する。これにより、蓄電装置110に蓄電された電気エネルギーにより電動モータ40が通電駆動されて電磁アクチュエータ30が伸長する。逆に、車高の調整方向が下降方向であれば、ステップS17において、外部回路100の第1スイッチング素子SW1をオン(デューティ比100%)、第2スイッチング素子SW2をオフ(デューティ比0%)、第3スイッチング素子SW3をオフ(デューティ比0%)に保った状態で、第4スイッチング素子SW4をデューティ比RdutyにてPWM制御する。これにより、蓄電装置110に蓄電された電気エネルギーにより電動モータ40が通電駆動されて電磁アクチュエータ30が収縮する。
【0058】
続いて、アクチュエータ制御部51は、ステップS18において、電磁アクチュエータ30による車高調整補助の終了タイミングとなったか否かを判断する。例えば、エアばね装置20による各輪ごとの車高調整が終了したとき、あるいは、車高調整が終了する少し手前のタイミングで、エアばね制御部52からアクチュエータ制御部51に各輪ごとの車高調整終了指令を出力するように構成し、この車高調整終了指令に基づいてアクチュエータ制御部51が車高調整補助の終了タイミングを判断する。
【0059】
アクチュエータ制御部51は、エアばね制御部52から車高調整終了指令を入力していない場合は、ステップS13に戻り同様な処理を繰り返す。これにより、エアばね装置20による車高調整を電磁アクチュエータ30が補助する。そして、車高調整終了指令を入力した場合には、本ルーチンを終了する。尚、車高調整終了指令は、エアばね制御部52から各輪毎の開閉弁84に出力されるため、各輪毎に電磁アクチュエータ30の車高調整補助を終了してもよいし、最初の車高調整終了指令により4輪全ての電磁アクチュエータ30による車高調整補助を終了してもよい。
【0060】
以上説明した本実施形態のサスペンション装置によれば、ポンプ回転数から求めた検出空気流量Qに基づいて、外部回路100のスイッチング素子SW3,SW4のデューティ比を設定して電磁アクチュエータ30の電動モータ40の通電量を制御するため、エアばね装置20による車高調整と電磁アクチュエータ30による車高調整とをほぼ同じ速度で行うことができる。従って、両者が互いに抵抗となることがないため、車高調整にかかる電力消費を抑えることができる。このため、蓄電装置110に蓄えた電気エネルギーを効率よく使って主バッテリからの電力消費を極力抑えることができる。また、エアばね装置20と電磁アクチュエータ30とを適切に協働させるため、車高調整を早く終了させることができる。
【0061】
更に、電磁アクチュエータ30により車高調整補助を行うときには、外部回路100の第1スイッチング素子SW1,第2スイッチング素子SW2に対してPWM制御を行わずに、オフ状態、または、オン状態に維持するため、車高調整方向に働く力に対しては減衰力が発生しなく、逆に、車高調整方向とは反対方向に働く力に対しては最大の減衰力を発生させる。このため、車高調整動作をスムーズに安定して行うことができる。
【0062】
例えば、車高を上昇させる車高調整時においては、第2スイッチング素子SW2をオン状態に維持するため、電磁アクチュエータ30に圧縮方向の力が働いた場合には、それにより電動モータ40で発生した誘導起電力による発電電流を第1端子t1からc点,h点,g点,b点を通って第2端子t2に流すことができる。このため、圧縮方向の力に対する最大の減衰力を発生させることができ、圧縮方向の力に対して大きな抵抗となる。また、第1スイッチング素子SW1をオフ状態に維持するため、電磁アクチュエータ30に伸長方向の力が働いた場合には、電動モータ40で発生した誘導起電力により発電電流が流れようとしても、第1スイッチング素子SW1と第2ダイオードD2とがそれを阻止する。このため、伸長方向の力に対しては減衰力を発生しないようにすることができ、車高調整の抵抗とはならない。これらの結果、電磁アクチュエータ30は、伸びやすく縮みにくくなる。
【0063】
一方、車高を下降させる車高調整時においては、第1スイッチング素子SW1をオン状態に維持するため、電磁アクチュエータ30に伸長方向の力が働いた場合には、それにより電動モータ40で発生した誘導起電力による発電電流を第2端子t2からd点,h点,g点,a点を通って第1端子t1に流すことができる。このため、伸長方向の力に対する最大の減衰力を発生させることができ、伸長方向の力に対して大きな抵抗となる。また、第2スイッチング素子SW2をオフ状態に維持するため、電磁アクチュエータ30に圧縮方向の力が働いた場合には、電動モータ40で発生した誘導起電力により発電電流が流れようとしても、第2スイッチング素子SW2と第1ダイオードD1とがそれを阻止する。このため、圧縮方向の力に対しては減衰力を発生しないようにすることができ、車高調整の抵抗とはならない。これらの結果、電磁アクチュエータ30は、縮やすく伸びにくくなる。
【0064】
このように、アクチュエータ制御部51は、外部回路100を使って、車高調整時において車高調整方向に働く力に対しては減衰力を発生させず、車高調整方向とは反対方向に働く力に対しては最大の減衰力を発生させる。換言すれば、車高調整方向に働く力よりも車高調整方向とは反対方向に働く力に対して大きな減衰力を発生させる車高調整時減衰力調整手段を備えているといえる。
【0065】
また、外部回路100は、電磁アクチュエータ30が圧縮される場合と伸ばされる場合とで発電電流の流れる回路が切り換えられ、各回路に設けたスイッチング素子SW1,SW2のデューティ比制御により、電磁アクチュエータが圧縮される場合と伸ばされる場合とで減衰力を独立して設定できるため、減衰力制御が容易である。
【0066】
以上、本実施形態のサスペンション装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0067】
例えば、本実施形態においては、ポンプ回転数から求めた空気流量Qに基づいて、外部回路100のスイッチング素子のデューティ比を設定する構成を採用しているが、空気流量Qに応じた目標電流値i*を算出して、電流センサ111により検出される電流値が目標電流値i*となるようにスイッチング素子のデューティ比を制御するようにしてもよい。この場合は、空気流量Qが増大するほど大きくなる(減少するほど小さくなる)目標電流値i*をマップや演算式により設定しておくとよい。また、本実施形態においては、空気流量Qの検出をポンプモータ86の回転数により推定しているが、空気室24に流入・流出する空気流量を直接検出するセンサを設けてもよい。
【0068】
また、本実施形態においては、エアばね装置20により車高を上昇側に調整する場合と下降側に調整する場合の両方においてポンプモータ86を作動させているが、主給排気管82に図示しない排気制御弁を設けて、下降側に調整するときにはポンプモータ86を駆動させずに排気制御弁を開弁して空気室24の空気を流出させるようにしてもよい。こうした構成であっても、車高を上昇側に調整するときには、空気室24に供給される空気流量Qに応じた通電量で電磁アクチュエータ30の電動モータ40を駆動する。
【0069】
また、本実施形態においては、イグニッションスイッチがオフされたときの車高調整時にのみ電磁アクチュエータ30による車高調整の補助を行っているが、さらに、車両の走行中における車高調整においても電磁アクチュエータ30により車高調整の補助を行うようにしてもよい。
【0070】
また、本実施形態においては、電磁アクチュエータ30に用いる電動モータ40としてブラシ付DCモータを使っているが、ブラシレスDCモータなど他の電動モータを使うこともできる。また、本実施形態では、電動モータ40によりボールねじ36を回転させてボールねじナット39を軸方向に上下動させる回転−直動変換機構を採用しているが、リニアソレノイドタイプの直動型モータを用いた電磁アクチュエータを採用してもかまわない。この直動型モータは、例えば、アウタシリンダの内周面に電磁コイルを設けるとともに、インナシリンダの外周面に電磁コイルと向かい合う永久磁石を配置し、インナシリンダに対するアウタシリンダの軸方向相対運動により電磁コイルに誘導起電力を発生させて減衰力を得る一方、電磁コイルに通電することによって、インナシリンダとアウタシリンダとの間に軸方向の推力を発生させるものである。
【符号の説明】
【0071】
10…サスペンション本体、20…エアばね装置、30…電磁アクチュエータ、40…電動モータ、50…サスペンション電子制御ユニット(ECU)、51…アクチュエータ制御部、52…エアばね制御部、61…バネ上Gセンサ、62…ストロークセンサ、80…給排装置、81…給排気管、82…主給排気管、83…低圧配管、84…開閉弁、85…ポンプ、86…ポンプモータ、87…切替弁、88…ポンプ回転数センサ、90…車高変更スイッチ、100…外部回路、110…蓄電装置、SW1,SW2,SW3,SW4…スイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と車輪とを相互に流体の圧力によって弾性的に支持し、前記流体が流入・流出させられることによって上下方向における車体と車輪との離隔距離を変更可能な流体スプリングと、
前記流体スプリングと並列的に設けられ、前記車体と前記車輪との相対運動により電動モータが発電して前記車体と前記車輪との相対運動を減衰させる一方、前記電動モータが電源供給を受けて駆動されることによって前記車体と車輪との離隔距離を変更可能な電磁アクチュエータと、
前記流体スプリングに対する流体の流入・流出を制御することにより車高を調整する車高調整手段と、
前記電動モータの発電により充電される蓄電装置と、
車両停車時に前記車高調整手段が車高を調整するときに、前記流体スプリングに流れる流体の流量を検出する流量検出手段と、
前記蓄電装置を電源として使用し、前記検出された流量に応じた駆動量で前記電磁アクチュエータの電動モータを駆動制御して前記車高調整を補助する車高調整補助手段と
を備えたことを特徴とするサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−16427(P2011−16427A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161891(P2009−161891)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】