説明

シリコン含有膜の製造方法

【課題】
高い水蒸気バリア性、耐湿熱性を示すシリコン含有膜の製造方法を提供すること
【解決手段】
乾式法により少なくともケイ素原子、窒素原子を含む乾式堆積膜を基材上に堆積させた後に、膜表面に波長が150nm以下の光照射を行い、膜の少なくとも一部を変性するシリコン含有膜の製造方法。本発明の方法は、蒸着法、反応性蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、化学気相堆積法から選ばれた手法により形成され、少なくともSi−H結合、もしくはN−H結合に由来する水素を含む乾式堆積膜に好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン含有膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸素や水蒸気などのガスを遮断する透明ガスバリア膜は、従来からの主たる用途である食品、医薬品などの包装材料用途だけでなく、液晶ディスプレイのようなフラットパネルディスプレイ(FPD)や太陽電池用の部材(基板、バックシートなど)、有機エレクトロルミネッセント(有機EL)素子用のフレキシブル基板や封止膜などにも用いられるようになってきている。このような電子デバイスの用途においては、非常に高いガスバリア性が求められている。
【0003】
非常に高い水蒸気ガスバリア性を有した膜として、窒化シリコン膜や酸窒化シリコン膜などが知られている。そして、それらの製膜には、乾式法が良く用いられている。特に、化学気相蒸着(CVD)法は、乾式法の有望な製膜法の1つである。例えば、触媒化学気相蒸着(Cat−CVD)法(特許文献1)、プラズマ化学気相蒸着(PECVD)法(特許文献2〜4)が知られている。
【0004】
例えば、窒化シリコンの製膜では、高いガスバリア性、耐酸化性、耐湿熱性を持たせるために、膜中のSi−H結合やN−H結合に由来するHをどうやって低減するかが、各種CVD法における共通の課題になっている。いずれのCVD法でも、膜を堆積させると同時に、膜の表面からSi−H結合やN−H結合に由来するHを取り去る化学反応を活発化させる事で前記の課題を解決していると考えられる。
【0005】
特許文献1では、Cat−CVD法で窒化シリコンを製膜する際、多量の水素ガスをシリコンや窒素を含有した材料ガスに添加する手法が開示されている。
【0006】
特許文献2では、誘導結合プラズマを使ったPECVD法で、水素を含まない窒素源である窒素ガスでシランガスを多量に希釈して用いる手法が開示されている。
【0007】
特許文献3では、特許文献2と同じ誘導結合プラズマを使ったPECVD法で、多量の希ガスでシリコンや窒素を含有した材料ガスに添加する手法が開示されている。
【0008】
特許文献4では、マイクロ波励起プラズマを使ったPECVD法で、シリコンや窒素を含有した材料ガスに水素ガスを添加したガス系で、製膜温度を300〜600℃にする手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−292877号公報
【特許文献2】特開2005−079254号公報
【特許文献3】特開2009−246129号公報
【特許文献4】特開2009−084585号公報
【特許文献5】特開平2−113521公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】E. D. Palik ed.:「Handbook of Optical Constants of Solids」 (1985年) 749〜763ページ、及び771〜774ページ
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett., 65巻(1994年), 2229〜2231ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらのCVD膜で高い水蒸気ガスバリア性や耐酸化性、耐湿熱性を得るには、大量の水素や不活性ガスを添加しシリコンや窒素を含有した材料ガス濃度を落として製膜速度を抑えるなど生産性の低い製膜条件が選ばれていた。また、基材温度を高くする事も高いガスバリア性や耐湿性を得るには重要な条件であるが、利用可能な基材が制限される。本発明の目的は、上記のような状況に鑑み、高い水蒸気バリア性、耐湿熱性を示すシリコン含有膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記の手法とは異なるアプローチで、高い水蒸気バリア性、耐湿熱性を示す膜を得る手法を鋭意研究した結果、新規な手法を見出し、本発明に至った。
本発明は、以下に示される。
【0013】
[1] 乾式法により少なくともケイ素原子、窒素原子を含む乾式堆積膜を基材上に堆積させた後に、膜表面に波長が150nm以下の光照射を行う工程を含む事を特徴とするシリコン含有膜の製造方法。
[2] 前記乾式堆積膜は、少なくともSi−H結合、もしくはN−H結合に由来するHを含む膜である事を特徴とする[1]にシリコン含有膜の製造方法。
[3] 前記乾式法が、蒸着法、反応性蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、化学気相堆積法から選ばれた手法である事を特徴とする[1]〜[2]に記載のシリコン含有膜の製造方法。
[4] 前記乾式法が、触媒化学気相蒸着法、もしくはプラズマ化学気相蒸着法である事を特徴とする[1]〜[2]に記載のシリコン含有膜の製造方法。
[5] 前記波長が150nm以下の光照射が、プラズマ処理により行われる事を特徴とする[1]〜[4]に記載のシリコン含有膜の製造方法。
[6] 前記プラズマ処理が、ヘリウム、ネオン、アルゴン、ヘリウムと水素の混合ガス、ネオンと水素の混合ガス、アルゴンと水素の混合ガス、ヘリウムと窒素の混合ガス、ネオンと窒素の混合ガス、アルゴンと窒素から選ばれる雰囲気ガスの存在下、0.1Pa以上100Pa以下の圧力雰囲気中で行われる、[5]に記載のシリコン含有膜の製造方法。
[7] 前記波長が150nm以下の光照射と同時に基材を25℃〜1000℃に加熱する事を特徴とする[1]〜[6]に記載のシリコン含有膜の製造方法。
[8] [1]〜[7]に記載の方法で基材上にシリコン含有膜が形成された積層体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い水蒸気バリア性、耐湿熱性を示すシリコン含有膜の製造方法を提供する。CVD法で見られるような膜を堆積させながら、膜中のSi−H結合やN−H結合に由来するHを除去する手法とは、全く別の手法であって、効率よくHを除去できる手法を提供する。これにより、Si構造の元になる緻密なSi−N−Si結合が、変性領域により多く形成される。即ち、変性領域は、高い水蒸気バリア性、耐湿熱性を示す。従って、本発明により、乾式堆積膜の水蒸気バリア性や耐湿熱性の更なる性能向上が可能となる。
【0015】
また、乾式の製膜工程において、高い水蒸気バリア性、耐湿熱性を示す製膜条件を選ぶ必要がないため、必ずしも緻密な膜を堆積させる必要がない。緻密な膜を堆積させる時に生じる粒界に起因する欠陥や膜の凹凸の発生のない条件や製膜速度の高い条件を選ぶ事が可能となり、乾式堆積膜の製膜条件の自由度を与え、さらなる堆積膜の性能向上や生産性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態のシリコン含有膜の製造方法を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本実施形態のシリコン含有膜の製造方法の工程断面図を示す。
(シリコン含有膜16)
シリコン含有膜16は、乾式法により基材12上に堆積させた乾式堆積膜14の主面にエネルギー線照射10を行うことにより得られる。このエネルギー線照射10により、シリコン含有膜16の上面には(表面から所定深さにわたって)、変性領域18が形成されている。シリコン含有膜16において、変性領域18の下方、すなわち変性領域18と基材12との間には、直接エネルギー照射の影響を受けない領域として、微変性領域20と呼ぶ事とする。シリコン含有膜16は、変性領域18および微変性領域20で構成される。
【0018】
(乾式堆積膜14)
乾式法により基材12上に製膜された乾式堆積膜14は、少なくともケイ素原子、窒素原子を含んでいる。さらに膜中には、少なくともSi−H結合、もしくはN−H結合に由来するHを含む。乾式堆積膜14は、水素を含有した窒化シリコン、もしくは水素を含有した酸窒化シリコンを主成分とする事が好ましい。膜中の原子の結合状態は、赤外可視分光(FT−IR)装置(例えば、「FT/IR−300E」、日本分光(株)製)を用い、FT−IRスペクトルを測定する事で評価できる。非特許文献2に示されているように、N−H結合は、1170及び3350cm−1付近にピークがあり、Si−H結合は、2150cm−1付近にピークを有する。
【0019】
膜中のSi−H結合やN−H結合は、膜が物理的に割れたりしない様に、膜の可とう性を保持するのに有効に働くが、一方で、膜の水蒸気バリア性や耐湿熱性に悪影響を及ぼす。
【0020】
本発明では、下記の工程(b)により、乾式堆積膜14の少なくとも一部を膜の原子組成が徐々に変化する傾斜構造を持つ変性領域18を形成する事で、乾式堆積膜14の高性能化を図ることが出来る。
【0021】
(変性領域18)
変性領域18は、少なくともケイ素原子と窒素原子とを含む。変性領域18は、Si、Si、SiO等から構成される。変性領域18は、エネルギー照射10により、構成原子の化学結合が再構成された領域であり、シリコン含有膜16の水蒸気バリア性や耐湿熱性の性能を担う領域である。
【0022】
(膜厚)
シリコン含有膜16の膜厚(SiO換算膜厚)は、20nm〜2μm、好ましくは100nm〜1μmとすることができる。変性領域18がシリコン含有封止膜16の上面の一部に形成されていてもよい。また、シリコン含有膜16の膜全体にわたって変性領域18が形成されていてもよい。この場合、シリコン含有膜16の組成は変性領域18と同様なものとなる。ここで、変性領域18の膜厚は、変性領域18の上面から下方向に深さ200nmの領域、好ましくは上面から下方向に深さ100nmの領域である。
【0023】
<シリコン含有膜16の製造方法>
本実施形態のシリコン含有封止膜16の製造方法は、以下の工程を含む。
工程(a) 乾式法により、少なくともケイ素原子、窒素原子を含んだ膜を基材12上に製膜する工程、
工程(b) 乾式堆積膜14にエネルギー線照射10を行い、上面に形成された変性領域18を含むシリコン含有膜16を形成する工程。
【0024】
尚、工程(a)を乾式法とすることで、湿式法に比べて次のようなメリットがある。
(A) 湿式法により少なくともケイ素原子、窒素原子を含んだ膜を製膜しようとすると、基材12に塗工する工程、及びそれを加熱・乾燥する工程が必要であり、乾式法に比べ工程が複雑化する。さらには、ロール状の基材12を製膜しようとすると、乾式法に比べ大掛かりな設備を必要とする。
(B)工程(b)における膜の変性工程は、乾式法に属する手法であるため、乾式製膜法と相性が良い。乾式製膜法では、湿式の場合に比べ工程(a)と工程(b)をインライン化する事が容易である。
【0025】
[工程(a)]
工程(a)においては、基材12上に、乾式法により少なくともケイ素原子、窒素原子を含んだ膜(乾式堆積膜14)を形成する。
【0026】
(基材12)
本発明のシリコン含有封止膜16を適用する基材12としては、シリコン等の金属基板、ガラス基板、セラミッスク基板、樹脂基板、樹脂フィルムなどに加え、これらに薄膜を積層した基板や、薄膜堆積と微細加工を施して素子やデバイスを形成した基板が用いられる。
【0027】
(乾式法)
本発明に用いる乾式の薄膜堆積法としては、特に限定されない。既存の薄膜堆積技術を利用する事が出来る。例えば、蒸着法、反応性蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、化学気相堆積法などがある。
【0028】
蒸着法は、真空容器内で蒸発源から蒸発した原子・分子を基材12に堆積させる方法である。反応性蒸着法は、真空容器内に反応性ガスを導入し、蒸発源から蒸発した原子・分子を反応させて堆積させる方法であり、反応を促進させるためにプラズマ等の励起源を導入する事もできる。代表的な原料として、蒸着源としては、珪素、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素など、反応性ガスとしては、窒素、水素、アンモニア、酸素などが用いられる。
【0029】
スパッタ法は、電界加速した高エネルギーイオンをターゲットに入射させターゲットの構成原子をたたきだすスパッタリング現象を利用し、スパッタされたターゲットの構成原子を基材12に堆積させる方法である。反応性スパッタ法は、真空容器内に反応性ガスを導入し、スパッタされたターゲットの構成原子と反応させてを基材12に堆積させる方法である。代表的な原料として、ターゲット材には、珪素、窒化珪素、酸化珪素、酸窒化珪素など、反応性ガスとしては、窒素、水素、アンモニア、酸素などが用いられる。
【0030】
化学気相堆積法は、真空容器内に膜の構成元素を含む材料ガスを導入し、特定の励起源により材料ガスを励起する事で、化学反応により励起種を形成し、基材12に堆積させる方法である。代表的な原料として、モノシラン、ヘキサメチルジシラザン、アンモニア、窒素、水素、酸素などが用いられる。
化学気相堆積法は、高速製膜が可能であり、スパッタ法等に比べ基材12に対する被覆性が良好である事からより有望な手法である。特に、非常に高温の触媒体を励起源とした触媒化学気相堆積(Cat−CVD)法や、プラズマを励起源としたプラズマ化学気相堆積(PECVD)法が好ましい方法である。以下、これらの手法について詳しく説明する。
【0031】
(Cat−CVD法)
Cat−CVD法は、タングステン等ならなるワイヤを内部に配した真空容器に材料ガスを流入させ、電源により通電加熱されたワイヤで材料ガス接触分解反応させ、生成された反応種を基材12に堆積させる方法である。
【0032】
例えば、窒化シリコンを堆積させる場合、材料ガスとしては、モノシラン、アンモニア、水素が使われる。酸窒化シリコンを堆積させる場合は、上記の材料ガスに加え、酸素を添加する。条件例としては、触媒体であるタングステンワイヤ(例:Φ0.5長さ2.8m)を1800℃に通電加熱させ、材料ガスとして、モノシラン、アンモニア、水素(4/200/200sccm)を流通させ、圧力を10Paに維持して、100℃に温調した基材上に膜を堆積させる。触媒体上での分解反応で生成される反応種のうち、主な堆積種はSiHとNHであり、Hは膜表面での反応補助種である。特に水素を添加する事で、多量のH*を生成でき、堆積速度は減少するものの、膜中のSi−H結合やN−H結合に由来するHを除去する反応を促進すると考えられている。
【0033】
(PECVD法)
PECVD法は、プラズマ源を搭載した真空容器に材料ガスを流入させ、電源からプラズマ源に電力供給する事で真空容器内に放電プラズマを発生させ、プラズマで材料ガスを分解反応させ、生成された反応種を基材12に堆積させる方法である。プラズマ源の方式としては、平行平板電極を用いた容量結合プラズマ、誘導結合プラズマ、表面波を利用したマイクロ波励起プラズマ等が使われる。
【0034】
窒化シリコンを堆積させる場合、材料ガスとしては、モノシラン、アンモニア、窒素、反応を補助するガスとして、希ガスや水素が用いられる。酸窒化シリコンを堆積させる場合は、上記の材料ガスに加え、酸素を添加する。
例えば、誘導結合プラズマを利用する場合、真空容器に誘電体窓を介してアンテナコイル設置した外部アンテナ方式の低圧誘導結合プラズマCVD装置が使われる。条件例としては、ガス種としては、モノシラン、アンモニア、ヘリウム(例:50/150/300sccm)を流通させ、圧力を5Paに維持する。アンテナコイルに2kWの高周波電力を印加してプラズマを形成し、70℃に温調した基材上に膜を堆積させる。
【0035】
[工程(b)]
工程(b)においては、乾式堆積膜14に高エネルギー線照射10を行い、シリコン含有膜16を形成する。エネルギー線照射処理は、酸素または水蒸気を実質的に含まない雰囲気で実施する事が好ましい。
前記「酸素または水蒸気を実質的に含まない雰囲気」とは、酸素および/または水蒸気が全く存在しないか、あるいは酸素濃度0.5%(5000ppm)以下、好ましくは、酸素濃度0.05%(500ppm)以下、さらに好ましくは、酸素濃度0.005%(50ppm)以下、さらに好ましくは、酸素濃度0.002%(20ppm)以下、さらに好ましくは、0.0002%(2ppm)以下であるか、相対湿度0.5%以下、好ましくは相対湿度0.2%以下、さらに好ましくは、相対湿度0.1%以下、さらに好ましくは、相対湿度0.05%以下である雰囲気をいう。また、水蒸気濃度(室温23℃における水蒸気分圧/大気圧)では、140ppm以下、さらに好ましくは56ppm、さらに好ましくは28ppm、さらに好ましくは14ppm以下である。
【0036】
(エネルギー線照射処理)
本発明におけるエネルギー線照射処理としては、150nm以下の光照射を行う事を特徴としている。波長が30〜150nmの範囲の光照射がより好ましい。波長が150nm以下の光照射方法としては、プラズマで発生した真空紫外光を全て直接照射できるプラズマ処理が好ましい。理由は(A)〜(C)の通りである。
【0037】
(A) エネルギー線照射10を行う乾式堆積膜14は、少なくともケイ素原子、窒素原子を含んだ膜であり、エネルギー線照射処理によって形成される変性領域18は、Si、Si、SiO等から構成される。非特許文献1に示されているように、非晶質SiOや非晶質Siの光吸収係数は、波長30〜150nm以下の領域では、非常に大きくなる事から、乾式堆積膜14の光吸収係数も非常に大きく、光の侵入が非常に浅くなり、変性層18も薄くなると考えられる。この波長領域の光照射は、光の侵入深さが小さい分、変性に関係する原子数が少なくなるため、変性に必要なエネルギー線の照射量が少なくて済む。即ち、高速処理に適している。一方、波長が30nm以下、及び150nm以上の光照射は、乾式堆積膜14への光の侵入深さが大きくなると考えられ、変性に関係する原子数が多くなるため、変性に必要なるエネルギー線の照射量の増大を招き、好ましくない。
【0038】
(B)光の波長が短いほど光の量子であるフォトンのエネルギーは増加する。詳細な光反応過程は不明だが、高エネルギーのフォトンは、乾式堆積膜14に吸収され励起状態を作り、種々の化学結合が切断される事につながる。それにより、変性領域18での化学結合の再構成が起こる過程で、乾式堆積膜14のSi−H結合やN−H結合に由来するHが効率よく膜外に除去され、Si構造の元になる緻密なSi−N−Si結合が、変性領域18により多く形成されると考えられる。即ち、変性領域18は、高い水蒸気バリア性、耐湿熱性を示す。
【0039】
(C)波長が150nm以下の光照射方法としては、プラズマ処理以外に、ランプユニットを用いた光照射が挙げられる。ランプユニットを用いた手法では、窓材を介して中心波長が150nm以下の光を外部に取り出し、乾式堆積膜14に照射する事になる。この波長の光では、窓材の光吸収や光劣化が顕著に起こるため、高強度の光を乾式堆積膜14に照射する事が難しい。プラズマで発生した真空紫外光を全て直接照射できるプラズマ処理の方がより短波長の光を高強度に照射する事ができ、好ましい。
【0040】
(プラズマ処理)
本発明で用いる波長150nm以下の光照射方法の好ましい例であるプラズマ処理ついて以下に説明する。
プラズマ処理は、前記のように、酸素または水蒸気を実質的に含まない雰囲気で実施する事が好ましい。酸素または水蒸気を実質的に含まない雰囲気で実施する方法として、装置内を減圧にする、もしくはガスフローする方法が挙げられるが、減圧にする方が好ましい。装置内の圧力を真空ポンプを用いて大気圧(101325Pa)から圧力100Pa以下、好ましくは10Pa以下まで減圧した後、所定のガスを導入し、所定の圧力にすることで、プラズマで励起する雰囲気をつくる。
【0041】
減圧下における酸素濃度および水蒸気濃度は、一般的に、酸素分圧および水蒸気分圧で評価される。 具体的には、酸素分圧10Pa以下(酸素濃度0.001%(10ppm))以下、好ましくは、酸素分圧2Pa以下(酸素濃度0.0002%(2ppm))以下、水蒸気濃度10ppm以下、好ましくは1ppm以下になるまで減圧した後、記載のガスを導入することで行われる。
プラズマによって励起された雰囲気ガスはエネルギーを放出して失活するが、その際、気体の種類と圧力に依存して、種々の波長の真空紫外光を放出する。プラズマ処理は、真空紫外光を放出する励起種で大別すると、低圧プラズマ処理と大気圧近傍のプラズマ処理の2つの手法に分けられる。
【0042】
尚、工程(a)において乾式製膜法としてプラズマを利用した手法が使われる場合があるが、工程(a)では、波長150nm以下の光照射を行う工程(b)を実質的に兼ねる事はできない。理由は、プラズマが形成される空間、及びプラズマと乾式堆積膜14間の空間に堆積膜の材料となるガスが存在し、それらがプラズマから発生する真空紫外光を吸収するなど、波長150nm以下の光照射を効率よく行うための条件から外れてしまうからである。
【0043】
[1]低圧プラズマ処理
低圧プラズマ処理は、減圧することによって酸素または水蒸気を実質的に含まない雰囲気にした後、下記のガス種を装置内に導入することで行われる。低圧プラズマ処理では、低圧下のプラズマにより励起された原子、分子が基底状態もしくは下の準位に落ちる際の真空紫外の発光を利用する。低圧プラズマで発生する真空紫外光の波長は、プラズマを発生させるガス種に依存する。波長は、短い方がよく、波長が125nm以下の真空紫外の発光を利用した方がより好ましい。しかしながら、波長が短過ぎると、高いエネルギー準位に励起される頻度は低くなるため発光強度は著しく減少する。実質的に低圧プラズマ処理で利用できる比較的高強度の真空紫外光の波長は、50nm以上となる。即ち、低圧プラズマ処理で利用する光の波長として50〜125nmの範囲がより好ましい。
低圧プラズマ処理の好ましい条件については、次の(1)〜(5)に示す通りである。
【0044】
(1) 圧力範囲
プラズマで形成された励起状態の原子が発した真空紫外光が、別の基底状態の原子に吸収され、その原子の励起に使われる自己吸収の影響がある。そのため、あまり圧力が高いと発生した真空紫外光は雰囲気ガスの原子や分子に吸収され、乾式堆積膜14に効率よく照射されない。概ね、100Pa以下の低圧が好ましい。一方、圧力あまり低圧過ぎると、プラズマの発生が困難になる。圧力の下限はプラズマの発生方式により異なるが、概ね0.1Pa以上が好ましい。
【0045】
(2) ガス種
本発明で用いる波長150nm以下の真空紫外光を発する低圧プラズマのガス種は、主としてHe、Ne、Arから選ばれる1種以上の希ガスが用いられる。これらの励起された希ガス原子の発する主要な真空紫外光の波長は、Heの場合で58.4nm、Neの場合で73.6nm及び74.4nm、Arの場合で104.8nm及び106.7nmである事が知られている。
【0046】
また、これらの希ガス原子のプラズマは、プラズマによる励起によって真空紫外光を発するだけでなく、発光しない準安定な励起状態の原子を多量に形成する。この準安定な励起状態の原子が持つエネルギーを有効利用するために、希ガスにH2、N2から選ばれる1種以上のガスを添加しても良い。希ガス中に特定の比率で前記のガスが添加されると、準安定な励起状態の希ガス原子の持つ励起エネルギーが効率よく添加ガスの励起に使われるため、希ガス原子の真空紫外発光に、添加ガスの真空紫外発光も加わり、波長150nm以下の真空紫外光の照射強度を増すことができる。添加ガスは、解離・励起された原子が真空紫外光を発する場合と、励起された分子が真空紫外光を発する場合があるが、分子の発光はバンド状になっており、その中心波長は原子の発光波長より長い。乾式堆積膜14の変性には、波長の短い原子の発光のほうが重要である。励起されたH原子の発する主要な真空紫外光の波長は121.5nm、N原子の場合は120nmである事が知られている。添加ガス種としては、準安定な励起状態を持たないH2がより好ましい。
【0047】
好ましいガス種は、He、Ne、HeとH2の混合ガス、NeとH2の混合ガス、ArとH2の混合ガスである。添加ガスの比率は、0.1〜20%の範囲である。0.1%以下では、添加ガスの効果が顕著に現れず、20%以上では、添加カガスの影響でプラズマ密度の減少が顕著に現れ、添加ガスの励起に使われる準安定な励起状態の希ガス原子の密度も減るためである。好ましくは0.5〜10%の範囲である。
さらに、効率よく波長150nm以下の真空紫外光を乾式堆積膜14に照射するために、波長150nm以下の光を吸収して、自身が分解するような多原子分子のガス種(例えばCO、CO2、CH4Si−H4等)は、実質的に含まれない方がより好ましい。
【0048】
(3) 電源周波数
本発明で用いる波長150nm以下の真空紫外光を発する低圧プラズマの生成に必要な電源の周波数は、1MHz〜100GHzが好ましい。1MHz未満の周波数では、プラズマ中の電子だけでなくイオンまで電界の変化に追従できてしまうため、プラズマ生成反応に直接寄与する電子に効率よくエネルギーを与える事ができない。一方、1MHz以上の周波数では、電界の変化にイオンは追従できなくなるため、電子に効率よくエネルギーを与える事ができ、電子密度、すなわちプラズマ密度は高くなる。これに伴い、プラズマで発生する真空紫外光の強度も強くなる。しかし、100GHzを超えると電子が電界の変化に追従しにくくなり、エネルギーの伝達効率が悪くなる。好ましくは、4MHz〜10GHzの範囲である。
【0049】
(4) プラズマ生成方式
本発明で用いる波長150nm以下の真空紫外光を発するプラズマの生成方式は、従来から知られた方式を用いる事ができる。好ましくは、幅広の基材12に形成した乾式堆積膜14の処理に対応できる方式が良く、例えば、次に示す(A)〜(E)の方式が挙げられる。
【0050】
(A)容量結合プラズマ(CCP)
高周波電力を印加した側の電極と接地側の電極との間にプラズマを生成する方式。対向した平板電極が代表的な電極構造である。高周波電力を印加した側の電極は、平板状だけでなく、例えば特許文献5に開示されているような凹凸形状を備えていても良い。平板電極上に凹凸形状を備えることで、突起部での電界集中やホローカソードの効果により、プラズマ密度を増加させる事ができ、プラズマで発生する150nm以下のVUVの強度も強くなる。
【0051】
(B)誘導結合プラズマ(ICP)
アンテナコイルに高周波電流を流し、コイルが作る磁場による誘導電界でプラズマを生成する方式で、一般に容量結合プラズマに比べ高い電子密度(プラズマ密度)が得られるとされる。誘電体窓を介してアンテナコイルをチャンバの外に置く外部アンテナ型、アンテナコイルをチャンバ内に設置する内部アンテナ型のどちらを採用してもよい。また、幅広の基材に対応するため、アンテナコイルをアレイ状に配置する等の工夫をしても良い。
【0052】
上記のような装置構成では、投入電力を上昇させていくと、コイルアンテナとの静電的な結合による放電(Eモードと呼ばれる)から誘導結合による放電(Hモードと呼ばれる)に移行する。場合によっては、モードジャンプ現象としてプラズマ密度急激に増加する現状が観測される事がある。乾式堆積膜14を処理する際には、Hモードのプラズマになるように、十分な電力を投入する必要がある。
(C)表面波プラズマ
(D)電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ
(E)ヘリコン波プラズマ
【0053】
(5)投入電力密度
乾式堆積膜14にと対向したプラズマへの投入電力の大きさの指標として、プラズマの大きさを反映するプラズマ源の占める面積で規格化した投入電力密度を定義する。これは、単位面積あたりの乾式堆積膜14に照射される真空紫外光の照射強度に相関するパラメータとなる。特に、容量結合プラズマのような有電極プラズマの場合、高周波を印加する側の電極面積が、実質的にプラズマの大きさを規定しており、これをプラズマ源の占める面積とする。
【0054】
投入電力密度は、0.1〜20W/cm2が好ましい。より好ましくは0.3〜10W/cm2以上である。投入電力密度が0.1W/cm2以下では十分な強度のVUV照射ができず、20W/cm2以上では、基材12の温度上処理による熱変形、プラズマの不均一化、電極などのプラズマ源を構成する部材の損傷などの悪影響がある。
【0055】
[2]大気圧近傍のプラズマ処理
大気圧近傍のプラズマ処理では、減圧もしくはガスフローによって酸素または水蒸気を実質的に含まない雰囲気にした後、所定のガス種を導入して装置内を所定の大気圧近傍の圧力にして処理を行う。圧力が高いために、プラズマで励起された原子や分子が基底状態もしくは下の準位に落ちる際の真空紫外の発光は、自己吸収の影響が非常に大きく、乾式堆積膜14の変性に有効に利用する事ができない。大気圧近傍のプラズマ処理では、エキシマの発光を利用する。現実的に利用可能なエキシマの発光としては、Arガスを用いたプラズマによって形成されるArエキシマの発光が最も波長が短く、中心波長が126nmの光になる。より波長の短い真空紫外光が利用できるという点では、プラズマ処理方法としては低圧プラズマ処理の方が好ましい。
大気圧近傍のプラズマ処理の好ましい条件については、次の(1)〜(5)に示す通りである。
【0056】
(1) ガス種
大気圧近傍のプラズマプロセスで現実的に利用できるガス種のうち、150nm以下のエキシマ光を出せるのは、Arガスである。尚、Arエキシマ(Ar)は、プラズマで形成された準安定状態のAr原子(Ar)をもとに、次式で表される3体衝突反応で生じるとされている。
Ar + Ar + Ar → Ar + Ar
【0057】
そのため、Ar以外の不純物ガスの比率は、プラズマ密度や上記の反応に影響しない程度に少ない方が良い。不純物濃度は1%以下がよく、より好ましくは0.5%以下である。さらに、効率よく波長150nm以下の真空紫外光を乾式堆積膜14に照射するために、波長126nm近傍の光を吸収して、自身が分解するような多原子分子のガス種(例えばCO、CO2、CH4等)は、実質的に含まれない方がより好ましい。
【0058】
(2) 圧力範囲
大気圧近傍とは、1〜110kPaの圧力を指し、大気に開放して使用できるほか、密閉容器の中で使用し、大気圧に比べ、僅かに減圧にする場合や、僅かに加圧状態にする場合にも使用可能であるという意味である。僅かに減圧にした方が、放電し易くなるため、プラズマによる準安定状態のAr原子の形成は容易になるものの、減圧にし過ぎるとAr密度が減少し、Arエキシマ(Ar)の形成反応である3体衝突反応が起こる頻度が減る。ArエキシマによるVUV発光の強度を増すためには、密閉容器と簡便な減圧装置を利用し、10〜90kPaの範囲とする事がより好ましい。また、このような範囲の減圧にすれば、処理に使用するガス量を削減できる上、酸素や水などの阻害成分の量を低下させることができる。
【0059】
(3) プラズマ形成方式
本発明で用いるArエキシマを発するプラズマの生成方式は、従来から知られた大気圧近傍でプラズマを生成できる方式を用いる事ができる。好ましくは、プラズマで形成されたArとArから生じたArエキシマ(Ar)の真空紫外の発光を直接乾式堆積膜14に照射する事ができる方式が良く、さらには、幅広の基材12に形成した乾式堆積膜14の処理に対応できる方式が良い。例えば、少なくとも一方の電極表面に誘電体を配した電極間に乾式堆積膜14付き基材12を配置し、そこへガスを通し、電極間に交流電力を印加し、放電プラズマを形成する誘電体バリア放電を使ったダイレクト処理方式を用いる事ができる。
【0060】
(4) 電源周波数
電源周波数は、50Hz〜1GHzの範囲が好ましい。低圧プラズマ処理とは、動作させる圧力範囲がことなるため、使用する電源周波数帯も異なる。50Hz以下では、プラズマで形成される準安定状態のAr原子が少なく、高い照射高度のArエキシマ光が得られない。また、1GHz以上ではプラズマのガス温度が高くなるため、基材12に熱的な損傷を与える。好ましくは、1kHz〜100MHzの範囲である。
【0061】
(放電電力密度)
低圧プラズマ処理の場合と同様に、乾式堆積膜14にと対向したプラズマへの投入電力の大きさの指標として、プラズマの大きさを反映するプラズマ源の占める面積で規格化した投入電力密度を定義する。
投入電力密度は、0.1〜20W/cm2が好ましい。より好ましくは0.3〜10W/cm2以上である。投入電力密度が0.1W/cm2以下では十分な強度のVUV照射ができず、20W/cm2以上では、基材12の温度上処理による熱変形、プラズマの不均一化、電極などのプラズマ源を構成する部材の損傷などの悪影響がある。
【0062】
(基材加熱)
また、工程(b)において、前記の波長150nm以下の光照射と同時に、乾式堆積膜14が載った基材12の加熱処理を行うことで、より短時間で処理することができる。加熱処理温度としては、高ければ高いほど良いが、基材の耐熱性を考えると、好ましくは25℃〜1000℃、より好ましくは30℃〜500℃、更に好ましくは60℃〜300℃の範囲である。
【符号の説明】
【0063】
10 エネルギー線照射
12 基材
14 乾式堆積膜
16 シリコン含有膜
18 変性領域
20 微変性領域



【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾式法により少なくともケイ素原子、窒素原子を含む乾式堆積膜を基材上に堆積させた後に、膜表面に波長が150nm以下の光照射を行う工程を含む事を特徴とするシリコン含有膜の製造方法。
【請求項2】
前記乾式堆積膜は、少なくともSi−H結合、もしくはN−H結合に由来する水素を含む膜である事を特徴とする請求項1にシリコン含有膜の製造方法。
【請求項3】
前記乾式法が、蒸着法、反応性蒸着法、スパッタ法、反応性スパッタ法、化学気相堆積法から選ばれた手法である事を特徴とする請求項1〜2に記載のシリコン含有膜の製造方法。
【請求項4】
前記乾式法が、触媒化学気相堆積法、もしくはプラズマ化学気相堆積法である事を特徴とする請求項1〜2に記載のシリコン含有膜の製造方法。
【請求項5】
前記波長が150nm以下の光照射がプラズマ処理により行われる事を特徴とする請求項1〜4に記載のシリコン含有膜の製造方法。
【請求項6】
前記プラズマ処理が、ヘリウム、ネオン、アルゴン、ヘリウムと水素の混合ガス、ネオンと水素の混合ガス、アルゴンと水素の混合ガス、ヘリウムと窒素の混合ガス、ネオンと窒素の混合ガス、アルゴンと窒素の混合ガスから選ばれる雰囲気ガスの存在下、0.1Pa以上100Pa以下の圧力雰囲気中で行われる、請求項5に記載のシリコン含有膜の製造方法。
【請求項7】
前記波長が150nm以下の光照射と同時に基材を25℃〜1000℃に加熱する事を特徴とする請求項1〜6に記載のシリコン含有膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の方法で基材上にシリコン含有膜が形成された積層体。


【図1】
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【公開番号】特開2012−149278(P2012−149278A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6647(P2011−6647)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】