説明

ストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造

【課題】 ピストンとクランク軸とを、ストローク可変リンク機構を介してコントロール軸に連結し、コントロール軸に設けられるベーン式油圧アクチュエータにより、そのコントロール軸を駆動しストローク可変リンク機構を作動して、ピストンの移動ストロークを可変とするストローク特性可変エンジンにおいて、そのエンジンのクランク軸と直交する方向の横幅の大型化を抑制する。
【解決手段】 ベーン式油圧アクチュエータACの一対のベーン油室86を、ストローク特性可変エンジンのエンジン本体のシリンダ軸線L−L方向に並べて配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンとクランク軸とを、ストローク可変リンク機構を介してコントロール軸に連結し、該コントロール軸にベーン式油圧アクチュエータを設け、このアクチュエータによりコントロール軸を駆動しストローク可変リンク機構を作動してピストンの移動ストロークを可変とするストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストンのピストンピンに一端を連結されたアッパリンクと、このアッパリンクの他端に連結され、かつクランク軸のクランクピンに連結されたロアリンクと、そのロアリンクに一端が連結され、他端がコントロール軸に揺動可能に連結されたコントロールリンクよりなる、ストローク可変リンク機構を備え、コントロール軸に設けたベーン式油圧アクチュエータの駆動により、ピストンの移動ストロークを可変とするストローク特性可変エンジンは公知(後記特許文献1参照)である。
【特許文献1】特開2005−76555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、かかるストローク特性可変エンジンでは、ストローク可変リンク機構を駆動するのにベーン式油圧アクチュエータが用いられるが、このアクチュエータは、ベーン軸、ベーン油室などを収容するハウジングを有して径方向の占有容積が比較的大きく形成され、しかもストローク可変リンク機構を介してクランク軸に連結されているので、このアクチュエータをクランク室内に設けると、エンジン本体が幅方向、すなわちクランク軸を横切る方向に大型化するという問題があり、さらに、このアクチュエータの支持剛性を高めるべく、これを剛性の高い部材により支持するようにすれば、前記問題が一層顕著になり、このエンジンを自動車用としたとき、エンジンルームの前後方向の幅(エンジン横置きの場合)または左右方向の幅(エンジン縦置きの場合)が拡大するのを余儀なくされる。
【0004】
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、前記エンジンの幅方向の大型化を抑制し、かつその支持剛性を高めて前記問題を解決した、新規なストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、ピストンとクランク軸とを、該クランク軸の側方に配設されるストローク可変リンク機構を介してコントロール軸に連結し、このコントロール軸と同軸上にベーン式油圧アクチュエータを設け、この油圧アクチュエータによりコントロール軸を駆動して前記ストローク可変リンク機構を作動し、ピストンの移動ストロークを可変とするストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造であって、
前記ベーン式油圧アクチュエータは、ハウジングと、このハウジングに回転可能に設けられるコントロール軸と一体で外周面にベーンを突設したベーン軸と、ハウジングとベーン軸との間にベーンの収容される一対のベーン油室とを備え、
前記一対のベーン油室は、前記ストローク特性可変エンジンのエンジン本体のシリンダ軸線方向に並べて配置されることを特徴としている。
【0006】
上記目的を達成するために、請求項2記載の発明は、前記請求項1のものにおいて、前記ベーン式油圧アクチュエータのハウジングは、クランクケース内に設けられていて、このハウジングとクランクケースとは、エンジン本体のシリンダ軸線と直交する方向から複数の横方向締結部材により締結され、それらの締結部材の少なくとも一部は、シリンダ軸線方向に配置された一対のベーン油室間に設けられていることを特徴としている。
【0007】
上記目的を達成するために、請求項3記載の発明は、前記請求項2のものにおいて、前記アクチュエータのハウジングと、このハウジングの開口部を覆うカバー部材は、クランク軸方向に延びる複数のクランク軸方向締結部材により締結され、これらのクランク軸方向締結部材の一部は、前記横方向締結部材間に設けられることを特徴としている。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項4記載の発明は、前記請求項2または3のものにおいて、前記一対のベーン油室に作動油を供給する油圧通路は、前記横方向締結部材とクランク軸方向にずらして前記ハウジングに設けられることを特徴としている。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項5記載の発明は、前記請求項1,2,3または4のものにおいて、前記エンジン本体のシリンダ軸線は、鉛直線に対して一方側に傾斜しており、その他方側で、クランク軸よりも下方のクランクケース内に前記ベーン式油圧アクチュエータが設けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
前記請求項1の発明によれば、ベーン式油圧アクチュエータの一対のベーン油室は、前記ストローク特性可変エンジンのエンジン本体のシリンダ軸線方向に並べて配置されるので、エンジンのクランク軸と直交する方向の横幅の大型化を抑制することができる。
【0011】
また、前記請求項2の発明によれば、ハウジングとクランクケースとは、エンジン本体のシリンダ軸線と直交する方向から複数の横方向締結部材により締結され、それらの締結部材の少なくとも一部は、シリンダ軸線方向に配置された一対のベーン油室間に設けられるので、ハウジングとクランクケースとは、エンジンの前記横幅の大型化を抑制しつつ、ベーン式油圧アクチュエータの支持剛性を向上させることができる。
【0012】
また、前記請求項3の発明によれば、アクチュエータのハウジングと、このハウジングの開口部を覆うカバー部材は、クランク軸方向に延びる複数のクランク軸方向締結部材により締結され、これらのクランク軸方向締結部材の一部は、前記横方向締結部材間に設けられるので、エンジンの前記横幅の大型化を抑制しつつ、前記アクチュエータのハウジングの締結剛性を向上させることができる。
【0013】
さらに、前記請求項4の発明によれば、一対のベーン油室に作動油を供給する油圧通路は、前記横方向締結部材とクランク軸方向にずらして前記ハウジングに設けられるので、横方向締結部材と油圧通路とを近接して設けることができ、エンジンの幅方向の大型化の抑制が一層顕著になる。
【0014】
さらにまた、前記請求項5の発明によれば、エンジン本体のシリンダ軸線は、鉛直線に対して一方側に傾斜しており、その他方側で、クランク軸よりも下方のクランクケース内に前記アクチュエータが設けられるので、クランクケース内に確保できるデッドスペースを有効活用して前記アクチュエータを配置でき、エンジンの前記横幅の大型化とその高さ方向の大型化を共に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて以下に具体的に説明する。
【0016】
まず、図1〜11を参照して本発明の第1実施例について説明する。
【0017】
図1は、ストローク特性可変エンジンの概略全体斜視図、図2は、図1の2矢視図、図3は、図1の3−3線に沿う断面図(高圧縮比状態)、図4は、図1の4−4線に沿う断面図(低圧縮比状態)、図5は、図2の5−5線に沿う断面図、図6は、図5の6−6線に沿う横断面図、図7は、図5の7−7線に沿う拡大縦面図、図8は、図3の8−8線に沿う断面図、図9は、図5の9矢視斜視図、図10はベーン式油圧アクチュエータの分解斜視図、図11は、ベーン式油圧アクチュエータの制御系の油圧回路図である。
【0018】
図1〜4において、本発明にかかるストローク特性可変エンジンEは、自動車用であって、図示しない、自動車のエンジンルーム内に横置き(そのクランク軸30が自動車の進行方向に対して横方向配置)に搭載される。このエンジンEが自動車に搭載されるとき、図2に示すように、若干後傾状態、すなわち、そのシリンダ軸線L−Lが鉛直線V−Vに対して若干後方に傾斜している。
【0019】
また、このストローク特性可変エンジンEは、直列4気筒のOHC型4サイクルエンジンであって、そのエンジン本体1は、4つのシリンダ5が横方向に並べて設けられるシリンダブロック2と、このシリンダブロック2のデッキ面上にガスケット6を介して一体に結合されるシリンダヘッド3と、前記シリンダブロック2の下部に一体に形成したアッパブロック40(上部クランクケース)と、その下面に一体に結合されるロアブロック41(下部クランクケース)とを備えており、アッパブロック40とロアブロック41とでクランクケース4が形成される。前記シリンダヘッド3の上面には、シール材8を介してヘッドカバー9が一体に被冠され、また、前記ロアブロック41(下部クランクケース)の下面には、オイルパン10が一体に結合されている。
【0020】
シリンダブロック2の4つのシリンダ5には、それぞれピストン11が摺動可能に嵌合されており、それらのピストン11の頂面に対面するシリンダヘッド3の下面には、4つの燃焼室12と、それらの燃焼室12に連通する吸気ポート14と排気ポート15とが形成されており、吸気ポート14には吸気弁16が、また排気ポート15には排気弁17がそれぞれ開閉可能に設けられる。また、シリンダヘッド3上には、前記吸気弁16と排気弁17とを開閉する動弁機構18が設けられる。この動弁機構18は、シリンダヘッド3に回転自在に支持される吸気側カム軸20および排気側カム軸21と、シリンダヘッド3に設けた吸気側および排気側ロッカ軸22,23にそれぞれ揺動可能に軸支されて前記吸気側および排気側カム軸20,21と吸気弁16および排気弁17間を連接する吸気側および排気側ロッカアーム24,25とを備えており、吸気側および排気側カム軸20,21の回転によれば、弁バネ26,27の閉弁力に抗して吸気側および排気側ロッカアーム24,25を揺動して吸気弁16および排気弁17を所定のタイミングをもって開閉作動することができる。
【0021】
図2に示すように、吸気側および排気側カム軸20,21は、従来公知の調時伝動機構28を介して後述するクランク軸30に連動されており、クランク軸30の回転によれば、その1/2の回転速度で駆動されるようになっている。そして、前記動弁機構28は、シリンダヘッド3上に一体に被冠されるヘッドカバー9により被覆される。また、シリンダヘッド3には、4つのシリンダに対応して円筒状のプラグ挿通筒31が設けられ、このプラグ挿通筒31内に点火プラグ32が挿着される。
【0022】
4つのシリンダ5に対応する複数の吸気ポート14は、エンジン本体1の前面、すなわち車両の前方側に向けて開口されており、そこに吸気系INの吸気マニホールド34が接続されている。この吸気系INは従来公知の構造を備えるので、その詳細な説明を省略する。
【0023】
また、4つのシリンダ5に対応する複数の排気ポート15は、エンジン本体1の後面、すなわち車両の後方側に向けて開口されており、そこに排気系EXの排気マニホールド35が接続されている。この排気系EXは従来公知の構造を備えるので、その詳細な説明を省略する。
【0024】
図3,4に示すように、シリンダブロック2下部のアッパブロック40(上部クランクケース)と、ロアブロック41(下部クランクケース)よりなるクランクケース4は、シリンダブロック2のシリンダ5の部分よりも前方(車両前方)側に張出しており、この張出し部36のクランク室CC内には、ピストン11の移動ストロークを可変とする、ストローク可変リンク機構LV(後述)と、それを駆動するベーン式油圧アクチュエータAC(後述)が設けられ、このアクチュエータACは、クランク軸30よりも下方に配置されている。
【0025】
図2,3および図5,6に示すように、シリンダブロック2の下部に一体に形成されるアッパブロック40下面には、ロアブロック41が複数の連結ボルト42をもって固定されている。アッパブロック40と、ロアブロック41との合わせ面に形成される複数のジャーナル軸受部43にはクランク軸30のジャーナル軸30Jが回転自在に支承される(図8参照)。
【0026】
図5に示すように、前記ロアブロック41は、平面視四角な閉断面構造に鋳造成形されており、その左、右端部には端部軸受部材50,51が、またその中間部には、左、右中間軸受部材52,53が、さらにその中央には、ベアリングキャップとしての中央軸受部材54(後述のハウジングHUが一体成形される)が設けられており、これらの軸受部材50〜54によってクランク軸30のジャーナル軸30Jが支承される。
【0027】
図5,6,9に示すように、前記ベアリングキャップとしての中央軸受部材54は、ロアブロック41とは別体に鋳造成形されている。そして、この中央軸受部材54は、シリンダ軸線L−Lと直交する方向より、複数の横方向締結部材、すなわち横方向締結ボルト56により、クランクケース4を構成するロアブロック41に堅固に固定される。図6に示すように、複数の横方向締結部材56のうち、その一部は、後述するベーン式アクチュエータACのハウジングHUに設けた上下方向の一対のベーン油室86の間に位置している。また、この中央軸受部材54は、アッパブロック40の下面にも他の締結ボルト57により堅固に固定される。
【0028】
図9に最も明瞭に示すように、ベアリングキャップとしての中央軸受部材54のクランク軸30の軸受部分54Aから一方(エンジン本体1の前方)側に偏った一側部は、上下幅を拡張し、かつ肉厚とした膨大部58とされており、この膨大部58に後に詳述するベーン式油圧アクチュエータACのハウジングHUが成形されている。
【0029】
つぎに、主に図3,4を参照して、ピストン11の移動ストロークを可変とするストローク可変リンク機構LVの構造について説明すると、クランクケース4、すなわちアッパブロック40とロアブロック41との合わせ面に回転自在に支承されるクランク軸30の複数のクランクピン30Pには、三角形状のロアリンク60の中間部がそれぞれ揺動自在に枢支連結される。それらのロアリンク60の一端(上端)には、ピストン11のピストンピン13に枢支連結されるアッパリンク( コンロッド) 61の下端(大端部)が第1連結ピン62を介して枢支連結され、各ロアリンク60の他端(下端)に第2連結ピン64を介してコントロールリンク63の上端が枢支連結される。このコントロールリンク63は下方に延びて、その下端には、クランク形状をなす、コントロール軸65(後に詳述)の偏心ピン65Pが枢支連結されている。コントロール軸65には、これと同軸上にベーン式油圧アクチュエータAC(後に詳述)が設けられ、コントロール軸65は、このベーン式油圧アクチュエータACの駆動により、所定角度の範囲(約90度)で回動され、これによる偏心ピン65Pの位相変移により、コントロールリンク63が揺動駆動される。具体的には、コントロール軸65は、図3に示す第1の位置(偏心ピン65Pが下方位置)と、図4に示す第2の位置(偏心ピン63Pが左方位置)との間で回転可能である。図3に示す第1の位置では、コントロール軸63の偏心ピン65Pが下方に位置しているため、コントロールリンク63は引き下げられてロアリンク60はクランク軸30のクランクピン30P回りに時計方向に揺動し、アッパリンク61が押し上げられてピストン11の位置がシリンダ5に対して高い位置となり、エンジンEは高圧縮比状態となる。逆に、図4に示す第2位置では、コントロール軸65の偏心ピン65Pが左方に位置(前記第1の位置よりも高位置)しているため、コントロールリンク63は押し上げられてロアリンク60はクランク軸30のクランクピン30P回りに反時計方向に揺動し、アッパリンク61が押し下げられてピストン11の位置がシリンダ5に対して低い位置となり、エンジンEは低圧縮比状態となる。以上のように、コントロール軸65の回動制御により、コントロールリンク63が揺動し、ロアーリンク60の運動拘束条件が変化してピストン11の上死点位置を含むストローク特性が変化することで、エンジンEの圧縮比を任意に制御することが可能になる。
【0030】
しかして、アッパリンク61、第1連結ピン62、ロアリンク60、第2連結ピン64およびコントロールリンク63は、本発明にかかるストローク可変リンク機構LVを構成している。
【0031】
図6,7,9,10に示すように、前記コントロールリンク63に連結されてストローク可変リンク機構LVを作動するコントロール軸65は、クランク軸30と同じく、複数のジャーナル軸65Jと偏心ピン65Pとがアーム65Aを介して交互に連結されてクランク状に形成されており、その軸方向の中央に、ベーン式油圧アクチュエータACの円筒状ベーン軸66が同軸上に一体に設けられており、ベーン軸66の両側面の偏心位置にはコントロール軸65の偏心ピン65Pが直接固定されている。コントロール軸65は、クランク軸30の下方において、ロアブロック41の一側(エンジン本体1の前方側)に偏らせて設けられており、そのジャーナル軸65Jがロアブロック41と、その下面に複数の連結ボルト68で固定される軸受ブロック70との間に回転自在に支承される。
【0032】
図6,7,9に示すように、前記コントロール軸65を支持する軸受ブロック70は、コントロール軸65の軸方向に延長される連結部材71と、この連結部材71にその長手方向に間隔をあけて一体に起立結合される複数の軸受壁72と、連結部材71の長手方向の中央部に設けたハウジング受部73とを備えて高い剛性を確保すべくブロック状に鋳造成形されており、前記複数の軸受壁72の上面と、ロアブロック40の前記軸受部材50,51,52,53より延長される軸受壁50a,51a,52a,53aの下面との合わせ面に形成される軸受部により、前述のようにコントロール軸65の複数のジャーナル軸65Jを回転自在に支承する。また、図7に示すように、前記ハウジング受部73は、ハウジングHUから離れる方向に下向きに凹状に形成されており、その上方に凹部Gが形成され、その凹部Gに、ベーン式油圧アクチュエータACのハウジングHUの下部が受容されていて、このハウジングHUの下部が、ハウジング受部73上に締結部材すなわち複数の締結ボルト74により締結される。したがって、コントロール軸65を支持する軸受ブロック70に、油圧式アクチュエータACのハウジングHUが一体に締結支持される。
【0033】
ところで、アクチュエータACのハウジングHUは、剛性の高い軸受ブロック70に一体に締結されるので、ハウジングHU自体の剛性が高められ、またその軸受ブロック70のハウジング受部73には凹部Gが形成され、この凹部Gを収容スペースとして、そこにハウジングHUの下部が収容されることにより、アクチュエータACは、エンジン本体1に高剛性をもってコンパクトに装着することが可能となり、エンジンE自体の小型化に寄与することができる。
【0034】
図6,7,9,10に示すように、コントロール軸65と同軸上に設けられるベーン式油圧アクチュエータACは、クランク軸30よりも下方においてエンジン本体1のクランク室CC内に設けられており、そのハウジングHUは、前記ベアリングキャップとしての中央軸受部材54(アッパブロック40およびロアブロック41に一体に固定)の一側の前記膨大部58に設けられる。ハウジングHUの軸方向の中央部には、両端面の開放される短円筒状のベーン室80が形成されている。このベーン室80内には、前記コントロール軸65と一体のベーン軸66が収容され、このベーン軸66の外周面の軸方向中央部には、約180°の位相差を存して一対のベーン87が一体に突設されている。またこのベーン軸66の軸方向の左右両側部(前記中央部よりも若干小径)は、前記ベーン室80の外周部において、ハウジングHUの両側開口部に、複数の締結部材すなわち締結ボルト83で固定した、環状の左右カバー部材81,82(左右ベーン軸受部)に面軸受を介して回転自在に支持されている。そして、ハウジングHUの開口側面は、左右カバー体部材81,82により閉じられている。
【0035】
しかして、図6,7に示すように、前記複数の締結部材83は、クランク軸30の軸方向に沿って設けられていて、クランク軸方向締結部材を構成しており、それらの締結部材83の一部は、前記横方向締結部材56の間を横切るように設けられている。
【0036】
ベーン室80の内周面とベーン軸66の外周面との間には、約180°の位相差を存して一対の扇形状ベーン油室86が画成される。図6に示すように一対のベーン油室87は、ベーン軸66を挟んで上下方向、すなわちシリンダ軸線L−Lの方向に並べて設けられており、これにより、アクチュエータACの、ハウジングHUに形成されるベーン室80は、上下方向の幅D3よりも横方向(シリンダ軸線L−Lと直交する方向)の幅D4の方が短くされている。
【0037】
図6,7に示すように、一対のベーン油室86内には、ベーン軸66の外周面より一体に突設した一対のベーン87がそれぞれ収容されて、その外周面が、ベーン油室86の内周面にパッキンを介して摺接されており、各ベーン87は、各扇形状のベーン油室86内をそれぞれ2つの制御油室86a,86bに油密に区画する。ハウジングHUには、制御油室86a,86bに連通する油圧油路88,89が前記横方向締結部材56とクランク軸30方向に位置をずらして穿設されており、これらの油圧通路88,89は、後述するバルブユニット92内の電磁弁Vに接続されている。そして、これらの油圧通路88,89は、前記横方向締結部材56とクランク軸30方向から見て相互に重なり合うことが許容される。また、前記油圧通路88,89をクランクケース4の内方側、すなわちクランク軸30に近づけた位置に設けることで、エンジンEの幅方向の大型化を抑制することができる。
【0038】
図5,7,9 に示すように、ベアリングキャップとしての中央軸受部材54に形成される、ハウジングHUの上面には、クランク軸30の軸受部54Aから該ハウジングHU側の端部に向かって鳩尾状に広がる平坦な取付面90が形成されており、図7に示すように、この取付面90のコントロール軸65方向の幅D1は、ハウジングHUの同方向の幅D2よりも広くしてあり、その取付面90には、前記ベーン式油圧アクチュエータACの油圧回路の電磁弁V(図11)を収容するバルブユニット92が複数のボルト91をもって固定支持されており、このバルブユニット92は、シリンダブロック2の壁面を貫通してその上面に露出状態に配置される(図1参照)。
【0039】
なお、前述したように、ハウジングHUの取付面上には、バルブユニット92が堅固に固定され、そのバルブユニット92はシリンダブロック2の取付壁面上にあって、その四方が開放されているので、前記バルブユニット92の切換操作、メンテナンスなどがし易くなる。
【0040】
つぎに、前記ストローク可変リンク機構LVを駆動制御するベーン式油圧アクチュエータACの油圧回路を、図11を参照して説明する。
【0041】
前述したように、コントロール軸65のベーン軸66とハウジングHUとで上下方向に形成される一対の扇形状ベーン油室86内は、ベーン87によって2つの制御油室86a,86bにそれぞれ仕切られており、これらの制御油室86a,86bは、後述の油圧回路を介してオイルタンクTに接続される。油圧回路には、モータMで駆動されるオイルポンプPと、チェック弁Cと、アキュムレータAと、電磁切換弁Vとが接続される。オイルタンクT、モータM、オイルポンプP、チェック弁CおよびアキュムレータAは油圧供給装置Sを構成して、エンジン本体1の適所に設けられ、また電磁切換弁Vは、前述のバルブユニット92の内部に設けられる。油圧供給装置Sと電磁切換弁Vとは、2本の配管P1,P2で接続され、また電磁切換弁Vとベーン式油圧アクチュエータACの制御油室86a,86bとはハウジングHUに形成した油圧通路88,89で接続される。したがって、図11において、電磁切換弁Vを右位置に切り換えると、オイルポンプPで発生した作動油は、制御油室86aに供給され、その油圧でベーン87が押されてコントロール軸65が反時計方向に回転し、逆に電磁切換弁Vを左位置に切り換えると、オイルポンプPで発生した作動油は、制御油室86bに供給され、その油圧でベーン87が押されてコントロール軸65が時計方向に回転することで、コントロール軸65の偏心ピン65Pの位相が変化する。コントロール軸65の偏心ピン65Pには、前述したようにストローク可変リンク機構LVのコントロールリンク63が揺動可能に枢支連結され、コントロール軸65の駆動(約90°)によれば、コントロール軸65の偏心ピン65Pの位相変化により、ストローク可変リンク機構LVを作動する。
【0042】
ところで、この実施例によれば、一対のベーン油室86は、エンジン本体1のシリンダ軸線L−L方向に並べて配置されているので、アクチュエータACは実質的に横方向の幅D4が上下方向の幅D3に比べて短縮されることになり、これにより、エンジンEは、クランク軸30と直交する横方向の幅が短縮され、同方向の大型化が抑制される。
【0043】
また、アクチュエータACが設けられたクランクケース4の外方にエンジン補機(図示せず)が設けるようにすれば、一方側(後方)に傾斜されたエンジンEの他方側(前方)のエンジンの上方にエンジン補機を配置しやすく、しかもアクチュエータACの一対のベーン油室86をシリンダ5の軸線方向に並べて配置しているので、エンジン補機をアクチュエータACに近接させて配置できる。
【0044】
つぎに、図12を参照して、本発明の第2実施例について説明する。
【0045】
図12は、前記第1実施例に図6に対応するベーン式油圧アクチュエータの縦断面図であり、前記第1実施例と同じ要素には同じ符号が付される。
【0046】
この第2実施例では、ベーン式油圧アクチュエータACが設けられる、ベアリングキャップとしての中央軸受部材54のロアブロック41に対する締結構造が若干相違している。中央軸受部材54をロアブロック41に締結する複数の横方向締結部材56のうち、一対のベーン油室86間に位置する2本の横方向締結部材56は、ベーン油室86を避けていることにより、ベーン室80との間に充分の肉を確保しながら、締結部分(螺締部分)の長いものの使用を可能として、エンジン本体1の横方向の幅を拡大することなく、ベアリングキャップとしての中央軸受部材54、すなわちアクチュエータACの、ロアブロック41への締結剛性を高めることができる。
【0047】
つぎに、図13を参照して、本発明の第3実施例について説明する。
【0048】
図13は、エンジン本体1の一部の縦断側面図であり、前記第1実施例と同じ要素には同じ符号が付される。
【0049】
この第3実施例では、ストローク可変リンク機構LVの構造が、前記第1実施例と若干相違している。
【0050】
ベーン式油圧アクチュエータACのコントロール軸65の軸心を、ロアリンク60とコントロールリンク63との第2連結ピン64による枢支連結点よりもクランク軸30側、すなわちクランクケース4の内方側に配置する。これにより、エンジンEは、クランク軸30と直交する方向の横方向の幅の大型化が一層抑制される。
【0051】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明はその実施例に限定されることなく、本発明の範囲内で種々の実施例が可能である。
【0052】
たとえば、前記実施例では、本発明ベーン式油圧アクチュエータの取付構造を、コントロール軸の偏心ピンの位相変化により、ピストンの上死位置を変更する圧縮比可変式エンジンに適用した場合について説明したが、これを他ストローク特性可変エンジンにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】ストローク特性可変エンジンの概略全体斜視図
【図2】図1の2矢視図
【図3】図1の3−3線に沿う断面図(高圧縮比状態)
【図4】図1の4−4線に沿う断面図(低圧縮比状態)
【図5】図2の5−5線に沿う断面図
【図6】図5の6−6線に沿う横断面図
【図7】図5の7−7線に沿う拡大縦面図
【図8】図3の8−8線に沿う断面図
【図9】図5の9矢視斜視図
【図10】ベーン式油圧アクチュエータの分解斜視図
【図11】油圧アクチュエータの制御系の油圧回路図
【図12】本発明の第2実施例にかかるベーン式油圧アクチュエータの縦断面図(図6対応図)
【図13】本発明の第3実施例にかかるストローク特性可変エンジンの一部の縦断側面図
【符号の説明】
【0054】
1・・・・・・エンジン本体
4・・・・・・クランクケース
11・・・・・・・ピストン
30・・・・・・・クランク軸
56・・・・・・・横方向締結部材(締結ボルト)
65・・・・・・・コントロール軸
66・・・・・・・ベーン軸
81・・・・・・・カバー部材(ベーン軸受)
82・・・・・・・カバー部材(ベーン軸受)
83・・・・・・・クランク軸方向締結部材(締結ボルト)
88・・・・・・・油圧通路
89・・・・・・・油圧通路
73・・・・・・・ハウジング受部
74・・・・・・・締結部材(締結ボルト)
86・・・・・・・ベーン油室
87・・・・・・・ベーン
E・・・・・・・・ストローク特性可変エンジン
AC・・・・・・・ベーン式油圧アクチュエータ
LV・・・・・・・ストローク可変リンク機構
HU・・・・・・・ハウジング
L−L・・・・・・シリンダ軸線
V−V・・・・・・鉛直軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン(11)とクランク軸(30)とを、このクランク軸(30)の側方に配設されるストローク可変リンク機構(LV)を介してコントロール軸(65)に連結し、このコントロール軸(65)と同軸上にベーン式油圧アクチュエータ(AC)を設け、この油圧アクチュエータ(AC)によりコントロール軸(65)を駆動して前記ストローク可変リンク機構(LV)を作動し、ピストン(11)の移動ストロークを可変とするストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造であって、
前記ベーン式油圧アクチュエータ(AC)は、ハウジング(HU)と、このハウジング(HU)に回転可能に設けられるコントロール軸(65)と一体で外周面にベーン(87)を突設したベーン軸(66)と、ハウジング(HU)とベーン軸(66)との間にベーン(87)の収容される一対のベーン油室(86)とを備え、
前記一対のベーン油室(86)は、前記ストローク特性可変エンジン(E)のエンジン本体(1)のシリンダ軸線(L−L)方向に並べて配置されることを特徴とする、ストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造。
【請求項2】
前記ベーン式油圧アクチュエータ(AC)のハウジング(HU)は、クランクケース(4)内に設けられていて、このハウジング(HU)とクランクケース(4)とは、エンジン本体(1)のシリンダ軸線(L−L)と直交する方向から複数の横方向締結部材(56)により締結され、それらの締結部材(56)の少なくとも一部は、シリンダ軸線(L−L)方向に配置された一対のベーン油室(86)間に設けられていることを特徴とする、前記請求項1記載のストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造。
【請求項3】
前記アクチュエータ(AC)のハウジング(HU)と、このハウジング(HU)の開口部を覆うカバー部材(81,82)は、クランク軸(30)方向に延びる複数のクランク軸方向締結部材(83)により締結され、これらのクランク軸方向締結部材(83)の一部は、前記横方向締結部材(56)間に設けられることを特徴とする、前記請求項1または2記載のストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造。
【請求項4】
前記一対のベーン油室(86)に作動油を供給する油圧通路(88,89)は、前記横方向締結部材(56)とクランク軸(30)方向にずらして前記ハウジング(HU)に設けられることを特徴とする、前記請求項2または3記載のストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造。
【請求項5】
前記エンジン本体(1)のシリンダ軸線(L−L)は、鉛直線(V−V)に対して一方側に傾斜しており、その他方側で、クランク軸(30)よりも下方のクランクケース(4)内に前記ベーン式油圧アクチュエータ(AC)が設けられることを特徴とする、前記請求項1,2,3または4記載のストローク特性可変エンジンにおけるベーン式油圧アクチュエータの取付構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−82175(P2008−82175A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259579(P2006−259579)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】