説明

タイヤのパラメータを検証するためのハイブリッド共振構造体

路上安全性を高めるために、タイヤの走行条件、特に物理的パラメータの制御が推奨される。本発明は、種々の要因、例えばタイヤの温度及び圧力を測定するセンサに関する。センサは、車両の地面接触手段、特に製造中、タイヤのゴム中に組み込み可能な受動式のハイブリッド共振構造体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行中、特に無線周波数リンク及び受動式コンポーネントを介するタイヤの物理的パラメータの大きさの遠隔測定に関する。
【0002】
本発明は、特に、この限定された用途向きの圧電膜内に設けられたバルク波方式の共振構造体に関する。本発明のハイブリッド構造体は、その品質係数及びその周波数範囲におけるその結合係数を増大させるよう最適化されるのが良い。
【0003】
本発明は又、走行パラメータ、例えばタイヤのゴムの温度又は内部空気圧の遠隔ワイヤレス測定を行うよう車両地面連結手段内に設けられ、例えば、タイヤのところに設けられたハイブリッド共振子の用途に関する。本発明は又、能動的MEMS(微小電気機械システム)を受動式MEMS、換言すると、電源に接続されておらず、遠隔から問い合わせ可能なMEMSに変換するための共振構造体の用途に関する。
【背景技術】
【0004】
自動車の安全性を高めるため、タイヤの性能及び(又は)タイヤの使用条件のリアルタイムモニタを行うためのシステムを統合することが望ましいように思われる。これを達成するため、タイヤ計装チャネルは、電子デバイス、例えばセンサを統合してタイヤの使用及び(又は)摩耗に関連したパラメータをモニタすることに狙いを定めている。例えば、通常タイヤの弁に組み込まれたセンサから成る市販のTPMS(「タイヤ圧力モニタシステム」)は、運転手に自分のタイヤ圧力が正確であるかどうかを知らせると共に漏れを検出する。
【0005】
走行条件下においてホイールに取り付けられたタイヤの物理的パラメータを測定することを考慮することが可能になるやいなや、この測定を行い、測定値を車両の内側又は外側に設けられた制御システムに伝えるのに用いられるエネルギーの問題が生じ、電子デバイスは、電力をセンサに供給し、信号を取り出し、それどころか信号を処理する手段を更に備えなければならない。大抵の現在設置されているTPMSシステムに用いられる既存の解決策は、エネルギー管理の方式と関連していて、タイヤの寿命全体を通じて交換する必要がないような電池の使用法に基づいている。
【0006】
しかしながら、理想的な解決策は、受動式センサ、換言すると、タイヤ/ホイール組立体に搭載されるエネルギー源を必要とせず、遠隔無線周波数波又はタイヤと関連した自動エネルギー発生システムにより電力供給されるセンサに関する。無線周波数波による電力供給の場合、問い合わせ信号をアンテナが設置されているセンサに送り、センサは、センサが直接的に又は間接的に感応する物理的パラメータに関する情報を含む無線波を送る。
【0007】
かくして、例えば、欧州特許第937,615号明細書において、表面弾性波(SAW)型センサを用いると、無線周波数波によりタイヤの物理的パラメータ、例えばタイヤの接地度を受動的に測定することができるということが知られており、このSAW型センサによる解決策は、特にデータ伝送用に開発された(米国特許出願第2005/093688号明細書)。
【0008】
SAW型センサは、「遅延線」型(センサにより生じる幾つかのエコー相互間の位相差が、測定されるべきパラメータで決まる)又は「共振子」型(センサの共振振動数が測定されるべきパラメータで決まる)のものであるのが良い。「共振子」型センサは、通常、これらのサイズがコンパクトなので、このパラメータへの接近がタイヤの製造中、センサの組み込みを必要とする場合、タイヤの物理的パラメータの測定に良好に適合している。
【0009】
しかしながら、共振子型センサによる高性能測定では、その共振振動数の最適な検出精度を得るのに高い共振性が必要であると共に共振子の挿入損失が可能な限り最も低いことが必要であり(システムが受動式なので、問い合わせ無線波により送られるエネルギーの使用を最適化するため)、しかも、想定される用途のために測定されるべき物理的パラメータに対する十分な感度が必要である。SAW型共振子は、センサの最終サイズを増大させないでこれら3つの性能基準を最適化するために想定される用途については制限される場合があり、挿入損失が最小限であり、したがって、結合度が最大の(例えば支持体の圧電材料を変えることにより1%ではなく10%)SAW共振子は、共振品質係数が不十分である。
【0010】
さらに、測定されるべき物理的パラメータ、特に温度に対するSAW型共振子の感度は、非常に高いので、特に433.92MHzISM帯域での電波放出基準(FCC又はETSI)を遵守することを保証することができない場合があり、かくして、高い熱感度は、許可された周波数帯域の範囲外で共振を生じさせる。最後に、かかる共振表面波構造体は、音響波長さ及びこれらのスペクトル関数を実行するのに最小限の長さを必要とするこれらの形態そのものに関連した或る特定のサイズのものでなければならず、典型的なセンサは、通常、5mm×5mmである。
【0011】
想定される1つの代替手段は、圧電材料ブレードを振動の中に置くことを利用したバルク波共振子の使用法であり、この場合、2つの向かい合った電極が、圧電材料のプレートをクランプし、このようにして形成された双極子端子への高周波電界の印加により、その構成材料の結晶方位により許可される結合に応じて、逆圧電効果によってプレートの変形が生じる。
【0012】
石英は、その熱弾性特性(高い機械的品質係数、温度効果のために補償される方位の存在等)を考慮に入れると、この種の用途にとって好ましい材料であることが判明している。かかる典型的な共振子は、1MHzのオーダーで動作し、この周波数は、最適無線周波数検出にとって非常に低すぎ、振動数を増大させるためには、産業上の利用性(このためのプレートの最小厚さは、30μmのオーダーのものである)をリスキーにする厚さまで薄くすることが必要になり、1GHzの周波数は、旧式のバルク波共振子の使用に関して実用上の限度となる。
【0013】
これらバルク音響波BAW発振器を特に過酷な環境における走行パラメータの測定のために実際に用いることができず、SAW型センサに代わる手段は、まだ市場に出されていない。
【0014】
【特許文献1】欧州特許第937,615号明細書
【特許文献2】米国特許出願第2005/093688号明細書
【発明の開示】
【0015】
本発明は、既存のセンサの欠点をどのように解決するか及び車両地面連結手段、特にタイヤの走行パラメータの測定に合ったBAW型共振子をどのように構成するかを説明しており、本発明は、他の多くの利点を有する。
【0016】
かくして、想定されるオプションにより、挿入損失、共振品質、感度及びサイズを含む上述のパラメータの同時最適化が可能である。
【0017】
具体的に言えば、本発明は、過酷な振動及び温度条件下においてパラメータを測定するための共振子に関する。本発明の共振子は、高い結合レベルを有し、しかも、高い周波数でのBAW解決策で遭遇する欠点、単純なFBAR構造体で低い周波数で動作できないこと及び複合構造体で動作するときに十分な結合が得られないことを同時に解決できる共振ハイブリッド構造体である。
【0018】
したがって、本発明は、その特徴のうちの1つによれば、地面連結手段の走行パラメータのセンサとして使用されるようになったハイブリッド音響共振構造体であって、2つの電極が薄膜の形態をした圧電材料の層を包囲している圧電変換器を有するハイブリッド音響共振構造体に関する。2つの電極のうちの一方は、支持体に被着され、他方は、追加の層で被覆されるのが良く、この追加の層の厚さは、圧電膜内の音響電気密度を最適化するために基板の厚さ及び共振子の動作パラメータの関数として決定される。この厚さは、共振子の固有周波数を定め、その高調波は、標的無線周波数範囲内にあり、換言すると、好ましくは、300MHz〜3GHzである。
【0019】
支持体は、基板、有利にはブレード又は基板上に配置されたブラッグミラー(Bragg mirror)の形態をしているのが良く、追加の層又は上側電極も又、ブラッグミラーで覆われるのが良い。ブラッグミラーを備えた本発明の共振構造体は、有利には、特に「包装材(packaging )」を製作するための標準の選択的包封(encasing)手順を用いて、封入材(encapsulation )としての役目を果たすことができる保護層で全体的に又は部分的に包封されるのが良く又は「安価」な電子部品パッケージ内に配置されるのが良く、少なくとも1つのブラッグミラーは、その反射係数が構造体のほぼ共振周波数で最大であるように選択される。
【0020】
基板は、有利には共振構造体の製品QFが3×1012又は5×1012を超えるような機械的及び誘電品質係数を有する数種類の材料で構成されるのが良く、この基板は、単結晶シリコンであっても良い。圧電層は、例えば陰極スパッタによって被着されるのがよい窒化アルミニウム又は分子接着に続き薄肉化により追加可能な単結晶で構成される。電極は、有利には、これらの支持体、即ち基板、ブラッグミラー又は圧電層に被着され又はこれに一体化された金属層である。追加の層は、圧電層であっても良く又はそうでなくても良く、好ましくは、この追加の層は、単結晶材料のエピタキシャル成長により配置されるが、この追加の層は、基板に用いられた材料と同様な材料を更に含むのが良い。
【0021】
本発明の構造体は、例えば接着により自動車の地面連結手段の要素と関連しているのが良い。好ましい一実施形態によれば、この構造体は、タイヤの製造中、タイヤのゴム内に組み込まれる。
【0022】
特に好ましい一実施形態によれば、本発明の構造体は、トランスポンダ機能を実行するために無線周波数アンテナに結合される。かかるトランスポンダは、特に温度の示差測定を行うよう1つ又は数個の他のハイブリッド共振構造体と関連しているのが良い。
【0023】
本発明は、別の特徴によれば、ハイブリッド共振構造体、換言すると、車両の走行パラメータ、特に温度を測定し又は車両の走行パラメータ、特に圧力に対して敏感なMEMS内の歪ゲージとして働くよう通常のSAW共振子ではなく、圧電膜を備えたBAW共振子の用途に関する。
【0024】
注目されるように、本発明の関連において、「タイヤ」という用語は、インフレート可能なタイヤ又は弾性トレッド若しくは軌道を等しく意味しており、これらの全ての用語は、均等であると解釈されるべきあり、車両の「地面連結手段」1は、図1に示すように、上述したタイヤ2、タイヤの一部をなす要素、例えばインサート、及びタイヤを車体4に連結する全てのコンポーネント、即ちホイール、リム、ブレーキ系統5、制振系統6、アクスル等及び関節連結部7を有する。
【0025】
本発明の他の特徴及び利点は、例示の目的でのみ行われ、制限的ではない図面を参照した以下の説明を読むと、明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
走行中、タイヤ温度は、安全性に影響を及ぼす重要な要因である。かくして、タイヤが最適のグリップを得るための適当な温度状態に無い場合に運転手に知らせるため又はタイヤの寿命を最適化するためにタイヤを直接測定により定期的に測定できるようにすることが、望ましいと考えられる。したがって、車両問い合わせ装置との無線周波数結合を構成する受動式センサ及びそのデータ伝送システム、換言すると大抵の場合そのアンテナそれ自体は、製造中、タイヤに直接組み込まれるべきであることが望ましい。この場合、センサの侵入度は、できるだけ低いことが必要であり、タイヤの計装は、依然として付属品のままであり、得られた組立体の主要な機能は、依然として最適走行条件を保証することにあり、タイヤに組み込まれる種々の装置は、その機械的性能を変えてはならず、その寿命も変えてはならないことが重要である。SAW型センサの表面のうちの1つは、自由なままでなければならず、その結果、包装材に関する追加の制約が、かかる一体化にとって生じ、これにより、これらのサイズが更に一層増大する。
【0027】
薄い圧電層を非圧電基板上に形成できるので、圧電膜内に、しばしば長手方向分極状態でそれと同時に非常に高い伝搬速度及び高い圧電結合(数パーセント)でバルク波を生じさせることが可能であることが判明した。かくして、薄い圧電膜を備えた種々のBAW型共振子、即ち、表面上に機械加工された基板上の薄膜共振子TFR、バルクの状態の薄膜共振子(FBAR:Film Bulk Acoustic Resonator)、HBAR(Harmonic Bulk Acoustic Resonator)又はブラッグミラーを備えた共振子(SMR:Solidly Mounted Resonator)が開発された。圧電膜を有するかかるハイブリッド共振構造体に関し、電気エネルギーと圧電媒体との間の結合は、最大応力が圧電層の中間に加えられる場合最大である。したがって、共振子の電気機械的結合、温度効果、応力及び音響絶縁は、切り離せない第1次の現象であり、したがって、通常、独立であると考えられ、かかる現象相互間の関係は、取るに足りない。
【0028】
これらハイブリッド共振構造体は、サイズが非常に小さいこと、特に、以下に提供される本発明の実施形態は、200μm×200μmのオーダーのものであるという点で表面波型センサと比較して有利である。さらに、特に、好ましい「ブラッグミラー(Bragg mirror)」形態では、システムの複雑な封入を行わないで、タイヤの加硫前にゴム中に直接組み込むことができる構造体を達成するようセンサ及びアンテナとのその接続部を安価に包封することが可能である。
【0029】
基本的に、図2に示されているように、本発明のハイブリッド共振子10は、基板として働く材料から作られたブレード(blade)12を有している。圧電変換器14が、基板12のブレード上に配置されている。変換器14は、ブレード12の表面に被着された第1の電極16を有しており、有利には、第1の電極16を構成するこの層の厚さは、λ16/20未満であり、この場合、λ16は、層内部で伝搬する音波の波長である。第1の電極16は、抵抗損失を制限するよう好ましくは良好な導電性の材料で構成され、有利には、これは、可能ならば基板12の表面に配向状態で被着できるよう選択された金属(Al、Mo、Ni、Ag、Pt、Au、W、Cu、・・・)である。
【0030】
変換器14は、第1の電極16上に配置された圧電材料の層18を有し、圧電材料の性状で決まる既存のプロセスは、構造体10の厚みの中への電気音響エネルギーの封じ込めにとって有害な消散源を形成する層18のテキスチャ欠陥を最小限に抑えるよう選択される。かくして、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、窒化アルミニウム、酸化亜鉛及び他の圧電材料を被着させることができる。膜厚さは、結合比に関する影響を有し(以下に説明する)、好ましくは、圧電層18内の音波の波長λ18の場合、最適結合は、λ18/2又はλ18/2の奇数倍に等しい層厚さについて得られる。
【0031】
次に、対向電極20を圧電材料18の表面に被着させる。第1の電極16の場合と同様、この第2の電極20は、有利には配向状態で又はより良好にはエピタキシャル成長状態で被着できる材料で作られた好ましくは良好な導電性の材料で構成される。同様に、有利には、電極20の層の厚さは、λ20/20未満であり、この場合、λ20は、電極20の材料内部で伝搬する音波の波長である。
【0032】
かかるコンポーネント10の製作に関する主要な技術的問題は、振動10に発生させることができるように圧電層14の後面上に設けられた基板12を無くし又は局所的に薄くすることにあり、圧電メンブレン18の下に存在する基板12は、寄生モードを発生させることができる。というのは、共振子10の固有周波数F0及び動作周波数Fは、直接的に基板12の厚さで決まるからである。基板12を共振子10の製造プロセスの前又は製造中にこの厚さに達するよう薄くするのが良く、又、共振子10をいったん製作すると、例えば、装置10の共振周波数を調節する作業を利用することにより基板12の厚さを変えることが可能である。
【0033】
ハイブリッド共振構造体と呼ばれるこの構造体10は、構造体の基本モードの考えられる種々の高調波に対応した多くの種々のモードを有している。かくして、共振子型SAW構造体の場合よりも無線周波数帯域を変化させることは、容易になり、これに対応して、装置の動作周波数F0が増大し、したがって、そのサイズが減少する。
【0034】
したがって、図2に示す構造体と同様な構造体10は、無線周波数トランスポンダとしてのその使用を不利にする非常に高い又は非常に低い周波数、換言すると、好ましくは300MHz〜3GHz範囲内で自然に共振する。本発明の複合的使用に起因して、非基本共振モード以外のランクN≠1の高調波を用いて所要の範囲に対応したモードの選択によって共振子10の動作周波数を適合させることが可能である。
【0035】
かかる構造体10の固有共振周波数F0は、関係式F0=V/2eによって与えられ、eは、薄い層14/基板12で構成された複合プレートの有効厚さであり、Vは、主として膜18により僅かに乱された基板12(好ましくは単結晶)の弾性特性で決まるモードの等価速度である。種々の層厚さ及び特に単結晶ブレード12は、スタックのランクN高調波共振点のうちの1つが共振子10の所要の動作周波数Fに一致するように選択され、更に、構造体は、動作周波数帯域(例えば中心が433.92MHzの帯域に関して1.8MHz)よりも非常に高い2つの共振点相互間のスペクトル差を得るよう寸法決めされるのが良い。
【0036】
有利には、基板12は、可能な限り最も高い機械的及び誘電的品質係数を備えた材料で作られ、したがって、実用的モードの品質係数×共振周波数(QF)の積は、3×1012以上であり、例えば、実用的なモードの共振品質係数は、約400MHzで8000以上である。良好な共振品質は、測定にとって望ましく、品質係数Qに関連している。この品質係数Qは、SAWについて433MHzにおいて8500〜10000のオーダーのものであり、したがって、本発明の構造体により同等な結果を得ることができる。例えば、材料は、結晶又は単結晶石英、ガラス又は非晶質シリカ、ランガサイト(langasite)La3Ga5SiO14及びその変形体(ランガナイト(langanite)La3Ga5,5Nb0,514、ランガテート(langatate)La3Ga5,5Ta014等)、リン酸ガリウム、サファイア、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ダイヤモンドカーボン、炭化珪素等の中から選択されるのが良い。
【0037】
分極は、膜18の圧電結合によって固定される。さらに、電気エネルギーへの機械エネルギーの変換は、材料相互間の結合で決まる。好ましくは、圧電材料18の特性は、選択された動作モードFにおいて複合共振子10について、区分(ST,X)における石英に関する表面波の結合、即ち通常1‰よりも高い又はこれに等しい電気機械結合を達成するのに十分である。有利には、高い結合係数を有する材料、例えば、特にシリコンに対して種々の方法を用いて具体化するのがほどほどに容易である窒化アルミニウム(AlN)又は酸化亜鉛(ZnO)が用いられる。厚さの選択は、圧電層18の性状、用途及び技術的具体化の限度の関数として様々である。
【0038】
好ましくは、本発明の構造体10は、“HBAR”型のものであり、この場合、エネルギーは、圧電層18と基板12との間でほぼ均等に分布される。これら構造体10は、全有効厚さが少なくとも1つの波長分に等しい基板12/圧電層18の組立体の高調波で共振が起こることを特徴としている。音響エネルギーは、圧電層18内には閉じ込められず、これとは異なり、基板12中に大部分存在する。これとは逆に、“FBAR”型の構造体では、音響エネルギーは、圧電層18内に自然に閉じ込められ、構造体は、基本モード(半波長又はこれにほぼ等しい波長)における圧電層18の共振を特徴としている。
【0039】
上述したように、圧電膜18を有する複合共振構造体10の場合、電気エネルギーと圧電媒体との間の結合は、最大応力が圧電層の中間に加えられると、最大であり、上側の層20は、伝搬効果を用いて最大膨張位置を圧電層18内で変位させるよう厚くされているのが良い。
【0040】
しかしながら、弾性エネルギーが、共振構造体10の追加の引っ張り係数の深刻な低下を回避するために、電極20に追加された追加の厚肉化層22内で伝搬できることが好ましい。かくして、5%の結合係数を得ることができる。したがって、本発明によれば、スタック12,16,18,20は、好ましくは、対向電極20の表面に被着された追加の層22によって完全なものになる。この追加の要素22は、装置10の固有の損失を制限するよう高い機械的及び(又は)誘電的品質係数を有する選択された1種類又は数種類の材料で構成されている。有利には、対向電極20の性状に応じて、層22は、エピタキシャル成長により形成されたものであるのが良く、かくして、その方位が保証される。
【0041】
層22は、実用的モードの音響電気エネルギーを圧電層18中に集中させるために用いられ、限定的場合では、これは、装置10の汎用インピーダンス適合要素である。有利には、追加の層22の成長は、この層22が、装置10の固有損失を制限するのに十分な過剰電圧値を得ることができるテキスチャを有するようなものである。特に、HBAR型共振構造体20の場合、この追加の層22は、エネルギーが著しく存在していても、最大応力の位置をこの層18中に定めることにより圧電層18中には閉じ込められないようなものである。
【0042】
事実、追加の層を設けることを当業者にとって自明であると見なすことは不可能である。というのは、公開されたHBAR実施形態のどれも、最大応力の位置をずらすことができるこの追加の層を備えていないからである。
【0043】
層22の構成材料は、好ましくは、基板12を構成するために用いられた材料、具体的に言えば、単結晶石英、ガラス又は非晶質シリカ、ランガサイト(langasite)La3Ga5SiO14及びその変形体(ランガナイト(langanite)La3Ga5,5Nb0,514、ランガテート(langatate)La3Ga5,5Ta014等)、リン酸ガリウム、サファイア、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ダイヤモンドカーボン、炭化珪素等の中から択される。追加の層22は、圧電特性を備えていても良く又は備えていなくても良く、この追加の層は、窒化アルミニウム及びニオブ酸カリウムを更に含むのが良い。
【0044】
種々の層、特にブレード12の厚さの選択は、スタック14,22の高調波共振のうちの1つのランクN(N≧1)が、共振構造体10の動作周波数Fに相当するよう計算される。
【0045】
好ましい一実施形態では、コンポーネント要素は、応力に対する感度ができるだけ高いものであるよう選択され、したがって、応力を特定の変形可能なシステムに組み込まれた後、応力が生じる本体の変形により誘起される応力効果を測定することができるように選択される。
【0046】
さらに、本発明の共振子10は、少なくとも1つのブラッグミラーを備えるのが良い。図3に示す共振構造体24も又、基板12と第1の電極16との間で変換器14の下側のフェース上に設けられていて、とりわけ、インピーダンスの遮断を生じさせることができるブラッグミラー26及び(又は)追加の層22の上側フェース上に設けられていて、エネルギーを集中させるよう設計されたブラッグミラー28を有する。
【0047】
多くの場合そうであるように、各ブラッグミラー26,28は、反射係数が互いに異なる材料の層を交互に配置したもので構成され、その厚さは、λ/4の奇数倍であり、この場合、λは、ネットワーク26,28内を伝搬する波の波長であり、互いに異なる層に対する連続反射により、ミラー効果が生じ、例えば、スタックは、Si層とSixy層を交互に配置することにより構成される。各ミラー26,28の反射係数は、有利には、構造体24の共振周波数の近くのところで最大であるよう選択される。
【0048】
各ミラー26,28を形成するために用いられる層の構造体は、それ自体特定の結合品質、品質係数、熱感度等に関して選択された高調波共振辺りに中心のある停止帯域(換言すると、ミラーがその全波反射機能を実行するスペクトルドメイン)を形成するために選択される。また、この構造体は、帯域幅が共振構造体24の2つの高調波相互間の距離よりも短くなるようにミラー26の停止帯域を形成することにより共振子24のスペクトル純度を向上させる上で興味をそそる場合がある。
【0049】
特に、2重ミラー26,28が存在している場合、ミラーの各々の構造体を調節してこれらのスペクトル応答が僅かにずらされるようにすることが可能であり、かくして、濾波機能は、単一のミラー又は2つの対称ミラーを備えた形態の濾波機能よりも幅が広い。有利には、フロントミラー28は、選択された共振周波数が停止帯域の下方部分内に位置するようにずらされ、リヤミラー26は、共振周波数が停止帯域の上側部分内に位置するようなものであり、又、これらについて逆の関係が成り立つ。
【0050】
特に、タイヤ内への組み込みを考慮する場合、しかしながら、任意他の用途に関しても、共振構造体が1つ又は数個のブラッグミラーを備えているこの形態では、一方のフェース又は本発明の構造体24全体を包封材中に設けることが可能であり、用途に応じて、この包封材(encasing)は、封入材(encapsulation )として働くことができる。音響吸収体、例えば特にエポキシ樹脂を主成分とする有機材料、例えばポリマーの層は、かくして、少なくとも1つのブラッグミラー26,28の表面に被着されるのが良く、したがって、ミラーにより共振子24の電気応答に対するミラーによって反射されないモードの寄与を無くすことができるようになっており、収納材料は、タイヤのゴムと適合性があるべきであり、加硫中、本発明の構造体をタイヤ内に、例えばエポキシ(EpoxyE514)(Epotechny(登録商標))樹脂中に完全に組み込まれるようにすることが望ましい。
【0051】
かくして、本発明のハイブリッド共振子は、SAW構造体よりも良好な効率又は結合度を得ることができ、他方、高い共振品質を有し、コンパクトであるように思われる。したがって、センサによるエネルギー損失が最小限に抑えられ、このことは、有利でありしかも信頼性を向上させ、他方、この種の受動式システムの利用可能性分野が広くなってタイヤ及び地面連結手段が含まれるようになる。さらに、ハイブリッド共振構造体の製造は、特に基礎材料がシリコンであるのが良いウェーハ蒸着プロセスを含むマイクロエレクトロニクス技術をSAWに関して用いられる石英のコストよりも非常に低いコストで利用する。
【0052】
好ましい一実施形態では、本発明の共振子は、図4に示すようなトランスポンダ30として使用できる。共振子10は、2本のストランド32,34を備えた双極子型のこの場合、共振子に接続されたアンテナを備え、この場合、構造体10を対応の周波数範囲で動作するエミッタの磁界内に配置することにより構造体10の電気的共振を励起させることが可能である。励起後、構造体12,16,18,20,22の固有振動数を再び放出させ、そして適当な装置を用いてこれを分析するのが良い。かくして、信号を受信時点で構造体の状態に合わせてスレーブ動作するトランスポンダ30を構成することが可能である。もう1つの利点は、他の電気的特性、例えば結合、熱的ドリフト等とは無関係に共振インピーダンスのモジュラスを調節することが可能であるように思われることにある。この場合、定常波比(SWR)を変化させることによりトランスポンダに接続されているアンテナによりエネルギー交換を最適化することが容易である。
【0053】
さらに、本発明が受動式トランスポンダとして用いられる場合、包封が部分的であるか全体的であるかに応じて、包封により、アンテナ線が、通過することができ又は包封することができる。特定の封入材が無いこと、アンテナとセンサとの間の電気機械的リンクの一体化及び包封材内における吸収材により、トランスポンダの最終費用の大幅な減少が可能である。
【0054】
かくして、タイヤのゴム内に組み込まれるか、地面連結手段の要素に接着されているかのいずれかの本発明のハイブリッド共振子10,24,30により、動作温度を測定することが可能である。特に、本発明の共振構造体10,24は、感度が温度変動に合わせて高まる1組の材料を用いて構成できる。例えば、温度の関数としての周波数の変動係数(CFT)が、好ましくは、互いに符号が同一のものであり、したがって効果を例えばニオブ酸リチウム及びシリコン(これらの両方は、負のCFTを有している)のように累積することができるようにする材料を用いることができる。
【0055】
別の場合では、例えば問い合わせに関する利用可能な周波数帯域が低い場合に温度変動に対する感度を制限するため、CFTが逆方向に変化する2種類の材料、例えばAlN及びSiを用いるのが良い。この場合、構造体10全体の共振周波数は、温度の関数として変化し、トランスポンダ30の機能を用いると、例えば、温度変動の変化分を直接モニタすることができる。
【0056】
かかるトランスポンダ30を本発明の別の共振子10,24に関連付けるのが良い。この場合、共振構造体の結合度と共振インピーダンスとの差は、有利には、損失の差を制限し、したがって特に問い合わせ距離の観点で同一の性能を備えた構造体の対応の遠隔問い合わせを可能にするよう最小限に抑えられる。かくして、問い合わせに対する応答は、同一の問い合わせ距離での互いに異なる共振子相互間の応答レベルの観点において同質である。
【0057】
有利には、2つの共振構造体10は、協同して用いられ、したがって、共振構造体の周波数が、温度の関数として逆のドリフトを示し、それにより、このようにして形成された組立体の感度が2倍になる。特に、電気的手段の感度は、周波数の正の熱的ドリフトを示す共振子を認可された周波数帯域への入力のところに配置し、周波数の負の熱的ドリフトを示す共振子をこの帯域からの出力のところに配置することにより、最適化できる。基本周波数と現在の周波数との間の差は、別々に採用された各共振子について求められ、温度変動が同一である場合に各共振子について測定された差の合計は、単位値の2倍に等しい熱的ドリフトに等価である。
【0058】
これとは逆に、選択された材料の全体が、有効共振周波数(選択された問い合わせ帯域内にある)の温度感度が、できるだけ低いようなものである場合、共振構造体を応力効果の直接的測定が得られるよう特定の変形可能な機械的構造体に組み込むのが良く、機械的構造体の変形により、共振子の音響特性の変性が生じ、それにより、その共振周波数の変化が生じる。変形可能な機械的構造体は、変形可能なメンブレンに連結された剛性バーの形態をしているのが良く、この変形可能なメンブレンの厚さは、測定されるべき応力範囲及び所要の情報を表す有用な共振を最適化するよう調節される。
【0059】
かくして、本発明の共振子は、シリコンMEMS上に実装された数個のハイブリッド構造体、例えば歪ゲージを用いて、これらの適合性により、タイヤ圧力(又は任意他の3次元応力)を間接的に測定することができ、再度、本発明の装置をそのサイズが小さく且つ基礎材料が慣例的に用いられているので、MEMS製造プロセス中に組み込むことができる。例えば、欧州特許第1,275,949号明細書に記載されたセンサと同様なネイル(nail)センサ40を受動式に構成でき、MEMS40上にエッチングされたピエゾ抵抗型歪ゲージに代えて、図5に示すような共振ハイブリッド構造型歪ゲージ24を用いることができ、このことは、本発明の装置のサイズが小さいことを考えると可能である。
【0060】
また、本発明の数個の共振構造体を同一の変形可能な機械的構造体、特にタイヤに設けることが可能であり、これら構造体の中には、歪に敏感な部分に設けられるものもあれば、基準を得るよう歪により影響を受けない部分上又は中立軸線上に設けられるものもある。固定された基準に対する各周波数の変化の測定値は、この場合、まず最初に、残留熱的ドリフトを隔離し、第2に、歪の影響を計測することができ、又、測定されるべき影響の方向(符号)に戻ることが可能である。同様に、温度測定の影響を、熱感度が試験本体の熱感度に等しい基準を用いることにより無くすことができ、したがって、基準共振子と計測共振子との間の周波数ドリフトが、動作温度とは無関係に等しくなるようになる。
【0061】
別の用途によれば、本発明の共振構造体は、容量性試験本体に直列に結合されるのが良く、その値は、測定されるべき物理的パラメータの関数として変化し、共振周波数は、キャパシタンスの値の関数として変化する。共振構造体を構成する1組の要素は、実用的共振周波数(選択された問い合わせ帯域内にある)の感度が、できるだけ低いように選択され、幾何学的形状は、周波数プリング(周波数の引っ張り)によるキャパシタンス測定を行うために電気機械的結合を最適化するよう選択される。次に、問い合わせは、共振構造体のトランスポンダ機能を用いて行われ、キャパシタンス変動の変化分を直接的にモニタする。有利には、共振構造体は、静電容量(キャパシタンス)を有し、その値は、特徴付けられるべきキャパシタンスの値に近い。
【0062】
感度を最適化するために、この場合、構造体は、共振子の静電容量が、容量性試験本体の代表的なキャパシタンスにほぼ等しいように設計される。感度を一段と向上させるため、少なくとも2つの共振構造体を有する1組を用いることができ、これら共振構造体のうちの一方だけを試験本体に結合し、他方は、基準として用いられる。本発明は又、容量性試験本体を並列に結合することによっても利用できる。
【0063】
特に、本発明の共振子は、十分な精度で、トランスダクション(transduction)中に受け取ったエネルギーを不必要に消散しないように非常に低い挿入損失で、これら共振子が配置中又は例えば−50℃〜500℃の温度の動作中に受ける場合のある過酷な環境条件に対するロバストネスで、周波数及びその変化を測定するよう高い過剰電圧を有する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】車両の地面連結手段及び種々のセンサ配設場所を概略的に示す斜視図である。
【図2】ハイブリッド共振子を示す図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態としてのブラッグミラー及び追加の層を備えたハイブリッド共振子を示す図である。
【図4】本発明のトランスポンダを示す図である。
【図5】本発明のMEMS内の共振子の別の用途を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両地面連結手段内にセンサとして用いられるよう設計されたハイブリッド音響共振構造体(10)であって、支持体(12)と、前記支持体(12,26)に取り付けられた第1の導電性電極(16)及び圧電材料の膜(18)によって第1の前記第1の導電性電極から分離された第2の導電性電極(20)を有する圧電変換器(14)とを有し、前記共振構造体(10)の動作周波数(F)は、特に300〜3000MHzの無線周波数スペクトルの状態にある、共振構造体。
【請求項2】
前記無線周波数スペクトルの状態にある前記動作周波数(F)は、前記共振構造体(10)の固有周波数(F0)のランクN≠1としての高調波である、請求項1記載の共振構造体。
【請求項3】
前記支持体(12)は、基板ブレード、特にシリコン単結晶の形態をしている、請求項1又は2記載の共振構造体。
【請求項4】
前記圧電材料層(18)は、薄い窒化アルミニウム層である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の共振構造体。
【請求項5】
前記圧電膜(18)内の音響電気密度を最適化するために前記圧電層(18)に向いて前記第2の電極(20)の表面に被着された追加の層(22)を有する、請求項1乃至4の何れか1項に記載の共振構造体。
【請求項6】
前記追加の層(22)は、前記支持体(12)と同一の性状のものである、請求項5記載の共振構造体。
【請求項7】
前記第2の電極(20)に前記追加の層(22)及び(又は)前記変換器(14)の支持体として被着されていて、反射係数が互いに異なる材料の層が交互に配置されて構成されたブラッグミラー(26,28)を更に有し、前記反射係数は、前記音響構造体(24)の前記共振振動数(F)に近い周波数において最大である、請求項1乃至6の何れか1項に記載の共振構造体。
【請求項8】
少なくとも前記ブラッグミラー(26,28)のところに前記構造体の被覆層を更に有する、請求項7記載の共振構造体。
【請求項9】
車両地面連結手段内にセンサとして用いられるよう設計された無線周波数トランスポンダ(30)であって、請求項1乃至8の何れか1項に記載の共振構造体(10,24)と関連したアンテナ(32,34)を有する、トランスポンダ。
【請求項10】
少なくとも請求項1乃至8の何れか1項に記載の第2の共振音響構造体(10,24)と関連したトランスポンダであって、各前記共振構造体の特性は、温度の示差測定を可能にするようなものである、請求項9記載のトランスポンダ。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか1項に記載のセンサを有する地面連結手段の要素。
【請求項12】
請求項1乃至10の何れか1項に記載のセンサが、ゴム内に組み込まれている、タイヤ。
【請求項13】
車両の走行パラメータを測定するためにバルク波方式の共振子(10)及び圧電膜(18)を有するハイブリッド共振構造体の用途。
【請求項14】
前記構造体は、車両地面連結手段の要素、特にタイヤに組み込まれている請求項13記載の用途。
【請求項15】
タイヤの温度を測定する請求項13又は14記載の用途。
【請求項16】
車両の走行パラメータを測定するために車両地面連結手段の要素に組み込まれた微小電気マイクロシステム(40)に設けられた遠隔から問い合わせ可能な歪ゲージとしてバルク波共振子(10)及び圧電膜(18)を有するハイブリッド共振構造体の用途。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−506919(P2009−506919A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523371(P2008−523371)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064784
【国際公開番号】WO2007/012668
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(599105403)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (228)
【Fターム(参考)】