説明

ダイヤモンドを低圧でアニールする方法

本発明は、低圧においてダイヤモンドの光学的性質を改善する方法に関し、特に、CVDダイヤモンドを成長させるステップと、ダイヤモンド安定領域外の約1〜約760torrの圧力において還元雰囲気中、約5秒〜約3時間の時間の間、CVDダイヤモンドの温度を約1400℃〜約2200℃に上昇させるステップとを含む所望の光学的品質のCVDダイヤモンドの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府関与の言及
本発明は、国立科学財団(National Science Foundation)による認可番号NSF EAR−0550040のもとで米国政府の支援により行われた。米国政府は本発明における一部の権利を有する。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、一般にダイヤモンドのアニールに関し、特に単結晶CVDダイヤモンドの低圧、すなわち、単結晶CVDダイヤモンドのアニールに従来使用されていたよりもはるかに低い圧力、例えば、約1気圧以下の圧力でのアニールに関する。本発明は、ダイヤモンドの光学的性質の改善に有用であり、速い成長速度で高い光学的品質の単結晶CVDダイヤモンドの製造に特に有用である。
【0003】
関連技術の説明
ダイヤモンドの化学蒸着成長は、エネルギーを気相の炭素含有前駆体分子に与えることで実現される。例えば、マイクロ波エネルギーを使用してプラズマを発生させ、それによって種ダイヤモンド上に炭素を堆積してダイヤモンドを形成することができる。最近まで、ダイヤモンドを成長させるためのすべてのCVD技術では、多結晶ダイヤモンド又は複数の非常に薄い層の単結晶ダイヤモンドが得られていた。本出願の3名の本発明者ら(すなわち、Hemley博士、Mao博士、及びYan博士)は、大型の単結晶CVDを成長させるマイクロ波プラズマCVD技術を開発しており、これらの技術は、2002年11月6日に出願された米国特許出願第10/288,499号である現在の米国特許第6,858,078号、2006年5月23日に出願された米国特許出願第11/438,260号、2006年11月15日に出願された米国特許出願第11/599,361号に開示されており、これらすべてが参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
本発明者らのマイクロ波プラズマCVD技術では、単結晶ダイヤモンドを、種ダイヤモンド上、例えば黄色タイプIbのHPHT合成ダイヤモンド上に、1時間に150μm以上の速度で成長させることができる。本発明者らのマイクロ波プラズマCVD技術によって製造されるダイヤモンドの色は、ダイヤモンドが成長する温度に依存する。特に、ダイヤモンドが特定の温度範囲内で成長する場合、これはプラズマ中の気体混合物に依存するが、無色ダイヤモンドを製造することができる。しかし、この特定の範囲外の温度で製造されたダイヤモンドは、黄色又は褐色となり得る。
【0005】
高温高圧アニールによる褐色の天然ダイヤモンドの褐色の淡色化、及び不純物の減少が、I. M. Reinitzら, Gems & Gemology 36, 128-137(2000)に報告されている。
【0006】
大部分の天然ダイヤモンドは褐色であり、それによって宝石としての魅力が損なわれている(例えば、Fritsch E.による,G. E. Harlow(編著)(1998), 「The Nature of Diamonds」, Cambridge University Press, UK, 23-47を参照。HPHTアニールは、1999年からの天然褐色ダイヤモンドの色を向上させる現行の商業的方法であり、この方法は、ダイヤモンドの黒鉛化を防止するために1800〜2500℃の範囲内の温度及び5GPAの範囲内の高圧を必要とする。例えば、A. T. Collins、H. Kanda、及びH. Kitawaki,「Color change produced in natural brown diamonds by high-pressure, high-temperature treatment」, Diamond Relat. Mater. 9, 113-122 (2000);Alan T. Collins、Alex Connor、Cheng-Han Ly、Abdulla Shareef、Paul M. Spear, 「High-temperature annealing of optical centers in type-1 diamond」, J. Appl. Phys. 97, 083517 (2005); D. Fisher及びR. A. Spits,Gems. Gemol. 36, 42 (2000)を参照されたい)。低窒素濃度の天然ダイヤモンドにおいて見られる褐色の減少は、塑性変形のアニールに起因する(例えば、L. S. Hounsomeら,「Origin of brown coloration in diamond」, Physical Review B 73, 125203 (2006)を参照されたい)。窒素含有ダイヤモンド中で、このアニール中の転位によって生じる空孔が捕捉されてN−V−Nセンターを形成し、中性荷電状態のH3バンドによってダイヤモンドが黄−緑の色になる。
【0007】
わずかな天然褐色ダイヤモンドが、高温処理(>700℃)によって無色又はほぼ無色に変えられている(例えば、Ming-sheng Pengら「Studies on color enhancement of diamond」, Hunan Geology Supp, 17-21 (1992)を参照されたい)。
【0008】
窒素ドープしたSC−CVDダイヤモンド中には以下の欠陥が観察される。置換窒素(Ns及びNs)、窒素−空孔複合体(NV及びNV)、窒素−空孔−水素(NVH)、空孔−水素複合体、ケイ素−空孔複合体、及び非ダイヤモンド炭素。
【0009】
米国特許第7,172,655号は、所望の色、例えばピンク〜緑の範囲の色の単結晶CVDダイヤモンドの製造方法に関するものである。
【0010】
本発明者ら3名は、ある単結晶褐色CVDダイヤモンドを無色透明単結晶ダイヤモンドに変換するための、従来の高温高圧装置中の反応容器を使用した、1800〜2900℃の温度及び5〜7GPaの圧力において約1〜60分間の、単結晶黄色又は褐色CVDダイヤモンドのHPHTアニールを開示している(2004年7月13日に出願された米国特許出願第10/889,171号を参照されたい)。より詳細には、Hemley博士、Mao博士、及びYan博士は、約1400〜1460℃の温度において、N/CH比4〜5%を有する雰囲気中、ダイヤモンド安定領域外の少なくとも4.0GPaの圧力において、高成長速度で成長した単結晶黄色又は淡褐色CVDダイヤモンドをアニールして、無色単結晶ダイヤモンドにすることができることを発見した。このようにアニールしたCVDダイヤモンドのラマンスペクトル及びPLスペクトルによって、このような無色単結晶ダイヤモンド中の水素化非晶質炭素の消失、及びこのような無色単結晶ダイヤモンド中のN−V不純物の顕著な減少が示された。これらの変化は、I. M. Reinitzらの報告の褐色天然ダイヤモンドのHPHTアニールによって得られる透明性の向上と類似していると思われる。
【0011】
上記方法の結果に伴う高圧によって、高コストとなり得る。従って、ダイヤモンドのある種の特徴、例えば光学的性質を改善するために、ダイヤモンドの低圧アニール方法が開発されることが望ましい。さまざま種類のダイヤモンド、例えば、限定するものではないが、CVDダイヤモンド(単結晶及び多結晶のダイヤモンド)、HPHTダイヤモンド、及び天然ダイヤモンドに使用可能な低温アニール方法が開発されることも望ましい。
【0012】
本発明の目的は、ダイヤモンドの光学的性質を向上させることである。本発明の別の目的は、ダイヤモンドの色を淡くしたり、なくしたりすることである。本発明のさらに別の目的は、あらゆる種類のダイヤモンド、例えば、限定するものではないが単結晶及び多結晶のCVDダイヤモンド、HPHTダイヤモンド、並びに天然ダイヤモンドの品質を改善することである。本発明のさらなる目的は、低圧において操作される方法によって以上の目的を達成することである。他の目的は、本発明の以下の説明からも明らかとなるであろう。
【0013】
発明の概要
大まかに言えば、本発明は、ダイヤモンドのアニール方法、又はダイヤモンドの光学的性質を改善して、関連分野の制限及び欠点による1つ又はそれ以上の問題を実質的に解消する方法に関する。
【0014】
本発明のさらなる特徴及び利点は、以下の説明に記載されていたり、説明から明らかとなったり、又は本発明の実施から学ぶことができる。本発明の目的及び他の利点は、記載の説明及び特許請求の範囲に特に示される構造によって実現され達成される。
【0015】
これらの目的及びその他の利点を実現するために、具体化され概説される本発明の目的によると、ダイヤモンドの光学的品質を改善する方法は、ダイヤモンドの温度を約1000℃〜約2200℃に上昇させるステップと、ダイヤモンドの圧力をダイヤモンド安定領域外の約5気圧以下に制御するステップとを含む。上記条件は、還元雰囲気下で制御され、ダイヤモンドは、ダイヤモンドの端部に隣接するダイヤモンドの側面に熱的接触を形成するヒートシンキングホルダー内に保持される。
【0016】
CVDダイヤモンドの製造方法であって、成長するダイヤモンド結晶の温度が900〜1400℃の範囲内となり、ダイヤモンドの成長表面全体での温度勾配を最小限にするために、高融点及び高熱伝導率を有する材料でできたヒートシンクホルダー中にダイヤモンドを搭載することで、ダイヤモンドの成長表面の温度を制御するステップと、150torrを超える雰囲気を有する堆積チャンバ内で、マイクロ波プラズマ化学蒸着によって、ダイヤモンドの成長表面上にダイヤモンドを成長させるステップであって、上記雰囲気が、1単位のH当たり約8%から約30%を超えるまでのCHを含むステップと、成長した単結晶ダイヤモンドを、ヒートシンクホルダー内に維持したままチャンバから取り出すステップと、ダイヤモンド安定領域外の約1〜約760torrの圧力において、還元雰囲気中で、CVDダイヤモンドの温度を約1400℃から約2200℃に約5秒〜3時間の時間の間上昇させるステップとを含む、方法も開示する。上記方法で製造されたCVDダイヤモンドは単結晶CVDダイヤモンドである場合もある。
【0017】
本発明の以上の概要と以下の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的であり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図するものと理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】成長速度対単結晶CVDダイヤモンドの色のグラフであり、一部のダイヤモンドは光学的品質を改善するために本開示の低圧高温方法によりアニールした。
【図2】低圧アニール処理の前後におけるCVDダイヤモンドの写真である。
【図3】アニール前後のダイヤモンドのUV−VIS吸収スペクトルを示している。
【図4】アニール前後の褐色ダイヤモンドのフォトルミネッセンススペクトルを示している。
【図5】図5a及び図5bは、アニール前後のダイヤモンドの赤外吸収スペクトルを示している。
【0019】
発明の詳細な説明
これより本発明の好ましい実施形態について詳細に言及する。
本発明の方法は、実質的に2つの部分を有する。その第1は、ダイヤモンドをアニールする、又はその光学的性質を改善する低圧方法であり、第2は、a)単結晶ダイヤモンド、好ましくは単結晶ダイヤモンドを、好ましくはマイクロ波プラズマ化学蒸着によって成長させるステップと、次に、b)成長したダイヤモンドをアニールする、又は化学的性質を改善するための低圧方法を行うステップとによる、高い光学的品質のダイヤモンドを迅速に製造する2段階方法である。色の悪いダイヤモンド(例えば、褐色ダイヤモンド)が製造されるのが一般的な速度で急速に成長させたCVDダイヤモンドの品質を改善する手段となる限りにおいて、後者の方法は特に有用である。
【0020】
本出願の方法に言及する場合に使用される用語「アニール」は、ダイヤモンドの特定の性質の改善、例えば、限定するものではないが、残留応力の減少、欠陥の除去、並びに色の淡色か又は除去を行うことと理解されたい。例えば、アニールは、ダイヤモンドの光学的品質を改善することと理解されたい。
【0021】
ダイヤモンド高温低圧アニール方法(以下、「HT」アニール又は「HT」方法とも呼ばれる)は、あらゆる種類のダイヤモンド、例えば、限定するものではないが、単結晶CVDダイヤモンド、多結晶CVDダイヤモンド、HPHTダイヤモンド、及び天然ダイヤモンドに対して行うことができる。好ましい一実施形態では、ダイヤモンドをアニールする方法、又はダイヤモンドの光学的性質を改善する方法は、CVDダイヤモンドを使用して行われる。より好ましい一実施形態では、この方法は単結晶CVDダイヤモンドを使用して行われる。
【0022】
低圧高温アニール方法においてダイヤモンドの温度を上昇させるために使用される加熱源としては、マイクロ波、熱フィラメント、加熱炉、又はオーブンの加熱源が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
低圧高温アニール処理は、ダイヤモンドの色を少なくとも3グレード向上させることができる。例えば、褐色Kグレードの色をアニール処理すると、Gグレードまで向上させることができる。褐色Gグレードの色は、前記アニール処理によって、約550nmの透過率でピンク色を有するE〜Fグレードに向上させることができる。このような色の向上は、本発明の高温低圧方法が、例えば、米国特許出願第10/889,171号に開示される高温高圧アニール方法を使用して達成される結果と同等の結果が得られることを示している。
【0024】
色は、800nmにおける100%の規格化透過率によって評価され、400nmにおいてそれぞれ80、70、60、50、40、30、20、10、0%の透過率に従って、E、F、G、H、I、J、K、L、及びMの値が割り当てられる。前述したように、低圧高温アニール処理によって色が3グレード向上する。
【0025】
より具体的に図面を参照すると、図1は、単結晶CVDダイヤモンドの成長速度対色のグラフを示しており、一部のダイヤモンドは、本開示の低圧高温方法によってアニールして光学的品質を改善させた。グラフ中に示したダイヤモンドは、10ppb未満から400ppmを超えるまでの窒素不純物を有するタイプI又はタイプIIダイヤモンドとしての高品質の単結晶CVDダイヤモンドである。これらのダイヤモンドは厚さが18mm(15カラット)を超え、例えば米国特許出願第11/438,260号及び第11/599,361号に開示される非常に速い成長速度の方法を使用して本発明者らが製造した。これらのダイヤモンドは、約1400℃〜約2200℃の温度で約5秒〜約3時間アニールした。ダイヤモンドは、約1torr〜約5気圧の還元雰囲気中に維持し、これによってダイヤモンドの顕著な黒鉛化が防止されると理解されている。ほとんどの試験で還元雰囲気を維持するために水素を使用した。マイクロ波プラズマCVDによって加熱されたダイヤモンドは、モリブデン製ホルダーの内側に取り付けられ、このホルダーの一例は、例えば米国特許第6,858,078号に開示されている。次に、温度分布を均一にするためと、マイクロ波プラズマによるエッチングや、クラックが生じる程度までのダイヤモンド加熱を防止するために、ホルダー中のダイヤモンドをグラファイト粉末で取り囲む。
【0026】
前述の低圧高温アニール方法で処理した単結晶CVDダイヤモンドは、以下の特徴の少なくとも1つを有する。
1.暗色のダイヤモンドが、無色、又はファンシーカラー、例えば薄いピンク、赤、又は紫を有するほぼ無色に変化する。
2.レーザーによって励起される575nm及び637nmにおける元の窒素−空孔不純物のN−VセンターのPL強度が増加又は減少し、アニールステップまでは存在しなかった503nmにおけるH3センター(窒素−空孔複合体)が生じる。
3.2930cm−1におけるa−C:H赤外吸収広域帯がアニールされると、よく分離された、主として2810cm−1、2870cm−1、及び2900cm−1における{111}及び{100}C−H伸縮振動ピークとなる。約7357cm−1、6856cm−1、及び6429cm−1における水素によって誘導される電子遷移吸収が大きく減少する。
4.偏光顕微鏡下で、より少ない光複屈折は、元のダイヤモンドよりもひずみが少ないことを示す。
5.ビッカーズ硬度試験によって破壊線の減少が示され、これは靱性がより高いことを示している。
【0027】
前述の高温低圧アニール方法によりアニールした低及び高窒素不純物を有するダイヤモンドは、例えば、限定するものではないが光学、機械的及び電子的用途、宝石、レーザーの窓及び利得媒質、ヒートシンク、量子計算、半導体、及び耐摩耗性用途などの使用に適している。
【0028】
図1に見られるように、50sccm CH中0.2sccm Nを使用してマイクロ波プラズマCVDによって成長させた褐色ダイヤモンド、及び50sccm CH中の0.1sccm Nを使用してマイクロ波プラズマCVD(MPCVD)によって成長させた淡褐色ダイヤモンドは、それぞれK〜M及びH〜Kの範囲の色を有した。低圧高温処理後、ダイヤモンドの色は以下の範囲となった。褐色ダイヤモンド(G〜J)及び淡褐色ダイヤモンド(E〜G)。これは、約3つの色グレードの色の向上が、本発明の低圧高温アニール方法を行うこことによって実現されることを示している。
【0029】
図2は、低圧高温アニール処理の前後のMPCVDダイヤモンドの写真を示している。3つの別々の写真において、左側のダイヤモンドは、低圧高温アニール方法で処理していない。右側のダイヤモンドは、低圧高温アニール方法で処理している。処理前と処理後のダイヤモンドの透明性の差は、写真から容易に明らかとなる。
【0030】
実施例
非常に速い成長速度方法でCarnegie Institutionが製造した種々のSC−CVDダイヤモンドは以下の性質を有する。(1)二次イオン質量分析計(SIMS)測定で測定した場合に10ppb未満から400ppmを超えるまでの窒素不純物、(2)タイプI及びタイプIIダイヤモンドとして無色〜ほぼ無色〜褐色の色、(3)厚さ18mm(又は15カラット)を超えるまでのサイズ。600〜1400℃の温度で意図的に窒素を加えて製造したこれらのダイヤモンドは、成長速度が向上し、{100}ファセット成長が促進され、双晶及び多結晶のダイヤモンドの形成が防止されることが示された。褐色の強さは、大部分は温度及びガス中の窒素濃度に依存する。ほぼ無色から褐色のSC−CVDダイヤモンドは、2%N/CH未満の窒素濃度で製造することができ、514nmレーザースペクトルによって励起されるラマンにおいて1500cm−1付近に明らかな非ダイヤモンド炭素帯を有する褐色から暗褐色のダイヤモンドは、20%〜1000%N/CHにおいて製造することができる。
【0031】
褐色ダイヤモンドを、1400から2200℃を超えるまでの高温で、2時間から1分未満までの時間、200torrの水素ガス圧力で、マイクロ波プラズマCVDチャンバ内でアニールした。これらのダイヤモンドは、マイクロ波プラズマCVD方法で加熱し、温度分布を均一にするためと、マイクロ波及びプラズマによる局所的なエッチング、並びに熱によるクラック(thermal cracking)が生じ得るダイヤモンドの加熱を防止するためのグラファイト粉末で囲まれたモリブデン製ホルダーの内側に入れた。
【0032】
褐色で靱性のSC−CVDダイヤモンドは、高温(例えば1600℃を超える)、ダイヤモンド安定性圧力外の低圧、及び高エネルギー水素プラズマエッチング下の条件で生じる顕著な黒鉛化及びクラックを防止するために、高品質単結晶ダイヤモンドであるべきことに留意する必要がある。1400〜2200℃における高温処理後の単結晶CVDダイヤモンドは、光学的、電子的、及び機械的特性の顕著な向上を示す。
【0033】
10ppm未満の窒素不純物量、0.2〜3mmの厚さでHTアニールすることによって作製した40枚以上のタイプIIのSC−CVDダイヤモンド板について以下のような特性決定を行った。
【0034】
I.UV−VIS吸収:HT処理後、褐色ダイヤモンドは、無色又は、ファンシーカラー、例えば薄いピンク、赤、紫、又はオレンジ−ピンクを有するほぼ無色に変化した。図3中のUV−VIS吸収スペクトルに見られるように、暗色のダイヤモンドは、通常、可視領域内に3つの広い吸収バンド:270nm置換窒素吸収、370及び550nmを有するが、HTアニール後には広いバンドが減少する。類似の色の向上が、HPHTアニールにおいて報告されている。色グレードは平均で3グレード、例えばJカラーからGカラーまで向上し、これらのグレードは吸収スペクトルから評価される。CVDダイヤモンドの顕著な色の向上は、1500℃未満の場合に大気圧下でアニールしたダイヤモンドには観察されなかった。
【0035】
II.フォトルミネッセンス:図4中に見られる褐色CVDダイヤモンドフォトルミネッセンス(PL)スペクトルは、レーザーによって励起された575nm及び637nmにおける元の窒素−空孔不純物[N−V]及び[N−V]センターの強度が依然として存在し、HTアニール前には存在しなかった503nmにおけるH3センター(窒素−空孔複合体)が現れ始めているのが示されている。HTアニールを行うときに、N−Vセンターには2つの段階が存在する。アニールをより低い温度又は短い時間で行った後では、[N−V](575nm)及び[N−V](637nm)センターのPL強度は1〜5倍に増加し、488nmの励起によって強いオレンジの蛍光が得られる。アニール前、アズグローン(as-grown)の褐色ダイヤモンドでは暗赤色の蛍光が見られる。HTアニールCVDダイヤモンドのオレンの色相は、このオレンジの蛍光に由来すると考えられる。より高い温度又は長いアニール時間では、[N−V]及び[N−V]センターのPL強度が低下する。HPHT処理とは異なり、量子コンピュータ用途に関連するN−Vセンターは明らかに減少又は消失し、PLスペクトルの強いH3センターによって支配される。[N−V]センター(637nm)の部分が低下する傾向となる。このことは、主として[N−V]センターに由来する非結合電子が結合し始めて575及びH3センターを形成することで、電子中心の含有率が減少し、そのため色の向上と関連することを意味する場合がある。
【0036】
III.赤外吸収:赤外吸収スペクトルによって、水素に関連する振動、及びHTアニール後の電子構造の変化が分かる。図5は、2800〜3200cm−1の範囲内のC−H伸縮振動バンドを示している。水素化非晶質炭素(a−C:H)に帰属する2930cm−1における広いバンドが、褐色CVDダイヤモンドにおいて観察される。この強度は、ダイヤモンドの褐色及びその高い靱性と相関している。a−C:Hピークは、HTアニールによって、2810cm−1({111}上のsp混成結合)、2870(sp−CH)、及び2900cm−1({100}上のsp混成結合)、2925(sp−CH−)、2937及び2948cm−1、3032及び3053cm−1(sp混成結合)において十分に分離されたC−H伸縮バンドとなった。CVD中の{111}面は、アズグローンの褐色{100}CVDダイヤモンド中のダングリングボンドを有する比較的開いたa−C:H構造が、アニールによって、向上した色を有する局所的により緻密な構造(2)に変化したことを示している。色の向上に関して可能性のある機構は、HPHTアニールされるCVDダイヤモンドのC−H伸縮の観察に基づいて説明されてきている。電子遷移領域内では(図5b)、7357cm−1(0.913eV、水素誘導電子遷移)、7220cm−1、6856及び6429cm−1における大きな吸収、並びに8761及び5567cm−1における小さな吸収が大きく減少したり消失したりしている。さらに、近赤外領域の5000〜10000cm−1の連続的に増加する吸収が減少する。以上のHTアニールの効果は、HPHTアニールの効果と類似している。例外の1つは、HTダイヤモンド及び原材料のCVDダイヤモンドが、3124cm−1ピーク(1つのCを含むH)、並びに7357cm−1、7220cm−1、6856及び6429cm−1を有するが、HPHTダイヤモンドはこれらを有さないことである。さらにHTダイヤモンドは、灰色と関連する3107cm−1(sp −CH=CH−)を有さず、HPHTアニールサンプル中には存在し、2972(sp −CH−(28))及び2991cm−1でも同様である。発生し得る別の差は、高圧によって誘導されるsp C−H結合シフトが3〜15cm−1だけ波数が大きいことであり、HPHTアニールサンプルでは2820cm−1、2873cm−1、及び2905cm−1となる。
【0037】
IV.複屈折:直交偏光子を使用した顕微鏡下、HTアニールしたダイヤモンドでは低い光複屈折が観察され、このことは、アニールしていない元のダイヤモンドよりも歪みが少ないことを示しており、それによって色票が黄色から灰色に変わり、2つの交差方向の歪みが1つの方向になることも、応力の減少をさらに示している。
【0038】
HTアニール前後のCVDダイヤモンドの特性決定を、HPHTアニールと比較することによって、アニール機構、並びに褐色及びピンク色の原因が分かる。UV−VIS、PL、及びSR−FTIRのスペクトルに基づくと、CVD褐色ダイヤモンドの高温アニールの根底にある機構を推定することができる。アニール温度が上昇すると、PL及びSR−FTIRのスペクトルによって、色の変化に3つの重要な段階があることが分かる。第1の段階では、温度が700℃に到達すると、空孔が移動できるようになり、空孔がNsセンターで捕捉されるために、より多くのNVセンターが形成される。推測であるが、このことが、より低温又は短時間のアニールの後で、NV及びNVセンターのPL強度が増加する理由であると考えられる。1400まででは褐色は依然として減少しない。第2に、1400℃まで加熱すると、色の変化が始まる。推測であるが、これは、この温度で水素が移動可能になるためだと思われる。多結晶CVDダイヤモンドを1700K(1400℃)でアニールすると、内部粒界上又は粒間物質中の一部の水素が移動可能になることが分かった。D. F. Talbot-Ponsonby, M. E. Newton, J. M. Baker, G. A. Scarsbrook, R. S. Sussmann,及びA. J. Whitehead. Phys. Rev. B 57, 2302-2309 (1998)を参照されたい。従って、FTIRスペクトルで、a−C:Hが減少し、水素は{100}及び{111}上でC−H結合を形成する。第一原理モデリングの研究では、水素が{111}空孔ディスクの光学活性を不活性化できることを示している。L. S. Hounsomeら,「Origin of brown coloration in diamond」, Physical Review B 73, 125203 (2006)を参照されたい。270及び370nmの吸収が減少しながら、550nmの吸収は増加するか、又は変化しないままとなると、その結果ピンクがかった褐色、橙褐色、又は紫色が生じる。550nmの吸収バンドと575及び637nmのNVセンター発光バンドとの間には、鏡面対称の関係をみることができる。これによって、550nmの吸収がNVセンターによって起こることが示されたと思われる。従って、CVDダイヤモンドのピンクの色相は、安定なNVセンターによって生じる。
【0039】
最良の色の向上は1700℃を超える温度で観察され、これによって褐色は、ピンク、無色、又はほぼ無色、或いは薄いピンク/緑になる。可能性のある理由の1つは、より多くの水素原子が運動する温度で窒素よりも水素によって空孔がより容易に捕捉され、同時に、この温度でNsも運動して凝集したH3を形成するため安定なNVセンターがアニールするためである。可能性のあるもう1つの変化は水素の減少である。より高温のアニール(1800〜2200℃)の後でさえも、C−H伸縮振動吸収のより低い強度を観察することができる。これは恐らくCH結合の破壊を示している。
【0040】
CVDダイヤモンドの褐色と関連がある要因には、窒素、空孔、及び水素の3つがある。アズグローンのCVDダイヤモンドの褐色の強さは、ガス中の窒素濃度に依存する。[N−V](575nm)及び[N−V](637nm)センターの元のPL強度がアズグローンのCVDダイヤモンドで増加する場合にも、褐色は濃くなる。ダイヤモンドがアニールによってほぼ無色又は無色になると、NVセンターは減少又は消失する。褐色CVDダイヤモンド中のa−C:Hピークが高温低圧でアニールされると、種々の十分に分離されたC−H伸縮バンド及び水素によって誘導される電子遷移の吸収が減少される。a−C:Hピーク及び水素によって誘導される電子遷移吸収は、無色のアズグローンCVDダイヤモンドでは非常に少ないか又は存在しない。
【0041】
CVDダイヤモンドのHPHTアニールと比較すると、高温低圧方法ははるかに安価である。サンプルの大きさに関しても自由度が高いが、その理由は、HPHT処理中、薄い板は亀裂が生じ、10cm立方を超える大きなサンプルはHPHTプレス中に取り付けることができないためである。色の向上以外に、高温低圧アニール方法は、少ない及び多い窒素不純物を有するダイヤモンドを製造することができる。このようなダイヤモンドの可能性のある用途の1つは、量子コンピュータにおける用途である。ピンクダイヤモンドは、量子コンピュータのホストとして有望であると考えられる。NVスピンは、実用的なキュービットに要求されるものの大部分が得られ、量子計算と関連して広く研究されている。吸収及び発光に基づくと、CVDダイヤモンドのピンク色はN−Vセンターに由来すると結論づけられる。高温低圧アニールによって製造されたピンクCVDダイヤモンドは、アズグローンのCVDダイヤモンドよりもNVセンターの強度が増加しており、一方、HPHT法ではアニールによってこのようなセンターが消失する。従って、高温低圧アニール法によってNVセンターの強度を制御することができる。従って、高温低圧アニールされたピンクCVDダイヤモンドは、将来、量子コンピュータの有望な材料となるべきである。
【0042】
本発明の精神及び実質的な特徴から逸脱することなく、いくつかの形態で本発明を具体化することができるが、特に明記しない限り、上述の実施形態は以上の説明の詳細のいずれかに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲において定義される本発明の精神及び範囲内で広く解釈されるべきであり、従って特許請求の範囲の境界及び制限、或いはそのような境界及び制限の同等物の範囲内にあるあらゆる変更及び修正は、従って、添付の特許請求の範囲によって包含されることを意図していることも理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンドの光学的性質を改善する方法であって、
(i)前記ダイヤモンドの温度を約1000℃〜約2200℃に上昇させるステップと、
(ii)前記ダイヤモンドの圧力をダイヤモンド安定領域外の約5気圧以下に制御するステップとを含み、
前記圧力が還元雰囲気中で制御され、
前記ダイヤモンドが、前記ダイヤモンドの端部に隣接する前記ダイヤモンドの側面に熱的接触を形成するヒートシンキングホルダー内に保持される、方法。
【請求項2】
前記ヒートシンキングホルダー中の前記ダイヤモンドを、2500℃を超える融点を有する粉末で取り囲むステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粉末がグラファイトを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ダイヤモンドがCVDダイヤモンドである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記CVDダイヤモンドが単結晶CVDダイヤモンドである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ダイヤモンドの温度が約1400℃〜約2200℃まで上昇される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記圧力が約1torr〜約760torrの間に維持される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ダイヤモンドの温度を、マイクロ波、熱フィラメント、加熱炉、トーチ、及びオーブンの熱源からなる群の熱源を使用して上昇させる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ダイヤモンドの温度を、マイクロ波源を使用して上昇させる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記CVDダイヤモンドが、別の材料上の単結晶コーティングである、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
前記単結晶CVDダイヤモンドが最初は褐色であり、無色になる、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒートシンキングホルダーがモリブデンで構成される、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
所望の光学的品質のCVDダイヤモンドの製造方法であって、
i)成長するダイヤモンド結晶の温度が900〜1400℃の範囲内となり、ダイヤモンドの成長表面全体での温度勾配を最小限にするために、高融点及び高熱伝導率を有する材料でできたヒートシンクホルダー中にダイヤモンドを搭載することで、ダイヤモンドの前記成長表面の温度を制御するステップと、
ii)150torrを超える雰囲気を有する堆積チャンバ内で、マイクロ波プラズマ化学蒸着によって、ダイヤモンドの前記成長表面上にダイヤモンドを成長させるステップであって、前記雰囲気が、1単位のH当たり約8%から約30%を超えるまでのCHを含み、1単位のCH当たり約2%未満から約1000%を超えるまでのNを含むステップと、
iii)成長したCVDダイヤモンドを、前記ヒートシンクホルダー内に維持したまま前記チャンバから取り出すステップと、
iv)ダイヤモンド安定領域外の約1〜約760torrの圧力において、還元雰囲気中で、前記CVDダイヤモンドの温度を約1400℃から約2200℃に約5秒〜3時間の時間の間上昇させるステップとを含む、方法。
【請求項14】
ステップiv)において、前記CVDダイヤモンドの温度を約1400℃から約2200℃に上昇させる前に、前記ヒートシンキングホルダー中の前記ダイヤモンドを、2500℃を超える融点を有する粉末で取り囲むことをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
所望の光学的品質の単結晶CVDダイヤモンドの製造方法であって、
i)成長するダイヤモンド結晶の温度が900〜1400℃の範囲内となり、ダイヤモンドの成長表面全体での温度勾配を最小限にするために、高融点及び高熱伝導率を有する材料でできたヒートシンクホルダー中にダイヤモンドを搭載することで、ダイヤモンドの前記成長表面の温度を制御するステップと、
ii)150torrを超える雰囲気を有する堆積チャンバ内で、マイクロ波プラズマ化学蒸着によって、ダイヤモンドの前記成長表面上に単結晶ダイヤモンドを成長させるステップであって、前記雰囲気が、1単位のH当たり約8%から約30%を超えるまでのCHを含み、1単位のCH当たり約2%未満から約1000%を超えるまでのNを含むステップと、
iii)成長した単結晶ダイヤモンドを前記チャンバから取り出すステップと、
iv)請求項6に記載の方法によって、前記ダイヤモンドの光学的品質を改善するステップとを含む、方法。
【請求項16】
CVDダイヤモンドの製造方法であって、
i)CVDダイヤモンドを成長させるステップと、
ii)ダイヤモンド安定領域外の約1〜約760torrの圧力において、還元雰囲気、約5秒〜約3時間の間の時間、前記CVDダイヤモンドの温度を約1400℃〜約2200℃に上昇させるステップとを含む、方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法によって製造された単結晶CVDダイヤモンド。
【請求項18】
請求項16に記載の方法によって製造されたCVDダイヤモンド。
【請求項19】
F以下の色を有する、請求項15に記載の方法によって製造された単結晶CVDダイヤモンド。
【請求項20】
ステップiv)の結果として、N−Vセンターが増加又は減少又は消失するか、或いはフォトルミネッセンススペクトルが強いH3センターが優位となるかである、請求項15に記載の方法によって製造された単結晶ダイヤモンド。
【請求項21】
ステップii)の結果として、N−Vセンターが増加又は減少又は消失するか、或いはフォトルミネッセンススペクトル中、強いH3センターが優位となるかである、請求項16に記載の方法によって製造された単結晶ダイヤモンド。
【請求項22】
約3124、7357、7220、6856、及び6429cm−1において赤外吸収ピークを有する、請求項15に記載の方法によって製造された単結晶ダイヤモンド。
【請求項23】
約3124、7357、7220、6856、及び6429cm−1において赤外吸収ピークを有する、請求項16に記載の方法によって製造された単結晶ダイヤモンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−540399(P2010−540399A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527978(P2010−527978)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/011377
【国際公開番号】WO2009/045445
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(500026234)カーネギー インスチチューション オブ ワシントン (25)
【Fターム(参考)】