説明

トルク異常検知装置および輸送機器

【課題】動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知可能なトルク異常検知装置および輸送機器を提供することである。
【解決手段】トルク異常検知装置10は、動力源に掛かる負荷トルクを推定する負荷トルク推定手段12と、動力伝達手段30,30a,50,55によってシステム外部60との動力の伝達を切断する状態で、負荷トルク推定手段12によって推定される負荷トルクに基づいて動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知する負荷トルク異常検知手段13とを有する。システム外部60との間で動力の伝達が切断されるので、システム外部60の変動や変化等による影響を受けない。よって、負荷トルクを精度良く推定でき、負荷トルク異常検知手段13は何らかの故障等が起きたことを的確に検知できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知することができるトルク異常検知装置および輸送機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、エンジンと二のモータジェネレータを動力源とし、変速比制御ループに外乱オブザーバを追加し、変速比制御操作量にフィードフォワード補償を加え、エンジン始動する場合の負荷トルクを推定し、制御量を補正して変速比・駆動力の変動を小さく抑える技術の一例が開示されている(例えば特許文献1の請求項1と段落0054を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−172145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術では推定した負荷トルクによって制御量を補正することで制御の応答性を高められるものの、推定した負荷トルクが適正値か異常値かの判断は行われていない。例えば外来ノイズによるデータの異常や、装置・部品の故障等のような原因に応じて、負荷トルクが異常値になる場合がある。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなしたものであり、動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知することができるトルク異常検知装置および輸送機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、回転電機のみを動力源とするか、回転電機およびトルク発生源の双方を動力源とし、システム外部との動力の伝達を遮断可能な動力伝達手段を用い、前記動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知するトルク異常検知装置において、前記動力源に掛かる負荷トルクを推定する負荷トルク推定手段と、前記動力伝達手段によって前記システム外部との動力の伝達を切断する状態で、前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクに基づいて前記動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知する負荷トルク異常検知手段と有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、動力源とシステム外部との間で動力の伝達が切断され、システム外部の変動や変化等による影響を受けないので、負荷トルク推定手段は負荷トルクを精度良く推定することができる。負荷トルク異常検知手段は、推定される負荷トルクに基づいて異常を検知するので、何らかの故障等が起きたことを的確に検知することができる。
【0008】
なお「動力源」は、回転電機のみでもよく、回転電機およびトルク発生源の双方を有してもよく、いずれも台数を問わない。「回転電機」は、例えば電動機,電動発電機,発電機等が該当する。「トルク発生源」はトルクを発生可能な任意の装置を適用でき、例えば熱機関や回転電機等である。「熱機関」は、主に内燃機関を適用するが、外燃機関を含む。「負荷」は、動力源自体や、オイルポンプ等のように動力源に付随する部品や部材等が該当する。「システム外部」は、移動(例えば走行,飛行,航行など)に伴って負荷量が変動する部品や部材等が該当する。例えば、車輪、主翼のエルロンやフラップ、尾翼の垂直尾翼や水平尾翼、プロペラ(スクリュー)等が該当する。「動力伝達手段」は、動力の伝達と切断とが切り換え可能な任意の機構や部材等が該当する。例えば、クラッチ機構,ギア機構,ニュートラル位置(レンジ)を有する変速装置(トルクコンバータやリターダを含む)などが該当する。「検知」には、センサ等を用いて行う計測と、数式モデル等を用いて数値演算する推定とを含む。「負荷トルク推定手段」は、動力源に掛かる負荷トルクを推定可能な任意の手段(装置や方法等)を適用してよい。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記負荷トルク推定手段は、第1数式モデルを演算して負荷トルクを推定することを特徴とする。この構成によれば、センサ等の新たな装置を追加する必要がないので、コストを低減できる。なお「第1数式モデル」は、負荷トルクを推定可能な任意の数式を適用してよい。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記第1数式モデルは、前記動力源についての軸の慣性モーメント、減衰係数、角加速度、動力源出力トルクを用いて定義する数式であることを特徴とする。例えば、負荷トルクを「Td」、軸の慣性モーメントを「Im」、減衰係数(0を含む)を「D」、角加速度を「α」、動力源出力トルクを「To」とするとき、次の数式(1)を定義することができる。この構成によれば、簡単な演算を行うだけで負荷トルクを推定できる。なお「動力源出力トルク」は、動力源の出力トルクを意味する。
【0011】
【数1】

【0012】
請求項4に記載の発明は、前記動力源出力トルクは、トルク検知装置を含むことを特徴とする。この構成によれば、動力源出力トルク(例えば回転軸や出力軸等の出力トルク)を高精度に検知することができるので、何らかの故障等が起きたことをより的確に検知することができる。なお「トルク検知装置」は、動力源の出力トルクを検知可能な装置(センサを含む)であれば任意である。例えば、動力源(回転電機)を流れる電流の電流値に基づいてトルクを検知するトルクセンサや、励磁コイルと検出コイルとを有する変位センサなどが該当する。
【0013】
請求項5に記載の発明は、前記動力源出力トルクは、第2数式モデルを演算して推定することを特徴とする。この構成によれば、センサ等の新たな装置を追加する必要がないので、コストを低減できる。なお「第2数式モデル」は、上述した「第1数式モデル」とは異なる数式モデルであり、動力源出力トルクを推定可能な任意の数式を適用してよい。
【0014】
請求項6に記載の発明は、前記動力源出力トルクは、前記回転電機を流れる電流の電流値を引数とするマップを用いて推定することを特徴とする。この構成によれば、トルク検知装置が不要になり、配線等の作業も不要になるので、コストを低減できる。なお「マップ」は、電流値と動力源出力トルクとの相関関係を示すデータ群である。
【0015】
請求項7に記載の発明は、前記動力源出力トルクには、指令されるトルク指令値を用いることを特徴とする。この構成によれば、トルク検知装置によって検知される実際の出力トルクよりは精度が低下するものの、当該トルク検知装置や推定ロジックが不要になるので、コストを低減できる。
【0016】
請求項8に記載の発明は、前記負荷トルク異常検知手段が前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクが所定範囲外になって異常の発生を検知するとき、前記動力源の作動を停止する動力源作動停止手段を有することを特徴とする。この構成によれば、負荷トルク異常検知手段が異常の発生を検知すると、動力源作動停止手段が動力源の作動を強制的に停止する。よって動力源が不安定に動作するのを未然に防止できる。
【0017】
請求項9に記載の発明は、前記負荷トルク異常検知手段が前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクが所定範囲外になって異常の発生を検知するとき、前記動力源および前記動力源を備える輸送機器のうちで一方または双方の作動を停止するシステム作動停止手段を有することを特徴とする。この構成によれば、負荷トルク異常検知手段が異常の発生を検知すると、システム作動停止手段が動力源および輸送機器のうちで一方または双方の作動を強制的に停止する。よって、システム(すなわち動力源や輸送機器)が不安定に動作するのを未然に防止できる。なお「輸送機器」は、回転電機を備え、人間や貨物等を輸送可能な機器であれば任意である。例えば、自動車等の車両,航空機,船舶,鉄道車両などが該当する。
【0018】
請求項10に記載の発明は、前記負荷トルク異常検知手段は、前記トルク発生源の出力トルクであるトルク発生源出力トルクを検知するトルク発生源出力トルク検知手段と、前記動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知するとき、異常が発生する原因となった部分を判定する異常原因判定手段とを有することを特徴とする。この構成によれば、異常原因判定手段は異常が発生する原因となった部分を判定するので、どの部分の故障によって発生したかを知ることができる。
【0019】
請求項11に記載の発明は、前記異常原因判定手段は、前記動力源出力トルクに基づいて推定される負荷トルクと、前記トルク発生源出力トルク検知手段によって検知されるトルク発生源出力トルクとの差分の絶対値が、所定値未満であれば前記トルク発生源に異常が発生したと判断し、前記所定値以上であれば軸の系に異常が発生したと判断することを特徴とする。この構成によれば、異常な負荷トルクが推定された原因を特定することが可能になる。すなわち、トルク発生源が異常なトルクを出力したからなのか、あるいは軸の系において何らかの異常が発生したからなのかを判断(特定)することができる。これは、トルク発生源出力トルクと推定する負荷トルクとが異なる値である場合には、一定値であるはずの慣性モーメントや減衰係数等が変化したことが原因であるため、原因の発生部位を特定することができる。
【0020】
請求項12に記載の発明は、前記動力源出力トルクは、トルク検知装置を含むことを特徴とする。この構成によれば、動力源出力トルク(例えば回転軸や出力軸等の出力トルク)を高精度に検知することができるので、何らかの故障等が起きたことをより的確に検知することができる。
【0021】
請求項13に記載の発明は、前記動力源出力トルクは、前記第2数式モデルを演算して推定することを特徴とする。この構成によれば、センサ等の新たな装置を追加する必要がないので、コストを低減できる。
【0022】
請求項14に記載の発明は、前記動力源出力トルクは、前記回転電機を流れる電流の電流値を引数とするマップを用いて推定することを特徴とする。この構成によれば、トルク検知装置が不要になり、配線等の作業も不要になるので、コストを低減できる。
【0023】
請求項15に記載の発明は、前記負荷トルク異常検知手段は、前記負荷トルクの異常を一定期間以上連続して検知する場合にのみ、前記動力源に掛かる負荷トルクに異常が発生したと検知することを特徴とする。この構成によれば、「一定期間」は異常を許容できる期間であり、演算誤差などにより一時的に異常な負荷トルクが推定されても、動作を強制的に停止させないようにすることができる。
【0024】
請求項16に記載の発明は、前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクを用いて制御量を補正することによって、前記回転電機の回転数を指令された回転数に追従するように制御する回転数制御手段を有することを特徴とする。この構成によれば、回転電機の回転数が指令された回転数(目的の回転数,指令回転数)になるようにフィードバック制御を行うので、回転電機が目的の回転数となるように制御できる。
【0025】
請求項17に記載の発明は、輸送機器において、請求項1から16のいずれか一項に記載のトルク異常検知装置と、前記動力源とを有することを特徴とする。この構成によれば、動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知できる輸送機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】トルク異常検知装置の概要を示す模式図である。
【図2】車両(輸送機器)の第1構成例を示す模式図である。
【図3】主に動力伝達手段の第1構成例を示す模式図である。
【図4】回転電機(動力源)の制御例を示すブロック線図である。
【図5】負荷トルク異常検知処理の手続き例を示すフローチャートである。
【図6】異常原因判定処理の第1手続き例を示すフローチャートである。
【図7】異常原因判定処理の第2手続き例を示すフローチャートである。
【図8】車両(輸送機器)の第2構成例を示す模式図である。
【図9】主に動力伝達手段の第2構成例を示す模式図である。
【図10】車両(輸送機器)の第3構成例を示す模式図である。
【図11】車両(輸送機器)の第4構成例を示す模式図である。
【図12】異常原因判定処理の第3手続き例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。なお、特に明示しない限り、「接続する」という場合には電気的な接続を意味する。各図は、本発明を説明するために必要な要素を図示し、実際の全要素を図示してはいない。上下左右等の方向を言う場合には、図面の記載を基準とする。
【0028】
〔実施の形態1〕
実施の形態1は、トルク異常検知装置の概要について、図1を参照しながら説明する。図1(A)には発明の構成例を模式図で示す。図1(B)〜図1(D)には機構的な接続の一例をそれぞれ示す。
【0029】
図1(A)に示すトルク異常検知装置10は、動力源とトルク発生源との間や、動力源とシステム外部60との間で動力の伝達と切断とを切り換え可能な動力伝達手段30,50を用いて、動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知する。動力源は、回転電機40のみとする形態と、回転電機40およびトルク発生源20の双方とする形態とのいずれかである。言い換えれば、回転電機40を必須で備えるが、二点鎖線で示すトルク発生源20を備えるか否かは任意である。システム外部60を除く要素が「システム」にあたる。
【0030】
実線で示す動力伝達手段50は、回転電機40とシステム外部60との間で動力を伝達したり切断したりする。二点鎖線で示す動力伝達手段30は、回転電機40とトルク発生源20との間で動力を伝達したり切断したりする。この機能を担うため、例えばクラッチ機構,ギア機構,ニュートラル位置を有する変速装置(トルクコンバータやリターダ等を含む。)などを適用する。
【0031】
回転電機40は、例えば電動機,電動発電機,発電機等が該当する。トルク発生源20は、トルクを発生可能な任意の機器や装置等である。例えば、熱機関や回転電機などが該当する。ただし、回転電機40やトルク発生源20にかかる各数量を問わない。システム外部60には、動力の伝達(授受)が可能な任意の機器や機関等を適用できる。本形態では、システム外部60として車輪を適用する。
【0032】
動力源,トルク発生源および負荷にかかる機構的な接続例(以下では単に「機構例」と呼ぶ。)について、図1(B)〜図1(D)を参照しながら説明する。図1(B)には、回転電機40とシステム外部60との間に動力伝達手段50を介在させる機構例を示す。この機構例では、動力源の回転電機40で発生させる動力の伝達と切断とを切り換える。図1(B)に示す機構例は、電気自動車や燃料電池自動車に適用される。
【0033】
図1(C)には、上記図1(B)の機構例に加えて、回転電機40とトルク発生源20との間に動力伝達手段30を介在させる機構例を示す。この機構例では、回転電機40が動力源であるとき、回転電機40で発生させる動力の伝達と切断とを切り換える。また、トルク発生源20が動力源であるとき、トルク発生源20で発生させる動力の伝達と切断とを切り換える。図1(D)には、上記図1(C)の機構例に加えて、動力源(トルク発生源20または回転電機40)と負荷20aとの間に動力伝達手段30aを介在させる機構例を示す。この機構例では、動力源で発生させる動力の伝達と切断とを切り換える。図1(C)および図1(D)に示す各機構例はハイブリッド自動車に適用される。
【0034】
上述したトルク異常検知装置10は、角加速度検知手段11,負荷トルク推定手段12,負荷トルク異常検知手段13などを有する。角加速度検知手段11は、必要に応じて備えられ、動力源の角加速度αを検知する機能を担う。角加速度αを検知できれば検知方法は任意である。例えば、回転角度検知装置を用いて角加速度αを検知する方法や、角加速度を推定可能な角加速度推定用数式モデルを演算する方法などが該当する。回転角度検知装置は、動力源の角加速度を検知可能な装置(センサを含む)であれば任意である。例えば、レゾルバ,ロータリエンコーダ,ジャイロスコープ,GMR(Giant Magnetoresistance Revolution;巨大磁気抵抗効果)回転センサなどが該当する。
【0035】
負荷トルク推定手段12は、動力源に掛かる負荷トルクTdを推定する機能を担う。この負荷トルク推定手段12には、動力源に掛かる負荷トルクTdを推定可能な任意の手段(装置や方法等)を適用してよい。例えば、第1数式モデルを演算して負荷トルクTdを推定可能な任意の推定法を適用してよい。具体的には、角加速度検知手段11によって検知される角加速度αを用いて推定する方法がある。角加速度αに加えて、動力源の回転数や、動力源出力トルクなどを用いて推定してもよい。動力源の回転数は、トルク発生源20については回転数検知手段11aによって検知され、回転電機40については回転数検知手段11bによって検知される(図2を参照)。動力源出力トルクは、トルク発生源20については出力トルク検知手段12aによって検知され、回転電機40については出力トルク検知手段12bによって検知される(図2を参照)。これらの回転数検知手段11a,11bや出力トルク検知手段12a,12bについては後述する。
【0036】
第1数式モデルには、負荷トルクTdを推定可能な任意の数式等を設定することができる。例えば、軸の慣性モーメントIm、減衰係数D、角加速度α、動力源出力トルクToを用いて、次の数式(1)を定義することができる。減衰係数Dには「0」を含む。
【0037】
【数2】

【0038】
動力源出力トルクToは動力源から出力されるトルクを意味し、具体的には後述するトルク発生源出力トルクTioや電動機出力トルクTmo等が該当する。この動力源出力トルクToは、任意の検知法で検知する。例えば、トルクセンサ(トルク検知装置)を用いて検知する方法や、第2数式モデルを演算して推定する方法、回転電機40を流れる電流の電流値を引数とするマップを用いて推定する方法、外部装置(例えばECU等)から指令されるトルク指令値を用いる方法などが該当する。
【0039】
第2数式モデルには、動力源出力トルクToを推定可能な任意の数式等を設定することができる。例えば、電動機41を埋込磁石同期モータとした場合、極対数Pn、電気子鎖交磁束Φ、d軸電流id、q軸電流iq、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLqを用いて、次の数式(2)を定義することができる。
T=Pn{Φiq+(Ld−Lq)idiq}…(2)
【0040】
負荷トルク異常検知手段13は、動力源に掛かる負荷トルクTdの異常を検知する機能を担う。負荷トルクTdの異常を検知する方法は任意に設定することが可能である。例えば、第1の検知方法は、システム外部60との間で動力の伝達を切断する状態で、負荷トルク推定手段12によって推定される負荷トルクTdに基づいて検知する。第2の検知方法は、負荷トルクTdの異常を一定期間以上連続して検知する場合にのみ、動力源に掛かる負荷トルクTdに異常が発生したと検知する。この負荷トルク異常検知手段13は、トルク発生源出力トルク検知手段13a、異常原因判定手段13b、作動停止手段13cなどを有する。
【0041】
トルク発生源出力トルク検知手段13aは、トルク発生源20の出力トルクであるトルク発生源出力トルクTioを検知する機能を担う。トルク発生源出力トルクTioは、任意の検知法で検知する。例えば、トルクセンサ(トルク検知装置)を用いて検知する方法や、トルク発生源出力トルクTioを推定する出力トルク推定用数式モデルを演算する方法、マップを用いて推定する方法などが該当する。
【0042】
異常原因判定手段13bは、動力源に掛かる負荷トルクTdの異常を検知するとき、異常が発生する原因となった部分を判定する機能を担う。例えば、動力源出力トルクToに基づいて推定される負荷トルクTdと、トルク発生源出力トルク検知手段13aによって検知されるトルク発生源出力トルクTioとの差分の絶対値が、所定値未満であればトルク発生源20に異常が発生したと判断し、所定値より大きければ軸の系に異常が発生したと判断する。
【0043】
作動停止手段13cは、動力源に掛かる負荷トルクTdの異常が検知されると、目的装置の作動を停止する機能を担う。目的装置は、動力源のみの場合と、動力源および輸送機器のうちで一方または双方の場合とがある。よって作動停止手段13cには、動力源の作動を停止する動力源作動停止手段と、動力源および輸送機器のうちで一方または双方の作動を停止するシステム作動停止手段とのうちいずれか一方の手段が該当する。
【0044】
上述したトルク異常検知装置10を車両(輸送機器)に適用し、動力源に掛かる負荷トルクTdの異常を検知する例について、実施の形態2〜5でそれぞれ説明する。
【0045】
〔実施の形態2〕
実施の形態2は、回転電機およびトルク発生源の双方を動力源として利用(走行)するハイブリッドカー(スプリット方式)の一例である車両に適用する。当該実施の形態2は図2〜図7を参照しながら説明する。図2には車両(輸送機器)の第1構成例を模式図で示す。図3には主に動力伝達手段の第1構成例を模式図で示す。図4には回転電機(動力源)の制御例をブロック線図で示す。図5には負荷トルク異常検知処理の手続き例をフローチャートで示す。図6には異常原因判定処理の第1手続き例をフローチャートで示す。図7には異常原因判定処理の第2手続き例をフローチャートで示す。なお、実施の形態1で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
図2に示すハイブリッドカーの車両100は、上述したトルク異常検知装置10のほかに、熱機関21,電動機41,動力伝達手段50,車輪61,バッテリ110,発電機120,PCU(パワー・コントロール・ユニット)130,動力分割機構140などを有する。熱機関21は「トルク発生源20」に相当し、電動機41は「回転電機40」に相当する。以下では、各要素の機能や、車両100における動力源に掛かる負荷トルクTdの異常を検知方法などについて説明する。
【0047】
車両100は、熱機関21および電動機41の双方を動力源として用い、一方または双方で発生した動力を車輪61に伝達して走行するように構成されている。図2に示す熱機関21は内燃機関(ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等)であり、炭化水素系燃料を燃焼させることで動力を発生させる。この熱機関21は、発生させた動力(回転力)を出力軸150に伝達する。電動機41は多相モータが適用され、例えばU相,V相,W相の三相からなるモータである。この電動機41は、PCU130から供給される電力を受けて動力を発生させる機能と、あるいは動力分割機構140から分割される動力を中継する機能とを有し、一方または双方の動力を回転軸160に伝達する。
【0048】
動力伝達手段50は、電動機41から車輪61に動力を伝達したり切断したりする機能を担う。また、動力を伝達する状態であるか、動力を切断する状態であるかを負荷トルク異常検知手段13に伝達する機能をも担う。なお、動力伝達手段50の具体的な構成については後述する(図3を参照)。
【0049】
バッテリ110は蓄電と放電が可能な蓄電放電手段であり、例えば二次電池や燃料電池等が該当する。発電機120は、動力分割機構140によって分割された動力によって電力を発生させる。通常の発電機を用いてもよく、電動機能と発電機能とを兼ねる電動発電機(図2では「MG」と示す。)を用いてもよい。発生した電力は、PCU130を通じてバッテリ110に蓄電したり、電動機41を回転駆動させたりする。
【0050】
PCU130は、車両100における電力の授受を司る。具体的には、発電機120で発生した電力をバッテリ110に蓄電する制御や、電動機41を回転駆動する電力を供給する制御などを行う。このPCU130は、例えばインバータ131,昇圧コンバータ,バッテリECUなどで構成される。バッテリECUは、バッテリ110との間における電力の蓄積や放出等の制御を行う。
【0051】
動力分割機構140は、熱機関21で発生する動力を分割(分配)する機能を担う。具体的には、車両100の状況(すなわち走行や停止等の状態)に応じて、発電機120および電動機41のうちで一方または双方に動力を伝達する。動力分割機構140は任意に構成可能であるが、例えばキャリア,サンギヤ,プラネタリギヤなどで構成される。
【0052】
次に、動力伝達手段50の具体的な構成について、図3を参照しながら説明する。図3に示す動力伝達手段50は、デュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT;Dual Clutch Transmission)の一例であり、クラッチ51,53やトランスミッション52,54などを有する。クラッチ51,53は、一方軸と他方軸とを機械的または電磁的に結合し、動力(回転力)を一方軸と他方軸との相互間で伝達する機械要素である。このクラッチ51,53の作用(動作)によって、電動機41と車輪61との間で動力を伝達したり切断したりする。トランスミッション52,54は、動力の回転数(回転の場合)、速度、トルクなどを変換する装置である。図3に示す構成例では、クラッチ51とトランスミッション52とが直列に接続され、クラッチ53とトランスミッション54とが直列に接続され、これらが並列に接続される構成となっている。電動機41で発生した動力がクラッチ51によってトランスミッション52に伝達されるとともに、その動力によって発電機120が発電する。
【0053】
上述のように構成された車両100において、トルク異常検知装置10の構成要素を中心とし、フィードバック制御について図4を参照しながら説明する。図4に示すブロック線図には、上述した図1〜図3に示す要素のほかに、ECU200、加合手段201,203、PI制御手段202、トルク制御手段204、電流センサ205、出力トルク演算手段206、レゾルバ207、回転数演算手段208などがある。
【0054】
上述した要素のうち、加合手段201,203、PI制御手段202およびトルク制御手段204は「回転数制御手段」に相当する。電流センサ205および出力トルク演算手段206は「出力トルク検知手段12b」に相当する。電流センサ205および出力トルク演算手段206に代えて、電動機41の出力トルクを直接的に検知するトルクセンサ等のようなトルク検知装置を適用してもよい。レゾルバ207および回転数演算手段208は「回転数検知手段11b」に相当する。
【0055】
ECU200は「外部装置」に相当し、車両100を加減速する制御を行うために、電動機41の回転数を指令する指令回転数Nを出力する。加合手段201は、入力信号の加え合わせを行う。図4の例では負帰還ループを形成するため、指令回転数Nから検知回転数Nsを差し引いた差分値を偏差Neとして出力する。PI制御手段202は、加合手段201から出力される偏差Neと、比例ゲインや積分ゲイン等とに基づいてPI制御を行うため、トルク指令Tを算出して出力する。
【0056】
加合手段203は、上述した加合手段201と同様に入力信号の加え合わせを行う。具体的には、PI制御手段202から出力されるトルク指令Tと、負荷トルク推定手段12から出力される負荷トルクTdとを加え合わせた加算値を最終のトルク指令Tとして出力する。トルク制御手段204は、トルク指令Tに対応する電圧指令Vcをインバータ131に伝達する。このトルク制御手段204には負荷トルク異常検知手段13を含む。
【0057】
インバータ131は、トルク制御手段204から出力された電圧指令Vcに基づいて、電動機41を回転駆動するための駆動信号(変調信号を含む。)を出力する。このインバータ131は、例えばスイッチング素子やダイオード等で構成される。スイッチング素子には、スイッチング動作が可能な任意の半導体素子を適用できる。例えば、FET(具体的にはMOSFET,JFET,MESFET等)、IGBT、GTO、パワートランジスタなどが該当する。
【0058】
加合手段203で加算される負荷トルクTdは、負荷トルク推定手段12によって推定される。図4に示す負荷トルク推定手段12は、出力トルク演算手段206から伝達される電動機出力トルクTmoや、角加速度検知手段11から伝達される角加速度α、回転数演算手段208から伝達される検知回転数Nsなどに基づいて推定する。
【0059】
出力トルク演算手段206は、電流センサ205が検出する電流(例えば三相の電流Iu,Iv,Iw)の電流値に基づいて、電動機出力トルクTmoを演算する。例えば、上述した数式(2)等のような第2数式モデルを演算して電動機出力トルクTmoを推定したり、電動機41を流れる電流Iu,Iv,Iwの電流値を引数とするマップを用いて推定したりする。
【0060】
回転数演算手段208は、レゾルバ207が検出する信号(例えばSIN検出信号SsやCOS検出信号Sc等)に基づいて検知回転数Nsを演算する。レゾルバ207は「回転角度検知装置」に相当する。SIN検出信号SsやCOS検出信号Sc等に基づいて検知回転数Nsを演算する方法は周知であるので、説明を省略する。
【0061】
上述のように構成されたトルク異常検知装置10を有する車両100において、電動機41に掛かる負荷トルクTdの異常を検出するための処理について、図5〜図7を参照しながら説明する。これらの図5〜図7に示す各処理はトルク制御手段204(具体的には負荷トルク異常検知手段13)で実現され、繰り返し実行される。
【0062】
図5に示す負荷トルク異常検知処理では、負荷トルクTdを推定する負荷トルク推定処理を実行する〔ステップS10〕。すなわち、負荷トルク推定手段12によって、上述した数式(1)等のような第1数式モデルを演算して負荷トルクTdを推定する。
【0063】
次に、動力伝達手段50が電動機41から車輪61に動力を伝達(接続)しているか否かで処理を分岐する〔ステップS11〕。動力を伝達している状態であれば(NO)、そのまま負荷トルク異常検知処理をリターンする。
【0064】
一方、動力を切断している状態であれば(YES)、ステップS10で推定した負荷トルクTdが所定範囲外か否かを判別する〔ステップS12〕。所定範囲は任意に設定可能である。もし、負荷トルクTdが許容できない所定範囲外であれば(YES)、電動機41に掛かる負荷トルクTdに異常が発生したと判定し〔ステップS13〕、負荷トルク異常検知処理をリターンする。これに対して、負荷トルクTdが許容できる所定範囲内であれば(YES)、電動機41に掛かる負荷トルクTdは正常であると判定し〔ステップS14〕、負荷トルク異常検知処理をリターンする。
【0065】
図6に示す異常原因判定処理は、異常原因判定手段13bに相当する。まず図5に示す負荷トルク異常検知処理を実行する〔ステップS20〕。実行した結果が「正常」と判定されたときは(ステップS21でNO)、異常の原因を判定する必要がないので、異常原因判定処理をリターンする。
【0066】
一方、ステップS20を実行した結果が「異常」と判定されたときは(ステップS21でYES)、熱機関21の出力トルクであるトルク発生源出力トルクTioをトルク発生源出力トルク検知手段13aによって検知するため、トルク発生源出力トルク検知処理を実行する〔ステップS22〕。
【0067】
トルク発生源出力トルク検知処理は、トルク発生源出力トルクTioを検知可能な任意の処理を適用することができる。第1の処理は、トルクセンサや変位センサなどを用いて直接的に熱機関21の出力トルクであるトルク発生源出力トルクTioを検知する。第2の処理は、マップを用いてトルク発生源出力トルクTioを推定する。
【0068】
ステップS22の実行によって検知されたトルク発生源出力トルクTioは、図5のステップS10で推定された負荷トルクTdとの差分の絶対値(すなわち|Td−Tio|)が所定値未満であるか否かが判別される〔ステップS23〕。もし、差分の絶対値が所定値未満であれば(YES)、熱機関21の出力が異常であると判定し〔ステップS24〕、作動停止手段13cによって熱機関21を停止してから〔ステップS25〕、異常原因判定処理をリターンする。一方、差分の絶対値が所定値以上であれば(YES)、電動機41の軸が異常であると判定し〔ステップS26〕、作動停止手段13cによって電動機41の作動を停止してから〔ステップS27〕、異常原因判定処理をリターンする。なお、作動停止手段13cによるステップS25,S27の実行は必要に応じて行い、ブレーキを作動させて車両100自体を停止するように構成してもよい。
【0069】
図7に示す異常原因判定処理は、異常原因判定手段13bに相当し、図6に示す異常原因判定処理とは別個に実行される。まず図5に示す負荷トルク異常検知処理を実行する〔ステップS30〕。実行した結果が「正常」と判定されたときは(ステップS31でNO)、異常の原因を判定する必要がないので、異常原因判定処理をリターンする。
【0070】
一方、ステップ320を実行した結果が「異常」と判定されたときは(ステップS31でYES)、負荷トルクTdの異常が一定期間以上連続して検知するか否かを判別する〔ステップS32〕。もし、負荷トルクTdの異常が継続する期間を示す負荷トルク異常検知期間tsが所定期間を超えているときは(ステップS32でYES)、負荷トルクTdが「異常」と判定し〔ステップS33〕、作動停止手段13cによって電動機41の作動を停止してから〔ステップS34〕、異常原因判定処理をリターンする。なお、作動停止手段13cによるステップS34の実行は必要に応じて行い、ブレーキを作動させて車両100自体を停止するように構成してもよい。一方、負荷トルク異常検知期間tsが所定期間未満であれば(ステップS32でNO)、負荷トルクTdは「正常」と判定し〔ステップS35〕、異常原因判定処理をリターンする。
【0071】
上述した実施の形態2によれば、以下に示す各効果を得ることができる。まず請求項1に対応し、システム外部60は車輪61であり、電動機41に掛かる負荷トルクTdを推定する負荷トルク推定手段12と、動力伝達手段50によってシステム外部60との動力の伝達を切断する状態で負荷トルク推定手段12によって推定される負荷トルクに基づいて動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知する負荷トルク異常検知手段13とを有する構成とした(図1,図2を参照)。この構成によれば、車輪61との間で動力の伝達が切断され、車輪61の変動や変化等による影響を受けないので、負荷トルク推定手段12は負荷トルクTdを精度良く推定することができる。負荷トルク異常検知手段13は、推定される負荷トルクTdに基づいて異常を検知するので、何らかの故障等が起きたことを的確に検知することができる。
【0072】
請求項2に対応し、負荷トルク推定手段12は、第1数式モデルを演算して負荷トルクTdを推定する構成とした。この構成によれば、センサ等の新たな装置を追加する必要がないので、コストを低減できる。
【0073】
請求項3に対応し、数式(1)に示す第1数式モデルは、電動機41についての軸の慣性モーメントIm、減衰係数D、角加速度α、電動機出力トルクTmoを用いる構成とした。この構成によれば、簡単な演算を行うだけで負荷トルクTdを推定できる。
【0074】
請求項4に対応し、電動機出力トルクTmoは、トルクセンサ等のようなトルク検知装置を用いて検知する構成とした。この構成によれば、電動機出力トルクTmo(例えば回転軸160の出力トルク)を高精度に検知することができるので、何らかの故障等が起きたことをより的確に検知することができる。
【0075】
請求項5に対応し、電動機出力トルクTmoは第2数式モデルを演算して推定する構成とした。この構成によれば、センサ等の新たな装置を追加する必要がないので、コストを低減できる。
【0076】
請求項6に対応し、電動機出力トルクTmoは、電動機41を流れる電流Iu,Iv,Iwの電流値を引数とするマップを用いて推定する構成とした。この構成によれば、トルク検知装置が不要になり、配線等の作業も不要になるので、コストを低減できる。
【0077】
請求項7に対応し、電動機出力トルクTmoには、ECU200(あるいは他の外部装置)から指令されるトルク指令値Tを用いる構成とした(図4の二点鎖線を参照)。この構成によれば、トルクセンサ等によって検知される実際の出力トルクよりは精度が低下するものの、トルクセンサや推定ロジックなどが不要になるので、コストを低減できる。
【0078】
請求項9に対応し、負荷トルク異常検知手段13が負荷トルク推定手段12によって推定される負荷トルクTdが所定範囲外になって異常の発生を検知するとき、電動機41、熱機関21および車両100のうちで一以上の作動を停止する作動停止手段13c(システム作動停止手段)を備える構成とした(図1,図6のステップS27,図7のステップS34を参照)。この構成によれば、負荷トルク異常検知手段13が異常の発生を検知すると、作動停止手段13cが電動機41,熱機関21および車両100のうちで一以上の作動を強制的に停止する。よって、システム(すなわち電動機41や、熱機関21、車両100)が不安定に動作するのを未然に防止できる。
【0079】
請求項10に対応し、負荷トルク異常検知手段13は、熱機関21の出力トルクであるトルク発生源出力トルクTioを検知するトルク発生源出力トルク検知手段13aと、電動機41に掛かる負荷トルクTdの異常を検知するとき異常が発生する原因となった部分を判定する異常原因判定手段13bとを有する構成とした(図1,図6,図7を参照)。この構成によれば、異常原因判定手段13bは異常が発生する原因となった部分を判定するので、どの部分の故障によって発生したかを知ることができる。
【0080】
請求項11に対応し、異常原因判定手段13bは、電動機出力トルクTmoに基づいて推定される負荷トルクTdと、トルク発生源出力トルク検知手段13aによって検知されるトルク発生源出力トルクTioとの差分の絶対値が、所定値以下であれば熱機関21に異常が発生したと判断し、所定値より大きければ電動機41の軸に異常が発生したと判断する構成とした(図6のステップS23,S24,S26を参照)。この構成によれば、異常な負荷トルクTdが推定された原因を特定することが可能になる。すなわち、熱機関21が異常なトルクを出力したからなのか、あるいは電動機41の軸において何らかの異常が発生したからなのかを判断(特定)することができる。これは、トルク発生源出力トルクTioと推定する負荷トルクTdとが異なる値である場合には、一定値であるはずの慣性モーメントImや減衰係数D等が変化したことが原因であるため、原因の発生部位を特定することができる。
【0081】
請求項12に対応し、電動機出力トルクTmoは、トルクセンサ等のようなトルク検知装置を用いて検知する構成とした。この構成によれば、電動機出力トルクTmo(例えば回転軸160等の出力トルク)を高精度に検知することができるので、何らかの故障等が起きたことをより的確に検知することができる。
【0082】
請求項13に対応し、電動機出力トルクTmoは、数式(2)に示す第2数式モデルを演算して推定する構成とした。この構成によれば、センサ等の新たな装置を追加する必要がないので、コストを低減できる。
【0083】
請求項14に対応し、電動機出力トルクTmoは、電動機41を流れる電流Iu,Iv,Iwの電流値を引数とするマップを用いて推定する構成とした。この構成によれば、トルク検知装置が不要になり、配線等の作業も不要になるので、コストを低減できる。
【0084】
請求項15に対応し、負荷トルク異常検知手段13は、負荷トルクTdの異常を負荷トルク異常検知期間ts(一定期間)以上連続して検知する場合にのみ、電動機41に掛かる負荷トルクTdに異常が発生したと検知する構成とした(図7のステップS32,S33を参照)。この構成によれば、負荷トルク異常検知期間tsは異常を許容できる期間であり、演算誤差などにより一時的に異常な負荷トルクTdが推定されても、動作を強制的に停止させないようにすることができる。
【0085】
請求項16に対応し、負荷トルク推定手段12によって推定される負荷トルクTdに基づいて算出される電動機41の回転数を、指令された回転数に追従するように制御する回転数制御手段(すなわち加合手段201,203、PI制御手段202およびトルク制御手段204)を有する構成とした(図4を参照)。この構成によれば、電動機41の回転数が指令された回転数(指令回転数N)になるようにフィードバック制御を行うので、電動機41が指令回転数Nとなるように制御できる。
【0086】
請求項17に対応し、熱機関21および電動機41の双方を動力源とする車両100は、トルク異常検知装置10と電動機41とを有する構成とした(図2,図3を参照)。この構成によれば、電動機41に掛かる負荷トルクTdの異常を検知できる。
【0087】
〔実施の形態3〕
実施の形態3は、回転電機およびトルク発生源の双方を動力源として利用(走行)するハイブリッドカー(パラレル方式)の一例である車両に適用する。当該実施の形態3は図8を参照しながら説明する。図8には車両(輸送機器)の第2構成例を模式図で示す。図9には主に動力伝達手段の第2構成例を模式図で示す。なお、実施の形態1,2で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0088】
図8に示す車両300は、図2に示す車両100と比べると、次の三点で相違する。第1に、発電機120と動力分割機構140が無い。第2に、電動機41に代えて、電動機能と発電機能とを兼ねる電動発電機42を用いる。第3に、動力伝達手段50に代えて、動力伝達手段55を用いる。
【0089】
動力伝達手段55の構成例について、図9を参照しながら説明する。動力伝達手段55は、図3に示す動力伝達手段50とほぼ同等の構成である。すなわち、クラッチ51,53やトランスミッション52,54などを有する点や、これらの接続は同じである。動力伝達手段55が動力伝達手段50と相違するのは、発電機120が無いため、電動機41で発生した動力はクラッチ51を通じてトランスミッション52にのみ伝達される。
【0090】
トルク異常検知装置10(すなわち角加速度検知手段11、負荷トルク推定手段12および負荷トルク異常検知手段13)については、実施の形態1と同様である。よって、ハイブリッドカーの方式が相違するのみに過ぎないので、実施の形態2と同様の作用効果を得ることができる。
【0091】
〔実施の形態4〕
実施の形態4は、回転電機およびトルク発生源の双方を動力源として利用するハイブリッドカー(シリーズ方式)の一例である車両に適用する。当該実施の形態4は図10を参照しながら説明する。図10には車両(輸送機器)の第3構成例を模式図で示す。なお、実施の形態1〜3で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0092】
図10に示す車両400は、図2に示す車両100と比べると、次の二点で相違する。第1に、動力分割機構140が無い。第2に、発電機120は熱機関21の出力軸150によって発電するか、図3に示す動力伝達手段50(すなわち電動機41からクラッチ51を通じて伝達される動力)によって発電する。
【0093】
トルク異常検知装置10(すなわち角加速度検知手段11、負荷トルク推定手段12および負荷トルク異常検知手段13)については、実施の形態1と同様である。よって、ハイブリッドカーの方式が相違するのみに過ぎないので、実施の形態2と同様の作用効果を得ることができる。
【0094】
〔実施の形態5〕
実施の形態5は、回転電機のみを動力源として利用(走行)する電気自動車の一例である車両に適用する。当該実施の形態4は図11,図12を参照しながら説明する。図11には車両(輸送機器)の第4構成例を模式図で示す。図12には異常原因判定処理の第3手続き例をフローチャートで示す。なお、実施の形態1〜4で用いた要素と同一の要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0095】
図11に示す車両500は、図2に示す車両100と比べると、次の四点で相違する。第1に、熱機関21,動力分割機構140,発電機120が無い。第2に、電動機41に代えて、電動機能と発電機能とを兼ねる電動発電機42を用いる。この場合の電動発電機42は、減速時の回生電力を発電し、PCU130を通じてバッテリ110に蓄電する。第3に、動力伝達手段50に代えて、動力伝達手段55を用いる。第4に、図6に示す異常原因判定処理に代えて、図12に示す異常原因判定処理を実行する。
【0096】
図11に示す車両500は、動力源が電動発電機42のみであり、熱機関21のようなトルク発生源20が存在しない。よって図12に示す異常原因判定処理では、図6に示すステップS22,S23,S24,S25が不要になる。よって、ステップS20の負荷トルク異常検知処理を実行した結果が「正常」と判定されたときは(ステップS21でNO)、異常の原因を判定する必要がないので、異常原因判定処理をリターンする。一方、ステップS20を実行した結果が「異常」と判定されたときは(ステップS21でYES)、電動発電機42の軸が異常であると判定し〔ステップS26〕、作動停止手段13cによって電動発電機42の作動を停止してから〔ステップS27〕、異常原因判定処理をリターンする。なお、作動停止手段13cによるステップS27の実行は必要に応じて行い、ブレーキを作動させて車両100自体を停止するように構成してもよい。
【0097】
上述した実施の形態5によれば、以下に示す各効果を得ることができる。なお、請求項1〜7および請求項9〜16に対応する作用効果については、車両(輸送機器)に関する実施の形態2と同様である。
【0098】
請求項8に対応し、負荷トルク異常検知手段13が電動発電機42に掛かる負荷トルクTdの異常を検知すると、電動発電機42の作動を停止する作動停止手段13c(動力源作動停止手段)を有する構成とした(図1および図12のステップS23b,S27を参照)。この構成によれば、負荷トルク異常検知手段13が異常の発生を検知すると、作動停止手段13cが電動発電機42の作動を強制的に停止する。よって電動発電機42が不安定に動作するのを未然に防止できる。
【0099】
請求項17に対応し、電動発電機42のみを動力源とする車両500は、トルク異常検知装置10を有する構成とした(図11を参照)。この構成によれば、電動発電機42に掛かる負荷トルクTdの異常を検知できる。
【0100】
〔他の実施の形態〕
以上では本発明を実施するための形態について実施の形態1〜5に従って説明したが、本発明は当該形態に何ら限定されるものではない。言い換えれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することもできる。例えば、次に示す各形態を実現してもよい。
【0101】
実施の形態2〜5では、トルク発生源20として熱機関21(内燃機関)を適用した(図2,図8,図10,図11を参照)。この形態に代えて、熱機関21として外燃機関を適用してもよい。熱機関21の構造が相違するに過ぎず、動力源である点では同じであるので、実施の形態2〜5と同様の作用効果を得ることができる。
【0102】
実施の形態2〜5では、動力伝達手段50,55として、クラッチ51,53(クラッチ機構)によって動力の伝達と切断を行う構成とした(図3,図9を参照)。この形態に代えて、動力の伝達と切断とが切り換え可能な他の機構を適用してもよい。他の機構としては、例えばギア機構,ニュートラル位置を有する変速装置(トルクコンバータやリターダ等を含む)などが該当する。他の機構でも動力の伝達と切断を行えるので、動力の伝達が切断された状態で負荷トルクTdの異常を検知することができる。よって、実施の形態2〜5と同様の作用効果を得ることができる。
【0103】
実施の形態2〜5では、回転角度検知装置としてレゾルバ207を適用した(図4を参照)。この形態に代えて、動力源(熱機関21,電動機41,電動発電機42,発電機等)の角加速度αを検知可能な他の回転角度検知装置を適用してもよい。他の回転角度検知装置としては、例えばロータリエンコーダ,ジャイロスコープ,GMR回転センサなどが該当する。他の回転角度検知装置であっても角加速度αを検知できるので、実施の形態2〜5と同様の作用効果を得ることができる。
【0104】
実施の形態2〜5では、回転電機40には三相の電動機41や電動発電機42を適用した(図2,図8,図10,図11を参照)。この形態に代えて、単相や四相以上の電動機や電動発電機を適用してもよい。単に相数が相違するに過ぎないので、実施の形態2〜5と同様の作用効果を得ることができる。
【0105】
実施の形態2〜5では、トルク異常検知装置10は、輸送機器としての車両100,300,400,500に適用した(図2,図8,図10,図11を参照)。この形態に代えて、回転電機40を備える他の輸送機器に適用してもよい。他の輸送機器は、例えば航空機,船舶,鉄道車両などが該当する。航空機のシステム外部60には、主翼のエルロンやフラップや、尾翼の垂直尾翼や水平尾翼、プロペラなどが該当する。船舶のシステム外部60には、スクリューなどが該当する。他の輸送機器であっても、回転電機40に掛かる負荷トルクTdの異常を検知できるので、実施の形態2〜5と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0106】
10 トルク異常検知装置
11 角加速度検知手段
11a,11b 回転数検知手段
12 負荷トルク推定手段
12a,12b 出力トルク検知手段
13 負荷トルク異常検知手段
13a トルク発生源出力トルク検知手段
13b 異常原因判定手段
13c 作動停止手段
20 トルク発生源
20a 負荷
21 熱機関(動力源,トルク発生源,負荷)
30,30a,50,55 動力伝達手段
40 回転電機(動力源)
41 電動機(回転電機)
42 電動発電機(回転電機)
51,53 クラッチ
52,54 トランスミッション
60 システム外部
61 車輪(システム外部)
100,300,400,500 車両(輸送機器)
110 バッテリ(蓄電放電手段)
120 発電機
130 PCU
131 インバータ(電力変換回路)
140 動力分割機構
200 ECU(外部装置)
201,203 加合手段(回転数制御手段)
202 PI制御手段(回転数制御手段)
204 トルク制御手段(回転数制御手段)
205 電流センサ(出力トルク検知手段)
206 出力トルク演算手段(出力トルク検知手段)
207 レゾルバ(回転数検知手段)
208 回転数演算手段(回転数検知手段)
Td 負荷トルク
To 動力源出力トルク
Tio トルク発生源出力トルク(動力源出力トルク)
Tmo 電動機出力トルク(動力源出力トルク)
ts 負荷トルク異常検知期間(一定期間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のみを動力源とするか、回転電機およびトルク発生源の双方を動力源とし、システム外部との動力の伝達を遮断可能な動力伝達手段を用い、前記動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知するトルク異常検知装置において、
前記動力源に掛かる負荷トルクを推定する負荷トルク推定手段と、
前記動力伝達手段によって前記システム外部との動力の伝達を切断する状態で、前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクに基づいて前記動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知する負荷トルク異常検知手段と、
を有することを特徴とするトルク異常検知装置。
【請求項2】
前記負荷トルク推定手段は、第1数式モデルを演算して負荷トルクを推定することを特徴とする請求項1に記載のトルク異常検知装置。
【請求項3】
前記第1数式モデルは、前記動力源についての軸の慣性モーメント、減衰係数、角加速度、動力源出力トルクを用いて定義する数式であることを特徴とする請求項2に記載のトルク異常検知装置。
【請求項4】
前記動力源出力トルクは、トルク検知装置を含むことを特徴とする請求項3に記載のトルク異常検知装置。
【請求項5】
前記動力源出力トルクは、第2数式モデルを演算して推定することを特徴とする請求項3に記載のトルク異常検知装置。
【請求項6】
前記動力源出力トルクは、前記回転電機を流れる電流の電流値を引数とするマップを用いて推定することを特徴とする請求項3に記載のトルク異常検知装置。
【請求項7】
前記動力源出力トルクには、指令されるトルク指令値を用いることを特徴とする請求項3に記載のトルク異常検知装置。
【請求項8】
前記負荷トルク異常検知手段が前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクが所定範囲外になって異常の発生を検知するとき、前記動力源の作動を停止する動力源作動停止手段を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のトルク異常検知装置。
【請求項9】
前記負荷トルク異常検知手段が前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクが所定範囲外になって異常の発生を検知するとき、前記動力源および前記動力源を備える輸送機器のうちで一方または双方の作動を停止するシステム作動停止手段を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のトルク異常検知装置。
【請求項10】
前記負荷トルク異常検知手段は、
前記トルク発生源の出力トルクであるトルク発生源出力トルクを検知するトルク発生源出力トルク検知手段と、
前記動力源に掛かる負荷トルクの異常を検知するとき、異常が発生する原因となった部分を判定する異常原因判定手段と、
を有することを特徴とする請求項8または9に記載のトルク異常検知装置。
【請求項11】
前記異常原因判定手段は、前記動力源出力トルクに基づいて推定される負荷トルクと、前記トルク発生源出力トルク検知手段によって検知されるトルク発生源出力トルクとの差分の絶対値が、所定値未満であれば前記トルク発生源に異常が発生したと判断し、前記所定値以上であれば軸の系に異常が発生したと判断することを特徴とする請求項10に記載のトルク異常検知装置。
【請求項12】
前記動力源出力トルクは、トルク検知装置を含むことを特徴とする請求項11に記載のトルク異常検知装置。
【請求項13】
前記動力源出力トルクは、前記第2数式モデルを演算して推定することを特徴とする請求項11に記載のトルク異常検知装置。
【請求項14】
前記動力源出力トルクは、前記回転電機を流れる電流の電流値を引数とするマップを用いて推定することを特徴とする請求項11に記載のトルク異常検知装置。
【請求項15】
前記負荷トルク異常検知手段は、前記負荷トルクの異常を一定期間以上連続して検知する場合にのみ、前記動力源に掛かる負荷トルクに異常が発生したと検知することを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載のトルク異常検知装置。
【請求項16】
前記負荷トルク推定手段によって推定される負荷トルクを用いて制御量を補正することによって、前記回転電機の回転数を指令された回転数に追従するように制御する回転数制御手段を有することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のトルク異常検知装置。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載のトルク異常検知装置と、前記動力源と、を有することを特徴とする輸送機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−138978(P2012−138978A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287742(P2010−287742)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】